説明

精神疾患患者治療用ベッド

【課題】精神疾患患者を必要に応じて拘束しながらも、肺塞栓の発症を予防することができる精神疾患患者治療用ベッドを提供することである。
【解決手段】患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つようにベッドの足側を持ち上げる手段と、患者の足に振動を伝える振動装置と、患者のひざの裏の少し下辺りに当接する第1のローラおよびアキレス腱の少し上辺りに当接する第2のローラとを備え、第1および第2のローラを末梢から心臓に向けて回転させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患患者本人および医療従事者双方の安全を確保しつつ、患者に密接した医療・看護を提供するための精神疾患患者治療用ベッドに関する。
【背景技術】
【0002】
精神疾患患者は、病状により、自殺企図、自傷行為、暴力行為、器物破損などの行為に及ぶことがあり、患者本人および医療従事者双方が危険な状態におかれる場合がある。
【0003】
このため、患者の人権を尊重しながら、病状に応じて、患者の行動制限が必要とされる場合がある。たとえば特許文献1に記載の精神疾患患者治療用個室システムでは、四方を囲い壁で囲った内部空間を居住室とトイレ室や洗面室に区分けし、その区分個所の所定ドアを施錠したり、開錠することにより、治療段階に応じた行動制限を行い、水中毒や器物破損などの危険性を排除し、患者の快適性を高めた治療を行えるようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−180685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のように、従来、精神疾患患者に対する行動制限の必要性があることは知られているが、たとえば重度の患者の場合は自殺企図のおそれもあるため、さらに拘束用ベッドに拘束帯(抑制帯)などによって拘束しておく必要もある。
【0006】
ところが最近では、長時間に渡る拘束により深部静脈血栓の肺塞栓を発症する危険性があることが知られてきた。この病態は、一般には「エコノミークラス症候群」という呼び名で知られている。
【0007】
このため、患者を必要に応じて拘束用ベッドに拘束する必要があるものの、場合によっては、この拘束により患者が肺塞栓を発症してしまうおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は、この問題を解消し、精神疾患患者を必要に応じて拘束しながらも、肺塞栓の発症を予防することができる精神疾患患者治療用ベッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の目的を達成すべく、精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、前記患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つように前記ベッドの足側を持ち上げる手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、前記患者の足に振動を伝える振動装置を備えたことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、前記患者の足に当接するローラを備えたことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、前記患者のひざの裏の少し下辺りに当接する第1のローラおよびアキレス腱の少し上辺りに当接する第2のローラを備えたことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、請求項4に記載の発明において、前記第1および第2のローラを末梢から心臓に向けて回転させることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、前記患者のひざの裏の少し下辺りに当接する第1のローラおよびアキレス腱の少し上辺りに当接する第2のローラを備え、前記第1および第2のローラを末梢から心臓に向けて回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、精神疾患患者を必要に応じて拘束しながらも、肺塞栓の発症を予防することができる精神疾患患者治療用ベッドを提供することができる。
【0016】
すなわち、本発明によれば、患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つことができ、これにより静脈うっ血を予防することができる。
【0017】
また、本発明によれば、振動装置によって患者の足に振動を伝え、これにより静脈うっ血を予防することができる。
【0018】
