説明

糖−空気燃料電池

【課題】糖燃料にアルカリ性物質を供給することなく、発電性能を向上する。
【解決手段】糖を含む略中性の電解質からなる糖燃料水溶液14を収容した燃料室3と、該燃料室3内に配置され、糖燃料水溶液14に接触させられて糖を酸化させるアノード7と、燃料室3に、アノード7に糖燃料水溶液14を挟んで隣接配置され、空気中の酸素を還元するカソード6と、アノード7に電気反応により水酸化物イオンを供給するOH供給部4,8,9,10とを備える糖−空気燃料電池1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖−空気燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードとカソードとの間にアニオン交換膜を配置し、アニオン交換膜をアルカリ性溶液に接触させた糖燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−93948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、糖燃料電池においては、糖燃料に予めアルカリ性物質を混合しておくと、糖の異性化が進行して燃料液として劣化してしまうため、燃料液にアルカリ性物質を混合する操作は発電直前に行わなければならないという問題がある。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、糖燃料にアルカリ性物質を供給することなく、発電性能を向上することができる糖−空気燃料電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、糖を含む略中性の電解質からなる糖燃料水溶液を収容した燃料室と、該燃料室内に配置され、前記糖燃料水溶液に接触させられて糖を酸化させるアノードと、前記燃料室に、前記アノードに前記糖燃料または固体電解質を挟んで隣接配置され、空気中の酸素を還元するカソードと、前記アノードに、電気反応により水酸化物イオンを供給するOH供給部とを備える糖−空気燃料電池を提供する。
【0006】
本発明によれば、OH供給部の作動により電気反応によって水酸化物イオンがアノードに供給されると、アノード近傍が局部的にアルカリ性状態となる。これにより、糖燃料水溶液に接触しているアノードが触媒となって糖の酸化反応が活性化され、糖の酸化物と水と電子が生成される。一方、カソードにおいては、空気中の酸素、水分およびアノードで発生し外部の負荷を介して移動してきた電子によって、空気中の酸素が還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0007】
したがって、OH供給部により、水酸化物イオンが一旦供給されると、その後は、カソードにおいて生成された水酸化物イオンによってアノードにおける酸化反応が繰り返し行われ、継続的に生成される電子によって負荷に仕事をさせることができる。この場合において、発電に際してOH供給部を作動させて水酸化物イオンを供給するので、従来のように、アルカリ性物質を予め燃料液に混合しておかなくて済み、糖燃料を劣化させることなく発電性能を向上することができる。
【0008】
上記発明においては、前記OH供給部が、固体電解質からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、該補助室内に配置された補助負極と、前記燃料室内に前記アノードに前記糖燃料水溶液を挟んで隣接配置された補助正極と、該補助正極と前記補助負極との間に接続され前記補助正極の電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備えていてもよい。
【0009】
このようにすることで、補助電源によって補助正極と補助負極との間に電位差を生じさせることにより、隔膜における電気反応あるは補助負極および補助正極における電気反応によって、燃料室内の補助正極近傍に簡易に水酸化物イオンを誘導することができる。これにより、発電を開始したいときに、アノードに簡易に水酸化物イオンを供給して、糖燃料の劣化を防止しつつ発電を行うことができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記隔膜が、前記糖燃料液水溶液に接触させられるアニオン交換膜と、該アニオン交換膜に積層配置させられるとともに前記電解質液に接触させられるカチオン交換膜とを備えていてもよい。
このようにすることで、アニオン交換膜とカチオン交換膜との境界において電気分解により、水酸化物イオンが発生し、発生した水酸化物イオンは補助正極と補助負極との間の電位差によって補助正極の存在する燃料室側へと誘導される。これにより、燃料室のアノード近傍に局部的なアルカリ性状態を簡易に生成することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜がバイポーラ膜により構成されていてもよい。
