説明

等価回路解析装置及び等価回路解析方法

【課題】測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性に基づいて等価回路の各素子定数を推定する際に、素子定数の一部を任意の値に固定して、他の残りの素子定数を推定することができる等価回路解析装置及び等価回路解析方法を提供する。
【解決手段】等価回路解析装置は、測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定する測定部と、複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数を任意の値に設定する操作が可能な設定ボタン13bと、素子定数Cを固定する操作が可能な固定ボタン14bと、測定部の測定した測定対象物の周波数特性に基づいて、固定ボタン14bによって固定された素子定数Cを変更せずに、他の素子定数R,Lの推定を行う推定部とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定し、この周波数特性から、電気的な等価回路の素子定数を推定する等価回路解析装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗、コンデンサ、コイル、ダイオード、トランジスタ、一次・二次電池、太陽電池、フィルタなどの電気的な部品を測定対象物(以下、DUTともいう)として、そこに周波数を掃引させつつ測定用信号電圧を印加して、その電圧及び流れた電流から、複素インピーダンスの周波数特性を測定し、測定した周波数特性を表示パネルにグラフで表示するインピーダンス測定装置が知られている。このようなインピーダンス測定装置の中には、測定した複素インピーダンスの周波数特性から、測定対象物の電気的な等価回路の素子定数を推定する等価回路解析機能を有しているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、複素インピーダンスの周波数特性を測定し、モンテカルロ法により評価関数が最小になる等価回路の素子定数を演算し、この演算した素子定数を局所探索法の開始値として評価関数が極小値になる素子定数を演算して、さらにこれら演算を所定回数繰り返し行って素子定数を求める等価回路解析方法が記載されている。
【0004】
測定対象物によっては、等価回路の素子定数の一部が、予め既知である場合がある。例えば、測定対象物の直流抵抗を予め測定しておくことで、等価回路における抵抗値が既知になっているような場合や、容量計で静電容量値を予め測定しておくことで、等価回路の静電容量値が既知になっているような場合である。しかしながら、従来の種々の等価回路解析方法では、素子定数同士が互いに関連し合うように演算しているため、一部の素子定数を固定して、他の素子定数の推定を行うことができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−249749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性に基づいて等価回路の各素子定数を推定する際に、素子定数の一部を任意の値に固定して、他の残りの素子定数を推定することができる等価回路解析装置及び等価回路解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された等価回路解析装置は、測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定する測定部と、複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数を任意の値に設定する操作が可能な設定手段と、該各素子定数を個別に固定する操作が可能な固定手段と、該測定部の測定した該測定対象物の周波数特性に基づいて、該固定手段によって固定された該素子定数を変更せずに、他の該素子定数の推定を行う推定部とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された等価回路解析装置は、請求項1に記載されたもので、画像を表示可能な表示部と、前記等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性を算出する理論特性演算部とを備え、前記測定部の測定した前記測定対象物の周波数特性、及び該理論特性演算部の算出した該等価回路の周波数特性を、該表示部にグラフで表示させることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