説明

窒素酸化物の除去システム

【課題】空気中に含まれる窒素酸化物を空気の流れを利用して高活性炭素繊維に接触させて酸化吸着し降雨(雨水)によって洗浄除去することが可能で設置スペースの制約を受けず稼動用エネルギー及び保守管理作業を必要としない窒素酸化物の除去システムを提供する。
【解決手段】浄化ユニット58、59、60が道路上を走行する自動車56に搭載され、空気中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素のいずれか一方又は双方を含む窒素酸化物の除去システム55であって、空気の流れる場所に、窒素酸化物を捕捉する高活性炭素繊維を集めた板状物を1又は2以上備えた浄化ユニット58、59、60を、雨水に曝される状態で配置し、高活性炭素繊維に空気を接触させて含まれる窒素酸化物を酸化吸着し、酸化吸着した窒素酸化物を雨水によって硝酸と化して洗浄除去し、高活性炭素繊維を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれる窒素酸化物を空気の流れを利用して高活性炭素繊維に接触させて酸化吸着し降雨(雨水)及び場合によっては高湿度の空気によって洗浄除去する窒素酸化物の除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中に含まれる窒素酸化物を除去する装置として、窒素酸化物を吸着して除去する固体吸着剤を含む窒素酸化物吸着手段と、窒素酸化物吸着手段の除去機能が低下した場合に再生剤を窒素酸化物吸着手段に供給する再生剤供給手段と、窒素酸化物を固体吸着剤に吸着されやすい状態に変える前処理手段とを有し、窒素酸化物センサーが窒素酸化物吸着手段を通過した空気中に所定濃度以上の窒素酸化物を検知した場合に除去機能の再生を開始する窒素酸化物の除去装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、窒素酸化物を吸着する固体吸着材層を備えた吸着ユニットが複数個積層されて一体化された窒素酸化物吸着手段と、固体吸着材層を通過する大気の速度を制御する制御手段と、固体吸着材層の機能が低下した場合に再生剤を窒素酸化物吸着手段に供給する再生剤供給手段と、窒素酸化物を固体吸着材層に吸着されやすい状態に変える前処理手段と、大気を加湿する加湿手段を備えた窒素酸化物の除去装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−121902号公報
【特許文献2】特開2004−290901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒素酸化物吸着手段による窒素酸化物の除去を効率的に行なうために付帯設備として、特許文献1に記載された発明では再生剤供給手段及び前処理手段を、特許文献2に記載された発明では制御手段、再生剤供給手段、前処理手段、及び加湿手段を必要とする。このため、除去装置が複雑化すると共に、除去装置を設置するには窒素酸化物吸着手段用の設置スペースに加えて付帯設備用の設置スペースを確保する必要があり、除去装置の設置が可能な場所に制約が生じるという問題が生じる。また、付帯設備を稼動させるために電力等のエネルギーが必要になるため運転コストが上昇するという問題が生じる。更に、除去装置の構成が複雑になるため除去装置を安定して稼動させるために窒素酸化物吸着手段及び付帯設備の保守管理を定期的に行なう必要があり、除去装置の維持管理コストも上昇するという問題が生じる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、空気中に含まれる窒素酸化物を空気の流れを利用して高活性炭素繊維に接触させて酸化吸着し降雨(雨水)及び場合によっては高湿度の空気によって洗浄除去することが可能で設置スペースの制約を受けず稼動用エネルギー及び保守管理作業を必要としない窒素酸化物の除去システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る窒素酸化物の除去システムは、空気中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素のいずれか一方又は双方を含む窒素酸化物の除去システムであって、
空気の流れる場所に、前記窒素酸化物を捕捉する高活性炭素繊維を集めた板状物を1又は2以上備えた浄化ユニットを、雨水及び空気のいずれか1又は双方に曝される状態で配置し、前記高活性炭素繊維に空気を接触させて含まれる前記窒素酸化物を酸化吸着し、酸化吸着した前記窒素酸化物を雨水及び高湿度の空気のいずれか1又は双方によって洗浄除去し、前記高活性炭素繊維を再生する。
