説明

粘膜炎の予防及び処置のためのメチオニンの治療上の使用

有毒レベルの放射線照射を受けている患者または白金含有抗腫瘍化合物による治療を受けている患者において粘膜炎を予防しまたは軽減させる方法を提供する。該方法にはメチオニンまたはメチオニン部分を含む保護剤の有効量を、放射線被曝若しくは白金含有抗腫瘍剤の投与の前、その最中またはそれに続いて投与することが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよび動物の対象における癌化学療法の保護薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
保護薬とは、正常な体細胞における抗ガン化学療法に関連した有毒な副作用を防ぎ、軽減しまたは改善する一方、生体における該療法の抗腫瘍効果を実質上保持する化合物であり、そのような化学療法計画の開始前、最中に併用し若しくはその後に投与される。さらに具体的には、本発明はD-メチオニンおよびその構造上関連する化合物の保護薬としての使用に関連するもので、該保護薬はシスプラチンのような白金含有の抗腫瘍剤を用いる化学療法で併用した場合、耳保護、体重損失保護、胃腸管保護、神経保護、脱毛症保護、粘膜炎保護、および生存増強効果を有する。本発明はまたD-メチオニンおよびその構造上関連する化合物の放射線療法の保護薬としての使用に関連し、放射線による脱毛の他、神経損傷、脱毛症、胃腸管障害、粘膜炎や患者生存の減少のような副作用を軽減する保護薬としての使用に関する。
【発明の開示】
【0003】
1.シスプラチン化学療法
シスプラチン(cis-ジアミンジクロロ白金(II); CDDP)は広く用いられている抗腫瘍剤であって、使用される癌種の種類とともに最大治療効果を得るため個人に使用される量においてもシスプラチンの投与は増加している。ブルメンライヒ等(Blumenreich et al.), Cancer, vol.55, pp.1118-22(1985); フォラスチーレ等(Forastiere et al.), Cancer Chemo.Pharm., vol.19, pp.155-8(1987); ガンダラ等(Gandara et al.), Proc.Am.Assoc.Cancer Res.,(959), Vol.30, p.241(1989); ガンダラ等(Gandara et al.), Anticancer Res., vol.9, pp.1121-8(1989)参照。
【0004】
シスプラチンの有毒な副作用は長い間認識され報告がなされている。リップマン等(Lippman et al.), "cis-ジアミンジクロロ白金(NSC-119875)の臨床治験" Cancer Chemother. Rep., Part 1, vol.57, pp.191-200(1973);およびハッカー(Hacker), The Toxicity of Anticancer Drugs, pp.82-105(Pergamon Press, 1991)参照。これら毒性には、種々の末梢ニューロパシー、骨髄抑制、胃腸管への毒性、腎毒性、中毒性難聴が含まれる。オゾルスとヤング(Ozols and Young), Semin.Oncol., 12(4), Suppl.6, pp.21-30(1985); ステュワート等(Stewart et al.), Am.J.Clin.Oncol., 10(6), pp.517-19(1987); ストーテル等(Stoter et al.), J.Clin.Oncol., 7(8), pp.1099-1104(1989)参照。当初の一次的用量決定因子は腎毒性であったが、マンニトール、高張食塩水および大量の水分を常時投与することにより、当該毒性は軽減できたが除去はできていない。しかしながら、中毒性難聴は制御できていない。バジョリン等(Bajorin et al.), J.Clin.Oncol., 5(10),pp.1589-93(1987);フィラストーレ等( Fillastre et al.), Toxicol.Lett., 46, pp.163-75(1989)参照。腎毒性は依然用量決定的であるが、現在の一次的用量決定因子は中毒性難聴である。ブルメンライヒ等(Blumenreich et al.), Cancer, 55, pp.1118-22(1985); フォラスチーレ等(Forastiere et al.), Cancer Chemo.Pharm., 19, pp.155-8(1987); ベリー等(Berry et al.), J.Clin.Oncol., 8(9), pp.1585-90(1990)参照。
【0005】
シスプラチンの一次的な中毒性難聴は内耳の蝸牛に生じると思われる。血管条およびコルチ器の両方に解剖学的変化が生じる。一次的な組織学的所見として、有毛細胞変性および支持細胞損傷が含まれこれらは用量依存的である。アニコとソビン(Anniko and Sobin), Am.J.Otol., 7, pp.276-93(1986)参照。高用量では、膜迷路の全体的崩壊が生じ得る(同書参照)。コルチ器においては、内外の有毛細胞が失われ、基底回転における外有毛細胞の損失傾向および支持細胞とライスナー膜の変性がある。フライシュマン等(Fleischman et al.), Toxicol.Appl.Pharm., 33, pp.320-32(1975); コムネ(Komune), 「中毒性難聴におけるエタクリン酸およびシスプラチンの増強効果」, Arch.Otolaryngol., 101, pp.66-74(1981); エストレム等(Estrem et al.), Otolaryngol.Head Neck Surg., 89, pp.638-745(1981); シュバイツァー(Schweitzer), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)参照。エストレム等(Estrem et al.)はまた、表皮板の軟化および外有毛細胞の先端部におけるリソソーム体の増加を報告している。しかし、これら変化をもたらすメカニズムは殆ど知られていない。
【0006】
内耳濃度が等しい場合、既知の薬物中でシスプラチンが最も毒性が強い;モロソ等(Moroso et al.), J.Otolaryngol., 12(6), pp.365-9(1983); コーゲル(Koegel), Am.J.Otol., 6(2), pp.190-9(1985); アニコとソビン(Anniko and Sobin), Am.J.Otol., Vol.7, pp.276-96(1896); グリフィン(Griffin), Brit.J.Audio., 22, pp.195-210(1988)参照。一般にシスプラチンの中毒性難聴は不可逆的であり、その発現は潜行的で治療プロトコール中断後に聴覚喪失が生じることもある;シェーファー等(Schaefer et al.), Cancer, 56(8), pp.1934-39(1985); メラマッド等(Melamed et al.), Cancer, 55, pp.41-43(1985); ポレラ等(Pollera et al.), Cancer Chemother.Pharmacol., 21, pp.61-4(1988); アグイラ-マルキュリス等(Aguilar-Markulis et al.), J.Surg.Oncol., 16, pp.111-23(1981); モロソ等(Moroso et al.), J.Otolaryngol., 12(6), pp.365-9(1983)参照。聴覚喪失は通常永続的である;ベルモルケン等(Vermorken et al.), Eur.J.Cancer Clin.Oncol., 19(1), pp.53-58(1983)参照。部分的に回復する場合もあるが、アグイラ-マルキュリス等(Aguilar-Markulis et al.)の上記研究によれば聴覚喪失の患者121名中完全に回復した者は1名のみであった。聴覚喪失は通常、超高周波数領域で始まり、標準的な高い聴力領域に進行して子音を聞き取る能力を低下させるが母音を聞く能力は残る;ファウスチ等(Fausti et al.), Cancer, 53, pp.224-31(1984);コペルマン等(Kopelman et al.), Laryngoscope, 98, pp.858-64(1988); ローレルとイングストロム(Laurell and Engstrom), Hearing Research, 38, 27-34(1989); メーヤー(Meyer), J.Clin.Oncol., 7(6), 754-760(1989)参照。話し言葉を理解できないことや、耳鳴りは頻繁に見られる病状である(コペルマン等(Kopelman et al.), 上記)。化学療法で生存できる患者数は増加しているが、聴力障害の頻度も高くなっている。
【0007】
2.求核性硫黄保護薬
硫黄を含む化合物(チオ、チオールおよびチオエーテル基を有する物質を包含する)の多くが、動物モデルにおいてCDDP腎障害の保護を与えることが報告されている;アンダーソン等(Anderson et al.), FASEB J., vol.4, pp.3251-5(1990); ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989); ジョーンズ等(Jones et al.), Cancer Chemo.Pharm., 17, pp.38-42(1986); ジョーンズ等(Jones et al.), Toxicology, 68, pp.227-47(1991); ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.449-54(1991); ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.1939-42(1991); ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。これらの化合物は、CDDPによるグルタチオン枯渇、またはタンパク質スルフヒドリル基へのCDDPの結合を妨げることにより、当該作用を示す可能性がある;ハンネマン等(Hannemann et al.), Toxicology, 51, pp.119-32(1988); ナカノ等(Nakano et al.), Jpn.J.Pharmacol., 50, pp.87-92(1989); ガンダラ等(Gandara et al.), Anticancer Res., 9, pp.1121-8(1989); ラビ等(Ravi et al.), Pharmacologist, 33(3), p.217(1991); シュバイツァー(Schweitzer), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)参照。
【0008】
また、チオ硫酸ナトリウム(STS)およびジエチルジチオカルバメート(DDTC)は動物においてCDDPによる聴覚保護作用を示す;オットー等(Otto et al.), Hearing Research, 35, pp.79-86(1988); チャーチ等(Church et al.), Hearing Research 86(1,2), pp.195-203(1995); リバック等(Rybak et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 26, pp.293-300(1995)参照。残念なことに、STSはCDDPの殺腫瘍活性を低下させ、CDDPによる体重減少と死亡率を悪化させる;ファイフル等(Pfeifle et al.), J.Clin.Oncol., 3, pp.237-44(1985); アームダル等(Aamdal et al.), Cancer Treat., Rev.14, pp.389-95(1987); オットー等(Otto et al.), 上記,参照。DDTCは抗腫瘍作用と干渉しないが、重篤な副作用をもたらし得る;デドン等(Dedon et al.), 「シスプラチン(DDP)腎毒性のジエチルジチオカルバメ−ト(DDTC)による回復」,AACR Abstracts, 1470, p.371(1985); ボルヒ等(Borch et al.), Organ Directed Toxicities of Anticancer Drugs, 3d ed., pp.190-20(Matinus Nijhoff Publishing, 1988); ローゼンバーグ等(Rothenberg et al.), J.Nat'l.Cancer Inst., 80, pp.1488-92(1988); カジ等(Qazi et al.), J.Nat'l.Cancer Inst., 80(18), pp.1486-92(1988); ベリー等(Berry et al.), Proceedings of ASCO, (266)8, 69(1989)参照。
【0009】
D−メチオニン