された等価回路解析方法は、測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定する測定ステップと、複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数の一部を任意の値に設定する操作を行う設定ステップと、該各素子定数の一部を固定する操作を行う固定ステップと、該測定ステップで測定した該測定対象物の周波数特性に基づいて、該固定ステップで固定された該素子定数を変更せずに、他の該素子定数の推定を行う推定ステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載された等価回路解析方法は、請求項3に記載されたもので、前記等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性を算出する理論特性演算ステップを含み、前記測定ステップで測定した前記測定対象物の周波数特性、及び該理論特性演算ステップで算出した該等価回路の周波数特性を、表示部にグラフで表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の等価回路解析装置及び等価回路解析方法によれば、等価回路の各素子定数の一部を設定して固定することで、固定された素子定数を変更することなく、他の素子定数を算出するため、例えば予め既知な素子定数を設定することができる。このため、他の素子定数の推定精度を向上させることができる。
【0012】
測定ステップで測定した測定対象物の周波数特性、及び等価回路の周波数特性を、表示部にグラフで表示させることにより、推定した等価回路の素子定数の誤差をグラフの差で測定者に認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用する等価回路解析装置のブロック図である。
【図2】本発明を適用する等価回路解析方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明を適用する等価回路解析装置に用いるタッチパネルの表示例を示す概要図である。
【図4】図3に示す素子定数の一部を固定させる固定操作の例を示す概要図である。
【図5】測定対象物の等価回路の例である。
【図6】図5に示す各等価回路のインピーダンス周波数特性及び位相周波数特性の例である。
【図7】等価回路aにおける素子定数の推定方法を説明するための実効抵抗の周波数特性データ(グラフ)である。
【図8】本発明を適用する等価回路解析方法を説明するための他のフローチャートである。
【図9】等価回路dにおける素子定数の推定方法を説明するためのコンダクタンスの周波数特性データ(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明を適用する等価回路解析装置1は、図1に機能的ブロックで示すように、測定部2、推定部3、素子定数設定処理部4、理論特性演算部5、及びタッチパネル10を備え、測定対象物(DUT)90の複素インピーダンスの周波数特性を測定して、その周波数特性から等価回路の各素子定数を推定部3が推定することが可能になっている。なお、同図に示す推定部3、素子定数設定処理部4、及び理論特性演算部5等は、一例として、本装置1の動作を統括的に制御する1つ又は複数のCPU(不図示)がメモリ(不図示)に予め記憶されたソフトウエアに従って動作して演算処理することで実現されている。また、等価回路解析装置1は、後述する図2のフローチャートに対応するプログラムがメモリに予め記憶されていて、そのフローチャートに従って動作可能に構成されている。なお、測定部2として従来のインピーダンス測定装置を用い、その他の推定部3、素子定数設定処理部4、理論特性演算部5、及びタッチパネル10としてコンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ)を用い、両者を組み合わせて本発明の等価回路解析装置1としてもよい。
【0016】
