粘弾性特性測定装置
【課題】測定対象の粘弾性特性を迅速かつ高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を提供する。
【解決手段】遅延部材3は、その一方の面が搬送ライン30における搬送面と一致するように、搬送ライン30に組込まれる。加圧ローラ34は、搬送ライン30の搬送面、すなわち遅延部材3の一方の面に対して垂直上方で、かつ、その長軸方向が搬送ライン30の搬送方向に対して直交する向きに配置される。そして、加圧ローラ34は、その両端をそれぞれ加圧部32.1および32.2と連結される。加圧部32.1および32.2は、演算部10から受ける加圧指令に応じて、搬送ライン30の搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて、加圧ローラ34を直線状に駆動し、測定対象を加圧する。測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができる。
【解決手段】遅延部材3は、その一方の面が搬送ライン30における搬送面と一致するように、搬送ライン30に組込まれる。加圧ローラ34は、搬送ライン30の搬送面、すなわち遅延部材3の一方の面に対して垂直上方で、かつ、その長軸方向が搬送ライン30の搬送方向に対して直交する向きに配置される。そして、加圧ローラ34は、その両端をそれぞれ加圧部32.1および32.2と連結される。加圧部32.1および32.2は、演算部10から受ける加圧指令に応じて、搬送ライン30の搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて、加圧ローラ34を直線状に駆動し、測定対象を加圧する。測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は対象物の粘弾性特性を測定する粘弾性特性測定装置に関し、特にリアルタイムに測定対象の粘弾性特性を測定できる粘弾性特性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の物性を評価する指標の1つに粘弾性特性がある。粘弾性とは、与えられる応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ物性である。
【0003】
このような粘弾性特性を測定する方法として、主として固体に用いられる動的粘弾性試験方法(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)や、主として流動体に用いられる回転式粘度測定装置(回転式レオメータ)が知られている。
【0004】
たとえば、非特許文献1に開示されるように、動的粘弾性試験方法は、測定対象に周期的な応力を与え、そのときの測定対象の歪み応答を測定する方法である。また、回転式粘度測定装置は、平面形状をもつプレートと円錐形状をもつコーンとの間に測定対象を介在させ、コーンを駆動して測定対象へ所定の周期のずれ変位を与え、そのときにプレートで生じる応力を測定する装置である。
【非特許文献1】「分析機器の手引き(第12版)」,社団法人日本分析機器工業会,pp.105,平成16年9月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、粘弾性特性を測定するためのサンプルを必要とするために、測定対象の切出しまたは抽出などを行ない、サンプルを用意する必要があった。また、従来の方法では、特定の周期をもつ応力またはずれ変位を与えることで、その周期における粘弾性特性を測定する。そのため、広い周波数領域にわたる粘弾性特性を得るためには、複数の周波数にわたって測定を繰返す必要があり、非常に時間および手間がかかるという問題があった。
【0006】
そのため、製造工程などにおいて、製品または半製品の粘弾性特性を連続的に測定することは困難であり、粘弾性特性の測定は、製造後の出荷前検査などに限られていた。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、測定対象の粘弾性特性を迅速かつ高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、測定対象へ入射音波を放射し、かつ、入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信するセンサ部と、センサ部と密着して配置され、入射音波および反射音波を伝搬させることで、センサ部において放射される入射音波と受信される反射音波との間に遅延時間を生じさせる遅延部材と、センサ部において受信される反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する演算処理部と、測定対象と遅延部材とを密着させるための密着手段とを備える粘弾性特性測定装置である。
【0009】
好ましくは、密着手段は、測定対象が遅延部材と密着するように測定対象を加圧する加圧部を含む。
【0010】
好ましくは、測定対象は、搬送ラインに沿って連続的に搬送され、遅延部材は、その一方の面が測定対象を搬送する搬送面と略一致するように、搬送ラインの所定の位置に配置され、加圧部は、搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて測定対象を加圧し、演算処理部は、搬送ラインを搬送される測定対象を連続的に測定する。
【0011】
好ましくは、遅延部材は、センサ部との境界面と対向する面において切欠部を含み、密着手段は、流動性を有し、かつ、測定対象と遅延部材との間に介在するように切欠部に注入されるカプラント部材をさらに含む。
【0012】
好ましくは、測定対象は、流動性を有する物質であり、密着手段は、測定対象をたくわえ、かつ、遅延部材がたくわえた測定対象の静圧を受けるように配置される容器を含む。
【0013】
好ましくは、容器は、プロセス装置の一部を構成し、プロセス装置は、測定対象に対して所定の処理を行ない、演算処理部は、測定対象の粘弾性特性を連続的に測定する。
【0014】
好ましくは、演算処理部は、測定した測定対象の粘弾性特性と、外部から与えられた設定値とを比較し、その比較結果に基づいてプロセス装置を制御する。
【0015】
好ましくは、密着手段は、測定対象が遅延部材と密着するように、測定対象と遅延部材とが接する空間の圧力を大気圧に比較して低くする減圧部を含む。
【0016】
好ましくは、減圧部は、測定対象と遅延部材とが接する空間を大気から隔離する密閉部材と、密閉部材と連結され、密閉部材により隔離された空間に含まれる空気を排出する排出部とを含む。
【0017】
好ましくは、密閉部材は、遅延部材の外周を覆うように配置され、測定対象と遅延部材とが接する空間の圧力に応じて、当該空間の大きさを変化させる部材を含む。
【0018】
好ましくは、密閉部材は、遅延部材と接合され、吸盤形状を有する部材を含む。
好ましくは、密閉部材は、可とう性を有するシート部材をその一部に含む容器部からなる。
【0019】
好ましくは、演算処理部は、反射音波を予め取得された基準値と比較することで、測定対象の粘弾性特性を測定する。
【発明の効果】
【0020】
この発明にかかる粘弾性特性測定装置は、測定対象へ入射音波を放射し、その入射音波が測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する。さらに、この発明にかかる粘弾性特性測定装置は、密着手段により測定対象と遅延部材とを密着させるため、測定対象と遅延部材との間の空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象の粘弾性特性を迅速かつ高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う粘弾性特性測定装置100の概略構成図である。
【0023】
図1を参照して、粘弾性特性測定装置100は、演算処理部1と、センサ部2と、遅延部材3と、加圧部32.1,32.2とからなる。そして、粘弾性特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。このとき、センサ部2は、遅延部材3を介して測定対象へ入射音波を放射し、かつ、遅延部材3を介して反射音波を受信する。そして、粘弾性特性測定装置100は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、演算処理部1で測定対象の粘弾性特性を測定する。なお、センサ部2が放射する入射音波は、超音波が好ましい。
【0024】
また、粘弾性特性測定装置100は、加圧部32.1および32.2が測定対象を加圧し、測定対象と遅延部材3との密着性を高める。
【0025】
演算処理部1は、たとえば、コンピュータなどで構成され、入力部18と、時間データメモリ部12と、記憶部14と、演算部10と、表示出力部16とからなる。
【0026】
入力部18は、ユーザなどの外部からの指令を受け、その指令を演算部10へ出力する。一例として、入力部18は、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなる。
【0027】
時間データメモリ部12は、センサ部2で受信される音波の時間波形を所定の周期で格納する。なお、時間データメモリ部12は、演算部10からの要求に応じて、時間波形を格納する周期を変更する。
【0028】
記憶部14は、演算部10を介して取得された基準値を格納し、演算部10からの要求に応じて、その格納する基準値を読出す。そして、記憶部14は、演算部10で連続的に算出される粘弾性特性を格納する。
【0029】
演算部10は、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、一例として、フーリエ処理(FFT処理:Fast Fourier Transform;以下、FFT処理と称す)のような周波数解析処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、記憶部14に格納されている基準値を読出し、その基準値と取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象の粘弾性特性を測定する。さらに、演算部10は、その測定した測定対象の粘弾性特性を表示出力部16または/および記憶部14へ出力する。したがって、センサ部2から1回の入射音波の放射により、演算部10は、その放射音波に含まれる周波数帯域における測定対象の粘弾性特性を算出できる。
【0030】
また、演算部10は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、基準となる測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0031】
さらに、演算部10は、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、加圧部32.1および32.2へ加圧指令を与え、測定対象を加圧する。
【0032】
表示出力部16は、演算部10から算出される測定対象の粘弾性特性や粘弾性特性に基づく判断結果を表示または/およびそのデータを外部へ出力する。表示出力部16が表示を行なう場合には、一例として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示装置からなる。また、表示出力部16がデータを外部へ出力を行なう場合には、一例として、USB(Universal Serial Bus)、RS−232C(Recommended Standard 232 version C)、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394、SCSI(Small Computer System Interface)、イーサネット(登録商標)、IEEE1284(パラレルポート)などの規格に対応するインターフェイスなどからなる。
【0033】
一方、センサ部2は、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と、信号処理回路28とからなる。
【0034】
送信制御回路22は、演算処理部1からの放射指令を受けると、放射する入射音波を生成するための生成信号を送信回路24へ出力する。たとえば、送信制御回路22は、パルス状の入射音波を生成するためのパルス信号や、所定の周波数成分を含む入射音波を生成するための周期信号などを出力する。また、送信制御回路22は、生成信号の出力タイミングを通知するトリガ信号を受信回路26へ出力する。
【0035】
送信回路24は、送信制御回路22から受ける生成信号に応じた電気信号を方向整合器25へ出力する。
【0036】
方向整合器25は、送信回路24、トランスデューサ20および受信回路26とそれぞれ接続され、送信回路24から出力された電気信号をトランスデューサ20へ伝送し、かつ、トランスデューサ20から受けた電気信号を受信回路26へ出力する。すなわち、方向整合器25は、送信回路24から出力された電気信号が受信回路26へ出力されないように信号の伝送方向を制限する。
【0037】
トランスデューサ20は、方向整合器25を介して送信回路24および受信回路26と接続され、方向整合器25を介して送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射し、かつ、測定対象から受けた音波を電気信号に変換して方向整合器25を介して受信回路26へ出力する。一例として、トランスデューサ20は、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電素子などからなる。
【0038】
受信回路26は、方向整合器25から受ける電気信号を受け、所定の増幅をした後に信号処理回路28へ出力する。また、受信回路26は、送信制御回路22からトリガ信号を受信すると、トランスデューサ20から出力される電気信号の受信を開始する。
【0039】
信号処理回路28は、受信回路26から電気信号を受け、アナログ・デジタル処理などを行ない、トランスデューサ20で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0040】
遅延部材3は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象で生じる反射音波を伝搬させる。そのため、トランスデューサ20が入射音波を放射する時間タイミングに対して、測定対象で反射された反射音波がトランスデューサ20へ入射する時間タイミングが遅延する。したがって、送信回路24が入射音波を生成する期間、すなわち、受信回路26が受信を中断する期間と、受信回路26が反射音波の電気信号を受信する期間との重複による測定誤差を回避できる。
【0041】
加圧部32.1および32.2は、演算部10から加圧指令を受けると、機械的に連結されるローラやパネルなどを駆動して測定対象を加圧し、測定対象と遅延部材3との密着性を高める。
【0042】
実施の形態1においては、加圧部32.1および32.2が密着手段を実現する。
図2は、粘弾性特性測定装置100の外観から見た概略構成図である。
【0043】
図3は、図2におけるIII−III線の断面図である。
図2を参照して、一例として、固形物または半固形物などの測定対象9が連続的に搬送される搬送ラインにおいて、測定対象9の粘弾性特性を連続的に測定する構成について説明する。このような搬送ラインで搬送される測定対象9としては、一例として、合成ゴム、こんにゃく、豆腐などが挙げられる。
【0044】
たとえば、合成ゴムは、その品質として粘弾性特性が厳しく管理される製品であり、素材ゴムの配合や加硫剤の添加量などにより、大きくその粘弾性特性が変化する。そこで、途中工程において、粘弾性特性を連続的に測定できれば、不良品の発生を未然に防止し、かつ、より生産性を高めることが可能となる。
【0045】
また、こんにゃくや豆腐などは、その粘弾性特性に応じて歯ごたえ、すなわち食感が決まるため、粘弾性特性を厳しく管理する必要がある。しかしながら、たとえば、こんにゃくでは、温度や原料に含まれる水分量などに応じて、同一の凝固剤に対する凝固効果が大きく変化するため、熟練者が経験とカンとに基づいて凝固剤の量を決定することが多い。そこで、途中工程において、粘弾性特性を連続的に測定できれば、熟練者がいない製造現場であっても、高品質な食品を容易に製造することが可能となる。
【0046】
このような製造工程では、搬送ライン30が測定対象9である製品または半製品を搬送する。搬送ライン30は、たとえば、ベルトコンベヤやローラコンベヤなどのように摩擦力で搬送する構成とすることができる。
【0047】
図2および図3を参照して、遅延部材3は、その一方の面が搬送ライン30における搬送面と一致するように、搬送ライン30に組込まれる。そして、センサ部2は、遅延部材3の他方の面と密着して配置される。
【0048】
加圧ローラ34は、搬送ライン30の搬送面、すなわち遅延部材3の一方の面に対して垂直上方で、かつ、その長軸方向が搬送ライン30の搬送方向に対して直交する向きに配置される。そして、加圧ローラ34は、その両端をそれぞれ加圧部32.1および32.2と連結される。
【0049】
加圧部32.1および32.2は、演算部10から受ける加圧指令に応じて、搬送ライン30の搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて、加圧ローラ34を直線状に駆動し、測定対象を加圧する。さらに、加圧部32.1および32.2は、搬送ライン30における測定対象9の搬送速度と同期するように加圧ローラ34を回転させ、測定対象9の搬送を助力してもよい。
【0050】
このように、遅延部材3と加圧ローラ34との間を測定対象9が搬送され、かつ、加圧ローラ34が測定対象9を加圧するので、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができる。
