粒子フィルタを用いた測位システム、装置および方法
【課題】マルチパスの影響を低減し、精度の高い測位方法およびシステムを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態によれば、端末40が所定の信号を放射し、位置情報が既知である複数のノード41〜44がその信号を受信し、受信時刻を記録する。測位信号処理部46は、この受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求め、第1の粒子フィルタ81−1〜6を用いて受信時刻差を補正する。次に、位置推定部82において、第2の粒子フィルタを用いて補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から端末の位置を推定する。粒子フィルタを用いることにより、見通し外環境におけるマルチパスの影響を軽減し、精度の高い測位が可能となる。
【解決手段】本発明の一実施形態によれば、端末40が所定の信号を放射し、位置情報が既知である複数のノード41〜44がその信号を受信し、受信時刻を記録する。測位信号処理部46は、この受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求め、第1の粒子フィルタ81−1〜6を用いて受信時刻差を補正する。次に、位置推定部82において、第2の粒子フィルタを用いて補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から端末の位置を推定する。粒子フィルタを用いることにより、見通し外環境におけるマルチパスの影響を軽減し、精度の高い測位が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークにおける端末の位置検出に関する。より具体的には、本発明は、センサネットワークにおいて、階層型粒子フィルタを用いて端末の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地上の位置を決定する手段として最も一般的な方法は、GPS(Global Positioning System)である。これは、図1に示すように、受信機(例えば、車両10)が地球を周回する軌道上の3個以上の衛星11〜14から放射されるマイクロ波を受信し、各衛星との擬似距離により受信機の3次元的な位置を決定するものである。このようなGPS測位装置は、例えば特許文献1に開示されている。GPSはその性質上、広い場所での位置の確定を目的としたものであり、衛星からの電波が届かない室内(例えば、端末15)では使用することができない。
【0003】
GPSなどの衛星システムを用いずに、電波の到来時間差(TDOA:Time Difference of Arrival)を利用した測位システムが特許文献2に説明されている。これは、図2に示すように、位置が未知である発信機(例えば、移動端末20)から発信される電波を、位置が既知である受信機(例えば、基地局21〜24)が受信し、各受信機での受信時刻の差を計測して発信機の位置を推定する技術である。また、この技術は、図3に示すユビキタスセンサネットワークのように、衛星からの電波が届かず、GPS技術を利用することができない室内環境(例えば、医療、オフィス、家庭環境)においても使用することができる。
【0004】
TDOAを利用した測位では、図2に示すように、未知の座標[xp,yp,zp]に位置する端末20からの信号を複数の基地局21〜24で受信する。各基地局の座標[xi,yi,zi](図2では、iは1から4の整数)は既知であるとし、基地局と端末の時刻同期がとれない環境を考える。図2のセルラーシステムや、図3のユビキタスネットワークなどでは、非同期環境が想定されることが多い。このような非同期環境においては、各基地局での受信時刻差(TDOA)ti−tjを利用して測位を行う。具体的には、2つの基地局[xi,yi,zi]、[xj,yj,zj]および端末[xp,yp,zp]の座標の関係は、TDOA情報を用いて次式で表される。
(1) c・(ti−tj)=di−dj
ここで、cは光速であり、diは端末から基地局までの距離を表し、次式のように定義される。
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)および(2)で表される関係式は、基地局のペアの数だけ成り立つため、それらの非線形連立方程式を解くことで、端末の座標[xp,yp,zp]を推定することができる。
【0007】
しかし、実際問題として、観測値にはノイズが含まれるため、測位にあたっては近似的な値を推定することとなる。ノイズ源としては、基地局の受信機での熱雑音やクロックのオフセットに加え、電波が端末から見通し外(NLOS:None Line of Sight)の伝搬路を通って到来するマルチパスによる影響が挙げられる。近似値の導出方法としては、非特許文献1および2にNewton法(Taylor−Series−Algorithmとも称される)が紹介されているが、この方法は、NLOS伝搬路に起因するマルチパス問題に脆弱であるという問題がある。
【0008】
TDOA型測位における近似的な解の導出方法として、非特許文献3では、マルチパス伝搬路をモデル化し、最適な到来時間を推定する測位方法が紹介されている。この方法は、伝搬路のモデル化が正確に行える場合に有効であることが知られている。
【0009】
【特許文献1】特許第3643874号明細書
【特許文献2】米国特許第5327144号明細書
【非特許文献1】W. H. Foy, “Position-Location Solutions by Taylor-Series Estimation,” IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., vol. AES-12, no. 2, pp. 187-194, Mar., 1976.
【非特許文献2】H. Kong, Y. Kwon and T. Sung, “Comparisons of TDOA Triangulation Solutions for Indoor Positioning,” in Proc. International Symposium on GNSS, December, 2004.
【非特許文献3】川端 学,朝生 雅人,斎川 貴彦,服部 武,“セルラーシステムにおける最ゆう推定法に基づくTDOAシステムの位置検出性能評価,” 電子情報通信学会論文誌(B),vol.J87−B,no.2,pp.285−291,February,2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術には次のような問題があった。すなわち、従来技術では、GPSのような外部システムに依存したものが多く、装置コストが増大するだけでなく、GPS信号の届かない屋内環境では使用できないという問題があった。また、従来技術では、発信機と受信機の間の伝搬路が見通し外の場合、複数の伝搬路によって電波が到来するマルチパスの影響を受け、測位精度が劣化するという問題があった。マルチパスによる測位精度の劣化を補償するために、従来技術では、マルチパス伝搬路を正確にモデル化して推定を行っていた。しかし、現実問題として、伝搬路の正確なモデル化は難しく、演算量の増大も招いていた。また、従来技術では、精度を向上させるために、数多くの受信機を使って測位を行っている。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、マルチパスの影響を低減し、精度の高い測位方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、端末の位置を推定するシステムであって、所定の信号を放射する端末と、位置情報が既知である複数のノードであって、前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測する複数のノードと、各ノードから前記受信時刻を受信して、各ノード間の受信時刻差を求め、前記受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシステムであって、前記信号処理部は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシステムであって、前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定する装置であって、端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得る手段と、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正する手段と、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の装置であって、前記推定する手段は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