説明

粒径が制御された酸化チタンを含むハードゼラチンカプセルおよびそれを製造する方法

ゼラチンおよび二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下であってゼラチン中に分散された酸化チタンを含む、ハードゼラチンカプセルが提供される。ハードゼラチンカプセルを製造する方法は、ゼラチン溶液を調製する工程、酸化チタンの二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下になるようにゼラチン溶液中へ酸化チタンを分散する工程および前記分散液を成形してカプセルを調製する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードゼラチンカプセルおよびそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードゼラチンカプセルはゼラチンをカプセル基材として調製され、1組の円柱状胴部であってその一端が重なり互いの胴部を閉める円柱状胴部から形成されている。カプセルは、薬剤または食品を封入するため広く使用されてきた。
【0003】
しかし、ハードゼラチンカプセルは13〜15重量%の水を含むことがある。低湿度でカプセルが貯蔵される場合またはカプセルが吸湿性の高い物質で満たされている場合、水の蒸発またはカプセル中の物質への水の移動により、この水は失われることがある。その結果、カプセルを構成しているゼラチンフィルムは脆くなることがあり、カプセルが容易に壊れる傾向がある。
【0004】
これらの問題を克服するため、様々な試みが行われてきた。例えば、特開平9−507217では、PVAのポリマー層が水の移動量の低いハードゼラチンシェルに積層されているハードゼラチンカプセルが提案されている。
【0005】
また、感光性のある薬剤がカプセル中に満たされる場合、高遮光性を有する酸化チタンを、カプセルフィルム中への分散によりカプセル剤に使用するハードカプセルに加え、そのため遮光効果がカプセルフィルムに与えられ、それによりカプセル中に満たされた薬剤を外部の光から保護することが可能である。したがって、この種類のハードカプセルは薬剤用途に広く使用されてきた。
【0006】
しかし、粒径の大きい酸化チタン粒子が、厚さが約100μmのカプセルフィルム中に導入される場合、機械力がカプセルフィルムにかかった時に酸化チタン粒子中に応力が生じる。マイクロクラックがカプセルフィルム中に生じ、そのためカプセルは容易に壊れることがある。
【0007】
ポリエチレングリコールがゼラチンに加えられているゼラチンフィルム組成物が、特開平3−80930に開示されている。このゼラチンフィルム組成物は、分子量が200〜20,000のポリエチレングリコールを含む。また、Kolloidnij、Journal/Tom XXXVII、1975、YDK668.317:678−19、第9−15頁およびその英語アブストラクトにも、ポリエチレングリコールを含むゼラチンフィルムが開示されている。
【0008】
また、酸化チタンを含むゼラチンカプセルも、英国、ロンドン、THE PHARMACEUTICAL PRESSが出版した「ハードカプセル(HARD CAPSULE)」、第52頁(1986年)に示されているとおり公知である。この出版物において、二酸化チタンの使用は記載されているが、二酸化チタンの簡潔な説明はなされていない。更に、米国特許第3,992,215号は、a)二酸化チタン;b)グリセリン;c)ラウリル硫酸ナトリウム;d)流動ジメチルポリシロキサン;e)クエン酸ナトリウム;およびf)水から構成される、空のゼラチンカプセルを不透明にする薬剤用懸濁液を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、カプセルに使用されるゼラチンフィルムの含水量が低く遮光性を有する場合、従来のものより壊れる頻度の低いハードゼラチンカプセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、粒径が制御された酸化チタンを、カプセル基材として使用されるゼラチンフィルム中に加え、更に必要な場合ポリエチレングリコールを加えることにより達成される。
【0011】
本発明は、粒径が制御された酸化チタンおよび必要な場合薬学的に許容されるポリエチレングリコールを、カプセルフィルム中に取込まれた形で含むハードゼラチンカプセルに関する。
【0012】
本発明のハードゼラチンカプセルは、ゼラチンおよび二次粒子径(secondary particle size)が10μm未満、メジアン粒径(median diameter)が0.5μm以下であってゼラチン中に分散された酸化チタンを含む。
【0013】
