糖ペプチドの合成法
【課題】この発明の課題は、目的とするデザインされた糖ペプチドを簡便かつ効果的に製造することができる方法を提供することにある。
【解決手段】(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【解決手段】(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖ペプチドの合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌化の進行に伴い、細胞表層のムチン糖タンパク質の糖鎖構造が変化することはよく知られており(非特許文献1参照)、これらをマーカー分子とする新たな癌早期発見・診断技術および抗体医薬・癌ワクチンなどの新治療法の研究開発が進められている(非特許文献2参照)。現在、臨床現場で広く用いられているCA15-3やCA125などのモノクローナル抗体の抗原も上記ムチン糖タンパク質の特定の部分構造であることが予想されているため癌関連マーカー分子としてのムチン型「糖ペプチド」は創薬・医療産業上きわめて重要な標的化合物群である。これらの化合物は有機化学合成法ならびに酵素合成法を相補的に用いることによって作成し得ることが報告されているが(特許文献1、非特許文献3参照)、構造の異なる複雑な糖鎖を複数のアミノ酸残基に配置させるためには個々のコア構造(基本骨格)を含む複数種のアミノ酸誘導体をあらかじめ合成する必要があり、同一のペプチド分子中に付与できる糖鎖構造の種類には限界があるためそれらの糖ペプチドを大量合成することも困難であった。
【0003】
一方、ムチン型糖タンパク質は本来生体内では多くの糖転移酵素反応によって生合成されており、ポリペプチド鎖に存在するセリンやスレオニンの水酸基に最初の糖であるN-アセチルガラクトサミンを転移する酵素(UDP-GalNAc:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミン転移酵素、以下ppGalNAcTsと略すことがある。)は十数種類発見されている。しかし、それらppGalNAcTsのペプチド鎖あるいは糖ペプチド鎖に対する基質特異性については、ある一定の傾向は散見されるものの一般則(コンセンサス配列)は全く存在しないことを裏付ける実験結果が数多く報告されている(たとえば非特許文献2あるいは非特許文献4参照)。すなわち、いかなるppGalNAcTsによってもペプチド鎖に複数存在するセリンやスレオニンの中で、任意の残基に対してGalNAcを恣意的に修飾することは困難であり、またその序列(修飾反応の順番)を制御することも不可能である。
【0004】
特開2003−2899公報(特許文献2)は、糖転移酵素を用いてペプチドに糖鎖を付加し、1つめの糖転移酵素では糖鎖を導入することができなかったアミノ酸に異なる糖転移酵素を用いて糖鎖を導入する、という方法を開示する。しかし、この文献では、糖転移酵素の基質特異性にのみ依存することが前提となっており、人為的に糖鎖導入可能なアミノ酸をブロックしておくことで、目的とするデザインされた糖ペプチドを効果的に製造することはなんら意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願公開2006/030840パンフレット
【特許文献2】特開2003−2899公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Rev.Cancer (2004) 4,45-60.
【非特許文献2】Biochim.Biophys.Acta (2008) 1780,564-563.
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.(2005) 127,11804-11818.
【非特許文献4】Chem.Biol.(2004) 11,1009-1016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、目的とするデザインされた糖ペプチドを簡便かつ効果的に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、糖が付加されるべきアミノ酸に対し、あらかじめ糖転移酵素で導入される糖とは異なる糖またはその代替物(保護基)と結合させておくことで、糖転移反応による糖鎖導入をブロックし、目的とする場所のアミノ酸に目的とする糖鎖(単糖を含む)を付加させ、その後ブロックするために導入した糖または代替物(保護基)を、加水分解等で選択的に脱離させることによって、目的とする場所に糖鎖が導入された糖ペプチドを製造することができることを見出したことによって上記課題を解決した。加えて、本発明者らは、これらに加え、さらにブロックされていたアミノ酸に、1度目と同じまたは異なる糖転移酵素を用いて糖鎖付加することによって、さらに複雑な目的とする糖ペプチドを製造することができることを見出し、上記課題を解決した。
【0009】
本発明は、具体例としては、ペプチド鎖に含まれる任意のセリン残基(Ser)およびスレオニン残基(Thr)の水酸基を、あらかじめN−アセチル−α−ガラクトース(α−GalNAc)以外の糖またはその代替物(保護基)などで保護した糖ペプチドを作製し、該糖ペプチドを基質としてN−アセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAc転移酵素;ppGalNAcTs)を用いた糖転移反応に供すると、他の残されたSerおよびThrにα−GalNAcが転移されうる。前記反応にて得られた生成物に含まれるα−GalNAc以外の糖またはその代替物(保護基)は、選択的に切断する酵素(グリコシダーゼ)を用いて加水分解することにより、SerおよびThrの側鎖を遊離の水酸基へと変換できる。また、ppGalNAcTsが、GalNAcとSerまたはThrとの間に形成するグリコシド結合の立体化学はα型のみであるため、あらかじめSerおよびThrの側鎖にGalNAc残基をβ型のグリコシド結合にて導入しておけば、該糖質はβ−ヘキソサミニダーゼにより選択的に加水分解することができる。β−GalNAcと同様にα−あるいはβ−グルコース(α−Glcあるいはβ−Glc)、α−フコース(α−Fuc)、β−N−アセチルグルコサミン(β−GlcNAc)なども、それぞれα−あるいはβ−グルコシダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼなどの酵素を用いて選択的に切断することができるため、SerおよびThrの水酸基に対する保護に用いることができる。ペプチド配列中の任意のSerおよびThrの水酸基を複数種の糖またはその代替物(保護基)で保護しておけば、該残基以外のSerおよび/またはThrがppGalNAcTsによるα−GalNAcの転移を受けることになるため、ppGalNAcTsの修飾序列を変化させることができる。また、他の糖転移酵素を用いることでペプチド鎖に転移されたα−GalNAcを母核としてさらに糖鎖伸長することができるため、Serおよび/またはThr側鎖の保護基として導入する糖またはその代替物(保護基)の数、位置、種類を考慮したペプチド基質と、ppGalNAcTs、グリコシダーゼ、糖転移酵素を組み合わせて用いる一連の酵素反応プロトコールをデザインしておけば、異なる糖鎖構造を任意のセリン・スレオニン残基に配置した糖ペプチドの構築が可能である。
【0010】
本発明の具体例としては、酵素法による糖ペプチド合成の許容範囲(レパートリー)が大幅に広がると同時にライブラリー構築のスループットにおいて従来法をはるかに上回る優位性を有しているため、癌特異的糖ペプチド抗原構造(癌エピトープ)等の探索と創薬研究開発が加速される。
【0011】
たとえば、ppGalNAcTsを用いたGalNAc転移反応において、ペプチド鎖やタンパク質に対する糖鎖修飾位置および序列を制御することによって、産業上有用な疾患関連糖ペプチドライブラリーを提供することができる。
【0012】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)以下の工程:
(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、
少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
(2)
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシンから選択される少なくとも1つである、項目1に記載の製造方法。
(2A)
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、セリンまたはスレオニンである、項目1または2に記載の製造方法。
(3)
前記保護基は、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基である、項目1〜2または2Aのいずれかに記載の方法。
(4)
前記保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−GlcNAc、α−Fucおよびβ−GalNAc、ならびにこれらの複糖および修飾糖からなる群より選択される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(5)
前記修飾基は糖鎖であり、前記(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(6)
前記保護基が糖鎖であり、前記(A)工程は化学合成法により行い、前記(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、前記(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行う、項目1〜5のいずれかに記載の方法。
(7)
前記糖鎖は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンであって、前記糖加水分解酵素は、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼである、項目6に記載の方法。
(8)
前記糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素からなる群より選択される、項目6または7に記載の方法。
(9)
前記(B)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、該(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、項目1〜8のいずれかに記載の方法。
(10)
以下の工程:
(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;
(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;
(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、
を包含する、
少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
(11)
前記(E)工程における修飾基と前記(G)工程における修飾基とは異なる修飾基である、項目10に記載の製造方法。
(12)
前記(E)工程および前記(G)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、それぞれ該(E)工程および該(G)工程の終わった後、それぞれ(E2)工程および(G2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、項目10〜11のいずれかに記載の方法。
(13)
項目2〜9の特徴を少なくとも1つ有する、項目10〜12のいずれかに記載の製造方法。
(14)
さらに、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程を含む、項目10〜13のいずれかに記載の方法。
(15)
修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法であって、項目1〜14のいずれかに記載に方法を行う工程を包含する、方法。
(16)
項目1〜14のいずれかに記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチド。
(17)
項目15に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチドのライブラリー。
【0013】
これらのすべての局面において、本明細書に記載される各々の実施形態は、適用可能である限り、他の局面において適用されうることが理解される。
【発明の効果】
【0014】
癌特異的な抗原である新しい糖ペプチド化合物を用いた癌ワクチンや抗体医薬の開発により、癌の種類はもとより詳細な症状・進行度・転移性などに適応したテーラーメイド医療が実現するとともに、患者が負担する高額の医療費軽減にも資する革新的医療技術開発へと繋がる。
【0015】
以上のように、本発明により、糖転移酵素の基質特異性にのみ依存するのではなく、糖鎖導入可能なアミノ酸を人為的にブロックしておくことで、目的とするデザインされた糖ペプチドを効果的に製造することが出来る、という点で優れた糖ペプチドまたは糖タンパク質の製造方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−1】図1はN−アセチル−βガラクトース(β−GalNAc)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したレーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装(MALDI−TOFMS)のスペクトル(b)を示した図である。黒四角はβ−GalNAcを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図1−2】(c−1)、(c−2)はppGalNAcT2を用いた糖転移反応により生成した二種類の生成物について測定したECD−MS/MSのスペクトルを示した図である。(c−1)はα−GalNAcの一転移糖ペプチド、(c−2)はα−GalNAcの二転移糖ペプチドについての測定結果であり、一転移糖ペプチドはThr11、二転移糖ペプチドはThr2とThr11にα−GalNAcが修飾されていることが明らかになった。これらの図においてT(Thr)に付与したアスタリスク(*)はThrが糖質と結合していることを示す。
【図2】図2はα−マンノース(α−Man)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図3】図3はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図4】図4はα−フコース(α−Fuc)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図5】図5はα−マンノース(α−Man)をThr17に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図6】図6はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr17に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図7】図7はα−フコース(α−Fuc)をThr7に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図8】図8はα−マンノース(α−Man)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図9】図9はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図10】図10はα−フコース(α−Fuc)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図11】図11は糖質をもたないEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程と得られる4種類の糖ペプチドを示した図である。該基質に対するN−アセチル−α−ガラクトース(α−GalNAc)の転移はThr7、Thr11、Thr2、Thr3の順に起こる。白四角はα−GalNAcを示す。
【図12】図12はα−マンノース(α−Man)、N−アセチル−β−ガラクトース(β−GalNAc)をそれぞれThr7、Thr11に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒四角はβ−GalNAcを、示す。
【図13】図13は、従来技術による糖ペプチドライブラリーの製造スキームである。
【図14】図14は、本発明による糖ペプチドライブラリーの製造スキーム例である。
【図15】本発明の応用例である。ペプチド鎖に第一の修飾基(糖)を転移する酵素と該修飾基を基質として第二の修飾基(糖)を転移する酵素を組み合わせて用いることにより、複雑な修飾ペプチドを製造できる。
【図16】図16はα−マンノース(α−Man)、α−フコース(α−Fuc)をそれぞれThr7、Thr11に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチドの合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒三角はα−Fucを示す。
【図17】図17はα−マンノース(α−Man)をThr16に持つMUC1様ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。第一の酵素によりペプチド鎖に修飾基を転移した後、第二の酵素を作用させることにより修飾基が伸長された糖ペプチドを製造できる。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒菱形はα−Neu5Acを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0018】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0019】
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう(したがって、単糖も「糖鎖」の範囲内にある)。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「糖」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。
【0020】
本明細書において「単糖」とは、特に言及するときは、これより簡単な分子に加水分解されず、一般式CnH2nOnで表される化合物をいう。ここで、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。
【0021】
本明細書において「単糖の誘導体」とは、単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質が単糖の範囲内にないものをいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の誘導体の範囲内にある。
【0022】
本発明において糖を記載するために使用する命名法および略称は、通常の命名法に従う。
【0023】
本明細書において、ガラクトースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはβ−D−ガラクトースであり、特に言及しないときには、β−D−ガラクトースを指すものとして使用される。
【0024】
本明細書において、アセチルガラクトサミンとは、任意の異性体を指すが、代表的にはN−アセチル−α−D−ガラクトサミンであり、特に言及しないときには、N−アセチル−α−D−ガラクトサミンを指すものとして使用される。
【0025】
本明細書において、マンノースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−D−マンノースであり、特に言及しないときには、α−D−マンノースを指すものとして使用される。
【0026】
本明細書において、グルコースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはβ−D−グルコースであり、特に言及しないときには、β−D−グルコースを指すものとして使用される。
【0027】
本明細書において、アセチルグルコサミンとは、任意の異性体を指すが、代表的にはN−アセチル−β−D−グルコサミンであり、特に言及しないときには、N−アセチル−β−D−グルコサミンを指すものとして使用される。
【0028】
本明細書において、フコースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−L−フコースであり、特に言及しないときには、α−L−フコースを指すものとして使用される。
【0029】
本明細書において、アセチルノイラミン酸とは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−N−アセチルノイラミン酸であり、特に言及しないときにはα−N−アセチルノイラミン酸を指すものとして使用される。
【0030】
例えば、β−D−ガラクトースは、β−Gal;N−アセチル−α−D−ガラクトサミンは、α−GalNAc;α−D−マンノースは、α−Man;β−D−グルコースは、β−Glc;N−アセチル−β−D−グルコサミンは、β−GlcNAc;α−L−フコースは、α−Fuc;α−N−アセチルノイラミン酸は、α−Neu5Acなどと表記する。単糖は一般に、グリコシド結合により結合されて二糖および多糖を形成する。環の平面に関する結合の向きは、αおよびβにより示す。2つの炭素の間の結合を形成する特定の炭素原子も記載する。このように、環状の2つのアノマーは、αおよびβにより表す。表示上の理由により、aまたはbと表すことがある。従って、本明細書において、αとa、βとbは、アノマー表記については交換可能に使用される。
【0031】
本明細書において、糖の表示記号、呼称、略称(Glcなど)などは、単糖を表すときと、糖鎖中で使用されるときとは、異なりうることに留意する。糖鎖中、単位糖は、結合先の別の単位糖との間に脱水縮合があるので、相方から水素または水酸基を除いた形で存在することになる。従って、これらの糖の略号は、単糖を表すときに使用されるときは、すべての水酸基が存在するが、糖鎖中で使用されるときは、水酸基が結合先の糖の水酸基とが脱水縮合されて酸素のみが残存した状態を示していることが理解される。
【0032】
糖が、アルブミンと共有結合されるときには、糖の還元末端がアミノ化され、そのアミン基を介してアルブミンなどの他の成分に結合することができるが、その場合は還元末端の水酸基がアミン基に置換されたものを指すことに留意する。
【0033】
本明細書において「糖鎖含有物質」とは、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0034】
本明細書において「糖タンパク質」、「糖ポリペプチド」または「糖ペプチド」とは、交換可能に使用され、糖鎖を含むタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをいう。そのような糖タンパク質としては、種々の有用な機能性タンパク質が含まれ、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0035】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。ポリペプチドに含まれるアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であってもよく、改変されたアミノ酸(例えば、糖鎖を結合し得る官能基を含むアミノ酸)であってもよい。本発明が適用される範囲としては、ペプチドの長さについては限定する理由が特にないことから、これらの用語を格別に峻別する意味はないことから用語についても交換可能に使用されるべきである。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0036】
本明細書において「アミノ酸」とは、当該分野において通常用いられる意味で用いられ、カルボキシル基とアミノ基とを有する有機化合物をいう。本明細書においてアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であっても良い。用語「天然のアミノ酸」とは、生体内に存在する天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられる。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。また、本発明において天然アミノ酸をもとに改変を施したアミノ酸は、天然アミノ酸でない場合は、非天然アミノ酸の範囲に入る。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。本明細書では、アミノ酸の代わりに、アミノ酸アナログまたはアミノ酸模倣物を使用することができる。
【0037】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。なお、本明細書では「アミノ酸」は、格別の意図を有しない限り、「アミノ酸残基」、「N末端アミノ酸残基」、「C末端アミノ酸残基」のいずれをも意味することが意図される。同様に、「アミノ酸残基」は、格別の意図を有しない限り、「N末端アミノ酸残基」、「C末端アミノ酸残基」のいずれをも意味することが意図される。
【0038】
本明細書において「糖結合能を有するアミノ酸残基」とは、糖(修飾基)が酵素によって転移される可能性のあるアミノ酸残基であって、たとえば、ppGalNAcTによってGalNAcの転移を受けるセリン、スレオニンが例示される。好ましくは、以下のとおりである。(1)(酵素的方法により)修飾基(糖)が転移されうるものであり、(2)(化学的方法により)保護基が導入されうるものであり、(3)(酵素的方法により)保護基のみが選択的に除去(脱保護)されうるものであり、(4)保護基は修飾基とは異なる種類のものであることが有利である。これらを満たすものとしては、たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシンを挙げることができる。これらのアミノ酸に結合する糖(鎖)として例示されるものは、Asnに対してN−アセチルグルコサミン(GlcNAc);Ser/Thrに対してマンノース(Man),N−アセチルガラクトサミン(GalNAc),GlcNAc,ガラクトース(Gal),フコース(Fuc),グルコース(Glc);Hypに対してAra(アラビノース)、Gal、GlcNAc;Serに対してXyl(キシロース);Tyrに対してGlcを挙げることができる。
【0039】
本明細書において「保護ペプチド」、「保護ポリペプチド」および「保護タンパク質」は、同じ概念を表すために交換可能に使用され、1つ以上のアミノ酸残基、特に、糖結合能を有するアミノ酸残基が少なくとも1つ保護されているアミノ酸の重合体(たとえば、ペプチド)をいう。このような保護は、修飾を目的とする反応を行う際に、その反応が保護されるべきアミノ酸残基において実質的に起こらないような処理であればどのようなものでもよく、好ましくは保護基(たとえば、修飾させる糖鎖とは異なる糖鎖)を結合させることによって達成される。
【0040】
