説明

立体造形用光硬化型樹脂組成物、立体造形物、及び、立体造形物の製造方法

【課題】所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することのできる立体造形用光硬化型樹脂組成物、及び、これを用いて得られる立体造形物を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(I)で表される化合物と
(B)エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤と
を含有することを特徴とする立体造形用光硬化型樹脂組成物。


[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用光硬化型樹脂組成物、立体造形物、及び、立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元CADデータに基づき、光硬化型樹脂組成物にエネルギー線を照射して硬化樹脂層を形成するとともに、この工程を繰り返すことにより硬化樹脂層を積層させて、所望形状の立体造形物を得る技術が知られている。
【0003】
所望形状の立体造形物を精度良く作製するために、光硬化型樹脂組成物は、硬化時の体積収縮率が小さいことが求められている。光硬化型樹脂組成物の硬化時における体積収縮率が大きいと、立体造形物の造形過程で、硬化樹脂層の“反り”が発生しやすく、立体造形物の意図する形状が得られなくなるからである。
【0004】
このような“反り”を低減すべく、例えば、立体障害を持ったジオール化合物のウレタンアクリレートを含有する光硬化型樹脂組成物(特許文献1及び2参照)やエポキシ系の光硬化性樹脂組成物(特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの光硬化型樹脂組成物で立体造形物を得ようとしても、上記“反り”の問題は充分に解決できるものではなかった。
【0006】
また、光硬化型樹脂組成物は、従来より、アクリロイル基やメタクリロイル基といったビニル基などの汎用的な重合性基を有する化合物が一般的に用いられているが、それらは硬化収縮が大きいものであった。オキシラン化合物やオキセタン化合物などのカチオン開環重合などの体積収縮は一般的に収縮が小さいことで知られているが、ラジカル重合に比べて連鎖反応の活性が低いことにより、高分子量にならず、結果的に形成された硬化性樹脂が脆くなるという問題がある。また、光照射による硬化の感度が低いため、非常に大きな露光エネルギーを与えなくてはならないという問題もあった。
【0007】
オキシラン化合物と同等以上に体積収縮が小さいモノマーとしては、非特許文献1、2、3、4および特許文献4,5に環状アリルスルフィドモノマーが開示されている。しかしながら、これらの文献には、接着用途、歯科用途、レンズに使用できるという記載はあるものの、立体造形用光硬化型樹脂組成物に用いる用途に対しての記載は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−310918号公報
【特許文献2】特開2008−63514号公報
【特許文献3】特開2006−28552号公報
【特許文献4】特許第3299542号明細書
【特許文献5】特許第4153031号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecules, 1994, 27, 7935.
【非特許文献2】Macromolecules, 1996, 29, 6983.
【非特許文献3】Macromolecules, 2000, 33, 6722.
【非特許文献4】J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することのできる立体造形用光硬化型樹脂組成物、及び、これを用いて得られる立体造形物を提供することにある。
また、本発明は、所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することのできる立体造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のとおりである。
【0012】
(1) (A)下記一般式(I)で表される化合物と
(B)エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤と
を含有することを特徴とする立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0013】
【化1】


[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0014】
(2) 一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0015】
【化2】

【0016】
[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン基を表し、mは0または1を表す。]
【0017】
(3) 一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0018】
【化3】

【0019】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン基を表し、nは0または1を表す。]
【0020】
(4) 前記一般式(I)で表される化合物として、一般式(I)で表される単官能性化合物と一般式(I)で表される多官能性化合物とを含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0021】
(5) 前記一般式(I)で表される多官能性化合物が、下記一般式(I’)で表される化合物であることを特徴とする上記(4)に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化4】

【0022】
[式中、R、Zは一般式(I)のR、Zと同義であり、Lは、n個の硫黄原子含有ヘテロ環を連結する、単結合及び有機基から選択されるn価の連結基である。nは2〜6の整数を表す。]
【0023】
(6) 前記一般式(I’)の連結基Lが、下記一般式(IV)で表される基を含むことを特徴とする上記(5)に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0024】
【化5】

