説明

粘着組成物、及び粘着テープ

【課題】安定性及び塗工性に優れるとともに、高湿保存後でも高粘着力を有し、さらに高温環境下でも高保持力を有する粘着組成物を提供する。
【解決手段】35μm以下の最大粒径を有するフィラーと、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)、極性基含有単官能単量体(B)、(メタ)アクリル系重合体(C)、架橋剤(D)、開始剤(E)、並びに、直鎖構造の主骨格の片末端に極性基を有し、酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)を含む粘着剤成分とを含有する粘着組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着組成物、及び粘着テープに関する。特に、本発明は、粘着剤成分中に、熱伝導性フィラーや導電性フィラーなどのフィラーが充填された粘着組成物、及びそれを用いた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着剤成分中に、熱伝導性フィラーが充填された粘着組成物を含有する粘着剤層を備えた熱伝導性の粘着テープや、同様に、粘着剤成分中に、導電性フィラーが充填された粘着組成物を含有する粘着剤層を備えた導電性の粘着テープなどが知られている。これらの粘着テープは、電子部品やそれを収容した筐体などに貼り付けて使用される場合がある。
【0003】
例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)、集積回路(IC)チップなどのような電子部品は、その高性能化に伴って発熱量が増大しており、そのため温度上昇による機能障害対策を講じる必要性が生じている。上記観点から、電子部品などの発熱体にはヒートシンクなどの放熱体が取り付けられているが、電子部品と放熱体との熱的接続性が低いと十分な冷却性能が得られないことから、これらを熱伝導性の粘着テープを用いて接合している。
【0004】
上記のような粘着テープとしては、例えば、フィラーと、(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル系重合体、架橋剤などを含有する粘着剤成分とからなる粘着剤層を有するものが提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−279196号公報
【0006】
【特許文献2】国際公開WO2005/42612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、粘着剤層が貼付された後の被着体の厚さを低減するために、粘着テープとしては、50〜250μm程度の厚さの粘着剤層を有するものが汎用されている。上記のような薄層の粘着剤層を形成する場合、使用するフィラーとしては、粘着剤層の表面性の低下による粘着力の低下を防止するために、粘着剤層の厚さより小さな平均粒径を有するフィラーを使用する必要がある。
【0008】
一方、従来、粘着剤層の厚さの異なる複数種の粘着テープを製造する場合、粘着剤層の厚さに合わせて平均粒径の異なるフィラーが使用されてきたが、粘着剤層の厚さに拘らず、同一粒径のフィラーを用いれば、単一の粘着組成物を使用することができ、また粒径の相違による分散性への影響もないことから、生産性を向上することができる。このような単一の粘着組成物を利用する場合、50μm程度の薄い粘着剤層の厚さに合わせた小粒径のフィラーを使用することが考えられる。
【0009】
しかしながら、上記のような粘着組成物を調製するために、小さな平均粒径を有するフィラーを使用しても、塗工時に塗布抜けなどの塗工不良が生じ、それによって、例えば、熱伝導性粘着テープに要求されている破壊電圧特性が劣化するという問題がある。これは、上記のような粘着剤層の厚さに拘らず、小さな平均粒径を有するフィラーと粘着剤成分とを含有する単一の粘着組成物を使用する場合、粘着組成物を多量に調製し、一定期間粘着組成物を保存した後、必要に応じて粘着組成物が塗工されるため、保存時に粘着組成物の粘度が増加し、安定性が低下することと、塗工時にフィラーがコータ部に噛み込むことが原因と考えられる。特に、熱伝導性フィラーとして小粒径の水酸化アルミニウムを用いた場合、粘着組成物の調製直後から粘度が増加し、塗工不良が生じやすい。
【0010】
また、上記のような用途に用いられる粘着テープは電子機器内で使用されることから各種環境下で高粘着力を有することが求められているが、小粒径のフィラーを使用した場合、高湿保存後の粘着力が低下するという問題がある。さらに、粘着テープの粘着組成物は、高い粘着力を有するだけでなく、例えば、発熱体と放熱体とを粘着テープにより接合した後、これらの被着体にズレが生じないよう、高い保持力も有することが求められている。特に、上記した電子部品の高性能化に伴い、これらの電子部品から放熱される熱量も増加しており、それゆえ例えば100℃以上の高温環境下でも、高保持力を維持できる粘着組成物が要望されている。
