説明

精密成形用光学ガラス

本発明は、1.67<η<1.70の屈折率η、及び52.0<v<55.0のアッベ数vをもち、及びガラス転移温度がT<550℃であって、以下の含有量を特徴とする精密成形用光学ガラスに関する。
SiO 5.5〜15重量%
LiO 2.6〜8重量%
20〜40重量%
La 21.5〜35重量%
0.5〜10重量%
Ta 0.1〜8重量%
ZrO 0.1〜5重量%
ZnO 0.1〜35重量%
SrO 0〜15重量%
BaO 0〜22重量%
Al 0〜10重量%
NaO 0〜2重量%
Sb 0〜1重量%
SnO 0〜1重量%
CeO 0〜1重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略は光学ガラスに関し、具体的には精密成形に適する光学ガラス、さらに具体的には高屈折率、低分散性、及び低ガラス転移温度を有する精密成形用光学ガラスに関する。同時に、本発明は成分蒸発性が低く、また精密成形の過程において型材料に対する付着性のない上記光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学及びオプトエレクトロニクス技術分野の市場における製品は、益々小型化の方向へ向けられる傾向にある。このような傾向は、より小型の最終製品に対するニーズ、及びそのような最終製品の各部材及び部品の小型化のニーズが高まっていることから明らかである。光学ガラスの製造者にとって、このような進展は、最終製品の高品質化に加えて原料ガラス量の明確な減少として把握される。同時に、ガラスブロック及び又はインゴットから作製されるこれら小型部品の製造では明らかにより多くの廃棄物が生ずることから、後処理が価格面においてガラス製造者に重圧となっている。
【0003】
これまで一般的であった、ガラスブロックまたはインゴットから光学部品に用いるガラス部分を取り出す代わりに、最新の製造方法では、ガラス溶融物からそのままガラスの最終外形あるいは最終形状に可能な限り近いプレフォームが得られることの重要性が大きく増している。例えば、再加工業者からは、再プレス用の最終形状に近いプレフォーム、いわゆる「精密ゴブ」に対する要求が増している。通常、用語「精密ゴブ」とは、好ましくは、既に分割され、光学部品の最終形状に近い、完全に火で艶出しされた、成形の必要ないあるいは半分位成形の必要のあるガラス部品を言う。
【0004】
「精密ゴブ」を、同義語である所謂「精密プレス(precise pressing)」、あるいは「精密成形」、あるいは「精密プレス(Precision pressing)」によって、レンズや非球面素子などの光学素子へ変換することも可能である。従って、例えば表面研磨を用いた表面の幾何学的形状のさらなる加工はもはや必要とされない。このような方法ゆえに、柔軟なやり方でより少量の溶融ガラスが取り扱われると共に準備時間もより短くなる。しかしながら、形状が小さく、処理や置き換えがかなり少ないことから、製品の付加価値は、材料自体の価値によって決まるのではなく、むしろプレス後直ぐに取り付けられる状態の製品であるか否か、すなわち骨の折れる後処理、冷却、及び又は室温での再加工などがもはや必要とされないことによって決められる。高度に正確な幾何学的形状が要求されるため、プレス加工段階において、高グレードの精密器具、従って高価な型材料を用いなければならない。このような型の寿命は製品及び又は製造された材料の利益性に多大な影響を与える。型の寿命を延ばすために極めて重要な要因は作業温度であり、温度は可能な限り低いほど良いが、温度はプレスされる材料の粘度がプレス工程において猶十分許容できる温度までしか下げることができない。このことは、加工温度、すなわち加工されるガラスの転移温度Tとプレス加工の利益性との間には直接的な因果関係があること、すなわちガラス転移温度が低ければ低いほど型の寿命は長くなり、従って高利益が得られることを意味する。従って、所謂「低Tガラス」、すなわち低融点及び低転移温度を有するガラス、すなわち可能な限り低温で十分加工が可能な粘度を有するガラスが要求されている。
【0005】
精密成形加工において、ガラスの型表面への非粘着性は精密成形における主要な要件である。ガラス成形型及び成形ツールの表面は常に溶融ガラスと接触することから、両者間での相互作用によって、ガラスと型材料間のくっつきや、接着さえ起こり得る。このようなくっつきや接着によって、ガラス製品、あるいは型表面、もしくはそれら双方に付着摩損や損傷が生ずる可能性がある。近年のガラス製造加工においては、ガラス品質を高め、寸法許容範囲をより厳しく管理する要求が増大しているが、他方において経済性の必要から型の寿命の延長及び生産性の向上の要求も増大している。従って、非粘着性が改善された新しいガラス組成を見出すことが重要になっている。
