説明

粘土薄膜の製造方法及び粘土薄膜

【課題】液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として利用するに十分な表面平坦性を有する粘土薄膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】粘土または粘土と添加剤からなり、粘土粒子が配向して積層した構造を有する粘土薄膜の製造方法であって、粘土または粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させ、粘土ペーストを作製するペースト作製工程と、該粘土ペーストを基材上に塗布し薄膜を形成する塗布工程と、該薄膜を平坦化する平坦化工程と、該薄膜から水、有機溶剤、又は水と有機溶剤を除去する乾燥工程と、該基材から該薄膜を剥離する剥離工程とを有することを特徴とする。粘土薄膜の表面粗さRaは100nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向した粘土粒子が積層した構造を有する粘土薄膜およびその製造方法、特に、粘土薄膜の表面平坦性を向上させる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘土薄膜は、優れたフレキシビリティーを有し、粘土粒子が層状に緻密に配向しているために、気体・液体のバリア性が非常に優れている(特許文献1参照)。また、耐熱性、難燃性にも優れている。このような特徴を生かして、透明性を有する粘土薄膜を、液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として利用することが考えられる。粘土薄膜をフィルム基板として使用する場合、例えば有機ELディスプレイを例にとると、粘土薄膜上には、透明導電膜、更にその上に有機EL素子が積層される。その際、粘土薄膜の表面が平坦でない場合は、透明導電膜が均一に製膜できず、欠点部分での導電性低下をもたらし、更には有機EL素子へダメージを与えることにもなる。一般に透明導電膜や有機EL素子は、数十nm〜数百nmと極めて薄い薄膜層よりなるために、その基材には優れた表面平坦性、例えば数nmから数十nmの低い粗さが要求される。
【0003】
従来の粘土薄膜の製造方法としては、以下の方法が知られている。まず、粘土を、分散媒である水又は水を主成分とする液体に分散して粘土分散水溶液を調製する。この分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である水又は水を主成分とする液体を固液分離手段で分離することによって、粘土が膜状に形成され、粘土薄膜を作製することができる(特許文献1参照)。分散液を静置する方法としては、平坦なプラスチック製或いは金属製トレイに注ぐ方法が採用されるが、その場合、作製された粘土薄膜のトレイに接する面とその反対の面(水との界面、乾燥後は大気との界面)では表面の粗さが異なるものになる。即ち、トレイに接する面は、接するトレイの表面をそのまま転写した形状を有するので、表面平坦性にすぐれたトレイを使用することによって、良好な表面平坦性が付与される。しかしながら、トレイと接する面と反対の面、つまり水との界面、或いは乾燥後の大気との界面は、粘土粒子の沈降堆積のみで形成されるために、凹凸が非常に大きく、表面平坦性が良好な状態にはならない。
【特許文献1】特開2005−104133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、従来の製造方法により作製される粘土薄膜は表面平坦性の点で劣ったものとなっている。この点が、優れたガスバリア性、耐熱性、難燃性、透明性、フレキシブル性を有する粘土薄膜を、液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として利用する際の大きな問題点となっている。本発明は、従来の技術における上記のような問題点を解決することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として利用するに十分な表面平坦性を有する粘土薄膜を製造する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、上記のフィルム基板として利用するに十分な表面平坦性を有する粘土薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の粘土薄膜の製造方法は、粘土または粘土と添加剤からなり、粘土粒子が配向して積層した構造を有する粘土薄膜を製造することに関するものであって、粘土または粘土と添加剤を水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させて粘土ペーストを作製するペースト作製工程と、該粘土ペーストを基材上に塗布し薄膜を形成する塗布工程と、該薄膜を平坦化する平坦化工程と、該薄膜から水、有機溶剤、又は水と有機溶剤を除去する乾燥工程と、該基材から該薄膜を剥離する剥離工程とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明において、前記基材が長尺の形状を有するものであり、前記塗布工程、平坦化工程、乾燥工程は連続した工程からなるのが好ましい。また、前記平坦化工程は、前記基材上の薄膜に圧力を負荷する工程、または、前記基材上の薄膜を加熱し、圧力を負荷する工程からなってもよい。また、前記基材上の薄膜を加熱し、圧力を負荷する工程が、スムーシングロール処理により圧力を負荷するものであってもよく、或いは熱カレンダー処理またはスーパーカレンダー処理によるものであってもよく、或いはまた、乾燥ロール処理によるものであってもよい。また、前記平坦化工程で使用されるロールの表面の平坦度は、表面粗さRaで100nm以下であるのが好ましく、前記基材の表面粗さRaは、100nm以下であることが好ましい。
