説明

管体溶接装置

【課題】貫通孔の内周面に磨耗を生じた場合にも煩雑な調整作業を必要とすることなく両部材の位置関係が常に適正になるようにし、ワークの突き合わせ部分を正確に溶接できるようにする。
【解決手段】ワーク20が通過する貫通孔11を形成する溶接治具2を上側治具2Aと下側治具2Bとの2分割に構成し、互いの間に所定の間隙を設けてそれぞれ上側本体1A及び下側本体1B内に収納し、下側治具2Bを上下方向に移動自在にした。貫通孔11をワーク20が通過する際に、下側治具2Bを上側治具2Aに向けて上方に付勢する。貫通孔11の内周面の磨耗量に応じて下側治具2Bが上方に移動し、貫通孔11の内周面にワーク20の外周面が接触し、貫通孔11内でワーク20が回転したり、ワーク20軸方向に直交する面内で移動することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製板状素材を円筒状に曲げ加工したワークの端面を周方向に突き合わせた状態で溶接する管体溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の金属製薄肉管体を形成する際には、金属製板状素材を略真円状に曲げ加工し、周方向に突き合わされた2端面を溶接する。2端面の溶接に使用する装置として、円筒状のワークが通過する貫通孔を備えた管体溶接装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような管体溶接装置では、貫通孔の一部に露出して溶接具を配置し、貫通孔をワークが通過する間に、所定の溶接位置でワークの突き合わせ部を溶接する。
【0003】
貫通孔の内径はワークの外径に等しくされており、貫通孔の内周面はワークの外周面との接触によって磨耗する。これを放置すると貫通孔を通過する際にワークが回転又は半径方向に移動し、ワークが貫通孔をスムーズに通過できなくなるだけでなく、ワークと溶接具との位置関係に誤差を生じ、突き合わせ部を確実に溶接することができなくなる。
【0004】
そこで、従来の管体溶接装置では、貫通孔を構成する溶接治具を貫通孔の軸方向に直交する平面内で右上側部材、左上側部材及び下側部材に分割し、貫通孔の内周面の磨耗状況に応じて右上側部材及び左上側部材を下側部材に近づけるようにしている。このため、従来の管体溶接装置は、右上側部材及び左上側部材を装置本体内で下側部材に対して移動自在に支持し、2本の調整ネジを備えている。2本の調整ネジは、それぞれ右上側部材及び左上側部材の移動方向に平行な方向に装置本体を貫通して右上側部材及び左上側部材に螺合している。調整ネジを回転させると、調整ネジと右上側部材及び左上側部材との螺合量が変化し、右上側部材及び左上側部材が下側部材に接近又は離間する。
【特許文献1】特公平2−15310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の管体溶接装置では、貫通孔の内周面の磨耗量に応じた量だけ調整ネジを回転させて右上側部材及び左上側部材を下側部材に接近させる必要がある。このため、調整ネジの回転操作回数を少なくするためには磨耗量の測定が不可欠となるが、この測定は容易でない。一方、磨耗量の測定作業を不要とするためには貫通孔におけるワークの通過状態を検証しつつ調整ネジの回転操作を試行錯誤的に繰り返す必要がある。いずれにしても、従来の管体溶接装置では、右上側部材及び左上側部材を貫通孔の内周面の磨耗量に応じた適正な量だけ移動させる作業が煩雑になる。
【0006】
この発明の目的は、貫通孔の内周面に磨耗を生じた場合にも煩雑な調整作業を必要とすることなく両部材の位置関係が常に適正になるようにし、ワークの突き合わせ部分を正確に溶接することができる管体溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、溶接治具、溶接具及び付勢手段を備えている。溶接治具は、互いに平行な2端面を周方向に突き合わせて筒状にしたワークが軸方向に通過する貫通孔を有し、互いの間に間隔を設けて配置される第1の部材と第2の部材とに上下方向に分割して構成されている。溶接具は、貫通孔内の軸方向における所定の溶接位置で露出してワークの突き合わせ部に対向する。付勢手段は、貫通孔をワークが通過している間に、第1の部材及び第2の部材のうちの一方を他方に向けて付勢する。
【0008】
この構成では、筒状のワークが貫通孔を通過する際に、貫通孔を構成する第1の部材と第2の部材とが付勢手段によって互いに接近する方向に付勢される。したがって、ワークとの接触によって貫通孔の内周面が磨耗した際に、磨耗量に応じた量だけ第1の部材と第2の部材とが接近し、ワークが回転又は半径方向に移動することがない。