【0025】
[式中、p、rは互いに独立して0又は1を表し、qは1〜6の整数である。]
【0026】
(7) 前記一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物を、更に含有することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0027】
(8) 前記一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物が、エチレン性不飽和化合物である上記(7)に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【0028】
(9) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて形成した立体造形物。
【0029】
(10)複数の硬化樹脂層を積層することによって所定形状の立体造形物を作製する、立体造形物の製造方法であって、前記複数の硬化樹脂層の各々を、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて層を形成し、該層にエネルギー線を照射することによって形成することを特徴とする、立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することのできる立体造形用光硬化型樹脂組成物、及び、これを用いて得られる立体造形物を提供できる。
また、本発明によれば、所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することのできる立体造形物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る立体造形用光硬化型樹脂組成物、立体造形物、及び、立体造形物の製造方法について説明する。
【0032】
[立体造形用光硬化型樹脂組成物]
本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、(A)下記一般式(I)で表される化合物と(B)エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤とを含有する。
【0033】
【化6】

【0034】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0035】
本発明において、光硬化型樹脂組成物とは、エネルギー線照射により、含有される重合性成分の重合反応を起こすことができる組成物をいうものとする。
【0036】
<(A)一般式(I)で表される化合物>
【0037】
【化7】

【0038】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0039】
一般式(I)で表される化合物は環状アリルスルフィドモノマーまたは環状アリルスルフィド化合物と以後称する。環状アリルスルフィドモノマーは重合性成分として機能することができ、好ましくは、加熱により、または光照射により直接もしくはラジカル重合開始剤の作用によってラジカル重合を起こす化合物である。開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。
【0040】
重合反応は以下の式のように表される。
【0041】
【化8】

【0042】
[上記反応式中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。ZはZが開環した場合の2つの炭素原子及び硫黄原子以外の原子団により形成された連結基を表す。lは繰り返し単位の数を表す。]
【0043】
この環状アリルスルフィドモノマーの硬化による体積収縮が小さいことは、形成された硬化した放射線硬化型樹脂の変形が小さく、内部に応力を有さないために、非常に寸度安定性が高い硬化物となるため、非常に有用である。本発明の環状アリルスルフィドモノマーは成長ラジカルがSラジカルであることと、S原子のα位の水素(隣の炭素の水素)原子を有するため、チオールエン反応に見られるような酸素重合阻害を受けないという特徴を有することを、発明者は確認している。そのため、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーよりも酸素存在下、もしくは溶存酸素存在下においても重合反応が進行しやすいという特徴を有する。立体造形用光硬化型樹脂組成物を構成した際にも、汎用モノマーを用いた場合は、溶存酸素によりある程度の重合阻害を受ける。それに対して、環状アリルスルフィドモノマーを用いた際は重合阻害を受けにくいために少ないラジカル開始剤量で硬化が可能である。
【0044】
また、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーは重合がビニル基への付加を行う反応であるため、側鎖である置換基が炭素原子が2つごとに導入される。これによりTgが上昇し、脆性が生じるが、上記環状アリルスルフィドモノマーは、例えば8員環の環状アリルスルフィドモノマーを用いる場合は炭素硫黄原子などの8つの連結鎖に一つ置換基が導入される。そのため、Tgの上昇を抑えることができ、柔軟性及び密着性を保つことが出来る。また、環状アリルスルフィドモノマーの重合体は、炭素-硫黄-炭素の結合距離が長く、また結合角が小さいため、重合体そのものに柔軟性があり、脆性が改良された硬化物となる。
【0045】
一般式(I)中、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。Zにより形成される環構造の構成要素としてはメチレン炭素を挙げることができ、メチレン炭素以外に、カルボニル基、チオカルボニル基、酸素原子や、硫黄原子など二価の有機連結基を挙げることもでき、これらの組み合わせにより上記環構造が構成される。その環員数は6〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましく、7〜8であることが特に好ましい。また、その環構造のメチレン炭素数は3〜7であることが好ましく、4〜6であることがより好ましく、4〜5であることが特に好ましい。
一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基としては直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。なお、本発明において、ある基について「炭素数」とは、置換基を有する基については、該置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。
【0046】
で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ターシャリーオクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2,3−ジブロモプロピル基、アダマンチル基、ベンジル基、4−ブロモベンジル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
一般式(I)中において、Rで表される基が更に置換基を有する場合、置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(I)の環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(I)で表される化合物は多官能体を表す。
【0047】
一般式(I)中において、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜9であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に、カルボニル基、酸素原子または硫黄原子のいずれか、もしくはそれらの組み合わせを含むことが好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外にカルボニル基と酸素原子の組み合わせ、または硫黄原子を含むことがより好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が7〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に硫黄原子を含むことが特に好ましい。
【0048】
一般式(I)中において、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜9であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に、カルボニル基、酸素原子または硫黄原子のいずれか、もしくはそれらの組み合わせを含むことが好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外にカルボニル基と酸素原子の組み合わせ、または硫黄原子を含むことがより好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が7〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に硫黄原子を含むことが特に好ましい。
上記の中でも、Rが水素原子またはメチル基を表すことが更に好ましい。
【0049】
一般式(I)は下記に示す、一般式(II)、または一般式(III)であることがより好ましい。
以下に、一般式(II)、及び(III)について説明する。
【0050】
【化9】

