説明

筆記具

【課題】本発明は前記問題点を解決するものであり、可逆熱変色性インキにより自由に形成した像や筆跡を変色することができる摩擦体を備えた筆記具を提供する。
【解決手段】少なくとも可逆熱変色性インキ6を内蔵する筆記具2であって、可逆熱変色性インキ6は、平均粒子径が0.5〜5.0μmの範囲内にあるマイクロカプセル顔料を水性溶媒中に分散させた構成となっており、該マイクロカプセル顔料は、25〜65℃の範囲に高温側変色点を有し、筆記具2は、弾性体からなる摩擦体1を備え、該摩擦体1は、曲率半径Rが1mm〜10mmの凸曲面形状の擦過部11を有し、手動操作で擦過したときの摩擦熱により、浸透性を有する紙に形成された可逆熱変色性インキの像又は筆跡を前記所定温度以上に加熱し、第1の発色状態から第2の発色状態、発色状態から消色状態、又は消色状態から発色状態に変色させる構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆熱変色性インキを内蔵するボールペン、サインペン又はマーキングペン等の筆記具に関する。更に詳細には、可逆熱変色性インキにより形成される像又は筆跡を、摩擦熱により変色させる弾性を有する摩擦体を備えた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、支持体上に形成された可逆熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦体を備えた熱変色セットが提案されている(特許文献1参照)。
前記提案で用いられる摩擦体は、摩擦熱を発生させるために擦過した際、可逆熱変色層を剥がしてしまい可逆的な色変化を損なうため、該可逆熱変色層上にオーバーコート層を設けて剥がれを防止する必要がある。
また、前記特許文献1に記載の摩擦体の擦過部に用いられる、例示された樹脂では、該樹脂自体が擦過により削られるため、カスが出て周囲を汚すことがある。更に、摩擦熱の発生効率が低いために擦過回数が増加することがあった。
また、前記特許文献1の可逆熱変色層には、可逆熱変色像の擦過する部分の剥がれを防止するためのオーバーコート層が設けられているので、既存の可逆熱変色像を変色させることしかできず、ユーザーが自由に形成した可逆熱変色像を変色することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−241388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記問題点を解決するものであり、オーバーコート層等の保護部材を必要とせず、可逆熱変色性インキにより形成された像や筆跡を剥がすことなく変色させ得ると共に、摩擦による損耗を起こしにくく、繰返し使用による持久性が高い摩擦体を備えた筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具であって、前記可逆熱変色性インキは、粒子径の平均値が0.5〜5.0μmの範囲内にあるマイクロカプセル顔料を水性溶媒中に分散させた構成となっており、該マイクロカプセル顔料は、25〜65℃の範囲に高温側変色点を有し、前記筆記具は、弾性体からなる摩擦体を備え、該摩擦体は、曲率半径Rが1mm〜10mmの凸曲面形状の擦過部を有し、手動操作で擦過したときの摩擦熱により、浸透性を有する紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を前記所定温度以上に加熱し、第1の発色状態から第2の発色状態、発色状態から消色状態、又は消色状態から発色状態に変色させることを特徴とする。
好ましくは、前記摩擦体に着色剤を含有することで、該摩擦体を、変色前後の少なくとも一方のインキ色に着色し、変色前後の少なくとも一方のインキ色を知らせる色表示機能部分とした構成とし、前記着色剤が、前記摩擦体の全量中0.1〜1.0重量%含有される構成とする。より好ましくは、前記摩擦体が、シリコーンゴムからなる構成としてもよい。
好ましくは、前記摩擦体がキャップの頂部又は軸胴の後端部に装着され、該摩擦体の外径Dと出長さLとがL<Dを満し、前記摩擦体の抜け力が10N以上である構成とする。好ましくは前記摩擦体に通気孔又は通気溝を貫設した構成としてもよい。
【0006】
本発明を図面を参考に説明する(図1〜図6参照)。
本発明の摩擦体1は、可逆熱変色性インキ6により形成された像又は筆跡を摩擦熱により簡易に変色させるものであり、像又は筆跡を擦過することで常態と異なる色彩に互変的に変色させるものである。
前記摩擦体1としてはシリコーンゴムが好適に用いられる。
【0007】
また、本発明の摩擦体1は、動力等を用いず手動操作によって発熱させ得るため、大がかりな装置を必要とせず、低コストで製造できると共に、可逆熱変色性インキ6を内蔵する筆記具2の軸胴5の後端部または筆記具用キャップ3の頂部に、嵌合や、2色成形等により設けて用いることができる。前記筆記具2により自由な像や筆跡を形成することができると共に、前記摩擦体1を用いて前記像や筆跡を容易に変色させ得る。
前記筆記具2に設けられる摩擦体1としては、汎用の弾性体を用いることができるが、シリコーンゴムであることが好ましい。
【0008】
前記シリコーンゴムは、熱変色像を剥がすことなく繰返し可逆的に変色させることができるのに対して、消しゴムや他のゴム類では、擦過した際、字消し力が高いため熱変色像の擦過部分が剥がれてしまい、変色効果が損なわれる。そのため、前記消しゴムや他のゴム類を用いる場合にはコーティング層等を設けて像を保護することが好ましい。
前記シリコーンゴムは、熱の発生効率が良いと共に、シリコーンゴム自体が削れ難いので、何度も擦過する必要なく容易に熱変色像を変色させることができ、削れカスにより擦過した部分の周辺を汚すことなく使用できる。また、擦過時の抵抗が少ないので滑らかに擦過できる。