このようにすることで、一体的なバイポーラ膜によって、上記作用を更に簡易に発生させることができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記電解質液が緩衝液であってもよい。
このようにすることで、アニオン交換膜とカチオン交換膜との境界において電気分解により発生した水素陽イオンが、補助正極と補助負極との間の電位差によって補助負極の存在する補助室側へと誘導され、補助室内に満たされている緩衝液からなる電解質液によって緩衝作用を受ける。これにより、補助室内のpH値を略一定の状態に維持することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記補助電源が、前記アノードと前記カソードとの間に発生した電力により充電されてもよい。
このようにすることで、アノードとカソードとの間に発生した電力によって補助電源を充電することにより、燃料電池の出力を補助電源として利用することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記アノードと前記カソードとの間に発生する電力に応じて、前記アノードと前記カソードとの間に発生する電力のうち、前記補助電源に供給する電力を調節する電力制御部とを備えていてもよい。
【0015】
このようにすることで、アノードとカソードとの間に発生する電力が低いときには、電力制御部が、補助電源に供給する電力を低下させるように調節することにより、発生される電力の内、充電に用いられる電力を低減することができる。一方、アノードとカソードとの間に発生する電力が高いときには、電力制御部が、補助電源に供給する電力を低下させるように調節することにより充電に用いる電力を増加させることができる。これにより、発電量に合わせて効率よく補助電源を充電することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記燃料室を複数備えていてもよい。
このようにすることで、複数の燃料室が補助室を共有して、各燃料室内の補助正極と補助室内に設けられる補助負極との間に接続された補助電源の作動により、各燃料室内に水酸化物イオンを発生させて、糖の酸化反応を活性化し、発電することができる。補助室を共有することで、構造を簡素化することができる。そして、複数の燃料室に設けられた複数のアノードとカソードとを含む小電池どうしは並列接続することにより電池容量を増大させ、直列接続することにより発生電圧を増大させることができる。
【0017】
また、上記発明においては、1つの前記燃料室に備えられた前記アノードと、他の1つの前記燃料室に備えられた前記カソードとを接続するワイヤを備えていてもよい。
このようにすることで、複数の燃料室に設けられた複数のアノードとカソードとを含む小電池どうしをワイヤによって直列接続することができ、高い発生電圧の糖−空気燃料電池を簡易に構成することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記OH供給部が、固体電解質からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、該補助室内に配置された補助負極と、該補助負極と前記アノードとの間に接続され該アノードの電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備えていてもよい。
【0019】
このようにすることで、アノードと補助負極との間に補助電源からの電圧を印加することにより、アノードの周囲に水酸化物イオンを誘導し、アノードにおける糖の酸化反応を活性化させて発電を行うことができる。これにより、アノードを補助正極としても使用することができ、構成を簡易にすることができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記OH供給部が、絶縁材料からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、該補助室内に配置された補助正極と、前記燃料室内に前記アノードに前記糖燃料水溶液を挟んで隣接配置された補助負極と、該補助正極と前記補助負極との間に接続され前記補助正極の電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備えていてもよい。
【0021】
このようにすることで、補助正極と補助負極との間に補助電源によって電位差を与えて、周囲の水を電気分解することにより、アノードに近接する補助負極の周囲に水酸化物イオンを発生させ、その水酸化物イオンにより、アノードにおける糖の酸化反応を活性化させて、発電を開始させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、糖燃料にアルカリ性物質を供給することなく、発電性能を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る糖−空気燃料電池を示す模式的な縦断面図である。
