説明

筒状編地編成用横編機および筒状編地の編成方法

【課題】 境界部を目立ちにくくすることができる筒状編地編成用横編機を提供する。
【解決手段】 編針13,14からノックオーバされて歯口18に移行すると編幅が減少するので、編幅の終端の編針13からの旧編目25は、新編目21から編幅の内側にずれる位置に収縮して形成される。拡径部材15の位置を、旧編目25の位置に合わせて設置するようにしておけば、拡径部材15の先端を歯口18に進出させて、旧編目25内に侵入させることができる。拡径部材15の先端形状を、全体的に細く、径の変化が小さい先細状にしておけば、旧編目25に容易に侵入させ、旧編目25を徐々に拡径することができる。編糸20を給糸する方向を反転して、最後に形成した新編目21としての大きさが小さくなっても、周回編成後に旧編目25として歯口18に移行した後で、拡径部材15で拡径し、編目の大きさを回復させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯口を挟んで対向する一対の針床を備える横編機で筒状に編地を編成する筒状編地編成用横編機および筒状編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯口を挟んで前後に針床を備える横編機では、袋編みで筒状の編地が編成されている。袋編みでは、両方の針床に渡って編糸を一定方向に周回させながら給糸し、各針床でそれぞれ平編みの編地を編成する。袋編みによる筒状の編地は、たとえば手袋や靴下などに利用されている。
【0003】
針床間で編目を移す目移しの機能を備える汎用の横編機では、片側の編地をそれぞれ両方の針床を使用して編成し、編幅の端部で両側の編地が連結される筒状の編地を形成することもできる。手袋や靴下などの編成を目的とする横編機で、編糸として地糸とパイル糸とを使用し、地糸とパイル糸とを分離する機能を備えるシンカーを利用すれば、パイル編みを行うことも可能である(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
横編機で筒状の編地を編成する場合に、編幅の端部での編糸の給糸方向は、一方側の編地と他方側の編地とで反転する。給糸方向が反転する直前に編成された一方側の編地の編目を係止している編針では、他方側の編地を編成する際に、係止している編目に連なる編糸が歯口を超えて対向する針床側に給糸される。対向する針床側に向けて編糸の張力が高まると、編目形成時に針床に引込まれた編針が歯口側に引出され、係止している編目が小さくなり、筒状編地製品の品質が低下するおそれがある(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2では、最後に形成された編目を係止する編針を、キャリッジに搭載されるカムで針床に引込みながら、対向する針床側に給糸して編地を編成することで、編針の引出しを防ぐようにしている。キャリッジに搭載されるカムのうち、少なくとも度山カムは使用し、さらには引下げカムも使用する。
【0005】
図6は、特許文献1で開示されているようなパイル編みに使用するパイル編成用シンカー1の例を、正面の構成として1Aで示し、平面の構成として1Bで示す。パイル編成用シンカー1は、先端側の作用腕2を歯口に臨ませて使用される。作用腕2の先端は、地糸用掛爪3とパイル糸用掛爪4とに分れている。編針としては、先端のフックをラッチで開閉し、さらにラッチ部分のフックと対向する内側縁に地糸係止用鉤を備えるパイル用編針を用いる。地糸係止用鉤は、特許文献1に記載されているパイル用編針の編糸係止用鉤に相当する。パイル編成用シンカー1の尾端側には、バット5が設けられる。作用腕2とバット5との間の凹所に板状のカムが挿入される。カムには、作用腕2側に当接するカム面と、バット5側に当接するカム面が設けられる。パイル編成用シンカー1の歯口への進退は、作用腕2側かバット5側かのカムによる押圧方向で切換える。
【0006】
パイル編成用シンカー1を使用するパイル編みの編成では、まず、パイル用編針のラッチを開いてフックを歯口に進出させ、地糸を地糸係止用鉤に掛るように給糸する。次に、地糸係止用鉤とフックとの間の位置にパイル糸用掛爪4の先端を挿入し、パイル糸をフック内に給糸すると、地糸とパイル糸とを、フックに分離して給糸することができる。編目形成時には、フックを地糸用掛爪3の位置よりも歯口から離れる方に引込む。編目のうちのニードルループは、地糸とパイル糸とに共通に、フックで形成される。地糸は、地糸用掛爪3の地糸用シンカー部3aでシンカーループを形成する。パイル糸は、パイル糸用シンカー部4aで、地糸のシンカーループよりも長いパイルループを形成する。