【0007】
本発明に係る窒素酸化物の除去システムにおいて、前記板状物は前記高活性炭素繊維を主体するシート状物であって、複数の該シート状物を隙間を有して配置し、該隙間に空気を通過させることができる。
本発明に係る窒素酸化物の除去システムにおいて、前記板状物は前記高活性炭素繊維の充填体であって、該充填体に空気を通過させてもよい。
ここで、充填体の厚みは、充填体内を空気が容易に通過でき、しかも、空気の通過中に空気に含まれる窒素酸化物が高活性炭素繊維の表面に接触して酸化吸着が生じるだけの時間が確保されるように設定する必要がある。このため、充填体の最小厚みは、1cmとすることが好ましい。また、充填体の最大厚みは、充填体を形成する高活性炭素繊維の充填率、空気の流速、及び浄化ユニットが配置される場所の広さにより設定されるが、例えば、30cmと考えられる。
【0008】
本発明に係る窒素酸化物の除去システムにおいて、前記浄化ユニットを道路沿いに配置することが好ましく、前記浄化ユニットは、路側帯に配置されているフェンス、又は中央分離帯に配置することができる。
また、前記浄化ユニットは、自動車に搭載することもできる。
【0009】
本発明に係る窒素酸化物の除去システムにおいて、前記高活性炭素繊維は、ピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール、及びセルロースのいずれか1を主体とする炭素含有物質を不活性ガス雰囲気中で加熱溶融して紡糸した繊維を、熱処理してから賦活処理することにより製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜7記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、空気の流れで運ばれる窒素酸化物を高活性炭素繊維に接触させ酸化吸着することにより捕捉するので、窒素酸化物の除去システムを稼動させるために外部から供給するエネルギーが不要で、窒素酸化物の除去を、必要とする場所で安価に行なうことが可能になる。更に、窒素酸化物の酸化吸着により高活性炭素繊維の活性が低下しても、酸化吸着した窒素酸化物は雨水及び高湿度の空気のいずれか1又は双方によって洗浄除去されて高活性炭素繊維の再生がその場で行なわれるので、高活性炭素繊維の寿命を長くすることが可能になる。その結果、窒素酸化物の除去を、必要とする場所で長期間に渡って安定して行なうことが可能になる。
【0011】
特に、請求項2記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、空気の流れを妨げないで空気中の窒素酸化物を高活性炭素繊維に高頻度で接触させることができ、多量の空気中に含まれる窒素酸化物の除去を効率的に行なうことができる。
【0012】
請求項3記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、空気中の窒素酸化物と高活性炭素繊維との接触時間を十分に確保することができ、窒素酸化物の除去率を大きくして窒素酸化物の除去を行なうことができる。
【0013】
請求項4記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、自然風を利用して道路周辺の空気を浄化ユニット内に導入することができ、道路周辺の空気中の窒素酸化物を除去して道路周辺への拡散を抑制することが可能になる。
【0014】
請求項5記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、窒素酸化物の発生源の周辺空気を自然風を利用して浄化ユニット内に導入することができ、窒素酸化物を発生源の周辺で効率的に除去して道路周辺への拡散を更に抑制することが可能になる。
【0015】
請求項6記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、自動車が道路上を走行する際に発生する走行風を利用して、走行中の他の自動車から排出される高濃度の窒素酸化物を浄化ユニット内に導入することができ、窒素酸化物を発生源の近傍で効率的に捕集して除去することが可能になる。
【0016】
請求項7記載の窒素酸化物の除去システムにおいては、炭素表面に含酸素官能基及び含窒素官能基を導入して化学物質に対する吸着性及び酸化性を付与することができ、一酸化窒素及び二酸化窒素を酸化して三酸化窒素の状態で吸着することができる。そして、吸着した三酸化窒素は水と反応し硝酸になって水の中に溶け込んで水と共に排出されるので、高活性炭素繊維を再生することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は本発明の第1の実施の形態に係る窒素酸化物の除去システムの説明図、(B)は同除去システムの浄化ユニットの正面図である。
