粘性形状適合性ゲルの形成方法および医用補綴物としてのその使用
本発明は、液体、又は少なくとも1種が極性である液体類に懸濁した重量(乾燥)で約1%〜50%の複数のポリマーナノ粒子を含む粘性形状適合性ゲルを提供する。このゲル内に含有される複数のポリマーナノ粒子は、平均直径が約1マイクロメートル未満であり、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量のポリマー鎖から構成され、これによってゲル粒子の懸濁物が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2007年3月15日に出願された、米国特許出願第11/686,902号(この内容は、その全体が参考として本開示に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ポリマー化学、物理化学、薬化学、材料科学及び医学の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
本開示の全体を通じて、種々の刊行物、特許及び公開特許明細書を、出典を明らかにする引用により参照する。これらの刊行物、特許及び公開特許明細書の開示内容は、本発明が属する技術分野の水準をより十分に説明するために、引用により本明細書の開示内容に組み込まれている。
【0004】
ゲルは、液体を吸収して、非ゼロ剛性率を有する安定で、通常柔らかくしなやかな組成物を形成する三次元のポリマー網目である。ゲルに吸収された液体が水である場合、このゲルはヒドロゲルと呼ばれる。水はヒドロゲルの大きな重量百分率を占めることができる。このユニークな特性は、多くのヒドロゲル形成ポリマーが生物学的に不活性であるという事実と相俟って、多種多様な生物医学的用途にヒドロゲルを利用する機会をもたらしている。
【0005】
例えば、ヒドロゲルはソフトコンタクトレンズとして広く用いられている。また、これは、ゲルマトリックスから放出されて治癒過程を促進することができる薬剤の含有の有無に関係なく、熱傷及び創傷包帯としても用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。また、ヒドロゲルは生物活性物質の持続放出のためのデバイスとしても利用されてきた。例えば、特許文献4に、哺乳動物の皮下埋め込みに適した親水性リザーバ型薬物送達デバイスを調製する方法が開示されている。この特許文献4では、薬物放出速度をその透過係数に直接影響を及ぼすヒドロゲルインプラントの水分含量によって制御することができることが開示されている。
【0006】
上記の諸特許の全てにおいて、ヒドロゲルは、バルク形態である、即ち、認識できる規則的な内部構造を持たない材料の形のない塊である。バルクヒドロゲルは、水が吸収される筈の表面に対して内部の容積が大きいために膨潤速度が遅い。さらに、吸収された水に溶解もしくは懸濁された物質は、これがゲルの外表面に達するために移動する必要のある距離に応じた速度でゲルから拡散することになる。この状況は微粒子ゲルを用いることによってある程度改善することができる。各粒子が十分に小さければ、粒子内に分散した物質類は表面に拡散し、ほぼ同時に放出されることになる。
【0007】
微粒子ゲルは、直接又は逆相乳化重合などのいくつかの方法によって形成させることができ(非特許文献1)、或いはこれは、バルクゲルから、このゲルを乾燥させた後、得られるキセロゲルを所望の大きさの小粒子に粉砕することによって作製することができる。次いで、こうした粒子を再溶媒和化して微粒子ゲルを形成させることができる。この手段によって大きさが直径でマイクロ(10−6メートル(m)〜ナノ(10−9m))の範囲の粒子を作製することができる。こうした大きさの範囲の粒子によって封入された物質の分子は全て粒子の外表面に達するための移動距離がほぼ同じであり、場合によっては、ほぼゼロ次放出速度を示すことになる。しかしながら、微粒子ゲルにはそれ特有の問題がある。例えば、特定の標的部位への粒子の浸透及びその部位における局在化を制御することが困難である。さらに、バルクヒドロゲルは形状維持性にすることができることにより種々の医学的用途において生体適合材料として有用となっているが、現在入手可能な微粒子ゲルはそうしたものにできていない。
【0008】
同時係属の特許文献5に、ヒドロゲル粒子から形成され、従ってバルクヒドロゲルの形状維持特性と微粒子ゲルの物質放出制御性とを併せ持つ形状維持性凝集体が開示されている。この出願では、水でヒドロゲル粒子の懸濁物を調製し、粒子が疎水性/親水性相互作用及び水素結合を含む(がこれらに限定されるものではない)非共有結合力によって結合された形状維持性凝集体として合体するまでこの懸濁物を濃縮することによって形状維持性凝集体を形成させる方法が開示されている。
【0009】
同時係属の特許文献6に、凝集体の形状が適用部位の形状によって決定されるように、インサイツ(in situ)で形状保持性凝集体を形成する方法が開示されている。凝集体の形成は、ゲル粒子の分散状態の維持を可能にするゼータ電位の絶対値を有するゲル粒子を極性液体に分散した懸濁物を、ゲル粒子のゼータ電位絶対値が低下する受入媒体中に導入することによって達成される。こうしたゲル粒子は、疎水性/親水性相互作用及び水素結合を含む非共有結合物理力によって結合された形状維持性凝集体として合体する。
【0010】
先天性組織欠損の治療、損傷臓器及び組織の修復並びに組織増大のために長年の間、再建手術が行われてきた。哺乳動物の組織の再建のために理想的な材料は、生体適合性であって、有害な組織反応を引き起こすことなく天然組織に合体可能であることが必要であり、適切な解剖学的及び機能的特性(例えば、大きさ、強さ、耐久性など)を有する必要がある。合成及び天然由来のポリマーを含む多数の生体適合材料が哺乳動物組織の再建又は増大術のために用いられてきた(例えば、“Textbook of Tissue Engineering”Lanza、R.Langer、R.及びChick,W.編、ACM Press、コロラド州(1996年)並びにこれに引用されている文献参照)が、全ての用途に使用するのに満足できることが判明している材料はない。
【0011】
組織に合体させる補綴物としての材料の埋め込みの他に、埋め込み及び組織増大のためにシリコーンエラストマー及びシリコーン溶液などの不活性シェルに多種多様な材料を取り込ませることが行われている。例えば、Robinson,Jrほかの“Prosthesis containing a solution of polyethylene glycol”という名称の特許文献7には、低分子量ポリエチレングリコール(PEG)を含有する乳房インプラント用水性充填媒体が開示されている。インプラントに充填するのに用いる液体にPEGを加える目的は、得られる溶液の粘度を高めることによってインプラントをより脂肪組織のように挙動させることにある。この系の1つの限界は、破損の際に、PEGが体の中を移動し、望ましくないことである。
【0012】
特許文献8においてVan Aken Redingerほかは、乳房インプラントとして使用するためのシリコーンゲル充填補綴物を開示している。シリコーンゲルの利点は、これが生理食塩水充填インプラントと比較して弾性に関し、より脂肪組織のように挙動することにある。
【0013】
しかしながら、シリコーン充填インプラントの欠点は、シリコーンがシェルの中を移動することができることによりインプラントの周囲に収縮をもたらす可能性があることである。さらに、インプラントが破損した場合、シリコーンが体の中に拡散し、同様に望ましくない。
【0014】
Itaほかの“Use of glucomannan hydrocolloid as filler material in prostheses”という名称の特許文献9には、水性媒体に分散させたコロイド状ヒドロゲル材料が開示されている。この系の1つの限界は、インプラントの壊損の際に、この親水コロイド材料が破損部位に留まらないで体内中に分散することである。
【0015】
特許文献10においてTiffanyは、乳房インプラントとして埋め込まれるシリコーン擬似ゲルを開示している。この材料の欠点は、これが粘性流体ではなく、固体ゲルであるため、的確には脂肪組織をシミュレートしないことである。
【0016】
特許文献11、特許文献12及び特許文献13のいずれにも医用補綴物用のシェル内に含有させた各種水中分散材料の使用が開示されている。これらのうちの最初の特許では、外からポンピングによりインプラントに生理食塩水を添加する際に、より高粘度の溶液を形成する脱水ヒドロゲル材料が利用されている。2番目の特許では、粘度を増大させるために動物又は植物源由来の脂肪を充填したシェルが開示されており、3番目の特許では粘度を増大させて脂肪組織をシミュレートさせるためにセルロース材料が用いられている。これらの特許の全てに共通する欠点は、破損が生じた場合に、シェル内の材料が破壊点に局在して留まるのではなく、体内中に拡散することである。
【0017】
従って、封入エンベロープが破損しても局在して留まる医用インプラント用の適切な粘度の生体適合性材料が求められている。本発明は、こうしたニーズを満たすものであり、これに関連した利益も提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第3,063,685号明細書
【特許文献2】米国特許第3,963,685号明細書
【特許文献3】米国特許第4,272,518号明細書
【特許文献4】米国特許第5,292,515号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0086548号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0118270号明細書
【特許文献7】米国特許第6,312,466号明細書
【特許文献8】米国特許第4,455,691号明細書
【特許文献9】米国特許第6,537,318号明細書
【特許文献10】米国特許第5,741,877号明細書
【特許文献11】米国特許第5,632,774号明細書
【特許文献12】米国特許第6,156,066号明細書
【特許文献13】米国特許第5,531,786号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Landfesterほか、Macromolecules、2000年、33:p.2370
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、適用場所が生体内である多くの商業的用途(例えば、関節再建、美容整形などの生物医学的用途)に特に有用であるヒドロゲル組成物を提供する。本発明の一態様は、上記の市販乳房インプラントの限界の全てを取り扱っている。医療上許容可能なシェル内に含有されるこの材料は、偶然の破損が生じた場合に局部に留まることになり、その組成を材料固有の物理的性質に基づいて調節することにより広い粘弾性の範囲にわたって脂肪組織をシミュレートすることができる。これによって、胸部を種々の年齢層の女性の胸部に似るように構築又は再構築することが可能となる。本出願者らが知っている限りでは、このように挙動する材料は他になく、これが本発明を開示する根拠である。
【0021】
一態様において、本発明は、少なくとも1種が極性である液体に懸濁した重量(乾燥)で約1%〜50%の複数のポリマーナノ粒子を含む粘性形状適合性ゲルを提供する。こうした複数のポリマーナノ粒子は、平均直径が約1マイクロメートル未満であり、少なくとも1種が極性である有効量の液体又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の有効量の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖から構成される。上記ゲル懸濁物又は系のこうした有効量の諸成分は、上記ナノ粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様において、ナノ粒子粉末の量は重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%もしくはさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0022】
従って、本発明は、ポリマーナノ粒子の乾燥粉末から作られる懸濁物を提供する。極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び複数のポリマーナノ粒子の懸濁物を作製するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合し、これらのナノ粒子は平均直径が1×10−6m未満であるものとし、次いで、懸濁物から液体(類)を除去することにより乾燥粉末中に残る液体(類)の量を重量で10%未満とし、この百分率は乾燥粉末の総重量を基準とするものとすることにより調製したナノ粒子を、少なくとも1種が極性である溶媒に懸濁する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20重%である。
【0023】
また、本発明は、ポリマーナノ粒子の乾燥粉末を戻すことによりゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成させる方法を提供する。こうしたナノ粒子は、上記のようにして、即ち、有効量の平均直径1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を重合し、このゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を個々に含むものとすることによって、調製する。こうした有効量の諸成分は、上記ゲル粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0024】
本発明の一実施態様はホモポリマーのポリ(2−スルホエチルメタクリレート)(pSEMA)を含む組成物を含まない。
【0025】
別の実施態様において、組織再建のための医用補綴物を提供する。この補綴物は、凍結乾燥されたゲルナノ粒子から戻したものであり、平均直径がそれぞれ1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む粘性形状適合性ゲルを含み、こうしたゲル粒子は、有効量の極性液体、又は少なくとも1種が極性である有効量の2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を個々に含むものとする。こうした有効量の諸成分は、上記ゲル粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で%約8〜約20%である。
【0026】
本発明の組成物及び補綴物は組織再建において有用である。また、本発明は組織再建にこれらを用いる上記方法をも提供する。
【0027】
以上に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0028】
[表1]pHEMA、pHPMA及びpHEMA:HPMAのコポリマーの凍結乾燥前後のナノ粒子径を示した表である。
【0029】
[表2]HPMA及びメタクリル酸(MAA)のコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の調製におけるモノマーの相対質量及びミリモルを示した表である。
【0030】
[表3]HPMA及びメタクリル酸(MAA)のコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の平均径及び粒径範囲を示した表である。
【0031】
[表4]HEMA及びGMAのコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の調製における相対質量及びミリモルを示した表である。
【0032】
[表5]HEMA及びGMAのコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の平均径及び粒径範囲を示した表である。
【0033】
[表6]ポリマー濃度が同一であるが化学組成が異なるゲルの粘度を示した表である。
【0034】
[表7]重量10gで同一ポリマー濃度の組成が異なるゲルにおける変形の相対量を示した表である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ヒドロゲルナノ粒子を作製するために用いた一般的反応を示した図である。
【図2】ナノ粒子懸濁物、ナノ粒子粉末、粘性ゲル及び生理食塩液に接触させて得られるナノ粒子凝集体を示したイメージである。
【図3】ナノ粒子をゲル形成後に再分散させた場合のゲルとしての濃度の増加に伴うナノ粒子径の変化を示したグラフである。
【図4】ナノ粒子の濃度の増加に伴うゲルの粘度の変化を示したグラフである。
【図5】乾燥ポリマーナノ粒子の濃度が異なるゲルにおける粘度の経時変化を示したグラフである。
【図6】重量を10gとしたポリマー濃度の増加に伴うゲルの相対変形量の変化を示したグラフである。
【図7】ナノ粒子の種々の組成物から構成される粘性ゲルの相対凝集速度を示したグラフである。
【図8】種々のナノ粒子組成物から構成される粘性ゲルの相対たわみ量(relative deflection)を示したグラフである。
【図9】各種割合の水中ポリマー分散液から構成される粘性ゲルの相対たわみ量(relative deflection)を示したグラフである。
【図10】シェル破損後の、ウサギに外科的に埋め込まれたインプラント内に含まれる粘性ゲルに対する凝集効果を示した図である。
【図11】シリコーンエラストマーシェル中の形状適合性粘弾性ゲルの写真である。
【図12】外科的埋め込みの前の、ロールアップ(rolled up)されてサイズの相違を示す粉末充填インプラント及び通常のシリコーンインプラントの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
定義
本明細書に用いられている特定の用語は以下に定義された意味を有することがある。本明細書及び特許請求の範囲の原文に用いられている単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別の意味に解すべき場合を除き、単数形及び複数形指示を包含する。
【0037】
本明細書に用いられている「含む(comprising)」という用語は、その組成物及び方法には記載された要素が含まれるが、他の要素も除外されないこと意味するものである。組成物及び方法を定義するために用いる場合の「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、上記の目的のための組成物又は方法に本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。「からなる(consisting of)」とは、特許請求された組成物及び実質的な方法工程の他の構成要素うちの僅少を超える要素を除外することを意味する。これらの移行用語(transition term)のそれぞれによって限定される実施態様は本発明の範囲内にある。全ての態様及び実施態様では移行用語「含む」、単独に「からなる」又は単独に「本質的に〜からなる」を用いることを必然的に伴うものとすることは言うまでもない。
【0038】
範囲を含むすべての数字表示、例えば、pH、温度、時間、濃度及び分子量は、0.1ずつ(+)又は(−)に変動する近似値である。従って、必ずしも明確には記載されていないが、すべての数字表示には「約」という用語が前に付くことは言うまでもない。また、「約」という用語は、「X+0.1」又は「X−0.1」のような「X」の小刻みな変動に加えて、正確な値「X」も包含する。また、必ずしも明確には記載されていないが、本明細書に記載した試薬は単に例示的なものであること、及びそのようなものの均等物は当該分野では公知であることは言うまでもない。
【0039】
本明細書で用いている「ゲル」という用語は、それ自体特定の液体に不溶性であるが、その液体を大量に吸収し保持することにより安定で、多くの場合柔らかくてしなやかであるが、常に程度の差こそあれ形状維持性である構造を形成することができる三次元ポリマー構造のことを意味する。上記液体が水である場合、このゲルはヒドロゲルと称する。特に明確に断らない限り、「ゲル」という用語は、本願全体を通して、水以外の液体を吸収したポリマー構造及び水を吸収したポリマー構造の両方を指して用いるが、このポリマー構造が単に「ゲル」であるのかそれとも「ヒドロゲル」であるのかは文脈から当業者には容易に理解されよう。
【0040】
本明細書で用いている「極性液体」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。つまり、極性液体とは、電子がその分子の原子間で不均一に分布し、従って電気双極子を生じる液体である。極性であるためには、分子は、その分子内に他の原子よりも電気陰性の原子を少なくとも1個含有していなければならない。極性液体の例としては、酸素原子が部分負電荷を有し、水素原子が部分正電荷を有する水、及びOH部分が同様に分極されるアルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本明細書で用いている「ゲル粒子」という用語は、不連続形状、通常球状又は実質的にそうであるが必ずしもそうとは限らない微量又は超微量のゲルのことを意味する。また、この用語は、個々の粒子が親水性/疎水性相互作用、水素結合などの非共有結合物理力によって結合された小さな集合体であって、これらを含有するゲル粒子懸濁物(懸濁系)の安定性又は本発明の方法におけるこの懸濁系の働きに悪影響を与えない集合体を包含する。こうした集合体は、懸濁の際のゲル粒子の濃度変化から生じる。即ち、十分量の界面活性剤が存在して高濃度のゲル粒子が安定化されるのでない限り、濃度が高くなるほど、個々の粒子が非共有結合力によって十分互いに接近して合体する可能性が高くなる。
【0042】
本明細書で用いている「懸濁物」とは、固体をこの固体が可溶性でない液体に均一に分布させた安定な分散液のことをいう。この液体に界面活性剤を添加して分散液の安定化を補うことができる。本明細書で用いている「懸濁系」とは、本発明のゲル粒子が上記の分散させる固体である懸濁物のことをいう。「安定な」とは、上記固体が、限定されない例として挙げられる遠心分離又は濾過などの外部からの妨害的な力を受けない限り、少なくとも24時間均一に分散された状態を維持することを意味する。
【0043】
本明細書で用いている「界面活性剤」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。即ち、界面活性剤とは、電荷が陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性、両性又は中性であってもよく、これが溶解される液体の表面張力を低下させるか、2液体間もしくは液体と固体との間の界面張力を低下させる可溶性化合物である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本明細書で用いている「粘性形状適合性ゲル」とは、自己会合を防止する界面活性剤を含む極性液体中の高濃度のゲル粒子のことをいう。
【0045】
本明細書で用いている「医療上許容可能なエンベロープ」とは、臨床的に意義のある動物モデル又はヒト患者において使用するための組織再建用インプラントとして使用する、シリコーン、生理食塩水又は他の材料を含むように現在用いられている米国食品医薬品局(FDA)から承認されている材料を意味する。
【0046】
「対象」とは、哺乳動物、鳥類又はその他などの動物であることが意図されている。哺乳動物としては、マウス、ラット、サル、ウシ、イヌ、ヒト、家畜用動物、スポーツ用動物及びペットが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本明細書で用いている「凝集体形成」という用語は、医療上許容可能なエンベロープが破壊され、ゲル粒子が生理環境に曝されることにより粒子表面のゼータ電位の絶対値が低下し、粒子同士が限定されない例としての親水性/疎水性相互作用及び水素結合などの粒子間及び粒子−液体間力で結合した多数のゲル粒子から構成される局在構造として合体するプロセスのことをいう。
【0048】
本明細書で用いている「モノマー」は、化学分野の当業者に理解されている意味を有する。即ち、モノマーとは、それ自体の繰り返し単位の高分子、即ち、ポリマーを形成することができる低分子化合物である。2種以上のモノマーを反応させることによって、これらのモノマーがそれぞれ多数回繰り返されるポリマーを形成させることができ、このポリマーは、2種以上のモノマーで構成されているという事実を反映させてコポリマーと呼ばれる。
【0049】
本明細書で用いている、本発明のゲル粒子を説明するために用いる場合の「大きさ(size)」という用語は、基本的に球状の粒子について、当然この粒子の容積に直接関係する直径によって表されるその容積を意味する。複数のゲル粒子に言及する場合、大きさは、複数種のそうした粒子について、それらの平均直径によって表される平均容積に関係する。
【0050】
本明細書で用いている「多分散性(polydispersivity)」という用語は、懸濁系における上記粒子の大きさの範囲のことを指す。「狭い多分散性」とは、直径で表される個々の粒子の大きさが懸濁系においてこれらの粒子の平均直径から10%未満外れる懸濁系のことを指す。懸濁系における2種以上の複数の粒子がいずれも狭い多分散性を有すると記載されている場合、その意味は、2組の異なる粒子が存在し、各組の粒子の直径がその組の粒子の平均直径から10%以下だけ逸脱すると共にこれら2つの平均値ははっきりと異なるということである。そのような懸濁系の1つの例を挙げれば、各粒子の直径が20nm±10%である第1の組の粒子及び各粒子の直径が40nm±10%である第2の組の粒子を含む系があるが、これに限定されるものではない。
【0051】
本明細書で用いている「広い多分散性」という用語は、ある組の個々の粒子の大きさがその組の粒子の平均の大きさから10%を超えて逸脱する懸濁系のことを指す。
【0052】
本明細書で用いている「複数」という用語は、単に、1を超える数、即ち、2以上を意味する。
【0053】
本明細書で用いている「化学組成」とは、これが本発明のゲル粒子に関する場合、重合することにより上記粒子のポリマー鎖が得られるモノマーの化学組成、2種以上のモノマーを用いて上記粒子のポリマー鎖を調製する場合には各種モノマーの化学組成及び比率、及び/又は粒子鎖を相互に連結させるために用いられる任意の架橋剤(類)の化学組成及び量のことを指す。
【0054】
本明細書で用いている「粒子鎖」とは、単一のポリマー分子、又はこの鎖が存在する上記系が架橋剤を含有する場合には2個以上の相互に連結させたポリマー分子を意味する。架橋されるポリマー鎖の平均数及び特定のゲル粒子内の任意の2本のポリマー鎖間の平均架橋数はこの系中の架橋剤の量及びポリマー鎖の濃度によって決まることになる。
【0055】
本明細書で用いている「湿重量」という用語は、ゲル粒子が吸収することができる液体の最大量を吸収した後のゲル粒子の重量のことをいう。粒子が医薬として有効な薬剤を含有する液体を約0.1〜約99重量%封入していると記載されている場合、その意味は、医薬として有効な薬剤を含有する液体が、医薬として有効な薬剤を含有する液体の封入後のこの粒子の重量の約0.1〜約99%を占めるということである。
【0056】
本明細書で用いている「乾燥重量」という用語は、極性液体(類)の重量を含まないナノ粒子の重量を意味する。
【0057】
本明細書で用いている「医薬として有効な薬剤」という用語は、ゲル粒子に封入され、又は粘性形状適合性ゲルを構成する極性液体(類)に溶解又は分散されている任意の物質のことをいう。医薬として有効な薬剤の例としては、生物医学的作用物質;抗生物質などの生物活性物質、免疫抑制もしくは寛容誘導剤などの抗拒絶剤、遺伝子、蛋白質、成長因子、モノクロナール抗体、断片化抗体、抗原、ポリペプチド、DNA、RNA、リボザイム、放射線不透過性物質及び放射性物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本明細書で用いている「薬学的作用剤(pharmaceutical active agent)」という用語は、薬として用いられる低分子及び高分子化合物の両方を意味する。前者には抗生物質、化学療法剤(特に、白金化合物及びタキソールとその誘導体)、鎮痛剤、抗うつ剤、抗生物質、抗菌剤、抗アレルギー剤、免疫抑制もしくは寛容誘導剤などの抗拒絶剤、アンチアリシクス(anti−arryhthics)、抗炎症性化合物、中枢神経興奮薬、鎮静剤、抗コリン作用剤、抗動脈硬化剤などがあるが、これらに限定されるものではない。高分子化合物としては、モノクロナール抗体(mAbs)、Fab、蛋白質、ペプチド、細胞、抗原、核酸、遺伝子、蛋白質、成長因子、抗原、ポリペプチド、DNA、RNA、リボザイム、酵素、成長因子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。医薬品は局所又は全身性使用を目的とすることができる。
【0059】
本明細書で用いている「ヒドロキシ」とは−OH基を意味している。
【0060】
本明細書で用いている「アルキル」という用語は、直鎖又は分枝鎖飽和脂肪族炭化水素、即ち、炭素及び水素のみからなる化合物のことをいう。炭素原子を何個含有するかという点から観たアルキルの大きさは式(“a”C〜”b”C)アルキル(式中、a及びbは整数である)によって示される。例えば、(1C〜4C)アルキルとは、1、2、3、4個又はそれ以上の炭素原子からなる直鎖又は分枝鎖アルキルを意味する。アルキル基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0061】
本明細書で用いている「アルコキシ」という用語は、基−O−アルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)のことをいう。炭素原子を何個含有するかという点から観たアルコキシの大きさは式(“a”C〜”b”C)アルコキシ(式中、a及びbは整数である)によって示される。例えば、(1C〜4C)アルコキシとは、1、2、3、4個又はそれ以上の炭素原子からなる直鎖又は分枝鎖−O−アルキルを意味する。アルコキシ基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0062】
本明細書で用いている「エステル」とは、基−C(O)O−アルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)のことをいう。
【0063】
本明細書で用いている「2−アルケン酸」とは、基(R1)(R2)C=C(R3)−C(O)OH(但し、R1、R2、R3はそれぞれ独立に水素及びアルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)から選ばれる)のことを指す。これらの2−アルケン酸類は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などによって例示される。
【0064】
本明細書で用いている「2−アルケン酸エステル」とは、基(R1)(R2)C=C(R3)−C(O)O−アルキル(但し、R1、R2、R3はそれぞれ独立に水素及びアルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)から選ばれる)のことをいう。
【0065】
本明細書で用いている「架橋剤」とは、ポリマー鎖の官能基と共有結合を形成することにより三次元構造をもたらすことができる2、3又は4官能性化学物質のことをいう。
【0066】
本明細書で用いている「水素結合」とは、高度に電気陰性の原子と少なくとも1対の孤立電子対を有する別の電気陰性原子との間の電子引力を意味する。水素結合の強度約23kJ(キロジュール)mol−1は、共有結合の強度約500kJmol−1とファンデルワールス引力の強度約1.3kJ−1との間にある。水素結合はこれを形成することができる組成物の物理的特性に著しい影響を与える。例えば、エタノールは、非共有電子対(即ち、孤立電子対)をも有する酸素原子に共有結合した水素原子を有し、従って、エタノールはこれ自体と水素結合することができる。エタノールは78℃の沸点を有する。一般に、分子量が同様である化合物同士は同様な沸点を有すると考えられている。しかしながら、エタノールと正確に同じ分子量を有するが、それ自体の分子間で水素結合を形成することができないジメチルエーテルの沸点は−24℃であり、エタノールよりもほぼ100度低い。エタノール分子間に存在する水素結合によってエタノールはあたかも大幅により大きな分子量を有するかのように挙動する。
【0067】
本明細書で用いている「荷電」ゲル粒子とは、この粒子のポリマー鎖を構成するモノマー及びこれらのポリマーが存在する環境のイオン含量による局部的正又は負電荷を有する粒子のことをいう。例えば、コモノマーとしてアクリル酸を含むヒドロゲル粒子は、塩基性条件下で、これらの酸基の一部又は全てがイオン化された、即ち、−COOHがCOO−になった状態で存在することになるが、これに限定されるものではない。別の例は、酸性環境でアンモニウム(−NH3+)イオンを形成することになるアミノ(−NH2)基である。
【0068】
本明細書で用いている「ゼータ電位」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。簡単に述べると、荷電粒子が電解液に懸濁されている場合、対イオン(この粒子と反対の電荷のイオン)の層が粒子の表面に形成される。粒子のこの層は粒子表面に強力に付着しており、シュテルン(Stern)層と呼ばれている。次いで、この粒子と同じ(及びシュテルン層を形成する対イオン(屡々、共イオンと呼ばれる)の電荷と反対の)電荷のイオンの第2の拡散層がこの強力に吸収された内層の周囲に形成される。このシュテルン層内の付着した対イオン及び上記拡散層内の荷電雰囲気は「二重層」と呼ばれ、その厚さは溶液中のイオンの種類及び濃度によって決まる。この二重層が形成されることにより粒子の電荷が中和される。これによって、粒子の表面と懸濁物内の任意の点との間に界面動電位が生じる。この電圧差は、ミリボルト(mV)のオーダーであるが、表面電位と呼ばれている。この電位は、シュテルン層では基本的には直線的に下降し、次いで、拡散層では指数関数的に下降する。
