説明

端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線

【課題】機械的強度を改良し端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線を提供する。
【解決手段】ポリエチレン20〜40%、ポリプロピレン20〜40%、プロピレン・ブテン共重合樹脂10〜30%からなるポリオレフィン系ポリマの混合物100重量部に、金属水酸化物を40〜300重量部、ポリプロピレンからなるワックスを0.5〜10重量部混合した樹脂組成物で被覆層を形成し端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線・ケーブル被覆材料は、安価で且つ高難燃であるポリ塩化ビニル(以下PVCと称す)が広く用いられてきた。しかし、PVCはハロゲン元素を含有していることから、廃電線焼却時にダイオキシンの発生か指摘されるようになりノンハロゲン化が強く望まれるようになった。
【0003】
ノンハロゲン難燃電線・ケーブルは、ハロゲン元素を含まないオレフィン系ポリマと難燃剤に水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムの何れか若しくは両方を含み、更にメラミンシアヌレート、ホウ酸亜鉛及びホウ酸金属塩等の難燃助剤から構成されているものが知られている(特許文献1,2)。
【0004】
上記の技術でハロゲン元素を含まないオレフィン系ポリマとしては、ポリエチレン(以下PEと称す)の他に燃焼時に難燃性に有利な酸素遮断効果のある炭化膜を形成するエチレン・エチルアクリレートコポリマ(以下EEAと称す)又はエチレン・酢酸ビニルコポリマ(以下EVAと称す)の単独もしくはブレンド物が主に用いられている。さらに難燃性を高めるために上記難燃剤、難燃助剤を併用していることが知られている。
【0005】
機器用途の電線では、これらの樹脂組成物からなる電線の端末に図1に示す圧接コネクタを取りつけて使用される。
【0006】
すなわち、コネクタ10には、電線11を保持するストレインリリーフ12と電線11の芯線11aと接触する溝刃を持つ金具13とを有し、電線11の端末をストレインリリーフ12間に打ち込んで保持させると共に被覆層11bを金具14に形成された溝刃で破って芯線11aと金具13とを電気的に接触させるようになっている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−194802号公報
【特許文献2】特開2003−160698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、オレフィン系ポリマからなる樹脂組成物では従来のPVC電線と比較して柔らかく変形しやすい。変形が生じるとコネクタ10から電線11が抜けやすく、最悪の場合、導通不良が起こるため改善すべき問題となっている。また、配線作業時にエッジに擦られると傷がついたり、芯線11aが露出するケースもある。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、機械的強度を改良し端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1の本発明は、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・ブテン共重合樹脂からなるポリオレフィン系ポリマの混合物100重量部に、金属水酸化物を40〜300重量部、ポリプロピレンからなるワックスを0.5〜10重量部混合した樹脂組成物で被覆層を形成したことを特徴とする端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【0010】
請求項2の発明は、上記ポリオレフィン系ポリマの混合物は、ポリエチレン20〜40重量%、ポリプロピレン20〜40重量%、プロピレン・ブテン共重合樹脂10〜30重量%からなる請求項1記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【0011】
請求項3の発明は、上記ポリオレフィン系ポリマの混合物100重量部に対し、無水マレイン酸コポリマを10〜30重量部加えた請求項1又は2記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【0012】
請求項4の発明は、上記無水マレイン酸コポリマは、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート、エチレンブテン共重合体、エチレン・プロピレンゴムに無水マレイン酸をグラフトしたポリマの1つ又はこれらの混合物からなる請求項3記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【0013】
請求項5の発明は、上記樹脂組成物の降伏強さが30MPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【0014】
請求項6の発明は、上記樹脂組成物が電離性放射線により架橋処理されている請求項1〜5のいずれかに記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば機械的強度に優れ端末加工性の良好なノンハロゲン難燃電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0017】
本発明はポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合樹脂からなるオレフィン系ポリマ100重量部に、金属水酸化物からなる難燃剤を40〜300重量部、ポリプロピレンからなるワックスを0.5〜10重量部混合することで低粘度で難燃性に優れたノンハロゲン難燃電線を供給するものである。