【特許文献1】特公昭60−59333号公報
【特許文献2】国際公開第06/103957号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
横編機で筒状編地を編成する際には、歯口に臨む編地終端部で編目が小さくなり、歯口に相当する境界部の編目間が広がって割れが目立つおそれがある。割れが目立たないようにする対策として、特許文献2では、給糸方向反転前の編目を係止する編針をカムで引下げるように、カムで案内する経路を切換える必要があるので、カムに案内経路を追加し、経路の切換えのための制御を必要とする。
【0008】
図6に示すようなパイル編成用シンカー1を使用してパイル編みの筒状編地を編成する場合は、歯口に作用腕2を進退する必要があるので、歯口が広くなる。給糸方向が反転する編端では、パイル糸も対向する針床側に引かれて、パイルループが小さくなってしまう。パイル編みの筒状編地では、境界部での地糸の編目の違いばかりではなく、パイルループの長さの違いも生じるので、境界部が目立ちやすくなる。また、パイル編みの筒状編地は、ゴム材料などをコーティングする手袋などとして使用される。ゴム材料などのコーティングは、材料液に浸漬して行われるけれども、境界部の編目間が拡がっていると、材料液が内部に浸透しやすくなる。また、パイルループの大きさが異なると、材料液が付着する厚さにむらが生じてしまう。
【0009】
本発明の目的は、境界部を目立ちにくくすることができる筒状編地編成用横編機および筒状編地の編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、歯口を挟んで対向する一対の針床を備え、編糸を一定方向に周回するように給糸して、各針床で編幅の始端から終端まで編地を編成し、一方の針床の終端から他方の針床の始端に針床間で連結しながら、筒状に編地を編成可能な筒状編地編成用横編機において、
各針床で編幅の終端となる編針に対し、編幅の始端側の方向に隣接して配置され、該編針に係止されている編目がノックオーバされて歯口側に移行して形成される旧編目に先端を侵入させて、該旧編目を拡径可能な拡径部材と、
歯口に拡径部材の先端を進出させ、または歯口から後退させるように切換えて、歯口への進出時に、該旧編目に拡径部材の先端を侵入可能な進退機構とを、
含むことを特徴とする筒状編地編成用横編機である。
【0011】
また本発明で、前記各針床には、編針間に、先端を歯口に進退させることが可能な可動のシンカーが備えられ、
前記拡径部材は、可動のシンカーを置換えて設けられ、
可動のシンカーを歯口に進退させる機構が前記進退機構として、拡径部材の先端を歯口に進出または後退させることを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記横編機は、前記編糸として、筒状編地の基本部分の形成に使用される地糸と、該基本部分の各編目に付加されてパイル部分を形成するパイル糸とを、並行して給糸しながら、パイル地の筒状編地を編成し、
前記可動のシンカーは、前記新編目が形成される際に、地糸とパイル糸との間に挿入されて、地糸とパイル糸とを分離することを特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、歯口を挟んで対向する一対の針床を備える横編機で、編糸を一定方向に周回するように給糸して、各針床で編幅の始端から終端まで編地を編成し、一方の針床の終端から他方の針床の始端に針床間で連結しながら、筒状に編地を編成する筒状編地の編成方法において、
各針床で編幅の終端となる編針に対し、旧編目に先端を侵入させて、該旧編目を拡径可能な拡径部材を編幅の始端側の方向に隣接して配置しておき、
