等速自在継手用ブーツ締め付け構造
【課題】飛び石等による衝撃によっても、破損せずにブーツを安定して締め付けることができる等速自在継手用ブーツ締め付け構造を提供する。
【解決手段】帯状体102の一方の端部の雄部103と、帯状体102の他方の端部の雌部104とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体100が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位に、リング体100が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造である。少なくとも雄部103と雌部104との係合部Sの外側を保護する保護部材101を設けた。
【解決手段】帯状体102の一方の端部の雄部103と、帯状体102の他方の端部の雌部104とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体100が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位に、リング体100が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造である。少なくとも雄部103と雌部104との係合部Sの外側を保護する保護部材101を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される等速自在継手に用いられるブーツ締め付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達すると共に、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要がある。このため、例えば、図11に示すようなドライブシャフトがエンジン側と車輪側との間に介装される。ドライブシャフトは、中間シャフト1の一端を、インボード側の摺動型等速自在継手2を介してディファレンシャルに連結し、他端を、アウトボード側の固定型等速自在継手3を含む車輪用軸受装置(図示省略)を介して車輪に連結している。自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という。
【0003】
等速自在継手3は、外側継手部材5と、外側継手部材5の内側に配された内側継手部材6と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内側継手部材6の孔部内径6aとシャフト1の端部1aはトルク伝達するために、スプライン嵌合により結合されている。
【0004】
外側継手部材5はマウス部11とステム部(軸部)12とを備える。マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内側継手部材6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0005】
また、マウス部11の開口部はブーツ20にて覆われている。ブーツ20は、大径部20aと、小径部20bと、大径部20aと小径部20bとを連結する蛇腹部20cとからなる。大径部20aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド21にて締結され、小径部20bがシャフト1のブーツ装着部1bに外嵌され、この状態でブーツバンド21にて締結されている。
【0006】
インボード側の摺動型等速自在継手2は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝22を設けると共に各トラック溝22の内側壁に互いに対向するローラ案内面22aを設けた外側継手部材23と、三本の脚軸24を有するトリポード部材25と、前記脚軸24に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材23のトラック溝22に転動自在に挿入されたローラ26とを備える。
【0007】
外側継手部材23は一体に形成されたマウス部27とステム軸28とを備える。マウス部27は一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝22が形成される。トリポード部材25はボス29と前記脚軸24とを備える。脚軸24はボス29の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。
【0008】
ボス29の内径面には雌スプライン30が形成され、シャフト1のインボード側の端部1cがこのボス29に挿入されて、シャフト1の端部1cに設けられた雄スプライン31がボス29の雌スプライン31に嵌合し、これによって、シャフト1とトリポード部材25とがトルク伝達可能に結合する。
【0009】
また、マウス部(カップ部)27の開口部はブーツ40にて覆われている。ブーツ40は、大径部40aと、小径部40bと、大径部40aと小径部40bとを連結する蛇腹部40cとからなる。大径部40aがマウス部27の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド41にて締結され、小径部40bがシャフト1のブーツ装着部1dに外嵌され、この状態でブーツバンド41にて締結されている。
【0010】
前記ブーツバンド21、41としては、外径側にも内径側にも突起を有さない収縮バンド(特許文献1及び特許文献2参照)を用いることができる。このような突起無し金属バンドは、ブーツ20、40の大径部20a,40aや小径部20b、40bに外嵌し、この状態で、例えば、特許文献3等に記載のようなクランプリング取付け装置で縮径させることによって、ブーツ20、40の大径部20a,40aや小径部20b、40bと締め付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3253610号公報
【特許文献2】特許第3290216号公報
【特許文献3】特開平10−575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記図11に示すように組立けられたドライブシャフトを、自動車等に使用した場合において、悪路等を走行中に飛び石がブーツバンドに当たることがある。ここで、飛び石とは、他の自動車等によって跳ねられた石である。ところで、前記した突起無し金属バンドには接合部があり、この接合部はブーツバンドの最弱部である。このため、この最弱部に飛び石が当たれば、この衝撃で接合部が損傷してバンドが破損することがある。このように、バンドが破損すると、ブーツ内のグリースが漏れ、また、外部からは水等の異物が進入し、等速自在継手2、3はその機能を損なうおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、飛び石等による衝撃によっても、破損せずにブーツを安定して締め付けることができる等速自在継手用ブーツ締め付け構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造は、帯状体の一方の端部の雄部と、この帯状体の他方の端部の雌部とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位にこのリング体が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造であって、少なくとも雄部と雌部との係合部の外側を保護する保護部材を設けたものである。
【0015】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造によれば、保護部材によって接合部が保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的には接合部にあたらない。