【図2】同除去システムの浄化ユニットの変形例の正面図である。
【図3】同除去システムの変形例の説明図である。
【図4】同除去システムの別の変形例の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る窒素酸化物の除去システムの説明図である。
【図6】(A)、(B)はそれぞれ自動車の停車時における道路上の空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の浄化を示すグラフである。
【図7】(A)、(B)はそれぞれ自動車の走行時における道路上の空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の浄化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る窒素酸化物の除去システム10は、空気が流れる場所、例えば、道路11の中央分離帯12の両側に設けられた柵状のフェンス13に沿って配置され、自動車14の排気ガス中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素を含む窒素酸化物を捕捉する複数の浄化ユニット15を有している。以下、これらについて詳細に説明する。
浄化ユニット15は、一酸化窒素及び二酸化窒素を酸化して三酸化窒素に変えて吸着する高活性炭素繊維を集めて形成された板状物の一例であるフェルト状の充填体16と、充填体16をフェンス13に沿って取付ける取付け部材17を有している。また、取付け部材17は、フェンス13に取付けられて充填体16を支持する(例えば、つり下げる)骨組み材18と、骨組み材18に充填体16を固定する図示しない固定材(例えば、金網)を有している。
【0019】
高活性炭素繊維は、ピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール、及びセルロースのいずれか1を主体とする炭素含有物質を不活性ガス雰囲気中(例えば、窒素ガス雰囲気)で加熱溶融して紡糸した繊維を、不融化熱処理(繊維が熱で軟化しないための処理、例えば、空気中で600〜1000℃)してから水蒸気又は二酸化炭素で表面を賦活処理して表面に微細穴を開口させ、その後、不活性ガス雰囲気中で熱処理(例えば、窒素ガス雰囲気中で400〜1200℃)することで、繊維内にもともと含まれている含酸素官能基及び含窒素官能基を適度に除去して各官能基の数を調整することにより製造される。
そして、充填体16は、この高活性炭素繊維のフェルト状の成形体を所定のサイズ、例えば、取付け部材17の高さ及び設置長さに合わせて裁断することにより得ることができ、フェンス13に沿って1又は2以上取付けることができる。また、充填体16の厚みは、例えば、1cm以上、好ましくは1.5cm以上で、10cm以下、好ましくは6cm以下、より好ましくは3cm以下となるように調整されている。
ここで、充填体16の厚みを1cm以上、好ましくは1.5cm以上としたのは、道路11上の自然風(空気)が充填体16を通過するのに要する時間を確保することにより、空気中の窒素酸化物と高活性炭素繊維を十分に接触させて一酸化窒素及び二酸化窒素を三酸化窒素に変える酸化反応を促進させるためである。また、充填体16の厚みを10cm以下、好ましくは6cm以下、より好ましくは3cm以下としたのは、自然風が充填体16を容易に通過できるようにすると共に、浄化ユニット15の車道側への突出量を小さくして自動車14の走行に支障が生じないようにするためである。
【0020】
このような構成とすることにより、自動車14から排出され空気中に拡散した一酸化窒素及び二酸化窒素は、道路11上を吹く自然風に運ばれて浄化ユニット15の充填体16内に進入して吹き抜けることができる。そして、充填体16内を通過する間に、高活性炭素繊維と接触して酸化され三酸化窒素に変化し高活性炭素繊維に吸着される。このため、浄化ユニット15内に進入し充填体16を通過して浄化ユニット15から排出される空気中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素の総量は浄化ユニット15に進入したときの空気中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素の総量より低減し、一酸化窒素及び二酸化窒素を含む空気の浄化が達成される。なお、空気が充填体16を通過し易くするため、フェンス13と充填体16との間に隙間(例えば、1〜5cm)を設けることが好ましい。
