説明

粉体塗料組成物

【課題】アルミホイール塗装の分野において、通常の塗膜物性を維持しつつ、特に切削加工性に優れた塗膜を与え、ノンクロメート処理後の基材に適用した場合にも優れた塗膜を得ることができ、例えば、アルミホイール用プライマー粉体塗料として好適に使用することができるような粉体塗料組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の70モル%以上がテレフタル酸及びイソフタル酸からなり、樹脂固形分酸価が10〜100mgKOH/g固形分であるポリエステル樹脂(i)と、エポキシ当量が100〜4000mgKOH/g固形分のエポキシ樹脂(ii)からなる粉体塗料粒子からなる粉体塗料組成物であり、上記粉体塗料粒子は、可撓性樹脂(iii)を更に含有し、上記(iii)は、上記(i)と上記(ii)の固形分合計100質量%に対して1〜12質量%であり、数平均分子量3万〜10万である粉体塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等をメインバインダーとしたものが、家電、自動車用部品、建材等の多くの分野で使用されている。
【0003】
しかし、粉体塗料においては、例えば、ノンクロメート処理を行った金属基材上に塗装する場合に、充分な密着性、耐食性、耐水性、平滑性等の物性を得ることが必要となる場合がある。このような粉体塗料においては、メインバインダーだけではなく添加剤によって塗膜の物性を改善することも行われている(特許文献1)。
【0004】
粉体塗料の用途の一例としては、アルミホイール塗装用のプライマー塗料がある。このような用途においては、ノンクロメート処理基材に塗布した際の切削加工性、密着性、平滑性等の物性を良好なものとすることが求められている。すなわち、近年クロメート処理が制限されつつあることから、ノンクロメート処理されたアルミニウム基材上に良好な物性を有する塗膜を形成することも求められている。
【0005】
特許文献2又は特許文献3には、アルミニウム部材上に形成されたエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料からなるプライマー層と、上記プライマー層上に形成されたアクリルハイソリッドメタリック塗料からなるベースコート層と、上記ベースコート層上に形成されたアクリル系粉体クリヤー塗料からなるトップコート層又はアクリルハイソリッド塗料からなるクリアコート層とを有する耐候性塗膜が開示されている。
【0006】
特許文献4には、アルミニウム部材表面に形成されたエポキシ系クリヤー塗料からなるプライマー層と、上記プライマー層上に形成されたアクリル系カラークリヤー塗料からなるベースコート層と、上記ベースコート層上に形成されたアクリル系クリヤー塗料からなるトップコート層とを有する耐候性塗膜を形成してなるアルミニウム部材が開示されている。
【0007】
しかし、これらは、クロメート処理したアルミニウム部材上に形成された塗膜の耐候性や耐食性について検討しているのであって、ノンクロメート処理基材に形成される塗膜の切削加工性については検討されていない。
【特許文献1】特開2000−345075号公報
【特許文献2】特開平5−202319号公報
【特許文献3】特開平5−209141号公報
【特許文献4】特開平7−80405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑み、アルミホイール塗装の分野において、通常の塗膜物性を維持しつつ、特に切削加工性に優れた塗膜を与え、ノンクロメート処理後の基材に適用した場合にも優れた塗膜を得ることができ、例えば、アルミホイール用プライマー粉体塗料として好適に使用することができるような粉体塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の70モル%以上がテレフタル酸及びイソフタル酸からなり、固形分酸価が10〜100mgKOH/g固形分であるポリエステル樹脂(i)と、エポキシ当量が100〜4000mgKOH/g固形分のエポキシ樹脂(ii)からなる粉体塗料粒子からなる粉体塗料組成物であり、上記ポリエステル樹脂(i)と上記エポキシ樹脂(ii)の混合比は固形分質量比で2/8〜8/2の範囲であり、上記粉体塗料粒子は、可撓性樹脂(iii)を更に含有し、上記可撓性樹脂(iii)は、上記ポリエステル樹脂(i)と上記エポキシ樹脂(ii)の合計固形分100質量%に対して1〜12質量%であり、数平均分子量3万〜10万であることを特徴とする粉体塗料組成物である。