【0016】
前記保護部材を、リング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成するようにできる。また、前記保護部材を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりできる。
【0017】
また、等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に前記保護部材を取付けるものであってもよい。この場合でも、この保護部材によって飛び石から接合部を保護することができる。前記リング体を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材によって接合部が保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的に接合部にあたらない。このため、飛び石等によりリング体(バンド)の損傷乃至破損を防止できるので、このバンドにて締め付けられるブーツを用いた等速自在継手は、ブーツ内のグリースが漏れを安定して防止できるとともに、外部からの水等の異物進入を防止でき、等速自在継手は長期にわたって安定したその機能を発揮する。
【0019】
保護部材をリング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成すれば、リング体全周にわたって飛び石から保護することができ、リング体の損傷乃至破損を安定して防止できる。保護部材を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりでき、各種の材質のものを用いることができ、生産性に優れる。
【0020】
また、等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に、前記リング体と別体からなる前記保護部材を取付けるものであっても、飛び石から接合部を保護することができる。このように、リング体と保護部材とを別体からなる構成とすることによって、リング体に既存の突起無し金属バンドを何ら加工を加えることなくそのまま適用でき、低コスト化を図ることができる。
【0021】
前記リング体を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。このため、使用する等速自在継手用ブーツの材質、大きさ、肉厚等に応じて、リング体に種々のものを選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の等速自在継手用締め付け構造を使用してブーツを取付けたドライブシャフトの断面図である。
【図2】前記締め付け構造を等速自在継手の外側継手部材側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図3】前記締め付け構造をシャフト側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図4】前記締め付け構造のリング体の正面図である。
【図5】前記締め付け構造のリング体の平面図である。
【図6】前記締め付け構造のリング体の斜視図である。
【図7】縮径装置を用いて締め付け構造を縮径する前の状態の簡略図である。
【図8】縮径装置を用いて締め付け構造を縮径した後の状態の簡略図である。
【図9】他の締め付け構造を等速自在継手の外側継手部材側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図10】別の締め付け構造をシャフト側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図11】従来の突起無し金属バンドを使用してブーツを取付けたドライブシャフトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
【0024】
図1はドライブシャフトを示し、このドライブシャフトは、中間シャフト51の一端を、インボード側の摺動型等速自在継手52を介してディファレンシャルに連結し、他端を、アウトボード側の固定型等速自在継手53を含む車輪用軸受装置(図示省略)を介して車輪に連結している。自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という。
【0025】
等速自在継手53は、外側継手部材55と、外側継手部材55の内側に配された内側継手部材56と、外側継手部材55と内側継手部材56との間に介在してトルクを伝達する複数のボール57と、外側継手部材55と内側継手部材56との間に介在してボール57を保持するケージ58とを主要な部材として構成される。内側継手部材56の孔部内径56aとシャフト51の端部51aはトルク伝達するために、スプライン嵌合により結合されている。
【0026】
外側継手部材55はマウス部61とステム部(軸部)62とを備える。マウス部61は一端にて開口した椀状で、その内球面63に、軸方向に延びた複数のトラック溝64が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝64はマウス部61の開口端まで延びている。内側継手部材56は、その外球面65に、軸方向に延びた複数のトラック溝66が円周方向等間隔に形成されている。
【0027】
また、マウス部61の開口部はブーツ70にて覆われている。ブーツ70は樹脂製(例えば熱可塑性ポリエステル系エラストマー製)であり、ブーツ大径部70aと、小径部70bと、大径部70aと小径部70bとを連結する蛇腹部70cとからなる。大径部70aがマウス部61の開口部に外嵌され、この状態で本発明にかかる締め付け構造71にて締結され、小径部70bがシャフト51のブーツ装着部51bに外嵌され、この状態で締め付け構造71にて締結されている。
【0028】
インボード側の摺動型等速自在継手52は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝72を設けると共に各トラック溝72の内側壁に互いに対向するローラ案内面72aを設けた外側継手部材73と、三本の脚軸74を有するトリポード部材75と、前記脚軸74に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材73のトラック溝72に転動自在に挿入されたローラ76とを備える。
【0029】
外側継手部材73は一体に形成されたマウス部77とステム軸78とを備える。マウス部77は一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝72が形成される。トリポード部材75はボス79と前記脚軸74とを備える。脚軸74はボス79の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。
【0030】
ボス79の内径面には雌スプライン80が形成され、シャフト51のインボード側の端部51cがこのボス79に挿入されて、シャフト51の端部51cに設けられた雄スプライン81がボス79の雌スプライン80に嵌合し、これによって、シャフト51とトリポード部材75とがトルク伝達可能に結合する。
【0031】
また、マウス部(カップ部)77の開口部はブーツ90にて覆われている。ブーツ90は、CR(クロロプレンゴム)等のゴム製であり、大径部90aと、小径部90bと、大径部90aと小径部90bとを連結する蛇腹部90cとからなる。大径部90aがマウス部77の開口部に外嵌され、この状態で本発明にかかる締め付け構造71にて締結され、小径部90bがシャフト51のブーツ装着部51dに外嵌され、この状態で締め付け構造71にて締結されている。
【0032】
