説明

等速自在継手

【課題】ゴムあるいは樹脂等のブーツでは耐えることができない厳しい使用環境下においても、継手内部の潤滑機能を損なわせない等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材43と、外側継手部材43の内側にトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材46とを備え、外側継手部材43の開口部が密封部材Sにて密封される等速自在継手である。密封部材Sは、金属球面シール部80と金属球面シール部80の外周を覆う副シール構造体95とを備える。金属球面シール部80は、凸球面状のシール面81を有する球面シール内環82と、球面シール内環82のシール面81と相対的に摺接する凹球面状のシール面83を有する球面シール外環84とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種産業機械などで使用される等速自在継手では、外部からの異物の侵入および内部からのグリースの漏出を防止するためのシール部材として、ゴムや樹脂製のブーツを装着しているのが一般的である。
【0003】
しかしながら、各種産業機械の中でも鉄鋼設備の一つである連続鋳造設備で使用され、各種ロールに駆動力を伝達するロール駆動力伝達装置は、80℃以上の輻射熱、水蒸気による高温多湿、スケールの飛散、薬品類などによる劣悪雰囲気下で使用されるため、前述したゴムや樹脂製のブーツからなるシール部材の場合、そのシール部材が劣化し易く、シール性能および耐久性能の低下を招来する。
【0004】
このことから、劣悪雰囲気下で使用されるロール駆動力伝達装置に組み込まれた等速自在継手では、ゴムや樹脂製のブーツからなるシール部材を使用せず、金属製の球面シール構造を採用している。なお、等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、その外側継手部材と内側継手部材との間で角度変位を許容しながらトルクを伝達するボールと、そのボールを保持するケージとで主要部が構成され、内側継手部材から延びるシャフトと外側継手部材との間に球面シール構造が設けられている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1等に記載の等速自在継手は、図5に示すように、軸方向に延びる複数のトラック溝1が球面状内周面2に円周方向等間隔で形成された外側継手部材3と、その外側継手部材3のトラック溝1と対応させて軸方向に延びる複数のトラック溝4が球面状外周面5に円周方向等間隔で形成された内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝1と内側継手部材6のトラック溝4とが協働して形成されたボールトラックに配されたトルク伝達部材である複数のボール7と、外側継手部材3の球面状内周面2と内側継手部材6の球面状外周面5との間に介在してボール7を保持するケージ8とを備えている。
【0006】
内側継手部材6の軸孔にシャフト10の軸端を挿入してスプライン嵌合させることにより両者をトルク伝達可能に連結している。また、内側継手部材6とスプライン嵌合されたシャフト10の軸端にロックプレート12をボルト13で締め付け固定することにより、シャフト10を内側継手部材に対して抜け止めしている。外側継手部材3の一方の端部に、回転軸に連結固定するためのフランジ15が一体的に連結されている。
【0007】
外側継手部材3の開口部を塞ぐため、その外側継手部材3の開口端部と内側継手部材6から延びるシャフト10との間に、継手内部の外部からの液体の侵入および内部からのグリースの漏洩を防止する球面シール構造20が設けられている。
【0008】
この球面シール構造20は、内径に凹球面状のシール面21を有する金属製の球面シール外環22を外側継手部材3に装着すると共に、外径に凸球面状のシール面23を有する金属製の球面シール内環24を内側継手部材6から延びるシャフト10に滑動自在に装着し、その球面シール内環24と内側継手部材6との間に配設されたスプリング25により、球面シール内環24のシール面23を球面シール外環22のシール面21に弾圧接触させるものである。
【0009】
そして、特許文献1に記載の等速自在継手では、球面シール内環24のシール面23と球面シール外環22のシール面21等に、周辺から飛散した液体が付着して継手内部へ侵入したり、グリースを洗い流したりすることを防止するために、球面シール内環24のシール面23と球面シール外環22のシール面21等に撥水コーティングを施していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−65814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記鉄鋼設備の連続鋳造設備等で使用された場合、化学水や鉄粉の飛散があり、球面シール内環のシール面や球面シール外環のシール面の撥水コーティングでは、長期間安定したシール機能を発揮させることが困難である。すなわち、不純物の付着・堆積により、継手内部への異物侵入が避けられないものであった。
