説明

等速自在継手用連結構造

【課題】スプライン嵌合構造部において、精度のよい位置合わせを行うことなく、スプライン軸とスプライン穴とを嵌合させることができる連結継手用連結構造を提供する。
【解決手段】動力伝達機構として使用される固定式等速自在継手Tと、被連結体とを連結するための等速自在継手用連結構造である。スプライン穴65と、このスプライン穴65と相対的な軸方向のスライドによって嵌合するスプライン軸75とを有するスプライン嵌合構造部M1を備える。スプライン軸75の軸方向に延びる山部75aにおける嵌合開始部を、嵌合開始端に向かって頂部の高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面が接近する船底状先細部90とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械の動力伝達機構として適用される等速自在継手(固定式等速自在継手)においては、従動側ワークと接続される。従動側ワークとして、圧延ロール、搬送ロール、等の各種ロールであって、このロールのロール軸を固定式等速自在継手に接続(連結)するのもがある(特許文献1)。
【0003】
このような特許文献1に記載のものでは、等速自在継手と、従動側ワークとの分離を容易にするため、図8に示すように、等速自在継手に、連結構造Mを介して図示省略のローラ軸を着脱自在に連結するものである。
【0004】
この図8の等速自在継手Tは、内径面3にトラック溝4が形成された外側継手部材としての外輪5と、外径面6にトラック溝7が形成された内側継手部材としての内輪8と、外輪5のトラック溝4と内輪8のトラック溝7との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のトルク伝達ボール9と、外輪5の内径面3と内輪8の外径面6との間に介在してボール9を保持するケージ10とを備える。
【0005】
また、内輪8の内径面にはスプライン穴11が設けられ、このスプライン穴11にシャフト12の端部のスプライン軸13が嵌合している。そして、この等速自在継手Tの反ロール軸側の開口部は、ブーツ固定板22に加締られたブーツ14にて密封されている。
【0006】
等速自在継手Tには、フランジ部材19を介してカップリング18が連結されている。カップリング18は、内径面にスプライン穴15が形成された筒体16と、等速自在継手T側の外鍔部17とを備える。フランジ部材19は、短円筒状の本体部19aと、アダプタ側の外鍔部19aとを備える。また、本体部19aにはねじ孔20が設けられ、このねじ孔20に連結用のボルト部材21によって締結される。この場合、反ロール軸側には、ブーツ固定板22が配置され、このブーツ固定板22、及び外輪5に前記ボルト部材21が挿通されてねじ孔20に締結される。これによって、ブーツ固定板22と外輪5とフランジ部材19とが一体化される。また、カップリング18の外鍔部17とフランジ部材19の外鍔部19aとが重ね合わされてボルトナット結合23によって、一体化されている。
【0007】
ロール軸は、連結構造Mを有するアダプタ装置24を介して等速自在継手Tに接続される。アダプタ装置24は、外周面にスプライン軸25が形成された軸部26と、この軸部26の基端部に設けられる鍔部27と、この鍔部27に連結されるフランジ28とを備える。フランジ28は、内径面にはキー溝29が形成された本体部30、この本体部30の軸部26側に設けられる外鍔部31とを備える。この場合、フランジ28の外鍔部31の端面と鍔部27の端面はインロー嵌合され、ボルトナット結合32によって、一体化されている。
【0008】
また、軸部26がカップリング18の筒体部16に嵌入され、軸部26側のスプライン軸25とカップリング18の筒体部16のスプライン穴15とが嵌合する。そして、この嵌合状態では、抜け止め機構36にて軸部26のカップリング18の筒体部16からの抜けを規制している。抜け止め機構36は、軸部26のスプライン軸25に形成される周方向溝33と、カップリング18の筒体部16に連結されるボルト部材35とを備える。このため、カップリング18の筒体部16にボルト部材35が連結されることによって、ボルト部材35の軸先端部が周方向溝33に嵌合して、軸部26のフランジ部材19からの抜けを規制している。
【0009】