本明細書において「保護基」とは、当該分野において通常用いられるのと同様の意味で用いられ、ある官能基を保護する基をいう。化学反応を行なう際に、これを妨害しまたはその条件下で変化が生じることを望まない官能基(たとえば、アミノ酸残基)がある場合、そのような官能基を予め第1の試薬と反応させることにより不活性化しておき、目的とする反応の終了後、改めて第3の化学反応により最初の官能基を復活させることが行なわれる。このときに導入される原子または基を保護基という。保護基として好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。たとえば、代表的には、ハロゲン(I,Br,Cl、Fなど)、低級(ここでは、代表的にC1−C6を示すがこれに限定されない。)アルコキシ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルホニルオキシ、アリールスルホニルオキシ等を表す。)において、適宜の置換基を当該分野で公知の手法により保護することによって製造することができる。このような保護基としては、例えばエトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、アセチル、ベンジル等の、Protective Groups in Organic Synthesis、T.W.Green著、John Wiley & Sons Inc.(第2版、1991年)等に記載されている保護基をあげることができる。また、保護基等の各置換基に含まれる官能基の変換は、上記製造法以外にも公知の方法[例えば、Comprehensive Organic Transformations、R.C.Larock著(1989年)等]によって行って目的の保護基としてもよい。
【0041】
「保護ペプチド」等における保護基は、修飾基を媒介する反応(酵素反応など)によって脱離しないようなものを使用することが好ましい。したがって、通常修飾基とは異なる基を用いる。「保護ペプチド」等における保護基としては、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンが好ましく、これらは、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼにより脱保護される。
【0042】
「水酸基の保護基」は、「保護ペプチド」等における保護基および修飾基の水酸基が、修飾基の導入の際に反応しうる水酸基を保護する基をいう。そのような保護基としては、例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等を挙げることができる。
【0043】
本明細書において「保護されていない」とは、当該分野において通常用いられるのと同様の意味で用いられ、保護基などが結合しておらず、目的とする反応(たとえば、糖転移反応)を受けることができる状態をいう。通常、−OH(水酸基)などの官能基が反応可能な状態となっているか、あるいは糖転移酵素などにより転移可能な状態となっている。保護基として糖等が用いられた場合は、さらにその水酸基が保護されていることがありうる。
【0044】
本明細書において「修飾基」とは、ペプチド等において、アミノ酸残基の側鎖に結合されるべき目的とする置換基をいい、たとえば、糖鎖(単糖、多糖、複合糖など)が代表例として挙げられる。
【0045】
本明細書において「脱保護」とは、保護処理された状態を解除して、反応性の状態に戻すことをいい、代表的には保護基を脱離させることをいう。脱保護の方法は、当該分野において公知の方法、たとえば「Protective Groups in Organic Synthesis」、Theodora W.Greene(John Wiley & Sons,Inc.,New York,第2版、1991などを参照して、加水分解などにより適宜実施することができる。
【0046】
本明細書において「修飾ペプチド」、「修飾ポリペプチド」および「修飾タンパク質」とは、交換可能に用いられ、修飾基が結合したアミノ酸の重合体(ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質など)をいう。
【0047】
本明細書において「糖転移酵素」とは、タンパク質、糖質、脂質、ステロイド、アルコールなどの糖受容体(sugar acceptor)に糖供与体(sugar donor)すなわち糖ヌクレオチドや脂質中間体(糖結合ドリコール)から糖を転移し、複合糖質、糖タンパク質、多糖を合成する酵素の総称であり、本発明では、特に、ペプチドまたはタンパク質を糖受容体として糖を転移するものをいう。具体的な例は、本発明において使用されうる糖転移酵素は、目的とする糖ペプチドを考慮して、実施することができる。糖転移酵素としては、糖結合能を有するアミノ酸残基に糖鎖を転移させる機能を担うもののほか、糖鎖伸長(機能性糖鎖形成)の機能を有するもの、および母核糖鎖形成ないし糖鎖抗原形成の機能を担うものが本発明において企図される。糖転移酵素についての区別は、まず酵素反応の際の受容体となる基質によって2つに大別される。一つ目はペプチドを基質とするもので、もう一つは糖ペプチドに含まれる糖鎖(単糖および二糖以上のオリゴ糖を含む)を基質とするものである。「糖鎖伸長の機能を有するもの」が後者に該当する。前者の酵素につづいて後者の酵素を作用させることで製造されうる糖ペプチドがもつ糖鎖構造のうち、その一部を形成する有意義であると思われる糖鎖構造が母核糖鎖であり、糖鎖抗原であり、機能性糖鎖と呼ばれる。母核糖鎖(生体内で広く存在する糖鎖の基本構造)と糖鎖抗原(抗原性があることが知られている糖鎖)は構造が重複するものもあり、例えばGalβ1→3GalNAcα1(→Ser/Thr)という二糖構造はコア1型と呼ばれる母核糖鎖でありながら、T抗原という名で知られる糖鎖抗原でもある。機能性糖鎖はたとえばレクチンと結合するリガンドとして作用するポリラクトサミン糖鎖など母核糖鎖以外の糖鎖構造で、かつある種の活性や機能を発揮することが知られているものを指す。ただし、機能性糖鎖と糖鎖抗原との間にも構造が重複するものがあり、例えば四糖構造からなるシアリルルイスX抗原が挙げられる。そのような糖転移酵素の具体例は、本明細書において実施例及び他の場所において詳細に記載する。本発明は、これらのいずれのタイプについても、合成することができることが理解される。
【0048】
本明細書において「化学合成法」とは、化学反応によって物質をつくり出すことをいい、本発明では特に、ペプチドまたは保護基が結合したペプチドを化学反応によって製造することをいう。本発明において用いられうるペプチドの化学合成法としては、液相合成、固相合成などを挙げることができる。本発明において用いられうるものとして好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。
【0049】
本明細書において「糖加水分解酵素」とは、糖が結合した物質から糖を遊離させる酵素であって、概してEC.3.2.に属する酵素をいい、特には、EC.3.2.1.に属する配糖体結合加水分解酵素または糖加水分解酵素)をさす。本発明において用いられうるものとして好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。
【0050】
本明細書において「脱保護反応」とは、保護基を脱離させる反応をいう。本発明では、保護基が糖鎖の場合、糖加水分解酵素などを用いた生化学的反応によって実施することができる。
【0051】
本明細書において「ライブラリー」とは、あるカテゴリー内の複数の同様のメンバーを含む集団をいう。たとえば、本発明では、糖ペプチドのライブラリーは、複数の、好ましくは異なる種類の糖ペプチドの集団をいう。
【0052】
本明細書において「糖鎖結合能を有するアミノ酸」は、代表的に、
【0053】
【化1】
【0054】
を有し、(式中、R1はアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R2は、水酸基、−OR7、−NR8R9または保護基であり、R3〜R4およびR6は、それぞれ独立して保護基、水素、蛍光基などの修飾基(たとえば、ペプチドのN末端に蛍光(検出用)やビオチン(アビジン等との結合用)PEG鎖(水溶性向上用)等の何らかの機能を持つ修飾基が結合している場合を含む)を表し、R5は、糖鎖に結合し得る基を表し、R7〜R9は、それぞれ独立して水素、保護基、蛍光基などの修飾基を表す。)で表わされる、化合物で表され得る。
【0055】
本明細書において、アミノ酸の側鎖とは、アミノ酸をRCH(NH2)COOHで表したときに、Rに相当する基をいう。本明細書では、アミノ酸には、RaRbCH(NH)COOH(RaおよびRbは、任意の基であり、一緒になって環状の基を形成していても良い)で示されるイミノ酸を含む。したがって、イミノ酸の場合は、RaまたはRbはあるいはその両方相当する基が側鎖に該当し得る。個々で例示的なアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、プロリンなどの環状イミノ酸の場合は、R1とR3またはR4また、アミノ酸がグリシンの場合は、R1は、単結合を意味し得る。
【0056】
ここで、R2〜R4およびR6は、それぞれ独立して、水素(保護されていない場合)、あるいは、Fmoc基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルエチレンオキシカルボニル基、ア
ルキレノイル基(例えば、ペンテノイル基)、オキシアルキレノイル基などであり得る。好ましくは、オキシカルボニル基がリンカーとして結合している。オキシカルボニル基が介在することによってアミノ基との連結がスムーズになるからである。
【0057】
ここで、R5は、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基、システイン残基などであり得る。
【0058】
「糖鎖結合能を有するアミノ酸」の好ましい例としては、たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシン(Tyr)を挙げることができる。特に、セリン(Ser)およびスレオニン(Thr)が好ましい。
【0059】
(本明細書において用いられる一般技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
【0060】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.,et al.eds,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac ,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0061】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、残さタンパク質又は脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧品に関する。この医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0062】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0063】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0064】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0065】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0066】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第15版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0067】
本発明の処置方法において使用される糖鎖組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0068】
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
【0069】
(農薬)
本発明の組成物は、農薬の成分としても用いることができる。農薬組成物として処方される場合、必要に応じて、農学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤などを含み得る。
【0070】
本発明の組成物が、農薬として使用される場合は、除草剤(ピラゾレートなど)、殺虫・殺ダニ剤(ダイアジノンなど)、殺菌剤(プロベナゾールなど)、植物成長調整剤(例、パクロブトラゾールなど)、殺線虫剤(例、ベノミルなど)、共力剤(例、ピペロニルブトキサイドなど)、誘引剤(例、オイゲノールなど)、忌避剤(例、クレオソートなど)、色素(例、食用青色1号など)、肥料(例、尿素など)などもまた必要に応じて混合され得る。
【0071】
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。好ましくは、本発明の糖鎖組成物は、低アレルゲン食品としても用いることができる。
【0072】
(具体的な実施形態)
(単一の修飾基を導入する方法)
1つの局面において、本発明は、以下の工程:(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を提供する。このように、本発明は、糖が付加されるであろうアミノ酸に対し、あらかじめ糖転移酵素で導入される糖とは異なる糖またはその代替物(保護基、好ましくは単糖)と結合させておくことで、糖転移反応による糖鎖導入をブロックし、目的とする場所のアミノ酸に目的とする糖鎖(単糖を含む)を付加させ、その後ブロックするために導入した糖または代替物(保護基)を、加水分解等で選択的に脱離させるものである。以下に、各手順を説明する。
【0073】
本発明の方法では、まず、(A)工程として、糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程が実施される。
【0074】
この工程において製造される保護ペプチドは、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていないものである。保護ペプチドを製造する工程では、修飾基を導入する工程を化学反応によって行う場合は、保護基は、修飾基以外の糖で、かつその水酸基が保護(例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等)されていることが好ましい。このような保護ペプチドは、任意の適切な方法により合成することができ、たとえば、化学合成(例えばペプチド固相合成)、酵素法によって実施することができる。ペプチド合成は、従来技術において公知の任意の手法を用いることができるが、以下を例示することができる:液相法、Merrifield法(固相法)。これらの実施のために、当該分野において周知の文献、たとえば、固相合成に関するMerrifield, R. B.: J. Am. Chem. Soc., 1963, 85, 2149-2154、 教科書として、たとえばMethodsin Enzymology, Volume 289, Solid-Phase Peptide Synthesis, Edited By Gregg B.Fields, ACADEMIC PRESSなどを参酌することができる。
【0075】
この場合は、α−グルコース、β−グルコース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコサミン、α−フコース、N−アセチル−β−ガラクトサミンなどを導入することができるがこれに限定されない。
【0076】
また、酵素化学的につくれる場合は、これも使用することができ、ペプチド鎖に酵素反応で保護基糖質を導入する場合、以下の修飾基の導入において使用する糖転移酵素「以外」の糖転移酵素を使用することが好ましい。
【0077】
本発明の方法では、次に、(B)工程として、(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程が実施される。この工程において、修飾基を保護ペプチドに付加することは、修飾基を導入する工程を化学反応によって行う場合は、たとえば、修飾基として、なんらかの糖(天然型・非天然型は不問)で、かつその水酸基が保護(例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等)されたものを用いて、実施することができる。このような方法としては、糖転移酵素を用いる生化学的方法のほか、化学的方法によるグリコシル化反応を用いることができる、糖転移酵素を用いるほうが好ましい。特異的に特定の場所に所望の糖鎖を転移させることができるからである。
【0078】
糖転移酵素:β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素、あるいはppGalNAc-Ts(GalNAc転移酵素; ppGaNTase(Glycobiologyvol.13 no.1 pp.1R±16R,2003を参照のこと)としては以下を挙げることができる:ppGaNTase-T1(ウシ;GenBank番号(以下同様):L07780/L17437)、ppGaNTase-T1(ラット、Rattus norvegicus U35890)、ppGaNTase-T1(ヒトHomo sapiensX85018)、ppGaNTase-T1(マウス Mus musculus U73820)、ppGaNTase-T1(ブタ、 D85389)、ppGaNTase-T2(ヒト、Homo sapiens X85019)、ppGaNTase-T3 (ヒト、Homo sapiens X92689)、ppGaNTase-T3 (マウス、Musmusculus U70538)、ppGaNTase-T4 (マウス、Mus musculus)、ppGaNTase-T4 (ヒト、Homo sapiensY08564)、ppGaNTase-T5 (ラット、Rattus noregicus AF049344 )、ppGaNTase-T6 (ヒト、Homosapiens Y08565)、ppGaNTase-T7 (ラット、Rattus norvegicus AF076167)、ppGaNTase-T7 (ヒト、Homosapiens AJ002744)、ppGaNTase-T9 (ヒト、Homo sapiens AB040672)、ppGaNTase-T10 (ラット、Rattusnorvegicus AF241241)、ppGaNTase-T11 (ヒト、Homo sapiens Y12434)、ppGaNTase-T12 (ヒト、Homosapiens AB078146)ppGaNTase-T13(ヒトHomo sapiens AB078142)。);POFUT1(フコース転移酵素)など。好ましい実施形態では、ppGalNAc-Tsを使用することができるが、これに限定されない。
【0079】
本発明において使用されうる各糖転移酵素は、転移する位置に特異性ないし優先性がある(たとえば、Chem.Biol.2004,11,1009-1016)ことから、目的とする糖ペプチドにおける糖の位置に応じて、当業者は保護基の結合位置および種類を適宜決定し、適切な糖転移酵素を用いることで目的とする位置に修飾基が入った糖ペプチドを製造することができる。
【0080】
本発明の方法では、修飾基を化学的方法によって行う場合などでは、必要に応じて、次の工程において、糖(保護基および修飾基として利用される糖)に含まれる水酸基の保護基を除去する。このような糖水酸基の脱保護方法としては、化学的方法(例えばNaOH/MeOHのような塩基処理)を挙げることができる。
【0081】
次に、(C)工程として、(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程を実施する。ここでは、代表的には、保護基(糖)を除去する(脱保護)ことが挙げられる。このような保護ペプチドの脱保護方法としては、糖加水分解酵素による保護基の選択的除去を行うことができる。このような選択的除去は本発明において初めて達成したものであって、従来技術である化学的方法では選択的な除去は不可能であったことから、かかる結果は、従来技術では達成できなかったものといえる。この工程において使用されうる保護基糖質に対応した糖加水分解酵素としては、たとえば、α-マンノシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、α-フコシダーゼ、α-/β-グルコシダーゼ、などを挙げることができ、保護基に応じて当業者は適宜選択することができる。
【0082】
たとえば、保護基と糖加水分解酵素(脱保護において使用)との組み合わせについての例としては、以下の表をあげることができる。
【0083】
【表1】
【0084】
このように、本発明の特徴の一つとしては、糖/切断酵素のバリエーションの多さが保護基として利点であるということができる。
【0085】
化学合成法と新規糖ペプチド合成法は相補的な関係にあるといえる。すなわち、化学合成法では、任意の糖結合能を有するアミノ酸残基を(Ser/Thr残基など)にGalNAcを導入するものであり、他方、本発明の合成法では、任意の糖結合能を有するアミノ酸残基を(Ser/Thr残基など)の側鎖を遊離水酸基にするものである
本発明では、いかなるペプチド基質をも用いることができる。たとえば、EA2、MUC1、MUC5Acなどを利用することができる。また、保護基の例としては、α−Man、β−Gal、α−Fucなどを利用することができる。転移される糖鎖としては、α−GalNAcなどを利用することができる。
【0086】
本発明は、糖による保護・脱保護という手法を利用して製造されうる糖ペプチドとしては、一つの観点において、「修飾基−アミノ酸残基」の組み合わせにより以下の2グループに大別することができる。
【0087】
グループ1:修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが天然型である糖ペプチド
(例えばGalNAcα1→-Ser/Thr-)
グループ2:修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチド
(例えばGalα1→-Asn-)
本発明では、いずれのパターンであっても適用することができることが理解される。
【0088】
好ましい実施形態は、グループ1の場合であって、この場合は、通常天然型であり、酵素が利用可能といえることから、糖ペプチドの製造に酵素を有効利用することができる。
【0089】
1つの実施形態において、本発明において利用可能な糖結合能を有するアミノ酸残基は、好ましくは、以下の条件を満たすものであって
(1)<酵素的方法により>修飾基が転移されうる
(2)<化学的方法により>保護基が導入されうる
(3)<酵素的方法により>保護基のみが選択的に除去されうる
(4)保護基は修飾基と異なる種類のものであること
少なくとも1つ好ましくは2つ、さらに好ましくは3つ、もっとも好ましくは4つすべての要件を満たすアミノ酸が好ましく、具体的な好ましい例としては以下を挙げることができる:アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシン。天然型の場合は、「糖結合能を有するアミノ酸残基」に求められる要件について<>内の要件を満たすことが好ましい。たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシンを挙げることができる。これらのアミノ酸に結合する糖(鎖)として例示されるものは、Asnに対してN−アセチルグルコサミン(GlcNAc);Ser/Thrに対してマンノース(Man),N−アセチルガラクトサミン(GalNAc),GlcNAc,ガラクトース(Gal),フコース(Fuc),グルコース(Glc);Hypに対してAra(アラビノース)、Gal、GlcNAc;Serに対してXyl(キシロース);Tyrに対してGlcを挙げることができる。
【0090】
(1)〜(4)の4つの要件を考慮した場合、セリンまたはスレオニンが簡便であるが、これに限定されない。その他のアミノ酸についても、制約条件を考慮しながら実施することができる。天然にあるということは(1)が成立し、(2)も合成すればよいので可能であるということができる(Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,1516-1520;Angew.Chem.Int.Ed.2004,42,5186-5189などを参照のこと)。(3)についても、当業者は当該分野における公知技術を参酌して実施することができる。
【0091】
本発明において製造されるペプチドの長さとしては任意の長さのものを挙げることができる。すなわち、化学合成法または酵素を用いた方法などにより保護ペプチドを製造することができ、原理的にはこれらの方法によって製造されうるペプチドの長さには上限がないことから、理論的にはそして現実にも、任意の長さの修飾ペプチドを製造することができることが理解される。化学合成法を用いる場合は、通常、100残基のものが提供され、これ以上のペプチドを製造するためには、ペプチド同士をつなぐライゲーションという手法を用いて、100残基以上のペプチドを構築することができる。ライブラリーとして大量の種類を提供する場合は、単一の方法で提供することが好ましいことから、このような場合は、100残基までの長さの修飾ペプチドのライブラリーが提供される。
【0092】
上記条件については、項目別に考えるならば、当業者は、原理的には<>内の条件にとらわれなくとも実施可能な場合を見出すことができ、例えば修飾基の付加反応は酵素法から化学法に置換可能であることが理解される。好ましくは、保護ペプチド→修飾基導入→脱保護を完遂するために<>の条件で行うのが合理的であるといえる。例えば、修飾基の付加反応においてを化学法にて行う場合、まず、保護基(糖)および修飾基(糖)それぞれの水酸基をアセチル基等で保護し修飾基をペプチドに化学的に付加した後にそれらを除去する工程が発生することから、効率が落ちる場合があるが、酵素法で修飾するにはそれらの煩雑な工程は必要ないので効率的であることからこの点で好ましい。
【0093】
別の実施形態において、本発明において利用されうる保護基としては、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を挙げることができる。1つの例としては、糖鎖を挙げることができ、修飾鎖とは異なる糖鎖を用いることが好ましい。
【0094】
1つの実施形態では、本発明において利用される保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコース、α−フコースおよびN−アセチル−β−ガラクトース、ならびにこれらの複糖および修飾糖などを挙げることができる。好ましくは、保護基は単糖である。1つの実施形態では、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコース、α−フコースまたはN−アセチル−β−ガラクトースなどの単糖を用いることが有利である。複雑な反応を行う必要がなく、容易に入手可能な酵素を用いることができるからである。
【0095】
1つの実施形態において、本発明において使用される修飾基は、糖鎖(単糖、多糖、複合糖など)であり、(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである。好ましくは、修飾基は単糖である。ここで、使用される糖転移酵素として、目的とする修飾基に相当する糖鎖を転移することができる酵素を用いる。
【0096】
1つの実施形態において、本発明において使用される保護基は、糖鎖であり、(A)工程は化学合成法により行い、(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行って本発明を実施することができる。A工程を化学合成法によって行うことによって、任意の箇所に保護基を結合させることができる。
【0097】