【0010】
上記可撓性樹脂(iii)は、ポリカプロラクトンであることが好ましい。
上記粉体塗料粒子の粒径は25〜35μmであることが好ましい。
上記粉体塗料組成物は、アルミホイール塗装用プライマー粉体塗料であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上述の粉体塗料組成物をアルミホイールに塗布する工程、及び、焼き付ける工程を有するアルミホイールの塗装方法であって、上記焼き付ける工程は、150〜170℃で行うことを特徴とするアルミホイールの塗装方法である。
上記アルミホイールの塗装方法は、上述したアルミホイールの塗装方法によって形成された塗膜の上に、中塗り塗料を塗布する工程及び上塗り塗料を塗布する工程を更に有することが好ましい。
本発明はまた、上述のアルミホイールの塗装方法により塗装されてなることを特徴とするノンクロメート表面処理アルミホイール塗装品でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とが特定比で混合された粉体塗料組成物であり、更に特定の分子量を有する可撓性樹脂を特定量含有する粉体塗料粒子からなるものである。すなわち、可撓性樹脂を配合することによって、密着性、耐水性、耐食性、耐チッピング性等の通常の塗膜の性能を維持しつつ、切削加工性にも優れた塗膜を形成することができる粉体塗料組成物を得るものである。
【0013】
可撓性樹脂(iii)は、形成された塗膜に可撓性を付与することができるような樹脂であり、例えば、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。特に、ポリカプロラクトンであることが好ましい。上記ポリカプロラクトンは、数平均分子量が3万〜10万である。数平均分子量が3万未満であると、耐食性、切削加工性、耐チッピング性に効果がないという問題を生じる場合があり、10万を超えると、外観(平滑性)低下という問題を生じる場合がある。
上記ポリカプロラクトンは、塗料の物性に悪影響を与えない程度に多塩基酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等によって変性したものであっても構わない。
【0014】
上記ポリカプロラクトンは、市販のものを使用することもできる。市販のポリカプロラクトンとしては、例えば、プラクセルH5、プラクセルH7(ダイセル化学社製)等を挙げることができる。
【0015】
上記可撓性樹脂(iii)は、本発明の粉体塗料組成物において、上記ポリエステル樹脂(i)とエポキシ樹脂(ii)の合計固形分100質量%に対して下限1質量%、上限12質量%で配合されるものである。配合量が1質量%未満であると、充分に塗膜物性を改善することができない。12質量%を超えると、塗膜物性(硬化性)の低下だけでなく、塗料安定性(耐ブロッキング性)の低下という問題を生じる。上記下限は2質量%であることが好ましく、上記上限は10質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の粉体塗料組成物で用いる、ポリエステル樹脂(i)は、以下の通りである。
上記ポリエステル樹脂(i)は、樹脂固形分酸価が下限10mgKOH/g固形分、上限100mgKOH/g固形分(以下同様)である。上記酸価が10mgKOH/g固形分未満である場合は、硬化性が低下し、機械的物性が低下するおそれがあり、一方、100mgKOH/g固形分より大きい場合は得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。上記下限は、15mgKOH/g固形分であることが好ましく、20mgKOH/g固形分であることがより好ましい。上記上限は、80mgKOH/g固形分であることが好ましく、60mgKOH/g固形分であることがより好ましい。
【0017】
また、上記ポリエステル樹脂(i)は、軟化点が下限80℃、上限150℃であることが好ましい。上記軟化点が80℃より低い場合は、耐ブロッキング性が低下するおそれがあり、150℃より高い場合は、得られる塗膜の平滑性が低下するおそれがある。上記下限は90℃であることがより好ましく、上記上限は130℃であることがより好ましい。
【0018】
上記ポリエステル樹脂(i)は、重量平均分子量が下限3000、上限70000であることが好ましい。上記重量平均分子量が、3000より小さい場合には、得られる塗膜の性能及び物性が低下するおそれがあり、一方、70000より大きい場合は、得られる塗膜の平滑性、外観が低下するおそれがある。上記下限は、4000であることがより好ましく、上記上限は、50000であることがより好ましい。
