説明

管路の内張り材

【解決手段】 流体圧力により反転しながら管路に挿通して内張りする内張り材であって、筒状基材2の内側に筒状繊維補強材3を挿通してなり、前記筒状繊維補強材3が、長さ方向に対して互いに逆方向の斜めに配置された斜行糸11、12を有する二層の斜行糸条層8、9と、当該二層の斜行糸条層8、9を挾んで内外に配置された不織布層6、7とを有し、それらの斜行糸条層8、9と不織布層6、7とを一体に接合してなる。
【効果】 筒状繊維補強材が逆方向に傾斜する二層の斜行糸条層を含んでいるので、耐圧力が高く且つ径に融通性があって管路の内面に密着し易いと共に、その斜行糸条層を不織布層で挾み、それらを一体に接合しているので、斜行糸条層を容易に配置することができると共に、筒状繊維補強材を一体のものとして取り扱うことができ、内張り材の取り扱いが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス導管、水道管、下水道管、電力線や通信線などの敷設管路、農業用水管などの既設の管路に対し、補修又は補強の目的でその内面に内張りを施すための内張り材であって、特に流体圧力によりその内外面を反転しながら管路に挿通して内張りする方法において使用する内張り材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、前述のような既設の管路の内面に内張り材を貼着して内張りすることが行われており、その方法の一つとして、内張り材を流体圧力で内外面を反転しながら管路に挿通する方法が広く行われている。
【0003】
この方法は、数百メートルに及ぶ長尺の管路に対して、内張り材を容易に挿通することができると共に、挿通された内張り材は流体圧力により膨らまされるため、管路の内面に容易に密着して内張りすることができるので、長尺の管路に対して容易に内張りすることができる方法として広く使用されている。
【0004】
しかしながら一方では、管路内面に強固な内張り管を形成するためには、内張り材に多量の硬化性樹脂液を含浸させる必要があり、硬化性樹脂液を保持し得る厚い繊維層を有することが求められる。
【0005】
また内張り材を流体圧力により内外面を反転させるので、内張り材は容易に反転することができる程度の柔軟性が必要であり、また反転のための流体圧力に耐えるだけの耐圧力を有することが必要とされ、さらには管路の内面の凹凸に沿うことができるように、径に多少の融通性を有することが必要である。
【0006】
かかる観点から種々の構造の内張り材が提案されているが、いずれも一長一短である。例えば特開平1−221223号公報には、筒状不織布と長さ方向に延びる糸条とを組み合わせ、ニードルパンチにより一体化したものが示されているが、周方向の強度に劣るため耐圧力が不十分となる。また筒状不織布を厚くすると柔軟性が損なわれ、内外面を反転することが困難となる。
【0007】
また特開平1−127328号公報には、筒状織布の内面に太い高剛性糸を周方向に配し、当該高剛性糸を接結糸で筒状織布に接結したものが示されているが、高剛性糸が伸びないため、予め設定した径以上に膨脹させることはできず、管路内面に凹凸があると管路の内面に沿いにくいものとなる。
【0008】
さらに特開2001−82676号公報、特開2005−69258号公報及び特許第3586415号公報には、繊維を斜めに配した内張り材が示されており、これらの構造では強度や管路への密着性は良好であると考えられるが、内張り材の製造時に個々に繊維を斜めに巻回する必要があり、製造が困難である。
【特許文献1】特開平1−221223号公報
【特許文献2】特開平1−127328号公報
【特許文献3】特開2001−82676号公報
【特許文献4】特開2005−69258号公報
【特許文献5】特許第3586415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、管路の内張り材に要求される前述の種々の要求を満たし、且つ容易に製造することのできる内張り材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して本発明は、流体圧力によりその内外面を反転しながら既設管路に挿通し、当該既設管路の内面に内張りする内張り材であって、環状に配置された多数のたて糸と当該たて糸に対してスパイラル状に織り込まれたよこ糸とよりなる筒状織布の外面に、気密性の皮膜層を形成してなる筒状基材と、当該筒状基材の内側に挿通された少なくとも一層の筒状繊維補強材とよりなり、前記筒状繊維補強材が、長さ方向に対して互いに逆方向の斜めに配置された斜行糸を有する二層の斜行糸条層と、当該二層の斜行糸条層を挾んで内外に配置された不織布層とを有し、それらの斜行糸条層と不織布層とを一体に接合してなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記斜行糸条層が、長さ方向に延びるたて糸と前記斜行糸とを織成した斜め織物よりなるものであることが好ましい。