【0009】
また、前記摩擦体1には着色剤を添加することができる。摩擦体1を着色することによってデザイン性に富んだものとなる。また、該摩擦体1を筆記具2に装着した場合には、第一状態又は第二状態のインキ色に着色し、第一状態の色又は変色により現れる色をユーザーに知らせる色表示機能部分としたり、筆記具2の外装に合わせて着色することでデザインの統一をることができる。
前記着色剤の添加量としては、摩擦体1全量中0.1〜1.0重量%含有されることが好ましい。0.1%未満では摩擦体1を鮮明に着色することができず、1.0%より多いと擦過した際に筆跡周辺に着色剤が色移りしてしまう。
前記着色剤としては一般に汎用の染料、顔料等を適宜使用できる。
更に、前記摩擦体1には、必要に応じて充填剤等の各種添加剤を加えることができる。
【0010】
また、筆記具2に装着した摩擦体1においては、擦過部11の形状を凸曲面とする。凸曲面とすることにより、筆跡を剥がすことなく、適度な柔らかさで擦過できる。また、筆跡との接触角度によらず一定の接触面積が得られ、広域を擦過することなく目的の部分のみを擦過できると共に、摩擦体1自体の磨耗性を低減でき、熱の発生効率が高められるので、削れカスが出ることなく、変色させたい部分を的確且つ容易に変色できる。
更に、前記凸曲面の曲率半径Rを、1mm〜10mmの範囲に設定することで、前記筆記具2により形成される幅の狭い筆跡を的確且つ容易に変色させ得る。
【0011】
また、筆記具2に装着した摩擦体1の外径Dと、出長さLが、L<Dを満たすことにより、擦過時の該摩擦体1のぐらつきや、脱落が防止でき、擦過不良が生じることもなくなる。前記外径Dと、出長さLは、0.25≦L/D≦0.85を満たすことが好ましい。
【0012】
更に、前記摩擦体1の抜け力を10N以上とすることにより、筆記具2から摩擦体1を容易に外すことができなくなり、幼児等の誤飲を防止できる。前記筆記具2に摩擦体1を装着する際、抜け力を向上する目的で、筆記具2の摩擦体嵌合部31の内面に係止用リブ32を設けこともできる。
【0013】
また、前記摩擦体1が、外径Dと、出長さLとの間に、L<Dを満たすと共に、抜け力10N以上である場合、該摩擦体1が擦過時にぐらついたり、脱落しないと共に、引っ張った時に容易に外れなくなるため、商品としての適用性が高いものとなる。
【0014】
更に前記摩擦体1に通気孔や通気溝を貫設することで、幼児等が誤飲した場合にもより安全性の高いものとなる。
【0015】
次に可逆熱変色性インキ6について説明する。
本発明の摩擦体1により可逆的に変色される可逆熱変色像及び筆跡を形成する可逆熱変色性インキ6は、発色状態から加熱により消色し、消色状態からの冷却により発色状態に復する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等種々のタイプで構成することにより、擦過により変色した像が瞬時に元の色に戻るものや、擦過による変色を広い温度範囲で保持できるもの等、マジック性に富んだ像を形成できる。また、前記可逆熱変色性インキ6は、最低低温側変色点を−30℃〜+10℃の範囲、且つ最大高温側変色点を36℃〜65℃の範囲に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができ、実用性が高いものとなる。
【0016】
また、筆記具2に内蔵される可逆熱変色性インキ6に含有される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効であり、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては、本出願人が提案した、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載のものが利用できる。前記は所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、完全消色温度以上の温度域で消色状態、完全発色温度以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しない。即ち、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔHA=1〜7℃)を有する。
ΔHAが3℃以下の系〔特公平1−29398号公報に示す、3℃以下のΔT値(融点−曇点)を示す脂肪酸エステルを変色温度調節化合物として適用した系〕にあっては、完全消色温度(t4)及び完全発色温度(t1)を境に温度変化に鋭敏に感応して高感度の変色性を示し、ΔHAが4〜7℃程度の系では変色後、緩徐に元の様相に戻り、視認効果を高めることができる(図5参照)。
又、本出願人が提案した特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔHB =8〜50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t1)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t4)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t2〜t3の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図6参照)。
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点を25℃〜65℃(好ましくは、36℃〜65℃)の範囲に設定する。
尚、前記最低低温側変色点〔完全発色温度(t1)〕は、−30℃〜+20℃(好ましくは、−30℃〜+10℃)の範囲から選ばれる任意の温度に設定できる。
