説明

竹の乾留方法

【課題】竹を破裂させずに効果的に乾留できる新規な手法を提供し、各種用途に好適に用いることができる乾留竹を製造する。
【解決手段】生の青竹に竹酢液を塗った後乾燥させる工程と、この青竹を含水量、太さ、重量を考慮に入れつつ窯に配置する工程と、窯に配置した青竹を窯の中で高温処理する工程と、窯の中に放置して余熱により薫蒸・乾燥させる工程と、窯の中と外気との温度差が20℃以下になってから竹を窯から取り出す工程とからなり、青竹を窯の中で高温処理する工程は、窯の温度を200〜250℃に上げて該温度に所定時間維持した後、150〜190℃に下げて該温度に所定時間維持するように温度管理して行うことを特徴とする、竹の乾留方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は竹の乾留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
竹は、フローリングなどの各種建築資材、カーペットや壁材などの各種内装資材、各種工芸品、花器、食器などに広く使用されている。近年木材の枯渇化が深刻な問題となっているが、竹は成長が早いため木材に代わる天然資材として好適であり、竹製品が普及することは森林伐採を抑制し地球環境を守ることの一助となり得る。また、竹は木材より弾力性があり、しかも中空円筒形状を有することから加工性が良好であり、前記各種用途に供するための加工が容易であるという特徴を有している。さらに、曲線で構成され且つ節を含む外観が独特の風合いを醸し出し、いわゆる癒し空間を提供するための素材として好適である。
【0003】
竹は生の状態(青竹)での利用も可能であるが、高温の窯の中で蒸気により乾留することが広く行われている。竹を乾留することにより、竹の主成分であるタケキノンが全体に浸透して、繊維状態を安定させて寸法安定性を向上させると共に、防菌・防虫・脱臭効果を高めることができる。また、乾留により竹の表面が炭化して渋みのある濃い茶褐色を呈するものとなり、質感やインテリア性が更に向上する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
竹は高温で乾留することによって竹の繊維状態を安定させ且つ防菌・防虫・脱臭効果を十分に高めることができるが、温度管理が適切でないと竹が破裂してしまうという問題があった。乾留中に破裂した竹をさらに窯の中で焼くと、竹の表面だけでなく内面も炭化して濃い茶褐色となってしまい、特に工芸品、花器、食器などの用途に用いるには適さないものとなる。乾留温度を低く設定すれば竹の破裂を防ぐことができるが、この場合には竹の繊維状態が安定しないため寸法に狂いが生じやすく、また、防菌・防虫・脱臭効果も不十分となる。
【0005】
また、竹の粉末を脱臭剤などに利用する場合には、乾留中に割れてしまってもその用途において特に大きな問題はないとしても、上述のように表面だけでなく内面も炭化して濃い茶褐色となることから粉末も濃い茶褐色を呈することとなり、外観上好ましいものとは言えず、竹粉末の用途が限定されたものとならざるを得ない。
【0006】
したがって、本発明は、上述のような従来技術の課題を解決し、竹を破裂させずに効果的に乾留するための新規な手法を提供し、これにより竹の表面のみが炭化して濃い茶褐色を呈するが内面は青竹と同様の状態に維持された乾留竹を得、工芸品、花器、食器などを含めた各種用途に好適に用いることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明は、生の青竹を窯の中で乾留する方法において、窯の温度を200〜250℃に上げて該温度に所定時間維持した後、150〜190℃、好ましくは170〜180℃に下げて該温度に所定時間維持し、その後余熱で竹を乾燥させて、外気温との温度差が20℃以下となってから竹を取り出すことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、生の青竹に竹酢液を塗った後乾燥させる工程と、この青竹を含水量、太さ、重量を考慮に入れつつ窯に配置する工程と、窯に配置した青竹を窯の中で高温処理する工程と、窯の中に放置して余熱により薫蒸・乾燥させる工程と、窯の中と外気との温度差が20℃以下になってから竹を窯から取り出す工程とからなり、青竹を窯の中で高温処理する工程は、窯の温度を200〜250℃に上げて該温度に所定時間維持した後、150〜190℃、好ましくは170〜180℃に下げて該温度に所定時間維持するように温度管理して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、竹を破裂させずに乾留させることができ、表面はほぼ均等に炭化して濃い茶褐色を呈しながらも内面は青竹のきれいな状態が保持され、且つ、防菌・防虫・脱臭効果においても優れた乾留竹を効率的に製造することができる。