別の実施形態において、本発明において保護基として使用される糖鎖としては、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコースおよびβ−アセチルガラクトサミンならびに二糖などを利用することができ、本発明において使用される糖加水分解酵素としては、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼおよびβ−ヘキソサミニダーゼならびにO−グルコシダーゼを使用することができる。
【0098】
1つの実施形態では、本発明において用いられる糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;UDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素などを挙げることができる。当業者は、当該分野において公知の技術を適宜応用して、実施例等において記載される例を参考にして、それ以外の糖転移酵素を用いて別のまたは同じ糖を転移させることができる。
【0099】
別の実施形態では、(B)工程は化学的方法により実施し、保護基および修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の脱保護工程を行うことによって、本発明を実施することができる。このようないわゆる化学的方法によって修飾基を転移させる方法は、保護基および修飾基として糖鎖を用いる場合に、特異性が引くことから、これらをさらにアセチル基などで保護しておくことが好ましい。
【0100】
本発明において、グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドについて考慮する場合、グループ1の修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが天然型である糖ペプチドの場合における修飾基を導入する工程において、酵素を用いる方法を化学的方法に替えればグループ2の非天然型の結合であっても技術的に製造可能である。以下に具体的に説明する。
【0101】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(A)工程として、保護ペプチドを製造する工程では、保護基:修飾基以外の糖で、かつその水酸基が保護(例えばアセチル基)されたものを用いることが好ましい。そして、このような保護ペプチドの製造方法としては、化学合成(例えばペプチド固相合成)を用いることができる。
【0102】
(B)工程として、修飾基を保護ペプチドに付加する工程では、修飾基としては、なんらかの糖(天然型および非天然型のいずれも使用することができる)であって、かつ、その水酸基が保護(例えばアセチル基)されたものを用いることができる。このような修飾基を導入する場合、化学的方法によるグリコシル化反応などを利用することができる。このような化学的方法は、以下を参酌して実施することができる:例えばハロゲン化糖を用いるグリコシル化法、トリクロロアセトイミデートを用いるグリコシル化法、アセチル化糖を用いるグリコシル化法、チオ糖を用いるグリコシル化法等が挙げられる。
【0103】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(B)工程の後に、次の工程を行うことによって保護基および修飾基の脱保護を行うことができる。すなわち、保護基および修飾基として糖が用いられる場合、その糖に含まれる水酸基の保護基を除去する。そのような糖水酸基の脱保護方法としては、化学的方法(例えばメタノール中、ナトリウムメトキシドや無水アンモニアを用いた反応)を挙げることができる。
【0104】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(C)工程として、保護基(たとえば、糖、リン酸基)を除去する(脱保護)工程を行うことができる。そのような保護ペプチドの脱保護方法としては、糖加水分解酵素による保護基の選択的除去を行うことができるがそれに限定されない。
【0105】
ある実施形態では、保護基として二糖体(Galβ1−3GalNAc)を化学的にペプチド鎖に導入しておき、O−グリカナーゼ(O−グリコシダーゼ)(この二糖体を特異的に認識し切断する活性)という酵素によって脱保護することができる。この場合は修飾基GalNAc、保護基Galβ1−3GalNAcの組み合わせで利用することもできる。このような二糖体を用いる技術は、ひとつの保護ペプチドを構築する上で色々な保護基(単糖)を組み合わせていって、もう保護基としての単糖候補がなくなってしまったような場合には特に有効である。あるいは、修飾基としてGalNAcを入れた後に糖転移酵素(シアル酸転移酵素等)でさらにGalNAcをベースに修飾していく場合にも使用することができる。
【0106】
すなわち、この場合は、以下の組み合わせで実施することができる:
修飾基:N−アセチル−α−ガラクトサミン
修飾基導入のための酵素:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素
保護基:ガラクトシル−β1,3−N-アセチルガラクトサミン
脱保護のための酵素:O−グリコシダーゼ。
【0107】
このような、糖転移酵素、糖加水分解酵素、保護基、修飾基などの種類については、製造する糖ペプチドのデザイン、製造効率、コスト等に応じ、当業者が製造方法に適宜組み入れるもののひとつであることから、任意の手法を用いることができることが理解される。
【0108】
(修飾基を導入する方法を複数回行う方法)
別の局面において、本発明は、2種類以上の修飾基が自在に導入された糖ペプチド、糖ポリペプチドまたは糖タンパク質を生産する方法を提供する。すなわち、本発明は、少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を提供する。
【0109】
本発明のこのような方法は、(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、を包含する。
【0110】
ここで、(E)工程における修飾基と(G)工程における修飾基とは同じであっても異なっていてもよい。異なる修飾基が用いられる場合は、複数種類の修飾基が導入された糖ペプチドが製造されることになる。
【0111】
これらの少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法では、(単一の修飾基を導入する方法)において説明した任意の特定の実施形態を単独でまたは組み合わせて適用することができる。
【0112】
本発明の好ましい実施形態では、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程をさらに包含していてもよい。このような工程によって、さらにバラエティーに富んだ修飾基を有する糖ペプチドを製造する方法が提供されることになる。
【0113】
(修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法)
別の局面において、本発明は、修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法を提供する。この方法は、本発明の少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法または少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を実施する工程を1または複数回包含することによって、実現することができる。
【0114】
たとえば、従来技術は図13を参酌して説明される。この図では、従来技術での8種類の糖ペプチドを合成する方法が記載されている。まず、左端の欄にあるように、ペプチド合成用の樹脂(図では保護基(PG)でアミノ基が保護されたアミノ酸が担持された樹脂を例示している)を用いて固相合成法によりペプチド鎖を伸長して、適宜のアミノ酸(糖結合能を有するアミノ酸)に糖(保護基)を結合させることが必要である。しかし、この場合は、8バッチが必要であり、煩雑である。
【0115】
他方、本発明であれば、図14に記載されるように、1種類の合成基質を用いて多種類の糖ペプチドを生産することができる。すなわち、この例では、左欄にあるように、Fmoc−アミノ酸に2つの異なる種類の保護基を導入した保護ペプチド(図では基質と記載)が提供される。これを、工程1において、2群にわけ、1番目の糖結合能を有するアミノ酸への糖転移を媒介する糖転移酵素を反応させる群とその処理をしない群とを作成する。工程2では、糖転移酵素処理をした群(上)に加水分解酵素A(これは、黒丸を加水分解する)および加水分解酵素B(これは灰色を加水分解する)を作用させる群を作成する。酵素処理をしていない群についても、加水分解酵素A(これは、黒丸を加水分解する)および加水分解酵素B(これは灰色を加水分解する)を作用させる群、ならびにこれに加えて、加水分解酵素AおよびBの両方を作用させる群を作成する。さらに、工程3では、糖転移酵素を作用させる群およびさせない群とを分けておのおのの群について作成する。さらに、工程2で加水分解酵素Aを施した群には、工程4では、加水分解酵素Bを作用させ、工程2で加水分解酵素Bを作用させた群に、工程4では、加水分解酵素Aを作用させる。これによって、3箇所の糖結合能を有するアミノ酸について、3つ結合したもの、2つ結合した3種、1つ結合した3種および結合していない1種の8種類のものを一挙に生産することができる。
【0116】
次に、ppGalNAcTおよび他の糖転移酵素の組み合わせで本発明を実施したときの模式図を図15に示す。
【0117】
基質として、図14と同様に、2種類の保護基が導入された保護ペプチドを調製する。その後、工程1において、糖転移酵素1としてppGalNAcTを用いて糖を導入する。その後、工程2において加水分解酵素Aを用いて保護基の1つを除去する。次に右側の矢印で工程3向かうと、糖転移酵素1として同様の酵素を用いて処理する。これを右側に向かって加水分解酵素Bで処理すると2箇所が右端及び左端が修飾された糖ペプチドが提供される。
【0118】
他方、工程2の後、糖転移酵素2(たとえば、SiaT)で処理すると、ppGalNAcTで糖が導入された部位でさらに糖が導入され糖鎖が伸長する。その後同様に、工程3及び工程4を行うその際、工程3で糖転移酵素1で処理する群及び処理しない群とを作成する。その後、工程5として、糖転移酵素を導入した群について糖転移酵素1を作用させる群及び作用させない群とを作成することによって、3つ目の箇所に修飾基が結合したものと結合していないもの、右端に修飾基がないものの3種類が生産される。さらに、工程3の後、糖転移酵素2を作用させると、右端及び左端の両方の糖が伸長する。その後工程4および工程5として、糖転移酵素1の作用群および作用しない群を作成することによって、伸長した糖が左端および右端に結合し、中の糖結合能を有するアミノ酸が修飾されたものとされていないものとを生産することができる。
【0119】
ここで、糖鎖伸長反応に使用されうる糖転移酵素としては、α1,3−FucT、α2,6−SiaT、α2,3−SiaT、β1,3−GlcNAcT、およびβ1,4−GalTなどを挙げることができる。
【0120】
母核糖鎖形成ないし糖鎖抗原形成の機能を担うものとしては、ST6GalNAc−III/IV(ST,d(ST))、ST6GalNAc−I(STn)、C2Gn−T3(Core2)、C2/4Gn−T(Core2,4),C2Gn−T1(Core2)、C1Gal−T1(Core1)などを挙げることができる。
【0121】
糖転移反応のうち、母核糖鎖形成、糖鎖抗原形成については以下のことが知られている。ムチンの糖鎖のほとんどがα−O−グリコシド結合により、N−アセチルガラクトサミンとセリン、スレオニンの水酸基との結合でコアタンパク質に結合している。一般的に、N−アセチルガラクトサミンの他に、フコース、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸がムチンに見いだされるが、母核糖鎖(母核領域)はN−アセチルガラクトサミンと直接それに結合している糖からなるものをいう。
【0122】
また、癌関連糖鎖抗原などに代表される、抗原性を有する糖鎖を糖鎖抗原という。血液型抗原に代表されるような末梢の糖鎖に抗原性を有するもの、Tn、Tのような母核構造及びそれらにシアル酸が結合したシアリルTn、シアリルT、シアリルルイスA抗原とその異性体であるシアリルルイスX抗原のような抗原が例示される。
【0123】
これらの母核糖鎖形成、糖鎖抗原形成などに利用される糖転移反応に利用される糖ペプチドの生産においても、本発明が利用されることが理解される。
【0124】
(生産物)
別の局面において、本発明はまた、本発明の少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法または少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を実施する工程を1または複数回包含することによって生産される修飾基が結合したペプチド、あるいはペプチドのライブラリーを提供する。
【0125】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0126】
以下、実施例により、本発明の構成をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、市販されているものを使用した。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲はかかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
実施例中および明細書中において、アミノ酸の残基は、略号にアミノ酸の位置を付記した形で表すことがある。たとえば、Thr9とは、9番目のスレオニンを意味する。
【0129】
(実験例A1)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移される(非特許文献4、5参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこで本発明を適用し、Thr7にあらかじめβ−GalNAc残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号2)、下線部にβ−GalNAcが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いたα−GalNAc残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図1(a)に示す。
【0130】
(β−GalNAc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−GalNAc付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号2)、下線部にβ−GalNAcが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計40μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。12時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図1(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所または2箇所転移された分子量ピークが現れており、β−GalNAcを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。また、α−GalNAc残基が1箇所および2箇所転移されたそれぞれの生成糖ペプチドについて、化学構造とグリコシル化されたアミノ酸残基をECD−MS法により分析した。結果をそれぞれ図1(c−1)および図1(c−2)に示す。α−GalNAcが転移されたアミノ酸残基は一箇所転移糖ペプチドでThr11、二箇所転移糖ペプチドでThr2とThr11であることが判明した。
【0131】
(β−ヘキソサミニダーゼによるβ−GalNAc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの水を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液1μlをZipTipC18で精製した後、10μlの150 mMクエン酸緩衝液(pH 5.0)を添加して37℃で5分間インキュベーションし、5μlのJack bean β−ヘキソサミニダーゼ(20mU)を添加して37℃で12 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図1(b)下段に示す。β−GalNAc残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−GalNAcを除去することができることが示された。
【0132】
(実験例A2)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biol.Chem.(2006) 281,8613−8618参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr7にあらかじめα−Man残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号3)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack bean α−マンノシダーゼを用いたα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図2(a)に示す。
【0133】
(α−Man付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号3)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図2(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所または2箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0134】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図2(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0135】
(実験例A3)
Thr7にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号4)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger
β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図3(a)に示す。
【0136】
(β−Gal付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号4)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125 μMの基質のほか、10mM MnCl2、100 mM Tris−HCl 緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図3(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0137】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU) を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図3(b)下段に示す。β−Gal残基が除去された分子量ピークが現れており、Aspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−Galを除去できることが示された。
【0138】
(実験例A4)
Thr7にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号5)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図4(a)に示す。
【0139】
(α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号5)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5,500μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む計40μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図4(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所または2箇所に転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0140】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図4(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0141】
(実験例B1)
MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号6))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から17番目のスレオニン(Thr17)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biochem.(1999) 126,975−985参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr17にあらかじめα−Man残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号7)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図5(a)に示す。
【0142】
(α−Man付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号7)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μM の基質のほか、10mM MnCl2、100 mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図5(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0143】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図5(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0144】
(実験例B2)
Thr17にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号8)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図6(a)に示す。
【0145】
(β−Gal付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号8)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図6(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0146】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の脱保護)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加え残渣を完全に溶解させて、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図6(b)下段に示す。α−GalNAc残基が1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0147】
(実験例B3)
Thr17にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号9)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図7(a)に示す。
【0148】
(α−Fuc付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号9)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5,500μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図7(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0149】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図7(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0150】
(実験例C1)
MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号10))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から9番目のスレオニン(Thr9)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biol.Chem.(2006) 281,8613−8618参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこで本発明を適用し、Thr9にあらかじめα−Man残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号11)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack beanα−マンノシダーゼを用いたα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図8(a)に示す。
【0151】
(α−Man付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号11)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図8(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所、2箇所、または3箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0152】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図8(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack beanα−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0153】
(実験例C2)
Thr9にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号12)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図9(a)に示す。
【0154】