【0006】
他の重要な要因として、ガラスの成分蒸発が少ないこと、及び精密成形の過程における型との反応が少ないことがある。B及びLiOは精密成形の過程において容易に蒸発する。極めて重大な課題は、精密成形中のB及びLiOの蒸発を抑えて精密成形後のガラス組成の正確性を保持することである。
【0007】
P2000−119036Aには精密成形用光学ガラスに関する記載があり、このガラスにおけるCaO含量は5〜20重量%、La含量は21重量%未満であり、かかる組成によれば屈折率の増加に無影響であり、B及びLiOの蒸発も抑制される。JP HOYA P2001−130924には、精密プレス加工用の屈折率の高い光学ガラスが開示されている。このガラスにはCaOが少なくとも2重量%含まれている。US6,806,217B2には型レンズガラスについて記載されている。このガラスにはCaOが少なくとも4重量%含まれている。CaOを含むガラスは精密成形中に蒸発及び成分拡散がより多くなり、またCaOを含むガラスは一般的型材料である白金及び炭化タングステンと反応し易い傾向がある。CaOの存在により、精密成形過程におけるB及びLiOの蒸発が増加され、そのため型が害され、光学ガラス品質が低下される。
【0008】
JP1286934では低融点ガラスに関して記載されているが、これらガラスには型表面にくっ付き易い欠点と、及び精密成形中の蒸発量が多い難点がある。
【0009】
JP60−221338には精密プレス加工用の高屈折率光学ガラスが開示されている。しかしながら、このガラスは、その失透温度が粘度が精密成形に適する温度よりも高いため、精密成形を用いる光学ガラスの製造には不適である。さらに、このガラスには、型表面にくっ付き易い性質及び精密成形中の蒸発量が多い難点がある。
【0010】
実用上違った、あるいは複雑な形状をもつ光学製品を作製する観点から、成形可能ガラスに対する要求は増大している。成形可能ガラスとは、精密成形によって、異なる、あるいは複雑な形状のガラスの作製が可能なガラスを意味する。成形可能ガラスは温度に対して遅い粘度変化特性をもつものでなければならない。粘度変化速度の遅いガラスの作業範囲はより広くなり、その結果として、成形パラメータの選択範囲も広くなる。
【0011】
その他注目すべきこととして、環境保護の要求がさらに高まり、また環境保護の観点及び作業環境の改善要求がさらに高まるなかで、如何に環境に優しい方法を実現するかの問題がより関わってきていることがある。従って、将来の未加工ガラスのトレンドとして、有毒あるいは有害な成分が使用されず、あるいはそのような成分が可能な限り少ないガラスが求められる。
【0012】
要約すると、精密成形に現在使用されているガラスについて、下記見地において改善が為されるべきである。
1)ガラスと型との付着が減じられるように、ガラス成分の変更あるいは最適化を行うこと。
2)最終ガラスの組成がより正確になるように、加工あるいは精密成形中におけるガラス成分の蒸発をさらに減ずること。
3)ガラスの特性を、屈折率が増して、かつ分散が低下するように、さらに改善すること。
4)ガラスのTを下げて、精密成形用型の寿命を延ばすこと。
5)環境に優しい方法となるように、有毒または有害な成分を使用しない、あるいは使用を少なくすること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記目的を達成するため、本願発明者は、長期に亘る研究及び実務を経て、ガラスのTをさらに下げてガラスと型との付着を減じ、またガラス特性の改善を目的として屈折率を増大し、さらにガラスの分散を低下させることにより、精密成形用の新規な光学ガラス組成を見出した。さらに、本願に係るガラスは環境に優しい方法によって製造及び加工することが可能である。
【0014】
本発明は、具体的には、光学特性(η/U)において有利性があり、同時にPbO及びAsを用いずともTが大幅に低い光学ガラスを提供することを目的とする。このようなガラスは精密成形を経てさらに加工するために適しており、マッピング、投射、遠隔通信、光通信工学、モバイルドライブ及び、レーザー技術に適用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るガラスの屈折率は、1.67<n<1.70、好ましくは1.68<n<1.70、さらに好ましくは1.690<n<1.695、アッベ数(v)は52.0<v<55.0、好ましくは52.0<v<54.0、さらに好ましくは52.0<v<53.6、及び転移温度はT<550℃である。
