説明

粒子加速装置

【課題】放射線による低電力波形生成器の停止、誤動作を防止し、安定した動作を実現できる粒子加速装置を安価に得る。
【解決手段】低電力波形生成器4とこの低電力波形生成器4の低電力出力を増幅する増幅器3を有する電源装置2、及び増幅器3の出力により荷電粒子を加速する加速空洞1を備え、低電力波形生成器4は加速空洞1で荷電粒子が加速されるようにコンピュータ8で制御される粒子加速装置において、加速空洞1と増幅器3を放射線管理区域に設置すると共に、コンピュータ8を有する低電力波形生成器4を放射線管理区域外に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子や陽子、あるいは重粒子などの荷電粒子を加速して高エネルギーの粒子ビームを生成する粒子加速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子加速装置は、電子や陽子、あるいは重粒子などの荷電粒子を加速して高エネルギーの粒子ビームを生成する装置である。一般に粒子加速装置は、高周波電力により励振され、内部に配置された電極間に電場を発生し、この電場によって荷電粒子を加速する加速空洞と、この加速空洞に高周波電力を供給する電源装置を備えている(例えば特許文献1参照)。電源装置は一般に振幅、周波数および位相等を制御した低電力の波形を生成する低電力波形生成部と、低電力波形生成部の出力波形を粒子の加速に必要な電力まで増幅する増幅器を備えている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−57898号公報(段落0009−0015、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、デジタル信号の演算処理装置を有する低電力波形生成器は、加速空洞を配置する放射線管理区域に設置する場合、粒子加速装置によって加速されたビームにより発生する放射線の影響により停止や誤動作し、電源装置は適切な電力を加速空洞に供給できず、正常に粒子を加速できなくなるという問題がある。このため電源装置を鉛等の金属板で覆い、放射線を遮蔽する場合があるが、金属板の設置費用が必要となり製造コストが大きくなるという問題がある。また、電源装置を非放射線管理区域に配置する場合もあるが、加速空洞と電源装置の距離が大きくなるため、伝送線路での電力ロスが大きくなるという問題がある。また、加速空洞に必要な大きな高周波電力を伝送する同軸管や導波管は一般に高価であるため、伝送線路が長くなることにより、製造コストが大きくなる。さらに、放射線管理区域と非管理区域を隔てる遮蔽壁を出力伝送路が貫通するため、遮蔽壁に貫通穴が必要となる。このとき、遮蔽壁の遮蔽能力が低下するため、十分な効果を得るためには、貫通穴および貫通穴内の同軸管を屈曲させることや、遮蔽壁をより厚くする等の対策が必要となる場合がある。
【0005】
この発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、安定した動作を実現する粒子加速装置を安価に得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる粒子加速装置は、低電力波形生成器とこの低電力波形生成器の低電力出力を増幅する増幅器を有する電源装置、及び前記増幅器の出力により荷電粒子を加速する加速空洞を備え、前記低電力波形生成器は前記加速空洞で荷電粒子が加速されるようにコンピュータで制御される粒子加速装置において、前記加速空洞と前記増幅器を放射線管理区域に設置すると共に、前記コンピュータを有する前記低電力波形生成器を放射線管理区域外に設置することを特徴とする粒子加速装置。
【発明の効果】
【0007】