【0018】
更にオレフィン系ポリマに、無水マレイン酸コポリマを10〜30重量部含むことで機械的特性を向上させることができる。
【0019】
これらの樹脂組成物でも十分に電線の機能を満足することができるが、降伏強さが30MPa以上であればコネクタに電線を取りつける際の電線の変形をなくすことができる。
【0020】
また特に照射量は規定しないが電離性放射線により架橋処理することで機械的特性の更なる向上が図れる。
【0021】
本発明で用いるポリエチレンとしては、高、中、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン・ヘキセンコポリマ、エチレン・オクテンコポリマが挙げられる。
【0022】
ポリプロピレンとしては、ホモ、ブロック、ランダムタイプを挙げることができる。このポリプロピレンは、高融点(150−170℃)で機械的強度が高いため、樹脂組成物の変形を抑えることができる。
【0023】
プロピレン・ブテン共重合樹脂とは、プロピレン主鎖にブテンを共重合させた新規なポリマであり、ポリプロピレン並みの強度をもち、融点が75℃と低いのが特徴でポリプロピレンとの相溶性が高い。
【0024】
これら3種のポリマは、特に比率を規定しないが、ポリエチレンを20〜40重量%、ポリプロピレンを20〜40重量%、プロピレン・ブテン共重合樹脂を10〜30重量%の範囲が好ましい。
【0025】
上記ブレンドポリマに添加するポリプロピレンからなるワックスは、プロピレンの単独重合したポリプロピレンワックス、或いはプロピレンを主体に、他のエチレンなどの単量体を共重合させて形成した数平均分子量が1000〜20000のワックスであり、通常の脂肪酸ワックスに比べて高融点であり、ポリプロピレンの加工性と伸びを改善する。
【0026】
このポリプロピレンからなるワックスの添加量を、0.5〜10重量部に規定したのは、0.5重量部未満では加工性に乏しく、10重量部を超えると樹脂組成物の伸び、耐寒性が低下するためである。
【0027】
またワックスをポリプロピレンに限定したのは、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの所謂、脂肪酸からなるワックスでは降伏強さが低下し、さらにブリードの発生により難燃性が低下するからである。
【0028】
無水マレイン酸コポリマとしては、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレンゴムに無水マレイン酸をグラフトしたポリマが挙げられる。
【0029】
ここで無水マレイン酸コポリマを10〜30重量部加えるのは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物との密着を高め、降伏強さの向上が図れるからである。10重量部未満では効果がなく、30重量部を超えると伸びが低下するからである。
【0030】
金属水酸化物の添加量を40〜300重量部に規定したのは40重量部未満では難燃性が不十分であり、300重量部を超えるとそれ以上の難燃効果は小さく、むしろ機械的特性や伸びが低下するからである。用いる金属水酸化物は水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを単独もしくは併用で使用しても良い。また表面をシラン処理して用いるのが好ましい。
【0031】
我々は鋭意検討の結果、材料の降伏強さと、コネクタ圧接時の変形に相関があることを見出した。この樹脂組成物の降伏強さを30MPa以上と規定したのは、30MPa以上あれば圧接時の変形が発生しないからである。
【0032】
上記樹脂組破物に電離性放射線で架橋処理を施すことでポリマ間の結合力が増加し降伏強さなどの機械的強度の更なる向上を図ることができる。
【0033】
また、上記配合に難燃助剤、着色剤、カーボンブラック、架橋助剤、充填剤、滑剤等を適宜加えても良い。
【実施例】
【0034】
下記表1に実施例1〜12を、表2に比較例1〜11を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
実施例、比較例に用いた試料を以下に示す。
【0038】
プロピレン・ブテン共重合樹脂
ポリエチレンA(密度:0.90g/cm3 MI:0.8g/10min)
ポリエチレンB(密度:0.93g/cm3 、MI:1.0g/10min)
ポリプロピレン(融点:157℃、MI:2g/10min)
EVA(酢酸ビニル量:42%、MI:0.2g/10min)
EEA(エチルアクリレート量:15%、MI:0.8g/10min)
水酸化マグネシウム(平均粒径1.0μm、シランカップリング剤処理)
水酸化アルミニウム(平均粒径0.8μm、シランカップリング剤処理)
無水マレイン酸コポリマ(無水マレイン酸共重合EEA、無水マレイン酸変性量:2%)
難燃助剤(メラミンシアヌレート)
酸化防止剤(テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−第三−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン)
上記試料を表1、2に示した配合量で配合し、その配合組成物を150℃に設定した加圧ニーダで混練してコンパウンドを作製した。
【0039】
240℃に保持した40mm押出機を用いて、このコンパウンドを外径0.48mmの7本撚り線からなる芯線上に外径0.88mmに押出被覆した。さらに、電子線架橋設備により1Mradの電子線を照射して架橋処理電線サンプルを作製した。
【0040】
表1,2中の特性は次の方法により測定した。
【0041】