【0012】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、ゴムあるいは樹脂等のブーツでは耐えることができない厳しい使用環境下においても、継手内部の潤滑機能を損なわせない等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手は、外側継手部材と、この外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、前記外側継手部材の開口部が密封部材にて密封される等速自在継手であって、前記密封部材は、凸球面状のシール面を有する球面シール内環と、この球面シール内環のシール面と相対的に摺接する凹球面状のシール面を有する球面シール外環とからなる金属球面シール部と、この金属球面シール部の外周を覆う副シール構造体とを備えたものである。
【0014】
本発明の等速自在継手によれば、副シール構造体にて、金属球面シール部への異物(水やスケール等)の侵入を防止できる。
【0015】
前記球面シール外環のシール面の軌道線上乃至球面シール内環の外周側に潤滑剤が含浸された含浸部材を配置するのが好ましい。潤滑剤が含浸された含浸部材を配置することによって、球面シール内環と球面シール外環との間の摺動面が安定して潤滑される。
【0016】
前記球面シール外環は、内側継手部材から延びる軸部材に外嵌される短筒部と、この短筒部に連設される椀形状部とを備え、この椀形状部の内径面が前記シール面を構成し、この球面シール外環に、潤滑剤供給用のグリースニップルを付設するとともに、短筒部の内径面と軸部材の外径面との間にシールリングを介在させたようにしてもよい。
【0017】
このように設定すれば、グリースニップルを付設することによって、継手内部に潤滑剤供給を安定して供給することができる。また、短筒部の内径面と軸部材の外径面との間にシールリングを介在させているので、短筒部の内径面と軸部材の外径面との間のシール性を向上することができる。
【0018】
前記球面シール外環は、内側継手部材から延びる軸部材に外嵌される短筒部と、この短筒部に連設される椀形状部とを備え、この椀形状部の内径面が前記シール面を構成し、この球面シール外環に、潤滑剤供給用のグリースニップルを付設するとともに、短筒部の内径面と軸部材との外径面との間にラビリンスシールを設けたものであってもよい。
【0019】
このように設定すれば、グリースニップルを付設することによって、継手内部に潤滑剤供給を安定して供給することができる。また、筒部の内径面と軸部材の外径面との間にラビリンスシールを設けたので、筒部の内径面と軸部材の外径面との間のシール性を向上することができる。
【0020】
金属球面シール部の球面シール内環のシール面と球面シール外環のシール面との少なくとも一方にフッ素樹脂系コーティング剤を塗布するのが好ましい。また、球面シール内環のシール面の球芯と球面シール外環のシール面の球芯とが、継手軸心と同芯であるのが好ましい。
【0021】
副シール構造体は球面シール外環の外径面に摺接するシール材を備え、このシール材が外側継手部材の外径側に配設されるカバー部材に付設され、このカバー部材に、前記シール材がエンドプレートにて保持された状態で装着されているように構成できる。
【0022】
エンドプレートは、少なくとも2個の分割片から構成されているものであってもよい。副シール構造体のシール材はスリットを有するリング状体から構成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、副シール構造体にて、金属球面シール部への異物(水やスケール等)の侵入を防止できるので、いわゆる二重密封構造を構成することになって、等速自在継手として、耐水性及び防塵性能に優れたものとなる。しかも、球面シール内環を球面シール外環が覆う形状となって、高作動角(20°程度)が可能となる。
【0024】
また、潤滑剤が含浸された含浸部材を配置することによって、球面シール内環と球面シール外環との間の摺動面が安定して潤滑され、安定したトルク伝達が可能となる。潤滑剤供給用のグリースニップルが付設されたものでは、継手内部に潤滑剤供給を安定して供給することができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。短筒部の内径面と軸部材の外径面との間のシールリングを介在させたり、ラビリンスシールを設けたりすることによって、シール性の向上を図ることができる。
【0025】
フッ素樹脂系コーティング剤を塗布した場合、潤滑性に優れたものとなって、運転時の摺動抵抗を下げることができ、円滑な作動性を得ることができる。金属球面シール部のシール面の球芯と金属球面シール部のシール面の球芯とが、継手軸心と同芯である場合、作動角をとる場合に、金属球面シール部が滑らかに追従することができる。すなわち、芯位置を合わせることによって、金属球面シール部の寸法変化を抑えることができ、密封性の向上を図ることができる。
