説明

管路ライニング工法

【課題】熱硬化性樹脂を含浸させた管状のライニング材を管路の管内周面に押圧した状態でライニング材を加熱することでライニング材の熱硬化性樹脂を硬化させて管路をライニングする工法において、ライニング材の加熱をその長さ方向にも面状にも均一に行なえ、効率良く、低コストで行なえる工法を提供する。
【解決手段】ライニング材3を管路1の管内周面に押圧した状態で、温水ポンプの駆動により発生した温水が加圧されてライニング材3に挿入されたチューブ16に供給される。チューブ16の長さ方向に所定間隔を置いて複数設けられた噴霧器から温水ミストが拡散されて噴出し、ライニング材3の内周面に吹き当てられることにより、ライニング材3の熱硬化性樹脂が加熱され硬化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した管路を補修するため管路をライニングする管路ライニング工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水道管などの管路が老朽化した場合に、管路の管を掘り出すことなく補修するために、熱硬化性樹脂を含浸させた管状のライニング材を管路に挿入し、空気圧などで膨張させ管路の管内周面に押圧した状態でライニング材を加熱してライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させて管路をライニングする管路ライニング工法が既に提案され実施されている。ライニング材の加熱方法としては、図5に示す蒸気(水蒸気)による方法や、図6に示す温水のシャワリングによる方法が採用されている。
【0003】
図5に示す蒸気による方法では、管路1内に挿入され管内周面に押圧されたライニング材3の一端部側から蒸気噴射ノズル21によりライニング材3の内側に高温の蒸気20を噴射し、ライニング材3内に充満させ、その熱によりライニング材3を加熱する。
【0004】
図6に示す温水のシャワリングによる方法は、下記の特許文献1などで知られており、温水を噴出する噴出口を長さ方向に所定間隔で多数形成した温水ホース22をライニング材3に挿入してライニング材3と共に管路1に挿入し、ライニング材3を空気圧で膨張させ、これを管内周面に押圧した状態で、温水ホース22に高温の温水を加圧して供給することにより、温水ホース22の各噴出口から温水を温水シャワー23として噴出させ、ライニング材3の内周面に吹き付けてライニング材3を加熱する。
【特許文献1】特許第2501048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5の蒸気による加熱方法では、蒸気噴射ノズル21から噴射された蒸気20がノズル21から離れるほど温度を奪われて凝結し温水滴となって落下する量が多くなるので、図5に示すように、ライニング材3のノズル21と反対側の端部近傍では蒸気が希薄になり、加熱の熱量が不足し、ライニング材3の熱硬化性樹脂が硬化しにくくなる。すなわち、ライニング材3の長さ方向に均一に加熱することができない。これをカバーするためには、ノズル21からの蒸気の噴射量を多くする必要があり、蒸気を発生させるヒーターやボイラーなどに大きなパワーが必要で、効率が悪く、燃料などのコストがかかるという問題があった。
【0006】
また、図6の温水のシャワリングによる方法では、シャワリングによりライニング材の内周面に噴きつけられる温水シャワー23の温水が点状であって広がりがないため、ライニング材3を面状に均一に加熱することが困難である。できるだけ面状に均一に近く加熱するには、温水ホース22の噴出口の数を例えばホース22の長さ1m当たり20〜100とする必要があり、その数を多くすると、温水の消費量が増え、効率が悪くなり、コストがかかってしまう。
【0007】
