説明

精紡機用ダブルエプロン式ドラフト装置

【課題】精紡機用ダブルエプロン式ドラフト装置であって、何らかの障害となる部材によって楔形間隔領域を損なわない装置を提供する。
【解決手段】デリベリニップラインを有しかつ被動デリベリローラとこれに対して弾力的に押付けられる加圧ローラとを含むデリベリローラ対と、さらに、前段に設けられデリベリニップラインの領域でステープルスライバを案内しかつこれとで楔形間隙を形成するエプロン対と、エプロン対の領域でデリベリローラの周面を包み込みかつこの周面とで狭い隙間を形成するカバーとを備えたものにおいて、カバー18が楔形間隙15の外側に配置され、隙間17が負圧管路20の吸引口19に接続されており、精紡工程中断時にカバー18も吸引口19もデリベリローラ11から僅かに離反動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精紡機用ダブルエプロン式ドラフト装置であって、デリベリニップラインを有しかつ被動デリベリローラとこれに対して弾力的に押付けられる加圧ローラとを含むデリベリローラ対と、さらに、前段に設けられデリベリニップラインの領域でステープルスライバを案内しかつこれとで楔形間隙を形成するエプロン対と、エプロン対の領域でデリベリローラの周面を包み込みかつこの周面とで狭い隙間を形成するカバーとを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルエプロン式ドラフト装置では、特にそれらがいわゆるエアジェット精紡工程において利用される場合、デリベリローラ対が回転する結果空気流を無視し得なくなるようなデリベリ速度に達することがある。その高い周速度のゆえに、回転するデリベリローラは空気を伴送する。これは特に、デリベリローラ対のうち一般にリブ付きの被動ボトムローラ、いわゆるデリベリローラにあてはまる。デリベリローラの周方向での空気流はデリベリニップラインで中断される。エプロン対とデリベリニップラインとの間の楔形間隙内に持続的に空気が送り込まれる。この空気は楔形間隙から一方で軸線方向両側に流れ去るが、しかし他方で一部はステープルスライバの輸送方向とは逆にも流れる。その際、空気の渦化と繊維の流れ障害が生じる。この空気流はステープルスライバのうちエプロン対から進出してデリベリニップラインへと走る繊維を多かれ少なかれ無秩序にする。これは例えば、糸品質値の劣化がデリベリ速度に伴って指数関数的に増加することに現れる。
【0003】
デリベリローラ対と一緒に周回する空気流を全体的に遮蔽することが既に試みられている。例えば特許文献1により、狭い隙間を残しながら少なくともデリベリローラを周面の大部分にわたって覆うことが公知となっている。この措置によって確かに望ましくない空気流は避けることができるが、しかしデリベリローラの周面とカバーとの間の隙間内で繊維が絡み合い、何らかの仕方でステープルスライバから離れて隙間内に達する危険がある。さらに、公知のダブルエプロン式ドラフト装置ではカバーがエプロン対とデリベリニップラインとの間の楔形間隙領域内にまで突出する欠点がある。そのため、エプロン対はデリベリニップラインから拡大された距離を持たねばならないが、この拡大された距離はこの個所で既にきわめて薄くかつまだ撚られていないスライバの案内を損なう。
【特許文献1】独国特許出願公開第4003019号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、冒頭指摘した種類のダブルエプロン式ドラフト装置において、何らかの障害となる部材によって楔形間隙領域を損なうことなく、望ましくない空気流をデリベリニップライン領域から遠ざけ、付加的に隙間内での繊維堆積を防止し、それが不可避である限り、これらの繊維堆積を時々簡単に取り除くことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、カバーが楔形間隙の外側に配置され、隙間が負圧管路の吸引口に接続されており、精紡工程中断時にカバーも吸引口もデリベリローラから僅かに離反動可能であることによって解決される。
【0006】
カバーが楔形間隙の外側にのみ配置されていることによって、エプロン対とデリベリニップラインとの間の危険な楔形間隙領域で繊維案内が障害的に損なわれることはない。さらに、隙間の恒常的吸引を行うことによって、この領域での飛散は大幅に避けられる。しかし効率的吸引にもかかわらず隙間内でカバーとデリベリローラとの間での繊維狭持を完全には防止できないので、さらになお、精紡工程中断時、例えば糸切れ後、カバーと吸引口はデリベリローラから僅かに離反動可能となっている。その際、吸引口は負圧がそこではまだ有効である程度にのみデリベリローラから離間させるべきである。場合によって狭持された繊維はこの離反動によって自由となり、吸引口内に達することができる。
【0007】
吸引口がデリベリローラの周面から1〜5ミリメートル、つまりまさに、挟持された繊維が自由となるがしかし負圧がなお働く程度に離反動可能であると好ましいことが判明した。その際有利にはカバーと吸引口が1つの構造ユニットを形成し、こうしてそれらは一緒にデリベリローラから離反動可能である。これにより運動機構が簡素になる。
