説明

第二種吸収ヒートポンプシステム

【課題】通年に亘って、安定した運転状態を確保できる第二種吸収ヒートポンプシステムを得る。
【解決手段】凝縮器4の冷却媒体が循環して、大気と熱交換可能な大気側熱交換器6aと、地中7と熱交換可能な地中側熱交換器7aとを備え、被加熱媒体に求められる温度に従って決まる冷却媒体cの温度である所要冷却媒体温度より大気温度が低い場合に、冷却媒体cを大気側熱交換器6aを介して放熱させ、所要冷却媒体温度より大気温度が高い場合に、冷却媒体cを地中側熱交換器7aを介して放熱させる第1冷却媒体循環制御手段8aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排熱ヒートポンプによる蒸気発生技術に関し、さらに、詳細には、冷媒液を加熱して冷媒蒸気を発生させる蒸発器と、吸収溶液が前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収する際の吸収熱で被加熱媒体を加熱する吸収器と、前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収して濃度が低くなった希溶液を導入し、当該希溶液を加熱することで、前記希溶液中の冷媒を蒸発させて前記希溶液よりも高濃度の濃溶液を生成する再生器と、前記再生器で蒸発した冷媒蒸気が導入され凝縮させて前記蒸発器に供給する冷媒液を生成する凝縮器とを備えて構成され、前記被加熱媒体の温度が、前記再生器において濃溶液を得るための加熱熱源の温度より高い熱出力を得ることができる第二種吸収ヒートポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンやディーゼルエンジン等の原動機で発電し、その排熱で蒸気を得ることは、従来から広く行われてきた。このような排熱の利用形態としては、従来、原動機から発生する排気ガスを蒸気ボイラに導き、蒸気を得て排熱を利用してきた。最近、排熱源であるジャケット水(加熱熱源である加熱媒体の一例)をそのまま、あるいは、排気ガスと熱交換した後に、第二種吸収ヒートポンプに通じて蒸気を得ようとする研究が盛んである(非特許文献1)。
【0003】
図3に、第二種吸収ヒートポンプの構成を、図4に臭化リチウム−水系のデューリング線図を示す。
図4のデューリング線図上の丸付き番号は、図3のシステム上の番号に対応している。
図3に示すように、第二種ヒートポンプは、冷媒液を加熱して冷媒蒸気を発生させる蒸発器1と、吸収溶液が前記蒸発器1で発生した冷媒蒸気を吸収する際の吸収熱で被加熱媒体を加熱する吸収器2と、前記蒸発器1で発生した冷媒蒸気を吸収して濃度が低くなった希溶液を導入し、当該希溶液を加熱することで、前記希溶液中の冷媒を蒸発させて前記希溶液よりも高濃度の濃溶液を生成する再生器3と、前記再生器3で蒸発した冷媒蒸気が導入され凝縮させて前記蒸発器1に供給する冷媒液を生成する凝縮器4とを備えて構成されている。
【0004】
図3において、蒸発器1と吸収器2の圧力P´Hは再生器3と凝縮器4の圧力P´Lより高くなっている。これは、吸収冷凍機の場合と反対である。原理を簡単に説明すると、再生器3で、加熱熱源であるジャケット水によって冷媒である水を分離し、凝縮器4で凝縮させる。凝縮した水は加圧して蒸発器1に送り、再生器3で熱利用した後のジャケット水で蒸発させる。蒸発させた水は吸収器2において再生器3から送られた溶液であるLIBr濃溶液に吸収され、その吸収熱によって温度が上昇する。吸収器2からその熱を被加熱媒体に回収すれば、ジャケット水よりも高い温度の熱出力が得られ、これで蒸気を得ることができる。吸収器2で蒸気を吸収した溶液は、減圧後に再生器3に返されサイクルを繰り返す。
【0005】
さて、図4に示すデューリング線図上に各部の大まかな温度を示したが、再生器3と蒸発器1の温度はジャケット水温度Tjによって決まり、凝縮器4の温度は冷却水Tcの温度によって決まる。
再生器3と蒸発器1の温度が85℃、凝縮器4の温度が35℃であれば、図4に示すように吸収器2で得られる最高温度Tdは142℃程度であり、これによって絶対圧0.3MPa(飽和温度133.54℃)程度の蒸気を取り出せる。
【0006】