【0016】
本発明に係るガラスは、ガラス組成全重量に対する含有率(以下同様)で示された下記組成から構成される。
組成 重量%
SiO 5.5〜15%
LiO 2.6〜8%
20〜40%
La 21.5〜35%
0.5〜10%
Ta 0.1〜8%
ZrO 0.1〜5%
ZnO 1〜35%
SrO 0〜15%
BaO 0〜22%
Al 0〜10%
NaO 0〜2%
Sb 0〜1%
SnO 0〜1%
CeO 0〜1%
【0017】
さらに好ましくは、本発明に係るガラスは下記組成から構成される。
組成 重量%
SiO 6〜14%
LiO 2.6〜6%
20〜35%
La 21.5〜30%
3〜10%
Ta 0.1〜6%
ZrO 0.5〜4%
ZnO 2〜20%
SrO 5〜15%
BaO 5〜22%
Al 0.01〜5%
NaO 0〜1%
Sb 0.01〜0.5%
SnO 0〜0.5%
CeO 0〜0.5%
【0018】
本発明に係るガラスは、特に好ましくは下記組成から構成される。
組成 重量%
SiO 7〜10%
LiO 2.8〜4.5%
22.5〜27.5%
La 21.5〜24%
3〜6.5%
Ta 0.8〜2.3%
ZrO 1.8〜2.4%
ZnO 3.8〜6.8%
SrO 7.8〜13%
BaO 15〜20%
Al 0.03〜0.2%
NaO 0〜0.5%
Sb 0.01〜0.3%
SnO 0〜0.05%
CeO 0〜0.05%
【0019】
なお、SiOのBに対するモル比は好ましくは0.5より小さい。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、本発明に係るガラス組成の少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%は、実質的に上記表に記載された成分から構成される。「実質的に〜から構成される」は、他の成分はせいぜい不純物として存在しても、ガラス組成成分として意図的に添加されていないことを意味する。
【0021】
上記組成から成る本発明に係るガラスは、表面エネルギーが高いために、精密成形の過程における型表面への付着性が小さい。
【0022】
上記組成から成る本発明に係るガラスは、B及びLiOの蒸発を減じて、精密成形後における組成を正確に保持することが可能である。
【0023】
本発明に係るガラスはCaO無含有である。CaOを含まないガラスは精密成形過程における成分の蒸発及び拡散が少なく、また一般的型材料であるSiC、グラッシーカーボン及び炭化タングステンとの反応も少ないため型の寿命が延長される。
【0024】
上記組成をもつ本発明に係るガラスは精密成形加工に適し、精密成形加工中おける成分の蒸発及び拡散が少なく、一般的な型材料であるSiC、グラッシーカーボン、炭化タングステン、及び型の金属膜めっきに用いられる白金との反応が少ない。本発明に係るガラスは良好な加工及び生産特性を有し、レンズ、電気通信、光通信技術、及び又はレーザー技術分野において利用可能である。
【0025】
本発明は高屈折率かつ低分散性の精密成形ガラスに関する。有利な用途として、本発明に係るガラスを用いて、最終仕上げなしに、例えばデジタルカメラ用レンズ等の光学素子を作製することが可能である。精密成形によって作製される光学部品は撮像、投射、電気通信、光通信工学、及びレーザー技術分野において利用可能である。
【発明を実施するための手段】
【0026】
精密成形加工においては、ガラスの転移温度が低ければ低いほど型の寿命は長くなり、それゆえ収益も高くなる。そのため、所謂「低Tgガラス」、すなわち低融点かつ低転移温度であるガラス、すなわち可能な限り低温で十分加工可能な粘度を有するガラスが要求されている。本発明において、本発明に係るガラスのガラス転移温度は550℃より低い。本発明に係るガラスは、転移温度が低いことの他に、ガラスからの成分の蒸発が少なく、及び一般的型材料である白金、炭化タングステンとの反応活性が少ない。
【0027】
本発明に係るガラスはCaO無含有である。CaOを含まないガラスは精密成形加工中の成分の蒸発及び分散が少なく、一般的型材料であるSiC、グラッシーカーボン、及び炭化タングステンとの反応も少ないため型の寿命が延長される。CaOはガラスの温度に対する粘度変化を鋭敏にするため、高品質かつ複雑形状の光学製品の作製には適しない。CaOを含まないガラスはより成形性が高い。成形性のあるガラスとは、そのようなガラスから精密成形によって異なる複雑形状のガラスを作製できるガラスを言う。粘度変化の遅いガラスは作業温度範囲が広いため、成形パラメータの選択範囲も広がる。