図9では、アダプタ装置24が、内径面にキー溝39が形成されたアダプタ40のみから構成されている。すなわち、アダプタ40は、内径面にキー溝39が形成された本体部40aと、この本体部40aから等速自在継手側へ突出される短筒部40bとからなり、この短筒部40bに設けられるねじ孔41に、ボルト部材21のねじによって締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−145072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8に示す連結構造Mでは、アダプタ装置24をカップリング18に連結する場合、まず、アダプタ装置24の軸部26をカップリング18の筒体部16に嵌入する必要がある。この際、軸部26のスプライン軸25をカップリング18の筒体部16のスプライン穴15に嵌合させることになる。すなわち、軸部26のスプライン軸25の山部の開始端(軸部の先端側の端)を、カップリング18のスプライン穴15の谷部の開始端(カップリング18の開口端)に対応させるとともに、軸部26のスプライン軸25の谷部の開始端をカップリング18の筒体部16のスプライン穴15の山部の開始端に対応させ、この状態で、軸部26をカップリング18の筒体部16に対して挿入していくことになる。
【0012】
しかしながら、軸部26のスプライン軸25の山部の開始端およびカップリング18のスプライン穴15の山部の嵌合端は、それぞれ面を持つ形状である。このため、軸部26をカップリング18に対して挿入していく際には、精度のよい位相合わせを行う必要がある。すなわち、精度のよい位相合わせが行われていなければ、軸部26のスプライン軸25の山部の開始端とカップリング18のスプライン穴15の山部の開始端とがお互いに干渉して、スムーズな嵌合は困難になる
【0013】
また、等速自在継手Tへのシャフト12の嵌入も、シャフト12のスプライン軸13と、内輪8のスプライン穴11とを嵌合させることになる。このため、精度のよい位相合わせが行われていなければ、シャフト12のスプライン軸13と内輪8のスプライン穴11とのスムーズな嵌合は困難になる。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みて、スプライン嵌合構造部において、精度のよい位相合わせを行うことなく、スプライン軸とスプライン穴とを嵌合させることができる等速自在継手用連結構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の連結構造は、動力伝達機構として使用される固定式等速自在継手と、被連結体とを着脱可能に連結するための等速自在継手用連結構造であって、スプライン穴と、このスプライン穴と相対的な軸方向のスライドによって嵌合するスプライン軸とを有するスプライン嵌合構造部を備え、スプライン軸の軸方向に延びる山部における嵌合開始部を、嵌合開始端に向かって頂部の高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面が接近する船底状先細部としたものである。
【0016】
本発明の第2の連結構造は、動力伝達機構として使用される固定式等速自在継手と、被連結体とを着脱可能に連結するための等速自在継手用連結構造であって、スプライン穴と、このスプライン穴と相対的な軸方向のスライドによって嵌合するスプライン軸とを有するスプライン嵌合構造部を備え、スプライン穴の軸方向に延びる山部における嵌合開始部を、嵌合開始端に向かって頂部の高さが低くなるとともに、嵌合開始端に向かって相対向する側面が接近する船底状先細部としたものである。
【0017】
前記被連結体は、例えば、従動側ワークとしてのロール軸である。また、ロール軸とは、圧延ロール、搬送ロール等の各種ロールである。
【0018】
本発明の第1の連結構造及び第2の連結構造では、スプライン穴とスプライン穴とを相対的な軸方向のスライドによって嵌合する場合、スプライン穴の軸方向に延びる山部における嵌合開始部を船底状先細部しているので、スプライン穴とスプライン穴が位相が多少ずれていても、船底状先細部が案内部材となって、相手側のスプライン穴の谷部に対して船底状先細部を軸心方向に沿って嵌入することができる。
【0019】
船底状先細部を有するスプラインにおいて、周方向に沿って所定ピッチで配設される全山部に船底状先細部を形成したものであっても、周方向に沿って所定ピッチで配設される山部のうち、1/4〜1/2のみに船底状先細部を形成したものであってもよい。全山部に船底状先細部を形成したものでは、全船底状先細部がガイド部材となる。また、1/4〜1/2のみに船底状先細部を形成したものでは、船底状先細部の数を減少させることができる。
【0020】
船底状先細部を形成した山部は、船底状先細部を有さない山部よりも嵌合開始側に突出するものが好ましい。この場合、船底状先細部を有さない山部が、相手側のスプラインの谷部に嵌合する際には、船底状先細部を形成した山部の相手側のスプライン谷部への嵌合によって、位相が一致している。このため、船底状先細部を有さない山部も、相手のスプラインの山部と干渉することなく、相手側の谷部に嵌入していくことになる。