【0009】
この構成において、第1の部材又は第2の部材のいずれか一方を他方に向けて付勢する圧力を発生する圧力発生手段によって付勢手段を構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、筒状のワークが貫通孔を通過する際に、貫通孔を構成する第1の部材と第2の部材とを互いに接近する方向に付勢することで、貫通孔の内周面の磨耗量に応じた量だけ第1の部材と第2の部材とを接近させることができる。貫通孔の通過時にワークが回転又は半径方向に移動することを防止でき、貫通孔の内周面に磨耗を生じた場合にも煩雑な調整作業を必要とすることなく、ワークの突き合わせ部分を常に正確に溶接することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明の実施形態に係る管体溶接装置の斜視図である。この発明の実施形態に係る管体溶接装置10は、金属製板材を素材とする筒状のワーク20の突き合わせ部30を軸方向に沿って溶接し、管体を製造する。ワーク20は、予め矩形の板材を曲げ加工し、互いに平行な2端面を周方向に突き合わせた状態の筒状に形成されている。管体溶接装置10は、本体1、溶接治具2、押圧部材3、溶接トーチ4、ガイド刃5を備えている。
【0012】
本体1は、上側本体1Aと下側本体1Bとに上下2分割にして形成された後に固定具7A〜7D及び固定具8A〜8Dを介して略直方体形状に一体化され、内部に溶接治具2を支持している。なお、固定具7C,7D,8C,8Dは図1には現れない。上側本体1Aと下側本体1Bとの間には、空間が形成されている。
【0013】
上側本体1Aの上面17には、貫通孔11に貫通した凹部18,19が形成されている。凹部18には、ガイド刃5が配置されている。凹部19には、溶接トーチ4が配置されている。
【0014】
ガイド刃5は、下端部に形成された貫通孔11の軸方向に沿う刃部51を、貫通孔11内に露出させている。
【0015】
溶接トーチ4は、この発明の溶接具であり、凹部19に上方から挿入されて下端部が貫通孔11の内周面に近接する位置に達している。溶接トーチ4は、貫通孔11の周方向における下端部の位置がガイド刃5の刃部51の位置に一致するように上側治具2Aに保持されている。
【0016】
押圧部材3は、一例として円形の板状を呈し、中心位置を貫通孔11の中心に一致させて配置され、貫通孔11の軸方向に沿って往復移動自在にされている。押圧部材3は、周面における等間隔の3箇所から半径方向に延出した腕部31〜33を備えている。腕部31〜33の外縁部を通る円弧の径は、ワーク20の外径よりも大きい。腕部31〜33のそれぞれは、溝部14〜16に対向している。
【0017】
図2(A)及び(B)は、管体溶接装置に備えられる溶接治具の正面図及び側面断面図である。溶接治具2は、上側治具2Aと下側治具2Bとに上下2分割にされている。上側治具2A及び下側治具2Bは、それぞれこの発明の第1の部材及び第2の部材に相当する。上側治具2A及び下側治具2Bの間に、貫通孔11が形成される。
【0018】
貫通孔11は、内径がワーク20の外径に略等しい。上側治具2A及び下側治具2Bには、貫通孔11の内周面の周方向における等間隔の3箇所に、軸方向の全長にわたる溝部14〜16が形成されている。なお、貫通孔11の内径は、ワーク20の挿入を容易にすべく、前面側から背面側に向かって徐々に小さくしてもよい。
【0019】
上側治具2Aは、貫通孔11の径を内径とする円筒を上下方向に2等分した上側の部材に、溝部14,15、スリット21、凹部23、段部24A,24Bを形成したものである。したがって、上側治具2Aの下端面は、貫通孔11の中心軸を通る水平面で構成されている。
【0020】
下側治具2Bは、通孔11の径を内径とする円筒を上下方向に2等分した下側の部材の上端面を上側治具2Aとの間に形成すべき間隔だけ低下させ、溝部16及び段部25A,25Bを形成したものである。
【0021】
上側治具2A及び下側治具2Bの内周面の前端部には、前面側から背面側に向かって内径が小さくなる方向の傾斜面が形成されており、貫通孔11へのワーク20の挿入を容易にしている。
【0022】
図1に示したように、スリット21には、上方からガイド刃5が挿入される。凹部23は凹部19に連続するように形成されており、凹部23には凹部19に挿入された溶接トーチ4の先端部が配置される。
【0023】