前記締め付け構造71は、図2と図3に示すように、外径方向に突出する突起を有さないリング体100と、このリング体100の外周面全体を被覆するリング状の保護部材101とを備える。リング体100は、例えば、アルミニウムや鉄等の金属からなる帯状体102から構成され、図4から図6に示すように、帯状体102の一方の端部の雄部103と、この帯状体102の他方の端部の雌部104とが係合(嵌合)されてなる。このように、雄部103と雌部104との嵌合部Sが形成される。この嵌合部Sは強度的に最弱部となる。
【0033】
雄部103は、この帯状体102を図6に示すように、リング状に湾曲させた際に、雌部側へ延びる本体部103aと、この本体部103aの先端に連設された膨出部103bとからなる。また、雌部104は、雄部103の本体部103aに対応する本体凹部104aと、雄部103の膨出部103bに対応する幅広凹部104bとからなる。
【0034】
この場合、雄部103及び雌部104は、帯状体102の幅方向中央部に設けられている。そして、雄部103が設けられる側の端面における幅方向端部に小凸部105、105が設けられ、また、雌部104が設けられる側の端面における幅方向端部に切欠部106、106が設けられている。このように、雄部103と雌部104との嵌合部が、強度的に最弱部となる接合部Sとなる。
【0035】
このため、帯状体102をリング状に湾曲させて、雄部103を雌部104に嵌合させるとともに、小凸部105、105を切欠部106,106に嵌合させる。これによって、リング体100を構成できる。なお、溶接等の接合手段によって、雄部103と雌部104との接合面、小凸部105、105と切欠部106,106との接合面を接合するようにするのが好ましい。溶接を行う場合、スポット溶接やレーザ溶接等を用いることができる。
【0036】
保護部材101としては、アルミニウムや鉄等の金属にて構成しても、樹脂やゴム等で構成してもよい。樹脂にて構成する場合、コーティング材や接着剤等をリング体100の表面に塗布するようにしてもよい。
【0037】
この保護部材101に用いることができる接着剤には、熱硬化性接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン系接着剤等がある。
【0038】
保護部材101に用いるゴムは、天然ゴムであっても合成ゴムであってもよい。合成ゴムとしては、ポリブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系など種々のものを用いることができる。
【0039】
コーティング材や接着剤を用いる以外は、リング状に形成することによって、このリング体100に外嵌して、接着剤等を介して接合することになる。この場合の接着剤としては、ブーツの材質および保護部材101の材質に応じて種々選択することができる。
【0040】
ところで、図2に示すように、アウトボード側の等速自在継手3において、ブーツ70の大径部70aの外周面には周方向溝110が形成され、この周方向溝110に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ70の大径部70aが外側継手部材55の外径面開口部側、つまりブーツ装着部111に外嵌されるが、このブーツ装着部111には周方向凸条111a、111aが設けられている。締め付け構造71にてブーツ70の大径部70aを締め付けることによって、大径部70aの内周面にこの周方向凸条111a、111aが食い込む。
【0041】
また、図3に示すように、アウトボード側の等速自在継手3において、ブーツ70の小径部70bの外周面には周方向溝112が形成され、この周方向溝112に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ70の小径部70bがシャフト51のブーツ装着部113に外嵌されるが、このブーツ装着部113には、周方向凹溝114が形成され、この周方向凹溝114の両開口端に周方向凸条115が設けられている。締め付け構造71にてブーツ70の小径部70bを締め付けることによって、小径部70bの内周面にこの周方向凸条115、115が食い込む。
【0042】
インボード側の等速自在継手2において、ブーツ90の大径部90aの外周面には周方向溝120が形成され、この周方向溝120に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ90の大径部90aが外側継手部材73の外径面開口部側、つまりブーツ装着部121に外嵌されるが、このブーツ装着部121には凹部122が設けられている。締め付け構造71にてブーツ90の大径部90aを締め付けることによって、大径部90aの内周面が凹部122に嵌合する。
【0043】
インボード側の等速自在継手3において、ブーツ90の小径部90bの外周面には周方向溝125が形成され、この周方向溝125に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ90の小径部90bがシャフト51のブーツ装着部126に外嵌されるが、このブーツ装着部126には、周方向凹溝127が形成されている。締め付け構造71にてブーツ90の小径部90bを締め付けることによって、小径部70bの内周面が、周方向凹溝127に嵌合する。
【0044】
ところで、締め付け構造71にてブーツ70,90を締め付けるには、ブーツ70,90の大径部70a,90aや小径部70b、90bに外嵌した状態として、図7と図8に示す締め付け装置(縮径装置)にて縮径して締め付けることになる。
【0045】
縮径装置は、周方向に沿って複数個(この場合8個)のセグメント151と、このセグメント151を径方向に往復動させる図示省略の駆動機構とを備える。セグメント151は、その内径面152が円弧面とされたブロック体からなる。すなわち、セグメント151を構成するブロック体は、周方向に沿って隣合うブロック体の相対面する側面153、154と、前記内径面152と、内径面152に対向する外径面155とを備えた断面台形状のブロック片である。
【0046】
次に、この縮径用装置を使用した締め付け構造71の装着方法を説明する。まず、締め付け構造71を、ブーツ70,90の大径部70a,90aや小径部70b、90bに遊嵌状に外嵌した状態とする。この状態で、図7に示すように、複数のセグメント151を、周方向に隣合うセグメント151に側面153、154が相対面して、所定の隙間が形成されている。なお、この隙間は、後述するように各セグメント151を径方向内方へスライドさせた際に、周方向に隣合うセグメント151同士が接触等してこのスライドを妨げないように設定している。
【0047】
また、この状態では、各セグメント151の内径面152がほぼ締め付け構造71の外径面に接触している。この状態から各セグメント151は径方向内方へスライドする。この場合、各セグメント151(151a、151b、151c、151d、151e、151f、151g、151h)は締め付け構造71の外径面の中心Oを通る中心線La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf、Lg、Lhに沿ってスライドする。
【0048】