【0007】
本発明の粘土薄膜は、粘土または粘土と添加剤からなり、粘土粒子が配向して積層した構造を有するものであって、粘土薄膜の表面粗さRaが100nm以下であることを特徴とする。本発明においては、粘土薄膜の最大高さRyの値が500nm以下であることが好ましく、また、粘土薄膜の透明性が、全光線透過率で80%以上、かつヘイズが5%以下であることが好ましい。また、粘土薄膜は、長尺の形状を有していてもよい。本発明の粘土薄膜は、上記した本発明の製造方法によって作製することができる。
【0008】
なお、本発明の製造方法においては、ペースト作製工程、塗布工程、平坦化工程、乾燥工程、剥離工程が必須の工程であるが、これら工程の順序は、適宜変更してもかまわない。例えば、ペースト作製工程→塗布工程→平坦化工程→乾燥工程→剥離工程の順序でも、ペースト作製工程→塗布工程→乾燥工程→平坦化工程→剥離工程の順序で行ってもかまわない。さらに、ペースト作製工程→塗布工程→平坦化工程→乾燥工程→平坦化工程→剥離工程のように、同じ工程を複数回実施してもよいし、平坦化工程と乾燥工程を同時に行なってもよく、塗布工程と平坦化工程を同時に行ってもよい。
【0009】
次に、各工程について更に詳細に説明する。
(ペースト作製工程)
本発明において、粘土ペーストとは、粘土または粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させた分散液であって、その固形分含有率(以下、「固液比」という。)が0.1〜90重量%のものをいう。より好ましい固液比は、1〜60重量%である。固液比は、粘土種類、溶媒種類によって、また塗布や乾燥工程によって上記の範囲で適宜最適な値が決定される。
【0010】
本発明で用いる粘土は、粘土粒子が層状に配向して積層した構造の粘土薄膜を形成するものである。そのような粘土としては、天然あるいは合成粘土、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの1種以上、更に好適には、天然スメクタイト、合成スメクタイト、またはそれらの混合物が例示される。また、透明性等のディスプレー基板に求められる光学特性を有する粘土薄膜を得るためには、合成粘土を用いるのが好ましい。
【0011】
また、粘土と共に分散させる添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フツ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸等が挙げられ、それらの化合物1種以上が用いられる。
【0012】
本発明において、粘土ペーストは水性ペーストでもよいが、粘土を有機化して疎水性にして、有機化された粘土を有機溶剤に分散した有機溶剤系粘土ペーストとしても好適に用いることができる。
【0013】
粘土を有機化する方法としては、イオン交換により、粘土鉱物の層間に有機化剤を導入する方法があげられる。例えば、有機化剤として、ジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩や、ベンジル基やポリオキシエチレン基を有するアンモニウム塩を用いたり、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩を用い、粘土のイオン交換性、例えば、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して有機化することができる。この有機化により、粘土の有機溶剤への分散が可能になる。
【0014】
本発明において、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒には、少量の補助添加剤が添加されてもよい。補助添加剤を加える目的は、ペーストの分散性を変化させること、粘土ペーストの粘性を変化させること、粘土膜の乾燥のし易さを変えること、粘土薄膜の均一性を向上させること等にある。補助添加剤としては、有機物質および塩、例えば、アセトアミド、エタノールなどが例示される。
【0015】
本発明において、有機溶剤は、1種類の有機溶剤よりなるものであっても、複数の有機溶剤の混合溶剤よりなるものであってもよい。用いる有機溶剤としては、粘土の有機化の状態によるが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素や、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、その他、アルコール類、ハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等をあげることができる。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0016】
粘土ペーストの調製法としては、粘土又は粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に添加して、振とうにより分散させ、マイルドな乾燥条件で、例えば、50℃で分散媒をゆっくり蒸散させ、固液比を設定値まで高めていく方法があげられる。また、あらかじめ粘土又は粘土と添加剤の量を所定の固液比になるように調整して粘土分散液を作製し、それをペイントシェーカー、サンドミル、パールミル、ボールミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散機、ジェットミル、高速衝撃ミル、超音波分散機等によって分散処理する方法によってもよい。得られた粘土ペーストは、塗布前に、フィルターを通したり、こし網や金属金網等でろ過したり、遠心分離や沈殿法等の手段で、凝集物や異物を分離除去する処理を行うのが好ましい。