このような乾留竹は、質感やインテリア性に優れており、フローリングなどの各種建築資材、カーペットや壁材などの各種内装資材、各種工芸品、花器、食器などを含む広範な用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による竹の乾留方法は、
a 生の青竹に竹酢液を塗った後乾燥させる工程と、
b この青竹を含水量、太さ、重量を考慮に入れつつ窯に配置する工程と、
c 窯に配置した青竹を窯の中で高温処理する工程と、
d 窯の中に放置して余熱により薫蒸・乾燥させる工程と、
e 窯の中と外気との温度差が20℃以下になってから竹を窯から取り出す工程と、
を含む。
【0011】
a工程は、竹にある疵を目立たなくすると共に仕上げの色を均一にするために行うことが好ましい。
【0012】
b工程は、次のc工程を行ったときに竹の含水量(含水率)、太さ、重量が大きいほど燃焼(炭化)に時間を要することになることから、窯の中の温度は窯の下部より上部、手前(入口側)より奥の方が高くなるという窯の温度分布に照らして、すべての青竹が略均等に焼かれるように窯に配置するものである。
【0013】
青竹を焼くために用いる窯としては、図1および図2に示すように、鉄などで形成され且つその表面に粘土を盛りつけて略ドーム状とされた窯10を用いることができる。窯10の内部には入口11から奥に至るまで略直径(たとえば約3m)に等しい長さだけ延長するレール12が敷設され、その上を台車13が走行可能である。台車13は多段に棚14a〜14cを有し、各棚に青竹15を載置可能である。図示しないが、入口11は鉄扉などで密閉可能とされている。また、図示しないが、窯10の天井などには温度センサが設置されると共にこれにより測定された温度を外部から目視確認するための温度表示部が窯10の外壁などに設けられており、後述する窯10内の温度制御を行う際の目安とする。
【0014】
このような窯10を用いてc工程を行うと、最上段の棚14aの最奥に配置した青竹15a1と最も手前側に配置した青竹15a2を比べると青竹15a1の方が高温となり、同様に、中段の棚14bの最奥に配置した青竹15b1と最も手前側に配置した青竹15b2を比べると青竹15b1の方が高温となり、最下段の棚14cの最奥に配置した青竹15c1と最も手前側に配置した青竹15c2を比べると青竹15c1の方が高温となる。また、窯10の奥行き方向の配置位置が同じであれば、最上段の棚14aに載置された青竹が最も高温となり、歳下段の棚14cに載置された青竹が最も温度上昇が緩慢となる。したがって、このような窯10内の温度分布に従い、含水量・太さ・重量の大きい青竹は窯内の温度が高くなる位置に配置し、含水量・太さ・重量の小さい青竹は窯内の温度が比較的低くなる位置に配置する。
【0015】
c工程は、窯10内で台車13の各棚14a〜14cに載置された多数の青竹15を木片、竹片などの燃料を用いて焼く(部分的に炭化させる)工程であり、図3に示すような温度制御の下で実行される。なお、燃料は特に限定されないが、竹には油分が多く含まれていることから高温(たとえば200℃以上)で焼くときには竹片を用い、中温(たとえば150〜200℃)で焼くときには木片を用い、低温(たとえば150℃以下)で焼くときには原木の丸太などを用いることが好ましい。
【0016】
図3を参照して、多数の青竹15を収容した窯10に入口11から木片などの燃料を必要量投入した後、これを燃焼させて、窯10内の温度を短時間で急激に上昇させて温度T1とする(c−1)。温度T1は200〜250℃であり、たとえば230℃とすることができる。このような高温T1に、たとえば燃焼開始後30分以内に一挙に昇温させることは、窯10の容量および青竹15の含水量や数量などを考慮した上で大量の竹片を燃料として用いることにより容易に実行可能であり、必要であれば燃料投入を断続的に複数回行う。
