説明

窒化物蛍光体、窒化物蛍光体の製造方法、並びに上記窒化物蛍光体を用いた光源及びLED

【課題】発光に寄与しない炭素と酸素の不純物含有量を減少して、窒化物蛍光体の発光強度の低下を抑制し、当該窒化物蛍光体の発光効率を向上できること。
【解決手段】窒化物蛍光体の原料を窒化ホウ素材質の焼成容器内に充填し、窒素などの不活性雰囲気中で焼成して窒化物蛍光体を製造し、得られた窒化物蛍光体が、不純物炭素含有量が0.08重量%より少ない窒化物蛍光体、不純物酸素含有量が3.0重量%より少ない窒化物蛍光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CRT、PDP、FED、ELなどのディスプレイ装置や、蛍光表示管、蛍光ランプなどの照明装置等に使用される蛍光体に関するものであり、特に、紫外〜緑色の光により励起され、可視光または白色光を発光させるための窒化物蛍光体、窒化物蛍光体の製造方法、並びに上記窒化物蛍光体を用いた光源及びLEDに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、照明装置として用いられている放電式蛍光灯や白熱電球などは、水銀などの有害物質が含まれ、且つ寿命が短いといった諸問題を抱えている。ところが近年になって青色や紫外に発光するLEDが次々と開発され、そのLEDから発生する紫外〜緑色の光と、紫外〜緑色の波長域に励起帯を持つ蛍光体との組み合わせにより、白色の光を発する次世代の照明装置を得ようとする研究、開発が盛んに行われている。この照明装置は、熱の発生量が少なく、また、半導体素子(LED)と蛍光体から構成されているため白熱電球のように切れる心配がなく長寿命であり、更に、水銀などの有害物質が不要であるなどの多くの利点があり、理想的な照明装置である。
【0003】
ここで、上述のLEDと蛍光体とを組み合せて白色光を得るには、一般的に2つの方式が考えられる。一つは、青色を発光するLEDと、当該青色発光を受けて励起され黄色を発光する蛍光体とを組み合せ、これら補色関係にある青色発光と黄色発光との組み合せにより白色発光を得るものである。
【0004】
他の一つは、近紫外や紫外を発光するLEDと、当該近紫外や紫外の発光により励起されて赤色(R)を発光する蛍光体、緑色(G)を発光する蛍光体、青色(B)を発光する蛍光体、他の色を発光する蛍光体とを組み合せ、当該RGB等の光の混合により白色発光を得るものである。このRGB等の光により白色発光を得る方法は、RGB等の光を発光する蛍光体の組み合せや混合比などにより、白色光以外にも任意の発光色を得ることが可能であり、照明装置としての応用範囲が広い。
【0005】
この用途に使用される蛍光体としては、赤色蛍光体であれば、例えば、YS:Eu、LaS:Eu、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn、(La、Mn、Sm)S・Gaがあり、緑色蛍光体であれば、例えば、ZnS:Cu,Al、SrAl:Eu、BAM:Eu,Mnがあり、黄色蛍光体であれば、例えば、YAG:Ceがあり、青色蛍光体であれば、例えば、BAM:Eu、Sr(POCl:Eu、ZnS:Ag、(Sr、Ca、Ba、Mg)10(POCl:Euがある。そして、これらのRGB等を発光する蛍光体を、近紫外や紫外を発光するLEDなどの発光部(発光素子)と組み合せることにより、白色または所望の単色を発光するLEDを始めとした光源や、当該光源を備えた照明装置を得ることが可能となる。
【0006】
しかし、青色LEDと黄色蛍光体(YAG:Ce)の組み合せにより白色を得る照明にあっては、可視光領域の長波長側の発光が不足してしまうため、若干青みを帯びた白色の発光となってしまい、電球のようなやや赤みを帯びた白色発光を得ることができない。
【0007】
また、近紫外・紫外LEDとRGB等を発光する蛍光体との組み合せにより白色を得る照明では、3色の蛍光体のうち赤色蛍光体が他の蛍光体に比べ長波長側の励起効率が悪く、発光効率が低下するため、赤色蛍光体の混合割合を多くせざるを得ず、輝度を向上させる蛍光体が不足して高輝度の白色が得られない。
【0008】
そのため最近では、長波長側に良好な励起を持ち、半値幅の広い発光ピークが得られるオキシ窒化物ガラス蛍光体(例えば、特許文献1参照)や、サイアロンを母体とする蛍光体(例えば、特許文献2、3、4参照)、シリコンナイトライド系などの窒素を含有した蛍光体(例えば、特許文献5、6参照)が提案されている。これらの窒素を含有した蛍光体は、酸化物系蛍光体などに比べて共有結合の割合が多くなるため、波長400nm以上の光においても良好な励起帯を有し、白色の光を発する照明装置用の蛍光体として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-214162号公報