【0021】
一方、高活性炭素繊維に捕捉される三酸化窒素量が増加してくると、高活性炭素繊維の活性は徐々に低下してくるが、降雨時には、浄化ユニット15の充填体16中に雨水は容易に進入できるので、進入した雨水と高活性炭素繊維に捕捉される三酸化窒素が反応して硝酸を生成し、生成した硝酸は雨水に溶け込んで雨水と共に充填体16を通過し浄化ユニット15から排出する。これによって、高活性炭素繊維に捕捉されていた三酸化窒素の除去を行なうことができ、活性が低下した高活性炭素繊維はその場で(すなわち、フェンス13に浄化ユニット15を取付けた状態で)、自然洗浄により容易に再生することができ、高活性炭素繊維の寿命を大幅に延長することが可能になる。
なお、空気中の湿度が高い場合も、浄化ユニット15内に進入した空気中の水蒸気と高活性炭素繊維に捕捉されている三酸化窒素が反応して硝酸を生成し、生成した硝酸は水蒸気のままで又は液化して溶け込んで浄化ユニット15から排出することができ、浄化ユニット15内の活性が低下した高活性炭素繊維をその場で容易に再生することができる。
【0022】
また、図2に示すように、高活性炭素繊維を集めて形成された板状物として、高活性炭素繊維のフェルト状の成形体(例えば、厚みが5〜10mm)を所定の寸法に裁断したシート19を、例えば、厚みが3〜5mmのアルミニウム製又はプラスチック製の支持板20の両面に貼付して形成したシート状物21(例えば、幅(横)が10〜30cm)を使用することができる。そして、各シート状物21をフェンス13の表面に直交させ、各シート状物21の間に隙間22(例えば、1〜3cm)が形成されるように平行に並べて、フェンス13に沿って取付けられた枠状の取付け部材23の上下の骨組み材24、25にシート状物21の支持板20の上下方向の両端部を介して固定することにより、浄化ユニット26を構成することができる。
【0023】
ここで、シート状物21の高さ(縦の長さ)は、取付け部材23の高さに合わせて調整できる。シート状物21の幅を10cm以上としたのは、自然風が隙間22内を通過するのに要する時間を確保することにより、空気中の窒素酸化物と高活性炭素繊維を十分に接触させて一酸化窒素及び二酸化窒素を三酸化窒素に変える酸化反応を促進させるためである。また、シート状物21の幅を30cm以下としたのは、シート状物21の車道側への突出量を小さくして自動車14の走行に支障が生じないようにするためである。シート状物21間の隙間22を1cm以上としたのは、自然風が隙間22内を容易に通過できるようにするためである。シート状物21の隙間が3cmを超えても、自然風が隙間22内を通過する際の抵抗が大幅に低下する効果は少なく、単位長さ当たりに設置するシート状物21の枚数が少なくなることによるシート状物21の総表面積の低下が顕著となって、除去される窒素酸化物の総量の低下が懸念される。このため、シート状物21間の隙間22を3cm以下とした。
【0024】
また、図3に示すように、窒素酸化物の除去システム27を、車道の上り線28及び下り線29を分離する中央分離帯に配置する車道用浄化ユニット30と、上り線28と上り線側歩道31を分離する上ガードフェンス32上に配置する上歩道用浄化ユニット33と、下り線29と下り線側歩道34を分離する下ガードフェンス35上に配置する下歩道用浄化ユニット36から構成することもできる。
車道用浄化ユニット30を設けることで、車道の上り線28及び下り線29に排出される一酸化窒素及び二酸化窒素を効率的に除去することができる。また、上、下歩道用浄化ユニット33、36を設けることで、車道から各歩道31、34に進入する一酸化窒素及び二酸化窒素の総量を低減することができ、歩行者や街路樹37に及ぼす窒素酸化物の影響を低減することができる。
【0025】
更に、図4に示すように、2階建て道路38の場合では、窒素酸化物の除去システム39を、1階部分の中央分離帯40の両側に設けたフェンス41にそれぞれ取付けられる第1、第2分離帯用浄化ユニット42、43と、2階部分の道路桁44の下部両側にそれぞれつり下げて設けられた第1、第2上部浄化ユニット45、46と、2階部分の中央分離帯47の両側に設けたフェンス48にそれぞれ取付けられる第3、第4分離帯用浄化ユニット49、50と、2階部分の両側に設けられた防音壁51、52の上端にそれぞれ取付けられる第3、第4上部浄化ユニット53、54から構成することができる。
1階部分に第1、第2上部浄化ユニット45、46を設け、2階部分に第3、第4上部浄化ユニット53、54を設けることにより、一酸化窒素及び二酸化窒素を含んだ道路38上の空気が道路38の周囲に拡散するのを防止し、道路38の周辺及び道路38上を吹く風により一酸化窒素及び二酸化窒素を含んだ空気が各浄化ユニット42、43、45、46、49、50、53、54を通過して道路38の外に移動するようにできる。