【0021】
前記船底状先細部は、熱処理後に形成されているのが好ましく、また、前記熱処理は調質処理である。さらに、少なくとも船底状先細部は、固体潤滑剤表面処理を含む表面処理が施されていてもよい。調質処理とは、焼入れ後、比較的高い温度(例えば、400℃以上)に焼戻して、トルースタイト又はソルバイト組織にする処理をいう。すなわち、調質とは鋼の結晶粒子を微細にして鋼質を調整し、強じん性を実質的に向上させる操作をいう。固体潤滑剤表面処理とは固体潤滑処理皮膜を成形することであり、固体潤滑処理皮膜とは、二硫化モリブデン、黒鉛(グラファイト)、フッ素樹脂(四フッ化エチレン等)、二硫化タングステン、金属酸化物などの固体潤滑剤を一種類または数種類、各種の有機樹脂に分散させ塗料状にし、これをコーティングして得られる乾燥皮膜である。固体潤滑処理皮膜は、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性に優れる。
【0022】
前記スプライン嵌合構造部の嵌合状態において、このスプライン嵌合構造部のスプライン軸とスプライン穴とを一体化するためのボルト結合構造部を備えたものとできる。このようにボルト結合構造部を有するものでは、ボルト結合構造部にて締め付けることによって、従動側ワークと等速自在継手とを一体化することができ、ボルト結合構造部を緩めることによって、このボルト結合構造部の結合状態を解除することができる。ボルト結合構造が解除状態となれば、スプライン嵌合構造部において、スプライン穴とスプライン軸とが相対的な軸方向のスライドによって嵌合しているのみである。このため、相対的な軸方向のスライドによって、スプライン穴とスプライン軸との嵌合状態を解除できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、船底状先細部が案内部材となって、相手側のスプライン穴の谷部に対して船底状先細部を軸心方向に沿って嵌入することができる。すなわち、嵌合時において、スプライン穴とスプライン軸との山部(凸歯)の干渉がなくなって、スムーズな嵌合を可能として、組み立て作業性の向上を図ることができる。しかも、嵌合時におけるスプラインの歯の損傷を防止でき、品質向上を図ることができる。
【0024】
船底状先細部を有するスプラインにおいて、周方向に沿って所定ピッチで配設される全山部に船底状先細部を形成したものでは、全船底状先細部がガイド部材となるので、嵌入時のガイドが安定して嵌入性に優れる。
【0025】
周方向に沿って所定ピッチで配設される山部のうち、1/4〜1/2のみに船底状先細部を形成したものでは、船底状先細部の数を減少させることができ、全体としての嵌入時(挿入時)の摺動抵抗を小さくできる。また、船底状先細部を形成した山部が、船底状先細部を有さない山部よりも嵌合開始側に突出するものでは、船底状先細部を有さない山部が、相手のスプラインの山部と干渉せずに相手側の谷部にスムーズに嵌合させることができる。
【0026】
船底状先細部に対して熱処理や固体潤滑剤表面処理を含む表面処理を行うことによって船底状先細部の耐摩耗性が向上して、安定したガイド機能を発揮する。
【0027】
ボルト結合構造部を有するものでは、安定した連結状態を得ることができる。また、ボルト結合構造部の結合状態を解除することによって、スプライン嵌合構造部の嵌合状態を容易に解除でき、従動側ワークの交換作業の容易化を図ることができる。また、ボルト結合構造部を設けない場合は、ボルト結合構造部の締め付け作業及び解除作業を省略でき、交換作業の一層の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態の等速自在継手用連結構造の断面図である。
【図2】スプライン軸を示し、(a)は船底状先細部が前記全凸部に設けている場合の斜視図であり、(b)は船底状先細部が全凸部に設けていない場合の斜視図である。
【図3】スプライン軸の山部を示し、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。
【図4】スプライン穴を示す斜視図である。
【図5】等速自在継手とシャフトとのスプライン嵌合構造部を示す断面図である。
【図6】シャフトのスプライン軸を示す斜視図である。
【図7】船底状先細部を有するスプライン穴を示す斜視図である。
【図8】従来の等速自在継手用連結構造の断面図である。
【図9】従来の他の等速自在継手用連結構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0030】