各針床で編幅の終端となる編針に新たに編糸が給糸されて新編目が形成される際に、該編針に係止されている編目がノックオーバされて歯口側に移行して形成される旧編目に拡径部材の先端を侵入させて、該旧編目を拡径させることを特徴とする筒状編地の編成方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、筒状編地編成用横編機は、歯口を挟んで対向する一対の針床を備え、編糸を一定方向に周回するように給糸して、各針床で編幅の始端から終端まで編地を編成し、一方の針床の終端から他方の針床の始端に針床間で連結しながら、筒状に編地を編成する。各針床で編幅の終端となる編針に対し、編幅の始端側の方向に隣接して、拡径部材が配置されている。編幅の終端となる編針に係止されている編目がノックオーバされて歯口側に移行して形成される旧編目は、収縮して編幅の始端側に位置がずれる。進退機構で拡径部材の先端を歯口に進出させれば、旧編目には、拡径部材の先端が侵入し、いったん収縮している旧編目を拡径する。旧編目を拡径する編糸は、境界部の編目間から引出されるので、旧編目の大きさを回復させ、境界部の編目間の広がりを減少させて、境界部を目立ちにくくすることができる。
【0015】
また本発明によれば、可動のシンカーを歯口に進退させる機構を利用して終端の編針で係止する編目がノックオーバされてから収縮しても拡径することができる。可動のシンカーは、編目を形成する際のシンカーや、形成した編地の歯口への引下げにも使用することができる。
【0016】
また本発明によれば、パイル編みの筒状編地を編成する際に、境界部で編目が小さくなり、編目間が拡がって目立つ問題を、軽減することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、境界部で編目が小さくなり、編目間が拡がる問題を、編針からノックオーバされて収縮する編目を拡径して、目立ちにくくすることができる。ノックオーバされた編目を直接拡径することで、拡径する編糸を境界部の編目間から引出して広がりを減少させ、境界部を目立ちにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施の一形態としての横編機10の構成を、主要部分について模式的に示す。横編機10は、前針床11および後針床12を有する。前針床11および後針床12には、編針13,14がそれぞれ多数、並設される。各編針13,14の先端には、フック13a,14aが設けられる。前針床11の編針13と後針床12の編針14とは、出会いの位置がずれるように配置される。筒状編地は、一定方向に編糸を周回するように給糸して編成する。たとえば時計回り方向の給糸で筒状編地を編成する場合、前針床11の編針13には、図の右から左の方向に給糸し、後針床12の編針14には左から右の方向に給糸するように、給糸方向を切換えながら編成する。左側の端部では、前針床11の終端側が後針床12の始端側よりも編幅の外方となるように、編針13,14を使用する。前針床11で使用する編針13のうち、終端となる編針13に対して編幅の始端側の方向に隣接して、拡径部材15を配置する。後針床12でも、編幅の終端となる編針14の始端側に隣接して拡径部材15を配置する。ただし、図では、編幅の左側の端部のみ示し、右側の端部は省略する。各編針13,14間で、拡径部材15が配置されていない位置には、可動シンカー16が配置される。各可動シンカー16は、前針床11および後針床12の歯口側にそれぞれ配置される進退用のシンカー床に装着される。拡径部材15も、可動シンカー16のシンカー床に装着する。拡径部材15は、パイル編成用シンカー1の作用腕2に相当する部分の先端が異なり、先端を編目に侵入させると、編目を拡径することができる。拡径部材15の形状についての説明は、図3で後述する。
【0019】
手袋や靴下は、同一の条件での編成を繰返して生産性を向上させる。したがって、編幅の終端となる編針13,14を固定することもでき、その編針13,14に編幅の始端側で隣接する位置にのみ、拡径部材15を配置しておけばよい。また、拡径部材15を移動可能にしておけば、編成途中で編幅が変っても、編目拡径の機能を有効に利用することが可能となる。
【0020】
前針床11および後針床12間には、中心面17を含む隙間が歯口18として設けられる。編針13,14のフック13a,14aを歯口18に進出させ、給糸口19から編糸20の給糸を受けてから、フック13a,14aを前針床11および後針床12に引込むと、新編目21,22を形成することができる。新編目21,22の形成の際に、フック13a,14aに係止されている編目は、フック13a,14aの歯口18への進出で、編針13,14のフック13a,14aから針幹側に移行する。フック13a,14aの引込みで、係止されている編目はノックオーバされて歯口18側に移行し、旧編目23,24が形成される。