【0017】
(塗布工程)
上記のようにして作製された粘土ペーストは、次いで基材に塗布される。粘土ペーストを基材に塗布する方法としては、均一に塗布することができれば特に限定されるものではないが、例えば、エアドクターコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、電着コーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング法、フレキソ印刷等の凸版印刷、ダイレクトグラビア印刷およびオフセットグラビア印刷等の凹版印刷、オフセット印刷等の平版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷手法を用いることができる。また、ヘラや刷毛その他の道具を用いて気泡が入らないように、手作業で塗布することもできる。上記塗布手段で、粘土ペーストの塗布と同時に表面を平坦にすることもできる。
【0018】
用いる基材は、表面が平坦なシート状基材であればその材質や厚さは限定されるものではないが、厚さ50μm〜1mmのプラスチックシート基材が好ましい。また、基材は長尺のシート状のものが好ましい。基材の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等を例示することができる。また、粘土薄膜との剥離性向上の為に、これらのプラスチックシート表面に離型剤処理を施したり、粘土ペーストとの密着性や濡れ性改善の為に、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理や易接着処理を施すこともできる。基材の表面平坦性は、作製される粘土薄膜の表面平坦性に影響を与えるので、表面粗さRaが100nm以下であることが望ましい。より好ましくは、50nm以下である。
【0019】
粘土ペーストの塗布厚は、一般には30μm〜10mmであり、好ましくは0.1mm〜1mmである。塗布厚が薄くなりすぎると、十分な機械的強度を有する粘土薄膜が得られない可能性がある。また、厚すぎると、後工程での乾燥時間が長くなるので好ましくない。
【0020】
本発明の粘土薄膜の厚さは、粘土ペーストの固液比や塗布厚、使用溶媒等を調整することによって、任意の厚さに制御することができるが、一般には、10μm〜2mmであり、好ましくは、50μm〜300μmである。粘土薄膜の厚さが薄くなりすぎると、膜の強度が低下し、十分な機械的強度を有することができなくなる可能性がある。また、厚すぎると、製造時の乾燥時間が長くなり、生産性が低下したりするので好ましくない。
【0021】
(平坦化工程)
次に、平坦化工程において、基板上に作製された粘土ペースト膜の平坦化が行われる。平坦化は、例えば、粘土ペース塗膜を加熱し、粘土ペースト膜表面に圧力を負荷することによって行なう方法、粘土ペーストを塗布した後で、スムージングロール処理を行う方法、乾燥過程で鏡面仕上げを行う方法、例えば、平坦化された多筒式ドライヤーロール又はヤンキードライヤーロールを通す処理方法、その他の方法によって行うことができる。
【0022】
より具体的に説明すると、例えば、粘土ペースト膜表面に圧力や熱を負荷することによって行なう処理としては、熱カレンダー、スーパーカレンダー処理等、抄紙加工技術で用いられている平坦化処理方法を用いることができる。熱カレンダー処理では、ロール加圧による平坦化に加えて、加熱することができるために、粘土膜含有水分の除去や高温域での添加樹脂の溶融粘度低下による易平坦化が可能となる。また、スーパーカレンダー処理では、ロール数、ニップ数、ニップ圧等の調整により、また、基材から粘度薄膜を剥離した後の自立粘土薄膜を処理することによって、両面を同時に平坦化して、同一水準の平坦性を持つ面にすることができる。いずれの場合においても、使用されるカレンダーロール表面は、平坦性を有することが必要であるが、表面粗さRaが100nm以下であることが好ましい。このような表面平坦性を有するロール表面は、鏡面仕上げや研磨、その他の方法により平坦にすることができる。なお、カレンダーロールは表面平坦性が重要であり、材質については特に限定されるものではない。
【0023】
また、加熱、および圧力を付与する方法として、一般的な熱プレス装置を用いることもできる。熱プレス装置としては、ロールによる加熱・加圧ができる装置や、バッチ式の熱プレス装置等を用いることができる。長尺粘土薄膜を得る場合には、ロールによる加熱・加圧装置を用いるのが好ましい。また、長尺粘土薄膜からある大きさの粘土薄膜を切り出し、更に熱プレス装置でバッチ式にプレス処理を施して表面平坦化を向上させることもできる。熱プレス装置の粘土ペースト膜表面に接する部分、即ち、プレス板の表面粗さRaは100nm以下であることが好ましい。基材上の粘土ペースト膜は、熱プレス装置により圧力を負荷することによって、膜厚が均一になるとともに、表面粗さが小さくなる。
【0024】
また、上記の熱プレス装置による処理は、真空下で行なうのが好ましい。真空下で行うことにより、粘土薄膜内部の空隙を低下することができ、より緻密な粘土膜を得ることができる。
【0025】
