説明

窯業系建材およびその製造方法

【課題】 優れた強度を有し、かつ充分な耐候性を有する、窯業系建材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する窯業系建材であって、該薄膜が:アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は窯業系建材およびその製造方法に関し、より詳細には、優れた強度および耐候性を有する、窯業系建材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】住宅を含む種々の建築物の分野において、窯業タイル、煉瓦および瓦のような窯業系建材の使用は必須である。これら窯業系建材は、主に屋根、外壁および門のような建築物の外装に使用される。
【0003】窯業系建材は、一般に重くかつ落下等の衝撃を付加すると容易に欠ける、割れるなどの破損を伴う傾向にある。そのため、一枚辺りの大きさにある程度の制限が加えられている。
【0004】このような窯業系建材には、粘土質の材料が使用されている。しかし、これら材料は、一般に密度が高いため重く、落下等の衝撃を付加すると容易に欠ける、割れるなどの破損を伴う恐れがある。そのため、当該建材の一枚辺りの大きさには、ある程度の制限が付加される。
【0005】このような強度上の問題を解決するために、近年、様々な方法が開発されている。
【0006】例えば、窯業系建材に補強リブを取り付ける手段、および微粉末の金属酸化物を用いた強化剤等の添加剤を加えて混合する手段が挙げられる。しかし、これら手段においては、製造コストが高くなる点および当該建材自体の自重が増し、落下等の衝撃に対し、必ずしも充分な強度を維持できない恐れもある。
【0007】さらに、これら窯業系建材は、長年風雨に曝されることにより、その表面が風化により侵食され、所望の外観を保つことが難しいという問題もある。
【0008】
【本発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、落下等の外力による衝撃に対し、ひび割れおよび破損の問題を回避する、優れた強度を有し、かつ長年の風雨の曝露による侵食の可能性を回避し得る充分な耐候性を有する、窯業系建材およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する窯業系建材であって、該薄膜が:アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される、組成物由来の膜であり;酸化ジルコニウムとジルコニウム以外の金属の酸化物との固溶体でなり;そして該ジルコニウム以外の金属の酸化物が該固溶体の成分として、2モル%〜30モル%の割合で含有される、窯業系建材である。
【0010】1つの実施形態においては、上記ジルコニウム化合物は、ジルコニウムアルコキシド、および有機酸または無機酸のジルコニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0011】1つの実施態様においては、上記組成物は、上記ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを極性溶媒中に含有する液状の組成物である。
【0012】1つの実施態様においては、上記ジルコニウム以外の金属成分は、Y、Mg、Ca、Sc、CeまたはSrを含む化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0013】本発明はまた、窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する窯業系建材の製造方法であって、アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される、組成物を窯業系基材具に付与し、塗膜を形成する工程;および該窯業系基材上に形成された塗膜の組成物を結晶化させることにより、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を形成する工程;を包含する、方法である。
【0014】1つの実施形態においては、上記組成物がスピンコート法、ディップコート法、またはスプレーコート法により上記窯業系基材上に付与される。
【0015】1つの実施形態においては、上記結晶化は、上記塗膜を有する上記窯業系基材を熱処理、光処理、または化学的処理することにより行われる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳述する。
【0017】本発明の窯業系建材は、窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する。
【0018】本発明に用いられる窯業系基材は、粘土等を焼成してなるセラミック材料であって、タイル、煉瓦または瓦の形状に予め成形されたものである。なお、すでに市販されている窯業タイル、煉瓦および/または瓦を窯業系基材としてそのまま使用してもよい。
【0019】本発明においては、上記窯業系基材の表面に、金属酸化物膜が形成されている。ここで、基材の表面とは、当該基材の外表面全体を指していう。