【0051】
[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
【0052】
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
【0053】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリール基としては、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるヘテロ環基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数4〜14のヘテロ環基であることが好ましく、炭素数4〜10のヘテロ環基であることがより好ましく、炭素数5のヘテロ環基であることが特に好ましい。R13、R14、R15で表されるヘテロ環基の具体例としては、ピリジン環、ピペラジン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環が挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。前記ヘテロ環の中でもピリジン環が特に好ましい。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ノルマルブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ターシャリーブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ターシャリーオクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2,3−ジブロモプロピルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ベンジルオキシ基、4−ブロモベンジルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルキルチオ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、イソブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ペンチルチオ基、シクロペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ターシャリーオクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基、2,3−ジブロモプロピルチオ基、アダマンチルチオ基、ベンジルチオ基、4−ブロモベンジルチオ基などが挙げられる。
【0054】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールチオ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アントラニルチオ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシカルボニル基としては、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ノルマルプロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ノルマルブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、ターシャリーブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ターシャリーオクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ノルマルプロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ノルマルブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、ターシャリーブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ヘプチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ターシャリーオクチルカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールカルボニルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては。例えば、フェニルカルボニルオキシ基、ナフチルカルボニルオキシ基、アントラニルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0055】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルアミノ基としては、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるスルホニルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなスルホニルアミノ基としては、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアミノ基は、一置換アミノ基であっても、二置換のアミノ基であってもよく、二置換のアミノ基が好ましい。無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるハロゲン原子としては、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられ、ブロモ基が好ましい。
【0056】
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(II)で表される環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(II)で表される化合物は多官能体を表す。
一般式(II)中、mは0または1の整数を表す。mは1であることが好ましい。
【0057】
およびR12は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0058】
13は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
14は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
15は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、アルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることがより好ましく、アシルオキシ基であることが更に好ましい。
【0059】
より好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R13、R14およびR15がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基であり、この態様において、R15が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつmが0または1であることがさらに好ましい。更に好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12が水素原子またはメチル基であり、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R15がアルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつmが0または1である化合物を挙げることができる。より一層好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14およびR15は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、mが1である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14が水素原子であり、R15がアシルオキシ基であり、かつmが1である化合物を挙げることができる。
【0060】
【化10】

【0061】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
【0062】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
一般式(III)中、R23、R24、R25で表されるアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の詳細は、上述した一般式(II)中のアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の説明と同様である。
【0063】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(III)で表される環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、多官能体を表す。
一般式(III)中、nは0または1の整数を表す。nは0であることが好ましい。
【0064】
23は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
24は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
25は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0065】
一般式(III)で表される化合物の好ましい態様としては、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R23、R24、R25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基を表す化合物を挙げることができる。より好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基であり、R25が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。更に好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R25が水素原子、アルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。よりいっそう好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23、R24、R25は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、nが0である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、Rがメチル基であり、R23、R24が水素原子であり、R25が水素原子であり、かつnが0である化合物を挙げることができる。
【0066】
環状アリルスルフィドモノマーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物における環状アリルスルフィドモノマーの含有量は、立体造形用光硬化型樹脂組成物の全量に対して、0.01〜99質量%の範囲であることが好ましく、20〜99質量%の範囲であることがより好ましく、50〜97質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0067】
立体造形用光硬化型樹脂組成物が環状アリルスルフィドモノマーを2種以上で含有する場合、立体造形用光硬化型樹脂組成物は、一般式(I)で表される単官能性化合物(1個の不飽和重合性基を有する化合物)と一般式(I)で表される多官能性化合物(2個以上の不飽和重合性基を有する化合物)とを含むことが好ましく、これにより、より低収縮で、かつ、より高硬化性の立体造形用光硬化型樹脂組成物とすることができる。この場合、2種以上の環状アリルスルフィドモノマーと後述するその他の(C)ラジカル重合性化合物も含んだ全てのモノマーに対する一般式(I)で表される多官能の環状アリルスルフィドモノマーの含有量は、10質量%〜80質量%であり、より好ましくは20質量%〜75質量%である。
【0068】
上記重量比が80質量%以下であることにより、充分な架橋密度を有する硬化物を得ることのできる、より高い硬化性を有する立体造形用光硬化型樹脂組成物とすることができる。この場合、得られる硬化物は高い造形精度を持って形成されるとともに、高い寸度安定性を有する。よって、所望形状の立体造形物をより高精度で作製できる。
【0069】
また、上記重量比が10質量%以上であることにより、架橋密度が高すぎないので、脆性が抑制された硬化物を得ることのできる、立体造形用光硬化型樹脂組成物とすることができる。この場合においても、脆性が抑制されることにより、得られる硬化物は高い造形精度を持って形成されるとともに、高い寸度安定性を有する。よって、所望形状の立体造形物をより高精度で作製できる。
【0070】
立体造形用光硬化型樹脂組成物が単官能の環状アリルスルフィドモノマーと多官能の環状アリルスルフィドモノマーとを含有する形態において、多官能の環状アリルスルフィドモノマー(一般式(I)で表される多官能性化合物)は、下記一般式(I’)で表される化合物であることが好ましい。
【0071】
【化11】

