糸状菌における機能性抗体の生産
糸状菌宿主細胞においてモノクローナル抗体を生産する方法を提供する。当該モノクローナル抗体は、機能性抗体結合能力及び抗体依存性細胞損傷能力を保持する全長融合タンパク質として発現する。また、成熟抗体を得るためのグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂における改善も提供する。糸状菌において産出された抗体は、哺乳類細胞において産出された抗体と等しい薬物動態学的性質を示すものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌からの免疫グロブリンの分泌の増大に関する。本発明は、当該免疫グロブリンを得るための融合核酸、ベクター、融合ポリペプチド、及び方法を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
大腸菌、酵母、及び糸状菌を含む多くの微生物において、融合ポリペプチドの生産が報告されている。例えば、ウシキモシン及びブタ膵臓プロホスホリパーゼA2が、いずれも、Aspergillus niger(黒色アスペルギルス)やAspergillus niger var.awamori(これまでは、アスペルギルス
アワモリとして知られていた)において、全長(full−length)グルコアミラーゼ(GAI)への融合体として生産されている(米国特許第5,679,543号;Wardら、Bio/technology、8巻、435−440頁、1990年;Robertsら、Gene、122巻、155−161頁、1992年)。ヒトインターロイキン6(hIL6)が、A.nidulansにおいて、全長A.nigerGAIへの融合体として生産されている(Contrerasら、Biotechnology、9巻、378−381頁、1991年)。ニワトリ卵白リゾチーム(Jeenesら、FEMS Microbiol.Lett.、107巻、267−272頁、1993年)及びヒトラクトフェリン(Wardら、Bio/technology、13巻、498−503頁、1995年)が、A.nigerにおいてグルコアミラーゼの残基1−498の融合体として生産され、及び、hIL6が、A.nigerにおいてグルコアミラーゼの残基1−514の融合体として生産されている(Broekhuijsenら、J.Biotechnol.、31巻、135−145頁、1993年)。上記のいくつかの実験(Contrerasら、1991年;Broekhuijsenら、1993年;Wardら、1995年)では、グルコアミラーゼと所望のポリペプチドとの間にKEX2プロテアーゼ認識部位(Lys、Arg)が挿入され、天然AspergillusKEX2様プロテアーゼ(これをKEXBと表す)の働きの結果として、融合蛋白質から所望のポリペプチドが生体内(in vivo)で放出される。
【0003】
さらに、ウシキモシンは、A.niger var.awamoriにおいて全長な天然アルファ−アミラーゼとの融合体として生産され(Kormanら、Curr.Genet.、17巻、203−212頁、1990年)、及び、A.oryzaeにおいてA.orizaeグルコアミラーゼの不完全型(trancated form)との融合体として生産されている(1−603又は1−511残基;TsuchiyaらBiosci.Biotech.Biochem.、58巻、895−899頁、1994年)。小さいタンパク質(表皮成長ホルモン;53アミノ酸)は、アスペルギルス属において当該タンパク質の3つの複製のタンデム融合体として生産されている(米国特許第5,218,093号)。N末端分泌シグナル配列の取り込みの結果、EGFの3量体が分泌される。しかしながら、当該EGF分子は、糸状菌によって効率的に分泌されたタンパク質とは更に融合せず、その後にモノマーEGFタンパク質を分離する方法も提供されていない。
【0004】
glaA遺伝子は、Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriの多くの菌株において発現したグルコアミラーゼをコード化する。当該遺伝子のプロモーター及び分泌シグナル配列を用いて、アスペルギルス属における異種遺伝子(例えば、上述のAspergillus nidulans及びAspergillus niger var.awamoriにおけるウシキモシン)が発現される(D.Cullenら、Bio/Technology、5巻、713−719頁、1987年、及び欧州特許公報第0215594号)。後者の実験では、プロキモシンcDNA、グルコアミラーゼ又はキモシン分泌シグナルのいずれか、及び1の態様では成熟グルコアミラーゼの第1の11コドンを含む、種々の構築物が得られている。A.awamoriから得られる分泌キモシンの最大収量は、50mlの振とうフラスコ培養で15ml/l以下であり、これは、pGRG3によりコード化されるキモシンシグナル配列を用いていられている。これらの既存の研究によって、プラスミドコピーの総数はキモシンの収量と相関性がないことが示唆される。大量のポリアデニル化キモシンmRNAが生産されており、分泌シグナルの原因に関わらず、キモシンの細胞内レベルは特定の形質転換体において高くなった。転写がキモシン生産における制限因子ではなかったが、分泌の効率が悪かったものと推論される。また、グルコアミラーゼの小さなアミノ末端断片(11アミノ酸)をプロキモシンのプロペプチドへ添加することによっては、成熟キモシンの活性化が回避できないことが明らかである。しかしながら、グルコアミラーゼの第1の11コドンによって得られた細胞外キモシンの量は、グルコアミラーゼシグナルのみを用いた場合に比べて大幅に少なかった。その後、全長グルコアミラーゼとプロキモシンよりなる融合タンパク質が生産された場合に、キモシンの生産が大きく増大することが実証されている(米国特許出願08/318,494;Wardら、Bio/technology、8巻、435−440頁、1990年)。
【0005】
Aspergillus nigerとAspergillus niger var.awamori(A.awamori)のグルコアミラーゼは、同一のアミノ酸配列を有している。当該グルコアミラーゼは、まずプレプログルコアミラーゼとして合成される。プレ領域とプロ領域は分泌工程の間に除去され、成熟グルコアミラーゼが外部培養液に放出される。培養液の上澄み中には、2つの形態の成熟グルコアミラーゼが見られる。すなわち、GAIは、その完全型(1−616のアミノ酸残基)であり、GAIIは、1−512のアミノ酸残基を含む天然のタンパク質分解ドメインである。GAIは、伸長リンカー領域によって連結される2つの別個のドメインとして折り畳まれていることが知られている。当該2つの別個のドメインは、471残基の触媒ドメイン(アミノ酸1−471)及び108残基のデンプン結合ドメイン(アミノ酸509−616)であり、リンカー領域は、36残基の長さ(アミノ酸472−508)である。GAIIには、デンプン結合ドメインが存在しない。これらのグルコアミラーゼの構造の詳細は、Libbyらによって総説されており(Protein Engineering、7巻、1109−114頁、1994年)、図2にも図示されている。
【0006】
Trichoderma reeseiは、伸長リンカー領域によって隔てられた2つの別個のドメイン(触媒及び結合ドメイン)に折り畳まれるいくつかのセルラーゼ酵素(例えば、セロビオヒドロラーゼ(CHBI))を生産する。異種(foreign)ポリペプチドが、CHBIの触媒ドメイン及びリンカー領域との融合体としてT.reeseiにおいて分泌される(Nyyssonenら、Bio/technology、11巻、591−595頁、1993年)。
【0007】
今日まで、抗体の生産は、トランスジェニック動物、哺乳類細胞培養、又は植物において行われてきた。これらの方法は、1以上の欠点を有する。例えば、トランスジェニック動物及び哺乳類細胞培養は、それぞれ、ウイルス又はその他の偶発的要因(例えば、プリオン)に汚染されるというリスクを有する。さらに、これらの生産システムにおける規模の拡大は制限される。遺伝子組換え植物では、組換えタンパク質の生産に約10ヶ月を要し、一方、哺乳類細胞培養では、約3ヶ月を要するであろう。従って、抗体生産のための新規な方法に対する需要が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、免疫グロブリンの生産のための核酸、細胞、及び方法を提供するものである。
【0009】
第1の態様では、機能性モノクローナル免疫グロブリンをコード化する核酸を提供する。1の側面では、第1、第2、第3、及び第4の核酸配列と作動可能に連結した制御配列を含む核酸を提供する。所望ならば、第4核酸配列の後にターミネーター配列が提供される。第2の側面において、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン鎖又はそれらの断片をコード化する。
【0010】
第3の側面では、免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む発現カセットを提供する。
【0011】
第2の態様では、機能性モノクローナル抗体の発現方法を提供する。1の側面において、宿主細胞は、(i)第1の免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む第1の発現カセットで形質転換され、(ii)第2の免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む第2の発現カセットで形質転換され、及び(iii)免疫グロブリン鎖を発現させるために適切な条件下で培養される。所望ならば、当該免疫グロブリン鎖を回収することができる。1の態様において、当該免疫グロブリン鎖は、融合タンパクとして発現する。当該発現した融合免疫グロブリン鎖は、その後、機能性抗体として会合し、分泌される。
【0012】
第3の態様では、免疫グロブリンを発現させることができる細胞を提供する。宿主細胞は、第1の免疫グロブリン鎖タイプ(例えば、重鎖又は軽鎖のいずれか)をコード化する第1の発現カセット、及び第2の免疫グロブリン鎖タイプ(例えば、重鎖又は軽鎖のいずれか)をコード化する第2の発現カセットという2つの発現カセットによって形質転換される。当該重鎖は、任意の免疫グロブリン類であることができる。
【0013】
第4の態様では、機能性モノクローナル免疫グロブリンを提供する。1の側面において、当該機能性モノクローナル抗体鎖は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び、成熟グルコアミラーゼのアミノ酸数502までのリンカー領域、その後のアミノ酸YKR及び成熟免疫グロブリン鎖を含む融合タンパク質として発現する。1の鎖は、重鎖又は軽鎖のいずれかであることができる。
【0014】
第2の側面では、十分に会合した抗体は、プロテアーゼで処理され、融合タンパク質から免疫グロブリンが解放される。第3の側面では、抗体は、脱グリコシル化酵素によって処理される。
【0015】
本発明におけるその他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明によって明確になるであろう。しかしながら、当該詳細な説明及び実施例は(本発明の好ましい実施態様を示すものではあるが)、例示の目的のみによって記載されるものである。また、当業者には、当該詳細な説明によって、本発明の範囲内における種々の変更及び改変が明確になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の発明者は、所望の抗体が、これまで他の発現系を用いた場合よりも高いレベルで、糸状菌において発現及び分泌し得ることを見出した。
【0017】
以下の定義及び実施例を用い、参照のみを目的として本発明を詳細に説明する。本明細書において言及される全ての特許及び文献(そのような特許及び文献中に開示される全ての配列を含む)は、引用により明示的に援用する。
【0018】
本明細書において特に別途定義しない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY、第2版、John Wiley and Sons、ニューヨーク(1994年)、及びHale&Marham、THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY、Harper Perennial、ニューヨーク(1991年)は、当業者にとって、本発明において用いられている多くの用語を収録する一般的な辞書である。本明細書に記載されるものと類似又は等価である任意の方法及び物質を、本発明の実施又は試験において用いることができるのではあるが、ここでは、好ましい方法及び物質について説明する。数値範囲には、当該範囲を規定する数字が含まれる。特に示さない限り、核酸は左から右に5’から3’の方向へ記載し、アミノ酸配列は、左から右にアミノ末端からカルボキシ末端の方向へ記載する。実施者は、当該技術分野における定義及び用語のためにSambrookら、1989年、及びAusubel FMら、1993年を特に対象にする。本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、手順、及び試薬に限定されるものではなく、変更可能なものである。
【0019】
本明細書における見出しは、明細書全体にわたる本発明の種々の側面及び実施態様を制限するものではない。従って、以下に定義する用語は、本明細書全体を参照することによってさらに明確に定義される。
【0020】
定義
本明細書において、“単離された”又は“精製された”という語は、天然に由来する少なくとも1の成分から除去された核酸、アミノ酸、及びポリペプチドについて用いられる。
【0021】
“発現カセット”及び“発現ベクター”という語は、標的細胞中において特定の核酸の転写を可能とする一連の特定核酸要素を用いて、組換え技術または合成により生産された核酸構築物について用いられる。当該組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、色素体DNA、ウイルス、又は核酸断片の中に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも特に、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。発現カセットは、DNA構築物及びその文法的均等物と同義的にもちいることができる。
【0022】
本明細書において、“ベクター”という語は、核酸配列を細胞中に移動させるために設計された核酸構築物について用いられる。“発現ベクター”という語は、異種DNA断片を外来細胞中に組み込み、発現させ得るベクターについて用いられる。多くの原核及び真核生物の発現ベクターが市販されている。適当な発現ベクターを選択することは当業者の知識の範囲内である。
【0023】
本明細書において、“プラスミド”という語は、クローニングベクターとして用られる環状二本鎖(ds)DNA構築物について用いられ、これは、真核生物内で染色体外自己複製遺伝子要素を形成する。
【0024】
“核酸分子”及び“核酸配列”という語には、RNA、DNA、及びcDNA分子が含まれる。遺伝子コードの縮退の結果として、所定のタンパク質をコード化する多数のヌクレオチド配列が生産され得ることが理解できるであろう。
【0025】
本明細書において、“融合DNA配列”は、5’から3’の第1、第2、第3、及び第4のDNA配列を含む。
【0026】
本明細書において、“第1核酸配列”又は“第1DNA配列”は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチドをコード化する。そのようなシグナル配列には、Aspergillus niger var.awamori、Aspergillus niger、Aspergillus oryzaeからのグルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、及びアスパルチルプロテアーゼに由来するシグナル配列、TrichodermaからのセロビオヒドロラーゼI、セロビオヒドロラーゼII、エンドグルカナーゼI、エンドグルカナーゼIIIに由来するシグナル配列、Neurospora及びHumicolaからのグルコアミラーゼに由来するシグナル配列、及び、真核生物に由来するシグナル配列(例えば、ウシキモシン、ヒト組織プラスミノゲン活性化因子、ヒトインターフェロンに由来するシグナル配列)、及び、合成コンセンサス(consensus)真核生物シグナル配列(例えば、Gwynneら、Bio/Technology、5巻、713−719頁、1987年、に記載されている)を含む。特に好ましいシグナル配列は、融合タンパク質の発現及び分泌に用いられる発現宿主によって分泌されたポリペプチドに由来するものである。例えば、Aspergillus nigerからの融合ペプチドを発現及び分泌させる場合には、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼに由来するシグナル配列が好ましい。本明細書において、第1アミノ酸配列は、糸状菌において機能する分泌配列に対応する。そのようなアミノ酸配列は、上記の第1DNA配列によってコード化される。
【0027】
