説明

管状火炎バーナ

【課題】主として片端閉塞型管状火炎バーナを安定燃焼させて火炎の吹き飛び限界を拡大すると共に、両端開放、片端閉塞いずれの管状火炎バーナにおいても発生するスリットでの管軸方向の流速の乱流的変動に起因する燃焼騒音を抑制する。
【解決手段】燃料ガス及び空気を、燃料ガスと空気との混合気を、又は、燃料ガスと空気と燃料ガス及び空気の混合気を対向して噴出させて旋回燃焼させるものであって、スリットが燃焼室Nに向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁22kにて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の燃焼室の側面に管軸方向に沿って開口されたスリットから、燃焼室の接線方向に向けて、燃料ガス及び空気を、燃料ガスと空気との混合気を、又は、燃料ガスと空気と燃料ガス及び空気の混合気を対向して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外形のコンパクト化が可能であり、且つ、工業用、業務用、及び家庭用の燃焼機器に適用可能な気体、液体、又は微粉状固体等の各種燃料を汎用的に燃焼させることのできる燃焼器として、管状火炎バーナが利用されている。かかる管状火炎バーナは、円筒状の燃焼室の管軸方向に沿って開口されたスリットから前記燃焼室内に向けて、前記燃焼室に燃料ガス及び空気を夫々単独で、或いは燃料ガスと空気との混合気を、又は、燃料ガスと空気とを夫々単独に且つ燃料ガス及び空気の混合気を組み合せて偏芯導入させて旋回燃焼させるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3358527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管状火炎は一般に層流で燃焼すると言われている。とはいえ、予混合気又は燃料ガスや空気を供給するスリットは、燃焼室の管軸方向に長いため、その方向に流速の変動する自由度が残っている。従って、予混合燃焼又は拡散燃焼のいずれにおいても、スリットから供給される予混合気又は燃料ガスや空気の流量に管軸方向の乱流的変動が生じて燃焼騒音が発生する。燃焼室内で混合が促進する拡散燃焼の管状火炎バーナでは、燃料ガス又は空気の流量変動が、燃焼室内で形成される混合気の濃度変動を生じて燃焼の不安定性や燃焼騒音発生に繋がることがある。
燃焼室の管軸方向の両端部が開口された両端開放型管状火炎バーナは、その管軸方向の中心において管軸方向の流動のない安定な火炎が存在し、これが保炎の役割を果たすため、極めて吹き飛びの起きにくい安定な火炎を形成する。しかしながら、片端閉塞型管状火炎バーナは、閉塞端における管軸方向の流れは無いものの、閉塞壁によって冷却されたり、旋回流に対する摩擦抵抗が発生したりするため、閉塞端においては管軸方向の流れのない安定な火炎は形成されがたく、両端開放型管状火炎バーナよりも燃焼や流動が不安定である。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、主として片端閉塞型管状火炎バーナを安定燃焼させて火炎の吹き飛び限界を拡大すると共に、両端開放型、片端閉塞型いずれの管状火炎バーナにおいても発生するスリットでの管軸方向の流速の乱流的変動に起因する燃焼騒音を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の管状火炎バーナは、円筒状の燃焼室の側面に管軸方向に沿って開口されたスリットから、前記燃焼室の接線方向に向けて、燃料ガス及び空気を、燃料ガスと空気との混合気を、又は、燃料ガスと空気と燃料ガス及び空気の混合気を対向して噴出させて旋回燃焼させるものであって、その特徴構成は、前記スリットが前記燃焼室に向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁にて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備えている点にある。
【0007】
すなわち、前記スリットが前記燃焼室に向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁にて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備えている。つまり、スリットは隔壁によって細分化され、管周方向に形成され且つ管軸方向に並ぶ細い管路の集合体となるため、主流以外の方向の流れの変動が妨げられ、その結果燃料ガスと空気又は混合気のスリット長手方向の流速変動が抑えられる。結果として、予混合燃焼においては、混合気の流動の乱流的変動が抑えられ、拡散燃焼においては燃料ガス及び空気の流動の乱流的変動及びそれに起因する燃料濃度の変動が抑えられ、これらの効果として、両端開放型、片端閉塞型いずれの管状火炎バーナにおいても燃焼の不安定性や燃焼騒音が抑制できるものとなった。特に、火炎の形成位置が安定しにくい片端閉塞型の管状火炎バーナでその効果は大きい。