(β−Gal付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号12)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図9(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所、2箇所、または3箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Gal付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0155】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図9(b)下段に示す。β−Gal残基が除去された分子量ピークが現れており、Aspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−Galを除去できることが示された。
【0156】
(実験例C3)
Thr9にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号13)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図10(a)に示す。
【0157】
(α−Fuc付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号13)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、500μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図10(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所、2箇所または3箇所に転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0158】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150 mM クエン酸リン酸緩衝液 (pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図10(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0159】
(実験例D1)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2による糖転移反応を行うと、まずN−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移されるが(非特許文献4、5参照)、大過剰の糖供与体を用いて反応に供した場合はその後に第2、第3、第4のα−GalNAc転移がThr11、Thr2、Thr3の順に起こることを本発明者は発見した(図11)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7とThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr7、Thr11にそれぞれα−Man残基、β−GalNAc残基(天然型であるα−GalNAcの立体異性体)をあらかじめ付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号14)、[7位]にα−Man、[11位]にβ−GalNAcが付加)を基質として、本発明を適用した糖ペプチドの調製が可能であるか検討した。反応工程を図12(a)に示す。
【0160】
(α−Man、β−GalNAc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man、β−GalNAc付加EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号14)、[7位]にα−Man、[11位]にβ−GalNAcが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Man、β−GalNAcの二残基を付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7およびThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0161】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)三段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0162】
(β−ヘキソサミニダーゼによるβ−GalNAc残基の除去)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸緩衝液(pH 5.0)で残渣を完全に溶解させた。該基質溶液20μlを37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean β−ヘキソサミニダーゼ(375mU)を添加して37℃で18時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)四段目に示す。β−GalNAc残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−GalNAcを除去できることが示された。
【0163】
(実験例D2)
Thr7、Thr11にあらかじめα−Man、α−Fucをそれぞれ付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号47)、[7位]にα−Man、[11位]にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack Bean α−マンノシダーゼを用いたα−Manの加水分解反応に供し、その後再びppGalNAcT2を用いた糖転移反応とα−フコシダーゼを用いたα−Fucの加水分解反応に供し、Thr2、Thr7にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図16(a)に示す。
【0164】
(α−Man、α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Manおよびα−Fuc付加EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号47)、[7位]にα−Man、[11位]にα−Fucが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manとα−Fucが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7、11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0165】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)三段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0166】
(α−GalNAc、α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、50μlの100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で残渣をで残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を10mM MnCl2、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液に調整し、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)四段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Fucが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0167】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのウシ腎臓α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図16(b)五段目に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、ウシ腎臓α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0168】
(実験例D3)
Thr16にあらかじめα−Manを付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD(配列番号52)、[16位]にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2とシアル酸転移酵素ST6GalNAc1を用いた糖転移反応に供した後、Jack Bean α−マンノシダーゼを用いたα−Manの加水分解反応に供し、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供し、Thr7、Thr16にNeuAcα(2−6)GalNAcα1、α−GalNAcがそれぞれ導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図17(a)に示す。
【0169】
(α−Man付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加EA2ペプチド(AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD(配列番号52)、[16位]にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計20μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr16以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0170】
(ST6GalNAcIを用いたシアル酸転移反応)
上記酵素反応生成物を逆相HPLCにより精製しα−GalNAc残基が1箇所導入されたペプチドを該反応の基質とした。該反応は50μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.5)、2.5mM CMP−NANA、2.87μg ST6GalNAcIを含む計20μlの溶液を用い、20℃の恒温条件下において実施した。3日後反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)三段目に示す。Neu5Ac残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、基質中に存在するα−GalNAc残基にNeu5Ac残基が導入されたSialyl Tn[Neu5Acα(2−6)GalNAcα1−Thr/Ser]含有糖ペプチドを調製できることが示された。
【0171】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)四段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0172】
(シアリル−Tn残基付加Muc1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、10μlの100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を10mM MnCl2、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計20μlの溶液に調整し、37℃の恒温条件下において実施した。12時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)五段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、シアリル Tnシアリル Tn[Neu5Acα(2−6)GalNAcα1−Thr/Ser]、Tn[GalNAcGalNAcα1−Thr/Ser]抗原構造が混在する糖ペプチドを調製できることが示された。
【0173】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0174】
目的とするデザインされた糖ペプチドを簡便かつ効果的に製造することができる方法であり、医薬品、農薬、食品などの分野で、応用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0175】
配列番号1:PTTDSTTPAPTTK(EA2ペプチド)
配列番号2:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号3:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-Manが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号4:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にβ-Galが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号5:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号6:AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(MUC1ペプチド)
配列番号7:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号8:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にβ-Galが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号9:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にα-Fucが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号10:GTTPSPVPTTSTTSAP(MUC5ACペプチド)
配列番号11:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Manが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号12:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にβ-Galが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号13:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Fucが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号14:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号15:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-GalNAc、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1)
配列番号16:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-GalNAc、[2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1)
配列番号17:PTTDSTTPAPT11TK([11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1〜4)
配列番号18:PT2TDSTTPAPT11TK([2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1、2および4)
配列番号19:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-GalNAc、[2位,11位]にα-Manが付加した合成EA2ペプチド;図2)
配列番号20:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-Gal、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図3)
配列番号21:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Fuc、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図4)
配列番号22:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Fuc、[2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図4)
配列番号23:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド;図5)
配列番号24:AHGVT5SAPDTRPAPGSTAPP([5位]にα-GalNAcが付加した合成MUC1ペプチド;図5〜7)
配列番号25:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にβ-Galが付加した合成MUC1ペプチド;図6)
配列番号26:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にα-Fucが付加した合成MUC1ペプチド;図7)
配列番号27:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-GalNAc、[3位]にα-Manが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号28:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Man、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号29:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Man、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号30:GTT3PSPVPTTSTTSAP([3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号31:GTT3PSPVPTTSTT13SAP([3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号32:GTT3PS5PVPTTSTT13SAP([3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号33:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にβ-Gal、[3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号34:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にβ-Gal、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号35:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にβ-Gal、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号36:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Fuc、[3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号37:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Fuc、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号38:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Fuc、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号39:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号40:PTTDSTT7PAPT11TK([7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号41:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位,7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号42:PT2T3DSTT7PAPT11TK([2位,3位,7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号43:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号44:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[2位]にα-GalNAc、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号45:PT2TDSTTPAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号46:PT2TDSTTPAPTTK([2位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号47:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号48:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[7位]にα-Man、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号49:PT2TDSTTPAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号50:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位,7位]にα-GalNAc、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号51:PT2TDSTT7PAPTTK([2位,7位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号52:AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD([16位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号53:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-Man、[10位]にα-GalNAcが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号54:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-Man、[10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号55:AHGVTSAPDT10RAHGVTSAPD([10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号56:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-GalNAc、[10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖ペプチドの合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌化の進行に伴い、細胞表層のムチン糖タンパク質の糖鎖構造が変化することはよく知られており(非特許文献1参照)、これらをマーカー分子とする新たな癌早期発見・診断技術および抗体医薬・癌ワクチンなどの新治療法の研究開発が進められている(非特許文献2参照)。現在、臨床現場で広く用いられているCA15-3やCA125などのモノクローナル抗体の抗原も上記ムチン糖タンパク質の特定の部分構造であることが予想されているため癌関連マーカー分子としてのムチン型「糖ペプチド」は創薬・医療産業上きわめて重要な標的化合物群である。これらの化合物は有機化学合成法ならびに酵素合成法を相補的に用いることによって作成し得ることが報告されているが(特許文献1、非特許文献3参照)、構造の異なる複雑な糖鎖を複数のアミノ酸残基に配置させるためには個々のコア構造(基本骨格)を含む複数種のアミノ酸誘導体をあらかじめ合成する必要があり、同一のペプチド分子中に付与できる糖鎖構造の種類には限界があるためそれらの糖ペプチドを大量合成することも困難であった。
【0003】
一方、ムチン型糖タンパク質は本来生体内では多くの糖転移酵素反応によって生合成されており、ポリペプチド鎖に存在するセリンやスレオニンの水酸基に最初の糖であるN-アセチルガラクトサミンを転移する酵素(UDP-GalNAc:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミン転移酵素、以下ppGalNAcTsと略すことがある。)は十数種類発見されている。しかし、それらppGalNAcTsのペプチド鎖あるいは糖ペプチド鎖に対する基質特異性については、ある一定の傾向は散見されるものの一般則(コンセンサス配列)は全く存在しないことを裏付ける実験結果が数多く報告されている(たとえば非特許文献2あるいは非特許文献4参照)。すなわち、いかなるppGalNAcTsによってもペプチド鎖に複数存在するセリンやスレオニンの中で、任意の残基に対してGalNAcを恣意的に修飾することは困難であり、またその序列(修飾反応の順番)を制御することも不可能である。
【0004】
特開2003−2899公報(特許文献2)は、糖転移酵素を用いてペプチドに糖鎖を付加し、1つめの糖転移酵素では糖鎖を導入することができなかったアミノ酸に異なる糖転移酵素を用いて糖鎖を導入する、という方法を開示する。しかし、この文献では、糖転移酵素の基質特異性にのみ依存することが前提となっており、人為的に糖鎖導入可能なアミノ酸をブロックしておくことで、目的とするデザインされた糖ペプチドを効果的に製造することはなんら意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願公開2006/030840パンフレット
【特許文献2】特開2003−2899公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Rev.Cancer (2004) 4,45-60.
【非特許文献2】Biochim.Biophys.Acta (2008) 1780,564-563.
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.(2005) 127,11804-11818.
