説明

窒化物結晶の製造装置

【課題】工業的に適用可能な比較的低圧の条件下で、不純物の少ない高品質の窒化物、特に、窒化ガリウムの結晶を得ることができる製造装置を提供する。
【解決手段】密閉可能な窒化物結晶成長用の反応容器6が、密閉可能な耐圧性容器3内に挿入された構造を有する窒化物結晶の製造装置であって、反応容器6と耐圧性容器3との間に溶媒を充填しうる空隙を有する。また、反応容器6は少なくとも内側の表面が耐食性を有する材質からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物結晶の製造方法に関し、特に窒化ガリウムに代表される周期表第13族元素(以下「第13族元素」という)窒化物の高品質の塊状結晶の製造方法に関する。また、本発明は該窒化物結晶の製造方法を実施するために用いる製造装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は、発光ダイオード及びレーザーダイオード等の電子素子に適用される物質として有用である。この窒化ガリウム結晶の製造方法としては、現在サファイア又は炭化ケイ素等のような基板上にMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法による気相エピタキシャル成長を行う方法が最も一般的である。しかし、この方法ではGaNの格子定数と熱膨張係数が異なる基板上にGaN結晶をヘテロエピタキシャル成長させるため、得られるGaN結晶に転位や格子欠陥が発生しやすく、青色レーザー等で応用可能な品質を得ることが困難であるという問題があった。
【0003】
そこで、近年、上記方法に代わる、ホモエピタキシャル基板用の高品質の窒化ガリウムの塊状単結晶の新しい製造技術の確立が強く望まれている。かかる新しい窒化ガリウム結晶の製造方法の一つとして、アンモニアを溶媒とした窒化物の溶液成長方法が提案されている。R. Dwilinskiらは、100〜500MPaの高圧下、超臨界状態のアンモニアを溶媒とし、結晶化のための鉱化剤としてKNH2を用い、窒化ガリウム結晶を得ている(非特許文献1参照)。また、Kolisらは、240MPaの高圧下、超臨界状態のアンモニアを溶媒とし結晶化のための鉱化剤としてKNH2およびKIを用い、窒化ガリウム結晶を得ている(非特許文献2参照)。また、Chenらは、Ptでライニングした反応容器を用いて、約200MPaの高圧下、超臨界状態のアンモニアを溶媒とし、結晶化のための鉱化剤としてNH4Clを用い、窒化ガリウム結晶を得ている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R. Dwilinski etal., ACTA PHYSICA POLONICA A Vol.88(1995) 833頁
【非特許文献2】Kolis etal., J. Crystal Growth 222 (2001) 431頁
【非特許文献3】Chen etal., J. Crystal Growth 209 (2000) 208頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のアンモニア溶媒中における窒化ガリウムの溶解と析出の原理に基づく溶液成長法による窒化ガリウム結晶の製造方法は、一般的には、水を溶媒とした水熱合成(育成)法による酸化物結晶の製造における操作と装置に制約される範囲内での初歩的な条件検討に留まったものであった。このため、依然としてアンモニアを溶媒とする窒化物の結晶成長のメカニズムの詳細は不明であり、結晶性が高く、かつサイズの大きい塊状の高品質の単結晶を得る方法は未だ確立されるに至っていなかった。また、上記製造方法では、結晶の収率も不十分であり、高い生産効率を得るのは困難であった。さらに、上記製造方法では、不純物等の結晶の品質に関する指標も十分に開示されていない。特に、半導体基板としての用途においては、格子欠陥、転位密度の増大およびバンドギャップ内の不純物準位の形成要因となり得る遷移金属成分や酸素の混入は避けなければならない。また、工業的な窒化物の結晶成長の実施のためには、水に比べて毒性、危険性や腐食性の高いアンモニアを溶媒とする上で、安全上の問題も十分に考慮しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み、工業的にも十分適用可能な方法で、高品質の窒化物結晶を製造できる方法につき鋭意検討を行った結果、アンモニアを使用した窒化物結晶の製造において、反応容器の材質によっては窒化物の結晶品質、特に遷移金属不純物の混入に対して、予想以上に大きな悪影響を与えることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、以下の窒化物結晶の製造方法により達成される。
(1)少なくとも内側の表面が貴金属製の反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して前記反応容器を密閉した後、さらに前記反応容器を耐圧性容器内に挿入し、前記反応容器と前記耐圧性容器との間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、昇温することにより窒化物結晶を得ることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
(2)前記貴金属がRh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選ばれる少なくとも1種類の貴金属を主成分とすることを特徴とする(1)に記載の製造方法。
(3)前記反応容器がPtまたはPtを含む合金を主成分とする容器であることを特徴とする(2)に記載の製造方法。
(4)前記反応容器が少なくともひとつのバルブを付属していることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の製造方法。
(5)前記第二溶媒がアンモニア溶媒であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載の製造方法。
(6)前記反応容器内のアンモニア溶媒を亜臨界状態または超臨界状態で保持することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の製造方法。
(7)少なくとも前記耐圧性容器内を20〜500MPaに保持することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかの窒化物結晶の製造方法。
(8)少なくとも前記耐圧性容器内を200〜700℃に昇温することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか一項に記載の製造方法。
(9)前記反応容器内に少なくとも1種類の添加物を添加することを特徴とする(1)〜(8)のいずれか一項に記載の製造方法。
(10)前記添加物が少なくとも1種類のハロゲン原子を含むことを特徴とする(9)に記載の製造方法。
(11)前記原料中の酸素含有量が5質量%以下であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか一項に記載の製造方法。
(12)前記原料中に窒化ガリウムを含有することを特徴とする(1)〜(11)のいずれか一項に記載の製造方法。
(13)前記反応容器内に少なくとも1種類の種結晶を設置し、アンモニア溶媒に溶解した原料が前記種結晶上に析出することを特徴とする(1)〜(12)のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
(14)密閉可能な窒化物結晶成長用の反応容器が、密閉可能な耐圧性容器内に挿入された構造を有する窒化物結晶の製造装置であって、
前記反応容器は少なくとも内側の表面が貴金属製であり、かつ、前記反応容器と前記耐圧性容器との間に溶媒を充填しうる空隙を有する前記窒化物結晶の製造装置。
(15)前記反応容器が少なくともひとつのバルブを付属していることを特徴とする(14)に記載の窒化物結晶の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法では、少なくとも内側の表面がPtに代表される貴金属製の反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、前記反応容器を前記反応容器とは別の耐圧性容器内に挿入し、前記反応容器と前記耐圧性容器との間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、昇温する。この構成により本発明によれば、従来の製造方法より簡易かつ安全に、良好な結晶性を有し、かつ不純物が少ない高品質な塊状の窒化物結晶を効率よく製造することができる。