また、本発明は、ゼラチン溶液を調製する工程、酸化チタンの二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下になるようにゼラチン溶液中へ酸化チタンを分散する工程および前記分散液を成形してカプセルを調製する工程を含む、ハードゼラチンカプセルの製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のハードゼラチンカプセルの主成分として使用すべきゼラチンは、薬剤、食品などのための材料として従来使用されている限り、特に限定されない。そのようなゼラチンには、動物の骨または皮を酸またはアルカリなどで処理して得られる精製ゼラチンがある。
【0015】
本発明で使用すべき酸化チタンは、薬剤、食品などのための材料として従来使用されている限り、特に限定されず、ハードゼラチンカプセルを形成するための溶液に酸化チタン粒子が分散している状態で、二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下である材料であることが要求される。二次粒子径が10μm以上であるか、メジアン粒径が0.5μmを超えると、カプセルの十分な強度が得られない。本発明において、酸化チタンの二次粒子径は好ましくは0.1〜9μmの範囲内であり、より好ましくは0.1〜7μmの範囲内であり、最も好ましくは1〜5μmの範囲内である。また、酸化チタンのメジアン粒径は、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内であり、より好ましくは0.1〜0.45μmの範囲内であり、最も好ましくは0.1〜0.4μmの範囲内である。ここで、本明細書で言及される「二次粒子径」という用語は、一次粒子が凝集した粒子である二次粒子の平均粒径を意味し、「メジアン粒径」という用語は、粒径を例えば市販の粒径分析器で測定した場合体積で50%の相対粒子量での粒子の大きさの直径を意味する。
【0016】
そのような酸化チタンは日本薬局方に記載されているものおよび食品添加物として記載されているものから利用可能である。
【0017】
本発明のハードゼラチンカプセル中の酸化チタンの量は、ゼラチンの量に対して、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7.5重量%以下である。酸化チタンの配合量が10重量%を超えると、その配合物からつくられた調製ゼラチンカプセルは脆くなり、容易に割れる。酸化チタンの量は、ゼラチンの量に対して、好ましくは0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.5〜7.5重量%であり、最も好ましくは3〜7.5重量%である。
【0018】
本発明のハードゼラチンカプセルでは、ポリエチレングリコールがカプセル組成物に更に加えられることが好ましい。そのようなポリエチレングリコールは、薬剤、食品などのための材料として従来使用されている限り、特に限定されない。
【0019】
本発明に使用できるポリエチレングリコールには、日本薬局方または日本医薬品添加剤規制に記載されているものがある。具体的には、マクロゴール(Macrogol)200(分子量190〜210)、マクロゴール300(分子量285〜315)、マクロゴール400(分子量380〜420)、マクロゴール600(分子量570〜630)、マクロゴール1000(分子量950〜1050)、マクロゴール1500(分子量約1500)、マクロゴール1540(分子量1300〜1600)、マクロゴール4000(分子量2600〜3800)、マクロゴール6000(分子量7300〜9300)、マクロゴール20000(分子量20000〜20500)(全て日本油脂(株)から市販、商標)などが使用できる。ここで、分子量は、以下の式:
【0020】
平均分子量=(試料の量(g)×4000)/(a−b)
にしたがい滴定によるヒドロキシル価から得られる値であり、前式でaはブランク試験時に消費した水酸化ナトリウムの量を表し、bは試料の試験時に消費した水酸化ナトリウムの量を表す。
【0021】
本発明において、分子量が200〜20000のポリエチレングリコールを使用することが可能である。これらのうち、分子量1000〜6000のものが好ましく、より好ましくは分子量2000〜5000のものであり、特に好ましくは分子量が約4000のものである。
【0022】
本発明のハードゼラチンカプセル中のポリエチレングリコールの量は、好ましくは0〜3重量%未満、より好ましくは0〜2.5重量%未満である。例えば、分子量1000〜2000のポリエチレングリコールを使用すべき場合、その配合量は、好ましくは0〜3重量%未満、より好ましくは0〜2.8重量%であり、分子量が2600〜6000のポリエチレングリコールを使用すべき場合、その配合量は、好ましくは0〜3重量%未満、より好ましくは0〜2.6重量%である。
【0023】
本発明のハードゼラチンカプセルでは、89.6〜96.99重量%のゼラチン、3〜7.5重量%の酸化チタンおよび0.01〜2.9重量%のポリエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0024】