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の目的は、安定性に優れるとともに、塗工性に優れ、また高湿保存後でも高粘着力を有し、さらに高温環境下でも高保持力を有する粘着組成物、及びそれを用いた粘着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一局面によれば、35μm以下の最大粒径を有するフィラーと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)、極性基含有単官能単量体(B)、(メタ)アクリル系重合体(C)、架橋剤(D)、開始剤(E)、並びに、直鎖構造の主骨格の片末端に極性基を有し、酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)を少なくとも含む粘着剤成分とを含有し、
前記両性分散剤(F)の含有量が、前記フィラー100質量部に対し、1.5〜7.5質量部である粘着組成物が提供される。
【0013】
上記粘着組成物は、35μm以下の最大粒径を有するフィラーを含有するから、薄層の粘着剤層を形成する場合でも、大粒径のフィラーによる塗工不良を低減することができる。また、上記粘着組成物は、粘着剤成分の1つとして、直鎖構造の主骨格の片末端に極性基を有し、酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)を一定量含有するから、上記最大粒径の小さなフィラーを用いても、フィラーと(メタ)アクリル系重合体(C)との接触を抑えることができるとともに、粘着組成物を可塑化することができる。その結果、安定性に優れるとともに、高湿保存後でも高粘着力を有し、高温環境下でも高保持力を有する粘着組成物を得ることができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0014】
上記粘着組成物において、前記両性分散剤(F)は、前記極性基として、リン酸エステル塩を有することが好ましい。
【0015】
上記粘着組成物において、前記フィラーとしては、熱伝導性フィラーを用いることができる。
【0016】
そして、本発明は、上記粘着組成物を含有する粘着剤層を備えた粘着テープである。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、安定性及び塗工性に優れるとともに、高湿保存後でも高粘着力を有し、さらに高温環境下でも高保持力を有する粘着組成物を得ることができる。それゆえ、上記粘着組成物を含有する粘着剤層を備えた粘着テープは、熱伝導性の粘着テープや導電性の粘着テープとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
既述したように、薄層の粘着剤層を形成する場合に、粘着剤層の厚さよりも小さな平均粒径を有するフィラーを使用しても塗布抜けなどの塗工不良が生じるが、これは粘着テープに使用される水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどのフィラーが広い粒度を有していることがその一因と考えられる。すなわち、平均粒径の小さいフィラーであっても、フィラー全体中には粒径の大きなフィラーも含まれており、この大粒径のフィラーがコータ部で噛み込むことにより、塗布抜けなどの塗工不良が発生する。
【0019】
本発明者等の検討によれば、50μmの厚さを有する薄層の粘着剤層を形成する場合に、フィラーの最大粒径が35μm以下、好ましくは3〜35μmであれば、コータ部でのフィラーの噛み込みが少なく、塗工不良を低減できることが見出された。なお、本明細書において、フィラーの最大粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定値を意味する。
【0020】
本実施の形態において、フィラーとしては、上記の最大粒径を有するものであれば、目的とする粘着テープの特性に合わせて、熱伝導性フィラー、導電性フィラー、断熱フィラー、絶縁性フィラーなどの各種のフィラーを使用できる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、カーボン、グラファイト、炭化珪素、ホウ酸アルミウイスカなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。フィラーの含有量は、特に限定されるものではないが、粘着剤成分100質量部に対して、通常、50〜300質量部である。
【0021】
一方、最大粒径の小さなフィラーを使用した場合、コータ部でのフィラーの噛み込みによる塗工不良は低減できるものの、得られる粘着組成物の安定性が低下するため、粘着組成物の粘度変化に起因する塗工不良が多発するだけでなく、高湿保存後の粘着力及び高温環境下での保持力が低下する。これは、フィラーと、粘着性に寄与する(メタ)アクリル系重合体との相互作用が強くなり、それによって粘着組成物が凝集しやすくなるためである。特に、フィラーとして水酸化アルミニウムを使用し、粘着力及び保持力の向上を目的としてカルボキシル基などの極性基を有する(メタ)アクリル系重合体を使用した場合、粘着組成物中で、該極性基とフィラーの表面に存在する水酸基とが相互作用して、安定性が顕著に低下し、また高湿保存後の粘着力や高温環境下での保持力が低下しやすい。
【0022】