図1に本発明に係る等速自在継手用連結構造Mを示す。この連結構造Mは、等速自在継手Tと、従動側ワークしての図示省略のロール軸とを連結するものである。連結構造Mは、スプライン嵌合構造部M1と、ボルト結合構造部M2とを備える。ここで、ロール軸とは、圧延ロール、搬送ロール、等の各種ロールである。
【0031】
等速自在継手Tは、内径面53にトラック溝54が形成された外側継手部材としての外輪55と、外径面56にトラック溝57が形成された内側継手部材としての内輪58と、外輪55のトラック溝54と内輪58のトラック溝57との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のトルク伝達ボール59と、外輪55の内径面53と内輪58の外径面56との間に介在してボール59を保持するケージ60とを備える。
【0032】
また、内輪58の内径面にはスプライン穴61が設けられ、このスプライン穴61にシャフト62の端部のスプライン軸63が嵌合している。そして、この等速自在継手Tの反ロール軸側の開口部は、ブーツ固定板72に加締めたられたブーツ64にて密封されている。また、スプライン軸63には、先端部(嵌入開始部)、及び、基端部(反嵌入開始部)には止め輪等のストッパS1、S2が配置されている。
【0033】
等速自在継手Tにはフランジ部材69を介してカップリング68が連結されている。カップリング68は、内径面にスプライン穴65が形成された筒状の筒部66と、等速自在継手T側の外鍔部67とを備える。すなわち、フランジ部材69は、短円筒状の本体部69aと、アダプタ側の外鍔部69aとを備える。また、本体部69aにはねじ孔70が設けられ、このねじ孔70に連結用のボルト部材71が締結される。この場合、反ロール軸側には、ブーツ固定板72が配置され、このブーツ固定板72、及び外輪55に前記ボルト部材71が挿通されてねじ孔70に締結される。これによって、ブーツ固定板72と外輪55とフランジ部材69とが一体化される。また、カップリング68の外鍔部67とフランジ部材69の外鍔部69aとが重ね合わされてボルトナット結合73によって、一体化されている。
【0034】
ロール軸は、本発明の等速自在継手用連結構造Mを有するアダプタ装置74を介して等速自在継手Tに接続される。アダプタ装置74は、外周面にスプライン軸75が形成された軸部76と、この軸部76の基端部に設けられる鍔部77と、この鍔部77に連結されるアダプタ78とを備える。アダプタ78は、内径面84にキー溝79が形成された本体部80、この本体部80の軸部76側に設けられる外鍔部81とを備える。この場合、アダプタ78の外鍔部81の端面と鍔部77の端面部はインロー嵌合され、ボルトナット結合82によって、一体化されている。
【0035】
また、軸部76がカップリング68の筒部66に嵌入され、軸部76側のスプライン軸75とカップリング68の筒部66のスプライン穴65とが嵌合する。すなわち、本発明に係る連結構造Mのスプライン嵌合構造部M1が嵌合状態となる。そして、この嵌合状態では、ボルト結合構造部M2にて軸部76のカップリング68の筒部66からの抜けを規制している。ボルト結合構造部M2は、軸部76のスプライン軸75に形成される周方向溝83と、カップリング68の筒部66に連結されるボルト部材85とを備える。このため、カップリング68の筒部66にボルト部材85が連結されることによって、ボルト部材85の軸先端部85aが周方向溝83に嵌合して、軸部76のカップリング68からの抜けを規制している。
【0036】
スプライン軸75は、図2(a)に示すように、周方向に沿って所定ピッチで複数の山部(凸歯)75aが形成されてなる。すなわち、周方向に隣合う山部75a間に谷部(凹歯)75bが形成され、山部75aと谷部75bとが交互に配設される。すなわち、軸部76は、外周面が円筒面の軸本体76aと、この軸本体76aの外周面に、断面台形状の山部75aが形成されてなるものである。
【0037】
山部75aの先端部(嵌入開始端部)には、船底状先細部90が設けられている。この船底状先細部90は、図3(a)(b)に示すように、嵌合開始端に向かって頂部90aの高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面90b,90bが接近する形状である。
【0038】
ところで、図2(a)では、全山部75aに船底状先細部90が設けられ、しかも、各船底状先細部90の先端縁90cが同一円C上に配置されている。すなわち、各船底状先細部90の先端縁90cの軸方向位置が一致している。これに対して、図2(b)に示す場合、全山部65aに船底状先細部90を設けることなく、全山部75aの1/4〜1/2のみに船底状先細部90を形成するようにしてもよい。なお、図2(b)では、船底状先細部90を有する山部75a間に、船底状先細部90を有さない山部75aが3つ配置されている。