【0008】
本発明の管状火炎バーナの更なる特徴構成は、上述の特徴構成に加えて、前記細分割部の隔壁がスリットの長手方向と垂直に複数枚配設される薄い板状部材にて構成されている点にある。
【0009】
すなわち、スリットの長手方向と垂直に薄い板状部材を設けることで、スリット長手方向への燃料、空気もしくは混合気の流れの大きなゆらぎを抑止することができる。これにより、燃焼の不安定性や燃焼騒音を抑制することが可能となる。
なお、管状火炎バーナは、燃焼室壁が比較的低温に保たれるので、この特長を活かして、上記隔壁を例えば2mm以下程度の金属薄板で構成することができる。薄い板状部材は、スリット長手方向への燃料、空気もしくは混合気の流れの大きなゆらぎの抑止が目的であるから、スリット幅もしくはその10倍程度以内の間隔で隔壁を設けるのが合理的である。また、隔壁を構成する薄い板状部材は、例えば、格子状やハニカム状に組むことにより、隔壁間隔を所期の値に保つことができる。
【0010】
本発明の管状火炎バーナの更なる特徴構成は、上述の特徴構成に加えて、前記スリットが、前記円筒状の燃焼室を構成する燃焼室構成部材の一部を切削加工した切削開口部にて形成され、前記スリットの細分割部の隔壁が、前記切削開口部の一部を切削加工し残して構成されている点にある。
【0011】
すなわち、管状火炎バーナの燃焼室が厚みのある材料や、燃料や空気又は混合気の流路を一体的に組み込んだ成形部材である場合には、燃焼室構成部材の一部を切削加工した切削開口部にてスリットを形成することができる。そこで、本特徴構成によれば、切削開口部の一部を切削加工し残して、管周方向に連続し且つスリットの長手方向に亘って管軸方向に並ぶ小孔を設けることによって、切削加工し残した部分を隔壁とし、板状の隔壁を隔てて細分割されたスリットとほぼ同等の導入路を形成することができる。これにより、追加部材を何ら必要とせず、加工方法の変更のみによって隔壁を形成することができ、隔壁の作成に要するコストを低減しながらも燃焼の不安定性や燃焼騒音を抑制することができる管状火炎バーナを得ることが可能となった。
【0012】
本発明の管状火炎バーナの更なる特徴構成は、上述の特徴構成に加えて、前記スリットの前記開口部、及び、その開口部における気体通流方向における直上流部分が、単一のスリットからなる連続スリット部となっている点にある。
【0013】
隔壁が燃焼室壁まで達する場合、その隔壁によって燃料、空気又は混合気の流れない部分が生じて、管状火炎に速度や濃度の一様でない部分ができる。具体的には、観察される火炎に縞模様が生じることがある。また、吹出し流速が遅く隔壁が厚い場合には、隔壁に火炎が付着して、燃焼室壁を過熱することがある。前者の場合、それが直ちに悪影響を生じるわけではなく、後者の場合には、そのような燃焼条件を外して使用すれば問題ないわけであるが、そのような状況が発生する可能性は未然に防いでおくに越したことはない。そこで、本特徴構成では、燃焼室内壁に接する部分のみは、細分割部が存在せず連続した開口とする連続スリット部とすることで、本来のスリットの形状を保持し、その連続スリット部よりも上流部のみ流れの細分割を行えば良い。
【0014】
具体的には、スリットの長手方向と垂直に複数枚配設される薄い板状部材を隔壁とする場合には、燃焼室開口から、わずかの距離を置いた部分に板状部材の下流端を留め、切削加工し残しを隔壁とする場合には、燃焼室開口部から直上流部分まで、連続開口の隔壁部を開削して本来のスリット状に戻す。
これにより、隔壁を設けることによる上述のような負の効果を減殺しながら、スリット長手方向の大きな流動変化を抑えるという本来の目的を達成することができ、燃焼の不安定性や燃焼騒音を抑制することができる管状火炎バーナを得ることが可能となった。
【0015】
本発明の管状火炎バーナの更なる特徴構成は、上述の特徴構成に加えて、前記細分割部における隔壁の長手方向の端部が、断面視において角部分が曲線状に形成されている点にある。
【0016】
すなわち、流路の細分割部材の厚みが大きいと、音響的には部材の後流で発生する渦によって騒音の発生や圧損の増大が生じる可能性がある。そこで、本特徴構成では、例えば、隔壁を構成する部材の長手方向の上流端や下流端を丸めることにより、カルマン渦の発生を抑えて騒音や圧損の低減を図ることができる。燃料や空気又は混合気の流れと接する細分割部材の形状を流線型とすることができれば理想的である。