また、本発明によれば、患者のひざの裏の少し下辺りやアキレス腱の少し上辺りに当接するローラを末梢から心臓に向けて回転させることによって、静脈うっ血を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明による精神疾患患者治療用ベッドの一実施の形態を示す斜視図である。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1は、医療従事者などの操作者が操作する操作部2と、患者が横たわるベッド本体部3と、操作部2から入力された操作、指示をベッド本体部3に伝達するケーブル4とを有して構成される。
【0022】
なお、本実施の形態では、操作部2をベッド本体部3と別体にしたが、本発明はこれに限られず、操作部2とベッド本体部3とを一体化してもよいし、別体であってもケーブル4を設けず、操作部2を携帯用の操作部に形成し、該操作部とベッド本体部3とが電波や赤外線などによって無線通信するようにしてもよい。
【0023】
また、操作部2は、ベッド本体部3と離れた位置に設けるようにしてもよく、たとえば、ベッド本体部3を備えた部屋の外に操作部2を設けてもよい。また、操作部2は、ベッド本体部3を備えた部屋の外の壁に埋め込む形式にしてもよい。
【0024】
ベッド本体部3は、患者の上半身を載せる上部ベッド3aと下半身を載せる下部ベッド3bとから成り、この上部ベッド3aと下部ベッド3bとはヒンジ部3cにおいて接続され、このヒンジ部3cを軸にして、上部ベッド3aと下部ベッド3bとの角度を変えることができるように構成されている。また、ベッド本体部3は、脚部5、6、7によって支えられている。
【0025】
ベッド本体部3の側面には、必要に応じて患者を固定するためのベルト9a、10a、11a、11b、13a、14aが設けられている。ベルト9a、10a、11a、11b、13a、14aはマジックテープ(登録商標)で止めることができるようになっており、ベッド本体部3に横たわった患者は、ベルト9aを右手首に巻き付けられて右手首を固定され、ベルト10aを左手首に巻き付けられて左手首を固定され、ベルト11aと11bとによって腰回りを固定され、ベルト13aを右足首に巻き付けられて右足首を固定され、ベルト14aを左足首に巻き付けられて左足首を固定される。
【0026】
ベッド本体部3の上面には、ローラ15および16が設けられている。ローラ15は、ベッド本体部3に横たわった患者のひざの裏の少し下辺りに当接するような位置に設けられ、ローラ16は、ベッド本体部3に横たわった患者のアキレス腱の少し上辺りに当接するような位置に設けられている。このローラ15やローラ16の位置は、患者の体型に合わせて調節できるようにしてもよい。
【0027】
このローラ15、16としては角に丸みをつけた六角棒を用いており、ローラ15は軸受15aおよび15bに支承され、第1のローラ駆動装置15cによって図中の矢印方向に回転させられる。またローラ16は軸受16aおよび16bに支承され、第2のローラ駆動装置16cによって図中の矢印方向に回転させられる。第1のローラ駆動装置15c、第2のローラ駆動装置16cは、ローラ15、16を回転させる駆動源のモータや動力伝達のギヤ等を有する。
【0028】
本実施の形態では、ローラ15、16として六角棒を用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、いかなる断面形状のものをも用いることができることは言うまでもない。
【0029】
ベッド本体部3の下部ベッド3b側を支える脚部7にはジャッキ装置7bが設けられており、このジャッキ装置7bによって、ヒンジ部3cを軸にして下部ベッド3bの足先側を持ち上げることができる。
【0030】
図2は図1に示したベッド本体部3の側面図である。
【0031】
図2に示すように、下部ベッド3bの下側には振動装置20が設けられている。この振動装置20は、たとえば偏心錘をモータで回転させて振動(バイブレーション)を発生させるものであってもよいし、他のいかなる原理で振動を発生させるものであってもよい。
【0032】
脚部5、6、7は緩衝材5a、6a、7aを介してベッド本体部3を支えており、この緩衝材5a、6a、7aによれば、振動装置20による振動の影響が外部(床)に及ぶのを防ぐことができる。また、ヒンジ部3cにも緩衝材を設けてもよく、ヒンジ部3cの緩衝材によれば、振動装置20による振動が、患者の上半身側の上部ベッド3aに及ぶのを防ぐことができる。
【0033】
図3は、図1に示した精神疾患患者治療用ベッド1の斜視図であり、ジャッキ装置7bによって下部ベッド3bの足先側を持ち上げた状態を示す図である。
【0034】
なお、図3においては下部ベッド3bの足先側を持ち上げる前の状態を二点鎖線で示している。
【0035】
本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1によれば、図3に示すようにして患者の足先を心臓よりも高くした姿勢を維持することができる。
【0036】
図4は、図3に示した精神疾患患者治療用ベッド1に患者が横たわった状態を示す斜視図である。
【0037】
