説明

粒子線鏡筒および粒子線鏡筒の製造方法

【目的】本発明は、発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒に関し、粒子線鏡筒を金型によって作るので、量産できること、生産コストが低く、研削盤等によって精度を向上させ、従来の複数回の組立て誤差が無くなり、精度が上がるので、精密な粒子線鏡筒の各パーツの生産ができ、粒子線鏡筒を用いた高分解能用の顕微鏡は高分解能エネルギアナライザ等に適用ができる粒子線鏡筒を作成したり、粒子線鏡筒を透明な素材で作成し、利用者は粒子線ビームの走行状態などを直接に見ることを実現することを目的とする。
【構成】レンズを構成する軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割りして一体作成した半割りレンズと、一体作成した半割りレンズの2つを、軸に沿って接合して作成したレンズとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒および粒子線鏡筒の製造方法に関するものである。
【0002】
電子線やイオンなどの荷電粒子線に用いる粒子線鏡筒(以下「EOC」という)は、主に、
(1)小学校から大学に至る教材用走査型電子顕微鏡(以下「SEM)という)
(2)特に核燃料開発現場のホット・セル内で使用する使い捨てSEM
(3)航空機板金の疲労検査用SEM(板金にEOCを真空吸着して用いる)
(4)携帯用EOC
(5)超高分解能EOCおよびMulti EOC(多連装EOC)
などの分野で用いられるものである。以下、荷電粒子線の例として、電子線を用いた静電型電子線鏡筒について詳細に説明する。
【背景技術】
【0003】
従来、荷電粒子線である電子線を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)のレンズ、偏向系などを含む鏡筒およびその電源の模式図を図6に示す。図6の静電レンズ103、106、その絞り104及び静電偏向器102,105について、そのパーツの切削製造と組上法による製造例を図7に示す。
【0004】
図7の(a)はレンズ組立例を示す。図示のレンズ組立例において、z軸対称性を持つ3枚レンズ111より成り、上下2枚の電極をアース電位とし、中間電極に電圧を印加してレンズとする例を示す。中間電極は絶縁体112で電位的に浮かされて、上部電極−絶縁体−中間電極−絶縁体−下部電極という嵌め合い構造をもって、電極孔中心軸がz軸に合うよう、各パーツを切削し、組立ててレンズにする。更にこれをz軸と同芯になるように真空外筒113に取り付けて、レンズアセンブリとなる。
【0005】
この場合、各パーツの切削誤差や、また多数の嵌め合い誤差があり、軸zに対するレンズの中心孔の誤差はある程度大きい(通常、数10μm〜約100μm)ものとなる。このため、高品位レンズを得る場合、各電極の同心度を数μm以下にまで調整しなければならない。
【0006】
図7の(b)は、レンズ絞り組立例を示す。図7の(b)において、レンズに必要な絞り114は、絞りホルダ115に当該絞り114を固定して、これを真空外筒113にはめ合わせるが、上記電極の1枚の場合と同様に、組立て誤差も同様に発生する。
【0007】
図7の(c)は、偏向器の組立例を示す。図7の(c)において、静電型の偏向器(偏向電極)116は対向電極を持つ偏向器であって、z軸対称にある偏向器(偏向電極)116に電圧を印加して電子線を偏向させるもので、絶縁体117でこれを電圧的に浮かせるので、偏向器116は絶縁体117、更に両者をホルダ118に固定し、これを真空外筒113にはめ合わせる。偏向器116をz軸対称にすべきだが、組立て誤差は上記同様に大きい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の図7の(a)のレンズ111、(b)の絞り114、(c)の偏向器116を有する各アセンブリを真空シールを介して積み上げて電子線鏡筒を作成する場合、設計思想にもよるが、これらの要素を一つの真空外筒113の中に積み上げる形式もあるが、これら軸対称に置ける同心度の誤差は大きく、十分な性能をを達成し難いという問題があった。
【0009】
また、上述した従来製造方法で各パーツの軸合わせを個々に行った場合には電子線鏡筒の単体の価格は大変高価となり、中クラスの乗用車から高級車の価格並みにもなってしまうという問題があった。