D−メチオニンは硫黄を含む求核剤であって、動物においてCDDPの抗腫瘍活性を低下させることなく、極めて有効な腎保護作用を提供する;ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-4(1989)参照。また、ジョーンズ等(Jones et al.)の一連の研究によれば、試験したおよそ40の硫黄化合物中、CDDPの殺腫瘍作用に干渉しない最も効果的な腎保護薬はD−メチオニンであった;ジョーンズ等(Jones et al.), Cancer Chemo.Pharm., 17, pp.38-42(1986); ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989); ジョーンズ等(Jones et al.), Toxicology, 68, pp.227-47(1991); ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.449-54(1991); ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.1939-42(1991); およびジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。
【0010】
硫黄含有保護薬およびシスプラチン誘発毒性の調節
研究によると個々の硫黄含有保護薬は特定の毒性、例えば腎毒性の軽減のみに有効であり、末梢ニューロパシーや中毒性難聴のようなその他の白金関連病状の阻止には有効でない。加えて、例えばCDDPのような白金化合物の部位特異的な(腹腔内)使用に続く領域限定の化学保護薬として有効な薬剤は全身的な保護は適当でなく、または抗腫瘍作用を阻害するかも知れない;シュバイツァー(Schweitzer), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)参照。硫黄含有化合物がすべて、あらゆるCDDPの毒性に対して保護効果を有するとは限らないし、この目的についてどの保護薬が有効で、どれが無効であるか予見することはできない。例えば、セフォキシチンは腎保護作用がない;ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。エチル-L-システイン酸およびN-(2-メルカプト-プロピオニル)グリシンはCDDP腎毒性を悪化させる;ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)参照。2-(メチルチオ)ニコチン酸はラットにおいて腎保護作用がない;ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.449-54(1991)参照。ペニシリンGのナトリウム塩はCDDP腎毒性または体重減少に対して保護作用がない;ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。同様にチアミン-HClはシスプラチン腎毒性または体重減少に対して保護作用がない;同書参照。
【0011】
一つのタイプのCDDP毒性に対して保護作用を有する硫黄含有化合物が他のCDDP毒性に対して保護作用がないのはよくあることで、そのような化合物の特異的抗毒性作用を予見することはできない。セファレキシンはCDDP誘発腎不全および体重減少に保護作用があるが、奇妙なことに腎病変の予防作用はない。ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。セフォキシチンはCDDP誘発体重減少に対していくらか保護作用を示すが、CDDP誘発腎毒性には保護作用がない。Id参照。ペニシリンGのナトリウム塩はCDDP誘発腎毒性および体重減少のいずれにも保護作用がない。同書。スルファチアゾールはCDDP誘発腎毒性に対して保護作用があるが体重減少についてはない。同書。
【0012】
WR2721はCDDPに対して優れた腎保護作用を示すが嘔気嘔吐を改善することはない。モールマン等(Mollman et al.), Cancer 61, pp.2192-5(1988); グローバー等(Glover et al.), J.Clin.Oncol., 5, pp.574-8(1987)参照。WR2721はまた、CDDP聴覚保護作用はないようである。グローバー等(Glover et al.)はCDDPの前にWR2721投与を受けた36名患者中20名に中程度から重度の聴覚障害を見出したが、腎保護作用は得られた。ルビン等(Rubin et al.), J.Laryngol.Otol., 109(8), pp.744-47(1995)は、CDDP投与前にWR2721投与を受けた患者において有意な聴覚閾値のシフトの出現率が45%であったと報告している。残念ながら、グローバー等(Glover et al.)もルビン等(Rubin et al.)も対照群をおいておらず、WR2721を投与した患者で中毒性難聴が多数発生したことを報告した。チャーチ等(Church et al.), Hearing Research, 86(1,2), pp.195-203(1995)はハムスターの実験で、WR2721に中毒性難聴または死亡の保護作用がないと報告した。
【0013】
たとえ、硫黄含有薬に保護作用が見出されてもその副作用が重篤で臨床適用が除外されることもある。さらに、CDDP聴覚保護作用のある化合物でもその保護作用に一貫性がない場合または副作用が重篤な場合には、臨床上使用されることはない。例えば、DDTCはCDDP誘発の腎毒性および中毒性難聴に対して保護作用を有するが、中毒性難聴に対する保護作用は部分的に過ぎず、副作用も重篤である。カジ等(Qazi et al.), J.Nat'l.Cancer Inst., 80(18), pp.1486-92(1988); ベリー等(Berry et al.), Proceedings of ASCO, (266)8,69(1989); ガンダラ等(Gandara et al.), Proc.Am.Assoc.Cancer Res., (959), Vol.30, p.241(1989); ガンダラ等(Gandara et al.), Anticancer Res., 9, pp.1121-8(1989); ガンダラ等(Gandara et al.), Sem. Oncol., 18(1), pp.49-55(1991); チャーチ等(Church et al.), Hearing Research, 86(1,2), pp.195-203(1995); ラビ等(Ravi et al.), Otolaryngol.Head Neck Surg., 107(2), p.232(1992); ローゼンバーグ等(Rothenberg et al.), J.Nat'l.Cancer Inst., 80, pp.1488-92(1988)参照。DDTCの用量がその副作用を改善するよう軽減されたら、CDDP副作用からの十分な保護は得られないかも知れない。パレデス等(Paredes et al.), J.Clin.Oncol., 6, p.955(1988)参照。同様に、ジスルフィラム(アンタビューズ)はDDTCの代謝物前駆体として使用できるが、感覚運動ニューロパシーや可逆的混乱を生じることがありこれらは用量制限的となる。アルゴブ等(Argov et al.), New.Enql.J.Med., 301(8), pp.409-13(1979); スチュワート等(Stewart et al.), Am.J.Clin.Oncol., 10(6), pp.517-19(1987)参照。その結果、DDTCがCDDPの化学保護薬として臨床上広く使用されることはありそうもない。逆に、以下の通り、D−メチオニンは完全な聴覚保護作用があり明らかな逆の副作用もない。
【0014】
最後に、多くの硫黄含有化合物がCDDPの抗腫瘍作用を阻害し、どの薬物がそのように作用しまたは作用しないか予見することはできない。こうして、CDDP保護を与える多くの薬物が臨床上では有用でない。例えば、カプトプリルはCDDP腎毒性に対して保護作用を有するがいっしょに投与すると直ちに沈殿物を形成し、抗腫瘍効果を邪魔してしまう。ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。L-メチオニンアミドは優れたCDDP腎保護作用を与えるが、CDDP抗腫瘍効果を損なう。ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.449-54(1991)参照。メタロチオネインは硫黄含有化合物であってその合成は次硝酸ビスマスの投与で誘導されるが、このものはCDDP腎保護作用を提供するものの、またCDDP抗腫瘍効果を阻害する。ナガヌマ等(Naganuma et al.), Cancer Res., 47, pp.983-7(1987); ブーガード等(Boogaard et al.), Biochem. Pharm., 41(3), pp.369-75(1991); サトウ等(Satoh et al.), Cancer Res., 53, pp.1829-32(1993) ; エンドレセン等(Endresen et al.), Acta Pharmacol.Toxicol., 55(3), pp.183-87(1984)参照。
【0015】
STSはCDDP腎毒性および中毒性難聴を軽減するが、聴覚保護作用は十分でないとの著者もいる。ファイフレ等(Pfeifle et al.), J.Clin.Oncol., 3, pp.237-44(1985);ホーウェル等(Howell et al.), Ann.Int.Med., 97(6), pp.845-51(1982); オットー等(Otto et al.), Hearing Research, 35, pp.79-86(1988); チャーチ等(Church et al.), Hearing Research, 86(1,2), pp.195-203(1995); マークマン等(Markman et al.), Cancer, 56, pp.2364-8(1985)参照。しかし、STSはCDDPといっしょに投与すると後者の殺腫瘍効果を低減し二つの経路で投与すると腎保護作用を示さないので、おそらく臨床上有用ではないであろう。ファイフレ等(Pfeifle et al.), J.Clin.Oncol., 3, pp.237-44(1985); アームダル等(Aamdal et al.), Cancer Treat., Rev.14, pp.389-95(1987); ジョーンズ等(Jones et al.), Anticancer Res., 11, pp.449-54(1991)参照。他の薬剤が存在しない場合においてさえ、STSは死亡例を増加させ体重減少を誘導する。オットー等(Otto et al.), Hearing Research, 35, pp.79-86(1988)参照。別の硫黄含有化合物であって好適なCDDP腎保護作用を与えるビオチンは抗腫瘍作用を阻害する。ジョーンズ等(Jones et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 18, pp.181-8(1992)参照。
【0016】
こうして、種々の硫黄含有化合物が特有の毒性について保護薬として作用し得る。C-SH-含有およびC-S-C-含有化合物を比較するとC-S-C-基の方がラット腎毒性の保護により有効であることが示された。ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)参照。しかしながら、C-S-C-基を有する化合物のすべてが有効なシスプラチン拮抗剤であると見出された訳ではない。
前出の議論は、どの特有の硫黄含有求核剤がどの特有の細胞、組織または器官において白金含有化合物保護作用を示すか確実に予見することは可能でないことを示した。実際、個々の化合物はある組織においてのみ保護効果を発揮するように思われる。こうして、いずれかの特定の組織において保護薬として機能するいかなる特有の求核硫黄化合物の能力も直接の実験によってのみ決定される。勿論、シスプラチンまたは関連する抗腫瘍白金含有化合物の抗腫瘍効果を実質上減少させない場合にのみ、そのような化合物は価値がある。
【0017】
デーガン等(Deegan et al.), Toxicology, 89, pp.1-14(1994)は、雄性ウィスターラットにシスプラチン−メチオニンを重量比で1:5の比で腹腔内に単回投与すると、シスプラチン誘発の腎毒性が現れないことを示した。彼らの結果はシスプラチン−メチオニンは有意に細胞毒性であるが、シスプラチン関連腎毒性を欠くことを示した。これらの仕事はヒト癌治療におけるメチオニンの併用またはシスプラチン−メチオニン化合物の役割を示唆した。けれども、驚くべきことに本発明者により見出された、メチオニンが有する特異的な聴覚保護、体重減少保護、胃腸管保護、神経保護、脱毛保護、または生存期間延長の効果は開示も示唆もしなかった。また、聴覚保護薬、体重減少保護薬、生存期間延長剤等としてメチオニンを研究することに何ら動機付けを与えないし、シスプラチン投与中にメチオニンがこのように作用することに何ら合理的な期待も抱かせなかった。最後に、ここで記載したとおり、デーガン等(Deegan et al.)はヒトにおいて種々の毒性に対する保護薬としてメチオニンをどのように用いるかに関して何ら示唆も指導も与えなかった。シュバイツァー(Schweitzer)がLaryngoscope, 103, pp.1-52(1993)、12頁で指摘しているとおり、種々の求核性硫黄保護薬が化学療法剤としての活性を維持しつつCDDPの腎毒性の阻止若しくは軽減に効果的であることが示されたが、各薬剤は個別に考えるべきである。抗腫瘍活性、個々のCDDP毒性に及ぼす効果および適切な投与計画がそれ自体を基本として個々の化合物について決定される必要がある。
【0018】