【0028】
本発明に係るガラスにおいて、Laの含有率は21.5重量%以上必要である一方、Laの含有率は多くても35%以下に、好ましくは21.5〜30重量%の範囲内に、さらに好ましくは21.5〜24重量%の範囲内に限定されなければならない。Laの最少含有率は、高屈折率を確保するために21.5重量%未満とすべきではなく、またその最大含有率は、成形が困難となることから、過剰とされてはならない。Laを上記範囲内で含むガラスを用いることにより、Laによってガラスの表面張力を高めることができるため、型材料への粘着を減ずることが可能である。また一方において、Laを上記組成範囲内で含むガラスはB及びLiOの蒸発を抑制することができ、その結果として、精密成形後の成分の正確性を保持することが可能となる。
【0029】
本発明に係るガラスにはCeOが最大で1重量%、好ましくは0〜0.5重量%、さらに好ましくは0〜0.05重量%含まれ、CeOを含有することによって、放射線耐久性の安定性が増大され、また例えばレーザーダイオード用非球面レンズ等のレーザー用途にも利用可能となる。
【0030】
本発明に係るガラスには、BaOが最大で22重量%、好ましくは5〜22重量%が、より好ましくは15〜20重量%含まれ、このBaOによってガラス粘度が減じられ、精密成形加工中のB及びLiOの蒸発が抑制され、さらに一般的型材料である白金及び炭化タングステンへの粘着が減じられ、及び型の寿命が延長される利点が得られる。BaOによって温度に対する粘度変化を遅くすることが可能であり、このことは高品質な複雑形状の光学製品の成形に適する。BaOを含むガラスの成形性はより良好となる。成形性の良好なガラスとは、精密成形によって異なる複雑形状のガラスを作製することが可能なガラスを言う。粘度がゆっくりと変化するガラスは作業範囲が広く、その結果として成形パラメータの選択範囲が広くなる。上記組成範囲内にBaOを含めることによりガラス成分系の混合におけるエンタルピーを減ずることができる。混合におけるエンタルピーが低ければ、ガラスの安定性が増し、型材料との反応が減じられ、また型の寿命も延長される。
【0031】
本発明に係るガラスにおけるYの含有率は最大で10重量%、好ましくは3〜10重量%、さらに好ましくは3〜6.5重量%である。Yの含量が10重量%より高くなると、本発明ガラスに失透が生ずる。
【0032】
本発明に係るガラスにおけるLiOの含量は最大で8重量%、好ましくは2.6〜6重量%、さらに好ましくは2.8〜4.5重量%である。
【0033】
の最大含量は40重量%、好ましくは20〜35重量%、さらに好ましくは22.5〜27.5重量%である。Bの強力な網目構造形成特性によってガラスの結晶化に対する安定性及び耐薬品性が増強される。しかしながら、ガラス内において3次元空間枠構造が増加し、さらに該構造が増加する結果として、本発明にとって好ましくないガラスのT及び融点の上昇が起こるため、Bの含量は30重量%を超えるべきではない。さらに、Bが過剰量になると、B成分の蒸発が増えるため、組成の正確な調整が困難となり、製造がさらに複雑となる。
【0034】
これらガラスにはSiOがガラス形成剤として含量で少なくとも5.5重量%、最大で15重量%、好ましくは6〜14重量%、さらに好ましくは7〜10重量%含まれる。SiOの含量が15重量%以上になると転移温度が550℃以上まで上昇し、また屈折率が低下する。
【0035】
本発明に係るガラスにはTaが少なくとも0.1重量%、最大で8重量%、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.8〜2.3重量%含まれる。Taの存在により、高屈折率、さらには高アッベ数が確保されるが、過剰であるとガラスのコストが高くなり過ぎるため、その最大含量を超えるべきではない。
【0036】
本発明に係るガラスに含まれる、ガラスの耐水性を向上させるZrOの含量は0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%、さらに好ましくは1.8〜2.4重量%である。
【0037】
本発明に係るガラスへCeOを0〜1重量%、好ましくは0〜0.5重量%、さらに好ましくは0〜0.05重量%の含量となるように添加することにより、光学ガラスの放射線安定性を向上させ、レーザー分野、例えばレーザーダイオード用非球面レンズなどの用途に利用することが可能となる。