【0039】
図2(b)では、船底状先細部90を有する山部75aの船底状先細部90の先端縁90cが、船底状先細部90を有さない山部75aの先端縁91よりも嵌入開始端側に位置している。この場合、船底状先細部90を有する山部75aの船底状先細部90の先端縁90cは同一円C1上に配置され、船底状先細部90を有さない山部75aの先端縁91は、先端縁90cが配置される円C1よりも後退した円C2上に配置される。
【0040】
また、カップリング68の筒部66の内径面に形成されるスプライン穴65は、図4に示すように、筒部66の内径面に周方向に沿って所定ピッチで複数の山部(凸歯)65aが形成されてなる。すなわち、周方向に隣合う山部65a間に谷部(凹歯)65bが形成され、山部65aと谷部65bとが交互に配設される。
【0041】
このスプライン穴65の全山部65aに船底状先細部95が設けられている。この場合、船底状先細部95は反等速自在継手側であって、嵌入開始端部に設けられる。また、船底状先細部95も、嵌合開始端に向かって頂部95aの高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面95b,95bが接近する形状である。船底状先細部95の先端95cは、カップリング68の筒部66の反等速自在継手側の開口端66a(図1参照)に一致している。
【0042】
この場合も、全山部65aに船底状先細部95を設けることなく、全山部75aの1/4〜1/2のみに船底状先細部95を形成するようにしてもよい。このように、全山部75aの1/4〜1/2のみに船底状先細部95を形成する場合、図2(b)に示すように、船底状先細部95を有する山部65aを、船底状先細部95を有さない山部65aよりも嵌入開始端側に突出させることになる。
【0043】
そして、このスプライン穴65とスプライン軸75とを嵌合させた状態で、スプライン軸75の山部75aがスプライン穴65の谷部65bに嵌合するとともに、スプライン穴65の山部65aがスプライン軸75の谷部75bに嵌合する。
【0044】
次に、等速自在継手T側のカップリング68と、アダプタ装置74とを連結する方法を説明する。まず、カップリング68の筒部66にアダプタ装置74の軸部76を嵌入する。この際、軸部76のスプライン軸75の山部75aとカップリング68のスプライン穴65の谷部65bとを対応させ(カップリング68のスプライン穴65の山部65aと軸部76のスプライン軸75の谷部75bとを対応させ)、この状態で、軸部76とカップリング68とを相対的に軸方向に沿ってスライドさせて、軸部76をカップリング68に嵌入させることになる。例えば、カップリング68の筒部66に対して軸部76を押し込んでいくことになる。
【0045】
この嵌入開始時には、軸部76のスプライン軸75の山部75aとカップリング68のスプライン穴65の谷部65bとが精度よく一致するのが好ましい。しかしながら、一致せずに、周方向にずれている場合がある。このように周方向にずれていても、各船底状先細部90(95)が相手側の谷部65b(75b)に侵入すれば、谷部65b(75b)を構成する山部65a(75a)の側面を船底状先細部95(90)が摺動し、軸方向に沿って順次この対応する谷部65b(75b)に侵入していくことになる。そして、図1に示すように、ボルト結合構造部M2のボルト部材85に、周方向溝83が対応するまで、軸部76は筒部66に嵌入される。
【0046】
軸部76の嵌入後、ボルト結合構造部M2のボルト部材85を連結させることによって、このボルト部材85の軸先端部85aを周方向溝83に嵌合(係合)させる。これによって、スプライン軸75とスプライン穴65とが嵌合された状態で、ボルト結合構造部M2によって、軸部76のカップリング68の筒部66内での軸方向のスライドが規制され、等速自在継手T側のカップリング68と、アダプタ装置74とが連結された状態となる。
【0047】
また、図1に示す状態から、ボルト結合構造部M2のボルト部材85を螺退させて、ボルト部材85の軸先端部85aが周方向溝83に嵌合(係合)しない状態とすれば、軸部76とカップリング68の筒部66との相対的な軸方向のスライドが可能となる。このため、軸部76をカップリング68の筒部66に対して抜く方向(反等速自在継手側)にスライドさせれば、軸部76をカップリング68の筒部66から引き抜くことができる。すなわち、等速自在継手T側のカップリング68と、アダプタ装置74とを分離することができる。
【0048】