【特許文献2】特開2003-336059号公報
【特許文献3】特開2003-124527号公報
【特許文献4】特願2004-067837号公報
【特許文献5】特表2003-515655号公報
【特許文献6】特開2003-277746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の紫外〜緑色に発光する発光素子と、当該発光素子から発生する紫外〜緑色の波長域に対して励起帯を持つ蛍光体との組合せにより可視光、白色光を発するLEDを始めとした光源においては、可視光または白色光の発光特性向上のために、発光素子及び蛍光体の発光効率の向上や安定性が求められる。ところが従来の技術に係る蛍光体においては、発光効率が製造バッチ毎に安定しているとは限らず、発光効率にバラツキがみられることがあった。ここで、本発明者らは当該バラツキの原因を究明し、その対策を打つことが出きれば、当該蛍光体の発光効率をより高めることができるのではないかと考えた。
そこで本発明者らは、様々な蛍光体の試料を調製し当該バラツキの原因を追求したところ、当該蛍光体中に不純物として含まれる炭素および/または酸素が原因であることに想到した。
ここで本発明者らは、当該不純物として含まれる炭素および/または酸素の由来について、さらに研究をおこなった。その結果、当該元素は、当初予想された雰囲気等に由来するものだけでなく、窒化物蛍光体製造時の焼結工程において、焼成容器内から窒化物蛍光体中に拡散して不純物となるものもあることに想到した。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、窒化物蛍光体中に当該不純物として含まれる炭素および/または酸素を抑制することで、発光効率が向上した窒化物蛍光体を提供することにある。
本発明の他の目的は、窒化物蛍光体中に当該不純物として含まれる炭素および/または酸素を抑制して、当該蛍光体の発光効率を向上させることができる窒化物蛍光体の製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、当該発光効率が向上した窒化物蛍光体を用いた光源及びLEDを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の構成は、炭素含有量が0.08重量%より少ないことを特徴とする窒化物蛍光体である。
【0013】
第2の構成は、酸素含有量が3.0重量%より少ないことを特徴とする窒化物蛍光体である。
【0014】
第3の構成は、炭素含有量が0.08重量%より少なく、且つ酸素含有量が3.0重量%より少ないことを特徴とする窒化物蛍光体である。
【0015】
第4の構成は、一般式がM−Al−Si−N:Zで表記され、MがII価の価数をとる一種以上の元素、Alがアルミニウム、Siが珪素、Nが窒素、Zが付活剤となる元素であることを特徴とする第1から第3の構成のいずれかに記載の窒化物蛍光体である。
【0016】
第5の構成は、上記窒化物蛍光体が粉末状であることを特徴とする第1から第4の構成のいずれかに記載の窒化物蛍光体である。
【0017】
第6の構成は、上記粉末状の窒化物蛍光体の平均粒度が20μm以下、0.1μm以上であることを特徴とする第5の構成に記載の窒化物蛍光体である。
【0018】
第7の構成は、第1から第6の構成のいずれかに記載の窒化物蛍光体の製造方法であって、上記窒化物蛍光体の原料を窒化ホウ素材質の焼成容器内に充填し、不活性雰囲気中で焼成して窒化物蛍光体を製造することを特徴とする窒化物蛍光体の製造方法である。
【0019】
第8の構成は、第1から第6の構成のいずれかに記載の窒化物蛍光体と、所定波長の光を発光する発光部とを有し、上記所定波長の光の一部を励起源とし、上記窒化物蛍光体を上記所定波長と異なる波長で発光させることを特徴とする光源である。
【0020】
第9の構成は、上記所定波長が250〜550nmの波長であることを特徴とする第8の構成に記載の光源である。
【0021】
第10の構成は、第1から第6の構成のいずれかに記載の窒化物蛍光体と、所定波長の光を発光する発光部とを有し、上記所定波長の光の一部を励起源とし、上記窒化物蛍光体を上記所定波長と異なる波長で発光させることを特徴とするLEDである。
【0022】
第11の構成は、上記所定波長が250〜550nmの波長であることを特徴とする第10の構成に記載のLEDである。
【発明の効果】
【0023】