【0026】
副シール構造体のシール材がカバー部材に付設されるものでは、シール材はエンドプレートに保持されるものであるので、シール材を安定した状態でこの等速自在継手に付設することができ、金属球面シール部への異物(水やスケール等)の侵入を安定して防止できる。
【0027】
エンドプレートが2個の分割片から構成されているものでは、副シール構造体の点検・交換作業が容易となる。副シール構造体のシール材をスリットを有するリング体から構成すれば、このシール材の点検・交換作業性が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
【図2】前記図1に示す等速自在継手の正面図である。
【図3】副シール構造体を示し、(a)は前記図1に示す等速自在継手に用いた副シール構造体の断面図であり、(b)は第1の変形例の断面図であり、(c)は第2の変形例の断面図であり、(d)は第3の変形例の断面図であり、(e)は第1の変形例の断面図である。
【図4】球面シール外環の変形例を示す要部断面図である。
【図5】従来の等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0030】
図1と図2は本発明に係る等速自在継手を示し、等速自在継手は、軸方向に延びる複数のトラック溝41が内径面42に円周方向等間隔で形成された外側継手部材43と、その外側継手部材43のトラック溝41と対応させて軸方向に延びる複数のトラック溝44が外径面45に円周方向等間隔で形成された内側継手部材46と、外側継手部材43のトラック溝41と内側継手部材46のトラック溝44とが協働して形成されたボールトラックに配されたトルク伝達部材である複数のボール47と、外側継手部材43の内径面42と内側継手部材46の外径面45との間に介在してボール47を保持するケージ48とを備えている。
【0031】
外側継手部材43は、前記トラック溝41が形成された内径面42を有するマウス部43aと、マウス部43aの底部側の短筒部43bとを備え、この短筒部43bに、回転軸に連結固定するためのフランジ部材55が一体的に連結されている。フランジ部材55は、筒状本体部55aと、この筒状本体部55aの反外側継手部材側に設けられる円盤状外鍔部55bとからなる。筒状本体部55aの内径は、外側継手部材側の小径部56と、反外側継手部材側の大径部57とからなり、小径部56と大径部57との間の段差部に、エンドプレート58が係合している。そして、大径部57の周方向凹溝に嵌合した止め輪59と、段差部とで、エンドプレート58が挟持保持されている。なお、図1において、60aは、外側継手部材43の短筒部43bとフランジ部材55とを固着する溶接部である。
【0032】
また、フランジ部材55の円盤状外鍔部55bの裏面(外側継手部材側の面)には、周方向全周にわたる凹部61が設けられている。この凹部61は、円盤状外鍔部55bの外周縁に達しないものである。このため、フランジ部材55の円盤状外鍔部55bの裏面の周縁に周方向残部62が形成される。そして、円盤状外鍔部55bの外周面には、周方向に沿って90°ピッチで切欠部63が設けられている(図2参照)。なお、周方向残部62の高さ、すなわち、凹部61の深さTとしては、例えば、1.5mm〜2.0mm程度である。
【0033】
また、内側継手部材46の軸心孔の内径面には雌スプライン部65が設けられ、この内側継手部材46の軸心孔に、シャフト66の端部の雄スプライン部67を嵌入させる。内側継手部材46の雌スプライン部65とシャフト66の雄スプライン部67とを嵌合させる。また、シャフト66の雄スプライン部67には、先端側および基端側にそれぞれ止め輪68,69が装着され、これによって、シャフト66の内側継手部材46の軸心孔からの抜けを防止している。
【0034】
シャフト66の反雄スプライン部に鍔部70が設けられ、この鍔部70にフランジ部71が溶接等にて固着されている。そして、この鍔部70と一体になったフランジ部71に、中間軸72がボルト・ナット結合を介して連結されている。すなわち、中間軸72はその端部にフランジ部71に相対面するフランジ部73を有し、フランジ部71、73同士が重ね合わされた状態で、ボルト部材とナット部材とからなる固着具75で一体化される。なお、シャフト66の鍔部70には、小鍔部76が連設されている。図1において、60bは、鍔部70とフランジ部71とを固着している溶接部である。
【0035】
そして、外側継手部材43の開口部は密封部材Sで密封される。密封部材Sは金属球面シール部80を備える。金属球面シール部80は、外径面が凸球面状のシール面81を有する球面シール内環82と、この球面シール内環82のシール面81と相対的に摺接する凹球面状のシール面83を内径面に有する球面シール外環84とからなる。
【0036】