【0051】
以下、測定対象9の粘弾性特性の測定原理および測定対象9と遅延部材3との密着性を高める効果について説明する。
【0052】
(粘弾性特性の測定)
上述したように、粘弾性特性は、与えられる応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ物性である。そして、粘弾性特性は、貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接などで記述される。
【0053】
このような粘弾性特性は、弾性要素であるばねと、粘性要素であるダッシュポットとを直列に接続したマックスウェルモデル、または、並列に接続したフォークトモデルで説明される。そして、上述した貯蔵弾性率は物質の弾性を表す値であり、損失弾性率は粘性を表す値である。
【0054】
一般的に、物質に周期的な応力を与えた場合において、その応力と同位相の成分が貯蔵弾性率L’に相当し、その応力と90°の位相差を有する成分が損失弾性率L”に相当する。すなわち、貯蔵弾性率および損失弾性率は、それぞれ互いに独立の関係をもつので、ガウス平面上に表すことができる。そして、貯蔵弾性率L’を実数成分とし、損失弾性率L”を虚数成分とすると、損失弾性率は、ガウス平面上における貯蔵弾性率L’と損失弾性率L”とのなす偏角δを用いて、損失正接tanδ=L”/L’と表される。
【0055】
実施の形態1においては、音波を測定対象9へ放射し、その音波が測定対象9の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて粘弾性特性を測定する、表面反射法を用いる。
【0056】
図4は、表面反射法を説明するための図である。
図4(a)は、基準値を取得する場合である。
【0057】
図4(b)は、測定対象9の粘弾性特性を取得する場合である。
図4(c)は、測定誤差を生じる場合である。
【0058】
まず、トランスデューサ20から放射される入射音波の伝搬特性を表すため、遅延部材3および測定対象9の音響インピーダンスを導入する。
【0059】
図4(a)を参照して、基準値を取得する場合には、粘弾性特性測定装置100は、測定対象9が存在しない状態において、すなわち、空気中を測定対象の基準値として、トランスデューサ20から入射音波を放射する。
【0060】
ここで、入射音波および反射音波の周波数をfとすると、周波数fに依存する遅延部材3の音響インピーダンスはZ1(f)と表すことができる。また、空気中の音響インピーダンスはZ0(f)と表すことができる。但し、音響インピーダンスZ0(f)およびZ1(f)は、いずれも複素数である。さらに、遅延部材3と空気中との境界面における入射音波の反射率R01(f)は、式(1)で表すことができる。
【0061】
反射率R01(f)=(Z0(f)−Z1(f))/(Z0(f)+Z1(f))・・・(1)
ここで、空気中の音響インピーダンスZ0(f)は、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、周波数fに関わらず0<Z0(f)≪Z1(f)とみなすことができるため、反射率R01(f)=−1となる。すなわち、遅延部材3と空気中との境界面において、入射音波は全反射するとみなす。
【0062】
さらに、トランスデューサ20に入射する反射音波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。すると、遅延部材3と空気中との境界面において入射音波は全反射するので、センサ部2から遅延部材3を介して測定対象9へ放射される入射音波は、式(2)で表される。
【0063】
A0(f)exp(iθ0(f))×R01(f)=−A0(f)exp(iθ0(f))・・・(2)
すなわち、粘弾性特性測定装置100は、式(2)で表される入射音波が測定対象9へ照射されるとみなし、式(2)を構成するA0(f)およびθ0(f)を基準値として格納する。
【0064】
一方、図4(b)を参照して、測定対象9の粘弾性特性を測定する場合には、測定対象9と遅延部材3とを密着させ、トランスデューサ20から図4(a)の場合と同一の入射音波を放射する。そして、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射される反射音波を格納した前記の基準値と比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定する。
【0065】
測定対象9の音響インピーダンスをZ2(f)とすると、遅延部材3と測定対象9との境界面における入射音波の反射率R12(f)は、式(3)で表すことができる。但し、音響インピーダンスZ2(f)は、複素数である。
【0066】
反射率R12(f)=(Z2(f)−Z1(f))/(Z2(f)+Z1(f))・・・(3)
さらに、式(3)を変形すると、式(4)が導出される。
【0067】
Z2(f)=Z1(f)×(1+R12(f))/(1−R12(f))・・・(4)
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA(f)exp(iθ(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θは各周波数における位相(0≦θ0<∞)である。すると、式(2)で示される基準値を用いて、式(5)が成立する。
【0068】
A(f)exp(iθ(f))=−A0(f)exp(iθ0(f))×R12(f)・・・(5)
さらに、式(5)を変形して、式(6)が導出される。
【0069】
R12(f)=−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f))・・・(6)
式(6)を式(4)に代入すると、式(7)が導出される。
【0070】
Z2(f)=Z1(f)×(1−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))/(1+A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))・・・(7)
ここで、測定対象の貯蔵弾性率L’(f)および損失弾性率L”(f)は、測定対象の音響インピーダンスZ2(f)および密度ρ2との間に式(8)で示す関係が成立する。
【0071】
L’+iL”(f)=Z2(f)2/ρ2・・・(8)
(7)式を(8)式に代入し、実数成分と虚数成分とを分離することにより、貯蔵弾性率L’(f)、損失弾性率L”(f)および損失正接tanδ(f)は、それぞれ(9)式、(10)式および(11)式となる。
【0072】
L’(f)=Re[Z2(f)2/ρ2]=(Z1(f)2/ρ2)×{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}/{1+2(A(f)/A0(f))cos(θ(f)−θ0(f))+(A(f)/A0(f))2}2・・・(9)
L”(f)=Im[Z2(f)2/ρ2]=Z1(f)2/ρ2)×{4(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)sin(θ(f)−θ0(f))}/{1+2(A(f)/A0(f))cos(θ(f)−θ0(f))+(A(f)/A0(f))2}2
・・・(10)
tanδ(f)=L”/L’={4×(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)×sin(θ(f)−θ0(f))}/{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4×(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}・・・(11)
(9)〜(11)式に示されるように、貯蔵弾性率L’(f)、損失弾性率L”(f)および損失正接tanδ(f)は、いずれもA0(f),θ0(f)を基準値とする{A(f)/A0(f)},{θ(f)−θ0(f)}で定義される。すなわち、測定対象9の反射音波を予め格納した基準値と比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定できる。また、上述したように、測定対象9の粘弾性特性は、周波数に依存するので、粘弾性特性測定装置100は、周波数成分毎に貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を測定する。なお、高い周波数領域における粘弾性特性が必要となる場合には、トランスデューサ20から放射される音波は、超音波となる。
【0073】
次に、測定誤差について説明する。図4(c)を参照して、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において、気泡などにより空隙部40が生じると、測定対象9は、遅延部材3と密着することができない。
【0074】
実際のトランスデューサ20は、所定の面積をもって遅延部材3と密着しているため、入射音波は、密着面の全体から放射されるとみなすことができる。ここで、図4(b)に示すように、遅延部材3と測定対象9とが密着していれば、遅延部材3と測定対象9との境界面で反射される反射音波は、ほぼ一様の振幅および位相をもつため、誤差を生じることはない。
【0075】
しかしながら、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において空隙部40が存在すると、空隙部40で反射される反射音波は、測定対象9で反射される反射音波と異なる振幅および位相をもつ。
【0076】
たとえば、空隙部40の音響インピーダンスが空気中の音響インピーダンスと同一であれば、空隙部40で反射される反射音波は、基準値として格納される反射音波と同一の振幅および位相をもつ。
【0077】
上述のように、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において空隙部40が存在すると、振幅および位相が互いに異なる複数の反射音波が生じるため、測定誤差となる。
【0078】
そこで、図2および図3に示すように、粘弾性特性測定装置100は、加圧部32.1および32.2により加圧ローラ34で測定対象9を加圧し、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることで、空隙部40の発生を防止し、測定誤差を抑制する。よって、粘弾性特性測定装置100は、測定対象9の粘弾性特性の高精度な測定を実現できる。
【0079】
(粘弾性特性の測定フロー)
図5は、粘弾性特性を測定するためのフローチャートである。
【0080】
図1および図5を参照して、演算部10は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS100)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS100においてNOの場合)には、演算部10は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS100)。
【0081】
基準取得指令を受けた場合(ステップS100においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS102)。
【0082】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS104)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS106)。さらに、演算部10は、取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS108)。
【0083】
次に、演算部10は、入力部18を介して測定開始指令を受けたか否かを判断する(ステップS110)。一方、ユーザは、センサ部2を測定対象と密着するように配置し、または、測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、測定開始指令を与える。
【0084】
測定開始指令を受けていない場合(ステップS110においてNOの場合)には、演算部10は、測定開始指令を受けるまで待つ(ステップS110)。
【0085】
測定開始指令を受けた場合(ステップS110においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。
【0086】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS114)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS116)。さらに、演算部10は、記憶部14から基準値の振幅値および位相を読出し、取得した振幅値および位相と比較を用いて、各周波数における粘弾性特性を測定する(ステップS118)。
【0087】
そして、演算部10は、測定した粘弾性特性を表示出力部16へ与える(ステップS120)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して測定された粘弾性特性を知ることができる。
【0088】
さらに、演算部10は、測定終了指令を受けたか否かを判断する(ステップS122)。測定終了指令を受けていない場合(ステップS122においてNOの場合)には、演算部10は、再度、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。以下、ステップS114〜ステップS120を繰返す。
【0089】
測定終了指令を受けていない場合(ステップS122においてYESの場合)には、演算部10は、処理を終了する。
【0090】
なお、上述の処理において、測定毎に基準値を取得する構成に代えて、複数の基準値を予め記憶部14へ格納しておき、測定を行なう時点において、ユーザが、いずれの基準値を採用するかを設定できる構成としてもよい。さらに、基準値は温度依存性が高いので、測定を行なう時点において、測定対象9の温度に応じて最適な基準値を選択するような構成としてもよい。
【0091】
さらに、同一の特性をもつ2つのセンサ部および遅延部材をそれぞれ配置し、一方の遅延部材を空気と接した状態とし、かつ、他方の遅延部材を測定対象と密着した状態とした上で、後者のセンサ部から取得される反射音波を前者のセンサ部から取得される反射音波と比較することで、粘弾性特性を測定する構成としてもよい。すなわち、測定対象と密着しない状態とされる前者のセンサ部で取得される反射音波が基準値となるため、予め基準値を取得しておく必要がなく、かつ、測定タイミングにおける基準値が取得できるため、より測定精度を高めることができる。
【0092】
この発明の実施の形態1によれば、演算処理部は、センサ部から測定対象へ入射音波を放射し、測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する。そのため、遅延部材を介してセンサ部を測定対象の表面に密着させるだけでよく、試験片などを作成する必要がない。よって、測定対象の粘弾性特性を迅速に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0093】
また、この発明の実施の形態1によれば、遅延部材と加圧ローラとの間に測定対象が介在するように、遅延部材の垂直上方に加圧ローラが配置される。さらに、加圧部が遅延部材の垂直下方に向けて加圧ローラを駆動し、測定対象を遅延部材に向けて加圧する。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0094】
また、この発明の実施の形態1によれば、遅延部材およびセンサ部が搬送ラインの所定の位置に配置され、連続的に搬送される測定装置の粘弾性特性をリアルタイムで測定する。そのため、製造の途中工程などにおいて半製品などの粘弾性特性を連続的に測定し、その測定結果に基づいて品質管理を行なうことができる。よって、製造工程における不良品の発生を未然に防止し、より生産性を高めることが可能な粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0095】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1においては、加圧ローラを用いて強制的に測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態2においては、測定対象自身の特性を利用して遅延部材と密着させる構成について説明する。
【0096】
図6は、この発明の実施の形態2に従う粘弾性特性測定装置200の概略構成図である。
【0097】
図6を参照して、粘弾性特性測定装置200は、図1に示す粘弾性特性測定装置100において、演算処理部1を演算処理部4に代え、かつ、加圧部32.1および32.2を取除いたものである。また、演算処理部4は、演算処理部1において、演算部10を演算部11に代えたものである。
【0098】
そして、粘弾性特性測定装置200は、測定対象9へ所定の処理を行なうプロセス装置と接続され、測定される測定対象9の粘弾性特性に応じて、プロセス装置を制御する。
【0099】
演算部11は、演算部10と同様に、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象9へ入射音波を放射させる。そして、演算部11は、基準値と反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定する。さらに、演算部11は、その測定した測定対象9の粘弾性特性が所望の特性となるように、プロセス装置へ制御指令を与える。その他については、演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0100】