【0026】
図5に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る窒素酸化物の除去システム55は、道路上を走行する自動車56の、例えば、フロント部57に設けられたフロント浄化ユニット58と、ドアに設けられた側部浄化ユニット59と、エンジン吸気口に設けられた吸気口浄化ユニット60を有している。以下、これらについて詳細に説明する。
フロント浄化ユニット58は、自動車56のフロント部57に取付けられ前面側及び背面側にそれぞれ格子状のカバー部材61が設けられたケーシング62と、ケーシング62内に収納される高活性炭素繊維を集めた板状物の一例であるフェルト状の充填体63を有している。なお、ケーシング62の背面とフロント部57の間には隙間(例えば、1〜3cm)が設けられ、ケーシング62の前面側から進入する空気が背面側から容易に抜けられるようにしている。
【0027】
ここで、充填体63は、高活性炭素繊維のフェルト状の成形体をケーシング62内に収納できるように裁断して形成することができ、その厚みは、例えば、1cm以上、好ましくは1.5cm以上で、4.5cm以下、好ましくは3cm以下となるように調整する。また、フロント浄化ユニットを、高活性炭素繊維をケーシング62内に詰め込んで、両側からカバー部材61で押さえることにより形成することもできる。
なお、高活性炭素繊維をケーシング62内に詰め込む厚さは、例えば、1cm以上、好ましくは1.5cm以上で、4.5cm以下、好ましくは3cm以下にするのがよい。充填体63の厚みを1cm以上、好ましくは1.5cm以上としたのは、自然風が充填体63を通過するのに要する時間を確保することにより、空気中の窒素酸化物と高活性炭素繊維を十分に接触させて一酸化窒素及び二酸化窒素を三酸化窒素に変える酸化反応を促進させるためである。また、充填体63の厚みを4.5cm以下、好ましくは3cm以下としたのは、自然風が充填体63を容易に通過できるようにするためである。
【0028】
側部浄化ユニット59は、ドアの表面に沿って取付けられ前開口部及び後開口部にそれぞれ格子状のカバー部材64、65が設けられたケーシング66と、ケーシング66内に長手方向を自動車56の前後方向に合わせ隙間67を設けて平行に配置される複数のシート状物68を有している。ここで、シート状物68は、高活性炭素繊維のフェルト状の成形体(例えば、厚みが5〜10mm)を所定の寸法に裁断したシート(例えば、幅が3〜10cm、長さが50〜100cm)を、例えば、厚みが3〜5mmのアルミニウム製又はプラスチック製の支持板の両面に貼付して形成することができる。そして、各シート状物68は、その表面をドアの表面に直交させ、各シート状物68の間に隙間67(例えば、1〜3cm)が形成されるように平行に並べて、ケーシング66の前開口部及び後開口部の各縁部にシート状物68の支持板の前後方向の両端部を介して固定されている。
【0029】
ここで、シート状物68の幅を3cm以上としたのは、自然風が隙間67内を通過する際に、空気中の窒素酸化物と高活性炭素繊維を十分に接触させて一酸化窒素及び二酸化窒素を三酸化窒素に変える酸化反応を促進させるためである。また、シート状物68の幅を10cm以下としたのは、シート状物68のドアからの突出量を小さくして自動車14の走行に支障が生じないようにするためである。シート状物68間の隙間67を1cm以上としたのは、自然風が隙間67内を容易に通過できるようにするためである。シート状物68の隙間67が3cmを超えても、自然風が隙間67内を通過する際の抵抗が大幅に低下する効果は少なく、単位長さ当たりに設置するシート状物68の枚数が少なくなることによるシート状物68の総表面積の低下が顕著となって、除去される窒素酸化物の総量の低下が懸念される。このため、シート状物68間の隙間67を3cm以下とした。
【0030】
吸気口浄化ユニット60は、先端部(前側端部)に集塵フィルター69が取付けられ、基端部がエンジン吸気口に接続されるケーシング70と、ケーシング70内に収納される高活性炭素繊維を集めた板状物の一例であるフェルト状の充填体(図示せず)を有している。ここで、充填体は、高活性炭素繊維のフェルト状の成形体をケーシング70内に収納できるように裁断して形成することができ、その厚みは、例えば、1cm以上、好ましくは1.5cm以上で、4.5cm以下、好ましくは3cm以下となるように調整する。また、吸気口浄化ユニットを、高活性炭素繊維をケーシング70内に詰め込んで集塵フィルター69で押さえることにより形成してもよい。