球面シール内環82は、小径部82aと大径部82bとを有する短筒体からなり、大径部82bが外側継手部材43に外嵌固着される。すなわち、球面シール内環82は、外側継手部材43への圧入・加締め仕様とし、ボルト等の固定具を用いないようにしている。そして、球面シール内環82の小径部82aの開口端の外径面に前記シール面81が形成される。また、球面シール外環84は、内側継手部材46から延びる軸部材(シャフト)66に外嵌される短筒部84a、この短筒部84aに連設される椀形状部84bとを備える。この椀形状部84bの内径面(内球面)が前記シール面83を構成する。
【0037】
短筒部84aは薄肉部85と厚肉部86とからなり、厚肉部86に、潤滑剤供給用のグリースニップル87が付設される開口部88が設けられている。また、短筒部84aの内径面と軸部材(シャフト)66の外径面との間にOリング等のシールリング90を介在させている。すなわち、薄肉部85の内径面に周方向凹溝91を設け、この周方向凹溝91にシールリング90が嵌着されている。なお、このシールリング90としては、摺動性に優れたフッ素ゴム系のものを用いるのが好ましい。
【0038】
また、シャフト66の鍔部70と球面シール外環84との間にはコイルスプリング等からなる弾性部材92が介在されている。すなわち、弾性部材92は、その一方がシャフト66の小鍔部76に外嵌されるとともに、その他方が球面シール外環84の短筒部84aの薄肉部85に外嵌されている。
【0039】
このように、弾性部材92を介在させることによって、弾性部材92の弾性力で、球面シール外環84が球面シール内環82に押し付けられ、球面シール内環82のシール面81と球面シール外環84のシール面83とが弾性的に接触することになる。また、球面シール内環82のシール面81の球芯O1と、球面シール外環84のシール面83の球芯O2とが、継手軸心Oと同芯であるように設定している。
【0040】
このため、図1に示す状態からこの等速自在継手が作動角をとる場合、球面シール内環82のシール面81と球面シール外環84のシール面83とは、弾性的に接触した状態で摺動することなる。また、球面シール内環82および球面シール外環84は、耐腐食性に優れたSUS系材料が好適であるが、耐熱性を目的とする場合には機械構造用炭素鋼であってもよく、さらには、耐熱性に優れたSiやフッ素系ゴム等を用いてもよい。
【0041】
この実施形態では、球面シール内環82および球面シール外環84は、素材調質(硬さ:HRc20〜30)後、無電解ニッケルめっきを施したものとした。これによって、耐食性・耐摩耗性を向上させた。また、球面シール内環82のシール面81と球面シール外環84のシール面83の少なくともいずれか一方に、フッ素樹脂系コーティングを施すようにするも好ましい。この場合、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を熱融着等によりコーティングすることができる。PTFE以外に、PFA、FEP、ETFE、分子鎖末端にカルボキシルなどの官能基を有する直鎖および、または環状の、フルオロアルキル重合体またはフルオロポリエーテル重合体などのフッ素系ポリマーを使用することができる。
【0042】
ところで、密封部材Sは金属球面シール部80の外周側に副シール構造体95が設けられている。副シール構造体95は、外側継手部材43の外径側に配設されるカバー部材98に付設されるリング状体からなるシール材99を備える。カバー部材98は、外側継手部材43に、リング状の間座100を介して外嵌固定される短筒体からなる。この場合、間座100は、外側継手部材43のマウス部43aの短筒部43b側に外嵌され、これにカバー部材98が外嵌された状態で、外側継手部材43のマウス部43aに螺着されるボルト部材101を介してこのカバー部材98と間座100とが外側継手部材43に固着される。
【0043】
カバー部材98の反間座側の内径部には内鍔部102が設けられ、図3(a)等に示すように、この内鍔部102のシール材嵌合用の周方向切欠部103が設けられている。そして、この周方向切欠部103にシール材99が嵌合される。また、カバー部材98の反間座側の端面には、平板リング状体のエンドプレート105が取り付けられ、これによって、シール材99が周方向切欠部103に保持される。図1に示すように、エンドプレート105は、カバー部材98の内鍔部102の端面に螺着されるボルト部材106を介してカバー部材98の反間座側の端面に固着される。シール材99としては、フェルト材(不織布)、PTFE等のフッ素樹脂、ポリアミド系の合成繊維、ゴム材(CR,NR,NBR,Si,ACM,FPM/FKM等)等を用いることができる。すなわち、シール材99はフェルトやゴム材等にて構成でき、低コスト化を図ることができる。
【0044】
この場合、図3(a)に示すように、シール材99の内径面99aは、球面シール外環84のシール面83に摺接することになる。なお、カバー部材98の内鍔部102の内径102aと球面シール外環84のシール面83との間には隙間Cが形成される。また、エンドプレート105の内径縁105aと球面シール外環84のシール面83との間には隙間C1が形成される。