の装置であって、前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、端末の位置を推定する方法であって、端末が所定の信号を放射することと、位置情報が既知である複数のノードが前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測することと、各ノードの受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求めることと、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することとを備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の方法であって、前記端末の位置を推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定するための方法であって、端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得ることと、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の方法であって、前記推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、GPSに依存しない測位システムの実現が可能となる。具体的には、各ノード(基地局)の座標情報が既知であるという条件のもと、GPSに依存することなく移動端末の位置推定が実現可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、見通し外環境、特にマルチパスの問題に対する耐性が得られる。本発明は、見通し環境および見通し外環境のいずれにおいても何等の変更なく適用することができ、特に、見通し外環境において従来の方式に比べて優れた測位精度を発揮する。
【0024】
また、本発明によれば、伝搬路モデルを必要とすることなく精度の良い測位システムが可能となる。すなわち、数学モデル・確率モデルによって表される伝搬路特性が未知な状況においても測位が可能である。本発明の一実施形態では、「観測情報の時間変化は一定である」という非常にシンプルな前提条件をおくことで、マルチパスの影響を軽減することができる。
【0025】
また、本発明によれば、測位システムのコストを削減できるという効果もある。測位精度が向上する分、ノードの数を減らすことができる。また、階層型の構成をとることによって、測位信号処理を分散させることが可能である。すなわち、第1層の処理を各ノードで行い、第2層の処理を測位サーバで実施するといった分散処理が実現できる。このような信号処理の負担の軽減は、ハードウェア的な制約の大きいセンサネットワークなどで特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。この実施形態では、主にセンサネットワークでの測位について説明するが、本発明は、センサネットワークに限らず、セルラー、その他のネットワークにも適用することができる。
【0027】
(システムモデルおよび測位プロセス)
図4に、センサネットワークにおける測位システムのシステムモデルを示す。このシステムモデルは、位置が未知のタグ40と、位置が既知のノード41〜44とから構成されている。測位信号処理部46は、例えばセンサネットワークの測位サーバに実装され、ノード41〜44からの受信時刻情報t1〜t4に基づいてTDOA情報を求め、タグ40の位置を推定する。
【0028】
図5に、図4のシステムモデルに基づく従来の測位プロセスの一例を示す。この測位プロセスでは、タグ40が所定の信号を送信し(ステップ502)、各ノード41〜44がタグ40から送信された信号を受信し、受信時刻を記録する(ステップ504)。この受信時刻に関する情報は、各ノードから測位信号処理部46へ転送され、そこで各ノード間の受信時刻差(TDOA)が算出される(ステップ506)。測位信号処理部46は、算出したTDOA情報を用いてニュートン法によるタグ40の位置推定を行う(ステップ508)。
【0029】
これに対して、図6に、図4のシステムモデルに基づく本発明の測位プロセスの一例を示す。この測位プロセスでは、タグ40が所定の信号を送信し(ステップ602)、各ノード41〜44がタグ40から送信された信号を受信し、受信時刻を記録する(ステップ604)。この受信時刻に関する情報は、各ノードから測位信号処理部46へ転送され、そこで各ノード間の受信時刻差が算出される(ステップ606)。測位信号処理部46は、算出したTDOA情報を粒子フィルタ(PF:Particle Filter)で処理し、伝搬路のマルチパスによる誤差を補正する(ステップ608)。測位信号処理部46は、補正したTDOA情報を用いて粒子フィルタによるタグ40の位置推定を行う(ステップ610)。
【0030】
図7に、従来のニュートン法を用いた測位信号処理部の構成例を示す。この測位信号処理部46は、各ノードからの受信時刻情報(t1〜t4)を格納するバッファ47−1〜4と、各ノード間の受信時刻差を算出するTDOA算出部48−1〜4と、各ノードの位置情報を格納したメモリ49と、算出したTDOA情報および各ノードの位置情報からニュートン法によるタグ40の位置推定を実行するニュートン法位置推定部70とから構成されている。一般に、TDOA算出部48−1〜4で得られたTDOA情報には観測誤差が含まれている。従来のニュートン法を用いた測位では、この誤差に対して何の補正を行うことなく位置推定を行うため、推定精度が劣化するという問題がある。特に、ニュートン法は、測定誤差の勾配を最小にするような線形探索を実行するアルゴリズムであるため、誤差の大きい観測値の影響を受けやすい。
【0031】
次に、図8に、本発明の一実施形態による測位信号処理部の構成例を示す。この測位信号処理部46は、各ノードからの受信時刻情報(t1〜t4)を格納するバッファ47−1〜4と、各ノード間の受信時刻差を算出するTDOA算出部48−1〜4と、各ノードの位置情報を格納したメモリ49と、算出したTDOA情報の補正を行う粒子フィルタ81−1〜6と、補正したTDOA情報および各ノードの位置情報から粒子フィルタによるタグ40の位置推定を実行するPF位置推定部82とから構成されている。本発明の一実施形態による測位では、粒子フィルタと呼ばれるデジタルフィルタアルゴリズムを使用して、TDOA算出部48−1〜4で得られたTDOA情報の観測誤差を補正し、位置推定を行う。そのため、従来技術に比して推定精度が向上する。また、図8の構成では、粒子フィルタを2段構成とすることによって、マルチパス環境下での測位精度の改善が図られている。以下、粒子フィルタを用いた測位システムについて詳述する。
【0032】
(粒子フィルタを用いた測位システム)
本発明の一実施形態によるタグ40は、自己のIDを付加した電波を定期的に放射する。ノード41〜44は、タグからの信号を受信し、タグのIDを識別する。各ノードは、タグのIDと信号の受信時刻を測位信号処理部46に転送する。また、ノードは、必要に応じて自己の位置情報を測位信号処理部46に転送してもよい。測位信号処理部46は、信号の受信時刻から各ノード間のTDOAを算出する。ここで、ノード#iでの受信時刻をti、ノード#jでの受信時刻をtjとすると、このノード間のTDOAは、ti−tjとなる。このTDOAに高速cを乗算すると、次式からノード#iおよび#jとタグとの距離の差Δdが得られる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで、diは、式(2)で定義されるようにタグからノード#iまでの距離を表し、djは、同様にタグからノード#jまでの距離を表す。式(3)は、理想環境での関係式であり、実環境では次式のようにマルチパスに起因する誤差eが加わる。
【0035】
【数3】
【0036】
従って、実際の観測値Δd’は、真の距離差Δdに対してΔd’=Δd+eという関係にある。そこで、本発明では、粒子フィルタによって観測値Δd’から真の値Δdを推定して、観測値Δd’から誤差を軽減し、真の値Δdに近い補正値Δd”を導出する。
【0037】
(第1階層の粒子フィルタ)
粒子フィルタは、状態空間モデルでモデル化された状態ベクトルを推定するための信号処理アルゴリズムである。その推定プロセスを図9に示す。本明細書では、この処理を「第1階層の粒子フィルタ」と呼ぶ。
【0038】
図9のステップ902において、初期分布に基づいてN個の粒子、すなわちN個のランダムベクトルを生成する。粒子フィルタでは、推定対象の状態ベクトルを「粒子」と呼び、その動作を解析することで最終的な推定値を得る。ここで、Nは任意に設定することができ、一般に、Nが大きいほど特性が改善するが、演算量が増加することになる。
【0039】
初期分布に従うN個の粒子
【0040】
【数4】
【0041】
は、以下のようなベクトル形式で表される。
【0042】
【数5】
【0043】
