説明

箱型電動顕微鏡

【課題】試料容器交換用開閉部材の動作範囲を極力抑え、装置全体を小型化でき、開閉動作での磨耗を抑えて観察・測定精度を高精度に維持でき、操作性や安全性に優れ、加えて、観察・計測条件の変更が容易で、更に、試薬の手動注入による試料の変化の即時観察・計測、顕微鏡内部の動作状況の確認が可能な箱型電動顕微鏡の提供。
【解決手段】透過照明光学系11と電動ステージ12と結像光学系14を有する電動顕微鏡部10と、ハウジング20とを備え、ハウジングが、固定ハウジング21と、可動ハウジング22とからなり、可動ハウジングが、電動ステージ上方の光学要素を保持しながら固定ハウジングに対して斜め方向に平行移動可能で、電動ステージに載置された試料容器40を交換可能にし、固定ハウジングと相俟って電動顕微鏡部を密閉及び遮光するとともに、透過照明光学系の光軸と結像光学系の光軸とを略一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に細胞等の生物試料の観察・計測を目的とした、遮光または試料環境維持のためのハウジングを有する光学顕微鏡装置などの箱型電動顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シャーレやマイクロプレートに培養液とともに培養された培養細胞試料等、生物細胞を生かしたままの状態で観察する手段として光学顕微鏡が一般に利用されている。近年、光学顕微鏡は、冷却CCDカメラ等、高感度の撮像手段を組み合わせられて、蛍光標識された培養細胞からの微弱蛍光を検出し、画像データとして記録するようになった。ところで、蛍光標識された培養細胞からの蛍光は極めて微弱であり、この微弱な蛍光を精度よく検出するには、細胞からの蛍光以外の光、すなわち、外乱光が検出されるのを極力抑える必要がある。このため、いくつかの市販されている光学顕微鏡装置は、倒立型顕微鏡全体をハウジングで覆うことにより、少なくとも画像取得時には外部からの光が検出されないような構造になっている。このような箱型の光学顕微鏡装置の1つとしては、例えば、ゼネラルエレクトリックヘルスケア社製の倒立型顕微鏡がある。
【0003】
この光学顕微鏡装置は、倒立型顕微鏡全体をハウジングで覆うとともに、マイクロプレートを載置可能で、且つ、コンピュータで制御されることによってXY方向に移動可能な電動ステージを含んでいる。ハウジングには部分的に扉が設けられており、マイクロプレートが載置された状態で電動ステージがこの扉からハウジング外部の所定位置まで飛び出すようになっている。操作者は、電動ステージがハウジング外部の所定位置にある状態にしてマイクロプレートを交換あるいはセットすることができる。扉は、操作者からの指令により、電動ステージがハウジング外部の所定位置まで飛び出すときに開き、電動ステージがハウジング内に収容されているときには閉じるようになっている。これにより、倒立型顕微鏡全体を遮光でき、また、温度調節器等の生体維持装置との組合せにより試料環境を維持することが可能となっている。
【0004】
ところで、このような箱型電動顕微鏡では、電動ステージにより、観察物を筐体の外部から内部の観察位置まで引き入れる際に、操作者の手や指などの異物が誤って筐体の内部に引き込まれる可能性があるため、安全性を確保することが必要となる。
【0005】
しかるに、結像光学系、観察光学系および電動ステージ等をハウジング内に収容した正立型の箱型顕微鏡においては、扉部の安全機構が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の顕微鏡装置は、観察物を支持する支持台がハウジング内部に引き込まれるときに、扉部における異物の有無を検出する検出手段を備えている。
【特許文献1】特開2003−5079号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1のように電動ステージを扉に押し当てて扉を開状態にする方法は、比較的安価に構成することができるものの、扉と電動ステージとの摩擦の発生を回避できず、繰り返し開閉動作を行うと摩擦による塵填の発生が問題となる。
この間題を回避するために、前記扉を駆動制御することにより、電動ステージに接触することなく開閉されることが必要となるが、コストが高くつくという不都合がある。
【0007】
また、電動ステージは、本来、観察対象である試料の観察範囲をカバーする動作範囲を有すれば足りる。しかし、特許文献1の顕微鏡装置のように、電動ステージがハウジングの外部に飛び出す位置まで動作範囲を広げたのでは、長い直動ガイドが必要となり、コストが高くつくうえに、装置が大型化するという不都合がある。
また、顕微鏡の電動ステージには直動性能において高い精度が要求されるが、直線ガイドが長くなると高い精度を出すための調整が難しくなり、調整時間が長くなって、組立コストも増大する虞がある。
【0008】
しかるに、本件出願人は、ステージの動作範囲を拡大させることなく、装置の大型化を防止し、且つ、ステージの動作精度を向上させることを目的とした箱型電動顕微鏡として、本願の出願時において未公開である、次の特許文献2に記載の光学顕微鏡装置を発案した。
【特許文献2】特願2005−331325号明細書 特許文献2に記載の光学顕微鏡装置101は、例えば、図8に示すように、試料Aを収容したマイクロプレート140を載置する電動ステージ112と透過照明光学系111と結像光学系114とを有する倒立型顕微鏡102と、倒立型顕微鏡102を取り囲むハウジング120を備えている。ハウジング120は、固定ハウジング121と、固定ハウジング121に対して開閉移動可能な可動ハウジング122とからなる。可動ハウジング122は、ベアリングのような図示しない回転機構を介して、回転軸160回りに図8に示した開状態となるように、固定ハウジング121に回転可能に支持されている。また、ハウジング120は、閉状態において、外部からの光を遮断し、倒立型顕微鏡102を遮光状態に保つことができるようになっている。なお、図中、113は落射照明光学系である。 また、透過照明光学系111及び結像光学系114を構成する光学部品のうち、電動ステージ112の上方に配される光学部品は、可動ハウジング122を介して移動可能に設けられている。 そして、可動ハウジング122が固定ハウジング121に対して開かれた位置に配置されたときに、これら一部の光学部品が電動ステージ112の上方から退避し、閉じられた位置に配置されたときに透過照明光学系111の光軸と結像光学系114の光軸が略一致するようになっている。
【0009】
このように構成された図8の光学顕微鏡装置101によれば、電動ステージ112上の試料Aを収容したマイクロプレート140を交換等する際に、固定ハウジング121に対して可動ハウジング122を開くと、電動ステージ112の上方に配置された透過照明光学系における一部の光学部品が可動ハウジング122とともに電動ステージ112の上方から退避させられるので、電動ステージ112の上方に広い空間を確保して、試料の交換や固定等の作業がし易くなる。また、固定ハウジング121に対して可動ハウジング122を閉じると、倒立顕微鏡102がハウジング120に覆われて遮光されるとともに、倒立顕微鏡102を構成する電動ステージ112よりも上方の光学系の光軸と電動ステージ112よりも下方の光学系の光軸とが略一致し、透過照明光学系111からの照明光を利用し結像光学系114を介して顕微鏡観察を行うことが可能となる。
