説明

粘着剤の製造方法

【課題】 選択的粘着性を有し、かつ水あるいはアルコール等に溶解することができる粘着剤の製造方法の提供。
【解決手段】 炭酸エステルとポリエーテルジオールを100〜300℃で反応させる工程を有する、一般式(I)で表される構成単位を有するポリエーテルポリカーボネートからなる粘着剤の製造方法。
【化1】


〔式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基、nは平均値で5〜1000の数、pは平均値で5〜100の数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤同士は粘着するが、他のものには粘着性が低い粘着剤(選択的粘着剤)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選択的粘着剤は野菜や生花の結束用に使用されている。かかる粘着剤としては、天然ゴム、合成ゴムなどに粘着付与剤、軟化剤を配合してなるものが知られている(特許文献1、2)。また、使用の際に粘着剤が指や物品に付着するという問題等を改善する目的で、ポリカーボネート構造を持つ粘着剤が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開昭54−96539号公報
【特許文献2】特開昭56−26968号公報
【特許文献3】特開平9−235537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
公知の選択的粘着剤は、溶媒への溶解性が低く、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒やアセトン等の特定の溶媒を使用する必要があった。このため、配合や加工の際の自由度に乏しいものであった。また、取り扱いの際に粘着剤が指などに付着した場合においても、洗浄が困難であるという問題があった。
【0004】
本発明の課題は、選択的粘着性を有し、かつ水あるいはアルコール等に溶解することができる粘着剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、炭酸エステルとポリエーテルジオールを100〜300℃で反応させる工程を有する、一般式(I)で表される構成単位を有するポリエーテルポリカーボネートからなる粘着剤の製造方法を提供する。
【0006】
【化2】

【0007】
〔式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基、nは平均値で5〜1000の数、pは平均値で5〜100の数であり、(n×p)個のAは同一でも異なっていても良い。〕
【発明の効果】
【0008】
本発明により、選択的粘着性を有し、かつ水あるいはアルコール等に溶解する粘着剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[粘着剤]
本発明の粘着剤は、前記一般式(I)で表される構成単位を有するポリエーテルポリカーボネートからなる。
【0010】
一般式(I)において、Aは炭素数2〜6のアルキレン基を示し、(n×p)個のAは同一でも異なっていても良いが、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基がより好ましく、エチレン基とプロピレン基の混合基が更に好ましい。
また、異なるアルキレンオキシ基からなる場合、これらはブロック構造でも、ランダム構造でもよいが、ランダム構造がより好ましい。
【0011】
一般式(I)において、nは、アルキレンオキシ基の平均付加モル数を示す5〜1000の数であり、10〜500の数が好ましい。pは[(AO)nCOO]基の平均繰り返し数を示す5〜100の数であり、5〜50の数が好ましい。
【0012】
ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量は、粘着剤のべたつきを少なくする観点から、5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、15万以上が更に好ましく、20万以上が特に好ましい。また常温で十分な粘着性を示す観点から、100万以下が好ましく、70万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましい。
【0013】
なお、ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量は、下記実施例に記載の方法により測定した値である。
【0014】
[粘着剤の製造方法]
本発明の粘着剤の製造方法は、炭酸エステルとポリエーテルジオールを100〜300℃で反応させる工程を有する。
【0015】
本発明の方法に用いられる炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジフェニル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等が挙げられ、炭酸ジメチル、炭酸ジフェニルが好ましい。
