説明

立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物及びその製造方法

【課題】極性ビニルモノマーであるアクリロニトリルの重合に好適なラジカル重合及びアニオン重合において、汎用の重合設備、条件(温度、重合開始剤)が適用可能で、かつ簡便な立体規則性ポリマー組成物を得る為の立体規則性ポリマーを用いた鋳型重合法の開発、及び経済的、工業的にも有利な立体規則性ポリマー組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で50%以上のポリアクリロニトリル連鎖単位を含むポリマーを、最終的に得られるポリアクリロニトリル系重合体組成物基準で5〜50重量%の範囲の共存下に重合反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物及びその製造方法に関するものである。更には、特定の高度なアイソタクティックポリアクリロニトリル連鎖単位を含む重合体と、アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を主成分とするモノマー構造単位からなる、アイソタクティックトリアッド(以下、mm%と略記することがある。)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有する立体規則性重合組成物及びその重合組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある。)は繊維成型時の風合い、かさ高さ及び保湿性に優れるため、衣料用繊維として用いられるほか、成型繊維の加熱処理により化学構造が変化し、不溶不融の耐炎化環状構造を形成する為、耐熱性繊維材料や炭素繊維などの前駆体として広く用いられている。
【0003】
従来、PANはラジカル重合開始剤によるフリーラジカル重合またはアニオン重合開始剤を用いたアニオン重合によりアクリロニトリルを重合することにより製造されてきた。これら従来法により得られたPANは、核磁気共鳴スペクトル測定(以下、NMRと略記することがある。)による微細構造、即ち立体化学的構造の解析によれば、分子鎖の立体規則性(以下、タクティシティーと記載することがある。)は存在しない。
【0004】
そのため、得られるPANを繊維やフィルムに成型した場合、結晶性が低く機械的特性及び/または耐熱性に欠けることが指摘されてきた。特に繊維については寸法安定性、引張強度、弾性率が低く、高性能/高機能性繊維への展開や産業資材、宇宙工学分野などへの用途展開も制限されており、立体規則性に優れるPANの工業的製法の確立が研究されてきた。
【0005】
アクリロニトリルのような極性ビニルモノマーの重合に最も適したフリーラジカル重合においてポリマーの立体規則性を制御する試みとして、古くは、尿素、胆汁酸誘導体などをホスト分子に用い、モノマーとの包摂化合物を調整後に低温にて放射線固相重合を行うことにより、高アイソタクティック含率のポリアクリロニトリルが調整された(非特許文献1参照。)。
【0006】
また近年、包摂分子としてゼオライト等の多孔性無機化合物を用いたアイソタクティックリッチなポリアクリロニトリル光重合の報告もある(非特許文献2)。
【0007】
ただしこれらはホスト分子の包摂能が機能しうるモノマー/ホスト分子の組み合わせが限定され、汎用性に乏しい。またこれらの包摂ホスト化合物は−30℃以下の低温でのみ有効に機能し、室温下では容易に包摂化合物が解離、分解してしまう為、低温での光重合を行う必要があり、工業的見地から作業性、コスト面で実用性に欠けるのみならず、高度な立体規則性の制御は困難である。
【0008】
近年、強力なルイス酸であり、かつ特異な反応活性を示す希土類金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩などをモノマーに対して0.1等量前後(触媒量程度)添加し重合することによる高いシンジオタクティック及びアイソタクティック含率のアクリルアミド誘導体のラジカル重合が報告されている(例えば非特許文献3参照。)。
【0009】
しかしこの場合も、満足できる高い立体規則性を発現するには−20℃程度の低温下での紫外線照射重合が必要であり、実用的な重合プロセス適用性に欠ける上、アクリロニトリルなどのモノマーでは期待するほどの立体規則性の発現効果は認められていない。また希土類金属を含むルイス酸は高価なため、モノマーに対し0.1〜0.2等量の使用量であっても高コストと回収、再使用プロセスの問題を解決せねばならず、工業規模での大量重合には不適である。
【0010】
一方、我々は既に、六方晶或いは三方晶系に属する結晶性金属塩にアクリロニトリル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、および4−ビニルピリジンのような極性ビニルモノマーを接触させて包接錯体とし、これをトルエンやヘプタンに代表される炭化水素系溶媒に分散させスラリー状にした後にラジカル重合開始剤を添加して通常の熱ラジカル重合を行うと、アイソタクティシティーに富むポリマーが得られることを見出している。(非特許文献4。)。
【0011】
然しながらこの方法においても、モノマーと結晶性金属塩から成る分子錯体を重合するため、重合後のポリマーと金属塩を分離回収する必要があり、多くの工程数を要することから大量製造の実現には更なる製造プロセスの改善が必要であった。
【0012】