【0010】
また、特許文献2に記載の他の例の光学顕微鏡装置201は、図9に示すように、ハウジング220が、固定ハウジング221の上方に、図示しない直動ガイドを介して水平方向に移動可能な可動ハウジング222を備えて構成されている。固定ハウジング221と可動ハウジング222との間には図示しないクリック機構が設けられ、可動ハウジング222は、固定ハウジング221に対して、開状態と閉状態とをそれぞれ保つことができるようになっている。図中、211は透過照明光学系、212は電動ステージ、213は結像レンズ、214は結像光学系、219はコンデンサレンズである。
【0011】
このように構成された図9の光学顕微鏡装置201によれば、図9(a)に示すように、可動ハウジング222を固定ハウジング221に対して閉位置に配置すると、可動ハウジング222に設けられている透過照明光学系211におけるコンデンサレンズ219の光軸が、対物レンズ213の光軸に略一致し、その位置においてクリック機構の作動により可動ハウジング222が固定された状態に維持され、ハウジング220内部の空間が外光から遮断される。一方、図9(b)に示すように、可動ハウジング222を開状態に移動すると、可動ハウジング222とともに、透過照明光学系211における電動ステージ212の上方に配置された光学部材が退避させられるので、電動ステージ212の上方に広い空間を確保することができ、試料の交換や固定等の作業がし易くなる。
【0012】
そして、図9の光学顕微鏡装置201によれば、固定ハウジング221に対して可動ハウジング222を水平にスライドさせるだけで開閉でき、操作に大きな力を必要としないので操作性がよいという利点がある。
【0013】
これら本件出願人が発案した特許文献2の光学顕微鏡装置によれば、電動ステージの上方に試料の交換作業等のための広い空間を確保するために、電動ステージの動作範囲をハウジングの外部にまで拡大する必要がないため、装置の大型化を防止し、かつ、電動ステージの動作精度を向上させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、本件出願人が、特許文献2に記載の光学顕微鏡装置の操作性について更に検討したところ、次のような問題が内在することが判明した。
図8に示した光学顕微鏡装置のように、固定ハウジング121に対して可動ハウジング122を回転軸160回りに回転することによって開閉する構成では、可動ハウジング122の動作スペースが上方に大きくとられるため、操作者や周囲の設置物に可動ハウジング122が干渉し易くなり、操作性が悪くなる虞がある。
【0015】
また、図8に示した光学顕微鏡装置では、可動ハウジング122は、透過照明光学系111または結像光学系114を構成する光学部品のうち、電動ステージ112の上方に配される光学部品を可動ハウジング122とともに移動させる構成となっており、可動ハウジング122を開き方向に移動させる際に、回転軸160との支持部分に、可動ハウジング122に透過照明光学系111または結像光学系114を構成する光学部品を加えた重量の負荷が集中する。このため、手動では可動ハウジング122を開け難くなる。また、モータ等を用いて可動ハウジング122の開閉動作を自動化する場合には、開閉のために非常に大きな動力エネルギーが必要になりコスト高になる。また、回転軸160との支持部分に重量の負荷が集中する結果、回転軸160との支持部分が磨耗してガタが生じ易くなる。
【0016】
さらに、固定ハウジング121に対して可動ハウジング122を回転軸160回りに回転することによって開閉する構成では、固定ハウジング121に対して可動ハウジング122を回転軸160回りに開き位置から閉じ位置に移動させる際に、固定ハウジング121と可動ハウジング122との間に誤って指や物を挟む可能性が大きくなる。
【0017】
これに対し、図9に示した光学顕微鏡装置のように、固定ハウジング221に対して可動ハウジング222を水平方向にスライドさせることによって開閉する構成であれば、図8に示した光学顕微鏡装置に比べて上方への動作スペースを小さくすることができる。また、開閉動作に大きな動力エネルギーを必要とすることもなく、さらには指等を固定ハウジング221と可動ハウジング222との間に挟む虞も少なくなる。
【0018】
しかし、図9に示した光学顕微鏡装置のように、固定ハウジング221に対して可動ハウジング222を水平にスライドさせて開閉する構成では、可動ハウジング222をスライドする際における固定ハウジング221との摩擦の発生を回避できず、繰り返し開閉動作を行うと摩擦により生じる塵填が試料の観察・測定に悪影響を与えて問題となる。しかも固定ハウジング221と可動ハウジング222との接触面が磨耗することによって隙間が生じ易くなり、ハウジング内部を良好な密閉・遮光状態に保持し難くなる。
【0019】
加えて、従来、箱型電動顕微鏡では、試料の観察像を撮像するためのカメラが他の光学部材と共にハウジングの内側に覆われており、カメラの交換はサービスエンジニアを介して行うようになっている。このため、操作者が観察用途に応じて撮影条件の異なるカメラに簡単に交換することができなかった。
【0020】
そもそも、従来、箱型電動顕微鏡では、観察・計測条件が固定されていることを前提としてハウジング内部の光学系が構成されていた。このため、操作者が用途に応じて、倍率の異なる対物レンズ、補正環の交換、さらには液浸対物レンズへの液の注入操作を行うということを想定したものが存在しなかった。
【0021】
また、箱型電動顕微鏡における観察・計測対象は、生体細胞等の生物試料である。このような試料の観察・計測においては、試料及びその特性の観察及び計測の途中に試料に試薬を手動で加えることによる変化を観察及び計測することが望まれる。
しかし、特許文献1に記載の箱型電動顕微鏡では、試薬を手動で加える場合には、電動ステージをハウジングの外部に移動させる必要がある。それでは、電動ステージの移動の際に試料容器中の試料を動かしてしまい易く、試料の変化を正確に観察・計測することが難しくなる。
また、特許文献2に記載の箱型電動顕微鏡では、試料を動かさずに済むものの、試薬を加えるたびごとに、可動ハウジングを動かさなければならず、操作が煩雑化する上、可動ハウジングの移動に時間を要するために、試薬の手動注入による試料の変化を即時に観察・計測することができない。
加えて、特許文献1、2に記載の箱型電動顕微鏡を含めて、従来、箱型電動顕微鏡においては、観察・計測中における電動ステージの動作状況を確認することができなかった。
【0022】
このように、従来の箱型電動顕微鏡では、試料容器を交換するために電動ステージや開閉部材の動作範囲が大きくとられて装置全体が大型化する問題、電動ステージや開閉部材による開閉操作の際に摩擦により観察・測定精度が劣化する問題、操作性や安全性の問題を同時に解決できない。また、用途に応じて観察・計測条件を変更することが難しく、さらに、試薬の手動での注入による試料の変化を即時に観察・計測したり、顕微鏡内部の動作状況を確認することが難しかった。