前述を考慮すると、抗腫瘍活性に干渉することなくD−メチオニンが有する聴覚保護薬、体重減少保護薬、胃腸管保護薬、神経保護薬、脱毛保護薬および生存期間延長剤としての高い効果は重篤な副作用を引き起こすようでもなく、決して予見できたものではない。実際、D−メチオニンの有利な効果の発見は、既に述べた多くの重要な問題、上述の議論および臨床使用できない上記の硫黄含有求核剤に直面することを考慮すると、驚きである。
【0019】
発明の要約
本発明者は、シスプラチンおよびその他の白金含有抗腫瘍化合物の種々の毒性を阻止しまたは軽減するのに有用な保護剤の分野で長期に渡る必要性に取り組んできた。これら保護剤は抗腫瘍効果を実質上損なうことなくまたそれ自身の投与により有害な副作用を引き起こさないものである。本発明者はまた、放射線の種々の毒性を阻止しまたは軽減するのに有用な保護剤の分野で長期に渡る必要性に取り組んできた。そして驚くべきことに、D−メチオニンおよびその構造上の関連化合物が抗腫瘍化合物による哺乳類の治療後若しくは治療中に、または放射線の照射中若しくは照射後に、聴覚保護剤、体重減少保護剤、胃腸管保護剤、神経保護剤、脱毛保護剤、粘膜炎保護剤および生存期間延長剤として使用できることを発見した。
【0020】
従って、本発明は一つの側面において、放射線に被曝されたヒト若しくは動物患者において粘膜炎を予防し若しくは軽減する方法に向けられている。その方法は患者に対してメチオニン若しくはメチオニン様部分を含む化合物を包含する保護剤の有効量を投与することを含む。
別の態様では本発明は抗腫瘍白金配位化合物の化学療法上の有効量による治療を受けているヒト若しくは動物の患者において粘膜炎を予防し若しくは軽減する方法に向けられている。その方法は患者に対してメチオニン若しくはメチオニン様部分を含む化合物を包含する保護剤の有効量を投与することを含む。
【0021】
一つの態様では、上記の保護剤は下記構造式
【化1】

〔式中、mは0から3の整数;nは1から3の整数;XはOR、−OCOR、−COOR、−CHO、−CH(OR)、若しくは−CHOH;Yは−NR若しくは−OH;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアルキル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアシル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアシル基〕
を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を含んでなる。
【0022】
他の態様では、上記の保護剤は、L-メチオニン、D-メチオニンおよびL-メチオニンの混合物、ノルメチオニン、ホモメチオニン、メチオニノール、ヒドロキシメチオニン、エチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、その薬学的に許容される塩およびその組み合わせからなる群より選択される
本発明の適用可能性の更なる範囲は以下の詳細な説明および図面から明らかになるであろう。しかしながら、以下の詳細な説明および実施例は本発明のある態様を示しているが、当業者であれば本発明の精神および範囲の中において可能な種々の変更および修飾が詳細な説明から明らかになるであろうが、これらは説明のためにのみ提供されたと理解すべきである。
本発明における上記およびその他の目的、特徴および利点は付随する図面を考慮して以下の詳細な記述からよりよく理解されるであろうが、これらはすべて説明のためであって本発明を限定するものではない。
【0023】
発明の詳細な説明
出願人は、D-メチオニンがCDDP誘発中毒性難聴を阻止し、CDDP誘発の体重減少を軽減し、CDDP誘発胃腸管毒性、粘膜炎、神経毒、および脱毛症から患者を保護し、動物でCDDP生存を改善することを示した。出願人はさらに、D-メチオニンが放射線照射で誘発される中毒性難聴の治療や、その他放射線照射で誘発される副作用、例えば、神経損傷、脱毛症、胃腸管障害、粘膜炎等の改善に有効で患者の生存を改善することを示した。
【0024】
ここで使用されるように、「中毒性難聴」の語は、聴覚と平衡感覚の変化を含む、耳の機能若しくは構造上の有害なまたは病因的変化をすべて包含するが、限定はされない。聴覚の機能変化とは、限定はされないが聴力低下や任意の刺激や音認識に対する聴覚閾値の変化を包含し、これには補充(音量知覚の異常発達)や、複数の音の同定、特定、認識、区別若しくは処理の能力、および/または音の変形または慣用的な聴覚試験で測定される任意の異常が含まれる。この語はまた、外部刺激に対する応答ではない音の認識を含む耳鳴(耳中の雑音または耳鳴り)を含む。さらに、中毒性難聴は平衡または内耳前庭系において測定される若しくは知覚される任意の機能的変化を包含し、限定はされないが、誘発される若しくは自発的なめまい、平衡障害、乗り物酔いの感受性増大、吐き気、悪心、眼振、失神、立ちくらみ、めまい、内耳前庭および平衡障害に続く視覚追跡困難、または任意の内耳前庭および平衡機能試験で測定されるような異常を含む。構造変化には、外耳からつながる聴覚若しくは内耳前庭への経路における細胞内若しくは細胞外の、多細胞性または器官の変化が含まれ、そして大脳皮質とその間にあるすべての経路が含まれる。
【0025】
「聴覚保護剤」の語は、中毒性難聴を阻止し、改善しまたはその他の場合中毒性難聴から保護する薬物をいう。
「神経毒性」の語は、限定はされないが、神経系またはその任意の部分における構造上のまたは機能上の有害なまたは病因的な任意の変化をいう。神経学的な機能変化には、限定はされないが、中枢若しくは末端のニューロパシーが包含され、一般的な「靴下と手袋」パターン、うずき、感覚喪失、しびれ感、減少した振動感覚、減少した深部腱反射、感覚性運動失調、神経炎、限局性脳炎、失語症、自律性ニューロパシー、起立性低血圧、筋無力症様症候群、筋痙攣、頭痛、発作、視神経若しくは視覚神経学的経路障害に続く失明または視覚障害、乳頭浮腫、聴覚神経経路の障害に続く聴覚喪失、および/または味覚喪失が含まれる。構造上の変化には、細胞内若しくは細胞外の、多細胞性または器官の変化が含まれ、いずれの神経系でもよく、末梢及び中枢系の両方が含まれる。神経毒性は白金含有抗腫瘍化合物による治療の最中またはその後に明らかとなり得る。
【0026】
「神経保護剤」の語は、神経毒性を阻止し、改善しまたはその他の場合神経毒性から保護する薬物をいう。
「胃腸毒性」の語は、限定はされないが、胃腸またはその任意の部分における構造上のまたは機能上の有害なまたは病因的な任意の変化をいう。胃腸管の変化には、例えば、現時点若しくは遅延型の吐気嘔吐、食道逆流、口内炎、胃腸器官の出血、下痢、体重減少および/または拒食症が含まれる。胃腸毒性は白金含有抗腫瘍化合物による治療の最中またはその後に明らかとなり得る。
「胃腸保護剤」の語は、胃腸毒性を阻止し、改善しまたはその他の場合胃腸毒性から保護する薬物をいう。
【0027】
「粘膜炎」の語は、体内粘膜細胞の膨れ、炎症若しくは潰瘍をいう。一般には、粘膜炎は、中耳、目、鼻、鼻腔、膣、尿路および口から肛門に至る消化器官の任意の部位に生じ得る。特に粘膜炎は、器具(例えば、入れ歯による口腔粘膜炎、挿入カテーテルによる粘膜炎等)によって生じた組織炎症または膨れにより起こり得る。ここで使用するように、粘膜炎の語は一般に、口腔粘膜炎(口腔粘膜の膨れ、炎症若しくは潰瘍)、食道粘膜炎(食道粘膜の膨れ、炎症若しくは潰瘍)、胃腸粘膜炎(胃腸粘膜の膨れ、炎症若しくは潰瘍)および耳の粘膜炎(耳の円形窓膜または中耳の膨れ、炎症若しくは潰瘍)、目の粘膜炎、鼻腔および鼻の粘膜炎および膣と尿路の粘膜炎を含むすべての形態を包含する。
「粘膜炎保護剤」の語は、粘膜炎を阻止し、改善しまたはその他の場合粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎、食道粘膜炎、および/または胃腸粘膜炎)から保護する薬物をいう。
【0028】
メチオニンとその誘導体
D-メチオニンは種々の目的でヒトに投与される。たとえば、C-ラベルしたD-メチオニンは放射性造影のために用いられ、経静脈栄養のためにDL-メチオニンが投与される;メイヤー等(Meyer et al.), Eur.J.Nucl.Med., 10,373-6(1985);プリントン等(Printen et al.), Am.J.Clin.Nutr., 32, pp.1200-05(1979)参照。D-メチオニンはまた、栄養学的研究のためヒトに経口的に安全に投与される;カジ等(Kaji et al.), Res.Comm.Chem.Path.Pharm., 36(1), pp.101-9(1987); キース等(Kies et al.), J.Nutr., 105, pp.809-14(1975); およびステギンク等(Stegink et al.), J.Nutr., 116, pp.1185-92(1986)参照。経口メチオニンが尿のpH制御剤として薬局で市販されている;Drug Facts and Comparisons, 3d ed., p.2115(J.P.Lippincott Company, St. Louis, 1991)参照。肝臓疾患の病歴の患者は禁忌とされ、高用量のメチオニンを長期間与えると子供の成長を阻害する危険性がある。
【0029】
本発明において有用なメチオニンの誘導体若しくは類縁体は、メチオニン部分若しくはチオエーテルを含むメチオニン様部分を含む化合物であって、抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上の有効量とともに、または放射線照射とともに使用された場合に聴覚保護効果、体重減少に対する保護効果、胃腸保護効果、粘膜炎に対する保護効果、神経保護効果、脱毛症に対する保護効果、および/または生存延長効果を示す。
【0030】
本発明において用い得るD-メチオニンと構造上関連する化合物中にはC-S-C-(チオエーテル)部分を含むものがある。これらの中には、限定はされないが以下の化学式
【化2】

〔式中、mは0から3の整数;nは1から3の整数;XはOR、−OCOR、−COOR、−CHO、−CH(OR)、若しくは−CHOH;Yは−NR若しくは−OH;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6、好ましくは1から4のアルキル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアシル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6、好ましくは1から4のアシル基を表す〕
を有する化合物またはその薬学的に許容される塩が含まれる。
【0031】
ここで記載される低級アルキル基及びアシル基は、単独またはここで定義される種々の置換基を含めて主鎖に1個から6個の炭素原子を含み、全体としては約15個までの炭素原子を含むことができる。
低級アルキル基には、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が含まれる。置換アルキル基および置換アシル基の置換基としては、例えば、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、O、S、N、Pおよびハロゲン(Cl、F、Br、またはI)から選択される群が含まれ得る。また、これら置換基に置換するアルキル基、シクロアルキル基等は任意でO、S、N、Pまたはハロゲン(Cl、F、Br、またはI)で置換され得る。これら置換基に置換するアルキル基、シクロアルキル基等には例えば、メトキシ、エトキシ、およびブトキシのような低級アルコキシ基、そしてハロ、ニトロ、アミノおよびケトのような基が含まれる。
【0032】
ここで記載されるアルケニル基は、単独またはここで定義される種々の置換基を含めて好ましくは主鎖に2個から6個の炭素原子を含む低級アルケニル基であって、全体としては約15個までの炭素原子を含むことができる。これらは置換を受け、直鎖若しくは分枝鎖を有することができ、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ヘキセニル、等が含まれ得る。
ここで記載されるアルキニル基は、単独またはここで定義される種々の置換基を含めて好ましくは主鎖に2個から6個の炭素原子を含む低級アルキニル基であって、全体としては約15個までの炭素原子を含むことができる。これらは置換を受け、直鎖若しくは分枝鎖を有することができ、エチニル、プロピニル、イソプロピニル、ブチニル、イソブチニル、ヘキシニル、等が含まれ得る。
【0033】
ここで記載されるアリール基は、単独またはここで定義される種々の置換基を含めて6個から15個の炭素原子を含むことができ、フェニルが含まれる。置換基としてはアルカノイル、保護ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニル、アシル、アシルオキシ、ニトロ、アミノ、アミド、等が含まれる。好ましいアリールはフェニルである。
ここで記載されるヘテロアリール基は、単独またはここで定義される種々の置換基を含めて6個から15個の原子を含むことができ、フリル、チエニル、ピリジル等が含まれる。置換基としては、アルカノイル、保護ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニル、アシル、アシルオキシ、ニトロ、アミノ、アミドが含まれる。
ここで記載されるアシルオキシ基は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはヘテロアリール基を含むことができる。