本発明では、スプライン75、65の軸方向に延びる山部75a、65aにおける嵌合開始部を船底状先細部90、95としているので、スプライン穴65とスプライン軸75の位相が多少ずれていても、船底状先細部90、95が案内部材となって、相手側のスプライン穴65,75の谷部65b、75bに対して船底状先細部90、95を軸心方向に沿って嵌入することができる。すなわち、嵌合時において、スプライン穴65とスプライン軸75との山部(凸歯)65a、75aの干渉がなくなって、スムーズの嵌合を可能として、組み立て作業性の向上を図ることができる。しかも、嵌合時におけるスプラインの歯の損傷や損壊を防止でき、品質向上を図ることができる。
【0049】
船底状先細部90、95を有するスプライン75,65において、周方向に沿って所定ピッチで配設される全山部75a、65aに船底状先細部90、95を形成したものでは、全船底状先細部90、95がガイド部材となるので、嵌入時のガイドが安定して嵌入性に優れる。
【0050】
周方向に沿って所定ピッチで配設される山部75a、65aのうち、1/4〜1/2のみに船底状先細部を形成したものでは、船底状先細部90,95の数を減少させることができ、全体としての嵌入時(挿入時)の摺動抵抗を小さくできる。また、船底状先細部90,95を形成した山部75a、65aが、船底状先細部90,95を有さない山部75a、65aよりも嵌合開始側に突出するものでは、船底状先細部90,95を有さない山部75a、65aが、相手のスプライン65、75の山部65a、75aと干渉せず、このスプライン軸75とスプライン穴65とをスムーズに嵌合させることができる。船底状先細部90,95の数を減少させる場合、前記のように、全山部75a、65aのうち、1/4〜1/2のみに船底状先細部90,95を設けるようにしたのは、嵌入時のガイド性が損なわず、しかも、摺動抵抗を小さくできるためのものである。
【0051】
ところで、前記船底状先細部90,95は、相手側の山部に摺接するので、耐摩耗性に優れるのが好ましい。そこで、スプライン軸75を成形する場合に、少なくとも船底状先細部90に対して、熱硬化処理を行うようにするのが好ましい。この際、形状加工前に調質処理等の材料改質を行うことができる。ここで、調質処理とは、焼入れ後、比較的高い温度(例えば、400℃以上)に焼戻して、トルースタイト又はソルバイト組織にする処理をいう。すなわち、調質とは鋼の結晶粒子を微細にして鋼質を調整し、強じん性を実質的に向上させる操作をいう。
【0052】
また、このような熱処理に代えて、固体潤滑剤表面処理を含む表面処理を施してもよい。固体潤滑剤表面処理とは固体潤滑処理皮膜を成形することであり、固体潤滑処理皮膜とは、二硫化モリブデン、黒鉛(グラファイト)、フッ素樹脂(四フッ化エチレン等)、二硫化タングステン、金属酸化物などの固体潤滑剤を一種類または数種類、各種の有機樹脂に分散させ塗料状にし、これをコーティングして得られる乾燥皮膜である。固体潤滑処理皮膜は、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性に優れる。
【0053】
このように、船底状先細部90に対して熱処理や固体潤滑剤表面処理を含む表面処理を行うことによって船底状先細部90の耐摩耗性が向上して、安定したガイド機能を発揮する。
【0054】
前記実施形態では、スプライン嵌合構造部M1の嵌合状態において、このスプライン嵌合構造部M1のスプライン軸75とスプライン穴65とを一体化するためのボルト結合構造部M2を備えたものである。このため、ボルト結合構造部M2の締め付けによって、従動側ワークと等速自在継手Tとを一体化することができ、また、ボルト結合構造部M2を緩めることによって、このボルト結合構造部M2の結合状態を解除することができる。従って、ボルト結合構造M2が解除状態となれば、スプライン嵌合構造部M1において、スプライン穴75とスプライン軸65とが相対的な軸方向のスライドによって嵌合しているのみである。このため、相対的な軸方向のスライドによって、スプライン穴75とスプライン軸65との嵌合状態を解除できる。
【0055】
このように、ボルト結合構造部M2を有するものでは、安定した連結状態を得ることができる。また、ボルト結合構造部M2の結合状態を解除することによって、スプライン嵌合構造部M1の嵌合状態を容易に解除でき、従動側ワークの交換作業の容易化を図ることができる。また、ボルト結合構造部M2を設けない場合は、ボルト結合構造部Mの締め付け作業及び解除作業を省略でき、交換作業の一層の容易化を図ることができる。なお、このようなボルト結合構造部M2を設けない場合であっても、スプライン嵌合構造部M1の嵌合力によって、使用中等において、スプライン穴75とスプライン軸65との嵌合状態が解除されるものではない。