【0019】
なお、本発明における樹脂固形分の酸価は、JIS K 0070、また、軟化点はJIS K 2207にそれぞれ準拠した方法により決定することができる。また、本発明における重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0020】
上記ポリエステル樹脂(i)は、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として通常の方法により縮重合することにより得ることができる。それぞれの成分及び縮重合の条件を選択することにより、上記の物性値及び特数値を有するポリエステル樹脂(i)を得ることができる。
【0021】
上記酸成分としては、全酸成分中に占めるテレフタル酸とイソフタル酸の合計の割合は70モル%以上であり、好ましくは75モル%以上、より好ましくは、80モル%以上である。上記合計割合の範囲であると、耐久性、物性、価格の点で好ましい。ここで、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸の合計の割合を70モル%以上用いる場合を、特にこれらを主原料として用いることを意味する。
上記テレフタル酸とイソフタル酸含有量の上限については、ポリエステル樹脂の調製に使用する酸成分の全量をテレフタル酸及び/又はイソフタル酸としても良い。また、耐候性を特に向上させたい場合は、全酸成分中に占めるイソフタル酸の割合は70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。ここで、全酸成分中に占めるイソフタル酸の割合を70モル%以上用いることは、イソフタル酸を主原料として用いることを意味する。
【0022】
上記ポリエステル樹脂に使用できるその他の酸成分としては、特に限定されず、例えば、フタル酸、トリメリット酸及びこれらの無水物、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類及びこれらの無水物などを挙げることができる。その他に、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類並びにこれらに対応するヒドロキシカルボン酸類、p−オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類等を挙げることができる。
【0023】
上記アルコール成分としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等のジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等を挙げることができる。上記アルコール成分は2種以上であってもよい。
【0024】
上記ポリエステル樹脂は、2種以上の複合物であってもよい。その場合、上記の物性値及び特数値は、複合物全体としての値を意味する。
【0025】
本発明の粉体塗料組成物で用いる、エポキシ樹脂(ii)は以下の通りである。
上記エポキシ樹脂(ii)としては、例えば、1分子内に平均1.1個以上のエポキシ基を有するものを挙げることができ、例えば、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンとの反応生成物、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、B型、F型等)、水素添加ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、B型、F型等)とエピクロルヒドリンとの反応生成物、ノボラック型フェノール樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂(A型、B型、F型等)との反応生成物、クレゾールノボラック等のクレゾール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール及びグリセロール等のアルコール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びトリメリット酸等のカルボン酸化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル類、p−オキシ安息香酸やβ−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応生成物、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物類、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)及びその誘導体等が用いられる。