【図2】図1の糖−空気燃料電池における各反応を説明する図である。
【図3】図1の糖−空気燃料電池の第1の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【図4】図1の糖−空気燃料電池の第2の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【図5】図1の糖−空気燃料電池の第3の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【図6】図1の糖−空気燃料電池の第3の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【図7】図1の糖−空気燃料電池の第4の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【図8】図1の糖−空気燃料電池の第5の変形例を示す模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係る糖−空気燃料電池1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る糖−空気燃料電池1は、図1に示されるように、電気的絶縁材料により液密状態に構成された筐体2と、該筐体2内を2つの空間3,4に区画する固体電解質からなる隔壁5と、第1の空間3に配置され、筐体2の一壁面を構成するカソード6と、第1の空間3内にカソード6に対して間隔をあけて配置されるアノード7と、アノード7内部に間隔をあけて配置される補助正極8と、第2の空間(補助室)4内に配置される補助負極9と、これら補助正極8と補助負極9との間に電位差を生じさせる補助電源10と、該補助電源10の電圧の印加または遮断を切り替えるスイッチ11とを備えている。図中、符号12は、筐体2の外部においてアノード7とカソード6との間にワイヤ13によって接続された負荷であり、図1に示す例では豆電球である。
【0025】
第1の空間3には、略中性の糖燃料14の水溶液、例えば、グルコースと乳酸カルシウムの水溶液が充填されている。これにより、第1の空間3は燃料室を構成している。
第2の空間4には、緩衝液、例えば、リン酸緩衝液15が充填されている。
【0026】
隔壁5は、アニオン交換膜5aとカチオン交換膜5bとを積層した一体的なバイポーラ膜(以下、バイポーラ膜5ともいう。)によって構成されている。アニオン交換膜5aが第1の空間3の一内面を構成し、カチオン交換膜5bが第2の空間4の一内面を構成している。
【0027】
カソード6は、多孔質の導電性材料により構成されている。例えば、ステンレスワイヤで構成された網に、酸化マンガンと炭素粉末との混合物を担持させることにより構成されている。これにより、糖燃料14、気体およびイオンが通過できるようになっている。
【0028】
また、筐体2の外側に配置されるカソード6の表面は、気体を透過し液体の透過を阻止する通気防水シート16で覆われている。通気防水シート16は、例えば、4フッ化エチレン製の薄膜で構成されている。
【0029】
アノード7も、多孔質の導電性材料により構成されている、例えば、炭素繊維で形成されたカーボンペーパーに、金の微粒子を担持させることにより構成されている。これにより、糖燃料14およびイオンが通過できるようになっている。アノード7は、内部に空洞7aを有する箱状に形成され、内部の空洞7aには後述する補助正極8がアノード7の内面に接触しないように、内面に対して間隔をあけて収容されている。
【0030】
アノード7においては、水酸化物イオンOHの存在下において、グルコースの酸化反応が活性化され、図2に示されるように、グルコースはグルコノラクトンと水に分解され、その際に電子が生成されるようになっている。グルコノラクトンは、さらに加水分解されてグルコン酸に変化するようになっている。
【0031】
カソード6においては、通気防水シート16を介して外部から取り込んだ酸素が、ワイヤ13および負荷12を介してアノード7側から流れてきた電子と、通気防水シート16を介して、あるいは、糖燃料14内から取り込んだ水とによって還元されることにより、水酸化物イオンOHが生成されるようになっている。生成された水酸化物イオンOHは糖燃料14内に溶け込み、アノード7におけるグルコースの酸化反応を促進するために使用されるようになっている。
【0032】
補助正極8および補助負極9は、白金、ニッケル、鉄、あるいはステンレス等の導電性を有する金属材料により構成されている。
補助電源10は、電池であって、スイッチ11が閉成されることにより、補助正極8を補助負極9よりも高い電位にするようになっている。
補助正極8、補助負極9、補助電源10およびバイポーラ膜5により第1の空間3に対して区画形成された第2の空間4によって、OH供給部が構成されている。
【0033】