メチオニンまたはメチオニン様部分の主構造を構成する炭素原子、即ち、メチル基もしくはメチレン基はまた上記の種々の置換を受けることができる。
【0034】
このようなメチオニン保護薬の非制限的な例としては、D−メチオニン、L−メチオニン、D−メチオニンおよびL−メチオニンの混合物、ノルメチオニン、ホモメチオニン、メチオニノール、ヒドロキシメチオニン、エチオニン、またはその薬学的に許容される塩が含まれ得る。S-アデノシル-L-メチオニンまたはその薬学的に許容される塩もまた使用することができる。本発明のメチオニン保護薬はD-体、L-体、またはDL-体でも可能であって、その薬学的に許容されるN-(モノおよびジカルボン酸)アシル誘導体およびアルキルエステルが含まれる。例示的なアシル誘導体には、ホルミル、アセチル、プロピオニル、およびサクシニル誘導体が含まれる。例示的なエステル誘導体には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびブチルエステルが含まれる。D-メチオニンが好ましい化合物である。
総括的には、上記の他の化合物とともに、メチオニンは「メチオニン保護薬」ということができる。これらの化合物は単独でまたは種々に組み合わせてここで記載する方法に使用することができる。
【0035】
別の態様では、該保護薬はN-アセチルシステイン(NAC)、アセチル-L-カルニチン(ALCAR)、リポ酸およびその組み合わせよりなる群から選択される。加えて、NAC、ALCARおよびリポ酸は単独でまたは上記メチオニン保護薬と組み合わせて使用することができる。
これら化合物は単独でまたはここで議論した他の薬物と組み合わせて、水溶性酸、遊離塩基または薬学的に許容される塩の形態で投与することができ、有機酸若しくは無機酸との酸付加塩の形態、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩等、およびナトリウム、カリウム等のカチオンが含まれる。これらの化合物は、薬学的に許容される担体、賦形剤、および希釈剤、例えば当業者によく知られているように、無菌的蒸留水、リンゲル液、通常の生理食塩水、5%グルコース、デキストロース、フルクトース、シュクロース等、およびこれらの混合物と製剤化しヒトおよび動物に対して投与することができる。また、抗菌剤や保存剤等を含ませることもできる。経口投与のための組成物には着色剤や香料を加えることもできる。ここで記載した方法で投与するための本発明化合物の製剤化の追加的方法は、例えば、レミントン(Remington)のPharmaceutical Sciences, 第15版, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1975、中に見出すことができる。
【0036】
抗腫瘍白金化合物
シスプラチン〔CDDP;シス-ジアミンジクロロ白金(II)〕は現在、精巣癌、卵巣癌、および種々のその他の癌の治療に最もよく使用される抗腫瘍性白金配位化合物である。臨床におけるCDDPの使用方法は当業者によく知られている。Nicolini,M.(Ed.)「癌化学療法における白金およびその他の金属の配位化合物 癌化学療法における白金およびその他の金属の配位化合物に関する第5回国際シンポジウム予稿集、パドア、イタリア、6月29日-7月2日、1987年」(Martincis Nijhoff Publishing, Boston 1987)参照。例えば、CDDPは月に一度、一日6時間かけてゆっくりと静脈内注入により投与することができる。局所部位においてはCDDPは局所注入することができる。腹腔内注入もまた用いることができる。多薬の処方の一部が、または患者が高用量に対して副作用を生じる場合は、CDDPは治療あたり10 mg/mの低用量で投与することができる。低用量限界で最も通常の臨床量は約30 mg/mであり;高用量の限界は治療あたり約150 mg/mである。D-メチオニンまたは他のメチオニン保護薬とあわせて使用するとこの用量を増量することができる。
【0037】
CDDPは抗腫瘍活性を有するイオンの形態で白金を提供する、業界でよく知られた水溶性の白金配位化合物の広い分類の代表物である。文献上記載された抗腫瘍性白金配位化合物の中で本発明の方法で有用なものは例えば、トランス-ジアミノジクロロ白金(II)、シス-ジアミノジアクア白金(II)-イオン、シス-ジアミンジクロロ白金(II)-イオン、クロロ(ジエチレントリアミン)白金(II)クロリド、ジクロロ(エチレンジアミン)白金(II)、ジアミン(1,1-シクロブタンジカルボキシレート) 白金(II)(カルボプラチン)、スピロプラチン、ジクロロトランスジヒドロキシビスイソプロポラミン白金(IV)(イプロプラチン)、ジアミン(2-エチルマロネート)白金(II)、エチレンジアミンマロネート白金(II)、アクア(1,2-ジアミノジクロヘキサン)スルファト白金(II)、(1,2-ジアミノシクロヘキサン)マロネート白金(II)、(4-カルボキシフタレート)(1,2-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)、(1,2-ジアミノシクロヘキサン)(イソシトラート)白金(II)、(1,2-ジアミノシクロヘキサン)シス(ピルベート)白金(II)、および(1,2-ジアミノシクロヘキサン)オキサレート白金(II)である。
【0038】
抗腫瘍薬
化学療法においては種々の抗腫瘍薬およびその組み合わせが使用される。これらの薬剤は他の化学療法による治療や放射線療法とあわせて用いることができる。単独でおよび/または他の療法と組み合わせて使用する場合、白金含有化合物以外の薬物が粘膜炎およびその他の副作用を引き起こすことがある。こうして、本発明の方法は、L-アスパラギナーゼ、アラ-C、ブスルファン、シクロホスファミド、ドセタキセル、ドキソルビシン、エダトレキセート、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲンシタビン、イダルビシン、イフォサミド、イリノテカン、ロイコボリン、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ラルチトレキシド、チオテパ、ビノレルビンの投与により引き起こされる粘膜炎の治療に有用である〔Cancer, 2004, vol.100(9), pp.2007-2008〕。
【0039】
放射線療法
一般に、種々の光源からの電磁放射に長時間被曝されると粘膜炎、中毒性難聴、皮膚損傷その他の組織損傷が引き起こされる。放射線療法、紫外線(UV)放射、マイクロ波放射、ガンマー線、X線等の種々のタイプの放射線被曝がある。
放射線照射のように意図的な被曝であろうと、事故や戦争、テロリストの行為による意図しない被曝であろうと、中毒性難聴の他、神経損傷(神経毒性)、脱毛症、胃腸障害、粘膜炎、皮膚損傷が起こり得、患者の生存期間が削られる。化学的というより物理的ではあるが、耳科および聴覚に対する毒性の観点からは放射線はもう一つの耳性毒と考えられる。放射線による難聴は、ループ利尿剤や白金含有化合物による難聴よりも中耳を含みやすい。しかしながら、蝸牛や神経の問題も生じ得る。
放射線による中毒性難聴は、単回でまたは蓄積量が35-40Gyの放射線に被曝すると起こり得る。放射線による胃腸毒性は化学療法において生じるものと類似していて、電解質損失、二次感染、出血性下痢、胃腸管出血が含まれ、約5 Gyから約20 Gy若しくはそれ以上の放射線量に被曝すると起こり得る。
【0040】
粘膜炎
意図しない放射線の被曝、例えば事故や戦争、テロリストの行為、そして日光に当たりすぎた場合等;そして特に意図的な放射線への被曝、例えば癌細胞を殺すべくデザインされた化学療法や放射線療法中に与えられる放射線量等は周辺の正常組織に不可避的な変化をもたらし、全体の細胞機能と宿主防御を危うくして重篤な合併症につながることがあり得る。例えば、習慣的なレベルの化学療法および放射線療法または条件付き処方で用いられる高用量レベル(例えば、骨髄移植の準備のための全身照射)はしばしば紅斑、萎縮、消化器官粘膜の潰瘍をもたらして、一般に粘膜炎といわれる状態になる。粘膜炎は消化器官の口から肛門の間のどこにでも、例えば口腔粘膜、食道粘膜または胃腸管粘膜等に表れる。以下の記述は口腔粘膜炎(即ち、紅斑、萎縮、または口腔粘膜の潰瘍)の予防若しくは治療のためのメチオニン保護剤の使用を詳細に開示するが、ここで記載された原理は他の粘膜炎の形態にも一般に適用できると理解すべきである。
【0041】
化学療法および/または放射線療法を受けているすべての患者のおよそ半数が重篤な粘膜炎を生じてそれが用量の制限となっている。こうして、用量制限的な口腔粘膜炎という厄介な結末なしにより集中的な治療を用いることができれば、永続的な病気の寛解と治療率が増強されるかもしれない。
特定の理論に固執しなくても、口腔粘膜炎の病態生理は、局所組織損傷、局所の口腔環境、患者の骨髄抑制の程度、そして症状を生じさせる患者の本質的な素因の複雑な相互作用に起因すると信じられる。口腔粘膜炎の一つの生物学的なモデルは四つの相関する相を基礎とし、これには、初期の炎症/血管相、上皮相、潰瘍性/微生物学的な相、および治癒相が含まれる。炎症相では、化学療法剤が上皮組織からインターロイキン1(IL-1)および腫瘍壊死因子α(TNF-α)を放出させる。IL-1が炎症を媒介して血管を広げその部位における化学療法剤濃度を増加させるかもしれない。TNF-αは、おそらくは程度を高めながら組織損傷を引き起こす。口腔粘膜炎の発症においておそらく重要であり治療剤としての潜在的な適用がある他のサイトカインとしては、インターロイキン11(IL-11)およびトランンスフォーミング成長因子β3(TGF-β3)が含まれる。
【0042】
上皮層では、化学療法および/または放射線照射が口腔粘膜上皮の細胞分裂を遅延させ上皮のターンオーバーと再生の抑制をもたらす。化学療法開始4-5日目でその結果は増大した血管増生と上皮萎縮に起因する紅斑となる。会話や嚥下および咀嚼のような日々の活動による微視的損傷は潰瘍につながる。続く潰瘍性/微生物学的な相(この間に好中球減少症が生じる)において、潰瘍の微生物定着化がおそらく生じ粘膜組織へエンドトキシンが流入してさらにIL-1とTNF-αが放出される。第四の最終治癒相では、潰瘍の再上皮化を伴う細胞増殖が生じ、白血球再構築が局所の微生物制御に影響を及ぼして潰瘍が消散する。
さらには、外傷やその他の傷、刺激的な器具(例えば入れ歯)、その他上皮損傷および刺激または口や消化器の炎症が原因となり粘膜炎が発生し得る。加えて、粘膜炎は免疫機能の障害、唾液分泌低下、歯周病、虫歯によっても発生し得る。上記の項目に加えて「貧弱な腸機能」もまた胃腸に粘膜炎を発生させ得る。
【0043】
皮膚損傷
上記の副作用に加えて、化学療法剤および/または放射線照射で患者を治療すると、皮膚損傷を起こし得る。放射線照射は意図した場合も事故による場合もあり得る。戦争の最中やテロリストによる攻撃、日光への当たり過ぎ、または癌細胞を殺すためにデザインされた化学療法や放射線療法における放射線量への被曝によっても起こり得る。皮膚問題の範囲が生じ得る。特に、放射線被曝は軽度から重篤な紅斑(即ち、毛細管膨張による皮膚の発赤)、乾燥落屑(例えば、火傷、乾燥鱗状紅斑等)、湿潤落屑(例えば、まめや湿潤鱗状紅斑等)および感染若しくは被曝部分の膨れ等を起こすことがある。日焼けは紅斑の一形態と考えられる。
【0044】
メチオニン保護剤の投与
本発明のメチオニン保護剤は一般に広範な種類の手段のいずれによっても投与することができる。例えば、メチオニン保護剤が経口投与、非経口投与、口腔内投与、舌下投与、直腸投与、局所投与、経鼻投与、点眼・点鼻投与または吸入により投与され得ることは本発明において予定されている。より好ましい態様では、該保護剤は経口的に、またはレミントン(Remington)のPharmaceutical Sciences, 第15版, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1975に記載のように、例えば腹腔内、静脈内注射、静脈内注入等、非経口的に投与される。該保護剤はまた局所投与によっても投与できる。メチオニン保護剤の局所投与は、当業者に知られている局所注射等、その目的のための薬学的製剤を使用して実施される。
【0045】
加えて、本発明の保護剤の局所投与にはクリーム、ゲル、ペースト、溶液、パッチまたはその他の皮膚への局所製剤による投与が含まれ、その他の製剤による投与としては例えば外耳、中耳若しくは正円窓膜に対する溶液若しくは局所製剤の投与、例えば外耳、中耳若しくは正円窓膜に対する点耳剤投与がある。
本発明の保護剤の局所投与はある種の放射線誘発若しくは化学療法誘発組織損傷に対して特に有利である。特に、放射線被曝に起因する皮膚損傷(例えば、紅斑、日焼け、乾燥鱗状紅斑、湿潤鱗状紅斑、膨れ等)軽減するため、局所製剤を皮膚に適用することができる。さらには、耳性の粘膜炎治療には局所製剤が好ましい。特に、耳性粘膜炎治療に使用される局所製剤は中耳、外耳または正円窓膜に適用される。さらには、点耳剤が耳性粘膜炎の治療に局所投与され、中耳、外耳または正円窓膜に適用される。
【0046】
白金含有化学療法剤と同時投与される本発明のメチオニン保護剤の投与にはいくつかの方法がある。例えば、各薬剤を別個に製剤化して、ここに記載した経路若しくはその他の当業者の慣用的な経路で任意に別々に同時に投与することができる。或いは、両者をあわせて単一の投与剤形とし単一の経路で投与することもできる。白金含有化学療法剤の場合と同様に、メチオニン保護剤の用量も一日で投与することができる。
【0047】
用量