上述の発明が解決しようとする課題の欄で説明したように、従来は、患者を拘束した場合、肺塞栓を発症するおそれがあるという問題があったが、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1によれば、図4に示すように、患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つことができ、これにより静脈うっ血を予防することができる。
【0038】
また、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1によれば、振動装置20によって下部ベッド3bを振動させ、患者の足に振動を伝え、これにより静脈うっ血を予防することができる。
【0039】
また、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1によれば、ローラ15、16を回転させることによって、患者の足に対して末梢から心臓に向けたマッサージを行うことができ、これにより静脈うっ血を予防することができる。
【0040】
図5は、図1に示した精神疾患患者治療用ベッド1の制御に係る構成を示すブロック図である。
【0041】
図5に示すように、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド1は、操作部2とベッド本体部3とをケーブル4で接続して構成される。
【0042】
操作部2は、操作者が操作する操作パネル2aと、操作パネル2aによって入力された操作、指示に基づいてベッド本体部3の動作を制御するたとえばCPUである制御部2bとを有して構成される。
【0043】
ベッド本体部3は、ローラ15を回転させる第1のローラ駆動装置15cと、ローラ16を回転させる第2のローラ駆動装置16cと、下部ベッド3bを振動させる振動装置20と、下部ベッド3bの足先側を持ち上げるジャッキ装置7bとを有して構成される。
【0044】
第1のローラ駆動装置15c、第2のローラ駆動装置16c、振動装置20およびジャッキ装置7bは、ケーブル4を介して制御部2bからの動作指示を受けて動作する。
【0045】
図6は、図5に示した操作パネル2aの表示画面の一例を示す図である。
【0046】
図6に示す操作パネル2aでは、第1のローラ駆動装置15cによるローラ15の回転のON/OFFおよび回転速度の調節、第2のローラ駆動装置16cによるローラ16の回転のON/OFFおよび回転速度の調節、ジャッキ装置7bによる下部ベッド3bの足先側を上げる角度の調節、および、振動装置20による下部ベッド3bの振動のON/OFFおよびその強度の調節を、それぞれごとに、操作者が入力可能に構成してある。制御部2は、この操作パネル2aによって入力された操作、指示に基づいてベッド本体部3の動作を制御する。
【0047】
なお、このほかにも、第1のローラ駆動装置15c、第2のローラ駆動装置16c、ジャッキ装置7b、振動装置20の各動作を任意に組み合わせたり、それぞれ所定のタイミングで間欠動作させたり、ローラ15の回転速度、ローラ16の回転速度、下部ベッド3bの角度、下部ベッド3bの振動の強度を任意に変化させたり、これらを組み合わせて予め動作をプログラミングしてこれに基づいて動作させることもできる。
【0048】
次に、本発明による精神疾患患者治療用ベッドの、図1とは別の実施の形態について説明する。
【0049】
図7は、本発明による精神疾患患者治療用ベッドの、図1とは別の実施の形態を示す斜視図であり、患者が横たわった状態を示す図である。
【0050】
図7に示す実施の形態では、図1の実施の形態における下部ベッド3bに相当する部分が、患者のひざに合わせ、ヒンジ部103eで屈曲可能にしてある。
【0051】
すなわち、本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド100は、医療従事者などの操作者が操作する操作部2と、患者が横たわるベッド本体部103と、操作部2から入力された操作、指示をベッド本体部103に伝達するケーブル4とを有して構成される。
【0052】
ベッド本体部103は、患者の上半身を載せる上部ベッド103aと、太腿部分を載せる中部ベッド103dと、ひざから先を載せる下部ベッド103bとから成る。上部ベッド103aと中部ベッド103dとはヒンジ部103cにおいて接続され、このヒンジ部103cを軸にして、上部ベッド103aと中部ベッド103dとの角度を変えることができるように構成されている。また、中部ベッド103dと下部ベッド103bとはヒンジ部103eにおいて接続され、このヒンジ部103eを軸にして、中部ベッド103dと下部ベッド103bとの角度を変えることができるように構成されている。また、ベッド本体部103は、脚部5、6、7、17によって支えられている。
【0053】
ベッド本体部103の側面の各ベルトや上面の各ローラの構成は、図1に示した実施の形態と同様であるので、同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略する。
【0054】
ベッド本体部103の下部ベッド103b側を支える脚部7にはジャッキ装置7bが設けられ、脚部17にはジャッキ装置17bが設けられている。このジャッキ装置7bおよび17bによれば、図7に示すように、患者のひざから先を水平にした状態で、下部ベッド103bを上部ベッド103aよりも高い位置に持ち上げることができる。