【0026】
上記エポキシ樹脂(ii)のエポキシ当量は、下限100mgKOH/g固形分、上限4000mgKOH/g固形分である。上記エポキシ当量が100mgKOH/g固形分より小さい場合は、塗料の貯蔵安定性が低下するおそれがあり、4000mgKOH/g固形分より大きい場合は、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。なお、本発明におけるエポキシ当量はJIS K 7236により決定することができる。上記下限は100mgKOH/g固形分であることが好ましく、上記上限は2000mgKOH/g固形分であることが好ましい。
【0027】
上記エポキシ樹脂(ii)は、市販品を使用することもできる。上記エポキシ樹脂(ii)の市販品の例としては、エポトートYD−128、エポトートYD−014、エポトートYD019、ST−5080、ST−5100、ST4100D(いずれも、東都化成社製)、EHPA−3150(ダイセル化学工業社製)、アラルダイトCY179(日本チバガイギー社製)、デナコールEX−711(ナガセ化成工業社製)、エポトートYDPN−639、エポトートYDCN701、エポトートYDCN701(いずれも、東都化成社製)、エピクロンN−680、エピクロンN−695、エピクロンHP−4032、エピクロンHP−7200H(いずれも、大日本インキ化学工業社製)、アラルダイト PT 810、アラルダイト PT 910(日本チバガイギー社製)、TEPIC(日産化学工業社製)などが挙げられる。
【0028】
本発明の粉体塗料組成物において、上記ポリエステル樹脂と上記エポキシ樹脂との混合比は、樹脂固形分質量比で2/8〜8/2の範囲である。
上記混合比が2/8より小さい場合、充分な塗膜物性が得られないおそれがあり、8/2を超えると、同じく塗膜物性の低下のおそれがある。上記混合比は、3/7〜7/3であることがより好ましい。
【0029】
本発明の粉体塗料組成物は、必要に応じて表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ワキ防止剤、帯電制御剤等の各種添加剤を含んでいても良い。
【0030】
特に上記表面調整剤としては、適用性の点から、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類を原料として得られた、数平均分子量が300〜50000、好ましくは1000〜30000で、ガラス転移温度が20℃未満、好ましくは0℃以下のアクリル重合体からなるものが良い。分子量が上記範囲外であると、十分に表面調整性を付与することができなく、ヘコミ等の外観不良防止が不十分となる。また、ガラス転移温度が20℃以上であると、十分に表面調整性を付与することができないおそれがある。上記表面調整剤の含有量は、粉体塗料組成物中に、下限0.01、上限5質量%であることが好ましい。0.01質量%より少ないと十分に表面調整性を付与することができず外観不良の確率が高くなり、5質量%を超えると、塗料のブロッキング性が低下するおそれがある。上記下限は、より好ましくは0.05質量%であり、更に好ましくは0.1質量%である。上記上限は、より好ましくは3質量%であり、更に好ましくは2質量%である。
【0031】
このような表面調整剤の市販品としては、例えば、アクロナール4F(BASF社製)、ポリフローS(共栄社化学社製)、レジフローLV(ESTRON CHEMICAL社製)等が挙げられ、シリカ担体アクリル重合体、例えば、モダフローIII(モンサント社製)、レジフローP67(ESTRON CHEMICAL社製)等が好適に用いられる。また、表面調整剤であるアクリル重合体とエポキシ樹脂の混合物をエポキシ樹脂の使用量が上記範囲内になるようにして、使用してもよい。
【0032】