図7は、粘弾性特性測定装置200を含むプロセス装置350を示す外観図である。
図7を参照して、プロセス装置350は、流動性の物質(以下、流動体と称す)を反応させる処理を行ない、一例として、インクなどの製造に適用される。そして、プロセス装置350は、反応容器42と、配管48,50,58と、循環ポンプ46と、モータ44,54と、攪拌部56と、三方弁52と、粘弾性特性測定装置200(演算処理部4、センサ部2および遅延部材3)とからなる。
【0101】
反応容器42は、反応プロセスが行なわれる容器であり、循環ポンプ46による循環および攪拌部56による攪拌により容器内に対流が生じ、反応プロセスが促進される。そして、反応容器42は、その側面の一部に切欠部をもち、その切欠部に遅延部材3が装着される。
【0102】
循環ポンプ46は、モータ44と連結されて駆動力を受け、一方から受けた流動体に所定の吐出圧を与えて他方から出力する。そして、循環ポンプ46は、反応容器42の下部に連結された配管48を介して、反応容器42内の流動体を受け、配管50を介して反応容器42の上部へ循環する。
【0103】
モータ44は、演算処理部4からの制御指令に応じて、運転/停止または回転速度を変化させ、循環ポンプ46による流動体の循環量を制御する。
【0104】
攪拌部56は、モータ54と連結されて駆動力を受け、亀甲型の羽根を回転させて流動体を攪拌する。
【0105】
モータ54は、演算処理部4からの制御指令に応じて、運転/停止または回転速度を変化させ、攪拌部56による攪拌量を制御する。
【0106】
三方弁52は、反応容器42の下部と連結され、演算処理部4からの制御指令に応じて、反応容器42から流入する流動体を配管48または配管58へ導く。すなわち、三方弁52は、反応容器42で反応プロセスが進行中であれば、配管48を介して流動体を循環ポンプ46へ導き、反応容器42での反応プロセスが完了すれば、配管58を介して流動体を次工程へ導く。
【0107】
遅延部材3は、反応容器42の側面の切欠部に装着され、反応容器42の内面の一部を形成する。そのため、遅延部材3の一方面は、測定対象9である流動体上面からの深さに応じた静圧を受け、測定対象9と密着することになる。なお、遅延部材3は、測定対象9と密着するように配置されればよく、反応容器42の側面に配置される以外に、反応容器42の底面などに配置してもよい。
【0108】
センサ部2は、遅延部材3の測定対象9と密着する面と反対側の面において、遅延部材3と密着するように配置される。そして、センサ部2は、遅延部材3を介して測定対象9へ入射音波を放射する。
【0109】
さらに、センサ部2が入射音波を放射する面は、遅延部材3が測定対象9と密着する面に対して平行であることが望ましい。このように配置することで、入射音波が測定対象9に対して垂直に入射するため、より精度の高い測定が実現できる。
【0110】
上述のように、遅延部材3を反応容器42の内面の一部を形成するように配置することで、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができるため、高精度な粘弾性特性の測定を実現できる。
【0111】
実施の形態2においては、反応容器42が密着手段を実現する。
さらに、演算処理部4は、測定した測定対象9の粘弾性特性を外部から与えられる設定値と比較し、モータ44および54ならびに三方弁52へ制御指令を与える。たとえば、モータ44がより高速に回転することで、循環量が増加して反応プロセスが促進され、また、モータ54がより高速に回転することで、攪拌量が増加して反応プロセスが促進される。
【0112】
そこで、演算処理部4は、予め外部から受けた設定値と測定した粘弾性特性とを比較し、その偏差に応じて、モータ44および54を制御する。また、測定した粘弾性特性が設定値に到達した場合には、反応プロセスが完了したと判断し、流動体を次工程へ搬出するように三方弁52を制御する。
【0113】
図8は、反応プロセスの制御に係るフローチャートである。なお、演算処理部4を構成する演算部11が図8に示す各ステップの処理を実行する。
【0114】
図7および図8を参照して、演算部11は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS200)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS200においてNOの場合)には、演算部11は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS200)。
【0115】
一方、ユーザは、反応容器42内に流動体が存在しない状態、または、遅延部材3と流動体が密着していない状態において、入力部18を介して基準取得指令を与える。
【0116】
基準取得指令を受けた場合(ステップS200においてYESの場合)には、演算部11は、図5に示すステップS102〜S108と同様の処理を行ない、基準となる反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS202)。
【0117】
そして、演算部11は、入力部18を介して設定値を受けたか否かを判断する(ステップS204)。設定値を受けていない場合(ステップS204においてNOの場合)には、演算部11は、設定値を受けるまで待つ(ステップS204)。
【0118】
一方、ユーザは、人力または図示しない注入装置を用いて、反応プロセスの対象となる原料の流動体を反応容器42内へ注入した後、入力部18を介して所望の粘弾性特性を設定値として与える。
【0119】
設定値を受けた場合(ステップS204においてYESの場合)には、演算部11は、その受けた設定値を記憶部14へ格納し(ステップS206)、さらに、図5に示すステップS112〜S118と同様の処理を行ない、各周波数における粘弾性特性を測定する(ステップS208)。
【0120】
そして、演算部11は、測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達したか否かを判断する(ステップS210)。
【0121】
測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達していない場合(ステップS210においてNOの場合)には、演算部11は、モータ44および54へ制御指令を与え、反応プロセス内に所定の循環量および攪拌量を生じさせる(ステップS212)。そして、演算部11は、ステップS208およびS210を繰返す。
【0122】
測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達している場合(ステップS210においてYESの場合)には、演算部11は、反応プロセスが完了したと判断し、三方弁52へ制御指令を与えて反応容器42内の流動体を次工程へ搬出する(ステップS214)。そして、演算部11は、処理を終了する。
【0123】
上述のように、演算処理部4は反応プロセスを制御する。
この発明の実施の形態2によれば、流動性を有する測定対象をたくわえる反応容器の側面に、反応容器と一体化して遅延部材を配置される。そのため、遅延部材は、たくわえられた測定対象における遅延部材の深さに応じた静圧を測定対象から受ける。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0124】
また、この発明の実施の形態2によれば、演算処理部は、測定対象の測定結果と外部から与えられた設定値とを比較し、測定対象の粘弾性特性が設定値と一致するように、プロセス装置を制御する。よって、プロセスを高精度に管理することができるため、プロセス装置における生産性をより高めることができる。
【0125】
[実施の形態3]
上述の実施の形態1においては、加圧ローラを用いて強制的に測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態3においては、測定対象との密着性を高めるように形成した遅延部材を用いる構成について説明する。
【0126】
図9は、この発明の実施の形態3に従う粘弾性特性測定装置300の概略構成図である。
【0127】
図9を参照して、粘弾性特性測定装置300は、演算処理部8と、センサ部2と、遅延部材6と、カプラント部材7とからなる。
【0128】
演算処理部8は、図1に示す演算処理部1において、演算部10を演算部13に代えたものである。そして、演算部13は、演算部10から、加圧部32.1および32.2へ加圧指令を与える機能を取除いたものと等価である。
【0129】
センサ部2は、図1に示すセンサ部2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
遅延部材6は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象9で生じる反射音波を伝搬させる。そして、遅延部材6は、トランスデューサ20と密着する面と反対側の面において、カプラント部材7が注入されるための切欠部をもつ。さらに、切欠部の面積は、遅延部材6がトランスデューサ20と密着する面積より広いことが望ましく、また、切欠部の深さは、一定であることが望ましい。その他については、実施の形態1に従う遅延部材3と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0130】
カプラント部材7は、流動性を有するもの、半固体、固体などであり、測定対象9との密着性を高める物質からなる。そして、カプラント部材7は、トランスデューサ20から放射される入射音波を測定対象9へ伝搬させる媒質としての機能をもつため、カプラント部材7と遅延部材6との間の境界面における反射音波の発生を抑制することが望ましい。そのため、カプラント部材7は、遅延部材6の音響インピーダンスに近似した音響インピーダンスをもつような物質からなる。
【0131】
実施の形態3においては、カプラント部材7が密着手段を実現する。
図10は、粘弾性特性測定装置300の外観から見た概略構成図である。
【0132】
図11は、図10におけるXI−XI線の断面図である。
図10を参照して、一例として、ユーザがます形状の測定容器62に測定対象9を投入し、粘弾性特性を測定する構成について説明する。
【0133】
上述したように、こんにゃくや豆腐などは、その粘弾性特性に応じて歯ごたえ、すなわち食感が決まるため、粘弾性特性を厳しく管理する必要がある。しかしながら、たとえば、こんにゃくでは、温度や原料に含まれる水分量などに応じて、同一の凝固剤に対する凝固効果が大きく変化するため、熟練者が経験とカンとに基づいて凝固剤の量を決定することが多い。
【0134】
そこで、粘弾性特性をリアルタイムに測定できれば、熟練者がいない製造現場であっても、高品質な食品を容易に製造することが可能となる。
【0135】
ここで、粘弾性特性測定装置300は、こんにゃくや豆腐などの測定対象9を投入する測定容器62の底面の一部として、カプラント部材7、遅延部材6およびセンサ部2を配置し、リアルタイムで測定対象の粘弾性特性を測定する。
【0136】
図10および図11を参照して、測定容器62は、その底面の一部に切欠部をもち、その切欠部に遅延部材6が装着される。
【0137】
遅延部材6は、その上面、すなわち測定対象9と密着する面が測定容器62の内部の底面と一致するように配置される。さらに、遅延部材6は、カプラント部材7が注入されるための切欠部がその上面となるように配置される。そして、遅延部材6は、その底面においてセンサ部2と密着される。
【0138】
カプラント部材7は、遅延部材6の上面に設けられる切欠部に注入され、測定対象9と遅延部材6との間に介在する。そして、カプラント部材7は、測定対象9との高い密着性を発揮する。
【0139】
センサ部2は、遅延部材6の下面と密着し、遅延部材6およびカプラント部材7を介して、測定対象9へ入射音波を放射する。そして、センサ部2は、測定対象9で反射され、カプラント部材7および遅延部材6を伝搬する反射音波を受信する。
【0140】
以下、演算処理部8およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0141】
この発明の実施の形態3によれば、遅延部材と測定対象との間に流動性を有するカプラント部材が介挿されるので、測定対象の重量が軽く、また、測定対象の変形量が小さい場合であっても、カプラント部材がその流動性により変形し、遅延部材と測定対象との空隙を埋める。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。さらに、外部から測定対象を加圧するなどの手段を設ける必要がなく、構成を簡素ができるため、コストを抑制した粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0142】
なお、実施の形態1に示す粘弾性特性測定装置に対して、実施の形態3に示す遅延部材およびカプラント部材を適用してもよい。遅延部材と測定対象との間にカプラント部材を介挿することで、より密着性を高めることができ、より高い測定精度を実現できる。
【0143】
[実施の形態4]
上述の実施の形態1〜3においては、加圧手段を用いて、測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態4においては、測定対象と遅延部材とが接する空間を形成し、その空間内を減圧することで、測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明する。
【0144】
図12は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の概略構成図である。
【0145】
図13は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の装置構成図である。
【0146】
図13(a)は、粘弾性特性測定装置400の外観図である。
図13(b)は、図13(a)におけるXIIIb−XIIIb線の断面図である。
【0147】
図12を参照して、粘弾性特性測定装置400は、演算処理部76と、センサ部2と、遅延部材66と、密閉部材64と、減圧部68と、駆動部74とからなる。
【0148】
演算処理部76は、図1に示す演算処理部1において、演算部10を演算部15に代えたものである。演算部15は、演算部10から、減圧部68および駆動部74へ指令を与える。その他については、図1に示す演算処理部1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0149】
センサ部2は、図1に示すセンサ部2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図12および図13(a)を参照して、遅延部材66は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象9で生じる反射音波を伝搬させる。そして、遅延部材66は、トランスデューサ20と密着する面と反対側の面において、密閉部材64と連結される。その他については、実施の形態1に従う遅延部材3と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0150】
密閉部材64は、入射音波および反射音波の伝搬性および測定対象との密着性が高く、かつ空気の透過性が低い、軟質材料からなる。すなわち、密閉部材64は、上述の実施の形態3におけるカプラント部材7と同様の機能を発揮する。さらに、密閉部材64は、測定対象9と遅延部材66が接する空間を大気から隔離し、測定対象9と遅延部材66との間の密閉性を保つ。一例として、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400においては、密閉部材64は、吸盤形状を有する。
【0151】
減圧部68は、密閉部材64とパイプ部材70を介して接続され、演算部15からの指令に応じて、密閉部材64により隔離された空間に含まれる空気を排出する。そして、減圧部68は、密閉部材64により生成される空間の圧力を大気圧に比較して低くする。一例として、減圧部68は、電動ポンプなどからなり、羽根などの回転運動により大気を排出する。
【0152】
駆動部74は、リンク部材72を介して遅延部材66と結合され、遅延部材66に加えて、遅延部材66と密着して配置されるセンサ部2および密閉部材64を一体的に上下方向に駆動する。そして、駆動部74は、演算部15からの指令に応じて動作し、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64と測定対象9との距離を制御する。
【0153】
実施の形態4においては、減圧部68および密閉部材64が密着手段を実現する。
以下、図13(b)を参照して、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の動作について説明する。
【0154】
演算処理部76は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、駆動部74に指令を与え、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64を搬送台80上に配置された測定対象9と接着させる。すると、密閉部材64は、測定対象9と遅延部材66との間の密閉性を確保する。続いて、演算処理部76は、減圧部68に指令を与え、密閉部材64が密閉性を確保した空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、遅延部材66は、密閉部材64を介して、測定対象9と密着する。
【0155】
このように、演算処理部76は、遅延部材66が測定対象9と十分に密着すると、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。センサ部2から放射された入射音波は、伝搬性の高い密閉部材64を通過して測定対象へ入射する。そして、その一部は測定対象9で反射され、密閉部材64を再度通過してセンサ部2で受信される。