粘土ペーストを塗布した塗布表面を平坦化する他の方法として、スムージングロール処理による方法およびその他の方法を用いることができる。例えば、適当な塗工法により基材表面に粘土ペーストを塗布した直後に、その塗布した粘土ペースト上をスムージングロールによって整面して表面平坦性を向上させることができる。また、加熱したスムージングロールを用いることもできる。その場合、、塗布面上の粘土ペーストの温度が瞬時に上昇することにより、粘度低下による塗液添加物の偏積が減少すると共に、スムージングロールとの接触による相乗効果によって、塗布面を良好に平坦化させることができる。
【0026】
また、粘土ペーストの粘度が高い場合、スムージングロールで整面しても平坦にならない場合がある。このような場合、基材上に塗布する粘度ペーストよりも固液比を低下させたり、溶媒或いは処方を変更して粘度を低下させた粘度ペーストを塗布面に再び塗布して整面することによって、表面平坦性を向上させることもできる。
【0027】
また、乾燥過程で鏡面仕上げを行う方法の場合には、乾燥と表面の平坦化を同時に行うことができる。例えば、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー等の抄紙機等に用いられるドライヤーロールと接触させることにより、乾燥と表面の平坦化を同時に行うことができる。表面平坦性が高い熱ロールを用いる場合は、基材に粘土ペーストを塗布して、乾燥ドライヤーロールに抱かせて接触させることにより、含有する水、或いは有機溶剤等の分散媒を除去すると同時に、塗布面を平坦化させることができる。多筒式ドライヤーロールであれば、ドライヤーロールを通過する回数が増す分、乾燥効率の向上や平坦化が進むので好ましい。
【0028】
本発明においては、上記平坦化処理方法或いはその他の平坦化方法を組み合わせて使用することもできる。また、使用するロール材質、加圧圧力、加熱温度、搬送速度および回数、粘土ペースト粘度、使用溶媒等の因子を任意に調整することより、任意の平坦性を付与することができる。
【0029】
(乾燥工程および剥離工程)
乾燥工程は、塗布膜に含まれる水、有機溶剤及びその他の液状成分を除くことができれば特に限定されるものではない。例えば、強制対流型オーブン中で乾燥させる場合、乾燥条件については、温度条件が30℃から100℃であり、好ましくは50℃から70℃である。しかしながら、周囲の熱源から熱を供給することにより、開放系でも乾燥させることができる。赤外線などの熱線により乾燥させることも可能である。また、平坦化処理工程で述べたように、ドライヤーロールと接触させることにより平坦化と乾燥を同時に行うこともできる。乾燥に際して、乾燥温度が低すぎると、乾燥時間が長くなる可能性がある。一方、乾燥温度が高すぎると、急激な乾燥により粘土ペースト中の液の対流などが促進され、膜の均一性が失われる可能性がある。
【0030】
剥離工程では、上記のように乾燥して得られる本発明の粘土薄膜を基材から剥離する。粘土薄膜は、機械的なわずかな力で基材から容易に剥離することができる。容易に剥離できないときは、約80℃から300℃の温度条件下で短時間熱処理を施すことによって、剥離が容易になる。また、予め基材上に離型処理やコロナ処理、プラズマ処理等の表面処理、易接着処理等の表面処理を施して、粘土薄膜の剥離を容易にすることもできる。
【0031】
(粘土薄膜)
本発明の粘土薄膜において、粘土の配合比率は、70重量パーセント〜100重量パーセントが好ましい。耐熱性、高温での耐久性を付与したい場合は、より100重量パーセントに近い粘土の配合であることが好ましい。柔軟性や透明性等を付与したい場合には、そのような機能を付与する添加剤の粘土への添加量を増加すればよい。粘土の配合比率は耐熱性、柔軟性、透明性等のバランスを考えて、上記範囲の中で任意に調整すればよい。
【0032】
本発明の粘土薄膜は、上記の方法によって作製することができ、粘土粒子が配向して積層した構造を有している。そして、本発明の粘土薄膜の表面粗さRaは100nm以下であることが必要である。液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として粘土薄膜を使用するためには、Raが100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に10nm以下が好ましい。
【0033】
また、本発明の粘土薄膜の表面は、山と谷の高さを表した最大高さRyの値が500nm以下であることが好ましい。より好ましくは、Ryは100nm以下である。何故ならば、Raは算術平均表面粗さであるために、突起等の大きな欠陥は、Raの数値では表されない場合があり、そして粘土薄膜をフィルム基板として用いて、透明導電膜や有機EL薄膜を積層した場合に、その欠陥があらわれるからである。
【0034】
なお、Raとは算術平均表面粗さであって、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値である。
【数1】

また、Ryは最大高さであって、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率の方向に測定した値である。
【0035】