【0009】
また、本発明によれば、少なくとも内側の表面がPtに代表される貴金属製である反応容器を内側に含む耐圧性容器を利用して、いわば2重の容器を用い、反応容器の内部でアンモニアを溶媒として窒化物結晶の溶液成長反応を行うことにより、反応容器に由来する遷移金属成分の窒化物結晶への混入を回避でき、窒化物原料のアンモニア溶媒への溶解性、溶媒対流中のイオン可搬性、種結晶への再結晶要因の制御を容易ならしめ、さらに生成する塊状窒化物結晶への遷移金属不純物成分の蓄積および結晶性低下を回避できる。
【0010】
また、本発明の製造装置は、少なくとも内側の表面が貴金属製である密閉可能な窒化物結晶成長用の反応容器が、密閉可能な耐圧性容器内に挿入された構造を有していて、前記反応容器と前記耐圧性容器との間には第二溶媒を充填しうる空隙が存在する。この製造装置を用いれば、上記の窒化物結晶の製造方法を容易に実施することができる。特に、少なくともひとつのバルブを付属した反応容器を用いることにより、バルブを介して、外気と接触することなくアンモニアを充填した後、密閉することができるため、外気に由来する酸素等の不純物の窒化物結晶への混入も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造装置の概略断面図である。
【図2】本発明の製造装置を構成する反応容器のバルブ形状を示す概略断面図である。
【図3】本発明の製造装置を構成する反応容器の別のバルブ形状を示す概略断面図である。
【図4】本発明の製造装置を構成する反応容器の別のバルブ形状を示す概略断面図である。
【図5】本発明の製造装置を構成する反応容器の別のバルブ形状を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法と製造装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本発明は、少なくとも内側の表面がPtに代表される貴金属製である反応容器を用い、該反応容器内に原料(必要に応じて鉱化剤等の添加物)とアンモニア溶媒とを充填してから前記反応容器を密閉した後、前記反応容器の外側に設置する耐圧性容器内に挿入し、反応容器と耐圧性容器と間の空隙に所定の第二溶媒を入れて密閉した後、昇温して反応容器の内側と外側の圧力とをほぼ同一にし、反応容器内で超臨界状態のアンモニア溶媒の存在下で原料の溶解析出を促し、窒化物結晶を得ることを特徴とする。
【0014】
まず、本発明で用いられる原料、溶媒、容器および本発明で得られる窒化物結晶について適宜図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の製造方法で用いられる製造装置の概略断面図である。図2〜図5は本発明の製造装置を構成する反応容器のバルブ形状の具体例を示す概略断面図である。符号1はバルブ、符号2は圧力計、符号3は耐圧性容器、符号4はバルブ、符号5は結晶育成部、符号6は反応容器、符号7は原料充填部、符号8は電気炉、符号9は熱電対、符号10は種結晶、符合11は配管接続口をそれぞれ表わす。
【0015】
本発明において、製造対象となる窒化物結晶は、使用する原料に依存するが、主としてB、Al、Ga、In等の第13族元素の単独金属の窒化物(例えば、GaN、AlN)の結晶または合金の窒化物(例えば、GaInN、GaAlN)の結晶であることが好ましく、窒化ガリウム結晶であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明において、反応容器6を形成する貴金属としては、周期表の第5および6周期の第9〜11族元素、すなわちRh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選ばれる少なくとも1種類の貴金属、ならびに該貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐腐食性を有するPtを用いることが好ましい。
【0017】
従来、Ptの優れた耐腐食性を利用して、Ptを反応容器の内側にライニングまたはコーティングすることが知られている(前記非特許文献3参照)。しかし、反応容器をライニングまたはコーティングする場合、反応容器のアンモニア溶媒と触れる全ての部分を貴金属でライニングまたはコーティングすることは事実上困難であった。特に、アンモニア溶媒を用いる窒化物結晶の製造方法では、アンモニア溶媒を充填するために反応容器に付属して配管やバルブが設けられるため、それらの部分を含めて溶解した原料やアンモニアが触れる部分の全てを貴金属でライニングまたはコーティングすることは困難であった。
【0018】
本発明者らは、反応容器およびその付属部品に貴金属でライニングまたはコーティングされていない部分が存在すると、その部分からアンモニア等による浸食が起こり、その結果、得られた窒化物結晶に反応容器に含有されていた遷移金属が混入し得ることを見出した。さらに本発明者らは、反応容器の浸食による遷移金属成分の窒化物結晶への混入は、後述する鉱化剤と呼ばれる溶解析出を促進するための添加物を加えた場合に、特に顕著となることも見出した。
【0019】
本発明では、反応容器自体を貴金属で作製することにより、原料や添加物がアンモニア溶媒を介して触れる部分を該貴金属に制限できる。したがって、従来の反応容器で問題とされていた原料や生成する窒化物結晶にCr、NiやFe等遷移金属成分が混入することを回避でき、高品質の窒化物結晶が得られる。本発明では、少なくとも内側の表面がPtまたはPtを含む合金を主成分とする反応容器を用いることが特に好ましい。
【0020】
貴金属製の反応容器6を単独で使用した場合、反応条件に付随して発生する超高圧に耐えることは困難である。そこで、本発明では、貴金属製の反応容器6の外側に耐圧性容器3を設け、外側の耐圧性容器3と内側の反応容器6の間の空隙に第二溶媒を入れて、昇温時に反応容器6の内側と外側の圧力のバランスを図ることにより、反応容器6の破裂や潰れを回避する。すなわち、本発明では、昇温反応中に密閉された反応容器6の内側と外側の圧力を実質的にほぼ等しくできるため、反応容器6に対し、昇温反応中の超臨界アンモニアの超高圧に耐え得る程度の耐圧性は要求されない。一方、アンモニア溶媒を充填する作業工程等では、少なくとも作業時の温度におけるアンモニア溶媒の蒸気圧や反応容器6を真空排気して乾燥する場合の減圧状態に耐え得る容器であることが要求される。そこで、本発明の反応容器6は、最も肉薄な部分にあっては少なくとも0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.5mm以上の厚みとする。
【0021】
反応容器6の形状は、円筒形などをはじめとして任意の形状とすることができる。また、反応容器6は立設しても横置きにしても斜めに設置して使用してもよい。反応容器6には、アンモニア充填用のバルブ4および配管接続口11等を設けることができる(図2〜図5)。反応容器6を耐圧性容器3に挿入して据え付ける際に安定性を確保する目的で、反応容器6の外側にあらかじめフレームなどの構造物を設けてもよい。このフレームなどの構造物も貴金属製とするかまたは該貴金属でコーティングあるいはライニングしたものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明において、反応容器6には反応容器内部に通ずる少なくともひとつのバルブを設けることが好ましい。バルブを設けることによって、バルブを介して外気に触れずにアンモニアを反応容器に充填し、密閉することができる。また、それとは別に、排気用のバルブを設けることもできる。
【0023】
バルブには、アンモニアに対する高い耐腐食性を示す材質を用いるのが好ましい。特にバルブを密閉したときに反応容器内側に通じる部分は貴金属製とするか、あるいは該貴金属で表面をコーティングあるいはライニングすることが好ましい。これにより、バルブなどの腐食に由来する反応系内への好ましからざる不純物の混入を抑制することができる。
【0024】
バルブの形状は任意のものを用いることができる。反応容器6にバルブ4が付属する位置も任意であるが、例えば、図2〜図5のように、円筒形の反応容器6を使用した場合、その断面円よりも小さいバルブ4を反応容器6の上部あるいは下部に付属すると、耐圧性容器3への挿入や据付が容易となり、また空間を有効利用できるので好ましい。
【0025】