タッチパネル10は、画像を表示可能な液晶パネルやCRTなどの表示装置と、タッチパッドなどの位置入力装置を組み合わせたもので、画像の表示機能を有すると共に、指や専用ペン等が画面に触れたときに、その触れた画面上の位置情報を出力する、接触操作の検出機能を有するものである。タッチパネル10は、等価回路解析装置1の表示部及び操作部として用いられる。図3に示すように、タッチパネル10には、グラフ表示領域11に、測定部2が測定した複素インピーダンスの周波数特性のグラフ31を表示させると共に、理論特性演算部5が算出した等価回路の理論的な複素インピーダンスのグラフ32を表示させる。また、タッチパネル10には、素子定数設定処理部4が、素子定数表示領域12(12a,12b,12c)に素子定数を表示させ、設定手段の一例として各素子定数の近く(例えば素子定数の下)に素子定数設定ボタン13(13a,13b,13c)を表示させ、固定手段の一例として各素子定数の近く(例えば素子定数の横)に素子定数固定ボタン14(14a,14b,14c)を表示させる。さらに、素子定数設定処理部4が、タッチパネル10に推定ボタン15を表示させる。なお、タッチパネル10に換えて、液晶パネル等の表示部と、キーボードやマウス等の操作部とを備えていてもよい。
【0017】
等価回路解析装置1の具体的な動作について、図1〜図7を参照して説明する。ここで、図2に示すフローチャートは、本発明を適用する等価回路解析方法の一例を示し、これに沿って等価回路解析装置1の動作を説明する。
【0018】
図2に示すステップ(測定ステップ)S1では、測定部2が、不図示の交流信号源からプローブ21a,21bを介して、周波数を開始周波数から終了周波数まで掃引させて測定用信号電圧を測定対象物(DUT)90に印加し、2端子法又は4端子法などの公知の測定方法で電圧と電流とを測定し、その電圧及び電流から、DUT90の複素インピーダンスの周波数特性を測定する。ここで測定部2は、開始周波数から終了周波数まで、周波数分解能ずつ順番にずらした測定周波数(周波数ポイント)で測定を行う。また、測定部2は、図3に示すように、タッチパネル10のグラフ表示領域11に、測定部2の測定した複素インピーダンスの周波数特性のグラフ31を表示させる。複素インピーダンスの周波数特性として、測定部2は、一例として、複素インピーダンスの絶対値の周波数特性(インピーダンス周波数特性)、及び/又は位相の周波数特性(位相周波数特性)をグラフで表示させる。グラフ表示領域11に、インピーダンス周波数特性のグラフを表示させるか、位相周波数特性のグラフを表示させるか、又は両特性のグラフを表示させるかの切り替えは、測定者がタッチパネル10を操作することで、自由に切り換えることができる。同図の例では、グラフ31は位相周波数特性θを表している。なお、タッチパネル10にグラフ表示させる複素インピーダンスの周波数特性の表現方法は、コンダクタンス(G)−サセプタンス(B)特性、実効抵抗(Rs)−リアクタンス(X)特性、動アドミタンス円、又は動インピーダンス円などのように、公知の種々の表現方法で表現させることができる。
【0019】
次に、推定部3が、本発明における推定ステップに相当するステップS2〜S11を行い、ステップS1で測定部2の測定したDUT90の複素インピーダンスの周波数特性に基づいて、複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数を推定する。等価回路を構成する電気素子は、抵抗(素子定数R)、コンデンサ(素子定数C)、コイル(素子定数L)である。等価回路は、抵抗、コンデンサ、コイルのうちの少なくとも2つを接続して構成する。等価回路に用いる電気素子の数は、特に限定がなく、同種の電気素子が複数用いられていてもよい。
【0020】
等価回路の例を、図5の等価回路a〜dに示す。主として、等価回路aはコイルや抵抗を測定する場合に用いられ、等価回路bは損失が大きなコイルを測定する場合に用いられ、等価回路cは高抵抗を測定する場合に用いられ、等価回路dはコンデンサを測定する場合に用いられる。図6に、等価回路a〜dのインピーダンス周波数特性Z及び位相周波数特性θの例を図示する。このように複数の等価回路を予め設定しておき、測定者がタッチパネル10を操作して、1つの等価回路を選択できるようにすることが好ましい。推定部3は、等価回路a〜dの各素子定数の推定が可能になっている。測定者は、タッチパネル10を操作して、ステップS1又はステップS2の前に、用いる等価回路を予め選択しておく。
【0021】
推定部3がステップS2〜S11で各素子定数を推定する例として、並列共振回路の一例である等価回路aが選択されている場合について説明する。
【0022】
ステップS2では、推定部3は、測定部2の測定データから全ての周波数ポイントにおける複素インピーダンスの実効抵抗(レジスタンス)Rsを算出する。全周波数ポイントにおける実効抵抗Rsは、例えば図7のグラフ25に示すような周波数特性となる。次に、ステップS3で、推定部3は、実効抵抗Rsの周波数特性から並列共振周波数fp、及びそのときの実効抵抗Pを検索する。具体的には、推定部3は、グラフ25(実効抵抗Rs)の中で実効抵抗Rsが極大値P(極値の一例)となるときの周波数を、並列共振周波数fpとする。次に、ステップS4で、推定部3は、グラフ25が、極大値Pの1/2になる2つの周波数(象限周波数)f1,f2を検索する。次に、ステップS5で、推定部3は、共振の鋭さQを次の(1)式で算出する。