また、本発明の粘土薄膜は、ディスプレー用基板として使用されるときは、全光線透過率が80%以上、かつヘイズが5%以下であることが必要である。より好ましくは、全光線透過率85%以上、ヘイズ1%以下である。ヘイズの値は、粘土薄膜の表面の凹凸を抑制し、平坦化することにより、光の散乱を抑えることにより低くすることができる。なお、粘土薄膜の表面粗さRaが100nmの特性および全光線透過率が80%以上、かつヘイズが5%以下の特性は、本発明の上記平坦化工程を含む製造方法によって初めて達成される特性である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の粘土薄膜の製造方法は、薄膜を平坦化する平坦化工程を設けて、基材上に塗布された粘土ペーストに、スムージングロール処理やカレンダー処理や多筒式乾燥ドライヤー処理等により、熱および圧力を負荷するから、作製される粘土薄膜は、液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板として利用する際の大きな問題点となっていた表面平坦性が大きく改善されたものとなる。したがって、本発明の製造方法によって作製される表面粗さRaが100nm以下の粘土薄膜は、ディスプレー用のフィルム基板として用いられるプラスチック基板と同等の光学特性、柔軟性、薄さを有し、またプラスチック基板と比較して、難燃性や耐熱性、寸法安定性にも優れており、液晶や有機ELディスプレー用のフィルム基板などとして優れた材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
粘土として、1gの合成スメクタイト(スメクトンSA、クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、ポリフッ化エチレン製回転子とともに入れ、25℃で30分間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、50℃の条件下で徐々に乾燥させ、固液比約6重量%の粘土ペーストを得た。基材として、表面粗さRa10nmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その上にアプリケーターを用いて粘土ペーストを塗布し、表面粗さRaが20nmの表面を持つスムージングロールによって塗布面表面を整面し、その後60℃で5時間乾燥して、粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【実施例2】
【0039】
スムージングロールを使用せず、塗布、乾燥後に150℃に調整された表面粗さRaが20nmの表面を持つ熱カレンダーロール間を通す熱カレンダー処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【実施例3】
【0040】
スムージングロールを使用せず、塗布、乾燥後にロール数4段、ニップ数3段の表面粗さRaが20nmの表面を持つスーパーカレンダーロール間を通すことによって平坦化を行った以外は、実施例1と同様の方法で粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【実施例4】
【0041】
スムージングロールを使用せず、塗布後に、表面粗さRaが30nmの表面を持つ多筒式乾燥ドライヤーロールを通して、乾燥と平坦化を同時に行った以外は、実施例1と同様の方法で粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【実施例5】
【0042】
粘土として、1gの合成スメクタイト(ルーセンタイトSPN、コープケミカル株式会社製)を60cmのトルエンに加え、プラスチック製密封容器に、ポリフッ化エチレン製回転子と共に入れ、25℃で30分激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、50℃の条件下で徐々に乾燥させ、固液比約6重量%の粘土ペーストを得た。基材として、表面粗さRaが10nmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その上にアプリケーターを用いて粘土ペーストを塗布し、表面粗さRaが20nmの表面を持つスムージングロールによって塗布面表面を整面し、その後60℃で2時間乾燥して、粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た
【実施例6】
【0043】
粘土として、1gの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、ポリフッ化エチレン製回転子と共に入れ、25℃で30分間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、50℃の条件下で徐々に乾燥させ、固液比約6重量%の粘土ペーストを得た。基材として、表面粗さRaが10nmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、アプリケーターを用いて粘土ペーストを塗布し、表面粗さRaが20nmの表面を持つスムージングロールによって塗布面表面を整面し、その後60℃で5時間乾燥して、粘土粒子が配向して積層した構造を有する厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【0044】
[比較例1]
粘土として、1gの合成スメクタイト(スメクトンSA、クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、ポリフッ化エチレン製回転子と共に入れ、25℃で30分間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、50℃の条件下で徐々に乾燥させ、固液比約6重量%の粘土ペーストを得た。基材として、表面粗さRaが10nmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その上にアプリケーターを用いて粘土ペーストを塗布し、平坦化処理をせずに、その後60℃で5時間乾燥して、厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【0045】
[比較例2]