【0010】
また、上述した従来のレンズ、絞り、偏向器などの同軸度測定による修正調整でも数μm、嵌め合いのみによる仕上がり誤差は最大100μm程度にもなってしまい、十分な性能が得られないという問題もあった。更に、SEMで電子ビームを数nmレベルまで絞る場合、光学レンズと異なって、電子レンズの場合にはその特有の収差の関係でレンズ中心のみしか使用出来ないので、精度の悪いレンズでは収差や軸ずれを引き起こす問題も生じてしまうという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、これらの問題を解決するため、粒子線鏡筒を金型によって作るので、量産できること、生産コストが大変低い。また研削盤によって作成する場合、膨張係数の小さな材料(例えば低膨張ガラス)を用いて飛躍的に精度良く作れること(サブμm)が、従来方法と全く異なる、即ち、複数回の組立て誤差が無くなることで、精度が上がるので、精密な静電型鏡筒の各パーツの生産が可能となり、当該粒子線鏡筒を用いた高分解能用の顕微鏡は高分解能エネルギアナライザ等に適用できる粒子線鏡筒を作成するようにしている。
【0012】
そのため、本発明は、発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒において、レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割りして一体作成した半割りレンズと、一体作成した半割りレンズの2つを軸に沿って接合して作成したレンズとを備えるようにしている。
【0013】
また、レンズを構成する軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割り、および偏向器を構成する複数毎の軸対称偏向板からなる偏向電極を軸に沿って半割りして同時に両者を一体作成した半割りレンズおよび半割り偏向電極と、一体作成した半割りレンズおよび偏向電極の2つを軸に沿って接合して作成したレンズおよび偏向電極とを備えるようにしている。
【0014】
これらの際に、一体成型した半割りレンズあるいは偏向電極あるいは両者を、研削して所望の精度に調整するようにしている。
【0015】
また、レンズおよび偏向器のうちの一方あるいは両者について、軸に対向した部分を予め作成、および軸に対向した部分を除いた半割りしたレンズあるいは偏向器を一体作成した後に、予め作成したレンズあるいは偏向器の軸に対向した部分を挿入および半割りしたレンズあるいは偏向器の2つを軸に沿って接合してレンズあるいは偏向器を作成するようにしている。
【0016】
また、レンズあるいは偏向器について非導電性の材料で一体生成した後、粒子線ビームが走行する軸に対向したレンズあるいは偏向器として使用する部分を導電性材料で導電性に形成するようにしている。
【0017】
また、レンズとして、軸中心に孔を有する3枚の同軸円板とし、電圧を印加する同軸円板を絶縁して電圧を印加するようにしていている。
【0018】
また、偏向器として、軸対称かつ偶数に分割した円筒状電極あるいは平行平板とし、電圧を印加する円筒状電極あるいは平行平板を絶縁して電圧を印加するようにしている。
【0019】
また、レンズあるいは偏向器あるいは両者を一体成型する素材に透明の素材を用い、外部から粒子線ビームの走行状態が見えるようにしている。
【0020】
また、レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を、軸に沿って半割りして一体作成した半割りレンズを作成するステップと、一体作成した半割りレンズの2つを、軸に沿って接合してレンズを生成するステップとを有する粒子線鏡筒の製造方法である。
【0021】
また、レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割り、および偏向器を構成する複数毎の軸対称偏向板からなる偏向電極を軸に沿って半割りして同時に両者を一体作成した半割りレンズおよび半割り偏向電極を作成するステップと、一体作成した半割りレンズおよび偏向電極の2つを軸に沿って接合して作成したレンズおよび偏向電極を生成するステップとを有する粒子線鏡筒の製造方法である。
【0022】