【0038】
本発明に係るガラスへ従来の清澄剤を少量含ませることも可能である。添加される清澄剤の総量は好ましくは2.0重量%まで、さらに好ましくは1.0重量%までとして、さらに他の成分を加えてガラス組成の全成分量が100重量%とされる。本発明に係るガラスへ、清澄剤として下記成分の少なくとも1つを下記重量%の範囲内で追加することが可能である。
Sb 0〜1 及び又は
SnO 0〜1
【0039】
本発明に係るガラスには、好ましくは清澄剤として、上記成分の少なくとも一方が添加される。清澄剤を含有するガラス組成物は、先行技術に基づく光学ガラス組成物のもつアッベ数及び屈折率と同様な光学特性を有する。さらに、本発明に係るガラスは、良好な溶融性及び加工性、及び低生産コストを特徴とし、さらに低加工コストゆえに環境適合性を実現できることを特徴とする。
【0040】
光学ガラスとして、本発明に係るガラスは無着色であり、及び又は光学活性成分、例えばレーザー活性成分を含有しない。
【0041】
本発明の一実施態様においては、ガラスには、K、Rb、Cs、Be、Mg、Sc、Ti、Hf、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Te、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Au、Cu、Ag、Cd、Hg、Ga、In、Tl、Ge、Bi、S、Se、Te、F、Cl、Br、I、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから成るグループのうちの1または2以上の元素から成る成分から選択される成分がそれぞれ最大で1重量%含まれる。他方、本発明のさらに別の実施態様においては、ガラスには、K、Rb、Cs、Be、Mg、Sc、Ti、Hf、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Te、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Au、Cu、Ag、Cd、Hg、Ga、In、Tl、Ge、Bi、S、Se、Te、F、Cl、Br、I、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから成るグループのうちの1または2以上の元素から成る成分から選択される成分は含まれない。
【0042】
本発明において、表現「成分Xを含まない」、「X無含有」、あるいは「Xを含まない」とは、ガラスにこの成分Xが本質的に含まれないこと、すなわちこの成分が含まれるとしてもガラス中に不純物として存在するだけで、ガラス組成へ独立した成分として添加されたものではないことを意味する。
【0043】
本発明に係るガラスは、精密ブロックや、正確な最終外形をもつ光学部品の作製を目的とする精密プレス製作等の最終外形近くまで加工を行う場合に適する。
【0044】
さらに、本発明に係るガラスは、マッピング、投射、電気通信、光通信工学、モバイルドライブ、及びレーザー技術等の用途に適用可能なことが見出されている。
【0045】
本発明ガラスの製造方法に特別な限定はないが、ガラスの製造に通常溶融及び冷却工程が用いられる。使用される原料は、石英砂、石灰石、長石、純アルカリ、硼酸、バリウム化合物などの酸化物であり、これら原料は割合に基づいて混合される。次いで混合物は高温で加熱され、清澄され、ホモジェナイズされ、その後冷却され、鋳造されて製品として得られる。
【0046】
以下に本発明について実施例を用いて詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例によって限定されない。
【0047】
実施例
好ましい組成範囲内にある実施例を表1にリストにして示す。これら実施例に記載のガラスは下記のように製造される。
【0048】
使用される原料は、Sinopharm Chemical Reagents Co., Ltd.(蘇州)から入手可能な化学用の酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び硝酸塩などである。各成分は前記表に示された量に従って秤量される。混合後、混合物は500ml容量の白金製るつぼ中へ入れられる。混合物は電気炉中において1100〜1400℃の温度範囲内で溶融され、次いで清澄及びホモジェナイズ処理してから冷却される。溶融されたガラスは予め400℃に前加熱処理された金属性型中へ注入され、ガラス及び金属型は焼鈍し炉中で焼鈍し処理されて製品が得られる。