【0017】
次いで、この高温状態T1を30分程度維持する(c−2)。高温状態T1を維持するために燃料投入を断続的に行う。燃焼開始からc−2工程終了までの時間は30〜60分程度とすることが好ましい。
【0018】
その後、燃料投入を一旦中止して窯10の温度をT2(T2<T1)に下げる(c−3)。温度T2は150〜190℃、好ましくは170〜180℃である。この降温c−3に要する時間は10〜30分であり、好ましくは15分程度である。
【0019】
次いで、窯10をこの温度範囲T2に所定時間、たとえば15〜45分、より好ましくは20〜40分維持する(c−4)。このために燃料投入を断続的に行う。
【0020】
その後、燃料投入を中止して余熱で青竹に残存する水分を除去する(c−5)。この作業は、窯10の容量などにもよるが、ほぼ一昼夜に亘って行われ、この間に青竹に残存する水分が除去されて乾燥される。
【0021】
そして、窯10の温度(T3)と外気温との差が20度以下となったことを確認して、乾留された竹を窯10から取り出す(c−6)。この作業は、台車13をレール12に沿って窯10から引き出すことにより行うことができる。
【0022】
これらc−1からc−6の一連の作業により竹の乾留を行うことができる。たとえば午前10時に燃焼を開始して、c−1を20分間、c−2を30分間、c−3を15分間、c−4を30分間行った後、翌朝までc−5で余熱処理および放冷を行って、c−6で乾留竹を取り出す。このようにすると、一日サイクルで竹の乾留を繰り返し行うことができる。
【0023】
本発明実施例として、図1および図2に示す窯10を用いて一度に数十本の青竹を乾留処理するに当たり、午前10時に燃焼を開始し、c−1を20分間行って窯10の温度をT1=230℃まで上げて、c−2でこの温度に30分間維持した後、c−3で燃料投入を15分間中断して窯10の温度をT2=170℃まで下げ、c−4で燃料投入を再度行ってこの温度に30分間維持した後、燃料投入を中止してc−5で翌朝まで放置し、午前7時にc−6で乾留竹を取り出した。このときの窯10の温度T3は20℃であり、外気温は10℃であった。
【0024】
これに対し、c−1およびc−2の処理を行わず、燃焼開始からT2=170℃にしてその後は上記実施例と同様にしてc−4以降の処理を行って乾留したものを比較例1とした。
【0025】
また、c−1およびc−2の処理を上記実施例と同様にして行った後、c−3およびc−4の処理を行わずに直ちにc−5の余熱処理に移行してc−6を上記実施例と同様にして行ったものを比較例2とした。
【0026】
さらに、c−1およびc−2における温度T1を250℃とした他は上記実施例と同様にして乾留したものを比較例3、c−6における取り出し時の温度T3を35℃とした他は上記実施例と同様に処理したものを比較例4とした。
【0027】
本発明実施例の乾留方法によると、破裂させずに乾留竹を得ることができた。したがって、この乾留竹においては、表面はほぼ均等に炭化して濃い茶褐色を呈しながらも内面は青竹のきれいな状態が保持されており、各種用途に好適に使用することができるものであった。また、この乾留竹は防菌・防虫・脱臭効果においても優れたものであった。
【0028】
これに対し、比較例1では乾留処理温度が低いために十分な乾留効果が得られず、表面の茶褐色が薄くて乾留竹としての独特の風合いが十分に表現されないために用途が限定され、また、防菌・防虫・脱臭効果も満足できるレベルには達しないものであった。なお、比較例1においてT2=170℃でのc−4処理を3〜4時間の長時間継続して行うことも試みてみたが、この場合も表面の色が十分につかなかった。
【0029】
また、比較例2により得られた乾留竹においては、上側の表面は炭化して濃い茶褐色を呈するものとなっているが、上側の表面は炭化が不十分で茶褐色が薄く、均等な炭化状態が得られなかった。
【0030】
また、比較例3では最初の乾留温度T1を250℃としたため、約半数の竹に破裂が生じた。破裂した竹がその後も高温に晒されることにより、得られた乾留竹は、表面だけでなく内面側も炭化して濃い茶褐色を呈しており、特にインテリア性を重視した用途には不適なものであった。
【0031】