ここでx(i)(0)は、初期分布に従うランダム変数である。初期分布としては、平均Δd’(1)、分散ν2のガウス分布を与える。なお、Δd’(1)は初期時刻t=1において実際に得られた観測値である。
【0044】
一般に、時刻tにおける粒子の状態ベクトルXt(i)に含まれる2つの要素は、現時点(時刻t)での観測値Δd’(t)と、一時点前(時刻t−1)での補正値Δd”(t−1)を表す。初期状態(t=1)においては、時刻t−1が存在しないので、2つの要素とも、時刻t=1での観測値Δd’(1)を平均とする乱数を用いている。
【0045】
ステップ904において、現在の分布から一期先の予測を行う。具体的には、現時点での観測値Δd’(t)と一時点前の補正値Δd”(t−1)を用いて、一時点先の観測値を補正する。ここで、観測値の時間変化を予測するための事前モデルとして、「観測される距離情報Δd’(t)の時間変化は一定である」という仮定をおく。移動端末であるタグの移動が緩やかな場合、この仮定は妥当なものであり、マルチパスに起因する急激な異常値を除去する効果がある。この仮定は、次式で定義される。
(6) Δd’(t+1)−Δd’(t)=Δd’(t)−Δd’(t−1)
この仮定に基づいて、状態ベクトル
【0046】
【数6】
【0047】
を一時点だけ遷移させ、新たな粒子群
【0048】
【数7】
【0049】
を得る。その状態遷移方程式は下記のようになる。
【0050】
【数8】
【0051】
ここで、システムノイズベクトルVtは、主に熱雑音やクロックのオフセットなどを表し、平均0、分散ν2のガウス分布を与える。また、式(7)における状態ベクトルXt(i)の要素は、時刻tでの観測値Δd’(t)および一時点前の推定結果Δd”(t−1)であり、次式のように表される。
【0052】
【数9】
【0053】
次に、ステップ906において、観測値Δd’(t)および観測ノイズ分布を用いて、個々の粒子Pt(i)の尤度αt(i)を算出する。
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、観測ノイズ分布r(x;0,η2)は、主にマルチパスの影響を表し、次式で定義されるコーシー分布を与える。
【0056】
【数11】
【0057】
式(9)における確率変数Δd’(t)−[1 0]・Pt(i)は、一期先予測による予測値と、実際の観測値との誤差を示している。誤差が大きな粒子ほど尤度は小さくなり、誤差の小さな粒子ほど尤度は大きくなる。
【0058】
次に、ステップ908において、フィルタ分布の算出を行う。具体的には、次式に基づいて粒子Pt(i)をリサンプルする。
【0059】
【数12】
【0060】
この結果、一期先の状態を表現する粒子群
【0061】
【数13】
【0062】
を得る。
【0063】
ステップ910において、リサンプリング後の各粒子の状態量を平均することによって、その時点での観測値の補正値が得られる。そして、この補正値は、ステップ904において、一期先の予測のために用いられる。
【0064】
このように、ステップ904からステップ908を繰り返すことで、観測値に含まれたマルチパス成分の影響が軽減された補正値を得ることができる。
【0065】
(第2階層の粒子フィルタ)
次に、第1階層の粒子フィルタによる上記プロセスによって補正された観測値を用いて、移動端末であるタグの位置を推定する。この推定プロセスを図10に示す。本明細書では、この処理を「第2階層の粒子フィルタ」と呼ぶ。
【0066】
図10のステップ1002において、初期推定座標の設定を行う。粒子フィルタによる位置推定では、複数の2次元座標を初期推定候補として設定し、これらを「粒子」と呼ぶ。個々の粒子の持つ座標の信頼性を吟味しながら真の座標へと絞り込んでいく。ここでは粒子数をN’個とし、その初期状態をXn(i)={xi(n),yi(n)},i=1,...,N’という2次元座標で定義する。この2次元座標は、測位エリア内を一様に分布するN’個のランダム2次元変数で与える。また、パラメタnは後述するステップ1016の繰り返し数をカウントする変数であり、初期設定の段階では、n=0とする。
【0067】
ステップ1004において、ステップ1002で設定した粒子の初期座標に対し、各ノードとの距離の差を計算する。たとえば、粒子{xi(n),yi(n)}とノード#k[xk,yk]およびノード#j[xj,yj]との間の距離の差hkj(i)は、次式によって算出される。
【0068】
【数14】
【0069】
このような距離差を、すべてのノードペアに対して求める。ノード数が4個の場合、ノードペアは4C2=6個となるため、距離の差hkj(i)も6個得られる。簡単のため、この距離差をh1(i),h2(i),...,h6(i)と記す。
【0070】
次に、ステップ1006において、各粒子の尤度を算出する。具体的には、ステップ1004で求まった距離差に対し、実際の観測によって得られた距離情報y1,...,y6(本実施形態では、第1階層で求めた補正値)と比較し、2乗誤差E(i)を求める。
【0071】
【数15】
【0072】
この誤差情報をもとに、各粒子の尤度αn(i)を算出する。
【0073】
【数16】
【0074】
ここで、r(x;0,μ2)は、平均0、分散μ2のガウス分布を与える。確率変数として誤差E(i)を与え、E(i)が小さい粒子ほど大きな尤度を持つことになる。
【0075】
次に、ステップ1008において、ステップ1006で求まった尤度を次式により正規化する。
【0076】
【数17】
【0077】
次に、ステップ1010において、タグ座標の推定値[Xn’ Yn’]を次式により算出する。
【0078】
【数18】
【0079】
この式は、尤度を重みとして全粒子の状態量(=2次元座標)の線形和をとったものである。
【0080】
ステップ1012において、次式で表される確率に基づいて、粒子群
【0081】
【数19】
【0082】
をリサンプリングし、次の繰り返しに用いる。
【0083】
【数20】
次に、ステップ1014において、リサンプリングの後、粒子の状態量が初期分布で与えられた座標にのみ収束してしまうのを避けるため、粒子の状態量を次式に従って限定的に拡散させる。
【0084】
【数21】
【0085】
ここで、ベクトルW={wx,wy}は、平均0、分散μ2/nに従う2次元ガウス乱数である。
【0086】
そして、ステップ1016において、推定座標が収束するまで、ステップ1004にループバックし、ステップ1004からステップ1014を繰り返すことで、最終的な測位結果が得られる。
【0087】
(評価結果)
次に、本発明の一実施形態による測位特性について、計算機シミュレーションの結果を示し、従来方式との比較を行う。このシミュレーションでは、測位エリアとして100m四方の二次元平面を考え、基地局ノードの数を4個とした。ノードの座標は既知であり、[x,y]=[25,25],[25,75],[75,25],[75,75]という4つの座標に設置した。伝搬環境は、ガウシアン雑音による観測雑音と、指数分布に従うマルチパス遅延の混在する環境を設定した。各ノードで観測される距離情報に対し、平均0、分散σ2のガウシアン雑音と、平均λの指数分布遅延が加算されるとする。
【0088】
タグの移動軌跡としては、屋内環境で廊下に沿って直進ないし90度のターンを繰り返しながら、一定速度(V=1m/s)で160m移動する軌跡を与える。タグの軌跡は図11(a)および(b)に実線として示した。伝搬環境は、いずれの場合もσ2=5、λ=2としている。
【0089】
図11(a)は、従来のニュートン法による測位結果であり、伝搬環境に起因した測定誤差によって大きく測位精度が劣化してしまっていることがわかる。一般にニュートン法は、初期推定値を適切に与えなければ推定値が正しく収束しない。図11(a)では、初期推定値としてノードに囲まれた中心点である[x,y]=[50,50]を与えているため、ノードに囲まれていないエリアでは特に測位精度が悪くなり、タグの追跡ができていない。
【0090】
図11(b)は、本発明の階層型粒子フィルタによる測位結果である。粒子数は、第1階層がN=1000、第2階層がN’=50であり、粒子フィルタの初期パラメタは、ν2=3、η2=0.5、μ2=10とした。従来方式に対し、測位精度が大幅に改善されていることが確認できる。
【0091】
図12に、第1階層での誤差補正の効果を示す評価として、ノード#1:[x,y]=[25,25]およびノード#2:[x,y]=[25,75]からのタグまでの観測距離に含まれる誤差が、トラッキングの過程でどのように変化しているかを示す。伝搬環境はσ2=5、λ=2のNLOS環境である。点線で示した従来方式は、NLOS補償を行わないために大きな異常値を頻繁に生じている。一方、実線で示した提案方式では、第1階層でのNLOS補償の効果で誤差が小さく抑えられていることがわかる。
【0092】
また、図13に、伝搬路を特徴づける2つのパラメタσ,λのうち、NLOS伝搬による影響を表すλを変化させた場合の二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)特性を示す。λが大きくなるほど劣悪な伝搬環境となり、いずれの方式も測位精度が劣化している。しかし、本発明による階層型粒子フィルタは、従来方式に比べ、その劣化の度合いが非常に小さく、環境変化に対して非常にロバストなアルゴリズムであることがわかる。