これにより、隔壁を設けるに際しての悪影響を更に解消して、燃焼の安定化や燃焼騒音の低減に寄与することができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態における管状火炎バーナの斜視図
【図2】図1におけるII−II断面図
【図3】図2におけるIII−III断面図
【図4】本発明の第1実施形態における管状火炎バーナの組立斜視図
【図5】本発明の第1実施形態における空気用スリット形成部材を示す図
【図6】本発明の第2実施形態における空気用スリット形成部材を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
以下、図面に基づいて本発明の第1実施形態に係る管状火炎バーナを説明する。
本発明の第1実施形態に係る管状火炎バーナ1は、図1〜図3に示すように、一端がエンドプレート40(閉塞壁)にて閉塞され、他端がフロントフランジ50に設けられた開口部にて開口された円筒状の燃焼室Nと、その円筒状の燃焼室Nの側面に管軸方向(図中Y方向)に沿って開口する空気用スリット22s及びガス用スリット32sとを備えた、所謂片端閉塞型管状火炎バーナである。そして、空気用スリット22sとガス用スリット32sとから燃焼室Nの側壁の接線方向に向けて、燃料ガスと空気と各別に偏芯導入させて旋回燃焼させるように構成されている。
【0019】
ここで、燃焼室Nの管軸方向に沿う方向を、単に管軸方向(図中Y方向)と表現し、その管軸方向と直交する方向を管周方向(図中X方向)と表現する。また、形成される管状火炎においては、基端側となる燃焼室Nの閉塞側端部側を管軸方向上流側、火炎噴出側となる燃焼室Nの開放端側を管軸方向下流側と称する。
【0020】
円筒状の燃焼室Nは、図4に示すように、空気用スリット形成部材22とガス用スリット形成部材32とを組み合せて取り付けることで形成されている。この実施形態では、2つの空気用スリット形成部材22と2つのガス用スリット形成部材32とを組み合わせている。そして、空気用スリット形成部材22とガス用スリット形成部材32とを組み合せることで形成された円筒状の燃焼室Nに対して、管軸方向の一端側にエンドプレート40を取り付け、他端側に開口部50hを備えるフロントフランジ50を取り付けることで、管軸方向の一端が閉塞され他端が開口された燃焼室Nが形成されている。エンドプレート40は、円板状に形成され、点火プラグ孔40aとフレームロッド孔40bとが離間状態で穿設されている。そして、燃焼室Nの外部と内部とを貫通して、図示しない点火プラグとフレームロッドとが取付けられるように構成されている。尚、フロントフランジ50は、バーナを熱利用機器に取付けるためのフランジを兼ねている。
【0021】
この実施形態では、図示はしていないが、各部材をネジ止めによって固定するように構成している。しかしながら、取付け方法はそのような方法に限定されるものではなく、各部材に嵌合部と被嵌合部とを設け、嵌合取付けする形態や、嵌合取付けとネジ止めを複合的に用いる形態等、耐熱強度を損なわない限りにおいて各種の取付け方法が適用可能である。
以下、管軸方向において、エンドプレート40が取付けられる端部側を閉塞端側、フロントフランジ50が取付けられる端部側を開放端側と称し、エンドプレート40で閉塞される端部を閉塞側端部と称する。
【0022】
また、空気用スリット形成部材22の燃焼室Nの径方向外側には、エアオリフィス21が嵌め込まれた状態でエアチャンバー20が取り付けられ、ガス用スリット形成部材32の燃焼室Nの径方向外側には、ガスオリフィス31が嵌め込まれた状態でガスチャンバー30が取り付けられている。図示は省略するが、エアチャンバー20には、空気を供給する供給管が接続されており、その供給管には送風ファン又はブロワ等が取付けられ、酸素含有気体としての外部空気を取り込んで空気供給管に圧送するように構成されている。なお、前記酸素含有気体は、燃料ガスを燃焼させる為の酸化剤として用いるものであり、外部空気以外の酸素含有気体を用いることも可能である。図示は省略するが、ガスチャンバー30には、燃料ガスを供給する供給管が接続されている。
【0023】