粘土として、1gの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、ポリフッ化エチレン製回転子とともに入れ、25℃で30分間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、50℃の条件下で徐々に乾燥させ、固液比約6重量%の粘土ペーストを得た。基材として、表面粗さRaが10nmであるポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その上にアプリケーターを用いて粘土ペーストを塗布し、平坦化処理をせずに、その後60℃で5時間乾燥して、厚さ100μmの粘度薄膜を得た。
【0046】
(評価)
実施例および比較例で作製した粘土薄膜について、以下の評価を行った。
表面粗さの測定:原子間力顕微鏡(SPM400−AFM/エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、粘土薄膜における乾燥後の大気との界面にあたる面のRa(算術平均表面粗さ)およびRy(最大高さ)を求めた。(測定範囲20×20μm)
光学特性:ヘーズメータ(Haze Meter NDH2000、日本電色社製)を用いて測定して、全光線透過率、ヘイズを求めた。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例の場合、スムージング工程、熱カレンダー工程、スーパーカレンダー工程、多筒式乾燥ドライヤー工程等による表面平坦化処理によって、表面粗さが低く、平坦な表面を有する粘土薄膜を得ることができた。また、それに伴い、光学特性も表面凹凸に起因する光の散乱が抑制されたために、良好な光学特性、特に低ヘイズ値を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土または粘土と添加剤からなり、粘土粒子が配向して積層した構造を有する粘土薄膜の製造方法であって、粘土または粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させ、粘土ペーストを作製するペースト作製工程と、該粘土ペーストを基材上に塗布し薄膜を形成する塗布工程と、該薄膜を平坦化する平坦化工程と、該薄膜から水、有機溶剤、又は水と有機溶剤を除去する乾燥工程と、該基材から該薄膜を剥離する剥離工程とを有することを特徴とする粘土薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材が長尺の形状を有するものであり、前記塗布工程、平坦化工程、乾燥工程が連続した工程からなることを特徴とする請求項1に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記平坦化工程が、基材上の薄膜に圧力を負荷する工程、または、基材上の薄膜を加熱し、圧力を負荷する工程からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記平坦化工程が、表面粗さRaで100nm以下の平坦度を有するロールを用いて処理することからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記基材上の薄膜に圧力を負荷する工程が、スムーシングロール処理によることを特徴とする請求項3に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材上の薄膜を加熱し、圧力を負荷する工程が、熱カレンダー処理またはスーパーカレンダー処理によることを特徴とする請求項3に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記基材上の薄膜を加熱し、圧力を負荷する工程が、乾燥ロール処理によることを特徴とする請求項3に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記基材の表面粗さRaが100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項9】
粘土または粘土と添加剤からなり、粘土粒子が配向して積層した構造を有する粘土薄膜であって、該粘土薄膜の表面粗さRaが100nm以下であることを特徴とする粘土薄膜。
【請求項10】
粘土薄膜の最大高さRyの値が500nm以下であることを特徴とする請求項9に記載の粘土薄膜。
【請求項11】
前記粘土薄膜の透明性が、全光線透過率で80%以上、かつヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の粘土薄膜。
【請求項12】
前記粘土薄膜が、長尺の形状を有することを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の粘土薄膜。
【請求項13】
前記粘土薄膜が、粘土または粘土と添加剤を水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させた粘土ペーストを作製するペースト作製工程と、該粘土ペーストを基材上に塗布し薄膜を形成する塗布工程と、該薄膜を平坦化する平坦化工程と、該薄膜から水、有機溶剤、又は水と有機溶剤を除去する乾燥工程と、該基材から該薄膜を剥離する剥離工程により作製されたことを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の粘土薄膜。

【公開番号】特開2007−84386(P2007−84386A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275533(P2005−275533)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】