また、図3〜図5のように、バルブは反応容器と一体の構造としてもよい。このような一体構造とすることにより、反応容器6を耐圧性容器3に挿入したときに、耐圧性容器3との間に生じる空隙を少なくすることができる。バルブ4と反応容器6を同一の貴金属製とした耐食性に優れた一体構造としてもよい。
【0026】
図2〜図5をより詳細に説明すると、図2の態様は一体型でないという点に特徴があり、バルブの交換が容易であるという利点がある。図3の態様は一体型であるという点に特徴があり、構造的に強度に優れるという利点がある。図4の態様はパッキンリングを併用するという点に特徴があり、簡便に閉められるという利点がある。図5の態様は本体埋めこみ型である点に特徴があり、強度に優れ、空間を有効利用できるという利点がある。
【0027】
バルブの弁の種類や形状は特に制限されないが、仕切り弁、玉形弁、アングル弁、ニードル弁、ボール弁、ダイヤフラム弁等が用いられる。弁体の種類や形状は特に制限されないが、ニードル型、楔形、太鼓型、丸型等が用いられる。ガスケット、パッキンやシールを併用してもよい。弁体や弁座、およびガスケット、パッキンやシールの材質は、貴金属製としてもよいし、また貴金属でコーティングあるいはライニングしたものを用いてもよい。
【0028】
バルブは、同形あるいは異形の複数のバルブを設けてもよい。複数のバルブを付属することにより、効率的によくアンモニアを充填や排出を行うことができる。例えば、反応容器の内部にアンモニアを充填しながら反応容器内部の気体を排出したり、反応容器内部に不活性ガスを導入しながら反応容器内のアンモニアを排出することが可能となる。
【0029】
反応容器へのバルブの装着の方法は特に限定されないが、一例を挙げれば溶接などを用いることができる。
【0030】
本発明では、前述のとおり少なくとも内側の表面がPtに代表される貴金属製である反応容器6と耐圧性容器3との間の空隙にも溶媒を入れることによって、反応容器6の内側と外側の圧力差を最小限に抑えることができる。したがって、バルブ4の耐圧性能は反応容器6を高温に保持した場合には、その内外圧差に耐えられればよい。しかしながら、原料やアンモニアの充填時に求められる性能に鑑みれば、例えば、室温でアンモニアの蒸気圧に耐える耐圧性能や、反応容器6を加熱真空排気して乾燥させる場合の減圧状態にも耐え得る必要がある。
【0031】
一方、反応容器6の外側に設置される耐圧性容器3は、昇温反応中に超臨界アンモニアの超高圧に相当する圧力に耐え得る容器であることが好ましい。耐圧性容器3を形成する材料は、耐圧性を有する材料であれば特に制限はないが、高温高圧に耐え、かつアンモニアに対する高い耐腐食性を示すインコネル、ナイモニク、レーネ材に代表されるNi系の合金、ステライト等を用いることが好ましい。
【0032】
耐圧性容器3の構造は特に制限されないが、多くの場合、耐圧性容器3の形状は円筒形であり、立設して使用する場合には、上部に溶媒充填用のバルブ1やそのための配管や圧力計2等を設けることもできる。バルブ1や配管等は、複数設置されてもよく、また耐圧性容器3の蓋に相当する部分に設置されていてもよい。
【0033】
耐圧性容器3の胴体部分の厚みは、材料、胴径、長さ等に応じて適宜決定できる。耐圧性容器3は、溶液成長の反応条件に応じて発生する超高圧に耐える必要があるため、その反応条件にもよるが、通常、最も肉薄の部分において、少なくとも2mm以上、好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上、特に好ましくは20mm以上の厚みを有する。
【0034】
本発明では反応容器6を密閉して用いるため、反応容器6内の結晶成長のための原料や鉱化剤等の添加物が耐圧性容器3と接触することはない。しかしながら、密閉された反応容器6を耐圧性容器3に挿入した後、万が一反応容器6から充填された原料や鉱化剤が漏れた場合、耐圧性容器3の内壁および内部構造物、圧力計2やバルブ1の内部、および耐圧性容器3の内部からそれに至る配管の内部が激しく腐食する可能性がある。その対策として、耐圧性容器3の内壁および内部構造物、圧力計2やバルブ1の内部、および耐圧性容器3の内部からそれに至る配管の内部を、前述した貴金属等の耐腐食性の高い材質でコーティングあるいはラインニングすることができる。
【0035】
本発明で用いられる窒化物結晶の製造原料は、通常、窒化物の多結晶粉末原料(以下「多結晶原料」という)であり、好ましくは窒化ガリウムを含有する原料である。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては、メタル状態(すなわちゼロ価)の金属成分を含有することもできる。メタル状金属成分を含有可能な理由は定かではないが、反応系に微量の酸素が混入した場合に、メタル状金属成分が、窒素含有溶媒中で酸素が拡散するのを防止する酸素トラップ剤のような役割を果たしていると推測される。また、メタル状金属成分の含有量は特に制限はないが、多すぎると窒化物結晶成長時のメタル成分の酸化に伴うアンモニアからの水素の発生が無視できなくなることを考慮して含有量を決定することが好ましい。
【0036】
原料となる多結晶原料の製造方法は特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属またはその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶(例えばGaN)を用いることもできる。
【0037】
上記多結晶原料は、これを結晶成長させて高品質の結晶を得るために、できるだけ水や酸素の混入を回避すべきである。そのために、多結晶原料中の酸素含有量は、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。多結晶原料への酸素の混入しやすさは、水分との反応性または吸収能との関連がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面等にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性があるためである。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高いものを使用することが望ましく、該結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができる。好ましい多結晶原料は、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0038】
多結晶原料の1次粒子の粒径は、平均粒径1〜100μmの範囲であることが好ましい。粒径が小さいものほど比表面積が大きくなり、溶媒への溶解速度が大きくなるので好ましいが、粒径が小さすぎると、粒子が熱対流より反応器の結晶育成部に輸送され、種結晶を用いた場合は種結晶上に付着するおそれがある。
【0039】
また、平均粒径の異なる2種の多結晶原料を用いることにより、小さい粒径の多結晶原料による速い溶解速度と、大きい粒径の遅い溶解速度のものが系内に混在することによりGa(含有)イオンなどの結晶育成部への供給切れを抑止し、その結果、特に種結晶を用いた場合に、種結晶の溶出という塊状単結晶の育成上の不利益を抑止することもできる。
【0040】
多結晶原料の形状は、特に限定されるものではないが、溶媒への溶解均一性を考慮した場合、通常、2次粒子の形状として球状であることが好ましい。また、充填量を稼ぐため、または熱対流による粒子の移動を防ぐために、多結晶原料の形状をペレット状やブロック状にすることもできる。
【0041】
多結晶原料は、通常、鉱化剤と呼ばれる添加物と混合した後で溶液成長に基づく結晶化工程に供される。鉱化剤は、多結晶原料の溶媒への溶解性を高めることができる添加物である。鉱化剤は、1種類を用いるほか、必要に応じて共鉱化剤としてもう1種類を共存させたり、2種類以上を混合して用いたりすること可能である。多結晶原料と鉱化剤の添加量の比は、例えば、GaNの場合、鉱化剤/Gaモル比として、通常0.001〜100の範囲で、原料、鉱化剤等の添加物の種類および目的とする結晶の大きさなどを考慮して適宜選択できる。
【0042】
鉱化剤は、通常、ハロゲン原子またはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属を含む化合物である。中でも、鉱化剤はアンモニウムイオンやアミドなどの形で窒素原子を含むものが好ましい。ハロゲン原子を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属等が例示される。
【0043】