【0049】
実施例1〜6において用いられた、酸化物を基準として重量%で表示された組成、屈折率、アッベ数、及び転移温度を表1に示した。
【0050】
ガラスサンプルは寸法20×20×5mmに作成し、角度の1つは90°±1'に加工した。屈折率及びアッベ数は高精度Vブロック屈折器(ドイツ、Schott社)で測定した。
【0051】
屈折率及びアッベ数はガラスの光学的特性に影響を与える。ガラスの屈折率によって光がガラス中を通過するときの光ビームの曲がりあるいは屈折が表わされ、アッベ数によってガラスの分散特性が示される。分散とは、ガラスが波長の異なる光に対して異なる屈折率をもつことを言う。アッベ数は式v=(η−1)/(nF−nC),η: 光d(587.56nm)の屈折率で表わされる。nF及びnCはそれぞれ光F(486.13nm)及び光C(656.27nm)の屈折率である。種々の光学ガラスはそれぞれ異なる屈折率及びアッベ数を有している。光学ガラスの組成によって光学ガラスの特定範囲の屈折率及びアッベ数が決まってくる。
【0052】
試験に用いられたガラスについて、ガラス転移温度T、熱膨張係数、及びCTEを、NETZSCH熱膨張装置(NETZSCH DIL402PC)によって測定した。ガラスサンプルは約500mmのストリップ片に作成し、温度は室温から毎分5℃で測定が完了するまで加温した。
【0053】
転移温度及び熱膨張係数は、ガラスの後加工及び処理のための基準温度点及び性能指標を与えるガラスの温度特性に反映される。ガラスの膨張が鋭敏に変化する温度はサンプルの転移温度である。
【0054】
光学ガラスを、一定温度範囲内において、固体状態から塑性状態へ変換することが可能である。転移温度Tは、ガラスサンプル温度が室温から軟化温度TSまで上昇されたときに、低温領域の延長線と高温領域の延長線が交差する交差点に相当する温度を言う。なお、軟化温度TSとは、GB/T7962.16に従って測定される、ガラスサンプルが温度上昇中に膨張を止める温度のことを言う。
【0055】
ガラスの転移温度Tと精密成形加工の間には因果関係があり、ガラスの転移温度が低ければ低いほど型の寿命が長くなり、従って収益も高くなる。それゆえ、低融点及び低転移温度をもつ所謂「低Tガラス」が要望されている。
【0056】
光学ガラスの熱膨張係数とは、一定の温度範囲内において、通常は室温から300℃の範囲内で測定された場合において、温度が1℃上昇した時のガラスの単位長さ当たりの伸長を言う。つまりは、平均熱膨張係数が与えられる。熱膨張係数は光学ガラスの環境中における安定性にとって重要である。光学ガラスを用いるシステムでは通常極めて高い安定性が要求される。ガラス材料の熱膨張係数が高過ぎると、外気温が変動したときにガラスのサイズが変化しシステムの安定性が減じられる。
【比較例】
【0057】
東芝GMP連続装置において精密成形を実施した。型材料としてPt−IrでコーティングされたWC(炭化タングステン)を用いた。
【0058】
室温において、型中へガラスを供し、型を加熱工程において590℃(ガラス粘度10dPa.sに相当)まで加熱した。次いで、ガラスを10MPaの圧力を加えて10秒間プレス処理した。プレス圧を解除した後、ガラスを冷却処理した。加熱、プレス、及び冷却中は窒素雰囲気により保護を加えた。ガラスの冷却後、ガラスはレンズとして取り出された。型及びガラスの観察を実施してガラスと型間に粘着が生じていないか調べた。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率ηが1.67<η<1.70、アッベ数(v)が52.0<v<55.0、及び転移温度がT<550℃である、PbO及びAsを含まない光学ガラス。
【請求項2】
ガラスの屈性率ηが1.68<η<1.70であることを特徴とする請求項1項記載の光学ガラス。
【請求項3】
ガラスの屈性率ηが1.690<η<1.695であることを特徴とする請求項2項記載の光学ガラス。
【請求項4】
ガラスのアッベ数(v)が52.0<v<54.0であることを特徴とする請求項1項記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラスのアッベ数(v)が52.0<v<53.6であることを特徴とする請求項1項記載の光学ガラス。
【請求項6】
以下の含有量を特徴とする光学ガラス:
組成 重量%
SiO 5.5〜15%
LiO 2.6〜8%
20〜40%
La 21.5〜35%
0.5〜10%
Ta 0.1〜8%
ZrO 0.1〜5%