これらの際に、一体成型した半割りレンズあるいは偏向電極あるいは両者を、研削して所望の精度に調整する粒子線鏡筒の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、粒子線鏡筒を金型によって作るので、量産できること、生産コストが大変低く、また研削盤によって所望の精度に作成(調整)することで、膨張係数の小さな材料を用いて飛躍的に精度良く作る(サブμm)ことが可能となり、従来の複数回の組立て誤差が無くなることで、精度が上がるので、精密な粒子線鏡筒の各パーツの生産が可能となり、当該粒子線鏡筒を用いた高分解能用の顕微鏡は高分解能エネルギアナライザ等に適用ができる粒子線鏡筒を作成することができる。
【0024】
また、粒子線鏡筒を透明な素材で作成し、利用者は粒子線ビームの走行状態などを直接に見ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、レンズを構成する軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割り、および偏向器を構成する複数毎の軸対称偏向板からなる偏向電極を軸に沿って半割りして同時に両者を一体作成した半割りレンズおよび半割り偏向電極と、一体作成した半割りレンズおよび偏向電極の2つを軸に沿って接合して作成したレンズおよび偏向電極とを備える粒子線鏡筒を実現した。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の1実施例構造図を示す。以下の実施例では、プラスチックまたはガラスなどの半竹割円筒を金型による射出成型で作成、あるいは研削盤(砥石や砥粒による研削又は研磨)で半円柱から半竹割円筒を作成、あるいは射出成型で作成したものを研削盤で所望の精度が得られるように仕上げて半竹割円筒を作成する場合に、縦に割った竹筒を元の形に戻して粒子線鏡筒を作成する作成方法、即ち半竹割構造の2つの半円筒(図1の(a−1)と(a−2))を接着(図1の(a−3))することによって作成する方法ついて順次詳細に説明する。ここで、半円筒は真空容器に相当し、その中の節は静電レンズを構成する電極に対応するものである。また、粒子線鏡筒を構成するレンズ、偏向器、絞りなどは、目的によって、構成順序や個数が変わるので、例として、3枚の電極から構成されるレンズ(静電レンズ)、1つの絞り、1つの偏向器(2段偏向器)から電子線鏡筒が構成されている例に挙げ、以下順次詳細に説明する。
【0027】
図1の(a)はレンズ(静電レンズ)の構造例を示す。
【0028】
図1の(a−1),(a−2)は、レンズ(静電レンズ)の部分を軸に沿って半分に分割した粒子線鏡筒であって、静電レンズを構成する電極2,4、中間電極3の3枚のうちの半分から構成されるものである。図1の(a−1)と(a−2)の両者をそれぞれ合わせて接着すると、図1の(a−3)の粒子線鏡筒が完成する。そして、例えば上下2枚の電極2、4を0V(アース電位)とし、中間電極3に電圧を印加することで、3電極は静電レンズの機能を発揮する。このため。中間電極3は、周囲から電気的に絶縁し、かつ、外部から電圧を印加する必要がある。
【0029】
図1の(b)は、外部から中間電極3に電圧を印加するための絶縁体とシャフト等の例を示す。
【0030】
図1の(b−1)は図1の(a−1)の中間電極3の絶縁体6,7の例を示す。ここでは、図1の(b−1)の絶縁体6,7の部分をマスクしてその他の表面全体を導電体の蒸着やプラズマ被覆で表面を導体で形成し、後にマスクを剥がして中間電極3を形成する。これにより、中間電極3は、周囲から電気的に絶縁体6,7で絶縁され、所望の電圧を印加することが可能となる。ここで、絶縁体6,7は電圧を印加する中間電極3を他より分離すると共に、当該中間電極3の部分は図中で太線で示したように表面に導体処理を施し、更に、研削盤で当該中間電極3がレンズとして性能が発揮できる必要とされる精度に研削する。研削は、中間電極3自体のサイズを若干小さく作成し、表面の形成する導体層の厚みを大きくとって、研削盤で当該導電層を研削して所望の精度を形成することにより、極めて高精度(サブミクロン)程度に形成することが可能となる。そして、後述する図1の(b−2),(b−3)で外部から当該中間電極3に電圧を引き込んで印加する。
【0031】