本明細書において、“第2DNA配列”は、糸状菌から正常に発現される“分泌ポリペプチド”をコード化する。当該分泌ポリペプチドには、Aspergillus niger var.awamori、Aspergillus niger、及びAspergillus oryzaeからのグルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、及びアスパルチルプロテアーゼ、TrichodermaからのセロビオヒドロラーゼI、セロビオヒドロラーゼII、エンドグルカナーゼI、エンドグルカナーゼIII、及び、Neurospora種及びHumicola種からのグルコアミラーゼが含まれる。第1DNA配列の場合と同様に、好ましい分泌ポリペプチドは、糸状菌の発現宿主によって天然に分泌されるものである。従って、例えば、Aspergillus nigerを用いる場合には、好ましい分泌ポリペプチドは、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼ及びα−アミラーゼであり、最も好ましくはグルコアミラーゼである。1の側面では、当該グルコアミラーゼは、アスペルギルスグルコアミラーゼと95%、96%、97%、98%、又は99%より高い相同性である。
【0028】
アスペルギルスグルコアミラーゼが、第2DNA配列によってコード化された分泌ポリペプチドである場合、当該タンパク質の全体又は部分を用いることができる(所望ならば、プロ配列を含む)。従って、開裂可能なリンカーポリペプチドは、位置468−509の任意のアミノ酸残基においてグルコアミラーゼと融合することができる。その他のアミノ酸残基も融合部位となることができるが、上記の残基を利用するのが特に有益である。
【0029】
“分泌ポリペプチドの機能性部分”又は文法的均等物という語は、(短小化されているにもかかわらず)正常の立体配置に折り畳まれる機能を維持している短小化(truncated)分泌ポリペプチドを意味する。例えば、A.niger var.awamoriにより生産されるウシキモシンの場合、成熟グルコアミラーゼの11番目のアミノ酸の後におけるプロキモシンの融合は、プレプロキモシンの生産に比べ有益ではないことが明らかとなっている(米国特許第5,364,770号)。米国特許出願08/318,494では、成熟グルコアミラーゼのアミノ酸1−11の繰り返しと成熟グルコアミラーゼの297番目のアミノ酸までのプレプログルコアミラーゼのC末端におけるプロキモシンの融合において、A.niger var.awamoriで分泌キモシンが生成しないことが明らかとなっている。後者の場合、融合タンパク質に存在するグルコアミラーゼ触媒ドメインの一部(約63%)が正常に折り畳まれることができ、細胞によって分泌されない異常な、ミスフォールドの、及び/又は不安定な融合タンパク質が生産され得るとは考え難い。部分的触媒ドメインが正常に折り畳まれないのは、連結したキモシンの折り畳みを妨害するであろう。従って、天然に分泌されたポリペプチドのドメインにおける十分な残基が存在し、それにより、連結した所望のポリペプチドとは無関係に、正常な立体配置に折り畳まれることができると考えられる。
【0030】
ほとんどの場合、分泌ポリペプチドの部分は、正常に折り畳まれ、かつ、それがない場合よりも分泌を増大させるであろう。
【0031】
同様に、ほとんどの場合、分泌ポリペプチドの短小化(truncation)は、上記機能性部分が生物学的機能を保持することを意味する。好ましい実施態様では、分泌ポリペプチドの触媒ドメインは用いられるが、その他の機能性ドメイン(例えば、基質結合ドメイン)を用いることもできる。Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriの場合、好ましい機能性部分は、酵素の触媒部分を保持し、1−471のアミノ酸を含む。さらに、好ましい実施態様は、触媒ドメイン、及びリンカー領域の全部又は一部を活用するものである。或いは、グルコアミラーゼのデンプン結合ドメインを用いることができ、これは、Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriのグルコアミラーゼの509−616のアミノ酸を含む。
【0032】
本明細書において、“第3DNA配列”は、開裂可能リンカーポリペプチドをコード化するDNA配列を含む。そのような配列には、ウシキモシンのプロ配列、スブチリシンのプロ配列、レトロウイルスプロテアーゼ(例えば、ヒト免疫不全ウイルスプロテアーゼ)のプロ配列をコード化する配列、及び、トリプシン、ファクターXaコラゲナーゼ、クロストリパイン、スブチリシン、キモシン、酵母KEX2プロテアーゼ、アスパルギルスKEXB等により認識及び開裂されるアミノ酸をコード化するDNA配列が含まれる。例えば、F.A.O. Marston、Biol.Chem.J.、240巻、1−12頁(1987年)を参照されたい。また、当該第3DNA配列は、臭化シアンによって選択的に開裂され得るアミノ酸メチオニンをコード化することもできる。当該第3DNA配列は、融合タンパク質の開裂をもたらす特定の酵素又は化学物質によって認識される必要があるアミノ酸配列をコード化しさえすればよいことを理解すべきである。従って、(例えば)キモシン又はスブチリシンの全プロ配列を用いる必要はない。むしろ、適切な酵素による認識及び開裂に必要なプロ配列の一部があればよい。
【0033】
当該第3DNA配列は、融合タンパク質の開裂をもたらす特定の酵素又は化学物質によって認識される必要があるアミノ酸配列をコード化しさえすればよいことを理解すべきである。
【0034】
特に好ましい開裂リンカーは、KEX2プロテアーゼ認識部位(Lys−Arg)であり、これは、天然アスペルギルスKEX2様(KEXB)プロテアーゼ、Lys及びArgのトリプシンプロテアーゼ認識部位、及びエンドプロテイナーゼ−Lys−Cの開裂認識部位によって開裂することができる。
【0035】
本明細書において、“第4DNA配列”は、“所望のポリペプチド”をコード化する。当該所望のポリペプチドには、哺乳類免疫グロブリン鎖が含まれる。免疫グロブリンには、そこから大量に生産するのが望ましい任意の種からの抗体が含まれる(ただし、これに限定されるものではない)。当該抗体がヒト抗体であるのが特に好ましい。免疫グロブリンは、任意の属(すなわち、G、A、M、E、又はD)に由来するものであることができる。別の側面では、当該抗体はモノクローナルである。当該抗体鎖は、重鎖又は軽鎖のいずれかであることができる。“免疫グロブリン”及び“抗体”という語は、本明細書においては同義語的に用いられる。
【0036】
対応する4つのアミノ酸配列をコード化する上記4つのDNA配列は、結合して“融合DNA配列”を形成する。当該融合DNA配列は、5’末端から3’末端に第1、第2、第3、及び第4DNA配列の順で固有のリーディングフレーム(reading frame)に会合する。そのように会合することによって、当該DNA配列は、糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチド、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの一部、開裂可能なリンカーポリペプチド、及び所望のポリペプチドをアミノ末端からコード化する“融合ポリペプチド”又は“融合タンパク質”をコード化する。
【0037】
本明細書において、“プロモーター配列”は、発現のための特定の糸状菌によって認識されるDNA配列である。それは、上記で定義される融合ポリペプチドをコード化するDNA配列に作動可能に連結する。そのような連結には、融合DNA配列をコード化するDNA配列の翻訳開始コドンに関するプロモーターの位置決め(positioning)が含まれる。当該プロモーター配列は、融合DNA配列の発現を媒介する転写及び翻訳制御配列を含む。それらの例には、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、Rhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子、Trichoderma reeseiのセロビオヒドロラーゼI遺伝子(S.P.Shoemakerら、欧州特許出願EPO 0137280A1、1984年)、A.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.nidulans alcA遺伝子(R.A.Lockingtonら、Gene、33巻、137−149頁、1986年)、A.nidulans amdS遺伝子(G.L.McKnightら、Cell、46巻、143−147頁、1986年)、A.nidulans amdS遺伝子(M.J.Hynesら、Mol.Cell.Biol.、3巻、1430−1439頁、1983年)等の遺伝子からのプロモーター、及び、SV40初期プロモーターなどの高等真核生物のプロモーター(S.L.Barclay及びE.Meller、Molecular and Cellular Biology、3巻、2117−2130頁、1983年)が含まれる。
【0038】
同様に、“ターミネーター配列”は、発現宿主によって認識されて転写を終結させるDNA配列である。それは、発現する融合ポリペプチドをコード化する融合DNAの3’末端に作動可能に連結する。それらの例には、A.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子(EPO公報第0215594号)のターミネーターが含まれる。ただし、任意の真菌性(fungal)ターミネーターが、本発明において機能性であるであろう。
【0039】
“ポリアデニル化配列”は、転写される際に、発現宿主によって認識され、転写されたmRNAにポリアデノシン残基を付加するDNA配列である。それは、発現する融合ポリペプチドをコード化する融合DNAの3’末端に作動可能に連結する。それらの例には、上述のA.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子(EPO公報第0215594号)のポリアデニル化配列が含まれる。ただし、任意の真菌性ポリアデニル化配列が、本発明において機能性であるであろう。
【0040】
本明細書において、“選択マーカーコード化ヌクレオチド配列”という語は、真菌細胞中で発現できるヌクレオチド配列であって、当該選択マーカーの発現により、対応選択試薬の存在下において当該発現遺伝子を含む細胞が成長することが可能とするヌクレオチド配列について用いられる。
【0041】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係で位置する場合に“作動可能に連結する”という。例えば、分泌リーダー(secretion leader)をコード化するDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合に、当該ポリペプチドについてのDNAに作動可能に連結し;プロモータ又はエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合に、コード配列に作動可能に連結し;或いは、リボソーム結合部位は、翻訳を促進する位置に存在する場合に、コード配列に作動可能に連結するという。一般に、“作動可能に連結”とは、結合するDNA配列が隣接することを意味し、分泌リーダーの場合には、隣接しかつリーディング・フェイス(reading phase)中にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、適宜の制限部位における連結反応(ligation)により達成される。そのような部位が存在しない場合には、従来法に従って合成オリゴヌクレオチド・アダプタが用いられる。
【0042】
本明細書において、“組換え体”という語には、異種核酸配列の導入により修飾された、又はそのように修飾された細胞由来の細胞である、細胞またはベクターについても用いられる。従って、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)型の細胞内に同一の形態では見られない遺伝子を発現し、或いは意図的な人間の介入の結果として発現しようがまたは全く発現されまいが、それがなければ異常発現する天然型遺伝子を発現する。
【0043】
本明細書において、“発現”という語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生産される工程をいう。当該工程には、転写及び翻訳の両方が含まれる。従って、“Ig鎖発現”という語は、発現される特異的Ig鎖の転写及び翻訳について用いられ、その生産物には、前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、転写後処理ポリペプチド、及びそれらの誘導体が含まれる。同様に、“Ig発現”という語は、Ig鎖の図1で表される形態への転写、翻訳、及び会合について用いられる。免疫グロブリンの発現の検出方法には、例えば、適切な条件に暴露された真菌コロニーの検査、Igタンパク質のウェスタンブロット法、さらには、免疫グロブリンmRNAのノーザンブロット分析及び逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイが含まれる。
【0044】
本明細書において、“グリコシル化”という語は、タンパク質上の特定のアミノ酸残基にオリゴ糖分子が付加されることを意味する。“脱グリコシル化”タンパク質は、タンパク質からオリゴ糖分子は部分的に又は完全に除去されるように処理されたタンパク質をいう。“アグリコシル化(aglycosylated)”タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を未だ有していないタンパク質をいう。このタンパク質は、オリゴ糖の付加を回避するタンパク質における変異に起因し得る。
【0045】
“非グリコシル化”タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を有していないタンパク質をいう。このタンパク質は、種々の理由、例えば、タンパク質へのオリゴ糖の付加に関与する酵素の不存在に起因し得る(ただし、これに限定されるものではない)。“非グリコシル化”という語には、タンパク質に付加されるオリゴ糖を未だ有していないタンパク質、及び、一旦オリゴ糖が付加されたが、その後除去されたタンパク質の両方が包含される。“アグリコシル化”タンパク質は、“非グリコシル化”タンパク質である場合がある。“非グリコシル化”タンパク質は、“アグリコシル化”タンパク質又は“脱グリコシル化”タンパク質のいずれかであることができる。
【0046】
融合タンパク質
対応する4つのアミノ酸配列をコード化する上記4つのDNA配列は、結合して“融合DNA配列”を形成する。当該融合DNA配列は、5’末端から3’末端に第1、第2、第3、及び第4DNA配列の順で固有のリーディングフレーム(reading frame)に会合する。そのように会合することによって、当該DNA配列は、糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチド、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの一部、開裂可能なリンカーポリペプチド、及び所望のポリペプチド(例えば、免疫グロブリン鎖)をアミノ末端からコード化する“融合ポリペプチド”をコード化する。
【0047】
抗体は、1の軽鎖と1の重鎖という2種類の鎖により形成される。特定の抗原に対する特異性とは無関係に、抗体の基本的構造は同じである。いずれの抗体も、2つの異なる種類の4つのポリペプチド鎖を含む。当該鎖は、重鎖(50−70kDaのサイズ)及び軽鎖(25kDa)と呼ばれる。2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖は、それぞれ鎖間(interchain)ジスルフィド結合を介して連結し、抗体モノマーを形成する(図1)。また、当該鎖間ジスルフィド結合に加えて、重鎖及び軽鎖の両方に鎖内(intrachain)ジスルフィド結合も存在する。種々のタイプの重鎖及び軽鎖が確認されている。重鎖は、γ、μ、α、δ、又はεクラスであることができ、これらは、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEという分類の免疫グロブリンを形成する。これらの分類には下位分類(sub−class)が存在し、例えば、ヒトでは、それぞれ、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を形成するγ重鎖の4つの下位分類γ1、γ2、γ3、及びγ4が存在する。軽鎖は、λ又はκ型であることができるが、これは、免疫グロブリンの分類及び下位分類には影響しない。従って、ヒトIgG1分子は、2つの同一のγ1重鎖を含み、当該重鎖はλ又はκ型であることができる2つの同一の軽鎖と連結している(すなわち、IgG1λ又はIgG1κ)。
【0048】
重鎖は、別個の構造ドメインに分けることができる。例えば、γ重鎖は、アミノ末端から、可変領域(VH)、定常領域(CH1)、ヒンジ領域、第2定常領域(CH2)、及び第3定常領域(CH3)を含む。軽鎖は、構造的に2つのドメイン、すなわち、可変領域(VL)及び定常領域(CL)に分けることができる。重鎖が短小化されて特定の定常領域が除去された形状の抗体を、プロテアーゼ消化又は組換えDNAの方法論によって発生させることができる。例えば、IgGのFab断片(図1)は、ヒンジ領域とCH2及びCH3ドメインがない重鎖(Fd)の形状を有し、一方、IgGのFab’断片(図1)は、ヒンジ領域を含むがCH2及びCH3ドメインがない重鎖(Fd’)の形状を有する。