このため、本実施の形態では、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)と、極性基含有単官能単量体(B)と、(メタ)アクリル系重合体(C)と、架橋剤(D)と、開始剤(E)と、さらに直鎖構造の主骨格の片末端に極性基を有し、酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)とを含有する粘着剤成分が使用される。
【0023】
酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)を一定量使用すれば、最大粒径の小さなフィラーと(メタ)アクリル系重合体(C)とを含有する粘着組成物であっても、両性分散剤(F)がフィラーの表面に被着し、(メタ)アクリル系重合体(C)とフィラーとの相互作用が抑えられ、それによって粘着組成物の安定性を向上できる。また、フィラーの表面への分散剤の被着は酸価を示す極性基の酸性基部分が主として機能するが、上記両性分散剤(F)は、アミン価を示す塩基性基部分も有するから、該塩基性基部分が(メタ)アクリル系重合体(C)の極性基とイオン結合等により結合し、それによって高湿保存後でもブリードアウトを抑えることができるとともに、両性分散剤(F)によって粘着組成物を可塑化することができる。その結果、高湿保存後に高粘着力を有するとともに、高温環境下でも高保持力を有する粘着組成物を得ることができる。これに対して、酸価のみを有する分散剤を使用した場合、(メタ)アクリル系重合体(C)とフィラーとの接触は抑えられるが、粘着剤層を高湿保存した場合に(メタ)アクリル系重合体(C)が粘着剤層の表面にブリードアウトしやすくなり、粘着力が低下する。また、アミン価のみを有する分散剤を使用すると、分散剤がフィラーに十分に被着しないため、小粒径のフィラーを用いた場合、安定性が低下する。
【0024】
さらに、上記両性分散剤(F)は、直鎖状の主骨格を有し、主骨格の片末端のみに極性基を有するから、両性分散剤(F)とフィラーとの相互作用が少なく、それによって安定性の低下が抑えられる。これに対して、分散剤のフィラーへの被着を考えれば、複数の分岐鎖に酸性基部分及び塩基性基部分を有する極性基を備えた櫛形構造の分散剤を使用することも考えられるが、このような櫛形構造を有する分散剤を使用した場合、分散剤とフィラーとの相互作用が強くなりすぎ、また相溶性が低下して、寧ろ粘着組成物の安定性が低下しやすい。
【0025】
本実施の形態において、両性分散剤(F)の極性基としては、リン酸基とアンモニウム基とを有するリン酸エステル塩、硫酸基とアンモニウム基とを有する硫酸エステル塩などが挙げられ、これらの中でもリン酸エステル塩が好ましい。また、これらの極性基による酸価は、好ましくは10〜300mgKOH/g、より好ましくは14〜150mgKOH/g、さらに好ましくは77〜132mgKOH/gであり、アミン価は、好ましくは10〜300mgKOH/g、より好ましくは20〜150mgKOH/g、さらに好ましくは21〜74mgKOH/gである。なお、本明細書において、酸価とは、分散剤固形分1gを中和するのに必要なKOHのmg数を意味し、アミン価とは、分散剤固形分1gを中和するのに必要なHClに当量のKOHのmg数を意味する。さらに、両性分散剤(F)の直鎖状の主骨格は、ポリエーテル、及びポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー鎖からなることが好ましい。両性分散剤(F)がこのようなポリマー鎖を有する場合、両性分散剤(F)の重量平均分子量は、好ましくは500〜3,000である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によるポリスチレン換算重量平均分子量を意味する(溶媒:テトラヒドロフラン)。市場で入手可能な両性分散剤(F)としては、具体的には、例えば、ビックケミー社製のDisperBYK−101、DisperBYK−106;楠本化成社製のDISPALON DA−325、DISPALON DA−234、DISPALON 300−257などが挙げられる。
【0026】
両性分散剤(F)の含有量は、フィラー100質量部に対して、1.5〜7.5質量部である。両性分散剤(F)の含有量が少なすぎると、安定性が低下したり、高湿保存後の粘着力が低下する。一方、両性分散剤(F)の含有量が多すぎると、架橋密度が低下し、高温環境下での保持力が低下する。
【0027】
次に、本実施の形態の他の粘着剤成分について具体的に説明する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)としては、炭素数20以下のアルキル基を有する単官能単量体を使用することができ、具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソオクチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)の含有量は、粘着剤成分全量中、好ましくは55〜90質量%であり、より好ましくは60〜85質量%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)の含有量が上記範囲外では、粘着力が低下する傾向がある。