前記温度設定により、発色開始温度(t2)と消色開始温度(t3)の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。
又、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11−129623号公報、特開平11−5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001−105732号公報)、更に、消色状態からの加熱により最大高温側変色点(完全発色温度)で発色する、没食子酸エステル等を適用した系等を適用できる。
ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル中、或いはインキ中に非熱変色性の染料、顔料等の着色剤を配合して、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成となすことができる。
【0017】
前記マイクロカプセル顔料は、粒子径の平均値が0.5〜5.0μm、好ましくは1〜4μmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径が5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、平均粒子径が0.5μm未満の系では高濃度の発色性を示し難くなる。
【0018】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、インキ組成物全量に対し、2〜50重量%(好ましくは3〜40重量%、更に好ましくは、4〜30重量%)配合することができる。2重量%未満では発色濃度が不充分であり、50重量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性が阻害される。
【0019】
本発明の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料におけるカプセルの形態は、円形断面の形態のものの適用を拒まないが、非円形断面の形態が効果的である。
筆記により形成される可逆熱変色性筆跡は、前記マイクロカプセル顔料が濃密に配向、固着されており、高濃度の発色性を示すと共に、前記筆跡を摩擦体1による擦過等による外力に対して、前記マイクロカプセル顔料は外力を緩和する形状に微妙に弾性変形し、マイクロカプセルの壁膜の破壊が抑制され、熱変色機能を損なうことなく有効に発現させることができる。
ここで、前記非円形断面形状のマイクロカプセル顔料は、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1〜1/1(重量比)の範囲を満たしていることが好ましい。
可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を起こし、逆に、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を免れず、好適には、可逆熱変色性組成物/壁膜=6/1〜1/1(重量比)である。
【0020】
前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化には、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、コアセルベート法等の公知の手段が適用できるが、本発明の前記した要件を満たす粒子径範囲のマイクロカプセル顔料を得るためには、凝集、合一化が生じ難い界面重合法又は界面重縮合法の適用が効果的である。
【0021】
ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料中、或いはインキ中に非熱変色性の染料、顔料等の着色剤を配合して、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成とする。
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、蛍光染料が全て使用可能である。
顔料としては、カーボンブラック、群青、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料や蛍光顔料を例示できる。
【0022】
本発明の筆記具2に内蔵される可逆熱変色性インキ6は、25〜65℃の範囲に最大高温側変色点を有し、平均粒子径が0.5〜5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させ、必要に応じてバインダー樹脂を配合したものが有効である。
具体的には、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキや、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキが効果的である。更には、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が水性ビヒクルと比重差0.05以下になるよう調節した比重調節型インキも適用できる。
【0023】
前記剪断減粘性物質は、8〜12の範囲内のHLB値を有するノニオン界面活性剤、キサンタンガム、ウエランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロー、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体等を例示でき、単独或いは混合して使用することができる。特にキサンタンガム、サクシノグリカン、架橋性アクリル酸重合体が保存安定性に優れる。
【0024】