本発明の粉体塗料組成物は、クリヤー塗料組成物であっても、着色塗料組成物であってもよく、必要に応じて塗料において使用される各種顔料を含有してもよい。上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料などの着色顔料、各色のメタリック顔料、各色のパール顔料、金属粉末及びそれに表面処理を施したもの、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料などを挙げることができる。また、光沢を低下させるために、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、長石、ワラストナイト等の無機系艶消し剤や、有機微粒子からなる有機系の艶消し剤を含むものであってもよい。上記艶消し剤の体積平均粒径は、3〜30μmであることが好ましい。
【0033】
本発明の粉体塗料組成物の製造は、粉体塗料分野において周知の製造方法を用いて行うことができる。例えば、上述した原料を準備した後、スーパーミキサー、ヘンシエルミキサー等を使用して原料を予備的に混合し、コニーダー、エクストルーダー等の混練機を用いて原料を溶融混練する。この時の加熱温度は勿論焼付硬化温度より低くなければならないが、少なくとも原料の一部が溶融し全体を混練することができる温度でなければならない。一般に80〜120℃の範囲内で溶融混練される。次に溶融物は冷却ロールや冷却コンベヤー等で冷却して固化され、粗粉砕及び微粉砕の工程を経て所望の粒径に粉砕される。このようにして得られる本発明の粉体塗料組成物の体積平均粒径は25〜35μmであることが好ましく、巨大粒子や微小粒子を除去して粒度分布を調整するために篩分けによる分級を行った方が好ましい。
【0034】
更に、上記製造方法によって得られた粉体塗料の表面に流動性付与剤や、帯電調整剤を外添してもよい。上記流動性付与剤は、粉体塗料自体に流動性を与えるだけでなく、耐ブロッキング性も向上させることができる。上記流動性付与剤としては、疎水性シリカ、親水性シリカや酸化アルミニウム、酸化チタン等が適用できる。このような、流動性付与剤の市販品として、例えば、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300、AEROSIL R−972、AEROSIL R−812、AEROSIL R−812S、二酸化チタンT−805、二酸化チタンP−25、Alminium OxideC(日本アエロジル社製)、カープレックスFPS−1(塩野義製薬社製)等を例示することができる。上記流動性付与剤の添加量は、付与される効果と塗膜の平滑性の観点から、粉体塗料100質量%に対して、好ましくは0.05〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜1質量%である。0.05質量%未満であると効果が小さくなり、2質量%を越えると塗膜の平滑性が低下や艶引けが発生するおそれがある。
【0035】
本発明の粉体塗料組成物は、塗布された後、加熱することにより塗膜を得ることができる。本発明の粉体塗料組成物は、単層塗膜を形成するものであっても複層塗膜の形成に使用するものであってもよい。上記粉体塗料組成物は、特に基材表面に直接下塗り塗料すなわちプライマーとして塗布し、低い焼き付け温度、例えば140〜160℃により下塗り塗膜を形成し、その上に中塗り塗料、上塗り塗料を塗装するものであってもよい。このような複層塗膜の形成に使用した場合、本発明の粉体塗料組成物が有する密着性、耐食性、耐水性、切削加工性、ノンクロメート処理後の基材に適用した場合の優れた物性等の効果が発揮され、優れた物性を有する複層塗膜を形成することができる。
【0036】
この場合、上記中塗り塗料、上記上塗り塗料は、溶剤系塗料、水性塗料、粉体塗料等の任意の形態の塗料であってよく、クリヤー塗料、着色ベース塗料、光揮性顔料を含有する塗料等であってよい。
【0037】
また、上記粉体塗料組成物を、中塗り塗料又は上塗り塗料として使用するものであってもよい。低い焼き付け温度により一度に複層膜を形成してもよい。上記下塗りを形成する下塗り塗料としては、電着塗料やプライマーなどの公知のものを用いることができる。
【0038】
上記塗布する方法としては、特に限定されず、スプレー塗装法、静電粉体塗装法、流動浸漬法等の当業者によってよく知られた方法を用いることができるが、塗着効率の点から、静電粉体塗装法が好適に用いられる。本発明の粉体塗料組成物を塗布する際の塗装膜厚は、特に限定されないが、40〜200μmに設定することができる。
【0039】
加熱する条件は、硬化に関与する官能基及び硬化促進剤の量により異なるが、例えば、焼付けの加熱温度は、120〜200℃、好ましくは140〜180℃であるが、150〜170℃での低温硬化にも対応することができる。加熱時間は、上記加熱温度に応じて適宜設定することができる。
【0040】