【0023】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、試料容器を交換するための開閉部材の動作範囲を極力抑えて、装置全体を小型化でき、開閉動作を繰り返しても磨耗を生ずることなく観察・測定精度を高精度に維持でき、操作性や安全性に優れた箱型電動顕微鏡、加えて、用途に応じた観察・計測条件の変更が容易な箱型電動顕微鏡、さらに加えて、試薬の手動注入による試料の変化の即時観察・計測、顕微鏡内部の動作状況の確認が可能な箱型電動顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明による箱型電動顕微鏡は、透過照明光学系と、試料容器を載置し且つ該試料容器における所望の部位を観察位置に移動させるための電動ステージと、対物レンズ及び結像レンズを備えた結像光学系とを少なくとも有する電動顕微鏡部と、前記電動顕微鏡部を収容するハウジングとを備えた箱型電動顕微鏡において、前記ハウジングが、固定ハウジングと、可動ハウジングとからなり、前記可動ハウジングが、前記電動ステージの上方に配置される光学要素を保持しながら前記固定ハウジングに対して斜め方向に平行移動可能であって、斜め上方に所定量平行移動することによって、前記電動ステージに載置された試料容器を交換可能にし、斜め下方に平行移動して前記固定ハウジングと当接させることによって、該固定ハウジングと相俟って前記電動顕微鏡部を密閉及び遮光するとともに、前記透過照明光学系の光軸と前記結像光学系の光軸とを略一致させるように構成されていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記固定ハウジングに固定されたスタンドと、前記固定ハウジングと前記可動ハウジングとの当接面に対して所定の傾斜角度θをもって前記スタンドの一方の側に固定されたガイド部材と、前記所定の傾斜角度θをもって前記可動ハウジングの一方の内側面に固定され、且つ、前記ガイド部材にガイド可能に嵌合されたレールを有するのが好ましい。
【0026】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記スタンドに設けられたモータと、前記モータに設けられた歯付きプーリと、両端を前記移動ハウジングに固定され、且つ、前記歯付きプーリと噛み合わされたタイミングベルトと、前記歯付きプーリと前記タイミングベルトとの噛み合わせを保持するように、前記スタンドに固定されたアイドラを有するのが好ましい。
【0027】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記可動ハウジングにおける前記レールとは反対側の内側面に設けられた転がり部材と、前記所定の傾斜角度θをもって前記スタンドの他方の側に固定され、且つ、前記転がり部材を支持する第二のレールを有するのが好ましい。
【0028】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記可動ハウジングの前記固定ハウジングに対する斜め方向へ平行移動した位置を保持するための位置保持手段を備えるのが好ましい。
【0029】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記可動ハウジングにおける前記固定ハウジングとの当接部位にスポンジ状弾性体を備えるのが好ましい。
【0030】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記固定ハウジングが、第一の固定ハウジング部と、該第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部とからなり、前記第一の固定ハウジング部が、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズを含めた上方において、少なくとも前記試料容器と前記電動ステージを内蔵し、且つ、該試料容器に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成され、前記第二の固定ハウジング部が、前記第一の固定ハウジング部に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材からなり、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズよりも下方に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部における前記L字に凹んだ部位に、前記結像レンズを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラを着脱交換可能に収納することができるように構成されているのが好ましい。
【0031】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記固定ハウジングが、第一の固定ハウジング部と、該第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部とからなり、前記第一の固定ハウジング部が、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記結像レンズよりも上方において、少なくとも前記試料容器と前記電動ステージを内蔵し、且つ、該試料容器に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成され、前記第二の固定ハウジング部が、前記第一の固定ハウジング部に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材からなり、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記結像レンズを含めた下方に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部における前記L字に凹んだ部位に、前記結像レンズを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラを着脱交換可能に収納することができるように構成されているのが好ましい。
【0032】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記顕微鏡部が、前記対物レンズを前記結像光学系と共有する落射光学系を有する倒立型顕微鏡であるのが好ましい。
【0033】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記可動ハウジングが、前記固定ハウジングに当接した状態において、前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上の位置近傍を該可動ハウジングの外部から肉眼で確認可能な開口部と、前記開口部を開閉する開閉扉を有するのが好ましい。
【0034】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記開口部は、前記可動ハウジングが前記固定ハウジングに当接した状態において、前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上に位置する試料に対し、該可動ハウジングの外部から試薬をピペットで分注することができるように構成されているのが好ましい。