前記水溶性高分子凝集剤としては、非イオン性水溶性高分子化合物が好適に用いられる。
具体的にはポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類、非イオン性水溶性セルロース誘導体等が挙げられる。このうち水溶性多糖類の具体例としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリンが挙げられ、また非イオン性水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物中において微小カプセル顔料粒子間の緩い橋架け作用を示す水溶性高分子であればすべて適用することができるが、なかでも前記の非イオン性水溶性セルロース誘導体が最も本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物に対し有効に作用する。
前記高分子凝集剤は、インキ組成物全量に対し、0.05〜20重量%配合することができる。
【0025】
また、ペン先での乾燥を抑制するために保湿剤として、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール等のグリコール類及びそれらの低級アルキルエーテル、2−ピロリドン、N−ビニルピロリドン、尿素等の適宜量を配合することができる。
前記保湿剤は、インキ全量に対して5〜40重量%配合することができる。
【0026】
更に、筆跡の固着性や粘度調整等のために、適宜量のバインダー樹脂を添加することもできる。前記バインダー樹脂は樹脂エマルション、アルカリ可溶性樹脂、水溶性樹脂から選ばれる。
前記樹脂エマルションとしては、ポリアクリル酸エステル、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、α−オレフィン−マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の水分散体が挙げられ、前記アルカリ可溶性樹脂としては、スチレン−マレイン酸共重合体、エチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられ、前記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができ、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
また、界面活性剤等の従来より汎用の各種分散剤を必要に応じて配合することができる。
【0027】
本発明のインキ組成物をボールペンに充填して用いる場合は、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等の潤滑剤を添加してボール受け座の摩耗防止効果を付与することが好ましい。
【0028】
前記剪断減粘系インキ及び凝集系インキは、汎用の筆記具2に充填され実用に供される。
具体的には、前記剪断減粘系インキは、回転自在にボールを抱持したチップを先端部に備えた軸胴5に充填され、後部に粘稠追従体(液栓7)を配してボールペン形態の熱変色性筆記具2を構成できる。又、凝集系インキは、多数の繊維を互いに密接状態に配し、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維加工体をペン体4とし、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維集束体をインキ吸蔵体とし、ペン体4の後端を前記インキ吸蔵体の前端に接続状態に組み立てらたマーカーに前記凝集系インキを含浸させて、マーカー形態の熱変色性筆記具2を構成できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の摩擦体を備えた筆記具は、ユーザーが自由に可逆熱変色性インキの像又は筆跡を形成できると共に、摩擦体を用いて前記像又は筆跡を容易に変色させ得る。
特に、摩擦体の擦過部の形状を凸曲面とすることにより、筆跡を剥がすことなく、適度な柔らかさで擦過できる。また、筆跡との接触角度によらず一定の接触面積が得られ、広域を擦過することなく目的の部分のみを擦過できると共に、摩擦体自体の磨耗性を低減でき、熱の発生効率が高められるので、削れカスが出ることなく、変色させたい部分を的確且つ容易に変色できる。さらに、凸曲面の曲率半径Rを1mm〜10mmの範囲に設定することで、筆記具により形成される幅の狭い筆跡を的確且つ容易に変色させ得る。
これに加え、可逆熱変色性インキに含まれるマイクロカプセル顔料の平均粒子径を0.5〜5.0μm、高温側変色点を25〜65℃の範囲内としたことによって、インキが高濃度の発色性を有し、擦過により確実に変色させることが可能となる。
【0030】
請求項2に係る本発明の筆記具によれば、着色剤を含有する摩擦体を、変色前後の少なくとも一方のインキ色をユーザーに知らせる色表示機能部分とすることができる。
【0031】
請求項3に係る本発明の筆記具によれば、摩擦体が鮮明に着色されると共に、擦過時に熱変色像及びその周辺部に色移りすることなく熱変色像を変色できる。
【0032】
請求項4に係る本発明の筆記具によれば、摩擦体をシリコーンゴムとしたことにより、摩擦体自体の磨耗性を低減でき、熱の発生効率が高められるので、可逆熱変色性インキの像又は筆跡を何度も擦過することなく容易に変色できると共に、前記像又は筆跡を剥がすことなく繰返し可逆的に変色させ得る。また、適度な柔らかさで滑らかに擦過でき、削れカスにより擦過部周辺を汚すことなく使用できる。
【0033】