【0031】
フロント浄化ユニット58、側部浄化ユニット59、及び吸気口浄化ユニット60の各作用は第1の実施の形態に係る窒素酸化物の除去システム10の浄化ユニット15と実質的に同一なのでその説明を省略する。
なお、フロント浄化ユニット58では、降雨時にフロント浄化ユニット58の充填体63中に雨水が進入し高活性炭素繊維に捕捉されている三酸化窒素と反応して硝酸を生成し、生成した硝酸は雨水に溶け込んで雨水と共に充填体63を通過しフロント浄化ユニット58から排出する。これによって、高活性炭素繊維に捕捉されていた三酸化窒素が除去されて、活性が低下した高活性炭素繊維をフロント部57にフロント浄化ユニット58を取付けた状態で容易に再生することができる。また、空気中の湿度が高い場合も、フロント浄化ユニット58内に進入した空気中の水蒸気と高活性炭素繊維に捕捉されている三酸化窒素が反応して硝酸を生成する。生成した硝酸は液化した水蒸気に溶け込んでフロント浄化ユニット58から排出することができ、フロント浄化ユニット58内の活性が低下した高活性炭素繊維をその場で容易に再生することができる。
【0032】
一方、側部浄化ユニット59では、降雨時に側部浄化ユニット59内に進入する雨水や水蒸気と高活性炭素繊維に捕捉されている三酸化窒素が反応して硝酸を生成し、生成した硝酸は雨水や液化した水蒸気に溶け込んで側部浄化ユニット59から排出する。これによって、側部浄化ユニット59内の活性が低下した高活性炭素繊維を、側部浄化ユニット59を自動車56に取付けた状態で容易に再生することができる。
また、吸気口浄化ユニット60では、降雨時に吸気口浄化ユニット60内に進入する水蒸気と高活性炭素繊維に捕捉されている三酸化窒素が反応して硝酸を生成し、生成した硝酸は液化した水蒸気に溶け込んで高活性炭素繊維から離脱する。このため、例えば、吸気口浄化ユニット60の下流側に硝酸の吸着剤を設けておくと、硝酸が自動車56のエンジン側に流入するのを防止し、活性が低下した高活性炭素繊維を吸気口浄化ユニット60内に収納した状態で容易に再生することができる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
ポリアクリロニトリルを出発原料とする高活性炭素繊維を、縦が21cm、横が29cmのケーシング内に、厚みが1.5、3、4.5、及び6cmで充填密度が0.099g/cm3となるように充填して充填体を形成し、ケーシングの両側の開口部に格子状のカバー部材を取付けて充填体の脱落を防止するようにして浄化ユニットを形成した。そして、この浄化ユニットを、一端側のカバー部材が自動車の正面側に向くように自動車の屋根に固定した。
【0034】
次いで、この自動車の正面が道路沿線に直交するように停車させ(一端側のカバー部材を道路沿線に平行になるように向けて)、道路沿線に沿って吹く自然風により、道路上の空気を浄化ユニットの一端側から他端側に向けて通過させるようにした。なお、浄化ユニットをこのような状態で道路沿線に配置することは、例えば、車道と歩道の境界に設置されたフェンスに浄化ユニットを設置する場合と実質的に同一となる。そして、浄化ユニットから排出される空気中の一酸化窒素と二酸化窒素の濃度を一定期間に渡って連続して測定すると共に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素と二酸化窒素の濃度も同時に一定期間に渡って連続して測定し、浄化率を求めた。その結果を表1に示す。また、図6(A)に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素の濃度変動(細線)と、厚さ4.5cmの充填体を有する浄化ユニットを通過させた空気中の一酸化窒素の濃度変動(太線)の関係を、図6(B)に、道路上の空気中に含まれる二酸化窒素の濃度変動(細線)と、厚さ4.5cmの充填体を有する浄化ユニットを通過させた空気中の二酸化窒素の濃度変動(太線)の関係をそれぞれ示す。
図6(A)、(B)に示されるように、浄化ユニットから排出される空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度は、道路上の空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度より低下していることが確認できた。そして、表1に示すように、風速及び風向きにより変動するが、道路上の空気中の一酸化窒素と二酸化窒素を同時に浄化できることが確認できた。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例2)
