説明

窒素酸化物分解の前処理方法

【課題】 炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造工程などで生じる強酸性化合物と窒素酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理するに先立って、貴金属触媒を被毒する強酸性化合物を除去し、効率よく窒素酸化物を分解する方法を提供する。
【解決手段】 強酸性化合物を含む排ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理する方法において、前記分解処理前に、金属酸化物、金属水酸化物、アンモニア、アミン類、または強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩と接触させて強酸性化合物を除去または低減することを特徴とする窒素酸化物の分解処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸性化合物(硫酸、硝酸等)が共存する窒素酸化物の分解処理に関し、特に、貴金属触媒による窒素酸化物の分解を効率的に行うための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識は非常に高く、SOX、NOXなどの酸性化合物の環境への放出は厳しく規制され、一定の効果を果たしてきた。最近では、特に、地球温暖化を抑制することが環境問題の大きな喫緊の課題になっている。
【0003】
そのため、低炭素社会を目指す動きが顕著であり、石油原料などからの炭酸ガスの発生の抑制が強く求められ、種々の試みが行われている。また、そのような炭酸ガス抑制とは別に温室効果ガスとして、炭酸ガス(CO2 )、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、代替フロン(HFC、PFC、SF6)の6種の化合物類が示されて、それらの発生を抑制することが強く求められている。
【0004】
温室効果ガスである亜酸化窒素は炭酸ガスに比較して約300倍の温暖化効果があり、窒素酸化物中に存在する亜酸化窒素の分解処理は温暖化防止の観点においても対応が強く求められている。
【0005】
亜酸化窒素の分解処理は、通常1000℃を超える温度での熱分解法や触媒を使用した化学分解法で行われるが、熱分解法は酸素が存在し、高濃度亜酸化窒素の場合などに限られ、エネルギーコストも大きいため、化学分解法が採用されることが多い。
【0006】
窒素酸化物を化学分解法で処理する場合、通常貴金属触媒が使用されるが、高価であるため、工業プロセスにて発生する窒素酸化物を含む排ガスの処理では貴金属触媒の寿命を延ばすことが極めて重要である。
しかしながら、工業プロセスにて発生する窒素酸化物を含む排ガス中に、硫酸、硝酸、あるいはこれらに由来する強酸性化合物などが存在すると触媒の寿命が低下する。触媒寿命の低下は、例えば排ガス中の硫酸ミストの濃度が数ppm(本明細書においては特に記載がない限り、「ppm」は「体積ppm」を表す。)程度で顕著に認められる。
【0007】
工業プロセスにて発生する排ガス中の強酸性化合物を除去する典型的技術として排煙脱硫法が知られている。例えば、特開2002−35546号公報(特許文献1)には、SO3成分を含むガス中のSO3に由来する硫酸ミストを、粒子径が20μm以下の炭酸水素ナトリウム粉末と炭酸水素ナトリウム粉末の固結防止剤を添加して中和処理する技術が開示されているが、実施例レベルでは炭酸水素ナトリウムによる中和処理後のSO3濃度は、最良の場合でも2ppmあり、本発明の意図する強酸性化合物の除去後に続く亜酸化窒素の分解処理工程における触媒寿命の延長に使用できる技術ではない。特許文献1の技術では、炭酸水素ナトリウム粉末またはその中和反応物も本発明で使用する亜酸化窒素分解触媒の寿命に悪影響をもたらすことは明白である。
【0008】
特開平5−200283号公報(特許文献2)には、道路トンネル等の排気ガス中に含有される低濃度のNOXとSOXとをアナターザ型チタニアを用いて同時に除去する方法が開示されているが、約3ppmのNOX及び0.5〜1ppmのSOXというごく低濃度のNOXとSOXを除去する方法であり、本発明が意図する比較的高濃度の強酸性化合物及び亜酸化窒素を除去する方法には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−35546号公報
【特許文献2】特開平5−200283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
窒素酸化物の分解処理に関しては、多くの報告が見られ、亜酸化窒素の分解処理に関しても検討は続けられてきた。病院で麻酔ガスとして使用される亜酸化窒素の分解処理については実用化され、稼働している。しかしながら、含窒素有機化合物などを工業生産する過程で発生する窒素酸化物中の亜酸化窒素の分解処理は実用化に至っていない。その原因については明確でないが、工業生産段階で発生する窒素酸化物中に触媒の被毒をもたらす条件があることが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の課題は、炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造工程等で生じる強酸性化合物と窒素酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理するに先立って、貴金属触媒を被毒する強酸性化合物を予め除去した後、窒素酸化物を分解処理する方法を提供することにある。