この発明の粒子加速装置によれば、放射線による低電力波形生成器の停止、誤動作を防止し、安定した動作を実現できる粒子加速装置を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1である粒子加速装置を示すブロック構成図である。図において、粒子加速装置は、加速空洞1とその電源装置2を備え、電源装置2は増幅器3と低電力波形生成器4を備えている。ここで、加速空洞1と電源装置2の増幅器3は放射線管理区域内に、電源装置2の低電力波形生成器4は非放射線管理区域に設置されている。
【0009】
低電力波形生成器4のダイレクトデジタルシンセサイザ5は、基準信号発生器6から出力される基準信号7と、コンピュータ8から出力される命令信号9に従い、低電力出力10を増幅器3に供給する。このとき、コンピュータ8は加速空洞1内に発生する電磁場が効率よく粒子を加速するために、ダイレクトデジタルシンセサイザ5の低電力出力10の波形が適切となるように、フィードバック制御信号11や、外部信号12によりメモリ13に設定した値等から、必要な命令信号9を常時、演算処理装置14にて計算し、出力する。フィードバック制御信号11は例えば、加速空洞内の電磁場をモニタする空洞モニタ信号15や、空洞への投入電力16の波形をモニタする空洞投入電力モニタ信号17を信号処理回路18によって比較し、アナログデジタル変換器(A/D変換器)19により処理することにより生成される。増幅器3は低電力出力10を粒子の加速に必要な電力に増幅して加速空洞1に投入する。増幅器3の増幅率は増幅器出力調整器20により調整されている。この投入電力により加速空洞内に発生・制御された電場を用いて、荷電粒子を加速する。
【0010】
実施の形態1によれば、演算処理装置14は非放射線管理区域に設置されているため、高い線量の放射線を浴びることは無い。このため、遮蔽用の金属板等を使用しない場合であっても、放射線を原因とした低電力波形生成器4の停止・誤動作は発生しない。
また、増幅器3は、放射線管理区域内の従来と同等の位置に設置できるため、伝送線路を延長する必要が無い。このため、伝送線路での電力ロスは増大せず、また、同軸管・導波管の追加費用は必要が無い。また、遮蔽壁21を通過する信号は低電力出力10と、空洞モニタ信号15および空洞投入電力モニタ信号17のみであり、これらの信号は低電力であることから伝送線路は線径が小さいものでよく、遮蔽壁21の遮蔽能力の低下を最小限に抑えることができる。
また、図2に示すようにコンピュータ8から出力される命令信号9a,9bは複数であってもよく、命令信号9bの制御対象は増幅器出力調整器20等、低電力波形生成器4の構成要素以外の要素であってもよい。
【0011】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2である粒子加速装置を示すブロック構成図である。なお、各図中において、同一符号は同一又は相当部分を示す。実施の形態2においては、低電力波形生成器4において、基準信号発生器6及びダイレクトデジタルシンセサイザ5を放射線管理区域に設置する点において、実施の形態1とは異なる。低電力波形生成器4を非放射線管理区域に設置するとき、設置場所が限られていることや、粒子加速装置やそれを設置する施設が大規模であることから、加速空洞1や増幅器3との距離を、例えば、数100m程度の長距離とする必要がある場合がある。このとき、低電力波形生成器4を非放射線管理区域に配置すると、増幅器3との距離が大きくなり、低電力波形生成器4の出力伝送路が長くなる。出力伝送路が長くなると低電力出力10の電力ロスが大きくなるため、増幅器3に十分な電力を供給できない場合がある。
【0012】
実施の形態2においては、低電力出力10を発生するダイレクトデジタルシンセサイザ5(低電力波形生成器の出力部)は、放射線管理区域内の増幅器3の近傍に設置する。このため、低電力出力10の伝送線路は従来と同等の長さでよい。そのため、電力ロスを大きくすることなく、放射線による低電力波形生成器の停止、誤動作を防止し、安定した動作を実現できる粒子加速装置を安価に提供することができる。
【0013】
実施の形態3.