【0069】
荷電粒子は電圧場を一定の速度で移動するが、これは電気泳動と呼ばれる現象である。その移動度はこの移動粒子とこれを取り囲む液体との境界の電位に比例する。シュテルン層は粒子にきつく拘束され、拡散層はそうではないので、上記の境界は通常、シュテルン層と拡散層との境界であるとは規定され、滑り面と呼ばれることが多い。シュテルン層と拡散層との境の電位はこの粒子の移動度に関係する。この滑り面の電位は中間値であるが、電気泳動(これに限定されるものではない)によるその測定のし易さ及び安定性とのその直接的な関係によってこれが懸濁物中の拡散粒子を特徴付ける理想的な特徴となる。ゼータ電位と呼ばれるのはこの電位である。ゼータ電位は粒子の初期電荷に応じて正又は負とすることができる。「ゼータ電位絶対値」という用語は、電荷符号がない粒子のゼータ電位のことをいう。即ち、例えば、+20mV及び−20mVの実際のゼータ電位のゼータ電位絶対値は20である。
【0070】
液体に懸濁されている荷電粒子は、主に、2つの拮抗する力、(安定的分散に有利な)静電反発力と(粒子の合体、又は粒子が初期に一体となる場合のいわゆる「フロキュレーション」に有利な)ファンデルワールス引力とのバランスによって安定な分散状態が維持されるか、凝集する傾向がある。こうした分散粒子のゼータ電位は静電反発力の強さに関係するので、大きなゼータ電位絶対値は安定な懸濁に有利である。従って、約30mV以上のゼータ電位絶対値を有する粒子は、安定な分散液を形成する傾向がある。何故なら、このレベルでは静電反発力は粒子同士を引き離しておくのに十分であるからである。一方、ゼータ電位の絶対値が約30未満であると、ファンデルワールス力は、静電反発力に打ち勝つのに十分強く、粒子同士がフロキュレーションする傾向がある。
【0071】
特定の溶媒中の特定組成物の粒子のゼータ電位は、この液体のpH、この液体の温度、この液体のイオン強度、この液体の溶液中のイオンの種類並びにこの液体中の界面活性剤(類)の存在、(存在する場合)種類及び濃度を(これらに限定されるものではないが)改変することによってコントロールすることができる。
【0072】
本明細書で用いている「賦形剤」とは、医薬組成物に添加してその投与を容易にするための不活性物質を意味する。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖、各種澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。「医薬用として許容可能な賦形剤」とは、生体に対して著しい刺激を引き起こさず、投与化合物の生物活性及び特性を無効にしない賦形剤を意味する。
【0073】
本発明の粘性形状適合性ゲルを、本明細書の開示内容を利用して操作することにより、上記疾患のいずれかの治療及び/又は予防に有効であると当業者に現在知られている、又は知られるようになる可能性があるほとんど全ての医薬品を封入及び/又は取り込ませることが可能になり、このような医薬品は全て本発明の範囲内にある。
【0074】
本明細書で用いている「生体内で(in vivo)」という用語は、植物でも動物でもよい生物の体内、特にヒト体内で行われる任意の過程又は手順のことをいう。
【0075】
本明細書で用いている「親水性/疎水性相互作用」という用語は、親水性化合物又は化合物の親水性領域が他の親水性化合物又は化合物の親水性領域と結合しやすくし、疎水性化合物又は化合物の疎水性領域が他の疎水性化合物又は化合物の疎水性領域と結合しやすくする物理的力による化学物質の分子間又は分子内結合のことをいう。
【0076】
本明細書で用いている「封入する(occlude)」という用語は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する、即ち、ある期間にわたって物質を取り入れ、保持することを意味する。本発明に関しては、物質は、本発明のゲル粒子によってその形成過程で取り入れさせ、保持させる、即ち、封入させることができる。
【0077】
本明細書で用いている「取り込ませた(entrapped)」という用語は、本発明の粘性形状適合性ゲルを構成するゲル粒子間の間隙に物質をある期間保持させることを意味する。
【0078】
本明細書で用いている「平均分子量」という用語は、本発明の個々のポリマー鎖又は架橋型ポリマー鎖の重量のことをいう。本発明では、平均分子量はレーザ光散乱検出法を用い、ゲル透過クロマトグラフィーにより求めた。
【0079】
本明細書で用いている「弾性率」という用語は、所与の材料の剛性のことをいい、物体の線形応力の弾性の限界内の対応する線形ひずみに対する比率である。
【0080】
本明細書で用いている「粘弾性」とは、粘性的及び弾性的性質を示す材料、即ち、負荷剪断応力の影響下に変形及び流動するが、変形の一部から緩徐に回復する材料のことをいう。
【0081】
本明細書で用いている「自己会合(self−aggregation)」とは、ゲル粒子同士が、濃縮懸濁物中で互いに近接近しているために、合体して、存在する界面活性剤の種類及び量とは無関係に固体塊を形成するプロセスのことをいう。
【0082】
本明細書で用いている「セルフシールの」とは、ゲル粒子がインプラント破損部位で凝集することによりさらに物質がシェルから出ていくのが防止されるプロセスのことをいう。
【0083】
「組成物」は、懸濁剤もしくは他の薬剤と別の化合物もしくは組成物又は担体(例えば、不活性液体担体もしくは(治療的などの)活性液体担体)との組合せを意味するものである。
【0084】
「医薬組成物」は、本発明の懸濁物のような担体と活性薬剤との組合せを含み、これによってこの組成物を試験管内、生体内又は生体外で診断的又は治療的に用いるのに適したものにすることが意図されている。
【0085】
本明細書で用いている「医薬用として許容可能な担体」は、リン酸緩衝生理食塩液、水、油/水又は水/油エマルジョンなどの乳化剤及び様々な種類の湿潤剤などの標準的な医薬用担体のいずれかを包含する。こうした組成物は安定剤及び保存剤を含むこともできる。担体、安定剤及び佐剤の例についてはMartin REMINGTON’S PHARM.SCI、第15版(Mack Publ.社、イーストン(1975年))を参照されたい。
【0086】
「有効量」とは、有益もしくは所望の結果をもたらすのに十分な量である。所望又は有益な結果によって決定されるような有効量を求める方法は当該分野で周知である。
【0087】
実施態様
本発明は、少なくとも1種の極性液体に懸濁されたポリマーナノ粒子の乾燥粉末から構成される、又はこれから本質的になる、又はさらにこれからなる粘弾性ゲルを提供する。この懸濁物を作製する方法及びその使用についても提供する。
【0088】
上記ヒドロゲルナノ粒子粘弾性ゲルの特徴はその濃度であり、従って、一態様において、本発明の目的は、生体内に導入する場合に注入量を最小限に抑えて特定の用途に望ましい物理的性質を有する凝集体を形成させるために、高濃度のゲル粒子懸濁物を作製することにある。
【0089】
別の目的は、ゼータ電位絶対値の低下によりゲル粒子を凝集させる環境に懸濁物を導入することなく懸濁物中のこうした粒子が自己会合するのを防止することにある。これは、こうした高濃度の粒子を安定化する特定の濃度の医薬用として許可されている適切な界面活性剤を利用することにより達成される。これは、ゲル粒子の濃度と自己会合を防止するのに必要な界面活性剤の種類及び量との間の比率を特定することにより達成することができる。
【0090】
特定の商業的用途ごとに、ゲル粒子及び界面活性剤はいずれも異なる濃度が必要とされることは明らかである。ゲル濃度と界面活性剤レベルとの関係を求めるのに際し、ヒドロゲルナノ粒子をいくつかの方法で単離したが、その1つの方法を凍結乾燥とした。次いで、この乾燥ヒドロゲル粒子を界面活性剤の存在下で再懸濁して、凝集を生じることなく達成できる最高濃度を求めた。
【0091】
こうした特定の実験において、上記濃度が300mg/mL正味重量又は別の実施態様では500mg/mL正味重量を超えて増加し、界面活性剤レベルが一定のとき、懸濁物は凝集せず、実際には純凝集体とは異なる物理的性質を有する粘弾性ゲルを形成していることが見出された。これらの粘性ゲルは分散ナノ粒子の濃度に応じて粘度が変化した。こうした粘性ゲルは、純ナノ粒子凝集体が挙動するようには形状の保持を示さなかった。これらの粘性ゲルの重要な物理的性質は、比較的低粘度の蜂蜜稠度から高濃度及び粘度のゴムタイプの材質へ変化させることができた。比較的高粘度ゲルが最も重要であった。何故なら、その粘弾性特性が、脂肪組織を含有する組織を初めとする軟組織のそれに近づきつつあったからである。これらの材料は、形状維持性凝集体としてではなく、高い粘度を有する流動無定形液体として挙動し、エンベロープ内に含有されると、容器の形状をとる形状をとる。しかしながら、予想されるように、これらの粘性ゲルを構成する粒子の表面のゼータ電位絶対値が、例えば生理環境にこれらが曝されることによって低下するならば、こうした粘性ゲルは凝集するであろう。従って、自己会合を防止するのに十分な量の界面活性剤と共に水又は他の極性溶媒に懸濁した最大濃度のゲル粒子を用いた、哺乳動物組織再建用の新規で安全でユニークな医用補綴物が得られることは予想外であった。
【0092】
一態様において、極性溶媒、好ましくは水に、医薬用として許容可能な界面活性剤の存在下で懸濁したゲル粒子を適切で医療上許容可能で埋め込み可能な(例えば、シリコーンエラストマーもしくはポリウレタンから構成される)水不透過性エンベロープ中に導入する。得られるインプラントの軟度、弾性率などの特性は、ヒドロゲルナノ粒子の組成及び量及び界面活性剤濃度によって容易に調節することができる。別の利点は、破損又は壊損が生じても、漏れは限局化されることになり、粘性ゲル粒子は外科的に除去することができる生物学的に安全で局部的な凝集体を形成することになることである。別の利点は、ヒドロゲルナノ粒子の化学的性質の薬物送達能を利用して、その懸濁物はさらに特定の薬剤もしくは他の作用物質(例えば、抗生物質及び抗拒絶剤)を粘性ゲル内に含有し、又はこの粘性ゲルを構成するゲル粒子内に封入することができることである。特定の薬物に対して透過性である医療上許容可能な埋め込み可能エンベロープを用いて粘性ゲルを含有させ、このインプラントを周囲の組織中にこのエンベロープを介して活性物質を持続的に局部に送達することができよう。拒絶、感染、破損した場合の有毒液体の漏れ及び「感触」に関する現在の哺乳動物組織再建用インプラントの主要な問題及び限界に対して、これらの付加的な属性は数多くの医学的用途のための技術基盤となる。
【0093】
上記懸濁物はポリマーナノ粒子の乾燥粉末から調製する。この乾燥粉末は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び複数のポリマーナノ粒子の懸濁物を作製するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合し、これらのポリマーナノ粒子は平均直径が1×10−6m未満であるものとすることによって調製する。重合後、上記懸濁物から液体(類)を除去することにより乾燥粉末中に残る液体(類)の量を重量で10%未満とし、この百分率は乾燥粉末の総重量を基準とするものとする。種々のポリマーの組合せ及び液体類の別の実施態様について本明細書に記載した。
【0094】
一態様において、本発明は、平均直径が1マイクロメートル未満の凍結乾燥濃縮した複数のゲル粒子を分散させ、こうしたゲル粒子は、有効量の極性液体、又は少なくとも1種が極性である有効量の2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含むものとし、これによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、こうした粒子はこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮されるものとすることによってゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成させる方法を提供する。別の実施態様では、上記懸濁系中の粒子は約300〜約1,000mg湿重量/mL又は約300〜約800mg湿重量/mL又は約300〜約600mg湿重量/mL又は約500〜約1,200mg湿重量/mL又は約700〜約1,200mg湿重量/mL又は約900〜約1,200mg湿重量/mL又は約500〜約1,000mg湿重量/mL又はさらに300mg湿重量/mL超又はさらに500mg湿重量/mL超に濃縮する。別の態様では、粒子の量は重量(乾燥)でのナノ粒子の百分率で規定する。一態様では、ナノ粒子粉末の量は重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%、又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0095】
別の実施態様において、上記少なくとも1種のモリマーは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである。
【0096】
別の実施態様では、上記モノマー(類)は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリセロール又はこれらの組合せである。別の実施態様では、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルのような唯一種のポリマーを使用する。別の態様では、上記ポリマーは、2種のポリマーの組合せであり、そのうちの1種はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである。
【0097】
別の実施態様において、これらのゲル粒子はほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭い。別の実施態様では、これらのゲル粒子は異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭い。
【0098】
別の実施態様では、これらのゲル粒子は1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いか狭い。
【0099】
別の実施態様において、懸濁系の上記複数のゲル粒子は、集合体形成をもたらす約5〜20%の範囲の濃度にある。別の実施態様では、懸濁系の上記複数のゲル粒子は集合体形成をもたらす約5〜10%又は約5〜15%又は約10〜20%又は約15〜20%又は約10〜15%又は約6〜19%又は約7〜18%の範囲の濃度にある。
【0100】
別の実施態様において、上記界面活性剤の有効量は約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである。別の実施態様では、上記界面活性剤の有効量は約0.005重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.5重量パーセント又は約0.006重量パーセント〜約0.40重量パーセントである。好適な界面活性剤としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
別の実施態様において、上記ゲル粒子の平均直径は約1〜約1,000ナノメートルである。別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は約10〜約1,000ナノメートル又は約100〜約1,000ナノメートル又は約10〜約100ナノメートル又は約20〜約1,000ナノメートルである。別の態様では、この平均直径は約1,000ナノメートル未満又は約800ナノメートル未満又は約750ナノメートル未満又は約700ナノメートル未満又は約500ナノメートル未満又は約400ナノメートル未満又は約300ナノメートル未満又は約200ナノメートル未満又は約100ナノメートル未満又はさらに約50ナノメートル未満である。
【0102】
別の実施態様において、上記ゲル粒子の平均直径は約40〜約800ナノメートルである。別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は、約40〜約500ナノメートル又は約40〜約300ナノメートル又は約100〜約800ナノメートル又は約300〜約800ナノメートル又は約600〜約800ナノメートル又は約50〜約700ナノメートルである。さらに別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は、約35ナノメートル超又はさらに約55ナノメートル超又はさらに約75ナノメートル超又はさらに約100ナノメートル超又はさらに約150ナノメートル超又はさらに約200ナノメートル超又はさらに約250ナノメートル、300ナノメートル又はさらに約350ナノメートル超又はさらに約400ナノメートル超である。
【0103】
別の実施態様において、上記ゲル粒子は、懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある。別の実施態様では、懸濁系中の上記ゲル粒子は、約500〜約800mg湿重量/mL又は約500〜約700mg湿重量/mL又は約500〜約600mg湿重量/mL又は約600〜約900mg湿重量/mL又は約700〜約900mg湿重量/mL又は約800〜約900mg湿重量/mL又は約600〜約800mg湿重量/mLの濃度にある。
【0104】
別の実施態様において、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約2,000,000である。別の実施態様では、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約200,000又は約15,000〜約20,000又は約150,000〜約2,000,000又は約1,500,000〜約2,000,000又は約100,000〜約1,000,000又は約50,000〜約1,500,000である。
【0105】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程を含む、又は本質的にこの工程からなる、又はさらにこの工程からなる方法によって得る。上記モノマー(類)は適切な条件下で重合することにより、各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子が形成される。別の態様では、上記ゲル粒子は反応組成物から単離する。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0106】
別の実施態様において、上記液体類は、水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択される。別の実施態様では、上記液体類は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される。別の実施態様では、上記液体は水である。
【0107】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に0.01〜10モルパーセントの有効量の界面活性剤を添加する工程及びこのモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程を含む方法によって得る。別の態様では、上記方法は上記ゲル粒子を単離する工程をも含み、さらに約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を上記重合系に添加する工程を含むものとする。別の態様では、この系に、モルパーセント単位で約0.5〜約15%又は約1%〜約10%の架橋剤を添加する。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0108】
別の実施態様において、上記架橋剤は、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択される。
【0109】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程及びこのモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程及びこれらのゲル粒子を単離する工程を含む、又は本質的にこの工程からなる、又はさらにこの工程からなる方法であって、約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を上記重合系に添加する工程をさらに含むものとする方法によって得る。この態様では、上記方法は、重合の前又は上記液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させた後に、上記重合系の極性液体(類)に有効封入量の1種以上の医薬として有効な薬剤を添加する工程をさらに含む。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0110】
別の実施態様において、上記有効量の医薬として有効な薬剤を含有するゲル粒子は約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。別の実施態様では、上記有効量の医薬として有効な薬剤を含有するゲル粒子は、約1〜約90重量パーセント又は約10〜約90重量パーセント又は約0.1〜約70重量パーセント又は約0.1〜約50重量パーセント又は約0.1〜約20重量パーセント又は約10〜約50重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。
【0111】
別の実施態様において、上記方法は、有効量の1種以上の第1の医薬として有効な薬剤(類)を第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体をもたらすのに有効な量で重合系に添加し、重合後、この第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の一部は得られるゲル粒子によって封入されるものとする工程及び上記の第1の医薬として有効な薬剤(類)を含有するゲル粒子を単離する工程及び、次いで、有効量の上記極性液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させる工程及びこの懸濁物に有効量の1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得、上記第1の医薬として有効な薬剤(類)はこの第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、上記の第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体は上記第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体と同じであっても異なってもよいものとする工程を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる。
【0112】
別の実施態様において、上記医薬品(類)は、1種以上の医薬用として許容可能な賦形剤をさらに含む、又は本質的にこれからなる、又はさらにこれからなる。別の実施態様では、上記医薬品(類)はペプチド又は蛋白質を含む。
【0113】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0114】
ヒドロゲル懸濁物
また、本発明は、以上に記載し、以下に例示した複数のゲル粒子の懸濁物を含む、又は本質的にこれからなる、又はさらにこれからなる粘性形状適合性ゲルを提供する。一態様として、本発明は、上記のようなゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、この粘性形状適合性ゲルの少なくとも1種のモノマーはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルであるものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのモノマー(類)はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリセロール又はこれらの組合せであるものとするゲルを提供する。別の態様では、このポリマーは1種のモノマーのみで構成する。別の態様では、このポリマーは、少なくとも1種が、例えばメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである2種のモノマーの組合せである。別の態様では、このモノマーはメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルモノマーから構成される。
【0115】
別の実施態様において、本発明は、ゲルナノ粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、この複数のゲル粒子はほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、本発明は、ゲルナノ粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、ナノ粒子は平均直径が異なり、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、上記のゲルナノ粒子は1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである。
【0116】
別の実施態様において、本発明は、上記ナノ粒子の懸濁物であって、粘性形状適合性ゲルの複数のゲル粒子は、集合体形成をもたらす、懸濁物中約5〜20%の範囲の濃度にある。本発明の範囲内の別の濃度としては、約5〜10%又は約5〜15%又は約10〜20%又は約15〜20%又は約10〜15%又は約6〜19%又は約7〜18%の範囲が挙げられ、これらはいずれも集合体形成をもたらす。
【0117】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルの界面活性剤は約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントの濃度であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、この界面活性剤の有効量は、約0.005重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.05〜約0.3重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.5重量パーセント又は約0.006重量パーセント〜約0.40重量パーセントである。好適な界面活性剤としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのゲル粒子の平均直径は約1〜約1,000ナノメートルであるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、こうしたゲル粒子の平均直径は約10〜約1,000ナノメートル又は約100〜約1,000ナノメートル又は約10〜約100ナノメートル又は約20〜約1,000ナノメートル又はである。別の態様では、この平均直径は約1,000ナノメートル未満又は約800ナノメートル未満又は約750ナノメートル未満又は約700ナノメートル未満又は約500ナノメートル未満又は約400ナノメートル未満又は約300ナノメートル未満又は約200ナノメートル未満又は約100ナノメートル未満又はさらに約50ナノメートル未満である。
【0119】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのゲル粒子の平均直径は約40〜約800ナノメートルであるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、上記ゲルの平均直径は約40〜約500ナノメートル又は約40〜約300ナノメートル又は約100〜約800ナノメートル又は約300〜約800ナノメートル又は約600〜約800ナノメートル又は約50〜約700ナノメートルである。
【0120】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記ゲルナノ粒子は懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、懸濁系においてこうしたゲル粒子は約500〜約800mg湿重量/mL又は約500〜約700mg湿重量/mL又は約500〜約600mg湿重量/mL又は約600〜約900mg湿重量/mL又は約700〜約900mg湿重量/mL又は約800〜約900mg湿重量/mL又は約600〜約800mg湿重量/mLの濃度である。ナノ粒子の量は乾燥重量で規定され、上記の通りであり、引用によって本明細書に組み込まれている。
【0121】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約2,000,000であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、こうしたポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約200,000又は約15,000〜約20,000又は約150,000〜約2,000,000又は約1,500,000〜約2,000,000又は約100,000〜約1,000,000又は約50,000〜約1,500,000である。
【0122】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記複数のポリマー鎖は、
i)極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤(例えば、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウム)を添加する工程、
ii)このモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程、並びに
iii)重合後、この懸濁物から上記液体(類)を除去することにより、得られる乾燥粉末中に残存する液体(類)の量を、この乾燥粉末の総重量に対する割合として重量で10%未満とする工程
を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる方法によって得られるものとするゲルを提供する。
【0123】
次いで、この乾燥粉末を戻して上記の粘性ゲルを形成させる。この粘弾性ゲルは、少なくとも1種の極性液体に重量(乾燥)で約1〜約50パーセント又は重量(乾燥)で約2〜約30パーセント又は重量(乾燥)で約8〜約20パーセントを混合することによって調製する。
【0124】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体類は水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0125】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体類は水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0126】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体は水であるものとするゲルを提供する。
【0127】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤をさらに含むゲルを提供する。別の態様では、上記の系に、モルパーセント単位で約0.5〜約15%又は約1%〜約10%の架橋剤を添加する。
【0128】
別の態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記架橋剤はジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0129】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、1種以上の医薬として有効な薬剤をさらに含むゲルを提供する。
【0130】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子は約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入するものとするゲルを提供する。別の実施態様では、この有効量の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子は、約1〜約90重量パーセント又は約10〜約90重量パーセント又は約0.1〜約70重量パーセント又は約0.1〜約50重量パーセント又は約0.1〜約20重量パーセント又は約10〜約50重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。
【0131】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記複数のポリマー鎖は、
i)上記の第1の医薬として有効な薬剤(類)を含有するゲル粒子を単離する工程、
ii)有効量の上記極性液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させる工程、及び
iii)この懸濁物に1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得、上記第1の医薬として有効な薬剤(類)はこの第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、上記の第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体は上記第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体と同じであっても異なってもよいものとする工程
