説明

粉末成形体のバリ取り方法とバリ取り用ブラシ

【課題】粉末成形体に生じているバリをバリ取り用ブラシで確実に効果的に除去できるようにすることを課題としている。
【解決手段】粉末成形体10に生じているバリ15にバリ取り用ブラシ1の毛材3bを、その毛材の進行方向前方から見た図において傾斜するように接触させて前記バリ15を除去するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結部品の製造において粉末成形体に生じているバリを効果的に除去するためのバリ取り方法とバリ取り用ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、原料粉末を金型で成形して粉末成形体(以下では単に成形体と称する)を作り、その成形体を焼結して製造される。粉末成形用の金型は、複数の金型要素(ダイ、パンチ、コアなど)を組み合わせて構成されており、この金型を使用すると、成形体の型合わせ面(各金型要素の合わせ面)の位置に型バリと称されるバリが生じることがある。
【0003】
そのバリは、金型要素の中に、粉末成形時に側圧を受けて合わせ面が離反する方向に変位するものが含まれているときや、金型要素の合わせ面の摩耗が進行したときに発生し易い。
【0004】
自動車などに使用される焼結部品は、品質保証のためにそのバリを除去して出荷することが要求される。成形体を焼結するとブラシでのバリ取りは困難となるため、プレス機から取り出された成形体を搬出するラインにバリ取り機を設置し、成形体に生じているバリをバリ取り用ブラシで擦って除去することが行なわれている。
【0005】
焼結部品用成形体の概要を図6及び図7に示す。また、その成形体の成形工程のバリ取り機に設けられているバリ取り用ブラシの従来例を図8に示す。図示のバリ取り用ブラシ6は、成形体(図のそれは焼結カムスプロケット用)10に生じているバリ(型バリ)15を除去する目的で作られた専用のブラシであって、成形体10と同心の軸Cを中心にして定位置で回転させる植毛台7を有しており、その植毛台7の植毛面7a〜7cに毛材8を植えてある。
【0006】
図示の成形体10の場合、バリ15は、主に、図7の領域I(ボス部11の内径部の縁)、領域II(ボス部11の外径部の縁およびそれに連なったリブ12の縁)、領域III(リブ12と外周に歯13を形成した外輪部14の内周面との交差部)に生じる。このうち、領域I、IIのバリ15は成形体10の軸方向に延び出し、領域IIIのバリ15は軸直角方向に延び出している。
【0007】
バリ取り機に採用するバリ取り用ブラシは、これ等のバリを効率よく除去できるものが望まれる。この要求に対して、従来のバリ取り用ブラシとして、例えば、下記特許文献1、2などに開示されたものがあるが、これ等のブラシは、被加工面の向きの違いや高さの違いを考慮したものではなく、同一成形体に生じている突出方向の異なったバリや高さ位置の異なったバリを同時に効率よく除去することは難しい。
【0008】
そこで、図8に示すような専用のバリ取り用ブラシが採用され、そのブラシを定位置に保持された成形体10と同心の軸Cを中心にして回転させながら成形体の表面に押しつけて領域I〜IIIのバリを植毛面7a〜7cに植えられた毛材8で同時に除去する方法が採られていた。なお、バリは、図7の領域IV(歯13の輪郭縁)にも生じることがあるので、その領域のバリに対しては、植毛面7aの毛材8で対応することがなされている。
【特許文献1】特開昭56−56383号公報
【特許文献2】特開平9−856333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、専用のブラシを使用するこの方法でも、各領域のバリを残さずにきれいに除去することができなかった。図9に示すように、バリ15が突出している方向に対して同方向に延びださせたブラシの毛材8はバリの左右に逃げ易く、このために、バリに対する毛材の当たりが不安定になり、バリ15に対してそのバリを切り離すのに必要な衝撃を効果的に与えることがなされていないと考えられる。
【0010】
この問題に対し、前掲の特許文献1に開示されたバリ取り用ブラシは、針毛の先端部を回転方向前方に向けて屈曲させて針毛の先端の回転方向前方の縁を部品の表面から浮き上がらせるようにしているので、バリに対する毛材の当たりがむしろ弱くなり、衝撃の付与が毛材を曲げていないブラシよりも劣るものになる。特許文献2のバリ取り用ブラシも、ブラシホルダの先端に設けたブラシセグメントを回転方向後方に逃げるように傾けているので毛材の逃げが助長され、バリに対する毛材の当たりが毛材を直立させたブラシよりも弱くなる。