【0156】
以下、演算処理部76およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0157】
さらに、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の特徴的な動作について説明する。
【0158】
図14は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の測定時の動作を説明するための図である。
【0159】
図14(a)は、搬送台80に測定対象9が存在しない状態である。
図14(b)は、密閉部材64が測定対象9と接着した状態である。
【0160】
図14(c)は、測定対象9の粘弾性特性を測定する状態である。
図14(a)を参照して、搬送台80に測定対象9が存在しない状態において、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64は、図示しない駆動部74により垂直方向に吊り下げられるように配置される。
【0161】
図14(b)を参照して、続いて、測定対象9が隣接する搬送台などから搬送台80上に搬送されると、図示しない演算処理部76は、測定対象9を検出し、図示しない駆動部74に指令を与え、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64を垂直下方向に移動する。ここで、測定対象9が水平方向に対して斜角を有している場合には、図示しない駆動部74と遅延部材66とを連結するリンク部材72のリンク機構により、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64は、入射音波の放射面が測定対象9の斜面と平行するように、その向きを変化させる。そのため、測定対象9が斜角を有する物体であっても、密閉部材64は、測定対象9と接着できる。
【0162】
図14(c)を参照して、さらに、図示しない演算処理部76は、減圧部68に指令を与え、密閉部材64が密閉性を確保した空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。すると、遅延部材66は、密閉部材64を介して、測定対象9と密着する。
【0163】
以下、上述した測定方法と同様にして、演算処理部76およびセンサ部2は、測定対象9の粘弾性特性を測定する。
【0164】
この発明の実施の形態4によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0165】
また、この発明の実施の形態4によれば、遅延部材がリンク機構を構成するリンク部材を介して駆動部と連結されるので、測定対象が遅延部材の放射面に対して平行ではない場合においても、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0166】
[実施の形態5]
上述の実施の形態4においては、吸盤形状の密閉部材を用いる構成について説明した。一方、実施の形態5においては、遅延部材の外周にスライド機構をもって配置される密閉部材を用いる構成について説明する。
【0167】
図15は、この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置500の装置構成図である。
【0168】
図15(a)は、粘弾性特性測定装置500の外観図である。
図15(b)は、図15(a)におけるXVb−XVb線の断面図である。
【0169】
図15(a)を参照して、粘弾性特性測定装置500は、演算処理部86と、センサ部2と、遅延部材82と、密閉部材81と、ばね部材84と、減圧部68とからなる。
【0170】
演算処理部86は、上述の実施の形態4に示す演算処理部76において、駆動部への指令を与える機能を取除いたものと等価であり、その他についての詳細な説明は繰返さない。
【0171】
センサ部2および減圧部68は、上述の実施の形態4と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0172】
図15(a)および図15(b)を参照して、遅延部材82は、半径の異なる2つの円柱を重ねたような形状を有し、より大きな半径の円柱がその上側に配置される。そして、下側に配置される、より半径の小さな円柱の外周側に環状の密閉部材81が配置される。また、遅延部材82の底面には、カプラント部材88が密着して配置される。
【0173】
密閉部材81は、円柱の中心軸に沿ってスライドするように構成され、さらに、密閉部材81は、遅延部材82の上側の円柱と連結されたばね部材84により付勢されて、垂直下向きに所定の反発力を発揮する。そして、密閉部材81は、遅延部材82の外周面と接する面および測定対象9と接する面において、密閉性を確保するためのシール部材85を備える。シール部材85は、一例としてOリングなどからなる。
【0174】
すなわち、密着部材81は、圧力に応じて、遅延部材82と測定対象9との間に形成される空間を変化させる。
【0175】
さらに、密閉部材81は、その一部に内周側から外周側へ貫通する貫通穴が形成され、その貫通穴とパイプ部材70を介して、減圧部68と接続される。そして、減圧部68が、測定対象9と密閉部材81との間に形成される空間に含まれる空気を排出することで、その空間の圧力が低下し、低下した空間の圧力と大気圧との差により遅延部材82に押付力が生じる。
【0176】
カプラント部材88は、遅延部材82の放射面に密着して配置され、測定対象9と遅延部材82と密着性を高める。そして、実施の形態5におけるカプラント部材88は、半固体材料からなり、入射音波および反射音波に対して高い伝搬性および測定対象との高い密着性を有する。
【0177】
実施の形態5においては、減圧部68および密閉部材81が密着手段を実現する。
以下、図15(b)を参照して、この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置500の動作について説明する。
【0178】
演算処理部86は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、減圧部68に指令を与え、密閉部材81が密閉性を確保する空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、遅延部材82には、密閉部材81が形成する空間の圧力と大気圧との圧力差(ゲージ圧)に比例した押付力が垂直下向きに生じる。そして、この押付力がばね部材84による抗力を上回ると、遅延部材82は、垂直下向きに移動し、カプラント部材88を介して、測定対象9と密着する。
【0179】
このように、遅延部材82が測定対象9と十分に密着すると、演算処理部86は、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。センサ部2から放射された入射音波は、カプラント部材88を伝搬して測定対象9へ入射する。そして、その一部は測定対象9で反射され、カプラント部材88を再度伝搬してセンサ部2で受信される。
【0180】
以下、演算処理部86およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態4と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0181】
この発明の実施の形態5によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0182】
[実施の形態6]
上述の実施の形態4および5においては、可動する密閉部材を用いて測定対象と遅延部材との接する空間を形成する構成について説明した。一方、実施の形態6においては、固定の容器を用いて、粘弾性特性を測定する構成について説明する。
【0183】
図16は、この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置600の装置構成図である。
【0184】
図16(a)は、粘弾性特性測定装置600の外観図である。
図16(b)は、図16(a)におけるXVIb−XVIb線の断面図である。
【0185】
図16(a)および図16(b)を参照して、粘弾性特性測定装置600は、演算処理部86と、センサ部2と、遅延部材90と、容器部92と、シート部材98と、減圧部68とからなる。
【0186】
センサ部2、演算処理部86および減圧部68は、上述の実施の形態5と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0187】
容器部92は、上面が開放された、ます形状の容器であり、さらに、その底部に切欠部を有する。また、容器部92は、その側面の一部に内面側から外面側へ貫通する貫通穴が形成され、その貫通穴とパイプ部材70を介して、減圧部68と接続される。
【0188】
遅延部材82は、容器部92の底面に設けられた切欠部に挿入され、容器部92の底面の一部を形成する。
【0189】
シート部材98は、容器部92の開放された上面の縁部と密着され、容器部92の内部の空間を大気から隔離し、密閉性を保つ。そして、減圧部68が、容器部92内の空間に含まれる空気を排出することで、その空間の圧力が低下し、低下した圧力と大気圧との差によりシート部材98を介して、測定対象9に押付力が生じる。
【0190】
実施の形態6においては、減圧部68、容器部92およびシート部材98が密着手段を実現する。
【0191】
以下、この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置600の動作について説明する。
【0192】
演算処理部86は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、減圧部68に指令を与え、容器部92およびシート部材98により形成される空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、測定対象9には、容器部92およびシート部材98により形成される空間の圧力と大気圧との圧力差(ゲージ圧)に比例した押付力が垂直下向きに生じる。この押付力により、測定対象9と遅延部材90との間に介在している空隙99が押し出される。
【0193】
したがって、測定対象9には、測定対象9の自重による静圧に加えて、ゲージ圧が加わるので、遅延部材82との密着性をより高めることができる。そして、測定対象9が遅延部材90と十分に密着すると、演算処理部86は、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。そして、その入射音波の一部は、測定対象9で反射されてセンサ部2で受信される。
【0194】
以下、演算処理部86およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態4および5と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0195】
この発明の実施の形態6によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0196】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】この発明の実施の形態1に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図2】粘弾性特性測定装置の外観から見た概略構成図である。
【図3】図2におけるIII−III線の断面図である。
【図4】表面反射法を説明するための図である。
【図5】粘弾性特性を測定するためのフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図7】粘弾性特性測定装置を含むプロセス装置を示す外観図である。
【図8】反応プロセスの制御に係るフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態3に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図10】粘弾性特性測定装置の外観から見た概略構成図である。
【図11】図10におけるXI−XI線の断面図である。
【図12】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【図14】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の測定時の動作を説明するための図である。
【図15】この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【図16】この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【符号の説明】
【0198】
1,4,8,76,86 演算処理部、2 センサ部、3,6,66,82,90 遅延部材、7,88 カプラント部材、9 測定対象、10,11,13,15 演算部、12 時間データメモリ部、14 記憶部、16 表示出力部、18 入力部、20 トランスデューサ、22 送信制御回路、24 送信回路、25 方向整合器、26 受信回路、28 信号処理回路、30 搬送ライン、32 加圧部、34 加圧ローラ、40 空隙部、42 反応容器、44,54 モータ、46 循環ポンプ、48,50,58 配管、52 三方弁、56 攪拌部、62 測定容器、64,81 密閉部材、68 減圧部、70 パイプ部材、72 リンク部材、74 駆動部、80 搬送台、84 ばね部材、85 シール部材、92 容器部、98 シート部材、99 空隙、100,200,300,400,500,600 粘弾性特性測定装置、350 プロセス装置、f 周波数、L’ 貯蔵弾性率、L” 損失弾性率、R01,R12 反射率、Z0,Z1,Z2 音響インピーダンス、δ 偏角、ρ2 密度。
【技術分野】
【0001】
この発明は対象物の粘弾性特性を測定する粘弾性特性測定装置に関し、特にリアルタイムに測定対象の粘弾性特性を測定できる粘弾性特性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の物性を評価する指標の1つに粘弾性特性がある。粘弾性とは、与えられる応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ物性である。
【0003】
このような粘弾性特性を測定する方法として、主として固体に用いられる動的粘弾性試験方法(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)や、主として流動体に用いられる回転式粘度測定装置(回転式レオメータ)が知られている。
【0004】
たとえば、非特許文献1に開示されるように、動的粘弾性試験方法は、測定対象に周期的な応力を与え、そのときの測定対象の歪み応答を測定する方法である。また、回転式粘度測定装置は、平面形状をもつプレートと円錐形状をもつコーンとの間に測定対象を介在させ、コーンを駆動して測定対象へ所定の周期のずれ変位を与え、そのときにプレートで生じる応力を測定する装置である。
【非特許文献1】「分析機器の手引き(第12版)」,社団法人日本分析機器工業会,pp.105,平成16年9月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、粘弾性特性を測定するためのサンプルを必要とするために、測定対象の切出しまたは抽出などを行ない、サンプルを用意する必要があった。また、従来の方法では、特定の周期をもつ応力またはずれ変位を与えることで、その周期における粘弾性特性を測定する。そのため、広い周波数領域にわたる粘弾性特性を得るためには、複数の周波数にわたって測定を繰返す必要があり、非常に時間および手間がかかるという問題があった。
【0006】
そのため、製造工程などにおいて、製品または半製品の粘弾性特性を連続的に測定することは困難であり、粘弾性特性の測定は、製造後の出荷前検査などに限られていた。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、測定対象の粘弾性特性を迅速かつ高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、測定対象へ入射音波を放射し、かつ、入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信するセンサ部と、センサ部と密着して配置され、入射音波および反射音波を伝搬させることで、センサ部において放射される入射音波と受信される反射音波との間に遅延時間を生じさせる遅延部材と、センサ部において受信される反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する演算処理部と、測定対象と遅延部材とを密着させるための密着手段とを備える粘弾性特性測定装置である。
【0009】
好ましくは、密着手段は、測定対象が遅延部材と密着するように測定対象を加圧する加圧部を含む。
【0010】
好ましくは、測定対象は、搬送ラインに沿って連続的に搬送され、遅延部材は、その一方の面が測定対象を搬送する搬送面と略一致するように、搬送ラインの所定の位置に配置され、加圧部は、搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて測定対象を加圧し、演算処理部は、搬送ラインを搬送される測定対象を連続的に測定する。
【0011】
好ましくは、遅延部材は、センサ部との境界面と対向する面において切欠部を含み、密着手段は、流動性を有し、かつ、測定対象と遅延部材との間に介在するように切欠部に注入されるカプラント部材をさらに含む。
【0012】
好ましくは、測定対象は、流動性を有する物質であり、密着手段は、測定対象をたくわえ、かつ、遅延部材がたくわえた測定対象の静圧を受けるように配置される容器を含む。