【0012】
また前記筒状繊維補強材は、前記斜行糸条層と不織布層とを一体に接合してなるシート状物を筒状に丸め、その両縁を縫合してなることが好ましく、さらには複数の筒状繊維補強材を有する場合であって、それらの筒状繊維補強材を構成する複数のシート状物を重ねてその両縁を一体に縫合してなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、筒状繊維補強材が逆方向に傾斜する二層の斜行糸条層を含んでいるので、耐圧力が高く且つ径に融通性があって管路の内面に密着し易いと共に、その斜行糸条層を不織布層で挾み、それらを一体に接合しているので、斜行糸条層を容易に配置することができると共に、筒状繊維補強材を一体のものとして取り扱うことができ、内張り材の取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を図面に従って説明する。図1は本発明の内張り材1を示すものであって、この内張り材1は筒状基材2と当該筒状基材2内に挿通された筒状繊維補強材3とよりなっている。
【0015】
筒状基材2は、環状に配置された多数のたて糸と、当該たて糸に対してスパイラル状に織り込まれたよこ糸とにより筒状織布4を織成し、当該筒状織布4の外面に、気密性の皮膜層5が形成されている。
【0016】
また筒状繊維補強材3はその詳細な構造を図2に示す。すなわち上下両面に不織布層6、7を有し、その不織布層6、7の間に二層の斜行糸条層8、9が挾まれ、不織布層6、7の外側から接合糸10により一体に接合されている。
【0017】
而して図2においては、斜行糸条層8、9はそれぞれ、ガラスロービングなどの高強度の太い糸条よりなる斜行糸11、12と、内張り材1の長さ方向に延びるたて糸13、14とを織成した斜め織物よりなっている。
【0018】
各斜行糸条層8、9における斜行糸11、12は、たて糸13、14に対して30〜60度の角度をもって織成されており、両斜行糸条層8、9の斜行糸11、12は互いに逆方向の斜めに配置されている。そして斜行糸11、12はたて糸13、14により、所定の角度で互いに平行に配置され、安定した織物状に保持されている。
【0019】
接合糸10は、不織布層6、7と斜行糸条層8、9とが分離しないように接合するものであるから、粗く縫合するだけで足りる。また縫合によることなく、不織布層6、7の外側からニードルパンチなどにより接合することもできる。
【0020】
而して前記筒状繊維補強材3は、斜行糸条層8、9の両面に不織布層6、7を重ねて接合糸10で接合してなるシート状物15を、縫合糸16で縫合して筒状に形成している。筒状基材2内に筒状繊維補強材3を複数層重ねて挿通する場合には、個々の筒状繊維補強材3を筒状に形成してもよいが、図1に示すようにシート状物15を複数枚重ねた状態でて筒状にして、それらを纏めて縫合糸16により一挙に縫合して、筒状に形成することもできる。
【0021】
本発明においては、筒状基材2内に筒状繊維補強材3を挿通し、その内面に反応硬化性樹脂液を塗布して筒状繊維補強材3に含浸させ、それを流体圧力で内外面を反転しながら既設管路内に挿通する。これにより筒状基材2の皮膜層5が管路の最内層を形成して、流体の漏出を阻止すると共に、樹脂液が含浸した筒状繊維補強材3が既設管路の内面に密着して樹脂液が硬化し、厚い強固なFRP管を形成する。
【0022】
このとき筒状繊維補強材3は、荷重を負担するのは主として斜行糸11、12であり、不織布層6、7はほとんど負担しない。従って筒状繊維補強材3に内圧が作用したときには、斜行糸11、12が長さ方向に対する角度が大きくなるようにずれながら動くことにより、筒状繊維補強材3は容易に径が膨脹することができ、既設管路の径にばらつきがあっても容易にそれに密着することができ、既設管路の内面に強固なFRP管を形成することができる。
【0023】
また筒状基材2の筒状織布4は、反応硬化性樹脂液を多量に含浸する必要がないので、過度に厚いものとする必要はない。従って薄く且つ伸縮性を有するものとすることができ、筒状繊維補強材3を介して既設管路に沿うことができる。
【実施例】
【0024】
1000dのポリエステル繊維糸を二本引き揃えた糸条をたて糸として、864本使用 し、1000dのポリエステル繊維糸を二本引き揃えた糸条をよこ糸として、前記たて糸 に1cm間に6本打ち込んで口径250mmの筒状織布4を織成し、その筒状織布4の外面に押出被覆によりポリエチレン樹脂をラミネートして皮膜層5を形成し、筒状基材2を形成した。
【0025】
1150texのガラスロービング糸を25mm間に8本使用して、長さ方向に対して45 °の角度で配置して斜行糸11、12とし、この斜行糸11、12と、75dのポリエス テル繊維糸を25mm間に5本並べたたて糸13、14とを織成して、目付890g/cm2の 斜行糸条層8、9を形成した。当該斜行糸条層8、9を、前記斜行糸11、12が互いに逆方向の斜めとなるように二枚重ね、その両側にポリエステル繊維よりなる目付50g/cm2の不織布を重ね、それらを約10cm間隔で縫合して、厚さ約2mmのシート状物15を形 成した。