【0008】
一実施例では、構造ユニットに揺動軸が付設されており、この揺動軸がデリベリローラの領域にある。別の一実施例では、構造ユニットに直動ガイドを付設しておくことができる。
【0009】
本発明の他の構成において、ばね手段に抗して作用する引張帯材を構造ユニットに付設しておくことができ、この引張帯材は有利には空圧式操作機構に接続されている。
【0010】
本発明のその他の利点および特徴は幾つかの実施例についての以下の説明から明らかとなる。
図面の簡単な記述
図1はカバーと吸引口とを含む揺動離反可能な構造ユニットを備えた本発明に係るダブルエプロン式ドラフト装置を一部断面図で示す側面図である。
図2は直動ガイドによってデリベリローラから離反動可能な別の態様に形成された構造ユニットを備えたダブルエプロン式ドラフト装置を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
精紡機の図1に示す装置はステープルスライバ2から精紡糸1を製造するのに役立つ。この装置は主要構成要素としてダブルエプロン式ドラフト装置3とエアジェット組立体4とを含む。精紡されるべきステープルスライバ2はダブルエプロン式ドラフト装置3に供給方向Aから供給され、精紡糸1として引取方向Bに引き取られ、図示しない巻取り機構に転送される。
【0012】
ダブルエプロン式ドラフト装置3は主に3線式ドラフト装置であり、合計3つのローラ対を含み、ローラ対はそれぞれ1つの被動ボトムローラとこれに対して弾力的に押付けられる加圧ローラとを含む。フィードローラ対5、6に続くエプロンローラ対7、8は以下でエプロン対と称する案内エプロン9、10を備えており、さらにデリベリローラ対11、12が続く。符号5、7、11は被動ボトムローラ、符号6、8、12は付属する加圧ローラである。デリベリローラ対11、12の被動ボトムローラ11を以下ではデリベリローラ11と称する。
【0013】
このようなダブルエプロン式ドラフト装置3においてステープルスライバ2は周知の如くに所要の繊度にまでドラフトされる。ダブルエプロン式ドラフト装置3に続いて次に薄いスライバ13が存在し、これは延伸されるがしかしまだ撚られていない。
【0014】
ダブルエプロン式ドラフト装置3に僅かな距離で続きかつ精紡撚りを付与するエアジェット組立体4は本発明では基本的に任意構造様式のものとすることができるが、しかしここでは主に、特別高いデリベリ速度を可能とする構造様式に言及される。デリベリ速度は毎分300〜600メートルの範囲内とすることができる。その際、高いドラフト能力のゆえにデリベリローラ対11、12が特別迅速に作動せねばならないので、ダブルエプロン式ドラフト装置3にはきわめて厳しい条件が要求されることは明白である。
【0015】
デリベリローラ対11、12がデリベリニップライン14を定義し、延伸されるべきステープルスライバ2のドラフトはこのデリベリニップラインで終了している。その際糸品質に関して、エプロン対9、10がデリベリニップライン14に極力間近に接近させられると好ましいことが判明した。そのことから、エプロン対9、10の出口からデリベリニップライン14に至るステープルスライバ2の経路を著しく短縮することが可能となり、ステープルスライバ2がデリベリニップライン14の前で未案内となるのはごく短い経路においてのみとなる。これは糸品質にとってきわめて重要である。
【0016】
冒頭で既に述べたように、デリベリローラ対11、12と一緒に周回する空気流がデリベリニップライン14で中断されて空気渦化を生じ、これがこの危険な領域でステープルスライバ2の流れを乱すときわめて厄介である。まさにエプロン対9、10とデリベリニップライン14との間の楔形間隙15は特別危険である。なぜならばここではステープルスライバ2は既にごく薄いスライバへとドラフトされているからである。いずれにしても楔形間隙15の領域では、デリベリローラ対11、12と一緒に回転する空気流がここで横に流れ去り、ステープルスライバ2を横に押し流し、または供給方向Aとは逆に動かすことは、防止されねばならない。
【0017】
ところで、一方でエプロン対9、10がデリベリニップライン14に過度に接近するのを防止し、他方で望ましくない空気渦化を防止するために、エプロン対9、10の領域、但し楔形間隙15の外側に、デリベリローラ11の周面16を包み込みかつこの周面16とで狭い隙間17を形成するカバー18が取付けられ、このカバーは周回する空気流をデリベリニップライン14の領域から遠ざけねばならない。このカバー18は絞り抵抗として働くごく狭い隙間17を有し、この隙間は主に0.2mm未満である。付加的にこの隙間17は負圧管路20の吸引口19に接続されており、その誘引通風はC方向に作用する。このような吸出しは、一方で望ましくない空気流の境界層の破壊を支援し、他方で例えば空気流によってデリベリニップライン14に供給される廃繊維を十二分に吸い出し得るようにする。
【0018】
明らかとなるように、楔形間隙15の厄介な領域が吸出しによって乱されることのないように吸引口19はエプロン対9、10から若干離して取付けられている。