【0021】
編成される編地は、編針13,14からノックオーバされて歯口18に移行すると、編針13,14に係止されている状態よりも編幅が減少する。また、編針13,14には前針床11と後針床12との間の出会いのずれもある。したがって、編幅の終端の編針13からノックオーバされた旧編目25は、新編目21から編幅の内側、すなわち始端側にずれる位置に形成される。拡径部材15の位置を、内側にずれる旧編目25の位置に合わせて設置するようにしておけば、拡径部材15の先端を歯口18に進出させて、旧編目25に侵入させることができる。拡径部材15の先端形状を、たとえば先細状にしておくと、侵入量を大きくすることで、旧編目25を拡大することができる。したがって、給糸口19から編糸20を給糸する方向を反転して、最後に形成した新編目21としての大きさが小さくなっても、周回編成後に旧編目25として歯口18に移行した後で、拡径部材15の先端を侵入させて編目を拡径し、編目の大きさを維持することができる。
【0022】
図2は、本発明の実施の他の形態としての横編機30の概略的な構成を示す。横編機30で、図1の横編機10に対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明は省略する。横編機30では、図6に示すパイル編成用シンカー1を使用して、パイル編みの筒状編地を編成する。歯口18を挟んで、前針床31と後針床32とが対向するように配置される。前針床31および後針床32は、多数のニードルプレート31a,32aがベースプレート31b,32bに立設されて形成される。ニードルプレート31a,32a間には針溝が形成され、編針33,34が収容される。編針33,34は、特許文献1に開示されているようなパイル用編針を用いる。各針溝の上部には、帯金35,36が設けられ、編針33,34の針溝からの離脱を防いでいる。編幅の終端となる編針33に対しては、編幅の内側に隣接するように、パイル編成用シンカー1に替えて拡径部材15が配置される。なお、後針床32でも、編幅の終端となる編針34に対して、編幅の内側に隣接するように、パイル編成用シンカー1に替えて、拡径部材15が配置されるけれども、図示を省略する。
【0023】
パイル編成用シンカー1および拡径部材15は、前針床31および後針床32の歯口18側に設けられるシンカー床37,38に配置される。パイル糸は、歯口18の上方から、パイル糸給糸口39によって供給される。シンカー床37,38は、前針床31および後針床32の両端に設けられるシンカー床取付板37a,38aで両端を支持される。
【0024】
前針床31の編針33および後針床32の編針34は、カム40を搭載するキャリッジ41,42が図の紙面に垂直な方向に往復走行して駆動する。キャリッジ41,42には、パイル編成用シンカー1および拡径部材15を駆動するためのシンカーカム43,44も、シンカーカム用取付板45,46を介して取付けられる。キャリッジ41,42は、紙面に垂直な方向に貫通する案内軸47,48で案内される。カム40は、ニードルカム取付板49,50に取付けられる。拡径部材15は、二点鎖線で示す状態まで歯口18に進出させることができる。
【0025】
図3は、図1および図2に示す拡径部材15の構成を、正面の15Aと平面の15Bとで示す。拡径部材15は、歯口18に臨む側に作用腕51を有する。作用腕51の先端は、全体的に細く、径の変化が小さい先細状の拡径部52として形成されている。すなわち、正面の15Aで示すように、拡径部52は、比較的細く、高さの変化の程度が小さい。作用腕51は、拡径部52の基端側に、比較的大きく高さが増大する部分を設けている。拡径部材15は、先端側の拡径部52を細くしているので、小さくなった旧編目25にも侵入しやすく、侵入させてから、徐々に拡径することができる。平面の15Bで示すように、拡径部材15の拡径部52では、先端付近までは厚みが一定で、先端で一方側が傾斜面となるように面取りされている。図1に示す拡径部材15は、旧編目25の右寄りの位置に先端を侵入させるので、厚みの右側を面取りして、先端が旧編目25内に侵入しやすくしている。旧編目25の中央付近に侵入させるような位置関係では、厚みの両側を面取りすればよい。
【0026】
本実施形態の拡径部52は、両方の形状を組合わせて、旧編目25への侵入と拡径とが容易になるようにしているけれども、一方の形状のみでもよい。拡径部52の先端からテーパ部に続く部分は、シンカー部53として機能する。拡径部材15で歯口18から離れる側には、バット55が設けられる。作用腕51とバット55との間には、図2に示すシンカーカム43,44が作用する。