【非特許文献4】Chem.Biol.(2004) 11,1009-1016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、目的とするデザインされた糖ペプチドを簡便かつ効果的に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、糖が付加されるべきアミノ酸に対し、あらかじめ糖転移酵素で導入される糖とは異なる糖またはその代替物(保護基)と結合させておくことで、糖転移反応による糖鎖導入をブロックし、目的とする場所のアミノ酸に目的とする糖鎖(単糖を含む)を付加させ、その後ブロックするために導入した糖または代替物(保護基)を、加水分解等で選択的に脱離させることによって、目的とする場所に糖鎖が導入された糖ペプチドを製造することができることを見出したことによって上記課題を解決した。加えて、本発明者らは、これらに加え、さらにブロックされていたアミノ酸に、1度目と同じまたは異なる糖転移酵素を用いて糖鎖付加することによって、さらに複雑な目的とする糖ペプチドを製造することができることを見出し、上記課題を解決した。
【0009】
本発明は、具体例としては、ペプチド鎖に含まれる任意のセリン残基(Ser)およびスレオニン残基(Thr)の水酸基を、あらかじめN−アセチル−α−ガラクトース(α−GalNAc)以外の糖またはその代替物(保護基)などで保護した糖ペプチドを作製し、該糖ペプチドを基質としてN−アセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAc転移酵素;ppGalNAcTs)を用いた糖転移反応に供すると、他の残されたSerおよびThrにα−GalNAcが転移されうる。前記反応にて得られた生成物に含まれるα−GalNAc以外の糖またはその代替物(保護基)は、選択的に切断する酵素(グリコシダーゼ)を用いて加水分解することにより、SerおよびThrの側鎖を遊離の水酸基へと変換できる。また、ppGalNAcTsが、GalNAcとSerまたはThrとの間に形成するグリコシド結合の立体化学はα型のみであるため、あらかじめSerおよびThrの側鎖にGalNAc残基をβ型のグリコシド結合にて導入しておけば、該糖質はβ−ヘキソサミニダーゼにより選択的に加水分解することができる。β−GalNAcと同様にα−あるいはβ−グルコース(α−Glcあるいはβ−Glc)、α−フコース(α−Fuc)、β−N−アセチルグルコサミン(β−GlcNAc)なども、それぞれα−あるいはβ−グルコシダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼなどの酵素を用いて選択的に切断することができるため、SerおよびThrの水酸基に対する保護に用いることができる。ペプチド配列中の任意のSerおよびThrの水酸基を複数種の糖またはその代替物(保護基)で保護しておけば、該残基以外のSerおよび/またはThrがppGalNAcTsによるα−GalNAcの転移を受けることになるため、ppGalNAcTsの修飾序列を変化させることができる。また、他の糖転移酵素を用いることでペプチド鎖に転移されたα−GalNAcを母核としてさらに糖鎖伸長することができるため、Serおよび/またはThr側鎖の保護基として導入する糖またはその代替物(保護基)の数、位置、種類を考慮したペプチド基質と、ppGalNAcTs、グリコシダーゼ、糖転移酵素を組み合わせて用いる一連の酵素反応プロトコールをデザインしておけば、異なる糖鎖構造を任意のセリン・スレオニン残基に配置した糖ペプチドの構築が可能である。
【0010】
本発明の具体例としては、酵素法による糖ペプチド合成の許容範囲(レパートリー)が大幅に広がると同時にライブラリー構築のスループットにおいて従来法をはるかに上回る優位性を有しているため、癌特異的糖ペプチド抗原構造(癌エピトープ)等の探索と創薬研究開発が加速される。
【0011】
たとえば、ppGalNAcTsを用いたGalNAc転移反応において、ペプチド鎖やタンパク質に対する糖鎖修飾位置および序列を制御することによって、産業上有用な疾患関連糖ペプチドライブラリーを提供することができる。
【0012】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)以下の工程:
(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、
少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
(2)
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシンから選択される少なくとも1つである、項目1に記載の製造方法。
(2A)
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、セリンまたはスレオニンである、項目1または2に記載の製造方法。
(3)
前記保護基は、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基である、項目1〜2または2Aのいずれかに記載の方法。
(4)
前記保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−GlcNAc、α−Fucおよびβ−GalNAc、ならびにこれらの複糖および修飾糖からなる群より選択される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(5)
前記修飾基は糖鎖であり、前記(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
(6)
前記保護基が糖鎖であり、前記(A)工程は化学合成法により行い、前記(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、前記(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行う、項目1〜5のいずれかに記載の方法。
(7)
前記糖鎖は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンであって、前記糖加水分解酵素は、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼである、項目6に記載の方法。
(8)
前記糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素からなる群より選択される、項目6または7に記載の方法。
(9)
前記(B)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、該(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、項目1〜8のいずれかに記載の方法。
(10)
以下の工程:
(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;
(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;
(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、
を包含する、
少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
(11)
前記(E)工程における修飾基と前記(G)工程における修飾基とは異なる修飾基である、項目10に記載の製造方法。
(12)
前記(E)工程および前記(G)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、それぞれ該(E)工程および該(G)工程の終わった後、それぞれ(E2)工程および(G2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、項目10〜11のいずれかに記載の方法。
(13)
項目2〜9の特徴を少なくとも1つ有する、項目10〜12のいずれかに記載の製造方法。
(14)
さらに、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程を含む、項目10〜13のいずれかに記載の方法。
(15)
修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法であって、項目1〜14のいずれかに記載に方法を行う工程を包含する、方法。
(16)
項目1〜14のいずれかに記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチド。
(17)
項目15に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチドのライブラリー。
【0013】
これらのすべての局面において、本明細書に記載される各々の実施形態は、適用可能である限り、他の局面において適用されうることが理解される。
【発明の効果】
【0014】
癌特異的な抗原である新しい糖ペプチド化合物を用いた癌ワクチンや抗体医薬の開発により、癌の種類はもとより詳細な症状・進行度・転移性などに適応したテーラーメイド医療が実現するとともに、患者が負担する高額の医療費軽減にも資する革新的医療技術開発へと繋がる。
【0015】
以上のように、本発明により、糖転移酵素の基質特異性にのみ依存するのではなく、糖鎖導入可能なアミノ酸を人為的にブロックしておくことで、目的とするデザインされた糖ペプチドを効果的に製造することが出来る、という点で優れた糖ペプチドまたは糖タンパク質の製造方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−1】図1はN−アセチル−βガラクトース(β−GalNAc)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したレーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装(MALDI−TOFMS)のスペクトル(b)を示した図である。黒四角はβ−GalNAcを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図1−2】(c−1)、(c−2)はppGalNAcT2を用いた糖転移反応により生成した二種類の生成物について測定したECD−MS/MSのスペクトルを示した図である。(c−1)はα−GalNAcの一転移糖ペプチド、(c−2)はα−GalNAcの二転移糖ペプチドについての測定結果であり、一転移糖ペプチドはThr11、二転移糖ペプチドはThr2とThr11にα−GalNAcが修飾されていることが明らかになった。これらの図においてT(Thr)に付与したアスタリスク(*)はThrが糖質と結合していることを示す。
【図2】図2はα−マンノース(α−Man)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図3】図3はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図4】図4はα−フコース(α−Fuc)をThr7に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図5】図5はα−マンノース(α−Man)をThr17に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図6】図6はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr17に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図7】図7はα−フコース(α−Fuc)をThr7に持つMUC1ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図8】図8はα−マンノース(α−Man)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図9】図9はβ−ガラクトース(β−Gal)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒丸はβ−Galを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図10】図10はα−フコース(α−Fuc)をThr9に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)と各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。黒三角はα−Fucを、白四角はα−GalNAcを示す。
【図11】図11は糖質をもたないEA2ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程と得られる4種類の糖ペプチドを示した図である。該基質に対するN−アセチル−α−ガラクトース(α−GalNAc)の転移はThr7、Thr11、Thr2、Thr3の順に起こる。白四角はα−GalNAcを示す。
【図12】図12はα−マンノース(α−Man)、N−アセチル−β−ガラクトース(β−GalNAc)をそれぞれThr7、Thr11に持つMUC5ACペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒四角はβ−GalNAcを、示す。
【図13】図13は、従来技術による糖ペプチドライブラリーの製造スキームである。
【図14】図14は、本発明による糖ペプチドライブラリーの製造スキーム例である。
【図15】本発明の応用例である。ペプチド鎖に第一の修飾基(糖)を転移する酵素と該修飾基を基質として第二の修飾基(糖)を転移する酵素を組み合わせて用いることにより、複雑な修飾ペプチドを製造できる。
【図16】図16はα−マンノース(α−Man)、α−フコース(α−Fuc)をそれぞれThr7、Thr11に持つEA2ペプチドを基質として糖ペプチドの合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒三角はα−Fucを示す。
【図17】図17はα−マンノース(α−Man)をThr16に持つMUC1様ペプチドを基質として糖ペプチド合成を行った際の反応工程(a)、各工程において測定したMALDI−TOFMSのスペクトル(b)を示した図である。第一の酵素によりペプチド鎖に修飾基を転移した後、第二の酵素を作用させることにより修飾基が伸長された糖ペプチドを製造できる。白丸はα−Manを、白四角はα−GalNAcを、黒菱形はα−Neu5Acを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0018】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0019】
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう(したがって、単糖も「糖鎖」の範囲内にある)。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「糖」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。
【0020】
本明細書において「単糖」とは、特に言及するときは、これより簡単な分子に加水分解されず、一般式CnH2nOnで表される化合物をいう。ここで、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。
【0021】
本明細書において「単糖の誘導体」とは、単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質が単糖の範囲内にないものをいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の誘導体の範囲内にある。
【0022】
本発明において糖を記載するために使用する命名法および略称は、通常の命名法に従う。
【0023】
本明細書において、ガラクトースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはβ−D−ガラクトースであり、特に言及しないときには、β−D−ガラクトースを指すものとして使用される。
【0024】
本明細書において、アセチルガラクトサミンとは、任意の異性体を指すが、代表的にはN−アセチル−α−D−ガラクトサミンであり、特に言及しないときには、N−アセチル−α−D−ガラクトサミンを指すものとして使用される。
【0025】
本明細書において、マンノースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−D−マンノースであり、特に言及しないときには、α−D−マンノースを指すものとして使用される。
【0026】
本明細書において、グルコースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはβ−D−グルコースであり、特に言及しないときには、β−D−グルコースを指すものとして使用される。
【0027】
本明細書において、アセチルグルコサミンとは、任意の異性体を指すが、代表的にはN−アセチル−β−D−グルコサミンであり、特に言及しないときには、N−アセチル−β−D−グルコサミンを指すものとして使用される。
【0028】
本明細書において、フコースとは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−L−フコースであり、特に言及しないときには、α−L−フコースを指すものとして使用される。
【0029】
本明細書において、アセチルノイラミン酸とは、任意の異性体を指すが、代表的にはα−N−アセチルノイラミン酸であり、特に言及しないときにはα−N−アセチルノイラミン酸を指すものとして使用される。
【0030】
例えば、β−D−ガラクトースは、β−Gal;N−アセチル−α−D−ガラクトサミンは、α−GalNAc;α−D−マンノースは、α−Man;β−D−グルコースは、β−Glc;N−アセチル−β−D−グルコサミンは、β−GlcNAc;α−L−フコースは、α−Fuc;α−N−アセチルノイラミン酸は、α−Neu5Acなどと表記する。単糖は一般に、グリコシド結合により結合されて二糖および多糖を形成する。環の平面に関する結合の向きは、αおよびβにより示す。2つの炭素の間の結合を形成する特定の炭素原子も記載する。このように、環状の2つのアノマーは、αおよびβにより表す。表示上の理由により、aまたはbと表すことがある。従って、本明細書において、αとa、βとbは、アノマー表記については交換可能に使用される。
【0031】
本明細書において、糖の表示記号、呼称、略称(Glcなど)などは、単糖を表すときと、糖鎖中で使用されるときとは、異なりうることに留意する。糖鎖中、単位糖は、結合先の別の単位糖との間に脱水縮合があるので、相方から水素または水酸基を除いた形で存在することになる。従って、これらの糖の略号は、単糖を表すときに使用されるときは、すべての水酸基が存在するが、糖鎖中で使用されるときは、水酸基が結合先の糖の水酸基とが脱水縮合されて酸素のみが残存した状態を示していることが理解される。
【0032】
糖が、アルブミンと共有結合されるときには、糖の還元末端がアミノ化され、そのアミン基を介してアルブミンなどの他の成分に結合することができるが、その場合は還元末端の水酸基がアミン基に置換されたものを指すことに留意する。
【0033】
本明細書において「糖鎖含有物質」とは、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0034】
本明細書において「糖タンパク質」、「糖ポリペプチド」または「糖ペプチド」とは、交換可能に使用され、糖鎖を含むタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをいう。そのような糖タンパク質としては、種々の有用な機能性タンパク質が含まれ、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0035】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。ポリペプチドに含まれるアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であってもよく、改変されたアミノ酸(例えば、糖鎖を結合し得る官能基を含むアミノ酸)であってもよい。本発明が適用される範囲としては、ペプチドの長さについては限定する理由が特にないことから、これらの用語を格別に峻別する意味はないことから用語についても交換可能に使用されるべきである。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0036】
本明細書において「アミノ酸」とは、当該分野において通常用いられる意味で用いられ、カルボキシル基とアミノ基とを有する有機化合物をいう。本明細書においてアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であっても良い。用語「天然のアミノ酸」とは、生体内に存在する天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられる。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。また、本発明において天然アミノ酸をもとに改変を施したアミノ酸は、天然アミノ酸でない場合は、非天然アミノ酸の範囲に入る。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。本明細書では、アミノ酸の代わりに、アミノ酸アナログまたはアミノ酸模倣物を使用することができる。
【0037】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。なお、本明細書では「アミノ酸」は、格別の意図を有しない限り、「アミノ酸残基」、「N末端アミノ酸残基」、「C末端アミノ酸残基」のいずれをも意味することが意図される。同様に、「アミノ酸残基」は、格別の意図を有しない限り、「N末端アミノ酸残基」、「C末端アミノ酸残基」のいずれをも意味することが意図される。
【0038】
本明細書において「糖結合能を有するアミノ酸残基」とは、糖(修飾基)が酵素によって転移される可能性のあるアミノ酸残基であって、たとえば、ppGalNAcTによってGalNAcの転移を受けるセリン、スレオニンが例示される。好ましくは、以下のとおりである。(1)(酵素的方法により)修飾基(糖)が転移されうるものであり、(2)(化学的方法により)保護基が導入されうるものであり、(3)(酵素的方法により)保護基のみが選択的に除去(脱保護)されうるものであり、(4)保護基は修飾基とは異なる種類のものであることが有利である。これらを満たすものとしては、たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシンを挙げることができる。これらのアミノ酸に結合する糖(鎖)として例示されるものは、Asnに対してN−アセチルグルコサミン(GlcNAc);Ser/Thrに対してマンノース(Man),N−アセチルガラクトサミン(GalNAc),GlcNAc,ガラクトース(Gal),フコース(Fuc),グルコース(Glc);Hypに対してAra(アラビノース)、Gal、GlcNAc;Serに対してXyl(キシロース);Tyrに対してGlcを挙げることができる。
【0039】
本明細書において「保護ペプチド」、「保護ポリペプチド」および「保護タンパク質」は、同じ概念を表すために交換可能に使用され、1つ以上のアミノ酸残基、特に、糖結合能を有するアミノ酸残基が少なくとも1つ保護されているアミノ酸の重合体(たとえば、ペプチド)をいう。このような保護は、修飾を目的とする反応を行う際に、その反応が保護されるべきアミノ酸残基において実質的に起こらないような処理であればどのようなものでもよく、好ましくは保護基(たとえば、修飾させる糖鎖とは異なる糖鎖)を結合させることによって達成される。
【0040】
本明細書において「保護基」とは、当該分野において通常用いられるのと同様の意味で用いられ、ある官能基を保護する基をいう。化学反応を行なう際に、これを妨害しまたはその条件下で変化が生じることを望まない官能基(たとえば、アミノ酸残基)がある場合、そのような官能基を予め第1の試薬と反応させることにより不活性化しておき、目的とする反応の終了後、改めて第3の化学反応により最初の官能基を復活させることが行なわれる。このときに導入される原子または基を保護基という。保護基として好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。たとえば、代表的には、ハロゲン(I,Br,Cl、Fなど)、低級(ここでは、代表的にC1−C6を示すがこれに限定されない。)アルコキシ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルホニルオキシ、アリールスルホニルオキシ等を表す。)において、適宜の置換基を当該分野で公知の手法により保護することによって製造することができる。このような保護基としては、例えばエトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、アセチル、ベンジル等の、Protective Groups in Organic Synthesis、T.W.Green著、John Wiley & Sons Inc.(第2版、1991年)等に記載されている保護基をあげることができる。また、保護基等の各置換基に含まれる官能基の変換は、上記製造法以外にも公知の方法[例えば、Comprehensive Organic Transformations、R.C.Larock著(1989年)等]によって行って目的の保護基としてもよい。
【0041】
「保護ペプチド」等における保護基は、修飾基を媒介する反応(酵素反応など)によって脱離しないようなものを使用することが好ましい。したがって、通常修飾基とは異なる基を用いる。「保護ペプチド」等における保護基としては、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンが好ましく、これらは、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼにより脱保護される。
【0042】
「水酸基の保護基」は、「保護ペプチド」等における保護基および修飾基の水酸基が、修飾基の導入の際に反応しうる水酸基を保護する基をいう。そのような保護基としては、例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等を挙げることができる。
【0043】
本明細書において「保護されていない」とは、当該分野において通常用いられるのと同様の意味で用いられ、保護基などが結合しておらず、目的とする反応(たとえば、糖転移反応)を受けることができる状態をいう。通常、−OH(水酸基)などの官能基が反応可能な状態となっているか、あるいは糖転移酵素などにより転移可能な状態となっている。保護基として糖等が用いられた場合は、さらにその水酸基が保護されていることがありうる。
【0044】
本明細書において「修飾基」とは、ペプチド等において、アミノ酸残基の側鎖に結合されるべき目的とする置換基をいい、たとえば、糖鎖(単糖、多糖、複合糖など)が代表例として挙げられる。
【0045】
本明細書において「脱保護」とは、保護処理された状態を解除して、反応性の状態に戻すことをいい、代表的には保護基を脱離させることをいう。脱保護の方法は、当該分野において公知の方法、たとえば「Protective Groups in Organic Synthesis」、Theodora W.Greene(John Wiley & Sons,Inc.,New York,第2版、1991などを参照して、加水分解などにより適宜実施することができる。
【0046】
本明細書において「修飾ペプチド」、「修飾ポリペプチド」および「修飾タンパク質」とは、交換可能に用いられ、修飾基が結合したアミノ酸の重合体(ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質など)をいう。
【0047】
本明細書において「糖転移酵素」とは、タンパク質、糖質、脂質、ステロイド、アルコールなどの糖受容体(sugar acceptor)に糖供与体(sugar donor)すなわち糖ヌクレオチドや脂質中間体(糖結合ドリコール)から糖を転移し、複合糖質、糖タンパク質、多糖を合成する酵素の総称であり、本発明では、特に、ペプチドまたはタンパク質を糖受容体として糖を転移するものをいう。具体的な例は、本発明において使用されうる糖転移酵素は、目的とする糖ペプチドを考慮して、実施することができる。糖転移酵素としては、糖結合能を有するアミノ酸残基に糖鎖を転移させる機能を担うもののほか、糖鎖伸長(機能性糖鎖形成)の機能を有するもの、および母核糖鎖形成ないし糖鎖抗原形成の機能を担うものが本発明において企図される。糖転移酵素についての区別は、まず酵素反応の際の受容体となる基質によって2つに大別される。一つ目はペプチドを基質とするもので、もう一つは糖ペプチドに含まれる糖鎖(単糖および二糖以上のオリゴ糖を含む)を基質とするものである。「糖鎖伸長の機能を有するもの」が後者に該当する。前者の酵素につづいて後者の酵素を作用させることで製造されうる糖ペプチドがもつ糖鎖構造のうち、その一部を形成する有意義であると思われる糖鎖構造が母核糖鎖であり、糖鎖抗原であり、機能性糖鎖と呼ばれる。母核糖鎖(生体内で広く存在する糖鎖の基本構造)と糖鎖抗原(抗原性があることが知られている糖鎖)は構造が重複するものもあり、例えばGalβ1→3GalNAcα1(→Ser/Thr)という二糖構造はコア1型と呼ばれる母核糖鎖でありながら、T抗原という名で知られる糖鎖抗原でもある。機能性糖鎖はたとえばレクチンと結合するリガンドとして作用するポリラクトサミン糖鎖など母核糖鎖以外の糖鎖構造で、かつある種の活性や機能を発揮することが知られているものを指す。ただし、機能性糖鎖と糖鎖抗原との間にも構造が重複するものがあり、例えば四糖構造からなるシアリルルイスX抗原が挙げられる。そのような糖転移酵素の具体例は、本明細書において実施例及び他の場所において詳細に記載する。本発明は、これらのいずれのタイプについても、合成することができることが理解される。
【0048】