また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属を含む鉱化剤としては、アルカリ金属メタル、アルカリ土類金属メタル、ハロゲン化アルカリ、アルカリ土類、希土類のハロゲン化物などが挙げられる。アルカリ、アルカリ土類、希土類の炭酸塩のようなオキソ酸塩も使用可能であるが、生成する結晶が酸素を含まないようにする観点からは、アンモニウムイオンやアミドなどの形で窒素原子を含むものを鉱化剤として使用することが好ましい。窒化物結晶への不純物の混入を防ぐため、必要な場合は鉱化剤を精製、乾燥することが行われる。鉱化剤の純度は、通常95%以上、好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、得に好ましくは99.5%以上である。鉱化剤が含む水や酸素はできるだけ少なくすることが望ましく、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。
【0044】
アルカリ金属等と窒素原子を含む鉱化剤の具体例としては、ナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)、リチウムジエチルアミド((C25)2NLi)等のアルカリ金属アミドや、Mg(NH2)2などのアルカリ土類金属アミド、La(NH2)3などの希土類アミド、Li3N、Mg32、Ca32、Na3N等の窒化アルカリ金属または窒化アルカリ土類金属、NaN3等のアジド化合物、窒化亜鉛(Zn32)等が挙げられる。その他、NH2NH3Clのようなヒドラジン類の塩、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、カルバミン酸アンモニウム(NH2COONH4)が挙げられる。
【0045】
このうち、好ましくはハロゲン原子を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウムであり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウムである。これらの添加物は、超臨界状態のアンモニア溶媒への溶解性が高く、またアンモニア中において窒化能を有し、かつPt等の貴金属に対する反応性が小さい。これらの添加物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもかまわない。これらの添加物を用いることによって原料の溶解が促進され、反応条件の適切なコントロールにより、短期間に高品質のサイズの大きい窒化物の塊状結晶が得られる。
【0046】
本発明では、上記のように混合された多結晶原料と鉱化剤等の添加物は、例えば図1に示すように、貴金属製の反応容器6内に充填されるが、特に必要でなければ、多結晶原料と1種類以上の鉱化剤等の添加物を別々に反応容器6内に充填してもかまわない。原料や鉱化剤等の添加物の種類によっては、反応容器6を密閉した後に、配管接続口11に接続した配管およびバルブ4を通じて、気体、液体や溶媒に溶かした状態で反応容器6内に充填することもできる。
【0047】
多結晶原料や鉱化剤等の添加物が吸湿しやすい等の理由がある場合、多結晶原料および鉱化剤は、充填する前に加熱脱気するなどして十分乾燥することが望ましい。さらに、分解性の高い鉱化剤と多結晶原料を混合充填する場合には、酸素や水分を極力排除した雰囲気下で速やかに行うことが望ましい。例えば、不活性ガスを満たした容器または部屋内において、反応容器の内部を不活性ガスで十分置換した後に、分解性の高い鉱化剤と多結晶原料を充填することができる。
【0048】
多結晶原料と鉱化剤等の添加物を混合して反応容器6内に充填した後、または別々に反応容器6に充填した後、反応容器6を密閉する。その後、配管接続口11に接続した配管およびバルブ4を介して反応容器6および配管部を加熱脱気することも好適に用いられる。また、反応容器6中に酸素や水分を選択的に吸収するスキャベンジャーの役割を果たす物質(例えば、チタンなどの金属片)を混合しておくことも好適に用いられる。
【0049】
原料、鉱化剤等の添加物は、通常、図1に示すように、反応容器6の下部に設けられた原料充填部7に収まるように充填される。反応容器6の下部と反応容器6の上部との間に温度差を与えることにより、溶解した結晶を反応容器6の上部の結晶育成部5に析出させることができるためである。このように、原料の溶解析出過程を経て結晶を得ることにより、純度の高い高品質で結晶性の高い塊状結晶を得ることが可能となる。
【0050】
本発明では、さらに反応容器6上部の結晶育成部5に種結晶10を設置することにより、単結晶の生成を促進させ、より大きな単結晶を得ることができる。種結晶10の装填は通常、原料、鉱化剤等の添加物を充填すると同時または充填した後に行われ、通常、反応容器6の内側の表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に種結晶10が固定される。必要な場合には、反応容器6に装填した後、加熱脱気することも有効に用いられる。
【0051】
種結晶10は、目的とする窒化物の単結晶を用いることが望ましいが、必ずしも目的と同一の窒化物でなくてもよく、場合によっては酸化物単結晶を用いてもよい。但し、その場合には、目的の窒化物と一致し、もしくは適合した格子定数、結晶格子のサイズパラメータを有する種結晶であるか、またはヘテロエピタキシー(すなわち若干の原子の結晶学的位置の一致)を保証するよう配位した単結晶材料片もしくは多結晶材料片から構成されている種結晶を用いる必要がある。種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)の場合、GaNの単結晶の他、AlN等の窒化物単結晶、酸化亜鉛(ZnO)の単結晶、炭化ケイ素(SiC)の単結晶、ガリウム酸リチウム(LiGaO2)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)等が挙げられる。
【0052】
種結晶10は、アンモニア溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNの種結晶としては、MOCVD法やHVPE法でサファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、LPE法を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、本発明法を含む溶液成長法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。
【0053】
本発明では反応容器6内の原料を溶解する溶媒としてアンモニア溶媒が用いられる。使用するアンモニアの純度は通常99.9%以上、好ましくは99.99%以上、さらに好ましくは99.999%以上、特に好ましくは99.9999%以上である。アンモニアは、一般に水との親和性が高いため、アンモニア溶媒を反応容器6内に充填する場合、水に由来する酸素を反応容器6内に持ち込みやすく、それが原因となって生成する結晶の混入酸素量が多くなり、ひいては窒化物の結晶性が悪化するおそれがある。そのような観点から、アンモニア溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少なくすることが望ましく、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。
【0054】
本発明で反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙に充填される第二溶媒は、反応容器6の内側と外側をほぼ等しい圧力にすることができる溶媒であればその種類は限定されない。そのような第二溶媒としては、例えば、アンモニア溶媒、水、アルコール、二酸化炭素などを用いることができる。反応容器6の内側と外側の圧力差を小さくするためには、第二溶媒は、反応容器6の溶媒として用いられるアンモニア溶媒であることが好ましい。その理由は、性質の異なる溶媒を用いると、原料の溶解析出によって結晶成長反応を行うために温度を上げたとき、特に昇温過程において、反応容器6の内側と外側の圧力をほぼ同じに保つことが困難だからである。通常、反応容器6の内側と外側には同質の溶媒を用い、空隙に対する充填率をそれぞれほぼ同じにすることが好ましい。
【0055】
反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙に充填される第二溶媒がアンモニア溶媒である場合、該アンモニア溶媒は原料等と直接触れることはないので、不純物等の物性に関しては特に問題とならないが、反応容器6内のアンモニア溶媒と反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙に充填されるアンモニア溶媒の物理的な物性をほぼ等しくするためには、アンモニア溶媒に含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましく、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。