Q=fp/(f2−f1) ・・・(1)
【0023】
次に、ステップS6で、推定部3は、素子定数Cの値が固定ボタン14b(図3参照)により固定されているか否かを判別する。この場合、まだ固定されていないので、ステップS7に進む。
【0024】
ステップS7で、推定部3は、素子定数Cを次の(2)式で推定する。
C=Q/(2×π×fp×P) ・・・(2)
【0025】
次に、ステップS8で、推定部3は、素子定数Lの値が固定ボタン14c(図3参照)により固定されているか否かを判別する。この場合、固定されていないので、ステップS9に進む。
【0026】
ステップS9で、推定部3は、素子定数Lを次の(3)式で算出する。
L=(2×Q2)/(4×π2×fp2×C×(2×Q2−1)) ・・・(3)
【0027】
次に、ステップS10で、推定部3は、素子定数Rの値が固定ボタン14a(図3参照)により固定されているか否かを判別する。この場合、固定されていないので、ステップS11に進む。
【0028】
ステップS11で、推定部3は、素子定数Rを次の(4)式で算出する。
R=L/(C×P) ・・・(4)
【0029】
以上で、等価回路aの全ての素子定数の推定が終了する。
【0030】
推定部3は、推定した各素子定数を素子定数設定処理部4、及び理論特性演算部5に出力する。ステップS12では、素子定数設定処理部4が、図3に示すように、素子定数Rを素子定数表示領域12aに表示させ、素子定数Cを素子定数表示領域12bに表示させ、素子定数Lを素子定数表示領域12cに表示させる。
【0031】
ステップ(理論特性演算ステップ)S13では、理論特性演算部5が、推定部3によって推定された各素子定数で、等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性を算出する。ここで、等価回路の理論的な複素インピーダンスとは、抵抗の複素インピーダンスがR、コンデンサの複素インピーダンスが1/(jωC)、コイルの複素インピーダンスがjωLであるので、これらを等価回路の接続に対応させて合成したものである。なお、ωは角周波数であり、周波数fのときに、ω=2πfである。複素インピーダンスの合成については、周知な事項であるので説明は省略する。合成した複素インピーダンスの周波数を開始周波数から終了周波数まで各測定ポイントに対応させて可変させることで、理論特性演算部5は、等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性(例えばインピーダンス周波数特性、位相周波数特性)を算出する。なお、計算にはアドミタンスを用いてもよいし、複素インピーダンスと位相から算出できる他のパラメータを用いてもよい。理論特性演算部5は、タッチパネル10に表示させるグラフに適した形式で演算を行う。
【0032】
理論特性演算部5は、図3に示すように、算出した等価回路の周波数特性(位相周波数特性)のグラフ32をタッチパネル10のグラフ表示領域11に表示させる。両グラフ31,32の差異が目視でよく判るように、測定した周波数特性のグラフ31を実線で表示させると共に等価回路の周波数特性のグラフ32を破線で表示させるように線種を変え、または両グラフ31,32を色分けして表示させるようにして、各々を識別可能に表示させることが好ましい。さらに両グラフ31,32は、縦軸及び横軸を合わせるように、同じ軸上に重ね合わせるように表示させることが好ましい。
【0033】
ここで、一例として、DUT90の周波数特性の測定前に、DUT90の静電容量値を予め測定して、素子定数Cの値が既知になっている場合について説明する。このように、素子定数Cの値が既知な場合、測定者は、ステップ(設定ステップ)S14で、素子定数設定ボタン13bを操作して、図4に示すように、素子定数Cを既知な値(例えば26pF)に設定する。設定が終わったら、測定者は、ステップ(固定ステップ)S15で、同図に示すように、素子定数固定ボタン14bを指50で押す(触れる)。これにより、素子定数設定処理部4は、固定ボタン14aの色を変えて表示させ、固定状態となっていることを示す。固定状態となっているときに、素子定数設定ボタン13bを操作しても値は変更できないようにしておく。続いて、測定者(指50)によってタッチパネル10の推定ボタン15が押されたときに(ステップS16)、素子定数設定処理部4は、素子定数Cが固定されているという情報、及び固定された素子定数(素子定数C=26pF)を推定部3に出力して、ステップS6に進む。