図4は、実施の形態3である粒子加速装置を示すブロック構成図である。実施の形態3においては、信号処理回路18、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器19及び、電気信号を光信号に変換する電気/光信号変換器22を放射線管理区域内の加速空洞1の近傍に配置し、光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換器23を低電力波形生成器4に配置した点において、実施の形態1,2とは異なる。
【0014】
実施の形態2で説明したとおり、低電力波形生成器4を非放射線管理区域に配置すると、加速空洞1との距離が大きくなる場合がある。一般に高周波のアナログ信号は伝送線路が長距離となると、ノイズ等の影響を受けやすく、精度よく伝送するのは困難となる。空洞モニタ信号15や空洞投入電力モニタ信号17としてアナログの信号を用い、低電力波形生成器4を非放射線管理区域に配置すると、伝送線路が長距離となり、精度が悪化する場合がある。このとき、電源装置2は精度よく加速空洞1に投入電力16を供給できず、加速空洞は粒子を効率よく加速できないという問題がある。
【0015】
実施の形態3においては、空洞モニタ信号15と空洞投入電力モニタ信号17を、放射線管理区域内の加速空洞近傍に設置した信号処理回路18、A/D変換器19にてデジタルのフィードバック制御用モニタ信号11aに変換する。さらにこの信号を電気/光信号変換器22にて光信号に変換して、光ファイバにより伝送する。光信号を非放射線管理区域に設置された光/電気信号変換器23にて電気のフィードバック制御信号11bに変換し、コンピュータ8に入力する。このため、空洞モニタ信号15や空洞投入電力モニタ信号17の伝送距離が長距離となる場合においても、ノイズ等の影響を受けることなく、精度よくコンピュータ8に入力することができる。実施の形態3においては、デジタルに変換された電気信号をさらに光信号に変換する構成を示したが、電気信号にて送信しても十分な精度を得られる場合があることは言うまでもない。
【0016】
実施の形態4.
図5は、実施の形態4である粒子加速装置を示すブロック構成図である。実施の形態4においては、空洞モニタ信号15と、空洞投入電力モニタ信号17の伝送路は冷却されている。冷却は例えば、図6に示すように伝送路24と同軸の構造となったジャケット25の間を、温度調整機能を有する冷却装置にて温度が一定となるよう冷却された冷却水26が循環することにより達成されている。伝送路24は、内導体27,誘電体28,外導体29と被覆30で構成されている。
【0017】
実施の形態4による作用効果を説明する。一般にアナログ信号の伝送線路において、伝送線路上での電気信号の波長の長さを、伝送線路物理的長さで割った値である電気長は、周囲の温度の影響を受けて変化する。伝送線路の電気長が変化すると、ある時間に信号処理回路に到達する空洞モニタ信号15と、空洞投入電力モニタ信号17の位相が変化する。このため、二つの信号の位相を比較して周波数の制御を行うPLL(Phase Lock Loop)制御等を用いる場合には、伝送線路の電気長の変化の影響を受け、本来の2つの信号の位相差を精度がよく求めることができない場合がある。電気長の変化は一般に、伝送線路が長くなるほど大きくなるため、低電力波形生成器4を非放射線管理区域に配置すると、伝送線路が長距離となり、この影響は大きくなる。実施の形態4においては、空洞モニタ信号15と、空洞投入電力モニタ信号17の伝送路を冷却するため、電気長の変化は小さくなる。このため、伝送路周辺の温度変化による空洞モニタ信号15や空洞投入電力モニタ信号17の位相の変化も小さくすることができ、周囲の温度の変化の影響が小さく、適切に低電力出力10の波形を制御することが可能となる。
【0018】
実施の形態5.