を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる方法によって得られるものとするゲルを提供する。
【0132】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記医薬として有効な薬剤(類)は、同じでも異なっていてもよく、上記の定義通りである1種以上の生物医学的作用物質(類)を含むものとするゲルを提供する。
【0133】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、粘性形状適合性ゲルは上記のとおりであるものとし、上記薬学的作用剤(類)は1種以上の医薬用として許容可能な賦形剤をさらに含むものとするゲルを提供する。
【0134】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記薬学的作用剤(類)はペプチド又は蛋白質を含むものとするゲルを提供する。
【0135】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0136】
医用インプラント及び補綴物
一実施態様において、本発明は、組織再建用医用補綴物であって、この医用補綴物中に本明細書に記載した複数のゲル粒子の懸濁物を含む粘性形状適合性ゲルを含む医用補綴物を提供する。別の実施態様では、本発明は、医用補綴物をこれを必要とする患者に埋め込むことによる組織再建の方法を提供する。一態様において、本発明は、上記の粘性形状適合性ゲルを1種以上含む組織再建用インプラントを提供する。
【0137】
別の態様において、本明細書に記載したような1種以上の医用補綴物を対象に埋め込むことを含む、又は本質的にこのことからなる、又はさらにこのことからなる組織再建又は増大の方法がある。この医用補綴物は、付随する制限又は医学的な健康リスクを伴うことなく従来技術のインプラント又は補綴物の代わりに好適に用いることができる。一態様では、この対象はヒト患者のような哺乳動物である。
【0138】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0139】
以下の実施例は例示のために示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0140】
実験
本明細書に記載した粘性形状適合性ゲルは、自己会合を防止するための界面活性剤を含む極性溶媒(類)に分散させたゲル粒子の高濃度懸濁物を調製することによって形成させる。
【0141】
この粘性形状適合性ゲルの物理的及び化学的性質をコントロールすることによって、こうしたゲルが懸濁化液体(類)の存在下に安定であり、容易に自己会合又は分解しないようにすることができる。ゲル粒子の濃度及び種類、粘性ゲルを構成する粒子の大きさ、懸濁化メジウムに存在する界面活性剤の量及び種類などの要因は得られる粘性ゲルの性質に影響を及ぼすことになる。こうしたゲルは濃度のみを変化させることにより、種々の流動特性を示すように作製することができる。硬度、弾性率などの性質には上記粘性ゲルに存在するゲル粒子の組成によって影響を与えることもできる。懸濁化液体(類)全体にわたって効率的に分散させることができるゲル粒子の最大量及び種類と、これらの粒子が自己会合するのを防止する(何故なら、これらは濃度が高くなるにつれ、互いに極めて接近するため)のに必要な界面活性剤の量との間には関連性がある。提案組成ごとに、この関連性を経験的に検討することによって、哺乳動物組織再建用インプラントとして用いるためのこうした粘性形状適合性ゲルの性能及び安定性を最適化することができる。上記インプラントエンベロープの破損を引き起こす損壊が生じる場合、ゲル粒子は生理環境中に漏れて破損点で局部塊として合体することがある。高濃度の界面活性剤は、ゲル粒子の自己会合を防止することが望ましいが、こうした粒子が生理環境に曝されてもその凝集を防止することになる。従って、これらの要因は全て、医用補綴物として用いるための最適で安定なセルフシール粘性ゲルを作製する際には考慮する必要がある。使用するゲル粒子の量及び種類、使用する界面活性剤の量及び種類並びにこうしたゲル粒子を分散させるために使用する極性溶媒(類)が人体の各種組織をシミュレートする粘弾性特性を示す種々の粘性ゲルを作製する際の重要なパラメータであることは当業者には明らかである。
【0142】
上記ゲル粒子は、重合時に、極性液体(類)の存在下の場合に水素結合することができるポリマーをもたらすモノマーから一般に選ばれる1種以上のモノマーからなる重合系において調製する。この能力を有するモノマーの一般的なクラスとしては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル及びアクリル酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル;メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルなどの2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル;アクリル酸2−ヒドロキシエトキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシエトキシエチルなどのアルケン酸ヒドロキシ((2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C));メタクリル酸(1C〜4C)アルコキシ(1C〜4C)アルキル、例えば、メタクリル酸エトキシエチル;アクリル酸、メタクリル酸などの2−アルケン酸;アクリル酸エトキシエトキシエチル及びメタクリル酸エトキシエトキシエチルなどのアルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル;アクリル酸ジエチルアミノエチル及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの2−アルケン酸N,N−ジ(lC〜4C)アルキルアミノアルキル;メタクリル酸グリシジルなどの2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキル;並びにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
モノマーの具体例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル及びこれらの混合物が挙げられる。1つの具体的なモノマーは唯一のモノマー型とすることができるメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)又はメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルであり、或いはこれはこれらのモノマー型のうちの少なくとも1種とすることができる。
【0144】
水素結合することができないコモノマーを上記重合系に添加することにより、得られるゲル粒子の物理化学的特性を改変することができる。上記モノマーと組み合わせて用いることができるコモノマーの例としては、アクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメタクリルアミド、メチルビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
また、架橋剤を上記重合系に添加することにより、得られるゲル粒子の三次元構造を強化することもできる。この架橋剤は非分解性のものとすることができ、例えば、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ブチレン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸ジアリルモノエチレングリコール、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、無水マレイン酸とトリエチレングリコールとのポリエステル、アコニット酸ジアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の非分解性架橋剤については本明細書の開示内容から当業者には明らかであろうし、それらは本発明の範囲内にある。
【0146】
本発明の重合系及び懸濁系のいずれにも用いる具体的な液体は水であり、この場合、上記粒子はヒドロゲル粒子である。
【0147】
本発明の方法において特定の有機液体類を用いることもできる。一般に、これらの沸点は約60℃超、或いは約80℃、100℃、120℃、140℃、160℃、180℃超又は約200℃である必要がある。こうした液体の使用によりゲル粒子が重合され、粘性形状適合性ゲルが生成する。本発明の粘性ゲルの形成に特に有用な有機液体は、水混和性オキシアルキレンポリマー、例えば、ポリアルキレングリコール、特に、分子内の複数のオキシエチレン(−OCH2CH2−)単位及び約200℃超の沸点を特徴とするものである。
【0148】
本発明の方法に用いることができる具体的な有機液体類は、限定されない例として挙げられるエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール−1,3、ブタンジオール−1,4、ヘキサンジオール−2,5、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ヘプタンジオール−2,4、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール並びに最大約2,000、好ましくは最大約1,600の分子量を有する高級ポリエチレングリコール及び他の水溶性オキシアルキレンホモポリマー及びコポリマーなどの生物学的に不活性で毒性のない極性の水混和性有機液体である。例えば、平均分子量200〜1,000のエチレンオキシドのヒドロキシ末端ポリマー、最大約1,500、好ましくは最大約1,000の分子量を有する水溶性オキシエチレンオキシプロピレンポリオール(特に、グリコール)ポリマー、プロピレングリコールモノエチルエーテル、モノアセチン、グリセリン、クエン酸トリ(ヒドロキシエチル)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、シュウ酸ジ(ヒドロキシプロピル)、酢酸ヒドロキシプロピル、三酢酸グリセリル、三酪酸グリセリル、液体ソルビトールエチレンオキシド付加物、液体グリセリンエチレンオキシド付加物、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び二酢酸エチレングリコールを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0149】
本発明の一実施態様において、10−9メートル〜10−6mの範囲の呼び寸法を有するヒドロゲル粒子は、界面活性剤を含有する水中でレドックス、ラジカル又は光重合を行うことによって作製される。このようにして、多分散性の比較的狭い粒子を作製することができる。しかしながら、特定の薬物送達用途では、多分散性の広い粒子を作製するか、大きさが異なるが各大きさ内の多分散性が狭い2群以上の粒子を用いてインプラントの医療上許容可能なエンベロープ内に含有される粘弾性粒子を構成することが望ましいと考えられる。偶然の破損が生じても、破損部位に凝集体が形成され、生物活性物質が長時間にわたって全身性又は局所性に放出されることになろう。放出速度は、ある程度、上記粘弾性ゲルを構成する粒子の組成、大きさ及び多分散性に基づいて調節することができる。生物活性物質又は物質類をこの粘弾性ゲルを含む懸濁化メジウムに添加し、及び/又は重合工程中に添加することによりこの活性物質を封入するゲル粒子を作製することができることは当業者には明らかである。従って、この技術の汎用性によって、限定されない例として挙げられるインプラント破損部位における活性物質の放出及び上記インプラントシェルを介した粘弾性ゲル粒子及び/又は懸濁化メジウムからの活性物質の放出を含む種々の薬物送達用途の道を開くことが可能となる。粘弾性ゲルを構成する大きさ及び多分散性の異なるナノ粒子を用いて活性物質の単独又は組合せによる二重放出を達成することもできる。
【0150】
極性液体(類)中に上記ゲル粒子を再分散させる前に、上記懸濁系の液体から未反応モノマー(類)、界面活性剤及び封入されなかった生物活性物質を除去し、及び/又は上記粒子により吸収された水から未反応モノマー(類)及び界面活性剤を除去するためにこの懸濁系を処理することが望ましいと考えられる。こうした粒子及び懸濁系を浄化するために、透析、抽出又はタンジェント流濾過などの技術を用いることができるが、これらに限定されるものではない。ゲル粒子の重合及び形成時に用いる界面活性剤を医薬用としてより許容可能なものと交換することも望ましいと考えられる。次に、封入された生物活性物質を含むか含まない精製ゲル粒子を噴霧乾燥又は凍結乾燥(これらに限定されない)などの技術により単離し、得られた乾燥粒子を、界面活性剤を含み、別の生物活性物質を含むか含まない極性液体(類)に高濃度で再懸濁する。得られる粘性形状適合性ゲル中のゲル粒子の濃度は、本明細書に記載したように、例えば約300〜約1,200mg湿重量/mL、より好ましくは約500〜約900mg湿重量/mLの範囲とすることができる。上記液体(類)中に存在する界面活性剤の量は約0.005〜約0.50重量パーセント、別の態様では約0.01〜0.10重量パーセントの範囲である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0151】
医療上許容可能な埋め込み可能エンベロープ体内に含有させる粘性形状適合性ゲルは、一般に、特定の貯蔵条件下で安定であるように調製することになる。しかしながら、偶然の破損の場合のようにイオン性、pHなどの生理的条件に曝される場合、上記ゲル粒子はゼータ電位が低下した後、合体し、破損部位に局部的な凝集が生じることになる。これは新たに加わった安全面での特徴、即ち、どの市販インプラントにも存在しない「セルフシール」の特徴である。例えば、シリコーンインプラントの場合、インプラント内の液体は「安全でない」と判断される。従って、破損が生じた場合、体組織は局所性及び全身性にこの有毒な物質に曝されるようになる。本発明の粘性ゲルインプラントの場合、このインプラントを構成する有毒な材料は存在しない。偶然の破損が生じた場合、その周囲の組織は、生物学的に安全な材料のみに接触し、かつ、その凝集体が固体塊として共に留まるため、全身性毒性の懸念はない。また、必要に応じて、この凝集体は外科的に除去することができる。本発明の粘性ゲルの別の属性は、個々のゲル粒子内及び/又は懸濁化極性液体(類)全体に封入された1種以上の生物活性物質を含むことができることである。こうした粘性ゲル材料は、必要に応じて、その周囲の組織領域内への薬物透過性エンベロープ体を介したこれらの活性薬剤の送達を制御することができよう。このことは、埋め込み手術を受けて抗生物質、抗菌剤又は他の化合物を用い局所感染を治療すること、及び抗拒絶医薬品を送達することの実現性に特に有利である。
【0152】
多くの要因が本発明の粘性形状適合性ゲルの化学的及び物理的特性に影響する。その1つは、個々のヒドロゲル粒子を形成するのに用いられるポリマーの分子量である。低分子量ポリマーからなるヒドロゲル粒子は同じ濃度の高分子量ポリマーに比し、粘性ゲルを形成せず、こうした粒子は生理環境に曝されても凝集しないのが一般的であることが分かっている。従って、本発明では高分子量ポリマーを用いる。架橋剤を用いると低分子量ポリマーに関連する問題の一部を改善することができるが、架橋剤を過剰に用いるのは有害であると考えられる。ヒドロゲル粒子が大量の架橋剤を含有する場合、及び/又は架橋剤が高度に疎水性である場合、得られるポリマー網目では液体の最適な吸収が可能でなくなり、余り望ましくない粘性ゲルが生じると考えられるので、本発明のゲル粒子を構成するポリマーの分子量は約15,000〜約2,000,000Da又は約20,000〜約1,500,000Da又は約25,000〜約1,000,000Daの範囲である。これは、適切な市販モノマーを選択することによって、又は目的とする分子量範囲のポリマーが得られる重合系を用いることによって、又は重合系に架橋剤を含ませて短いポリマー鎖を結合させ、目的とする分子量範囲を得ることによって達成することができる。
【0153】
また、粒子の大きさも粘性ゲルの特性に影響する。ゲル粒子は、一般に小さいほど液体を容易に吸収し、哺乳動物組織再建用インプラントとして適した好ましい粘性形状適合性ゲルをもたらすことが明らかにされている。この場合も平均直径によって特性化される大きさが約1〜約1,000nm又は約10〜約800nm又は約50〜約600nmの範囲にあるゲル粒子を用いることができる。別の態様については上記した。
【0154】
架橋剤を用いる場合、その化学組成及び使用量、即ち、得られる架橋密度が先に説明したような粒子の特性に影響し、その結果、形成される粘性ゲルの特性に影響を与えることになる。本発明のゲル粒子を調製するのに用いる架橋剤の量は、モノマーの約0.001〜約10又は約0.1〜約2モルパーセントの範囲である。
【0155】
懸濁物体の分子量及び化学組成並びに用いる界面活性剤の量及び種類も得られる粘性形状適合性ゲルに影響することになる。何故なら、多量の液体が上記粒子によって吸収され、これはこれらのゲル粒子がそれぞれの極性液体(類)中でどれだけ膨潤するかの関数であり、これが流動性に影響するからである。この膨潤は、低分子量の極性液体類中では、高分子量の同様な液体中での少ない膨潤に比し、かなりの程度まで生じる。例えば、これまでに記したように、水は、上記の重合系及び懸濁系のいずれにも用いることができる。上記粘性形状適合性ゲル中のデオキシコール酸は本明細書に記載した材料及び方法に用いることができる具体的な界面活性剤である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この医学的に安全な界面活性剤が膨潤ゲル粒子を高濃度で安定な状態に維持することによって粘性ゲルを自己会合させることなく生じさせることが可能となる。こうした粘性ゲル懸濁物には他の医薬用として許容可能な界面活性剤を用いることができ、種々の界面活性剤も、モノマーを重合して本発明の粘性形状適合性ゲルを構成するゲル粒子を作製する際に用いるのに適している。
【0156】
懸濁系におけるゲル粒子の濃度は、上記粘性形状適合性ゲルの特性に影響を及ぼす。これは、主に、高濃度では流動特性が低下して粒子が粒子集合体に合体しやすく、その分散が固体塊に自己会合を生じることなく粘弾性材料の分散に似てくるので粘度が大幅に増大するという事実によるものである。
【0157】
こうした粘性形状適合性ゲルに懸濁させた特定濃度のゲル粒子を維持して自己会合を防止するのに必要な界面活性剤の量には適切な量があることも当業者には明らかである。使用する界面活性剤の化学組成及び量は本発明のこうした粘性形状適合性ゲルの物理的及び化学的特性に影響を及ぼす。前述のように、上記液体(類)中に存在する界面活性剤の量は約0.01〜約0.10重量パーセントの範囲である。こうした濃度は使用する具体的な界面活性剤並びにこの粘性ゲルを作製するのに使用するゲル粒子及び極性溶媒(類)の種類及び量によって異なり得る。
【0158】
言うまでもなく、上述の各種パラメータは相互依存の関係にある。例えば、こうした粘性ゲルの物理的特性は、使用する界面活性剤及び極性液体(類)の所与の濃度及び種類における懸濁物に用いられるゲル粒子の濃度、種類及び粒径に直接相応する。高濃度で界面活性剤存在下の水に懸濁したゲル粒子が小さいと、低濃度のゲル粒子を用いた場合よりも粘弾性が高いゲルが得られる。懸濁させるゲル粒子が大きいと、粘性のゲルは得られるが、固体塊として自己会合する確率が高くなる。また、メタクリル酸ポリ−2−ヒドロキシエチルからなるゲル粒子を含む粘性形状適合性ゲルは、メタクリル酸ポリ−2−ヒドロキシプロピルからなるゲルとは異なる挙動を示す。ゲル粒子の濃度が同じで、用いる界面活性剤及び極性液体の濃度及び種類が同じであると、ポリ−HEMAゲルはポリ−HPMAからなるゲルよりも柔らかい。両種のポリマーゲル粒子の混合物では、両者の間ぐらいの特性が得られる。また、HEMA及びHPMAから構成されるコポリマーのゲル粒子も異なる挙動を示す。これは本発明の別の重要な特徴、即ち、「粘弾性」を調整して種々の哺乳動物組織をシミュレートするのに用いることができる各種粘性形状適合性ゲルを提供することができることである。本出願者らが知っている限りでは、他の市販のインプラントでこのような選択をもたらすことができるものはない。
【0159】
本発明の一実施態様において、界面活性剤を含有する水中で非イオン性モノマーを重合することりよりヒドロゲル粒子を作製する。得られるヒドロゲル粒子の懸濁物は、未反応モノマー及び他の不純物を除去するために処理する。このゲル粒子の懸濁物を噴霧乾燥又は凍結乾燥して粒子を単離し、この乾燥ゲル粒子を、デオキシコール酸を含有する水において1,000mg/mL湿重量にほぼ等しい濃度で水に再懸濁する。
【0160】
次いで、哺乳動物組織の再建のための医用補綴物を調製するのに用いる特定の大きさ及び形状の医療上許容可能なエンベロープ体中にこの粘性ゲルを移す。
【0161】
本発明の一実施態様において、高濃度の水和ヒドロゲル粒子の水性懸濁物に生物活性作用物質を溶解又は再懸濁し、哺乳動物組織再建用インプラント剤として用いる医療上許容された半透過性シェル材にこの粘性ゲルを入れる。埋め込み後、この生物活性作用物質は、インプラントから、制御された速度で、薬物透過性エンベロープを通って周囲の組織中に移動して、例えば、感染及びこのデバイスの生体拒絶を治療することになる。
【0162】
本発明の別の実施態様は、重合の前に重合系に生物活性作用物質を溶解又は懸濁するものである。重合反応が進行し、ヒドロゲル粒子が形成されるにつれて、この生物活性作用物質を含有する液体が形成されつつある粒子によって封入される。次いで、得られた粒子を処理して過剰のモノマー及び界面活性剤を除去する時に、封入されなかった生物活性作用物質を除去する。次に、生物活性作用物質含有粒子の懸濁物を単離、乾燥し、この封入された生物活性作用物質を含有するゲル粒子を界面活性剤含有水に高濃度で再懸濁させて粘性ゲルインプラント剤を作製する。
【0163】
上記方法の組合せは本発明の実施態様である。1種の生物活性作用物質を重合時にゲル粒子内に封入することができ、封入薬物を含む乾燥ゲル粒子を高濃度で再懸濁して上記ゲルインプラント剤を作製する時に、別種又は同一の生物活性作用物質を懸濁化メジウム中に存在させることができる。この方法は、活性物質のほぼ「ゼロ次放出」を得るために活性物質のバースト放出を緩和するか、同一又は異なる適応症の治療のために2種の活性物質を放出させることが望ましい場合に最も実行可能であるとも考えられる。
【0164】
本発明のゲル粒子により封入させることができる作用物質の種類及び量は種々の要因によって決まる。何よりもまず、この作用物質は、その大きさ、表面電荷、極性、立体相互作用などのため、離散的ゲル粒子の形成を妨害するはずがない。上記が問題でないことが分かれば、ヒドロゲル粒子の大きさは、取り込まれ得る物質の量に最も直接的に影響を及ぼすことになる。上記粒子自体の大きさは、封入され得る作用物質の最大量を決定することになる。個々の抗生物質分子などの比較的小さな作用物質は、小さいゲル粒子に取り込ませることができるが、モノクロナール抗体、蛋白質、ペプチドその他の高分子などのかなり大きな作用物質を封入させることははるかに難しい。こうした大きな化合物の場合、ゲル粒子を高濃度で再分散させることにより粘性形状適合性ゲルを作製する時にこれを懸濁化メジウムに導入することが望ましいと考えられる。
【0165】
本明細書の方法を用いて、送達速度の厳密な制御を実現することができる。即ち、大きさ及び化学組成が異なるゲル粒子に特定の作用物質を詰め込むことができ、これらの種々の粒子の特性に応じて、この作用物質をほぼ全ての所望時間枠にわたって放出させることができる。さらに、この物質の一部はゲル粒子に封入させることができ、一部は粘性ゲルを構成する粒子間の懸濁化メジウム中に存在させてさらに大きい送達の柔軟性を得ることができる。
【0166】
従って、本発明は、具体的には、生物活性作用物質の送達に関して、最も具体的には、医薬品の送達に関して、潜在的な薬物送達プラットホームを有する極めて用途の広い生体適合性インプラント材料を提供する。哺乳動物組織再建のための生物学的に安全な粘性ゲル材料を形成することができることは、現在の最新の哺乳動物組織再建用インプラント材料と比較して全ての点で際立っている。別の利点は、偶然の破損が起こっても、有毒な液体が周囲組織へ漏れるのではなく、固体凝集塊が局部に形成されるに過ぎないようなこうした粘性ゲルのセルフシール面である。必要に応じて、その後、この生物学的に安全な材料を外科的に除去することができる。本発明の粘性形状適合性ゲルのこれらの属性は新規であり、これによって、現在の埋め込み技術に伴う問題の全てに対処するための新しいクラスの哺乳動物組織再建用インプラントが得られることになる。
【0167】
本発明の粘性形状適合性ゲルのこれら及び他の多くの用途は、本明細書の開示内容から当業者に明瞭に理解されよう。このような用途は本発明の範囲内にある。
【0168】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【実施例】
【0169】
1.ヒドロゲルナノ粒子の合成
ヒドロゲルナノ粒子はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸グリセロールからのラジカル重合で合成される。こうした材料の合成に関する一般的なスキームを図1に示した。
【0170】
実験室規模バッチのナノ粒子を形成するための一般的合成法は以下の通りである:
1)ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)ナノ粒子(pHEMA nps:poly(2−hydroxyethylmethacrylate) nanoparticles)の合成
a)2リットルメジウム瓶中に各成分を秤量する。
【0171】
b)この瓶をフォイルで覆い、50℃の恒温水槽に一夜(約16時間)漬ける。
【0172】
c)水槽からメジウム瓶を取り出し、室温まで冷却する。
【0173】
d)上記ナノ粒子分散液から3mLのアリコートを2本取り出し、これらのサンプルを1時間70k rpmで超遠心してナノ粒子の湿重量を測定する。上清を傾瀉除去し、形成されたままのナノ粒子凝集体を秤量し、単位容量当たりの湿重量(mg/mL分散液)を求める。これによりナノ粒子収量の推定値が得られる。
【0174】
e)上記分散液の数滴を取り出し、実験データ分析用Malvern NanoZS装置を用いてナノ粒子径、粒径の範囲、多分散性及びゼータ電位(表面電荷)を測定する。
【0175】
f)TFF(0.01重量%デオキシコール酸ナトリウム(DOC)溶液のTFF補給水を用いてSDSを置換しながら、残存モノマー、塩及びSDSを除去する。10リットルのMilliQ水に対して1gのDOC)によってナノ粒子分散液を精製する。この方法によってゼータ電位(ZP)は適切な水準、即ち、−35mV≧ZP nps≧−25mVに維持され、ナノ粒子は分散液として安定化され、望ましくないナノ集合体形成及びナノ粒子凝集は防止される。このナノ粒子分散液を1,000,000分子量遮断フィルタにポンプを用いて通し、ナノ粒子分散液リザーバを連続流動方式で0.005重量%DOC TFF補給液により2リットルに維持しながら、2リットル容量の透過液を7本収集する。
【0176】
g)液体窒素浴中で上記分散液を凍結させ、これを凍結乾燥する。
【0177】
h)凍結乾燥粉末を単離し、タール塗りの(tarred)プラスチック瓶にこれを移して貯蔵した。
【0178】
ナノ粒子の粒径は凍結乾燥時に変化する。凍結乾燥ナノ粒子は水又は適切な極性溶媒に再分散させることができる。
【0179】
下記の表1に、水中40mg/mLの湿重量(約10mg/mL乾燥ポリマー重量)で合成し、同じ濃度で再分散した種々のヒドロゲルポリマー及びコポリマーのナノ粒子の凍結乾燥前後の粒径の変化を示した。
【0180】
【表1】
【0181】
次の諸具体例はいく種かのヒドロゲルナノ粒子の合成を説明するものである。
【0182】
2.架橋型ポリ−メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル(pHPMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた150mLメジウム瓶にメタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)モノマー2.532g(17.5ミリモル)、ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDM)架橋剤52.73mg(0.266ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)107.6mg(0.3730ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O118mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は21.3nm、粒径範囲は14nm〜41nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で2年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。次いで、この懸濁物は前述のようにしてさらに処理する。
【0183】
3.HPMAとメタクリル酸(MAA)とのコポリマー、ポリ(HPMA−co−MAA)からなる架橋型ナノ粒子の調製
HPMAモノマー及びメタクリル酸を用い、パラグラフ3に記載の合成方法によりヒドロゲルナノ粒子を作製した。表2に150mLメジウム瓶に添加したモノマーの相対質量及びミリモルを示した。
【0184】
【表2】
【0185】
次に、各メジウム瓶に52.73mg(0.266ミリモル)のEGDM、107.6mg(0.3730ミリモル)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び118mLの窒素脱気ミリQH2Oを入れた。これらの瓶に蓋をして、室温で30分間攪拌した。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、表3に平均粒径及び粒径範囲を示した。
【0186】
【表3】
【0187】
4.架橋型ポリ−メタクリル酸グリセロール(pGMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた2,000mLメジウム瓶にメタクリル酸グリセロール(GMA)モノマー53.6g(335.05ミリモル)、EGDM架橋剤80mg(0.404ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)20.4g(7.09ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O2,000mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて1.44g(6.31ミリモル)の(NH4)2S2O8を20mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は156.5nm、公称ピーク幅は49.37nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で1.5年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。超遠心後、得られた凝集体は84.5%の水を含有していた。次いで、この粉末をさらに、前述のようにして処理する。
【0188】
5.HEMAとGMAとのコポリマー(ポリ(HEMA−co−GMA))からなる架橋型ナノ粒子の調製
HEMAモノマー及びメタクリル酸グリセロールモノマーを用い、パラグラフ6の合成方法によりナノ粒子を作製した。表4に2,000mLメジウム瓶に添加したモノマーの相対質量及びミリモルを示した。
【0189】
【表4】
【0190】
次に、各メジウム瓶に80mg(0.404ミリモル)のEGDM架橋剤、20.4g(7.09ミリモル)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び2,000mLの窒素脱気ミリQH2Oを入れた。これらの瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。2つの別々のバイアルにおいて、1.44g(6.31ミリモル)の(NH4)2S2O8を20mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら2,000mLのメジウム瓶に添加した。これらの澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、表5に平均粒径及び粒径範囲を示した。
【0191】
【表5】
【0192】
現在に至るまで、このポリ−co−HPMA:GMAナノ粒子懸濁物は、室温で6ヶ月以上にわたって、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。さらに、この懸濁物は、超遠心にかけたとき、弾性形状維持性凝集体を形成した。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0193】