【0034】
ステップS6では、推定部3は、素子定数Cが固定されていると判別して、素子定数Cを算出することなく、ステップS8に進む。ステップS8では、素子定数Lは固定されていないため、ステップS9に進む。ステップS9では、固定された素子定数C(26pF)を用いて、前述した(3)式を用いて素子定数Lを算出し、ステップS10に進む。ステップS10では、素子定数Rは固定されていないため、ステップS11に進み、前述した(4)式を用いて素子定数Rを算出する。
【0035】
これら素子定数L,C,Rは、推定部3から素子定数設定処理部4及び理論特性演算部5に出力される。ステップS12で、素子定数設定処理部4は、素子定数表示領域12a,12b,12cに素子定数L,C,Rを再表示させる。また、ステップS13で、理論特性演算部5が、新たな素子定数L,C,Rで等価回路の周波数特性を再演算し、タッチパネル10にグラフ32を表示させる。
【0036】
以上で、任意の値に固定された素子定数Cを用いて、他の素子定数L,Rを推定する処理が終了する。既知な素子定数Cを固定して他の素子定数L,Rを推定しているので、誤差の少ない素子定数L,Rを求めることができる。この場合、例えば、素子定数Lが14mH,素子定数Rが15Ω等のように求められる。また、グラフ32がグラフ31に近づいた形状となる。複数の素子定数を固定して、他の素子定数を演算で算出してもよい。
【0037】
なお、既知な素子定数を素子定数設定ボタン12で設定するステップS14、及び、設定した素子定数を素子定数固定ボタン14で固定するステップS15は、図2のフローチャート中に破線で示すように、測定ステップS1とステップS2の間に行うようにしてもよいし、図示しないが測定ステップS1よりも前に予め行うようにしてもよい。この場合、最初からステップS6〜S11で固定した素子定数を用いて、他の素子定数を推定(算出)する処理となる。
【0038】
図2のフローチャートでは、等価回路aの素子定数を推定する例について説明したが、等価回路dの素子定数を推定する例について図8のフローチャートを用いて説明する。図8では、図2と同じステップに対しては同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0039】
測定ステップS1で、測定部2が、DUT90の周波数特性データを測定する。ステップS2aでは、推定部3が、測定部2の測定データから全ての周波数ポイントにおける複素アドミタンス(複素インピーダンスの別の表現方法)のコンダクタンスGを算出する。全周波数ポイントにおけるコンダクタンスGは、例えば図9のグラフ26に示すような周波数特性となる。次に、ステップS3aで、推定部3は、コンダクタンスGの周波数特性から直列共振周波数fm、及びそのときのコンダクタンスMを検索する。具体的には、推定部3は、グラフ26(コンダクタンスG)の中でコンダクタンスGが極大値M(極値の一例)となるときの周波数を、直列共振周波数fmとする。次に、ステップS4aで、推定部3は、グラフ26が、極大値Mの1/2になる2つの周波数(象限周波数)f1,f2を検索する。次に、ステップS5aで、推定部3は、共振の鋭さQを次の(5)式で算出する。
Q=fm/(f2−f1) ・・・(5)
【0040】
次に、ステップS6aで、推定部3は、素子定数Lの値が固定ボタン14cにより固定されているか否かを判別する。固定されていない場合、ステップS7aに進む。
【0041】
ステップS7aで、推定部3は、素子定数Lを次の(6)式で推定する。
L=Q/(2×π×fm×M) ・・・(6)
【0042】
次に、ステップS8aで、推定部3は、素子定数Cの値が固定ボタン14bにより固定されているか否かを判別する。固定されていない場合、ステップS9aに進む。
【0043】
ステップS9aで、推定部3は、素子定数Cを次の(7)式で算出する。
C=1/(4×π2×fm2×L) ・・・(7)
【0044】
次に、ステップS10aで、推定部3は、素子定数Rの値が固定ボタン14aにより固定されているか否かを判別する。固定されていない場合、ステップS11aに進む。
【0045】
ステップS11で、推定部3は、素子定数Rを次の(8)式で算出する。
R=1/M ・・・(8)
【0046】
以上で、等価回路dの各素子定数の推定が終了する。