【非特許文献1】日立評論 2007.03 vol.89 NO.03 290−291 炭酸ガス削減への日立の取り組みと今後のエネルギーサービス事業展開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、需要の多い0.4MPa(飽和温度143.62℃)以上の蒸気を取り出すことは困難である。
このレベルの蒸気を取り出すには吸収器2の温度を150℃以上にしなければならない。
このための手法として、ジャケット水温度を上げる(図5に示す例では90℃まで上げている)方法がある。また、吸収ヒートポンプを二重連結し、第一の吸収ヒートポンプで昇温した熱で、第二の吸収ヒートポンプを加熱する方法もある。しかし、前者はエンジン側の設計条件で制約される場合が多く、後者ではCOPが個々のサイクルのCOPの乗算になり、著しく低下する。
【0008】
一方、これらが困難な場合、冷却水温度を下げて、凝縮圧力を下げてもよい。この場合、凝縮器温度は30℃程度まで下げる必要がある。このためには、凝縮器4の温度と冷却水の温度との温度差Δtを5℃とすれば、25℃程度の冷却水が必要となる。しかしながら、大気と熱交換を行うクーリングタワーを用いる場合は、夏の最盛期に、この温度を超えることが多い。例えば、大阪府の8月の月平均日中最高温度は32℃、平均温度は26℃、月平均日中最低温度は22℃程度である。従って、クーリングタワーにより得られる冷却水を、第二種吸収ヒートポンプの冷却水(低温の冷却媒体)とする技術には、通年の運転を考慮すると無理がある。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、通年に亘って、安定した運転状態を確保できる第二種吸収ヒートポンプシステムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る冷媒液を加熱して冷媒蒸気を発生させる蒸発器と、
吸収溶液が前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収する際の吸収熱で被加熱媒体を加熱する吸収器と、
前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収して濃度が低くなった希溶液を導入し、当該希溶液を加熱することで、前記希溶液中の冷媒を蒸発させて前記希溶液よりも高濃度の濃溶液を生成する再生器と、
前記再生器で蒸発した冷媒蒸気が導入され凝縮させて前記蒸発器に供給する冷媒液を生成する凝縮器とを備えて構成され、
前記被加熱媒体の温度が、前記再生器において濃溶液を得るための加熱熱源の温度より高い熱出力を得る第二種吸収ヒートポンプシステムの第1特徴構成は、
前記凝縮器の冷却媒体が循環して、大気と熱交換可能な大気側熱交換器と、地中と熱交換可能な地中側熱交換器とを備え、
前記被加熱媒体に求められる温度に従って決まる前記冷却媒体の温度である所要冷却媒体温度より大気温度が低い場合に、前記大気温度より温度の低い地中に、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器を介して放熱させ、前記所要冷却媒体温度より大気温度が高い場合に、前記冷却媒体を前記地中側熱交換器を介して放熱させる第1冷却媒体循環制御手段を備えたことにある。
【0010】
まず、ヒートポンプ側の作動状態を図2に示すデューリング線図従って説明すると、凝縮器4に導入される冷却媒体温度を低下させることにより、凝縮器4、再生器3の圧力PLを低下させることが可能となり(図示する例にあっては、凝縮器での冷媒の凝縮温度Tcを35℃から30℃に低下させた例を示している)、吸収器2で得ることができる熱出力の温度Tdを上昇でき(図示する例にあっては142℃から154℃に上昇させた例を示している)、結果的に、目的とする140℃近辺の蒸気を被加熱媒体を使用して得ることができる。この場合、凝縮器に導入される冷却媒体の温度としては、25℃以下となっていることが必要となる。
【0011】
さて、このような冷却媒体温度(最大25℃)を得るための本願に係る手法であるが、本願にあっては、第1冷却媒体循環制御手段を設け、被加熱媒体に求められる温度に従って決まる冷却媒体の温度である所要冷却媒体温度(上記説明した例では25℃)より大気温度が低い状況では、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器を介して放熱させ、前記所要冷却媒体温度より大気温度が高い状況では、前記冷却媒体を前記地中側熱交換器を介して放熱させる。