引張強さと伸び及び降伏強さの測定は、JIS C−3005に準拠した。すなわち電線より芯線を抜いたチューブを用いて500mm/minの速度で引張った。引張強さは10MPa以上、伸びは150%以上を目標とした。
【0042】
成形加工性は、キヤピログラフ(東洋精機製)を用いて240℃での粘度を測定し、押出し性に優れる5000Pa・s以下を合格(○)、それ以上を不合格(×)と表記した。
【0043】
端末加工性は、自動圧接機(DN・J:AMP社製)と極数15のコネクタ(MiniCT)を用いて実施した。
【0044】
変形は、図2を基準に判定した。すなわち、電線11をストレインリリーフ12,12間に打ち込み、被覆層11bの15極中に1つでもストレインリリーフ(コネクターフック)12の補助線lをはみだした変形14があれば、×、すべてストレインリリーフ12の補助線l内に収まるものを○、○のなかでも特に変形が小さいものを◎とした。
【0045】
耐寒性は、電線を−20℃の低温槽内で4h保持した後に電線と同径(φ0.88)の金属棒に巻きつけたときの被覆層表面の状態を観察したもので、10倍のルーペで観察したとき、クラックやピンホールがあるものを×、無いものを○とした。
【0046】
難燃性は、UL subject 785に準拠した垂直燃焼試験(VW−1)を実施し、60秒以内に消炎したものを合格とした。
【0047】
表1から分るように本発明による実施例1〜12は引張強さ、伸び、端末加工性、難燃性の特性が良好である。
【0048】
一方、比較例1、2のようにポリエチレンA、ポリプロピレンやエチレン・ブテン共重合樹脂、プロピレンなど2種類のポリマーブレンドでは伸び、端末加工性、耐寒性を満足できない。
【0049】
また、比較例3、4のようにポリプロピレンを配合していないポリマも端末加工性を満足できない。
【0050】
難燃剤は40〜300重量部添加されたものは全て難燃性を満足するが、40重量部未満の比較例5では難燃性を満足せず、300重量部を超える比較例6では難燃性は満足するが伸びを満足しない。
【0051】
ブレンドポリマ100重量部に対し、無水マレイン酸コポリマを10〜30重量部加えたものは引張強さの向上がみられた。一方、実施例2に示す10重量部未満では引張強さに効果がなく、比較例7、8に示す30重量部を超えた40重量部のものでは引張強さは向上するが伸びを満足しない。
【0052】
ポリプロピレンワックスを0.5〜10重量部添加したものは加工性を満足するが、ポリプロピレンワックス添加量0の比較例5では加工性を満足せず、10重量部を超えた15重量部を添加した比較例8では耐寒性を満足しない。
【0053】
また、ワックスに脂肪酸アマイドを用いた比較例9〜11では降伏強さの低下により端末加工性を満足せず、添加量5重量部では難燃性も低下した。
【0054】
端末加工性は、本発明であれば満足するが、比較例1〜4、比較例9〜11のように30MPa以下では端末加工性が悪く、これにより端末加工性は降伏強さが30MPa以上あれば変形しないことを発見できた。
【0055】
電離性放射線架橋を施した実施例9、10は未実施の実施例1、6と比べて引張強さが良好である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】圧接コネクタの構成を示す部分斜視図である。
【図2】圧接コネクタに電線を打ち込んだときの絶縁層の変形を判定するための説明図である。
【符号の説明】
【0057】
10 圧接コネクタ
11 電線
l1a 芯線
11b 絶縁層
12 ストレインリリーフ
13 金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・ブテン共重合樹脂からなるポリオレフィン系ポリマの混合物100重量部に、金属水酸化物を40〜300重量部、ポリプロピレンからなるワックスを0.5〜10重量部混合した樹脂組成物で被覆層を形成したことを特徴とする端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。
【請求項2】
上記ポリオレフィン系ポリマの混合物は、ポリエチレン20〜40重量%、ポリプロピレン20〜40重量%、プロピレン・ブテン共重合樹脂10〜30重量%からなる請求項1記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。
【請求項3】
上記ポリオレフィン系ポリマの混合物100重量部に対し、無水マレイン酸コポリマを10〜30重量部加えた請求項1又は2記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。
【請求項4】
上記無水マレイン酸コポリマは、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート、エチレンブテン共重合体、エチレン・プロピレンゴムに無水マレイン酸をグラフトしたポリマの1つ又はこれらの混合物からなる請求項3記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。
【請求項5】
上記樹脂組成物の降伏強さが30MPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。
【請求項6】
上記樹脂組成物が電離性放射線により架橋処理されている請求項1〜5のいずれかに記載の端末加工性に優れたノンハロゲン難燃電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−97918(P2008−97918A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276315(P2006−276315)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】