【0035】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記開口部は、前記ピペットを介して前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上に位置する部位に分注する場合における、該ピペットの前記対物レンズの光軸に対する角度を60度以下に規制可能な位置に設けられているのが好ましい。
【0036】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記開閉扉を介して開口部を開口したときに、照明光が前記透過照明光学系を介して前記試料容器における前記対物レンズの光軸上に位置する部位を照射するようにするのが好ましい。
【0037】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記照明光が650nm以上の波長であるのが好ましい。
【0038】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記照明光がLED光であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、試料容器を交換するための開閉部材の動作範囲を極力抑えて、装置全体を小型化でき、開閉動作を繰り返しても磨耗を生ずることなく観察・測定精度を高精度に維持でき、操作性や安全性に優れた箱型電動顕微鏡、加えて、用途に応じた観察・計測条件の変更が容易な箱型電動顕微鏡、さらに加えて、試薬の手動注入による試料の変化の即時観察・計測、顕微鏡内部の動作状況の確認が可能な箱型電動顕微鏡が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
実施形態の説明に先立ち、本発明の作用効果について説明する。
本発明の箱型電動顕微鏡は、電動顕微鏡部を収容するハウジングが、固定ハウジングと、可動ハウジングとからなり、可動ハウジングが、電動ステージの上方に配置される光学要素を保持しながら固定ハウジングに対して斜め方向に平行移動可能であって、斜め上方に所定量平行移動することによって、電動ステージに載置された試料容器を交換可能にし、斜め下方に平行移動して固定ハウジングと当接させることによって、固定ハウジングと相俟って電動顕微鏡部を密閉及び遮光するとともに、透過照明光学系の光軸と前記結像光学系の光軸とを略一致させるように構成されている。
このように、可動ハウジングが、電動ステージの上方に配置される光学要素を保持しながら固定ハウジングに対して斜め方向に平行移動するようにすれば、固定ハウジングに対する可動ハウジングの上下方向への移動量を抑えることができ、操作スペースを極力少なくして装置全体を小型化できると同時に、可動ハウジングと固定ハウジングの接触面の磨耗を回避することができ、繰り返し使用により生ずるガタつきの発生を極力防いで、内部を良好な密閉・遮光状態に保持して、観察・測定精度を高精度に維持できる。しかも、可動ハウジングと固定ハウジングとの間に指を挟む虞が少なく安全性が向上する。なお、可動ハウジングにおける固定ハウジングとの当接部位にスポンジ状弾性体を備えるのがよい。そのようにすれば、安全性がより向上するうえ、内部の密閉・遮光状態をより良好に保つことができる。
【0041】
そして、本発明の箱型電動顕微鏡では、可動ハウジングを斜め上方に所定量平行移動することによって、電動ステージに載置された試料容器を交換可能にし、斜め下方に平行移動して固定ハウジングと当接させることによって、固定ハウジングと相俟って電動顕微鏡部を密閉及び遮光するとともに、透過照明光学系の光軸と前記結像光学系の光軸とを略一致させるように構成されている。
このようにすれば、簡単な操作で可動ハウジングを開いた状態にすることで電動ステージ上の試料容器を交換することができる。さらには、試料容器を電動ステージから取り外した後に、電動ステージの下方に配置される対物レンズや補正環の交換、対物レンズへの液浸用オイルの注液等を行うことができる。また、簡単な操作で可動ハウジングを閉じた状態にすることで、光軸の位置合わせをする手間を省くことができ、良好な観察・計測状態を保持できる。
【0042】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、前記固定ハウジングが、第一の固定ハウジング部と、該第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部とからなり、前記第一の固定ハウジング部が、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズを含めた上方(又は前記結像レンズよりも上方)において、少なくとも前記試料容器と前記電動ステージを内蔵し、且つ、該試料容器に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成され、前記第二の固定ハウジング部が、前記第一の固定ハウジング部に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材からなり、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズよりも下方(又は前記結像レンズを含めた下方)に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部における前記L字に凹んだ部位に、前記結像レンズを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラを着脱交換可能に収納することができるように構成されているのが好ましい。
このように、第二の固定ハウジング部をL字の箱状に形成し、L字に凹んだ部位にカメラを着脱交換可能に収納することができるようにすると、固定ハウジングが安定した状態を保ちながら、用途に応じて外部から容易にカメラを交換することができる。また、カメラを取り付けたときに固定ハウジングの外部へのカメラの突出を抑えることができる。
また、第一の固定ハウジング部を、温度調整装置を備えた箱状部材として構成すれば、温度調整を試料の周囲の必要な範囲に限定でき、不必要な範囲へ温度調整のためのエネルギーのロスをなくすことができる。
また、固定ハウジングを第一の固定ハウジング部と第二の固定ハウジング部とに分けると、第一の固定ハウジング部の内部に温度調整装置を備えても、温度調整による悪影響を受ける光学部材の数を極力少数に抑えることができる。
【0043】
また、本発明の箱型電動顕微鏡においては、可動ハウジングが、固定ハウジングに当接した状態において、試料容器における少なくとも対物レンズの光軸上の位置近傍を該可動ハウジングの外部から肉眼で確認可能な開口部と、前記開口部を開閉する開閉扉を有するのが好ましい。また、開口部は、可動ハウジングが固定ハウジングに当接した状態において、試料容器における少なくとも対物レンズの光軸上に位置する試料に対し、可動ハウジングの外部から試薬をピペットで分注することができるように構成されているのが好ましい。このようにすれば、試薬の手動注入による試料の変化を即時に観察・計測することができ、また、顕微鏡内部における電動ステージの動作状況を確認することができる。
【0044】
第一実施形態
図1は本発明の第一実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の説明図であり、(a)は斜め前方からみた図、(b)は内部の光学構成を簡略化して示す側面図である。図2は図1の箱型電動顕微鏡における開状態を斜め前方からみた図である。図3は図1に示した箱型電動顕微鏡における要部をなす可動ハウジングの可動機構を示す説明図で、(a)側面図、(b)は正面図である。