本明細書において「化学合成法」とは、化学反応によって物質をつくり出すことをいい、本発明では特に、ペプチドまたは保護基が結合したペプチドを化学反応によって製造することをいう。本発明において用いられうるペプチドの化学合成法としては、液相合成、固相合成などを挙げることができる。本発明において用いられうるものとして好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。
【0049】
本明細書において「糖加水分解酵素」とは、糖が結合した物質から糖を遊離させる酵素であって、概してEC.3.2.に属する酵素をいい、特には、EC.3.2.1.に属する配糖体結合加水分解酵素または糖加水分解酵素)をさす。本発明において用いられうるものとして好ましいものの具体的な例は、本明細書において実施例及び他の場所に記載される。
【0050】
本明細書において「脱保護反応」とは、保護基を脱離させる反応をいう。本発明では、保護基が糖鎖の場合、糖加水分解酵素などを用いた生化学的反応によって実施することができる。
【0051】
本明細書において「ライブラリー」とは、あるカテゴリー内の複数の同様のメンバーを含む集団をいう。たとえば、本発明では、糖ペプチドのライブラリーは、複数の、好ましくは異なる種類の糖ペプチドの集団をいう。
【0052】
本明細書において「糖鎖結合能を有するアミノ酸」は、代表的に、
【0053】
【化1】
【0054】
を有し、(式中、R1はアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R2は、水酸基、−OR7、−NR8R9または保護基であり、R3〜R4およびR6は、それぞれ独立して保護基、水素、蛍光基などの修飾基(たとえば、ペプチドのN末端に蛍光(検出用)やビオチン(アビジン等との結合用)PEG鎖(水溶性向上用)等の何らかの機能を持つ修飾基が結合している場合を含む)を表し、R5は、糖鎖に結合し得る基を表し、R7〜R9は、それぞれ独立して水素、保護基、蛍光基などの修飾基を表す。)で表わされる、化合物で表され得る。
【0055】
本明細書において、アミノ酸の側鎖とは、アミノ酸をRCH(NH2)COOHで表したときに、Rに相当する基をいう。本明細書では、アミノ酸には、RaRbCH(NH)COOH(RaおよびRbは、任意の基であり、一緒になって環状の基を形成していても良い)で示されるイミノ酸を含む。したがって、イミノ酸の場合は、RaまたはRbはあるいはその両方相当する基が側鎖に該当し得る。個々で例示的なアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、プロリンなどの環状イミノ酸の場合は、R1とR3またはR4また、アミノ酸がグリシンの場合は、R1は、単結合を意味し得る。
【0056】
ここで、R2〜R4およびR6は、それぞれ独立して、水素(保護されていない場合)、あるいは、Fmoc基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルエチレンオキシカルボニル基、ア
ルキレノイル基(例えば、ペンテノイル基)、オキシアルキレノイル基などであり得る。好ましくは、オキシカルボニル基がリンカーとして結合している。オキシカルボニル基が介在することによってアミノ基との連結がスムーズになるからである。
【0057】
ここで、R5は、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基、システイン残基などであり得る。
【0058】
「糖鎖結合能を有するアミノ酸」の好ましい例としては、たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシン(Tyr)を挙げることができる。特に、セリン(Ser)およびスレオニン(Thr)が好ましい。
【0059】
(本明細書において用いられる一般技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
【0060】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.,et al.eds,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac ,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0061】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、残さタンパク質又は脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧品に関する。この医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0062】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0063】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0064】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0065】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0066】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第15版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0067】
本発明の処置方法において使用される糖鎖組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0068】
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
【0069】
(農薬)
本発明の組成物は、農薬の成分としても用いることができる。農薬組成物として処方される場合、必要に応じて、農学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤などを含み得る。
【0070】
本発明の組成物が、農薬として使用される場合は、除草剤(ピラゾレートなど)、殺虫・殺ダニ剤(ダイアジノンなど)、殺菌剤(プロベナゾールなど)、植物成長調整剤(例、パクロブトラゾールなど)、殺線虫剤(例、ベノミルなど)、共力剤(例、ピペロニルブトキサイドなど)、誘引剤(例、オイゲノールなど)、忌避剤(例、クレオソートなど)、色素(例、食用青色1号など)、肥料(例、尿素など)などもまた必要に応じて混合され得る。
【0071】
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。好ましくは、本発明の糖鎖組成物は、低アレルゲン食品としても用いることができる。
【0072】
(具体的な実施形態)
(単一の修飾基を導入する方法)
1つの局面において、本発明は、以下の工程:(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を提供する。このように、本発明は、糖が付加されるであろうアミノ酸に対し、あらかじめ糖転移酵素で導入される糖とは異なる糖またはその代替物(保護基、好ましくは単糖)と結合させておくことで、糖転移反応による糖鎖導入をブロックし、目的とする場所のアミノ酸に目的とする糖鎖(単糖を含む)を付加させ、その後ブロックするために導入した糖または代替物(保護基)を、加水分解等で選択的に脱離させるものである。以下に、各手順を説明する。
【0073】
本発明の方法では、まず、(A)工程として、糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程が実施される。
【0074】
この工程において製造される保護ペプチドは、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていないものである。保護ペプチドを製造する工程では、修飾基を導入する工程を化学反応によって行う場合は、保護基は、修飾基以外の糖で、かつその水酸基が保護(例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等)されていることが好ましい。このような保護ペプチドは、任意の適切な方法により合成することができ、たとえば、化学合成(例えばペプチド固相合成)、酵素法によって実施することができる。ペプチド合成は、従来技術において公知の任意の手法を用いることができるが、以下を例示することができる:液相法、Merrifield法(固相法)。これらの実施のために、当該分野において周知の文献、たとえば、固相合成に関するMerrifield, R. B.: J. Am. Chem. Soc., 1963, 85, 2149-2154、 教科書として、たとえばMethodsin Enzymology, Volume 289, Solid-Phase Peptide Synthesis, Edited By Gregg B.Fields, ACADEMIC PRESSなどを参酌することができる。
【0075】
この場合は、α−グルコース、β−グルコース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコサミン、α−フコース、N−アセチル−β−ガラクトサミンなどを導入することができるがこれに限定されない。
【0076】
また、酵素化学的につくれる場合は、これも使用することができ、ペプチド鎖に酵素反応で保護基糖質を導入する場合、以下の修飾基の導入において使用する糖転移酵素「以外」の糖転移酵素を使用することが好ましい。
【0077】
本発明の方法では、次に、(B)工程として、(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程が実施される。この工程において、修飾基を保護ペプチドに付加することは、修飾基を導入する工程を化学反応によって行う場合は、たとえば、修飾基として、なんらかの糖(天然型・非天然型は不問)で、かつその水酸基が保護(例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基、ベンジル基、メチル基やアリル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等)されたものを用いて、実施することができる。このような方法としては、糖転移酵素を用いる生化学的方法のほか、化学的方法によるグリコシル化反応を用いることができる、糖転移酵素を用いるほうが好ましい。特異的に特定の場所に所望の糖鎖を転移させることができるからである。
【0078】
糖転移酵素:β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素、あるいはppGalNAc-Ts(GalNAc転移酵素; ppGaNTase(Glycobiologyvol.13 no.1 pp.1R±16R,2003を参照のこと)としては以下を挙げることができる:ppGaNTase-T1(ウシ;GenBank番号(以下同様):L07780/L17437)、ppGaNTase-T1(ラット、Rattus norvegicus U35890)、ppGaNTase-T1(ヒトHomo sapiensX85018)、ppGaNTase-T1(マウス Mus musculus U73820)、ppGaNTase-T1(ブタ、 D85389)、ppGaNTase-T2(ヒト、Homo sapiens X85019)、ppGaNTase-T3 (ヒト、Homo sapiens X92689)、ppGaNTase-T3 (マウス、Musmusculus U70538)、ppGaNTase-T4 (マウス、Mus musculus)、ppGaNTase-T4 (ヒト、Homo sapiensY08564)、ppGaNTase-T5 (ラット、Rattus noregicus AF049344 )、ppGaNTase-T6 (ヒト、Homosapiens Y08565)、ppGaNTase-T7 (ラット、Rattus norvegicus AF076167)、ppGaNTase-T7 (ヒト、Homosapiens AJ002744)、ppGaNTase-T9 (ヒト、Homo sapiens AB040672)、ppGaNTase-T10 (ラット、Rattusnorvegicus AF241241)、ppGaNTase-T11 (ヒト、Homo sapiens Y12434)、ppGaNTase-T12 (ヒト、Homosapiens AB078146)ppGaNTase-T13(ヒトHomo sapiens AB078142)。);POFUT1(フコース転移酵素)など。好ましい実施形態では、ppGalNAc-Tsを使用することができるが、これに限定されない。
【0079】
本発明において使用されうる各糖転移酵素は、転移する位置に特異性ないし優先性がある(たとえば、Chem.Biol.2004,11,1009-1016)ことから、目的とする糖ペプチドにおける糖の位置に応じて、当業者は保護基の結合位置および種類を適宜決定し、適切な糖転移酵素を用いることで目的とする位置に修飾基が入った糖ペプチドを製造することができる。
【0080】
本発明の方法では、修飾基を化学的方法によって行う場合などでは、必要に応じて、次の工程において、糖(保護基および修飾基として利用される糖)に含まれる水酸基の保護基を除去する。このような糖水酸基の脱保護方法としては、化学的方法(例えばNaOH/MeOHのような塩基処理)を挙げることができる。
【0081】
次に、(C)工程として、(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程を実施する。ここでは、代表的には、保護基(糖)を除去する(脱保護)ことが挙げられる。このような保護ペプチドの脱保護方法としては、糖加水分解酵素による保護基の選択的除去を行うことができる。このような選択的除去は本発明において初めて達成したものであって、従来技術である化学的方法では選択的な除去は不可能であったことから、かかる結果は、従来技術では達成できなかったものといえる。この工程において使用されうる保護基糖質に対応した糖加水分解酵素としては、たとえば、α-マンノシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、α-フコシダーゼ、α-/β-グルコシダーゼ、などを挙げることができ、保護基に応じて当業者は適宜選択することができる。
【0082】
たとえば、保護基と糖加水分解酵素(脱保護において使用)との組み合わせについての例としては、以下の表をあげることができる。
【0083】
【表1】
【0084】
このように、本発明の特徴の一つとしては、糖/切断酵素のバリエーションの多さが保護基として利点であるということができる。
【0085】
化学合成法と新規糖ペプチド合成法は相補的な関係にあるといえる。すなわち、化学合成法では、任意の糖結合能を有するアミノ酸残基を(Ser/Thr残基など)にGalNAcを導入するものであり、他方、本発明の合成法では、任意の糖結合能を有するアミノ酸残基を(Ser/Thr残基など)の側鎖を遊離水酸基にするものである
本発明では、いかなるペプチド基質をも用いることができる。たとえば、EA2、MUC1、MUC5Acなどを利用することができる。また、保護基の例としては、α−Man、β−Gal、α−Fucなどを利用することができる。転移される糖鎖としては、α−GalNAcなどを利用することができる。
【0086】
本発明は、糖による保護・脱保護という手法を利用して製造されうる糖ペプチドとしては、一つの観点において、「修飾基−アミノ酸残基」の組み合わせにより以下の2グループに大別することができる。
【0087】
グループ1:修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが天然型である糖ペプチド
(例えばGalNAcα1→-Ser/Thr-)
グループ2:修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチド
(例えばGalα1→-Asn-)
本発明では、いずれのパターンであっても適用することができることが理解される。
【0088】
好ましい実施形態は、グループ1の場合であって、この場合は、通常天然型であり、酵素が利用可能といえることから、糖ペプチドの製造に酵素を有効利用することができる。
【0089】
1つの実施形態において、本発明において利用可能な糖結合能を有するアミノ酸残基は、好ましくは、以下の条件を満たすものであって
(1)<酵素的方法により>修飾基が転移されうる
(2)<化学的方法により>保護基が導入されうる
(3)<酵素的方法により>保護基のみが選択的に除去されうる
(4)保護基は修飾基と異なる種類のものであること
少なくとも1つ好ましくは2つ、さらに好ましくは3つ、もっとも好ましくは4つすべての要件を満たすアミノ酸が好ましく、具体的な好ましい例としては以下を挙げることができる:アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシン。天然型の場合は、「糖結合能を有するアミノ酸残基」に求められる要件について<>内の要件を満たすことが好ましい。たとえば、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、ヒドロキシリジンおよびチロシンを挙げることができる。これらのアミノ酸に結合する糖(鎖)として例示されるものは、Asnに対してN−アセチルグルコサミン(GlcNAc);Ser/Thrに対してマンノース(Man),N−アセチルガラクトサミン(GalNAc),GlcNAc,ガラクトース(Gal),フコース(Fuc),グルコース(Glc);Hypに対してAra(アラビノース)、Gal、GlcNAc;Serに対してXyl(キシロース);Tyrに対してGlcを挙げることができる。
【0090】
(1)〜(4)の4つの要件を考慮した場合、セリンまたはスレオニンが簡便であるが、これに限定されない。その他のアミノ酸についても、制約条件を考慮しながら実施することができる。天然にあるということは(1)が成立し、(2)も合成すればよいので可能であるということができる(Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,1516-1520;Angew.Chem.Int.Ed.2004,42,5186-5189などを参照のこと)。(3)についても、当業者は当該分野における公知技術を参酌して実施することができる。
【0091】
本発明において製造されるペプチドの長さとしては任意の長さのものを挙げることができる。すなわち、化学合成法または酵素を用いた方法などにより保護ペプチドを製造することができ、原理的にはこれらの方法によって製造されうるペプチドの長さには上限がないことから、理論的にはそして現実にも、任意の長さの修飾ペプチドを製造することができることが理解される。化学合成法を用いる場合は、通常、100残基のものが提供され、これ以上のペプチドを製造するためには、ペプチド同士をつなぐライゲーションという手法を用いて、100残基以上のペプチドを構築することができる。ライブラリーとして大量の種類を提供する場合は、単一の方法で提供することが好ましいことから、このような場合は、100残基までの長さの修飾ペプチドのライブラリーが提供される。
【0092】
上記条件については、項目別に考えるならば、当業者は、原理的には<>内の条件にとらわれなくとも実施可能な場合を見出すことができ、例えば修飾基の付加反応は酵素法から化学法に置換可能であることが理解される。好ましくは、保護ペプチド→修飾基導入→脱保護を完遂するために<>の条件で行うのが合理的であるといえる。例えば、修飾基の付加反応においてを化学法にて行う場合、まず、保護基(糖)および修飾基(糖)それぞれの水酸基をアセチル基等で保護し修飾基をペプチドに化学的に付加した後にそれらを除去する工程が発生することから、効率が落ちる場合があるが、酵素法で修飾するにはそれらの煩雑な工程は必要ないので効率的であることからこの点で好ましい。
【0093】
別の実施形態において、本発明において利用されうる保護基としては、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を挙げることができる。1つの例としては、糖鎖を挙げることができ、修飾鎖とは異なる糖鎖を用いることが好ましい。
【0094】
1つの実施形態では、本発明において利用される保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコース、α−フコースおよびN−アセチル−β−ガラクトース、ならびにこれらの複糖および修飾糖などを挙げることができる。好ましくは、保護基は単糖である。1つの実施形態では、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、N−アセチル−β−グルコース、α−フコースまたはN−アセチル−β−ガラクトースなどの単糖を用いることが有利である。複雑な反応を行う必要がなく、容易に入手可能な酵素を用いることができるからである。
【0095】
1つの実施形態において、本発明において使用される修飾基は、糖鎖(単糖、多糖、複合糖など)であり、(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである。好ましくは、修飾基は単糖である。ここで、使用される糖転移酵素として、目的とする修飾基に相当する糖鎖を転移することができる酵素を用いる。
【0096】
1つの実施形態において、本発明において使用される保護基は、糖鎖であり、(A)工程は化学合成法により行い、(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行って本発明を実施することができる。A工程を化学合成法によって行うことによって、任意の箇所に保護基を結合させることができる。
【0097】
別の実施形態において、本発明において保護基として使用される糖鎖としては、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコースおよびβ−アセチルガラクトサミンならびに二糖などを利用することができ、本発明において使用される糖加水分解酵素としては、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼおよびβ−ヘキソサミニダーゼならびにO−グルコシダーゼを使用することができる。
【0098】
1つの実施形態では、本発明において用いられる糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;UDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素などを挙げることができる。当業者は、当該分野において公知の技術を適宜応用して、実施例等において記載される例を参考にして、それ以外の糖転移酵素を用いて別のまたは同じ糖を転移させることができる。
【0099】
別の実施形態では、(B)工程は化学的方法により実施し、保護基および修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の脱保護工程を行うことによって、本発明を実施することができる。このようないわゆる化学的方法によって修飾基を転移させる方法は、保護基および修飾基として糖鎖を用いる場合に、特異性が引くことから、これらをさらにアセチル基などで保護しておくことが好ましい。
【0100】
本発明において、グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドについて考慮する場合、グループ1の修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが天然型である糖ペプチドの場合における修飾基を導入する工程において、酵素を用いる方法を化学的方法に替えればグループ2の非天然型の結合であっても技術的に製造可能である。以下に具体的に説明する。
【0101】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(A)工程として、保護ペプチドを製造する工程では、保護基:修飾基以外の糖で、かつその水酸基が保護(例えばアセチル基)されたものを用いることが好ましい。そして、このような保護ペプチドの製造方法としては、化学合成(例えばペプチド固相合成)を用いることができる。
【0102】
(B)工程として、修飾基を保護ペプチドに付加する工程では、修飾基としては、なんらかの糖(天然型および非天然型のいずれも使用することができる)であって、かつ、その水酸基が保護(例えばアセチル基)されたものを用いることができる。このような修飾基を導入する場合、化学的方法によるグリコシル化反応などを利用することができる。このような化学的方法は、以下を参酌して実施することができる:例えばハロゲン化糖を用いるグリコシル化法、トリクロロアセトイミデートを用いるグリコシル化法、アセチル化糖を用いるグリコシル化法、チオ糖を用いるグリコシル化法等が挙げられる。
【0103】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(B)工程の後に、次の工程を行うことによって保護基および修飾基の脱保護を行うことができる。すなわち、保護基および修飾基として糖が用いられる場合、その糖に含まれる水酸基の保護基を除去する。そのような糖水酸基の脱保護方法としては、化学的方法(例えばメタノール中、ナトリウムメトキシドや無水アンモニアを用いた反応)を挙げることができる。
【0104】
グループ2、すなわち、修飾基−アミノ酸残基の組み合わせが非天然型である糖ペプチドでは、(C)工程として、保護基(たとえば、糖、リン酸基)を除去する(脱保護)工程を行うことができる。そのような保護ペプチドの脱保護方法としては、糖加水分解酵素による保護基の選択的除去を行うことができるがそれに限定されない。
【0105】
ある実施形態では、保護基として二糖体(Galβ1−3GalNAc)を化学的にペプチド鎖に導入しておき、O−グリカナーゼ(O−グリコシダーゼ)(この二糖体を特異的に認識し切断する活性)という酵素によって脱保護することができる。この場合は修飾基GalNAc、保護基Galβ1−3GalNAcの組み合わせで利用することもできる。このような二糖体を用いる技術は、ひとつの保護ペプチドを構築する上で色々な保護基(単糖)を組み合わせていって、もう保護基としての単糖候補がなくなってしまったような場合には特に有効である。あるいは、修飾基としてGalNAcを入れた後に糖転移酵素(シアル酸転移酵素等)でさらにGalNAcをベースに修飾していく場合にも使用することができる。
【0106】
すなわち、この場合は、以下の組み合わせで実施することができる:
修飾基:N−アセチル−α−ガラクトサミン
修飾基導入のための酵素:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素
保護基:ガラクトシル−β1,3−N-アセチルガラクトサミン
脱保護のための酵素:O−グリコシダーゼ。
【0107】
このような、糖転移酵素、糖加水分解酵素、保護基、修飾基などの種類については、製造する糖ペプチドのデザイン、製造効率、コスト等に応じ、当業者が製造方法に適宜組み入れるもののひとつであることから、任意の手法を用いることができることが理解される。
【0108】
(修飾基を導入する方法を複数回行う方法)
別の局面において、本発明は、2種類以上の修飾基が自在に導入された糖ペプチド、糖ポリペプチドまたは糖タンパク質を生産する方法を提供する。すなわち、本発明は、少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を提供する。
【0109】
本発明のこのような方法は、(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、を包含する。
【0110】
ここで、(E)工程における修飾基と(G)工程における修飾基とは同じであっても異なっていてもよい。異なる修飾基が用いられる場合は、複数種類の修飾基が導入された糖ペプチドが製造されることになる。
【0111】
これらの少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法では、(単一の修飾基を導入する方法)において説明した任意の特定の実施形態を単独でまたは組み合わせて適用することができる。
【0112】
本発明の好ましい実施形態では、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程をさらに包含していてもよい。このような工程によって、さらにバラエティーに富んだ修飾基を有する糖ペプチドを製造する方法が提供されることになる。
【0113】
(修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法)
別の局面において、本発明は、修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法を提供する。この方法は、本発明の少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法または少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を実施する工程を1または複数回包含することによって、実現することができる。
【0114】
たとえば、従来技術は図13を参酌して説明される。この図では、従来技術での8種類の糖ペプチドを合成する方法が記載されている。まず、左端の欄にあるように、ペプチド合成用の樹脂(図では保護基(PG)でアミノ基が保護されたアミノ酸が担持された樹脂を例示している)を用いて固相合成法によりペプチド鎖を伸長して、適宜のアミノ酸(糖結合能を有するアミノ酸)に糖(保護基)を結合させることが必要である。しかし、この場合は、8バッチが必要であり、煩雑である。
【0115】
他方、本発明であれば、図14に記載されるように、1種類の合成基質を用いて多種類の糖ペプチドを生産することができる。すなわち、この例では、左欄にあるように、Fmoc−アミノ酸に2つの異なる種類の保護基を導入した保護ペプチド(図では基質と記載)が提供される。これを、工程1において、2群にわけ、1番目の糖結合能を有するアミノ酸への糖転移を媒介する糖転移酵素を反応させる群とその処理をしない群とを作成する。工程2では、糖転移酵素処理をした群(上)に加水分解酵素A(これは、黒丸を加水分解する)および加水分解酵素B(これは灰色を加水分解する)を作用させる群を作成する。酵素処理をしていない群についても、加水分解酵素A(これは、黒丸を加水分解する)および加水分解酵素B(これは灰色を加水分解する)を作用させる群、ならびにこれに加えて、加水分解酵素AおよびBの両方を作用させる群を作成する。さらに、工程3では、糖転移酵素を作用させる群およびさせない群とを分けておのおのの群について作成する。さらに、工程2で加水分解酵素Aを施した群には、工程4では、加水分解酵素Bを作用させ、工程2で加水分解酵素Bを作用させた群に、工程4では、加水分解酵素Aを作用させる。これによって、3箇所の糖結合能を有するアミノ酸について、3つ結合したもの、2つ結合した3種、1つ結合した3種および結合していない1種の8種類のものを一挙に生産することができる。