一方、アニオン重合を利用したPANの立体制御検討もなされている。例えば極性あるいは無極性溶媒中、アルコキシド類とアルカリ金属のアミド化合物とのコンプレックスを重合開始剤として、アクリロニトリルを重合する方法が知られている(非特許文献5参照。)。
【0013】
しかしこの方法によって得られるPANは分子量が数千〜一万程度であり、十分な機械物性を発現可能な十万程度の分子量のPANを得ることができず、実用性に乏しい。また近年では、アクリロニトリルに対して、Mg、Be等のアルカリ土類金属のアルキル化物を成分とするアニオン重合触媒を70℃で作用させることによりアイソタクティック含率が50〜70%程度のポリアクリロニトリルの調整に成功している(非特許文献6、特許文献1〜3参照。)。
【0014】
ただしこの系は高温でのアニオン重合でありシアノ基の副反応による副生成物の混在が避けられず重合収率も10〜30%程度である。またアニオン重合により高アイソタクティックPANを製造するためには毒性の高いBe系触媒の使用が不可欠であり、触媒は製造ポリマーから完全に分離除去することが困難である為、環境や安全への影響が懸念され、現実には使用されていない。
【0015】
ポリアクリロニトリルを含め、種々の極性ビニルポリマーは主としてバルク系でのフリーラジカル重合法により合成されてきた。フリーラジカル重合は高活性なフリーラジカルを成長種とし、そのためにモノマーの構造、また水系、非水系を問わず多様な重合条件下での種々の高分子量体の調整を簡便に実現することができる。前述のとおりフリーラジカル種は高活性な反面、他の重合法と比較して反応性の制御が困難でありポリマーの一次構造制御の実現が困難な為、現在までのところ新たな機能性発現には至っていない。
【0016】
フリーラジカル重合で立体規則性の制御を行う為に、これまで特にメタクリル酸メチルについて数多くの検討がなされてきた。例えばラジカル重合で立体規則性を制御する方法として、予め嵩高い置換基で単量体の一部を置換し、重合後置換基を交換する方法が報告されているが、必要となる反応ステップが多くなり、コストが高いという問題があった。
【0017】
同じくラジカル重合を用いた立体規則性の制御に関する技術は開示されているが(例えば、特許文献4〜6参照。)、これらの技術は、アイソタクティックポリ(メタクリル酸メチル)を用いてアイソタクティックポリ(メタクリル酸メチル)とシンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)からなるステレオコンプレックスを製造するものであり、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)のみからなる重合体の製造については開示されていない。またフルオロアルコールをはじめとするプロトン性溶媒中でのメタクリル酸メチルのラジカル重合によって、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)を重合する方法が報告されているが(非特許文献7参照。)、この方法は、高価であり、且つ環境に悪影響を与えるフッ素化化合物を溶媒として多量に用いるという問題があった。さらに得られた重合体を再沈殿し、または溶媒を蒸発させて重合体を回収しなければならないため、重合体の製造が容易でないという問題があった。
【0018】
これらに対し、ポリアクリルアミド(PAAm)や立体規則性ポリメタクリル酸(PMA)などの立体規則性ポリマー自身を鋳型とした立体規則性ポリマー重合について過去に種々の報告がなされている。例えば立体規則性ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を鋳型とした立体規則性ポリマー重合について、シンジオタクティックPMMA存在下でメタクリル酸メチルを塊状重合する技術が記載されている(非特許文献8参照。)。
【0019】
一方、シンジオタクティックPMMA存在下でメタクリル酸メチルをジメチルホルムアミド中で重合する技術も報告されている(非特許文献9参照。)。
【0020】
更に、シンジオタクティックPMMAをメタクリル酸メチル単量体にて膨潤させ、塊状でラジカル重合させる技術も開示されている(非特許文献10参照。)。
【0021】
しかしながらこれらの技術はアイソタクティックPMMAとシンジオタクティックPMMAからなるステレオコンプレックスを製造するものであり、アイソタクティックPMMAのみからなる重合体の製造は開示されていないことに加え、ラジカル重合温度が高いため十分な立体規則性の制御ができず、得られた重合体のタクティシティーも満足できるものではない。
【0022】
また、シンジオタクティックトリアッド基準(rr%)で75%以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックPMMAがゲル形成可能な特定の溶解度パラメータを有する溶媒存在下でメタクリル酸メチルをラジカル重合することによるシンジオタクティシティーに富むPMMAが得られるが(特許文献7参照。)、この方法ではアクリロニトリルの立体制御については報告されておらず、またもし立体規則性PMMAを用いたPANの立体制御が可能であったとしても、得られたPANと鋳型である立体規則性PMMAを分離回収する必要があり工業的な見地から実用性が期待できない。このように、鋳型ポリマーによる立体規則性ポリマー重合は一般に適応できるモノマーの組み合わせや得られるポリマーの立体規則性が不十分である為これまで実用化はなされなかった。