図3(A)及び(B)は、管体溶接装置の正面断面図及び側面断面図である。上側本体1Aには、貫通孔11の軸方向に沿って半円弧状の内周面を有する凹部41が、底面側に開放して形成されている。下側本体1Bには、貫通孔11の軸方向に沿って略半円弧状の内周面を有する凹部42が、上面側に開放して形成されている。凹部41,42のそれぞれの内径は、上側治具2A及び下側治具2Bのそれぞれの外径に等しくされている。上側本体1Aと下側本体1Bとは、凹部41の内周面と凹部42の内周面との中心が、貫通孔11の中心軸に一致するように、互いの間に所定の間隔を設けて一体的に固定される。
【0024】
凹部41には、上側治具2Aが収納される。上側治具2Aを凹部41内に収納した状態で、固定ボルト43A,43Bを上側本体1Aに底面側から螺合させる。固定ボルト43A,43Bの頭部の高さは、段部24A,24Bの高さに等しい。したがって、上側治具2Aは、下端面の上下方向の位置が上側本体1Aの底面に一致した状態で、固定ボルト43A,43Bによって凹部41内に固定される。
【0025】
凹部42には、下側治具2Bが収納される。下側治具2Bを凹部42内に収納した状態で、固定ボルト44A,44Bを下側本体1Bに上面側から螺合させる。固定ボルト44A,44Bの頭部の高さは、段部25A,25Bの高さよりも短い。したがって、下側治具2Bは、上端面の上下方向の位置が下側本体1Bの上面に一致した状態で、固定ボルト44A,44Bの頭部の底面と段部25A,25Bの底面との間に間隙Dが形成される。
【0026】
なお、固定ボルト43A,43B,44A,44Bは、貫通孔11の軸方向にそれぞれ複数ずつ配置される。
【0027】
凹部41内に上側治具2Aを収納した上側本体1Aと、凹部42内に下側治具2Bを収納した下側本体1Bと、を固定具7A〜7D(図3には、固定具7A,7Bは現れない。)及び固定具8A〜8D(図3には、固定具8A,8Bは現れない。)を介して一体化すると、下側治具2Bは前面及び背面を固定具7A〜7Dに案内されて間隙Dの範囲で上下方向に移動自在にされる。
【0028】
下側本体1Bの凹部42には、底部にプッシャ収納部51及びシリンダ部52,53が上下方向に連続して形成されている。プッシャ収納部51は、平面視において矩形を呈し、凹部42内に開放している。シリンダ部52,53は、それぞれ平面視において円形を呈し、プッシャ収納部51内に開放している。
【0029】
プッシャ収納部51内には、プッシャ9が下側本体1Bの上面側から嵌入する。プッシャ9の上面は、凹部42の内周面に連続する円弧で形成されており、凹部42内に収納された下側治具2Bの外周面に当接する。なお、プッシャ9の上面は、凹部42の周方向に沿って凹部42の内周面に外接する複数の傾斜面で形成することもできる。
【0030】
プッシャ9の底面からは、ピストン9A,9Bが貫通孔11の軸方向に沿って突出している。プッシャ収納部51内にプッシャ9を収納すると、ピストン9A,9Bのそれぞれがシリンダ部52,53内に上方から嵌入する。このとき、ピストン9A,9Bのそれぞれの底面とシリンダ部52,53の底面との間には空間が形成される。ピストン9A,9Bのそれぞれには、上下方向の中間部に周方向に沿って溝部が形成されている。溝部には、一例として弾性体のOリングが装着される。
【0031】
シリンダ部52,53の底面には、下側本体1Bの背面に連通した空気流路54が開放している。空気流路54は、下側本体1Bの背面側でエアシリンダ55に接続されている。エアシリンダ55は、この発明の圧力発生手段であり、空気流路54を経由してシリンダ52,53内に加圧空気を選択的に供給する。プッシャ9及びエアシリンダ55は、この発明の付勢手段に相当する。
【0032】
貫通孔11内にワーク20の一部が挿入された後に、溶接トーチ4によるワーク20の突き合わせ部30の溶接が完了するまでの間に、エアシリンダ55から空気流路54を経由してシリンダ52,53内に加圧空気が供給される。加圧空気からピストン9A,9Bの底面に作用する圧力により、プッシャ9を介して下側治具2Bが上方の上側治具2Aに向けて付勢される。
【0033】
上側治具2A及び下側治具2Bが形成する貫通孔11の内径は、ワーク20の外径に略等しくされている。突き合わせ部30を溶接すべき複数のワーク20が順次貫通孔11を通過していくと、ワーク20の外周面との接触によって貫通孔11の内周面が磨耗する。このとき、エアシリンダ55からシリンダ52,53に供給される加圧空気によって下側治具2Bが貫通孔11の内周面の磨耗量に応じて上方に移動し、貫通孔11の内周面は常にワーク20の外周面に密着する。これによって、貫通孔11内でワーク20が回転したり軸方向に直交する面内で移動したりすることがなく、溶接トーチ4によって突き合わせ部30を正確に溶接することができる。