【0029】
極性基含有単官能単量体(B)としては、極性基と炭素数20以下のアルキル基とを有する単官能単量体を使用することができ、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基含有単官能単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸などの水酸基含有単官能単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−(メタ)メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェートなどのリン酸基含有単官能単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有単官能単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有単官能単量体;N−ビニル−2−ピロリドンなどの窒素環含有単官能単量体などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基含有単官能単量体、及び水酸基含有単官能単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。このような極性基含有単官能単量体(B)を使用すれば、架橋剤(D)によりこれらの単量体が三次元架橋構造を形成するため、高温環境下でも高い保持力を確保することができる。
【0030】
極性基含有単官能単量体(B)の含有量は、粘着剤成分全量中、好ましくは1〜15質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。極性基含有単官能単量体(B)の含有量が1質量%以上であれば、高湿保存後により高い粘着力を得ることができる。一方、極性基含有単官能単量体(B)の含有量が15質量%以下であれば、高温環境下でさらに高い保持力を得ることができる。
【0031】
(メタ)アクリル系重合体(C)としては、既述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)または(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)と極性基含有単官能単量体(B)とをモノマー成分として含有する重合体を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)とカルボキシル基含有単官能単量体との重合体がより好ましい。このような極性基を有する単量体をモノマー成分として用いることにより、金属製部材に対して高い粘着力が得られる一方、フィラーとの相互作用により粘着組成物の安定性が低下しやすいが、本実施の形態の粘着組成物は上記両性分散剤(F)を含有するため、安定性に優れた粘着組成物を得ることができる。また、(メタ)アクリル系重合体(C)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)と同種の単量体をモノマー成分として含有することが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソオクチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体をモノマー成分として含有することがより好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル系重合体(C)の重量平均分子量は、好ましくは10万〜300万である。高分子量の重合体を用いることにより、高粘着力を有する粘着組成物を得ることができる。また、このような高分子量の重合体を用いても、本実施の形態の粘着組成物は上記両性分散剤(F)を含有するため、安定性に優れた粘着組成物を得ることができる。
【0033】
(メタ)アクリル系重合体(C)の含有量は、粘着剤成分全量中、好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは13〜34質量%である。(メタ)アクリル系重合体(C)の含有量が5質量%以上であれば、高湿保存後により高い粘着力を得ることができる。一方、(メタ)アクリル系重合体(C)の含有量が40質量%以下であれば、粘着組成物がより低粘度となり、塗工不良をさらに低減することができる。
【0034】
(メタ)アクリル系重合体(C)を調製する方法としては、特に限定されず、従来公知の塊状重合法や溶液重合法を使用することができる。これらの中でも、(メタ)アクリル系重合体(C)を構成する単量体を媒質とし、溶剤の除去が不要な塊状重合法が好ましい。なお、(メタ)アクリル系重合体(C)は、予め重合した重合物の形態で使用してもよいし、塊状重合法を用いる場合、媒質である単量体中で重合した部分重合物の形態で使用してもよい。
【0035】