第1から第3のいずれかの構成に係る窒化物蛍光体によれば、炭素含有量が0.08重量%より少ない窒化物蛍光体、酸素含有量が3.0重量%より少ない窒化物蛍光体であることから、いずれの場合も、発光に寄与しない炭素と酸素の不純物含有量が少ないので、窒化物蛍光体の発光強度の低下を抑制でき、当該窒化物蛍光体の発光効率を向上させることができる。
【0024】
第4の構成に係る窒化物蛍光体は、一般式がM−Al−Si−N:Zで表記され、MがII価の価数をとる一種以上の元素、Alがアルミニウム、Siが珪素、Nが窒素、Zが付活剤となる元素であることから、紫外〜緑色の光を発光する発光部からの紫外〜緑色(波長域250〜550nm)の広い範囲の光に励起帯を有するので、発光効率を更に向上させることができる。
【0025】
第5または第6の構成に係る窒化物蛍光体が粉末状であることから、窒化物蛍光体の塗布または充填を容易に実施できる。更に、窒化物蛍光体の粉末の平均粒度が20μm以下、0.1μm以上であることから、発光効率を向上させることができる。
【0026】
第7の構成に係る窒化物蛍光体の製造方法によれば、窒化物蛍光体の原料を窒化ホウ素材質の焼成容器内に充填し、不活性雰囲気中で焼成して窒化物蛍光体を製造することから、炭素および酸素の不純物含有量が少ない窒化物蛍光体を製造することができる。このように、発光に寄与しない不純物が少ない窒化物蛍光体を製造できるので、発光強度の低下を抑制でき、窒化物蛍光体の発光効率を向上させることができる。
【0027】
第8または第9の構成に係る光源は、窒化物蛍光体が、発光部が発光する所定の広い波長域(250〜550nm)の光に励起帯を有して発光するため、これらの窒化物蛍光体と発光部との組み合わせにより、可視光または白色光を発光する発光効率の高い光源を得ることができる。
【0028】
第10または第11の構成に係るLEDは、窒化物蛍光体が、発光部が発光する所定の広い波長域(250〜550nm)の光に励起帯を有して発光するため、これらの窒化物蛍光体と発光部との組み合わせにより、可視光または白色光を発光する発光効率の高いLEDを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る蛍光体を製造する場合に使用する焼成容器(るつぼ)の材質と、製造された蛍光体の特性及び不純物濃度とを示す図表である。
【図2】本発明に係る蛍光体としてのCaAlSiNを焼成して製造するための焼成容器(るつぼ)の材質と、上記蛍光体の発光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
本発明に係る窒化物蛍光体として、一般式がM−Al−Si−N:Zで表記される窒化物蛍光体であって、MがII価の価数をとる一種以上の元素、Alがアルミニウム、Siが珪素、Nが窒素、Zが付活剤となる元素である窒化物蛍光体を例として説明する。そして当該窒化物蛍光体において、不純物である炭素含有量が0.08重量%より少なく、不純物である酸素含有量が3.0重量%より少ないものである。この不純物炭素含有量0.08重量%未満と不純物酸素含有量3.0重量%未満は、両者が満たされることが好ましいが、いずれか一方が満たされている場合でもよい。
【0031】
不純物炭素含有量が0.08重量%より少ない窒化物蛍光体、不純物酸素含有量が3.0重量%より少ない窒化物蛍光体は、いずれの場合も、発光に寄与しない炭素と酸素の不純物含有量が少ないので、発光強度を相対強度で表したとき、25〜30%程度の発光強度の低下を抑制でき、従って発光効率を向上させることができる。
【0032】
また、窒化物蛍光体は、一般式がM−Al−Si−N:Zで表記され、MがII価の価数をとる一種以上の元素、Alがアルミニウム、Siが珪素、Nが窒素、Zが付活剤となる元素であることから、紫外〜緑色の光を発光する発光部からの紫外〜緑色(波長域250〜550nm)の広い範囲の光に励起帯を有するので、発光効率を更に向上させることができる。
【0033】
より詳しくは、当該窒化物蛍光体を組成式MmAlaSibNn:Zで表記したとき、n=2/3m+a+4/3bの関係を有する窒化物蛍光体であることが好ましい。n、m、a、b、が当該関係を満たすとき、上述の窒化物蛍光体の母体構造が化学的に安定な構造をとり、当該母体構造中に、発光に寄与しない不純物相が生じにくくなるためである。さらに、m = a = b = 1となることで安定性は向上する。ただし、母体構造の組成式からの若干の組成のずれは許容される。
【0034】
上記Mは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hgから選択される少なくとも1つ以上の元素であることが好ましく、更には、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選択される少なくとも1つ以上の元素であることが好ましい。