【0027】
図4は、図2の横編機30での歯口18付近で編成を行うための構成を示す。前針床31の編針33と後針床32の編針34とは、先端のフック33a,34aをラッチ33b,34bで開閉する。前針床31側で編幅の終端となる編針33に対して、編幅の内側に隣接して、拡径部材15が配置される。編針33に隣接する他の位置には、パイル編成用シンカー1が配置される。後針床32に対しても、編幅の終端となる編針34に対して編幅の内側に隣接して拡径部材15が配置されるけれども、図示は省略する。編針34に隣接する他の位置には、パイル編成用シンカー1が配置される。
【0028】
図5は、図2のキャリッジ41のニードルカム取付板49に取付けられて編針33を駆動するカム40と、シンカーカム43との関係を、同位相の状態で示す。キャリッジ42で編針34を駆動するカムとシンカーカム44との関係も同様となる。
【0029】
編針33は、針溝から突出するバットを有し、図示のようなキャリッジ41を基準としての左行時には、相対的に右行する軌跡33cに示すような経路で駆動され、編目を形成する。このような駆動用のカム40には、ガイドカム61、ゴム山62、編出しカム63、ニードルレイジングカム64、中山カム65、天山カム66、編出し用出没カム67、度山68、およびガイドカム69が含まれる。ニットの編目形成では、ニードルレイジングカム64で編針33を歯口18に進出させ、度山68で編針33を前針床31に引込み、度山68の引込み量で度決めを行う。編出し用出没カム67は、編出し時に突出させ、キャリッジ41が右行する場合にニードルレイジングカム64と同様に編針33を歯口18に進出させる。編出し時には、編出しカム63が度山68と同様に編針33を前針床31に引込む。
【0030】
後針床32のキャリッジ42でも同様に、ニットの編成駆動をキャリッジ42を基準とする左行で行い、編出し時には右行での編目形成も可能となる。したがって、編出し時には、前針床31の編針33と後針床32の編針34とを同時に使用して、歯口18をジグザグに連結するように編糸20を渡らせることができる。
【0031】
シンカーカム43は、基本的に、パイル編成用シンカー1を駆動するように形成されている。シンカーカム43に付属して、可動カム71,72が設けられる。可動カム71は、キャリッジ41の左行で図の状態、右行では反時計回り方向に回転する。可動カム72は、キャリッジ41の左行で図のような没状態、右行では突出する状態となる。このような可動カム71,72によって、編針33が中山カム65と天山カム66との間で案内され、フック33aが歯口18に進出している際のパイル編成用シンカー1の動作が、方向に応じて調整される。
【0032】
シンカーカム43には、拡径部材15を駆動するために作用腕51側に凹部43a、および凸部43b,43cが設けられ、バット側にも凸部43dが設けられる。シンカーカム43による拡径部材15の作用腕51およびバット55の駆動軌跡を51a,55aでそれぞれ示す。編針33で新編目を形成する度決めの前、度山68で編針33を前針床31に引込んでいる最中に、旧編目はノックオーバされる。編針33の引込時には、拡径部材15も歯口18に進出させ、シンカー部53でシンカーループを形成させる。凹部43aに達すると、いったん拡径部材15の作用腕51を歯口18から引上げて退避させ、凸部43bで作用腕51を歯口18に進出させる。この際には、ノックオーバされた旧編目が拡径部52の進出先に存在し、拡径部52の先細状の先端を旧編目に突刺して、旧編目を拡径させることができる。キャリッジ41が左行を続けると、作用腕51は歯口18から引上げられ、さらに凸部43cで歯口18に進出した状態で、拡径部材15はシンカーカム43を抜ける。キャリッジ41が走行方向を反転して右行する際には、バット55側の凸部43dで拡径部材15の作用腕51は歯口18から引上げられる。編針33は、編出し用出没カム67が没状態となっているので、歯口18へは進出しないで、前針床31内にとどまる。
【0033】