【0055】
本実施の形態においても、第1のローラ駆動装置15c、第2のローラ駆動装置16c、ジャッキ装置7b、ジャッキ装置17b、振動装置20の各動作を任意に組み合わせたり、それぞれ所定のタイミングで間欠動作させたり、ローラ15の回転速度、ローラ16の回転速度、下部ベッド103bの高さ、下部ベッド103bの振動の強度を任意に変化させたり、これらを組み合わせて予め動作をプログラミングしてこれに基づいて動作させることもできる。
【0056】
本実施の形態の精神疾患患者治療用ベッド100によれば、このように構成することによって、患者のつま先の方への血の巡りを改善することができる。
【0057】
なお、上述の実施の形態では、ベッドの脚部に設けたジャッキ装置によって患者の足側を持ち上げるようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、ヒンジ部3c、103c、103eに回転駆動機構を設け、これによって上部ベッド3aと下部ベッド3bとの角度を調節したり、上部ベッド103aと中部ベッド103dとの角度、および中部ベッド103dと下部ベッド103bとの角度を調節するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による精神疾患患者治療用ベッドの一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示したベッド本体部3の側面図である。
【図3】図1に示した精神疾患患者治療用ベッド1の斜視図であり、ジャッキ装置7bによって下部ベッド3bの足先側を持ち上げた状態を示す図である。
【図4】図3に示した精神疾患患者治療用ベッド1に患者が横たわった状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示した精神疾患患者治療用ベッド1の制御に係る構成を示すブロック図である。
【図6】図5に示した操作パネル2aの表示画面の一例を示す図である。
【図7】本発明による精神疾患患者治療用ベッドの、図1とは別の実施の形態を示す斜視図であり、患者が横たわった状態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 精神疾患患者治療用ベッド
2 操作部
3 ベッド本体部
3a 上部ベッド
3b 下部ベッド
3c ヒンジ部
4 ケーブル
5、6、7 脚部
7b ジャッキ装置
9a、10a、11a、11b、13a、14a ベルト
15、16 ローラ
15a、15b、16a、16b 軸受
15c 第1のローラ駆動装置
16c 第2のローラ駆動装置
20 振動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、
前記患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つように前記ベッドの足側を持ち上げる手段を設けたことを特徴とする精神疾患患者治療用ベッド。
【請求項2】
精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、
前記患者の足に振動を伝える振動装置を備えたことを特徴とする精神疾患患者治療用ベッド。
【請求項3】
精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、
前記患者の足に当接するローラを備えたことを特徴とする精神疾患患者治療用ベッド。
【請求項4】
前記ローラは前記患者のひざの裏の少し下辺りに当接する第1のローラとアキレス腱の少し上辺りに当接する第2のローラとからなることを特徴とする請求項3に記載の精神疾患患者治療用ベッド。
【請求項5】
前記第1および第2のローラを末梢から心臓に向けて回転させることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の精神疾患患者治療用ベッド。
【請求項6】
精神疾患患者を横たわらせて拘束する精神疾患患者治療用ベッドにおいて、
前記患者の足を心臓よりも高くした姿勢を保つように前記ベッドの足側を持ち上げる手段と、前記患者の足に振動を伝える振動装置と、前記患者のひざの裏の少し下辺りに当接する第1のローラおよびアキレス腱の少し上辺りに当接する第2のローラとを備え、前記第1および第2のローラを末梢から心臓に向けて回転させることを特徴とする精神疾患患者治療用ベッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−93187(P2008−93187A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278501(P2006−278501)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(391005813)株式会社神田製作所 (8)
【Fターム(参考)】