【0012】
炭化水素化合物への窒素原子の導入反応では、一般に窒素化合物が反応剤として使用されるが、窒素化合物中に亜酸化窒素等の窒素酸化物が含有していたり、反応工程で窒素化合物から窒素酸化物が生じたりする。
【0013】
含窒素有機化合物としては、ポリアミド−6の原料モノマーであるε−カプロラクタム、ポリアミド−12の原料モノマーであるラウロラクタムなどのラクラム類、アミド類、アミン類、ニトロ化合物類などが挙げられるが、本発明の方法が対象となる好適な例は、ε−カプロラクタム、ラウロラクタムなどのラクラム類の製造工程で生じる排ガスである。
【0014】
例えば、ポリアミド−6の原料であるε−カプロラクタムは、シクロヘキサノンオキシムのベックマン(Beckmann)転位によって製造される。シクロヘキサノンオキシムの製造方法としては、例えば、シクロヘキサノンをヒドロキシルアミンで直接オキシム化する方法、あるいはシクロヘキサンを光照射下で塩化ニトロシル(NOCl)と反応させてオキシムを得る方法等が知られている。これらのオキシムを得る工程、ヒドロキシルアミンを得る工程、HClを硫酸ニトロシルに作用させて塩化ニトロシルを製造する工程等で亜酸化窒素などの窒素酸化物が副生する。オキシムは、またシクロヘキサンに硝酸を用いて液相で、または二酸化窒素を用いて気相でニトロ化を行い、次いで接触水素化して得られるが、この場合も亜酸化窒素などの窒素酸化物の副生は避けられない。ベックマン(Beckmann)転位では、硫酸または発煙硫酸を使用する。従って、排出される亜酸化窒素を含む窒素酸化物を含むガス中にSO3や硫酸ミストの随伴は避けられず、窒素酸化物の分解処理時に使用する前記の触媒被毒の問題が生じる。
【0015】
このように、含窒素有機化合物の製造工程から排出されるガス中には、亜酸化窒素などの窒素酸化物が含まれ、この亜酸化窒素等の窒素酸化物の分解、除去は地球の温暖化防止、環境保護の観点から重要である。
しかし、従来、亜酸化窒素ガスを効果的に分解、除去する触媒として知られている貴金属担持触媒系による亜酸化窒素分解、除害方法では、触媒の被毒のため十分な効果が得られなかった。
【0016】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、上記排ガス中に亜酸化窒素などの窒素酸化物と共存するSO3や硫酸ミストを一定濃度以下に低減する前処理工程を実施した後に、貴金属担持触媒系による亜酸化窒素の分解処理する工程を行うことによって、貴金属触媒による窒素酸化物の分解除去を効率的に行えることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の1〜10の窒素酸化物の分解処理方法を提供する。
1.強酸性化合物を含む排ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理する方法において、前記分解処理前に強酸性化合物除去材と接触させて強酸性化合物を除去または低減することを特徴とする窒素酸化物の分解処理方法。
2.強酸性化合物除去材が、金属酸化物、金属水酸化物、アンモニア、アミン類、または強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩である前項1に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
3.貴金属触媒が、白金、パラジウム、ロジウム、オスニウム、ルテニウム及びイリジウムから選択される白金系貴金属の担体担持型触媒である前項1または2に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
4.前記酸基がリン酸基または炭酸基である前項2に記載の窒素酸化物の分解処理方法。5.排ガスが、炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造工程で生じる排ガスである前項1〜4のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
6.炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造反応が、シクロヘキサノンオキシムの製造工程とシクロヘキサノンオキシムを硫酸を用いてベックマン(Beckmann)転位する工程を含むε−カプロラクタムの製造反応、またはシクロドデカノンオキシムの製造工程とシクロドデカノンオキシムを硫酸を用いてベックマン(Beckmann)転位する工程を含むラウロラクタムの製造反応である前項5に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
7.強酸性化合物が硫酸または硝酸である前項1〜6のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
8.排ガス中に10ppm〜1000ppmの濃度で含まれる強酸性化合物を、0.1ppm以下の濃度まで除去または低減した後、窒素酸化物を分解処理する前項1〜7のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
9.窒素酸化物が亜酸化窒素である前項1〜9のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