尚、ここで、図1の(a−3)に示すように、図1の(a−1)と(a−2)との半割りした粒子線鏡筒を接着剤で張り合わせる際に、図1の(a−1)と(a−2)とが精密に軸対称に接着されるように、図示しないが、勘合部分を設けて当該部分を勘合させることで、極めて高精度に軸(光軸)対称に両者を張り合わせる(例えばサブミクロン程度の軸対象に張り合わせる)。
【0032】
図1の(b−2)は、図1の(b−1)の絶縁体6,7で周囲から絶縁された中間電極3に、外部から電圧を引き込んで印加する例を示す。
【0033】
図1の(b−2)において、外筒1に設けた孔にシャフト(導体)10は、接着嵌め込みで、中間電極3の給電端子とするためのものである。ここでは、外筒1に孔を開けてこれに導電性のシャフト10を挿入して接着して中間電極3と接続させ、外筒1の外部に給電端子を設けた例を示す。
【0034】
図1の(b−3)は、図1の(b−1)の絶縁体6,7で周囲から絶縁された中間電極3に、外部から電圧を引き込んで印加する他の例を示す。
【0035】
図1の(b−3)において、外筒1に設けた孔にスルーホール(孔の内部に導電性の被覆を設ける)11を作成し、当該スルーホール11を介して中間電極3に電圧を印加するものである。
【0036】
以上によって、図1の(a−1),(a−2)の半割りした静電レンズ(3枚)を、図1の(a−3)に示すように相互に接着し、静電レンズを有する粒子線鏡筒を作成することが可能となる。この際、半割りした静電レンズの電極2,4、および中間電極3について絶縁する部分をマスクして導電性材料を全面に被覆した後にマスク部分を除去することで電圧印加可能な半割りした静電レンズを一体形成した後、2つを接着することで静電レンズを有する粒子線鏡筒を極めて高精度かつ簡易に作成することが可能となる。
【0037】
次に、図2のフローチャートの順番に従い、図1の構造作成について詳細に説明する。
【0038】
図2は、本発明の作成フローチャートを示す。
【0039】
図2において、S1は、レンズの原型作成する。これは、既述した図1の(a−1),(a−2)の3枚からなる静電レンズである電極2,4、中間電極3を有する、半割りの粒子線鏡筒(レンズの原型)を作成する。作成方法は、既述したように、金型成型、あるいは半円柱から研削盤で研削、あるいは金型成型した後に研削盤で研削し、半割りの粒子線鏡筒(図1の(a−1),(a−2))をそれぞれ作成する。
【0040】
S2は、仕上げ加工する。これは、S1で作成されたレンズの原型、特に、レンズを構成する電極2,4、および中間電極3についてその光軸からのずれや真円度、平行度などが所定の精度となるように、図1の(a−1),(a−2)に示す半割りの粒子線鏡筒について、研削盤により仕上げ加工を行う。
【0041】
S3は、絶縁体でマスクし、他の表面を導電処理する。これは、既述した図1の(b−1)に示すように、絶縁すべき場所である部分に絶縁体を形成してマスクした後、全面を導電処理(例えば蒸着、プラズマ処理)を行った後、マスクを除去して図1の(b−1)の絶縁体7又は6の部分を形成する。導電処理の材料は、通常、金などの金属、窒化リンなどの導電性、かつ非磁性物質を用いる。磁性材料が含まれると、粒子線ビームを当該含まれた磁性材料による磁性により非所望の方向に偏向されてしまい、軸が極めて悪いなどの弊害が生じるので、これを避けるためである。
【0042】
S4は、マスクを除去する。これは、S3で絶縁する部分にマスクをしたので、これを除去し、既述した図1の(b−1)の絶縁体7の部分を形成する。
【0043】
S5は、表面導体を研磨して精度を上げる。これは、S3で導電性物質を図1の(a−1),(a−2)の電極2,4、中間電極3の表面に形成したので、当該表面導体を研削盤で研削して精度を上げ、当該静電レンズに要求される精度を確保する(静電レンズを構成する一体型の電極2,4、中間電極3の中心の孔の真円度、軸中心からのずれ、平行度などを所定の精度に高める(例えばサブミクロン程度に高める))。
【0044】
S6は、半割を各々合わせて耐真空接着する。これは、S1からS5で作成した図1の(a−1),(a−2)の半割の粒子線鏡筒の図示外の勘合部分を勘合、かつのり代5に耐真空用の接着剤を塗布して両者を接着する。
【0045】
また、S7は、S2で仕上げ加工した後の既述した図1の(b−2),(b−3)の電極を形成する孔の内面全面を導電処理する。これにより、図1の(b−2),(b−3)の外筒1の部分に設けた孔あるいはパターンの部分に導電処理が施されたこととなる。