【0072】
[式中、R、Zは一般式(I)のR、Zと同義であり、Lは、n個の硫黄原子含有ヘテロ環を連結する、単結合及び有機基から選択されるn価の連結基である。nは2〜6の整数を表す。]
【0073】
Lで表される2価の連結基としては、単結合、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基、単結合、エーテル基、エステル基、アミド基、スルフィド基、ウレア基、またはこれらの複数が連結した連結基を挙げることができる。
Lで表される3価、4価、5価及び6価の連結基は、上記2価の連結基(単結合を除く)の任意の位置の水素原子を、それぞれ、1個、2個、3個及び4個除いた基を挙げることができる。
【0074】
Lにおけるアルキレン基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜8、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等を挙げることができる。
Lにおけるシクロアルキレン基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数3〜8、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等を挙げることができる。
【0075】
Lにおけるアルケニレン基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数2〜6、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基等を挙げることができる。
【0076】
Lにおけるアリーレン基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数6〜15、例えば、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基等を挙げることができる。
【0077】
またこれらの基が有してもよい置換基としては、例えば、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、ウレタン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の活性水素を有するものや、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、チオエーテル基、アシル基(アセチル基、プロパノイル基、ベンゾイル基等)、アシロキシ基(アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等)、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、アリーレン基については更にアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)を挙げることができる。
【0078】
一般式(I’)の連結基Lは、一般式(IV)で表される基を含むことが特に好ましく、これにより、さらに低収縮で、かつ、さらに高硬化性の立体造形用光硬化型樹脂組成物とすることができる。このような効果が発現される理由としては、連結基Lが一般式(IV)で表される基を含むことによって、硬化物における各架橋点間に程良い距離が生まれるので、充分な架橋密度を維持しつつも、架橋点間が短すぎることにより脆性が高まるのが抑制されることに起因するものと推測される。また、一般式(IV)は連結基Lの可動性を良好にするアルキレン基を含んでいるため、硬化物に適度な柔軟性が付与され、この点においても脆性が高まるのが抑制されているものと推測される。
【0079】
【化12】

【0080】
[式中、p、rは互いに独立して0又は1を表し、qは1〜6の整数である。]
【0081】
一般式(IV)において、qは2〜5の整数がより好ましく、3又は4がさらに好ましく、4が特に好ましい。
【0082】
以下に、一般式(I)、(I’)、(II)及び(III)で表される環状アリルスルフィド化合物の具体例を示す。但し、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0083】
【化13】