次に、本発明のハードゼラチンカプセルの製造方法を説明する。
【0025】
本発明では、ゼラチンを精製水などの好適な溶媒に加え、ゼラチンを膨潤させる。望まれる場合加熱しながら混合物を均一に攪拌し、ゼラチン水溶液を調製する。
【0026】
ポリエチレングリコールを溶液に加えるべき場合、精製水などの好適な溶媒に溶解させ、均一に攪拌して、ポリエチレングリコール水溶液を調製する。
【0027】
ポリエチレングリコール水溶液を、所望の配合量を持つ上述のゼラチン水溶液に加え、得られた混合物を均一に攪拌してゼリー溶液を得る。
【0028】
次いで、酸化チタンパウダーを好適な分散媒、例えば精製水に加え、所定の分散能力を有する攪拌機を用いて分散させ、酸化チタンの二次粒子径を10μm未満にメジアン粒径を0.5μm以下にする。そのような粒径を持つ酸化チタンの分散液を得るには、回転数7000rpmで1分〜5時間、より好ましくは10分〜5時間、更に好ましくは20分〜5時間この分散操作を実施すればよい。
【0029】
このようにして得られた酸化チタン分散液を、所望の配合量を持つ上述のとおり調製されたゼリー溶液に加え、得られた混合物を攪拌して均一な液体を形成する。次いで、混合物の粘度を好適な範囲に調整し、従来の方法により、例えば浸漬法を利用するハードゼラチンカプセル製造機を用いて、浸漬および乾燥を実施してハードゼラチンカプセルを得る。
【0030】
本発明の組成を有し本発明の方法により得られるハードゼラチンカプセルは、従来のゼラチンカプセルに比べカプセルフィルムの亀裂抵抗が著しく向上している。本発明は、信頼性の高いハードゼラチンカプセルを提供できる。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を、実施例などを参照して具体的に示すが、以下の実施例は、本発明の範囲をいかなる意味でも限定しない。
【0032】
実施例1 酸化チタン分散液
【0033】
(A)1kgの酸化チタンパウダーを3kgの精製水に加え、Shin Nihon Seiki Co.,Ltd.製のUltrataraxを用いて5000rpmで10分間混合物を分散させ、懸濁液Aを得た。
【0034】
(B)1kgの酸化チタンパウダーを3kgの精製水に加え、カプスゲル社(Capsugel AG)製の懸濁液調製ミキサーを用いて7000rpmで30分間混合物を分散させ、懸濁液Bを得た。
【0035】
上述の方法で調製した懸濁液を、島津製作所製のSALD−2000Jレーザ回折式粒径分析装置により分析した。測定した平均粒径の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す結果から、酸化チタンが完全に攪拌された懸濁液Bの酸化チタンは、0.5μmのメジアン粒径を有し、10μm以上の大きさの粒子を含まないことが理解できる。
【0038】
実施例2 カプセルの亀裂抵抗試験1
(2−1)ゼラチン水溶液の調製
【0039】
30kgのゼラチンを70kgの精製水に加え、ゼラチンを膨張させ、次いで混合物を攪拌しながら60℃に加熱し、均一なゼラチン溶液を得た。
【0040】
(2−2)ポリエチレングリコール水溶液の調製
【0041】
市販のマクロゴール4000(商標、日本油脂(株)から市販、ポリエチレングリコール、分子量2600〜3800)を精製水に溶解させ、均一に攪拌し、2−1で調製したゼラチンの量に対して2.5重量%の濃度のマクロゴール4000水溶液を調製した。
【0042】
(2−3)ゼリー溶液の調製
【0043】
2−2で調製したマクロゴール4000水溶液を全て2−1のゼラチン溶液に加え、攪拌して、均一なゼリー溶液を形成した。
【0044】
(2−4)ハードゼラチンカプセルの調製
【0045】
実施例1で調製した酸化チタン懸濁液AまたはBを、ゼリー溶液中のゼラチンの量に対して7.5重量%の量で、2−3で調製したゼリー溶液に加えた。得られた混合物をそれぞれ均一に攪拌し、好適な濃度に調整した。これらの混合物をそれぞれ約50℃に保った。前記の溶液を用いて、4番の大きさのハードゼラチンカプセルを、ハードゼラチンカプセル製造機を使用して調製した。
【0046】
(2−5)ハードゼラチンカプセルフィルムの亀裂試験
【0047】
実施例2−4で得られた、ポリエチレングリコールを含むハードゼラチンカプセルを調湿ボックス中で1週間保存し、カプセルフィルムの含水量を低下させた。次いで、それぞれのカプセルフィルムの亀裂抵抗を、以下のとおりカプスゲル社製の衝撃試験機を用いて測定した。各カプセルの本体部分と蓋部分の組を分離した後、本体部分をツールのピンにかぶせ、その閉じた側が上部になり垂直方向に立つようにする。振り子の上部端が、約2mmの直径のピンの本体部分を打つ。カプセルフィルムに穴が開くエネルギーをn=10で測定し、結果を表2および図1に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2および図1に示すとおり、酸化チタンの粒径がより精密な範囲に制御されていたカプセルのフィルム強度は、低含水量の条件下でも改善されている。更に、分子量約4000のポリエチレングリコールを2.5重量%更にカプセルフィルムに加えると、カプセルフィルムの亀裂抵抗がやはり改善されることが理解できる。