【0023】
【特許文献1】特開平1−203406号公報
【特許文献2】特開平3−68606号公報
【特許文献3】特開平7−18012号公報
【特許文献4】特開平6−287398号公報
【特許文献5】特開平7−242705号公報
【特許文献6】特開平8−301937号公報
【特許文献7】特開2001−89528号公報
【非特許文献1】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、1960年、82巻、21号、P.5671―5678
【非特許文献2】「マテリアルズ レター(Materials Letter)」、2002年、53巻、3号、P.180−185
【非特許文献3】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)」、2001、123巻、29号、P.7180―7181
【非特許文献4】「ポリマー プレプリンツ (Polymer Preprints)」、米国、2002年、43巻、2号、P.978−979
【非特許文献5】European Polymer Journal, vol.22, 1986, 559
【非特許文献6】「(ポリマー インターナショナル)Polymer International」、1994年、35巻、3号、P.249−255
【非特許文献7】「ポリマー プレプリンツ ジャパン(Polymer Preprints Japan)」、1998年、47巻、7号、P.1291
【非特許文献8】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス:ポリマー ケミストリー エディション(Journal of Polymer Science;Polymer Chemistry Edition)」、米国、1973年、11巻、5号、P.989
【非特許文献9】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス:ポリマー ケミストリー エディション(Journal of Polymer Science;Polymer Chemistry Edition)」、米国、1973年、11巻、5号、P.1003
【非特許文献10】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス;ポリマー ケミストリー エディション(Journal of Polymer Science;Polymer Chemistry Edition)」、米国、1985年、23巻、3号、P.813
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、立体規則性ポリアクリロニトリル製造技術の課題に対し、極性ビニルモノマーであるアクリロニトリルの重合に好適なラジカル重合及びアニオン重合において、汎用の重合設備、条件(温度、重合開始剤)が適用可能で、かつ簡便な立体規則性ポリマー組成物を得る為の立体規則性ポリマーを用いた鋳型重合法の開発、及び経済的、工業的にも有利な立体規則性ポリマー組成物及びその製造方法を提供することことにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、鋳型重合の手段によりアイソタクティシティーに優れる高分子量の立体規則性ポリアクリロニトリル系重合体及びその製造に関する研究を行った結果、驚くべきことにアイソタクティックトリアッド(mm%)基準で50%以上のアイソタクティシティーを有するポリアクリロニトリル連鎖単位を含むポリマーの存在下にアクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を重合することで、鋳型ポリマーの立体効果によりアクリロニトリルモノマーの立体特異的重合が発現し、その結果得られる重合組成物がアイソタクティックトリアッド(mm%)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有するポリアクリロニトリル系重合組成物となることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明の目的は、
アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分から構成された立体規則性ポリアクリロニトリルであって、
アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有し、且つアイソタクティックトリアッド含量が全ポリアクリロニトリルの繰り返し単位中の40モル%以上を占めることを特徴とする、立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物によって達成することができる。
【0027】
更に本発明の目的は、
アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で50%以上のポリアクリロニトリル連鎖単位を含むポリマーを、最終的に得られるポリアクリロニトリル系重合体組成物基準で5〜50重量%の範囲の共存下に重合反応させて、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有し、且つアイソタクティックトリアッド含量が全ポリアクリロニトリルの繰り返し単位中の40モル%以上を占めるポリアクリロニトリル系重合組成物を得る、立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、極性ビニルモノマーであるアクリロニトリルの重合に好適なラジカル重合及びアニオン重合において、汎用の重合設備、条件(温度、重合開始剤)が適用可能で、かつ簡便な立体規則性ポリマー組成物を得る為の立体規則性ポリマーを用いた鋳型重合法の開発、及び経済的、工業的にも有利な立体規則性ポリマー組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明について詳述する。
本発明の重合組成物の原料となる重合用モノマーとしてはアクリロニトリル、及びアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分との共重合体である。
ここで、「主とする」とは、該成分が全成分を基準として、50モル%以上、好ましくは75モル%以上、特に95モル%以上を占めることをいう。
【0030】
アクリロニトリルの共重合相手となる不飽和共重合成分としては従来公知のものを用いることができるが、ラジカル重合活性及び/またはアニオン重合活性の大きな不飽和カルボン酸及び/または不飽和カルボン酸のエステルやアミド誘導体、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及び/またはこれらのアルキルエステル、アルキルアミドを用いることが特に好ましい。アルキルエステルとしてはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、t−ブチル基、シクロヘキシルから選ばれる少なくとも1つの基など、炭素数1〜6のアルキル基を有するエステルを好ましく用いることができる。
【0031】
更に他の共重合成分としてメタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、無水マレイン酸、N−ビニルピロリドンのようなアニオン重合活性な極性ビニルモノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールのような芳香族ビニル化合物なども好ましく用いることができる。これらの共重合成分は単独あるいは併用してもよく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、若しくはこれらのアルキルエステル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、無水マレイン酸、N−ビニルピロリドンのような極性ビニルモノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールのような芳香族ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を特に好ましく選ぶことが出来る。
【0032】
これらの共重合モノマー成分の添加量は0〜50mol%、好ましくは0〜30mol%、特に好ましくは0〜20mol%である。これらは共重合の結果、アクリロニトリルとランダムな配列となるランダム共重合体、あるいはアクリロニトリル連鎖と不飽和共重合成分の連鎖が形成されるブロック共重合体が得られる。得られるポリマーは単独で繊維やフィルム、その他各種成型体への素材として使用するのみならず、共重合成分の種類、構造に応じてブレンド、複合化による他の素材の改質や機能化への使用、更にはプレポリマーとして引き続き種々のモノマーとの共重合成分へ応用することも可能である。
【0033】
本発明の重合組成物は、アイソタクティックトリアッド含量が全ポリアクリロニトリルの繰り返し単位中の40モル%以上を占めることが必要である。ここで、40モル%未満であると、立体規則性極性ポリマーであるポリアクリロニトリルの優れた力学特性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性といった物理的、化学的特性への微細構造の寄与が少なく、期待される物性向上への効果が少ないか、又は結びつかないものである。アイソタクティックトリアッドの含量は高いほど良く、好ましくは45モル%以上である。
【0034】
本発明の製造方法においては、上記重合用モノマーを、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で50%以上のアイソタクティシティーを有するポリアクリロニトリル連鎖単位を含むポリマーの存在下に重合することを特徴とする。
【0035】
このようなアイソタクティックポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリル単位のみからなる単独重合体、或いは他の不飽和共重合成分を0〜50mol%含む共重合体であってもかまわない。重合体中のアクリロニトリル連鎖のタクティシティーは3連子表示でmeso−meso(mm)連鎖が50%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましい。重合体の数平均分子量は特に限定されないが、100以上であることが好ましい。
【0036】