燃焼室Nに噴出する空気については、図3に示すように、エアチャンバー20に導入された空気が、エアオリフィス21に設けられた貫通孔21hより空間22vに導かれ、空気用スリット22sを通して、円筒状の燃焼室Nの接線方向に噴出される。燃焼室Nに噴出する燃料ガスについては、ガスチャンバー30に導入された燃料ガスが、ガスオリフィス31に設けられた貫通孔31hより空間32vに導かれ、ガス用スリット32sを通して、円筒状の燃焼室Nの接線方向に噴出される。このようにして、燃焼室Nに燃料ガスと空気と各別に偏芯導入させて旋回燃焼させるように構成されている。
【0024】
空気用スリット形成部材22及びガス用スリット形成部材32について説明する。
空気用スリット形成部材22は、図5に示すように、円筒状の燃焼室Nにおける周壁の1/4に対応する部分である周壁形成部分22aとそれ以外の直線状部分22bとを備えて構成されている。また、ガス用スリット形成部材32は、図5と同様に、円筒状の燃焼室Nにおける周壁の1/4に対応する部分である周壁形成部分とそれ以外の直線状部分とを備えて構成されている。そして、図3及び図4に示すように、夫々が対向する状態で4つが組み合わされることによって、円筒状の燃焼室Nが形成されている。以下、空気用スリット形成部材22とガス用スリット形成部材32とを組み合せて燃焼室Nを形成した部材を、燃焼室形成部Mと称することがある。
【0025】
図5に示すように、空気用スリット形成部材22における周壁形成部分22aの周壁外方側の面には、空気導入路となる凹部が設けられ、空気用スリット形成部材22における周壁形成部分22aの端部にはスリット形成凹部22cが設けられている。
また、図示は省略するが、図5と同様に、ガス用スリット形成部材32における周壁形成部分の周壁外方側の面にはガス導入路となる凹部が設けられ、ガス用スリット形成部材32における周壁形成部分の端部にはスリット形成凹部が設けられている。
スリット形成凹部22cは、図4に示すように空気用スリット形成部材22とガス用スリット形成部材32とを組み合せて燃焼室形成部Mを構成した際に、燃焼室Nとなる周壁面にその管軸方向に沿って開口する。すなわち、空気用スリット形成部材22のスリット形成凹部22cによって形成される開口が空気用スリット22sとなる。同様に、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部によって形成される開口がガス用スリット32sとなる。
【0026】
尚、上記空気用スリット形成部材22、及びガス用スリット形成部材32の夫々は、例えば鋳造等によって一体形成して構成されている。そして、空気用スリット形成部材22のスリット形成凹部22cは、その一体形成された空気用スリット形成部材22の周壁形成部分22aの端部を切削することで形成され、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部は、その一体形成されたガス用スリット形成部材32の周壁形成部分の端部を切削することで形成される。
【0027】
説明を加えると、図5に示すように、空気用スリット形成部材22の周壁形成部分22aの周壁外方側の面から周壁内方側の面に連続する状態で、周壁形成部分22aの端部にスリット形成凹部22cを切削加工にて形成する。
また、図示は省略するが、図5と同様に、ガス用スリット形成部材32の周壁形成部分の周壁外方側の面から周壁内方側の面に連続する状態で、その周壁形成部分の端部にスリット形成凹部を切削加工にて形成する。
【0028】
尚、上述の空気用スリット形成部材22のスリット形成凹部22cの切削深さは、隣接する隔壁22k(図5、6参照)の間隔の1/3程度とし、上述のガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部の切削深さも、同様に、隣接する隔壁の間隔の1/3程度としている。
【0029】
ガスオリフィス31は、図4に示すように板状に形成されている。そして、このガスオリフィス31におけるガス用スリット形成部材32の周壁形成部分側に、管軸方向に並ぶ状態で、且つガスオリフィス31の管軸方向における両端部からは離間してその中央部分寄りとなるように3つの貫通孔31hが等間隔に穿設されている。
【0030】
ガスチャンバー30には、ガス導入空間が設けられ、そのガス導入空間には、管軸方向に離間して2つのガス供給用孔が設けられている。そして、ガスチャンバー30はガスオリフィス31が嵌合する状態でガス用スリット形成部材32に取付け可能に構成されている。
従って、ガスチャンバー30のガス導入空間に導入された燃料ガスは、ガスオリフィス31の3つの貫通孔31hを介して、ガス用スリット形成部材32の周壁形成部分の周壁外方側の面、ガスオリフィス31、及び、空気用スリット形成部材22の直線状部分22bに囲まれる空間32vに導入されることとなる。なお、上述のように、貫通孔31hはガスオリフィス31の管軸方向における中央部寄りに設けられるものであり、燃料ガスの分布は燃焼室Nの中央部が高濃度になるような分布を意図している。