図7は、実施の形態5である粒子加速装置を示すブロック構成図である。実施の形態5において、空洞モニタ信号15と、空洞投入電力モニタ信号17の各伝送路には、これらのモニタ信号を得る場所の近傍(放射線管理区域内の加速空洞の近傍)に設置された発信器31から、モニタ信号と異なる周波数帯の正弦波等の信号を混ぜて、モニタ信号と共に、信号処理回路18へと伝送されている。発信器31から2つの伝送路にそれぞれ投入する2つの信号は、例えば、一つの信号を分岐するなど、ある点において位相が同じ信号又は、位相差が明らか信号である。
【0019】
信号処理回路18においては、空洞モニタ信号15及び空洞投入電力モニタ信号17と、発信器31からの信号とを周波数帯によって分離し、発信器31から2つの伝送路に出力された信号が2つの伝送路を通ったときの位相のずれ(発信器からの信号の位相差)を検出する。このずれた位相分(位相差)を二つのモニタ信号の周波数帯における位相差に換算し、空洞モニタ信号15と空洞投入電力モニタ17のPLL制御等における位相比較時の位相差から差し引くことで補正し、A/D変換器11へと出力する。このとき、二つのモニタ信号の位相差と、発信器31からの信号の位相差はそれぞれA/D変換器11によりデジタル信号に変換され、コンピュータ8へ入力し、コンピュータ8にて位相差を補正してもよい。
【0020】
実施の形態5においては、実施の形態4にて説明したように、2つのモニタ信号の伝送路の電気長が変化した場合であっても、その電気長の変化を、発信器31から2つのモニタ信号の伝送路に、前記モニタ信号と周波数帯の異なる信号をそれぞれ投入し、投入したそれらの信号の位相差で検知し、電気長の変化を補正して低電力波形器が制御される。このため、周囲の温度の変化の影響が小さく、適切に低電力出力10の波形を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1である粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【図2】実施の形態1である他の粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【図3】実施の形態2である粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【図4】実施の形態3である粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【図5】実施の形態4である粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【図6】実施の形態4の粒子加速装置における、冷却された伝送路を示す部分断面図である。
【図7】実施の形態5である粒子加速装置を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 加速空洞 2 電源装置
3 増幅器 4 低電力波形生成器
5 ダイレクトデジタルシンセサイザ 6 基準信号発生器
8 コンピュータ 13 メモリ
14 演算処理装置 18 信号処理回路
19 アナログデジタル変換器 20 増幅器出力調整器
21 遮蔽壁 22 電気/光信号変換器
23 光/電気信号変換器 24 伝送路
25 ジャケット 26 冷却水
27 内導体 28 誘電体
29 外導体 30 被覆
31 発信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低電力波形生成器とこの低電力波形生成器の低電力出力を増幅する増幅器を有する電源装置、及び前記増幅器の出力により荷電粒子を加速する加速空洞を備え、前記低電力波形生成器は前記加速空洞で荷電粒子が加速されるようにコンピュータで制御される粒子加速装置において、
前記加速空洞と前記増幅器を放射線管理区域に設置すると共に、前記コンピュータを有する前記低電力波形生成器を放射線管理区域外に設置することを特徴とする粒子加速装置。
【請求項2】
低電力波形生成器とこの低電力波形生成器の低電力出力を増幅する増幅器を有する電源装置及び、前記増幅器の出力により荷電粒子を加速する加速空洞を備え、前記低電力波形生成器は前記加速空洞で荷電粒子が加速されるようにコンピュータで制御される粒子加速装置において、
前記加速空洞,前記増幅器及び、前記低電力波形生成器の出力部であるダイレクトデジタルシンセサイザを放射線管理区域に設置すると共に、前記低電力波形生成器の前記コンピュータを放射線管理区域外に設置することを特徴とする粒子加速装置。
【請求項3】
前記加速空洞内の電磁場をモニタする空洞モニタ信号、及び前記加速空洞への投入電力をモニタする空洞投入電力モニタ信号によるフィードバック制御にて前記低電力波形生成器が制御されており、前記モニタ信号は前記加速空洞の近傍にてアナログ信号からデジタル信号に変換された信号であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子加速装置。
【請求項4】
前記加速空洞内の電磁場をモニタする空洞モニタ信号、及び前記加速空洞への投入電力をモニタする空洞投入電力モニタ信号によるフィードバック制御にて前記低電力波形生成器が制御されており、前記モニタ信号の伝送路は、温度が一定となるよう冷却されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子加速装置。
【請求項5】
前記加速空洞内の電磁場をモニタする空洞モニタ信号、及び前記加速空洞への投入電力をモニタする空洞投入電力モニタ信号によるフィードバック制御にて前記低電力波形生成器が制御されており、2つの前記モニタ信号の伝送路の電気長の変化を、前記モニタ信号と周波数帯の異なる信号を前記伝送路にそれぞれ投入し、投入したそれらの信号の位相差を検知することにより検出し、前記電気長の変化を補正して前記低電力波形器が制御されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子加速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−153205(P2010−153205A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329925(P2008−329925)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】