一方、上記粉体塗料組成物の体積平均粒径は、25〜35μmであることが好ましい。25μm未満であると、塗装作業性が低下する場合がある。35μmを超えると、高外観の塗膜を得ることができない。上記体積平均粒径は、リード・アンド・ノースロップ社製のマイクロトラック−II等の電磁波散乱による粒径測定装置により測定することができる。
【0041】
本発明の粉体塗料組成物は、広く種々の用途に使用することができるが、特にアルミホイール塗装用プライマー塗料として使用したときに優れた性質を発揮する。本発明の粉体塗料組成物は、上述した密着性、耐食性、耐水性、切削加工性に優れた物性を有する塗膜を形成することができ、特にノンクロメート処理後の基材に適用した場合にも優れた塗膜物性を発揮するため、これらの性質が要求されるアルミホイール塗装用プライマー塗料として優れたものである。
【0042】
また、上述の粉体塗料組成物をアルミホイールに塗布する工程、及び、焼き付ける工程を有し、上記焼き付ける工程は150〜170℃で行うものであるアルミホイールの塗装方法も、本発明の一つである。上記塗布する方法としては、上述したものを挙げることができる。
上記アルミホイールの塗装方法は、上述の塗装方法によって形成された塗膜の上に、中塗り塗料を塗布する工程、及び、上塗り塗料を塗布する工程を更に有していてもよい。上記中塗り塗料及び上記上塗り塗料としては、上述したものを使用することができる。
【0043】
また、上記粉体塗料組成物を使用した上述の塗装方法により塗装されてなるノンクロメート表面処理アルミホイール塗装品もまた、本発明の一つである。
上記ノンクロメート表面処理アルミホイールは、クロムを含有しない公知の表面処理剤を用いて、公知の方法でアルミホイールを表面処理したものが挙げられる。
【0044】
本発明の粉体塗料組成物は、上述の構成からなり、アルミホイールに塗布することにより、充分な耐チッピング性を有し、しかも、塗装、焼き付け後の切削加工性に優れた塗膜を形成する。
【発明の効果】
【0045】
本発明により、通常の塗膜物性を維持しつつ、特に切削加工性に優れ、実用上充分な強度と良好な塗膜外観、耐チッピング性を有する塗膜を形成することができる粉体塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0047】
<表面処理>
アルミホイールに対して脱脂、水洗を行い、以下に示した条件で酸洗処理、水洗、化成処理、水洗、後処理を行い、乾燥した。水洗は、水道水シャワーで行い、各工程は、全てディップ方式で処理を行った。乾燥は、電気乾燥機で120℃、25分間行った。
【0048】
(A)脱脂処理液:2%(w/v)サーフクリーナー53(日本ペイント社製)
処理温度:50℃ 処理時間:3分
(B)酸洗処理処理液:3%(w/v)サーフクリーナー355A(日本ペイント社製;FeSO・7HO 0.81g/L、98%硫酸12.1g/L、pH0.9)
処理温度:40℃ 処理時間:3分
(C)化成処理処理液:2.5%(w/v)アルサーフ501N−1(日本ペイント社製;リン酸ジルコニウム系処理剤;(NHZrF 0.12g/L、75%H PO 0.10g/L、55%HF 0.02g/L、42%HBF 0.16g/L、pH3.5)
処理温度:40℃ 処理時間:45秒
(D)後処理処理液:パワーニックス110F−2(日本ペイント社製;成分は、変成エポキシエマルション;不揮発分36質量%)を樹脂固形分が2質量%となるように水で希釈したもの
処理温度:25℃ 処理時間:1分
【0049】
<粉体塗料の製造>
粉体塗料1
ファインディックM8962(大日本インキ化学工業社製、ポリエステル樹脂、テレフタル酸成分100モル%、酸価33、軟化点112℃)50質量部に、エポトートYD−014(東都化成社製、エポキシ樹脂、エポキシ当量950)50質量部、アクロナール4F(BASF社製、アクリル重合体、数平均分子量が16500の表面調整剤)0.5質量部と、ベンゾイン1質量部と、タイペークCR−90(石原産業社製、ルチル型二酸化チタン顔料)65質量部と、プラクセルH5(ダイセル化学社製、ポリカプトラクトン、数平均分子量5万)10質量部を原料として、混合機スーパーミキサー(日本スピンドル社製)を用いて混合し、更に溶融混練機コニーダー(ブス社製)を用いて約110℃で溶融混練し、室温まで冷却固化した。冷却固化物を粗粉砕し、粉体塗料用ペレットを得た。その後、粉砕機アトマイザー(不二パウダル社製)を用いて粉砕し、粉砕物を0.7mm間隔のスクリーンメッシュを通過させ、325メッシュのタイラー標準ふるい(孔径44μm)を通過させて44μmよりも大きい粒子を除去し、得られた粉体を気流分級機DS−2型(日本ニューマチック工業社製)を用いて分級し、微小粒子と粗大粒子を除去することによって、粉体塗料組成物を得た。その体積平均粒径は27μmであった。