【0031】
エアオリフィス21は、図4に示すように板状に形成されている。そして、このエアオリフィス21における空気用スリット形成部材22の周壁形成部分22a側に、管軸方向に並ぶ状態で4つの貫通孔21hが等間隔に離間して穿設されている。
【0032】
エアチャンバー20には、空気導入空間が設けられ、その空気導入空間の側面側に空気供給用開口20aが備えられている。そして、エアチャンバー20はエアオリフィス21が嵌合する状態で空気用スリット形成部材22に取付け可能に構成されている。
従って、エアチャンバー20のガス導入空間に導入された空気は、エアオリフィス21に設けられた4つの貫通孔21hを介して、空気用スリット形成部材22の周壁形成部分22aの周壁外方側の面、エアオリフィス21、及び、ガス用スリット形成部材32の直線状部分に囲まれる空間22vに導入されることとなる。なお、上述のように、貫通孔21hはエアオリフィス21の管軸方向において均等に配置するように設けられるものであり、噴出する空気の量の分布は燃焼室Nの管軸方向に亘って均等となる。
【0033】
このようにして、本発明に係る片端閉塞型管状火炎バーナ1では、図2中A1にて示すように、エアチャンバー20の空気導入空間に導入された空気の一部を、ガス側貫通小孔21b、貫通孔22h、空間32v、ガス用スリット32sを通して燃焼室Nの管軸方向の閉塞側端部に導入することで、燃焼室Nにおける管軸方向の閉塞側端部に空気を導入している。また、図2中A2に示すように、エアチャンバー20の空気導入空間に導入された空気の一部を、ガス側貫通大孔21a、貫通孔22h、空間32v、ガス用スリット32sを通して燃焼室Nの管軸方向の開放側端部に導入している。
【0034】
以下、本発明の第1実施形態に係る管状火炎バーナの特徴構成について説明する。
この第1実施形態においては、図5(a)及び(b)に示すように、空気用スリット形成部材22のスリット形成凹部22cに、支持部材22mにて支持される状態で、薄い板状部材(隔壁22k)を空気用スリット22sの長手方向と垂直に、管軸方向に複数枚離間状態で配設する。また、同様の構成なので図示は省略するが、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部に、支持部材にて支持される状態で、薄い板状部材(隔壁)をガス用スリット32sの長手方向と垂直に複数枚離間状態で配設する。この板状部材(隔壁22k)は、空気用スリット22sの流路を細分割する細分割部となり、同様に、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部に配設する板状部材(隔壁)は、ガス用スリット32sの流路を細分割する細分割部となる。
【0035】
空気用スリット22sに隔壁22kを形成するに当たり、板状部材同士の離間幅は空気用スリット22sのスリット形成凹部22c切削深さの10倍又はそれ以内とし、板状部材の厚さを約2mm又はそれ以下とする。さらに、板状部材の空気用スリット22sにおける気体通流方向の長さを、空気用スリット22sのスリット形成凹部22c切削深さ又は隣接する隔壁22k間の距離のいずれか大きいものの3倍から5倍程度として、複数の隔壁22kが管軸方向に離間して並設される状態に形成する。これは、隔壁22kの管周方向の長さが短いと流れの方向を規制するには足りず、逆に長いと圧損が増加するためである。また、この隔壁22kの長手方向の両端部は、図5(b)に示すように断面視において角部分が曲線状に形成されると共に、周壁内方側(気体通流方向下流側)の端部は気体通流方向上流側に引退した状態となっている。隔壁22kのない本来のスリット状流路とする燃焼室Nからの距離(つまり上述の気体通流方向上流側への引退距離)は、隔壁22kの厚みにより異なるが、隔壁22kによって分流された流れが再び合流してほぼ一様な流速になるまでの距離とし、具体的には、隔壁22kの厚みの数倍程度とする。
【0036】