【0020】金属酸化物膜の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10nm〜300nm、より好ましくは40nm〜140nmである。金属酸化物膜の厚みが10nmを下回ると、得られる窯業系建材は、衝撃等に対する強度が劣り、容易にひび割れおよび破壊しやすく、かつ充分な耐候性を有さない恐れがある。他方、金属酸化物膜の厚みが300nmを上回ると、窯業系建材の製造コストが上昇することに加え、窯業系建材において虹彩が著しくなる場合があり、窯業系建材特有の風合いを喪失させる恐れがある。
【0021】本発明に用いられる金属酸化物膜は、アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される、組成物から製造される。
【0022】上記組成物に含有されるジルコニウム成分は、アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩と、アミンとの塩である。
【0023】上記アミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、1,2−プロパンジアミン四酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、N,N’−ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシエチルイミノ二酢酸、カルボキシエチルイミノ二プロピオン酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸、アラニン−N,N−二酢酸、セリン−N,N−二酢酸、イソセリン−N,N−二酢酸、アスパラギン酸−N,N−二酢酸、グルタミン酸−N,N−二酢酸などが挙げられるが、これに限定されない。
【0024】上記ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムアルコキシド、および有機酸または無機酸のジルコニウム塩が好ましい。これらのうちジルコニウムアルコキシドとしては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ-sec-ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウムなどが挙げられ、有機酸または無機酸のジルコニウム塩としては、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、ステアリン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム八水和物、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム四水和物、オキシ酢酸ジルコニウムなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0025】上記アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ぺンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、アミルアミン、ジアミルアミン、ジブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−ter−ブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ベンジルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン、アミノピリジン、ジメチルアミノピリジンなどが挙げられるがこれらに限定されない。これらは単独で用いてもよく、2以上を組合せて用いてもよい。
【0026】上記組成物に含有されるジルコニウム以外の金属成分は、ジルコニウム以外の金属を含む化合物(以下、他の金属化合物という場合がある)である。そのような化合物に含有される金属としては、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、ストロンチウム(Sr)などがある。このような金属を含むアルコキシド、カルボン酸塩などが好ましく用いられる。そのような化合物としては、トリメトキシイットリウム、トリエトキシイットリウム、トリ−イソプロポキシイットリウム、炭酸イットリウム、酢酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジイソプロポキシマグネシウム、ジイソブトキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、ジメトキシカルシウム、ジエトキシカルシウム、ジイソプロポキシカルシウム、ジプロポキシカルシウム、ジイソブトキシカルシウム、ジ−sec−ブトキシカルシウム、ジ−t−ブトキシカルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸スカンジウム、水酸化スカンジウム、炭酸セリウム、シュウ酸セリウム、ジメトキシストロンチウム、ジエトキシストロンチウム、ジイソプロポキシストロンチウム、ジ−n−ブトキシストロンチウム、炭酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】本発明に用いられる組成物は、好ましくは、上記ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを極性溶媒中に含有する液状の組成物である。