架橋剤(D)としては、分子内に架橋反応可能な官能基を有し、放射線の照射及び/又は加熱により(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)、極性基含有単官能単量体(B)、あるいはさらに架橋反応可能な極性基を有する(メタ)アクリル系重合体(C)と架橋反応し得るものが挙げられる。上記架橋反応可能な官能基としては、特に限定されないが、ビニル基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基などが挙げられる。このような架橋剤(D)としては、具体的には、例えば、多官能重合性化合物、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤などが挙げられる。これらの中でも、ラジカル重合により架橋して、極性基含有単官能単量体(B)の極性基を減少させない、多官能重合性化合物が好ましい。
【0036】
多官能重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリレート基、アリル基、ビニル基などの重合可能な二重結合を2個以上有し、ラジカル重合し得る多官能モノマーや多官能オリゴマーを使用できる。具体的には、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリルレート、ビニル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシエステルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。
【0037】
エポキシ系架橋剤としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を使用できる。具体的には、例えば、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。
【0038】
イソシアネート系架橋剤としては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を使用できる。具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、及びこれらとトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。
【0039】
架橋剤(D)の含有量は、粘着剤成分全量中、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜4質量%である。架橋剤(D)の含有量が0.05質量%以上であれば、高温環境下でより高い保持力を得ることができる。一方、架橋剤(D)の含有量が5質量%以下であれば、低分子量成分の増加が抑えられ、高湿保存後により高い粘着力を得ることができる。
【0040】
開始剤(E)としては、光重合開始剤、及び熱重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用できる。光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(BASF社製,Lucirin TPO)、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド(BASF社製,Lucirin TPO−L)などのアシルホスフィンオキサイド類;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(チバ社製,Irgacure 369)などのアミノケトン類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(チバ社製,Irgacure 819)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド(チバ社製,CGI403)などのビスアシルホスフィンオキサイド類;ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ社製,Irgacure 184)、ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ社製,Darocure 1173)などのヒドロキシケトン類;ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ベンジルメチルケタール(日本シーベルヘグナー社製,Esacure KB1);2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー(日本シーベルヘグナー社製,Esacure KIP150)などが挙げられる。熱重合開始剤としては、具体的には、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミドなどのアゾ系の熱重合開始剤;クミルハイドロパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、3−クロロ過安息香酸などの過酸化物系の熱重合開始剤などが挙げられる。
【0041】
開始剤(E)の含有量は、粘着剤成分全量中、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。開始剤(E)の含有量が0.05質量%以上であれば、高温環境下でより高い保持力を得ることができる。一方、開始剤(E)の含有量が5質量%以下であれば、低分子量成分の増加が抑えられ、高湿保存後により高い粘着力を得ることができる。