そして、最終スライド状態では、図8に示すように、第1のセグメント151aの内径面32の曲率中心Aが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151aと反対側に位置する。第2のセグメント151bの内径面152の曲率中心Bが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151bと反対側に位置する。第3のセグメント131cの内径面152の曲率中心Cが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151cと反対側に位置する。第4のセグメント151dの内径面152の曲率中心Dが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151dと反対側に位置する。第5のセグメント151eの内径面152の曲率中心Eが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント31eと反対側に位置する。第6のセグメント151fの内径面152の曲率中心Fが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151fと反対側に位置する。第7のセグメント151gの内径面152の曲率中心Gが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151gと反対側に位置する。第8のセグメント151hの内径面152の曲率中心Hが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151hと反対側に位置する。
【0049】
なお、保護部材101にてリング体100が被覆されているものでは、縮径して締め付ける際にこの保護部材101を損傷させるおそれがある。このため、保護部材101の種類によっては、リング体100のみをまず装着して縮径させた後、このリング体100に保護部材101を被覆するようにしてもよい。
【0050】
ところで、前記実施形態では、保護部材101をリング体100の全周を被覆するものであったが、リング体100の最弱部は接合部Sである。このため、保護部材101としては、少なくとも接合部Sを被覆するものであってもよい。
【0051】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材101によって接合部Sが保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的に接合部にあたらない。このため、飛び石等によりリング体(バンド)100の損傷乃至破損を防止できるので、このバンド100にて締め付けられるブーツ70(90)を用いた等速自在継手は、ブーツ内のグリースが漏れを安定して防止できるとともに、外部からの水等の異物進入を防止でき、等速自在継手は長期にわたって安定したその機能を発揮する。
【0052】
保護部材101をリング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成すれば、リング体全周にわたって飛び石から保護することができ、リング体100の損傷乃至破損を安定して防止できる。保護部材101を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりでき、生産性に優れる。
【0053】
前記リング体100を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。このため、使用する等速自在継手用ブーツの材質、大きさ、肉厚等に応じて、リング体100に種々のものを選択できる。
【0054】
次に図9と図10では、等速自在継手用ブーツ70が装着される側においてブーツ装着部111、113近傍に、リング体100とは別体である保護部材101を取付けたものである。
【0055】
すなわち、図9では、外側継手部材55の外径面のブーツ装着部111の反開口側において、保護部材装着部130を設けたものであり、保護部材101は、この保護部材装着部130に付設される肉厚部131と、肉厚部131から延びる薄肉本体部132とからなる短円筒体にて構成される。
【0056】
この場合、リング体100に既存の突起無し金属バンドを用いることができ、この突起無し金属バンドを大径部70aの周方向凹溝110に装着して、縮径させた後、保護部材101を取付ける。すなわち、肉厚部131の内径面を保護部材装着部130に固着するとともに、薄肉本体部132の内径面の反肉厚部側の端部をブーツ70の大径部70aの肩部133に固着する。なお、この実施形態では、リング体100の外周面と保護部材101の内径面との間に隙間が形成されているが、このような隙間が設けられないものであってもよい。
【0057】
また、保護部材101の肉厚部の内径面と、外側継手部材55の保護部材装着部130との固着、及び保護部材101の薄肉本体部132の内径面とブーツ70の肩部133との固着は、例えば接着剤を用いた接着にて行うことができる。この場合も接着剤は、使用されるブーツ70の材質及び外側継手部材55の材質等に応じて種々の方法をとることができる。
【0058】
図10に示す保護部材101も、肉厚部131と薄肉本体部132とからなる短円筒体にて構成でき、この場合、肉厚部131の内径面がシャフト51の外径面に固着され、薄肉本体部132の内径面がリング体100の外径面(外周面)に固着されている。この場合の固着も、接着剤を用いた接着による。この場合、薄肉本体部132の内径面とリング体100の外径面(外周面)とを固着することなく、これらを接触乃至近接させた状態であってもよい。
【0059】
図9と図10に示す保護部材101であっても、リング体100の外周側をこの保護部材101にて被覆することができる。このため、図2や図3に示す締め付け構造71と同様の作用効果を奏する。この図9と図10に示す締め付け構造71では、リング体100を既存の突起無し金属バンドをそのまま用いることができ、低コスト化を図ることができる。なお、図9と図10に示す等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材101を、コーキング材や接着剤等にて構成できず、金属や樹脂製の短円筒体にて構成することになる。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、保護部材101の肉厚として、用いる材質等に応じて種々のものを採用できるが、この場合、飛び石によって、リング体100の接合部Sを損傷乃至破損させない必要がある。また、等速自在継手として、図1に示す固定式等速自在継手や摺動式等速自在継手に限るものではなく、他のアンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手であっても、ダブルオフセットタイプの摺動式等速自在継手であってもよい。なお、図9と図10に示す等速自在継手用ブーツ締め付け構造であっても、保護部材101を短円筒体にて構成せずに、リング体100の接合部Sのみを覆うような円弧体乃至平板体等で構成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
70,90 ブーツ
100 リング体
101 保護部材
102 帯状体
103 雄部
104 雌部
S 接合部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される等速自在継手に用いられるブーツ締め付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達すると共に、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要がある。このため、例えば、図11に示すようなドライブシャフトがエンジン側と車輪側との間に介装される。ドライブシャフトは、中間シャフト1の一端を、インボード側の摺動型等速自在継手2を介してディファレンシャルに連結し、他端を、アウトボード側の固定型等速自在継手3を含む車輪用軸受装置(図示省略)を介して車輪に連結している。自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という。
【0003】
等速自在継手3は、外側継手部材5と、外側継手部材5の内側に配された内側継手部材6と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内側継手部材6の孔部内径6aとシャフト1の端部1aはトルク伝達するために、スプライン嵌合により結合されている。