【0084】
【化14】

【0085】
【化15】

【0086】
【化16】

【0087】
【化17】

【0088】
【化18】

【0089】
以上説明した一般式(I)、(I’)、(II)及び(III)で表される化合物の合成方法は、例えば、Macromolecules, 1994, 27, 7935. Macromolecules, 1996, 29, 6983.や Macromolecules, 2000, 33, 6722.や J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.等に詳細に記載されている。
【0090】
なお、以上に説明した環状アリルスルフィドモノマーは、立体造形用光硬化型樹脂組成物に用いられてきた重合性化合物と比較して、皮膚刺激性や感作性(かぶれ易さ)が小さく、反応性が高く、粘度が低く、かつ、接着性に優れる。
【0091】
<(B)エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤>
エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤としては、エネルギー線を吸収して重合開始種を生成する化合物であれば、公知の重合開始剤を、適宜選択して使用することができる。
本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物に含まれる環状アリルスルフィドモノマーは、エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(以下、単に「ラジカル重合開始剤」ともいう)の存在下で、エネルギー線が照射されることによって、重合反応及び/または架橋反応を起こして硬化する。
ここで、エネルギー線は、より具体的には活性エネルギー線であり、活性エネルギー線は、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などのような光学的立体造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線をいう。
本発明で使用し得る好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。
例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、フェニルアセトフェノンジエチルケタール、アルコキシアセトフェノン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン及び3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4,4−ジメトキシベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジルメチルケタール、ベンゾイル及びベンゾインブチルメチルケタール、ベンゾインイソプロピルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン及び2,4−ジクロロチオキサントン、フルオレン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
また、エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤としては、特開2008−63514号に記載の重合開始剤も制限なく使用できる。
【0092】
本発明においてラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの中でも、芳香族ケトン類をより好適に使用できる。これらは1種使用してもよいし、2種以上併用してもよい。(B)ラジカル重合開始剤の配合量は、(A)一般式(I)で表される化合物、(B)ラジカル重合開始剤、及び、以下に説明する(C)一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物の合計100質量部に対して、通常0.01〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0093】
<(C)一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物>
本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、成分(A)の環状アリルスルフィドモノマー(一般式(I)で表される化合物)以外のラジカル重合性化合物(以下、その他のラジカル重合性化合物とも言う)を含有してもよい。
その他のラジカル重合性化合物は、好ましくはエチレン性不飽和化合物であり、N−ビニル化合物、又は、アミノ基若しくは水酸基を含む化合物に(メタ)アクリル酸がアミド化反応又はエステル化反応で結合した構造を有する化合物などが挙げられ、例えば下記の単官能性、2官能性、及び多官能性化合物を用いることができる。
【0094】
(単官能性化合物)
N−ビニル化合物としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどが挙げられ、またアミノ基若しくは水酸基を含む化合物に(メタ)アクリル酸がアミド化反応又はエステル化反応で結合した構造を有する化合物としては、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、クミルフェノール(メタ)アクリレート、クミルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、クミルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシッドフォスフェート、トリクロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0095】
(2官能性化合物)
2官能性化合物としては、具体的には、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネートのジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリセリンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、2,2’−ジ(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールのジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、ペンタンジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(グリシジルオキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0096】
(多官能性化合物)
多官能性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシプロピル)イソシアヌレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0097】
先に、本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物が環状アリルスルフィドモノマーを2種以上で含有する形態について説明したが、この形態において、前記単官能の環状アリルスルフィドモノマーが前記その他のラジカル重合性化合物(C)の単官能性化合物に置き換わった形態や、前記多官能の環状アリルスルフィドモノマーが前記その他のラジカル重合性化合物(C)の多官能性化合物に置き換わる形態も、本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物の実施形態に含まれる。これらの形態においても全てのモノマーに対する多官能性化合物の含有量の好ましい範囲、及び、その理由は前記したものと同様である。
【0098】
なお、前記その他のラジカル重合性化合物(C)としては、特開2008−63514号に「他のラジカル重合性有機化合物」として記載の化合物も制限なく使用できる。
【0099】
(C)一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物の配合量は、(A)一般式(I)で表される化合物、(B)ラジカル重合開始剤、及び、(C)一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物の合計質量に対して、10〜70質量%、好ましくは30〜60質量%である。
【0100】
本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、上記成分の他に、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、有機溶剤、可塑剤、界面活性剤、シランカップリング剤、着色顔料、有機又は無機粒子等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて添加することができる。
【0101】
以上に本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物を説明したが、上記したように一般式(I)で表される化合物は硬化による体積収縮が小さいので、寸度安定性が高い硬化物を形成することができる。よって、所望形状の立体造形物を高精度で作製することができる。また上記したように一般式(I)で表される化合物は、酸素重合阻害を受けない等の理由で重合反応性が高く、これにより、一般式(I)で表される化合物を含有する本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、硬化性が高い。これにより、立体造形物の造形において、例えば、1回の層形成における層の厚みを増やして積層の数を減らしたり、あるいは、1回の層形成におけるエネルギー照射量を低減できることから、所望形状の立体造形物を高効率で作製できる。
【0102】
また、本発明の立体造形物は、本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて形成されるので、所望の形状に高精度で形成された立体造形物とすることができる。
【0103】
また、本発明の立体造形物の製造方法は、複数の硬化樹脂層を積層することによって所定形状の立体造形物を作製する、立体造形物の製造方法であって、前記複数の硬化樹脂層の各々を、本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて層を形成し、該層にエネルギー線を照射することによって形成することを特徴としている。このように、本発明の立体造形物の製造方法によれば、本発明の立体造形用光硬化型樹脂組成物を使用するので、所望形状の立体造形物を高精度かつ高効率で作製することができる。
【実施例】
【0104】
以下、合成例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各例中の部は、いずれも重量部である。
【0105】
<一般式(I)で表される化合物(モノマー)の合成>
例示化合物M−17、M−18、M−34、M−36、M−44、M−45、M−46、M−51及びM−53を、J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202に記載の方法に準じ、下記スキーム(Rは、M−17及びM−44合成時はメチル基、M−18合成時はフェニル基、M−34及びM−36合成時は水素原子、M−45合成時は2−ブロモフェニル、M−46合成時は2,4−ジクロロフェニル)によって合成した。出発原料を変更した以外は同様の方法により、合成した。出発原料の置換基を変更することにより、様々な置換基を有する環状アリルスルフィド化合物を合成することができる。
【0106】
【化19】