【0011】
なお、毛材の逃げは、腰の強い(弾性復元力の強い)毛材を使用することで抑制することができるが、成形体の表面の傷付き防止、エッジなどの欠け防止の観点から腰の強すぎる毛材は使用することができない。特に、焼結前の成形体は脆いため、柔らかいポリアミド系繊維(いわゆるナイロン繊維)や細くてしなやかな金属繊維などを使用する必要があり、そのような毛材はバリにそれを削り取れるほどの衝撃を付与するのが難しくてバリを完全に除去するのが難しい。特に腰の強い折れ難いバリが除去されずに残る。例えば、根元太さが0.09mm程度のバリは金属ブラシを使用しても除去できず、樹脂繊維の毛材を使用したブラシでは根元太さが0.04mm程度のバリも除去できなかった。
【0012】
このために、従来は、バリ取り装置が取り残したバリを改めて人手で除去せざるを得なかったが、全品のバリ取りを人手で行なうと量産品については特に、大変な労力を費やすことになり、生産性の低下とコストアップを招く。
【0013】
そこで、この発明は、成形体に生じているバリ(型バリ)をバリ取り用ブラシで確実に効果的に除去できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記のバリ取り方法とバリ取り用ブラシを提供する。
(a)粉末成形体に生じているバリをバリ取り用ブラシで擦って除去するバリ取り方法であって、前記バリ取り用ブラシの毛材が、ブラシ(毛材)の進行方向前方から見た図において前記バリに対し、傾斜して接触することで前記バリを除去する粉末成形体のバリ取り方法。
この方法は、粉末成形体を、バリを生じている部位が下、又は上になる向きにして定位置に保持し、バリ取り用ブラシを前記粉末成形体の軸心と同心の軸を中心にして回転させて前記毛材で前記バリを擦り取ると作業効率の向上が図れる。
【0015】
(b)粉末成形体に生じているバリを擦って除去するバリ取り用ブラシであって、ブラシの進行方向前方から見た図において毛材がブラシの進行方向と鉛直な方向に対して傾斜して植毛台に植えられたバリ取り用ブラシ。
このバリ取り用ブラシは、以下の形態、すなわち、定位置で回転させるブラシホルダと、そのブラシホルダに、ホルダ径方向の取付け位置を異ならせて装着する複数個のブラシセグメントとで構成され、前記ブラシセグメントの各々が前記バリ取り用ブラシで構成されている構造のブラシアセンブリとして提供されるものが、図6のような成形体に対応できて好ましい。
【0016】
なお、ブラシアセンブリとして提供されるバリ取り用ブラシは、より好ましい形態として、前記ブラシセグメントを前記ブラシホルダに着脱自在に装着し、前記ブラシホルダと各ブラシセグメントとの間に毛材摩耗補償用のスペーサを挿入可能となしたものが考えられる。また、成形体の形状によっては、前記ブラシホルダで保持するブラシセグメントに、前記粉末成形体の端面に接触してバリ取り用ブラシの回転に抵抗を加えるダミーブラシを含ませるのも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明のバリ取り方法では、バリ取り用ブラシの毛材を、ブラシの進行方向前方から見た図においてバリに対し、傾斜して接触させる。そのために、バリの左右への毛材の逃げが起こり難くなり、毛材がバリに安定して接触して強い衝撃を与えることができる。これにより、過度に腰の強い毛材を使用せずに従来のブラシでは除去できなかったバリも確実に除去することが可能になる。
【0018】
次に、この発明のバリ取り用ブラシは、ブラシの進行方向前方から見た図において毛材が、ブラシの進行方向と鉛直な方向に対して傾斜して植毛台に植えられており、上記の方法によるバリ取りを可能にする。このバリ取り用ブラシは、植毛台の植毛面を傾けずに使用するものと、傾けて使用するものが考えられる。前者は、植毛台の植毛面に対して毛材を傾けて植える必要があるが、後者は、植毛面に対して毛材を真っ直ぐに植えることができる。
【0019】
植毛面に対して毛材を傾けて植えるものは、毛材の傾き角が大きくなると植毛台に設ける植え込み用の孔の加工が難しくなることが考えられるが、後者の構造ではその問題は生じない。
【0020】