【0049】
それぞれの鎖は、宿主真菌細胞によって融合タンパク質として発現する。当該鎖が会合して、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む完全な抗体となる。
【0050】
融合ポリペプチドを開裂させて所望の抗体を放出することが有用な場合があるが、必須のものではない。融合タンパク質として発現及び分泌された抗体は、驚くべきことに、会合してその抗原結合機能を保持する。
【0051】
組換え免疫グロブリン及び免疫グロブリン断片の発現
本発明は、lgコード化核酸配列を含む発現ベクターによって形質導入、形質転換、又は形質移入された糸状菌宿主細胞を提供する。培養条件(例えば、温度、pHなど)は、形質導入、形質転換、又は形質移入の前の親宿主細胞に用いられている条件であり、当該技術分野における当業者には明らかであろう。
【0052】
1つのアプローチでは、糸状菌細胞株は、Ig鎖及び十分に会合したIgを当該細胞株中で発現するようにIg鎖をコード化する核酸配列に作動可能に連結した、プロモーター又は生物学的に活性なプロモーター、或いは宿主細胞株において機能する1以上の(例えば、一連の)エンハンサーを有する発現ベクターによって形質移入される。好ましい実施態様では、当該DNA配列はIgコード化配列をコード化する。別の好ましい実施態様では、前記プロモーターは制御可能なものである。
【0053】
A.核酸構築物/発現ベクター
免疫グロブリンをコード化する天然又は合成ポリヌクレオチド断片(“免疫グロブリンコード化核酸配列”)は、糸状菌細胞中に導入可能な及びそこで複製可能な異種核酸構築物又はベクター中に取り込まれることができる。本明細書に開示するベクター及び方法は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子を発現させるための宿主細胞における使用に適切なものである。それが導入される細胞において複製可能でありかつ生存可能である限り、任意のベクターを用いることができる。多数の適切なベクター及びプロモーターが、当該技術分野における当業者には公知であり、市販されている。また、糸状菌細胞における使用に適切なクローニングベクター及び発現ベクターが、Sambrookら、1989年、及びAusubel FMら、1989年、において記載されている(それらは、明示的に引用により本明細書中に取り込まれる)。適切なDNA配列は、種々の手法により、プラスミド又はベクター(本明細書では、まとめて“ベクター”という)中に挿入することができる。一般には、当該DNA配列は、標準的な手法により、適切な制限エンドヌクレアー部位に挿入される。そのような手法及び関連するサブクローニングの手法は、当該技術分野における技術常識の範囲内であるとみなされる。
【0054】
適切なベクターは、典型的には、選択マーカーコード化核酸配列、挿入部位、及び適切な調節因子(例えば、終結配列)を有する。当該ベクターは、例えば、イントロン及び調節因子などの非コード配列調節配列(すなわち、プロモーター及びターミネーター要素、又は、5’及び/又は3’の非翻訳領域)を含む調節配列を含むことができる。これらは、宿主細胞(及び/又は、修飾された溶解性タンパク質抗原コーディング配列が通常は発現しないベクター又は宿主細胞環境)におけるコーディング配列の発現に効果的であり、コーディング配列に作動可能に連結する。多数の適切なベクター及びプロモーターは、当該技術分野における当業者には公知であり、その多くは、市販されており及び/又は上述のSambrookらの文献に記載されている。
【0055】
典型的なプロモーターには、構成的プロモーター及び誘導性プロモーターの両方が含まれる。それらの例には、CMVプロモーター、SV40初期プロモーター、RSVプロモーター、EF−1αプロモーター、上述のtet−on又はtet−off系にtet反応性因子(TRE)を有するプロモーター、ベータアクチンプロモーター、及び特定の金属塩の添加によって上方制御され得るメタロチオネインプロモーターが含まれる。本発明の好ましい実施態様では、glaAプロモーターが用いられる。このプロモーターは、マルトースの存在下において誘導される。上記プロモーターは、当該技術分野における当業者に周知である。
【0056】
固有の選択マーカーの選択は宿主細胞に依存し、種々の宿主に対する適切なマーカーは当該技術分野において周知である。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えば、アンピシリン、メトトレキサート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southern及びJ.Berg、1982年)、マイコフェノール酸、(Mulligan及びBerg、1980年)、ピューロマイシン、ゼオマイシン、又はヒグロマイシン(Sugdenら、1985年)に対する耐性をもたらすタンパク質、又は(b)宿主株における栄養要求性変異又は自然発生栄養欠乏をもたらすタンパク質をコード化する。好ましい実施態様では、真菌pyrG遺伝子が好ましい選択マーカーとして用いられる(D.J.Ballanceら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、112巻、284−289頁、1983年)。別の好ましい実施態様では、真菌amdS遺伝子が選択マーカーとして用いられる(J.Tilburnら、Gene、26巻、205−221頁、1983年)。
【0057】
選択された免疫グロブリンコード配列じゃ、周知の組換え技術によって適切なベクターに挿入され、及び免疫グロブリンを発現し得る細胞株を形質転換するために用いることができる。遺伝子コードの先天的な縮重により、実質的に同一の又は機能的に等価なアミノ酸配列をコード化する素の他の核酸配列を用いて、上述のように特定の免疫グロブリンをクローン化及び発現させることができる。それゆえ、当然ながら、コード領域におけるそのような置換は、本発明に含まれる配列変異体に該当する。任意の及び全ての当該配列変異体は、親免疫グロブリンコード化核酸配列について本明細書で説明した手法と同じ手法で用いることができる。当該技術分野における当業者であれば、異なる免疫グロブリンが異なる核酸配列によってコード化されることを認識できるであろう。
【0058】
いったん所望の形態の免疫グロブリン核酸配列、相同体、変異体、又はそれらの断片が得られると、それらは種々の手法で修飾することができる。当該配列が非コードフランキング領域を含む場合、当該フランキング領域は、切除(resection)、突然変異誘発などで処理することができる。従って、自然発生配列において、転位、トランスバージョン、欠失、及び挿入を行うことができる。
【0059】
異種核酸構築物は、免疫グロブリンに対するコード配列、それらの変異体、断片又はスプライスが含むことができ、それは、(i)単独の;(ii)更なるコード配列、例えば、融合タンパク又はシグナルペプチドコード配列と組合せた(ここで、当該免疫グロブリンは優性のコード配列である);(iii)適切な宿主におけるコード配列の発現に効果的な非コード配列、例えば、イントロン及び調節因子(例えば、プロモーター、ターミネーター、又は、5’及び/又は3’非翻訳領域)と組合せた;及び/又は、(iv)免疫グロブリンコード配列が異種遺伝子であるベクター又は宿主細胞環境におけるものであることができる。
【0060】
適切なプロモーター及び調節配列と共に、上述の適切な核酸コード配列を有する異種核酸を用いて、糸状菌を形質転換することができ、それにより、細胞が免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリンを発現することができる。
【0061】
本発明の1の側面では、異種核酸構築物を用いることによって、好ましい樹立細胞系により免疫グロブリンコード化核酸配列を生体外の細胞に移行される。好ましくは、生産宿主として用いられる細胞株は、安定に組込まれた本発明の核酸配列を有する。従って、安定な形質転換体の発生に効果的に任意の方法を、本発明の実施において用いることができる。本発明の1の側面において、第1及び第2の発現カセットは、単一のベクター又は別個のベクター中に存在することができる。
【0062】
本発明の実施では、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学における慣用技術を用いることができ、それらは、当該技術分野における技術の範囲内である。当該技術は、文献において十分に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”、第2版(Sambrook、Fritsch&Maniatis、1989年);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney編集、1987年);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubelら編集、1987年);及び、“Current Protocols in Immunology”(J.E.Coliganら編集、1991年)を参照されたい。上記及び下記に言及する全ての特許、特許出願、論文、出版物は、引用により本明細書中に明示的に引用される。
【0063】
B.宿主細胞及び培養条件
本発明は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子を発現させるために効果的な態様で修飾、選択、及び培養された細胞を含む細胞株を提供する。
【0064】
免疫グロブリンの発現のために処理及び/及び又は修飾され得る親細胞株の例には、糸状菌細胞が含まれる(ただし、これに限定されるものではない)。本発明の実施において適切な初代(primary)細胞タイプの例には、アスペルギルス属及びトリコデルマ属が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。
【0065】
免疫グロブリン発現細胞は、親細胞株の培養に通常用いられる条件下で培養される。一般に、細胞は、生理的塩及び栄養分を含有する標準的な培養液、例えば、5−10%の血清()ウシ胎仔血清が補充された標準RPMAI、MEM、IMEM、又はDMEMにおいて培養される。培養条件もまた、標準的なものであり、例えば、培養液は、所望のレベルの免疫グロブリンが発現するまで、静置培養又は回転培養で37℃においてインキュベートされる。
【0066】
所定の細胞株に対する好ましい培養条件は、化学文献及び/又は細胞株の供給源(例えば、米国菌培養収集所(ATCC;http://www.atcc.org/))から知ることができる。典型的には、細胞の成長が達成された後、当該細胞は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子の発現をもたらし又は阻害するために効果的な条件に曝露される。
【0067】
好ましい実施態様において、免疫グロブリンコード配列が誘導性プロモーターの制御下にある場合、誘発剤(例えば、炭水化物、金属塩、又は抗生物質)が、免疫グロブリンの発現を誘発するために効果的な濃度で培養液に添加される。
【0068】
C.宿主細胞への免疫グロブリンコード化核酸配列の導入
本発明は、さらに、外因的に提供された免疫グロブリンコード化核酸配列を含むように遺伝子組換えされた細胞及び細胞構成物を提供する。親の細胞又は細胞株は、クローニングベクター又は発現ベクターによって遺伝子組換え(すなわち、形質導入、形質転換、又は形質移入)され得る。当該ベクターは、例えば、上述したようにプラスミド、ウイルス粒子、ファージ等の形態であることができる。好ましい実施態様では、プラスミドを用いて、糸状菌が形質移入される。形質転換は、逐次形質転換又は同時形質転換であることができる。
【0069】
種々の方法を用いて、生体外の細胞に発現ベクターを運搬することができる。異種核酸配列の発現のために核酸を細胞中に導入する方法は、当該技術分野における当業者には公知であり、それらには例えば、エレクトロポレーション;核酸の顕微注入又は単細胞への直接顕微注入;無傷細胞による細菌性原形質融合;ポリカチオン(例えば、ポリブレン又はポリオルニチン)の使用;リポソーム、リポフェクタミン、又はリポフェクション媒介形質移入による膜融合;DNAをコーティングしたマイクロプロジェクタイルによる高速照射(bombardment);リン酸カルシウム−DNA沈殿物による培養;DEAE−Dextranによる形質移入;修飾ウイルス核酸による感染;アグロバクテリウムによるDNAの転移(transfer)などが含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。さらに、免疫グロブリンコード化核酸配列を含む異種核酸構築物を生体外で転写することができ、得られたRNAを周知の方法(例えば、注入)によって宿主細胞に導入することができる。
【0070】
免疫グロブリン鎖に対するコード配列を含む異種核酸構築物の導入の後、当該遺伝子組換え細胞は、プロモーターを活性化し、形質転換体を選択し、又は免疫グロブリンコード化核酸配列の発現を増幅させるために適切なように修正された慣用的な栄養培地において培養することができる。温度、pH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞において用いられた条件であり、当該技術分野における当業者には明らかであろう。
【0071】
上記異種核酸構築物が導入された細胞の子孫は、通常、当該異種核酸構築物中に見られる免疫グロブリンコード化核酸配列を含むものとみなされる。
【0072】
真菌の発現
適切な宿主細胞には、糸状菌細胞が含まれる。発現宿主として、また第1及び第2核酸の源としての役割を果たす本発明の“糸状菌”は、真核微生物であり、Eumycotinaの一部である全ての線状体が含まれる(C.J.Alexopoulus、Introductory Mycology、New York:Wiley、1962年)。これらの糸状菌は、キチン、グルカン、及びその他の複合多糖類よりなる細胞壁を有する栄養菌糸体によって、特徴付けられる。本発明の糸状菌は、形態学的に、生理学的に、及び遺伝学的に酵母とは区別される。糸状菌による栄養成長は、菌糸伸長によるものである。対照的に、酵母(例えば、S.セレビシェ)による栄養成長は、単細胞性葉状体の出芽によるものである。S.セレビシェと糸状菌の相違点は、例えば、S.セレビシェが、アスペルギルス及びトリコデルマのイントロンを処理する能力がないこと、及び糸状菌の多くの転写制御因子を認識する能力がないことである(M.A.Innisら、Science、228巻、21−26頁、1985年)。
【0073】
種々の糸状菌を発現宿主として用いることができる。それらには、例えば、以下の属:アスペルギルス属、トリコデルマ属、アカパンカビ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、セファロスポリウム属(Cephalosporium)、アクリア属(Achlya)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、ポドスポラ属(Podospora)、エンダチア属(Endothia)、ムコール属(Mucor)、フザリウム属(Fusarium)、フミコーラ属(Humicola)、及びクリソスポリウム属(Chrysosporium)が含まれる。特異的発現宿主には、A.nidulans(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年;M.A.John及びJ.F.Peberdy、Enzyme Microb.Technol.、6巻、386−389頁、1984年;Tiburnら、Gene、26巻、205−221頁、1982年;D.J.Ballanceら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、112巻、284−289頁、1983年;I.L.Johnstonら、EMBO J.、4巻、1307−1311頁、1985年)、A.niger(J.M.Kelly及びM.Hynes、EMBO、4巻、475−479、1985年)、A.niger var.awamori(例えば、NRRL
3112、ATCC 22342、ATCC 44733、ATCC 14331、及び菌株UVK 143f)、A.oryzae(例えば、ATCC 11490)、N.crassa(M.E.Caseら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76巻、5259−5263頁、1979年;Lambowitz、米国特許第4,486,553号;J.A.Kinsey及びJ.A.Rambosek、Molecular and Cellular Biology、4巻、117−122、1984年;J.H.Bull及びJ.C.Wooton、Nature、310巻、701−704頁、1984年)、Tricoderma reesei(例えば、NRRL