そこで本発明の課題は、この種の管路ライニング工法において、ライニング材の加熱をライニング材の長さ方向にも面状にも均一に行なえ、効率良く、低コストで行なえる工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明による管路ライニング工法は、熱硬化性樹脂を含浸させた管状のライニング材を管路に反転挿入し、これを膨張させて管路の管内周面に押圧した状態でライニング材に対して温水ミストを吹き当てることによりライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させて管路をライニングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の管路ライニング工法によれば、ライニング材に対して温水ミストを吹き当てるので、広がりが大きいミストでライニング材を面状に均一に加熱することができる。また、ライニング材の長さ方向に温水ミストの広がり幅より短い間隔で吹き当てを行なえば、ライニング材をその長さ方向にも均一に加熱することができる。したがって、ライニング材の加熱を効率良く、低コストで行なうことができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付した図を参照して本発明の実施の形態を説明する。ここでは、管路ライニング工法において、ライニング材に対して蒸気ミスト又は温水ミストを吹き当てることによりライニング材を加熱してライニング材の熱硬化性樹脂を硬化させる実施例を示す。
【実施例】
【0011】
図1は、実施例の管路ライニング工法を説明するための断面図である。1は地中に埋設された下水道管などの老朽化した管路であり、これを補修するための管路ライニング工事では、まず管路1に連通したマンホール2から管路1内に柔軟な管状のライニング材3が挿入される。その様子は図示していないが、ライニング材3に圧縮空気あるいは水圧などの圧力媒体を作用させることにより、ライニング材3をその表裏を反転させて管路1内に挿入する。
【0012】
ライニング材3は、ポリエステル、ビニロン、アクリルなどのファイバーからなる不織布を管状に縫製し、その片面(管路1への反転挿入前は外側面となる面)を気密性の高いフィルムで被覆したものとしての柔軟な管状の樹脂吸収材に、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させたものとして構成されている。ライニング材3の先端部は閉じられ、後端部は開かれており、その後端部は、マンホール2内に設置された圧力容器4の下端部片側に形成された開口部に対して気密性をもって結合される。
【0013】
圧力容器4には、エアコンプレッサー5がパイプ6を介して接続されている。また、排水パイプ7が設けられており、この排水パイプ7には、地上に設置された温水ポンプ9に接続された温水ホース8が接続されている。温水ポンプ9はパイプ10を介して蒸気槽13の下部に接続され、蒸気槽13に後述のように温水18を供給する。蒸気槽13は不図示のヒーターにより加熱され、内部の温水18が沸騰して蒸気20が発生する。蒸気槽13の上部にはパイプ14を介して蒸気ポンプ15が接続されており、この蒸気ポンプ15には蒸気チューブ(蒸気ホース)16が接続されている。
【0014】
蒸気チューブ16は圧力容器4内を通ってライニング材3に挿入されている。蒸気チューブ16は、先端部がロープ17によってライニング材3の先端部に結合されており、ライニング材3が挿入されるにつれて管路1内に挿入される。なお、蒸気チューブ16が挿通される圧力容器4の上端部における挿通部分は不図示のパッキンなどにより気密性が確保される。
【0015】
蒸気チューブ16には、図3の蒸気チューブ16の上面図に示すように、噴霧手段とし
ての噴霧器19が蒸気チューブ16の長さ方向に所定間隔で複数設けられている。この噴霧器19からは蒸気ミスト20aが噴出される。本発明では、蒸気と、蒸気が凝結して得られる霧状になった多数の微小な温水滴(ミスト)の混合体を、蒸気ミストという。
【0016】
なお、噴霧器19は、最少限として図3で実線で示すように蒸気チューブ16の上側にだけ設けるようにしてもよいが、破線で示すように下側にも設けても良く、左右の横側にも設けてもよい。
【0017】
また、噴霧器19の構造は図4の(a)と(b)に示すようになっている。噴霧器19はプラスチックから小判形に形成され、外周の全周に渡って溝19aが形成されている。一方、蒸気チューブ16には溝19aの奥の面の全周に渡る小判形の形状とその寸法に対応した小判形の孔16aが形成されており、蒸気チューブ16の孔16aの周縁部を溝19a中に挟み込ませるようにして、噴霧器19を孔16aに嵌め込み、穴16aの周縁部を溝19aに接着するなどして固定することにより、噴霧器19が蒸気チューブ16に取り付けられる。
【0018】
