説明

管体の識別管理用のICタグホルダーおよびそれを用いた管体の識別管理方法

【課題】永久磁石を使用せずにICタグを管体に定着させ、かつICタグの脱落を防止して、管体を精度良く識別する方法を提供する。
【解決手段】電気的絶縁性を有する軽量固体のホルダー3にICタグ2を装着し、ホルダー3に弾性体からなる支持脚4を取付け、支持脚4の復元力によってホルダー3を管体1の内面に定着させる一方で、管体1の開口面に対向する位置に読取用アンテナ5を配設して、ICタグ2に保存された情報を読取用アンテナ5で読み取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管等の管体の製造工程で、その規格や寸法を識別し、管体に施すべき加工処理を管理する識別管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼管には様々な規格や寸法が規定されており、鋼管の製造工程で施す加工処理を細かく管理する必要がある。たとえば外径は同じであっても肉厚の異なる鋼管は、端面に面取り加工を施す際に、切削工具の設定を調整する必要がある。ところが、このような同一外径で肉厚の異なる鋼管を、外観のみで識別することは困難である。さらに、同一外径かつ同一肉厚の鋼管であっても、材質や用途に応じて施すべき加工処理はそれぞれ異なる。
【0003】
そのため鋼管の規格や寸法を識別するために、所定の項目を鋼管の外面に印字する、あるいは所定の項目を印字したラベルを貼り付ける等の方法で、その鋼管に施すべき加工処理を管理している。
しかし鋼管の外面に印字する場合、搬送中に他の鋼管と接触することによって文字が消える、あるいは加工中に潤滑油や異物が付着することによって文字が判読できなくなる等の問題がある。また鋼管は搬送中に回転するので、文字は鮮明であっても、回転中に判読することは困難である。さらに停止したときに、作業員や読み取り装置から見えない位置に文字があれば、判読することは困難である。
【0004】
ラベルを貼り付ける場合も同様に、文字が消える,判読できない等の問題が生じる。さらに、ラベルが剥離して脱落するという問題もある。
そこで、ICタグを用いて鋼管を識別する技術が検討されている(たとえば特許文献1参照)。ICタグは、鋼管を識別するための所定の項目(たとえば規格,寸法等)を記憶したICチップと、その記憶した内容を送信するための小型アンテナを組み合わせたものである。
【0005】
特許文献1に開示された技術は、ICタグを化学樹脂の板材に貼り付け、その板材に接着された永久磁石を介して鋼管の内面に磁着するものである。ところが鋼管は、その製造工程で様々な衝撃を受けるので、磁着した永久磁石がICタグとともに鋼管から脱落するという問題がある。たとえば、スキッドと呼ばれる傾斜面を転がりストッパーに衝突して停止する際の衝撃、あるいは結束するためにクレードルと呼ばれる架台に落下する際の衝撃によって、永久磁石では容易に脱落する。
【0006】
また、発明者が強い磁力を有するネオジウム磁石を鋼管に磁着させて行なった実験によれば、鋼管がストッパーに衝突する、あるいはクレードルに落下する際に、ネオジウム磁石の脱落が認められた。つまりネオジウム磁石と鋼管はともに硬い材質であるから、ネオジウム磁石が鋼管に磁着した状態で衝撃を受けたときに、その衝撃のエネルギーを吸収できない。その結果、ネオジウム磁石が強い磁力を有するにも関わらず、衝撃によって鋼管から脱落するのである。
【0007】
つまり強力な磁石を用いてICタグを鋼管に磁着させても、ICタグの脱落は避けられないので、鋼管を識別する精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-230717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、永久磁石を使用せずにICタグを鋼管等の管体に定着させ、かつICタグの脱落を防止して、管体を精度良く識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、永久磁石を使用せずにICタグを鋼管の内面に定着させる技術について調査研究した。
まず、ICタグを装着したホルダーを管体の内面に貼り付ける技術について検討した。その結果、接着剤を用いてホルダーを管体の内面に貼り付けることは可能であるが、ホルダーを取り外した後、管体の内面に接着剤の一部が残留することが分かった。そして、その残留した接着剤に金属片等の異物が付着し、検査工程で欠陥と判定されるという問題が生じた。
【0011】
そこで発明者らは、弾性体の復元力を活用してホルダーを管体の内面に定着させる技術について、さらに詳細に検討した。その結果、線状の弾性体(たとえばバネ材等)からなる支持脚を2本以上ホルダーに取付けることによって、管体の内面にホルダーを定着させることが可能であることが分かった。つまり、線状の支持脚の一端をホルダーに固定する一方で他端を自由端とし、さらに2本以上の支持脚の自由端で形成される円形の直径を管体の内径より大きく設定する。そしてホルダーを管体内に挿入するときには支持脚を外側から拘束して自由端で形成される円形を小さく絞り、管体内で支持脚を開放すれば、自由端が鋼管の内径より大きく広がろうとする復元力によって、ホルダーを管体の内面に定着できることが判明した。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、電気的絶縁性を有する軽量固体のホルダーにICタグを装着し、ホルダーに弾性体からなる支持脚を取付け、支持脚の復元力によってホルダーを管体の内面に定着させる一方で、管体の開口面に対向する位置に読取用アンテナを配設して、ICタグに保存された情報を読取用アンテナで読み取る管体の識別管理方法である。