10.排ガス中に含まれる窒素酸化物が亜酸化窒素であり、亜酸化窒素をその含有濃度の0.01〜1%まで分解処理する前項1〜9のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、硫酸、硝酸などの強酸性化合物が共存する排ガス中の窒素酸化物を、貴金属触媒を用いて分解処理する方法において、強酸性化合物除去材と接触させる前処理工程により強酸性化合物を除去または低減した後、窒素酸化物を分解処理する方法を提供したものである。本発明によれば、窒素酸化物分解触媒の寿命が延長され、含窒素有機化合物などの工業生産過程で発生する窒素酸化物中の亜酸化窒素を効率的に分解除去でき、地球の温暖化防止、環境保護上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で分解除去する対象となる排ガス中の窒素酸化物は、含窒素有機化合物等の工業生産段階において発生するNO(一酸化窒素)、NO2(二酸化窒素)、亜酸化窒素(N2O)、N23(三酸化二窒素)、N24(四酸化二窒素)、N25(五酸化二窒素)等であり、とりわけ温室効果ガスとして指定されている亜酸化窒素である。
【0020】
含窒素有機化合物等の工業的生産工程は特に限定されないが、例えばアンモニアの酸化反応、アジポニトリルの強酸性化合物による酸化反応、ケト型のオキシムの強酸性化合物によるベックマン転移反応などが挙げられる。これらの生産工程で発生する強酸性化合物が共存する窒素酸化物、特に亜酸化窒素が対象となる。
【0021】
上述するアジポニトリルの酸化反応やベックマン転移によるケト型のオキシムからの環状アミド化合物の製造時には、硫酸が使用され、それらが完全には捕捉されずに窒素酸化物に同伴されて排出される。
本発明でいう強酸性化合物とは硝酸、硫酸もしくはそれらに由来する化合物を指す。
【0022】
本発明で使用する強酸化性化合物の除去材は、金属酸化物、金属水酸化物、アンモニア、アミン類、または強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩から選ばれる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中でも強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩が好ましい。
【0023】
本発明において、窒素酸化物の分解処理に使用される貴金属触媒は、白金系貴金属であり、具体的には、白金、パラジウム、ロジウム、オスニウム、ルテニウム、イリジウムが挙げられ、白金、パラジウム、ロジウムが使用される。
【0024】
これらの貴金属触媒は、特に担体担持型が好適である。使用される担体の具体例としては、シリカ、アルミナ、ゼオライトが挙げられる。また、アルミナにはマグネシウム、亜鉛、鉄、コバルトなどの金属を導入したものも有効である。
【0025】
貴金属触媒を用いた窒素酸化物の分解処理は、通常200〜750℃の温度で行われ、400〜600℃の温度が好ましい。
【0026】
また、本発明でいう前記弱酸性の酸化合物の酸基とは、リン酸及び炭酸に由来する酸基である。これらからなる空気中で安定な塩の具体例としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸塩、及び炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウムなどの炭酸塩が挙げられる。
【0027】
さらに、金属酸化物または金属水酸化物を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどが挙げられる。また、ゼオライトのような複合金属塩も好ましい。
【0028】
アンモニアガスや炭素数1〜3のアルキル基が1〜3個置換したアミン類も使用できる。上述の炭酸塩、リン酸塩、金属酸化物、金属水酸化物は水和されていてもよく、また、1種に限定されることなく、複数使用することもできる。実際、使用するガスによっては、炭酸塩、リン酸塩、金属酸化物、金属水酸化物、アンモニア、アミン類を適宜組み合わせて使用することが好ましいことがある。
【0029】
本発明により、貴金属触媒を使用する分解処理前に予め強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩で処理すると強酸性化合物により塩が分解することがあり、その際、炭酸塩の場合には炭酸ガスが発生することがある。本発明の目的である地球温暖化抑制の見地からは、ホタテ貝などの貝殻またはそれに由来するものを使用することが好ましい。使用できる貝殻は特に限定されないが、ホタテのほか、カキ、アサリ、シジミ、イガイなどを例示できる。
【0030】
分解処理に先立つ本発明でいう安定な化合物と排ガスとの接触は、通常粉末状の安定な化合物を用いて行われ、安定な化合物を多孔状の形状にしたり、粒子径を調整したりして、カラムに充てんした際のガスの圧力損失を制御し、接触頻度を制御する。そのためには、一般的には、5mm〜15mm程度の大きさとして使用する。
【0031】
また、本発明でいう安定な化合物は、溶媒を使用して溶液または懸濁液としてガスと接触させることも可能である。特に、多量の水とともに使用することが好ましい。カラムに微量の水を常時流し、安定な化合物の表面を湿らせた状態でガスを流通させることは非常に有効である。これは、水に吸収されたガス成分が該安定な化合物と有効に接触し、更に常に該安定な化合物の新しい表面が出来ることによると思われる。
【0032】
なお、上記の水を使用して強酸性化合物の除去を図る際には、次工程(窒素酸化物分解処理工程)で使用する貴金属触媒に与える水(水蒸気)の影響を避けるために、水温を高くとも15℃、好ましくは高くとも10℃、特に好ましくは5℃を越えないようにすることが好ましい。
【0033】