【0093】
(その他の実施形態)
以上、本発明について、具体的な実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上記の実施形態では、ネットワーク側で移動端末の位置を推定するように構成されているが、ネットワーク側からの信号を受信して、移動端末側で自身の位置を推定するように構成してもよい。この場合、ノードからの信号に、座標情報および時間オフセット情報を含めるようにすることができる。
【0094】
また、ノード数の多いネットワークでは、例えば、劣悪な環境にあるノードの観測値を利用しないなど、ノードを選択的に利用してもよい。さらに、粒子数を適応的に変化させ、静的で良好な環境のときは粒子数を減らして演算量を削減し、マルチパスが顕著な場合には粒子数を増やして測位精度を高めることができる。
【0095】
また、本発明の原理は、TDOA型の測位システムだけでなく、TOA(Time Of Arrival)型やRSS(Received Signal Strength)型の測位システムにも適用できる。この場合には、式(6)で用いたモデルを変更する必要があるが、階層型の粒子フィルタという構成はそのまま適用可能である。
【0096】
このように、ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明を利用することができる分野には、例えば、ホームネットワーク、オフィスオートメーション、ショッピングセンタ、医療環境、港湾施設、ITSなどが挙げられる。
【0098】
ホームネットワークでは、上述のとおり、ユビキタス社会の浸透に伴って家庭内のデジタル家電やモバイル機器のネットワーク化が進むと考えられ、本発明は、このようなホームネットワーク内での端末位置検出に応用可能である。
【0099】
オフィスオートメーションについては、オフィス環境において、有線・無線LANによるネットワークが構築されているケースが多く、本発明の測位システムをこのようなLAN基地局によるネットワークに組み込むことで、端末の位置検出が可能となる。
【0100】
スーパーマーケットなどのショッピングセンタでは、商品管理のための位置情報認識へのニーズがある。また、店内でのショッピングカートの位置把握に基づいた集客率の把握、商品配置への応用なども潜在的なニーズといえる。店内に何箇所か基地局を設け、商品やカートに設置した端末からの信号を受信して測位を行うようなアプリケーションに本発明を応用することができる。
【0101】
病院等の医療施設においては、医薬品の管理や患者の位置把握へのニーズが高く、本発明をこのような分野に適用することが可能である。また、今日の高齢化社会においては、家庭内で介護をおこなうことも多く、高齢者や病人の位置把握が可能なホームネットワークやセキュリティネットワークが求められており、本発明の適用が可能な分野である。
【0102】
港湾施設においては、コンテナ等の位置把握へのニーズが高い。無線LANや電源線などによるネットワークを構築しやすい施設であり、例えばコンテナを移動端末として本発明を適用することができる。
【0103】
ITS(高度交通システム)の一環として、車両の位置情報を識別する技術が高い注目を浴びているが、現状では、個々の車がGPSによって自らの位置を認識する技術にとどまっている。しかし、将来的には、路側帯や信号機、そして車両をネットワーク化するITSインフラの構築も検討されている。本発明は、例えばITSネットワークと個々の車両とが相互に位置を認識するためのツールとして適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】従来のGPSによる測位システムの一例を示す図ある。
【図2】一般的なTDOAによる測位システムの一例を示す図である。
【図3】室内環境におけるユビキタスセンサネットワークの一例を示す図である。
【図4】センサネットワークにおける測位システムのシステムモデルを示す図である。
【図5】図4のシステムモデルに基づく従来の測位プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図6】図4のシステムモデルに基づく本発明の測位プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図7】従来のニュートン法を用いた測位信号処理部の構成例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態による測位信号処理部の構成例を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態による第1階層の粒子フィルタの推定プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態による第2階層の粒子フィルタの推定プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図11】計算機シミュレーションによる測位結果を示すグラフであり、図11(a)は従来のニュートン法によるものであり、図11(b)は本発明の階層型粒子フィルタによるものである。
【図12】移動端末のトラッキング過程で第1階層の粒子フィルタによる誤差補正の効果を示すグラフである。
【図13】見通し外環境における平均遅延時間λを変化させたときの二乗平均平方根誤差の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0105】
10 車両
11〜14 衛星
15 端末
21〜24 基地局
26 信号処理部
40 端末
41〜44 ノード
46 信号処理部
47−1〜4 バッファ
48−1〜6 TDOA算出部
49 メモリ
70 ニュートン法位置推定部
81−1〜6 第1の粒子フィルタ
82 位置推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークにおける端末の位置検出に関する。より具体的には、本発明は、センサネットワークにおいて、階層型粒子フィルタを用いて端末の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地上の位置を決定する手段として最も一般的な方法は、GPS(Global Positioning System)である。これは、図1に示すように、受信機(例えば、車両10)が地球を周回する軌道上の3個以上の衛星11〜14から放射されるマイクロ波を受信し、各衛星との擬似距離により受信機の3次元的な位置を決定するものである。このようなGPS測位装置は、例えば特許文献1に開示されている。GPSはその性質上、広い場所での位置の確定を目的としたものであり、衛星からの電波が届かない室内(例えば、端末15)では使用することができない。
【0003】
GPSなどの衛星システムを用いずに、電波の到来時間差(TDOA:Time Difference of Arrival)を利用した測位システムが特許文献2に説明されている。これは、図2に示すように、位置が未知である発信機(例えば、移動端末20)から発信される電波を、位置が既知である受信機(例えば、基地局21〜24)が受信し、各受信機での受信時刻の差を計測して発信機の位置を推定する技術である。また、この技術は、図3に示すユビキタスセンサネットワークのように、衛星からの電波が届かず、GPS技術を利用することができない室内環境(例えば、医療、オフィス、家庭環境)においても使用することができる。
【0004】
TDOAを利用した測位では、図2に示すように、未知の座標[xp,yp,zp]に位置する端末20からの信号を複数の基地局21〜24で受信する。各基地局の座標[xi,yi,zi](図2では、iは1から4の整数)は既知であるとし、基地局と端末の時刻同期がとれない環境を考える。図2のセルラーシステムや、図3のユビキタスネットワークなどでは、非同期環境が想定されることが多い。このような非同期環境においては、各基地局での受信時刻差(TDOA)ti−tjを利用して測位を行う。具体的には、2つの基地局[xi,yi,zi]、[xj,yj,zj]および端末[xp,yp,zp]の座標の関係は、TDOA情報を用いて次式で表される。
(1) c・(ti−tj)=di−dj
ここで、cは光速であり、diは端末から基地局までの距離を表し、次式のように定義される。
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)および(2)で表される関係式は、基地局のペアの数だけ成り立つため、それらの非線形連立方程式を解くことで、端末の座標[xp,yp,zp]を推定することができる。
【0007】