このように構成された本実施形態に係る糖−空気燃料電池1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る糖−空気燃料電池1は、発電開始前の保存状態においてスイッチ11が開かれており、補助正極8と補助負極9との間に電位差は存在しない。この状態では、燃料室を構成している第1の空間3内には水酸化物イオンOHは存在せず、発電は行われていない。
【0034】
この状態から発電を行うには、負荷12をアノード7とカソード6との間に接続し、スイッチ11を閉成する。これにより、第1の空間3内の補助正極8と第2の空間4内の補助負極9との間に電位差が発生する。電位差が水の理論分解電圧0.83V以上となることでバイポーラ膜5のアニオン交換膜5aとカチオン交換膜5bとの膜界面において水の電気分解が発生する。そして、発生した水素陽イオンHは第2の空間4内の補助負極9に引き寄せられ、水酸化物イオンOHは第1の空間3内の補助正極8に引き寄せられる。
【0035】
第2の空間4内にはリン酸緩衝液15が貯留されているので、リン酸緩衝液15内に溶け込んだ水素陽イオンHは緩衝作用を受けて、第2の空間4内のpHが略一定に保たれる。
一方、第1の空間3内にはグルコースを含む略中性の電解液である乳酸カルシウム水溶液からなる糖燃料14が貯留されているので、水酸化物イオンOHが溶け込むことによりアノード7付近に局部的なアルカリ性状態が生成されることになる。
【0036】
そして、アノード7付近にアルカリ性状態が生成されると、アノード7に付着している金微粒子に水酸化物イオンOHが吸着し、グルコースの酸化反応が活性化される。これにより、図2に示されるように、グルコースは、水酸化物イオンOHによって、グルコノラクトンと水と電子を発生させ、発生した電子がアノード7に接続されたワイヤ13を介して筐体2外部の負荷12に流れることにより、負荷12に仕事をさせた後にワイヤ13を介して筐体2内のカソード6に戻される。
【0037】
カソード6においては、通気防水シート16を介して筐体2外部から取り込んだ水および/または糖燃料14内の水と、ワイヤ13を介して流れてきた電子とによって、通気防水シート16を介して筐体2外部から取り込んだ酸素の還元反応が発生し、水酸化物イオンOHが生成される。生成された水酸化物イオンOHは、糖燃料14内に溶け込んで、アノード7におけるグルコースの酸化反応を活性化する。このような一連の化学反応が繰り返されることにより、糖−空気燃料電池1による発電が継続的に行われる。
【0038】
この場合において、本実施形態に係る糖−空気燃料電池1によれば、スイッチ11を閉じるまで第1の空間3内に水酸化物イオンOHを存在させずに済むという利点がある。すなわち、従来の糖−空気燃料電池のように、グルコースの酸化反応を開始させるための水酸化物イオンOHをアノード7に供給するために、アルカリ性物質を糖燃料14内に予め混入させずに済むので、発電開始前に糖燃料14を劣化させることなく、発電性能を維持することができるという利点がある。
【0039】
なお、本実施形態においては、アノード7内に形成した空洞7a内に補助正極8を配置することとしたが、これに代えて、図3に示されるように、アノード7の外部に補助正極8を配置することとしてもよい。これによっても、バイポーラ膜5の膜界面において発生した水酸化物イオンOHが糖燃料14内に溶け込んでアノード7付近に流れるため、グルコースの酸化反応を活性化させて発電を開始することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態においては、隔壁を構成する固体電解質膜として、一体的なバイポーラ膜5を採用したが、アニオン交換膜5aとカチオン交換膜5bとを密着させた2層構造の隔膜を採用してもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、バイポーラ膜5によって生成した水酸化物イオンOHおよびカソード6における還元反応によって生成した水酸化物イオンOHを糖燃料14を経由してアノード7に供給することとしたが、これに代えて、図4に示されるように、カソード6とアノード7との間にアニオン交換膜17を配置し、2つのアニオン交換膜5a,17によってアノード7を挟み込むように構成してもよい。
【0042】
このようにすることで、生成された水酸化物イオンOHが糖燃料14中を移動することなくアノード7に到達でき、反応抵抗を下げることができる。したがって、糖−空気燃料電池1の発電効率を向上することができる。
また、カソード6とアノード7とをアニオン交換膜17によって一体化でき、装置の小型化、組立容易性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0043】
また、カソード6表面をアニオン交換膜17によって覆うことで、カソード6表面におけるグルコースの酸化反応を抑えることができ、糖−空気燃料電池1の発電効率を向上することができる。