【0046】
S8は、絶縁体を形成する。これは、S7で図1の(b−2),(b−3)の外筒1の部分に設けた孔の内面に導電性処理を行ったので、その周囲に絶縁体を形成し、外筒1の外部から静電レンズの中間電極3などに電圧印加可能にする。そして、既述した図5に進む。
【0047】
以上によって、既述した図1の(a−1),(b−2)の半割りの粒子線鏡筒を作成し、マスクして全体を導電処理した後にマスクを除去して絶縁体部分を形成した後、精度が要求される部分(静電レンズの電極2,4、中間電極3の部分)を研削盤で研削して一体のままで所定の精度に仕上げ加工すると共に、中間電極3に電圧を印加する端子を形成し、半割りを接着して粒子線鏡筒を作成することにより、半割りの粒子線鏡筒で簡易に高精度を達成でき、かつ極めて簡易に粒子線鏡筒を作成することが可能となる。
【0048】
図3は、本発明の他の実施例構造図を示す。図1が静電レンズを電極2,4、中間電極3が一体の半割り粒子線鏡筒を作成したのに対し、図3は、静電レンズの電極2,4、中間電極4を別に作成しておき、後に組み込み当該静電レンズの電極2,4、中間電極3の加工を容易かつ精度を向上させた構造の例を示す。
【0049】
図3の(a−1)、(a−3)は半円筒の部分を示し、図3の(a−2)は静電レンズの電極2,4、および中間電極3を個別に作成した例を示す。図2の(a−1)と(a−3)の半円筒部分を作成し、次に、作成した電極2,4、中間電極3を両者の間に挿入しながら接着することにより、粒子線鏡筒を作成する。ここで、3枚の電極2,4、中間電極4は、図3の(a−1)の半円筒中の凹部21に嵌め込み、図3の(a−3)の半円筒をこれに合わせて真空接着する。
【0050】
図3の(b)は、外部から中間電極3に電圧を印加するための絶縁体とシャフト等の例を示す。
【0051】
図3の(b−1)は図3の(a−2)の中間電極3を組み込んだときの絶縁体24およびシャフト25の例を示す。図示のように、中間電極3を組み込んだときに、シャフト25で外筒の孔を通して外部に接続するように形成すると共に、中間電極3およびシャフト25が他の部分と絶縁体24で絶縁されるように形成する。絶縁体24の形成方法は、既述したように、図3の(b−1)の絶縁体24の部分をマスクしてその他の表面全体を導電体の蒸着やプラズマ被覆で表面を導体で形成し、後にマスクを剥がして中間電極3を形成する。シャフト25は、既述した図1の(b−2)に示すように、外筒1に孔を開けてこれに導電性のシャフトを挿入して接着して中間電極3と接続させ、外筒1の外部に給電端子を設ける。
【0052】
図3の(b−2)は、図3の(b−1)の絶縁体24で周囲から絶縁された中間電極3に、外部から電圧を引き込んで印加する他の例を示す。電極2,4は、上述した図3の(b−1)と同様にして形成する。
【0053】
図3の(b−2)において、外筒1の接合部分に導電性パターンを形成して中間電極3に接続し、外部から当該導電性パターンを介して電圧を印加する。
【0054】
以上によって、図3の(a−1)と(a−3)の半割りした粒子線鏡筒に、図3の(a−2)の予め作成した静電レンズ(3枚)を組み込んで接着し、静電レンズを有する粒子線鏡筒を作成することが可能となる。半割りした粒子線鏡筒の静電レンズを取り付ける部分を一体成型して再仕上げして所望の精度にした後、静電レンズの電極2,4、および中間電極3を組み込むと共に両者を接着することで静電レンズを有する粒子線鏡筒を極めて高精度かつ簡易に作成することが可能となる。
【0055】
図4は、本発明の偏向器例を示す。
【0056】
図4の(a)は偏向器例を示し、図4の(b)は外筒33の例を示す。
【0057】
図4の(a)において、偏向電極31は、電子線を偏向するものであって、ここでは、半円筒状の2極の例を示す。偏向電極31には、外筒33に精度良好に組み込むための凸部32が設けられている。
【0058】
図4の(b)において、外筒33は、電子線鏡筒を構成する外筒であって、ここでは、図示のように、図4の(a)の偏向電極31の凸部32を勘合させて精度良好に組み込む、凹部36が設けられている。更に、凹部36に図4の(a)の偏向電極31の凸部32を勘合して組み込んだ状態で、外部から偏向用の電圧を印加するための絶縁体34を当該組み込んだ偏向電極31の両側に図示のように設け、他の部分と電気的に絶縁する。そして、図示外の既述したスルーホールなどで外筒33の外部の端子と電気的に接続し、当該端子から偏向電極31に所定の偏向電圧を印加する。