水温の制御が充分にできない場合は、シリカゲル、ゼオライト、アルミナのような吸水剤と接触させて乾燥することが望ましい。
【0034】
本発明で窒素酸化物を分解除去する対象となる排ガス中の強酸性化合物の濃度には特に制限はないが、10〜1000ppmが好ましく、特に50〜200ppmが好ましい。除去材等と接触させることによって、強酸性化合物を0.1ppm以下に除去または低減させることが好ましく、0.01ppm以下に除去または削減させることが特に好ましい。 なお、本発明において、ガス中の強酸性化合物の濃度の測定は、100ppm以下の低濃度の場合にはイオンクロマトグラフ法、100ppmを超える高濃度領域では中和滴定法を使用して行うことができる。具体的な方法は、一般的な化学実験操作法に準じて行うことができる。例えば、硫黄酸化物の測定の場合、JIS K0103に従って測定される。
【0035】
前処理により強酸性化合物を除去または低減した排ガス中の亜酸化窒素を含む窒素酸化物を従来知られている貴金属触媒を用いる方法により分解処理する。
本発明の方法によれば排ガスに含まれる亜酸化窒素をその含有濃度の0.01〜1%まで分解処理することが出来る(含有濃度範囲要確認)。
【実施例】
【0036】
以下、触媒調製例、強酸性化合物除去材である安定な化合物例、実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0037】
触媒調製例1:
21.4%硝酸ロジウム水溶液1.32gに1.84gの蒸留水を混合し、シリカ担体22.04gを加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を、空気中110℃で12時間乾燥させた後、空気中650℃で2時間焼成処理して、ロジウムを5質量%担持した触媒を得た。
【0038】
触媒調製例2:
硝酸亜鉛0.208g及び硝酸アルミニウム0.54gを蒸留水4.94gに溶解し、シリカ担体4.0gを加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を空気中110℃で12時間乾燥させた後、空気中650℃で3時間焼成処理して、スピネル型結晶性複合酸化物シリカ触媒前駆体を得た。21.4%硝酸ロジウム水溶液2.59gに2.35gの蒸留水を混合し、前記前駆体を加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を、空気中120℃で12時間乾燥させた後、空気中400℃で3時間水素還元を行い、ロジウムを5質量%担持した触媒を得た。
【0039】
触媒調製例3:
シリカ担体の代わりにシリカアルミナ担体4.0gを用いたこと以外は実施例2と同様にしてロジウムを5質量%を担持した触媒を得た。
【0040】
安定な化合物例1:
熱乾燥後、粉砕したホタテ貝殻(平均サイズ3mm)をガラス管に充填し、両端をガラスフィルターで押えた。充填カラムは、後述の実施例で通す排ガスの平均滞留時間が5秒となるように調整した。
【0041】
安定な化合物例2:
酸化マグネシウム水和物(平均粒径4mm)をガラスに充填し、両端をガラスフィルターで押えた。充填カラムは後述の実施例で通す排ガスの平均滞留時間が5秒となるように調整した。
【0042】
安定な化合物例3:
プラスチック製充填材を縦型カラムに充填し、下端を該充填材が落下しないメッシュの樹脂フィルターで押え、カラムに水酸化ナトリウム水溶液(0.05N)を流した。充填カラムを後述の実施例で通す排ガスの平均滞留時間が5秒となるように調整した。
【0043】
実施例1:
触媒調製例1で得られた触媒を42〜80メッシュに整粒した後、石英反応管に充填し、反応器とした。空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でN2O/O2/He=5/5/90の混合ガスに硫酸ミストを150ppmになるように混合した反応ガスを、安定な化合物例1をセットした所に通し、硫酸ミストを0.1ppm以下にした後、電気炉に入れて反応温度を400℃にセットした反応器に供給した。20日間の連続運転後の反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.2%であった。
【0044】
実施例2:
触媒調製例2で得られた触媒及び安定な化合物例2を実施例1と同様にして以下のように実施した。すなわち、空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でN2O/O2/He=5/5/90の混合ガスに硫酸ミストを100ppmになるように混合した反応ガスを安定な化合物例2をセットした所に通し、硫酸ミストを0.1ppm以下にした後、電気炉に入れて反応温度を400℃にセットした反応器に供給した。20日間の連続運転後の反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.3%であった。
【0045】
実施例3:
触媒調製例3及び安定な化合物例3で得られた触媒を実施例1と同様にして以下のように実施した。すなわち、空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でN2O/O2/He=0.5/0.5/99の混合ガスに硫酸ミストを50ppmになるように混合した反応ガスを安定な化合物例3をセットした所に通し、硫酸ミストを0.1ppm以下にした後、電気炉に入れて反応温度を400℃にセットした反応器に供給した。20日間の連続運転後の反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.1%であった。
【0046】