【0004】
外側継手部材5はマウス部11とステム部(軸部)12とを備える。マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内側継手部材6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0005】
また、マウス部11の開口部はブーツ20にて覆われている。ブーツ20は、大径部20aと、小径部20bと、大径部20aと小径部20bとを連結する蛇腹部20cとからなる。大径部20aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド21にて締結され、小径部20bがシャフト1のブーツ装着部1bに外嵌され、この状態でブーツバンド21にて締結されている。
【0006】
インボード側の摺動型等速自在継手2は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝22を設けると共に各トラック溝22の内側壁に互いに対向するローラ案内面22aを設けた外側継手部材23と、三本の脚軸24を有するトリポード部材25と、前記脚軸24に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材23のトラック溝22に転動自在に挿入されたローラ26とを備える。
【0007】
外側継手部材23は一体に形成されたマウス部27とステム軸28とを備える。マウス部27は一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝22が形成される。トリポード部材25はボス29と前記脚軸24とを備える。脚軸24はボス29の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。
【0008】
ボス29の内径面には雌スプライン30が形成され、シャフト1のインボード側の端部1cがこのボス29に挿入されて、シャフト1の端部1cに設けられた雄スプライン31がボス29の雌スプライン31に嵌合し、これによって、シャフト1とトリポード部材25とがトルク伝達可能に結合する。
【0009】
また、マウス部(カップ部)27の開口部はブーツ40にて覆われている。ブーツ40は、大径部40aと、小径部40bと、大径部40aと小径部40bとを連結する蛇腹部40cとからなる。大径部40aがマウス部27の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド41にて締結され、小径部40bがシャフト1のブーツ装着部1dに外嵌され、この状態でブーツバンド41にて締結されている。
【0010】
前記ブーツバンド21、41としては、外径側にも内径側にも突起を有さない収縮バンド(特許文献1及び特許文献2参照)を用いることができる。このような突起無し金属バンドは、ブーツ20、40の大径部20a,40aや小径部20b、40bに外嵌し、この状態で、例えば、特許文献3等に記載のようなクランプリング取付け装置で縮径させることによって、ブーツ20、40の大径部20a,40aや小径部20b、40bと締め付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3253610号公報
【特許文献2】特許第3290216号公報
【特許文献3】特開平10−575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記図11に示すように組立けられたドライブシャフトを、自動車等に使用した場合において、悪路等を走行中に飛び石がブーツバンドに当たることがある。ここで、飛び石とは、他の自動車等によって跳ねられた石である。ところで、前記した突起無し金属バンドには接合部があり、この接合部はブーツバンドの最弱部である。このため、この最弱部に飛び石が当たれば、この衝撃で接合部が損傷してバンドが破損することがある。このように、バンドが破損すると、ブーツ内のグリースが漏れ、また、外部からは水等の異物が進入し、等速自在継手2、3はその機能を損なうおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、飛び石等による衝撃によっても、破損せずにブーツを安定して締め付けることができる等速自在継手用ブーツ締め付け構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造は、帯状体の一方の端部の雄部と、この帯状体の他方の端部の雌部とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位にこのリング体が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造であって、少なくとも雄部と雌部との係合部の外側を保護する保護部材を設けたものである。
【0015】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造によれば、保護部材によって接合部が保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的には接合部にあたらない。
【0016】
前記保護部材を、リング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成するようにできる。また、前記保護部材を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりできる。
【0017】
また、等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に前記保護部材を取付けるものであってもよい。この場合でも、この保護部材によって飛び石から接合部を保護することができる。前記リング体を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材によって接合部が保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的に接合部にあたらない。このため、飛び石等によりリング体(バンド)の損傷乃至破損を防止できるので、このバンドにて締め付けられるブーツを用いた等速自在継手は、ブーツ内のグリースが漏れを安定して防止できるとともに、外部からの水等の異物進入を防止でき、等速自在継手は長期にわたって安定したその機能を発揮する。
【0019】
保護部材をリング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成すれば、リング体全周にわたって飛び石から保護することができ、リング体の損傷乃至破損を安定して防止できる。保護部材を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりでき、各種の材質のものを用いることができ、生産性に優れる。
【0020】
また、等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に、前記リング体と別体からなる前記保護部材を取付けるものであっても、飛び石から接合部を保護することができる。このように、リング体と保護部材とを別体からなる構成とすることによって、リング体に既存の突起無し金属バンドを何ら加工を加えることなくそのまま適用でき、低コスト化を図ることができる。
【0021】
前記リング体を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。このため、使用する等速自在継手用ブーツの材質、大きさ、肉厚等に応じて、リング体に種々のものを選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の等速自在継手用締め付け構造を使用してブーツを取付けたドライブシャフトの断面図である。