【0050】
実施例3 カプセルの亀裂耐性試験2
【0051】
(3−1)ハードゼラチンカプセルの亀裂抵抗試験
【0052】
ポリエチレングリコールを含まない従来のハードゼラチンカプセルを基準として用いた。実施例2−1で得られたポリエチレングリコールを含むハードゼラチンカプセルを調湿ボックス中に1週間保存し、カプセルフィルムの含水量を低下させた。次いで、カプセルを金属製のプレート上に横たえ、100gの重量の負荷を8cmの高さからその上に自由に落下させ、カプスゲル社製のチューブテスター(tube tester)を用いて亀裂の有無を確認した。測定はn=50で実施し、表3および図2に示す結果を得た。
【0053】
【表3】

【0054】
表3および図2に示すとおり、精密な粒径を持つ酸化チタンが加えられたカプセルの亀裂は低含水量でも減少している。更に、上記の組成物に、分子量約4000のポリエチレングリコールが2.5重量%加えられた場合、カプセルの亀裂がやはり減少することが理解できる。
【0055】
上述のとおり、本発明により、カプセルのフィルム強度が向上し亀裂の発生が減少したハードゼラチンカプセルが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
(原文に記載無し)
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、および二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下であってゼラチン中に分散された酸化チタンを含むハードゼラチンカプセル。
【請求項2】
ゼラチンの量に対して、酸化チタンの量が10重量%以下である請求項1に記載のカプセル。
【請求項3】
ゼラチンの量に対して、酸化チタンの量が7.5重量%以下である請求項1に記載のカプセル。
【請求項4】
酸化チタンの二次粒子径が0.1〜9μmでありメジアン粒径が0.1〜0.5μmの範囲内である請求項1に記載のカプセル。
【請求項5】
酸化チタンの二次粒子径が0.1〜7μmでありメジアン粒径が0.2〜0.45μmの範囲内である請求項1に記載のカプセル。
【請求項6】
前記カプセルが、ゼラチンの量に対して3重量%以下のポリエチレングリコールを更に含む請求項1に記載のカプセル。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコールの分子量が200〜20,000である請求項6に記載のカプセル。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールの分子量が1,000〜6,000である請求項6に記載のカプセル。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールの分子量が2,000〜5,000である請求項6に記載のカプセル。
【請求項10】
前記ポリエチレングリコールの分子量が2,600〜3,800である請求項6に記載のカプセル。
【請求項11】
前記カプセルが89.6〜96.99重量%のゼラチン、3〜7.5重量%の酸化チタンおよび0.01〜2.9重量%のポリエチレングリコールを含む請求項6に記載のカプセル。
【請求項12】
ゼラチン溶液を調製する工程、酸化チタンの二次粒子径が10μm未満、メジアン粒径が0.5μm以下になるようにゼラチン溶液中へ酸化チタンを分散する工程および前記分散液(dispersion)を成形して(molding)カプセルを調製する工程を含む、ハードゼラチンカプセルの製造方法。
【請求項13】
酸化チタンの分散工程が、7,000rpm以上で20分〜5時間行われる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
酸化チタンの分散工程が、事前に調製したポリエチレングリコール溶液とゼラチン溶液との混合後に行われる請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2007−513065(P2007−513065A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530655(P2006−530655)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001584
【国際公開番号】WO2004/100933
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(503181266)ワーナー−ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー (167)
【Fターム(参考)】