15709、ATCC 13631、56764、56765、56466、56767)、及びTricoderma viride(例えば、ATCC 32098及び32086)が含まれる。好ましい発現宿主は、主要な分泌アスパルチルプロテアーゼをコード化する遺伝子が欠失したA.niger var.awamoriである。当該好ましい発現宿主の生産は、1988年7月1日に出願された米国特許出願第214,237号に記載されており、これは、引用により明示的に本明細書中に援用される。
【0074】
真菌(真核生物)における分泌工程において、分泌タンパク質は、細胞質から小胞体へ膜を横切る。ここで、タンパク質が折り畳まれ、ジスルフィド結合が形成される。シャペロンタンパク質(例えば、BiP、及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素のようなタンパク質)が、この段階に関与する。また、この段階において、糖鎖がタンパク質に連結し、グリコシル化タンパク質が生産される。典型的には、糖は、N−連結グリコシル化としてアスパラギン残基に付加され、又は、O−連結グリコシル化としてセリン又はトレオニンに付加される。抗体は、ERにおいて会合することが知られている。哺乳類細胞では、重鎖は、ERへの侵入時にBiPとすぐに結合し、又は、軽鎖と結合するまで放出されない。正常に折り畳まれ、グリコシル化されたタンパク質は、ERから、糖鎖が修飾され及び酵母又は真菌のKEX2又はKEXBプロテアーゼが存在するゴルジ体に運ばれる。真菌で生産された分泌タンパク質に付加されたN−連結グリコシル化は、哺乳類細胞による付加される場合とは異なる。
【0075】
糸状菌宿主細胞によって生産される抗体は、グリコシル化されるたものか、又は非グリコシル化(すなわち、アグリコシル化又は脱グリコシル化)されたものであることができる。真菌のグリコシル化パターンは哺乳類細胞で生産されたものとは異なるので、当該抗体は、酵素で処理されて、脱グリコシル化され得る。そのような脱グリコシル化において有用な酵素は、エンドグリコシダーゼH、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼA、PNGase F、PNGase A、及びPNGase Atである。
【0076】
本発明では、驚くべきことに、重鎖及び軽鎖の両方が天然分泌タンパク質に融合される場合に、完全な長さの会合抗体が高レベルで真菌中で生産され得ることを見出した。上述の記載から、グルコアミラーゼがそれぞれ4つの鎖のN末端に連結したままの場合には、当該抗体は、ERにおいて会合すると推測されることが明らかである。これにより、350kDより多い、非常に大きく複雑な会合タンパク質が生産されるであろう。グルコアミラーゼは、会合錯体がゴルジ体に輸送されるまでは、当該抗体から開裂されないものと推測されるであろう。
【0077】
本発明の方法及び宿主細胞を用いることにより、非常に高レベルの発現を達成することができた。微生物系、例えば、Escherichia coli又は酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシェ又はPichia pastoris)における抗体生産についての報告の大部分は、抗体断片(例えば、Fab断片)の生産又は1本鎖形態の抗体(例えば、ScFv)の生産を伴うものである(R.Vermaら、J.immunological Methods、216巻、165−181頁、1998年;C.A.Pennell及びP.Eldin、Res.Immunol.、149巻、599−603頁、1998年)。サッカロマイセス・セレビシェでは、低いレベルの全長抗体しか生産及び分泌されない。ある研究では、100ng/mlの軽鎖及び50−80ng/mlの重鎖が培養液の上澄みにおいて検出され、当該重鎖の約50−70%が軽鎖と結合していた(A.H.Horwitzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1988年)。正常に会合した全長抗体が、酵母であるPichia pastorisにおいて生産されている(WO 00/23579)。しかしながら、報告されている最も高い収率は、36mg/lであった。
【0078】
一方、本明細書で用いられる系では、0.5g/lの全長抗体の発現及び分泌レベルが達成された。1g/lより多い抗体が、発酵培養液から回収できることが判明した。1.5g/lのレベルが、再現性をもって達成された。最適な条件下では、全長抗体について2乃至3g/l程度の発現及び/又は分泌レベルを得ることができる。当該抗体は、融合タンパク質として分泌されるが、本明細書において示される抗体のレベルは、グルコアミラーゼについて較正したものである。従って、抗体を含む生成タンパク質の絶対値は、記載されているものよりも高く、生成量は、グルコアミラーゼの寄与を差し引いたものである。
【0079】
実用性
免疫グロブリンのある用途では、免疫グロブリンが高純度(例えば、99%より高い純度)であることが非常に重要である。これは、特に、免疫グロブリンが治療用に用いられる場合に該当するが、他の用途においても必要なことである。
【0080】
治療用及び予防用のワクチン組成物が考慮され、それは、一般に、1以上の上述のモノクローナル抗体(それらの断片及び組合せを含む)の混合物を含む。免疫グロブリン濃縮物の筋肉注射による受動免疫法は、伝染病に対する一時的な予防のための周知の用途であり、典型的には、海外に渡航した人々に対して用いられる。
【0081】
治療的使用における抗体のより高度な用途は、いわゆる“薬物ターゲティング(drug−targeting)”に基づくものである。そこでは、非常に効力のある薬剤が、人体における特定の細胞(例えば、ガン細胞)に対する特異的結合親和性を有する抗体と共有結合している。
【0082】
また、抗原粒子を含有する試料と免疫学的に反応することができる上述の組換えモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)は、本明細書において、生体試料の特異的結合アッセイにおける抗原の存在を検出するために用いられる。特に、本発明の新規なモノクローナル抗体は、抗原の存在をスクリーニングする高感度な方法において用いることができる。
【0083】
特異的結合アッセイのフォーマットは、当該技術分野において周知の手法に従って、多くの変更を行うことができる。例えば、特異的結合アッセイは、本発明によって調製した組換えモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)の1つ、又はいくつかの組合せを用いてフォーマットすることができる。アッセイのフォーマットは、通常、例えば、競合、直接結合反応、又はサンドイッチ型アッセイ技術に基づくことができる。さらに、当該アッセイは、当該アッセイの間又はその開始後にアッセイ試薬を分離するために、免疫沈降又はその他の技術を用いて行うことができる。その他のアッセイは、当該アッセイの開始前に不溶化されたモノクローナル抗体を用いて行うことができる。この点に関し、多数の不溶化技術が、当該技術分野において周知である。それらには、免疫吸着剤への吸着、反応容器の壁に接着させる吸着、不溶性マトリクス又は“固相”基質へ共有結合で架橋させること、イオン性又は疎水性相互作用を用いて固相基質に非共有結合で接続させること、或いは、沈殿剤(例えば、ポリエチレングリコール)又は架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド)を用いる凝集のいずれかによる不溶化が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。
【0084】
当該技術分野における当業者によって本発明のアッセイに用いるために選択され得る多数の固相基質が存在する。例えば、ラテックス粒子、微粒子、磁性ビーズ、常磁性ビーズ、非磁性ビーズ、膜、プラスチック管、マイクロタイターウェルの壁、ガラス粒子、シリコン粒子、ヒツジ赤血球は、全て、本明細書における使用に適切である。
【0085】
一般に、当該アッセイのほとんどは、モノクローナル抗体(それらの断片を含む)と検出可能な標識部位の組合せからなる標識化結合錯体を用いることを含む。多数のそのような標識が、当該技術分野において公知であり、(共有結合性又は非共有結合性の会合技術のいずれかを用いて)本発明のモノクローナル抗体へ容易に接続して、上記のアッセイフォーマットにおいて用いるための結合錯体得ることができる。適切な検出可能部位には、放射性同位体、蛍光性物質、発光性化合物(例えば、フルオレセイン及びローダミン)、化学発光物質(例えば、アクリジニウム化合物、フェナントリジニウム(phenanthrizinium)化合物、及びジオキセタン化合物)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、及びベータ−ガラクトシダーゼ)、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、色素、及び金属イオンが含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。これらの標識は、当該技術分野において公知の結合技術を用いて抗体と連結させることができる。
【0086】
典型的なアッセイ方法は、一般に、以下の工程:(1)上述の検出可能な標識化結合錯体を調製する工程;(2)抗原を含むと考えられる試料を得る工程;(3)抗体−抗原錯体が形成されるような条件下において前記標識化錯体と前記試料をインキュベートする工程;及び、(4)標識化抗体−抗原錯体の存在又は不存在を検出する工程を含む。当該技術分野における当業者が本明細書の基づいて理解できるように、当該アッセイを用いて、供血者の血又は血清製品における抗原の存在をスクリーニングすることができる。当該アッセイが臨床条件で用いられる場合、試料は、ヒト及び動物の体液、例えば、全血、血清、血漿(plasma)、脳脊髄液、尿などから得ることができる。さらに、当該アッセイに用いて、当該技術分野において公知の標準物質又はキャリブラント(calibrant)を基準にすることによって定量的情報を容易に得ることができる。
【0087】
本発明における特定のアッセイ方法では、酵素連結免疫吸着剤アッセイ(ELISA)を用いて、試料中の抗原濃度を定量することができる。当該方法では、本発明の特異的結合分子は、酵素と接合して標識化結合錯体が得られる。ここで、当該アッセイは、当該結合酵素を定量標識として用いる。抗原を測定するために、選択された抗原を特異的に結合することができる結合分子(例えば、抗体分子)は、固相(例えば、マイクロタイタープレート又はプラスチックカップ)に固定化され、試験試料の希釈液でインキュベートされ、本発明の結合分子−酵素錯体と洗浄及びインキュベートされ、さらに、その後再び洗浄される。この点に関し、適切な酵素標識は周知であり、例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼが含まれる。固相に結合した酵素活性は、特異的酵素基質を添加し、熱量測定により生成物形成又は基質の活用率(utilization)を評価することによって測定される。当該固相基質に結合した酵素活性は、試料中に存在する抗原量の一次関数である。
【0088】
本発明における別の特定のアッセイ方法では、(例えば、感染の指標としての)生体試料における抗原の存在を、従来のウェスタンブロット技術とドットブロット技術の結合として当該技術分野において知られているようなストリップ免疫ブロットアッセイ(SIA)技術(例えば、RIBA.RTM(Chion Corp.、Emeryville、カリフォルニア州)の試験)を用いて検出することができる。これらのアッセイでは、1以上の特異的結合分子(Fab分子を含む、組換えモノクローナル抗体)は、膜支持テストストリップにおいてそれぞれ別個のバンドとして固定化される。生体試料に存在する抗原との反応性の視覚化は、熱量酵素基質と共に標識化抗体−接合体を用いるサンドイッチ結合技術によって達成される。内部対照が、ストリップに存在させることもできる。当該アッセイは、手動で行われ、又は自動化の形式で用いることもできる。
【0089】
さらに、生体試料における抗原の存在を検出すること又は生体試料の他の成分から抗原を精製することを目的として、本発明によって調製した組換えヒトモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)をアフィニティークロマトグラフィーにおいて用いることができる。そのような方法は、当該技術分野において周知である。
【0090】
本発明は、また、適切な標識化結合分子錯体試薬を含み、上述のアッセイ及びアフィニティークロマトグラフィー技術のいずれかを実施するために適切なキットを提供することができる。アッセイ用キットは、適切な容器においてアッセイを行うために必要なその他の試薬又は器具を含む適切な物質を(適切なアッセイ説明書と共に)パッケージングすることによって作られる。
【0091】
実施例について
以下の実施例は、当該技術分野における当業者が本発明をより明確に理解し、それを実施することを可能にするためのものである。当該実施例は、本発明を例証する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと捉えられるべきではない。
【0092】
以下の実験に関する開示においては、次の略語が適用される:eq(当量);M(モル濃度の);μM(マイクロモル濃度の);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル); μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);kg(キログラム);μg(マイクログラム);L(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル); μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);h(時間);min(分);sec(秒);msec(ミリ秒);Ci(キュリー);mCi(ミリキュリー);μCi(マイクロキュリー);TLC(薄層クロマトグラフィー);Ts(トシル);Bn(ベンジル);Ph(フェニル);Ms(メシル);Et(エチル);Me(メチル);SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動);kDa(キロダルトン);bp(塩基対)。
【実施例1】
【0093】
ヒトlgk軽鎖定常領域をコード化するDNAのクローニング
ヒトlgk軽鎖定常領域を、ヒト白血球cDNA(QUICK−Clone cDNA、Clontech Laboratories、Palo Alto、カリフォルニア州)からPCR増幅した。用いたプライマーは、以下のものである:
【0094】
BPF001: 5’−CCGTGGCGGCGCCATCTGTCTTCATCTTCCCGCCATCTG−3’(配列番号1)
BPF002: 5’−CAGTTCTAGAGGATCAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTTTG−3’(配列番号2)
【0095】
BPF001は、クローニングの目的でNarl制限部位(GGCGCC)を導入するための2つのサイレント変異を含む。BPF002は、クローニングのために、翻訳終結シグナルの後にXbal制限部位(TCTAGA)を導入する。PCR生成物は、TOPO TAクローニングキット及び製造者によって供給されたK1−pCR2.1TOPOを生成させるため手順を用いて、pCR2.1TOPO(Invitrogen Corporation Carlsbad、カリフォルニア州)にクローン化した。クローンK1−pCR2.1TOPOからのDNAを配列決定した。当該配列を以下に示す。
【配列1】
【0096】
【0097】
得られた配列は、GenBank(www.ncbi.nlm.nih.gov/)の受託番号J00241である、ヒトlg生殖細胞系kのL鎖、C領域(inv3対立遺伝子)に対応する。
【実施例2】
【0098】
ヒトγ1重鎖定常領域をコード化するDNAのクローニング
ヒトγ1重鎖定常領域を、ヒト白血球cDNA(QUICK−Clone cDNA、Clontech Laboratories、Palo Alto、カリフォルニア州)からPCR増幅した。用いたプライマーは、以下のものである:
【0099】
BPF006: 5’−GGGCCCATCGGTCTTCCCCCTGGCA−3’(配列番号4)及び、
BPF004: 5’−CAGTTCTAGAGGATCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGGCTC−3’(配列番号5)
【0100】
BPF006は、ヒトy1CH1領域における5’末端における天然Apal制限部位(GGGCCC)を活用するものである。BPF004は、クローニングのために、翻訳終結シグナルの後にXbal制限部位(TCTAGA)を導入する。PCR生成物は、TOPO TAクローニングキット及び製造者によって供給されたBG13−pCR2.1TOPOを生成させるため手順を用いて、pCR2.1TOPO(Invitrogen Corporation Carlsbad、カリフォルニア州)にクローン化した。クローンBG13−pCR2.1TOPOからのDNAを配列決定した。当該配列を以下に示す。