また、空気用スリット形成部材22と同様の構成なので図示は省略するが、ガス用スリット形成部材32に隔壁を形成するに当たり、板状部材同士の離間幅をガス用スリット32sのスリット形成凹部切削深さの10倍又はそれ以内とし、板状部材の厚さを約2mm又はそれ以下とする。さらに、板状部材のガス用スリット32sにおける気体通流方向の長さをガス用スリット32sのスリット形成凹部切削深さ又は隣接する隔壁間の距離のいずれか大きいものの3倍から5倍程度として、複数の隔壁が管軸方向に離間して並設される状態に形成する。これは、隔壁の管周方向の長さが短いと流れの方向を規制するには足りず、逆に長いと圧損が増加するためである。また、この隔壁の長手方向の両端部は、その断面視において角部分が曲線状に形成されると共に、周壁内方側(気体通流方向下流側)の端部は気体通流方向上流側に引退した状態となっている。隔壁のない本来のスリット状流路とする燃焼室Nからの距離(つまり上述の気体通流方向上流側への引退距離)は、隔壁の厚みにより異なるが、隔壁によって分流された流れが再び合流してほぼ一様な流速になるまでの距離とし、具体的には、隔壁の厚みの数倍程度とする。
【0037】
つまり、空気用スリット22sが燃焼室Nに向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁22kにて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備え、その細分割部の隔壁22kが空気用スリット22sの長手方向と垂直に複数枚配設される薄い板状部材にて構成されている。
これにより、空気用スリット22sが管周方向に形成され且つ管軸方向に並ぶ細い管路の集合体となるため、それらを通過する空気は、主流以外の方向の流れの変動が妨げられ、その結果空気用スリット22sの長手方向(管軸方向)の流速変動が抑えられる。結果として、予混合燃焼においては、混合気の流動の乱流的変動が抑えられ、拡散燃焼においては燃料ガス及び空気の流動の乱流的変動及びそれに起因する燃料濃度の変動が抑えられ、これらの効果として燃焼の不安定性や燃焼騒音が抑制されることになる。
【0038】
また、隔壁として板状部材を設ける場合には、その板状部材の周壁内方側の端部を、空気用スリット22sが燃焼室に向けて開口する位置から所定距離だけ気体通流方向上流側に引退した状態とし、燃焼室N内壁に接する部分は連続した開口として本来のスリットの形状を保持しその上流部のみ流れの細分割を行う、つまり、空気用スリット22sの開口部、及び、その開口部の気体通流方向における直上流部分が、隔壁22kを空気用スリット22sにおける気体通流方向上流側に引退する状態とすることによって、単一のスリットとして形成され細分割部が存在しない連続スリット部となっている。
そして、隔壁を設けることにより生じる負の効果、すなわち、スリットを細分割する隔壁が燃焼室Nの周壁面にまで達する場合には、その隔壁によって燃料、空気又は混合気の流れない部分が生じることによって管状火炎に速度や濃度の一様でない部分ができたり、吹出し流速が遅く隔壁が厚い場合には、隔壁に火炎が付着して、燃焼室壁を過熱するという負の効果を、上述のように薄い板状部材の燃焼室N周壁側の端部を、空気用スリット22sが燃焼室Nに向けて開口する位置から所定距離だけ気体通流方向の上流側に引退した状態とすることにより減殺できるものとなる。
【0039】
さらに、細分割部における隔壁22kの周壁外方側及び周壁内方側の両端部が、断面視において角部分が曲線状に構成されている。
つまり空気用スリット22sにおける細分割部を構成する隔壁22kの厚みが大きいと、音響的にはそれら隔壁22kの部材の後流で発生する渦(カルマン渦)によって騒音の発生や圧損の増大が生じる可能性がある。そこで、それら細分割部における隔壁22kの周壁外方側及び周壁内方側の両端部を、断面視において角部分が曲線状となるように形成することによって、カルマン渦の発生を抑えて騒音や圧損の低減を図ることができる。さらに、燃料や空気又は混合気の流れと接する細分割部材の形状を流線型とすることができれば理想的である。これにより、隔壁22kを設けるに際しての悪影響を更に解消して、燃焼の安定化や燃焼騒音の低減に寄与することができる。
また、ガス用スリット32sの隔壁も、空気用スリット22sの隔壁22kが奏する作用効果と同様の作用効果を奏するものである。
【0040】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る管状火炎バーナの特徴構成について説明する。第2実施形態は、上記第1実施形態に対して、隔壁の形成方法を変更したものであるので、共通する構成については同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