【0026】
当該シート状物15の両縁を縫合して口径239mmの筒状繊維補強材3を形成し、当該筒状繊維補強材3内に同様に形成した口径241mmの筒状繊維補強材3を引き込み、その内側にさらに口径243mmの筒状繊維補強材3を引き込んで、筒状繊維補強材3を三層に重ね、それを前記筒状基材2内に引き込んで内張り材1を形成した。
【0027】
比較例として、厚さ4.5mm、目付800g/cm2のポリエステル不織布の両縁を縫合し て口径239mmの筒状不織布を形成し、その筒状不織布を前記筒状基材2内に引き込んで内張り材を形成した。
【0028】
これらの実施例及び比較例の内張り材内に1m当たり4.6kgのエポキシ樹脂を注入して、内張り材の内面全体に均一に塗布し、流体圧力により内外面を反転しながら陶管内に挿通し、前記エポキシ樹脂を硬化させた。
【0029】
そして前記内張り材について反転挿通時の自走反転圧力、0.1MPaの内圧を作用させ たときの径膨脹率並びに、エポキシ樹脂を硬化した状態の内張りについて厚さ、破断圧力、曲げ強さ、曲げ弾性率及び引っ張り強さを測定した。その測定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1からも理解できるように、本発明の実施例と比較例では厚さや自走反転圧力、径膨脹率においてはほとんど差はないが、内張りの破断圧力においては実施例のものは比較例の約4倍の値を示し、曲げ強さや曲げ弾性率においては約3倍であって、既設管路内に形成される内張りの強さに大きな差がある。
【0032】
比較例の構造において実施例に匹敵する強度を確保するためには、内張りの厚さを大幅に厚くしなければならず、管路の流路が大幅に狭まると共に、反転挿通に大きな圧力を要し、内張り作業が困難となることは容易に推測できるところである。
【0033】
また本発明においては、筒状繊維補強材3に斜行糸11、12として高強度で伸びのないガラスロービングを含んだ織物構造の斜行糸条層8、9を有していながら、斜行糸11、12が斜めに配置されているために、筒状繊維補強材3の径膨脹率が比較的大きく、既設管路の内面に容易に沿い得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の内張り材1の斜視図
【図2】本発明における筒状繊維補強材を構成するシート状物の一部破断平面図
【符号の説明】
【0035】
1 内張り材
2 筒状基材
3 筒状繊維補強材
4 筒状織布
5 皮膜層
6、7 不織布層
8、9 斜行糸条層
10 接合糸
11、12 斜行糸
13、14 たて糸
15 シート状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧力によりその内外面を反転しながら既設管路に挿通し、当該既設管路の内面に内張りする内張り材であって、環状に配置された多数のたて糸と当該たて糸に対してスパイラル状に織り込まれたよこ糸とよりなる筒状織布(4)の外面に、気密性の皮膜層(5)を形成してなる筒状基材(2)と、当該筒状基材(2)の内側に挿通された少なくとも一層の筒状繊維補強材(3)とよりなり、前記筒状繊維補強材(3)が、長さ方向に対して互いに逆方向の斜めに配置された斜行糸(11、12)を有する二層の斜行糸条層(8、9)と、当該二層の斜行糸条層(8、9)を挾んで内外に配置された不織布層(6、7)とを有し、それらの斜行糸条層(8、9)と不織布層(6、7)とを一体に接合してなることを特徴とする、管路の内張り材
【請求項2】
前記斜行糸条層(8、9)が、長さ方向に延びるたて糸(13、14)と前記斜行糸(11、12)とを織成した斜め織物よりなることを特徴とする、請求項1に記載の管路の内張り材
【請求項3】
前記筒状繊維補強材(3)が、前記斜行糸条層(8、9)と不織布層(6、7)とを一体に接合してなるシート状物(15)を筒状に丸め、その両縁を縫合してなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の管路の内張り材
【請求項4】
複数の筒状繊維補強材(3)を有し、それらの筒状繊維補強材(3)を構成する複数のシート状物(15)を重ねてその両縁を一体に縫合してなることを特徴とする、請求項3に記載の管路の内張り材

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−180254(P2008−180254A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12918(P2007−12918)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】