アクリロニトリルの共重合相手となる不飽和共重合成分としては従来公知のものを用いることができるが、ラジカル重合活性及び/またはアニオン重合活性の大きな不飽和カルボン酸及び/または不飽和カルボン酸のエステルやアミド誘導体、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及び/またはこれらのアルキルエステル、アルキルアミドを用いることが特に好ましい。アルキルエステルとしてはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、t−ブチル基、シクロヘキシルから選ばれる少なくとも1つの基など、炭素数1〜6のアルキル基を有するエステルを好ましく用いることができる。
【0037】
更に他の共重合成分としてメタクリロ二トリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、無水マレイン酸、N−ビニルピロリドンのようなアニオン重合活性な極性ビニルモノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールのような芳香族ビニル化合物なども好ましく用いることができる。このような立体規則性の鋳型用アクリロニトリル系ポリマーの製造方法としては、アイソタクティシティーを発現できる方法であれば特に限定されるものではないが、有効な方法としてたとえば前掲の非特許文献1に報告された尿素/モノマー包摂錯体を用いた低温(−78℃)での固相光重合法、有機マグネシウム等を開始剤に用いたアニオン重合法(前掲の非特許文献6)、または塩化マグネシウム等を分子鋳型兼担体に用いたラジカル重合法(前掲の非特許文献4)などが挙げられる。得られたポリマーの組成、及びポリアクリロニトリル主鎖のタクティシティーはH−NMR及び13C−NMRにより定量同定することができる。
【0038】
本発明において、上記アイソタクティックポリアクリロニトリル系ポリマーは立体規則性鋳型ポリマーとして作用し、重合用モノマーと重合組成物は、モノマーに対してポリマーを50重量%以上共存させ重合することで得られる。したがって得られる組成物中の鋳型ポリマーの含有率は5重量%以上である。
【0039】
重合組成物中の鋳型ポリマーの含有率は、最終的に得られるポリアクリロニトリル系重合体組成物基準で5重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、50重量%であることが特に好ましいが、50重量%を越えると、鋳型ポリマーを準備する量が多くなりすぎるという問題がある。
【0040】
本発明の立体規則性鋳型ポリマーを用いた重合に際しては適当な溶剤を用いることができる。具体的にはポリマー及びモノマーが溶解する極性溶媒であれば良いが、特にアニオン重合では開始剤が失活しない溶媒形である必要がある。そのような溶媒としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシドなどを好ましく挙げることができる。
【0041】
またラジカル重合系ではこれらの溶媒に加え、例えば塩化亜鉛濃厚水溶液の様に鋳型である立体規則性PAN系ポリマーが溶解する水性溶剤も好ましく使用することができる。特に水性溶媒はラジカル重合の場合、溶媒への連鎖移動が少ないため得られるポリマーは比較的高分子量体を得やすいが、特に機械物性良好な粘度平均分子量(以下、単にMvと称する事がある)が100,000以上の高分子量ポリアクリロニトリル系ポリマーを得ることができる。
【0042】
本発明におけるラジカル重合開始剤及びアニオン重合開始剤とは通常のラジカル重合、アニオン重合で使用されるものであれば良い。そのような開始剤として、ラジカル重合開始剤としては、例えばAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオナート)、1,1−(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]等に代表されるアゾ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物及び/又はペルオキシ硫酸カリウム/亜硫酸ナトリウムやN,N−ジメチルアニリン/過酸化ベンゾイル等過酸化物と還元剤の組み合わせによるレドックス開始剤、マンガンアセチルアセトナート(III)、コバルトアセチルアセトナート(II)、およびペンタシアノベンジルコバルテート、硫酸鉄(II)/過酸化水素(フェントン試薬)のように酸化還元反応によってラジカル重合を進行させることが可能な遷移金属化合物及び有機ホウ素化合物/酸素系などが挙げられる。また、その他にもγ線、X線などの放射線、電子線、紫外線、単色可視光線、自然光更には加熱等もモノマーからのラジカル生成を可能とする為、重合開始反応に好適に使用することが出来る。これらは各々単独に、又はアゾ系開始剤と熱、光照射の組み合わせなど開始剤の併用も好ましく実施することができる。
【0043】
重合温度に関しては、重合中にモノマーへの分解や副反応を併発することのないよう、比較的低温、好ましくは150℃、より好ましくは100℃、更に好ましくは80℃以下で実施することが望まれる。
【0044】