6.架橋型ポリ(メタクリル酸)(pMAA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた150mLメジウム瓶にメタクリル酸(MAA)モノマー1.505g(17.5ミリモル)、ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDM)架橋剤52.73mg(0.266ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)107.6mg(0.3730ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O118mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は21.3nm、粒径範囲は14nm〜41nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で2年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ−メタクリル酸ナノ粒子の0.4%(w/w)懸濁物20ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0194】
7.ポリ(メタクリル酸2−メトキシエチル)(pMEMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸メトキシエチル(MEMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は52.4nm、粒径範囲は12nm〜103nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ(メタクリル酸2−メトキシエチル)ナノ粒子の2.1%(w/w)懸濁物5ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0195】
8.ポリ(メタクリル酸グリシジル)(pGCMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸グリシジル(GCMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は65.2nm、粒径範囲は17nm〜101nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ(メタクリル酸グリシジル)ナノ粒子の2.1%(w/w)懸濁物5ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0196】
9.ポリ(メタクリル酸2−スルホエチル)(pSEMA)作製の試み
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸2−スルホエチル(SEMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られた混液は他の懸濁物の特徴的なオパール青色を生じなかった。レーザ光散乱では、上記の波長で光を散乱することができる粒子は皆無かそれに近かった。この懸濁物は、塩化ナトリウム溶液で沈殿させた時、質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。遠心は行わなかった。
【0197】
10.粘性形状適合性ゲルの形成
粘性形状適合性ゲルは、脱水ヒドロゲルナノ粒子粉末を水に分散することによって形成させる。代表的なゲル形成法を以下に説明する:
1) 粘性形状適合性ゲルの形成
a.2mLの0.02重量%デオキシコール酸中100mgの凍結乾燥pHEMAナノ粒子粉末を水に分散させる。
【0198】
b.この懸濁物を約8時間室温で放置する。
【0199】
図2に、ナノ粒子、形成された形状適合性ゲル及び生理食塩水に曝されて形状維持性凝集体を形成したゲルのイメージを示した。
【0200】
11. 粘性形状適合性ゲルの物理的性質
凍結乾燥ヒドロゲルナノ粒子粉末中のナノ粒子の化学的組成は粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を及ぼし得る。
【0201】
表6に、0.02重量%デオキシコール酸中種々のナノ粒子(ホモポリマー、コポリマー及びホモポリマーの混合物)50mg/mL(乾燥ポリマー重量)を水に分散させたものからなるゲルの相対粘度を示した。
【0202】
【表6】
【0203】
粘性形状適合性ゲル中のナノ粒子の粒径は、粒子濃度が増加するにつれて増加する。図3に、ゲル中の粒子濃度が水中10mg/mLから(集合体形成を示す)200mg/mL(乾燥重量)へ増加することに伴うナノ粒子の径の変化を示した。
【0204】
図3から明らかなように、ゲル中のナノ粒子の径は濃度が増加するにつれて増加する。ナノ粒子の径は最初の40〜50nmから水中200mg/mLの濃度の約250nmまで増加する。
【0205】
ゲル中のナノ粒子の濃度が増加するにつれて、このゲルの物理的性質は変化し、粘度は増大する。図4に、水懸濁物中のpHEMAナノ粒子(乾燥質量)の濃度が増加することに伴う形状変化ゲルとして生じる粘度の増加を示した。
【0206】
上記のグラフにおいて、粘度は、150mg/mL乾燥ポリマー質量で約35cPまでほぼ直線的に増加した後、0.02重量%デオキシコール酸水溶液中のpHEMAナノ粒子の分散性の限界に近い200mg/mL乾燥ポリマー質量で頭打ちになる。ゲル中のpHEMAポリマーの濃度が50mg/mLを超えて増加するにつれ、ゲルのせん断粘度は連続力下時間と共に増加した。
【0207】
図5に、50mg/mL以上のポリマー濃度を有するゲルにおける粘度の経時変化を示した。図5のデータから、ゲルの粘度はせん断下10分間で40〜50cPの最大値まで増加することが分かる。
【0208】
12.ナノ粒子の組成及び物理的性質の変化を利用した形状適合性ゲルの弾性の制御
凍結乾燥ヒドロゲルナノ粒子粉末のナノ粒子の化学組成は、表7に示したように、得られる粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を及ぼし得る。化学組成を変える時、一定の重りがゲルの特定の嵩、容量及び形状に影響を与える距離を測定することにより相対的弾性を定性的に測定することができる。この実験のために、直径2cmのメスシリンダーを、高さ3.4cmの粘弾性ゲルカラムを含む5mLの容量まで充填した。重りがシリンダーの側面に触れないように10gの重りをゲルの表面に注意深く載せ、この系を5分間静止させた後、重りが表面にめり込んだ距離を測定した。測定は5回実施し、その平均値を下記の表に記載した。全ての場合において、重りを取り除いた後には、ゲルは元の形状にまで緩和した。
【0209】
【表7】
【0210】
上記のデータから、化学組成を変えることによりゲルの相対弾性率に影響を与えることができることが分かる。HPMAのような比較的親水性の低いモノマーを多く添加するほど、又はpHPMAポリマーナノ粒子を多く添加するほど、ゲルは変形に対してより抵抗性になる。GMAのような比較的親水性の高いモノマーを添加する場合には、ゲルはより柔らかく、かつ、変形しやすくなる。
【0211】
13.粘弾性物理的性質に及ぼすゲル中の粒子濃度の影響
ナノ粒子の濃度は粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を与え得る。ナノ粒子濃度を変える時、一定の重りがゲルの特定の嵩、容量及び形状に影響を与える距離を測定することにより相対的弾性を定性的に測定することができる。この実験のために、直径2cmのメスシリンダーを、種々の量の懸濁ナノ粒子で構成されるいく種かの粘性ゲルを用いて5mLの容量まで充填した。このメスシリンダー内に含まれる得られたゲルは3.4cmの高さを示した。重りがシリンダーの側面に触れないように10gの重りをゲルの表面に注意深く載せ、この系が平衡に達した後5分後にゲル表面中への重りの貫入距離を測定した。測定は5回実施し、その平均値を下記の表に記載した。全ての場合において、重りを取り除いた後には、ゲルは元の形状にまで緩和した。
【0212】
図6に、ポリマー濃度の増加に伴うpHEMAナノ粒子で構成されるゲルの相対的めり込み距離を示した。濃度が増加するにつれて、このナノ粒子径の範囲120nmでめり込みの相対的距離は減少する。
【0213】
14.凝集速度に対する粒子組成の影響
ナノ粒子の組成は、生理的イオン強度及びpHの溶液に曝した時の粘性形状適合性ゲルの凝集の程度及び速度に影響を及ぼし得る。高イオン強度の溶液のような粒子の膨潤速度が低い溶液に粒子を注入すると、ヒドロゲル粒子凝集体が形成される。凝集体の形成速度は、これを生理的イオン強度及びpHに曝した後の時間に対するゲルの水塊の減少量を測定することによって定量することができる。代表的な実験では、50mg/mLの濃度のpHEMA又はpHPMAナノ粒子の粘性ゲル懸濁物5gを100mLのPBS中に添加した。得られる凝集体は形成されるがままにし、定期的に秤量してPBS溶液に戻した。その質量は、崩壊している状態の凝集体を構成する粒子内又は粒子間の水の量を示す遠心した湿ポリマー質量の百分率として記載した。図7に、最初の注入から凝集体が定常状態質量に達した時点までの時間に対する凝集率のグラフを示した。このグラフから、pHEMA粒子から構成されるゲルは、pHPMAナノ粒子から構成される対応するゲルよりも凝集速度が遅く、高い水組成で定常状態凝集体質量に達することが分かる。
【0214】
15.めり込みに対するゲル組成の影響
種々の密度及び化学組成の粉末を合成、精製して凍結乾燥した。化学組成は以下の通りとした:
A.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の純pHEMA
B.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の90:10重量:重量比のpHEMA:pHPMA
C.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の85:15重量:重量比のpHEMA:pHPMA
上記ポリマーの検討から、ナノ粒子粉末を用いて形成させたゲルの相対弾性率はナノ粒子粉末の組成を変化させることによって変えることができることが分かる。凝集することなく形状充填ゲルとして懸濁される所与の濃度のポリマーナノ粒子の場合、得られるゲルの弾性率はpHPMAナノ粒子の組成百分率が増加するにつれて増大する。ゲルについて真の弾性率は測定しなかったが、特定のゲル容量の静止シリンダー中で嵩のたわみを測定した。単離架橋シリコーン乳房埋め込み充填材と同様に、シリコーン油を比較した。ゲルには水中ポリマーの12%重量:容量懸濁物を含有させたのに対し、上記シリコーンエラストマーはインプラントから単離したものを検討した。10mLの各ゲルを30mmの一定直径を有するシリンダー内に閉じ込めた。シリンダー内のゲルの表面に外径29mmのカップを載せ、このカップの質量を水の添加又はその減量によって変化させた。この水はゲルと接触させなかった。
【0215】
図8にめり込み実験の結果を示した。グラフでは、ゲルは全て、圧縮及びシリンダーの容量制限の組合せのためと思われる非線形のたわみを示している。このデータから正確な弾性率を引き出すことは困難であるが、これらの測定値から、混合物中のpHPMAナノ粒子百分率を増大させると、たわみの量が減少することが分かる。全ての場合において、その表面から質量を取り除くと直ちに緩和が起こった。ゲルに関して緩和の時間成分を評価することができることが望まれたが、この実験では緩和と関連付けられるフィードバックループがなかったので、タウの値を正確に測定することができなかった。定性的な観察から、こうしたゲルの弾性率は混合物中のpHPMAの組成百分率を増加させるにつれて増大することが分かる。定性弾性率の増大は、メタクリル酸ヒドロキシプロピルポリマーがメタクリル酸ヒドロキシエチルとの比較で有するより高い疎水性の構成要素であると思われる。
【0216】
16.種々の濃度におけるナノ粒子懸濁物の弾性率に対する影響
以下の検討から、ゲル中のナノ粒子ポリマー粉末の重量パーセントを変えることにより、得られるゲルの弾性率に影響を与えることができることが分かる。化学組成は以下の通りである:
A.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有純pHEMA
B.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有、90:10重量:重量比のpHEMA:pHPMA
C.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有、85:15重量:重量比のpHEMA:pHPMA
水中ポリマーの8、10、12.5及び15%(重量:容量)懸濁物を用いてゲルを作製する一方、インプラントから単離したシリコーンエラストマーについて検討した。30mmの一定直径を有するシリンダー内に各ゲル10mLを閉じ込めた。シリンダー内のゲルの表面に外径29mmのカップを載せ、このカップの質量を水の添加又はその減量によって変化させた。この水はゲルと接触させなかった。図9に、水中に種々の重量パーセントのゲルを含有する所与の組成物のゲルのたわみを示した。対照としてシリコーンエラストマーを各グラフに示した。このデータから、シリコーンエラストマーゲル弾性率は90:10 pHEMA:pHPMAから構成される15%重量/容量ゲル又は85:15 pHEMA:pHPMAから構成される12%重量/容量ゲルを用いて最も良く代表されていることが分かる。
【0217】
17.ゲルによるシェルの充填及びシェルの破損
容積200mLのシリコーンエラストマーシェルを入手した。水に10%のpHEMAナノ粒子ゲル粉末を混合した混液200mLをこのシェルに添加し、シェルを密閉した。このゲルは30日間にわたって物理的性質の変化を示さなかった。30日後、生理食塩水中でこのゲルを破損させ、そこに放出されたゲルは、10分間かけて固体の形状維持性凝集体を形成した。
【0218】
18.ゲルによるシェルの充填及び動物モデルにおけるシェルの破損
容積100mLのシリコーンエラストマーシェルを入手した。0.01%メタクリル酸ローダミン含有10% pHEMAを含有するポリマーナノ粒子ゲル粉末を混合した混液100mLをシェルに添加した。このシェルを雌性ニュージーランドホワイト(New Zealand White)ウサギに埋め込み、破損させた。このウサギを屠殺して凝集体を調べた。この凝集体は移動した形跡を示さず、肺、肝、脾及びリンパ組織には粒子は認められなかった。凝集体質量の減少も認められなかった。図10に全体的な外科的露出後の完全な状態の凝集体を示した。
【0219】
19.形状適合性ゲルを充填したシリコーンエラストマーシェル
シリコーンエラストマーから構成されるシェルに形状適合性ゲルを充填した。ゲルはpHEMAナノ粒子をクエン酸−トレハロース緩衝液に分散させて形成されている。このゲルは質量で10%のヒドロゲルナノ粒子を含有した。このゲルを、500mLの注射器を用い、ポリエチレンチューブを介して注入した。シェル内に懸濁物を保持させるためにシリコーンエラストマーシェルバルブを用いたが、ゲルはこのバルブから注入した。図11にヒドロゲルナノ粒子形状適合性ゲルを充填した2つのシリコーンエラストマーシェルを示した。右側のシェルは成形したシリコーンエラストマーシェルであり、左側のシェルは通常の丸いシリコーンエラストマーシェルである。いずれの場合も、形状適合性ゲルはエラストマーの形状をとった。
【0220】
20.シェル内への粉末充填後の水和による粘弾性ゲルの形成
代表的な大型シリコーンインプラントの埋め込みに対して明らかな利点を有する現場充填式(fill in place)インプラントを開発するために実験を行った。1つの大きな利点は埋め込みに必要な外科的切開の大きさが減じることであり、さらに、インプラントを所望の容量まで充填することにより所望の物理的性質を有するインプラントを形成させて脂肪組織を模倣させることができることである。
【0221】
シェルパッチ(shell patch)に小さな穴を形成し、ファンネル(funnel)でその穴を広げることによりシェルに粉末を充填して8%及び15%ゲルを形成した。必要な質量の粉末を秤量し、ファンネルを介してインプラント中に注入した。ファンネルは注意深く取り外した。最初のゲル形成実験のために上記の穴を小さなプラスチック栓で密閉した。最高の充填容量で粉末を取り込ませると、ロールアップ(roll up)直径は0.85インチとなった。図12の右側に示した充填された300mLシリコーンインプラントのロール径は3インチである。
【0222】
乳房インプラントシェルを用いた最初の試験では、提案したような300mLのシェルのための320mLの最終充填容量についての計算を用いた。凍結乾燥によりナノ粒子を単離した後のナノ粒子粉末の代表的な嵩密度は約0.22g/mLである。その後このヒドロゲルナノ粒子粉末を粉砕し篩にかけることによって種々の粉末組成物について嵩密度を0.8g/mLまで増加させることが可能となった。より高い密度の粉末に関しては、粉末の総容量は、シリコーン油のような材料の粘度を模倣する8%重量/容量であるナノ粒子ゲルの場合32mLの低容量及び架橋シリコーンゲル材料の粘度をシミュレートする15%重量/容量であるナノ粒子ゲルの場合60mLまで低下させることが可能である。
【0223】
特定の実施態様及び実施例を説明してきたが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく種々の修正及び変更を行い得ることは、当業者によって認められよう。
【0224】
例えば、本発明は粘性形状適合性ゲルの形成方法及びその薬用又は非薬用哺乳動物用インプラントとしての使用に関するものであると理解されたい。この方法は、形成される粘性形状適合性ゲルの物理的特性に影響を及ぼし得る広範囲の要素の相互作用を伴う。本明細書で特に検討した要素の他に、他のそのような要素についても当業者であれば、本明細書の開示内容から明瞭に理解することができよう。こうした諸要素を変化させたそのような別の諸要素及びこれらの組合せの適用は全て本発明の範囲内にある。
【0225】
同様に、本発明の方法は広範囲の用途を有すると考えられる。一部の用途については前述したが、他の用途についても当業者であれば、本明細書の開示内容から明瞭に理解されよう。粘性形状適合性ゲルを形成させるために本発明の方法を必要とする全てのそのような用途は本発明の範囲内にある。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2007年3月15日に出願された、米国特許出願第11/686,902号(この内容は、その全体が参考として本開示に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ポリマー化学、物理化学、薬化学、材料科学及び医学の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
本開示の全体を通じて、種々の刊行物、特許及び公開特許明細書を、出典を明らかにする引用により参照する。これらの刊行物、特許及び公開特許明細書の開示内容は、本発明が属する技術分野の水準をより十分に説明するために、引用により本明細書の開示内容に組み込まれている。
【0004】
ゲルは、液体を吸収して、非ゼロ剛性率を有する安定で、通常柔らかくしなやかな組成物を形成する三次元のポリマー網目である。ゲルに吸収された液体が水である場合、このゲルはヒドロゲルと呼ばれる。水はヒドロゲルの大きな重量百分率を占めることができる。このユニークな特性は、多くのヒドロゲル形成ポリマーが生物学的に不活性であるという事実と相俟って、多種多様な生物医学的用途にヒドロゲルを利用する機会をもたらしている。
【0005】
例えば、ヒドロゲルはソフトコンタクトレンズとして広く用いられている。また、これは、ゲルマトリックスから放出されて治癒過程を促進することができる薬剤の含有の有無に関係なく、熱傷及び創傷包帯としても用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。また、ヒドロゲルは生物活性物質の持続放出のためのデバイスとしても利用されてきた。例えば、特許文献4に、哺乳動物の皮下埋め込みに適した親水性リザーバ型薬物送達デバイスを調製する方法が開示されている。この特許文献4では、薬物放出速度をその透過係数に直接影響を及ぼすヒドロゲルインプラントの水分含量によって制御することができることが開示されている。
【0006】
上記の諸特許の全てにおいて、ヒドロゲルは、バルク形態である、即ち、認識できる規則的な内部構造を持たない材料の形のない塊である。バルクヒドロゲルは、水が吸収される筈の表面に対して内部の容積が大きいために膨潤速度が遅い。さらに、吸収された水に溶解もしくは懸濁された物質は、これがゲルの外表面に達するために移動する必要のある距離に応じた速度でゲルから拡散することになる。この状況は微粒子ゲルを用いることによってある程度改善することができる。各粒子が十分に小さければ、粒子内に分散した物質類は表面に拡散し、ほぼ同時に放出されることになる。
【0007】
微粒子ゲルは、直接又は逆相乳化重合などのいくつかの方法によって形成させることができ(非特許文献1)、或いはこれは、バルクゲルから、このゲルを乾燥させた後、得られるキセロゲルを所望の大きさの小粒子に粉砕することによって作製することができる。次いで、こうした粒子を再溶媒和化して微粒子ゲルを形成させることができる。この手段によって大きさが直径でマイクロ(10−6メートル(m)〜ナノ(10−9m))の範囲の粒子を作製することができる。こうした大きさの範囲の粒子によって封入された物質の分子は全て粒子の外表面に達するための移動距離がほぼ同じであり、場合によっては、ほぼゼロ次放出速度を示すことになる。しかしながら、微粒子ゲルにはそれ特有の問題がある。例えば、特定の標的部位への粒子の浸透及びその部位における局在化を制御することが困難である。さらに、バルクヒドロゲルは形状維持性にすることができることにより種々の医学的用途において生体適合材料として有用となっているが、現在入手可能な微粒子ゲルはそうしたものにできていない。
【0008】
同時係属の特許文献5に、ヒドロゲル粒子から形成され、従ってバルクヒドロゲルの形状維持特性と微粒子ゲルの物質放出制御性とを併せ持つ形状維持性凝集体が開示されている。この出願では、水でヒドロゲル粒子の懸濁物を調製し、粒子が疎水性/親水性相互作用及び水素結合を含む(がこれらに限定されるものではない)非共有結合力によって結合された形状維持性凝集体として合体するまでこの懸濁物を濃縮することによって形状維持性凝集体を形成させる方法が開示されている。
【0009】
同時係属の特許文献6に、凝集体の形状が適用部位の形状によって決定されるように、インサイツ(in situ)で形状保持性凝集体を形成する方法が開示されている。凝集体の形成は、ゲル粒子の分散状態の維持を可能にするゼータ電位の絶対値を有するゲル粒子を極性液体に分散した懸濁物を、ゲル粒子のゼータ電位絶対値が低下する受入媒体中に導入することによって達成される。こうしたゲル粒子は、疎水性/親水性相互作用及び水素結合を含む非共有結合物理力によって結合された形状維持性凝集体として合体する。
【0010】
先天性組織欠損の治療、損傷臓器及び組織の修復並びに組織増大のために長年の間、再建手術が行われてきた。哺乳動物の組織の再建のために理想的な材料は、生体適合性であって、有害な組織反応を引き起こすことなく天然組織に合体可能であることが必要であり、適切な解剖学的及び機能的特性(例えば、大きさ、強さ、耐久性など)を有する必要がある。合成及び天然由来のポリマーを含む多数の生体適合材料が哺乳動物組織の再建又は増大術のために用いられてきた(例えば、“Textbook of Tissue Engineering”Lanza、R.Langer、R.及びChick,W.編、ACM Press、コロラド州(1996年)並びにこれに引用されている文献参照)が、全ての用途に使用するのに満足できることが判明している材料はない。
【0011】
組織に合体させる補綴物としての材料の埋め込みの他に、埋め込み及び組織増大のためにシリコーンエラストマー及びシリコーン溶液などの不活性シェルに多種多様な材料を取り込ませることが行われている。例えば、Robinson,Jrほかの“Prosthesis containing a solution of polyethylene glycol”という名称の特許文献7には、低分子量ポリエチレングリコール(PEG)を含有する乳房インプラント用水性充填媒体が開示されている。インプラントに充填するのに用いる液体にPEGを加える目的は、得られる溶液の粘度を高めることによってインプラントをより脂肪組織のように挙動させることにある。この系の1つの限界は、破損の際に、PEGが体の中を移動し、望ましくないことである。
【0012】
特許文献8においてVan Aken Redingerほかは、乳房インプラントとして使用するためのシリコーンゲル充填補綴物を開示している。シリコーンゲルの利点は、これが生理食塩水充填インプラントと比較して弾性に関し、より脂肪組織のように挙動することにある。
【0013】
しかしながら、シリコーン充填インプラントの欠点は、シリコーンがシェルの中を移動することができることによりインプラントの周囲に収縮をもたらす可能性があることである。さらに、インプラントが破損した場合、シリコーンが体の中に拡散し、同様に望ましくない。
【0014】
Itaほかの“Use of glucomannan hydrocolloid as filler material in prostheses”という名称の特許文献9には、水性媒体に分散させたコロイド状ヒドロゲル材料が開示されている。この系の1つの限界は、インプラントの壊損の際に、この親水コロイド材料が破損部位に留まらないで体内中に分散することである。
【0015】
特許文献10においてTiffanyは、乳房インプラントとして埋め込まれるシリコーン擬似ゲルを開示している。この材料の欠点は、これが粘性流体ではなく、固体ゲルであるため、的確には脂肪組織をシミュレートしないことである。
【0016】
特許文献11、特許文献12及び特許文献13のいずれにも医用補綴物用のシェル内に含有させた各種水中分散材料の使用が開示されている。これらのうちの最初の特許では、外からポンピングによりインプラントに生理食塩水を添加する際に、より高粘度の溶液を形成する脱水ヒドロゲル材料が利用されている。2番目の特許では、粘度を増大させるために動物又は植物源由来の脂肪を充填したシェルが開示されており、3番目の特許では粘度を増大させて脂肪組織をシミュレートさせるためにセルロース材料が用いられている。これらの特許の全てに共通する欠点は、破損が生じた場合に、シェル内の材料が破壊点に局在して留まるのではなく、体内中に拡散することである。
【0017】
従って、封入エンベロープが破損しても局在して留まる医用インプラント用の適切な粘度の生体適合性材料が求められている。本発明は、こうしたニーズを満たすものであり、これに関連した利益も提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第3,063,685号明細書
【特許文献2】米国特許第3,963,685号明細書
【特許文献3】米国特許第4,272,518号明細書
【特許文献4】米国特許第5,292,515号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0086548号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0118270号明細書
【特許文献7】米国特許第6,312,466号明細書
【特許文献8】米国特許第4,455,691号明細書
【特許文献9】米国特許第6,537,318号明細書
【特許文献10】米国特許第5,741,877号明細書
【特許文献11】米国特許第5,632,774号明細書
【特許文献12】米国特許第6,156,066号明細書
【特許文献13】米国特許第5,531,786号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Landfesterほか、Macromolecules、2000年、33:p.2370
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、適用場所が生体内である多くの商業的用途(例えば、関節再建、美容整形などの生物医学的用途)に特に有用であるヒドロゲル組成物を提供する。本発明の一態様は、上記の市販乳房インプラントの限界の全てを取り扱っている。医療上許容可能なシェル内に含有されるこの材料は、偶然の破損が生じた場合に局部に留まることになり、その組成を材料固有の物理的性質に基づいて調節することにより広い粘弾性の範囲にわたって脂肪組織をシミュレートすることができる。これによって、胸部を種々の年齢層の女性の胸部に似るように構築又は再構築することが可能となる。本出願者らが知っている限りでは、このように挙動する材料は他になく、これが本発明を開示する根拠である。
【0021】
一態様において、本発明は、少なくとも1種が極性である液体に懸濁した重量(乾燥)で約1%〜50%の複数のポリマーナノ粒子を含む粘性形状適合性ゲルを提供する。こうした複数のポリマーナノ粒子は、平均直径が約1マイクロメートル未満であり、少なくとも1種が極性である有効量の液体又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の有効量の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖から構成される。上記ゲル懸濁物又は系のこうした有効量の諸成分は、上記ナノ粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様において、ナノ粒子粉末の量は重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%もしくはさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0022】
従って、本発明は、ポリマーナノ粒子の乾燥粉末から作られる懸濁物を提供する。極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び複数のポリマーナノ粒子の懸濁物を作製するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合し、これらのナノ粒子は平均直径が1×10−6m未満であるものとし、次いで、懸濁物から液体(類)を除去することにより乾燥粉末中に残る液体(類)の量を重量で10%未満とし、この百分率は乾燥粉末の総重量を基準とするものとすることにより調製したナノ粒子を、少なくとも1種が極性である溶媒に懸濁する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20重%である。
【0023】
また、本発明は、ポリマーナノ粒子の乾燥粉末を戻すことによりゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成させる方法を提供する。こうしたナノ粒子は、上記のようにして、即ち、有効量の平均直径1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を重合し、このゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を個々に含むものとすることによって、調製する。こうした有効量の諸成分は、上記ゲル粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0024】
本発明の一実施態様はホモポリマーのポリ(2−スルホエチルメタクリレート)(pSEMA)を含む組成物を含まない。
【0025】
別の実施態様において、組織再建のための医用補綴物を提供する。この補綴物は、凍結乾燥されたゲルナノ粒子から戻したものであり、平均直径がそれぞれ1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む粘性形状適合性ゲルを含み、こうしたゲル粒子は、有効量の極性液体、又は少なくとも1種が極性である有効量の2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を個々に含むものとする。こうした有効量の諸成分は、上記ゲル粒子がこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度となるように供給する。一態様では、このナノ粒子粉末の量は、重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、又は別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%又はさらに重量(乾燥)で%約8〜約20%である。
【0026】
本発明の組成物及び補綴物は組織再建において有用である。また、本発明は組織再建にこれらを用いる上記方法をも提供する。
【0027】
以上に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0028】
[表1]pHEMA、pHPMA及びpHEMA:HPMAのコポリマーの凍結乾燥前後のナノ粒子径を示した表である。
【0029】
[表2]HPMA及びメタクリル酸(MAA)のコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の調製におけるモノマーの相対質量及びミリモルを示した表である。
【0030】
[表3]HPMA及びメタクリル酸(MAA)のコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の平均径及び粒径範囲を示した表である。
【0031】
[表4]HEMA及びGMAのコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の調製における相対質量及びミリモルを示した表である。
【0032】
[表5]HEMA及びGMAのコポリマーから構成される架橋ナノ粒子の平均径及び粒径範囲を示した表である。
【0033】
[表6]ポリマー濃度が同一であるが化学組成が異なるゲルの粘度を示した表である。
【0034】
[表7]重量10gで同一ポリマー濃度の組成が異なるゲルにおける変形の相対量を示した表である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ヒドロゲルナノ粒子を作製するために用いた一般的反応を示した図である。
【図2】ナノ粒子懸濁物、ナノ粒子粉末、粘性ゲル及び生理食塩液に接触させて得られるナノ粒子凝集体を示したイメージである。