この発明のバリ取り用ブラシは、向きや高さの異なる被加工面が複数個所にある図6、図7で述べたような成形体のバリ取りでは、上述したブラシアセンブリとして提供するとよい。そのブラシアセンブリを使用することで、同一成形体に生じている突出方向の異なったバリや高さ位置の異なったバリを自動化された作業で同時に効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面の図1〜図5に基いて、この発明のバリ取り方法とバリ取り用ブラシの実施の形態を説明する。図2、図3に、ブラシアセンブリとして構成されたバリ取り用ブラシ1を示す。図示のバリ取り用ブラシ(ブラシアセンブリ)1は、図6で説明した焼結カムスプロケット用の成形体10に生じているバリ15を除去するための専用のブラシとして提供されるものであって、成形体10(図1参照)と同心の軸Cを中心にして定位置で回転させるブラシホルダ2と、そのブラシホルダ2にホルダ径方向の取付け位置を異ならせて着脱自在に装着するn個のブラシセグメント3−1〜3−n(図はn=4)と、各ブラシセグメント3−1〜3−4をブラシホルダ2に固定する固定具(図のそれはボルト)4と、各ブラシセグメント3−1〜3−4とブラシホルダ2との間に必要に応じて挿入するスペーサ5とからなる。
【0022】
ブラシホルダ2は、図4に示すように、ブラシセグメント3−1〜3−4の取付面2eを有する横長の基部2aの両側に側壁2bを起立させて設け、さらに、基部2aの裏側にキー溝2cを伴った嵌合穴2dを設けたものを採用している。このブラシホルダ2の基部2aの嵌合穴2dには、バリ取り機のキー溝2cに係合するキー16aを先端外周に有している駆動軸16(図3、図4参照)の先端が差し込まれる。
【0023】
各ブラシセグメント3−1〜3−4は、処理するバリの発生点に対応させて設置高さを異ならせており、大きさや植毛の方向も異なるものにしている。植毛については、ブラシセグメント3−1,3−2は、水平な植毛面を有する植毛台3aに対して毛材3bを斜めに傾けて植えている。また、ブラシセグメント3−3は、植毛台3aの植毛面を45°の傾きを持つ斜面にし、その植毛面に対して直角向きに毛材3bを植えている。さらに、ブラシセグメント3−4は、通常のブラシと同様のものであって、水平な植毛面を有する植毛台3aに毛材3bを垂直に起立させて植えている。
【0024】
このように構成したバリ取り用ブラシ1は、バリ取り機(図示せず)に組み込まれ、例えば、粉末成形工程で成形体を搬出するラインに上向きにして設置される。
プレス機から取り出された成形体は搬出ラインのコンベヤに載せられて焼結炉に向けて流される。そのコンベヤによる搬送の途中に、図1に示すように、成形体10が保持具9に挟まれてバリ取り用ブラシ1上の定位置に保持され、その成形体10にバリ取り用ブラシ1の各ブラシセグメント3−1〜3−4が押し当てられ、この状態でバリ取り用ブラシ1が軸Cを中心にして回転駆動されて成形体10に生じているバリの除去がなされる。この方法によれば、流れ作業によるバリ取りが可能になって作業能率の向上が図れる。
【0025】
ブラシセグメント3−1は、成形体10の領域IVに対応させたものであって、軸方向に突出した領域IVのバリに対して毛材3bが、その毛材の進行方向前方から見た図(図1)において傾斜して接触する。
【0026】
ブラシセグメント3−2は、成形体10の領域I,IIに対応させたものであって、軸方向に突出した領域I,IIのバリに対してここでもやはり毛材3bが、その毛材の進行方向前方から見た図(図1)において傾斜して接触する。図5にその接触状態を模式化して示す。このように、毛材3bは垂直な軸線に対して傾いており、領域I,IIのバリ15に対して傾斜して接触し、バリ15に対してクロスするように接触した毛材がバリ15を引っかける。これにより、バリ15に対して強い衝撃が与えられ、その領域のバリ15が残らず削り落とされる。
【0027】
ブラシセグメント3−3は、図6、図7の領域IIIに対応させたものであり、このブラシセグメント3−3の毛材3bも、その毛材の進行方向前方から見た図(図1)において傾斜して接触する。従って、従来のブラシを採用したバリ取り方法に比べてバリの除去が確実になり、従来特に取り残しが多かった領域I、IIのバリ15もきれいにもれなく除去され、取り残したバリの手作業による除去が不要となる。
【0028】
ブラシセグメント3−4は、成形体10の端面に押し当ててブラシホルダ2の回転に抵抗を加えるダミーブラシである。このダミーブラシで回転抵抗を付与することでバリ取り用ブラシ1の回転を安定させてバリに対する毛材の当たりを安定させることができるが、必須の要素ではない。
【0029】