ここで記載したメチオニン若しくはメチオニン様部分を包含する保護剤は、中毒性難聴、体重減少、胃腸毒性、粘膜炎、神経毒、脱毛症を予防し若しくは軽減し、及び生存期間を延長するために、白金含有化学療法剤の抗癌有効量で治療を受けているヒト若しくは動物の患者を治療する方法において使用することができる。加えて、ここで記載した保護剤は、中毒性の難聴やその他放射線誘導神経損傷、脱毛症、粘膜炎、および胃腸障害を引き起こし得るレベルの放射線照射を受けているヒト若しくは動物の患者を治療する方法において使用することができる。本発明のメチオニン保護剤はまた、放射線照射を受けている患者の生存を改善することができる。
本発明の方法はメチオニン若しくはメチオニン様部分を包含する保護剤の適切な有効量を患者に投与することを含み、その投与は白金含有化学療法剤の投与と同時に、若しくはその投与に続いて、またはその患者の放射線照射に続いてなされる。これらの期間の組み合わせもまた用いられる。
【0048】
非経口的投与の場合、保護剤の有効量は約1.0 mg/kg体重から約600 mg/kg体重の範囲である。より好ましくは、保護剤の有効量は約5 mg/kg体重から約500 mg/kg体重の範囲であり、更に好ましくは約10 mg/kg体重から約400 mg/kg体重の範囲である。
或いは、保護剤の有効量は白金含有化学療法剤の抗癌有効量に関連してモル:モル基準で表現することもできる。この有効量は、保護剤:白金含有化学療法剤のモル基準で約4:1から約167:1、より好ましくは約4.25:1から約100:1、最も好ましくは約4.68:1から約20:1の範囲である。モル基準で約18.75:1の用量比が好ましい比である。
もし必要ならば、上記の量および比は異なる白金含有化学療法剤、または放射線照射について、ここで記載した方法による有効性の監視と所望の効果のための漸増を含んだ日常的な最適化により変更することができる。
【0049】
経口投与の場合は、上記の非経口投与で達成されるのに等しい血清中濃度となるような量で保護剤が与えられるべきである。そのような経口の有効投与量は当該分野の通常の技術により、例えばレミントン(Remington)、 Pharmaceutical Sciences, 第15版, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1975に記載されたin vitroまたはin vivoの慣用法で容易に決定できる。
局所投与の場合は、通常、保護剤の有効量が例えば局所溶液のような薬学的製剤として投与される。典型的には、局所溶液は約10 mg/mlから約50 mg/ml、好ましくは約20 mg/mlから約30 mg/ml、最も好ましくは約50 mg/mlの保護剤を含む。
【0050】
治療レジメ
本発明の種々の方法では、白金含有化学療法剤の有効量の投与または患者の放射線の被曝の前に、同時にまたはそれらに続いて保護剤の有効量を投与することができる。これらの投与時期の組み合わせもまた利用できる。一般には、保護剤の有効量の前投与は、概して白金含有化学療法剤の投与または患者の放射線の被曝の2日くらい(即ち、約48時間以下)前までの期間内に行なうことができる。同様に、白金含有化学療法剤の有効量の投与に続く保護剤の有効量の投与は、概して白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の2日くらい(即ち、約48時間以上)後までの期間内に行なうことができる。
好ましくは、メチオニン保護剤の有効量の前投与は、白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の前、約24時間以内になされ、続く投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の後、約24時間以内になされる。より好ましくは、前投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の前、約6時間以内になされ;続く投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の後、約6時間以内になされる。さらに好ましくは、前投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の前、約4時間以内になされ;続く投与はその後、約4時間以内になされる。さらにより好ましくは、メチオニン保護剤の有効量の前投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の前、約1時間以内になされ;続く投与はその後、約1時間以内になされる。またさらにより好ましくは、メチオニン保護剤の有効量の前投与は白金含有化学療法剤の投与または放射線の被曝の前、約半時間以内になされ;続く投与はその後、約半時間以内になされる。
【0051】
白金含有化学療法剤は非経口的に、例えば上記のとおり遅い静脈内注入または局所注射によって投与することができる。メチオニン保護剤も上記のとおり、好ましくは経口的に、静脈注射若しくは遅い注入により非経口的に、腹腔内または局所に投与することができる。
本発明の好ましい態様では、放射線被曝による粘膜炎の予防若しくは治療にはその放射線被曝の前、それと同時にまたはそれに続いて保護剤の有効量が投与され得る。例えば、患者に対する保護剤の投与が放射線被曝の6時間前からその6時間後の間、好ましくは4時間前から4時間後の間、より好ましくは2時間前から2時間後の間、更に好ましくは1時間前から1時間後の間になされるとヒト若しくは動物患者において粘膜炎を有意に軽減し若しくは予防できることが見出された。
【0052】
白金含有化学療法剤や放射線被曝による遅延毒性が観察される。本メチオニン保護剤の保護効果は、患者の化学療法の最中におよび/または必要に応じてその後に補充的な方法でそれらを投与することにより増強することができる。こうして、ここで述べた方法は、保護剤の補充量(即ち、その有効量に追加する保護剤の量)をほぼ毎日、毎日、または毎週投与することを更に包含する。
換言すると、その血中レベルを維持するために保護剤の補充的用量を投与することはしばしば有益である。一般に、保護剤の補充量の投与はヒト若しくは動物患者において、保護剤の有効量を投与した場合にもたらされる血清中濃度の少なくとも約10%、好ましくは約20%から約70%、より好ましくは約40%以内の血清濃度を維持するように、なされるべきである。典型的には、そのような補充的用量は保護剤の有効量の投与で説明した用量および時間枠内で、例えば、ほぼ毎日、毎日、または毎週、有効量の投与後約1日から14日間の期間中投与される。
【0053】
上記のメチオニン保護剤の有効量の場合と同様、補充的なメチオニン保護剤も一般に広範な手段の中からいずれの方法によっても投与することができる。典型的には、保護剤の補充量は保護剤の有効量と同様にして投与される。保護剤の補充量は好ましくは経口的に;静脈注射若しくは遅い注入により非経口的に;腹腔内または局所に投与することができる。非経口的投与の場合、メチオニン保護剤の補充量は、好ましくは約1.0 mg/kg体重から約600 mg/kg体重の範囲である。より好ましくは、保護剤の有効量は約5 mg/kg体重から約500 mg/kg体重の範囲であり、更に好ましくは約10 mg/kg体重から約400 mg/kg体重の範囲である。
【0054】
或いは、毎日若しくは毎週非経口的に投与されるメチオニン保護剤の補充量は、白金含有化学療法剤の抗癌有効量と関連してモル:モル基準で表現することもできる。この有効量は、保護剤:白金含有化学療法剤のモル基準で約4:1から約167:1、より好ましくは約4.25:1から約100:1、最も好ましくは約4.68:1から約20:1の範囲である。モル基準で約18.75:1の用量比が好ましい比である。モル基準で約18.75:1の用量比が好ましい比である。
毎日投与される経口または非経口用量は上記に掲げた範囲内とすることができる。経口投与の場合、上記の種々の非経口投与で達成されるのに等しい血清中濃度となるような毎日または毎週の用量が設定されるべきである。
【0055】
局所投与の場合、上記の有効量の投与と同様にし、典型的には局所溶液のような薬学的製剤として保護剤の補充量を投与することができる。一般に、補充的な局所投与は、約10 mg/mlから約50 mg/ml、好ましくは約20 mg/mlから約30 mg/ml、最も好ましくは約50 mg/mlの保護剤を含む局所溶液の適用を含む。
ここに表した結果を眺めれば、医学または獣医学の熟練者はここに記載された化合物、組成物および方法を使用することにより、動物、特にヒトの前述したパラメータのいずれをも、業界で日常的に使用される試験で測定した場合の、化学療法、他の治療若しくは被曝前の約70%から約80%のレベル、より好ましくは約80%から約90%のレベル、最も好ましくは約90%から約100%のレベルで維持することができるであろう。これらの化合物または方法はまた家庭内のペット、例えばイヌやネコの治療についても使用可能である。
【0056】
ここでの教示事項は、CDDPのような白金含有抗腫瘍化合物の望ましくない副作用を軽減し、そのような抗腫瘍化合物の用量を増加させて癌治癒率を高め、そしておそらくはそのような抗腫瘍化合物を用いる治療手順における弱い患者を包含するために使用される治療レジメをデザインすることを可能とする。そのような患者は関連する毒性に抵抗できないので現状では除外されているのである。ここで開示された教示事項はまた、放射線の好ましくない副作用である聴覚の毒性、および放射線によるその他の副作用、例えば、神経損傷、脱毛症、胃腸障害、粘膜炎および患者生存率の減少等を予防し若しくは軽減するために有用な治療レジメをデザインすることを可能とする。
【0057】
CDDPのような白金含有抗腫瘍化合物の抗腫瘍有効量を投与する前、投与中または投与後に、またはこれら投与期間を種々組み合わせてD-メチオニンを投与することは、D-メチオニンがCDDPの抗腫瘍作用に干渉しないことを考えると特に有用である。ジョーンズとベージンガー等(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)およびメルビク等(Melvik et al.), Inorganic Chimica Acta, 137, pp.115-18(1987)参照。
D-メチオニンおよび構造上の関連化合物は、化学療法中にCDDPのような白金含有抗腫瘍化合物と併用して、および上記の放射線使用と併用して用いることができる。これらメチオニン保護剤はまた雑音及び放射線の聴覚毒性効果、およびその他上記の放射線副作用を予防し若しくは軽減するために使用することができる。
【0058】
治療レジメの最適化
本発明の方法では、患者の聴覚および内耳前庭系に関連する種々のパラメータを業界でよく知られている方法で測定し治療前の基準値を確定することができる。メチオニン保護剤を投与した後、そして化学療法が終了した後に慣用的な方法で聴覚毒性効果をモニターすることができる。そして、治療前の結果と比較して何か変化が生じていないか決定することができる。何かの障害が観察された場合は、白金含有化学療法剤または放射線照射の後の用量と連動して投与される保護剤の投与時間および量を調節して、白金含有化学療法剤または放射線照射の抗腫瘍効果を実質的に損なうことなく、さらなる聴覚毒性効果を予防し若しくは軽減することができる。白金含有化学療法剤または放射線による体重減少や胃腸毒性、白金含有化学療法剤または放射線による神経毒性、白金含有化学療法剤または放射線による脱毛症、および白金含有化学療法剤または放射線による総合的な患者の状態/生存率の場合も治療パラメータの同様な変更により該保護剤の保護効果をそれに関して最適化することができる。このことは適切な試験と治療前後の値例えば患者の体重や物理的/医学的/生理的状態等を比較し、必要なようにプロトコールを調節して達成することができる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は本発明をさらに説明し図示することのみを意図する。従って、本発明はこれら実施例のいずれの細部にも限定してはならない。
実施例1
D-メチオニンの聴覚保護効果
この実験は、CDDPで例示される白金含有抗腫瘍化合物の使用に関連する種々の異なる副作用の毒性を阻止する、D-メチオニンの効力を動物で示すものである。
材料と方法
【0060】
動物
当業者によく知られているとおり、ヒトにおけるCDDP毒性の研究でラットはよく受け入れられる実験動物である。
5匹の雄性ウィスターラット(280-421g)よりなる5群から完全なデータのセットが得られた。すべての動物はあらゆる注射および試験前に1ml/mgIMのロンパン(Rompun)カクテル(ケタミン86.21mg/mlおよびキシラジン2.76mg/mlを含む溶液)で麻酔した。麻酔は、試験中必要に応じて半分量を補った。5群中には、通常の蒸留水に溶解したCDDP16mg/kg(CDDP1mg/ml蒸留水;溶液のpH 6.3)をハーバード器具注入ポンプにより30分かかって腹腔内に注入した処置対照群;CDDPに代えて通常の生理食塩水(pH 6.5)を等量投与した未処理対照群;および対照群と同じCDDP注入の30分前に、D-メチオニン75、150、および300 mg/kgをそれぞれ通常の生理食塩水(溶液pH 6.5)3-5mlに溶解してゆっくりと(1-2分で)腹腔内に注入した三つの試験群を含む。CDDP(Sigma Chemical Co., St.Louisから購入)およびD-メチオニン(Acros Organics, Pittsburgh, PAより購入)は各試験前に新たに調製した。試験期間終了時までに50%の動物しか生存しないため、完全なデータを得るために処置対照群には10匹の動物が必要であった。未処理対照群および試験群は試験期間終了時までそれぞれの群の動物がすべて生存したので5匹の動物のみが必要であった。