【図3】ナノ粒子をゲル形成後に再分散させた場合のゲルとしての濃度の増加に伴うナノ粒子径の変化を示したグラフである。
【図4】ナノ粒子の濃度の増加に伴うゲルの粘度の変化を示したグラフである。
【図5】乾燥ポリマーナノ粒子の濃度が異なるゲルにおける粘度の経時変化を示したグラフである。
【図6】重量を10gとしたポリマー濃度の増加に伴うゲルの相対変形量の変化を示したグラフである。
【図7】ナノ粒子の種々の組成物から構成される粘性ゲルの相対凝集速度を示したグラフである。
【図8】種々のナノ粒子組成物から構成される粘性ゲルの相対たわみ量(relative deflection)を示したグラフである。
【図9】各種割合の水中ポリマー分散液から構成される粘性ゲルの相対たわみ量(relative deflection)を示したグラフである。
【図10】シェル破損後の、ウサギに外科的に埋め込まれたインプラント内に含まれる粘性ゲルに対する凝集効果を示した図である。
【図11】シリコーンエラストマーシェル中の形状適合性粘弾性ゲルの写真である。
【図12】外科的埋め込みの前の、ロールアップ(rolled up)されてサイズの相違を示す粉末充填インプラント及び通常のシリコーンインプラントの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
定義
本明細書に用いられている特定の用語は以下に定義された意味を有することがある。本明細書及び特許請求の範囲の原文に用いられている単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別の意味に解すべき場合を除き、単数形及び複数形指示を包含する。
【0037】
本明細書に用いられている「含む(comprising)」という用語は、その組成物及び方法には記載された要素が含まれるが、他の要素も除外されないこと意味するものである。組成物及び方法を定義するために用いる場合の「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、上記の目的のための組成物又は方法に本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。「からなる(consisting of)」とは、特許請求された組成物及び実質的な方法工程の他の構成要素うちの僅少を超える要素を除外することを意味する。これらの移行用語(transition term)のそれぞれによって限定される実施態様は本発明の範囲内にある。全ての態様及び実施態様では移行用語「含む」、単独に「からなる」又は単独に「本質的に〜からなる」を用いることを必然的に伴うものとすることは言うまでもない。
【0038】
範囲を含むすべての数字表示、例えば、pH、温度、時間、濃度及び分子量は、0.1ずつ(+)又は(−)に変動する近似値である。従って、必ずしも明確には記載されていないが、すべての数字表示には「約」という用語が前に付くことは言うまでもない。また、「約」という用語は、「X+0.1」又は「X−0.1」のような「X」の小刻みな変動に加えて、正確な値「X」も包含する。また、必ずしも明確には記載されていないが、本明細書に記載した試薬は単に例示的なものであること、及びそのようなものの均等物は当該分野では公知であることは言うまでもない。
【0039】
本明細書で用いている「ゲル」という用語は、それ自体特定の液体に不溶性であるが、その液体を大量に吸収し保持することにより安定で、多くの場合柔らかくてしなやかであるが、常に程度の差こそあれ形状維持性である構造を形成することができる三次元ポリマー構造のことを意味する。上記液体が水である場合、このゲルはヒドロゲルと称する。特に明確に断らない限り、「ゲル」という用語は、本願全体を通して、水以外の液体を吸収したポリマー構造及び水を吸収したポリマー構造の両方を指して用いるが、このポリマー構造が単に「ゲル」であるのかそれとも「ヒドロゲル」であるのかは文脈から当業者には容易に理解されよう。
【0040】
本明細書で用いている「極性液体」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。つまり、極性液体とは、電子がその分子の原子間で不均一に分布し、従って電気双極子を生じる液体である。極性であるためには、分子は、その分子内に他の原子よりも電気陰性の原子を少なくとも1個含有していなければならない。極性液体の例としては、酸素原子が部分負電荷を有し、水素原子が部分正電荷を有する水、及びOH部分が同様に分極されるアルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本明細書で用いている「ゲル粒子」という用語は、不連続形状、通常球状又は実質的にそうであるが必ずしもそうとは限らない微量又は超微量のゲルのことを意味する。また、この用語は、個々の粒子が親水性/疎水性相互作用、水素結合などの非共有結合物理力によって結合された小さな集合体であって、これらを含有するゲル粒子懸濁物(懸濁系)の安定性又は本発明の方法におけるこの懸濁系の働きに悪影響を与えない集合体を包含する。こうした集合体は、懸濁の際のゲル粒子の濃度変化から生じる。即ち、十分量の界面活性剤が存在して高濃度のゲル粒子が安定化されるのでない限り、濃度が高くなるほど、個々の粒子が非共有結合力によって十分互いに接近して合体する可能性が高くなる。
【0042】
本明細書で用いている「懸濁物」とは、固体をこの固体が可溶性でない液体に均一に分布させた安定な分散液のことをいう。この液体に界面活性剤を添加して分散液の安定化を補うことができる。本明細書で用いている「懸濁系」とは、本発明のゲル粒子が上記の分散させる固体である懸濁物のことをいう。「安定な」とは、上記固体が、限定されない例として挙げられる遠心分離又は濾過などの外部からの妨害的な力を受けない限り、少なくとも24時間均一に分散された状態を維持することを意味する。
【0043】
本明細書で用いている「界面活性剤」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。即ち、界面活性剤とは、電荷が陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性、両性又は中性であってもよく、これが溶解される液体の表面張力を低下させるか、2液体間もしくは液体と固体との間の界面張力を低下させる可溶性化合物である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本明細書で用いている「粘性形状適合性ゲル」とは、自己会合を防止する界面活性剤を含む極性液体中の高濃度のゲル粒子のことをいう。
【0045】
本明細書で用いている「医療上許容可能なエンベロープ」とは、臨床的に意義のある動物モデル又はヒト患者において使用するための組織再建用インプラントとして使用する、シリコーン、生理食塩水又は他の材料を含むように現在用いられている米国食品医薬品局(FDA)から承認されている材料を意味する。
【0046】
「対象」とは、哺乳動物、鳥類又はその他などの動物であることが意図されている。哺乳動物としては、マウス、ラット、サル、ウシ、イヌ、ヒト、家畜用動物、スポーツ用動物及びペットが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本明細書で用いている「凝集体形成」という用語は、医療上許容可能なエンベロープが破壊され、ゲル粒子が生理環境に曝されることにより粒子表面のゼータ電位の絶対値が低下し、粒子同士が限定されない例としての親水性/疎水性相互作用及び水素結合などの粒子間及び粒子−液体間力で結合した多数のゲル粒子から構成される局在構造として合体するプロセスのことをいう。
【0048】
本明細書で用いている「モノマー」は、化学分野の当業者に理解されている意味を有する。即ち、モノマーとは、それ自体の繰り返し単位の高分子、即ち、ポリマーを形成することができる低分子化合物である。2種以上のモノマーを反応させることによって、これらのモノマーがそれぞれ多数回繰り返されるポリマーを形成させることができ、このポリマーは、2種以上のモノマーで構成されているという事実を反映させてコポリマーと呼ばれる。
【0049】
本明細書で用いている、本発明のゲル粒子を説明するために用いる場合の「大きさ(size)」という用語は、基本的に球状の粒子について、当然この粒子の容積に直接関係する直径によって表されるその容積を意味する。複数のゲル粒子に言及する場合、大きさは、複数種のそうした粒子について、それらの平均直径によって表される平均容積に関係する。
【0050】
本明細書で用いている「多分散性(polydispersivity)」という用語は、懸濁系における上記粒子の大きさの範囲のことを指す。「狭い多分散性」とは、直径で表される個々の粒子の大きさが懸濁系においてこれらの粒子の平均直径から10%未満外れる懸濁系のことを指す。懸濁系における2種以上の複数の粒子がいずれも狭い多分散性を有すると記載されている場合、その意味は、2組の異なる粒子が存在し、各組の粒子の直径がその組の粒子の平均直径から10%以下だけ逸脱すると共にこれら2つの平均値ははっきりと異なるということである。そのような懸濁系の1つの例を挙げれば、各粒子の直径が20nm±10%である第1の組の粒子及び各粒子の直径が40nm±10%である第2の組の粒子を含む系があるが、これに限定されるものではない。
【0051】
本明細書で用いている「広い多分散性」という用語は、ある組の個々の粒子の大きさがその組の粒子の平均の大きさから10%を超えて逸脱する懸濁系のことを指す。
【0052】
本明細書で用いている「複数」という用語は、単に、1を超える数、即ち、2以上を意味する。
【0053】
本明細書で用いている「化学組成」とは、これが本発明のゲル粒子に関する場合、重合することにより上記粒子のポリマー鎖が得られるモノマーの化学組成、2種以上のモノマーを用いて上記粒子のポリマー鎖を調製する場合には各種モノマーの化学組成及び比率、及び/又は粒子鎖を相互に連結させるために用いられる任意の架橋剤(類)の化学組成及び量のことを指す。
【0054】
本明細書で用いている「粒子鎖」とは、単一のポリマー分子、又はこの鎖が存在する上記系が架橋剤を含有する場合には2個以上の相互に連結させたポリマー分子を意味する。架橋されるポリマー鎖の平均数及び特定のゲル粒子内の任意の2本のポリマー鎖間の平均架橋数はこの系中の架橋剤の量及びポリマー鎖の濃度によって決まることになる。
【0055】
本明細書で用いている「湿重量」という用語は、ゲル粒子が吸収することができる液体の最大量を吸収した後のゲル粒子の重量のことをいう。粒子が医薬として有効な薬剤を含有する液体を約0.1〜約99重量%封入していると記載されている場合、その意味は、医薬として有効な薬剤を含有する液体が、医薬として有効な薬剤を含有する液体の封入後のこの粒子の重量の約0.1〜約99%を占めるということである。
【0056】
本明細書で用いている「乾燥重量」という用語は、極性液体(類)の重量を含まないナノ粒子の重量を意味する。
【0057】
本明細書で用いている「医薬として有効な薬剤」という用語は、ゲル粒子に封入され、又は粘性形状適合性ゲルを構成する極性液体(類)に溶解又は分散されている任意の物質のことをいう。医薬として有効な薬剤の例としては、生物医学的作用物質;抗生物質などの生物活性物質、免疫抑制もしくは寛容誘導剤などの抗拒絶剤、遺伝子、蛋白質、成長因子、モノクロナール抗体、断片化抗体、抗原、ポリペプチド、DNA、RNA、リボザイム、放射線不透過性物質及び放射性物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本明細書で用いている「薬学的作用剤(pharmaceutical active agent)」という用語は、薬として用いられる低分子及び高分子化合物の両方を意味する。前者には抗生物質、化学療法剤(特に、白金化合物及びタキソールとその誘導体)、鎮痛剤、抗うつ剤、抗生物質、抗菌剤、抗アレルギー剤、免疫抑制もしくは寛容誘導剤などの抗拒絶剤、アンチアリシクス(anti−arryhthics)、抗炎症性化合物、中枢神経興奮薬、鎮静剤、抗コリン作用剤、抗動脈硬化剤などがあるが、これらに限定されるものではない。高分子化合物としては、モノクロナール抗体(mAbs)、Fab、蛋白質、ペプチド、細胞、抗原、核酸、遺伝子、蛋白質、成長因子、抗原、ポリペプチド、DNA、RNA、リボザイム、酵素、成長因子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。医薬品は局所又は全身性使用を目的とすることができる。
【0059】
本明細書で用いている「ヒドロキシ」とは−OH基を意味している。
【0060】
本明細書で用いている「アルキル」という用語は、直鎖又は分枝鎖飽和脂肪族炭化水素、即ち、炭素及び水素のみからなる化合物のことをいう。炭素原子を何個含有するかという点から観たアルキルの大きさは式(“a”C〜”b”C)アルキル(式中、a及びbは整数である)によって示される。例えば、(1C〜4C)アルキルとは、1、2、3、4個又はそれ以上の炭素原子からなる直鎖又は分枝鎖アルキルを意味する。アルキル基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0061】
本明細書で用いている「アルコキシ」という用語は、基−O−アルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)のことをいう。炭素原子を何個含有するかという点から観たアルコキシの大きさは式(“a”C〜”b”C)アルコキシ(式中、a及びbは整数である)によって示される。例えば、(1C〜4C)アルコキシとは、1、2、3、4個又はそれ以上の炭素原子からなる直鎖又は分枝鎖−O−アルキルを意味する。アルコキシ基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0062】
本明細書で用いている「エステル」とは、基−C(O)O−アルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)のことをいう。
【0063】
本明細書で用いている「2−アルケン酸」とは、基(R1)(R2)C=C(R3)−C(O)OH(但し、R1、R2、R3はそれぞれ独立に水素及びアルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)から選ばれる)のことを指す。これらの2−アルケン酸類は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などによって例示される。
【0064】
本明細書で用いている「2−アルケン酸エステル」とは、基(R1)(R2)C=C(R3)−C(O)O−アルキル(但し、R1、R2、R3はそれぞれ独立に水素及びアルキル(但し、アルキルは本明細書で定義したとおりである)から選ばれる)のことをいう。
【0065】
本明細書で用いている「架橋剤」とは、ポリマー鎖の官能基と共有結合を形成することにより三次元構造をもたらすことができる2、3又は4官能性化学物質のことをいう。
【0066】
本明細書で用いている「水素結合」とは、高度に電気陰性の原子と少なくとも1対の孤立電子対を有する別の電気陰性原子との間の電子引力を意味する。水素結合の強度約23kJ(キロジュール)mol−1は、共有結合の強度約500kJmol−1とファンデルワールス引力の強度約1.3kJ−1との間にある。水素結合はこれを形成することができる組成物の物理的特性に著しい影響を与える。例えば、エタノールは、非共有電子対(即ち、孤立電子対)をも有する酸素原子に共有結合した水素原子を有し、従って、エタノールはこれ自体と水素結合することができる。エタノールは78℃の沸点を有する。一般に、分子量が同様である化合物同士は同様な沸点を有すると考えられている。しかしながら、エタノールと正確に同じ分子量を有するが、それ自体の分子間で水素結合を形成することができないジメチルエーテルの沸点は−24℃であり、エタノールよりもほぼ100度低い。エタノール分子間に存在する水素結合によってエタノールはあたかも大幅により大きな分子量を有するかのように挙動する。
【0067】
本明細書で用いている「荷電」ゲル粒子とは、この粒子のポリマー鎖を構成するモノマー及びこれらのポリマーが存在する環境のイオン含量による局部的正又は負電荷を有する粒子のことをいう。例えば、コモノマーとしてアクリル酸を含むヒドロゲル粒子は、塩基性条件下で、これらの酸基の一部又は全てがイオン化された、即ち、−COOHがCOO−になった状態で存在することになるが、これに限定されるものではない。別の例は、酸性環境でアンモニウム(−NH3+)イオンを形成することになるアミノ(−NH2)基である。
【0068】
本明細書で用いている「ゼータ電位」は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。簡単に述べると、荷電粒子が電解液に懸濁されている場合、対イオン(この粒子と反対の電荷のイオン)の層が粒子の表面に形成される。粒子のこの層は粒子表面に強力に付着しており、シュテルン(Stern)層と呼ばれている。次いで、この粒子と同じ(及びシュテルン層を形成する対イオン(屡々、共イオンと呼ばれる)の電荷と反対の)電荷のイオンの第2の拡散層がこの強力に吸収された内層の周囲に形成される。このシュテルン層内の付着した対イオン及び上記拡散層内の荷電雰囲気は「二重層」と呼ばれ、その厚さは溶液中のイオンの種類及び濃度によって決まる。この二重層が形成されることにより粒子の電荷が中和される。これによって、粒子の表面と懸濁物内の任意の点との間に界面動電位が生じる。この電圧差は、ミリボルト(mV)のオーダーであるが、表面電位と呼ばれている。この電位は、シュテルン層では基本的には直線的に下降し、次いで、拡散層では指数関数的に下降する。
【0069】
荷電粒子は電圧場を一定の速度で移動するが、これは電気泳動と呼ばれる現象である。その移動度はこの移動粒子とこれを取り囲む液体との境界の電位に比例する。シュテルン層は粒子にきつく拘束され、拡散層はそうではないので、上記の境界は通常、シュテルン層と拡散層との境界であるとは規定され、滑り面と呼ばれることが多い。シュテルン層と拡散層との境の電位はこの粒子の移動度に関係する。この滑り面の電位は中間値であるが、電気泳動(これに限定されるものではない)によるその測定のし易さ及び安定性とのその直接的な関係によってこれが懸濁物中の拡散粒子を特徴付ける理想的な特徴となる。ゼータ電位と呼ばれるのはこの電位である。ゼータ電位は粒子の初期電荷に応じて正又は負とすることができる。「ゼータ電位絶対値」という用語は、電荷符号がない粒子のゼータ電位のことをいう。即ち、例えば、+20mV及び−20mVの実際のゼータ電位のゼータ電位絶対値は20である。
【0070】
液体に懸濁されている荷電粒子は、主に、2つの拮抗する力、(安定的分散に有利な)静電反発力と(粒子の合体、又は粒子が初期に一体となる場合のいわゆる「フロキュレーション」に有利な)ファンデルワールス引力とのバランスによって安定な分散状態が維持されるか、凝集する傾向がある。こうした分散粒子のゼータ電位は静電反発力の強さに関係するので、大きなゼータ電位絶対値は安定な懸濁に有利である。従って、約30mV以上のゼータ電位絶対値を有する粒子は、安定な分散液を形成する傾向がある。何故なら、このレベルでは静電反発力は粒子同士を引き離しておくのに十分であるからである。一方、ゼータ電位の絶対値が約30未満であると、ファンデルワールス力は、静電反発力に打ち勝つのに十分強く、粒子同士がフロキュレーションする傾向がある。
【0071】
特定の溶媒中の特定組成物の粒子のゼータ電位は、この液体のpH、この液体の温度、この液体のイオン強度、この液体の溶液中のイオンの種類並びにこの液体中の界面活性剤(類)の存在、(存在する場合)種類及び濃度を(これらに限定されるものではないが)改変することによってコントロールすることができる。
【0072】
本明細書で用いている「賦形剤」とは、医薬組成物に添加してその投与を容易にするための不活性物質を意味する。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖、各種澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。「医薬用として許容可能な賦形剤」とは、生体に対して著しい刺激を引き起こさず、投与化合物の生物活性及び特性を無効にしない賦形剤を意味する。
【0073】
本発明の粘性形状適合性ゲルを、本明細書の開示内容を利用して操作することにより、上記疾患のいずれかの治療及び/又は予防に有効であると当業者に現在知られている、又は知られるようになる可能性があるほとんど全ての医薬品を封入及び/又は取り込ませることが可能になり、このような医薬品は全て本発明の範囲内にある。
【0074】
本明細書で用いている「生体内で(in vivo)」という用語は、植物でも動物でもよい生物の体内、特にヒト体内で行われる任意の過程又は手順のことをいう。
【0075】
本明細書で用いている「親水性/疎水性相互作用」という用語は、親水性化合物又は化合物の親水性領域が他の親水性化合物又は化合物の親水性領域と結合しやすくし、疎水性化合物又は化合物の疎水性領域が他の疎水性化合物又は化合物の疎水性領域と結合しやすくする物理的力による化学物質の分子間又は分子内結合のことをいう。
【0076】
本明細書で用いている「封入する(occlude)」という用語は、化学分野の当業者に一般に理解されている意味を有する、即ち、ある期間にわたって物質を取り入れ、保持することを意味する。本発明に関しては、物質は、本発明のゲル粒子によってその形成過程で取り入れさせ、保持させる、即ち、封入させることができる。
【0077】
本明細書で用いている「取り込ませた(entrapped)」という用語は、本発明の粘性形状適合性ゲルを構成するゲル粒子間の間隙に物質をある期間保持させることを意味する。
【0078】
本明細書で用いている「平均分子量」という用語は、本発明の個々のポリマー鎖又は架橋型ポリマー鎖の重量のことをいう。本発明では、平均分子量はレーザ光散乱検出法を用い、ゲル透過クロマトグラフィーにより求めた。
【0079】
本明細書で用いている「弾性率」という用語は、所与の材料の剛性のことをいい、物体の線形応力の弾性の限界内の対応する線形ひずみに対する比率である。
【0080】
本明細書で用いている「粘弾性」とは、粘性的及び弾性的性質を示す材料、即ち、負荷剪断応力の影響下に変形及び流動するが、変形の一部から緩徐に回復する材料のことをいう。
【0081】
本明細書で用いている「自己会合(self−aggregation)」とは、ゲル粒子同士が、濃縮懸濁物中で互いに近接近しているために、合体して、存在する界面活性剤の種類及び量とは無関係に固体塊を形成するプロセスのことをいう。
【0082】
本明細書で用いている「セルフシールの」とは、ゲル粒子がインプラント破損部位で凝集することによりさらに物質がシェルから出ていくのが防止されるプロセスのことをいう。
【0083】
「組成物」は、懸濁剤もしくは他の薬剤と別の化合物もしくは組成物又は担体(例えば、不活性液体担体もしくは(治療的などの)活性液体担体)との組合せを意味するものである。
【0084】
「医薬組成物」は、本発明の懸濁物のような担体と活性薬剤との組合せを含み、これによってこの組成物を試験管内、生体内又は生体外で診断的又は治療的に用いるのに適したものにすることが意図されている。
【0085】
本明細書で用いている「医薬用として許容可能な担体」は、リン酸緩衝生理食塩液、水、油/水又は水/油エマルジョンなどの乳化剤及び様々な種類の湿潤剤などの標準的な医薬用担体のいずれかを包含する。こうした組成物は安定剤及び保存剤を含むこともできる。担体、安定剤及び佐剤の例についてはMartin REMINGTON’S PHARM.SCI、第15版(Mack Publ.社、イーストン(1975年))を参照されたい。
【0086】
「有効量」とは、有益もしくは所望の結果をもたらすのに十分な量である。所望又は有益な結果によって決定されるような有効量を求める方法は当該分野で周知である。
【0087】
実施態様
本発明は、少なくとも1種の極性液体に懸濁されたポリマーナノ粒子の乾燥粉末から構成される、又はこれから本質的になる、又はさらにこれからなる粘弾性ゲルを提供する。この懸濁物を作製する方法及びその使用についても提供する。
【0088】
上記ヒドロゲルナノ粒子粘弾性ゲルの特徴はその濃度であり、従って、一態様において、本発明の目的は、生体内に導入する場合に注入量を最小限に抑えて特定の用途に望ましい物理的性質を有する凝集体を形成させるために、高濃度のゲル粒子懸濁物を作製することにある。
【0089】
別の目的は、ゼータ電位絶対値の低下によりゲル粒子を凝集させる環境に懸濁物を導入することなく懸濁物中のこうした粒子が自己会合するのを防止することにある。これは、こうした高濃度の粒子を安定化する特定の濃度の医薬用として許可されている適切な界面活性剤を利用することにより達成される。これは、ゲル粒子の濃度と自己会合を防止するのに必要な界面活性剤の種類及び量との間の比率を特定することにより達成することができる。
【0090】
特定の商業的用途ごとに、ゲル粒子及び界面活性剤はいずれも異なる濃度が必要とされることは明らかである。ゲル濃度と界面活性剤レベルとの関係を求めるのに際し、ヒドロゲルナノ粒子をいくつかの方法で単離したが、その1つの方法を凍結乾燥とした。次いで、この乾燥ヒドロゲル粒子を界面活性剤の存在下で再懸濁して、凝集を生じることなく達成できる最高濃度を求めた。
【0091】
こうした特定の実験において、上記濃度が300mg/mL正味重量又は別の実施態様では500mg/mL正味重量を超えて増加し、界面活性剤レベルが一定のとき、懸濁物は凝集せず、実際には純凝集体とは異なる物理的性質を有する粘弾性ゲルを形成していることが見出された。これらの粘性ゲルは分散ナノ粒子の濃度に応じて粘度が変化した。こうした粘性ゲルは、純ナノ粒子凝集体が挙動するようには形状の保持を示さなかった。これらの粘性ゲルの重要な物理的性質は、比較的低粘度の蜂蜜稠度から高濃度及び粘度のゴムタイプの材質へ変化させることができた。比較的高粘度ゲルが最も重要であった。何故なら、その粘弾性特性が、脂肪組織を含有する組織を初めとする軟組織のそれに近づきつつあったからである。これらの材料は、形状維持性凝集体としてではなく、高い粘度を有する流動無定形液体として挙動し、エンベロープ内に含有されると、容器の形状をとる形状をとる。しかしながら、予想されるように、これらの粘性ゲルを構成する粒子の表面のゼータ電位絶対値が、例えば生理環境にこれらが曝されることによって低下するならば、こうした粘性ゲルは凝集するであろう。従って、自己会合を防止するのに十分な量の界面活性剤と共に水又は他の極性溶媒に懸濁した最大濃度のゲル粒子を用いた、哺乳動物組織再建用の新規で安全でユニークな医用補綴物が得られることは予想外であった。
【0092】
一態様において、極性溶媒、好ましくは水に、医薬用として許容可能な界面活性剤の存在下で懸濁したゲル粒子を適切で医療上許容可能で埋め込み可能な(例えば、シリコーンエラストマーもしくはポリウレタンから構成される)水不透過性エンベロープ中に導入する。得られるインプラントの軟度、弾性率などの特性は、ヒドロゲルナノ粒子の組成及び量及び界面活性剤濃度によって容易に調節することができる。別の利点は、破損又は壊損が生じても、漏れは限局化されることになり、粘性ゲル粒子は外科的に除去することができる生物学的に安全で局部的な凝集体を形成することになることである。別の利点は、ヒドロゲルナノ粒子の化学的性質の薬物送達能を利用して、その懸濁物はさらに特定の薬剤もしくは他の作用物質(例えば、抗生物質及び抗拒絶剤)を粘性ゲル内に含有し、又はこの粘性ゲルを構成するゲル粒子内に封入することができることである。特定の薬物に対して透過性である医療上許容可能な埋め込み可能エンベロープを用いて粘性ゲルを含有させ、このインプラントを周囲の組織中にこのエンベロープを介して活性物質を持続的に局部に送達することができよう。拒絶、感染、破損した場合の有毒液体の漏れ及び「感触」に関する現在の哺乳動物組織再建用インプラントの主要な問題及び限界に対して、これらの付加的な属性は数多くの医学的用途のための技術基盤となる。
【0093】
上記懸濁物はポリマーナノ粒子の乾燥粉末から調製する。この乾燥粉末は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び複数のポリマーナノ粒子の懸濁物を作製するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合し、これらのポリマーナノ粒子は平均直径が1×10−6m未満であるものとすることによって調製する。重合後、上記懸濁物から液体(類)を除去することにより乾燥粉末中に残る液体(類)の量を重量で10%未満とし、この百分率は乾燥粉末の総重量を基準とするものとする。種々のポリマーの組合せ及び液体類の別の実施態様について本明細書に記載した。
【0094】
一態様において、本発明は、平均直径が1マイクロメートル未満の凍結乾燥濃縮した複数のゲル粒子を分散させ、こうしたゲル粒子は、有効量の極性液体、又は少なくとも1種が極性である有効量の2種以上の混和性液体の混合物及び上記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含むものとし、これによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、こうした粒子はこの懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮されるものとすることによってゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成させる方法を提供する。別の実施態様では、上記懸濁系中の粒子は約300〜約1,000mg湿重量/mL又は約300〜約800mg湿重量/mL又は約300〜約600mg湿重量/mL又は約500〜約1,200mg湿重量/mL又は約700〜約1,200mg湿重量/mL又は約900〜約1,200mg湿重量/mL又は約500〜約1,000mg湿重量/mL又はさらに300mg湿重量/mL超又はさらに500mg湿重量/mL超に濃縮する。別の態様では、粒子の量は重量(乾燥)でのナノ粒子の百分率で規定する。一態様では、ナノ粒子粉末の量は重量(乾燥)で約1%〜約50%であり、別の実施態様では、重量(乾燥)で約2%〜約30%、又はさらに重量(乾燥)で約8%〜約20%である。
【0095】
別の実施態様において、上記少なくとも1種のモリマーは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである。
【0096】
別の実施態様では、上記モノマー(類)は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリセロール又はこれらの組合せである。別の実施態様では、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルのような唯一種のポリマーを使用する。別の態様では、上記ポリマーは、2種のポリマーの組合せであり、そのうちの1種はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである。
【0097】
別の実施態様において、これらのゲル粒子はほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭い。別の実施態様では、これらのゲル粒子は異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭い。
【0098】
別の実施態様では、これらのゲル粒子は1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いか狭い。
【0099】
別の実施態様において、懸濁系の上記複数のゲル粒子は、集合体形成をもたらす約5〜20%の範囲の濃度にある。別の実施態様では、懸濁系の上記複数のゲル粒子は集合体形成をもたらす約5〜10%又は約5〜15%又は約10〜20%又は約15〜20%又は約10〜15%又は約6〜19%又は約7〜18%の範囲の濃度にある。
【0100】
別の実施態様において、上記界面活性剤の有効量は約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである。別の実施態様では、上記界面活性剤の有効量は約0.005重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.5重量パーセント又は約0.006重量パーセント〜約0.40重量パーセントである。好適な界面活性剤としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
別の実施態様において、上記ゲル粒子の平均直径は約1〜約1,000ナノメートルである。別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は約10〜約1,000ナノメートル又は約100〜約1,000ナノメートル又は約10〜約100ナノメートル又は約20〜約1,000ナノメートルである。別の態様では、この平均直径は約1,000ナノメートル未満又は約800ナノメートル未満又は約750ナノメートル未満又は約700ナノメートル未満又は約500ナノメートル未満又は約400ナノメートル未満又は約300ナノメートル未満又は約200ナノメートル未満又は約100ナノメートル未満又はさらに約50ナノメートル未満である。
【0102】
別の実施態様において、上記ゲル粒子の平均直径は約40〜約800ナノメートルである。別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は、約40〜約500ナノメートル又は約40〜約300ナノメートル又は約100〜約800ナノメートル又は約300〜約800ナノメートル又は約600〜約800ナノメートル又は約50〜約700ナノメートルである。さらに別の実施態様では、上記ゲル粒子の平均直径は、約35ナノメートル超又はさらに約55ナノメートル超又はさらに約75ナノメートル超又はさらに約100ナノメートル超又はさらに約150ナノメートル超又はさらに約200ナノメートル超又はさらに約250ナノメートル、300ナノメートル又はさらに約350ナノメートル超又はさらに約400ナノメートル超である。