また、比較例4では窯からの取り出し時の温度T3と外気温との温度差が20度を超えていたため、窯から取り出したときにほぼ半数の竹が破裂してしまった。この乾留竹は、実施例1で得られた乾留竹と同様に表面はほぼ均等に炭化して濃い茶褐色を呈しながらも内面は青竹のきれいな状態が保持されているものであったが、破裂してしまったため、粉状にして用いる限定された用途にしか供することができないものとなった。
【0032】
図4は、以上の評価を表形式で示すものである
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、竹を破裂させずに乾留させることができ、表面はほぼ均等に炭化して濃い茶褐色を呈しながらも内面は青竹のきれいな状態が保持され、且つ、防菌・防虫・脱臭効果においても優れた乾留竹を効率的に製造することができるので、前述の各種用途に好適に使用することができることはもちろん、新たな用途への適用も視野に入れることができる。
【0034】
たとえば、本発明により得られた乾留竹を粉状にして乾留竹粉とし、これを繊維または生地に固着して衣類や寝具類などとすることができる。また、本発明により得られた乾留竹を破砕して綿状にして糸を作れば、この糸から各種衣類を縫製することができる。乾留竹は、アンモニア、ピリジン(体臭や汗の原因物質)、タバコ臭などの悪臭に対してきわめて強力な吸着力を発揮するため、この乾留竹粉や乾留竹糸から製造された衣類や寝具類は、介護高齢者用の衣類・寝具類、犬などのペット用衣類、各種スポーツ用ユニフォームその他消臭効果を必要とする製品として幅広い用途が見込まれる。
【0035】
また、約20ミクロンの超微粒子とした乾留竹粉をペットフード(ドッグフード、キャットフードなど)に混入すると、その消臭効果によって排泄時の悪臭を緩和することができる。
【0036】
乾留竹には飲食物をまろやかな味わいにする効果もあり、特に本発明により得られる乾留竹はほとんど炭化されずに白色に維持される部分を有するため飲食物に入れても違和感がない。この乾留竹粉を錠剤状やタブレット状などに固化したサプリメントとして提供すれば、これをアルコール類に入れればまろやかな味となり、ブラックコーヒーに入れればアメリカンのような味わいとなり、渋いお茶に入れてもまろやかな味となり、料理に入れれば辛いものや濃いものもまろやかな味わいとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による竹の乾留方法に用いることができる窯の一例を示す内部断面図である。
【図2】この窯の内部平面図である。
【図3】本発明による竹の乾留方法を温度/時間のグラフで示す図である。
【図4】本発明実施例および比較例についての評価を表形式で示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 窯
11 入口
12 レール
13 台車
14a〜14c 棚
15 青竹

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の青竹を窯の中で乾留する方法において、窯の温度を200〜250℃に上げて該温度に所定時間維持した後、150〜190℃に下げて該温度に所定時間維持し、その後余熱で竹を乾燥させて、外気温との温度差が20℃以下となってから竹を取り出すことを特徴とする、竹の乾留方法。
【請求項2】
生の青竹に竹酢液を塗った後乾燥させる工程と、この青竹を含水量、太さ、重量を考慮に入れつつ窯に配置する工程と、窯に配置した青竹を窯の中で高温処理する工程と、窯の中に放置して余熱により薫蒸・乾燥させる工程と、窯の中と外気との温度差が20℃以下になってから竹を窯から取り出す工程とからなり、青竹を窯の中で高温処理する工程は、窯の温度を200〜250℃に上げて該温度に所定時間維持した後、150〜190℃に下げて該温度に所定時間維持するように温度管理して行うことを特徴とする、竹の乾留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−131746(P2007−131746A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326620(P2005−326620)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(500532481)有限会社チャコール (1)
【Fターム(参考)】