【0107】
以下に得られた物性データを記述する。
M-17;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 3.05 (m, 4H), 3.21 (s, 4H), 4.95 (m, 1H), 5.20 (s, 2H)
M-18;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.23 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (m, 3H), 8.0 (m, 3H)
M-45;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.22 (m, 1H), 7.36 (m, 2H), 7.79 (dd, 1H), 7.80 (dd, 1H)
M-46;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (dd, 1H), 7.48 (d, 1H), 7.79 (d, 1H)
M-44;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 2.80〜3.80(m, 7H), 4.10〜4.30 (m, 2H), 4.85 (d, 2H)
M-34;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.95 (m, 2H), 2.36 (s, 2H), 4.50 (m, 2H), 5.60 (s, 1H), 5.85 (s, 1H)
M-36;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ1.54 (d, 3H), 2.92〜3.10 (m, 2H), 3.59(dd, 1H),4.51 (t, 2H), 5.51 (s, 1H), 5.63 (s, 1H)
M-51;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ0.59〜0.68 (m, 4H), 2.28〜2.31 (m, 4H), 3.01(d, 8H),3.24 (s, 8H), 4.98〜5.06 (m, 2H), 5.25 (s, 4H)
M-53;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ1.50 (d, 6H), 2.92 (d, 2H), 3.13(dd, 2H),3.61 (d, 2H), 4.70 (d, 2H), 5.58 (s, 2H), 5.79 (s, 2H)
【0108】
<実施例1>
環状アリルスルフィドモノマー(M−17)75部、環状アリルスルフィドモノマー(M−51)25部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して、実施例1の立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。下記試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0109】
<実施例2>
環状アリルスルフィドモノマー(M−36)75部、環状アリルスルフィドモノマー(M−53)25部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して、実施例2の立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。下記試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0110】
<実施例3>
環状アリルスルフィドモノマー(M−17)50部、トリシクロデカンジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)50部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して実施例3の立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。実施例1と同様の試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0111】
<実施例4>
環状アリルスルフィドモノマー(M−36)50部、トリシクロデカンジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)50部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して実施例4の立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。実施例1と同様の試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0112】
<比較例1>
(p−メンタジイル)ジシクロヘキシルジアクリレート混合物(ヤスハラケミカル株式会社製「A−HYP」)50部、トリシクロデカンジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)50部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して比較例1の立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。実施例1と同様の試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0113】
<比較例2>
トリシクロデカンジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)100部およびラジカル重合開始剤(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「イルガキュア651」)5部を室温下でよく混合して立体造形用光硬化型樹脂組成物を調製した。実施例1と同様の試験を行い評価した。評価した結果を表1に示す。
【0114】
<評価方法>
(1)収縮率:
光硬化させる前の立体造形用光硬化型樹脂組成物(液体)の比重(d0)と、光硬化して得られた光硬化物の比重(d1)から、下記の数式により収縮率を求めた。
収縮率(%)={(d1−d0)/d1}×100
その際に、光硬化させる前の立体造形用光硬化型樹脂組成物(液体)の比重(d0)は温度25℃で比重ビンを使用して測定した。また、光硬化して得られた光硬化物(造形物)の比重(d1)は温度25℃で、JIS Z8807に従って、液中で秤量する方法を採用し、ミラージュ貿易株式会社の「電子比重計SD−120L」を使用して測定した。
【0115】
(2)立体造形用光硬化型樹脂組成物の硬化深度(Dp):
ポール・エフ・ヤコブ(Paul F. Jacobs)著、「Rapid Prototyping & Manufacturing, Fundamentals of Stereo-Lithography」,“Society of Manufacturing Engineers”,1992年,p28−39に記載されている理論にしたがって測定した。具体的には、光硬化性樹脂組成物よりなる造形面(液面)に、超高圧水銀ランプ(波長域340〜380nmの紫外光、エネルギー強度2mW/cm)からの光を照射して1層分の光硬化膜を形成させた。この操作を、硬化膜の形成時の光照射時間を1〜5秒の間で、例えば、1秒、2秒、3秒、4秒よび5秒と5段階に変化させることによって造形面への照射エネルギー量を変え、各照射エネルギー量により生成した光硬化膜を光硬化性樹脂組成物液から取り出して、未硬化樹脂を取り除き、各硬化膜の厚さを定圧ノギスで測定し、光硬化膜の厚さをY軸、照射エネルギー量をX軸としてプロットし、プロットして得られた直線の傾きから硬化深度Dpを求めた。
【0116】
【表1】