しかし、実際問題として、観測値にはノイズが含まれるため、測位にあたっては近似的な値を推定することとなる。ノイズ源としては、基地局の受信機での熱雑音やクロックのオフセットに加え、電波が端末から見通し外(NLOS:None Line of Sight)の伝搬路を通って到来するマルチパスによる影響が挙げられる。近似値の導出方法としては、非特許文献1および2にNewton法(Taylor−Series−Algorithmとも称される)が紹介されているが、この方法は、NLOS伝搬路に起因するマルチパス問題に脆弱であるという問題がある。
【0008】
TDOA型測位における近似的な解の導出方法として、非特許文献3では、マルチパス伝搬路をモデル化し、最適な到来時間を推定する測位方法が紹介されている。この方法は、伝搬路のモデル化が正確に行える場合に有効であることが知られている。
【0009】
【特許文献1】特許第3643874号明細書
【特許文献2】米国特許第5327144号明細書
【非特許文献1】W. H. Foy, “Position-Location Solutions by Taylor-Series Estimation,” IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., vol. AES-12, no. 2, pp. 187-194, Mar., 1976.
【非特許文献2】H. Kong, Y. Kwon and T. Sung, “Comparisons of TDOA Triangulation Solutions for Indoor Positioning,” in Proc. International Symposium on GNSS, December, 2004.
【非特許文献3】川端 学,朝生 雅人,斎川 貴彦,服部 武,“セルラーシステムにおける最ゆう推定法に基づくTDOAシステムの位置検出性能評価,” 電子情報通信学会論文誌(B),vol.J87−B,no.2,pp.285−291,February,2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術には次のような問題があった。すなわち、従来技術では、GPSのような外部システムに依存したものが多く、装置コストが増大するだけでなく、GPS信号の届かない屋内環境では使用できないという問題があった。また、従来技術では、発信機と受信機の間の伝搬路が見通し外の場合、複数の伝搬路によって電波が到来するマルチパスの影響を受け、測位精度が劣化するという問題があった。マルチパスによる測位精度の劣化を補償するために、従来技術では、マルチパス伝搬路を正確にモデル化して推定を行っていた。しかし、現実問題として、伝搬路の正確なモデル化は難しく、演算量の増大も招いていた。また、従来技術では、精度を向上させるために、数多くの受信機を使って測位を行っている。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、マルチパスの影響を低減し、精度の高い測位方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、端末の位置を推定するシステムであって、所定の信号を放射する端末と、位置情報が既知である複数のノードであって、前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測する複数のノードと、各ノードから前記受信時刻を受信して、各ノード間の受信時刻差を求め、前記受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシステムであって、前記信号処理部は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシステムであって、前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定する装置であって、端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得る手段と、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正する手段と、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の装置であって、前記推定する手段は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の装置であって、前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、端末の位置を推定する方法であって、端末が所定の信号を放射することと、位置情報が既知である複数のノードが前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測することと、各ノードの受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求めることと、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することとを備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の方法であって、前記端末の位置を推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定するための方法であって、端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得ることと、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の方法であって、前記推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、GPSに依存しない測位システムの実現が可能となる。具体的には、各ノード(基地局)の座標情報が既知であるという条件のもと、GPSに依存することなく移動端末の位置推定が実現可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、見通し外環境、特にマルチパスの問題に対する耐性が得られる。本発明は、見通し環境および見通し外環境のいずれにおいても何等の変更なく適用することができ、特に、見通し外環境において従来の方式に比べて優れた測位精度を発揮する。
【0024】
また、本発明によれば、伝搬路モデルを必要とすることなく精度の良い測位システムが可能となる。すなわち、数学モデル・確率モデルによって表される伝搬路特性が未知な状況においても測位が可能である。本発明の一実施形態では、「観測情報の時間変化は一定である」という非常にシンプルな前提条件をおくことで、マルチパスの影響を軽減することができる。
【0025】
また、本発明によれば、測位システムのコストを削減できるという効果もある。測位精度が向上する分、ノードの数を減らすことができる。また、階層型の構成をとることによって、測位信号処理を分散させることが可能である。すなわち、第1層の処理を各ノードで行い、第2層の処理を測位サーバで実施するといった分散処理が実現できる。このような信号処理の負担の軽減は、ハードウェア的な制約の大きいセンサネットワークなどで特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。この実施形態では、主にセンサネットワークでの測位について説明するが、本発明は、センサネットワークに限らず、セルラー、その他のネットワークにも適用することができる。
【0027】
(システムモデルおよび測位プロセス)
図4に、センサネットワークにおける測位システムのシステムモデルを示す。このシステムモデルは、位置が未知のタグ40と、位置が既知のノード41〜44とから構成されている。測位信号処理部46は、例えばセンサネットワークの測位サーバに実装され、ノード41〜44からの受信時刻情報t1〜t4に基づいてTDOA情報を求め、タグ40の位置を推定する。
【0028】
図5に、図4のシステムモデルに基づく従来の測位プロセスの一例を示す。この測位プロセスでは、タグ40が所定の信号を送信し(ステップ502)、各ノード41〜44がタグ40から送信された信号を受信し、受信時刻を記録する(ステップ504)。この受信時刻に関する情報は、各ノードから測位信号処理部46へ転送され、そこで各ノード間の受信時刻差(TDOA)が算出される(ステップ506)。測位信号処理部46は、算出したTDOA情報を用いてニュートン法によるタグ40の位置推定を行う(ステップ508)。
【0029】
これに対して、図6に、図4のシステムモデルに基づく本発明の測位プロセスの一例を示す。この測位プロセスでは、タグ40が所定の信号を送信し(ステップ602)、各ノード41〜44がタグ40から送信された信号を受信し、受信時刻を記録する(ステップ604)。この受信時刻に関する情報は、各ノードから測位信号処理部46へ転送され、そこで各ノード間の受信時刻差が算出される(ステップ606)。測位信号処理部46は、算出したTDOA情報を粒子フィルタ(PF:Particle Filter)で処理し、伝搬路のマルチパスによる誤差を補正する(ステップ608)。測位信号処理部46は、補正したTDOA情報を用いて粒子フィルタによるタグ40の位置推定を行う(ステップ610)。