【図2】前記締め付け構造を等速自在継手の外側継手部材側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図3】前記締め付け構造をシャフト側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図4】前記締め付け構造のリング体の正面図である。
【図5】前記締め付け構造のリング体の平面図である。
【図6】前記締め付け構造のリング体の斜視図である。
【図7】縮径装置を用いて締め付け構造を縮径する前の状態の簡略図である。
【図8】縮径装置を用いて締め付け構造を縮径した後の状態の簡略図である。
【図9】他の締め付け構造を等速自在継手の外側継手部材側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図10】別の締め付け構造をシャフト側に用いた状態の要部拡大断面図である。
【図11】従来の突起無し金属バンドを使用してブーツを取付けたドライブシャフトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
【0024】
図1はドライブシャフトを示し、このドライブシャフトは、中間シャフト51の一端を、インボード側の摺動型等速自在継手52を介してディファレンシャルに連結し、他端を、アウトボード側の固定型等速自在継手53を含む車輪用軸受装置(図示省略)を介して車輪に連結している。自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という。
【0025】
等速自在継手53は、外側継手部材55と、外側継手部材55の内側に配された内側継手部材56と、外側継手部材55と内側継手部材56との間に介在してトルクを伝達する複数のボール57と、外側継手部材55と内側継手部材56との間に介在してボール57を保持するケージ58とを主要な部材として構成される。内側継手部材56の孔部内径56aとシャフト51の端部51aはトルク伝達するために、スプライン嵌合により結合されている。
【0026】
外側継手部材55はマウス部61とステム部(軸部)62とを備える。マウス部61は一端にて開口した椀状で、その内球面63に、軸方向に延びた複数のトラック溝64が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝64はマウス部61の開口端まで延びている。内側継手部材56は、その外球面65に、軸方向に延びた複数のトラック溝66が円周方向等間隔に形成されている。
【0027】
また、マウス部61の開口部はブーツ70にて覆われている。ブーツ70は樹脂製(例えば熱可塑性ポリエステル系エラストマー製)であり、ブーツ大径部70aと、小径部70bと、大径部70aと小径部70bとを連結する蛇腹部70cとからなる。大径部70aがマウス部61の開口部に外嵌され、この状態で本発明にかかる締め付け構造71にて締結され、小径部70bがシャフト51のブーツ装着部51bに外嵌され、この状態で締め付け構造71にて締結されている。
【0028】
インボード側の摺動型等速自在継手52は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝72を設けると共に各トラック溝72の内側壁に互いに対向するローラ案内面72aを設けた外側継手部材73と、三本の脚軸74を有するトリポード部材75と、前記脚軸74に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材73のトラック溝72に転動自在に挿入されたローラ76とを備える。
【0029】
外側継手部材73は一体に形成されたマウス部77とステム軸78とを備える。マウス部77は一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本の前記トラック溝72が形成される。トリポード部材75はボス79と前記脚軸74とを備える。脚軸74はボス79の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。
【0030】
ボス79の内径面には雌スプライン80が形成され、シャフト51のインボード側の端部51cがこのボス79に挿入されて、シャフト51の端部51cに設けられた雄スプライン81がボス79の雌スプライン80に嵌合し、これによって、シャフト51とトリポード部材75とがトルク伝達可能に結合する。
【0031】
また、マウス部(カップ部)77の開口部はブーツ90にて覆われている。ブーツ90は、CR(クロロプレンゴム)等のゴム製であり、大径部90aと、小径部90bと、大径部90aと小径部90bとを連結する蛇腹部90cとからなる。大径部90aがマウス部77の開口部に外嵌され、この状態で本発明にかかる締め付け構造71にて締結され、小径部90bがシャフト51のブーツ装着部51dに外嵌され、この状態で締め付け構造71にて締結されている。
【0032】
前記締め付け構造71は、図2と図3に示すように、外径方向に突出する突起を有さないリング体100と、このリング体100の外周面全体を被覆するリング状の保護部材101とを備える。リング体100は、例えば、アルミニウムや鉄等の金属からなる帯状体102から構成され、図4から図6に示すように、帯状体102の一方の端部の雄部103と、この帯状体102の他方の端部の雌部104とが係合(嵌合)されてなる。このように、雄部103と雌部104との嵌合部Sが形成される。この嵌合部Sは強度的に最弱部となる。
【0033】
雄部103は、この帯状体102を図6に示すように、リング状に湾曲させた際に、雌部側へ延びる本体部103aと、この本体部103aの先端に連設された膨出部103bとからなる。また、雌部104は、雄部103の本体部103aに対応する本体凹部104aと、雄部103の膨出部103bに対応する幅広凹部104bとからなる。
【0034】
この場合、雄部103及び雌部104は、帯状体102の幅方向中央部に設けられている。そして、雄部103が設けられる側の端面における幅方向端部に小凸部105、105が設けられ、また、雌部104が設けられる側の端面における幅方向端部に切欠部106、106が設けられている。このように、雄部103と雌部104との嵌合部が、強度的に最弱部となる接合部Sとなる。
【0035】
このため、帯状体102をリング状に湾曲させて、雄部103を雌部104に嵌合させるとともに、小凸部105、105を切欠部106,106に嵌合させる。これによって、リング体100を構成できる。なお、溶接等の接合手段によって、雄部103と雌部104との接合面、小凸部105、105と切欠部106,106との接合面を接合するようにするのが好ましい。溶接を行う場合、スポット溶接やレーザ溶接等を用いることができる。
【0036】
保護部材101としては、アルミニウムや鉄等の金属にて構成しても、樹脂やゴム等で構成してもよい。樹脂にて構成する場合、コーティング材や接着剤等をリング体100の表面に塗布するようにしてもよい。
【0037】
この保護部材101に用いることができる接着剤には、熱硬化性接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン系接着剤等がある。
【0038】
保護部材101に用いるゴムは、天然ゴムであっても合成ゴムであってもよい。合成ゴムとしては、ポリブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系など種々のものを用いることができる。
【0039】
コーティング材や接着剤を用いる以外は、リング状に形成することによって、このリング体100に外嵌して、接着剤等を介して接合することになる。この場合の接着剤としては、ブーツの材質および保護部材101の材質に応じて種々選択することができる。