【0045】
また、図1に示すように、球面シール外環84のシール面83の軌道線上乃至球面シール内環82の外周側に潤滑剤が含浸された含浸部材110が配置される。含浸部材110としては、発泡ウレタン、フェルト、スポンジ等の潤滑剤を含浸させることができ、この等速自在継手の使用される環境下において劣化し難いものを選択することになる。なお、潤滑剤としては、この種の等速自在継手に一般的に用いられるものを使用することができる。
【0046】
図3(b)〜図3(e)は、シール材99の変形例を示し、図3(b)では、シール材99の内径面99aに複数個の断面Vの字状の周方向小溝112を設け、摺接面積を小さくするとともに、接触面圧を大きくしている。図3(c)では、内径面99aに切欠部113を設け、摺接面積を小さくしている。図3(d)では、内径面99aに周方向凹溝114が形成され、2つの周方向摺接部115a、115bを形成している。図3(e)では、図3(d)と同様、2つの周方向摺接部115a、115bを形成としているが、一方の周方向摺接部115aの摺接面積を大としている。
【0047】
本発明の等速自在継手によれば、副シール構造体95にて、金属球面シール部80への異物(水やスケール等)の侵入を防止できる。このため、いわゆる二重密封構造を構成することになって、等速自在継手として、耐水性及び防塵性能に優れたものとなる。しかも、球面シール内環82を球面シール外環84が覆う形状となって、高作動角(20°程度)が可能となる。
【0048】
潤滑剤が含浸された含浸部材110を配置することによって、球面シール内環81と球面シール外環84との間の摺動面が安定して潤滑され、安定したトルク伝達が可能となる。潤滑剤供給用のグリースニップル87が付設されたものでは、継手内部に潤滑剤供給を安定して供給することができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。短筒部84aの内径面とシャフト66の外径面との間のシールリング90を介在させことによって、シール性の向上を図ることができる。
【0049】
また、この実施形態のように、球面シール内環82を、外側継手部材43への圧入・加締め仕様とし、ボルト等の固定具を用いないようにしたことによって、低コスト化及びコンパクト化が可能となる。
【0050】
シール材95がカバー部材98に付設されるものでは、シール材95がエンドプレート105に保持されるものであるので、シール材95を安定した状態でこの等速自在継手に付設することができ、金属球面シール部80への異物(水やスケール等)の侵入を安定して防止できる。
【0051】
球面シール内環81のシール面81の球芯O1と球面シール外環84のシール面83の球芯O2とが、継手軸心Oと同芯である場合、作動角をとる場合に、金属球面シール部80が滑らかに追従することができる。すなわち、芯位置を合わせることによって、金属球面シール部80の寸法変化を抑えることができ、密封性の向上を図ることができる。
【0052】
球面シール内環82のシール面81と球面シール外環84のシール面83の少なくともいずれか一方に、フッ素樹脂系コーティングを施すことによって、運転時の摺動抵抗を下げることができ、円滑な作動性を得ることができる。
【0053】
また、図2に示すように、フランジ部材55の円盤状外鍔部55bには、外径面に開口する切欠部63が、周方向に沿って90°ピッチで設けられている。このため、締結用ボルト部材(図示省略)をこの切欠部63に嵌合させやすくなって、締結作業性の向上を図ることができる。しかも、円盤状外鍔部55bの裏面側には凹部61が設けられており、小スペースでボルト部材を切欠部63にセットできる。
【0054】
ところで、球面シール外環84の短筒部84aの内径面には、シールリング90が装着されていたが、このようなシールリング90に変えて図4に示すようなラビリンスシール120を用いてもよい。このようなラビリンスシール120を用いても、シール性の向上を図ることができる。
【0055】
また、エンドプレート105としては、前記実施形態では、1枚の平板リング体にて構成したが、少なくとも2つに分離されたものであってもよい。すなわち、複数のスリット(図4参照)エンドプレート105を複数の分割片で構成するようにしてもよい。このように、エンドプレート105を複数の分割片で構成するようにすれば、このエンドプレート105にて保持されているシール材99の点検・交換作業が容易となる。
【0056】
シール材99としても、スリット(図示省略)を有するリング状体にて構成できる。このようにスリットを有するものであれば、シール材99の交換作業が容易となる利点がある。
【0057】