上記ジルコニウム成分であるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩は、上記アミノポリカルボン酸、ジルコニウム化合物、およびアミンにより形成される。上記液状の組成物は、具体的には、上記アミノポリカルボン酸、ジルコニウム化合物、およびアミンを極性溶媒中で加熱することによって得た溶液(ジルコニウム成分の溶液)と、ジルコニウム以外の金属化合物とを混合することによって得られる。あるいは、ジルコニウム以外の金属化合物を、アミノポリカルボン酸とアミンとともに極性溶媒中で加熱して得た溶液とジルコニウム成分の溶液とを混合することも好ましい。あるいは、ジルコニウム以外の金属化合物とアミノポリカルボン酸との反応よって、該金属の錯体または塩を形成してこれを単離し、該錯体または塩とアミンとを極性溶媒中で加熱することにより得た溶液を使用してもよい。必要に応じて、これらの溶液には酸化剤が加えられる。
【0028】上記極性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、水などが好適に用いられるが、これらに限定されない。これらの極性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上組合せて用いてもよい。このような極性溶媒中に上記成分を含有する組成物は、好ましくは透明である。
【0029】本発明に用いられる組成物中には、ジルコニウム成分が、該組成物の全金属成分のうち、70モル%〜98モル%(酸化ジルコニウム換算)の割合で、そしてジルコニウム以外の金属成分が2モル%〜30モル%(該金属の酸化物換算)の割合で含有される。このような割合で上記成分が含有されると、この組成物由来の金属酸化物薄膜を調製したときに、該薄膜は酸化ジルコニウムとジルコニウム以外の金属の酸化物との固溶体で形成され、各成分は上記の割合で固溶体の成分として薄膜中に含有されることとなる。
【0030】ジルコニウム以外の金属成分の量が過剰であると、形成された薄膜中に、ジルコニウム以外の金属の酸化物が固溶体を形成していない状態で混在するようになる。このような薄膜を有する基材は、強度、耐候性、化学的安定性および熱安定性に劣る。
【0031】上記組成物には必要に応じて、過酸化水素、オゾンなどの酸化剤が添加されていてもよい。
【0032】本発明の窯業系建材は、以下のようにして製造される。
【0033】まず、上記窯業系基材に、上記組成物を含む極性溶媒溶液が付与(塗布)される。塗布の方法に制限はなく、当業者が金属酸化物薄膜を製造するに際して、基材の形態、形状に応じて適宜選択して用いる塗布方法、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等を用いて塗布される。
【0034】次いで、上記組成物が付与された窯業系基材を熱処理、光処理、化学的処理などにより処理することにより、該組成物の結晶化が進行する。そのことにより、基材の表面に酸化ジルコニウムを主成分とする金属酸化物薄膜が形成される。これらの処理は単独で行ってもよいし、2以上を組合せて行ってもよい。
【0035】上記熱処理とは、有機物が燃焼する温度以上の熱を与える処理である。好ましくは、一般的には、約400℃〜1200℃の熱処理であり、使用する基材の耐熱温度以下で処理を行う。
【0036】光処理とは、レーザー照射、紫外線照射等の処理であり、基材の耐熱温度に左右されない処理方法である。
【0037】化学的処理とは、酸または塩基による処理、および水蒸気による処理を含み、比較的低い処理温度で処理する方法である。
【0038】上記結晶化方法は、例示であり、これらに限定されるものではない。
【0039】このようにして窯業系基材に形成される上記金属酸化物薄膜は、主として酸化ジルコニウムで構成され、ジルコニウム以外の金属の酸化物が2モル%〜30モル%の割合で含有される固溶体でなる。このような薄膜は結晶構造が安定化されているため、本発明の窯業系建材は強度および耐候性のいずれにおいても優れている。
【0040】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0041】(製造例1)
アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物から形成される金属錯体とアミンとの塩を含む溶液(ジルコニアプレカーサー)の調製100ml四ツ口フラスコにエタノール53.03gおよびニトリロ三酢酸4.65gを仕込み、攪拌しながらジルコニウム−n−ブトキシド(純度87%)10.74gを滴下した。続いて、ブチルアミン3.56gを滴下し、還流温度で1時間反応を行った。そして 40℃まで冷却後、30%過酸化水素水3.04gを滴下し、還流温度で1時間反応を行うことにより表題の塩を含む赤橙色透明溶液(ジルコニアプレカーサー)を得た。
【0042】このジルコニアプレカーサー中におけるジルコニウム(Zr)含量は2.96重量%であった。
【0043】(製造例2)