【0034】
貫通孔11の内周面の磨耗が進行し、下側治具2Bの上方への移動量が間隙Dの長さに達すると、段部25A,25Bが固定ボルト44A,44Bの頭部に当接し、下側治具2Bの上方への移動は停止する。この状態で貫通孔11の内周面の磨耗が所定量に達したと判断し、上側治具2A及び下側部材2Bを交換する。したがって、間隙Dは、ワーク20の真円度が許容できる範囲を超えることがない程度の長さに設定すべきである。
【0035】
下側治具2Bの上方への移動は、段部25A,25Bが固定ボルト44A,44Bの頭部に当接するまでは、貫通孔11内に位置するワーク20との当接によって停止する。したがって、付勢手段による付勢力は、ワーク20の強度に基づいて、下側治具2Bの上方への移動によってワーク20が変形しない程度に設定すべきである。
【0036】
管体溶接装置10には、下側治具2Bの上方への移動量が間隙Dの長さに達したことを検出して報知する報知手段を設けてもよい。報知手段は、表示灯又はブザーによって構成することができる。
【0037】
なお、管体溶接装置10は、図1に示す状態から貫通孔11の中心軸廻りに所定角度回転した状態で使用することもできる。
【0038】
また、上側本体1Aにもプッシャ収納部及びシリンダ部を設け、貫通孔11の内周面の磨耗状態に応じて、上側治具2A及び下側治具2Bの両方を互いに接近する方向に移動させるようにしてもよい。
【0039】
上記の実施形態はいずれも一例であり、この発明はこれらに限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々の変更を加えることが可能である。
【0040】
例えば、上記の実施形態では、上側本体1Aと下側本体1Bとを一体的に固定する固定具によって下側治具2Bの上下方向の移動を案内することとしたが、下側本体1Bと下側治具2Bとに互いに係合する凸部と溝部とを上下方向に形成してもよい。
【0041】
また、圧力発生手段は、加圧した気体をシリンダ52,53に供給するエアシリンダ55に限るものではなく、シリンダ52,53に加圧した液体を供給するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施形態に係る管体溶接装置の斜視図である。
【図2】(A)及び(B)は、管体溶接装置に備えられる溶接治具の正面図及び側面断面図である。
【図3】(A)及び(B)は、管体溶接装置の正面断面図及び側面断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 本体
1A 上側本体
1B 下側本体
2 溶接治具
2A 上側治具
2B 下側治具
3 プッシャ
4 溶接トーチ(溶接具)
10 管体溶接装置
11 貫通孔
20 ワーク
30 突き合わせ部
55 エアシリンダ(圧力発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な2端面を周方向に突き合わせて筒状にしたワークが軸方向に通過する貫通孔を有する溶接治具と、前記貫通孔内の軸方向における所定の溶接位置に露出して前記ワークの突き合わせ部に対向する溶接具と、を備え、
前記溶接治具は、前記貫通孔を含む範囲で上下に分割された第1の部材及び第2の部材で構成され、
前記第1の部材及び前記第2の部材は、少なくとも一方を他方に対して接近及び離間する方向に移動自在にして互いの間に間隔を設けて配置され、
前記貫通孔をワークが通過している間に、前記第1の部材及び前記第2の部材が互いに接近するように付勢する付勢手段をさらに備えた管体溶接装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記第1の部材又は前記第2の部材のいずれか一方を他方に向けて付勢する圧力を発生する圧力発生手段である請求項1に記載の管体溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−125793(P2009−125793A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306084(P2007−306084)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(391040135)株式会社富士機械工作所 (12)
【Fターム(参考)】