【0103】
別の実施態様において、上記ゲル粒子は、懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある。別の実施態様では、懸濁系中の上記ゲル粒子は、約500〜約800mg湿重量/mL又は約500〜約700mg湿重量/mL又は約500〜約600mg湿重量/mL又は約600〜約900mg湿重量/mL又は約700〜約900mg湿重量/mL又は約800〜約900mg湿重量/mL又は約600〜約800mg湿重量/mLの濃度にある。
【0104】
別の実施態様において、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約2,000,000である。別の実施態様では、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約200,000又は約15,000〜約20,000又は約150,000〜約2,000,000又は約1,500,000〜約2,000,000又は約100,000〜約1,000,000又は約50,000〜約1,500,000である。
【0105】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程を含む、又は本質的にこの工程からなる、又はさらにこの工程からなる方法によって得る。上記モノマー(類)は適切な条件下で重合することにより、各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子が形成される。別の態様では、上記ゲル粒子は反応組成物から単離する。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0106】
別の実施態様において、上記液体類は、水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択される。別の実施態様では、上記液体類は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される。別の実施態様では、上記液体は水である。
【0107】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に0.01〜10モルパーセントの有効量の界面活性剤を添加する工程及びこのモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程を含む方法によって得る。別の態様では、上記方法は上記ゲル粒子を単離する工程をも含み、さらに約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を上記重合系に添加する工程を含むものとする。別の態様では、この系に、モルパーセント単位で約0.5〜約15%又は約1%〜約10%の架橋剤を添加する。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0108】
別の実施態様において、上記架橋剤は、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択される。
【0109】
別の実施態様において、上記複数のポリマー鎖は、有効量の極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に有効量の1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程及びこのモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程及びこれらのゲル粒子を単離する工程を含む、又は本質的にこの工程からなる、又はさらにこの工程からなる方法であって、約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を上記重合系に添加する工程をさらに含むものとする方法によって得る。この態様では、上記方法は、重合の前又は上記液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させた後に、上記重合系の極性液体(類)に有効封入量の1種以上の医薬として有効な薬剤を添加する工程をさらに含む。この方法により形成させた粒子は、上述のように、さらに処理するか、医薬として有効な薬剤もしくは生物学的薬剤のような別の薬剤を含有させることができる。当業者には明瞭に理解されようが、この別の薬剤はその有効量を上記重合溶液に添加する。
【0110】
別の実施態様において、上記有効量の医薬として有効な薬剤を含有するゲル粒子は約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。別の実施態様では、上記有効量の医薬として有効な薬剤を含有するゲル粒子は、約1〜約90重量パーセント又は約10〜約90重量パーセント又は約0.1〜約70重量パーセント又は約0.1〜約50重量パーセント又は約0.1〜約20重量パーセント又は約10〜約50重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。
【0111】
別の実施態様において、上記方法は、有効量の1種以上の第1の医薬として有効な薬剤(類)を第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体をもたらすのに有効な量で重合系に添加し、重合後、この第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の一部は得られるゲル粒子によって封入されるものとする工程及び上記の第1の医薬として有効な薬剤(類)を含有するゲル粒子を単離する工程及び、次いで、有効量の上記極性液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させる工程及びこの懸濁物に有効量の1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得、上記第1の医薬として有効な薬剤(類)はこの第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、上記の第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体は上記第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体と同じであっても異なってもよいものとする工程を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる。
【0112】
別の実施態様において、上記医薬品(類)は、1種以上の医薬用として許容可能な賦形剤をさらに含む、又は本質的にこれからなる、又はさらにこれからなる。別の実施態様では、上記医薬品(類)はペプチド又は蛋白質を含む。
【0113】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0114】
ヒドロゲル懸濁物
また、本発明は、以上に記載し、以下に例示した複数のゲル粒子の懸濁物を含む、又は本質的にこれからなる、又はさらにこれからなる粘性形状適合性ゲルを提供する。一態様として、本発明は、上記のようなゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、この粘性形状適合性ゲルの少なくとも1種のモノマーはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルであるものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのモノマー(類)はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリセロール又はこれらの組合せであるものとするゲルを提供する。別の態様では、このポリマーは1種のモノマーのみで構成する。別の態様では、このポリマーは、少なくとも1種が、例えばメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである2種のモノマーの組合せである。別の態様では、このモノマーはメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルモノマーから構成される。
【0115】
別の実施態様において、本発明は、ゲルナノ粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、この複数のゲル粒子はほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、本発明は、ゲルナノ粒子の粘性形状適合性懸濁物であって、ナノ粒子は平均直径が異なり、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものとする懸濁物を提供する。別の実施態様では、上記のゲルナノ粒子は1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである。
【0116】
別の実施態様において、本発明は、上記ナノ粒子の懸濁物であって、粘性形状適合性ゲルの複数のゲル粒子は、集合体形成をもたらす、懸濁物中約5〜20%の範囲の濃度にある。本発明の範囲内の別の濃度としては、約5〜10%又は約5〜15%又は約10〜20%又は約15〜20%又は約10〜15%又は約6〜19%又は約7〜18%の範囲が挙げられ、これらはいずれも集合体形成をもたらす。
【0117】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルの界面活性剤は約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントの濃度であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、この界面活性剤の有効量は、約0.005重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.3重量パーセント又は約0.005重量パーセント〜約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.1重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.2重量パーセント又は約0.05〜約0.3重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約約0.4重量パーセント又は約0.05重量パーセント〜約0.5重量パーセント又は約0.006重量パーセント〜約0.40重量パーセントである。好適な界面活性剤としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのゲル粒子の平均直径は約1〜約1,000ナノメートルであるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、こうしたゲル粒子の平均直径は約10〜約1,000ナノメートル又は約100〜約1,000ナノメートル又は約10〜約100ナノメートル又は約20〜約1,000ナノメートル又はである。別の態様では、この平均直径は約1,000ナノメートル未満又は約800ナノメートル未満又は約750ナノメートル未満又は約700ナノメートル未満又は約500ナノメートル未満又は約400ナノメートル未満又は約300ナノメートル未満又は約200ナノメートル未満又は約100ナノメートル未満又はさらに約50ナノメートル未満である。
【0119】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、この粘性形状適合性ゲルのゲル粒子の平均直径は約40〜約800ナノメートルであるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、上記ゲルの平均直径は約40〜約500ナノメートル又は約40〜約300ナノメートル又は約100〜約800ナノメートル又は約300〜約800ナノメートル又は約600〜約800ナノメートル又は約50〜約700ナノメートルである。
【0120】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記ゲルナノ粒子は懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、懸濁系においてこうしたゲル粒子は約500〜約800mg湿重量/mL又は約500〜約700mg湿重量/mL又は約500〜約600mg湿重量/mL又は約600〜約900mg湿重量/mL又は約700〜約900mg湿重量/mL又は約800〜約900mg湿重量/mL又は約600〜約800mg湿重量/mLの濃度である。ナノ粒子の量は乾燥重量で規定され、上記の通りであり、引用によって本明細書に組み込まれている。
【0121】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記ポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約2,000,000であるものとするゲルを提供する。別の実施態様では、こうしたポリマー鎖は平均分子量が約15,000〜約200,000又は約15,000〜約20,000又は約150,000〜約2,000,000又は約1,500,000〜約2,000,000又は約100,000〜約1,000,000又は約50,000〜約1,500,000である。
【0122】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記複数のポリマー鎖は、
i)極性液体又は極性液体類の混合物(但し、この極性液体又は2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含むものとする)中に1種のモノマー又は2種以上のモノマー(但し、この1種のモノマー又は2種以上のモノマーの少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基及び/又は1個以上のエステル基を含むものとする)を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤(例えば、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウム)を添加する工程、
ii)このモノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程、並びに
iii)重合後、この懸濁物から上記液体(類)を除去することにより、得られる乾燥粉末中に残存する液体(類)の量を、この乾燥粉末の総重量に対する割合として重量で10%未満とする工程
を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる方法によって得られるものとするゲルを提供する。
【0123】
次いで、この乾燥粉末を戻して上記の粘性ゲルを形成させる。この粘弾性ゲルは、少なくとも1種の極性液体に重量(乾燥)で約1〜約50パーセント又は重量(乾燥)で約2〜約30パーセント又は重量(乾燥)で約8〜約20パーセントを混合することによって調製する。
【0124】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体類は水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0125】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体類は水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0126】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記液体は水であるものとするゲルを提供する。
【0127】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤をさらに含むゲルを提供する。別の態様では、上記の系に、モルパーセント単位で約0.5〜約15%又は約1%〜約10%の架橋剤を添加する。
【0128】
別の態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記架橋剤はジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択されるものとするゲルを提供する。
【0129】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、1種以上の医薬として有効な薬剤をさらに含むゲルを提供する。
【0130】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子は約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入するものとするゲルを提供する。別の実施態様では、この有効量の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子は、約1〜約90重量パーセント又は約10〜約90重量パーセント又は約0.1〜約70重量パーセント又は約0.1〜約50重量パーセント又は約0.1〜約20重量パーセント又は約10〜約50重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含有する液体を封入する。
【0131】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記複数のポリマー鎖は、
i)上記の第1の医薬として有効な薬剤(類)を含有するゲル粒子を単離する工程、
ii)有効量の上記極性液体(類)に上記ゲル粒子を再分散させる工程、及び
iii)この懸濁物に1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得、上記第1の医薬として有効な薬剤(類)はこの第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、上記の第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体は上記第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の液体と同じであっても異なってもよいものとする工程
を含む、又は本質的にこれらの工程からなる、又はさらにこれらの工程からなる方法によって得られるものとするゲルを提供する。
【0132】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記医薬として有効な薬剤(類)は、同じでも異なっていてもよく、上記の定義通りである1種以上の生物医学的作用物質(類)を含むものとするゲルを提供する。
【0133】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、粘性形状適合性ゲルは上記のとおりであるものとし、上記薬学的作用剤(類)は1種以上の医薬用として許容可能な賦形剤をさらに含むものとするゲルを提供する。
【0134】
別の実施態様において、本発明は、粘性形状適合性ゲルであって、上記薬学的作用剤(類)はペプチド又は蛋白質を含むものとするゲルを提供する。
【0135】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0136】
医用インプラント及び補綴物
一実施態様において、本発明は、組織再建用医用補綴物であって、この医用補綴物中に本明細書に記載した複数のゲル粒子の懸濁物を含む粘性形状適合性ゲルを含む医用補綴物を提供する。別の実施態様では、本発明は、医用補綴物をこれを必要とする患者に埋め込むことによる組織再建の方法を提供する。一態様において、本発明は、上記の粘性形状適合性ゲルを1種以上含む組織再建用インプラントを提供する。
【0137】
別の態様において、本明細書に記載したような1種以上の医用補綴物を対象に埋め込むことを含む、又は本質的にこのことからなる、又はさらにこのことからなる組織再建又は増大の方法がある。この医用補綴物は、付随する制限又は医学的な健康リスクを伴うことなく従来技術のインプラント又は補綴物の代わりに好適に用いることができる。一態様では、この対象はヒト患者のような哺乳動物である。
【0138】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【0139】
以下の実施例は例示のために示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0140】
実験
本明細書に記載した粘性形状適合性ゲルは、自己会合を防止するための界面活性剤を含む極性溶媒(類)に分散させたゲル粒子の高濃度懸濁物を調製することによって形成させる。
【0141】
この粘性形状適合性ゲルの物理的及び化学的性質をコントロールすることによって、こうしたゲルが懸濁化液体(類)の存在下に安定であり、容易に自己会合又は分解しないようにすることができる。ゲル粒子の濃度及び種類、粘性ゲルを構成する粒子の大きさ、懸濁化メジウムに存在する界面活性剤の量及び種類などの要因は得られる粘性ゲルの性質に影響を及ぼすことになる。こうしたゲルは濃度のみを変化させることにより、種々の流動特性を示すように作製することができる。硬度、弾性率などの性質には上記粘性ゲルに存在するゲル粒子の組成によって影響を与えることもできる。懸濁化液体(類)全体にわたって効率的に分散させることができるゲル粒子の最大量及び種類と、これらの粒子が自己会合するのを防止する(何故なら、これらは濃度が高くなるにつれ、互いに極めて接近するため)のに必要な界面活性剤の量との間には関連性がある。提案組成ごとに、この関連性を経験的に検討することによって、哺乳動物組織再建用インプラントとして用いるためのこうした粘性形状適合性ゲルの性能及び安定性を最適化することができる。上記インプラントエンベロープの破損を引き起こす損壊が生じる場合、ゲル粒子は生理環境中に漏れて破損点で局部塊として合体することがある。高濃度の界面活性剤は、ゲル粒子の自己会合を防止することが望ましいが、こうした粒子が生理環境に曝されてもその凝集を防止することになる。従って、これらの要因は全て、医用補綴物として用いるための最適で安定なセルフシール粘性ゲルを作製する際には考慮する必要がある。使用するゲル粒子の量及び種類、使用する界面活性剤の量及び種類並びにこうしたゲル粒子を分散させるために使用する極性溶媒(類)が人体の各種組織をシミュレートする粘弾性特性を示す種々の粘性ゲルを作製する際の重要なパラメータであることは当業者には明らかである。
【0142】
上記ゲル粒子は、重合時に、極性液体(類)の存在下の場合に水素結合することができるポリマーをもたらすモノマーから一般に選ばれる1種以上のモノマーからなる重合系において調製する。この能力を有するモノマーの一般的なクラスとしては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル及びアクリル酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル;メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルなどの2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル;アクリル酸2−ヒドロキシエトキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシエトキシエチルなどのアルケン酸ヒドロキシ((2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C));メタクリル酸(1C〜4C)アルコキシ(1C〜4C)アルキル、例えば、メタクリル酸エトキシエチル;アクリル酸、メタクリル酸などの2−アルケン酸;アクリル酸エトキシエトキシエチル及びメタクリル酸エトキシエトキシエチルなどのアルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル;アクリル酸ジエチルアミノエチル及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの2−アルケン酸N,N−ジ(lC〜4C)アルキルアミノアルキル;メタクリル酸グリシジルなどの2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキル;並びにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
モノマーの具体例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル及びこれらの混合物が挙げられる。1つの具体的なモノマーは唯一のモノマー型とすることができるメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)又はメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルであり、或いはこれはこれらのモノマー型のうちの少なくとも1種とすることができる。
【0144】
水素結合することができないコモノマーを上記重合系に添加することにより、得られるゲル粒子の物理化学的特性を改変することができる。上記モノマーと組み合わせて用いることができるコモノマーの例としては、アクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメタクリルアミド、メチルビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
また、架橋剤を上記重合系に添加することにより、得られるゲル粒子の三次元構造を強化することもできる。この架橋剤は非分解性のものとすることができ、例えば、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ブチレン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸ジアリルモノエチレングリコール、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、無水マレイン酸とトリエチレングリコールとのポリエステル、アコニット酸ジアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の非分解性架橋剤については本明細書の開示内容から当業者には明らかであろうし、それらは本発明の範囲内にある。
【0146】
本発明の重合系及び懸濁系のいずれにも用いる具体的な液体は水であり、この場合、上記粒子はヒドロゲル粒子である。
【0147】
本発明の方法において特定の有機液体類を用いることもできる。一般に、これらの沸点は約60℃超、或いは約80℃、100℃、120℃、140℃、160℃、180℃超又は約200℃である必要がある。こうした液体の使用によりゲル粒子が重合され、粘性形状適合性ゲルが生成する。本発明の粘性ゲルの形成に特に有用な有機液体は、水混和性オキシアルキレンポリマー、例えば、ポリアルキレングリコール、特に、分子内の複数のオキシエチレン(−OCH2CH2−)単位及び約200℃超の沸点を特徴とするものである。
【0148】
本発明の方法に用いることができる具体的な有機液体類は、限定されない例として挙げられるエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール−1,3、ブタンジオール−1,4、ヘキサンジオール−2,5、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ヘプタンジオール−2,4、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール並びに最大約2,000、好ましくは最大約1,600の分子量を有する高級ポリエチレングリコール及び他の水溶性オキシアルキレンホモポリマー及びコポリマーなどの生物学的に不活性で毒性のない極性の水混和性有機液体である。例えば、平均分子量200〜1,000のエチレンオキシドのヒドロキシ末端ポリマー、最大約1,500、好ましくは最大約1,000の分子量を有する水溶性オキシエチレンオキシプロピレンポリオール(特に、グリコール)ポリマー、プロピレングリコールモノエチルエーテル、モノアセチン、グリセリン、クエン酸トリ(ヒドロキシエチル)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、シュウ酸ジ(ヒドロキシプロピル)、酢酸ヒドロキシプロピル、三酢酸グリセリル、三酪酸グリセリル、液体ソルビトールエチレンオキシド付加物、液体グリセリンエチレンオキシド付加物、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び二酢酸エチレングリコールを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0149】
本発明の一実施態様において、10−9メートル〜10−6mの範囲の呼び寸法を有するヒドロゲル粒子は、界面活性剤を含有する水中でレドックス、ラジカル又は光重合を行うことによって作製される。このようにして、多分散性の比較的狭い粒子を作製することができる。しかしながら、特定の薬物送達用途では、多分散性の広い粒子を作製するか、大きさが異なるが各大きさ内の多分散性が狭い2群以上の粒子を用いてインプラントの医療上許容可能なエンベロープ内に含有される粘弾性粒子を構成することが望ましいと考えられる。偶然の破損が生じても、破損部位に凝集体が形成され、生物活性物質が長時間にわたって全身性又は局所性に放出されることになろう。放出速度は、ある程度、上記粘弾性ゲルを構成する粒子の組成、大きさ及び多分散性に基づいて調節することができる。生物活性物質又は物質類をこの粘弾性ゲルを含む懸濁化メジウムに添加し、及び/又は重合工程中に添加することによりこの活性物質を封入するゲル粒子を作製することができることは当業者には明らかである。従って、この技術の汎用性によって、限定されない例として挙げられるインプラント破損部位における活性物質の放出及び上記インプラントシェルを介した粘弾性ゲル粒子及び/又は懸濁化メジウムからの活性物質の放出を含む種々の薬物送達用途の道を開くことが可能となる。粘弾性ゲルを構成する大きさ及び多分散性の異なるナノ粒子を用いて活性物質の単独又は組合せによる二重放出を達成することもできる。
【0150】
極性液体(類)中に上記ゲル粒子を再分散させる前に、上記懸濁系の液体から未反応モノマー(類)、界面活性剤及び封入されなかった生物活性物質を除去し、及び/又は上記粒子により吸収された水から未反応モノマー(類)及び界面活性剤を除去するためにこの懸濁系を処理することが望ましいと考えられる。こうした粒子及び懸濁系を浄化するために、透析、抽出又はタンジェント流濾過などの技術を用いることができるが、これらに限定されるものではない。ゲル粒子の重合及び形成時に用いる界面活性剤を医薬用としてより許容可能なものと交換することも望ましいと考えられる。次に、封入された生物活性物質を含むか含まない精製ゲル粒子を噴霧乾燥又は凍結乾燥(これらに限定されない)などの技術により単離し、得られた乾燥粒子を、界面活性剤を含み、別の生物活性物質を含むか含まない極性液体(類)に高濃度で再懸濁する。得られる粘性形状適合性ゲル中のゲル粒子の濃度は、本明細書に記載したように、例えば約300〜約1,200mg湿重量/mL、より好ましくは約500〜約900mg湿重量/mLの範囲とすることができる。上記液体(類)中に存在する界面活性剤の量は約0.005〜約0.50重量パーセント、別の態様では約0.01〜0.10重量パーセントの範囲である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0151】
医療上許容可能な埋め込み可能エンベロープ体内に含有させる粘性形状適合性ゲルは、一般に、特定の貯蔵条件下で安定であるように調製することになる。しかしながら、偶然の破損の場合のようにイオン性、pHなどの生理的条件に曝される場合、上記ゲル粒子はゼータ電位が低下した後、合体し、破損部位に局部的な凝集が生じることになる。これは新たに加わった安全面での特徴、即ち、どの市販インプラントにも存在しない「セルフシール」の特徴である。例えば、シリコーンインプラントの場合、インプラント内の液体は「安全でない」と判断される。従って、破損が生じた場合、体組織は局所性及び全身性にこの有毒な物質に曝されるようになる。本発明の粘性ゲルインプラントの場合、このインプラントを構成する有毒な材料は存在しない。偶然の破損が生じた場合、その周囲の組織は、生物学的に安全な材料のみに接触し、かつ、その凝集体が固体塊として共に留まるため、全身性毒性の懸念はない。また、必要に応じて、この凝集体は外科的に除去することができる。本発明の粘性ゲルの別の属性は、個々のゲル粒子内及び/又は懸濁化極性液体(類)全体に封入された1種以上の生物活性物質を含むことができることである。こうした粘性ゲル材料は、必要に応じて、その周囲の組織領域内への薬物透過性エンベロープ体を介したこれらの活性薬剤の送達を制御することができよう。このことは、埋め込み手術を受けて抗生物質、抗菌剤又は他の化合物を用い局所感染を治療すること、及び抗拒絶医薬品を送達することの実現性に特に有利である。
【0152】