【0035】
上記Zは、希土類元素または遷移金属元素から選択される少なくとも1つ以上の元素であることが好ましいが、特にEu、Mn、Sm、Ceから選択される少なくとも1つ以上の元素であることが好ましい。中でもEuを用いると、窒化物蛍光体は橙色から赤色にかけての強い発光を示すため発光効率が高く、白色を発する光源(LED)用の窒化物蛍光体の付活剤としてより好ましい。
【0036】
本発明に係る窒化物蛍光体(以下、単に「蛍光体」と記載する場合がある。)は、塗布または充填の容易さを考慮して粉状体とされるが、この場合には、当該蛍光体粉体の平均粒径が20μm以下であることが好ましい。これは、蛍光体粉体において発光は主に粒子表面で起こると考えられるため、平均粒径が20μm以下であれば、粉体単位重量あたりの表面積を確保でき輝度の低下を回避できるからである。更に、当該粉体をペースト状とし、発光体素子等に塗布した場合にも当該粉体の密度を高めることができ、この観点からも輝度の低下を回避することができる。また、本発明者らの検討によると、詳細な理由は不明であるが、蛍光体粉末の発光効率の観点から、平均粒径が0.1μmより大きいことが好ましいことも判明した。以上のことより、本発明に係る蛍光体粉体の平均粒径は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0037】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、蛍光体の原料を窒化ホウ素材質の焼成容器内に充填し、不活性雰囲気中で焼成して蛍光体を製造する。この蛍光体の製造方法を、蛍光体としてCaAlSiN:Eu(但し、Eu/(Ca+Eu)モル比=0.015の場合)の製造を例として説明する。
【0038】
まず、原料としてCa、Al、Siの窒化物として、それぞれCa(2N)、AlN(3N)、Si(3N)を準備する。Eu原料としては、Eu(3N)を準備する。
【0039】
これらの原料を、各元素のモル比がCa:Al:Si:Eu=0.985:1:1:0.015となるように秤量し混合する。((Ca+Eu):Al:Si:=1:1:1となる。)当該混合は、乳鉢等を用いる通常の混合方法で良いが、窒素等の不活性雰囲気下のグローブボックス内で操作することが便宜である。
【0040】
当該混合を不活性雰囲気下のグローブボックス内で操作する理由は、この操作を大気中おこなうと、上記原料の酸化や分解により母体構成元素中に含まれる酸素濃度の比率が崩れ、発光特性が低下する可能性がある上、蛍光体の目的組成からずれてしまうことが考えられるためである。更に、各原料元素の窒化物は水分の影響を受けやすいため、不活性ガスは水分を十分取り除いたものを使用するのが良い。各原料元素として窒化物原料を用いる場合、原料の分解を回避するため混合方式は乾式混合が好ましく、ボールミルや乳鉢等を用いる通常の乾式混合方法でよい。
【0041】
混合が完了した原料を、焼成容器として窒化ホウ素製のるつぼに充填し、窒素等の不活性雰囲気中で1500℃まで15℃/min.の昇温速度で昇温し、1500℃で3時間保持し焼成する。焼成温度は1000℃以上、好ましくは1400℃以上であればよい。
保持時間は焼成温度が高いほど焼成が迅速に進むため短くできる。焼成温度が低くても、長時間保持することにより目的の発光特性を得ることができる。焼成時間が長いほど粒子成長が進み、粒子形状が大きくなるため、目的の粒子サイズによって任意の焼成時間を設定すればよい。
【0042】
ここで、本発明者らは、蛍光体の原料を焼成する焼成容器(例えば、るつぼ)として、例えばカーボン製の焼成容器を使用して焼成した場合には、カーボン製の焼成容器から焼成される蛍光体中に不純物として炭素が混入し、蛍光体の発光強度が低下するおそれがあることに想到した。本発明者らの検討によると、蛍光体中に含まれる炭素の量が0.08重量%以上となると蛍光体の発光強度が低下し始めることを見出した。また、本発明者らは、アルミナ製の焼成容器を使用して焼成した場合には、アルミナ製の焼成容器から焼成される蛍光体中に不純物として酸素が拡散し、蛍光体の発光強度が低下するおそれがあることに想到した。本発明者らの検討によると、蛍光体中に含まれる酸素の量が3.0重量%以上となると蛍光体の発光強度が低下し始めることを見出した。
【0043】
そして本発明者らは、窒化ホウ素製の焼成容器を用いて蛍光体を焼成して製造することで、発光に寄与しない不純物炭素含有量と不純物酸素含有量の少ない蛍光体を製造することができ、発光強度の低下を抑制でき、発光体の発光効率を向上させることができることに想到した。
【0044】