【0045】
第一実施形態の箱型電動顕微鏡は、電動顕微鏡部10と、電動顕微鏡部10を収容するハウジング20を備えている。
電動顕微鏡部10は、透過照明光学系11と、電動ステージ12と、落射照明光学系13と、結像光学系14を有している。
透過照明光学系11は、電動ステージ12の上方に配置され、電動ステージ12に載置された例えばマイクロプレートからなる試料容器40内の試料に対し鉛直上方から白色光を照射するように構成されている。なお、透過照明光学系11内部の具体的な光学構成は、試料容器40内の試料に対し鉛直上方から白色光を照射することができれば、どのような構成でも適用可能である。
電動ステージ12は、試料容器40を載置することができるように構成されている。また、電動ステージ12は、コンピュータ(図示省略)の制御により駆動手段(図示省略)を介して試料容器40における所望の部位(例えば、マイクロプレートにおける所望のプレート)を観察位置に移動させることができるように、X−Y方向にスライド可能に構成されている。
落射照明光学系13は、電動ステージ12の下方に配置され、電動ステージ12に載置された試料容器40内の試料に対し鉛直下方から励起光を照射するように構成されている。なお、落射照明光学系13内部の具体的な光学構成は、試料容器40内の試料に対し鉛直下方から励起光を照射することができれば、どのような構成でも適用可能である。
結像光学系14は、対物レンズ14aと、結像レンズ14bを有している。図中、14cは結像レンズ14bを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラ(例えばCCDカメラ等)である。なお、結像光学系14内部の具体的な光学構成は、対物レンズ14aと、結像レンズ14bを有し、所定の結像位置に試料の像を結像することができれば、どのような構成でも適用可能である。
【0046】
ハウジング20は、固定ハウジング21と、可動ハウジング22とで構成されている。
固定ハウジング21は、電動ステージ12を含めて電動ステージ12より下方に配置される光学要素を保持した状態で固定配置されている。
可動ハウジング22は、電動ステージ12の上方に配置される光学要素(透過照明光学系11)を保持しながら固定ハウジング21に対して斜め方向に平行移動可能に構成されている。そして、斜め上方に所定量平行移動することによって、固定ハウジング21を開口して電動ステージ12に載置された試料容器40を交換可能にし、斜め下方に平行移動して固定ハウジング21と当接させることによって、固定ハウジング21と相俟って電動顕微鏡部10を密閉及び遮光するとともに、透過照明光学系11の光軸と結像光学系14の光軸とを略一致させるように構成されている。
【0047】
ここで、第一実施形態の箱型電動顕微鏡に好適な可動ハウジング22の可動機構の具体的な構成例を図3に示す。
可動ハウジング22の可動機構は、スタンド23と、ガイド部材24と、レール25と、モータ26と、歯付きプーリ27と、タイミングベルト28と、アイドラ29を有して構成されている。
スタンド23は、固定ハウジング21に固定されている。ガイド部材24は、例えば、THK社製SHS15等の断面がコの字型のガイドブロックからなり、固定ハウジング21と可動ハウジング22との当接面(図1の例では水平な面となっている。)に対して所定の傾斜角度θをもってスタンド23における一方の側23aに螺子等を介して固定されている。レール25は、上記と同様の所定の傾斜角度θをもって可動ハウジング22における一方の内側面22aに連結部材25aを介して固定され、且つ、ガイド部材24にガイド可能に嵌合されている。モータ26は、例えば、オリエンタルモーター社製PK229等のパルスモータからなり、スタンド23に設けられている。歯付きプーリ27は、モータ26に設けられている。タイミングベルト28は、例えば、ミスミ社製HTUN280等からなり、上記と同様の所定の傾斜角度θをもって両端28a,28bを移動ハウジング22の内側面22aに固定され、且つ、歯付きプーリ27と噛み合わされている。アイドラ29は、歯付きプーリ27とタイミングベルト28との噛み合わせを保持するように、スタンド23に固定されている。
【0048】
また、可動ハウジング22の可動機構は、転がり部材30と、第二のレール31を有している。
転がり部材30は、軸部30aの回りを回転可能なコロで構成され、可動ハウジング22における他方の内側面22bに設けられている。第二のレール31は、上記と同様の所定の傾斜角度θをもってスタンド23における他方の側23bに固定され、且つ、転がり部材30を支持している。
【0049】
さらに、可動ハウジング22の可動機構は、可動ハウジング22の固定ハウジング21に対する斜め方向へ平行移動した位置を保持するための位置保持手段として公知のブレーキ部材(図示省略)を備えている。
【0050】
また、第一実施形態の箱型電動顕微鏡は、可動ハウジング22における固定ハウジング21との当接部位にスポンジ状弾性体22cを備えている。スポンジ状弾性体22cは、例えば、イノアックコーポレーション社製TL4403等のシリコンフォームのスポンジで構成されている。
【0051】
このように構成された第一実施形態の箱型電動顕微鏡では、可動ハウジング22に対して操作者が手動で開閉方向に力を与えると、可動ハウジング22が、レール25がガイド部材24にガイドされて固定ハウジング21と可動ハウジング22との当接面に対して所定の傾斜角度θをもった軸方向に平行移動する。なお、このとき、タイミングベルト28が所定方向に引っ張られ、アイドラ29を経由して歯付きプーリ27が回転する。
また、モータ27を回動すると、歯付きプーリ27が、モータの回動方向に回動し、タイミングベルト28をアイドラ29を経由して所定方向に引っ張る。これにより可動ハウジング22が、レール25がガイド部材24にガイドされて固定ハウジング21と可動ハウジング22との当接面に対して所定の傾斜角度θをもった軸方向に平行移動する。
なお、可動ハウジング22の移動に伴って、転がり部材30が第二のレール31の上を回転しながら、固定ハウジング21と可動ハウジング22との当接面に対して所定の傾斜角度θをもった軸方向に平行移動する。
【0052】
可動ハウジング22は、開き方向に対しては、電動ステージ12に載置された試料容器40が交換できる所定位置まで移動できる。その所定位置に移動した可動ハウジング22を位置保持手段が保持する。これにより、操作者は、試料容器40を交換できる。或いは、試料容器40を取り外した後にその下方の対物レンズ14aを異なる倍率のものに交換し、或いは対物レンズ14aに液浸観察用のオイルを注入することができる。
【0053】
可動ハウジング22を閉じたときには、可動ハウジング22は、固定ハウジング21に当接し、固定ハウジング21と相俟って電動顕微鏡部10を密閉及び遮光する。なお、第一実施形態の箱型電動顕微鏡では、可動ハウジング22における固定ハウジング21との接触部位にスポンジ状弾性体22cを備えており、スポンジ状弾性体22cが弾性変形することで、固定ハウジング21の接触部位との密着性を高めている。また、可動ハウジング22を閉じたときには、透過照明光学系11の光軸と結像光学系14の光軸とが一致する。これにより、操作者は、試料の観察・計測が可能となる。