【0013】
好ましくは、容器は、プロセス装置の一部を構成し、プロセス装置は、測定対象に対して所定の処理を行ない、演算処理部は、測定対象の粘弾性特性を連続的に測定する。
【0014】
好ましくは、演算処理部は、測定した測定対象の粘弾性特性と、外部から与えられた設定値とを比較し、その比較結果に基づいてプロセス装置を制御する。
【0015】
好ましくは、密着手段は、測定対象が遅延部材と密着するように、測定対象と遅延部材とが接する空間の圧力を大気圧に比較して低くする減圧部を含む。
【0016】
好ましくは、減圧部は、測定対象と遅延部材とが接する空間を大気から隔離する密閉部材と、密閉部材と連結され、密閉部材により隔離された空間に含まれる空気を排出する排出部とを含む。
【0017】
好ましくは、密閉部材は、遅延部材の外周を覆うように配置され、測定対象と遅延部材とが接する空間の圧力に応じて、当該空間の大きさを変化させる部材を含む。
【0018】
好ましくは、密閉部材は、遅延部材と接合され、吸盤形状を有する部材を含む。
好ましくは、密閉部材は、可とう性を有するシート部材をその一部に含む容器部からなる。
【0019】
好ましくは、演算処理部は、反射音波を予め取得された基準値と比較することで、測定対象の粘弾性特性を測定する。
【発明の効果】
【0020】
この発明にかかる粘弾性特性測定装置は、測定対象へ入射音波を放射し、その入射音波が測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する。さらに、この発明にかかる粘弾性特性測定装置は、密着手段により測定対象と遅延部材とを密着させるため、測定対象と遅延部材との間の空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象の粘弾性特性を迅速かつ高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う粘弾性特性測定装置100の概略構成図である。
【0023】
図1を参照して、粘弾性特性測定装置100は、演算処理部1と、センサ部2と、遅延部材3と、加圧部32.1,32.2とからなる。そして、粘弾性特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。このとき、センサ部2は、遅延部材3を介して測定対象へ入射音波を放射し、かつ、遅延部材3を介して反射音波を受信する。そして、粘弾性特性測定装置100は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、演算処理部1で測定対象の粘弾性特性を測定する。なお、センサ部2が放射する入射音波は、超音波が好ましい。
【0024】
また、粘弾性特性測定装置100は、加圧部32.1および32.2が測定対象を加圧し、測定対象と遅延部材3との密着性を高める。
【0025】
演算処理部1は、たとえば、コンピュータなどで構成され、入力部18と、時間データメモリ部12と、記憶部14と、演算部10と、表示出力部16とからなる。
【0026】
入力部18は、ユーザなどの外部からの指令を受け、その指令を演算部10へ出力する。一例として、入力部18は、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなる。
【0027】
時間データメモリ部12は、センサ部2で受信される音波の時間波形を所定の周期で格納する。なお、時間データメモリ部12は、演算部10からの要求に応じて、時間波形を格納する周期を変更する。
【0028】
記憶部14は、演算部10を介して取得された基準値を格納し、演算部10からの要求に応じて、その格納する基準値を読出す。そして、記憶部14は、演算部10で連続的に算出される粘弾性特性を格納する。
【0029】
演算部10は、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、一例として、フーリエ処理(FFT処理:Fast Fourier Transform;以下、FFT処理と称す)のような周波数解析処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、記憶部14に格納されている基準値を読出し、その基準値と取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象の粘弾性特性を測定する。さらに、演算部10は、その測定した測定対象の粘弾性特性を表示出力部16または/および記憶部14へ出力する。したがって、センサ部2から1回の入射音波の放射により、演算部10は、その放射音波に含まれる周波数帯域における測定対象の粘弾性特性を算出できる。
【0030】
また、演算部10は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、基準となる測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0031】
さらに、演算部10は、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、加圧部32.1および32.2へ加圧指令を与え、測定対象を加圧する。
【0032】
表示出力部16は、演算部10から算出される測定対象の粘弾性特性や粘弾性特性に基づく判断結果を表示または/およびそのデータを外部へ出力する。表示出力部16が表示を行なう場合には、一例として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示装置からなる。また、表示出力部16がデータを外部へ出力を行なう場合には、一例として、USB(Universal Serial Bus)、RS−232C(Recommended Standard 232 version C)、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394、SCSI(Small Computer System Interface)、イーサネット(登録商標)、IEEE1284(パラレルポート)などの規格に対応するインターフェイスなどからなる。
【0033】
一方、センサ部2は、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と、信号処理回路28とからなる。
【0034】
送信制御回路22は、演算処理部1からの放射指令を受けると、放射する入射音波を生成するための生成信号を送信回路24へ出力する。たとえば、送信制御回路22は、パルス状の入射音波を生成するためのパルス信号や、所定の周波数成分を含む入射音波を生成するための周期信号などを出力する。また、送信制御回路22は、生成信号の出力タイミングを通知するトリガ信号を受信回路26へ出力する。
【0035】
送信回路24は、送信制御回路22から受ける生成信号に応じた電気信号を方向整合器25へ出力する。
【0036】
方向整合器25は、送信回路24、トランスデューサ20および受信回路26とそれぞれ接続され、送信回路24から出力された電気信号をトランスデューサ20へ伝送し、かつ、トランスデューサ20から受けた電気信号を受信回路26へ出力する。すなわち、方向整合器25は、送信回路24から出力された電気信号が受信回路26へ出力されないように信号の伝送方向を制限する。
【0037】
トランスデューサ20は、方向整合器25を介して送信回路24および受信回路26と接続され、方向整合器25を介して送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射し、かつ、測定対象から受けた音波を電気信号に変換して方向整合器25を介して受信回路26へ出力する。一例として、トランスデューサ20は、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電素子などからなる。
【0038】
受信回路26は、方向整合器25から受ける電気信号を受け、所定の増幅をした後に信号処理回路28へ出力する。また、受信回路26は、送信制御回路22からトリガ信号を受信すると、トランスデューサ20から出力される電気信号の受信を開始する。
【0039】
信号処理回路28は、受信回路26から電気信号を受け、アナログ・デジタル処理などを行ない、トランスデューサ20で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0040】
遅延部材3は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象で生じる反射音波を伝搬させる。そのため、トランスデューサ20が入射音波を放射する時間タイミングに対して、測定対象で反射された反射音波がトランスデューサ20へ入射する時間タイミングが遅延する。したがって、送信回路24が入射音波を生成する期間、すなわち、受信回路26が受信を中断する期間と、受信回路26が反射音波の電気信号を受信する期間との重複による測定誤差を回避できる。
【0041】
加圧部32.1および32.2は、演算部10から加圧指令を受けると、機械的に連結されるローラやパネルなどを駆動して測定対象を加圧し、測定対象と遅延部材3との密着性を高める。
【0042】
実施の形態1においては、加圧部32.1および32.2が密着手段を実現する。
図2は、粘弾性特性測定装置100の外観から見た概略構成図である。
【0043】
図3は、図2におけるIII−III線の断面図である。
図2を参照して、一例として、固形物または半固形物などの測定対象9が連続的に搬送される搬送ラインにおいて、測定対象9の粘弾性特性を連続的に測定する構成について説明する。このような搬送ラインで搬送される測定対象9としては、一例として、合成ゴム、こんにゃく、豆腐などが挙げられる。
【0044】
たとえば、合成ゴムは、その品質として粘弾性特性が厳しく管理される製品であり、素材ゴムの配合や加硫剤の添加量などにより、大きくその粘弾性特性が変化する。そこで、途中工程において、粘弾性特性を連続的に測定できれば、不良品の発生を未然に防止し、かつ、より生産性を高めることが可能となる。
【0045】
また、こんにゃくや豆腐などは、その粘弾性特性に応じて歯ごたえ、すなわち食感が決まるため、粘弾性特性を厳しく管理する必要がある。しかしながら、たとえば、こんにゃくでは、温度や原料に含まれる水分量などに応じて、同一の凝固剤に対する凝固効果が大きく変化するため、熟練者が経験とカンとに基づいて凝固剤の量を決定することが多い。そこで、途中工程において、粘弾性特性を連続的に測定できれば、熟練者がいない製造現場であっても、高品質な食品を容易に製造することが可能となる。
【0046】
このような製造工程では、搬送ライン30が測定対象9である製品または半製品を搬送する。搬送ライン30は、たとえば、ベルトコンベヤやローラコンベヤなどのように摩擦力で搬送する構成とすることができる。
【0047】
図2および図3を参照して、遅延部材3は、その一方の面が搬送ライン30における搬送面と一致するように、搬送ライン30に組込まれる。そして、センサ部2は、遅延部材3の他方の面と密着して配置される。
【0048】
加圧ローラ34は、搬送ライン30の搬送面、すなわち遅延部材3の一方の面に対して垂直上方で、かつ、その長軸方向が搬送ライン30の搬送方向に対して直交する向きに配置される。そして、加圧ローラ34は、その両端をそれぞれ加圧部32.1および32.2と連結される。
【0049】
加圧部32.1および32.2は、演算部10から受ける加圧指令に応じて、搬送ライン30の搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて、加圧ローラ34を直線状に駆動し、測定対象を加圧する。さらに、加圧部32.1および32.2は、搬送ライン30における測定対象9の搬送速度と同期するように加圧ローラ34を回転させ、測定対象9の搬送を助力してもよい。
【0050】
このように、遅延部材3と加圧ローラ34との間を測定対象9が搬送され、かつ、加圧ローラ34が測定対象9を加圧するので、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができる。
【0051】
以下、測定対象9の粘弾性特性の測定原理および測定対象9と遅延部材3との密着性を高める効果について説明する。
【0052】
(粘弾性特性の測定)
上述したように、粘弾性特性は、与えられる応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ物性である。そして、粘弾性特性は、貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接などで記述される。
【0053】
このような粘弾性特性は、弾性要素であるばねと、粘性要素であるダッシュポットとを直列に接続したマックスウェルモデル、または、並列に接続したフォークトモデルで説明される。そして、上述した貯蔵弾性率は物質の弾性を表す値であり、損失弾性率は粘性を表す値である。
【0054】
一般的に、物質に周期的な応力を与えた場合において、その応力と同位相の成分が貯蔵弾性率L’に相当し、その応力と90°の位相差を有する成分が損失弾性率L”に相当する。すなわち、貯蔵弾性率および損失弾性率は、それぞれ互いに独立の関係をもつので、ガウス平面上に表すことができる。そして、貯蔵弾性率L’を実数成分とし、損失弾性率L”を虚数成分とすると、損失弾性率は、ガウス平面上における貯蔵弾性率L’と損失弾性率L”とのなす偏角δを用いて、損失正接tanδ=L”/L’と表される。
【0055】
実施の形態1においては、音波を測定対象9へ放射し、その音波が測定対象9の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて粘弾性特性を測定する、表面反射法を用いる。
【0056】
図4は、表面反射法を説明するための図である。
図4(a)は、基準値を取得する場合である。
【0057】
図4(b)は、測定対象9の粘弾性特性を取得する場合である。
図4(c)は、測定誤差を生じる場合である。
【0058】
まず、トランスデューサ20から放射される入射音波の伝搬特性を表すため、遅延部材3および測定対象9の音響インピーダンスを導入する。
【0059】
図4(a)を参照して、基準値を取得する場合には、粘弾性特性測定装置100は、測定対象9が存在しない状態において、すなわち、空気中を測定対象の基準値として、トランスデューサ20から入射音波を放射する。
【0060】
ここで、入射音波および反射音波の周波数をfとすると、周波数fに依存する遅延部材3の音響インピーダンスはZ1(f)と表すことができる。また、空気中の音響インピーダンスはZ0(f)と表すことができる。但し、音響インピーダンスZ0(f)およびZ1(f)は、いずれも複素数である。さらに、遅延部材3と空気中との境界面における入射音波の反射率R01(f)は、式(1)で表すことができる。
【0061】
反射率R01(f)=(Z0(f)−Z1(f))/(Z0(f)+Z1(f))・・・(1)
ここで、空気中の音響インピーダンスZ0(f)は、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、周波数fに関わらず0<Z0(f)≪Z1(f)とみなすことができるため、反射率R01(f)=−1となる。すなわち、遅延部材3と空気中との境界面において、入射音波は全反射するとみなす。
【0062】
さらに、トランスデューサ20に入射する反射音波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。すると、遅延部材3と空気中との境界面において入射音波は全反射するので、センサ部2から遅延部材3を介して測定対象9へ放射される入射音波は、式(2)で表される。
【0063】
A0(f)exp(iθ0(f))×R01(f)=−A0(f)exp(iθ0(f))・・・(2)
すなわち、粘弾性特性測定装置100は、式(2)で表される入射音波が測定対象9へ照射されるとみなし、式(2)を構成するA0(f)およびθ0(f)を基準値として格納する。
【0064】
一方、図4(b)を参照して、測定対象9の粘弾性特性を測定する場合には、測定対象9と遅延部材3とを密着させ、トランスデューサ20から図4(a)の場合と同一の入射音波を放射する。そして、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射される反射音波を格納した前記の基準値と比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定する。
【0065】
測定対象9の音響インピーダンスをZ2(f)とすると、遅延部材3と測定対象9との境界面における入射音波の反射率R12(f)は、式(3)で表すことができる。但し、音響インピーダンスZ2(f)は、複素数である。
【0066】
反射率R12(f)=(Z2(f)−Z1(f))/(Z2(f)+Z1(f))・・・(3)
さらに、式(3)を変形すると、式(4)が導出される。
【0067】
Z2(f)=Z1(f)×(1+R12(f))/(1−R12(f))・・・(4)
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA(f)exp(iθ(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θは各周波数における位相(0≦θ0<∞)である。すると、式(2)で示される基準値を用いて、式(5)が成立する。
【0068】
A(f)exp(iθ(f))=−A0(f)exp(iθ0(f))×R12(f)・・・(5)
さらに、式(5)を変形して、式(6)が導出される。
【0069】
R12(f)=−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f))・・・(6)