【0059】
また、絞りについては、既述した図1、図3の静電レンズを構成する電極2,4、中間レンズ3などと同様にして、粒子線鏡筒の所定の部分に小さな所定穴を設けた絞り板(全面、導電性)を形成すればよい。
【0060】
図5は、本発明の全体構造図例を示す。
【0061】
図5の(a)、(b)は半割りの粒子線鏡筒の例を示し、図5の(c)は両者を接着した後の粒子線鏡筒の例を示す。図5の(c)の電子線鏡筒の上部には、粒子線ビームである電子線ビームを放射する電子銃のうちのフィラメントが設けられ、下部には、試料を真空中に保持して任意場所に移動可能な試料室が設けらている。
【0062】
また、粒子線鏡筒を透明な素材で作成することにより、図5の(c)に示すように、シースルーで内部を操作者が見ることができる。
【0063】
以上のように、上部の電子銃を構成するフィラメント、および下部の試料を任意場所に移動させる試料室を別個、本発明に係る粒子線鏡筒に連結(接合)することで、走査型電子顕微鏡などを構築することが可能となると共に、図5の(c)に示すように、シースルーでその内部を観察でき、粒子線ビームの走行状態の観察も可能となる。
【0064】
この際、電子線鏡筒内にガスを導入あるいは圧力を低下させることで、電子線ビームがこれらガスに衝突してその軌跡を操作者(学生など)に見やすくすることも可能となる。更に、電子線ビームの軌跡を見たい場所に蛍光物質などを塗布し、その軌跡を見やすくことが可能となる。
【0065】
尚、図1から図5で説明した電子線鏡筒の内部は電子線ビームが大気中の分子にその走行がじゃまされないように、真空に保持する必要があり、図示しないが図示外の真空排気系により当該電子線鏡筒内の電子線ビームの走行経路の部分は真空排気される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、粒子線鏡筒を金型によって作るので、量産できること、生産コストが大変低く、また研削盤によって所望の精度に作成(調整)することで、膨張係数の小さな材料を用いて飛躍的に精度良く作る(サブμm)ことが可能となり、従来の複数回の組立て誤差が無くなることで、精度が上がるので、精密な粒子線鏡筒の各パーツの生産が可能となり、当該粒子線鏡筒を用いた高分解能用の顕微鏡は高分解能エネルギアナライザ等に適用ができる粒子線鏡筒を作成することができる、粒子線鏡筒および粒子線鏡筒の製造方法に関するものである。
【0067】
また、粒子線鏡筒を透明な素材で作成し、利用者は粒子線ビームの走行状態などを直接に見ることが可能となる、粒子線鏡筒および粒子線鏡筒の製造方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の1実施例構造図である。
【図2】本発明の作成フローチャートである。
【図3】本発明の他の実施例構造図である。
【図4】本発明の偏向器例である。
【図5】本発明の全体構造図例である。
【図6】従来の説明図(その1)である。
【図7】従来の説明図(その2)である。
【符号の説明】
【0069】
1、33:外筒
2、4:電極
3:中間電極
5、35:のり代
6、7、9、24、34:絶縁体
8:導電体
10、25:シャフト
11、26:スルーホール
21、36:凹部
25:導電パターン
32:凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒において、
前記レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を、前記軸に沿って半割りして一体作成した半割りレンズと、
前記一体作成した半割りレンズの2つを、前記軸に沿って接合して作成したレンズと
を備えたことを特徴とする粒子線鏡筒。
【請求項2】
発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒において、
前記レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割りおよび前記偏向器を構成する複数毎の軸対称偏向板からなる偏向電極を軸に沿って半割りして同時に両者を一体作成した半割りレンズおよび半割り偏向電極と、