噴霧器19の上面には、横断面形状がビヤ樽形の凸部としての拡散部材19bが中央に形成されており、また、傾斜した中空の円錐台形の2つのノズル19cが互いの間に拡散部材19bを挟んで対向する配置で設けられている。ノズル19cのそれぞれに対向する拡散部材19bの両側面は、上記ビヤ樽形の両側の湾曲した形状に形成されている。ノズル19cのそれぞれの孔19dはノズル19cの先端から噴霧器19の下面まで貫通しており、蒸気チューブ16内に連通している。
【0019】
ライニング時には、反転挿入されたライニング材3にエアコンプレッサー5を介して空気圧をかけ、これを膨張させて管路1の管内周面に押圧させる。そして、押圧させた状態で、蒸気槽13を加熱する不図示のヒータを駆動して蒸気20を発生させるとともに、蒸気ポンプ15を駆動して、蒸気20を蒸気チューブ16に対して加圧して供給する。
【0020】
これにより、図4に示した噴霧器19において、蒸気チューブ16内から加圧された蒸気と、蒸気チューブ16の途中で蒸気の一部が凝結した小量の温水とが孔19dのそれぞれを通ってノズル19cのそれぞれの先端から噴出し、これが拡散部材19bに当たってはね返され、図1及び図2に示すように蒸気ミスト20aとして拡散して噴出される。従って、蒸気ミストは、拡散部材を備えた噴霧器により蒸気を拡散部材で拡散させて霧状に噴出させることにより発生させることができる。
【0021】
なお、先述したように、拡散部材19bにおいてノズル19cに対向する両側面のそれぞれを湾曲した形状に形成しておくことにより、蒸気ミスト20aの広がりを大きくすることができる。
【0022】
このようにして噴霧器19のそれぞれから蒸気が拡散されて霧状になって噴出されライニング材3の内周面に吹き当てられて、ライニング材3が加熱される。そして蒸気ミスト20aは温度を奪われて大きな水滴に凝結し、ライニング材3の内周面を伝わって落下し、ライニング材3と圧力容器4の底部に温水18として溜まる。この温水18は、温水ポンプ9の駆動により、排水パイプ7から温水ホース8、温水ポンプ9、パイプ10を通って蒸気槽13に戻され、再び加熱されて蒸気20となり、ライニング材3の加熱に用いられる。
【0023】
このような循環により、蒸気ミスト20aの吹き当てを連続して行なってライニング材3を加熱し、これに含浸された熱硬化性樹脂を硬化させて管路1をライニングする。硬化が完了したら、蒸気槽13の加熱とポンプ9,15の駆動を停止した後、ライニング材3
の両端部を切断し、圧力容器4と蒸気チューブ16を撤去するなどしてライニング工事を終了する。
【0024】
以上のような本実施例の管路ライニング工法によれば、ライニング材3に対して蒸気ミスト20aを吹き当てるので、広がりが大きい蒸気ミスト20aでライニング材3を面状に均一に加熱することができる。また、蒸気ミスト20aの広がりの幅は、例えば1m前後にすることができるので、蒸気チューブ16の長さ方向における噴霧器19の間隔を例えば20〜80cmとして、ライニング材3の長さ方向に蒸気ミスト20aの広がりの幅より短い間隔で蒸気ミスト20aの吹き当てを行なえば、ライニング材3をその長さ方向にも均一に加熱することができる。なお、図1及び図2では図示を簡単にするために蒸気ミスト20aを上側にのみ噴射する様子、すなわち噴霧器19を蒸気チューブ16の上側にのみ設ける場合を示してあるが、実際には下側及び左右の側にも設けることにより、蒸気ミスト20aをライニング材3の周方向に渡って満遍なく均一に吹き当て均一に加熱することができる。このように、本実施例では、ライニング材3をその長さ方向にも面状にも均一に加熱することができるので、ライニング材の加熱を効率良く、低コストで行なうことができる。
【0025】
なお、以上説明した実施例では蒸気ミストをライニング材に吹き当てるものとしたが、温水ミスト(霧状になった多数の微小な温水滴)を吹き当てるようにしてもよい。その場合、噴霧器19を設けた蒸気チューブ16を温水を流す温水チューブとし、蒸気槽13を温水槽に、蒸気ポンプ15を温水ポンプに置き換える。そして温水ポンプの駆動により温水槽中の温水を温水チューブに加圧して供給するものとする。
【0026】
これにより、図4に示した噴霧器19において、温水チューブから加圧された温水が孔19dのそれぞれを通ってノズル19cのそれぞれの先端から噴出し、これが拡散部材19bに当たってはね返され、温水ミストとして拡散され噴出される。従って、温水ミストは、拡散部材を備えた噴霧器により温水を拡散部材で拡散させて霧状に噴出させることにより発生させることができる。