【0116】
次に、ppGalNAcTおよび他の糖転移酵素の組み合わせで本発明を実施したときの模式図を図15に示す。
【0117】
基質として、図14と同様に、2種類の保護基が導入された保護ペプチドを調製する。その後、工程1において、糖転移酵素1としてppGalNAcTを用いて糖を導入する。その後、工程2において加水分解酵素Aを用いて保護基の1つを除去する。次に右側の矢印で工程3向かうと、糖転移酵素1として同様の酵素を用いて処理する。これを右側に向かって加水分解酵素Bで処理すると2箇所が右端及び左端が修飾された糖ペプチドが提供される。
【0118】
他方、工程2の後、糖転移酵素2(たとえば、SiaT)で処理すると、ppGalNAcTで糖が導入された部位でさらに糖が導入され糖鎖が伸長する。その後同様に、工程3及び工程4を行うその際、工程3で糖転移酵素1で処理する群及び処理しない群とを作成する。その後、工程5として、糖転移酵素を導入した群について糖転移酵素1を作用させる群及び作用させない群とを作成することによって、3つ目の箇所に修飾基が結合したものと結合していないもの、右端に修飾基がないものの3種類が生産される。さらに、工程3の後、糖転移酵素2を作用させると、右端及び左端の両方の糖が伸長する。その後工程4および工程5として、糖転移酵素1の作用群および作用しない群を作成することによって、伸長した糖が左端および右端に結合し、中の糖結合能を有するアミノ酸が修飾されたものとされていないものとを生産することができる。
【0119】
ここで、糖鎖伸長反応に使用されうる糖転移酵素としては、α1,3−FucT、α2,6−SiaT、α2,3−SiaT、β1,3−GlcNAcT、およびβ1,4−GalTなどを挙げることができる。
【0120】
母核糖鎖形成ないし糖鎖抗原形成の機能を担うものとしては、ST6GalNAc−III/IV(ST,d(ST))、ST6GalNAc−I(STn)、C2Gn−T3(Core2)、C2/4Gn−T(Core2,4),C2Gn−T1(Core2)、C1Gal−T1(Core1)などを挙げることができる。
【0121】
糖転移反応のうち、母核糖鎖形成、糖鎖抗原形成については以下のことが知られている。ムチンの糖鎖のほとんどがα−O−グリコシド結合により、N−アセチルガラクトサミンとセリン、スレオニンの水酸基との結合でコアタンパク質に結合している。一般的に、N−アセチルガラクトサミンの他に、フコース、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸がムチンに見いだされるが、母核糖鎖(母核領域)はN−アセチルガラクトサミンと直接それに結合している糖からなるものをいう。
【0122】
また、癌関連糖鎖抗原などに代表される、抗原性を有する糖鎖を糖鎖抗原という。血液型抗原に代表されるような末梢の糖鎖に抗原性を有するもの、Tn、Tのような母核構造及びそれらにシアル酸が結合したシアリルTn、シアリルT、シアリルルイスA抗原とその異性体であるシアリルルイスX抗原のような抗原が例示される。
【0123】
これらの母核糖鎖形成、糖鎖抗原形成などに利用される糖転移反応に利用される糖ペプチドの生産においても、本発明が利用されることが理解される。
【0124】
(生産物)
別の局面において、本発明はまた、本発明の少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法または少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法を実施する工程を1または複数回包含することによって生産される修飾基が結合したペプチド、あるいはペプチドのライブラリーを提供する。
【0125】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0126】
以下、実施例により、本発明の構成をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、市販されているものを使用した。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲はかかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
実施例中および明細書中において、アミノ酸の残基は、略号にアミノ酸の位置を付記した形で表すことがある。たとえば、Thr9とは、9番目のスレオニンを意味する。
【0129】
(実験例A1)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移される(非特許文献4、5参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこで本発明を適用し、Thr7にあらかじめβ−GalNAc残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号2)、下線部にβ−GalNAcが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いたα−GalNAc残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図1(a)に示す。
【0130】
(β−GalNAc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−GalNAc付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号2)、下線部にβ−GalNAcが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計40μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。12時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図1(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所または2箇所転移された分子量ピークが現れており、β−GalNAcを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。また、α−GalNAc残基が1箇所および2箇所転移されたそれぞれの生成糖ペプチドについて、化学構造とグリコシル化されたアミノ酸残基をECD−MS法により分析した。結果をそれぞれ図1(c−1)および図1(c−2)に示す。α−GalNAcが転移されたアミノ酸残基は一箇所転移糖ペプチドでThr11、二箇所転移糖ペプチドでThr2とThr11であることが判明した。
【0131】
(β−ヘキソサミニダーゼによるβ−GalNAc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの水を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液1μlをZipTipC18で精製した後、10μlの150 mMクエン酸緩衝液(pH 5.0)を添加して37℃で5分間インキュベーションし、5μlのJack bean β−ヘキソサミニダーゼ(20mU)を添加して37℃で12 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図1(b)下段に示す。β−GalNAc残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−GalNAcを除去することができることが示された。
【0132】
(実験例A2)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biol.Chem.(2006) 281,8613−8618参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr7にあらかじめα−Man残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号3)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack bean α−マンノシダーゼを用いたα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図2(a)に示す。
【0133】
(α−Man付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号3)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図2(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所または2箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0134】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図2(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0135】
(実験例A3)
Thr7にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号4)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger
β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図3(a)に示す。
【0136】
(β−Gal付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号4)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125 μMの基質のほか、10mM MnCl2、100 mM Tris−HCl 緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図3(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0137】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU) を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図3(b)下段に示す。β−Gal残基が除去された分子量ピークが現れており、Aspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−Galを除去できることが示された。
【0138】
(実験例A4)
Thr7にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号5)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図4(a)に示す。
【0139】
(α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号5)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5,500μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む計40μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図4(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所または2箇所に転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0140】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図4(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0141】
(実験例B1)
MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号6))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から17番目のスレオニン(Thr17)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biochem.(1999) 126,975−985参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr17にあらかじめα−Man残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号7)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図5(a)に示す。
【0142】
(α−Man付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号7)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μM の基質のほか、10mM MnCl2、100 mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120 nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図5(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0143】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図5(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0144】
(実験例B2)
Thr17にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号8)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図6(a)に示す。
【0145】
(β−Gal付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号8)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図6(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0146】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の脱保護)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加え残渣を完全に溶解させて、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図6(b)下段に示す。α−GalNAc残基が1箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Galを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0147】
(実験例B3)
Thr17にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号9)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図7(a)に示す。
【0148】
(α−Fuc付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(配列番号9)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5,500μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図7(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したMUC1ペプチドを基質に用いることでThr17以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0149】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図7(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0150】
(実験例C1)
MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号10))を基質としてppGalNAcT2を用いた糖転移反応を行うと、N−末端側から9番目のスレオニン(Thr9)に優先してα−GalNAcが転移される(J.Biol.Chem.(2006) 281,8613−8618参照)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこで本発明を適用し、Thr9にあらかじめα−Man残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号11)、下線部にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack beanα−マンノシダーゼを用いたα−Man残基の加水分解反応に供し、前記糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図8(a)に示す。
【0151】
(α−Man付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号11)、下線部にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図8(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所、2箇所、または3箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manを付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0152】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液にZnCl2を50mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、5μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20 mU)を添加して37℃で24 時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図8(b)下段に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack beanα−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0153】
(実験例C2)
Thr9にあらかじめβ−Gal残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号12)、下線部にβ−Galが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くAspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いたβ−Gal残基の加水分解反応に供し、Thr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図9(a)に示す。
【0154】
(β−Gal付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したβ−Gal付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号12)、下線部にβ−Galが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む)計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下で実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図9(b)中段に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所、2箇所、または3箇所転移された分子量ピークが現れており、β−Gal付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0155】
(β−ガラクトシダーゼによるβ−Gal残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのAspergillus niger β−ガラクトシダーゼ(50 mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図9(b)下段に示す。β−Gal残基が除去された分子量ピークが現れており、Aspergillus niger β−ガラクトシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−Galを除去できることが示された。
【0156】
(実験例C3)
Thr9にあらかじめα−Fuc残基を付加した合成MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号13)、下線部にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くBovine kidney α−フコシダーゼを用いたα−Fuc残基の加水分解反応に供し、Thr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図10(a)に示す。
【0157】
(α−Fuc付加MUC5ACペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Fuc付加MUC5ACペプチド(GTTPSPVPTTSTTSAP(配列番号13)、下線部にα−Fucが置換)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は500μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、500μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図10(b)中段に示す。α−GalNAc残基が1箇所、2箇所または3箇所に転移された分子量ピークが現れており、α−Fucを付加したMUC5ACペプチドを基質に用いることでThr9以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0158】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150 mM クエン酸リン酸緩衝液 (pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのBovine kidney α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図10(b)下段に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、Bovine kidney α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0159】
(実験例D1)
EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK(配列番号1))を基質としてppGalNAcT2による糖転移反応を行うと、まずN−末端側から7番目のスレオニン(Thr7)に優先してα−GalNAcが転移されるが(非特許文献4、5参照)、大過剰の糖供与体を用いて反応に供した場合はその後に第2、第3、第4のα−GalNAc転移がThr11、Thr2、Thr3の順に起こることを本発明者は発見した(図11)。従ってppGalNAcT2を用いる限りはThr7とThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcを優先的に転移させた糖ペプチドを得ることはできない。そこでThr7、Thr11にそれぞれα−Man残基、β−GalNAc残基(天然型であるα−GalNAcの立体異性体)をあらかじめ付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号14)、[7位]にα−Man、[11位]にβ−GalNAcが付加)を基質として、本発明を適用した糖ペプチドの調製が可能であるか検討した。反応工程を図12(a)に示す。
【0160】
(α−Man、β−GalNAc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man、β−GalNAc付加EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号14)、[7位]にα−Man、[11位]にβ−GalNAcが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Man、β−GalNAcの二残基を付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7およびThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0161】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)三段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0162】
(β−ヘキソサミニダーゼによるβ−GalNAc残基の除去)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸緩衝液(pH 5.0)で残渣を完全に溶解させた。該基質溶液20μlを37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean β−ヘキソサミニダーゼ(375mU)を添加して37℃で18時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図12(b)四段目に示す。β−GalNAc残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean β−ヘキソサミニダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからβ−GalNAcを除去できることが示された。
【0163】
(実験例D2)
Thr7、Thr11にあらかじめα−Man、α−Fucをそれぞれ付加した合成EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号47)、[7位]にα−Man、[11位]にα−Fucが付加)を基質として、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応とそれに続くJack Bean α−マンノシダーゼを用いたα−Manの加水分解反応に供し、その後再びppGalNAcT2を用いた糖転移反応とα−フコシダーゼを用いたα−Fucの加水分解反応に供し、Thr2、Thr7にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図16(a)に示す。
【0164】
(α−Man、α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Manおよびα−Fuc付加EA2ペプチド(PTTDSTT7PAPT11TK(配列番号47)、[7位]にα−Man、[11位]にα−Fucが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液 pH7.5、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manとα−Fucが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr7、11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0165】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、30μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)三段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0166】
(α−GalNAc、α−Fuc付加EA2ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、50μlの100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で残渣をで残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を10mM MnCl2、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計80μlの溶液に調整し、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図16(b)四段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Fucが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr11以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0167】