前記一体作成した半割りレンズおよび偏向電極の2つを、前記軸に沿って接合して作成したレンズおよび偏向電極と
を備えたことを特徴とする粒子線鏡筒。
【請求項3】
前記一体成型した半割りレンズあるいは偏向電極あるいは両者を、研削して所望の精度に調整することを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の粒子線鏡筒。
【請求項4】
前記レンズおよび偏向器のうちの一方あるいは両者について、前記軸に対向した部分を予め作成、および当該軸に対向した部分を除いた前記半割りしたレンズあるいは偏向器を一体作成した後に、当該予め作成したレンズあるいは偏向器の軸に対向した部分を挿入および当該半割りしたレンズあるいは偏向器の2つを、前記軸に沿って接合してレンズあるいは偏向器を作成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の粒子鏡筒。
【請求項5】
前記レンズあるいは偏向器について非導電性の材料で一体生成した後、前記粒子線ビームが走行する軸に対向した当該レンズあるいは偏向器として使用する部分を導電性材料で導電性に形成したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の粒子線鏡筒。
【請求項6】
前記レンズとして、軸中心に孔を有する3枚の同軸円板とし、電圧を印加する同軸円板を絶縁して電圧を印加することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の粒子線鏡筒。
【請求項7】
前記偏向器として、軸対称かつ偶数に分割した円筒状電極あるいは平行平板とし、電圧を印加する円筒状電極あるいは平行平板を絶縁して電圧を印加することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の粒子線鏡筒。
【請求項8】
前記レンズあるいは偏向器あるいは両者を一体成型する素材に透明の素材を用い、外部から粒子線ビームの走行状態が見えるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の粒子線鏡筒。
【請求項9】
発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒の製造方法において、
前記レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を、軸に沿って半割りして一体作成した半割りレンズを作成するステップと、
前記一体作成した半割りレンズの2つを、前記軸に沿って接合してレンズを生成するステップと
を有する粒子線鏡筒の製造方法。
【請求項10】
発生された粒子線ビームをレンズにより集束して細く絞って試料上に照射した状態で当該粒子線ビームを偏向器により偏向して平面走査する粒子線鏡筒の製造方法において、
前記レンズを構成する、軸中心に孔を有する複数毎の同軸円板からなるレンズ電極を軸に沿って半割りおよび前記偏向器を構成する複数毎の軸対称偏向板からなる偏向電極を軸に沿って半割りして同時に両者を一体作成した半割りレンズおよび半割り偏向電極を作成するステップと、
前記一体作成した半割りレンズおよび偏向電極の2つを、前記軸に沿って接合して作成したレンズおよび偏向電極を生成するステップと
を有する粒子線鏡筒の製造方法。
【請求項11】
前記一体成型した半割りレンズあるいは偏向電極あるいは両者を、研削して所望の精度に調整することを特徴とする請求項9あるいは請求項10に記載の粒子線鏡筒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−157369(P2010−157369A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333491(P2008−333491)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(592191195)株式会社アプコ (9)
【出願人】(590002666)新日本電工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】