式(6)を式(4)に代入すると、式(7)が導出される。
【0070】
Z2(f)=Z1(f)×(1−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))/(1+A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))・・・(7)
ここで、測定対象の貯蔵弾性率L’(f)および損失弾性率L”(f)は、測定対象の音響インピーダンスZ2(f)および密度ρ2との間に式(8)で示す関係が成立する。
【0071】
L’+iL”(f)=Z2(f)2/ρ2・・・(8)
(7)式を(8)式に代入し、実数成分と虚数成分とを分離することにより、貯蔵弾性率L’(f)、損失弾性率L”(f)および損失正接tanδ(f)は、それぞれ(9)式、(10)式および(11)式となる。
【0072】
L’(f)=Re[Z2(f)2/ρ2]=(Z1(f)2/ρ2)×{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}/{1+2(A(f)/A0(f))cos(θ(f)−θ0(f))+(A(f)/A0(f))2}2・・・(9)
L”(f)=Im[Z2(f)2/ρ2]=Z1(f)2/ρ2)×{4(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)sin(θ(f)−θ0(f))}/{1+2(A(f)/A0(f))cos(θ(f)−θ0(f))+(A(f)/A0(f))2}2
・・・(10)
tanδ(f)=L”/L’={4×(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)×sin(θ(f)−θ0(f))}/{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4×(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}・・・(11)
(9)〜(11)式に示されるように、貯蔵弾性率L’(f)、損失弾性率L”(f)および損失正接tanδ(f)は、いずれもA0(f),θ0(f)を基準値とする{A(f)/A0(f)},{θ(f)−θ0(f)}で定義される。すなわち、測定対象9の反射音波を予め格納した基準値と比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定できる。また、上述したように、測定対象9の粘弾性特性は、周波数に依存するので、粘弾性特性測定装置100は、周波数成分毎に貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を測定する。なお、高い周波数領域における粘弾性特性が必要となる場合には、トランスデューサ20から放射される音波は、超音波となる。
【0073】
次に、測定誤差について説明する。図4(c)を参照して、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において、気泡などにより空隙部40が生じると、測定対象9は、遅延部材3と密着することができない。
【0074】
実際のトランスデューサ20は、所定の面積をもって遅延部材3と密着しているため、入射音波は、密着面の全体から放射されるとみなすことができる。ここで、図4(b)に示すように、遅延部材3と測定対象9とが密着していれば、遅延部材3と測定対象9との境界面で反射される反射音波は、ほぼ一様の振幅および位相をもつため、誤差を生じることはない。
【0075】
しかしながら、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において空隙部40が存在すると、空隙部40で反射される反射音波は、測定対象9で反射される反射音波と異なる振幅および位相をもつ。
【0076】
たとえば、空隙部40の音響インピーダンスが空気中の音響インピーダンスと同一であれば、空隙部40で反射される反射音波は、基準値として格納される反射音波と同一の振幅および位相をもつ。
【0077】
上述のように、測定対象9と遅延部材3との境界面の一部において空隙部40が存在すると、振幅および位相が互いに異なる複数の反射音波が生じるため、測定誤差となる。
【0078】
そこで、図2および図3に示すように、粘弾性特性測定装置100は、加圧部32.1および32.2により加圧ローラ34で測定対象9を加圧し、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることで、空隙部40の発生を防止し、測定誤差を抑制する。よって、粘弾性特性測定装置100は、測定対象9の粘弾性特性の高精度な測定を実現できる。
【0079】
(粘弾性特性の測定フロー)
図5は、粘弾性特性を測定するためのフローチャートである。
【0080】
図1および図5を参照して、演算部10は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS100)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS100においてNOの場合)には、演算部10は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS100)。
【0081】
基準取得指令を受けた場合(ステップS100においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS102)。
【0082】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS104)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS106)。さらに、演算部10は、取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS108)。
【0083】
次に、演算部10は、入力部18を介して測定開始指令を受けたか否かを判断する(ステップS110)。一方、ユーザは、センサ部2を測定対象と密着するように配置し、または、測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、測定開始指令を与える。
【0084】
測定開始指令を受けていない場合(ステップS110においてNOの場合)には、演算部10は、測定開始指令を受けるまで待つ(ステップS110)。
【0085】
測定開始指令を受けた場合(ステップS110においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。
【0086】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS114)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS116)。さらに、演算部10は、記憶部14から基準値の振幅値および位相を読出し、取得した振幅値および位相と比較を用いて、各周波数における粘弾性特性を測定する(ステップS118)。
【0087】
そして、演算部10は、測定した粘弾性特性を表示出力部16へ与える(ステップS120)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して測定された粘弾性特性を知ることができる。
【0088】
さらに、演算部10は、測定終了指令を受けたか否かを判断する(ステップS122)。測定終了指令を受けていない場合(ステップS122においてNOの場合)には、演算部10は、再度、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。以下、ステップS114〜ステップS120を繰返す。
【0089】
測定終了指令を受けていない場合(ステップS122においてYESの場合)には、演算部10は、処理を終了する。
【0090】
なお、上述の処理において、測定毎に基準値を取得する構成に代えて、複数の基準値を予め記憶部14へ格納しておき、測定を行なう時点において、ユーザが、いずれの基準値を採用するかを設定できる構成としてもよい。さらに、基準値は温度依存性が高いので、測定を行なう時点において、測定対象9の温度に応じて最適な基準値を選択するような構成としてもよい。
【0091】
さらに、同一の特性をもつ2つのセンサ部および遅延部材をそれぞれ配置し、一方の遅延部材を空気と接した状態とし、かつ、他方の遅延部材を測定対象と密着した状態とした上で、後者のセンサ部から取得される反射音波を前者のセンサ部から取得される反射音波と比較することで、粘弾性特性を測定する構成としてもよい。すなわち、測定対象と密着しない状態とされる前者のセンサ部で取得される反射音波が基準値となるため、予め基準値を取得しておく必要がなく、かつ、測定タイミングにおける基準値が取得できるため、より測定精度を高めることができる。
【0092】
この発明の実施の形態1によれば、演算処理部は、センサ部から測定対象へ入射音波を放射し、測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性を測定する。そのため、遅延部材を介してセンサ部を測定対象の表面に密着させるだけでよく、試験片などを作成する必要がない。よって、測定対象の粘弾性特性を迅速に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0093】
また、この発明の実施の形態1によれば、遅延部材と加圧ローラとの間に測定対象が介在するように、遅延部材の垂直上方に加圧ローラが配置される。さらに、加圧部が遅延部材の垂直下方に向けて加圧ローラを駆動し、測定対象を遅延部材に向けて加圧する。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0094】
また、この発明の実施の形態1によれば、遅延部材およびセンサ部が搬送ラインの所定の位置に配置され、連続的に搬送される測定装置の粘弾性特性をリアルタイムで測定する。そのため、製造の途中工程などにおいて半製品などの粘弾性特性を連続的に測定し、その測定結果に基づいて品質管理を行なうことができる。よって、製造工程における不良品の発生を未然に防止し、より生産性を高めることが可能な粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0095】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1においては、加圧ローラを用いて強制的に測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態2においては、測定対象自身の特性を利用して遅延部材と密着させる構成について説明する。
【0096】
図6は、この発明の実施の形態2に従う粘弾性特性測定装置200の概略構成図である。
【0097】
図6を参照して、粘弾性特性測定装置200は、図1に示す粘弾性特性測定装置100において、演算処理部1を演算処理部4に代え、かつ、加圧部32.1および32.2を取除いたものである。また、演算処理部4は、演算処理部1において、演算部10を演算部11に代えたものである。
【0098】
そして、粘弾性特性測定装置200は、測定対象9へ所定の処理を行なうプロセス装置と接続され、測定される測定対象9の粘弾性特性に応じて、プロセス装置を制御する。
【0099】
演算部11は、演算部10と同様に、入力部18を介して、外部から測定開始指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象9へ入射音波を放射させる。そして、演算部11は、基準値と反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象9の粘弾性特性を測定する。さらに、演算部11は、その測定した測定対象9の粘弾性特性が所望の特性となるように、プロセス装置へ制御指令を与える。その他については、演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0100】
図7は、粘弾性特性測定装置200を含むプロセス装置350を示す外観図である。
図7を参照して、プロセス装置350は、流動性の物質(以下、流動体と称す)を反応させる処理を行ない、一例として、インクなどの製造に適用される。そして、プロセス装置350は、反応容器42と、配管48,50,58と、循環ポンプ46と、モータ44,54と、攪拌部56と、三方弁52と、粘弾性特性測定装置200(演算処理部4、センサ部2および遅延部材3)とからなる。
【0101】
反応容器42は、反応プロセスが行なわれる容器であり、循環ポンプ46による循環および攪拌部56による攪拌により容器内に対流が生じ、反応プロセスが促進される。そして、反応容器42は、その側面の一部に切欠部をもち、その切欠部に遅延部材3が装着される。
【0102】
循環ポンプ46は、モータ44と連結されて駆動力を受け、一方から受けた流動体に所定の吐出圧を与えて他方から出力する。そして、循環ポンプ46は、反応容器42の下部に連結された配管48を介して、反応容器42内の流動体を受け、配管50を介して反応容器42の上部へ循環する。
【0103】
モータ44は、演算処理部4からの制御指令に応じて、運転/停止または回転速度を変化させ、循環ポンプ46による流動体の循環量を制御する。
【0104】
攪拌部56は、モータ54と連結されて駆動力を受け、亀甲型の羽根を回転させて流動体を攪拌する。
【0105】
モータ54は、演算処理部4からの制御指令に応じて、運転/停止または回転速度を変化させ、攪拌部56による攪拌量を制御する。
【0106】
三方弁52は、反応容器42の下部と連結され、演算処理部4からの制御指令に応じて、反応容器42から流入する流動体を配管48または配管58へ導く。すなわち、三方弁52は、反応容器42で反応プロセスが進行中であれば、配管48を介して流動体を循環ポンプ46へ導き、反応容器42での反応プロセスが完了すれば、配管58を介して流動体を次工程へ導く。
【0107】
遅延部材3は、反応容器42の側面の切欠部に装着され、反応容器42の内面の一部を形成する。そのため、遅延部材3の一方面は、測定対象9である流動体上面からの深さに応じた静圧を受け、測定対象9と密着することになる。なお、遅延部材3は、測定対象9と密着するように配置されればよく、反応容器42の側面に配置される以外に、反応容器42の底面などに配置してもよい。
【0108】
センサ部2は、遅延部材3の測定対象9と密着する面と反対側の面において、遅延部材3と密着するように配置される。そして、センサ部2は、遅延部材3を介して測定対象9へ入射音波を放射する。
【0109】
さらに、センサ部2が入射音波を放射する面は、遅延部材3が測定対象9と密着する面に対して平行であることが望ましい。このように配置することで、入射音波が測定対象9に対して垂直に入射するため、より精度の高い測定が実現できる。
【0110】
上述のように、遅延部材3を反応容器42の内面の一部を形成するように配置することで、測定対象9と遅延部材3との密着性を高めることができるため、高精度な粘弾性特性の測定を実現できる。
【0111】
実施の形態2においては、反応容器42が密着手段を実現する。
さらに、演算処理部4は、測定した測定対象9の粘弾性特性を外部から与えられる設定値と比較し、モータ44および54ならびに三方弁52へ制御指令を与える。たとえば、モータ44がより高速に回転することで、循環量が増加して反応プロセスが促進され、また、モータ54がより高速に回転することで、攪拌量が増加して反応プロセスが促進される。
【0112】
そこで、演算処理部4は、予め外部から受けた設定値と測定した粘弾性特性とを比較し、その偏差に応じて、モータ44および54を制御する。また、測定した粘弾性特性が設定値に到達した場合には、反応プロセスが完了したと判断し、流動体を次工程へ搬出するように三方弁52を制御する。
【0113】
図8は、反応プロセスの制御に係るフローチャートである。なお、演算処理部4を構成する演算部11が図8に示す各ステップの処理を実行する。
【0114】
図7および図8を参照して、演算部11は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS200)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS200においてNOの場合)には、演算部11は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS200)。
【0115】
一方、ユーザは、反応容器42内に流動体が存在しない状態、または、遅延部材3と流動体が密着していない状態において、入力部18を介して基準取得指令を与える。
【0116】
基準取得指令を受けた場合(ステップS200においてYESの場合)には、演算部11は、図5に示すステップS102〜S108と同様の処理を行ない、基準となる反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS202)。
【0117】
そして、演算部11は、入力部18を介して設定値を受けたか否かを判断する(ステップS204)。設定値を受けていない場合(ステップS204においてNOの場合)には、演算部11は、設定値を受けるまで待つ(ステップS204)。
【0118】
一方、ユーザは、人力または図示しない注入装置を用いて、反応プロセスの対象となる原料の流動体を反応容器42内へ注入した後、入力部18を介して所望の粘弾性特性を設定値として与える。
【0119】
設定値を受けた場合(ステップS204においてYESの場合)には、演算部11は、その受けた設定値を記憶部14へ格納し(ステップS206)、さらに、図5に示すステップS112〜S118と同様の処理を行ない、各周波数における粘弾性特性を測定する(ステップS208)。