【0030】
図7に、従来のニュートン法を用いた測位信号処理部の構成例を示す。この測位信号処理部46は、各ノードからの受信時刻情報(t1〜t4)を格納するバッファ47−1〜4と、各ノード間の受信時刻差を算出するTDOA算出部48−1〜4と、各ノードの位置情報を格納したメモリ49と、算出したTDOA情報および各ノードの位置情報からニュートン法によるタグ40の位置推定を実行するニュートン法位置推定部70とから構成されている。一般に、TDOA算出部48−1〜4で得られたTDOA情報には観測誤差が含まれている。従来のニュートン法を用いた測位では、この誤差に対して何の補正を行うことなく位置推定を行うため、推定精度が劣化するという問題がある。特に、ニュートン法は、測定誤差の勾配を最小にするような線形探索を実行するアルゴリズムであるため、誤差の大きい観測値の影響を受けやすい。
【0031】
次に、図8に、本発明の一実施形態による測位信号処理部の構成例を示す。この測位信号処理部46は、各ノードからの受信時刻情報(t1〜t4)を格納するバッファ47−1〜4と、各ノード間の受信時刻差を算出するTDOA算出部48−1〜4と、各ノードの位置情報を格納したメモリ49と、算出したTDOA情報の補正を行う粒子フィルタ81−1〜6と、補正したTDOA情報および各ノードの位置情報から粒子フィルタによるタグ40の位置推定を実行するPF位置推定部82とから構成されている。本発明の一実施形態による測位では、粒子フィルタと呼ばれるデジタルフィルタアルゴリズムを使用して、TDOA算出部48−1〜4で得られたTDOA情報の観測誤差を補正し、位置推定を行う。そのため、従来技術に比して推定精度が向上する。また、図8の構成では、粒子フィルタを2段構成とすることによって、マルチパス環境下での測位精度の改善が図られている。以下、粒子フィルタを用いた測位システムについて詳述する。
【0032】
(粒子フィルタを用いた測位システム)
本発明の一実施形態によるタグ40は、自己のIDを付加した電波を定期的に放射する。ノード41〜44は、タグからの信号を受信し、タグのIDを識別する。各ノードは、タグのIDと信号の受信時刻を測位信号処理部46に転送する。また、ノードは、必要に応じて自己の位置情報を測位信号処理部46に転送してもよい。測位信号処理部46は、信号の受信時刻から各ノード間のTDOAを算出する。ここで、ノード#iでの受信時刻をti、ノード#jでの受信時刻をtjとすると、このノード間のTDOAは、ti−tjとなる。このTDOAに高速cを乗算すると、次式からノード#iおよび#jとタグとの距離の差Δdが得られる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで、diは、式(2)で定義されるようにタグからノード#iまでの距離を表し、djは、同様にタグからノード#jまでの距離を表す。式(3)は、理想環境での関係式であり、実環境では次式のようにマルチパスに起因する誤差eが加わる。
【0035】
【数3】
【0036】
従って、実際の観測値Δd’は、真の距離差Δdに対してΔd’=Δd+eという関係にある。そこで、本発明では、粒子フィルタによって観測値Δd’から真の値Δdを推定して、観測値Δd’から誤差を軽減し、真の値Δdに近い補正値Δd”を導出する。
【0037】
(第1階層の粒子フィルタ)
粒子フィルタは、状態空間モデルでモデル化された状態ベクトルを推定するための信号処理アルゴリズムである。その推定プロセスを図9に示す。本明細書では、この処理を「第1階層の粒子フィルタ」と呼ぶ。
【0038】
図9のステップ902において、初期分布に基づいてN個の粒子、すなわちN個のランダムベクトルを生成する。粒子フィルタでは、推定対象の状態ベクトルを「粒子」と呼び、その動作を解析することで最終的な推定値を得る。ここで、Nは任意に設定することができ、一般に、Nが大きいほど特性が改善するが、演算量が増加することになる。
【0039】
初期分布に従うN個の粒子
【0040】
【数4】
【0041】
は、以下のようなベクトル形式で表される。
【0042】
【数5】
【0043】
ここでx(i)(0)は、初期分布に従うランダム変数である。初期分布としては、平均Δd’(1)、分散ν2のガウス分布を与える。なお、Δd’(1)は初期時刻t=1において実際に得られた観測値である。
【0044】
一般に、時刻tにおける粒子の状態ベクトルXt(i)に含まれる2つの要素は、現時点(時刻t)での観測値Δd’(t)と、一時点前(時刻t−1)での補正値Δd”(t−1)を表す。初期状態(t=1)においては、時刻t−1が存在しないので、2つの要素とも、時刻t=1での観測値Δd’(1)を平均とする乱数を用いている。
【0045】
ステップ904において、現在の分布から一期先の予測を行う。具体的には、現時点での観測値Δd’(t)と一時点前の補正値Δd”(t−1)を用いて、一時点先の観測値を補正する。ここで、観測値の時間変化を予測するための事前モデルとして、「観測される距離情報Δd’(t)の時間変化は一定である」という仮定をおく。移動端末であるタグの移動が緩やかな場合、この仮定は妥当なものであり、マルチパスに起因する急激な異常値を除去する効果がある。この仮定は、次式で定義される。
(6) Δd’(t+1)−Δd’(t)=Δd’(t)−Δd’(t−1)
この仮定に基づいて、状態ベクトル
【0046】
【数6】
【0047】
を一時点だけ遷移させ、新たな粒子群
【0048】
【数7】
【0049】
を得る。その状態遷移方程式は下記のようになる。
【0050】
【数8】
【0051】
ここで、システムノイズベクトルVtは、主に熱雑音やクロックのオフセットなどを表し、平均0、分散ν2のガウス分布を与える。また、式(7)における状態ベクトルXt(i)の要素は、時刻tでの観測値Δd’(t)および一時点前の推定結果Δd”(t−1)であり、次式のように表される。
【0052】
【数9】
【0053】
次に、ステップ906において、観測値Δd’(t)および観測ノイズ分布を用いて、個々の粒子Pt(i)の尤度αt(i)を算出する。
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、観測ノイズ分布r(x;0,η2)は、主にマルチパスの影響を表し、次式で定義されるコーシー分布を与える。
【0056】
【数11】
【0057】
式(9)における確率変数Δd’(t)−[1 0]・Pt(i)は、一期先予測による予測値と、実際の観測値との誤差を示している。誤差が大きな粒子ほど尤度は小さくなり、誤差の小さな粒子ほど尤度は大きくなる。
【0058】
次に、ステップ908において、フィルタ分布の算出を行う。具体的には、次式に基づいて粒子Pt(i)をリサンプルする。
【0059】
【数12】
【0060】
この結果、一期先の状態を表現する粒子群
【0061】
【数13】
【0062】
を得る。
【0063】
ステップ910において、リサンプリング後の各粒子の状態量を平均することによって、その時点での観測値の補正値が得られる。そして、この補正値は、ステップ904において、一期先の予測のために用いられる。
【0064】
このように、ステップ904からステップ908を繰り返すことで、観測値に含まれたマルチパス成分の影響が軽減された補正値を得ることができる。
【0065】
(第2階層の粒子フィルタ)
次に、第1階層の粒子フィルタによる上記プロセスによって補正された観測値を用いて、移動端末であるタグの位置を推定する。この推定プロセスを図10に示す。本明細書では、この処理を「第2階層の粒子フィルタ」と呼ぶ。
【0066】
図10のステップ1002において、初期推定座標の設定を行う。粒子フィルタによる位置推定では、複数の2次元座標を初期推定候補として設定し、これらを「粒子」と呼ぶ。個々の粒子の持つ座標の信頼性を吟味しながら真の座標へと絞り込んでいく。ここでは粒子数をN’個とし、その初期状態をXn(i)={xi(n),yi(n)},i=1,...,N’という2次元座標で定義する。この2次元座標は、測位エリア内を一様に分布するN’個のランダム2次元変数で与える。また、パラメタnは後述するステップ1016の繰り返し数をカウントする変数であり、初期設定の段階では、n=0とする。
【0067】
ステップ1004において、ステップ1002で設定した粒子の初期座標に対し、各ノードとの距離の差を計算する。たとえば、粒子{xi(n),yi(n)}とノード#k[xk,yk]およびノード#j[xj,yj]との間の距離の差hkj(i)は、次式によって算出される。
【0068】
【数14】
【0069】
このような距離差を、すべてのノードペアに対して求める。ノード数が4個の場合、ノードペアは4C2=6個となるため、距離の差hkj(i)も6個得られる。簡単のため、この距離差をh1(i),h2(i),...,h6(i)と記す。
【0070】