一方、アニオン重合開始剤としてはリチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムブトキシド、リチウムtert.ブトキシド、アルミニウムトリブトキシドに代表されるメタルアルコキシド、ジエチルマグネシウム、トリエチルアルミニウム、フェニルリチウムなどに代表される有機金属化合物、フェニルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムヨージドなどに代表されるグリニャール試薬、リチウムアミド、琥珀酸イミドカリウム、アセトアミドカリウム等に代表される金属アミド化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、メチルピペリジン、モルフォリン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどに代表される有機アミン等を挙げることができる。中でもリチウムtert.ブトキシド、アルミニウムトリブトキシド、ジエチルマグネシウム、トリエチルアルミニウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン、メチルピペリジン、モルフォリン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどを特に好ましく挙げることができる。
【0045】
アニオン重合に好適な温度条件は−80℃以上150℃未満である。−80℃以下では重合反応速度が極端に低下するばかりか、冷却の為のエネルギー消費量が多くなるといった問題を生じる。逆に150℃以上では重合反応以外の副反応、ポリマーの分解等のために十分に高分子量の重合組成物を得ることができない。
【0046】
本発明における重合過程での立体制御機構については未だ十分に解明されていないが、推察するに、鋳型である立体規則性ポリアクリロニトリル連鎖が、モノマーであるアクリロニトリルの近傍に存在する条件で鋳型重合を行うことにより、ポリマーの立体効果によりモノマー重合時の立体特異的付加が誘起され、結果としてアイソタクティシティーに富むポリマー組成物が得られるものと予想される。
【0047】
この様にして得られるポリアクリロニトリル系ポリマー重合組成物の微細構造については、隣り合う極性基同士がmeso−meso配置で整列したアイソタクティックトライアド(mm)の含量が、racemo−racemo配置で整列したシンジオタクティックトライアド(rr)及びmeso−racemo配置で整列したmr(ヘテロタクティックトライアド)を含めた全微細構造中に35%以上存在するような立体規則性ポリアクリロニトリル連鎖単位を有する。
【0048】
ここでいうmm、及び/又はrr含量とは、ポリアクリロニトリルのようにα−モノ置換型の極性ビニルポリマーの場合、α―炭素の13C−NMRスペクトルにおけるmm、mr、rrの三種の立体構造に基づくピーク強度比より算出することができる。
【0049】
立体規則構造の発現により極性ポリマーの力学特性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性といった物理的、化学的性質を改良することが出来る。アイソタクティックポリアクリロニトリルではアタクティックな素材に比べて熱的、力学特性の向上が可能であり、また金属イオンを選択的に配位することが可能で、金属の吸着素材や導電性ポリマーへの応用にも有用である。mm及び/またはrr含量が35%に満たない場合、上述の物理的、化学的特性への微細構造の寄与が少なく、期待される機能発現への効果が少ないか、又は結びつかない。
【実施例】
【0050】
以下、参考例及び実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
なお、実施例中、ポリマーの組成はH−NMRにより、また立体規則性(タクティシティー)は13C−NMR測定(270MHz JNR−EX−270 日本電子データム(株)製、溶媒DMSO−d6)により定量し、アイソタクティックトリアッド(mm)、シンジオタクティッティクトリアッド(rr)、ヘテロタクティックトリアッド(mr)を決定した。
【0051】
ポリマーの粘度平均分子量(Mv)はS−40規格のウベローデ型粘度計を用い、35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを実験式(1)
[数1]
[η] = 0.6712 × ηsp/C + 0.063 (1)
に代入することによって算出した固有粘度[η]を用い、次式(2)より算出した。
[数2]
[η] = 3.17 × 10−4 × Mv0.746 (2)
【0052】
[参考例1]鋳型ポリマー(ポリアクリロニトリル)の重合:
乾燥窒素気流下、無水塩化マグネシウム9.5重量部を30ml二口ナシ型フラスコにとり、5〜10℃に保ち、アクリロニトリル5.30重量部(塩化マグネシウムに対し1モル等量)に開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.033重量部を溶解したものを滴下、24時間攪拌してアクリロニトリル/塩化マグネシウムからなる粉状錯体を調整した。これを60℃に保った恒温槽中に24時間保持することで重合を行った。
【0053】
重合後、錯体をメタノールにあけ、生成した白色沈殿を濾別し、1規定塩酸水溶液、脱イオン水、ついでアセトンの順に十分洗浄して一夜真空乾燥することで生成ポリマー3.75重量部を得た。
【0054】
生成ポリマーのうち、100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃における13C−NMR測定からトライアドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(55.0/32.9/12.1)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは109965であった。