各ブラシセグメント3−1〜3−4に採用する毛材3bは、繊維径0.3〜0.5mm程度のポリアミド系繊維(いわゆるナイロン繊維)やそれに匹敵するような細くてしなやかな金属繊維(例えばステンレス繊維)が適していた。また、ブラシセグメント3−1,3−2の毛材3bの傾斜角θ(図3参照)は15°以下でも発明の目的が達成された。ブラシセグメント3−3は、水平な植毛面に45°の傾斜角をもつように毛材3bを植えようとすると植毛孔の加工が難しくなるので、植毛面そのものを傾けた。
【0030】
スペーサ5は、毛材の摩耗補償用であって、各ブラシセグメントの毛材が摩耗したときに、植毛台3aをかさ上げするために用いられる。このスペーサ5を厚みの異なるものと交換することで毛材3bの摩耗が進行してもその毛材3bが確実に成形体10に押し付けられる状況を作り出すことができる。これにより、ブラシセグメントの使用可能期間が延び、バリの除去に要するコストが低減される。
【0031】
また、各領域のバリに対して独立したブラシセグメントを用いたので、一部のブラシセグメントが他のブラシセグメントに先行して傷んだり、各ブラシセグメントの毛材の摩耗量に差が生じたりしても、それに対応することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明のバリ取り方法の一例を示す断面図
【図2】図1の方法に採用したバリ取り用ブラシの斜視図
【図3】図2のバリ取り用ブラシの側面視断面図
【図4】(a)例示のブラシアセンブリのブラシホルダの斜視図、(b)同ブラシホルダの断面図
【図5】バリに対する毛材の接触状態を毛材の移動方向前方から見た図
【図6】バリ取り対象の成形体の一例を示す断面図
【図7】図6の成形体のバリ発生領域を示す一部分の端面図
【図8】従来のブラシによるバリ取り方法の説明用断面図
【図9】従来のバリ取り用ブラシのバリに対する毛材の接触状態を毛材の移動方向前方から見た図
【0033】
1 バリ取り用ブラシ(ブラシアセンブリ)
2 ブラシホルダ
2a 基部
2b 側壁
2c キー溝
2d 嵌合穴
2e 取付面
−1〜3−4 ブラシセグメント
3a 植毛台
3b 毛材
4 ブラシ固定具
5 スペーサ
6 バリ取り用ブラシ
7 植毛台
7a〜7c 植毛面
8 毛材
9 保持具
10 成形体
11 ボス部
12 リブ
13 歯
14 外輪部
15 バリ
16 駆動軸
16a キー
C 回転中心の軸
θ 傾斜角
I〜IV バリを除去する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末成形体(10)に生じているバリ(15)をバリ取り用ブラシ(1)で擦って除去するバリ取り方法であって、前記バリ取り用ブラシ(1)の毛材(3b)が、ブラシの進行方向前方から見た図において、前記バリ(15)に対し、傾斜して接触することで前記バリ(15)を除去する粉末成形体のバリ取り方法。
【請求項2】
前記粉末成形体(10)を、前記バリ(15)を生じている部位が下、又は上になる向きにして定位置に保持し、前記バリ取り用ブラシ(1)を前記粉末成形体(10)と同心の軸(C)を中心にして回転させて前記毛材(3b)で前記バリ(15)を擦り取る請求項1に記載の粉末成形体のバリ取り方法。
【請求項3】
粉末成形体(10)に生じているバリ(15)を擦って除去するバリ取り用ブラシであって、ブラシの進行方向前方から見た図において毛材(3b)が、ブラシの進行方向と鉛直な方向に対して傾斜して植毛台(3a)に植えられたバリ取り用ブラシ。
【請求項4】
粉末成形体(10)と同心の軸を中心にして定位置で回転させるブラシホルダ(2)と、そのブラシホルダ(2)に、ホルダ径方向の取付け位置を異ならせて装着する複数個のブラシセグメント(3−1〜3−n)とで構成され、前記ブラシセグメント(3−1〜3−n)の各々が請求項3に記載のバリ取り用ブラシで構成されているバリ取り用ブラシ。
【請求項5】
前記ブラシセグメント(3−1〜3−n)を前記ブラシホルダ(2)に固定具(4)を用いて着脱自在に装着し、前記ブラシホルダ(2)と各ブラシセグメント(3−1〜3−n)との間に毛材摩耗補償用のスペーサ(5)を挿入可能にした請求項4に記載のバリ取り用ブラシ。
【請求項6】
前記ブラシホルダ(2)で保持するブラシセグメント(3−1〜3−n)に、前記粉末成形体(10)の端面に接触してバリ取り用ブラシの回転に抵抗を加えるダミーブラシを含ませた請求項4又は5に記載のバリ取り用ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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