【0056】
次に、本発明の製造方法における手順について説明する。
本発明では、原料、鉱化剤等の添加物(必要に応じて種結晶10)等を反応容器6内に充填した後、反応容器6を閉じる。この工程は、必要な場合、不活性ガス雰囲気で行うことができる。反応容器6を閉じる場合、あらかじめパッキンを併用したねじ込み方式等で閉じるようにしておいてもよいし、溶接等で閉じることもできる。続いて、閉じた反応容器6に、反応容器6を開閉するためのバルブ4と配管接続口11に接続した配管を介してアンモニア溶媒を反応容器6内に充填する。反応容器6側に通ずるバルブ4内部を反応容器6の材料と同様の貴金属製とすることにより、原料、鉱化剤等の添加物やアンモニア溶媒から持ち込まれるものを除いて、得られる窒化物結晶への遷移金属等の混入を事実上排除できる。
【0057】
アンモニア溶媒は、タンクからアンモニア充填用設備の配管を通じて反応容器6に付属したバルブ4および配管接続口11を通して外気と触れることなく反応容器6内に充填される。その際、アンモニア溶媒は気体または液体の状態で充填されることが好ましい。必要によって複数設けたバルブ4をのうちの一部を利用して、反応容器6内の気体を逃がすことができる。
アンモニア溶媒は、その潜熱の大きさから、室温がアンモニアの沸点以上である場合でも、冷却することなしに液体として反応容器6内に充填することができるが、反応容器6を予めアンモニア溶媒の沸点以下に冷却した状態で充填することも好ましい。また原料および鉱化剤等の添加物がアンモニア溶媒に充分可溶である場合には、あらかじめそれらを溶解させておいて、原料等とアンモニア溶媒を同時に反応容器6内に充填することもできる。アンモニアを気体または液体として充填する場合、途中に流量制御装置(図示せず)を設けて、あらかじめ設定された量を充填することもできる。
【0058】
アンモニア溶媒を反応容器6に充填する場合、充填時間は要するが、一般に気体の状態で充填する方が配管その他に由来する不純物を反応容器6内への混入を避けることができ、また反応容器6内に入っているガスをアンモニア溶媒で完全に置換できるため、極めて純度の高いアンモニア溶媒を充填することができる。また、吸着剤等を利用した精製装置(図示せず)を介して不純物の少ないアンモニア溶媒を反応容器6内に充填する方法も好適に用いられる。
【0059】
アンモニア溶媒を反応容器6内に充填した後、反応容器6に付属するバルブ4を閉じて反応容器6を密閉した後、アンモニア充填設備(図示せず)の配管を取り外す。反応容器6を密閉することは、空気中からの水や酸素の混入を防ぐために重要である。特にアンモニア溶媒を反応容器6内に充填した後に反応容器6が開放された状態にあると、アンモニア溶媒の大きい潜熱により反応容器6が冷却されるため、空気中の水が凝縮しやすい。反応容器6に反応容器6を閉じるためのバルブ4とアンモニア充填のための配管接続口11とをあらかじめ付属させておけば、アンモニア溶媒を外気と接触させることなく連続して充填することが可能となり、アンモニア溶媒を反応容器6内に充填した後、反応容器6を容易に密閉できる。
【0060】
反応容器6は、原料や鉱化剤などの添加物とアンモニア溶媒とを充填して密閉した後、立設した耐圧性容器3内に挿入される。挿入方法および設置方法は特に制限はないが、耐圧性容器3の底に反応容器6が自立できるように設置することが好ましい。本発明では、反応中に反応容器6の内側と外側との圧力をほぼ等しくするため、反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙に第二溶媒を入れるため、反応容器6と耐圧性容器3の間に所定の空隙を設ける必要がある。耐圧性容器3が一定サイズである場合、反応容器6の側面と耐圧性容器3の側面との隙間は小さいほど反応容器6のサイズを大きくすることができるため、溶液成長反応のための多くの空間が確保でき、生産効率は向上する。しかし、両容器の隙間が小さすぎると、仮に反応容器6の内側の圧力がその外側の圧力より大きくなった場合、反応容器6は膨張して耐圧性容器3の内面に密着し、反応終了後に耐圧性容器3から反応容器6を取り出すことが困難になる場合がある。
そこで、本発明では、反応容器6の側面と耐圧性容器3の側面との間の隙間(両者が円筒形である場合、反応容器6の外径と耐圧性容器3の内径の差)は、少なくとも一部分においては0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.5mm以上とする。
【0061】
反応容器6を室温に戻し、反応容器6の外側表面に付着した結露水を十分に取り除いた後、反応容器6を耐圧性容器3内に挿入する。この際、反応容器6の据え付けや座りを容易にするフレームなどをあらかじめ反応容器6の外側や耐圧性容器3の内部構造物として設けていてもよい。続いて、反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙に第二溶媒を充填する。反応容器6の内側と外側には同質の溶媒を用い、空隙に対する充填率をそれぞれほぼ同じにすることが好ましい。反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙にアンモニア溶媒を充填する場合、配管および耐圧性容器3に付属したバルブ1等を介することにより、反応容器6に充填する場合と同様に、水や空気などの混入を抑制することが可能である。また耐圧性容器3をアンモニア溶媒の沸点以下に冷却する方法も好適に用いられる。
【0062】
以上のような操作で、反応容器6内に原料、鉱化剤等の添加物とアンモニア溶媒、反応容器6と耐圧性容器3の間に第二溶媒(多くの場合、アンモニア)を充填した後、耐圧性容器3を付属のバルブ1を閉める等の操作を行い、耐圧性容器3を密閉し、熱電対9を有する電気炉8などを用いて反応容器6を含む外側の耐圧性容器3を加熱昇温する。
【0063】
ここで、反応容器6内のアンモニア溶媒は、窒化物結晶合成中や育成中に亜臨界状態、さらには超臨界状態にすること好ましい。超臨界流体は、その臨界温度以上で維持される濃ガスを意味し、臨界温度とは圧力によってそのガスが液化させられ得ない温度である。超臨界流体は一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。アンモニア溶媒の物性は、水熱合成(育成)法において溶媒として使われる水とは異なり、明らかにされているとはいえないため、亜臨界状態または超臨界状態で原料等の溶解や窒化物結晶の生成、溶解析出が促進される理由は確定できないが、水において知られているイオン積の概念を窒素含有溶媒に当てはめれば、温度上昇に伴ってイオン積が増大し、水における加水分解に相当する加安分解のような作用が増大することが寄与していると考えられる。
【0064】
超臨界状態で溶媒を用いる場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒の場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器6に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0065】
実際、溶媒中の窒化物多結晶原料の溶解度は、亜臨界状態と超臨界状態との間で極めて異なるので、超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤または共鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物結晶合成中あるいは育成中、耐圧性容器3内は5MPa〜2GPa程度の圧力範囲で保持され、反応容器6内も耐圧性容器3内と同等の圧力で保持される。圧力は、温度および反応容器6の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器6内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器6内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
【0066】