【0013】
本発明の管体の識別管理方法においては、ホルダーが合成樹脂または合成ゴムからなることが好ましい。また、ホルダーに支持脚を2本以上取付けることが好ましい。使用するICタグは2.45GHz帯であることが好ましい。
また本発明は、ICタグが装着され、弾性体からなる支持脚が取付けられ、かつ電気的絶縁性を有する管体の識別管理用のICタグホルダーである。
【0014】
本発明のICタグホルダーにおいては、ホルダーが合成樹脂または合成ゴムからなることが好ましい。また、ホルダーに支持脚を2本以上取付けることが好ましい。使用するICタグは2.45GHz帯であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、永久磁石を使用せずにICタグを管体に定着させ、かつICタグの脱落を防止して、管体を精度良く識別することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ICタグと読取用アンテナとの配置の例を模式的に示す断面図である。
【図2】ホルダーとICタグとの配置の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、管体が鋼管である場合を例にして、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明を適用して鋼管を識別するための、ICタグと読取用アンテナとの配置の例を模式的に示す断面図である。また図2は、図1中のホルダーとICタグとの配置の例を模式的に拡大して示す斜視図である。
図2に示すように、ICタグ2は鋼管を識別するための所定の項目(たとえば規格,寸法等)を保存したICチップ2aと、その保存した内容を送信するための小型アンテナ2bを組み合わせたものである。ここでは、ICチップ2aと小型アンテナ2bを総称してICタグ2と記す。
【0018】
図2に示すように、ICチップ2aと小型アンテナ2bからなるICタグ2をホルダー3に装着する。ICタグ2をホルダー3に装着する手段は、特に限定しない。たとえば、接着剤を用いてホルダー3にICタグ2を貼り付ける,粘着テープを用いてホルダー3にICタグ2を固定する,ホルダー3内にICタグ2を埋め込む等の、従来から知られている様々な技術が使用できる。
【0019】
ホルダー3は、電気的絶縁性を有する軽量の固体であれば良く、その材質は限定しない。たとえば、合成樹脂,合成ゴム,木材,ダンボール等が使用できる。ただし、繰り返し使用するための耐用性,所定の形状に成形する際の加工性,装着されたICタグ2の安定性等を考慮すると、ホルダー3として合成樹脂(たとえばポリプロピレン等)または合成ゴム(たとえばウレタンゴム等)を使用することが好ましい。
【0020】
鋼管1は導電体であるから、ICタグ2と鋼管1が電気的に接触すると、小型アンテナ2bから送信できない。そこで電気的絶縁性を有するホルダー3を用いて、ICタグ2を鋼管1から電気的に絶縁する。
このICタグを装着したホルダー3に支持脚4を取付ける。支持脚4は線状の弾性体(たとえばバネ材等)からなり、支持脚4がホルダー3から脱落しないように、支持脚4の一端をホルダー3に固定する。なお、図2には4本の支持脚4を取付ける例を示したが、本発明では支持脚4の本数は特定の値に限定しない。ただし、後述するようにホルダー3を鋼管1の内面に定着させるためには、2本以上の支持脚4を取付けることが好ましい。
【0021】
支持脚4の他端は拘束を受けない自由端とし、2本以上の支持脚4の自由端で形成される円形の直径が鋼管1の内径より大きくなるように設定する。
ホルダー3を鋼管1内に挿入するときは、支持脚4を外側から拘束して、自由端で形成される円形を小さく絞る。このようにしてホルダー3を容易に鋼管1内に挿入できる。そして鋼管1内で拘束を解除して、支持脚4を開放すれば、支持脚4の自由端が鋼管1の内径より大きく広がろうとする復元力によって、ホルダー3が鋼管1の内面に定着される。しかも、復元力によって支持脚4が鋼管1の内面に押付けらけるので、ホルダー3の脱落を防止できる。
【0022】
さらに、ホルダー3は鋼管1の外径や肉厚に関わらず(すなわち内径の曲率に関わらず)使用できるので、ホルダー3の寸法や支持脚4の長さを細かく分類して保有する必要はなく、在庫管理が極めて容易に行なえるという利点を有する。
ホルダー3を鋼管1の内面に定着させる際には、ICタグ2の向きは特に限定しない。その理由は、ICタグ2の小型アンテナ2bから送信される電磁波6が、図1に示すように、鋼管1の内部の空洞を反射しながら伝播するからである。ただし、鋼管1の外部に設けられる読取用アンテナ5と鋼管1の内部のICタグ2との送受信の精度を向上するために、ICタグ2が鋼管1の開口面に向くようにホルダー3を貼り付けることが好ましい。