請求項5に係る本発明の筆記具によれば、キャップの頂部又は軸胴の後端部に装着したときに、摩擦体の外径Dと出長さLとをL<Dとしたことで、擦過時の摩擦体のぐらつきや、脱落が防止でき、擦過不良が生じることもなくなる。また、キャップの頂部又は軸胴の後端部に装着された摩擦体の抜け力を10N以上としたことで、筆記具から摩擦体を容易に外すことができなくなり、幼児等の誤飲を防止できる。同時に前記L<Dを満たす場合には、摩擦体が擦過時にぐらついたり、脱落しないと共に、引っ張った時に容易に外れなくなるため、商品としての適用性が高いものとなる。
【0034】
請求項6において、摩擦体に通気孔又は通気溝を貫設することで、幼児等が誤飲した場合にもより安全性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の摩擦体を備えた筆記具の一実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】本発明の摩擦体を備えた筆記具の一実施例を示す説明図である。
【図5】加熱消色型熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【図6】色彩記憶保持型熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
また、筆記具2としては、ボールペン、サインペン、マーキングペン等の汎用の筆記具2に可逆熱変色性インキ6を内蔵し実用に供し、摩擦体1を設ける筆記具2の形態としては、摩擦体1を頂部に装着したキャップ3を適用したもの(図1参照)、軸胴5の後端部に摩擦体1を形成したもの(図4参照)等が例示できる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示す。尚、実施例中の部は重量部である。
【0038】
実施例1
紫色顔料〔信越化学工業(株)製、商品名:KE−Color R2301〕0.09部、赤色顔料〔信越化学工業(株)製、商品名:KE−Color X−93−942〕0.13部を添加したシリコーン材料〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、商品名:DY32−7040U〕を混練した後、得られた混合物を成型することにより赤色の摩擦体1を得た。
前記摩擦体1は、紙面に印刷された可逆熱変色像を擦過により瞬時に変色させることができると共に、前記紙面に色移りすることはなかった。
【0039】
実施例2
可逆熱変色性インキ6の調製
感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性顔料(t1:2℃、t2:6℃、t3:37℃、t4:44℃、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0、暗緑色から無色に色変化する)12.5部、感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性顔料(t1:3℃、t2:6℃、t3:38℃、t4:45℃、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0、青色から無色に色変化する)5.5部、赤色染料〔アイゼン保土谷(株)製、商品名:ニューコクシン、C.I.16255〕0.25部、キサンタンガム(剪断減粘性付与剤)0.33部、尿素10部、グリセリン10部、ノニオン系浸透性付与剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコSW−WET−366〕0.6部、変性シリコーン系消泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034〕0.1部、防黴剤〔ゼネカ(株)製、商品名:プロキセルXL−2〕0.1部、水60.62部からなる可逆熱変色性インキを調製した(図6)。
【0040】
筆記具の作製
前記インキ(予め2℃以下に冷却して可逆熱変色性顔料を発色させた後、室温下で放置したもの)を内径4.4mmのポリプロピレン製パイプに0.97g吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して0.7mmステンレス鋼ボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプの後部より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓7)を充填し、軸胴5内に組み付け、実施例1で作成した摩擦体を、曲率半径3.0mmの凸曲面とし、抜け力10N、外径Dと出長さLが、L/D=0.48で頂部に嵌合させたキャップ3を取付けた後、遠心処理により脱気処理を行ない、剪断減粘系熱変色性ボールペンを得た(図1)。
前記ボールペンによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が消色することがなく、安定した濃度の黒色の鮮明な熱変色性筆跡が得られた。
【0041】
筆跡の変色挙動
前記ボールペンにより通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡は、室温(25℃)で黒色の発色状態であり、前記摩擦体1で数回擦過したところ、擦過した部分が直ちに変色して赤色となり、この状態は室温で維持することができた。次いで、前記熱変色性筆跡を冷凍庫(約−15℃)の中に放置したところ、前記色部分が再び黒色に発色し擦過前の状態に戻った。この変色挙動は繰り返し再現することができた。
【0042】
実施例3
可逆熱変色性インキ6の調製