【配列2】
【0101】
【0102】
得られた配列は、GenBank(www.ncbi.nlm.nih.gov/)の受託番号Z17370のエクソン配列、すなわち、ヒト生殖細胞系免疫グロブリンγ1鎖の定常領域遺伝子に対応する。ただし、以下の点は相違する。
【0103】
1)Z17370のヌクレオチド番号500におけるAがGに変更されていること。これは、G1m(3)アロタイプに対応するタンパク質におけるリシンからアルギニンへの変更を意味する。
【0104】
2)Z17370のヌクレオチド番号1533及び1537におけるTとCがそれぞれGとAに変更されていること。これは、それぞれアスパラギン酸とロイシンからグルタミン酸とメチオニンへの変更を意味する。これらの変更はnon(1)アロタイプニ対応する。
【0105】
3)Z17370の塩基1686に対応するCのTへのサイレント変異。
【実施例3】
【0106】
Trastuzumab軽鎖可変領域をコード化するDNAの合成
Trastuzumab軽鎖可変領域のアミノ酸配列(アミノ酸位置55におけるグルタミン酸がチロシンに置換されている以外は、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年、に記載されているとおり)のコード化するDNAは、Gene Forgeカスタム遺伝子合成技術を用いて、Aptagen,Inc.(Herndon、ヴァージニア州)によって合成されたものである。当該配列を以下に示す。
【配列3】
【0107】
【0108】
このDNA配列は、5’SnaB1制限部位(TACGTA)を含み、それにより、A.nigerグルコアミラーゼコード領域、その後、KEX2プロテーゼ開裂部位を表すアミノ酸であるリシン及ぶアルギニンのコドン(AAG CGC)への消化及びライゲーションが可能になる。3’末端には、軽鎖定常領域への消化及びライゲーションを可能にするNarl制限部位が存在する。当該DNAにおけるコドンの使用は、アスペルギルス遺伝子において観測されるコドン使用の頻度を反映するものである。
【実施例4】
【0109】
Trastuzumab重鎖可変領域をコード化するDNAの合成
Trastuzumab重鎖可変領域のアミノ酸配列(アミノ酸位置105におけるバリンがチロシンに置換されている以外は、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年、に記載されているとおり)のコード化するDNAは、Gene Forgeカスタム遺伝子合成技術を用いて、Aptagen,Inc.(Herndon、ヴァージニア州)によって合成されたものである。当該配列を以下に示す。
【配列4】
【0110】
【0111】
このDNA配列は、5’SnaB1制限部位(TACGTA)を含み、それにより、A.nigerグルコアミラーゼコード領域、その後、KEX2プロテーゼ開裂部位を表すアミノ酸であるリシン及ぶアルギニンのコドン(AAG CGC)への消化及びライゲーションが可能になる。3’末端には、重鎖定常領域への消化及びライゲーションを可能にするApal制限部位が存在する。当該DNAにおけるコドンの使用は、アスペルギルス遺伝子において観測されるコドン使用の頻度を反映するものである。
【実施例5】
【0112】
pyrGマーカーを含むTrastuzumab軽鎖発現プラスミドの構築
アスペルギルスにおける軽鎖の発現に用いられる発現プラスミドは、グルコアミラーゼ−プロキモシン発現ベクターであるpGAMpR(米国特許第5,679,543号に詳細に説明されている)に基づくものである。このプラスミドを、pGAMpRにおいてそれぞれ1度だけ切断する制限エンドヌクレアーゼであるSnaBl及びXbalで消化した。SnaBlは、グルコアミラーゼリンカー領域のコード領域内で当該プラスミドを切断し、Xbalは、キモシンコード領域の3’末端直後でpGAMpRを切断する。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、軽鎖の可変領域及び定常領域をコード化するDNA配列は、キモシンコード化領域を置換するpGAMpR中に会合及び挿入させた。最終的なプラスミドをpQ83と名付けた(図3)。当該プラスミドは、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Neurospora crassa pyr4遺伝子を含有する。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、軽鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに成熟軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の軽鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と軽鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列5】
【0113】
【実施例6】
【0114】
Trastuzumab重鎖発現プラスミドの構築
アスペルギルス発現ベクターpGAMpRを当該技術分野において公知の方法により修飾し、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Neurospora crassa pyr4遺伝子をAspergillus nidulans amdS遺伝子で置換した(J.M.Kelly及びM.J.Hynes、EMBO J.、4巻、475−479頁、1985年;C.M.Corrickら、Gene、53巻、63−71頁、1987年)。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、重鎖の可変領域及び定常領域をコード化するDNA配列を、amdS選択マーカーを有するアスペルギルス発現ベクターpGAMpRの変異体中に会合及び挿入させた。最終的なプラスミドをpCL1と名付けた(図4)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに成熟重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の重鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列6】
【0115】
【0116】
第2のTrastuzumab重鎖発現プラスミド(pCL5;図5)を構築した。これは、pCL1と全く同じ発現カセット(すなわち、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び、アミノ酸YKR、さらに成熟重鎖が後に続く成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質をコード化するオープンリーディングフレームの発現を制御するAspergillus awamori glaAプロモーター及びA.niger glaAターミネーター)を含有する。pCL1とpCL5の唯一の違いは、後者のプラスミドにはA.nidulans amdS遺伝子が存在せず、それゆえ真菌形質転換マーカーが存在しないこと、及び、細菌プラスミド骨格としてpUC100の代わりにpBR322が用いられいることである。
【実施例7】
【0117】
Trastuzumab重鎖のFd’断片に対する発現プラスミドの構築
鋳型として会合重鎖可変領域及び定常領域DNAを用いて、当該重鎖のFd’部分(抗体のヒンジ領域の後で短小化された重鎖)をコード化するDNA断片をPCRにより生産した。以下の2つのプライマーを用いた:oligo1(5’−AAC AGC TAT GAC CAT G−3’)(配列番号11)及びoligo2(5’−TCT AGA GGA TCA TGC GGC GCA CGG TGG GCA TGT GTG AG−3’)(配列番号12)。増幅した900bp断片を精製してSnaBl及びXbalで消化し、得られた719bpのSnabB1からXbalまでの断片を、選択マーカーとしてamdS遺伝子を有するアスペルギルス発現pGAMpRの変異体中にクローン化した。最終的なプラスミドをpCL2と名付けた(図6)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに重鎖の成熟Fd’部分が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離のFd’鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列7】
【0118】
【実施例8】
【0119】
Trastuzumab重鎖のアグリコシル化形態に対する発現プラスミドの構築
N−連結グリコシル化のための接続部位である、lgG重鎖定常領域における1のアスパラギン(位置297)が知られている。アスペルギルスで産出された抗体のグリコシル化を避けるために、当該アスパラギンをコード化するコドンは、グルタミンをコード化するコドンに変更される。DNA配列の適切な変更のための製造者の指示に従って、Quick−Change部位特異的変異誘発キット(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)を用いた。重鎖可変領域及び定常領域をコード化する会合DNAを有するプラスミドを鋳型として用いた。一方が当該プラスミドの1のDNAストランドに相補的であり、他方が当該プラスミドの第2ストランドに相補的であって、変異されるアスパラギンコドンとオバーラップしている以下の2つのプライマーを用いて、変異誘発手順を行った:5’−GAG CAG TAC CAG AGC ACG TAC CGT GTG GTC−3’(配列番号14)、及び5’−GTA CGT GCT CTG GTA CTG CTC CTC CCG CGG CT−3’(配列番号15)。改変コドンを下線で示している。所望の配列変更が達成されていること、及びその他の望ましくない変異は導入されていないことをDNA配列分析によって確認した。その後、全長重鎖の変異体を、amdS選択マーカーを有するアスペルギルス発現ベクターpGAMpRの変異体中にクローン化させた。最終的なプラスミドをpCL3と名付けた(図7)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらにグリコシル化を回避するための変異を含む成熟重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域(Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の重
鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を、元の重鎖配列におけるアスパラギンを置換したグルタミン残基の場合と同様に下線で示している。
【配列8】
【0120】
【実施例9】
【0121】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab軽鎖の発現
組込み(すなわち、宿主ゲノムDNAに組込むために設計された)発現プラスミドpQ83のDNAを調製し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に形質転換した。当該菌株は、欠失したpepA遺伝子を有するdgr246P2菌株由来であり、pyrGマイナスであり、及び、異種遺伝子産物の生産を向上させるための変異誘発及びスクリーニング又は選別を複数回受けたものである(M.Wardら、Appl.Microbiol.Biotech.、39巻、738−743頁、1993年、及びそこに記載の引用文献)。dgr246ΔGAP:pyr2−菌株を得るために、T.Fowlerら、Curr.Genet.、18巻、537−545頁(1990年)に報告されているのと同一の欠失プラスミド(pΔGAM NB−Pyr)及び手順を用いて、dgr246 P2菌株中のglaA(グルコアミラーゼ)遺伝子を欠失させた。すなわち、当該欠失は、いずれかの末端にglaAフランキング配列を有する直鎖状DNAによる形質転換、及び、選択マーカーであるAspergillus nidulans pyrG遺伝子によって置換されたpyrG遺伝子のコード領域及びプロモーターの一部による形質転換によって行った。glaAフランキング配列とpyrG遺伝子を含む直鎖状断片が染色体glaA遺伝子座において組込まれた形質転換体を、サザンブロット分析によって同定した。当該変更は、形質転換菌株dgr246ΔGAPにおいて生じさせた。当該形質転換体からの胞子を、蛍光性オロチン酸を含む培地に置き、W.van Hartingsveldtら、Mol.Gen.Genet.、206巻、71−75頁(1987年)に記載されているように、自発(spontaneous)耐性変異体を得た。それらの1つであるdgr246ΔGAP:pyr2−は、野生型pyrG遺伝子を有するプラスミドによる形質転換によって補完され得るウリジン栄養要求菌株であることが判明した。
【0122】
アスペルギルスの形質転換手順は、Campbell法(Campbellら、Curr.Genet.、16巻、53−56頁、1989年)を改良したものである。全ての溶液及び培地を、高圧滅菌し又は0.2ミクロンのフィルターでろ過滅菌した。A.niger var.awamoriの胞子を、複合培地寒天(CMA)プレートから採取した。CMAは、20g/lのデキストロース、20g/lのDifcoBrand麦芽エキス、1g/lのバクトペプトン、20g/lのバクト寒天、20ml/lの100mg/mlのアルギニン、及び20ml/lの100mg/mlのウリジンを含む。胞子の約1.5cm四方の寒天プラグを100mlの液体CMA(バクト寒天を除くCMA)に接種した。250−275rpmの振とう器上において、37℃で一晩フラスコを培養した。菌糸は、滅菌Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を経て採取し、200mlの溶液A(0.8M MgSO4を含む10mMリン酸ナトリウム、pH5.8)で洗浄した。洗浄した菌糸を、20mlの溶液A中に300mgのベータ−D−グルカナーゼ(Interspex Products、San Mateo、カリフォルニア州)を含む滅菌溶液中に置いた。これを、滅菌した250mlのプラスチックボトル(Corning Inc、Corning、ニューヨーク州)において、200rpm、28℃で2時間培養した。培養の後、当該プロトプラスト溶液を滅菌Miraclothでろ過し、滅菌した50mlのコニカルチューブ(Sarstedt、米国)に移した。得られたプロトプラストを含む溶液を、4つの50mlコニカルチューブへ均等に分配した。各チューブに40mlの溶液B(1.2Mのソルビトール、50mMのCaCl2、10mMのトリス、pH7.5)を添加し、速度3/4で10分間、卓上臨床用遠心分離器(Damon IEC HN SII 遠心分離器)で遠心分離した。各チューブの上澄み液を廃棄し、20mlの新たな溶液Bを1のチューブに添加し、混合し、その後、全てのペレットが再懸濁してから次のチューブに注いだ。当該上澄みを廃棄し、20mlの新たな溶液Bを添加し、当該チューブを速度3/4で10分間遠心分離した。最後にもう一度洗浄し、当該プロトプラストを溶液Bに再懸濁させ、0.5−1.0X107プロトプラスト/100ulの密度にした。滅菌した15mlのコニカルチューブ(Sarstedt、米国)中のプロトプラスト100ulのそれぞれに、10ulの形質転換プラスミドDNAを添加した。これに、12.5ulの溶液C(50%PEG4000、50mMのCaCl2、10mMのトリス、pH7.5)を添加し、当該チューブを20分間氷上に置いた。1mlの溶液Cを添加し、チューブを氷上から取り除き、室温にしてゆっくり振とうした。2mlの溶液Bをすぐに添加し、溶液Cを希釈した。形質転換混合物を、45℃の湯浴中に保存した融解MMSオーバーレイ(6g/lのNaNO3、0.52g/lのKCl、1.52g/lのKH2PO4、2.185g/lのD−ソルビトール、1.0ml/lの微量成分LW、10g/lのSeaPlaqueアガロース(FMC Bioproducts、Rookland、Maine、米国)、20ml/lの50%グルコース、2.5ml/lの20%MgSO4・7H2O、NaOHでpH6.5に調整)の3つのチューブへ均等に添加した。微量成分LWは、1g/lのFeSO4・7H2O、8.8g/lのZnSO4・7H2O、0.4g/lのCuSO4・5H2O、0.15g/lのMnSO4・4H2O、0.1g/lのNa2B4O7・7H2O、50mg/lの(NH4)6Mo7O24・4H2O、250mlのH2O、200ul/lの濃HClから構成される。形質転換混合物を含む融解オーバーレイをすぐに、寒天プレート上に直接添加した100mg/mlのアルギニンを200ul/プレートで補充した3つのMMSプレート(10g/lのSeaPlaqueアガロースの代わりに20g/lのバクト寒天を用いたこと以外は、MMSオーバーレイと同じ)に注いだ。寒天が固化した後、形質転換体が成長するまで、当該プレートを37℃で培養した。
【0123】
