説明

管鋳造用中子

【課題】個別の鏡像マークを付けた管鋳造用中子を提供すること。
【解決手段】鋳物砂を粘結材で固めて、外向きフランジ状の鍔部50を有する環体として造型された管鋳造用中子において、鋳造した管の端部に凸の鋳出しマークを複数付けるために、前記鍔部50に凹の鏡像マークを複数設け、その鏡像マークのマーク群を、中子の造型時に付けた鏡像マーク(m)からなる主要部Pと、造型後の中子の一部を崩して形成した鏡像マーク(m’)からなる追加部P’で構成した。
これにより、煩雑な造型用金型の入れ替え等が少なく、また、造型後の中子に彫り込む鏡像マークの数を絞ることができるので重切削が不要となり、強度を損なうことなく、一個毎に異なる鏡像マークの付いた中子を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用中子に関し、特に、管を鋳造する際に使用され、鋳造した管に個別の鋳出しマークを付ける管鋳造用中子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳鉄管の製造方法として、遠心力鋳造法が広く知られており、その設備として、図5に示すものがある。
【0003】
この遠心力鋳造設備は、主に、鋳造機1と注湯機2、引き抜き機3、中子5、中子保持機6で構成されており、その鋳造方法は、筒状のモールド11を軸心周りに高速で回転させた状態でモールド内に溶鉄8を流し込み、溶鉄が冷えて固まってからモールドの回転を止め、中に出来た管を引き抜くものである。
【0004】
図6は、この設備の鋳造時におけるモールド端部の断面図である。
この図で示すように、中子5は、中子保持機6によってモールド11の端部に同心で嵌められ、鋳造の際には、モールドと一体となって回転している。
【0005】
ここで、中子5は、鋳物砂を粘結材で固めて成形した物で、モールド11内に流し込まれた溶鉄8がモールド11の端部から流出するのを防ぐ「堰」となるとともに、溶鉄8が凝固してできる管Wの端部形状を作る「型」の役割も果たしている。
【0006】
また、鋳造時の中子には、溶鉄の衝突による衝撃や遠心力などが作用するため、中子はそれらに耐え得る強度を備える必要がある。
【0007】
ところで、従来から、鋳造した管を管理するために、鋳鉄管の端部には、管の形式などを表示する鋳出しマークが付けられてきた。
鋳出しマークは、文字や記号の形をした突起を鋳肌に設けて、鋳物の表面に文字等を表示するものである。鋳鉄管の場合は、管の型式のほか、製造年や製造者、鋳造ロット番号などが、鋳出しマークとして管の端部に表示されている。
管Wの端部に凸の鋳出しマークMを付けるために、中子5に凹の鏡像マークmが設けられる。(図6参照)
【0008】
中子の鏡像マークmは、従来から、中子を造型する時に形作られてきた。例えば、図7に示すように、金型4の外枠41と内枠42の間に鋳物砂を入れて粘結材で固めて中子を造型する場合、管の鋳出しマークと同じ形の凸マーク411を外枠41の一部分に付けておくと、その凸マークが「型」となって中子5に凹の鏡像マークmが形成される。
【0009】
これに関連する技術として、鋳鉄管の鋳出しマークと同じ形の凸マークを突設したマーク板を造型用金型の一部分に取り付けて造型し、中子に凹の鏡像マークを施す技術が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
また、鋳出しマークを設けるための技術として、鋳型に穴を彫り、その部分を穴状の鏡像マークとする技術も開示されている。(例えば、特許文献2参照)
【0010】
このように、鋳出しマークを付けるために、中子や鋳型に鏡像マークを付けることは、従来から行われており、鋳鉄管の場合は、造型時の中子に鏡像マークを形成することで、鋳造ロット番号までは鋳出しマークとして管の端部に表示されていた。