【0047】
ステップS15で素子定数が固定されたときは、固定された素子定数については上記の各(6)式〜(8)式で演算を行わず、固定された値を用いる。
【0048】
他の等価回路の場合であっても、並列共振周波数fp、直列共振周波数fm、2つの象限周波数f1,f2、共振の鋭さQに基づいて、R,C,Lの各素子定数を推定することができる。なお、公知の他の推定方法で等価回路の各素子定数を推定してもよい。
【0049】
なお、素子定数設定ボタン12a〜12cで測定者が設定した素子定数を理論特性演算部5に出力させて、理論特性演算部5が等価回路の周波数特性を算出し、そのグラフ32をタッチパネルに表示させるようにしてもよい。このようにすると、グラフ31,32に差があるときに、測定者が素子定数を手動で変更して、グラフ32がグラフ31に一致させるようにすることで、誤差の少ない素子定数を得ることができる。本発明のように素子定数の一部を例えば既知な値に固定して他の素子定数を推定すると、誤差の少ない他の素子定数を得ることができ、その状態から素子定数設定ボタン12a〜12cで等価回路の素子定数を変更設定すると、一層正確な素子定数を迅速に得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1は等価回路解析装置、2は測定部、3は推定部、4は素子定数設定処理部、5は理論特性演算部、10はタッチパネル、11はグラフ表示領域、12・12a・12b・12cは素子定数表示領域、13・13a・13b・13cは素子定数設定ボタン、14・14a・14b・14cは素子定数固定ボタン、15は推定ボタン、21a・21bはプローブ、25は実効抵抗Rsの周波数特性のグラフ(データ)、26はコンダクタンスGの周波数特性のグラフ(データ)、31は測定部2の測定した複素インピーダンス(位相周波数特性)のグラフ、32は等価回路aの理論的な複素インピーダンス(位相周波数特性)のグラフ、50は測定者の指、90は測定対象物、a・b・c・dは等価回路、Cはコンデンサの素子定数、Lはコイルの素子定数、Rは抵抗の素子定数、Rsは実効抵抗、Gはコンダクタンス、P・Mは極大値、Zはインピーダンス周波数特性、θは位相周波数特性、f1,f2は象限周波数、fpは並列共振周波数、fmは直列共振周波数である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定する測定部と、
複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数を任意の値に設定する操作が可能な設定手段と、
該各素子定数を個別に固定する操作が可能な固定手段と、
該測定部の測定した該測定対象物の周波数特性に基づいて、該固定手段によって固定された該素子定数を変更せずに、他の該素子定数の推定を行う推定部とを備えることを特徴とする等価回路解析装置。
【請求項2】
画像を表示可能な表示部と、前記等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性を算出する理論特性演算部とを備え、前記測定部の測定した前記測定対象物の周波数特性、及び該理論特性演算部の算出した該等価回路の周波数特性を、該表示部にグラフで表示させることを特徴とする請求項1に記載の等価回路解析装置。
【請求項3】
測定対象物の複素インピーダンスの周波数特性を測定する測定ステップと、
複数の電気素子を組み合わせた所定の等価回路の各素子定数の一部を任意の値に設定する操作を行う設定ステップと、
該各素子定数の一部を固定する操作を行う固定ステップと、
該測定ステップで測定した該測定対象物の周波数特性に基づいて、該固定ステップで固定された該素子定数を変更せずに、他の該素子定数の推定を行う推定ステップとを含むことを特徴とする等価回路解析方法。
【請求項4】
前記等価回路の理論的な複素インピーダンスの周波数特性を算出する理論特性演算ステップを含み、前記測定ステップで測定した前記測定対象物の周波数特性、及び該理論特性演算ステップで算出した該等価回路の周波数特性を、表示部にグラフで表示させることを特徴とする請求項3に記載の等価回路解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−40878(P2013−40878A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178992(P2011−178992)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】