胞子形成を、楊枝で最少培地+グルコース(MM)のプレートに摘み上げた。MMは、6g/lのNaNO3、0.52g/lのKCl、1.52g/lのKH2PO4、1ml/lの微量成分LW、20g/lのバクト寒天、NaOHでpH6.5に調整、25ml/lの40%グルコース、2.5ml/lの20%MgSO4・7H2O、及び20ml/lの100mg/mlアルギニンから構成される。MM上で形質転換体が成長した後、CMAプレートに移した。
【0124】
各形質転換体のプレート培地から得た1.5cm四方の寒天プラグを、250mlの振とうフラスコ中、50mlのCSL+フルクトースと呼ばれる接種培地(100g/1comのスティープリカー(steep liquor)(50%固体、National)、1g/lのNaH2PO4・H2O、0.5g/lのMgSO4、100g/lのマルトース、10g/lのグルコース、50g/lのフルクトース、3ml/lのMazu DF60−P(Mazur Chemicals、Gurnee、イリノイ州、米国)、NaOHでpH5.8に調整)。フラスコを、200rpm、37℃で2日間培養した。2日後の培養液5mlを、Promosoyスペシャルと呼ばれる生産培地50mlに接種した。当該培地は、以下の成分を有する:70g/lのクエン酸ナトリウム、15g/lの(NH4)2SO4、1g/lのNaH2PO4・H2O、1g/lのMgSO4、1mlのTween80、NaOHでpH6.2に調整、2ml/lのMazu DF60−P、45g/lのPromosy100(Central Soya、Fort Wayne、IN)、120g/lのマルトース。生産培地のフラスコを200rpm、30℃で5日間培養し、上澄み試料を採取した。
【0125】
培地の上澄み試料を適切な体積の2Xサンプルローディングバッファーと混合し、製造者の指示に従いプレキャストゲルを用いて、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った(NuPAGE ビス−トリス電気泳動システム、Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州)。当該ゲルをクマシーブリリアントブルー染色液を含むタンパク質で染色し、当該タンパク質をウェスタンブロット法によりメンブランフィルターに通した(Towbinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76巻、4350−4354頁、1979年)。ヒトカッパ(kappa)軽鎖は、ヤギ抗ヒトカッパ軽鎖(結合及び遊離)抗体、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と接合したウサギ抗ヤギIgGで順次処理し、H2O2及び4−クロロ−1−ナフトールとの培養によるHRP着色によってウェスタンブロットにおいて視覚化した。
【0126】
Trastuzumab軽鎖を産出する形質転換体は、未形質転換の親菌株からの上澄み液に対する別のタンパク質バンドの出現により同定した。当該バンドの大きさ及び属性は以下のとおりであった。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する25kDのバンド。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する見かけ上約58kDの分子量を示すバンド。グルコアミラーゼと軽鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質に対応する見かけ上約85kDの分子量を示すバンド。軽鎖バンドの特性は、ウェスタン分析で確認した。ウェスタン分析では、遊離軽鎖及びグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質を検出するために抗ヒトκ抗体を用いた。培養上澄みにおける軽鎖の定量化は、酵素連結免疫吸着剤アッセイ(ELISA)を用いて行った。最も優れた軽鎖発現菌株は、精製胞子であり、Q83−35−2と表す。この菌株は、ELISAによると、振とうフラスコ培地において約1.5g/lのTrastuzumab軽鎖(κ鎖)を産出した。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉(capture)抗体として、ヤギ抗ヒトκ(結合及び遊離)抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合軽鎖を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と抱合した(conjugated)ヤギ抗ヒトカッパ(結合及び遊離)抗体の添加及び着色反応によって検出した。公知濃度のヒトκ軽鎖の連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。
【実施例10】
【0127】
グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂の改善
上述したように、Trastuzumab軽鎖のいくつかは、pQ83を含むAspergillus niger形質転換体によって分泌された場合、グルコアミラーゼに結合したままであった。分泌した軽鎖の約60−75%がグルコアミラーゼに結合していると推定された。これは、グルコアミラーゼと軽鎖の間のKEX2部位は、KEX2プロテアーゼによって効果的に開裂されないことを示唆している。開裂部位が予想通りかどうか(すなわち、KEX2開裂部位のKR残基の直後か)を評価するため、形質転換体Q83−35−2からの遊離軽鎖のN末端を評価した。培地上澄み試料におけるタンパク質をSDS−PAGEで分離し、Novex輸送細胞(Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州)及び輸送バッファー(12mMのトリス塩基、96mMのグリシン、20%メタノール、0.01%SDSからなり、pH8.3)を用いてポリボニリデンジフルオリド(PVDF)膜上にブロットした。当該輸送は、20Vで90分間行った。膜を蒸留水で30分間3回洗浄し、クマシーブリリアントブルーR−250で染色した。25kD軽鎖のバンドを示す膜の部分を切除し、N末端配列をエドマン分解によって評価した。得られたデータから、軽鎖分子の集団はN末端の混合物を有し、優性配列はDIQM及びKRDIであり、及びこれらはほぼ同量で存在することが示唆された。この結果は、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質のいくつかは、KEX2開裂部位の直後にある期待通りの位置で開裂するが、当該開裂融合タンパク質の約半数は、2残基分N末端よりの位置で開裂することを示すものである。
【0128】
融合タンパク質の開裂を向上させるために、本発明では、軽鎖が結合するグルコアミラーゼリンカー領域の位置を改変した。さらに、グルコアミラーゼと軽鎖の接合部におけるアミノ酸配列を変更した。
【0129】
本実験に用いた発現プラスミドは、pGAKHi+と同一のベクター、すなわちWO9831821に詳細に説明されているグルコアミラーゼ−ヒルログ(hirulog)発現ベクターに基づくものである。当該プラスミドのヒルログコード化領域(固有NheI及びBstEII制限エンドヌクレアーゼ認識部位の間に位置する)を、軽鎖コード化DNAで置換した。NheIは、グルコアミラーゼリンカー領域のコード領域内で当該プラスミドを切断し、Xbalは、グルコアミラーゼターミネーター領域の5’を切断する。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、全長軽鎖をコード化するDNA配列を、以下のプライマー対を用いてPCRで増幅した。5’−CCGCTAGCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号17)が正(forward)プライマーであり、5’−CCGGTGACCGGATCAACACTCTCCC−3’(配列番号18)が逆(reverse)プライマーである。これらのプライマーは、それぞれ、軽鎖DNAの5’及び3’末端にNheI及びBstEII認識部位を付加する。その後、軽鎖DNAは上記ベクターに挿入され、PQ87をもたらすヒルログコード化領域を置換する当該軽鎖DNAを有すること以外はpGAKHi+と同一のプラスミドが得られた。当該プラスミドは、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Aspergillus niger pyrG遺伝子を含有する。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、軽鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸KR、さらに成熟軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下の融合タンパク質の発現のために設計されたものである。
【配列9】
【0130】
【0131】
KR残基(kexB開裂部位)のいずれかの側におけるアミノ酸配列を一連のプラスミドで改変した。それぞれの新規な軽鎖発現プラスミドを構築するために、pQ87について記載したのと同じ逆プライマーと組合せて以下の正プライマーを用いることによって、PCR反応における軽鎖DNA断片を増幅した。5’−CCGCTAGCCAGAAGCGTGATATCCAGA−3’(配列番号20)がpQ88に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCCTCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号21)がpQ90に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号22)がpQ91に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCAACGTGATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号23)がpQ94に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCGTGATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号24)がpQ95に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCATCTCCAAGCGTGGCGGTGGCGATATCCAGATGACCCAG−3’(配列番号25)がpQ96に対する正プライマーである。その後、PCR断片を制限酵素NheI及びBstEIIで消化し、pQ87の場合と同様の発現ベクターに挿入した。pQ88及びpQ90では、KR残基のアミノ末端側にアミノ酸を挿入した。酵母KEX2及びA.niger KexBによる合成ペプチドの開裂がこの位置において許容されることが判明している(C.Brenner及びR.S.Fuller、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、922−926頁、1992年;R.Jalvingら、Applied and Environmental Microbiology、66巻、363−368頁、2000年)。pQ91、pQ94、及びpQ95では、それぞれグルコアミラーゼの6アミノ酸プロペプチド(KRで終結し、KEX2プロテアーゼで開裂する)からの2、4、又は3の残基を、KR残基のアミノ末端側に置いた。グルコアミラーゼプロペプチド配列からの残基が、その他によるグルコアミラーゼ融合タンパク質における当該位置に置かれている(J.A.Spencerら、European Journal of Biochemistry、258巻、107−112頁、1998年;M.P.Broekhuijsenら、Journal of Biotechnology、31巻、135−145頁、1993年)。pQ96では、3つのグリシン残基を、KR残基のカルボキシル側に置いた(これは、J.A.Spencerら、European Journal of Biochemistry、258巻、107−112頁、1998年でも用いられている)。各プラスミドについて、コード化グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質を以下に示す。KEX2開裂部位(KR)の周囲の可変領域を下線で示す。
【0132】
pQ88によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列10】
【0133】
【0134】
pQ90によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列11】
【0135】
【0136】
pQ91によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列12】
【0137】
【0138】
pQ94によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列13】
【0139】
【0140】
pQ95によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列14】
【0141】
【0142】
pQ96によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列15】
【0143】
【0144】
発現プラスミドpQ87、pQ88、pQ90、pQ91、pQ94、pQ95、及びpQ96のDNAを調製し、それらをそれぞれAspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−中に形質転換した。得られた形質転換体を振とうフラスコにおいてPromosoyスペシャル培地で培養し、分泌したタンパク質をSDS−PAGE及びクマシーブリリアントブルー染色剤によって視覚化した。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する25kDのバンド、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する58kDのバンド、及びグルコアミラーゼと軽鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質に対応する約85kDのバンドについての相対量を求めることによって、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂を評価した。さらに、場合によっては、放出された軽鎖のN末端を評価した。
【0145】
発現ベクターpQ87、pQ88、又はpQ90を有するA.niger形質転換体におけるグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂の程度(extent)は、形質転換体Q83−35−2の場合と比べてほとんど変化しなかった(約25乃至40%)。
【0146】
それに対し、発現ベクターpQ917、pQ94、又はpQ95を有する形質転換体では、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の約90%が開裂した。pQ91及びpQ94のそれぞれで得られた1の形質転換体の上澄みにおける遊離軽鎖のアミノ末端を評価したところ、単一の優性配列DIQMTが観測された。これは、形質転換体において、開裂の程度が向上するだけでなく、所望のKEX2部位で開裂する融合タンパク質の頻度(すなわち、開裂の正確性又は忠実度)も向上することを示すものである。
【0147】
発現ベクターpQ96を有する形質転換体では、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質のほぼ100%が開裂した。pQ96で得られた1の形質転換体の上澄みにおける遊離軽鎖のアミノ末端を評価したところ、単一の優性配列GGGDIが観測された。
【実施例11】
【0148】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab重鎖の発現