【0016】
本発明の方法に用いられるポリエーテルジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合により得られるランダム共重合体がより好ましい。ポリエーテルジオールとして市販品を用いることもでき、例えばアデカポリエーテルPR-3005、3007、PR-5007(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるポリエーテルジオールの数平均分子量は、水やアルコールへの良好な溶解性を得る観点から、200〜50000が好ましく、400〜20000がより好ましい。
【0018】
本発明の方法においては、ポリエーテルジオール以外に、他のポリオールを共存させてもよい。他のポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、テトラメチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等の芳香族含有ジオール等が挙げられる。
【0019】
全ポリオールに対するポリエーテルジオールの割合は、50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。
【0020】
炭酸エステルとポリエーテルジオールをエステル交換する際の炭酸エステルとポリエーテルジオールとの反応モル比は、1/0.9〜1/1.1が好ましく、1/0.95〜1/1.05がより好ましい。
【0021】
炭酸エステルとポリエーテルジオールをエステル交換する際には、通常のエステル交換反応触媒が使用できる。このような触媒としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びそれらのアルコキシド、水素化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、酸化物や、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、鉛、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、マンガン、ジルコニウムなどの化合物があげられる。また、トリエチルアミン、イミダゾールなどの有機塩基化合物を用いることもできる。これらの触媒の中では、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の化合物、スズ、チタンなどの化合物が好ましい。
【0022】
炭酸エステルとポリエーテルジオールのエステル交換反応における反応温度は、100〜300℃であり、120〜250℃が好ましく、120〜200℃が更に好ましい。反応圧力は常圧でもよいが、減圧下が好ましい。
【0023】
エステル交換反応は、炭酸エステルとポリエーテルジオールと触媒を仕込み、上記温度で攪拌し、炭酸エステルから脱離するアルコールを反応系外へ除去することが望ましい。常圧の場合、窒素などの不活性気体を流通させることで脱離アルコールを効果的に除去することができる。減圧の場合、揮発する脱離アルコールを容易に系外に除去することができる。
【0024】
反応の形式はバッチ式、連続式、バッチ式と連続式のいずれの方法でもよく、使用する装置は槽型、管型、塔型のいずれの形式であっても良い。
エステル交換反応が進むにつれてポリエーテルポリカーボネートの粘度が増大し、反応槽内の流動状態が悪くなって脱離アルコールが反応系外へ除去しにくくなるため、反応初期の粘度が低い領域を第一重合工程、反応後期の粘度が高い領域を第二重合工程にして反応を分離することができる。第一重合工程と第二重合工程の境界は、反応物の粘度500〜10,000mPa・sの範囲にとることが好ましく、流動性の点から1,000〜7,000mPa・sの範囲にとるのが更に好ましい。
【0025】
第二重合工程の領域では攪拌効率を上げ、脱離アルコールを系外に除去するのを容易にするために高粘度流体を効率良く攪拌させる攪拌翼を用いて反応させることが好ましい。このような攪拌翼としてヘリカルリボン翼、ダブルヘリカルリボン翼、スクリュー翼、アンカー翼、格子型翼等が使用できる。また、高粘度対応の攪拌翼を具備した反応器として、押し出し混練機、ねじり格子翼反応器、リボン翼式反応装置、シグマ型翼ニーダー、Z型翼ニーダー、バンバリータイプ翼ニーダー、二軸反応装置等も使用できる。二軸反応装置の例としては日立プラントテクノロジー株式会社製の格子翼反応器、メガネ翼反応器、ディスク翼反応器や住重機器システム株式会社製のバイボラック、三菱重工株式会社製のセルフクリーニング式リアクタ等が挙げられる。
また、高粘度攪拌が可能な装置であれば、第一重合工程および第二重合工程を分離することなく同一装置で行うことも可能である。
【0026】
重合終了後、得られたポリエーテルポリカーボネートに炭素数1〜4のアルコールを添加し、均一に溶解させることで、収率良く反応槽から取り出すことができる。アルコールを添加しポリエーテルポリカーボネートを溶解する温度は50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。溶解操作の圧力は常圧でも加圧でもよい。