加熱消色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(t1:35℃、t2:38℃、t3:37℃、t4:40℃、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0、青色から無色の色変化する)のマイクロカプセルスラリー44.00部(固形分13.2%)を、ピンク色染料〔アイゼン保土谷(株)製、商品名:エリスロシン(C.I.No.45430)〕0.50部、グリセリン5.00部、防黴剤、〔ゼネカ(株)製、商品名:プロキセルXL−2〕0.70部、シリコーン系消泡剤、〔サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー 381〕0.1部、及び水41.70部からなる水性媒体中に均一に分散状態となした後、水溶性高分子凝集剤(ヒドロキシエチルセルロース)〔ユニオンカーバイド日本(株)製、商品名:セロサイズWP−09L〕5.00重量%を含む水溶液8.00部を攪拌しながら、前記分散状態にある液中に添加して、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料をゆるやかな凝集状態に懸濁させた可逆熱変色性インキ6を調製した。
【0043】
筆記具2の作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆した繊維集束インキ吸蔵体(気孔率約80%)中に、前記可逆熱変色性インキ6を均一状態に攪拌した直後に含浸させて、実施例1で得られた摩擦体1を曲率半径4.0mmの凸曲面とし、外径Dと出長さLが、L/D=0.63で後端部に成形された軸胴5内に収容し、軸胴5の先端部に装着させたポリエステル繊維の樹脂加工ペン体4(気孔率約50%)と接触状態に組み立て、水性マーカーを構成した。
前記水性マーカーによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色することがなく、安定した色調の紫色の鮮明な筆跡が得られた。
【0044】
筆跡の変色挙動
前記水性マーカーにより通常の浸透性を有する紙に筆記した筆跡は、室温(25℃)で紫色の変色状態であり、前記摩擦体1で数回擦過したところ、擦過した部分が直ちに変色してピンク色に変色した。更に、この変色状態で室温に放置すると、前記ピンク色部分は再び紫色に変色し、擦過前の状態に戻った。前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
【符号の説明】
【0045】
1 摩擦体
11 擦過部
2 筆記具
3 キャップ
31 嵌合部
32 リブ
4 ペン体
5 軸胴
可逆熱変色性インキ
7 液栓
8 レフィール
t1 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの完全発色温度(最低低温側変色点)
t2 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの発色開始温度
t3 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの消色開始温度
t4 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの完全消色温度(最大高温側変色点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具であって、
前記可逆熱変色性インキは、平均粒子径が0.5〜5.0μmの範囲内にあるマイクロカプセル顔料を水性溶媒中に分散させた構成となっており、該マイクロカプセル顔料は、25〜65℃の範囲に高温側変色点を有し、
前記筆記具は、弾性体からなる摩擦体を備え、該摩擦体は、曲率半径Rが1mm〜10mmの凸曲面形状の擦過部を有し、手動操作で擦過したときの摩擦熱により、浸透性を有する紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を前記所定温度以上に加熱し、第1の発色状態から第2の発色状態、発色状態から消色状態、又は消色状態から発色状態に変色させることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記摩擦体着色剤を含有することで、該摩擦体を、変色前後の少なくとも一方のインキ色に着色し、変色前後の少なくとも一方のインキ色を知らせる色表示機能部分としたことを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記着色剤が、前記摩擦体全量中0.1〜1.0重量%含有されることを特徴とする請求項2記載の筆記具。
【請求項4】
前記摩擦体がシリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記摩擦体がキャップの頂部又は軸胴の後端部に装着され、該摩擦体の外径D出長さLとがL<Dを満たし、前記摩擦体の抜け力が10N以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項6】
前記摩擦体に通気孔又は通気溝を貫設したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の筆記具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−274657(P2010−274657A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159668(P2010−159668)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【分割の表示】特願2002−318261(P2002−318261)の分割
【原出願日】平成14年10月31日(2002.10.31)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】