【0019】
隙間17が恒常的に吸引されるのではあるが、そこで時々繊維が絡み合うことは避けることができない。この理由から、精紡工程中断時、例えば糸切れ後、カバー18も吸引口19もデリベリローラ11の周面16から僅かに約1〜5ミリメートルだけ離反動される。これにより、場合によって狭持された繊維が自由となり、吸引口19内に達することができる。
【0020】
カバー18と吸引口19は明らかなように1つの構造ユニット18、19を形成し、従って一緒にデリベリローラ11から離反動可能である。この構造ユニット18、19に付設された揺動軸21がデリベリローラ11の領域にある。従って構造ユニット18、19は揺動方向Dでデリベリローラ11の周面16から僅かに揺動離反できる一方、操業時にはばね手段24の圧力を受けて止め22に当接する。
【0021】
前記ばね手段24に抗して作用する引張帯材23が構造ユニット18、19に付設されており、この引張帯材はそれ自身主に空圧式操作機構28に接続されている。引張帯材23は案内ローラ25、26、27を介して案内され、引張方向Eに負荷可能である。
【0022】
図2による別の実施例では、同一機能の部材である限り、従来の符号が維持されている。それゆえにここでは再度の説明は省かれる。
【0023】
図2による実施例が図1による実施例と異なるのは、実質的に、構造ユニット18、19用に揺動運動の代わりにいまや直動ガイド29、30が設けられている点である。直動ガイド29、30の運動方向は符号Fであり、やはり引張帯材23によってばね手段24に抗して行うことができる。操業状態はやはり止め22によって安全にされている。
【0024】
直動ガイド29、30のゆえに、操業時にダブルエプロン式ドラフト装置3のその他の領域も吸引することが可能である。既に本発明に付属する吸引口19と並んで他の2つの吸引口31、32が設けられており、そのうち吸引口31は操業時にボトムエプロン9を吸引し、吸引口32は操業時ボトムフィードローラ5を吸引する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】カバーと吸引口とを含む揺動離反可能な構造ユニットを備えた本発明に係るダブルエプロン式ドラフト装置を一部断面図で示す側面図である。
【図2】直動ガイドによってデリベリローラから離反動可能な別の態様に形成された構造ユニットを備えたダブルエプロン式ドラフト装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精紡機用ダブルエプロン式ドラフト装置であって、デリベリニップラインを有しかつ被動デリベリローラとこれに対して弾力的に押付けられる加圧ローラとを含むデリベリローラ対と、さらに、前段に設けられデリベリニップラインの領域でステープルスライバを案内しかつこれとで楔形間隙を形成するエプロン対と、エプロン対の領域でデリベリローラの周面を包み込みかつこの周面とで狭い隙間を形成するカバーとを備えたものにおいて、カバー(18)が楔形間隙(15)の外側に配置され、隙間(17)が負圧管路(20)の吸引口(19)に接続されており、精紡工程中断時にカバー(18)も吸引口(19)もデリベリローラ(11)から僅かに離反動可能であることを特徴とするダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項2】
吸引口(19)がデリベリローラ(11)の周面(16)から1〜5ミリメートル離反動可能であることを特徴とする、請求項1記載のダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項3】
カバー(18)と吸引口(19)が1つの構造ユニット(18、19)を形成しかつ一緒にデリベリローラ(11)から離反動可能であることを特徴とする、請求項1または2記載のダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項4】
構造ユニット(18、19)に揺動軸(21)が付設されており、この揺動軸がデリベリローラ(11)の領域にあることを特徴とする、請求項3記載のダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項5】
構造ユニット(18、19)に直動ガイド(29、30)が付設されていることを特徴とする、請求項3記載のダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項6】
ばね手段(24)に抗して作用する引張帯材(23)が構造ユニット(18、19)に付設されていることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項記載のダブルエプロン式ドラフト装置。
【請求項7】
空圧式操作機構(28)が引張帯材(23)に付設されていることを特徴とする、請求項6記載のダブルエプロン式ドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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