次に、ステップ1006において、各粒子の尤度を算出する。具体的には、ステップ1004で求まった距離差に対し、実際の観測によって得られた距離情報y1,...,y6(本実施形態では、第1階層で求めた補正値)と比較し、2乗誤差E(i)を求める。
【0071】
【数15】
【0072】
この誤差情報をもとに、各粒子の尤度αn(i)を算出する。
【0073】
【数16】
【0074】
ここで、r(x;0,μ2)は、平均0、分散μ2のガウス分布を与える。確率変数として誤差E(i)を与え、E(i)が小さい粒子ほど大きな尤度を持つことになる。
【0075】
次に、ステップ1008において、ステップ1006で求まった尤度を次式により正規化する。
【0076】
【数17】
【0077】
次に、ステップ1010において、タグ座標の推定値[Xn’ Yn’]を次式により算出する。
【0078】
【数18】
【0079】
この式は、尤度を重みとして全粒子の状態量(=2次元座標)の線形和をとったものである。
【0080】
ステップ1012において、次式で表される確率に基づいて、粒子群
【0081】
【数19】
【0082】
をリサンプリングし、次の繰り返しに用いる。
【0083】
【数20】
次に、ステップ1014において、リサンプリングの後、粒子の状態量が初期分布で与えられた座標にのみ収束してしまうのを避けるため、粒子の状態量を次式に従って限定的に拡散させる。
【0084】
【数21】
【0085】
ここで、ベクトルW={wx,wy}は、平均0、分散μ2/nに従う2次元ガウス乱数である。
【0086】
そして、ステップ1016において、推定座標が収束するまで、ステップ1004にループバックし、ステップ1004からステップ1014を繰り返すことで、最終的な測位結果が得られる。
【0087】
(評価結果)
次に、本発明の一実施形態による測位特性について、計算機シミュレーションの結果を示し、従来方式との比較を行う。このシミュレーションでは、測位エリアとして100m四方の二次元平面を考え、基地局ノードの数を4個とした。ノードの座標は既知であり、[x,y]=[25,25],[25,75],[75,25],[75,75]という4つの座標に設置した。伝搬環境は、ガウシアン雑音による観測雑音と、指数分布に従うマルチパス遅延の混在する環境を設定した。各ノードで観測される距離情報に対し、平均0、分散σ2のガウシアン雑音と、平均λの指数分布遅延が加算されるとする。
【0088】
タグの移動軌跡としては、屋内環境で廊下に沿って直進ないし90度のターンを繰り返しながら、一定速度(V=1m/s)で160m移動する軌跡を与える。タグの軌跡は図11(a)および(b)に実線として示した。伝搬環境は、いずれの場合もσ2=5、λ=2としている。
【0089】
図11(a)は、従来のニュートン法による測位結果であり、伝搬環境に起因した測定誤差によって大きく測位精度が劣化してしまっていることがわかる。一般にニュートン法は、初期推定値を適切に与えなければ推定値が正しく収束しない。図11(a)では、初期推定値としてノードに囲まれた中心点である[x,y]=[50,50]を与えているため、ノードに囲まれていないエリアでは特に測位精度が悪くなり、タグの追跡ができていない。
【0090】
図11(b)は、本発明の階層型粒子フィルタによる測位結果である。粒子数は、第1階層がN=1000、第2階層がN’=50であり、粒子フィルタの初期パラメタは、ν2=3、η2=0.5、μ2=10とした。従来方式に対し、測位精度が大幅に改善されていることが確認できる。
【0091】
図12に、第1階層での誤差補正の効果を示す評価として、ノード#1:[x,y]=[25,25]およびノード#2:[x,y]=[25,75]からのタグまでの観測距離に含まれる誤差が、トラッキングの過程でどのように変化しているかを示す。伝搬環境はσ2=5、λ=2のNLOS環境である。点線で示した従来方式は、NLOS補償を行わないために大きな異常値を頻繁に生じている。一方、実線で示した提案方式では、第1階層でのNLOS補償の効果で誤差が小さく抑えられていることがわかる。
【0092】
また、図13に、伝搬路を特徴づける2つのパラメタσ,λのうち、NLOS伝搬による影響を表すλを変化させた場合の二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)特性を示す。λが大きくなるほど劣悪な伝搬環境となり、いずれの方式も測位精度が劣化している。しかし、本発明による階層型粒子フィルタは、従来方式に比べ、その劣化の度合いが非常に小さく、環境変化に対して非常にロバストなアルゴリズムであることがわかる。
【0093】
(その他の実施形態)
以上、本発明について、具体的な実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上記の実施形態では、ネットワーク側で移動端末の位置を推定するように構成されているが、ネットワーク側からの信号を受信して、移動端末側で自身の位置を推定するように構成してもよい。この場合、ノードからの信号に、座標情報および時間オフセット情報を含めるようにすることができる。
【0094】
また、ノード数の多いネットワークでは、例えば、劣悪な環境にあるノードの観測値を利用しないなど、ノードを選択的に利用してもよい。さらに、粒子数を適応的に変化させ、静的で良好な環境のときは粒子数を減らして演算量を削減し、マルチパスが顕著な場合には粒子数を増やして測位精度を高めることができる。
【0095】
また、本発明の原理は、TDOA型の測位システムだけでなく、TOA(Time Of Arrival)型やRSS(Received Signal Strength)型の測位システムにも適用できる。この場合には、式(6)で用いたモデルを変更する必要があるが、階層型の粒子フィルタという構成はそのまま適用可能である。
【0096】
このように、ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明を利用することができる分野には、例えば、ホームネットワーク、オフィスオートメーション、ショッピングセンタ、医療環境、港湾施設、ITSなどが挙げられる。
【0098】
ホームネットワークでは、上述のとおり、ユビキタス社会の浸透に伴って家庭内のデジタル家電やモバイル機器のネットワーク化が進むと考えられ、本発明は、このようなホームネットワーク内での端末位置検出に応用可能である。
【0099】
オフィスオートメーションについては、オフィス環境において、有線・無線LANによるネットワークが構築されているケースが多く、本発明の測位システムをこのようなLAN基地局によるネットワークに組み込むことで、端末の位置検出が可能となる。
【0100】
スーパーマーケットなどのショッピングセンタでは、商品管理のための位置情報認識へのニーズがある。また、店内でのショッピングカートの位置把握に基づいた集客率の把握、商品配置への応用なども潜在的なニーズといえる。店内に何箇所か基地局を設け、商品やカートに設置した端末からの信号を受信して測位を行うようなアプリケーションに本発明を応用することができる。
【0101】
病院等の医療施設においては、医薬品の管理や患者の位置把握へのニーズが高く、本発明をこのような分野に適用することが可能である。また、今日の高齢化社会においては、家庭内で介護をおこなうことも多く、高齢者や病人の位置把握が可能なホームネットワークやセキュリティネットワークが求められており、本発明の適用が可能な分野である。
【0102】
港湾施設においては、コンテナ等の位置把握へのニーズが高い。無線LANや電源線などによるネットワークを構築しやすい施設であり、例えばコンテナを移動端末として本発明を適用することができる。
【0103】
ITS(高度交通システム)の一環として、車両の位置情報を識別する技術が高い注目を浴びているが、現状では、個々の車がGPSによって自らの位置を認識する技術にとどまっている。しかし、将来的には、路側帯や信号機、そして車両をネットワーク化するITSインフラの構築も検討されている。本発明は、例えばITSネットワークと個々の車両とが相互に位置を認識するためのツールとして適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】従来のGPSによる測位システムの一例を示す図ある。
【図2】一般的なTDOAによる測位システムの一例を示す図である。
【図3】室内環境におけるユビキタスセンサネットワークの一例を示す図である。
【図4】センサネットワークにおける測位システムのシステムモデルを示す図である。
【図5】図4のシステムモデルに基づく従来の測位プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図6】図4のシステムモデルに基づく本発明の測位プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図7】従来のニュートン法を用いた測位信号処理部の構成例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態による測位信号処理部の構成例を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態による第1階層の粒子フィルタの推定プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態による第2階層の粒子フィルタの推定プロセスの一例を示すフローチャートである。