【0054】
このように、第一実施形態の箱型電動顕微鏡では、手動による開閉、電動による開閉のいずれの場合も、可動ハウジング22は、固定ハウジング21と可動ハウジング22との当接面に対して所定の傾斜角度θをもった軸方向に平行移動する。このようにすると、可動ハウジング22は、固定ハウジング21に対して水平方向と垂直方向に同時に移動するようになる。
このため、第一実施形態の箱型電動顕微鏡によれば、固定ハウジング21に対する可動ハウジング22の上下方向への移動量を抑えることができ、操作スペースを極力少なくして装置全体を小型化できると同時に、開閉時に可動ハウジング22と固定ハウジング21の接触面の磨耗を回避することができ、繰り返し使用により生ずる可動ハウジング22と固定ハウジング21の接触面のガタつきの発生を極力防いで、内部を良好な密閉・遮光状態に保持して、観察・測定精度を高精度に維持できる。
【0055】
また、固定ハウジング21に対する可動ハウジング22の上下方向への移動量を抑えることができる結果、可動ハウジング22と固定ハウジング21との間に手や指を挟む虞が少なくなり安全性が向上する。さらに、可動ハウジング22における固定ハウジング21との当接部位にスポンジ状弾性体22cを備えたので、可動ハウジング22が閉じ方向に動作しているときに誤って手や指が触れてもスポンジ状弾性体22cが緩衝部材として機能することにより、安全性がより一層向上すると同時に、可動ハウジング22を固定ハウジング21に当接させたときにスポンジ状弾性体22cが弾性変形することにより、内部の密閉・遮光状態をより良好に保つことができる。また、スポンジ状弾性体22cをシリコンフォームのスポンジで構成したので、耐久性にも優れ、その分、可動ハウジング22のメンテナンスコストを抑えることができる。
【0056】
また、第一実施形態の箱型電動顕微鏡によれば、可動ハウジング22におけるレール25とは反対側の内側面22bに転がり部材30を設けると共に、スタンド23の他方の側23bに転がり部材30を支持する第二のレール31を上記と同様の所定の傾斜角度θをもって設けたので、可動ハウジング22及び可動ハウジング22の内部に保持される光学部材の重量の負荷をレール25及びガイド部材24に加えて転がり部材30及び第二のレール31に分散させることができる。その結果、可動ハウジング22の平行移動をより安定化することができる。
【0057】
なお、図3に示した可動ハウジング22の可動機構は、モータ26、プーリ27、タイミングベルト28、アイドラ29等の電動駆動手段を備えることによって、可動ハウジング22を電動駆動させることができるように構成されているが、それらの電動駆動手段を備えない、手動のみで駆動させるように構成されたものであってもよい。
また、第一実施形態の箱型電動顕微鏡は、図1の例では、電動顕微鏡部10が落射照明光学系13を有しているが、落射照明光学系13を有しない構成にも適用可能である。
【0058】
第二実施形態
図4は本発明の第二実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の要部の構成を示す説明図で、(a)は左斜め後方からみた斜視図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は(c)のA−A断面図である。図5は図4の箱型電動顕微鏡の光軸に沿う断面図である。なお、第一実施形態の箱型電動顕微鏡と実質的な構成が同様の光学部材には同じ符号を付し、具体的な説明は省略する。
第二実施形態の箱型電動顕微鏡は、第一実施形態の箱型顕微鏡の構成に加えて、固定ハウジング21が、第一の固定ハウジング部211と、第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部212とからなる。
第一の固定ハウジング部211は、図5に示すように、対物レンズ14aと、試料容器40と、電動ステージ12を内蔵し、且つ、試料容器40に収容されている試料の温度を調整するための公知の温度調整装置(図示省略)を備えた箱状部材で構成されている。
第二の固定ハウジング部212は、第一の固定ハウジング部211に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材で構成されている。
そして、第二の固定ハウジング部212は、落射光学系13及び結像光学系14を構成する光学部材のうち対物レンズ14aよりも下方に配置された、カメラ14c以外の光学部材を内蔵し、且つ、外部のL字に凹んだ部位212aに、カメラ14cを着脱交換可能に収納することができるように構成されている。なお、図中、212bはカメラ14cの取り付け部である。
その他の構成は、第一実施形態の箱型電動顕微鏡とほぼ同じである。
【0059】
このように構成された第二実施形態の箱型電動顕微鏡によれば、第二の固定ハウジング部212をL字の箱状に形成し、L字に凹んだ部位212aに、カメラ14cを着脱交換可能に収納することができるように構成したので、固定ハウジング21が安定した状態を保ちながら、用途に応じて外部から容易にカメラ14cを交換することができる。また、カメラ14cを取り付けたときに固定ハウジング21の外部へのカメラ14cの突出を抑えることができる。
また、第一の固定ハウジング部211を、温度調整装置を備えた箱状部材として構成したので、温度調整を試料の周囲の必要な範囲に限定でき、不必要な範囲へ温度調整のためのエネルギーの浪費をなくすことができる。
また、固定ハウジング21を第一の固定ハウジング部211と第二の固定ハウジング部212とに分けたので、第一の固定ハウジング部211の内部に温度調整装置を備えても、温度調整による悪影響を受ける光学部材の数を極力少数に抑えることができる。
とともに、温度調整による悪影響を受ける光学部材の数を極力少数に抑えることができる。
【0060】
なお、第二実施形態の箱型電動顕微鏡は、図5の例では、電動顕微鏡部10が落射照明光学系13を有しているが、落射照明光学系13を有しない構成にも適用可能である。
その場合には、例えば、第一の固定ハウジング部211を、結像光学系14を構成する光学部材のうち結像レンズ14bよりも上方において、少なくとも試料容器40と電動ステージ12を内蔵し、且つ、試料容器40に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成する。また、第二の固定ハウジング部212を、第一の固定ハウジング部211に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材で構成するとともに、結像光学系14を構成する光学部材のうち結像レンズ14bを含めた下方に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部におけるL字に凹んだ部位212aに、結像レンズ14bを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラ14cを着脱交換可能に収納することができるように構成することができる。そのようにすることで、図5に示した構成の箱型電動顕微鏡と同様の効果が得られる。
その他の作用及び効果は、第一実施形態の箱型電動顕微鏡とほぼ同じである。