(α−フコシダーゼによるα−Fuc残基の除去)
上記酵素反応生成物を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を37℃で5分間インキュベーションした後、10μlのウシ腎臓α−フコシダーゼ(50 mU)を添加して、37℃で20時間反応させた。反応終了後、生成物を MALDI−TOF−MSにより分析した。結果を図16(b)五段目に示す。α−Fuc残基が除去された分子量ピークが現れており、ウシ腎臓α−フコシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Fucを除去できることが示された。
【0168】
(実験例D3)
Thr16にあらかじめα−Manを付加した合成MUC1ペプチド(AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD(配列番号52)、[16位]にα−Manが付加)を基質として、ppGalNAcT2とシアル酸転移酵素ST6GalNAc1を用いた糖転移反応に供した後、Jack Bean α−マンノシダーゼを用いたα−Manの加水分解反応に供し、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供し、Thr7、Thr16にNeuAcα(2−6)GalNAcα1、α−GalNAcがそれぞれ導入された糖ペプチドを得ることとした。反応工程を図17(a)に示す。
【0169】
(α−Man付加MUC1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
化学合成したα−Man付加EA2ペプチド(AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD(配列番号52)、[16位]にα−Manが付加)を基質とし、ppGalNAcT2を用いた糖転移反応に供した。該反応は125μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計20μlの溶液を用い、37℃の恒温条件下において実施した。6時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)二段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、α−Manが付加したEA2ペプチドを基質に用いることでThr16以外のセリン・スレオニン残基にα−GalNAcが導入された糖ペプチドを調製できることが示された。
【0170】
(ST6GalNAcIを用いたシアル酸転移反応)
上記酵素反応生成物を逆相HPLCにより精製しα−GalNAc残基が1箇所導入されたペプチドを該反応の基質とした。該反応は50μMの基質のほか、10mM MnCl2、100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.5)、2.5mM CMP−NANA、2.87μg ST6GalNAcIを含む計20μlの溶液を用い、20℃の恒温条件下において実施した。3日後反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)三段目に示す。Neu5Ac残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、基質中に存在するα−GalNAc残基にNeu5Ac残基が導入されたSialyl Tn[Neu5Acα(2−6)GalNAcα1−Thr/Ser]含有糖ペプチドを調製できることが示された。
【0171】
(α−マンノシダーゼによるα−Man残基の除去)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、20μlの150mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)を加えて残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液25μlにZnCl2を50 mMになるよう添加して37℃で5分間インキュベーションした後、15μlのJack bean α−マンノシダーゼ(20mU)を添加して37℃で24時間反応させた。反応終了後、生成物をMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)四段目に示す。α−Man残基が除去された分子量ピークが現れており、Jack bean α−マンノシダーゼを用いて前記の生成糖ペプチドからα−Manを除去できることが示された。
【0172】
(シアリル−Tn残基付加Muc1ペプチドへのppGalNAcT2を用いた糖転移反応)
上記酵素反応液を減圧にて濃縮乾固した後、10μlの100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で残渣を完全に溶解し、基質溶液とした。該基質溶液を10mM MnCl2、125μM UDP−GalNAc、120nM ppGalNAcT2を含む計20μlの溶液に調整し、37℃の恒温条件下において実施した。12時間反応後、160μlのアセトニトリルを添加して酵素を失活させ、糖転移反応を停止した。生成物はMALDI−TOFMSにより分析した。結果を図17(b)五段目に示す。α−GalNAc残基がペプチド鎖に1箇所転移された分子量ピークが現れており、シアリル Tnシアリル Tn[Neu5Acα(2−6)GalNAcα1−Thr/Ser]、Tn[GalNAcGalNAcα1−Thr/Ser]抗原構造が混在する糖ペプチドを調製できることが示された。
【0173】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0174】
目的とするデザインされた糖ペプチドを簡便かつ効果的に製造することができる方法であり、医薬品、農薬、食品などの分野で、応用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0175】
配列番号1:PTTDSTTPAPTTK(EA2ペプチド)
配列番号2:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号3:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-Manが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号4:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にβ-Galが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号5:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号6:AHGVTSAPDTRPAPGSTAPP(MUC1ペプチド)
配列番号7:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号8:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にβ-Galが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号9:AHGVTSAPDTRPAPGST17APP([17位]にα-Fucが付加した合成MUC1ペプチド)
配列番号10:GTTPSPVPTTSTTSAP(MUC5ACペプチド)
配列番号11:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Manが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号12:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にβ-Galが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号13:GTTPSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Fucが付加した合成MUC5ACペプチド)
配列番号14:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド)
配列番号15:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-GalNAc、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1)
配列番号16:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-GalNAc、[2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1)
配列番号17:PTTDSTTPAPT11TK([11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1〜4)
配列番号18:PT2TDSTTPAPT11TK([2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図1、2および4)
配列番号19:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-GalNAc、[2位,11位]にα-Manが付加した合成EA2ペプチド;図2)
配列番号20:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にβ-Gal、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図3)
配列番号21:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Fuc、[11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図4)
配列番号22:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Fuc、[2位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図4)
配列番号23:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド;図5)
配列番号24:AHGVT5SAPDTRPAPGSTAPP([5位]にα-GalNAcが付加した合成MUC1ペプチド;図5〜7)
配列番号25:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にβ-Galが付加した合成MUC1ペプチド;図6)
配列番号26:AHGVT5SAPDTRPAPGST17APP([5位]にα-GalNAc、[17位]にα-Fucが付加した合成MUC1ペプチド;図7)
配列番号27:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-GalNAc、[3位]にα-Manが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号28:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Man、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号29:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Man、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8)
配列番号30:GTT3PSPVPTTSTTSAP([3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号31:GTT3PSPVPTTSTT13SAP([3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号32:GTT3PS5PVPTTSTT13SAP([3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図8〜10)
配列番号33:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にβ-Gal、[3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号34:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にβ-Gal、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号35:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にβ-Gal、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図9)
配列番号36:GTT3PSPVPT9TSTTSAP([9位]にα-Fuc、[3位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号37:GTT3PSPVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Fuc、[3位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号38:GTT3PS5PVPT9TSTT13SAP([9位]にα-Fuc、[3位,5位,13位]にα-GalNAcが付加した合成MUC5ACペプチド;図10)
配列番号39:PTTDSTT7PAPTTK([7位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号40:PTTDSTT7PAPT11TK([7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号41:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位,7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号42:PT2T3DSTT7PAPT11TK([2位,3位,7位,11位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図11)
配列番号43:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号44:PT2TDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[2位]にα-GalNAc、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号45:PT2TDSTTPAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[11位]にβ-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号46:PT2TDSTTPAPTTK([2位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図12)
配列番号47:PTTDSTT7PAPT11TK([7位]にα-Man、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号48:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[7位]にα-Man、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号49:PT2TDSTTPAPT11TK([2位]にα-GalNAc、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号50:PT2TDSTT7PAPT11TK([2位,7位]にα-GalNAc、[11位]にα-Fucが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号51:PT2TDSTT7PAPTTK([2位,7位]にα-GalNAcが付加した合成EA2ペプチド;図16)
配列番号52:AHGVTSAPDTRAHGVT16SAPD([16位]にα-Manが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号53:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-Man、[10位]にα-GalNAcが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号54:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-Man、[10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号55:AHGVTSAPDT10RAHGVTSAPD([10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
配列番号56:AHGVTSAPDT10RAHGVT16SAPD([16位]にα-GalNAc、[10位]にNeuAcα2-6GalNAcαが付加した合成MUC1ペプチド;図17)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、
少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【請求項2】
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシンから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記保護基は、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−GlcNAc、α−Fucおよびβ−GalNAc、ならびにこれらの複糖および修飾糖からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記修飾基は糖鎖であり、前記(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記保護基が糖鎖であり、前記(A)工程は化学合成法により行い、前記(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、前記(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記糖鎖は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンであって、前記糖加水分解酵素は、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記(B)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、該(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;
(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;
(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、
を包含する、
少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【請求項11】
前記(E)工程における修飾基と前記(G)工程における修飾基とは異なる修飾基である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記(E)工程および前記(G)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、それぞれ該(E)工程および該(G)工程の終わった後、それぞれ(E2)工程および(G2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項2〜9の特徴を少なくとも1つ有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
さらに、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法であって、請求項1または10に記載に方法を行う工程を包含する、方法。
【請求項16】
請求項1または10に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチド。
【請求項17】
請求項15に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチドのライブラリー。
【請求項1】
以下の工程:
(A)糖結合能を有するアミノ酸残基を2以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも1つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(B)(A)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(C)(B)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの保護基を脱保護する工程、を包含する、
少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基が該修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【請求項2】
前記糖結合能を有するアミノ酸残基は、アスパラギン、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジンおよびチロシンから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記保護基は、糖鎖、リン酸基および硫酸基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記保護基は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−GlcNAc、α−Fucおよびβ−GalNAc、ならびにこれらの複糖および修飾糖からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記修飾基は糖鎖であり、前記(B)工程は、糖転移酵素を用いて行うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記保護基が糖鎖であり、前記(A)工程は化学合成法により行い、前記(B)工程において糖転移酵素を用いて修飾基を結合させ、前記(C)工程において、糖加水分解酵素を用いて脱保護反応を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記糖鎖は、α−グルコース、β−グルコース、β−ガラクトース、α−マンノース、β−アセチルグルコサミン、α−フコース、β−アセチルガラクトサミンまたはガラクトシル−β1,3−N−アセチルガラクトサミンであって、前記糖加水分解酵素は、それぞれα−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼまたはO−グルコシダーゼである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記糖転移酵素は、β1,4−ガラクトース転移酵素、α−1,3−ガラクトース転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、β1,3−ガラクトース転移酵素、β1,6−ガラクトース転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α1,4−ガラクトース転移酵素、セラミドガラクトース転移酵素、α1,2−フコース転移酵素、α1,3−フコース転移酵素、α1,4−フコース転移酵素、α1,6−フコース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、α1,6−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,2−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,3−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,6−Nアセチルグルコサミン転移酵素、α1,4−Nアセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−マンノース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、α1,3−マンノース転移酵素、α1,4−マンノース転移酵素、α1,6−マンノース転移酵素、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素、α1,6−グルコサミン転移酵素、α1,6−キシロース転移酵素、βキシロース転移酵素(プロテオグリカンコア構造合成酵素)、β1,3−グルクロン酸転移酵素、ヒアルロン酸合成酵素;UDP-N−アセチルグルコサミン:ポリペプチドーN−アセチルグルコサミニル転移酵素、プロテインO−フコース転移酵素、プロテインO−マンノース転移酵素、プロテインO−グルコース転移酵素;O-フコシルペプチド3−βーアセチルグルコサミニル転移酵素;およびUDP−N−アセチルグルコサミン プロテインO−マンノースβ1,2−N−アセチルグルコサミニル転移酵素からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記(B)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、該(B)工程の終わった後、(B2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
(D)糖結合能を有するアミノ酸残基を3以上含む保護ペプチドを得る工程であって、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち少なくとも2つは、保護基により保護されており、該糖結合能を有するアミノ酸残基のうち別の少なくとも1つは保護されていない、工程;
(E)(D)工程で得られた保護ペプチドの、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;
(F)(E)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち1種を脱保護する工程;
(G)(F)工程で得られた修飾基を有する保護ペプチドの、保護されていない該糖結合能を有するアミノ酸残基から選択される少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程;および
(H)(G)で得られた修飾基を有する保護ペプチドの該保護基のうち(F)工程のものとは異なる別の一種を脱保護する工程、
を包含する、
少なくとも2つの糖結合能を有するアミノ酸残基が修飾基により修飾された修飾ペプチドの製造方法。
【請求項11】
前記(E)工程における修飾基と前記(G)工程における修飾基とは異なる修飾基である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記(E)工程および前記(G)工程は化学的方法により実施し、前記保護基および前記修飾基に水酸基がある場合、該水酸基は保護されており、それぞれ該(E)工程および該(G)工程の終わった後、それぞれ(E2)工程および(G2)工程として、該水酸基の保護基の脱保護工程を行う、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項2〜9の特徴を少なくとも1つ有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
さらに、保護されていない少なくとも1つの糖結合能を有するアミノ酸残基に、修飾基を結合させる工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
修飾基が結合したペプチドのライブラリーを生産する方法であって、請求項1または10に記載に方法を行う工程を包含する、方法。
【請求項16】
請求項1または10に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチド。
【請求項17】
請求項15に記載の方法によって生産される修飾基が結合したペプチドのライブラリー。
【図1−1】
【図1−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−167018(P2012−167018A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153026(P2009−153026)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度 文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 未来創薬・医療イノベーション拠点形成」委託研究,産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度 文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 未来創薬・医療イノベーション拠点形成」委託研究,産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】
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