この鋳出しマークによって、管をロット毎に識別することができるので、鋳鉄管の製造に関する情報の管理も、ロット毎の管理までは可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−10890号公報
【特許文献2】特開平09−234543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、製造した管の鋳造条件や検査結果といった履歴情報を、複数の管を1ロットとして、ロット毎に管理するのではなく、管一本毎に個別に記録・管理して欲しいとの要請がある。
そのような要請に応えて、管一本毎に異なる鋳出しマークを管に表示する場合、中子にも一個毎に異なる凹の鏡像マークを付さなければならない。
【0013】
前述したように、中子(鋳型)に鏡像マークを付す方法として、造型用の金型に鋳出しマークと同じ形の凸マークを付ける方法と、造型後の鋳型にマーク(穴)を彫る方法が開示されている。
ここで、造型用金型の一部に凸マークを付ける場合、鏡像マークを変更するには、金型の凸マーク部分の入れ替えや修正加工を行う必要があり、中子一個毎に鏡像マークを変えるとなると、中子を一個造型する度に、金型の凸マーク部分の入れ替えや加工が発生し、非常に煩雑となる。
一方、造型後の中子に凹の鏡像マークを彫り込む場合、中子の強度を低下させるような重切削は出来ないため、大きなマークを数多く美しく彫り込むには、多くの時間が必要となる。
【0014】
本発明は、金型の入れ替え等が少なく、また、中子の強度を損なわずに効率よく鏡像マーク付きの中子を作製することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の管鋳造用中子は、中子に付ける凹の鏡像マークのマーク群を、中子の造型時に付けた鏡像マークmからなる主要部と、造型後の中子の一部を崩して形成した鏡像マークm’からなる追加部で構成した。
これにより、煩雑な金型の入れ替え等が少なく、また、中子に彫り込む鏡像マークm’の数を絞ることができるので重切削が不要となり、強度を損なうことなく、一個毎に異なる鏡像マークの付いた中子を作製することができる。
特に、管の遠心力鋳造で用いられる中子には、高い強度が維持できる本発明の構成が有効である。
【0016】
また、主要部には造型時に確定できる情報を鋳出しマークとして管に表示するための鏡像マークを付し、その他の鏡像マークは追加部に付すことができる。
これにより、中子の造型時に確定していない情報(例えば、鋳造時に決まる鋳造機番号や鋳造番号等)を鋳出しマークとして管に表示するための鏡像マークを、中子の造型工程の後(鋳造の直前)で中子に追加できるので、中子に付す情報の確度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の管鋳造用中子は、強度を損なわずに個別の鏡像マークを有し、この中子を使えば、鋳造した管に個別の鋳出しマークを付けることができる。
また、中子の造型時に使用する金型の入れ替えや修正が少なく済む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る中子の斜視図である。
【図2】鋳出しマークと鏡像マークの説明図であり、(a)は、本発明に係る中子の平面図であり、(b)は、本発明に係る中子を使用して鋳造した鋳鉄管の側面図である。
【図3】マーキング装置の説明図(側面図)である。
【図4】端子進退装置の説明図である。
【図5】遠心鋳造設備の説明図である。
【図6】鋳造時のモールド端部の説明図である。
【図7】中子造型の説明図である。
【図8】脱型時の中子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図8を使って説明する。なお、鋳造機や注湯機、引き抜き機など、既述の従来技術と共通するものについては、同じ符号を付して説明を省略する。
【0020】
図1は本発明に係る中子の斜視図である。
このように、中子は、外向きフランジ状の鍔部50と、鍔部の軸方向に同心で伸びる筒状部52で構成され、環体を成している。この環体は、軸周りに高速回転させてもバランスがとれる回転体である。