【0040】
ところで、図2に示すように、アウトボード側の等速自在継手3において、ブーツ70の大径部70aの外周面には周方向溝110が形成され、この周方向溝110に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ70の大径部70aが外側継手部材55の外径面開口部側、つまりブーツ装着部111に外嵌されるが、このブーツ装着部111には周方向凸条111a、111aが設けられている。締め付け構造71にてブーツ70の大径部70aを締め付けることによって、大径部70aの内周面にこの周方向凸条111a、111aが食い込む。
【0041】
また、図3に示すように、アウトボード側の等速自在継手3において、ブーツ70の小径部70bの外周面には周方向溝112が形成され、この周方向溝112に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ70の小径部70bがシャフト51のブーツ装着部113に外嵌されるが、このブーツ装着部113には、周方向凹溝114が形成され、この周方向凹溝114の両開口端に周方向凸条115が設けられている。締め付け構造71にてブーツ70の小径部70bを締め付けることによって、小径部70bの内周面にこの周方向凸条115、115が食い込む。
【0042】
インボード側の等速自在継手2において、ブーツ90の大径部90aの外周面には周方向溝120が形成され、この周方向溝120に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ90の大径部90aが外側継手部材73の外径面開口部側、つまりブーツ装着部121に外嵌されるが、このブーツ装着部121には凹部122が設けられている。締め付け構造71にてブーツ90の大径部90aを締め付けることによって、大径部90aの内周面が凹部122に嵌合する。
【0043】
インボード側の等速自在継手3において、ブーツ90の小径部90bの外周面には周方向溝125が形成され、この周方向溝125に締め付け構造71が装着される。なお、ブーツ90の小径部90bがシャフト51のブーツ装着部126に外嵌されるが、このブーツ装着部126には、周方向凹溝127が形成されている。締め付け構造71にてブーツ90の小径部90bを締め付けることによって、小径部70bの内周面が、周方向凹溝127に嵌合する。
【0044】
ところで、締め付け構造71にてブーツ70,90を締め付けるには、ブーツ70,90の大径部70a,90aや小径部70b、90bに外嵌した状態として、図7と図8に示す締め付け装置(縮径装置)にて縮径して締め付けることになる。
【0045】
縮径装置は、周方向に沿って複数個(この場合8個)のセグメント151と、このセグメント151を径方向に往復動させる図示省略の駆動機構とを備える。セグメント151は、その内径面152が円弧面とされたブロック体からなる。すなわち、セグメント151を構成するブロック体は、周方向に沿って隣合うブロック体の相対面する側面153、154と、前記内径面152と、内径面152に対向する外径面155とを備えた断面台形状のブロック片である。
【0046】
次に、この縮径用装置を使用した締め付け構造71の装着方法を説明する。まず、締め付け構造71を、ブーツ70,90の大径部70a,90aや小径部70b、90bに遊嵌状に外嵌した状態とする。この状態で、図7に示すように、複数のセグメント151を、周方向に隣合うセグメント151に側面153、154が相対面して、所定の隙間が形成されている。なお、この隙間は、後述するように各セグメント151を径方向内方へスライドさせた際に、周方向に隣合うセグメント151同士が接触等してこのスライドを妨げないように設定している。
【0047】
また、この状態では、各セグメント151の内径面152がほぼ締め付け構造71の外径面に接触している。この状態から各セグメント151は径方向内方へスライドする。この場合、各セグメント151(151a、151b、151c、151d、151e、151f、151g、151h)は締め付け構造71の外径面の中心Oを通る中心線La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf、Lg、Lhに沿ってスライドする。
【0048】
そして、最終スライド状態では、図8に示すように、第1のセグメント151aの内径面32の曲率中心Aが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151aと反対側に位置する。第2のセグメント151bの内径面152の曲率中心Bが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151bと反対側に位置する。第3のセグメント131cの内径面152の曲率中心Cが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151cと反対側に位置する。第4のセグメント151dの内径面152の曲率中心Dが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151dと反対側に位置する。第5のセグメント151eの内径面152の曲率中心Eが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント31eと反対側に位置する。第6のセグメント151fの内径面152の曲率中心Fが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151fと反対側に位置する。第7のセグメント151gの内径面152の曲率中心Gが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151gと反対側に位置する。第8のセグメント151hの内径面152の曲率中心Hが締め付け構造71の外径面の中心Oよりもこのセグメント151hと反対側に位置する。
【0049】
なお、保護部材101にてリング体100が被覆されているものでは、縮径して締め付ける際にこの保護部材101を損傷させるおそれがある。このため、保護部材101の種類によっては、リング体100のみをまず装着して縮径させた後、このリング体100に保護部材101を被覆するようにしてもよい。
【0050】
ところで、前記実施形態では、保護部材101をリング体100の全周を被覆するものであったが、リング体100の最弱部は接合部Sである。このため、保護部材101としては、少なくとも接合部Sを被覆するものであってもよい。
【0051】
本発明の等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材101によって接合部Sが保護されているので、飛び石等があっても、飛び石が直接的に接合部にあたらない。このため、飛び石等によりリング体(バンド)100の損傷乃至破損を防止できるので、このバンド100にて締め付けられるブーツ70(90)を用いた等速自在継手は、ブーツ内のグリースが漏れを安定して防止できるとともに、外部からの水等の異物進入を防止でき、等速自在継手は長期にわたって安定したその機能を発揮する。
【0052】
保護部材101をリング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成すれば、リング体全周にわたって飛び石から保護することができ、リング体100の損傷乃至破損を安定して防止できる。保護部材101を金属製としたり、樹脂製としたり、ゴム製としたりでき、生産性に優れる。
【0053】
前記リング体100を、アルミニウム製としたり、鉄製としたりできる。このため、使用する等速自在継手用ブーツの材質、大きさ、肉厚等に応じて、リング体100に種々のものを選択できる。