【0061】
第三実施形態
図6は本発明の第三実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の要部である可動ハウジングの構成を主に示す説明図である。図7は図6の箱型電動顕微鏡における開閉窓を通して試料容器中の試料に対して試薬をピペットで分注するときの状態を示す説明図である。
第三実施形態の箱型電動顕微鏡は、可動ハウジング22が、固定ハウジング21に当接した状態において、試料容器40における対物レンズの光軸上の位置近傍を可動ハウジング22の外部から肉眼で確認可能な開口部22dと、開口部22dを開閉する開閉扉22eを固定ハウジング21の正面及び両側面の三箇所に有している。なお、開口部22d及び開閉扉22eは、一箇所だけに設けても勿論良い。
【0062】
開閉扉22eは、扉部本体22e1と、摘み部22e2と、ヒンジ部22e3を有し、操作者が摘み部22e2を摘みながら、ヒンジ部22e3を軸として扉部本体22e1を可動ハウジング22の本体部に対して回動することによって、開口部22dを開閉することができるように構成されている。
【0063】
開口部22dは、可動ハウジング22が固定ハウジング21に当接した状態において、試料容器40における少なくとも対物レンズ14aの光軸上に位置する試料に対し、可動ハウジング22の外部から試薬をピペット50で分注することができる大きさ及び位置に設けられている。
また、開口部22dは、図7に示すように、ピペット50を介して試料容器40における少なくとも対物レンズ14aの光軸上に位置する部位に分注する場合における、ピペット50の対物レンズ14aの光軸に対する角度を60度以下に規制可能な位置に設けられている。
【0064】
さらに、開閉扉22eは、透過照明光学系11に備わる図示省略した照明光源の点灯、消灯を切り替えるスイッチとして機能するように構成されている。そして、第三実施形態の箱型電動顕微鏡では、開閉扉22eを介して開口部22dを開口したときに、照明光が透過照明光学系11を介して試料容器40における対物レンズ14aの光軸上に位置する部位を照射するようになっている。なお、照明光は650nm以上の波長のLED光である。
その他の構成は、第一実施形態の箱型電動顕微鏡とほぼ同じである。
【0065】
このように構成された第三実施形態の箱型電動顕微鏡では、可動ハウジング22が固定ハウジング21に当接した状態のままで、開閉扉22eを開くことにより、開口部22dを通して、試料容器40における少なくとも対物レンズ14aの光軸上の位置近傍を肉眼で確認することができる。そして、開口部22dからピペット50を挿入して、対物レンズ14aの光軸上に位置する試料30に対し試薬を分注することができる。
また、開口部22dによりピペット50を介して試料30における対物レンズ14aの光軸上に位置する部位に分注するときの、ピペット50の対物レンズ14aの光軸に対する角度は60度以下に規制される。このようにすると、対物レンズ14aの光軸上の位置近傍を肉眼で確認しながら試薬を分注し易くなる。
また、開口部22dを通して、電動ステージ12の動作状況を確認することもできる。
しかも、開閉扉22eを介して開口部22dを開口したときに、照明光が透過照明光学系11を介して試料容器40における対物レンズ14aの光軸上に位置する部位を照射するため、暗室等、箱型電動顕微鏡が光量の極めて少ない環境にあっても、開口部22dを通して、試料容器40における少なくとも対物レンズ14aの光軸上の位置近傍を肉眼で確認することができ、ピペット50を介して手動で試薬を注入でき、また、電動ステージ12の動作状況を肉眼で確認できる。
なお、開閉扉22eを閉じると、ハウジング20の内部が密閉・遮光される。これにより、落射照明光学系13を介して照明光を用いて観察光軸上に位置する試料の観察・計測が可能となる。
【0066】
このように、第三実施形態の箱型電動顕微鏡によれば、開閉扉22dの開口操作により対物レンズ14aの光軸上近傍を肉眼で観察することができる。このため、試薬の手動注入による試料30の変化を即時に観察・計測することができ、また、顕微鏡内部における電動ステージ12の動作状況を確認することができる。
その他の作用及び効果は、第一実施形態の箱型電動顕微鏡とほぼ同じである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、細胞等の生物試料を観察・測定する医療、医学、生物学の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の説明図であり、(a)は斜め前方からみた図、(b)は内部の光学構成を簡略化して示す側面図である。
【図2】図1の箱型電動顕微鏡における開状態を斜め前方からみた図である。
【図3】図1に示した箱型電動顕微鏡における要部をなす可動ハウジングの可動機構を示す説明図で、(a)側面図、(b)は正面図である。
【図4】本発明の第二実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の要部の構成を示す説明図で、(a)は左斜め後方からみた斜視図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は(c)のA−A断面図である。
【図5】図4の箱型電動顕微鏡の光軸に沿う断面図である。
【図6】本発明の第三実施形態にかかる箱型電動顕微鏡の要部である可動ハウジングの構成を主に示す説明図である。
【図7】図6の箱型電動顕微鏡における開閉窓を通して試料容器中の試料に対して試薬をピペットで分注するときの状態を示す説明図である。
【図8】従来の箱型電動顕微鏡の一例を示す光軸に沿う断面図である。
【図9】従来の箱型電動顕微鏡の他の例を示す光軸に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0069】
10 電動顕微鏡部
11 透過照明光学系
12 電動ステージ
13 落射照明光学系
14 結像光学系
14a 対物レンズ
14b 結像レンズ
14c カメラ
20 ハウジング
21 固定ハウジング
211 第一の固定ハウジング部
212 第二の固定ハウジング部
212a L字に凹んだ部位
212b カメラの取り付け部
22 可動ハウジング
22a 可動ハウジングにおける一方の内側面
22b 可動ハウジングにおける他方の内側面
22c スポンジ状弾性体
22d 開口部
22e 開閉扉
22e1 扉部本体
22e2 摘み部
22e3 ヒンジ部
23 スタンド
23a スタンドにおける一方の側
23b スタンドにおける他方の側
24 ガイド部材
25 レール
25a 連結部材
26 モータ
27 歯付きプーリ
28 タイミングベルト
28a,28b タイミングベルトの両端
29 アイドラ
30 転がり部材
30a 軸部
31 第二のレール
40 試料容器
50 ピペット
101,201 光学顕微鏡装置
102 倒立型顕微鏡
111,211 透過照明光学系
112,212 電動ステージ
113,213 落射照明光学系
114,214 結像光学系
219 コンデンサレンズ
120,220 ハウジング
121,221 固定ハウジング
122,222 可動ハウジング
140 マイクロプレート