【0117】
表1から明らかなように、比較例1,2と比較して、実施例1〜4の立体造形用光硬化型樹脂組成物は収縮率が低かった。よって、実施例1〜4の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、所望形状の立体造形物を高精度で作製できる光硬化型樹脂組成物であることが分かった。
さらに、比較例1,2と比較して、実施例1〜4の立体造形用光硬化型樹脂組成物は硬化深度が大きかった。よって、実施例1〜4の立体造形用光硬化型樹脂組成物を使用すれば、立体造形物の造形において、例えば、1回の層形成における層の厚みを増やして積層の数を減らすことが可能であり、所望形状の立体造形物を高効率で作製できることが分かった。
実施例1〜4の立体造形用光硬化型樹脂組成物の中でも、単官能の環状アリルスルフィドモノマーと多官能の環状アリルスルフィドモノマーとを含有する実施例1,2の立体造形用光硬化型樹脂組成物は、収縮率がより低く、また、硬化深度がより大きかった。
さらに、環状アリルスルフィドモノマーにおける2つの環が一般式(IV)で表される2価の有機基で連結されたモノマーM−51を使用した実施例1は、最も収縮率が低く、最も硬化深度が大きいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で表される化合物と
(B)エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤と
を含有することを特徴とする立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化1】


[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【請求項2】
一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化2】


[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン基を表し、mは0または1を表す。]
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化3】


[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン基を表し、nは0または1を表す。]
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物として、一般式(I)で表される単官能性化合物と一般式(I)で表される多官能性化合物とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される多官能性化合物が、下記一般式(I’)で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化4】


[式中、R、Zは一般式(I)のR、Zと同義であり、Lは、n個の硫黄原子含有ヘテロ環を連結する、単結合及び有機基から選択されるn価の連結基である。nは2〜6の整数を表す。]
【請求項6】
前記一般式(I’)の連結基Lが、下記一般式(IV)で表される基を含むことを特徴とする請求項5に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【化5】


[式中、p、rは互いに独立して0又は1を表し、qは1〜6の整数である。]
【請求項7】
前記一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物を、更に含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【請求項8】
前記一般式(I)で表される化合物以外のラジカル重合性化合物が、エチレン性不飽和化合物である請求項7に記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて形成した立体造形物。
【請求項10】
複数の硬化樹脂層を積層することによって所定形状の立体造形物を作製する、立体造形物の製造方法であって、
前記複数の硬化樹脂層の各々を、前記請求項1〜9のいずれかに記載の立体造形用光硬化型樹脂組成物を用いて層を形成し、該層にエネルギー線を照射することによって形成することを特徴とする、立体造形物の製造方法。

【公開番号】特開2010−222437(P2010−222437A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69937(P2009−69937)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】