ジルコニウム以外の金属(カルシウム)化合物およびアミノポリカルボン酸の錯体とアミンとの塩(カルシアプレカーサー(A))の調製(1)500ml四ツ口フラスコにイオン交換水300gを入れ、75〜80℃に加熱した。続いて、エチレンジアミン四酢酸6.31gを加えた後、酢酸カルシウム1水和物3.81gをゆっくりと加えた。酢酸カルシウム投入により溶解が進み、しばらくすると無色透明となった。75〜80℃で1時間攪拌した後、エタノール25gをゆっくりと加え、室温まで放冷した。そして析出した白色の固体をろ取し、イオン交換水10gおよびエタノール5gで順次洗浄し、40℃の送風乾燥機で乾燥することにより、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二水和物を得た。収量6.03g。
【0044】(2)100ml四ツ口フラスコに(1)項で得たエチレンジアミン四酢酸カルシウム二水和物5.13gとエタノール62.72gとを入れ、攪拌しながらブチルアミン2.15gを加えた。そして、還流温度で6時間攪拌することにより無色透明溶液を得た。このようにして得られたカルシアプレカーサーのICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)を行ったところ、該プレカーサー中におけるカルシウム(Ca)含量は0.80重量%であった。このカルシアプレカーサー(A)は室温で1年間保管したが、安定であった。
【0045】(製造例3)
カルシアプレカーサー(B)の調製100ml四ツ口フラスコに製造例2(1)項で得たエチレンジアミン四酢酸カルシウム二水和物7.7gとエタノール31.1gとを入れ、攪拌しながらブチルアミン3.2gを加えた。そして、還流温度で4時間攪拌することによりカルシアプレカーサー(B)を得た。このようにして得られたカルシアプレカーサーのICP発光分析を行ったところ、該プレカーサー中におけるカルシウム(Ca)含量は1.43重量%であった。このカルシアプレカーサー(B)は室温で1年間保管したが、安定であった。
【0046】(製造例4)
マグネシアプレカーサーの調製100ml四ツ口フラスコに、エタノール58.5g、ニトリロ三酢酸7.1g、およびマグネシウムエトキシド4.2gを入れ、攪拌しながらジブチルアミン4.8gを加えた。これを還流温度で4時間攪拌することによりマグネシアプレカーサーを得た。このようにして得られたマグネシアプレカーサーのICP発光分析を行ったところ、該プレカーサー中におけるマグネシウム(Mg)含量は1.27重量%であった。このマグネシアプレカーサーは室温で1年間保管したが、安定であった。
【0047】(製造例5)
ストロンチアプレカーサーの調製(1)Sr−EDTA塩の合成500ml四ツ口フラスコにイオン交換水250gを入れ、80℃に加熱し、酢酸ストロンチウム0.5水和物6.5gを攪拌しながら加えて透明な溶液を得た。次いで、エチレンジアミン四酢酸8.8gを加えて80℃で1時間攪拌した後、エバポレーターを用いて濃縮し、析出した結晶を濾取した。このようにして得られた結晶をエタノールで洗浄後乾燥することにより、11.0gのエチレンジアミン四酢酸ストロンチウム塩を得た。
【0048】(2)ストロンチアプレカーサーの合成50mlナス型フラスコに、(1)項で得たエチレンジアミン四酢酸ストロンチウム塩3.45gおよびメタノール4.0gを入れ、攪拌しながらブチルアミン1.23gを加えた。そして、2時間還流することにより透明溶液を得た。このようにして得られたストロンチアプレカーサーのICP発光分析を行ったところ、該プレカーサー中におけるストロンチウム(Sr)含量は6.26重量%であった。このストロンチアプレカーサーは室温で1年間保管したが、安定であった。
【0049】(比較製造例1)
ゾルゲル法ジルコニアゾルの製造100ml四ツ口フラスコにエタノール80.09gを入れ、攪拌しながらジルコニウム−n−ブトキシド(87%)8.35gを滴下した後、60%硝酸0.52gとイオン交換水0.39gとの混合物を室温で滴下した。そして、室温で2時間かき混ぜることによりジルコニアゾルを得た。ゾル中のジルコニウム(Zr)含量は1.93重量%であった。この溶液を室温で1日保管すると乳白色溶液となり、3日後には沈殿が生じた。
【0050】(比較製造例2)
カルシアゾルの製造30mlナス型フラスコにエタノール7.54g、酢酸カルシウム1水和物0.149gを入れ、攪拌しながら60%硝酸0.12gを滴下した。室温で1時間かき混ぜることにより無色透明なカルシアゾルを得た。ゾル中のカルシウム(Ca)含量は0.44重量%であった。
【0051】(実施例1)上記製造例1および3で調製したジルコニアプレカーサー10.000gおよびカルシアプレカーサー(B)0.685gを混合して、塗布液を調製する。
【0052】次いで、この塗布液を寸法100mm×100mm×5mmの窯業系タイル基材上にディップコート法で塗布し、毎分10℃の昇温速度で100℃から800℃まで昇温し、800℃で15分間焼成する。これにより基材が酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜でコートされた窯業系タイルを製造する。