以上で説明した拡径部材15では、旧編目25に作用腕51の先端の拡径部52を侵入させるために、シンカー床37を設けて直動させるようにしている。横編機の可動シンカーとしては、前針床31および後針床32の先端側に支点を設ける揺動で、先端を歯口18に進退させ、編地の引下げにも寄与させる構成も使用されている。そのような揺動変位で、拡径部材15と同様な機能を達成させることもできる。また、シンカーとしての機能を持たせずに、旧編目の拡径のみの機能を持たせる拡径部材を、たとえばトランスファジャックなどと同様の構成で、別の床に配設しておくこともできる。別の床で、選択的に作動させることが可能にしておけば、筒状編地としての径が変り、編幅の終端となる編針の位置が変っても、作動させる拡径部材も変更して、境界部で編目が小さくなる問題を軽減し、境界部が目立ちにくくすることができる。特にパイル編みの筒状編地であれば、ゴム材料などをコーティングする場合に、内部への浸透や付着むらを解消させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の一形態としての横編機10の構成を、主要部分について模 式的に示す平面図である。
【図2】本発明の実施の他の形態としての横編機30の概略的な構成を示す側面断面図である。
【図3】図1および図2に示す拡径部材15の構成を示す正面図および平面図である。
【図4】図2の横編機30での歯口18付近で編成を行うための構成を示す平面図である。
【図5】図2のキャリッジ41のニードルカム取付板49に取付けられて編針33を駆動するカム40と、シンカーカム43との関係を、同位相の状態で示す図である。
【図6】従来からのパイル編成用シンカー1の構成を示す正面図および平面図である。
【符号の説明】
【0035】
10,30 横編機
11,31 前針床
12,32 後針床
13,14,33,34 編針
15 拡径部材
18 歯口
19 給糸口
20 編糸
21,22 新編目
23,24,25 旧編目
39 パイル糸給糸口
40 カム
41,42 キャリッジ
52 拡径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯口を挟んで対向する一対の針床を備え、編糸を一定方向に周回するように給糸して、各針床で編幅の始端から終端まで編地を編成し、一方の針床の終端から他方の針床の始端に針床間で連結しながら、筒状に編地を編成可能な筒状編地編成用横編機において、
各針床で編幅の終端となる編針に対し、編幅の始端側の方向に隣接して配置され、該編針に係止されている編目がノックオーバされて歯口側に移行して形成される旧編目に先端を侵入させて、該旧編目を拡径可能な拡径部材と、
歯口に拡径部材の先端を進出させ、または歯口から後退させるように切換えて、歯口への進出時に、該旧編目に拡径部材の先端を侵入可能な進退機構とを、
含むことを特徴とする筒状編地編成用横編機。
【請求項2】
前記各針床には、編針間に、先端を歯口に進退させることが可能な可動のシンカーが備えられ、
前記拡径部材は、可動のシンカーを置換えて設けられ、
可動のシンカーを歯口に進退させる機構が前記進退機構として、拡径部材の先端を歯口に進出または後退させることを特徴とする請求項1記載の筒状編地編成用横編機。
【請求項3】
前記横編機は、前記編糸として、筒状編地の基本部分の形成に使用される地糸と、該基本部分の各編目に付加されてパイル部分を形成するパイル糸とを、並行して給糸しながら、パイル地の筒状編地を編成し、
前記可動のシンカーは、前記新編目が形成される際に、地糸とパイル糸との間に挿入されて、地糸とパイル糸とを分離することを特徴とする請求項2記載の筒状編地編成用横編機。
【請求項4】
歯口を挟んで対向する一対の針床を備える横編機で、編糸を一定方向に周回するように給糸して、各針床で編幅の始端から終端まで編地を編成し、一方の針床の終端から他方の針床の始端に針床間で連結しながら、筒状に編地を編成する筒状編地の編成方法において、
各針床で編幅の終端となる編針に対し、旧編目に先端を侵入させて、該旧編目を拡径可能な拡径部材を編幅の始端側の方向に隣接して配置しておき、
各針床で編幅の終端となる編針に新たに編糸が給糸されて新編目が形成される際に、該編針に係止されている編目がノックオーバされて歯口側に移行して形成される旧編目に拡径部材の先端を侵入させて、該旧編目を拡径させることを特徴とする筒状編地の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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