【図11】計算機シミュレーションによる測位結果を示すグラフであり、図11(a)は従来のニュートン法によるものであり、図11(b)は本発明の階層型粒子フィルタによるものである。
【図12】移動端末のトラッキング過程で第1階層の粒子フィルタによる誤差補正の効果を示すグラフである。
【図13】見通し外環境における平均遅延時間λを変化させたときの二乗平均平方根誤差の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0105】
10 車両
11〜14 衛星
15 端末
21〜24 基地局
26 信号処理部
40 端末
41〜44 ノード
46 信号処理部
47−1〜4 バッファ
48−1〜6 TDOA算出部
49 メモリ
70 ニュートン法位置推定部
81−1〜6 第1の粒子フィルタ
82 位置推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末の位置を推定するシステムであって、
所定の信号を放射する端末と、
位置情報が既知である複数のノードであって、前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測する複数のノードと、
各ノードから前記受信時刻を受信して、各ノード間の受信時刻差を求め、前記受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記信号処理部は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムであって、
前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とするシステム。
【請求項4】
位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定する装置であって、
端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得る手段と、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正する手段と、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する手段と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置であって、
前記推定する手段は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の装置であって、
前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする装置。
【請求項7】
端末の位置を推定する方法であって、
端末が所定の信号を放射することと、
位置情報が既知である複数のノードが前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測することと、
各ノードの受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求めることと、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記端末の位置を推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする方法。
【請求項9】
位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定するための方法であって、
端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得ることと、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定すること
を備えることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする方法。
【請求項1】
端末の位置を推定するシステムであって、
所定の信号を放射する端末と、
位置情報が既知である複数のノードであって、前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測する複数のノードと、
各ノードから前記受信時刻を受信して、各ノード間の受信時刻差を求め、前記受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記信号処理部は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムであって、
前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とするシステム。
【請求項4】
位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定する装置であって、
端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得る手段と、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正する手段と、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定する手段と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置であって、
前記推定する手段は、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の装置であって、
前記第1の粒子フィルタは、前記受信時刻差の時間変化が一定であるとしてモデル化されていることを特徴とする装置。
【請求項7】
端末の位置を推定する方法であって、
端末が所定の信号を放射することと、
位置情報が既知である複数のノードが前記所定の信号を受信し、受信時刻を計測することと、
各ノードの受信時刻から各ノード間の受信時刻差を求めることと、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記端末の位置を推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする方法。
【請求項9】
位置情報が既知である複数のノードを含むネットワークにおける端末の位置を推定するための方法であって、
端末と各ノード間の信号の受信時刻差を得ることと、
第1の粒子フィルタを用いて前記受信時刻差を補正することと、
前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定すること
を備えることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記推定することは、第2の粒子フィルタを用いて前記補正した受信時刻差および各ノードの位置情報から前記端末の位置を推定することを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−128726(P2008−128726A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311726(P2006−311726)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り センサネットワーク(SN研究会)SN2006−18〜37 社団法人電子情報通信学会センサネットワーク時限研究専門委員会 2006年5月18〜19日開催 The Laboratory of GeoSensor Networks. 2nd International Conference on GeoSensor Networks. 2006年10月1日配布
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り センサネットワーク(SN研究会)SN2006−18〜37 社団法人電子情報通信学会センサネットワーク時限研究専門委員会 2006年5月18〜19日開催 The Laboratory of GeoSensor Networks. 2nd International Conference on GeoSensor Networks. 2006年10月1日配布
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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