【0055】
[参考例2]鋳型用ポリマー(ポリアクリロニトリル)の重合:
参考例1において、塩化マグネシウムを塩化コバルト12.9重量部に変えた以外は同様の条件にて重合及び処理を行うことで生成ポリマー2.21gを得た。
【0056】
ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃における13C−NMR測定からトライアドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(88.5/9.5/2.0)であり、極めて高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは89,173であった。
【0057】
[参考例3]鋳型用ポリマー(ポリアクリロニトリル共重合体)の重合:
乾燥窒素気流下、無水塩化マグネシウム9.5重量部を30ml二口ナシ型フラスコにとり、5〜10℃に保ち、アクリロニトリル5.30重量部(塩化マグネシウムに対し1モル等量)アクリル酸メチル0.66重量部、イタコン酸ジブチル0.4重量部及び開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.033重量部を溶解したものを滴下、24時間攪拌して粉状錯体を調整した。これを60℃に保った恒温槽中に24時間保持することで重合を行った。重合後、錯体をメタノールにあけ、生成した白色沈殿を濾別し、1規定塩酸水溶液、脱イオン水ついでアセトンの順に十分洗浄して一夜真空乾燥することで生成ポリマー3.93重量部を得た。H−NMR測定により該共重合体の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ94.7%、2.3%、3.0%であった。
【0058】
ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃にて13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(67.5/26.3/6.2)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した[η]から得た粘度平均分子量Mvは119315であった。
【0059】
[実施例1]
鋳型ポリマーとして参考例1の操作により得た高アイソタクティックPAN1.06重量部を、64重量%塩化亜鉛水溶液9重量部に室温にて溶解することで高アイソタクティックPANのドープ溶液を作成した。これにアクリロニトリルモノマー1.06重量部を加え、攪拌することで均一溶液とした。
【0060】
ついで、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシバレロニトリル)をアクリロニトリルモノマーに対して0.25モル%となるように加え、そのまま室温にて6時間攪拌、重合した。重合終了後、ドープ溶液を純水100ml中にあけ、沈殿したポリマーを採取、メタノール、アセトンより各1回ずつ洗浄を行った。洗浄後のポリマーは濾別後50℃にて減圧乾燥して乾燥することで重合組成物2.1重量部を得た。ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃における13C−NMR測定からトライアドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(43.3/40.3/16.4)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは839100であった。
【0061】
[実施例2]
実施例1において、鋳型ポリマーとして参考例2の操作により得た高アイソタクティックPAN1.06重量部を用いたこと以外は同様の手法にてポリアクリロニトリル重合組成物2.05重量部を得た。
【0062】
13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(60.1/27.9/12.0)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは931100であった。
【0063】
[実施例3]
鋳型ポリマーとして上記参考例1の操作により得た高アイソタクティックPAN1.06重量部を、脱水ジメチルアセトアミド9重量部に室温にて溶解することで高アイソタクティックPANのドープ溶液を作成した。これにアクリロニトリルモノマー1.06重量部を加え、攪拌することで均一溶液とした。
【0064】
溶液を乾燥窒素気流下、−50℃に冷却し、アニオン重合開始剤としてカリウムt−ブトキシドをアクリロニトリルに対して0.25モル%となるよう加え、−50℃にて24時間アニオン重合を行った。重合終了後、反応系に1重量%の塩酸/水−メタノール溶液1mlを加え30分攪拌後、ドープ溶液を純水100ml中にあけ、沈殿したポリマーを採取、メタノール、アセトンより各1回ずつ洗浄を行った。洗浄後のポリマーは濾別後50℃にて減圧乾燥して乾燥することで重合組成物1.9重量部を得た。
【0065】
ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃における13C−NMR測定からトライアドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(47.2/37.4/15.4)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは81815であった。