実施例1で使用した厚みが1.5、3、及び4.5cmの充填体を有する浄化ユニットを、一端側のカバー部材が自動車の正面側に向くように自動車の屋根に固定して、自動車を時速約60km/時以下で道路上を走行させ、走行風により、道路上の空気を浄化ユニットの一端側から他端側に向けて通過させるようにした。そして、浄化ユニットから排出される空気中の一酸化窒素と二酸化窒素の濃度を一定期間に渡って連続して測定すると共に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素と二酸化窒素の濃度も同時に一定期間に渡って連続して測定し、浄化率を求めた。その結果を表2に示す。また、図7(A)に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素の濃度変動(細線)と、厚さ4.5cmの充填体を有する浄化ユニットを通過させた空気中の一酸化窒素の濃度変動(太線)の関係を、図7(B)に、道路上の空気中に含まれる二酸化窒素の濃度変動(細線)と、厚さ4.5cmの充填体を有する浄化ユニットを通過させた空気中の二酸化窒素の濃度変動(太線)の関係をそれぞれ示す。
図7(A)、(B)に示されるように、浄化ユニットから排出される空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度は、道路上の空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度より低下していることが確認できた。そして、表2に示すように、走行中に道路上の空気中の一酸化窒素と二酸化窒素を同時に浄化できることが確認できた。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例3)
ポリアクリロニトリルを出発原料とする高活性炭素繊維のフェルト状の成形体(厚み8mm)を横23cm、縦50cm及び100cmの寸法に裁断してシートを作製し、シートを厚みが3mmのプラスチック製の支持板の両面に貼付してシート状物を形成した。そして、10枚のシート状物を1.5cmの隙間を設けて枠体内に平行に並べ、シート状物の支持板の長手方向の両端部を枠体に固定することにより浄化ユニットを構成した。そして、この浄化ユニットの長手方向の一端側が自動車の正面側に向くように自動車の屋根に固定した。
【0039】
次いで、この自動車の正面が道路沿線に直交するように停車させ、道路沿線に沿って吹く自然風により、道路上の空気を浄化ユニットの一端側から他端側に向けて通過させるようにした。そして、浄化ユニットの中央位置(縦が50(100)cmのシート状物の場合は一端から25(50)cmの位置)で空気中の一酸化窒素と二酸化窒素の濃度を一定期間に渡って連続して測定すると共に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素と二酸化窒素の濃度も同時に一定期間に渡って連続して測定し、浄化率を求めた。この方法は、例えば、車道と歩道の境界に設置されたフェンスに高活性炭素繊維を主体する複数のシート状物を備えた浄化ユニットを設置する場合を模擬したものである。その結果を表3に示す。表3に示すように、風速及び風向きにより変動するが、道路上の空気中の一酸化窒素と二酸化窒素を同時に浄化できることが確認できた。
【0040】
【表3】

【0041】
また、自動車を時速約60km/時以下で道路上を走行させ、走行風により、道路上の空気を浄化ユニットの一端側から他端側に向けて通過させるようにした。そして、浄化ユニットの中央位置空気中の一酸化窒素と二酸化窒素の濃度を一定期間に渡って連続して測定すると共に、道路上の空気中に含まれる一酸化窒素と二酸化窒素の濃度も同時に一定期間に渡って連続して測定し、浄化率を求めた。その結果を表3に示す。表3に示すように、走行中に道路上の空気中の一酸化窒素と二酸化窒素を同時に浄化できることが確認できた。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の窒素酸化物の除去システムを構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、第1の実施の形態では、窒素酸化物の除去システムを既設のフェンスや中央分離帯に配置した浄化ユニットで構成したが、道路の植え込み内、歩行者用陸橋の下部、及びトンネル内の側壁並びに上壁に浄化ユニットを設置することもできる。第2の実施の形態では、窒素酸化物の除去システムをフロント浄化ユニット、側部浄化ユニット、及び吸気口浄化ユニットで構成したが、各浄化ユニットのいずれか1又は2を組み合わせて構成してもよい。