また、この等速自在継手を包囲しているカバー部材98及びエンドプレート105の外表面を、ウレタンコーティング等にてコーティングするのが好ましい。ウレタンコーティングを施すことによって、耐傷付き性、耐水性、耐腐食性の向上を図ることができる。このため、この等速自在継手に対するスケール等による耐食・耐摩耗性を上げることができる。ここで、ウレタンコーティングは、母材表面(カバー部材98及びエンドプレート105等)へウレタン樹脂をコートしてなるものである。ウレタン樹脂とは、組成中にウレタン結合を繰返し持つ化合物であり、イソシアネート基を2個以上持ったポリイソシアネート化合物(O=C=N-R-N=C=O)と、水酸基を2個以上持ったポリオール化合物(HO-R'-OH)、ポリアミン(H2N-R"-NH2)、水などの活性水素(-NH2,-NH,-CONH-など)を持った化合物などと反応して得られる。(R,R',R":脂肪族、芳香族など)
【0058】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、金属球面シール部80としては、球面シール内環81と、球面シール外環84と、これらの内外環の間に介装される球面シール中環とを備えたものであってもよい。また、等速自在継手として、図例では、ツェッパ型の固定式等速自在継手であったが、アンダーカットフリー型の固定式等速自在継手であっても、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型、又はトリポード型等の摺動式等速自在継手であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
43 外側継手部材
46 内側継手部材
47 ボール(トルク伝達部材)
80 金属球面シール部
81、83 シール面
82 球面シール内環
84 球面シール外環
84a 短筒部
84b 椀形状部
87 グリースニップル
90 シールリング
95 副シール構造体
98 カバー部材
99 シール材
105 エンドプレート
110 含浸部材
120 ラビリンスシール
O 継手軸心
O1、O2 球芯
S 密封部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と、この外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、前記外側継手部材の開口部が密封部材にて密封される等速自在継手であって、
前記密封部材は、凸球面状のシール面を有する球面シール内環と、この球面シール内環のシール面と相対的に摺接する凹球面状のシール面を有する球面シール外環とからなる金属球面シール部と、この金属球面シール部の外周を覆う副シール構造体とを備えたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記球面シール外環のシール面の軌道線上乃至球面シール内環の外周側に潤滑剤が含浸された含浸部材を配置したこと特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記球面シール外環は、内側継手部材から延びる軸部材に外嵌される短筒部と、この短筒部に連設される椀形状部とを備え、この椀形状部の内径面が前記シール面を構成し、この球面シール外環に、潤滑剤供給用のグリースニップルを付設するとともに、筒部の内径面と軸部材の外径面との間にシールリングを介在させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記球面シール外環は、内側継手部材から延びる軸部材に外嵌される短筒部と、この短筒部に連設される椀形状部とを備え、この椀形状部の内径面が前記シール面を構成し、この球面シール外環に、潤滑剤供給用のグリースニップルを付設するとともに、短筒部と軸部材との外径面との間にラビリンスシールを設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
金属球面シール部の球面シール内環のシール面と球面シール外環のシール面との少なくとも一方にフッ素樹脂系コーティング剤を塗布したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
球面シール内環のシール面の球芯と球面シール外環のシール面の球芯とが、継手軸心と同芯であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
副シール構造体は球面シール外環の外径面に摺接するシール材を備え、このシール材が外側継手部材の外径側に配設されるカバー部材に付設され、このカバー部材に、前記シール材がエンドプレートにて保持された状態で装着されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96545(P2013−96545A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242387(P2011−242387)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】