上記体積平均粒径は、試料約0.1gを0.5%Triton X(Union Carbide社製、界面活性剤)水溶液5gに分散させたものを、溶媒に水を使用してHoneywell社製、Microtrac 9320X−200に滴下し、超音波で分散(40W10秒)した後、測定した。
【0050】
粉体塗料2
粉体塗料1のプラクセルH5の代わりに、プラクセルH7(ダイセル化学社製、ポリカプトラクトン、数平均分子量7万)を10質量部加えること以外は上記粉体塗料1と同様の方法で粉体塗料組成物を作製し、体積平均粒径27μmの粉体塗料2を得た。
【0051】
粉体塗料3
粉体塗料2において、プラクセルH7を2質量部加えること以外は、上記粉体塗料2と同様の方法で粉体塗料組成物を作製し、体積平均粒径27μmの粉体塗料3を得た。
【0052】
粉体塗料4
粉体塗料1において、プラクセルH5を添加しないこと以外は、上記粉体塗料1と同様の方法で粉体塗料組成物を作製し、体積平均粒径27μmの粉体塗料4を得た。
【0053】
粉体塗料5
粉体塗料2において、プラクセルH7を15質量部加えること以外は、上記粉体塗料2と同様の方法で粉体塗料組成物を作製し、体積平均粒径27μmの粉体塗料5を得た。
【0054】
粉体塗料1、2、3、4、5は、それぞれコロナ放電式静電粉体塗装機(商品名「MXR−100VT−mini」旭サナック株式会社製)を用いて印加電圧80kVで上記表面処理済みアルミホイールに塗装した。その後160℃で20分(被塗物保持時間)で焼き付けることにより塗板を作製した。
得られた塗膜にスーパーラックAS70 11SV−14(アクリル系溶剤型塗料、日本ペイント社製)を乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、10分間セッティングした後、140℃で20分間加熱し、十分に室温まで冷却した後、ローソリッド溶剤クリヤー塗料としてスーパーラック5000 AW−10(アクリル系溶剤型塗料、日本ペイント社製)、乾燥膜厚40μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした後、140℃で20分間加熱し複層塗膜を作製し、以下の方法により塗膜性能の評価を行った。その結果をそれぞれ実施例1、2、3及び比較例1、2として表1に示す。なお、粉体塗料5については、安定性が悪く、塗装に供することができなかった。
【0055】
<性能評価方法>
性能評価はすべて表面処理済アルミホイールに上述した粉体塗料を塗装したものを適当な大きさに切断したもので評価を行った。また切削加工性、外観評価については上記塗装済みアルミホイールそのものを用いて試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0056】
密着試験
密着性試験各試験片の塗膜に、カッターにより1mmの間隔で縦横10本ずつの切れ目を入れ、その上にセロハンテープを貼付けてはがし、100個のます目のうち残存したます目をカウントした(碁盤目試験)。
【0057】
耐水性能試験
温水浸漬試験各試験片を60℃の温水中に72時間浸漬した後、24時間放置し、次いで上記密着試験と同じ碁盤目試験を行った。
【0058】
耐食性試験
塩水噴霧試験各試験片の表面をカッターナイフによりクロスカットし、5質量%のNaCl水溶液を用いて、35℃で1200時間塩水噴霧を行い、24時間放置後カット部の周辺2mm以内における腐食の度合いを下記の基準にて測定した。
○:塗膜のふくれ、錆等異常なし
×:異常あり
【0059】
切削加工性
上記のように塗装されたアルミホイールを切削加工し、再度ノンクロメート化成処理を施した後に、ローソリッド溶剤クリヤー塗料としてスーパーラック5000 AW−10(アクリル系溶剤型塗料、日本ペイント社製)、乾燥膜厚40μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした後、140℃で20分間加熱し複層塗膜を作製した。切削部分の塗膜欠陥の状態を下記の基準で評価した。
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0060】
再切削加工性