実施例4:
触媒調製例3及び安定な化合物例3で得られた触媒を実施例1と同様にして以下のように実施した。すなわち、空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でN2O/O2/He=5/5/90の混合ガスに60%濃度硝酸水を80ppmになるように混合した反応ガスを安定な化合物例3をセットした所に通し、硫酸ミストを0.1ppm以下にした後、電気炉に入れて反応温度を400℃にセットした反応器に供給した。20日間の連続運転後の反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.05%であった。
【0047】
比較例1:
実施例1において、安定な化合物例1を使用しなかったこと以外は同様にして20日間の連続運転後の反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の78%であった。
【0048】
比較例2:
実施例2において、安定な化合物例2を使用しなかったこと以外は同様にして反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、20日間の連続運転後の反応器の出口濃度は入口濃度の88%であった。
【0049】
比較例3:
実施例3において、安定な化合物例3を使用しなかったこと以外は同様にして反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、20日間の連続運転後の反応器の出口濃度は入口濃度の78%であった。
【0050】
比較例4:
実施例4において、安定な化合物例3を使用しなかったこと以外は同様にして反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、20日間の連続運転後の反応器の出口濃度は入口濃度の70%であった。
【0051】
以上の実施例1〜4及び比較例1〜4の結果より、ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理するに先立って、ガス中の強酸性化合物を除去した本発明の実施例では比較例に比べて、効果的に窒素酸化物が分解除去されていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸性化合物を含む排ガス中の窒素酸化物を貴金属触媒を用いて分解処理する方法において、前記分解処理前に強酸性化合物除去材と接触させて強酸性化合物を除去または低減することを特徴とする窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項2】
強酸性化合物除去材が、金属酸化物、金属水酸化物、アンモニア、アミン類、または強酸性化合物より弱酸性の酸化合物の酸基を有する空気中で安定な塩である請求項1に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項3】
貴金属触媒が、白金、パラジウム、ロジウム、オスニウム、ルテニウム及びイリジウムから選択される白金系貴金属の担体担持型触媒である請求項1または2に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項4】
前記酸基がリン酸基または炭酸基である請求項2に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項5】
排ガスが、炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造工程で生じる排ガスである請求項1〜4のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項6】
炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造反応が、シクロヘキサノンオキシムの製造工程とシクロヘキサノンオキシムを硫酸を用いてベックマン(Beckmann)転位する工程を含むε−カプロラクタムの製造反応、またはシクロドデカノンオキシムの製造工程とシクロドデカノンオキシムを硫酸を用いてベックマン(Beckmann)転位する工程を含むラウロラクタムの製造反応である前項5に記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項7】
強酸性化合物が硫酸または硝酸である請求項1〜6のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項8】
排ガス中に10ppm〜1000ppmの濃度で含まれる強酸性化合物を、0.1ppm以下の濃度まで除去または低減した後、窒素酸化物を分解処理する請求項1〜7のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項9】
窒素酸化物が亜酸化窒素である請求項1〜9のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。
【請求項10】
排ガス中に含まれる窒素酸化物が亜酸化窒素であり、亜酸化窒素をその含有濃度の0.01〜1%まで分解処理する請求項1〜9のいずれかに記載の窒素酸化物の分解処理方法。

【公開番号】特開2010−247130(P2010−247130A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102340(P2009−102340)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】