【0012】
よく知られているように、地中の温度は年間の平均温度に近く、概ね15〜20℃程度である。これに対して大気温は真夏日以外は25℃以下のことが多いが、真夏日には、25℃より高くなることもある。
【0013】
そこで、本願においては、通常状態においては、大気側熱交換器を介して冷却媒体の熱を大気中に放熱させ、大気温度が所要冷却媒体温度より高くなった場合に、この温度より低く維持されている地中に冷却媒体の熱を放出させる。
結果、通用の大気側熱交換器を設備するとともに、例えば、真夏日といった高温日のみ地中へ放熱する構成を採用することで、比較的小型の地中側熱交換器を採用しても、通年に亘って、安定した運転状態を確保できる。
【0014】
そして、本願にあっては、主には大気側を冷熱を得るのに利用し、大気側では良好に運転できない場合にのみ地中側を利用するため、基本的には従来型の設備構成を利用しながら、通年に亘って良好に運転できるシステムを容易に得ることができる。
本発明に係る第二種吸収ヒートポンプシステムの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間に、前記冷却媒体が循環可能に構成され、前記大気温度が地中温度より低下し、前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間を前記冷却媒体が循環して、大気側から地中側へ冷熱搬送が可能な地中冷却可能状態において、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間で循環させる第2冷却媒体循環制御手段を備えた点にある。
【0015】
上記第2特徴構成によれば、第2冷却媒体循環制御手段の働きにより、前記大気温度が地中温度より低下し、前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間を前記冷却媒体が循環して、大気側から地中側へ冷熱搬送が可能な地中冷却可能状態において、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間で循環させる。
即ち、第2冷却媒体循環手段は、大気温度(大気の湿球温度)が地中温度よりも低下した場合は、上昇した地中温度を低下させて回復するようにしておくことで、さらに、小規模の地中熱交換器を効果的に利用でき、更なるコストダウンに繋がる。
【0016】
本発明に係る第二種吸収ヒートポンプシステムの第3特徴構成は、上記第1又は第2特徴構成に加えて、前記再生器内の溶液が、溶液に結晶が発生する結晶発生状態となるのを抑制する結晶発生状態抑制手段を備えた点にある。
【0017】
上記第3特徴構成によれば、再生器における結晶の発生を抑制でき、良好な運転状態を維持できる。
さらに具体的には、本願の第5特徴構成のように、
前記冷媒が水で、前記吸収溶液が臭化リチウム水溶液である場合、
前記結晶発生状態抑制手段が、
前記再生器の圧力を計測し、あるいは前記凝縮器の温度を計測して再生器の圧力である凝縮圧力を計算し、
当該再生器の圧力の関数として決まる結晶開始温度未満に再生器温度を維持するように制御する。
【0018】
本願のように、温度の低い冷却媒体を使用し凝縮器を冷却する場合、注意しなければならないのは、冷却しすぎると、LiBr結晶線(図2参照)に到達してしまい、溶液が結晶化してしまうことである。
そこで、先に説明した図2に示すサイクル(図上、太い実線で示す)の右下位置(番号丸付き数字3で示す)が常に結晶線(図上、太い一点鎖線で示す)の左上に来るように制御する。この制御は、再生器3の圧力が判れば、結晶線の温度が判るので、サイクル上丸付き番号3で示す位置の温度が、その圧力における結晶線の温度より高くなりそうなら、温度の上昇を抑制するのである。この抑制に関しては、例えば、凝縮器に供給する冷却媒体の温度を上げるか、冷却媒体の量を減少させて、凝縮器及び再生器の圧力を上昇させて、再生器温度の上昇を抑制することができる。このようにして、良好な運転状態を維持できる。
ここで、再生器の圧力は直接計測してもよいが、再生器の圧力は凝縮器の凝縮圧力に等しいので凝縮器の温度を計測して間接的に求めることもでき、容易に結晶発生状態抑制手段を実現できる。
【0019】