動物の飼育と使用はすべて南イリノイ大学の医学部・動物飼育と使用委員会の承認を受け、同大医学部実験動物薬ユニットの監督下に置かれた。
【0061】
誘発電位
聴覚脳幹試験(ABR)を用いて聴覚閾値を評価した。CDDPまたは生理食塩水の投与直前に試験し、3日後再び試験した。試験はすべて動物を二重壁のIACブース内において行なった。
白金/イリジウムの針電極を頭頂(非反転)と同側耳介の直下点(反転)におき、接地電極を後肢においた。
【0062】
ABRデータの収集は特注の14000Hz高周波数発生器を追加したバイオロジック・トラベラー(Biologic Traveler)システムで行なった。ABR閾値は、100マイクロ秒クリック音およびトーンバースト音への応答を測定した。後者は1 ms 立ち上がり/立下り、0 msのプラトー、ブラックマン(Blackman)エンベロープにより開かれ中心が1、4、8、および14 kHzの周波数で、刺激頻度は10/sとした。各動物において、クリック刺激の場合は0 dBから100 dBの等価音圧レベル、トーンバースト音の場合は10 dB減少した音圧レベルで連続的強度が得られた。等価音圧レベル(peSPL)の語は、刺激前の基礎レベルから第一のピークへのクリック刺激の振幅が、同じ刺激前の基礎レベルからピークまでの振幅を有する純粋音刺激のSPLと等しいことを意味する。閾値とは再生可能で視覚的に検出できる応答を誘発できる最低の強度と定義された。
全部で512本の掃引が各平均を構成した。記録のエポックは刺激発現に続いて15msであった。応答は30-3000 Hz帯域でフィルターをかけられたアナログであった。
直腸温度を記録中モニターし、動物体温を布団で維持した。
【0063】
電子顕微鏡
動物は一般麻酔下で断頭して犠牲死させ、蝸牛を外リンパ腔を通じて固定剤で灌流した。固定剤としては4℃で0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.4)中2.5%グルタルアルデヒドを基本的に用いた。三面を尖らせたピックで耳包中最初の折り返しの下に小孔を空けた。犠牲死から5分以内にIn vitroの灌流を鼓室階の小孔から断続的に行い、灌流液を開放した前庭窓から排出させた。灌流固定化の後、円形の窓膜を除去し蝸牛をグルタルアルデヒドに浸して冷蔵庫内で終夜保存した。
グルタルアルデヒド中で終夜固定した後、蝸牛を0.1Mリン酸緩衝液ですすぎ、灌流シリンジの管末端を開放された鼓室階の小孔に緩やかに装着して、該緩衝液で穏やかに外リンパ腔を通じて灌流した。その後、緩衝液で3回すすいだ。すすぎの後、ドラフト内で蝸牛をリン酸緩衝液中1.5%OsO(4℃)で灌流し後固定した。同じ固定液中に15分間浸し回転させて固定を継続した。グルタルアルデヒド固定と同じ要領で蝸牛をすすいだ。
【0064】
解剖用顕微鏡下で蝸牛の骨嚢を注意深く除去した。
2×50%、70%、85%、95%、および3×100%エタノールで組織を連続的に脱水した。各標本をペルドリ(Peldri)を用いて乾燥し13nm白金でスパッターコーティングするためにスタブ上に置いた。日立S-500走査電子顕微鏡で組織を観察し、ポラロイド55ランドフィルムで写真撮影した。
以下の要領で外部有毛細胞につき回転ごとに半定量的分析を実施した;蝸牛、尖端、中部、基底、の各回転について代表的な試料を試験した。各試料につき、11の内有毛細胞が33の外有毛細胞または列ごとに11の細胞の部分を数える手引となる。各試料ごとに損傷した若しくは失われた外有毛細胞の数を数えた。
体重
試験前の麻酔剤投与前および試験の3日後に再びオーハウスの三重竿秤で各動物の体重を測定した。
【0065】
統計的分析
ABRデータは、ひとつは被験者内要因(群)、二つは被験者間要因(回数と試験前後)として三要因分散分析(ANOVA)により分析した。それぞれの独立した変数は別個に分析した。ANOVAに続く試験はTukey HSD手順に従って実施された。体重減少および/または胃腸保護はABR測定と同じ型の統計分析により測定した。SEMデータは各回転ごとにPost-Hoc Tukey HSD分析により一方向分散分析を用いて分析された。統計的有意差の基準はすべての測定でp<0.01であった。
結果
【0066】
聴覚喪失
試験後のABR聴覚閾値をFigure 1A-1Eに示す。予想通り、未処理対照群ではいずれの刺激に対しても有意な閾値シフトは生じなかったが、処置対照群ではすべての刺激に対して有意で顕著な閾値シフトが、特に高周波数で生じた。CDDPの前にD-メチオニンを投与した動物では、75 mg/kgおよび150 mg/kgの投与に対してそれぞれ2/5および3/5の動物で完全な聴覚保護効果があり、いずれの刺激に対しても有意なABR閾値のシフトはなかった。300 mg/kgのD-メチオニン投与ではすべての刺激に対して、5匹の動物全部に完全な聴覚保護効果があった。D-メチオニン投与群ではその量にかかわらずいずれの刺激に対しても実験群のABR閾値がすべて処置対照群よりも有意に低く、未処理対照群の閾値も同様であった。ここで観察された聴覚喪失に対する保護効果は蝸牛メカニズムの結果ばかりでなく、聴覚神経回路の保護の結果(即ち、神経保護)でもあるだろう。
【0067】
組織学
組織学的所見(Figure 2A-2F)はABR所見と一致した。すべての群は本質的に、突端回転に正常な有毛細胞数があり、群間には優位さはなかった。中央および基底回転では、処置対照群のみに未処理対照群およびD-メチオニンの前投与を受けた群とは異なる所見があり、基底回転が中央回転よりも一貫してより影響を受けていた。
体重減少
CDDP誘発体重減少は、D-メチオニンの投与量増加につれて軽減される(Fig.3)。300 mg/kgを投与した実験群の体重減少は処置対照群よりも有意に少なかった。群全体での体重減少はすべての刺激に対する閾値シフトと有意に相関し、14 kHzの刺激とは高度に相関した。
【0068】
神経保護
第三日目の朝において、D-メチオニンを投与した動物は、生存している処置対照群の動物と比較して目だってより活発で行動的であり、協調的であった。
脱毛症
D-メチオニンを投与した動物の毛並みは、対照群の動物よりも目だって優れており。脱毛が有意に少なかった。
試験期間中の生存
試験期間の終了時で生存していた動物は対照群で5/10であったのに比して、D-メチオニンの投与群はいずれも15/15すべてが生存していた。
【0069】
議論
これまでの結果は16 mg/kgのCDDP投与30分前に300 mg/kgのD-メチオニンを投与した場合、ABRおよび組織学的所見から示されたように完全な聴覚保護作用を与える一方、CDDP誘発体重減少、胃腸毒性、神経毒性、脱毛症を軽減し、生存を改善した。
いずれの特定の理論に固執するつもりはなく、D-メチオニンはいずれかひとつまたはそれ以上の多くの異なるメカニズムによりこれらの保護作用を与えると仮定した。
シュバイツァー(Schweitzer), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)によれば、硫黄含有化合物はCDDPが細胞内標的分子、即ち、CDDPの求電子性部位と相互作用する求核性酸素原子若しくは硫黄原子、と相互作用するのを妨げて、白金が結合した後これを抽出し若しくは置き換わる可能性がある。理論的には、これら薬物は白金錯体と高い親和性を有するが故に保護効果を示す。CDDPがメチオニンのスルフヒドリル基と反応することが知られている。レンパース等(Lempers et al.), Inorgan.Chem., 29, pp.217-22(1990)参照。
【0070】
CDDPは遊離のD-メチオニンと優先的に結合し、グルタチオンを保護する可能性がある。還元型グルタチオンは抗酸化剤経路の必須部分である。CDDPは腎グルタチオン濃度を低下させ脂質過酸化を増大させる。ハンネマン等(Hannemann et al.), Toxicology, 51, pp.119-32(1988); スギハラ等(Sugihara et al.), Jpn.J.Pharm., 44, pp.71-76(1987); スギハラ等(Sugihara et al.), Jpn.J.Pharm., 43, pp.247-52(1987); ブーガード等(Boogaard et al.), Biochem.Pharm., 41(3), pp.369-75(1991)参照。CDDPはまたおよび下丘のグルタチオン濃度を減少させる。ラビ等(Ravi et al.), Pharmacologist, 33(3), p.217(1991)参照。最近では、蝸牛抗酸化系における特異的変化が研究された。ラビ等(Ravi et al.), Pharmacol.Toxicol., 76, pp.386-94(1995); リバック等(Rybak et al.), Fundam.Appl.Toxicol., 26, pp.293-300(1995)参照。
【0071】
CDDPの全身投与は還元型グルタチオン濃度を減少させ、酵素、グルタチオンパーオキシダーゼ(GSH-Px)およびグルタチオンリダクターゼ(GR)の活性を低下させる。酸化型グルタチオンまたはグルタチオンジスルフィド(GSSG)は見出せず、グルタチオンが単に酸化されたというよりもグルタチオン全体の濃度が減少していることを示唆する。ラビ等(Ravi et al.), Pharmacol.Toxicol., 76, pp.386-94(1995)はまた、蝸牛のマロンジアルデヒド濃度の減少を報告し、脂質過酸化が増大していることを反映しているという。ハンネマン等(Hannemann et al.), Toxicology, 51, pp.119-32(1988)に記載のとおり、CDDPは一般にはフリーラジカル濃度を上昇させないので、抗酸化系の保存はCDDPの副作用を阻止する上で決定的かもしれない。
【0072】
D-メチオニンの前投与は、L-メチオニン結合タンパク質を含むタンパク質の硫黄基を保護するのかもしれない。CDDPはタンパク質中のメチオニンおよびグルタチオンに渇仰する。レンパース等(Lempers et al.), Inorgan.Chem.,29, pp.217-22(1990)参照。シュバイツァー等(Schweitzer et al.), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)はタンパク質のスルフヒドリル基に結合した白金がCDDPの腎毒性を引き起こす可能性を示唆し、チオールの腎保護作用を説明する。タンパク質に結合した硫黄基の立体障害のために遊離のD-メチオニンが優先的にCDDPと結合する可能性は論理にかなっている。この保護作用はD-メチオニンに対するCDDPの優先的な結合により生じ得るか、または他の硫黄含有化合物がするようにD-メチオニンはタンパク質結合メチオニンおよびグルタチオンへのPtの結合を逆転させ得る。レンパース等(Lempers et al.), Inorgan.Chem.,29, pp.217-22(1990)参照。メチオニンは血漿結合白金を置き換えることができる。アルデン等(Alden et al.), Chem.Biol.Interact., 48(1), pp.121-4(1984)参照。
【0073】
CDDPに結合したD-メチオニンはまた必須アミノ酸であるL-メチオニン(L-Met)を保護する可能性がある。ヒトにD、L-メチオニンを非経口投与するとD-異性体の血漿中の濃度上昇をもたらす。プリントン等(Printen et al.), Am.J.Clin.Nutr., 32, pp.1200-05(1979)参照。D-メチオニンはヒトではL-メチオニンより代謝されにくいから残存してCDDP結合によりよく利用され、必要なタンパク質合成や細胞の活性化、および代謝からL-メチオニンを保護するのかもしれない。
【0074】
ラットの癌肉腫ウォーカー(Walker) 256について決定されたようにD-メチオニンは幸いにも、CDDPの抗腫瘍効果を阻害しない。ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)参照。メチオニン、おそらくはラセミ混合物の前投与は、試験管内でNHIK 3025ヒト子宮頸癌の癌細胞そのままをCDDP細胞毒性に対して感作させた。メルビク等(Melvik et al.), Inorganic Chimica Acta, 137, pp.115-18(1987)参照。
【0075】
腫瘍細胞と比較して、非腫瘍細胞におけるD−メチオニンのCDDP保護作用を説明するいくつかの因子がある。腫瘍細胞と非腫瘍細胞ではメチオニンの代謝は明らかに異なるが、その違いがどのようにして、異なるCDDPの作用をもたらすのかは解明されていない。CDDPの毒性効果はまた腫瘍細胞と非腫瘍細胞で異なるかもしれない。CDDPの抗腫瘍効果は主としてDNA、主にN-7ビスグアニン位とシスプラチンの反応に起因している。最初に一付加物が形成され、続いてすばやいストランド内の交差結合によって細胞毒性が生じる。トグネラ(Tognella), Cancer Treat.Rev., 17, pp.139-42(1990)参照。白金と細胞質リガンドおよび核タンパク質分画との結合がまた何かの役割を担っている可能性があるが、受容体および相互作用は未だ明確になっていない。シュバイツァー(Schweitzer), Laryngoscope, 103, pp.1-52(1993)参照。すばやく分裂する癌細胞と異なり、開放されているDNA複製のフォークはいずれの時点でも少ないので通常の細胞中ではDNA結合が重要ではなさそうである。非腫瘍細胞では毒性効果は主に、遊離またはタンパク質と結合したアミノ酸との結合、そして上述したように抗酸化経路の非活性化による可能性がある。