そこで、焼成容器として窒化ホウ素製の焼成容器を用い、焼成が完了した後、1500℃から200℃まで1時間で冷却し、さらに室温まで冷却した後、乳鉢、ボールミル等の粉砕手段を用いて所定(好ましくは20μm〜1μm)の平均粒径となるように粉砕し、組成式Ca0.985SiAlN:Eu0.015の蛍光体を製造する。
【0045】
Eu/(Ca+Eu)モル比の設定値が変動した場合も、各原料の仕込時の配合量を所定の組成式に合わせることで、同様の製造方法により所定の組成の蛍光体を製造することができる。得られた蛍光体はいずれも炭素含有量が0.08重量%より少なく、酸素含有量が3.0重量%より少ないものであった。
【0046】
粉末状となった本発明に係る蛍光体は、公知の方法で発光部(特には、発光波長域250〜550nmのいずれかの発光をおこなう発光部)と組み合わせることで、当該発光部が発光する広い範囲の波長域の光に励起帯を有して発光するので、可視光または白色光を発光する発光効率の高い光源を得ることができる。特に、発光部として発光波長域250〜550nmのいずれかの発光をおこなうLEDと、公知の方法により組み合わせることで、可視光または白色光を発光する発光効率の高いLEDを得ることができる。
従って、この光源(LED)をCRT、PDP等のディスプレイ装置や、蛍光灯等の照明装置の多様な光源として用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
市販のCa(2N)、AlN(3N)、Si(3N)、Eu(3N)を準備し、各元素のモル比がCa:Al:Si:Eu=0.985:1:1:0.015となるように各原料を秤量し、窒素雰囲気下のグローブボックス中において乳鉢を用いて混合した。混合した原料を窒化ホウ素製のるつぼに充填し、窒素雰囲気中で1500℃まで15℃/min.の昇温速度で昇温し、1500℃で3時間保持し焼成した後、1500℃から200℃まで1時間で冷却し、組成式Ca0.985SiAlN:Eu0.015の蛍光体を得た。
得られた蛍光体粉末に460nmの単色光を照射したところ、図1に示すように、656nmに発光ピークを有する赤色発光を示した。また、化学分析により得られた不純物炭素濃度、不純物酸素濃度はそれぞれ0.043重量%、2.09重量%であった。
【0048】
(比較例1)
焼成に使用する容器を窒化ホウ素製のるつぼからカーボン製のるつぼに変更した他は、実施例1と同様の条件で蛍光体を作製した。得られた蛍光体粉末に460nmの単色光を照射したところ、650nmに発光ピークを有する赤色発光を示した。図1に本比較例で作製した蛍光体の相対発光強度、並びに化学分析により得られた不純物炭素濃度及び不純物酸素濃度を示す。
図1及び図2に示すように、焼成容器にカーボン製るつぼを使用して作製した蛍光体は、窒化ホウ素製のるつぼを使用して作製した実施例1の蛍光体と比べて発光強度が約26%低下する結果となった。カーボン製るつぼを使用して作製した蛍光体は、不純物炭素量が0.080重量%に増加していることから、当該不純物炭素が発光強度を低下させているものと考えられる。
【0049】
(比較例2)
焼成に使用する容器を窒化ホウ素製のるつぼからアルミナ製のるつぼに変更した他は、実施例1と同様の条件で蛍光体を作製した。得られた蛍光体粉末に460nmの単色光を照射したところ、652nmに発光ピークを有する赤色発光を示した。図1に本比較例で作製した蛍光体の相対発光強度、並びに化学分析により得られた不純物炭素濃度及び不純物酸素濃度を示す。
図1及び図2に示すように、焼成容器にアルミナ製るつぼを使用して作製した蛍光体は、窒化ホウ素製のるつぼを使用して作製した実施例1の蛍光体と比べて発光強度が約20%低下する結果となった。アルミナ製るつぼを使用して作製した蛍光体は、不純物酸素量が3.02重量%に増加していることから、当該不純物酸素が発光強度を低下させているものと考えられる。
【0050】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が0.08重量%より少ないことを特徴とする窒化物蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265463(P2010−265463A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153511(P2010−153511)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2004−207271(P2004−207271)の分割
【原出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】