さて、本発明に係る第二種吸収ヒートポンプシステムの第4特徴構成は、上記第1〜第3特徴構成に加えて、前記再生器の加熱媒体を前記再生器における前記希溶液の加熱後、前記蒸発器に送り、前記蒸発器において前記冷媒の蒸発の加熱に使用する構成で、再生器導入前の前記加熱媒体が80℃〜95℃の範囲にある温水であることにある。
【0020】
一度、熱回収を経て、従来、利用されず、捨てられることが多かった、80℃〜95℃の範囲にある温水の保有する熱を、効率的に回収して利用することができる。
以上より、コストを抑えつつ、80〜95℃の温水駆動の第二種吸収ヒートポンプで0.4MPa程度の蒸気を、良好に取り出せる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願の第二種吸収ヒートポンプシステム100を、図面に基づいて説明する。図1は、本願に係る第二種吸収ヒートポンプシステム100の構成を示す図であり、図2は、当該第二種吸収ヒートポンプシステム100の作動状態に対応するデューリング線図である。
【0022】
本願に係る第二種吸収ヒートポンプシステム100は、蒸発器1、吸収器2、再生器3及び凝縮器4からなる吸収ヒートポンプ5と、前記凝縮器4で回収された凝縮熱を冷却媒体(具体的には冷却水)c0を介して大気に放出するための大気側熱交換器6aを備えたクーリングタワー6と、凝縮熱を冷却媒体c0を介して地中7に放出するための地中側熱交換器7aと、前記冷却媒体c0の循環経路L(L1,L2)を決定する制御装置8とを主要機器として備えている。
以下、順に説明する。
【0023】
第二種吸収ヒートポンプ
この第二種吸収ヒートポンプ5は、冷媒液w(液状態にある冷媒c)を加熱して冷媒蒸気vを発生させる蒸発器1と、吸収溶液dが前記蒸発器1で発生した冷媒蒸気vを吸収する際の吸収熱で被加熱媒体hを加熱する吸収器2と、前記蒸発器1で発生した冷媒蒸気vを吸収して濃度が低くなった希溶液d1を導入し、当該希溶液d1を加熱することで、前記希溶液中の冷媒を蒸発させて前記希溶液よりも高濃度の濃溶液d2を生成する再生器3と、前記再生器3で蒸発した冷媒蒸気vが導入され凝縮させて蒸発器1に供給する冷媒液wを生成する凝縮器4とを備えて構成されている。ここで、具体的には、前記冷媒cは水であり、吸収溶液dが臭化リチウム水溶液である。
【0024】
本願に係る第二種ヒートポンプ5の熱源及び熱出力に関して説明すると、図1に示すように、エンジン9等のジャケット水である加熱熱源(低温熱源と呼ぶことがある)としての温水が流れる、温水流路10が、再生器3から蒸発器1に渡って設けられている。従って、温水が保有する熱は、再生器3における吸収溶液dの再生(希溶液から濃溶液への再生)に使用されるとともに、蒸発器1における冷媒cの蒸発に使用される。結果、低温熱源である温水から低温温熱が回収される。具体的には、ジャケット水は高温側(95℃より高温)の熱回収を経ており、本願に係る再生器3へ導入される段階で80℃〜95℃となっている。
【0025】
一方、凝縮器4には、クーリングタワー6において冷却された、又は地中において冷却された冷却媒体c0としての冷却水が導入される凝縮熱交換器4aが設けられている。従って、冷却水が保有する冷熱により、凝縮器4に導かれた冷媒蒸気vが凝縮する。換言すると、冷媒蒸気vの温熱は凝縮器4において回収され、クーリングタワー6に送られた場合は大気側熱交換器6aを介して大気に放出され、地中7に送られた場合は地中側熱交換器7aを介して地中に放出される。ここで、地中側熱交換機7aは図示する例では、地中に埋めたU字管である。但し、地中熱交換器にはスリンキー等他の形態のものでも構わない。
【0026】
そして、吸収溶液dは再生器3(低温熱源から得た熱により再生されて希溶液d1から濃溶液d2となる)と吸収器2(冷媒を吸収して濃溶液d2ら希溶液d1となる)との間を循環して、冷媒cは相変化を伴って再生器3、凝縮器4、蒸発器1及び吸収器2を循環して作動する。
【0027】
従って、吸収器2においては、再生器3から送られてくる濃溶液d2は、別途、蒸発器1において蒸発し、当該吸収器2に送られてくる冷媒蒸気vを吸収する。この吸収時に発生する温熱は、吸収器2に備えられる熱交換器2aを介して、被加熱媒体hにより回収して、熱出力を得ることができる。この被加熱媒体hの温度は、低温熱源の温度より高温とすることができる。
【0028】