組込み発現プラスミドpCL1のDNAを調製し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。形質転換体は、上述のように振とうフラスコにおいて液体培地中で培養した。特定の実験では、IgGの重鎖に特異的親和性を有するタンパク質A−セファロースビーズ(Amersham Pharmacia)と温置することによって、Trastuzumab重鎖を上澄み液から特異的に沈殿させた。当該ビーズは、SDS−PAGEランニングバッファーにおいて予め洗浄し、さらに、重鎖との温置の後、及び、SDS−PAGEサンプルバッファーに再懸濁し、10分間70℃で加熱し、ポリアクリルアミドゲル上に装入する前にも当該バッファーで洗浄した。上澄み試料、又はタンパク質A−セファロースにより当該上澄みから沈殿させた物質試料の分析は、還元条件下のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、その後、上記タンパク質ビーズのクマシーブリリアントブルー染色、又はウェスタン分析のためのナイロン膜へのブロットによって行った。Trastuzumab重鎖は、ヤギ抗IgG−Fc抗体、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と接合したウサギ抗ヤギIgGで順次処理し、H2O2及び4−クロロ−1−ナフトールとの培養によるHRP着色によってウェスタンブロットにおいて視覚化した。Trastuzumab重鎖を産出する形質転換体は、未形質転換の親菌株からの上澄み液に対する別のタンパク質バンドの出現により同定した。当該バンドの大きさ及び属性は以下のとおりであった。グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する2つのバンド、すなわち、50kDのバンド(SDS−PAGEにおいて、Aspergillus nigerの分泌アルファ−アミラーゼと同じ移動度を有する)及び約53kDのバンド(2つの異なるサイズの遊離重鎖の存在は以下で説明する)。グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する見かけ上58kDの分子量を示すバンド。グルコアミラーゼと重鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質に対応する見かけ上116kDの分子量を示すバンド。最も優れた重鎖発現形質転換体は、ELISAによると、培地上澄み液1リットル当り約0.33gのTrastuzumabγ重鎖を産出した。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉抗体として、ヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合重鎖を、HRPと抱合したヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体の添加及び着色反応によって検出した。公知濃度のヒトIgGの連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。
【実施例12】
【0149】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab重鎖及び軽鎖の発現
3つの異なる形質転換戦略を用いて、Trastuzumab抗体の重鎖及び軽鎖の両方を産出するアスペルギルス形質転換体を構築した。
【0150】
同時形質転換による菌株の構築
発現プラスミドpQ83及びpCL1を混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。これらのプラスミドは、いずれも真菌の複製起点を有しておらず、1以上の部位においてアスペルギルス染色体DNAには組込まれないと考えられる。形質転換体を上述のように振とうフラスコで培養し、軽鎖及び重鎖の生産をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって確認した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。最も優れた形質転換体(1−LC/HC−3)の振とうフラスコ培地において、約0.3g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉抗体として、ヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合IgG1を、HRPと抱合したヤギ抗ヒトκ(結合又は遊離)抗体の添加及び着色反応によって検出した。ELISAにおいて捕捉抗体及び検出抗体の当該組合せを用いることによって、会合IgG1のみが観測され、遊離の軽鎖及び重鎖は観測されない。公知濃度の精製ヒトIgGの連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。ある実験では、捕捉抗体と検出抗体を入れ替えて、捕捉抗体を抗ヒトκ抗体にし、検出抗体をHRPと抱合した抗ヒトIgG−Fc抗体にした。結果は、いずれの抗体の組合せでも同程度であった。
【0151】
また、発現プラスミドpQ83及びpCL5を用いる同時形質転換によっても形質転換体を得た。これらのプラスミドを混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。最も優れた形質転換体(2−LC/HC−38)の振とうフラスコ培地において、0.9g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0152】
複製プラスミドを用いる菌株の構築
発現プラスミドpQ83、pCL1、及びpHELP1を混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。プラスミドpHELP1(D.Gems及びA.J.Clutterbuck、Curr.Genet.、24巻、520−524頁、1993年)は、アスペルギルス菌株において自律性複製をもたらすAspergillus nidulans配列であるAMA1を含む。過去の結果(D.Gems及びA.J.Clutterbuck、Curr.Genet.、24巻、520−524頁、1993年)に基づくと、これらのプラスミドは互いに再結合し、3つの全ての要素を有する大きな複製プラスミドを形成すると推測される。形質転換体を振とうフラスコで培養し、Trastuzumab軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって分析した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。会合IgG1をELISAでアッセイした。振とうフラスコ培地において、0.26g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0153】
2つの連続形質転換による菌株の構築
組込みプラスミドpCL1(重鎖発現プラスミド)を用いて、菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養し、Trastuzumab軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって分析した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。会合IgG1をELISAでアッセイした。振とうフラスコ培地において、0.19g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0154】
特定の実験では、上述のタンパク質A−セファロース4 Fast Flowビーズ(Amersham Pharmacia、Piscataway、ニュージャージー州)と温置することによって、Trastuzumab重鎖及び付随する軽鎖を上澄み液から特異的に沈殿させた。また、重鎖及び付随軽鎖の精製は、製造者の手順に従って、HiTrapタンパク質A HPクロマトグラフィー(Amersham Pharmacia、Piscataway、ニュージャージー州)によるアフィニティークロマトグラフィーを用いて行った。図8は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルー染色による還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC−3について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化及びグリコシル化形態(50及び53kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。(重鎖に特異的な)タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって、軽鎖が重鎖と一緒に精製されたという事実は、抗体が会合していることを示すものである。グルコタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって、グルコアミラーゼ−重鎖鎖融合タンパク質とグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質が一緒に精製されたという事実は、抗体が、連結したグルコアミラーゼと会合していることを示すものである。
【0155】
図9は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルーによる非還元条件下におけるSDS−PAGE(Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州からのNuPAGEトリス酢酸電気泳動システム)の結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。
【0156】
なぜ2種類の遊離重鎖(すなわち、グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出された重鎖)が約3kD異なる見かけ分子量で産出されたのかを理解するために、以下の実験を行った。アスペルギルスから生産されたTrastuzumabをタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した。タンパク質からマンノース型N連結グリコシル化を開裂させタンパク質のアスパラギンに結合した単一のN−アセチルグルコサミン糖を脱離させることができるエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ35ugの存在下及び非存在下において、精製Trastuzumab試料を1時間培養した。還元条件下におけるSDS−PAGE、その後のクマシーブリリアントブルーによるタンパク質染色又は糖タンパク質に特異的な染色(GelCode糖タンパク質染色キット、Pierce、Rockford、イリノイ州、製造者の説明書に従った)によって、これらの試料を分析した。遊離重鎖の2つのバンドのうちの上方側のバンドは、エンドHで処理することによってその強度が大きく減少した。当該上方側の遊離重鎖バンドだけがGelCode染色剤によって染色されたが、エンドHで処理した後には、このバンドはもはやGelCode染色では可視化しなかった。これらの観測結果は、2つの遊離重鎖バンドの上方側のバンドは、結合したN連結抗マンノースグリカンを有する重鎖を表していること、及び、エンドHが当該グリカンを除去することができることを示唆している。
【0157】
グルコアミラーゼ−IgG1融合タンパク質から遊離IgG1を精製及び分離することできた。精製に用いた方法は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー(2002年9月18日に出願された、“タンパク質の精製”というタイトルの継続中の米国特許出願60/411,537号に記載されている)である。まず、真菌細胞を、Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いるろ過によって培養液から除去した。ろ過した培養液を接線限外ろ過によって約7倍に濃縮した。循環ポンプを用いて、当該培養液を加圧し、30000分子量を遮断する再生セルロース製の膜(Prep/Scale(商標)TFF、ミリポア)を通過させた。粒子を取り除くため、濃縮物を25000倍重力で15分間遠心分離し、得られた上澄み液を一連の膜でろ過した(ここで、当該膜は、それぞれ前の膜よりも小さな孔径を有しており、最後は0.2マイクロメーターの孔径のものである)。疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)を用いて、上澄み液からIgG1を精製した。これは、高速液体クロマトグラフィーシステム(AKTA(商標)エクスプローラー10、Amersham Biosciences)を用いて行った。HCICを用いることにより、その他の上澄みタンパク質から、及びグルコアミラーゼ−融合タンパク質から抗体分子を分離することができる。MEP HyperCel(商標)(Ciphergen Biosystems)培地を含むカラムを用いて行った。当該カラムは、50mMのトリス、200mMのNaCl、及びpH8.2バッファーによって平衡化した。pH8.2に調節した上澄み液を100cm/時の直線流速でカラムに装入した。カラム体積の5倍量(5CV)の平衡バッファーで洗浄した後、徐々にpHを下げながら結合分子を溶出させた。以下に示す2CVのバッファーを、以下の順番で、200cm/時においてカラムに装入した:100mMの酢酸ナトリウム、pH5.6;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.75;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.0;及び100mMのクエン酸ナトリウム、pH2.5。遊離IgG1をpH4.5−5.5の範囲で溶出させ、すぐに、1Mのトリス及びpH8.2バッファーで中和した。カラムに存在する抗体の純度は、SDS−PAGEによって評価した。
【実施例13】
【0158】
アスペルギルスにおけるアグリコシル化Trastuzumabの発現
プラスミドpCL3(重鎖のアグリコシル化変異体に対する発現ベクター)を用いて菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養した。重鎖をタンパク質A−セファロースビーズで沈殿させた後、又はタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した後、軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGEで確認した。還元条件下のSDS−PAGEでは、遊離重鎖のバンドが50kDの1本であること以外は形質転換体1−LC/HC−3と同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された(図8における菌株1−HCΔ−4)。非還元条件下のSDS−PAGEでは、形質転換体1−LC/HC−3に類似したパターンのバンドが観測された(図9における菌株1−HCΔ−4)。十分に会合したIgG1をELISAで測定した。振とうフラスコ培地において、最も優れた形質転換体によって0.1g/lのアグリコシル化Trastuzumabが生産された。
【実施例14】
【0159】
アスペルギルスにおけるTrastuzumabのFab’断片の発現
プラスミドpCL2(Trastuzumab重鎖のFd’断片に対する発現ベクター)を用いて菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養した。会合したFab’をELISAで測定した。2つの形質転換体1−Fab−1及び1−Fab−12をより詳しく検証した。
振とうフラスコ培地において、最も優れた形質転換体(菌株1−Fab−12)によって1.2g/lのFab’が生産された。重鎖をタンパク質A−セファロースビーズで沈殿させた後、又はタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した後、TrastuzumabのFab’断片の発現をSDS−PAGEで確認した。還元条件下のSDS−PAGEは、軽鎖及びFd’鎖を表す約25kDaのバンド、グルコアミラーゼ−軽鎖及びグルコアミラーゼ−Fd’鎖融合タンパク質を表す約85kDaのバンドを示した(図8の菌株1−Fab−1)。非還元条件下のSDS−PAGEで観測された主なバンドは、会合Fab’を表す約50kDaのバンド、グルコアミラーゼ1分子が付着したFab’を表す約100kDaであった(図9の菌株1−Fab−1)。約150kDaのかすかなバンドは、軽鎖及びFd’鎖に結合したグルコアミラーゼ分子を有するFab’を表すと考えられる。A.nigerによって生産されたFab’が、Fd’鎖のカルボキシル末端付近の遊離システインを経て共有結合によって二量化し、F(ab’)2を形成するかどうかを検討することは興味深い。F(ab’)2のサイズは約100kDaと考えられるので、非還元SDS−PAGEでは、グルコアミラーゼ1分子が結合したFab’と同じ位置に移動するであろう。同様に、グルコアミラーゼ1分子が結合したF(ab’)2のサイズは約150kDaと考えられるので、非還元SDS−PAGEでは、グルコアミラーゼ2分子が結合したFab’と同じ位置に移動するであろう。しかしながら、図9の菌株1−Fab−1について観測された約200kDaの高い分子量のバンドは、グルコアミラーゼ2分子が結合したF(ab’)2を表すという説明が最も適切である。
【0160】