アンモニア溶媒の場合、高温ではその解離平衡が窒素と水素に大きく傾いているため、高温ではそれによる圧力の変化が無視できなくなるおそれがある。一般にその解離反応は、金属成分によって触媒されるものであり、原料や鉱化剤等の添加物の種類によっては平衡に到達する可能性もある。本発明では、反応容器6と耐圧性容器3との間の空隙に第二溶媒が充填されるため、耐圧性容器3内の温度および圧力を調整することにより、反応容器6の内側と外側の温度差および圧力差を可能な限り少なくし、両者を近似させることができる。この点を考慮した上で、少なくとも耐熱性容器6内の温度範囲(すなわち反応容器3内の温度範囲)を、下限として通常150℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは300℃以上、上限として通常800℃以下、好ましくは700℃以下、特に好ましくは650℃以下の範囲とすることが望ましい。また少なくとも耐熱性容器3内の圧力範囲(すなわち反応容器6内の圧力範囲)は、下限として通常20MPa以上、好ましくは30MPa以上、特に好ましくは50MPa以上、上限として通常500MPa以下、好ましくは400MPa以下、特に好ましくは200MPa以下に保持することが望ましい。
【0067】
上記の反応容器6の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器6へのアンモニア溶媒の注入の割合、すなわち充填率は、反応容器6のフリー容積、すなわち、反応容器6に多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器6の容積から差し引いて残存する容積、また水熱育成法によるバルク単結晶製品の製造に関する業者に公知のバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器6の容積から差し引いて残存する容積のアンモニアの標準状態での液体密度(標準状態で気体の場合は沸点における液体密度)を基準として、通常20〜95%、好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜85%とする。反応容器6と耐圧性容器3の間の空隙の第二溶媒の充填率も、前記アンモニア溶媒と同様に、フレームなどの構造物と反応容器の体積を差し引いて残存する容積を基準とした上で、温度を上昇させた時に反応容器6の内側と外側の圧力がほぼ等しくなるように決定された充填率で溶媒を充填すること好ましい。死容積や温度分布を考慮して、昇温過程における反応容器6の内側と外側の圧力が同様となるように微調整することも好適に用いられる。
【0068】
以上の説明したような2重に構成される容器の内側の反応容器6内での窒化物結晶の溶液成長反応は、熱電対9を有する電気炉8などを用いて反応容器6を含む外側の耐圧性容器3を加熱昇温することにより、内側の反応容器6内をアンモニアの亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。さらに、外側の耐圧性容器3を部分的に温度差を設けて加熱したり、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0069】
なお、上記の「反応温度」は、耐圧性容器3の外面に接するように設けられた熱電対9によって測定されるものであり、反応容器6の内部温度と近似することができる。反応容器6の内部方向への温度勾配は、反応容器6の形状や納める電気炉8の形状およびその位置関係に代表される加熱、保温状況により異なる。反応温度は、熱電対9用に耐圧性容器3の外面から内方向に開けた、耐圧性容器3内空洞部までは貫通しない穴を利用して、反応容器6内部方向への温度勾配を推測し、あるいは外挿して反応容器6内部の温度から推定できる。同様に、反応容器6の上下方向の温度も、反応容器6の形状や納める電気炉8の形状、およびその位置関係に代表される加熱、保温状況により異なる。よって、図1に示すように耐圧性容器3の外面の上下で温度を数点測定し、かつ各位置での反応容器6内部の温度を推定した上で温度制御を行うことが望ましい。例えば、反応容器6の形状や保温状況によっては、耐圧性容器3外面の温度が上下で同じ、あるいは上部の方が数十℃高い場合でも、反応容器6内部の温度が上部のほうが数十℃低いということもあり得る。また、上記のとおり原料の溶解および熱対流による輸送と折出を促進するために、反応中に上下の温度勾配をあらかじめ設ける場合には、耐圧性容器3外面の数点の温度を測定するとともに、多段に分けたヒーターを用いて、反応容器6の主に上下方向に分けた温度制御を行うことも効果的である。
【0070】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器6を含有する耐圧性容器3を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器6を含有する耐圧性容器3を電気炉8から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。また、降温時の結晶の偏析出や特定の鉱化剤等の添加物によっては、その偏析出を防ぐために、耐圧性容器3を部分的に温度差をつけて冷却したり、部分的に微加熱しながら冷却したりすることもできる。
【0071】
耐圧性容器3外面の温度、あるいは推定される反応容器6内部の温度が所定温度以下になった後、耐圧性容器3を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。反応容器6と耐圧性容器3との間の空隙に充填された溶媒がアンモニアである場合、先ず外側の耐圧性容器3に付属したバルブ1の容器側とは反対側の先端を、水などを満たした容器に通じておき、付属したバルブ1を開ける。このときに不活性ガスを通じながら行ってもかまわない。耐圧性容器3内の温度が十分高い場合は、アンモニア溶媒はガスとして移動し、水などに吸収される。このとき移動時間を短くするために耐圧性容器3を再度加熱することも好ましい。また、アンモニアを移動させる側の容器内に水などを満たすことなく冷却することも好ましい。水などの溶媒に吸収させる方法を用いなかった場合、回収したアンモニア溶媒を再使用することが容易となる。また、付属したバルブ1を開けた後、ポンプ等によって直接溶媒を抜き取り、除去してもよい。
【0072】
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして耐圧性容器3と反応容器6の間に充填した溶媒を十分に取り除き、乾燥した後に耐圧性容器3の蓋を開け、反応容器6を取り出すこともできる。次いで、反応容器6に付属したバルブ4の配管接続口11に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブ4を開ける。このときに不活性ガスを通じながらでもかまわない。反応容器6内温度が十分高い場合は、アンモニア溶媒はガスとして移動し、水などに吸収される。このとき移動時間を短くするために反応容器6を再度加熱することも好ましい。また、移動させる側の容器内を水などで満たすことなく冷却することも好ましい。水などの溶媒に吸収させる方法を用いなかった場合には、回収したアンモニア溶媒を再使用することが容易となる。また、付属したバルブ4を開けた後、ポンプ等によって直接アンモニア溶媒を抜き取り、除去してもよい。この方法で、アンモニア溶媒を除去するときに、アンモニアに溶解している鉱化剤等の添加物や未反応の原料を同時に除去することもできる。
【0073】
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器6内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器6の蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0074】
以上、本発明の製造方法については、窒化物多結晶を原料にした場合を例に説明したが、原理的には窒化物多結晶を原料としなくても、それに類した化合物または準じた化合物、ならびにそれらに転化し得る前駆体を原料にして上記方法を実施することは可能である。そのような化合物または前駆体としては、すでに製造原料で列挙したガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物、Ga(NH2)3などの金属アミド、KGa(NH2)4などのアルカリ金属アミド、金属イミド、GaCl3などのハロゲン塩、ハロゲン化物アンモニア付加物、アンモニウムハロガレートなどハロ金属塩などが挙げられる。また、酸素不純物の混入を避ける意味においては、積極的に用いるべきではないが、水酸化物や酸化物、オキソ酸塩などを使用することもできる。
【0075】