ZnO 1〜35%
SrO 0〜15%
BaO 0〜22%
Al 0〜10%
NaO 0〜2%
Sb 0〜1%
SnO 0〜1%
CeO 0〜1%
【請求項7】
ガラスにLaが21.5〜30重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項8】
ガラスにLaが21.5〜24重量%含まれることを特徴とする請求項7項記載の光学ガラス。
【請求項9】
ガラスにBaOが5〜22重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項10】
ガラスにBaOが15〜20重量%含まれることを特徴とする請求項9項記載の光学ガラス。
【請求項11】
ガラスにYが3〜10重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項12】
ガラスにYが3〜6.5重量%含まれることを特徴とする請求項11項記載の光学ガラス。
【請求項13】
ガラスにLiOが2.6〜6重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項14】
ガラスにLiOが2.8〜4.5重量%含まれることを特徴とする請求項13項記載の光学ガラス。
【請求項15】
ガラスにBが20〜35重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項16】
ガラスにBが22.5〜27.5重量%含まれることを特徴とする請求項15項記載の光学ガラス。
【請求項17】
ガラスにSiOが6〜14重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項18】
ガラスにSiOが7〜10重量%含まれることを特徴とする請求項17項記載の光学ガラス。
【請求項19】
ガラスにTaが0.1〜6重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項20】
ガラスにTaが0.8〜2.3重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項21】
ガラスにZrOが0.5〜4重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項22】
ガラスにZrOが1.8〜2.4重量%含まれることを特徴とする請求項21項記載の光学ガラス。
【請求項23】
ガラスにCeOが0〜0.5重量%含まれることを特徴とする請求項6項記載の光学ガラス。
【請求項24】
ガラスにCeOが0〜0.05重量%含まれることを特徴とする請求項23項記載の光学ガラス。
【請求項25】
以下の含有量を特徴とする光学ガラス:
組成 重量%
SiO 6〜14%
LiO 2.6〜6%
20〜35%
La 21.5〜30%
3〜10%
Ta 0.1〜6%
ZrO 0.5〜4%
ZnO 2〜20%
SrO 5〜15%
BaO 5〜22%
Al 0.01〜5%
NaO 0〜1%
Sb 0.01〜0.5%
SnO 0〜0.5%
CeO 0〜0.5%
【請求項26】
以下の含有量を特徴とする光学ガラス:
組成 重量%
SiO 7〜10%
LiO 2.8〜4.5%
22.5〜27.5%
La 21.5〜24%
3〜6.5%
Ta 0.8〜2.3%
ZrO 1.8〜2.4%
ZnO 3.8〜6.8%
SrO 7.8〜13%
BaO 15〜20%
Al 0.03〜0.2%
NaO 0〜0.5%
Sb 0.01〜0.3%
SnO 0〜0.05%
CeO 0〜0.05%
【請求項27】
ガラスにCaOが含まれないことを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載のガラス。

【公表番号】特表2013−519610(P2013−519610A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552250(P2012−552250)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【国際出願番号】PCT/CN2011/070936
【国際公開番号】WO2011/098043
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(512139847)ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
【Fターム(参考)】