【0042】
本実施の形態において、粘着組成物は、上記の粘着剤成分及びフィラーを含有していれば、他の特性の向上を目的として、必要に応じて、粘着付与剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤などの公知の添加剤をさらに含有してもよい。
【0043】
本実施の形態の粘着組成物を製造する方法としては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、上記(A)乃至(F)の各構成成分と、フィラーとを従来公知の撹拌手段により混合する方法を採用することができる。また、塊状重合法により調製した(メタ)アクリル系重合体(C)を使用する場合、重合後に希釈剤として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(A)や極性基含有単官能単量体(B)を添加した重合体含有溶液を用いてもよい。
【0044】
本実施の形態の粘着テープを製造する方法としては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、上記のようにして得られる粘着組成物を基材の少なくとも一面上に塗工して粘着剤層を形成し、粘着剤層に放射線(X線、紫外線、電子線など)の照射及び/または粘着剤層を加熱することにより粘着テープを製造することができる。
【0045】
基材としては、プラスチック製、金属製、紙製などの基材が挙げられ、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどからなるプラスチック製基材が好ましい。これらの基材は、剥離性改良処理などの表面処理が施されていてもよい。粘着剤層の厚さは、粘着剤層を貼付した後の被着体の厚さを低減するために、好ましくは50〜250μmである。また、粘着剤層上にさらに剥離用シートを設けてもよい。放射線の照射手段としては、具体的には、例えば、ブラックライト、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどが挙げられる。放射線として紫外線を使用する場合、紫外線の強度は、好ましくは約0.1〜10mW/cm(波長:365nm)であり、照射時間は、好ましくは20秒間〜5分間である。
【0046】
なお、粘着テープは、粘着剤層の上下面で被着体を強固に固定できる高い粘着力を有する必要があるが、貼り合わせ位置を誤ったり、貼り合せ面に異物が噛み込んだりした場合を考慮して、貼付直後においては、粘着剤層を被着体から剥離し、再度貼り合わせが可能となるようにリワーク性に優れていることが好ましい。本実施の形態の粘着組成物は、このようなリワーク性にも優れており、被着体に貼付された直後では、容易に粘着剤層を被着体から剥離可能な低い粘着力を有しながら、一定時間経過すると、高い粘着力を有する粘着剤層を形成できる。
【0047】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」とあるのは、「質量部」を意味する。
【実施例】
【0048】
粘着組成物の各構成成分として、表1に示す(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体、極性基含有単官能単量体、架橋剤、光重合開始剤、分散剤、及びフィラーを準備した。フィラーの最大粒径及び平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計(マイクロトラックHRA)による測定値である。なお、表2中の略表示は、表1の種類欄の略表示と同一成分であることを示す。
【0049】
【表1】

【0050】
<(メタ)アクリル系重合体の調製>
温度計、撹拌プロペラ、冷却管、及び窒素ガス注入管が取り付けられた四つ口フラスコに、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)450部、アクリル酸(AA)50部、及び、光重合開始剤として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(チバ社製,Irgacure 369)1.5部を投入した。容器内温度が50℃になるように容器を温調し、ブラックライトで紫外線(波長365nmにおける強度:5mW/cm)を溶液に照射しながら30分間重合を行い、2EHAとAAとからなるアクリル系重合体(以下、Poly−2EHA/AAと略す)と、未反応分の2EHA及びAAとを含有するシロップを得た。得られたシロップ中のPoly−2EHA/AAの含有量は21質量%であり、重量平均分子量は100万であった。
【0051】
<粘着組成物の調製>
表2に示す配合量となるように各構成成分を混合撹拌し、各粘着組成物を調製した。なお、分散剤の配合量における括弧内の数値は、フィラー100部当たりの配合量である。
【0052】
【表2】

【0053】
<粘着テープの作製>