上記窒化物多結晶そのものではない原料を用いて、塊状窒化物結晶を得ようとする場合には、窒化物合成と窒化物の窒素含有溶媒への溶解析出を同時に行うことが必要になるため、より厳密な反応条件のコントロールが求められる。それが非常に難しく、またより大きな塊状結晶を得たいとする場合は、多段に分けた製造方法を好適に用いることができる。すなわち、本発明のPtに代表される貴金属製の内側の反応容器6と外側の耐圧性容器3を含む2重の容器を用いた製造方法によって、上述したような窒化物多結晶原料に類したまたは準じた化合物、ならびにそれらに転化し得る前駆体を原料にして、最初にある反応条件によって多結晶窒化物を製造し、その後、多結晶窒化物を原料として、同様に本発明製造方法によって塊状窒化物結晶を育成する。このような原料を用いる場合は、この多段に分けた方法によって塊状窒化物結晶の製造は容易になる。この時、多段に分けた反応は同一の反応容器でアンモニアなど除去せずにそのまま行ってもよいし、同一または別のアンモニアや鉱化剤に入れ替えて行ってもよい。合成された窒化物多結晶原料を一度取り出して、洗浄などの処理などを施した後、同じ反応容器または別の反応容器に充填し窒化物結晶を育成してもかまわない。その際、先述したように種結晶を設置することも好適に用いることができる。
【0076】
以上説明したように、本発明の少なくとも内側の表面が貴金属製である反応容器6と耐圧性容器3からなる2重の容器を用いた製造方法により、効率よくかつ安全に遷移金属等の不純物混入の少ない窒化物結晶を製造することができる。本発明の製造方法により、製造される窒化物結晶の遷移金属不純物の混入は酸化物換算で通常0.1重量%以下に抑制できる。本発明により得られた塊状窒化物結晶は、必要な場合、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)等で洗浄することができる。また、生成した結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り除いた後の反応容器も、必要な場合も同様に洗浄することができる。
【0077】
洗浄された窒化物結晶はさらにその方位によって、特定の結晶面に対して垂直にスライスし、さらに必要な場合には、エッチングや研磨を施し、窒化物自立単結晶基板として製品化することができる。得られた窒化物単結晶基板は不純物が少なく、結晶性も高いために格子欠陥や転位密度が低くなると共に不純物準位の形成もなく、VPEやMOCVD等で各種デバイスを製造するにあたり、特にホモエピタキシャル成長用基板として優れている。特に、窒化ガリウムの場合、ホモエピタキシャル成長用の高品質の単結晶基板の工業的な製造は知られていない。サファイア上にバッファー層等を介してVPE等の方法でエピタキシャル成長させた後に、サファイアやバッファー層を除去しても窒化ガリウム単結晶の自立基板は製造可能だが、窒化ガリウムと格子定数、熱膨張係数が異なる基板上での、いわゆるヘテロエピタキシャル成長であるために、得られる窒化ガリウムに格子欠陥が発生しやすく、その点において本発明により製造された窒化ガリウム結晶は、格子欠陥や転位密度等の関点からも優れている。
【0078】
さらに、本発明により製造された窒化物結晶やそれを切断、スライス、エッチング、研磨したものは、アンモニア溶媒を用いる溶液成長法も含めた各種の溶液成長法や昇華法、メルト成長法に用いる種結晶としても不純物が少なく結晶性が高いために優れている。
【実施例】
【0079】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順、処理装置等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0080】
(実施例1)
本実施例は、図1に示す製造装置を用いて実施した。また、反応容器に附属するバルブは図4の構造を有するものを採用した。
上下部分に分割された、バルブを付属したPt製の反応容器(約40ml)を十分に乾燥し、不活性ガス雰囲気中において、反応容器の下部に原料としてXRDで(100)の回折線(2θ=約32.5°)の半値幅(2θ)が0.17°以下、LECO社製酸素窒素分析装置TC−436型で測定した酸素量が0.2重量%の十分に乾燥させた多結晶h−GaN(ヘキサゴナル型窒化ガリウム)原料1.0gを入れた。さらに鉱化剤として十分に乾燥した99.995%のNH4Cl 0.2gを反応容器6内に入れた。Pt製のバッフル板等の結晶育成部を設置した後、素早く反応容器の上下部分を閉じた。次いで反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、バルブを介して反応容器を真空ポンプに通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながら反応容器をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、いったんバルブを閉じた。次いで、NH3タンクに通じるように操作した後、再びバルブを開け、連続して外気に触れることなく99.999%のNH3を反応容器に充填した。流量制御に基づき、NH3を反応容器の内部の空洞部の60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、バルブを閉じて反応容器を密閉した。次いで反応容器の温度を室温に戻した後、外表面を十分に乾燥させた。
【0081】
続いて、反応容器を配管から取り外してインコネル製の耐圧性容器内に収め、バルブが装着された耐圧性容器の蓋を閉じた。次いで耐圧性容器に付属したバルブを介して配管を真空ポンプに通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながら耐圧性容器をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで、NH3タンクに通じるように操作した後、再びバルブを開け、連続して外気に触れることなくNH3を反応容器と耐圧性容器との間の空隙に充填した。流量制御に基づき、NH3を反応容器と耐圧性容器の間の空隙部の約60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、バルブを閉じて、耐圧性容器の温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させた。
【0082】
続いて、中に反応容器を含む耐圧性容器を配管から取り外し、上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。耐圧性容器の下部外面の温度が530℃になるように6時間かけて昇温し、耐圧性容器の下部外面の温度が530℃に達した後、その温度でさらに72時間保持した。耐圧性容器内の圧力は約130MPaであった。また保持中の温度幅は±10℃以下であった。その後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉内で自然放冷した。耐圧性容器の下部外面の温度がほぼ室温まで降下したことを確認した後、耐圧性容器に付属したバルブに配管を接続した。そして、バルブの反応容器側でない配管部に不活性ガスを流した後、バルブを開放し、反応容器と耐圧性容器の間の空隙部のNH3を取り除いた。一旦バルブを閉じ、真空ポンプに通ずるように操作した後、バルブを再び開放し、反応容器と耐圧性容器の間の空隙部のNH3をほぼ完全に除去した。その後、耐圧性容器の蓋を開け、反応容器を取り外した。
【0083】
次に、反応容器に付属したバルブを介して反応容器内部と通ずるように配管を継ぎ込み、配管部に不活性ガスを流した後、バルブを開放し、反応容器内のNH3を取り除いた。一旦、バルブを閉じて、真空ポンプに通ずるように操作した後、バルブを再び開放し、反応容器内部のNH3をほぼ完全に除去した。その後、反応容器を開け、内部を確認したところ、反応容器の上部に約0.3gの塊状窒化ガリウム結晶が析出していた。
得られた窒化ガリウム結晶を取り出してX線回折測定した結果、結晶形はヘキサゴナル型であった。得られた窒化ガリウム結晶を細かく粉砕し、LECO社製酸素窒素分析装置TC−436型で測定した酸素量は0.5重量%以下であった。また、島津EDX700蛍光X線分析装置で元素分析を行ったところ、Gaのみが検出され、Ga以外のNaより重い金属成分は検出限界以下であった。
【0084】
(実施例2)