以上は、第二種吸収ヒートポンプ5の構成及び作動に関する説明であるが、以下、凝縮器4での凝縮熱の回収に使用する冷却水の循環冷却に関して説明する。
先にも説明したように、凝縮器4内に設けられた凝縮熱交換器4aとクーリングタワー6に設けられた大気側熱交換器6a、又は、凝縮熱交換器4aと地中7の地中側熱交換器7aとの間には、冷却水が循環するように構成されている。
【0029】
図1にL1で示す第1循環路が凝縮熱を大気側に放出する大気側放出循環状態で使用する循環路(破線矢印で示す)であり、図1にL2で示す第2循環路が凝縮熱を地中側に放出する地中側放出循環状態で使用する循環路(実線矢印で示す)である。
さらに、本願に係る第二種吸収ヒートポンプシステム100は、図示は省略するが、大気側熱交換器6aと地中側熱交換器7aとを循環する第3循環路を形成可能とされており、この第3循環路を形成した状態では、大気温が地中温より低い状態で、クーリングタワー6で生成される冷却水を地中に循環させることで、地中温度を低下させることができる。この大気側熱交換器6aと地中側熱交換器7aとの冷却水の循環については、ヒートポンプ停止時に図1の回路をそのまま利用してもよいし、地中側熱交換器7aの近傍に冷却用のチューブ(たとえばダブルUチューブ)を併設することで対処してもよい。
【0030】
以上が、凝縮器4の冷却水の循環系統の説明であるが、以下、これら循環路の使用形態に関して説明する。
図1に示すように、この第二種吸収ヒートポンプシステム100には制御装置8が備えられており、この制御装置8が、第1冷却媒体循環制御手段8a、第2冷却媒体循環制御手段8b及び結晶発生状態抑制手段8cを成すように構成されている。
第1冷却媒体循環制御手段8aは、被加熱媒体に求められる温度に従って決まる冷却媒体の温度である所要冷却媒体温度より大気温度が低い場合に、冷却媒体を大気側熱交換器6aを介して放熱させ、所要冷却媒体温度より大気温度が高い場合に、冷却媒体を地中側熱交換器7aを介して放熱させる。
【0031】
ここで、所要冷却媒体温度とは、被加熱媒体hに求められる温度に従って決まる冷却媒体c0の温度であり、図2に示すように、例えば、被加熱媒体hに求められる温度Tdが154℃である場合に、凝縮器温度Tcは30℃程度となり、冷却媒体に求められる温度は25℃となる。
そして、第1冷却媒体循環制御手段8aは、所要冷却媒体温度より大気温度が低い場合に、前記第1循環路L1を冷却媒体c0を循環させ、凝縮熱を大気側熱交換器6aを介して放熱させる。一方、所要冷却媒体温度より大気温度が高い場合には、前記第2循環路L2を冷却媒体c0を循環させ、凝縮熱を地中側熱交換器7aを介して放熱させる。
結果、冷却媒体c0の温度を所要冷却媒体温度以下に維持しながら、第二種吸収ヒートポンプシステムを良好に作動させることができる。
【0032】
さらに、第2冷却媒体循環制御手段8bは、大気温度が地中温度より低下し、大気側熱交換器6aと地中側熱交換器7aとの間を前記冷却媒体が循環して、大気側から地中側へ冷熱搬送が可能な地中冷却可能状態において、冷却媒体を大気側熱交換器6aと地中側熱交換器7aとの間で循環させる。即ち、第3循環路を形成して、両熱交換器6a,7a間を冷却媒体を循環させ、地中を大気が有する冷熱で冷却する。ここで、大気の温度は、具体的には、クーリングタワー6に備えられる大気側熱交換器6aを使用することから、大気の湿球温度となる。このように、大気側から地中を冷却することが可能な状況では、地中を冷却しておくことで、地中側熱交換器7aの小型化を図ることができる。
【0033】
結晶発生状態抑制手段8cは、再生器3における溶液の状態を、溶液に結晶が発生する結晶発生状態となるのを抑制する機能を果たす。さらに具体的には、この結晶発生抑制手段8cは、再生器3の圧力を計測する計測機構、あるいは凝縮器4の温度を計測する計測機構の計測結果から再生器圧力に等しい凝縮圧力を求める凝縮圧力導出手段8dを備え、求まる再生器圧力から当該再生器圧力の関数として決まる結晶開始温度未満に再生器温度を維持するように、前記凝縮器4に供給する冷却水の温度又は流量を制御する。このとき、再生器温度を予めモニターしておき、例えば、再生器温度が、温度上昇状態で、結晶開始温度に近づきつつある状態で、凝縮器4に供給する冷却水の温度を上昇させる、又は同温のまま水量を低減し、再生器圧力を上昇させることで、再生器温度を結晶開始温度未満に維持することができる。