炭素数1〜4のアルコールの添加量は、ポリエーテルポリカーボネート1重量部に対し、0.5〜20重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。
【0027】
本発明の方法においては、エステル交換により得られた生成物から低分子量成分を除く精製工程を有することが好ましい。低分子量成分を除くことにより、他着力(他のものに対する粘着力)を低下させることができ、べたつき性の少ないより優れた選択性粘着剤を得ることができる。
【0028】
低分子量成分の除去は、例えば溶媒精製で行うことができる。より具体的には、エステル交換反応により得られた生成物を水溶性溶媒に溶解し、疎水性溶媒を添加することで低分子量成分の少ないポリエーテルポリカーボネートを析出させることができる。
【0029】
水溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒や、アセトン、メチルエチルケトン等が例示され、エタノールが好ましい。疎水性溶媒として、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒が例示され、ヘキサンが好ましい。水溶性溶媒に対する疎水性溶媒の添加量を調節することにより、求める分子量分布のポリエーテルポリカーボネートを得ることができる。水溶性溶媒に対する疎水性溶媒の添加量は、0.1〜50倍が好ましく、0.5〜10倍がより好ましく、1〜5倍が更に好ましい。
【0030】
本発明の方法により得られる粘着剤は、溶媒を含有することができる。溶媒としては、水、炭素数1〜4のアルコール等が挙げられる。本発明の粘着剤中の溶媒の含有量は0.1〜99.9重量%が好ましく、1〜99重量%がより好ましい。
【0031】
本発明の方法により得られる粘着剤は、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、紙、不織布、織布等の多孔質材料、金属箔等の基材の片面または両面に塗着ないし転写して、シート状やテープ状などの形態の粘着シートとして用いることができ、特に粘着剤同士は粘着するが、他のものには粘着性が低い選択的粘着剤として有用である。
【実施例】
【0032】
以下の例において、ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量は次に示す方法で測定した。
【0033】
<重量平均分子量の測定方法>
ポリスチレンゲルを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で測定した。ポリスチレン標準サンプルで分子量は校正し、重量平均分子量を決定した。
【0034】
GPCの測定条件
・サンプル濃度:0.25重量%(クロロホルム溶液)
・サンプル注入量:100μl
・溶離液:クロロホルム
・流速:1.0ml/min
・測定温度:40℃
・カラム:商品名「K−G」(1本)+商品名「K−804L」(2本)(以上、Shodex社)
・検出器:示差屈折計(GPC装置 商品名「HLC-8220GPC」(東ソー社)に付属)
・ポリスチレン標準サンプル:「TSKstandard POLYSTYRENE F-10」(分子量10.2万)、F-1(1.02万)、A-1000(870)(以上、東ソー社)、及び「POLYSTYRENE STANDARD」(分子量90万、3万;西尾工業社)
【0035】
実施例1
分留コンデンサー、温度計、プロペラ攪拌機を具備した2Lの反応容器に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムコポリマー(数平均分子量5000、水酸基価22.0mgKOH/g、商品名アデカポリエーテルPR-5007:(株)ADEKA製)487.8g(0.098mol)、炭酸ジフェニル20.7g(0.098mol)、炭酸カリウム78.8mg(0.57mmol)を入れた。
反応容器を攪拌しながら150℃まで昇温し、そのまま2時間加熱し続けて反応により生成するフェノールを系外へ排出した(第一重合工程)。その後、反応物を分留コンデンサー、温度計、アンカー翼を具備した同じ大きさの反応槽に移し、160℃まで徐々に温度を上げながら0.13kPaの圧力条件で6時間反応を行って、ポリエーテルポリカーボネートを得た(第二重合工程)。このポリマーの重量平均分子量は196,000であった。
【0036】
実施例2
分留コンデンサーを具備した5Lのバンバリー型ニーダーに、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムコポリマー(数平均分子量5000、水酸基価22.0mgKOH/g、商品名アデカポリエーテルPR-5007:(株)ADEKA製)1952g(0.39mol)、炭酸ジフェニル82.8g(0.039mol)、炭酸カリウム315.2mg(2.28mmol)を入れた。