【0066】
[実施例4]
鋳型ポリマーとして上記参考例3の操作により得た高アイソタクティックPAN共重合体1.06重量部を、64重量%塩化亜鉛水溶液9重量部に室温にて溶解することで高アイソタクティックPAN共重合体のドープ溶液を作成した。これにアクリロニトリル1.06重量部(塩化マグネシウムに対し1モル等量)アクリル酸メチル0.132重量部、イタコン酸ジブチル0.08重量部を加え、攪拌することで均一溶液とした。ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシバレロニトリル)をアクリロニトリルモノマーに対して0.25モル%となるように加え、そのまま室温にて6時間攪拌、重合した。
【0067】
重合終了後、ドープ溶液を純水100ml中にあけ、沈殿したポリマーを採取、メタノール、アセトンより各1回ずつ洗浄を行った。洗浄後のポリマーは濾別後50℃にて減圧乾燥して乾燥することで重合組成物2.2重量部を得た。
【0068】
H−NMR測定により該共重合組成物の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ94.6%、2.4%、3.0%であった。ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃における13C−NMR測定からトライアドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(48.9/36.5/14.6)であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定したηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは1125712であった。
【0069】
[比較例1]
鋳型であるアイソテクティックPAN系ポリマーを使用しないこと以外は全て実施例1と同様の条件で重合を行った。13C−NMR測定によりトリアッドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(28.0/47.0/25.0)であり、実質アタクティックなポリアクリロニトリル1.0重量部しか得られなかったことを確認した。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中、ウベローデ型粘度計を用いて得られたηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは532510であった。
【0070】
[比較例2]
鋳型であるアイソテクティックPAN系ポリマーを使用しないこと以外は全て実施例3と同様の条件で重合を行った。13C−NMR測定によりトリアッドタクティシティーを定量したところ、(mm/mr/rr)=(25.4/49.8/24.8)であり、実質アタクティックなポリアクリロニトリル0.85重量部しか得られたことを確認した。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中、ウベローデ型粘度計を用いて得られたηsp/Cを基に計算した粘度平均分子量Mvは75245であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分から構成された立体規則性ポリアクリロニトリルであって、
アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有し、且つアイソタクティックトリアッド含量が全ポリアクリロニトリルの繰り返し単位中の40モル%以上を占めることを特徴とする、立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物。
【請求項2】
アクリロニトリル又はアクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で50%以上のポリアクリロニトリル連鎖単位を含むポリマーを、最終的に得られるポリアクリロニトリル系重合体組成物基準で5〜50重量%の範囲の共存下に重合反応させて、アイソタクティックトリアッド(mm%)基準で35%以上のアイソタクティシティーを有し、且つアイソタクティックトリアッド含量が全ポリアクリロニトリルの繰り返し単位中の40モル%以上を占めるポリアクリロニトリル系重合組成物を得る、立体規則性ポリアクリロニトリル系重合組成物の製造方法。
【請求項3】
重合反応を、ラジカル重合開始剤添加、放射線照射、電子線照射、紫外線照射及び加熱処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理により開始する、請求項2記載の重合組成物の製造方法。
【請求項4】
重合反応を、アニオン重合開始剤を添加することにより行なう、請求項2記載の重合組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−36908(P2006−36908A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218463(P2004−218463)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】