このように再生器温度を管理することで、結晶を起こすことなく、システムを良好に運転維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
通年に亘って、安定した運転状態を確保できる第二種吸収ヒートポンプシステムを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本願に係る第二種吸収ヒートポンプシステムの構成を示す図
【図2】本願に係る第二種吸収シートポンプの作動状態におけるデューリング線図
【図3】従来の第二種吸収ヒートポンプの構成を示す図
【図4】従来の第二種吸収シートポンプの作動状態におけるデューリング線図
【図5】高温の熱出力を得るために熱源温度を上昇させた場合のデューリング線図
【符号の説明】
【0036】
1:蒸発器
2:吸収器
3:再生器
4:凝縮器
4a:凝縮器熱交換器
6:クーリングタワー
6a:大気側熱交換器
7:地中
7a:地中側熱交換器
8:制御装置
8a:第1冷却媒体循環制御手段
8b:第2冷却媒体循環制御手段
8c:結晶発生状態抑制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒液を加熱して冷媒蒸気を発生させる蒸発器と、
吸収溶液が前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収する際の吸収熱で被加熱媒体を加熱する吸収器と、
前記蒸発器で発生した冷媒蒸気を吸収して濃度が低くなった希溶液を導入し、当該希溶液を加熱することで、前記希溶液中の冷媒を蒸発させて前記希溶液よりも高濃度の濃溶液を生成する再生器と、
前記再生器で蒸発した冷媒蒸気が導入され凝縮させて前記蒸発器に供給する冷媒液を生成する凝縮器とを備えて構成され、
前記被加熱媒体の温度が、前記再生器において濃溶液を得るための加熱熱源の温度より高い熱出力を得る第二種吸収ヒートポンプシステムであって、
前記凝縮器の冷却媒体が循環して、大気と熱交換可能な大気側熱交換器と、地中と熱交換可能な地中側熱交換器とを備え、
前記被加熱媒体に求められる温度に従って決まる前記冷却媒体の温度である所要冷却媒体温度より大気温度が低い場合に、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器を介して放熱させ、前記所要冷却媒体温度より大気温度が高い場合に、前記大気温度より温度の低い地中に、前記冷却媒体を前記地中側熱交換器を介して放熱させる第1冷却媒体循環制御手段を備えた第二種吸収ヒートポンプシステム。
【請求項2】
前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間に、前記冷却媒体が循環可能に構成され、前記大気温度が地中温度より低下し、前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間を前記冷却媒体が循環して、大気側から地中側へ冷熱搬送が可能な地中冷却可能状態において、前記冷却媒体を前記大気側熱交換器と前記地中側熱交換器との間で循環させる第2冷却媒体循環制御手段を備えた請求項1記載の第二種吸収ヒートポンプシステム。
【請求項3】
前記再生器内の溶液が、溶液に結晶が発生する結晶発生状態となるのを抑制する結晶発生状態抑制手段を備えた請求項1又は2記載の第二種吸収ヒートポンプシステム。
【請求項4】
前記再生器における前記希溶液の加熱後、前記再生器の加熱媒体を前記蒸発器に送り、前記蒸発器において前記冷媒蒸発の発生に使用する構成で、
再生器導入前の前記加熱媒体が80℃〜95℃の範囲にある温水である請求項1〜3のいずれか一項に記載の第二種吸収ヒートポンプシステム。
【請求項5】
前記冷媒が水で、前記吸収溶液が臭化リチウム水溶液であり、
前記結晶発生状態抑制手段が、
前記再生器の圧力を計測し、あるいは前記凝縮器の温度を計測して凝縮圧力である再生器の圧力を求め、
当該再生器の圧力の関数として決まる結晶開始温度未満に再生器温度を維持する請求項3記載の第二種吸収ヒートポンプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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