【0056】
図5では、アダプタ装置74が、内径面94にキー溝99が形成されたアダプタ100のみから構成されている。すなわち、アダプタ100は、内径面にキー溝99が形成された本体部100aと、この本体部100aから等速自在継手側へ突出される短筒部100bとからなり、この短筒部100bに設けられるねじ孔101に、ボルト部材71のねじ軸を螺着するものである。
【0057】
この場合、シャフト62のスプライン軸63の山部63aの嵌入開始部(シャフト62の先端部)に、船底状先細部110が形成されている。この船底状先細部110は、図3に示す船底状先細部110と同様、嵌合開始端に向かって頂部110aの高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面110b,110bが接近する形状である。すなわち、シャフト62のスプライン軸63と、内輪58のスプライン穴61とで本発明に係る連結構造(固定式等速自在継手Tと、被連結体とを着脱可能に連結するための等速自在継手用連結構造)Mのスプライン嵌合構造部M1を構成することになる。このため、この連結構造Mでは、図1に示すようなボルト結合構造部M2を有しない。
【0058】
ところで、図6では、全山部63aに船底状先細部110が設けられ、しかも、各船底状先細部110の先端縁110cが同一円C3上に配置されている。すなわち、各船底状先細部110の先端縁110cの軸方向位置が一致している。これに対して、全山部63aに船底状先細部110を設けることなく、全山部63aの1/4〜1/2のみに船底状先細部110を形成するようにしてもよい。全山部63aの1/4〜1/2のみに船底状先細部110を形成する場合、船底状先細部110を有する山部65aを、船底状先細部110を有さない山部63aよりも嵌入開始端側に突出させることになる。
【0059】
また、内輪58のスプライン穴61の山部61aの嵌入開始部には、図7に示すように、船底状先細部115が設けられている。また、船底状先細部115も、嵌合開始端に向かって頂部115aの高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面115b,115bが接近する形状である。船底状先細部115の先端115cは、内輪58の等速自在継手側の開口端58aに一致している。この場合も、全山部61aの1/4〜1/2のみに船底状先細部115を形成するようにしてもよい。全山部61aの1/4〜1/2のみに船底状先細部115を形成する場合、船底状先細部115を有する山部65aを、船底状先細部115を有さない山部61aよりも嵌入開始端側に突出させることになる。
【0060】
このため、内輪58とシャフト62とを一体化する場合、内輪58にシャフト62のスプライン軸63を嵌入する。この際、シャフト62のスプライン軸63の山部63aと内輪58のスプライン穴61の谷部61bとを対応させ(内輪58のスプライン穴61の山部61aとシャフト62のスプライン軸63の谷部63bとを対応させ)、この状態で、シャフト62と内輪58とを相対的に軸方向に沿ってスライドさせて、シャフト62を内輪58に嵌入させることになる。
【0061】
この嵌入開始時に、シャフト62のスプライン軸63の山部63aと内輪58のスプライン穴61の谷部61bとが精度よく一致せずに、僅かに周方向にずれていても、各船底状先細部110(115)が相手側の谷部61b(63b)に侵入すれば、谷部65b(75b)を構成する山部61a(63a)の側面を船底状先細部110(115)が摺動し、軸方向に沿って順次この対応する谷部61b(63b)に侵入していく。
【0062】
このように、各船底状先細部110(115)を有するスプライン嵌合構造部M1を用いれば、スプライン軸63とスプライン穴61の位相が多少ずれていても、船底状先細部110(115)が案内部材となって、相手側の谷部63b、61bに対して船底状先細部110(115)を軸心方向に沿って嵌入することができる。すなわち、嵌合時において、スプライン軸63とスプライン穴61との山部(凸歯)の干渉がなくなって、スムーズな嵌合を可能として、組み立て作業性の向上を図ることができる。しかも、嵌合時におけるスプラインの歯の損傷や損壊を防止でき、品質向上を図ることができる。
【0063】
ところで、各船底状先細部110(115)においても、調質処理や固体潤滑剤表面処理を含む表面処理を行うようにするのが好ましい。このような処理を行うことによって、船底状先細部の耐摩耗性が向上して、安定したガイド機能を発揮する。