鍔部の側面のうち、筒状部側の側面(彫刻面51)には、凹んだ鏡像マークm、m’が複数設けられており、それらは、中子造型時に設けられた主要部Pと、中子造型後に刻まれた追加部P’に分かれている。
【0021】
図2(a)は本発明に係る中子の平面図である。
中子の彫刻面51には、深く凹んだ複数の鏡映文字や記号が、鏡像マークm、m’として中子の同心円上に並び、マーク群を形成している。
鏡像マークmは、管の型式や、製造年、製造者、鋳造ロット番号など、造型時に既に決まっている情報を鋳出しマークとして管Wに表示するための「型」であり、主要部Pの構成要素となる。
鏡像マークm’も、鏡像マークmと同様、鋳出しマークを管に表示するために凹んだ鏡映文字や記号を中子に付けたものであるが、鏡像マークmと異なり、鋳造日や鋳造番号、鋳造機番号など、鋳造時に決まる情報を鋳出しマークとして管に表示するための「型」であり、追加部P’の構成要素となる。
ここで、主要部Pの鏡像マークmのほうが、追加部P’の鏡像マークm’よりも、大きく深く凹んでいる。また、主要部Pの鏡像マークmの列のほうが追加部P’の列より中子の内側に寄っている。
【0022】
図2(a)に示す中子5を使って鋳造する管Wの端部には、同図(b)に示す凸の鋳出しマークM、M’が形成される。
【0023】
続いて、本発明に係る管鋳造用中子の製造方法について説明する。
中子の製造工程は、主に、砂を固めて中子を作る造型工程と、中子の外表面に塗型剤を塗って乾燥させる塗型工程に分けられる。
【0024】
中子の造型工程では、例えば、図7に示すように、金型4の外枠41と内枠42の間に鋳物砂を入れて粘結材で固めて中子を作った後、金型4から中子5を取り出す操作(脱型)を行う。
ここで、鋳物砂として珪砂を、粘結材として自硬性有機バインダーや熱硬化性有機バインダーを用いることができる。
【0025】
中子を造型する際に、外枠41の一部分に管の鋳出しマークと同じ形の凸マーク411を付けておくことで、中子に凹の鏡像マークmが形成されている。(図7参照)
この鏡像マークmは、管の型式、製造年や製造者、鋳造ロット番号など造型時に決まっている情報を鋳出しマークとして管に表示するためのもので、主要部Pの構成要素となる。
【0026】
造型を終えると、中子の表面のうち、鋳造時に溶鉄と接触する部分(彫刻面51や鏡像マークmも含む)に、塗型剤をコーティングする(塗型工程)。
塗型剤は、鋳肌のきめを細かくするとともに、鋳物砂の焼き付きを防止するために鋳型や中子に塗布するもので、例えば、黒鉛粉末に粘土水、ベントナイト、糖蜜などの粘結液を配合し混練したものがある。
塗型剤を早く乾燥させるために、塗型を塗り終えた中子を乾燥炉に入れる。
【0027】
造型時に加えた粘結材の硬化反応が進んで中子の強度が上がり、加えて、塗型剤の乾燥が済めば、中子を鋳造に使用することができる。
鋳造に使用することができる状態になった中子には、マーキング装置7によって、鏡像マークm’が彫り込まれる。
【0028】
マーキング装置7は、図3に示すように、彫刻機本体70と、その下から伸びる彫刻アーム74と、そのアーム先端に設けた端子進退装置72と、その進退装置によって高速で進退を繰り返す彫刻端子73で構成されている。
【0029】
彫刻端子73を前後左右に水平移動させるために、彫刻機本体70には、水平に伸びるネジ軸(図示省略)が前後と左右方向に平面視で直交するように一軸ずつ設けられていて、各軸の駆動はコンピュータにより数値制御されている。
彫刻端子73は、耐摩耗性を有する金属で出来ており、図4に示すように、釘のように細く尖った針状部分と、後端の円盤部73aで構成されている。
【0030】