【0076】
CDDP反応のタイミングもまた腫瘍細胞と非腫瘍細胞で異なる可能性がある。ラットの癌肉腫ウォーカー(Walker) 256におけるCDDPの取り込みはきわめて早く投与後の最初の数分で起こり、続いてすばやい再分布が注射後15分間以内に完了する。ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)参照。腫瘍細胞へのCDDPの取り込みが非常に早いので、DNAビスグアニン基との結合は、特に開放された複製フォークではCDDPとメチオニンとの反応よりも早く起こるかもしれない。
【0077】
腎臓へのCDDPの取り込みもまた非常に速い〔ジョーンズとベージンガー(Jones and Basinger), Anticancer Res., 9, pp.1937-42(1989)参照〕ので、CDDPとタンパク質との結合は比較的遅い。上記シュバイツァー(Schweitzer)のレビューのように、IVシスプラチン投与に続き、2時間以内に90%のシスプラチンがタンパク質と結合し、非結合および結合白金の半減期はそれぞれ25から50分および53から73時間である。白金の組織内濃度はゆっくりと低下する。高用量投与の場合は一週間後でも白金を検出でき、患者が次の治療サイクルを開始したときに結合した断片がまだ存在することがある。血管条およびコルチ器への白金の取り込みは少なくとも24時間は増加し、これが用量依存性の蓄積中毒性難聴の根底にあるが、しかし蝸牛への取り込みの前にCDDPがメチオニンと結合する時間を与えることにもなる。
【0078】
しなしながら腫瘍細胞および非腫瘍細胞の双方におけるCDDPの毒性は複雑であり、D-メチオニンの保護作用に含まれる多くの因子が存在する。
モルモットにおいて体重減少と外有毛細胞喪失との正の相関がタンゲ等(Tange et al.)らおよびフーブ等(Hoeve et al.)により示されたが、いずれも被験者間における顕著な変動性に注意している。タンゲ等(Tange et al.), 「モルモットにおけるシスプラチンのコルチ器毒性効果」 Arch. Oto-Rhino-Laryngol. 237, pp.17-26(1982); およびフーブ等(Hoeve et al.), 「モルモットモデルにおけるシスプラチン用量と毒性との相関」, Arch. Otorhinolarynqol., 245, pp.98-102(1988)参照。上記で示したデータは、体重減少と閾値減少との正の相関を明らかにした;この閾値は刺激の周波数が高くなると増大する。300 mg/kgのD-メチオニン前投与による体重減少の有意な軽減はD-メチオニンがCDDPの何かの胃腸毒性をも緩和していることを示唆する。D-メチオニンによる体重減少の改善はまた腎毒性軽減やその他の因子と関連する可能性がある。
【0079】
本研究では三種のD-メチオニン濃度の前投与がいずれもCDDPによる死亡を排除し動物の健康状態全体で顕著な改善を示した。従って、D-メチオニンの前投与はCDDPおよびその他の白金含有抗腫瘍剤のLD50値をシフトさせるのに有用であり、化学療法におけるこれら薬物の安全な高用量使用を可能として癌治癒率向上の可能性がある。
【0080】
実施例2
この実施例では、放射線による癌治療の際の細胞保護のためのD-メチオニンの使用を示す。本試験では、ヒト唾液腺細胞ラインにおいて、D-メチオニンの存在下及び非存在下における放射線感度を調べた。未処置対照群、D-メチオニン(1 mg/ml)での処置のみをした対照群、電離放射線(10 Gy)での処置のみをした対照群、電離放射線(10 Gy)の照射6時間前にD−メチオニンで処置した4つの群よりなる7つの条件を用いた。電離放射線照射前におけるD−メチオニン処理した4つの群では、1 mg/ml、0.5 mg/ml、0.2 mg/mlおよび0.1 mg/mlのD−メチオニンを投与した。
ヒト唾液腺細胞は10cmの皿に植え、9日間成長速度をモニターし生存を数えた。それぞれの条件のセットには9の細胞の皿が含まれ、一日に一皿を使用した。毎日、代表的な皿の細胞を集めトリパンブルー染色で死細胞を排除し皿中の生細胞数を数えた。D-メチオニン存在下および非存在下において照射細胞と対照の細胞について細胞成長速度と生存の結果をFigure 4Aおよび4Bに示す。
【0081】
Fig. 4Aについていうと、未処置対照群の細胞は7日目まで対数的に成長しその後は静止状態となる。対照的に、10 Gyで照射を受けた対照細胞は対数的な成長はできなかった。これらの生存を見ると(Fig. 4B)、未処置の対照群では7日目で80%から95%の生存があったが、照射を受けた対照細胞では1日目で65%しか生存せず、7日目には25%にまで減少した。照射を受けた細胞をそれぞれ1.0、0.5、0.2および0.1 mg/mlのD−メチオニンで前処理しておくと細胞は10 Gyの照射を受けたにもかかわらず対数的な成長を示した(Figure 4A)。処置細胞はまた高い生存率を示した(85-95%、Fig. 4B)。これらの結果は、D−メチオニンがイオン化照射の細胞毒性効果から細胞を保護することを示す。
【0082】
実施例3
この実施例では、放射線による癌治療の際にアポトーシスから細胞を保護するためのD-メチオニンの使用を示す。ヒトの唾液腺上皮細胞をプレート上におきヨウ化プロピジウムで染色し24時間後のアポトーシス率を決定した。一つのセットを未処理にして対照としその他を10 Gyで翌朝照射した。第三のセットは照射処置(10 Gy)の6時間前に種々の用量のD-メチオニン(1.0 mg/ml、0.5 mg/ml、0.2 mg/mlおよび0.1 mg/ml)で前処理した。
照射をした未処置の細胞は、濃縮された核の存在を示し、これは照射された場合のアポトーシスの特徴である。対照的に、照射前に細胞をD−メチオニンで前処理すると濃縮された核を有する細胞はほとんど見られずアポトーシスを阻止することが示された。マルチプルフィールドを使用してアポトーシス表現型を有する細胞の比率を決定し、計算された比率をFigure 5に示した。簡単には、HSG細胞の照射は2時間後にはおよそ60%のアポトーシスをもたらし、種々の濃度のD−メチオニンによる前投与はアポトーシスを約20%にまで有意に減少させた。
【0083】
実施例4
この実施例では、放射線により誘導される口腔粘膜炎の予防若しくは治療のためのD-メチオニンの使用を示す。放射線により誘導される口唇紅斑のマウスモデルを用いて実験を行なった。マウス4群(n=5)を用いた。第一群(A群)は未処置の対照群とした。第二群(B群)は電離放射線(6 Gy/day)を5日間照射した。第三群(C群)は電離放射線(6 Gy/day)を5日間照射し、毎日照射の6時間前にD-メチオニン(150 mg/kg)を投与した。第四群(D群)は電離放射線(6 Gy/day)を5日間照射し、毎日照射の1時間後にD-メチオニン(150 mg/kg)を投与した。二人の独立した観察者により実験をスコア化しFig. 6に示すように結果を定量的に表現した。マウスへの放射線の照射は口唇紅斑(即ち、発赤、膨れ、口唇の落屑)をもたらした。動物をD−メチオニンで前処置または後処置すると、いずれも口唇紅斑の発生を抑えた。この実験はさらに放射線照射の後にD−メチオニンを投与しても放射線療法の抗腫瘍活性には影響しないことを決定した。加えて、腫瘍の発生した動物にD−メチオニンを前若しくは後投与(150 mg/kg x 5、i.p.)しても電離放射線の抗腫瘍活性は影響されなかった。
【0084】
明らかにこの実験結果は、D−メチオニンが放射線により誘導される口唇紅斑(口腔粘膜炎のモデル)からマウスを保護することを示している。加えて、D−メチオニンの前投与若しくは後投与は電離放射線の抗腫瘍効果に干渉することなく有効であることが示されている。特定の理論にとらわれることなく、D−メチオニンは正常な宿主細胞ミトコンドリア膜を選択的に放射線損傷から保護し、それによりアポトーシスから細胞を保護すると信じられる。しかしながら腫瘍細胞においては、D−メチオニンはミトコンドリア損傷を保護せず細胞死に至らしめることが示唆される。この動物データは、放射線治療における口腔粘膜炎の予防と治療に対するD−メチオニンの評価についてよい理論的根拠を提供する。
【0085】
本発明は上記の態様に限定されることなく、種々の応用が可能である。上記の好ましい態様の記述は他の当業者に対して、本発明、その原理および実践の適用を熟知してもらい、当業者が本発明を採用し無数の形態に適用して、個々の場合に求められる条件に最適化できるようにすることを意図したものである。
本明細書(特許請求の範囲を含む)全体を通じて使用される「含む」(comprise、comprisesまたはcomprising)の語の使用については文脈がその他の意味でない限り、排他的ではなく包括的であるとの明確な理解と基礎の上に立って使用されており、この語が明細書全体においてそのように解釈されるよう意図することを指摘する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】Fig.1A-1Eは、種々の動物に1A) クリック;1B) 1000Hz トーンバースト;1C) 4000Hz トーンバースト;1D) 8000Hz トーンバーストおよび1E) 14000Hz トーンバーストを含む刺激を与えた場合の実施例1におけるABR試験後閾値(平均±1 S.D.)を示す。*はCDDP処理対照群からの有意差を示す(p≦0.01)。
【図2】Fig.2A-2Fは、実施例1の結果を表すSEM顕微鏡写真である。2A) 未処理対照群の中央回転;2B) 処理対照群の中央回転(16mg/kg CDDP);2C) 16mg/kg CDDP 用量の前に300mg/kg D-Met を投与した動物の中央回転;2D) 未処理対照群の基底回転;2E)処理対照群(16mg/kg CDDP)の基底回転;および2F) 16mg/kg CDDP 用量の前に300mg/kg D-Met を投与した動物の基底回転。
【図3】Fig.3は、実施例1の動物群の平均体重減少をグラム数で表す。*はCDDP処理対照群からの有意差を示す(p≦0.01)。
【図4】Fig.4Aと4Bは、実施例2における、D-メチオニン存在下と非存在下での放射線照射を受けた細胞および対照の細胞の細胞成長率と生存率を示す。
【図5】Fig.5は、実施例3において、アポトーシス表現型を有する細胞の割合を示す図である。
【図6】Fig.6は、実施例4において、D-メチオニンで動物を前処理または後処理した場合の口唇紅斑評価及び定量化結果を示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の患者の粘膜炎を予防し若しくは軽減する方法であって、該患者にメチオニン若しくはメチオニン様部分を含む化合物を含んでなる保護薬の有効量を投与することを包含する方法。
【請求項2】
ヒトまたは動物の患者の皮膚損傷を予防し若しくは軽減する方法であって、該患者にメチオニン若しくはメチオニン様部分を含む化合物を含んでなる保護薬の有効量を投与することを包含する方法。
【請求項3】
該ヒトまたは動物の患者が放射線に被曝される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該ヒトまたは動物の患者が抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における有効量を用いた治療を受けている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
該ヒトまたは動物の患者が抗腫瘍剤の化学療法上における有効量を用いた治療を受けている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
該保護薬が次の構造式
【化1】

〔式中、mは0から3の整数;nは1から3の整数;XはOR、−OCOR、−COOR、−CHO、−CH(OR)、若しくは−CHOH;Yは−NR若しくは−OH;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアルキル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアシル基;RはH、または置換若しくは非置換の直鎖若しくは分枝鎖を有する炭素数1から6のアシル基を表す〕
を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を含んでなる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該保護薬が、L-メチオニン、D-メチオニンおよびL-メチオニンの混合物、ノルメチオニン、ホモメチオニン、メチオニノール、ヒドロキシメチオニン、エチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン、その薬学的に許容される塩、およびこれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該保護薬がD-メチオニンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該保護薬がL-メチオニンである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該保護薬がD、L-メチオニンである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