上記で調製した各粘着組成物を剥離処理を施したポリエステルフィルム(厚さ:50μm)の一面上に厚さが50μmとなるようにナイフコータにより塗工して、粘着剤層を形成し、さらにこの粘着剤層の上から剥離処理をしたポリエステルフィルム(厚さ:50μm)を気泡が入らないように重ね、粘着剤層の一面側から紫外線(波長365nmにおける強度:3mW/cm)を2分間照射し、各粘着テープを作製した。
【0054】
上記のようにして得られた粘着組成物、及び粘着テープを用いて、以下の評価を行った。表3はこれらの評価結果を示す。
【0055】
〔安定性〕
B型粘度計(芝浦システム社製,単一筒型回転粘度計,ビストメロン)を用い、粘着組成物の調製直後の初期粘度(25℃)、粘着組成物を40℃で24時間保存した後の保存後粘度(25℃)、及び粘度の増減率を測定した。
【0056】
〔粘着力〕
SUS304製の試験板上に粘着剤層を貼り合せた測定試料を作製した。この測定試料を23℃50%RHの環境下に24時間保存した後の初期粘着力と、65℃95%RHの環境下に100時間保存した後の粘着テープを用い、同様にしてSUS304製の試験板上に粘着剤層を貼り合せた測定試料の保存後の粘着力とを、JIS Z 0237に準拠して測定した。
【0057】
〔保持力〕
粘着力と同様にして作製した測定試料を用い、この測定試料を120℃の環境下に168時間保存した。保存後の粘着剤層の保持力を、JIS Z 0237に準拠して測定し、以下の基準から保持力を評価した。
○:粘着剤層にズレが発生せず
×:粘着剤層にズレが発生
【0058】
〔破壊電圧〕
粘着剤層の破壊電圧を、JIS C 2110に規定する急速昇圧試験法に準拠して測定した。測定には、球−平面電極を用いた。
【0059】
【表3】

【0060】
上記表に示すように、実施例の粘着組成物は、3〜35μmの最大粒径を有するフィラーを用いても、保存後の粘着組成物の粘度変化が少なく、また高い破壊電圧を有する粘着剤層を形成できることが分かる。また、この粘着組成物は、高湿保存後でも高粘着力を有するだけでなく、高温環境下でも高保持力を有することが分かる。
【0061】
これに対して、最大粒径が大きすぎるフィラーを用いた場合、粘度変化は少ないが、破壊電圧が低くなることが分かる。これは、粘着剤層よりも十分に小さい平均粒径を有していても、大きな最大粒径を有するフィラーを用いた場合、コータ部で塗布抜けなどの塗工不良が発生したためと考えられる。
【0062】
また、小さな最大粒径を有するフィラーを使用しても、両性分散剤(F)を含有しない粘着組成物は、保存後に粘着組成物が増粘し、塗工不能となる程度まで粘着組成物がゲル化することが分かる。さらに、アミン価のみを有する分散剤や、酸価及びアミン価の両方を有していても、櫛形構造を有する分散剤を使用した場合、分散剤を使用しない場合と同様に、保存後に粘着組成物が増粘し、粘着組成物がゲル化することが分かる。これは、アミン価のみを有する分散剤を使用しても、フィラーと(メタ)アクリル系重合体との相互作用を十分に抑えることができないためと考えられる。また、櫛形構造を有する分散剤を使用した場合、分散剤とフィラーとの相互作用が大きくなるためと考えられる。
【0063】
一方、酸価のみを有する分散剤を使用した場合、粘度変化は少ないが、高湿保存後の粘着力が顕著に低下することが分かる。これは、(メタ)アクリル系重合体が粘着剤層の表面にブリードアウトしたためと考えられる。
【0064】
そして、両性分散剤(F)を使用しても、両性分散剤(F)の含有量が少なすぎる場合、安定性改善の効果が得られないことが分かる。一方、両性分散剤(F)の含有量が多すぎると、高温環境下での保持力が低下することが分かる。これは、粘着組成物が多量に両性分散剤(F)を含有すると、架橋剤による架橋反応が妨げられるためと考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
35μm以下の最大粒径を有するフィラーと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単官能単量体(A)、極性基含有単官能単量体(B)、(メタ)アクリル系重合体(C)、架橋剤(D)、開始剤(E)、並びに、直鎖構造の主骨格の片末端に極性基を有し、酸価及びアミン価を有する両性分散剤(F)を少なくとも含む粘着剤成分とを含有し、
前記両性分散剤(F)の含有量が、前記フィラー100質量部に対し、1.5〜7.5質量部である粘着組成物。
【請求項2】
前記両性分散剤(F)は、前記極性基として、リン酸エステル塩を有する請求項1に記載の粘着組成物。
【請求項3】
前記フィラーは、熱伝導性フィラーを含む請求項1または2に記載の粘着組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着組成物を含有する粘着剤層を備えた粘着テープ。


【公開番号】特開2011−231209(P2011−231209A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102200(P2010−102200)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000194332)マクセルスリオンテック株式会社 (46)
【Fターム(参考)】