【0023】
支持脚4を構成する弾性体は、鋼管1の搬送に伴う衝撃に対して、その衝撃エネルギーの吸収が可能なものであれば良く、その材質は限定しない。ただし鋼管1が衝撃を受けたときに、その衝撃のエネルギーを支持脚4が吸収することを考慮すると、バネ材(たとえばピアノ線,硬鋼線等)などの弾力性を有する素材を使用することが好ましい。
このような支持脚4は鋼管1の搬送に伴う衝撃に対してはホルダー3の脱落を防止できるが、作業員や専用ロボット等が取外そうとすれば、ホルダー3の取外しを円滑に行なうことが可能である。ホルダー3は軽量であるから衝撃を受けたときの慣性が小さくなり、支持脚4の復元力を過剰に強くしなくても、衝撃によるホルダー3の脱落は発生しない。
【0024】
ICタグ2の小型アンテナ2bから送信される電磁波6は、鋼管1の空洞を反射しながら伝播する。したがって読取用アンテナ5を鋼管1の開口面に対向する位置に配設することによって、ICタグ2から送信される電磁波6を精度良く受信して、ICタグ2に保存された内容を読み取ることができる。
また、送受信の精度を一層向上するために、周波数2.45GHz帯のICタグ2を使用することが好ましい。周波数がこの帯域であれば、電磁波6の指向性が強いので、他の鋼管のICタグとの混線を防止できる。
【0025】
電磁波6は、鋼管1の空洞においては鋼管1の内面で反射しながら伝播するので散乱が防止されるが、鋼管1の開口面から外側では散乱するのは避けられない。そのため、鋼管1の開口面と読取用アンテナ5との距離Lは、ICタグ2の大気中における通信可能な距離(一般には800mm程度)より小さく設定することが好ましい。
なお図1には、ホルダー3を貼り付けた位置から遠い側の開口面にICタグ2を向ける例を示したが、近い側の開口面にICタグ2を向けても問題はない。
【実施例】
【0026】
図1に示すように、鋼管1(外径500mm,長さ12000mm)の内面に、支持脚4を介して直方体のホルダー3を定着させた。ホルダー3は、鋼管1の開口面から内側50mmの位置に定着させ、かつICタグ2が装着された面を他方の遠い側の開口面に向けた。ホルダー3は発泡ポリプロピレンを使用し、支持脚4はピアノ線を使用した。
このようにして内面にホルダー3を定着させた鋼管1をストッパーに衝突させて衝撃を与え、さらにクレードルに落下させて衝撃を与えたが、ホルダー3の脱落は認められなかった。
【0027】
次に、鋼管1の開口面から外側800mmの位置(すなわち距離L=800mm)に読取用アンテナ5を設けて、ICタグ2から送信される電磁波6を受信した。
このようにしてICタグ2に保存された内容を支障なく読み取ることができた。上記した鋼管の長さは、様々な規格に規定される長さの最大のものである。したがって本発明を適用すれば、通常の製造ラインで製造される鋼管を識別できることが確かめられた。
【符号の説明】
【0028】
1 鋼管(管体)
2 ICタグ
2a ICチップ
2b 小型アンテナ
3 ホルダー
4 支持脚
5 読取用アンテナ
6 電磁波


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁性を有する軽量固体のホルダーにICタグを装着し、前記ホルダーに弾性体からなる支持脚を取付け、前記支持脚の復元力によって前記ホルダーを管体の内面に定着させる一方で、前記管体の開口面に対向する位置に読取用アンテナを配設して、前記ICタグに保存された情報を前記読取用アンテナで読み取ることを特徴とする管体の識別管理方法。
【請求項2】
前記ホルダーが合成樹脂または合成ゴムからなることを特徴とする請求項1に記載の管体の識別管理方法。
【請求項3】
前記ホルダーに前記支持脚を2本以上取付けることを特徴とする請求項1または2に記載の管体の識別管理方法。
【請求項4】
前記ICタグが2.45GHz帯のICタグであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の管体の識別管理方法。
【請求項5】
ICタグが装着され、弾性体からなる支持脚が取付けられ、かつ電気的絶縁性を有することを特徴とする管体の識別管理用のICタグホルダー。
【請求項6】
前記ホルダーが合成樹脂または合成ゴムからなることを特徴とする請求項5に記載の管体の識別管理用のICタグホルダー。
【請求項7】
前記ホルダーに前記支持脚を2本以上取付けることを特徴とする請求項5または6に記載の管体の識別管理用のICタグホルダー。
【請求項8】
前記ICタグが2.45GHz帯のICタグであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の管体の識別管理用ICタグホルダー。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−14555(P2012−14555A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151910(P2010−151910)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】