【0120】
そして、演算部11は、測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達したか否かを判断する(ステップS210)。
【0121】
測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達していない場合(ステップS210においてNOの場合)には、演算部11は、モータ44および54へ制御指令を与え、反応プロセス内に所定の循環量および攪拌量を生じさせる(ステップS212)。そして、演算部11は、ステップS208およびS210を繰返す。
【0122】
測定した各周波数における粘弾性特性が設定値に到達している場合(ステップS210においてYESの場合)には、演算部11は、反応プロセスが完了したと判断し、三方弁52へ制御指令を与えて反応容器42内の流動体を次工程へ搬出する(ステップS214)。そして、演算部11は、処理を終了する。
【0123】
上述のように、演算処理部4は反応プロセスを制御する。
この発明の実施の形態2によれば、流動性を有する測定対象をたくわえる反応容器の側面に、反応容器と一体化して遅延部材を配置される。そのため、遅延部材は、たくわえられた測定対象における遅延部材の深さに応じた静圧を測定対象から受ける。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0124】
また、この発明の実施の形態2によれば、演算処理部は、測定対象の測定結果と外部から与えられた設定値とを比較し、測定対象の粘弾性特性が設定値と一致するように、プロセス装置を制御する。よって、プロセスを高精度に管理することができるため、プロセス装置における生産性をより高めることができる。
【0125】
[実施の形態3]
上述の実施の形態1においては、加圧ローラを用いて強制的に測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態3においては、測定対象との密着性を高めるように形成した遅延部材を用いる構成について説明する。
【0126】
図9は、この発明の実施の形態3に従う粘弾性特性測定装置300の概略構成図である。
【0127】
図9を参照して、粘弾性特性測定装置300は、演算処理部8と、センサ部2と、遅延部材6と、カプラント部材7とからなる。
【0128】
演算処理部8は、図1に示す演算処理部1において、演算部10を演算部13に代えたものである。そして、演算部13は、演算部10から、加圧部32.1および32.2へ加圧指令を与える機能を取除いたものと等価である。
【0129】
センサ部2は、図1に示すセンサ部2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
遅延部材6は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象9で生じる反射音波を伝搬させる。そして、遅延部材6は、トランスデューサ20と密着する面と反対側の面において、カプラント部材7が注入されるための切欠部をもつ。さらに、切欠部の面積は、遅延部材6がトランスデューサ20と密着する面積より広いことが望ましく、また、切欠部の深さは、一定であることが望ましい。その他については、実施の形態1に従う遅延部材3と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0130】
カプラント部材7は、流動性を有するもの、半固体、固体などであり、測定対象9との密着性を高める物質からなる。そして、カプラント部材7は、トランスデューサ20から放射される入射音波を測定対象9へ伝搬させる媒質としての機能をもつため、カプラント部材7と遅延部材6との間の境界面における反射音波の発生を抑制することが望ましい。そのため、カプラント部材7は、遅延部材6の音響インピーダンスに近似した音響インピーダンスをもつような物質からなる。
【0131】
実施の形態3においては、カプラント部材7が密着手段を実現する。
図10は、粘弾性特性測定装置300の外観から見た概略構成図である。
【0132】
図11は、図10におけるXI−XI線の断面図である。
図10を参照して、一例として、ユーザがます形状の測定容器62に測定対象9を投入し、粘弾性特性を測定する構成について説明する。
【0133】
上述したように、こんにゃくや豆腐などは、その粘弾性特性に応じて歯ごたえ、すなわち食感が決まるため、粘弾性特性を厳しく管理する必要がある。しかしながら、たとえば、こんにゃくでは、温度や原料に含まれる水分量などに応じて、同一の凝固剤に対する凝固効果が大きく変化するため、熟練者が経験とカンとに基づいて凝固剤の量を決定することが多い。
【0134】
そこで、粘弾性特性をリアルタイムに測定できれば、熟練者がいない製造現場であっても、高品質な食品を容易に製造することが可能となる。
【0135】
ここで、粘弾性特性測定装置300は、こんにゃくや豆腐などの測定対象9を投入する測定容器62の底面の一部として、カプラント部材7、遅延部材6およびセンサ部2を配置し、リアルタイムで測定対象の粘弾性特性を測定する。
【0136】
図10および図11を参照して、測定容器62は、その底面の一部に切欠部をもち、その切欠部に遅延部材6が装着される。
【0137】
遅延部材6は、その上面、すなわち測定対象9と密着する面が測定容器62の内部の底面と一致するように配置される。さらに、遅延部材6は、カプラント部材7が注入されるための切欠部がその上面となるように配置される。そして、遅延部材6は、その底面においてセンサ部2と密着される。
【0138】
カプラント部材7は、遅延部材6の上面に設けられる切欠部に注入され、測定対象9と遅延部材6との間に介在する。そして、カプラント部材7は、測定対象9との高い密着性を発揮する。
【0139】
センサ部2は、遅延部材6の下面と密着し、遅延部材6およびカプラント部材7を介して、測定対象9へ入射音波を放射する。そして、センサ部2は、測定対象9で反射され、カプラント部材7および遅延部材6を伝搬する反射音波を受信する。
【0140】
以下、演算処理部8およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0141】
この発明の実施の形態3によれば、遅延部材と測定対象との間に流動性を有するカプラント部材が介挿されるので、測定対象の重量が軽く、また、測定対象の変形量が小さい場合であっても、カプラント部材がその流動性により変形し、遅延部材と測定対象との空隙を埋める。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。さらに、外部から測定対象を加圧するなどの手段を設ける必要がなく、構成を簡素ができるため、コストを抑制した粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0142】
なお、実施の形態1に示す粘弾性特性測定装置に対して、実施の形態3に示す遅延部材およびカプラント部材を適用してもよい。遅延部材と測定対象との間にカプラント部材を介挿することで、より密着性を高めることができ、より高い測定精度を実現できる。
【0143】
[実施の形態4]
上述の実施の形態1〜3においては、加圧手段を用いて、測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明した。一方、実施の形態4においては、測定対象と遅延部材とが接する空間を形成し、その空間内を減圧することで、測定対象と遅延部材とを密着させる構成について説明する。
【0144】
図12は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の概略構成図である。
【0145】
図13は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の装置構成図である。
【0146】
図13(a)は、粘弾性特性測定装置400の外観図である。
図13(b)は、図13(a)におけるXIIIb−XIIIb線の断面図である。
【0147】
図12を参照して、粘弾性特性測定装置400は、演算処理部76と、センサ部2と、遅延部材66と、密閉部材64と、減圧部68と、駆動部74とからなる。
【0148】
演算処理部76は、図1に示す演算処理部1において、演算部10を演算部15に代えたものである。演算部15は、演算部10から、減圧部68および駆動部74へ指令を与える。その他については、図1に示す演算処理部1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0149】
センサ部2は、図1に示すセンサ部2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図12および図13(a)を参照して、遅延部材66は、センサ部2のトランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象9で生じる反射音波を伝搬させる。そして、遅延部材66は、トランスデューサ20と密着する面と反対側の面において、密閉部材64と連結される。その他については、実施の形態1に従う遅延部材3と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0150】
密閉部材64は、入射音波および反射音波の伝搬性および測定対象との密着性が高く、かつ空気の透過性が低い、軟質材料からなる。すなわち、密閉部材64は、上述の実施の形態3におけるカプラント部材7と同様の機能を発揮する。さらに、密閉部材64は、測定対象9と遅延部材66が接する空間を大気から隔離し、測定対象9と遅延部材66との間の密閉性を保つ。一例として、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400においては、密閉部材64は、吸盤形状を有する。
【0151】
減圧部68は、密閉部材64とパイプ部材70を介して接続され、演算部15からの指令に応じて、密閉部材64により隔離された空間に含まれる空気を排出する。そして、減圧部68は、密閉部材64により生成される空間の圧力を大気圧に比較して低くする。一例として、減圧部68は、電動ポンプなどからなり、羽根などの回転運動により大気を排出する。
【0152】
駆動部74は、リンク部材72を介して遅延部材66と結合され、遅延部材66に加えて、遅延部材66と密着して配置されるセンサ部2および密閉部材64を一体的に上下方向に駆動する。そして、駆動部74は、演算部15からの指令に応じて動作し、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64と測定対象9との距離を制御する。
【0153】
実施の形態4においては、減圧部68および密閉部材64が密着手段を実現する。
以下、図13(b)を参照して、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の動作について説明する。
【0154】
演算処理部76は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、駆動部74に指令を与え、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64を搬送台80上に配置された測定対象9と接着させる。すると、密閉部材64は、測定対象9と遅延部材66との間の密閉性を確保する。続いて、演算処理部76は、減圧部68に指令を与え、密閉部材64が密閉性を確保した空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、遅延部材66は、密閉部材64を介して、測定対象9と密着する。
【0155】
このように、演算処理部76は、遅延部材66が測定対象9と十分に密着すると、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。センサ部2から放射された入射音波は、伝搬性の高い密閉部材64を通過して測定対象へ入射する。そして、その一部は測定対象9で反射され、密閉部材64を再度通過してセンサ部2で受信される。
【0156】
以下、演算処理部76およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0157】
さらに、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の特徴的な動作について説明する。
【0158】
図14は、この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置400の測定時の動作を説明するための図である。
【0159】
図14(a)は、搬送台80に測定対象9が存在しない状態である。
図14(b)は、密閉部材64が測定対象9と接着した状態である。
【0160】
図14(c)は、測定対象9の粘弾性特性を測定する状態である。
図14(a)を参照して、搬送台80に測定対象9が存在しない状態において、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64は、図示しない駆動部74により垂直方向に吊り下げられるように配置される。
【0161】
図14(b)を参照して、続いて、測定対象9が隣接する搬送台などから搬送台80上に搬送されると、図示しない演算処理部76は、測定対象9を検出し、図示しない駆動部74に指令を与え、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64を垂直下方向に移動する。ここで、測定対象9が水平方向に対して斜角を有している場合には、図示しない駆動部74と遅延部材66とを連結するリンク部材72のリンク機構により、一体化された遅延部材66、センサ部2および密閉部材64は、入射音波の放射面が測定対象9の斜面と平行するように、その向きを変化させる。そのため、測定対象9が斜角を有する物体であっても、密閉部材64は、測定対象9と接着できる。
【0162】
図14(c)を参照して、さらに、図示しない演算処理部76は、減圧部68に指令を与え、密閉部材64が密閉性を確保した空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。すると、遅延部材66は、密閉部材64を介して、測定対象9と密着する。
【0163】
以下、上述した測定方法と同様にして、演算処理部76およびセンサ部2は、測定対象9の粘弾性特性を測定する。
【0164】
この発明の実施の形態4によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0165】
また、この発明の実施の形態4によれば、遅延部材がリンク機構を構成するリンク部材を介して駆動部と連結されるので、測定対象が遅延部材の放射面に対して平行ではない場合においても、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0166】
[実施の形態5]
上述の実施の形態4においては、吸盤形状の密閉部材を用いる構成について説明した。一方、実施の形態5においては、遅延部材の外周にスライド機構をもって配置される密閉部材を用いる構成について説明する。
【0167】
図15は、この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置500の装置構成図である。
【0168】
図15(a)は、粘弾性特性測定装置500の外観図である。
図15(b)は、図15(a)におけるXVb−XVb線の断面図である。
【0169】
図15(a)を参照して、粘弾性特性測定装置500は、演算処理部86と、センサ部2と、遅延部材82と、密閉部材81と、ばね部材84と、減圧部68とからなる。
【0170】
演算処理部86は、上述の実施の形態4に示す演算処理部76において、駆動部への指令を与える機能を取除いたものと等価であり、その他についての詳細な説明は繰返さない。
【0171】
センサ部2および減圧部68は、上述の実施の形態4と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0172】
図15(a)および図15(b)を参照して、遅延部材82は、半径の異なる2つの円柱を重ねたような形状を有し、より大きな半径の円柱がその上側に配置される。そして、下側に配置される、より半径の小さな円柱の外周側に環状の密閉部材81が配置される。また、遅延部材82の底面には、カプラント部材88が密着して配置される。
【0173】
密閉部材81は、円柱の中心軸に沿ってスライドするように構成され、さらに、密閉部材81は、遅延部材82の上側の円柱と連結されたばね部材84により付勢されて、垂直下向きに所定の反発力を発揮する。そして、密閉部材81は、遅延部材82の外周面と接する面および測定対象9と接する面において、密閉性を確保するためのシール部材85を備える。シール部材85は、一例としてOリングなどからなる。
【0174】
すなわち、密着部材81は、圧力に応じて、遅延部材82と測定対象9との間に形成される空間を変化させる。
【0175】
さらに、密閉部材81は、その一部に内周側から外周側へ貫通する貫通穴が形成され、その貫通穴とパイプ部材70を介して、減圧部68と接続される。そして、減圧部68が、測定対象9と密閉部材81との間に形成される空間に含まれる空気を排出することで、その空間の圧力が低下し、低下した空間の圧力と大気圧との差により遅延部材82に押付力が生じる。
【0176】
カプラント部材88は、遅延部材82の放射面に密着して配置され、測定対象9と遅延部材82と密着性を高める。そして、実施の形態5におけるカプラント部材88は、半固体材料からなり、入射音波および反射音波に対して高い伝搬性および測定対象との高い密着性を有する。
【0177】
実施の形態5においては、減圧部68および密閉部材81が密着手段を実現する。