アニオン交換膜17に代えて、他の任意の固体電解質膜を採用してもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、図5に示されるように補助電源10として充電式のものを用いるととともに、アノード7とカソード6との間で発生した電力によって充電することとしてもよい。この場合に、アノード7とカソード6との間で発生した電力を測定して、補助電源10の充電に用いる電力量を調節する電力制御部18を備えることが好ましい。
【0045】
このようにすることで、糖−空気燃料電池1の出力の一部を補助電源10の充電用に使用することができ、電池の消耗を抑えることができるという利点がある。また、電力制御部18が、測定した電力に応じて、発電している電力が少ないときには充電に回す電力を少なくし、発電している電力が多いときには充電に回す電力を多くするように制御することにすれば、糖−空気燃料電池1の出力を無駄にすることなく補助電源10を効率的に充電することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、筐体2内の単一の第1の空間3と単一の第2の空間4とを設けた場合を例示したが、これに限定されるものではなく、図6に示されるように、単一の第2の空間4に対して2以上の第1の空間3A,3Bを設けることにしてもよい。
【0047】
図6に示す例では、各第1の空間3A,3Bは、アノード7A,7B、カソード6A,6B、補助正極8A,8Bおよび通気防水シート16A,16Bを備える同一構造を有している。
また、補助正極8A,8Bにカソード6Aを接続し、補助負極9にアノード7Bを接続することにより、補助正極8A,8Bと補助負極9との間に電位差を発生させる補助電源を構成している。
【0048】
そして、一方の第1の空間3Aのアノード7Aと他方の第1の空間3Bのカソード6Bとをワイヤ22により電気的に接続し、一方の第1の空間3Aのカソード6Aと他方の第1の空間3bのアノード7Bとの間に負荷12をワイヤ13によって電気的に接続することにより、2対のアノード7A,7Bとカソード6A,6Bとの間にそれぞれ形成される小電池を直列に接続し、発生電力を増大させた糖−空気燃料電池1を構成することができる。
【0049】
また、この場合に、2つの小電池に発電を開始させるための第2の空間4を共有させることで、構造を簡易化して装置の小型化、低コスト化を図ることができるという利点がある。なお、2つの小電池を直列に接続した場合を例示したが、並列に接続してもよい。これにより、電池容量を増加させることができる。
【0050】
また、本実施形態においては、アニオン交換膜5aとカチオン交換膜5bとを重ね合わせた一体的なバイポーラ膜5を用いたが、これに代えて、図7に示されるように、素焼きのセラミックスのような多孔質の絶縁材料によって隔壁19を構成し、第1の空間3内に補助負極9、第2の空間4内に補助正極8をそれぞれ配置し、第2の空間4の一壁面を通気防水シート20によって構成してもよい。この場合、第2の空間4にはグルコースを含まない乳酸カルシウム水溶液21が充填されていればよい。
【0051】
このように構成すると、補助正極8と補助負極9との間に補助電源10によって生成された電位差により、第1の空間3および第2の空間4内の電解質液14,21内の水が電気分解されて、第1の空間3内の補助負極9の周囲に水酸化物イオンOHが生成され、第2の空間4内の補助正極8の周囲に水素陽イオンHが生成される。
【0052】
補助負極9の周囲に生成された水素はカソード6および通気防水シート16を透過して筐体2外に放出され、補助正極8の周囲に生成された酸素は、通気防水シート20を透過して筐体2外に放出される。
補助負極9の周囲に生成された水酸化物イオンOHは、上記と同様にして、糖燃料14内に溶け込んでアノード7周囲に流れるので、アノード7におけるグルコースの酸化反応を活性化することができ、発電を開始させることができる。
【0053】
また、本実施形態においては、補助正極8をアノード7に形成された空洞7a内に配置して両者を絶縁することとしたが、これに代えて、図8に示されるように、アノード7を補助正極として兼用することにしてもよい。
このようにすることで部品点数を減らしてコストの低減を図ることができる。
【0054】
糖燃料14としては、グルコースの他に他の糖を含むものを採用してもよい。また、中性の電解質液としては、乳酸カルシウム水溶液に代えて、塩化ナトリウム水溶液、硝酸ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、フッ化カリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等を採用してもよい。
また、第2の空間4内に貯留する電解質液はグルコースを含まないので、略中性である必要はなく、リン酸緩衝液15以外のものでもよいし、アルカリ性物質を含んでいてもよい。