【0027】
ここで、蒸気ミストの場合と同様に、拡散部材19bにおいてノズル19cに対向する両側面のそれぞれを湾曲した形状に形成しておくことにより、温水ミストの広がりを大きくすることができる。
【0028】
このようにして噴霧器19のそれぞれから温水が拡散されて霧状に噴出されライニング材3の内周面に吹き当てられて、ライニング材3が加熱される。温水ミストによる場合も、蒸気ミストの場合と同様に、ライニング材3を長さ方向にも面状にも均一に加熱することができ、効率良く、低コストで加熱することができる。
【0029】
ちなみに、前述したように、従来の温水のシャワリングによる方法では、温水ホースの長さ1m当たり20〜100の噴出口を形成する必要があったが、上記温水ミストによる方法では、噴霧器19を温水チューブの長さ1m当たり4〜12個設ければ、温水ミストをライニング材3の内周面に対して満遍なく均一に吹き当てて均一に加熱することができ、効率良く加熱を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例の管路ライニング工法を説明するための断面図である。
【図2】図1中の矢印A−A線に沿った断面図である。
【図3】図1中の蒸気チューブ16の拡大上面図である。
【図4】(a)は図3中の噴霧器19の構造を示す上面図、(b)は(a)中のB−B線に沿った断面図である。
【図5】従来の管路ライニング工法で蒸気によるライニング材の加熱方法を説明する断面図である。
【図6】従来の管路ライニング工法で温水のシャワリングによるライニング材の加熱方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 管路
2 マンホール
3 ライニング材
4 圧力容器
5 エアコンプレッサー
9 温水ポンプ
13 蒸気槽
15 蒸気ポンプ
16 蒸気チューブ
18 温水
19 噴霧器
19b 拡散部材
19c ノズル
20 蒸気
20a 蒸気ミスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含浸させた管状のライニング材を管路に反転挿入し、これを膨張させて管路の管内周面に押圧した状態でライニング材に対して温水ミストを吹き当てることによりライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させて管路をライニングすることを特徴とする管路ライニング工法。
【請求項2】
前記温水ミストを噴出する噴霧手段を長さ方向に沿って所定間隔を置いて複数設けたチューブを前記ライニング材に挿入してライニング材と共に前記管路に挿入し、前記噴霧手段から前記温水ミストをライニング材に吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の管路ライニング工法。
【請求項3】
前記噴霧手段は、前記チューブに連通する孔を有しチューブに加圧して供給される温水を噴出するノズルと、該ノズルから噴出された温水をはね返してミスト状態に拡散させる拡散部材を有することを特徴とする請求項2に記載の管路ライニング工法。
【請求項4】
前記噴霧手段のノズルとして、複数のノズルが互いの間に前記拡散部材を挟んで対向する配置で設けられたことを特徴とする請求項3に記載の管路ライニング工法。
【請求項5】
前記拡散部材は、前記複数のノズルのそれぞれに対向する複数の面のそれぞれが湾曲した形状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の管路ライニング工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−130899(P2006−130899A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20529(P2005−20529)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【分割の表示】特願2004−321426(P2004−321426)の分割
【原出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(592057385)株式会社湘南合成樹脂製作所 (61)
【Fターム(参考)】