以下、図15(b)を参照して、この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置500の動作について説明する。
【0178】
演算処理部86は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、減圧部68に指令を与え、密閉部材81が密閉性を確保する空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、遅延部材82には、密閉部材81が形成する空間の圧力と大気圧との圧力差(ゲージ圧)に比例した押付力が垂直下向きに生じる。そして、この押付力がばね部材84による抗力を上回ると、遅延部材82は、垂直下向きに移動し、カプラント部材88を介して、測定対象9と密着する。
【0179】
このように、遅延部材82が測定対象9と十分に密着すると、演算処理部86は、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。センサ部2から放射された入射音波は、カプラント部材88を伝搬して測定対象9へ入射する。そして、その一部は測定対象9で反射され、カプラント部材88を再度伝搬してセンサ部2で受信される。
【0180】
以下、演算処理部86およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態4と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0181】
この発明の実施の形態5によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0182】
[実施の形態6]
上述の実施の形態4および5においては、可動する密閉部材を用いて測定対象と遅延部材との接する空間を形成する構成について説明した。一方、実施の形態6においては、固定の容器を用いて、粘弾性特性を測定する構成について説明する。
【0183】
図16は、この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置600の装置構成図である。
【0184】
図16(a)は、粘弾性特性測定装置600の外観図である。
図16(b)は、図16(a)におけるXVIb−XVIb線の断面図である。
【0185】
図16(a)および図16(b)を参照して、粘弾性特性測定装置600は、演算処理部86と、センサ部2と、遅延部材90と、容器部92と、シート部材98と、減圧部68とからなる。
【0186】
センサ部2、演算処理部86および減圧部68は、上述の実施の形態5と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0187】
容器部92は、上面が開放された、ます形状の容器であり、さらに、その底部に切欠部を有する。また、容器部92は、その側面の一部に内面側から外面側へ貫通する貫通穴が形成され、その貫通穴とパイプ部材70を介して、減圧部68と接続される。
【0188】
遅延部材82は、容器部92の底面に設けられた切欠部に挿入され、容器部92の底面の一部を形成する。
【0189】
シート部材98は、容器部92の開放された上面の縁部と密着され、容器部92の内部の空間を大気から隔離し、密閉性を保つ。そして、減圧部68が、容器部92内の空間に含まれる空気を排出することで、その空間の圧力が低下し、低下した圧力と大気圧との差によりシート部材98を介して、測定対象9に押付力が生じる。
【0190】
実施の形態6においては、減圧部68、容器部92およびシート部材98が密着手段を実現する。
【0191】
以下、この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置600の動作について説明する。
【0192】
演算処理部86は、外部から基準値取得指令または測定開始指令を受けると、減圧部68に指令を与え、容器部92およびシート部材98により形成される空間に含まれる空気を排出させ、当該空間の圧力を大気圧に比較して低くする。なお、理想的には、真空状態が望ましい。すると、測定対象9には、容器部92およびシート部材98により形成される空間の圧力と大気圧との圧力差(ゲージ圧)に比例した押付力が垂直下向きに生じる。この押付力により、測定対象9と遅延部材90との間に介在している空隙99が押し出される。
【0193】
したがって、測定対象9には、測定対象9の自重による静圧に加えて、ゲージ圧が加わるので、遅延部材82との密着性をより高めることができる。そして、測定対象9が遅延部材90と十分に密着すると、演算処理部86は、センサ部2へ指令を与え、センサ部2から測定対象へ入射音波を放射する。そして、その入射音波の一部は、測定対象9で反射されてセンサ部2で受信される。
【0194】
以下、演算処理部86およびセンサ部2による粘弾性特性の測定方法については、実施の形態4および5と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0195】
この発明の実施の形態6によれば、遅延部材と測定対象とが接する空間を大気から隔離して密閉性を確保し、その空間の圧力を大気圧より低くすることで、遅延部材と測定対象との密着を妨げる空隙などの発生を抑制できる。よって、測定対象と遅延部材との密着性を高めて測定誤差を抑制できるため、測定対象の粘弾性特性を高精度に測定できる粘弾性特性測定装置を実現できる。
【0196】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】この発明の実施の形態1に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図2】粘弾性特性測定装置の外観から見た概略構成図である。
【図3】図2におけるIII−III線の断面図である。
【図4】表面反射法を説明するための図である。
【図5】粘弾性特性を測定するためのフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図7】粘弾性特性測定装置を含むプロセス装置を示す外観図である。
【図8】反応プロセスの制御に係るフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態3に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図10】粘弾性特性測定装置の外観から見た概略構成図である。
【図11】図10におけるXI−XI線の断面図である。
【図12】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の概略構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【図14】この発明の実施の形態4に従う粘弾性特性測定装置の測定時の動作を説明するための図である。
【図15】この発明の実施の形態5に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【図16】この発明の実施の形態6に従う粘弾性特性測定装置の装置構成図である。
【符号の説明】
【0198】
1,4,8,76,86 演算処理部、2 センサ部、3,6,66,82,90 遅延部材、7,88 カプラント部材、9 測定対象、10,11,13,15 演算部、12 時間データメモリ部、14 記憶部、16 表示出力部、18 入力部、20 トランスデューサ、22 送信制御回路、24 送信回路、25 方向整合器、26 受信回路、28 信号処理回路、30 搬送ライン、32 加圧部、34 加圧ローラ、40 空隙部、42 反応容器、44,54 モータ、46 循環ポンプ、48,50,58 配管、52 三方弁、56 攪拌部、62 測定容器、64,81 密閉部材、68 減圧部、70 パイプ部材、72 リンク部材、74 駆動部、80 搬送台、84 ばね部材、85 シール部材、92 容器部、98 シート部材、99 空隙、100,200,300,400,500,600 粘弾性特性測定装置、350 プロセス装置、f 周波数、L’ 貯蔵弾性率、L” 損失弾性率、R01,R12 反射率、Z0,Z1,Z2 音響インピーダンス、δ 偏角、ρ2 密度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象へ入射音波を放射し、かつ、前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信するセンサ部と、
前記センサ部と密着して配置され、前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記センサ部において放射される前記入射音波と受信される前記反射音波との間に遅延時間を生じさせる遅延部材と、
前記センサ部において受信される前記反射音波に基づいて、前記測定対象の粘弾性特性を測定する演算処理部と、
前記測定対象と前記遅延部材とを密着させるための密着手段とを備える、粘弾性特性測定装置。
【請求項2】
前記密着手段は、前記測定対象が前記遅延部材と密着するように前記測定対象を加圧する加圧部を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項3】
前記測定対象は、搬送ラインに沿って連続的に搬送され、
前記遅延部材は、その一方の面が前記測定対象を搬送する搬送面と略一致するように、前記搬送ラインの所定の位置に配置され、
前記加圧部は、前記搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて前記測定対象を加圧し、
前記演算処理部は、前記搬送ラインを搬送される前記測定対象を連続的に測定する、請求項2に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項4】
前記遅延部材は、前記センサ部との境界面と対向する面において切欠部を含み、
前記密着手段は、流動性を有し、かつ、前記測定対象と前記遅延部材との間に介在するように前記切欠部に注入されるカプラント部材をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項5】
前記測定対象は、流動性を有する物質であり、
前記密着手段は、前記測定対象をたくわえ、かつ、前記遅延部材がたくわえた前記測定対象の静圧を受けるように配置される容器を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項6】
前記容器は、プロセス装置の一部を構成し、
前記プロセス装置は、前記測定対象に対して所定の処理を行ない、
前記演算処理部は、前記測定対象の粘弾性特性を連続的に測定する、請求項5に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項7】
前記演算処理部は、測定した前記測定対象の粘弾性特性と、外部から与えられた設定値とを比較し、その比較結果に基づいて前記プロセス装置を制御する、請求項6に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項8】
前記密着手段は、前記測定対象が前記遅延部材と密着するように、前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間の圧力を大気圧に比較して低くする減圧部を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項9】
前記減圧部は、
前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間を大気から隔離する密閉部材と、
前記密閉部材と連結され、前記密閉部材により隔離された空間に含まれる空気を排出する排出部とを含む、請求項8に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項10】
前記密閉部材は、前記遅延部材と接合され、吸盤形状を有する部材を含む、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項11】
前記密閉部材は、前記遅延部材の外周を覆うように配置され、前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間の圧力に応じて、当該空間の大きさを変化させる部材を含む、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項12】
前記密閉部材は、可とう性を有するシート部材をその一部に含む容器部からなる、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項13】
前記演算処理部は、前記反射音波を予め取得された基準値と比較することで、前記測定対象の粘弾性特性を測定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項1】
測定対象へ入射音波を放射し、かつ、前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信するセンサ部と、
前記センサ部と密着して配置され、前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記センサ部において放射される前記入射音波と受信される前記反射音波との間に遅延時間を生じさせる遅延部材と、
前記センサ部において受信される前記反射音波に基づいて、前記測定対象の粘弾性特性を測定する演算処理部と、
前記測定対象と前記遅延部材とを密着させるための密着手段とを備える、粘弾性特性測定装置。
【請求項2】
前記密着手段は、前記測定対象が前記遅延部材と密着するように前記測定対象を加圧する加圧部を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項3】
前記測定対象は、搬送ラインに沿って連続的に搬送され、
前記遅延部材は、その一方の面が前記測定対象を搬送する搬送面と略一致するように、前記搬送ラインの所定の位置に配置され、
前記加圧部は、前記搬送面に対して垂直上方から垂直下方に向けて前記測定対象を加圧し、
前記演算処理部は、前記搬送ラインを搬送される前記測定対象を連続的に測定する、請求項2に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項4】
前記遅延部材は、前記センサ部との境界面と対向する面において切欠部を含み、
前記密着手段は、流動性を有し、かつ、前記測定対象と前記遅延部材との間に介在するように前記切欠部に注入されるカプラント部材をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項5】
前記測定対象は、流動性を有する物質であり、
前記密着手段は、前記測定対象をたくわえ、かつ、前記遅延部材がたくわえた前記測定対象の静圧を受けるように配置される容器を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項6】
前記容器は、プロセス装置の一部を構成し、
前記プロセス装置は、前記測定対象に対して所定の処理を行ない、
前記演算処理部は、前記測定対象の粘弾性特性を連続的に測定する、請求項5に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項7】
前記演算処理部は、測定した前記測定対象の粘弾性特性と、外部から与えられた設定値とを比較し、その比較結果に基づいて前記プロセス装置を制御する、請求項6に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項8】
前記密着手段は、前記測定対象が前記遅延部材と密着するように、前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間の圧力を大気圧に比較して低くする減圧部を含む、請求項1に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項9】
前記減圧部は、
前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間を大気から隔離する密閉部材と、
前記密閉部材と連結され、前記密閉部材により隔離された空間に含まれる空気を排出する排出部とを含む、請求項8に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項10】
前記密閉部材は、前記遅延部材と接合され、吸盤形状を有する部材を含む、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項11】
前記密閉部材は、前記遅延部材の外周を覆うように配置され、前記測定対象と前記遅延部材とが接する空間の圧力に応じて、当該空間の大きさを変化させる部材を含む、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項12】
前記密閉部材は、可とう性を有するシート部材をその一部に含む容器部からなる、請求項9に記載の粘弾性特性測定装置。
【請求項13】
前記演算処理部は、前記反射音波を予め取得された基準値と比較することで、前記測定対象の粘弾性特性を測定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の粘弾性特性測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−121200(P2007−121200A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316529(P2005−316529)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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