160 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過照明光学系と、試料容器を載置し且つ該試料容器における所望の部位を観察位置に移動させるための電動ステージと、対物レンズ及び結像レンズを備えた結像光学系とを少なくとも有する電動顕微鏡部と、前記電動顕微鏡部を収容するハウジングとを備えた箱型電動顕微鏡において、
前記ハウジングが、固定ハウジングと、可動ハウジングとからなり、
前記可動ハウジングが、前記電動ステージの上方に配置される光学要素を保持しながら前記固定ハウジングに対して斜め方向に平行移動可能であって、斜め上方に所定量平行移動することによって、前記電動ステージに載置された試料容器を交換可能にし、斜め下方に平行移動して前記固定ハウジングと当接させることによって、該固定ハウジングと相俟って前記電動顕微鏡部を密閉及び遮光するとともに、前記透過照明光学系の光軸と前記結像光学系の光軸とを略一致させるように構成されていることを特徴とする箱型電動顕微鏡。
【請求項2】
前記固定ハウジングに固定されたスタンドと、
前記固定ハウジングと前記可動ハウジングとの当接面に対して所定の傾斜角度θをもって前記スタンドの一方の側に固定されたガイド部材と、
前記所定の傾斜角度θをもって前記可動ハウジングの一方の内側面に固定され、且つ、前記ガイド部材にガイド可能に嵌合されたレールを有することを特徴とする請求項1に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項3】
前記スタンドに設けられたモータと、
前記モータに設けられた歯付きプーリと、
両端を前記移動ハウジングに固定され、且つ、前記歯付きプーリと噛み合わされたタイミングベルトと、
前記歯付きプーリと前記タイミングベルトとの噛み合わせを保持するように、前記スタンドに固定されたアイドラを有することを特徴とする請求項2に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項4】
前記可動ハウジングにおける前記レールとは反対側の内側面に設けられた転がり部材と、
前記所定の傾斜角度θをもって前記スタンドの他方の側に固定され、且つ、前記転がり部材を支持する第二のレールを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項5】
前記可動ハウジングの前記固定ハウジングに対する斜め方向へ平行移動した位置を保持するための位置保持手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項6】
前記可動ハウジングにおける前記固定ハウジングとの当接部位にスポンジ状弾性体を備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項7】
前記固定ハウジングが、第一の固定ハウジング部と、該第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部とからなり、
前記第一の固定ハウジング部が、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズを含めた上方において、少なくとも前記試料容器と前記電動ステージを内蔵し、且つ、該試料容器に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成され、
前記第二の固定ハウジング部が、前記第一の固定ハウジング部に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材からなり、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記対物レンズよりも下方に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部における前記L字に凹んだ部位に、前記結像レンズを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラを着脱交換可能に収納することができるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項8】
前記固定ハウジングが、第一の固定ハウジング部と、該第一のハウジングの下方に設けられた第二の固定ハウジング部とからなり、
前記第一の固定ハウジング部が、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記結像レンズよりも上方において、少なくとも前記試料容器と前記電動ステージを内蔵し、且つ、該試料容器に収容されている試料の温度を調整するための温度調整装置を備えた箱状部材で構成され、
前記第二の固定ハウジング部が、前記第一の固定ハウジング部に比べて一つの角部が凹んだL字の箱状部材からなり、前記結像光学系を構成する光学部材のうち前記結像レンズを含めた下方に配置された一部の光学部材を内蔵し、且つ、外部における前記L字に凹んだ部位に、前記結像レンズを介して結像された試料の像を撮像するためのカメラを着脱交換可能に収納することができるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項9】
前記顕微鏡部が、前記対物レンズを前記結像光学系と共有する落射光学系を有する倒立型顕微鏡であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項10】
前記可動ハウジングが、前記固定ハウジングに当接した状態において、前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上の位置近傍を該可動ハウジングの外部から肉眼で確認可能な開口部と、前記開口部を開閉する開閉扉を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項11】
前記開口部は、前記可動ハウジングが前記固定ハウジングに当接した状態において、前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上に位置する試料に対し、該可動ハウジングの外部から試薬をピペットで分注することができるように構成されていることを特徴とする請求項10に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項12】
前記開口部は、前記ピペットを介して前記試料容器における少なくとも前記対物レンズの光軸上に位置する部位に分注する場合における、該ピペットの前記対物レンズの光軸に対する角度を60度以下に規制可能な位置に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項13】
前記開閉扉を介して前記開口部を開口したときに、照明光が前記透過照明光学系を介して前記試料容器における前記対物レンズの光軸上に位置する部位を照射するようにしたことを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項14】
前記照明光が650nm以上の波長である請求項13に記載の箱型電動顕微鏡。
【請求項15】
前記照明光がLED光である請求項14に記載の箱型電動顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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