第2実施形態においては、図6(a)及び(b)に示すように、空気用スリット22sが、円筒状の燃焼室Nを形成するスリット形成部材としての空気用スリット形成部材22を切削加工した切削開口部(スリット形成凹部22c)にて形成されるとともに、そのスリット形成凹部22cの一部を切削加工し残すことによって、隔壁22kを形成している。説明を加えると、スリット形成凹部22cの切削部分の幅を空気用スリット22sのスリット形成凹部切削深さの約10倍又はそれ以内とし、隣接する切削部分との間隔を約2mm又はそれ以下として、管軸方向と略直交する方向、つまり管周方向(接線方向)に流路が形成され、管軸方向に複数の隔壁22kが離間して並設される状態に形成する。また、この隔壁22kの周壁外方側及び周壁内方側の両端部は、図6(c)に示すようにその断面視において角部分が曲線状に形成されると共に、周壁内方側(気体通流方向下流側)の端部は気体通流方向上流側に引退した状態となっている。
【0041】
また、図5と同様であるため図示は省略するが、ガス用スリット32sが、円筒状の燃焼室Nを形成するスリット形成部材としてのガス用スリット形成部材32を切削加工した切削開口部(スリット形成凹部)にて形成されるとともに、ガス用スリット32sのスリット形成凹部の一部を切削加工し残すことによって、隔壁を形成している。説明を加えると、ガス用スリット32sのスリット形成凹部の切削部分の幅をガス用スリット32sのスリット形成凹部切削深さの約10倍又はそれ以内とし、隣接する切削部分との間隔を約2mm又はそれ以下として、管軸方向と略直交する方向、つまり管周方向に流路が形成され、管軸方向に複数の隔壁が離間して並設される状態に形成する。また、この隔壁の周壁外方側及び周壁内方側の両端部は、図6(c)と同様にその断面視において角部分が曲線状に形成されると共に、周壁内方側(気体通流方向下流側)の端部は気体通流方向上流側に引退した状態となっている。
【0042】
尚、本実施形態では、第1実施形態と同様に、空気用スリット形成部材22のスリット形成凹部22cの切削深さは、隣接する切削部分との間隔、つまり隣接する隔壁22kの間隔の1/3程度とし、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部の切削深さは、ガス用スリット形成部材32のスリット形成凹部において隣接する切削部分との間隔、つまり隣接する隔壁の間隔の1/3程度としている。
【0043】
つまり、空気用スリット22sが燃焼室Nに向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁22kにて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備え、スリットが、円筒状の燃焼室Nを構成する燃焼室構成部材としての空気用スリット形成部材22の一部を切削加工した切削開口部にて形成され、スリットの細分割部の隔壁22kが、切削開口部の一部を切削加工し残すことによって構成されている。
そして、これによって、管状火炎バーナ1の燃焼室Nを構成する燃焼室構成部材が厚みのある材料にて形成されていたり、燃料や空気又は混合気の流路を一体的に組み込んだ部材である場合には、空気用スリット22sを開口するに際して、第1実施形態の如く管軸方向に長孔を設けてその長孔に薄い板状部材を並置するように配設するのではなく、空気用スリット形成部材22の周壁形成部分22aにおける周壁内方側から外方側に連通した小孔を空気用スリット22sの長手方向に並べて開口することによって、薄い板状部材による隔壁22kを隔てて細分割されたスリットとほぼ同等の導入路とすることができる。
【0044】
また、この第2実施形態における隔壁22kにおいても、第1実施形態と同様に、空気用スリット22sの開口部、及び、その開口部における気体通流方向における直上流部分が、隔壁22kを空気用スリット22sの気体通流方向上流側に引退する状態とすることによって、細分割部が存在しない連続スリット部となっている。また、切削加工の際に切削し残した隔壁22kの厚みが比較的厚い場合には、気体通流方向の上流端及び下流端に丸みを付けて(アールを取って)流れの抵抗を下げるように構成する。隔壁22kの断面そのものを流線型に切削し残すとさらなる圧損低減が可能になる。すなわち、細分割部における隔壁22kの周壁外方側及び周壁内方側の両端部は、断面視において角部分が曲線状に形成されている。
これらの構成による作用効果は第1実施形態と同様であるので省略する。
【0045】
つまり、この第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に燃焼の不安定性や燃焼騒音を抑制することができるという作用効果を奏し、しかも何らの追加部材を必要とせず、加工方法の変更のみによって経済的に隔壁22kを形成することができるものとなる。
また、この実施形態におけるガス用スリット32sの隔壁も、空気用スリット22sの隔壁22kが奏する作用効果と同様の作用効果を奏するものである。