【0054】
次に図9と図10では、等速自在継手用ブーツ70が装着される側においてブーツ装着部111、113近傍に、リング体100とは別体である保護部材101を取付けたものである。
【0055】
すなわち、図9では、外側継手部材55の外径面のブーツ装着部111の反開口側において、保護部材装着部130を設けたものであり、保護部材101は、この保護部材装着部130に付設される肉厚部131と、肉厚部131から延びる薄肉本体部132とからなる短円筒体にて構成される。
【0056】
この場合、リング体100に既存の突起無し金属バンドを用いることができ、この突起無し金属バンドを大径部70aの周方向凹溝110に装着して、縮径させた後、保護部材101を取付ける。すなわち、肉厚部131の内径面を保護部材装着部130に固着するとともに、薄肉本体部132の内径面の反肉厚部側の端部をブーツ70の大径部70aの肩部133に固着する。なお、この実施形態では、リング体100の外周面と保護部材101の内径面との間に隙間が形成されているが、このような隙間が設けられないものであってもよい。
【0057】
また、保護部材101の肉厚部の内径面と、外側継手部材55の保護部材装着部130との固着、及び保護部材101の薄肉本体部132の内径面とブーツ70の肩部133との固着は、例えば接着剤を用いた接着にて行うことができる。この場合も接着剤は、使用されるブーツ70の材質及び外側継手部材55の材質等に応じて種々の方法をとることができる。
【0058】
図10に示す保護部材101も、肉厚部131と薄肉本体部132とからなる短円筒体にて構成でき、この場合、肉厚部131の内径面がシャフト51の外径面に固着され、薄肉本体部132の内径面がリング体100の外径面(外周面)に固着されている。この場合の固着も、接着剤を用いた接着による。この場合、薄肉本体部132の内径面とリング体100の外径面(外周面)とを固着することなく、これらを接触乃至近接させた状態であってもよい。
【0059】
図9と図10に示す保護部材101であっても、リング体100の外周側をこの保護部材101にて被覆することができる。このため、図2や図3に示す締め付け構造71と同様の作用効果を奏する。この図9と図10に示す締め付け構造71では、リング体100を既存の突起無し金属バンドをそのまま用いることができ、低コスト化を図ることができる。なお、図9と図10に示す等速自在継手用ブーツ締め付け構造では、保護部材101を、コーキング材や接着剤等にて構成できず、金属や樹脂製の短円筒体にて構成することになる。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、保護部材101の肉厚として、用いる材質等に応じて種々のものを採用できるが、この場合、飛び石によって、リング体100の接合部Sを損傷乃至破損させない必要がある。また、等速自在継手として、図1に示す固定式等速自在継手や摺動式等速自在継手に限るものではなく、他のアンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手であっても、ダブルオフセットタイプの摺動式等速自在継手であってもよい。なお、図9と図10に示す等速自在継手用ブーツ締め付け構造であっても、保護部材101を短円筒体にて構成せずに、リング体100の接合部Sのみを覆うような円弧体乃至平板体等で構成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
70,90 ブーツ
100 リング体
101 保護部材
102 帯状体
103 雄部
104 雌部
S 接合部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状体の一方の端部の雄部と、この帯状体の他方の端部の雌部とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位にこのリング体が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造であって、
少なくとも雄部と雌部との係合部の外側を保護する保護部材を設けたことを特徴とする等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項2】
前記保護部材を、リング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項3】
前記保護部材を金属製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項4】
前記保護部材を樹脂製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項5】
前記保護部材をゴム製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項6】
等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に、前記リング体とは別体である前記保護部材を取付けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項7】
前記リング体をアルミニウム製としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項8】
リング体を鉄製としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項1】
帯状体の一方の端部の雄部と、この帯状体の他方の端部の雌部とが係合されて、外径方向に突出する突起を有さないリング体が構成され、等速自在継手用ブーツの被取付部位にこのリング体が外嵌されてこの被取付部位を締め付ける等速自在継手用ブーツ締め付け構造であって、
少なくとも雄部と雌部との係合部の外側を保護する保護部材を設けたことを特徴とする等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項2】
前記保護部材を、リング体外周面全周を被覆する被覆層にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項3】
前記保護部材を金属製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項4】
前記保護部材を樹脂製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項5】
前記保護部材をゴム製としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項6】
等速自在継手用ブーツが装着される側においてブーツ装着部近傍に、前記リング体とは別体である前記保護部材を取付けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項7】
前記リング体をアルミニウム製としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【請求項8】
リング体を鉄製としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツ締め付け構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−153643(P2011−153643A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14332(P2010−14332)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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