【0064】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、スプライン軸側とスプライン穴側とに各船底状先細部を設けたが、船底状先細部を、いずれか一方、つまりスプライン軸側のみに設けたり、スプライン穴側のみに設けたりしてもよい。また、全山部に船底状先細部を設けない場合、全山部の1/4〜1/2のみに船底状先細部90を形成するようにのが好ましいが、これに限るものではない。すなわち、嵌入時にガイド機能を発揮でき、かつ摺動抵抗を小さくできればよい。
【0065】
スプライン軸及びスプライン穴における山部の数は任意に設定でき、各山部の断面形状としても、台形状に限るものではなく、裾部分がなだらかな曲面となるいわゆる富士山形状であってもよい。また、船底状先細部90、95、110、115に熱処理や固体潤滑剤表面処理を施す場合、全山部61a,65a、63a,75aに施してもよい。
【0066】
等速自在継手Tとしては、前記実施形態では、固定式等速自在継手であったが、他のタイプの固定式等速自在継手であっても、摺動式等速自在継手であってもよい。摺動式等速自在継手としても、ダブルオフセット型等速自在継手、トリポード型等速自在継手、クロスグルーブ型等速自在継手等の種々のものに対して適用できる。
【符号の説明】
【0067】
61,65 スプライン穴
61a,65a 山部
63,75 スプライン軸
63a,75a 山部
90、95、110、115 船底状先細部
90a、95a、110a 頂部
90b、95b、110b 側面
M1 スプライン嵌合構造部
M2 ボルト結合構造部
T 等速自在継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達機構として使用される固定式等速自在継手と、被連結体とを着脱可能に連結するための等速自在継手用連結構造であって、
スプライン穴と、このスプライン穴と相対的な軸方向のスライドによって嵌合するスプライン軸とを有するスプライン嵌合構造部を備え、スプライン軸の軸方向に延びる山部における嵌合開始部を、嵌合開始端に向かって頂部の高さが低くなるとともに嵌合開始端に向かって相対向する側面が接近する船底状先細部としたことを特徴とする等速自在継手用連結。
【請求項2】
動力伝達機構として使用される固定式等速自在継手と、被連結体とを着脱可能に連結するための等速自在継手用連結構造であって、
スプライン穴と、このスプライン穴と相対的な軸方向のスライドによって嵌合するスプライン軸とを有するスプライン嵌合構造部を備え、スプライン穴の軸方向に延びる山部における嵌合開始部を、嵌合開始端に向かって頂部の高さが低くなるとともに、嵌合開始端に向かって相対向する側面が接近する船底状先細部としたことを特徴とする等速自在継手用連結構造。
【請求項3】
船底状先細部を有するスプラインにおいて、周方向に沿って所定ピッチで配設される全山部に船底状先細部を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項4】
船底状先細部を有するスプラインにおいて、周方向に沿って所定ピッチで配設される山部のうち、1/4〜1/2のみに前記船底状先細部を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項5】
前記船底状先細部を形成した山部は、船底状先細部を有さない山部よりも嵌合開始側に突出していることを特徴とする請求項4に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項6】
前記船底状先細部は、熱処理後に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項7】
前記熱処理は調質処理であることを特徴とする請求項6に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項8】
少なくとも船底状先細部は、固体潤滑剤表面処理を含む表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用連結構造。
【請求項9】
前記スプライン嵌合構造部の嵌合状態において、このスプライン嵌合構造部のスプライン軸とスプライン穴とを一体化するためのボルト結合構造部を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−281430(P2010−281430A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137376(P2009−137376)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)