【0053】(実施例2〜4)上記製造例1で調製したジルコニアプレカーサーおよび製造例2〜5で調製したカルシアプレカーサー(A)および(B)、マグネシアプレカーサー、およびストロンチアプレカーサーのうちのいずれかを表1に記載の割合で混合して、塗布液を調製する。以下、実施例1に準じて操作し、表1に示す基材上に塗布液を塗布し、表1に示す焼成温度および時間で焼成し、該基材が酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜でコートされた窯業系タイルを製造する。
【0054】(比較例1)上記調製した、ジルコニウム溶液(比較用塗布液1)、およびカルシウム溶液(比較用塗布液2)を、表1に記載の割合で混合して、塗布液を調製する。以下、実施例1に準じて操作し、窯業系タイル基材上に塗布液を塗布し、表1に示す焼成温度および時間で焼成し、該基材が酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜でコートされた窯業系タイルを製造する。
【0055】実施例1〜4の窯業系タイルおよび比較例1の窯業系タイルについて、耐酸性試験および耐アルカリ性試験を以下のようにして行う。
【0056】(1)耐酸試験:得られた部材を30℃の1規定の硫酸水溶液に浸積して、その外観を観察し、以下の基準で評価する。
○:膜剥離なし。
△:膜浮きあり。
×:膜剥離あり。
(2)耐アルカリ試験:得られた部材を30℃の1規定の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、その外観を観察し、以下の基準で評価する。
○:膜剥離なし。
△:膜浮きあり。
×:膜剥離あり。
【0057】
【表1】


【0058】上記耐酸性試験および耐アルカリ性試験の結果、実施例1〜4の窯業系タイルは、いずれも比較例1の窯業系タイルと比較して優れた耐薬品性を有することが示される。これにより、本発明の窯業系建材は優れた耐候性および耐候性によって本発明の窯業系建材は優れた強度を有することが期待できる。
【0059】
【発明の効果】本発明によれば、優れた強度および耐候性を提供する。本発明の窯業系建材は、落下等の衝撃付与に対し、ひび割れおよび破損の可能性を低減し、風雨の曝露に対しても侵食の可能性を回避し得る。これにより、当該建材の外観は維持され、使用寿命を延ばすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する窯業系建材であって、該薄膜が:アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される、組成物由来の膜であり;酸化ジルコニウムとジルコニウム以外の金属の酸化物との固溶体でなり;そして該ジルコニウム以外の金属の酸化物が該固溶体の成分として、2モル%〜30モル%の割合で含有される、窯業系建材。
【請求項2】 前記ジルコニウム化合物が、ジルコニウムアルコキシド、および有機酸または無機酸のジルコニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の窯業系建材。
【請求項3】 前記組成物が、前記ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを極性溶媒中に含有する液状の組成物である、請求項1または2に記載の窯業系建材。
【請求項4】 前記ジルコニウム以外の金属成分が、Y、Mg、Ca、Sc、CeまたはSrを含む化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかに記載の窯業系建材。
【請求項5】 窯業系基材の表面に、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を有する窯業系建材の製造方法であって、アミノポリカルボン酸とジルコニウム化合物とから形成されるジルコニウム錯体またはジルコニウム塩とアミンとの塩であり、該ジルコニウム以外の金属成分がジルコニウム以外の金属を含む化合物であり、そして該組成物の全金属成分のうち、該ジルコニウム成分が酸化ジルコニウム換算で70モル%〜98モル%の割合で含有されかつ該ジルコニウム以外の金属成分が該金属の酸化物換算で2モル%〜30モル%の割合で含有される、組成物を窯業系基材具に付与し、塗膜を形成する工程;および該窯業系基材上に形成された塗膜の組成物を結晶化させることにより、ジルコニウム成分とジルコニウム以外の金属成分とを含有する金属酸化物薄膜を形成する工程;を包含する、方法。
【請求項6】 前記組成物がスピンコート法、ディップコート法、またはスプレーコート法により前記窯業系基材上に付与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】 前記結晶化が、前記塗膜を有する前記窯業系基材を熱処理、光処理、または化学的処理することにより行われる、請求項5または6に記載の方法。

【公開番号】特開2001−328882(P2001−328882A)
【公開日】平成13年11月27日(2001.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−68757(P2001−68757)
【出願日】平成13年3月12日(2001.3.12)
【出願人】(000215796)帝国化学産業株式会社 (1)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】