多くの要因が本発明の粘性形状適合性ゲルの化学的及び物理的特性に影響する。その1つは、個々のヒドロゲル粒子を形成するのに用いられるポリマーの分子量である。低分子量ポリマーからなるヒドロゲル粒子は同じ濃度の高分子量ポリマーに比し、粘性ゲルを形成せず、こうした粒子は生理環境に曝されても凝集しないのが一般的であることが分かっている。従って、本発明では高分子量ポリマーを用いる。架橋剤を用いると低分子量ポリマーに関連する問題の一部を改善することができるが、架橋剤を過剰に用いるのは有害であると考えられる。ヒドロゲル粒子が大量の架橋剤を含有する場合、及び/又は架橋剤が高度に疎水性である場合、得られるポリマー網目では液体の最適な吸収が可能でなくなり、余り望ましくない粘性ゲルが生じると考えられるので、本発明のゲル粒子を構成するポリマーの分子量は約15,000〜約2,000,000Da又は約20,000〜約1,500,000Da又は約25,000〜約1,000,000Daの範囲である。これは、適切な市販モノマーを選択することによって、又は目的とする分子量範囲のポリマーが得られる重合系を用いることによって、又は重合系に架橋剤を含ませて短いポリマー鎖を結合させ、目的とする分子量範囲を得ることによって達成することができる。
【0153】
また、粒子の大きさも粘性ゲルの特性に影響する。ゲル粒子は、一般に小さいほど液体を容易に吸収し、哺乳動物組織再建用インプラントとして適した好ましい粘性形状適合性ゲルをもたらすことが明らかにされている。この場合も平均直径によって特性化される大きさが約1〜約1,000nm又は約10〜約800nm又は約50〜約600nmの範囲にあるゲル粒子を用いることができる。別の態様については上記した。
【0154】
架橋剤を用いる場合、その化学組成及び使用量、即ち、得られる架橋密度が先に説明したような粒子の特性に影響し、その結果、形成される粘性ゲルの特性に影響を与えることになる。本発明のゲル粒子を調製するのに用いる架橋剤の量は、モノマーの約0.001〜約10又は約0.1〜約2モルパーセントの範囲である。
【0155】
懸濁物体の分子量及び化学組成並びに用いる界面活性剤の量及び種類も得られる粘性形状適合性ゲルに影響することになる。何故なら、多量の液体が上記粒子によって吸収され、これはこれらのゲル粒子がそれぞれの極性液体(類)中でどれだけ膨潤するかの関数であり、これが流動性に影響するからである。この膨潤は、低分子量の極性液体類中では、高分子量の同様な液体中での少ない膨潤に比し、かなりの程度まで生じる。例えば、これまでに記したように、水は、上記の重合系及び懸濁系のいずれにも用いることができる。上記粘性形状適合性ゲル中のデオキシコール酸は本明細書に記載した材料及び方法に用いることができる具体的な界面活性剤である。好適な界面活性剤の例としては、Tween80、ドデシル硫酸ナトリウム及びジオクチルコハク酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この医学的に安全な界面活性剤が膨潤ゲル粒子を高濃度で安定な状態に維持することによって粘性ゲルを自己会合させることなく生じさせることが可能となる。こうした粘性ゲル懸濁物には他の医薬用として許容可能な界面活性剤を用いることができ、種々の界面活性剤も、モノマーを重合して本発明の粘性形状適合性ゲルを構成するゲル粒子を作製する際に用いるのに適している。
【0156】
懸濁系におけるゲル粒子の濃度は、上記粘性形状適合性ゲルの特性に影響を及ぼす。これは、主に、高濃度では流動特性が低下して粒子が粒子集合体に合体しやすく、その分散が固体塊に自己会合を生じることなく粘弾性材料の分散に似てくるので粘度が大幅に増大するという事実によるものである。
【0157】
こうした粘性形状適合性ゲルに懸濁させた特定濃度のゲル粒子を維持して自己会合を防止するのに必要な界面活性剤の量には適切な量があることも当業者には明らかである。使用する界面活性剤の化学組成及び量は本発明のこうした粘性形状適合性ゲルの物理的及び化学的特性に影響を及ぼす。前述のように、上記液体(類)中に存在する界面活性剤の量は約0.01〜約0.10重量パーセントの範囲である。こうした濃度は使用する具体的な界面活性剤並びにこの粘性ゲルを作製するのに使用するゲル粒子及び極性溶媒(類)の種類及び量によって異なり得る。
【0158】
言うまでもなく、上述の各種パラメータは相互依存の関係にある。例えば、こうした粘性ゲルの物理的特性は、使用する界面活性剤及び極性液体(類)の所与の濃度及び種類における懸濁物に用いられるゲル粒子の濃度、種類及び粒径に直接相応する。高濃度で界面活性剤存在下の水に懸濁したゲル粒子が小さいと、低濃度のゲル粒子を用いた場合よりも粘弾性が高いゲルが得られる。懸濁させるゲル粒子が大きいと、粘性のゲルは得られるが、固体塊として自己会合する確率が高くなる。また、メタクリル酸ポリ−2−ヒドロキシエチルからなるゲル粒子を含む粘性形状適合性ゲルは、メタクリル酸ポリ−2−ヒドロキシプロピルからなるゲルとは異なる挙動を示す。ゲル粒子の濃度が同じで、用いる界面活性剤及び極性液体の濃度及び種類が同じであると、ポリ−HEMAゲルはポリ−HPMAからなるゲルよりも柔らかい。両種のポリマーゲル粒子の混合物では、両者の間ぐらいの特性が得られる。また、HEMA及びHPMAから構成されるコポリマーのゲル粒子も異なる挙動を示す。これは本発明の別の重要な特徴、即ち、「粘弾性」を調整して種々の哺乳動物組織をシミュレートするのに用いることができる各種粘性形状適合性ゲルを提供することができることである。本出願者らが知っている限りでは、他の市販のインプラントでこのような選択をもたらすことができるものはない。
【0159】
本発明の一実施態様において、界面活性剤を含有する水中で非イオン性モノマーを重合することりよりヒドロゲル粒子を作製する。得られるヒドロゲル粒子の懸濁物は、未反応モノマー及び他の不純物を除去するために処理する。このゲル粒子の懸濁物を噴霧乾燥又は凍結乾燥して粒子を単離し、この乾燥ゲル粒子を、デオキシコール酸を含有する水において1,000mg/mL湿重量にほぼ等しい濃度で水に再懸濁する。
【0160】
次いで、哺乳動物組織の再建のための医用補綴物を調製するのに用いる特定の大きさ及び形状の医療上許容可能なエンベロープ体中にこの粘性ゲルを移す。
【0161】
本発明の一実施態様において、高濃度の水和ヒドロゲル粒子の水性懸濁物に生物活性作用物質を溶解又は再懸濁し、哺乳動物組織再建用インプラント剤として用いる医療上許容された半透過性シェル材にこの粘性ゲルを入れる。埋め込み後、この生物活性作用物質は、インプラントから、制御された速度で、薬物透過性エンベロープを通って周囲の組織中に移動して、例えば、感染及びこのデバイスの生体拒絶を治療することになる。
【0162】
本発明の別の実施態様は、重合の前に重合系に生物活性作用物質を溶解又は懸濁するものである。重合反応が進行し、ヒドロゲル粒子が形成されるにつれて、この生物活性作用物質を含有する液体が形成されつつある粒子によって封入される。次いで、得られた粒子を処理して過剰のモノマー及び界面活性剤を除去する時に、封入されなかった生物活性作用物質を除去する。次に、生物活性作用物質含有粒子の懸濁物を単離、乾燥し、この封入された生物活性作用物質を含有するゲル粒子を界面活性剤含有水に高濃度で再懸濁させて粘性ゲルインプラント剤を作製する。
【0163】
上記方法の組合せは本発明の実施態様である。1種の生物活性作用物質を重合時にゲル粒子内に封入することができ、封入薬物を含む乾燥ゲル粒子を高濃度で再懸濁して上記ゲルインプラント剤を作製する時に、別種又は同一の生物活性作用物質を懸濁化メジウム中に存在させることができる。この方法は、活性物質のほぼ「ゼロ次放出」を得るために活性物質のバースト放出を緩和するか、同一又は異なる適応症の治療のために2種の活性物質を放出させることが望ましい場合に最も実行可能であるとも考えられる。
【0164】
本発明のゲル粒子により封入させることができる作用物質の種類及び量は種々の要因によって決まる。何よりもまず、この作用物質は、その大きさ、表面電荷、極性、立体相互作用などのため、離散的ゲル粒子の形成を妨害するはずがない。上記が問題でないことが分かれば、ヒドロゲル粒子の大きさは、取り込まれ得る物質の量に最も直接的に影響を及ぼすことになる。上記粒子自体の大きさは、封入され得る作用物質の最大量を決定することになる。個々の抗生物質分子などの比較的小さな作用物質は、小さいゲル粒子に取り込ませることができるが、モノクロナール抗体、蛋白質、ペプチドその他の高分子などのかなり大きな作用物質を封入させることははるかに難しい。こうした大きな化合物の場合、ゲル粒子を高濃度で再分散させることにより粘性形状適合性ゲルを作製する時にこれを懸濁化メジウムに導入することが望ましいと考えられる。
【0165】
本明細書の方法を用いて、送達速度の厳密な制御を実現することができる。即ち、大きさ及び化学組成が異なるゲル粒子に特定の作用物質を詰め込むことができ、これらの種々の粒子の特性に応じて、この作用物質をほぼ全ての所望時間枠にわたって放出させることができる。さらに、この物質の一部はゲル粒子に封入させることができ、一部は粘性ゲルを構成する粒子間の懸濁化メジウム中に存在させてさらに大きい送達の柔軟性を得ることができる。
【0166】
従って、本発明は、具体的には、生物活性作用物質の送達に関して、最も具体的には、医薬品の送達に関して、潜在的な薬物送達プラットホームを有する極めて用途の広い生体適合性インプラント材料を提供する。哺乳動物組織再建のための生物学的に安全な粘性ゲル材料を形成することができることは、現在の最新の哺乳動物組織再建用インプラント材料と比較して全ての点で際立っている。別の利点は、偶然の破損が起こっても、有毒な液体が周囲組織へ漏れるのではなく、固体凝集塊が局部に形成されるに過ぎないようなこうした粘性ゲルのセルフシール面である。必要に応じて、その後、この生物学的に安全な材料を外科的に除去することができる。本発明の粘性形状適合性ゲルのこれらの属性は新規であり、これによって、現在の埋め込み技術に伴う問題の全てに対処するための新しいクラスの哺乳動物組織再建用インプラントが得られることになる。
【0167】
本発明の粘性形状適合性ゲルのこれら及び他の多くの用途は、本明細書の開示内容から当業者に明瞭に理解されよう。このような用途は本発明の範囲内にある。
【0168】
上記に要約した諸実施態様を任意の適切な組合せで用いることにより上記で明記していない別の実施態様をもたらすことができること、及びそのような実施態様が本発明の一部であるとみなされることは当業者には明瞭に理解されよう。
【実施例】
【0169】
1.ヒドロゲルナノ粒子の合成
ヒドロゲルナノ粒子はメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸グリセロールからのラジカル重合で合成される。こうした材料の合成に関する一般的なスキームを図1に示した。
【0170】
実験室規模バッチのナノ粒子を形成するための一般的合成法は以下の通りである:
1)ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)ナノ粒子(pHEMA nps:poly(2−hydroxyethylmethacrylate) nanoparticles)の合成
a)2リットルメジウム瓶中に各成分を秤量する。
【0171】
b)この瓶をフォイルで覆い、50℃の恒温水槽に一夜(約16時間)漬ける。
【0172】
c)水槽からメジウム瓶を取り出し、室温まで冷却する。
【0173】
d)上記ナノ粒子分散液から3mLのアリコートを2本取り出し、これらのサンプルを1時間70k rpmで超遠心してナノ粒子の湿重量を測定する。上清を傾瀉除去し、形成されたままのナノ粒子凝集体を秤量し、単位容量当たりの湿重量(mg/mL分散液)を求める。これによりナノ粒子収量の推定値が得られる。
【0174】
e)上記分散液の数滴を取り出し、実験データ分析用Malvern NanoZS装置を用いてナノ粒子径、粒径の範囲、多分散性及びゼータ電位(表面電荷)を測定する。
【0175】
f)TFF(0.01重量%デオキシコール酸ナトリウム(DOC)溶液のTFF補給水を用いてSDSを置換しながら、残存モノマー、塩及びSDSを除去する。10リットルのMilliQ水に対して1gのDOC)によってナノ粒子分散液を精製する。この方法によってゼータ電位(ZP)は適切な水準、即ち、−35mV≧ZP nps≧−25mVに維持され、ナノ粒子は分散液として安定化され、望ましくないナノ集合体形成及びナノ粒子凝集は防止される。このナノ粒子分散液を1,000,000分子量遮断フィルタにポンプを用いて通し、ナノ粒子分散液リザーバを連続流動方式で0.005重量%DOC TFF補給液により2リットルに維持しながら、2リットル容量の透過液を7本収集する。
【0176】
g)液体窒素浴中で上記分散液を凍結させ、これを凍結乾燥する。
【0177】
h)凍結乾燥粉末を単離し、タール塗りの(tarred)プラスチック瓶にこれを移して貯蔵した。
【0178】
ナノ粒子の粒径は凍結乾燥時に変化する。凍結乾燥ナノ粒子は水又は適切な極性溶媒に再分散させることができる。
【0179】
下記の表1に、水中40mg/mLの湿重量(約10mg/mL乾燥ポリマー重量)で合成し、同じ濃度で再分散した種々のヒドロゲルポリマー及びコポリマーのナノ粒子の凍結乾燥前後の粒径の変化を示した。
【0180】
【表1】
【0181】
次の諸具体例はいく種かのヒドロゲルナノ粒子の合成を説明するものである。
【0182】
2.架橋型ポリ−メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル(pHPMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた150mLメジウム瓶にメタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)モノマー2.532g(17.5ミリモル)、ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDM)架橋剤52.73mg(0.266ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)107.6mg(0.3730ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O118mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は21.3nm、粒径範囲は14nm〜41nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で2年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。次いで、この懸濁物は前述のようにしてさらに処理する。
【0183】
3.HPMAとメタクリル酸(MAA)とのコポリマー、ポリ(HPMA−co−MAA)からなる架橋型ナノ粒子の調製
HPMAモノマー及びメタクリル酸を用い、パラグラフ3に記載の合成方法によりヒドロゲルナノ粒子を作製した。表2に150mLメジウム瓶に添加したモノマーの相対質量及びミリモルを示した。
【0184】
【表2】
【0185】
次に、各メジウム瓶に52.73mg(0.266ミリモル)のEGDM、107.6mg(0.3730ミリモル)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び118mLの窒素脱気ミリQH2Oを入れた。これらの瓶に蓋をして、室温で30分間攪拌した。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、表3に平均粒径及び粒径範囲を示した。
【0186】
【表3】
【0187】
4.架橋型ポリ−メタクリル酸グリセロール(pGMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた2,000mLメジウム瓶にメタクリル酸グリセロール(GMA)モノマー53.6g(335.05ミリモル)、EGDM架橋剤80mg(0.404ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)20.4g(7.09ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O2,000mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて1.44g(6.31ミリモル)の(NH4)2S2O8を20mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は156.5nm、公称ピーク幅は49.37nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で1.5年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。超遠心後、得られた凝集体は84.5%の水を含有していた。次いで、この粉末をさらに、前述のようにして処理する。
【0188】
5.HEMAとGMAとのコポリマー(ポリ(HEMA−co−GMA))からなる架橋型ナノ粒子の調製
HEMAモノマー及びメタクリル酸グリセロールモノマーを用い、パラグラフ6の合成方法によりナノ粒子を作製した。表4に2,000mLメジウム瓶に添加したモノマーの相対質量及びミリモルを示した。
【0189】
【表4】
【0190】
次に、各メジウム瓶に80mg(0.404ミリモル)のEGDM架橋剤、20.4g(7.09ミリモル)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び2,000mLの窒素脱気ミリQH2Oを入れた。これらの瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。2つの別々のバイアルにおいて、1.44g(6.31ミリモル)の(NH4)2S2O8を20mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら2,000mLのメジウム瓶に添加した。これらの澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、表5に平均粒径及び粒径範囲を示した。
【0191】
【表5】
【0192】
現在に至るまで、このポリ−co−HPMA:GMAナノ粒子懸濁物は、室温で6ヶ月以上にわたって、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。さらに、この懸濁物は、超遠心にかけたとき、弾性形状維持性凝集体を形成した。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0193】
6.架橋型ポリ(メタクリル酸)(pMAA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた150mLメジウム瓶にメタクリル酸(MAA)モノマー1.505g(17.5ミリモル)、ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDM)架橋剤52.73mg(0.266ミリモル)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)107.6mg(0.3730ミリモル)及び窒素脱気ミリQH2O118mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて83mgのK2S2O8を2mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を40℃の水浴に移し、12時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は21.3nm、粒径範囲は14nm〜41nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で2年間、耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ−メタクリル酸ナノ粒子の0.4%(w/w)懸濁物20ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0194】
7.ポリ(メタクリル酸2−メトキシエチル)(pMEMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸メトキシエチル(MEMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は52.4nm、粒径範囲は12nm〜103nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ(メタクリル酸2−メトキシエチル)ナノ粒子の2.1%(w/w)懸濁物5ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0195】
8.ポリ(メタクリル酸グリシジル)(pGCMA)ナノ粒子の調製
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸グリシジル(GCMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られたヒドロゲルナノ粒子懸濁物の色はオパール青であった。この粒子をレーザ光散乱により分析し、その平均粒径は65.2nm、粒径範囲は17nm〜101nmであることが分かった。この懸濁物は質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。現在に至るまで、このヒドロゲルナノ粒子懸濁物は、室温で耐フロキュレーション性又は耐凝集性を示した。また、ポリ(メタクリル酸グリシジル)ナノ粒子の2.1%(w/w)懸濁物5ミリリットルを100,000rpmで超遠心した後に固体の形状維持性プラグが得られた。次いで、この懸濁物を本明細書に記載したようにして、さらに処理する。
【0196】
9.ポリ(メタクリル酸2−スルホエチル)(pSEMA)作製の試み
攪拌棒を備えた250mLメジウム瓶にメタクリル酸2−スルホエチル(SEMA)モノマー4.2g、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)300mg及びミリQH2O200mLを入れた。この瓶を閉めて攪拌することにより澄明な液を形成させた。別のバイアルにおいて141mgのK2S2O8を5mLのミリQH2Oに溶かし、攪拌しながら上記メジウム瓶に添加した。この澄明な液の入ったメジウム瓶を50℃の水浴に移し、16時間一定温度に保った。得られた混液は他の懸濁物の特徴的なオパール青色を生じなかった。レーザ光散乱では、上記の波長で光を散乱することができる粒子は皆無かそれに近かった。この懸濁物は、塩化ナトリウム溶液で沈殿させた時、質量で約2.1%の固体ポリマーを含有した。遠心は行わなかった。
【0197】
10.粘性形状適合性ゲルの形成
粘性形状適合性ゲルは、脱水ヒドロゲルナノ粒子粉末を水に分散することによって形成させる。代表的なゲル形成法を以下に説明する:
1) 粘性形状適合性ゲルの形成
a.2mLの0.02重量%デオキシコール酸中100mgの凍結乾燥pHEMAナノ粒子粉末を水に分散させる。
【0198】
b.この懸濁物を約8時間室温で放置する。
【0199】
図2に、ナノ粒子、形成された形状適合性ゲル及び生理食塩水に曝されて形状維持性凝集体を形成したゲルのイメージを示した。
【0200】
11. 粘性形状適合性ゲルの物理的性質
凍結乾燥ヒドロゲルナノ粒子粉末中のナノ粒子の化学的組成は粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を及ぼし得る。
【0201】
表6に、0.02重量%デオキシコール酸中種々のナノ粒子(ホモポリマー、コポリマー及びホモポリマーの混合物)50mg/mL(乾燥ポリマー重量)を水に分散させたものからなるゲルの相対粘度を示した。
【0202】
【表6】
【0203】
粘性形状適合性ゲル中のナノ粒子の粒径は、粒子濃度が増加するにつれて増加する。図3に、ゲル中の粒子濃度が水中10mg/mLから(集合体形成を示す)200mg/mL(乾燥重量)へ増加することに伴うナノ粒子の径の変化を示した。
【0204】
図3から明らかなように、ゲル中のナノ粒子の径は濃度が増加するにつれて増加する。ナノ粒子の径は最初の40〜50nmから水中200mg/mLの濃度の約250nmまで増加する。
【0205】
ゲル中のナノ粒子の濃度が増加するにつれて、このゲルの物理的性質は変化し、粘度は増大する。図4に、水懸濁物中のpHEMAナノ粒子(乾燥質量)の濃度が増加することに伴う形状変化ゲルとして生じる粘度の増加を示した。
【0206】
上記のグラフにおいて、粘度は、150mg/mL乾燥ポリマー質量で約35cPまでほぼ直線的に増加した後、0.02重量%デオキシコール酸水溶液中のpHEMAナノ粒子の分散性の限界に近い200mg/mL乾燥ポリマー質量で頭打ちになる。ゲル中のpHEMAポリマーの濃度が50mg/mLを超えて増加するにつれ、ゲルのせん断粘度は連続力下時間と共に増加した。
【0207】
図5に、50mg/mL以上のポリマー濃度を有するゲルにおける粘度の経時変化を示した。図5のデータから、ゲルの粘度はせん断下10分間で40〜50cPの最大値まで増加することが分かる。
【0208】
12.ナノ粒子の組成及び物理的性質の変化を利用した形状適合性ゲルの弾性の制御
凍結乾燥ヒドロゲルナノ粒子粉末のナノ粒子の化学組成は、表7に示したように、得られる粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を及ぼし得る。化学組成を変える時、一定の重りがゲルの特定の嵩、容量及び形状に影響を与える距離を測定することにより相対的弾性を定性的に測定することができる。この実験のために、直径2cmのメスシリンダーを、高さ3.4cmの粘弾性ゲルカラムを含む5mLの容量まで充填した。重りがシリンダーの側面に触れないように10gの重りをゲルの表面に注意深く載せ、この系を5分間静止させた後、重りが表面にめり込んだ距離を測定した。測定は5回実施し、その平均値を下記の表に記載した。全ての場合において、重りを取り除いた後には、ゲルは元の形状にまで緩和した。
【0209】
【表7】
【0210】
上記のデータから、化学組成を変えることによりゲルの相対弾性率に影響を与えることができることが分かる。HPMAのような比較的親水性の低いモノマーを多く添加するほど、又はpHPMAポリマーナノ粒子を多く添加するほど、ゲルは変形に対してより抵抗性になる。GMAのような比較的親水性の高いモノマーを添加する場合には、ゲルはより柔らかく、かつ、変形しやすくなる。
【0211】
13.粘弾性物理的性質に及ぼすゲル中の粒子濃度の影響
ナノ粒子の濃度は粘性形状適合性ゲルの物理的性質に影響を与え得る。ナノ粒子濃度を変える時、一定の重りがゲルの特定の嵩、容量及び形状に影響を与える距離を測定することにより相対的弾性を定性的に測定することができる。この実験のために、直径2cmのメスシリンダーを、種々の量の懸濁ナノ粒子で構成されるいく種かの粘性ゲルを用いて5mLの容量まで充填した。このメスシリンダー内に含まれる得られたゲルは3.4cmの高さを示した。重りがシリンダーの側面に触れないように10gの重りをゲルの表面に注意深く載せ、この系が平衡に達した後5分後にゲル表面中への重りの貫入距離を測定した。測定は5回実施し、その平均値を下記の表に記載した。全ての場合において、重りを取り除いた後には、ゲルは元の形状にまで緩和した。
【0212】
図6に、ポリマー濃度の増加に伴うpHEMAナノ粒子で構成されるゲルの相対的めり込み距離を示した。濃度が増加するにつれて、このナノ粒子径の範囲120nmでめり込みの相対的距離は減少する。
【0213】
14.凝集速度に対する粒子組成の影響
ナノ粒子の組成は、生理的イオン強度及びpHの溶液に曝した時の粘性形状適合性ゲルの凝集の程度及び速度に影響を及ぼし得る。高イオン強度の溶液のような粒子の膨潤速度が低い溶液に粒子を注入すると、ヒドロゲル粒子凝集体が形成される。凝集体の形成速度は、これを生理的イオン強度及びpHに曝した後の時間に対するゲルの水塊の減少量を測定することによって定量することができる。代表的な実験では、50mg/mLの濃度のpHEMA又はpHPMAナノ粒子の粘性ゲル懸濁物5gを100mLのPBS中に添加した。得られる凝集体は形成されるがままにし、定期的に秤量してPBS溶液に戻した。その質量は、崩壊している状態の凝集体を構成する粒子内又は粒子間の水の量を示す遠心した湿ポリマー質量の百分率として記載した。図7に、最初の注入から凝集体が定常状態質量に達した時点までの時間に対する凝集率のグラフを示した。このグラフから、pHEMA粒子から構成されるゲルは、pHPMAナノ粒子から構成される対応するゲルよりも凝集速度が遅く、高い水組成で定常状態凝集体質量に達することが分かる。
【0214】
15.めり込みに対するゲル組成の影響
種々の密度及び化学組成の粉末を合成、精製して凍結乾燥した。化学組成は以下の通りとした:
A.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の純pHEMA
B.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の90:10重量:重量比のpHEMA:pHPMA
C.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有の85:15重量:重量比のpHEMA:pHPMA
上記ポリマーの検討から、ナノ粒子粉末を用いて形成させたゲルの相対弾性率はナノ粒子粉末の組成を変化させることによって変えることができることが分かる。凝集することなく形状充填ゲルとして懸濁される所与の濃度のポリマーナノ粒子の場合、得られるゲルの弾性率はpHPMAナノ粒子の組成百分率が増加するにつれて増大する。ゲルについて真の弾性率は測定しなかったが、特定のゲル容量の静止シリンダー中で嵩のたわみを測定した。単離架橋シリコーン乳房埋め込み充填材と同様に、シリコーン油を比較した。ゲルには水中ポリマーの12%重量:容量懸濁物を含有させたのに対し、上記シリコーンエラストマーはインプラントから単離したものを検討した。10mLの各ゲルを30mmの一定直径を有するシリンダー内に閉じ込めた。シリンダー内のゲルの表面に外径29mmのカップを載せ、このカップの質量を水の添加又はその減量によって変化させた。この水はゲルと接触させなかった。
【0215】
図8にめり込み実験の結果を示した。グラフでは、ゲルは全て、圧縮及びシリンダーの容量制限の組合せのためと思われる非線形のたわみを示している。このデータから正確な弾性率を引き出すことは困難であるが、これらの測定値から、混合物中のpHPMAナノ粒子百分率を増大させると、たわみの量が減少することが分かる。全ての場合において、その表面から質量を取り除くと直ちに緩和が起こった。ゲルに関して緩和の時間成分を評価することができることが望まれたが、この実験では緩和と関連付けられるフィードバックループがなかったので、タウの値を正確に測定することができなかった。定性的な観察から、こうしたゲルの弾性率は混合物中のpHPMAの組成百分率を増加させるにつれて増大することが分かる。定性弾性率の増大は、メタクリル酸ヒドロキシプロピルポリマーがメタクリル酸ヒドロキシエチルとの比較で有するより高い疎水性の構成要素であると思われる。
【0216】
16.種々の濃度におけるナノ粒子懸濁物の弾性率に対する影響
以下の検討から、ゲル中のナノ粒子ポリマー粉末の重量パーセントを変えることにより、得られるゲルの弾性率に影響を与えることができることが分かる。化学組成は以下の通りである:
A.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有純pHEMA
B.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有、90:10重量:重量比のpHEMA:pHPMA
C.0.01重量パーセントデオキシコール酸ナトリウム塩含有、85:15重量:重量比のpHEMA:pHPMA
水中ポリマーの8、10、12.5及び15%(重量:容量)懸濁物を用いてゲルを作製する一方、インプラントから単離したシリコーンエラストマーについて検討した。30mmの一定直径を有するシリンダー内に各ゲル10mLを閉じ込めた。シリンダー内のゲルの表面に外径29mmのカップを載せ、このカップの質量を水の添加又はその減量によって変化させた。この水はゲルと接触させなかった。図9に、水中に種々の重量パーセントのゲルを含有する所与の組成物のゲルのたわみを示した。対照としてシリコーンエラストマーを各グラフに示した。このデータから、シリコーンエラストマーゲル弾性率は90:10 pHEMA:pHPMAから構成される15%重量/容量ゲル又は85:15 pHEMA:pHPMAから構成される12%重量/容量ゲルを用いて最も良く代表されていることが分かる。
【0217】
17.ゲルによるシェルの充填及びシェルの破損
容積200mLのシリコーンエラストマーシェルを入手した。水に10%のpHEMAナノ粒子ゲル粉末を混合した混液200mLをこのシェルに添加し、シェルを密閉した。このゲルは30日間にわたって物理的性質の変化を示さなかった。30日後、生理食塩水中でこのゲルを破損させ、そこに放出されたゲルは、10分間かけて固体の形状維持性凝集体を形成した。
【0218】
18.ゲルによるシェルの充填及び動物モデルにおけるシェルの破損
容積100mLのシリコーンエラストマーシェルを入手した。0.01%メタクリル酸ローダミン含有10% pHEMAを含有するポリマーナノ粒子ゲル粉末を混合した混液100mLをシェルに添加した。このシェルを雌性ニュージーランドホワイト(New Zealand White)ウサギに埋め込み、破損させた。このウサギを屠殺して凝集体を調べた。この凝集体は移動した形跡を示さず、肺、肝、脾及びリンパ組織には粒子は認められなかった。凝集体質量の減少も認められなかった。図10に全体的な外科的露出後の完全な状態の凝集体を示した。
【0219】
19.形状適合性ゲルを充填したシリコーンエラストマーシェル
シリコーンエラストマーから構成されるシェルに形状適合性ゲルを充填した。ゲルはpHEMAナノ粒子をクエン酸−トレハロース緩衝液に分散させて形成されている。このゲルは質量で10%のヒドロゲルナノ粒子を含有した。このゲルを、500mLの注射器を用い、ポリエチレンチューブを介して注入した。シェル内に懸濁物を保持させるためにシリコーンエラストマーシェルバルブを用いたが、ゲルはこのバルブから注入した。図11にヒドロゲルナノ粒子形状適合性ゲルを充填した2つのシリコーンエラストマーシェルを示した。右側のシェルは成形したシリコーンエラストマーシェルであり、左側のシェルは通常の丸いシリコーンエラストマーシェルである。いずれの場合も、形状適合性ゲルはエラストマーの形状をとった。