上記切削/溶剤塗装したアルミホイールを再び切削加工し、再度ノンクロメート化成処理を施した後に、ローソリッド溶剤クリヤー塗料としてスーパーラック5000 AW−10(アクリル系溶剤型塗料、日本ペイント社製)、乾燥膜厚40μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした後、140℃で20分間加熱し複層塗膜を作製した。再切削部分の塗膜状態を下記の基準で評価した。
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0061】
耐チッピング性
得られた塗板を−30℃に冷却した後、これを飛石試験機(スガ試験機社製)の試料ホルダーに石の侵入角度が90°になるように取り付け、100gの7号砕石を3kg/cmの空気圧で噴射し、砕石を塗板に衝突させた。その時のハガレ傷の程度(数、大きさ、破壊場所)について5段階評価した。評価基準を以下に示す。
評価基準
1:全面に大きなハガレ傷有り、素地からの剥離有り
2:全面にある程度のハガレ傷有り、素地からの剥離有り
3:一部にある程度のハガレ傷有り、素地からの剥離無し
4:一部に小さなハガレ傷有り、素地からの剥離無し
5:ほとんど破壊無し
【0062】
外観評価
上記塗装済みアルミホイールの仕上り外観、平滑性を目視にて評価した。平滑性については下記の基準にて評価した。
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、実施例の粉体塗料組成物により形成された塗膜は、外観、密着性、耐水性、耐食性、耐チッピング性に加え、切削加工性にも優れたものであることがわかった。なお、比較例2では、安定性が悪く、塗装することができず、所定の評価をすることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の粉体塗料は、上述のとおりであるので、アルミニウム表面(例えば、アルミホイール)に塗布して、充分な耐チッピング性を有し、しかも、仕上がり外観、平滑性、焼き付け後の切削性に優れたアルミニウム表面を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の70モル%以上がテレフタル酸及びイソフタル酸からなり、樹脂固形分酸価が10〜100mgKOH/g固形分であるポリエステル樹脂(i)と、エポキシ当量が100〜4000mgKOH/g固形分のエポキシ樹脂(ii)からなる粉体塗料粒子からなる粉体塗料組成物であり、
前記ポリエステル樹脂(i)と前記エポキシ樹脂(ii)の混合比は、固形分質量比で2/8〜8/2の範囲であり、
前記粉体塗料粒子は、可撓性樹脂(iii)を更に含有し、
前記可撓性樹脂(iii)は、前記ポリエステル樹脂(i)と前記エポキシ樹脂(ii)の固形分合計100質量%に対して1〜12質量%であり、数平均分子量3万〜10万である
ことを特徴とする粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記可撓性樹脂(iii)は、ポリカプロラクトンである請求項1記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
粉体塗料粒子の粒径は25〜35μmである請求項1又は2記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
アルミホイール塗装用プライマー粉体塗料である請求項1、2又は3記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の粉体塗料組成物をアルミホイールに塗布する工程、及び、焼き付ける工程を有するアルミホイールの塗装方法であって、
前記焼き付ける工程は、150〜170℃で行うものである
ことを特徴とするアルミホイールの塗装方法。
【請求項6】
請求項5記載のアルミホイールの塗装方法によって形成された塗膜の上に、中塗り塗料を塗布する工程、及び、上塗り塗料を塗布する工程を更に有する請求項5記載のアルミホイールの塗装方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載のアルミホイールの塗装方法により塗装されてなることを特徴とするノンクロメート表面処理アルミホイール塗装品。

【公開番号】特開2008−81670(P2008−81670A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265597(P2006−265597)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】