端子進退装置72は、径が異なる2本の丸棒を円錐面で繋げた外形を有しており、その丸棒の芯を刳り貫いて形成した円孔に、彫刻端子73とコイルばね75が挿入されている。円孔は、円盤部73aが軸方向に摺動するようにあけられた大径部分と、彫刻端子の針状部分が挿通される小径部分とからなっている。大径部分では、針状部分がコイルばね75の中に通されており、このコイルばねによって、彫刻端子73は、円盤部側に後退する(引っ込む)方向に常時付勢されている。
【0031】
彫刻端子73の後端(円盤部73a)にエア圧を付加すると、円盤部73aがエアに押され、コイルばね75の力に打ち勝って、彫刻端子73が前進する(突き出る)。
エア配管のバルブを開放するなどして、円盤部73aにかかるエア圧を落とすと、コイルばね75の力が勝って、彫刻端子73が後退する(引っ込む)。
マーキングを行うときは、エア圧の切り替えサイクルを早めて、彫刻端子73の進退(突き引き)が、200〜300回/秒程度の高サイクルで行われるようになっている。
【0032】
中子にマーキングを行うときは、既に主要部の鏡像マークmが付いた中子5’を、そのフランジ状の鍔部を下にして中子台71に載せ、その鍔部の上面(彫刻面51)に、彫刻端子73の先を向けてセットする。(図3参照)
【0033】
この時、主要部の鏡像マークmに重なってマーキングを行うことが無いように、主要部の鏡像マークmを目印にして、中子台上の中子の周方向の位置決めを行う。
また、マーキングの途中で中子が動いて鏡像マークの形が崩れることがないように、必要に応じて、中子を上から押さえ付ける。
【0034】
中子の準備が整ったら、マーキング装置の昇降ネジ軸76を回して彫刻機本体70を下降させ、高速で進退する彫刻端子73の先端を彫刻面51に当てる。(図3参照)
彫刻端子の先端が中子に当たると、そこに微少な窪み(ドット)が彫られる。そのまま、彫刻端子73を彫刻面51に沿って動かしていくと、無数のドットが繋がって、溝ができる。(図4参照)
この時の彫刻端子73の動きをコンピュータにより数値制御することで、溝の伸びる方向が制御され、凹の鏡像マークm’が描かれる。
【0035】
鏡像マークm’の形成を終えると、中子の表面にコーティングして乾燥させた塗型剤は、鏡像マークm’と同じ形で削られ剥がれている。
以上で本発明に係る中子の製造は完了する。
【0036】
なお、本実施形態では、マーキング装置として、彫刻端子でドットを彫る方式のものを一例として挙げたが、他に、レーザーで焼き崩す方式のものやエンドミルなどの切削工具で削る方式のものなども採用可能である。
すなわち、造型後の中子の一部分(彫刻面)の砂を崩して凹の鏡像マークを作ることが出来るものであれば、マーキング装置として採用し得る。
【符号の説明】
【0037】
1 鋳造機
2 注湯機
3 引き抜き機
4 金型
5、5’ 中子
6 中子保持機
7 マーキング装置
8 溶鉄
11 モールド
41 外枠
42 内枠
411 凸マーク
50 鍔部
51 彫刻面
73 彫刻端子
M、M’ 鋳出しマーク
m、m’ 鏡像マーク
P 主要部
P’ 追加部
W 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂を粘結材で固めて、外向きフランジ状の鍔部を有する環体に造型された管鋳造用中子であって、
鋳造した管の端部に凸の鋳出しマークを複数付けるために、前記鍔部に凹の鏡像マークを複数設け、その鏡像マークのマーク群を、中子の造型時に付けた鏡像マーク(m)からなる主要部と、造型後の中子の一部を崩して形成した鏡像マーク(m’)からなる追加部で構成したことを特徴とする管鋳造用中子。
【請求項2】
前記管の鋳造を遠心力鋳造法で行うことを特徴とする請求項1に記載の管鋳造用中子。
【請求項3】
前記主要部には造型時に確定できる情報を鋳出しマークとして管に表示するための鏡像マークを付し、その他の鏡像マークは追加部に付すことを特徴とする請求項1又は2に記載の管鋳造用中子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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