実施例1における以下の条件を変更した以外は、実施例1と同様にして窒化ガリウム結晶の析出を試みた。すなわち、多結晶h−GaN原料の重量を3.0gにした点、鉱化剤NH4Clの重量を0.96gにした点、流量制御に基づきNH3を反応容器の内部の空洞部の70%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した点、流量制御に基づきNH3を反応容器と耐圧性容器の間の空隙部の約70%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した点、耐圧性容器の下部外面の温度が500℃になるように6時間かけて昇温し耐圧性容器の下部外面の温度が500℃に達した後その温度でさらに72時間保持した点について条件を変更した。
その結果、実施例1と同様に、反応容器の上部に約0.3gの塊状窒化ガリウム結晶が析出していた。
また、実施例1と同様に、得られた窒化ガリウム結晶を取り出してX線回折測定した結果、結晶形はヘキサゴナル型であった。得られた窒化ガリウム結晶を細かく粉砕し、LECO社製酸素窒素分析装置TC−436型で測定した酸素量は0.5重量%以下であった。また、島津EDX700蛍光X線分析装置で元素分析を行ったところ、Gaのみが検出され、Ga以外のNaより重い金属成分は検出限界以下であった。
【0085】
(比較例1)
実施例1の比較例として、Pt製の反応容器を用いることの効果を実証するため、Pt製の反応容器を用いずに、インコネル製の耐圧性容器のみを用いた。該耐圧性容器を十分に乾燥し不活性ガス雰囲気中において、耐圧性容器の下部に原料として、実施例で用いたのと同じ十分に乾燥させた多結晶h−GaN(ヘキサゴナル型窒化ガリウム)原料1.0gを入れた。さらに鉱化剤として十分に乾燥した99.995%のNH4Cl 0.2gを入れた。Pt製のバッフル板等の構造物を設置した後、耐圧性容器を閉じた。
【0086】
続いて、耐圧性容器に付属したバルブに配管を接続し、実施例と同様の手順で99.999%のNH3を耐圧性容器に充填した。流量制御に基づき、NH3を耐圧性容器の空洞部の60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、バルブを閉じて耐圧性容器を密閉した。次いで耐圧性容器の温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させた。
【0087】
実施例と同様の条件で昇温、反応を行い、炉内で自然放冷した。耐圧性容器下部外面の温度がほぼ室温まで降下したのを確認した後、実施例と同様の手順で耐圧性容器内部のNH3をほぼ完全に除去した。その後、耐圧性容器を開けて内部を確認したところ、耐圧性容器上部に約0.2gの塊状窒化ガリウム結晶が析出していた。
【0088】
X線回折を測定したところ結晶形はヘキサゴナル型であったが、ブロードなピークとなり結晶性が低下していた。島津EDX700蛍光X線分析装置で元素分析を行ったところ、Ga以外のNaより重い金属成分として、Cr、Fe、Ni、Taが検出され、特にCrは酸化物換算で0.1重量%ほど検出された。
【0089】
(比較例2)
実施例2の比較例として、Pt製の反応容器を用いることの効果を実証するため、Pt製の反応容器を用いずに、インコネル製の耐圧性容器のみを用いた点以外は、実施例2と同様にして窒化ガリウム結晶の析出を試みた。
その結果、比較例1と同様に、耐圧性容器上部に約0.2gの塊状窒化ガリウム結晶が析出していた。
また、比較例1と同様に、結晶形はヘキサゴナル型であったが、ブロードなピークとなり結晶性が低下していた。島津EDX700蛍光X線分析装置で元素分析を行ったところ、Ga以外のNaより重い金属成分として、Cr、Fe、Ni、Taが検出され、特にCrは酸化物換算で0.1重量%ほど検出された。
【0090】
以上の実施例1、2と比較例1、2の結果から、本発明の方法で得られる窒化物結晶(実施例1、2)が、比較例1、2の方法で得られた窒化物結晶よりも結晶性が高く、不純物が少なく高品質であることが分かる。
また、本発明の方法で得られた窒化ガリウム結晶は、1)Cr、Fe、Ni、Taなどの遷移金属成分の混入が0.1重量%以下であり、2)酸素量が0.5重量%以下という特徴を有することも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法で得られた窒化物結晶は、不純物が少なく、結晶性も高いため、格子欠陥や転位密度が低くなると共に不純物準位の形成もなく、VPEやMOCVD等で各種デバイスを製造するにあたり、エピタキシャル成長用基板として利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 バルブ
2 圧力計
3 耐圧性容器
4 バルブ
5 結晶育成部
6 反応容器
7 原料充填部
8 電気炉
9 熱電対
10 種結晶
11 配管接続口
12 パッキンリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内側の表面が貴金属製の反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して前記反応容器を密閉した後、さらに前記反応容器を耐圧性容器内に挿入し、前記反応容器と前記耐圧性容器との間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、昇温することにより窒化物結晶を得ることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属がRh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選ばれる少なくとも1種類の貴金属を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応容器がPtまたはPtを含む合金を主成分とする容器であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応容器が少なくともひとつのバルブを付属していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第二溶媒がアンモニア溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応容器内のアンモニア溶媒を亜臨界状態または超臨界状態で保持することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
少なくとも前記耐圧性容器内を20〜500MPaに保持することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
少なくとも前記耐圧性容器内を200〜700℃に昇温することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記反応容器内に少なくとも1種類の添加物を添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記添加物が少なくとも1種類のハロゲン原子を含むことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記原料中の酸素含有量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記原料中に窒化ガリウムを含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記反応容器内に少なくとも1種類の種結晶を設置し、アンモニア溶媒に溶解した原料が前記種結晶上に析出することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項14】
密閉可能な窒化物結晶成長用の反応容器が、密閉可能な耐圧性容器内に挿入された構造を有する窒化物結晶の製造装置であって、
前記反応容器は少なくとも内側の表面が貴金属製であり、かつ、前記反応容器と前記耐圧性容器との間に溶媒を充填しうる空隙を有する前記窒化物結晶の製造装置。
【請求項15】
前記反応容器が少なくともひとつのバルブを付属していることを特徴とする請求項14に記載の窒化物結晶の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−263229(P2009−263229A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154484(P2009−154484)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【分割の表示】特願2005−66543(P2005−66543)の分割
【原出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】