また、自動車の車内に外気を吸い入れる車内吸気口に設けてもよく、これによって、車内に清浄な空気を引き込むことができる。更に、浄化ユニットは、自動車の運転や他の自動車の走行の支障にならなければ、走行風を受け入れることが可能な任意の場所に、雨水及び空気のいずれか1又は双方に曝される状態で設置することができ、例えば、トラックでは荷台の周囲や荷台の屋根に取付けることができる。
【符号の説明】
【0043】
10:窒素酸化物の除去システム、11:道路、12:中央分離帯、13:フェンス、14:自動車、15:浄化ユニット、16:充填体、17:取付け部材、18:骨組み材、19:シート、20:支持板、21:シート状物、22:隙間、23:取付け部材、24、25:骨組み材、26:浄化ユニット、27:窒素酸化物の除去システム、28:上り線、29:下り線、30:車道用浄化ユニット、31:上り線側歩道、32:上ガードフェンス、33:上歩道用浄化ユニット、34:下り線側歩道、35:下ガードフェンス、36:下歩道用浄化ユニット、37:街路樹、38:道路、39:窒素酸化物の除去システム、40:1階部分の中央分離帯、41:フェンス、42:第1分離帯用浄化ユニット、43:第2分離帯用浄化ユニット、44:道路桁、45:第1上部浄化ユニット、46:第2上部浄化ユニット、47:2階部分の中央分離帯、48:フェンス、49:第3分離帯用浄化ユニット、50:第4分離帯用浄化ユニット、51、52:防音壁、53:第3上部浄化ユニット、54:第4上部浄化ユニット、55:窒素酸化物の除去システム、56:自動車、57:フロント部、58:フロント浄化ユニット、59:側部浄化ユニット、60:吸気口浄化ユニット、61:カバー部材、62:ケーシング、63:充填体、64、65:カバー部材、66:ケーシング、67:隙間、68:シート状物、69:集塵フィルター、70:ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化ユニットが道路上を走行する自動車に搭載され、空気中に含まれる一酸化窒素及び二酸化窒素のいずれか一方又は双方を含む窒素酸化物の除去システムであって、
空気の流れる場所に、前記窒素酸化物を捕捉する高活性炭素繊維を集めた板状物を1又は2以上備えた前記浄化ユニットを、雨水に曝される状態で配置し、前記高活性炭素繊維に空気を接触させて含まれる前記窒素酸化物を酸化吸着し、酸化吸着した前記窒素酸化物を前記雨水によって硝酸と化して洗浄除去し、前記高活性炭素繊維を再生することを特徴とする窒素酸化物の除去システム。
【請求項2】
請求項1記載の窒素酸化物の除去システムにおいて、前記浄化ユニットは前記自動車のフロント部に設けられていることを特徴とする窒素酸化物の除去システム。
【請求項3】
請求項1記載の窒素酸化物の除去システムにおいて、前記浄化ユニットは前記自動車のドアに設けられていることを特徴とする窒素酸化物の除去システム。
【請求項4】
請求項1記載の窒素酸化物の除去システムにおいて、前記浄化ユニットは前記自動車のエンジンの吸気口に設けられていることを特徴とする窒素酸化物の除去システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒素酸化物の除去システムにおいて、前記高活性炭素繊維は、ピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール、及びセルロースのいずれか1を主体とする炭素含有物質を不活性ガス雰囲気中で加熱溶融して紡糸した繊維を、熱処理してから賦活処理することにより製造されることを特徴とする窒素酸化物の除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67815(P2011−67815A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242528(P2010−242528)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【分割の表示】特願2005−262317(P2005−262317)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月10日 福岡県発行の「独立行政法人環境再生保全機構委託業務 高活性炭素繊維を用いた沿道排ガス削減技術に関する調査報告書」に発表
【出願人】(504170425)独立行政法人環境再生保全機構 (2)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(000181125)
【Fターム(参考)】