その保護薬が当該放射線に被曝される前に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
その保護薬が当該放射線に被曝されるのと同時に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
その保護薬が当該放射線に被曝されてから続いて投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
その保護薬の有効量が当該患者に対して放射線に被曝される約6時間前から被曝されて約6時間後の間に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
その保護薬の有効量が当該患者に対して放射線に被曝される約1時間前から被曝されて約1時間後の間に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
その保護薬の有効量が当該患者に対して放射線に被曝される約半時間前から被曝されて約半時間後の間に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
その保護薬の有効量が当該患者に対して経口的、非経口的または局所的に投与され、その保護薬の有効量の投与が約1.0 mg/kg体重から600 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項3に記載の方法。
【請求項18】
その保護薬の有効量の投与が約5 mg/kg体重から500 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
その保護薬の有効量の投与が約10 mg/kg体重から400 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
その当該有効量の投与の後に、当該患者に対するその保護薬の追加量投与をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
その患者に対する当該保護薬の追加量投与が経口的、非経口的または局所的になされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
耳内粘膜炎を予防し若しくは軽減することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
当該保護薬の有効量が中耳、外耳または正円窓膜に投与される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
当該保護薬の有効量が局所的に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
当該保護薬の有効量が点耳薬として投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
当該保護薬の有効量が局所的に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
当該保護薬の有効量が点耳薬として投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
保護薬の当該追加量投与が、当該患者において保護薬の有効量投与により達成される血清中濃度の少なくとも約10%を維持するのに十分である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
保護薬の当該追加量投与が、当該患者において保護薬の有効量投与により達成される血清中濃度の約20%から約70%を維持するのに十分である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与前にその保護薬が投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項29】
抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与と同時にその保護薬が投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項30】
抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与に続いてその保護薬が投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項31】
その保護薬の有効量が当該患者に対して経口的、非経口的または局所的に投与され、その保護薬の有効量の投与が約1.0 mg/kg体重から約600 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項4に記載の方法。
【請求項32】
その保護薬の有効量が当該患者に対して経口的、非経口的または局所的に投与され、その保護薬の有効量の投与が約5 mg/kg体重から約500 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
その保護薬の有効量が当該患者に対して経口的、非経口的または局所的に投与され、その保護薬の有効量の投与が約10 mg/kg体重から約400 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
その当該有効量の投与の後に、当該患者に対するその保護薬の追加量投与をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項35】
その患者に対する当該保護薬の追加量投与が経口的、非経口的または局所的になされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
保護薬の当該追加量投与が、当該患者において保護薬の有効量投与により達成される血清中濃度の少なくとも約10%を維持するのに十分である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
保護薬の当該追加量投与が、当該患者において保護薬の有効量投与により達成される血清中濃度の約20%から約70%を維持するのに十分である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
当該皮膚損傷が紅斑を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項39】
当該皮膚損傷が日焼けを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項40】
当該皮膚損傷が乾燥落屑、湿潤落屑および膨れを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項41】
当該抗腫瘍剤の化学療法上における有効量の投与前にその保護薬が投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項42】
当該抗腫瘍剤の化学療法上における有効量の投与と同時にその保護薬が投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項43】
当該抗腫瘍剤の化学療法上における有効量の投与に続いてその保護薬が投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項44】
その保護薬の有効量が当該患者に対して経口的、非経口的または局所的に投与され、その保護薬の有効量の投与が約1.0 mg/kg体重から約600 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項5に記載の方法。
【請求項45】
その保護薬の有効量の投与が約5 mg/kg体重から約500 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
その保護薬の有効量の投与が約10 mg/kg体重から約400 mg/kg体重の範囲内の非経口的投与により達成される場合と同等な血清中濃度をもたらす、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
ヒトまたは動物の患者の粘膜炎を予防し若しくは軽減する方法であって、該患者に対してN-アセチルシステイン、アセチルカルニチン、リポ酸およびその組み合わせよりなる群から選択される保護薬の有効量を投与することを包含する方法。
【請求項48】
該ヒトまたは動物の患者が抗腫瘍性白金配位化合物または抗腫瘍剤の化学療法上における有効量を用いた治療を受けている、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
該ヒトまたは動物の患者が放射線に被曝される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
耳内粘膜炎を予防し若しくは軽減することを含む、請求項47から49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
当該保護薬の有効量が中耳、外耳または耳の正円窓膜に投与される請求項50に記載の方法。
【請求項52】
当該保護薬の有効量が局所的に投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
当該保護薬の有効量が点耳薬として投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
当該保護薬の有効量が局所的に投与される、請求項47から49のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
当該保護薬の有効量が点耳薬として投与される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
ヒトまたは動物の患者の皮膚損傷を予防し若しくは軽減する方法であって、該患者に対してN-アセチルシステイン、アセチルカルニチン、リポ酸およびその組み合わせよりなる群から選択される保護薬の有効量を投与することを包含する方法。
【請求項57】
該患者が抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における有効量を用いた治療を受けている、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
該ヒトまたは動物の患者が放射線に被曝される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
当該皮膚損傷が紅斑を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
当該皮膚損傷が日焼けを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
当該皮膚損傷が乾燥落屑、湿潤落屑および膨れを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項62】
ヒトまたは動物の患者の脱毛症を予防し若しくは軽減する方法であって、該患者に対してN-アセチルシステイン、アセチルカルニチン、リポ酸およびその組み合わせよりなる群から選択される保護薬の有効量を投与することを包含する方法。
【請求項63】
抗腫瘍剤若しくは抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与前にその保護薬が投与される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
抗腫瘍剤若しくは抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与と同時にその保護薬が投与される、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
抗腫瘍剤若しくは抗腫瘍性白金配位化合物の化学療法上における当該有効量の投与に続いてその保護薬が投与される、請求項62に記載の方法。

【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−509955(P2007−509955A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538213(P2006−538213)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/035626
【国際公開番号】WO2005/039554
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(506146149)ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・サザン・イリノイ・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF TRUSTEES OF SOUTHERN ILLINOIS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】