【0046】
〔別実施形態〕
次に、本発明の管状火炎バーナの別実施形態を説明する。
(イ)上記第1及び第2実施形態では、空気を噴出する空気用スリット22s及び混合気を噴出するガス用スリット32sの双方に隔壁を設けて細分割部を形成する構成としたが、このような構成に限定されるものではなく、空気側、つまり空気用スリット22sにのみ隔壁を設けるように構成してもよい。これにより、空気の流れを細分化することができる。
【0047】
(ロ)上記第1及び第2実施形態では空気用スリット22sの隔壁22k(又はガス用スリット32sの隔壁)の周壁外方側及び周壁内方側の両端部は、その断面視において角部分が曲線状に形成されるように構成したが、空気用スリット22sの隔壁22k(又はガス用スリット32sの隔壁)の周壁外方側、つまり気体通流方向の上流側は角部分を曲線状にしない状態としてもよい。このとき、気体通流方向の上流側の端部を薄刃状にすることも可能である。
【0048】
(ハ)上記第1及び第2実施形態では、片端閉塞型の管状火炎バーナにおける構成を説明したが、空気用スリット22sを隔壁22kによって細分割する、又は、ガス用スリット32sをその隔壁によって細分割するという本発明の構成は、両端が開口する一般的な管状火炎バーナに用いることも可能である。
【0049】
(ニ)上記第1又は第2実施形態においては、空気用スリット22sから空気を、ガス用スリット32sから燃料ガスと空気との混合気を各別に燃焼室Nに偏芯導入させて旋回燃焼させるように構成したが、このような構成に限定されるものではなく、例えば混合気のみを燃焼室Nに偏芯導入させて旋回燃焼させるようにしてもよい。
さらに、上記構成に限定されるものではなく、空気、燃料ガス、及びそれらの混合気を各別に燃焼室Nに偏芯導入させて旋回燃焼させるように構成してもよい。
すなわち、円筒状の燃焼室の側面に管軸方向に沿って開口されたスリットから、前記燃焼室の接線方向に向けて、燃料ガス及び空気、燃料ガスと空気との混合気、又は、燃料ガスと空気と燃料ガス及び空気の混合気のいずれかを対向して噴出させて旋回燃焼させるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、片端閉塞の管状火炎バーナにおける燃焼の不安定性を解消することで、産業用から業務用及び家庭用までの管状火炎バーナの性能の安定・向上に利用できる。同時に燃焼騒音(轟音)の低減が可能になるため、特に、小規模業務用や家庭用の燃焼機器への適用に利用価値の高いものである。
【符号の説明】
【0051】
22 空気用スリット形成部材
22h 貫通孔
22c スリット形成凹部
22a 周壁形成部分
22b 直線状部分
22m 支持部材
22k 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の燃焼室の側面に管軸方向に沿って開口されたスリットから、前記燃焼室の接線方向に向けて、燃料ガス及び空気を、燃料ガスと空気との混合気を、又は、燃料ガスと空気と燃料ガス及び空気の混合気を対向して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナであって、
前記スリットが前記燃焼室に向けて開口する開口部に近接する流路が、隔壁にて管軸方向で複数に細分割された細分割部を備えている管状火炎バーナ。
【請求項2】
前記細分割部の隔壁がスリットの長手方向と垂直に複数枚配設される薄い板状部材にて構成されている請求項1記載の管状火炎バーナ。
【請求項3】
前記スリットが、前記円筒状の燃焼室を構成する燃焼室構成部材の一部を切削加工した切削開口部にて形成され、前記スリットの細分割部の隔壁が、前記切削開口部の一部を切削加工し残して構成されている請求項1記載の管状火炎バーナ。
【請求項4】
前記スリットの前記開口部、及び、その開口部における気体通流方向における直上流部分が、単一のスリットからなる連続スリット部となっている請求項1〜3の何れか一項記載の管状火炎バーナ。
【請求項5】
前記細分割部における隔壁の両端部が、断面視において角部分が曲線状に形成されている請求項1〜4の何れか一項記載の管状火炎バーナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−163591(P2011−163591A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24331(P2010−24331)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】