反応触媒を混合しながら150℃まで昇温し、そのまま2時間加熱し続けて反応により生成するフェノールを系外へ排出した(第一重合工程)。その後、165℃まで徐々に温度を上げながら0.25kPaの圧力条件で10時間反応を行って、ポリエーテルポリカーボネートを得た(第二重合工程)。このポリマーの重量平均分子量は182,000であった。
【0037】
実施例3
実施例2で得られたポリマー10gをエタノール100mLに溶解し、2倍量のヘキサンを添加して振り混ぜ、生じた沈殿物を回収した。この回収したポリマーの重量平均分子量は、257,000であった。
【0038】
実施例1〜3で得られたポリマーからなる粘着剤について、下記方法でエタノール溶解性及び水溶解性を評価した。また、これらの粘着剤を用い、下記方法で粘着シートを作成し、下記方法で選択的粘着性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0039】
<エタノール溶解性の評価方法>
ポリマーをエタノール中に5重量%相当加え、数回攪拌後室温にて放置し、目視にて液の状態を確認し、次の基準で評価した。
【0040】
3:溶解
2:白濁
1:沈殿あり
<水溶解性の評価方法>
ポリマーをイオン交換水中に5重量%相当加え、数回攪拌後室温にて放置し、目視にて液の状態を確認し、次の基準で評価した。
【0041】
3:溶解
2:白濁
1:沈殿あり
【0042】
<粘着シートの作成方法>
ポリマーの10重量%トルエン溶液を調製し、ポリエチレンテレフタレート製シート上に、バーコーターで150μmの膜厚にキャストし、乾燥(60℃、12時間加熱後、25℃、50%RHで1日放置)して粘着シートを作成した。乾燥後の粘着剤層の膜厚は約10μmであった。
【0043】
<選択的粘着性の評価方法>
タッキングテスター(レスカ社,TACIIUC-2006)を用い、粘着シートと、タッキングテスターのプローブ先端に取り付けた、圧子面積8mm2のポリプロピレン製円板(エンジニアリングテストサービス社のテストピース:三菱化学ノーブレンNH−8(ポリプロピレン))との粘着力を測定し、得られた値を「他着力」とした。測定条件は、プローブ押し付け荷重200gf、押し付け時間0.5 sec、プローブ引き離し速度600 mm/secとした。
【0044】
また、ポリプロピレン製円板の代わりに、粘着シートを圧子面積8mm2の円形に切り出したものを用い、粘着剤塗布面とは逆側をプローブ先端に貼り付けて、上記と同様の条件で粘着剤塗布面同士の粘着力を測定し、得られた値を「自着力」とした。
この自着力と他着力との比を選択的粘着性として次の基準で評価した。
◎:[自着力/他着力]≧10
○:10>[自着力/他着力]≧2
△:2>[自着力/他着力]≧1.5
×:1.5>[自着力/他着力]
【0045】
【表1】

【0046】
実施例4
第二重合工程のポリエーテルポリカーボネートを得るところまでは実施例1と同様の方法で行い、重合後、75℃まで冷却してエタノールを1100g加えて20時間かけて均一に溶解させた。このときの粘度は2800mPa・s(30℃)であり、反応器を傾けて自然排出させたところ95%の収率で回収できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸エステルとポリエーテルジオールを100〜300℃で反応させる工程を有する、一般式(I)で表される構成単位を有するポリエーテルポリカーボネートからなる粘着剤の製造方法。
【化1】

〔式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基、nは平均値で5〜1000の数、pは平均値で5〜100の数であり、(n×p)個のAは同一でも異なっていても良い。〕
【請求項2】
ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量が5万〜100万である、請求項1記載の粘着剤の製造方法。
【請求項3】
一般式(I)中のAが、エチレン基とプロピレン基の混合基である、請求項1又は2記載の粘着剤の製造方法。
【請求項4】
ポリエーテルジオールの数平均分子量が200〜50000である、請求項1〜3いずれかに記載の粘着剤の製造方法。
【請求項5】
炭酸エステルとポリエーテルジオールの反応生成物から低分子量成分を除く精製工程を有する、請求項1〜4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
炭酸エステルとポリエーテルジオールの反応生成物に炭素数1〜4のアルコールを添加して溶解させる工程を有する、請求項1〜5いずれかに記載の粘着剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−41011(P2009−41011A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188421(P2008−188421)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】