【0220】
20.シェル内への粉末充填後の水和による粘弾性ゲルの形成
代表的な大型シリコーンインプラントの埋め込みに対して明らかな利点を有する現場充填式(fill in place)インプラントを開発するために実験を行った。1つの大きな利点は埋め込みに必要な外科的切開の大きさが減じることであり、さらに、インプラントを所望の容量まで充填することにより所望の物理的性質を有するインプラントを形成させて脂肪組織を模倣させることができることである。
【0221】
シェルパッチ(shell patch)に小さな穴を形成し、ファンネル(funnel)でその穴を広げることによりシェルに粉末を充填して8%及び15%ゲルを形成した。必要な質量の粉末を秤量し、ファンネルを介してインプラント中に注入した。ファンネルは注意深く取り外した。最初のゲル形成実験のために上記の穴を小さなプラスチック栓で密閉した。最高の充填容量で粉末を取り込ませると、ロールアップ(roll up)直径は0.85インチとなった。図12の右側に示した充填された300mLシリコーンインプラントのロール径は3インチである。
【0222】
乳房インプラントシェルを用いた最初の試験では、提案したような300mLのシェルのための320mLの最終充填容量についての計算を用いた。凍結乾燥によりナノ粒子を単離した後のナノ粒子粉末の代表的な嵩密度は約0.22g/mLである。その後このヒドロゲルナノ粒子粉末を粉砕し篩にかけることによって種々の粉末組成物について嵩密度を0.8g/mLまで増加させることが可能となった。より高い密度の粉末に関しては、粉末の総容量は、シリコーン油のような材料の粘度を模倣する8%重量/容量であるナノ粒子ゲルの場合32mLの低容量及び架橋シリコーンゲル材料の粘度をシミュレートする15%重量/容量であるナノ粒子ゲルの場合60mLまで低下させることが可能である。
【0223】
特定の実施態様及び実施例を説明してきたが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく種々の修正及び変更を行い得ることは、当業者によって認められよう。
【0224】
例えば、本発明は粘性形状適合性ゲルの形成方法及びその薬用又は非薬用哺乳動物用インプラントとしての使用に関するものであると理解されたい。この方法は、形成される粘性形状適合性ゲルの物理的特性に影響を及ぼし得る広範囲の要素の相互作用を伴う。本明細書で特に検討した要素の他に、他のそのような要素についても当業者であれば、本明細書の開示内容から明瞭に理解することができよう。こうした諸要素を変化させたそのような別の諸要素及びこれらの組合せの適用は全て本発明の範囲内にある。
【0225】
同様に、本発明の方法は広範囲の用途を有すると考えられる。一部の用途については前述したが、他の用途についても当業者であれば、本明細書の開示内容から明瞭に理解されよう。粘性形状適合性ゲルを形成させるために本発明の方法を必要とする全てのそのような用途は本発明の範囲内にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成する方法であって、
平均直径が1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む有効量の乾燥粉末を分散させる工程を含み、ここで該ゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び該複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含み、それによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、該粒子は該懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮される、方法。
【請求項2】
少なくとも1種のモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー(類)がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はこれらの組合せである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種のモノマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが唯1つのモノマー型の重合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記1つのモノマー型がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルの重合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルのホモポリマーの重合および種々の率の混合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ゲル粒子がほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ゲル粒子が異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ゲル粒子が1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記懸濁系の複数のゲル粒子が集合体形成をもたらす5〜20%の範囲の濃度にある、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤の有効量が約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ゲル粒子の平均直径が約10〜約1,000ナノメートルである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ゲル粒子の平均直径が約40〜約800ナノメートルである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ゲル粒子が前記懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー鎖が約15,000〜約2,000,000の平均分子量を有する、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記複数のポリマー鎖が
i)2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される1種のモノマー又は2種以上のモノマー及び極性液体又は極性液体類の混合物を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程であって、該極性液体又は該2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含む、工程、
ii)該モノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程、及び
iii)該ゲル粒子を単離する工程
を含むプロセスによって得られる、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記液体類が水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記液体類が水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記液体が水である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記重合系に約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を添加する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記架橋剤がジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記方法の工程i)が
重合の前又は前記液体(類)に前記ゲル粒子を再分散させた後に、前記重合系の前記極性液体(類)に有効封入量の1種以上の医薬として有効な薬剤を添加する工程
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記有効量の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子が約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
i)平均直径が1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む有効量の乾燥粉末を分散させる工程であって、該ゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び該複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含み、これによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、該粒子は該懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮される、工程、
ii)1種以上の第1の医薬として有効な薬剤(類)を第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体をもたらすのに有効な量で該重合系に添加し、重合後、該第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の一部は該ゲル粒子によって封入される工程、
iii)該医薬として有効な薬剤(類)を含有する該ゲル粒子を単離する工程、
iv)該極性液体(類)に該ゲル粒子を再分散させる工程、及び
v)該懸濁物に1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得る工程であって、該第1の医薬として有効な薬剤(類)は該第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、該第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の該液体は該第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の該液体と同じであっても異なってもよい、工程
を含む、方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載の方法によって調製される粘性形状適合性ゲル。
【請求項28】
少なくとも1種の極性液体に懸濁された重量(乾燥)で約1%〜約50%の複数のポリマーナノ粒子を含む粘性形状適合性ゲルであって、該ナノ粒子は該少なくとも1種の極性液体中で約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度にあるものとする粘性形状適合性ゲル。
【請求項29】
前記複数のナノポリマー粒子が、平均直径が約1,000ナノメートル未満であり、少なくとも1種が極性である有効量の液体又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の有効量の混合物及び前記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖から構成される、請求項28に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項30】
少なくとも1種のモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである、請求項28に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項31】
前記モノマー(類)がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はこれらの組合せである、請求項28又は29に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項32】
少なくとも1種のモノマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項28又は29に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項33】
前記ポリマーが唯1つのモノマー型の重合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項34】
前記1つのモノマー型がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項35】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルの重合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項36】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルのホモポリマーの重合および種々の率の混合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項37】
前記ゲル粒子がほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項38】
前記ゲル粒子が異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項39】
前記ゲル粒子が1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項40】
前記懸濁系の複数のゲル粒子が集合体形成をもたらす5〜20%の範囲の濃度にある、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項41】
前記界面活性剤の有効量が約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである、請求項28〜40のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項42】
前記ゲル粒子の平均直径が約10〜約1,000ナノメートルである、請求項28〜41のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項43】
前記ゲル粒子の平均直径が約40〜約800ナノメートルである、請求項28〜41のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項44】
前記ゲル粒子が前記懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある、請求項28〜43のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項45】
前記ポリマー鎖が約15,000〜約2,000,000の平均分子量を有する、請求項28〜44のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項46】
前記液体類が水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される、請求項28〜45のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項47】
前記液体が水である、請求項46に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項48】
医薬として有効な薬剤をさらに含む、請求項28〜47のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項49】
前記医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子が約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入する、請求項48に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項50】
請求項28〜49及び請求項27のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲルを含む医用補綴物。
【請求項51】
請求項50の医用補綴物をこれを必要とする患者において埋め込むことを含む哺乳動物組織の再建方法。
【請求項52】
哺乳動物組織再建に適した形状の請求項50の粘性形状適合性ゲルを含む哺乳動物組織再建用インプラント。
【請求項1】
ゲル粒子の粘性形状適合性懸濁物を形成する方法であって、
平均直径が1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む有効量の乾燥粉末を分散させる工程を含み、ここで該ゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び該複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含み、それによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、該粒子は該懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮される、方法。
【請求項2】
少なくとも1種のモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー(類)がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はこれらの組合せである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種のモノマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが唯1つのモノマー型の重合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記1つのモノマー型がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルの重合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルのホモポリマーの重合および種々の率の混合によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ゲル粒子がほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ゲル粒子が異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ゲル粒子が1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記懸濁系の複数のゲル粒子が集合体形成をもたらす5〜20%の範囲の濃度にある、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤の有効量が約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ゲル粒子の平均直径が約10〜約1,000ナノメートルである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ゲル粒子の平均直径が約40〜約800ナノメートルである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ゲル粒子が前記懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー鎖が約15,000〜約2,000,000の平均分子量を有する、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記複数のポリマー鎖が
i)2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される1種のモノマー又は2種以上のモノマー及び極性液体又は極性液体類の混合物を含む重合系に約0.01〜約10モルパーセントの界面活性剤を添加する工程であって、該極性液体又は該2種以上の極性液体の少なくとも1種は1個以上のヒドロキシ基を含む、工程、
ii)該モノマー(類)を重合して各粒子が複数のポリマー鎖を含む複数のゲル粒子を形成させる工程、及び
iii)該ゲル粒子を単離する工程
を含むプロセスによって得られる、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記液体類が水、(2C〜7C)アルコール、(3C〜8C)ポリオール及びヒドロキシ末端ポリエチレンオキシドからなる群より選択される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記液体類が水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記液体が水である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記重合系に約0.1〜約15%モルパーセントの架橋剤を添加する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記架橋剤がジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ジヒドロキシブタン、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸ジプロピレングリコール、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、酒石酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、酒石酸ジビニル、トリアリルメラミン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、マレイン酸ジアリル、ジビニルエーテル、クエン酸1,3−ジアリル2−(2−ヒドロキシエチル)、クエン酸ビニルアリル、マレイン酸アリルビニル、イタコン酸ジアリル、イタコン酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、ジビニルスルホン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアリルトリアジン、亜リン酸トリアリル、ベンゼンホスホン酸ジアリル、アコニット酸トリアリル、シトラコン酸ジビニル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン及びフマル酸ジアリルからなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記方法の工程i)が
重合の前又は前記液体(類)に前記ゲル粒子を再分散させた後に、前記重合系の前記極性液体(類)に有効封入量の1種以上の医薬として有効な薬剤を添加する工程
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記有効量の医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子が約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
i)平均直径が1マイクロメートル未満の複数のゲル粒子を含む有効量の乾燥粉末を分散させる工程であって、該ゲル粒子は、極性液体、又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の混合物及び該複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルからなる群より選択される有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖を含み、これによってゲル粒子の懸濁物を形成させ、該粒子は該懸濁系において約300〜約1,200mg湿重量/mLに濃縮される、工程、
ii)1種以上の第1の医薬として有効な薬剤(類)を第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体をもたらすのに有効な量で該重合系に添加し、重合後、該第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の一部は該ゲル粒子によって封入される工程、
iii)該医薬として有効な薬剤(類)を含有する該ゲル粒子を単離する工程、
iv)該極性液体(類)に該ゲル粒子を再分散させる工程、及び
v)該懸濁物に1種以上の第2の医薬として有効な薬剤(類)を添加して第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体を得る工程であって、該第1の医薬として有効な薬剤(類)は該第2の医薬として有効な薬剤(類)と同じであっても異なってもよく、該第1の医薬として有効な薬剤を含有する液体の該液体は該第2の医薬として有効な薬剤を含有する液体の該液体と同じであっても異なってもよい、工程
を含む、方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載の方法によって調製される粘性形状適合性ゲル。
【請求項28】
少なくとも1種の極性液体に懸濁された重量(乾燥)で約1%〜約50%の複数のポリマーナノ粒子を含む粘性形状適合性ゲルであって、該ナノ粒子は該少なくとも1種の極性液体中で約300〜約1,200mg湿重量/mLの濃度にあるものとする粘性形状適合性ゲル。
【請求項29】
前記複数のナノポリマー粒子が、平均直径が約1,000ナノメートル未満であり、少なくとも1種が極性である有効量の液体又は少なくとも1種が極性である2種以上の混和性液体の有効量の混合物及び前記複数のゲル粒子を安定化するための有効量の界面活性剤中で、少なくとも1種が2−アルケン酸、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ヒドロキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸ジヒドロキシ(2C〜4C)アルキル、2−アルケン酸(1C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルコキシ(2C〜4C)アルキルもしくは2−アルケン酸ビシニルエポキシ(1C〜4C)アルキルである有効量の1種のモノマーもしくは2種以上のモノマーを重合することにより得られる有効量の複数のポリマー鎖から構成される、請求項28に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項30】
少なくとも1種のモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノアクリル酸ジエチレングリコール、モノメタクリル酸ジエチレングリコール、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、モノアクリル酸ジプロピレングリコール、モノメタクリル酸ジプロピレングリコール、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はアクリル酸グリシジルである、請求項28に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項31】
前記モノマー(類)がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル又はこれらの組合せである、請求項28又は29に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項32】
少なくとも1種のモノマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項28又は29に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項33】
前記ポリマーが唯1つのモノマー型の重合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項34】
前記1つのモノマー型がメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル又はメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項35】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルの重合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項36】
前記ポリマーがメタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2,3−ヒドロキシプロピルのホモポリマーの重合および種々の率の混合によって得られる、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項37】
前記ゲル粒子がほぼ同じ平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、かつ、多分散性が狭いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項38】
前記ゲル粒子が異なる平均直径を有し、1種以上のモノマーから形成され、多分散性が狭いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項39】
前記ゲル粒子が1種以上のモノマーから形成され、多分散性が広いものである、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項40】
前記懸濁系の複数のゲル粒子が集合体形成をもたらす5〜20%の範囲の濃度にある、請求項28〜32のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項41】
前記界面活性剤の有効量が約0.005重量パーセント〜約0.50重量パーセントである、請求項28〜40のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項42】
前記ゲル粒子の平均直径が約10〜約1,000ナノメートルである、請求項28〜41のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項43】
前記ゲル粒子の平均直径が約40〜約800ナノメートルである、請求項28〜41のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項44】
前記ゲル粒子が前記懸濁系において約500〜約900mg湿重量/mLの濃度にある、請求項28〜43のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項45】
前記ポリマー鎖が約15,000〜約2,000,000の平均分子量を有する、請求項28〜44のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項46】
前記液体類が水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール200〜600及びグリセリンからなる群より選択される、請求項28〜45のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項47】
前記液体が水である、請求項46に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項48】
医薬として有効な薬剤をさらに含む、請求項28〜47のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項49】
前記医薬として有効な薬剤を含むゲル粒子が約0.1〜約90重量パーセントの医薬として有効な薬剤を含む液体を封入する、請求項48に記載の粘性形状適合性ゲル。
【請求項50】
請求項28〜49及び請求項27のいずれかに記載の粘性形状適合性ゲルを含む医用補綴物。
【請求項51】
請求項50の医用補綴物をこれを必要とする患者において埋め込むことを含む哺乳動物組織の再建方法。
【請求項52】
哺乳動物組織再建に適した形状の請求項50の粘性形状適合性ゲルを含む哺乳動物組織再建用インプラント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−521236(P2010−521236A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553727(P2009−553727)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/056543
【国際公開番号】WO2008/112705
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507112996)ウルル インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/056543
【国際公開番号】WO2008/112705
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507112996)ウルル インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
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