また、多孔質性の隔壁19としては素焼きのセラミックスに代えて、多孔質プラスチック等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 糖−空気燃料電池
3,3A,3B 第1の空間(燃料室)
4 第2の空間(補助室、OH供給部)
5 バイポーラ膜(隔膜)
5a アニオン交換膜(隔膜)
5b カチオン交換膜(隔膜)
6,6A,6B カソード
7,7A,7B アノード
8 補助正極(OH供給部)
9 補助負極(OH供給部)
10 補助電源(OH供給部)
13,22 ワイヤ
14 糖燃料(糖燃料水溶液)
15 リン酸緩衝液(電解質液)
17 アニオン交換膜(固体電解質)
18 電力制御部
19 隔膜(OH供給部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖を含む略中性の電解質からなる糖燃料水溶液を収容した燃料室と、
該燃料室内に配置され、前記糖燃料水溶液に接触させられて糖を酸化させるアノードと、
前記燃料室に、前記アノードに前記糖燃料水溶液または固体電解質を挟んで隣接配置され、空気中の酸素を還元するカソードと、
前記アノードに、電気反応により水酸化物イオンを供給するOH供給部とを備える糖−空気燃料電池。
【請求項2】
前記OH供給部が、
固体電解質からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、
該補助室内に配置された補助負極と、
前記燃料室内に前記アノードに前記糖燃料水溶液を挟んで隣接配置された補助正極と、
該補助正極と前記補助負極との間に接続され前記補助正極の電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備える請求項1に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項3】
前記隔膜が、前記糖燃料液水溶液に接触させられるアニオン交換膜と、該アニオン交換膜に積層配置させられるとともに前記電解質液に接触させられるカチオン交換膜とを備える請求項2に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項4】
前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜がバイポーラ膜により構成されている請求項3に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項5】
前記電解質液が緩衝液である請求項1から請求項4のいずれかに記載の糖−空気燃料電池。
【請求項6】
前記補助電源が、前記アノードと前記カソードとの間に発生した電力により充電される請求項2に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項7】
前記アノードと前記カソードとの間に発生する電力を測定する電力測定部と、
該電力測定部により測定された電力に応じて、前記アノードと前記カソードとの間に発生する電力のうち、前記補助電源に供給する電力を調節する電力制御部とを備える請求項5に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項8】
前記燃料室を複数備える請求項1から請求項7のいずれかに記載の糖−空気燃料電池。
【請求項9】
1つの前記燃料室に備えられた前記アノードと、他の1つの前記燃料室に備えられた前記カソードとを接続するワイヤを備える請求項8に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項10】
前記OH供給部が、
固体電解質からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、
該補助室内に配置された補助負極と、
該補助負極と前記アノードとの間に接続され該アノードの電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備える請求項1に記載の糖−空気燃料電池。
【請求項11】
前記OH供給部が、
絶縁材料からなる隔膜により前記燃料室に対して区画され電解質液を収容する補助室と、
該補助室内に配置された補助正極と、
前記燃料室内に前記アノードに前記糖燃料水溶液を挟んで隣接配置された補助負極と、
該補助正極と前記補助負極との間に接続され前記補助正極の電位を前記補助負極の電位より高くする補助電源とを備える請求項1に記載の糖−空気燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−190652(P2012−190652A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53271(P2011−53271)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】