F(ab’)2が形質転換体1−Fab−12によって分泌されたことを確認するため、分泌された抗体断片を精製し、グルコアミラーゼ−Fab’及びグルコアミラーゼF(ab’)2融合タンパク質からFab’及びF(ab’)2を分離した。精製に用いた方法は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー(2002年9月18日に出願された、“タンパク質の精製”というタイトルの継続中の米国特許出願60/411,537号に記載されている)、及びその後のサイズ排除クロマトグラフィーである。まず、真菌細胞を、Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いるろ過によって培養液から除去した。ろ過した培養液を接線限外ろ過によって約7倍に濃縮した。循環ポンプを用いて、当該培養液を加圧し、30000分子量を遮断する再生セルロース製の膜(Prep/Scale(商標)TFF、ミリポア)を通過させた。粒子を取り除くため、濃縮物を25000倍重力で15分間遠心分離し、得られた上澄み液を一連の膜でろ過した(ここで、当該膜は、それぞれ前の膜よりも小さな孔径を有しており、最後は0.2マイクロメーターの孔径のものである)。疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて、上澄み液からFab’(モノマー及びダイマー)抗体断片を精製した。これらの方法は、高速液体クロマトグラフィーシステム(AKTA(商標)エクスプローラー10、Amersham Biosciences)を用いて行った。HCICを用いることにより、その他の上澄みタンパク質から、及びグルコアミラーゼ−融合タンパク質から抗体分子を分離することができる。SECは、F(ab’)2からFabを分離するのに役立つ。HCICは、MEP HyperCel(商標)(Ciphergen Biosystems)培地を含むカラムを用いて行った。当該カラムは、50mMのトリス、200mMのNaCl、及びpH8.2バッファーによって平衡化した。pH8.2に調節した上澄み液を100cm/時の直線流速でカラムに装入した。カラム体積の5倍量(5CV)の平衡バッファーで洗浄した後、徐々にpHを下げながら結合分子を溶出させた。以下に示す2CVのバッファーを、以下の順番で、200cm/時においてカラムに装入した:100mMの酢酸ナトリウム、pH5.6;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.75;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.0;及び100mMのクエン酸ナトリウム、pH2.5。Fab’及びF(ab’)2をpH4.5−5.5の範囲で溶出させ、すぐに、1Mのトリス及びpH8.2バッファーで中和した。Superdex 200(商標)Pre Grade培養液を含むHiLoad(商標)26/60カラムをSECに用いた。流速は、17cm/時に保った。20mMの酢酸ナトリウム、136mMのNaCl、及びpH5.5バッファーを用いてカラムを平衡化した後、6.5mLの試料を1CVの平衡バッファーと共にカラムに装入した。カラムに存在する抗体の純度は、SDS−PAGEによって評価した。
【0161】
還元条件下のSDS−PAGEにおいて、HClで精製したFab’及びF(ab’)2のFd’の軽鎖はいずれも25kDaのバンドとして移動する(図10)。これらの条件下では、グルコアミラーゼ−軽及びはグルコアミラーゼ−Fd’融合タンパク質は約50kDaのバンドとして移動すると考えられるので、これらが精製試料に存在しないことは明らかである。非還元条件下のSDS−PAGEでは、F(ab’)2が、Fab’の50kDa(図10のフラクションB7)に対して約100kDaのバンドとして移動するので、当該F(ab’)2が精製試料中に存在することは明らかである(図10のフラクションA5)。
【実施例15】
【0162】
アスペルギルスにおいて生産されたTrastuzumabが機能性であること(her2発現乳ガン細胞に結合し、その増殖を阻害すること)を検証するアッセイ
高レベルのHER2を発現させるヒト乳腺ガン細胞株であるSK−BR−3(ATCC番号:HTB−30)における、アスペルギルス形質転換体1−LC/HC−3によって製造されたTrastuzumabの効果を市販のTrastuzumab(Herceptin、Genentech、South San Francisco、カリフォルニア州)と比較した。96ウェルマイクロタイタープレートにおける細胞の増殖をアッセイするために、“CellTiter 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay”(Promega Corporation、マジソン、ウィルコンシン州)を製造者の説明書に従って用いた。SK−BR−3細胞を1ウェル当り1800細胞で塗布し、抗体添加前に6時間付着させ、72時間後にアッセイした。形質転換体1−LC/HC−3からのタンパク質A精製IgG1のSK−BR−3における増殖抑制効果を試験し、ハーセプチン及び未処理細胞と比較した。対照として、細胞株A−431細胞(ATCC番号:CRL−1555)を用いた。A−431は、高レベルのEGFレセプター及び低レベルのHER2を発現するヒト類表皮ガンである。ハーセプチンは、当該細胞株において増殖抑制効果をほとんど又は全く示さない。データは、未処理細胞と比較した増殖率(3つのウェルの平均)として示す(図11参照)。これらの結果は、SK−BR−3細胞株におけるTrastuzumabの増殖抑制効果についての報告(P.Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年)と一致するものであり、形質転換体1−LC/HC−3の培地上澄みから精製した抗体が、会合して特定の抗体HER2と結合し得る機能を有することを実証するものである。
【実施例16】
【0163】
アスペルギルスにおけるHu1D10抗体の生産
実施例10に記載と同様に発現ベクターを構築し、Aspergillus nigerにおいてHu1D10抗体(IgG1κ下位分類;S.a.Kostelnyら、Int.J.Cancer、93巻、556−565頁、2001年)の軽鎖及び重鎖を生産した。Hu1D10をコード化するcDNAを部位特異的変異誘発によって修飾し、内部BstEII部位を除去した。PCRプライマーは、5’末端にNhe1部位を増幅及び付加し、3’末端にBstEII部位を付加し、及び5’末端に特異的コドンを付加するように設計した。
【0164】
5’末端配列で変異したHu1D10軽鎖をコード化する2つのタイプcDNAを発現させた。Q101型のHu1D10軽鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列16】
【0165】
【0166】
Q100型のHu1D10軽鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列17】
【0167】
【0168】
その後、上記の増幅された軽鎖cDNAをアスペルギルス発現ベクター中に挿入し、pQ101又はpQ100を得ることができる。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターが存在することにより、軽鎖コード化cDNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。
【0169】
プラスミドpQ101は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKR、さらに成熟Hu1D10軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーを含んでいない。
【配列18】
【0170】
【0171】
プラスミドpQ100は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKRGGG、さらに成熟Hu1D10軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、また、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーとしてA.niger pyrG遺伝子を含む。
【配列19】
【0172】
【0173】
5’末端配列で変異したHu1D10重鎖をコード化する2つのタイプcDNAを発現させた。CL17型のHu1D10重鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列20】
【0174】
【0175】
CL16型のHu1D10重鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列21】
【0176】
【0177】
その後、上記の増幅された重鎖cDNAをアスペルギルス発現ベクター中に挿入し、pCL17又はpQCL16を得ることができる。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターが存在することにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。
【0178】
プラスミドpCL17は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKR、さらに成熟Hu1D10重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、また、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーとしてA.niger pyrG遺伝子を含む。
【配列22】
【0179】
【0180】
プラスミドpCL16は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKRGGG、さらに成熟Hu1D10重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーを含んでいない。
【配列23】
【0181】
【0182】
プラスミドpQ101及びpCL17を、実施例9及び12に記載の方法によってAspergillus niger var awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に同時形質転換した。最も優れたHu1D10生産形質転換体(3−Hu1D10−20e)を同定し、約0.2g/lのIgG1κを生産させることを明らかにした。
【0183】
プラスミドpQ100及びpCL16を、実施例9及び12に記載の方法によってAspergillus niger var awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に同時形質転換した。最も優れたHu1D10生産形質転換体(2−Hu1D10−16b)を同定し、約0.2g/lのIgG1κを生産させることを明らかにした。
【0184】
実施例12に記載の方法によって、これらの形質転換体の培地上澄みから抗体を精製した。菌株3−Hu1D10から得た精製抗体標本をAn−Hu1D10で表し、菌株2−Hu1D10−16bから得たものをAn−3G−Hu1D10で表す。
【実施例17】
【0185】
抗体の親和性及び結合活性(avidity)
Hu1D10(Kostelnyら、Int.J.Cancer、93巻、556−565頁、2001年)によって認識されるHLA−DRβ鎖アロタイプを発現する、ヒトバーキットリンパ種由来の細胞株Raji(ATCC、Manassas、ヴァージニア州)を、7.5%CO2恒温器に10%ウシ胎仔血清(FBS;HyClone、Logan、ユタ州)を含むRPMI−1640(Gibco BRL、Grand Island、ニューヨーク州)中に維持した。HLA−DRβ鎖に結合するHu1D10の親和性を、Raji細胞に結合した抗体の量を測定することにより評価した。Raji細胞(5x105
細胞/試験)を、種々の量(1μg/試験から始めて順次2倍希釈)の対照Hu1D10(NS0マウス骨髄腫細胞株に由来)、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10と共に、100μlのFACS染色バッファー(FSB;1%ウシ血清アルブミン及び0.2%アジ化ナトリウムを含有するPBS)における氷上で30分間培養した。培養した後、細胞をFSBで3回洗浄し、氷上でさらに30分間、フルオレセインイソチオシアナート(FTIC)結合AffiniPureヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove、ペンシルベニア州)と共に培養した。当該細胞をFSBで3回洗浄し、FACScan(Becton Dickinson、San Jose、カリフォルニア州)を用いてフローサイトメトリーによって分析した。抗体濃度(ng/試験)を平均チャンネル蛍光に対してプロットした(図12)。また、競合結合実験を行った。当該実験では、FSB中のFITC標識化NS0−Hu1D10(0.25μg/試験)及び競合抗体(対照NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10を6.25μg/試験から始めて順次2倍希釈)の混合物を添加して、最終体積100μlを1試験当り2つ調製した。全ての試料を氷上で30分間培養した。当該細胞をFSBで3回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。競合抗体の濃度を平均チャンネル蛍光に対してプロットした(図13)。NS0由来及びアスペルギルス由来のHu1D10抗体の間で、Raji細胞への結合における大きな違いは観測されなかった(図12及び13)。このことは、Aspergillus nigerにおけるHu1D10の生産は、抗原結合部位の構造にはほとんど影響を与えないことを示唆するものである。
【0186】
さらに、Raji細胞集団におけるアポトーシスの程度を(FITC−アネキシンV及びヨウ化プロピジニウムによる染色を用いて)モニターすることによって、Hu1D10の結合活性を測定した(I.Vermesら、J.Immunol.Methods、184巻、38−51頁、1995年)。対照NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10抗体のアポトーシス誘発能力を測定するために、10%FBSを含有するRPMI−1640に5x105細胞/mlで再懸濁させたRaji細胞を、2μgの抗体と共に37℃で5時間又は24時間培養した。その後、アポトーシス検出キットの1X結合バッファー(Pharmingen、San Diego、カリフォルニア州)で細胞を3回洗浄し、製造業者の説明書に従ってFITC結合アネキシンV及びヨウ化プロピジニウムで染色した。二色フローサイトメトリーによって細胞死を評価した。アポトーシスパーセントは、アネキシンVによる染色細胞の割合、及びアネキシンVとヨウ化プロピジニウムによる染色細胞の割合の合計として定義した。相対的な細胞蛍光をFACScanで分析した(図14)。
【0187】
これらの実験において、NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10の間で、アポトーシス誘発能力に大きな違いは観測されなかった。
【実施例18】
【0188】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)
ADCCによりRaji細胞を死滅させるNS0−Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10の能力を測定した(Kostelnyら、2001年)。エフェクター細胞(IE)としてヒトPMBCを用い及びターゲット細胞(T)としてRaji細胞を用いるLDH検出キット(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、イリノイ州)によって、ADCCを分析した。Ficoll−Paqueリンパ球単離溶液(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)を用いて、ヒト末梢血単核細胞(PMBC)を健康なドナーから単離した。ターゲット及びエフェクター細胞を、1%BSAを補充したRPMI−1640(Gibco BRL)で洗浄し、40:1のE:T比で96ウェルのU底プレート(Becton Dickinson)に添加した。Hu1D10抗体は、所望の濃度で当該ウェルに添加した。37℃で4時間培養した後、全てのプレートを遠心分離し、別個の96ウェル平底プレートにおいて、無細胞の上澄みをLDH反応混合物と共に25℃で30分間培養した。反応試料の吸光度を490nmで測定した。抗体の非存在下においてエフェクター及びターゲット才能を添加することによって、抗体非依存性細胞損傷(AICC)を測定した。ターゲット又はエフェクター細胞のみを添加することによって、自発放出(SR)を測定した。ターゲット細胞に2%のTriton−X100を添加することによって、最大放出(MR)を測定した。溶菌のパーセントを以下の式を用いて評価した:{(試料のLDH放出−エフェクター細胞のSR−ターゲット細胞のSR)/(ターゲット細胞のMR−ターゲット細胞のSR)}×100。各条件を2回行った。
【0189】
2つの異なるドナーからのヒトPBMCを分析に用いた。ドナー1(図15左)では、3つのHu1D10抗体にいずれにおいても、最大細胞損傷レベルは約40%に達した。当該実験では、アスペルギルス由来Hu1D10は、他の2つのHu1D10抗体よりもわずかに多く細胞損傷を誘発した。しかしながら、NS0由来Hu1D10及びアスペルギルス由来An−3G−Hu1D10抗体の間で、細胞損傷誘発における大きな違いは観測されなかった。ドナー2(図15右)では、最大細胞損傷は、3つのHu1D10抗体で15乃至20%であった。当該実験では、An−Hu1D10抗体は、他の2つのHu1D10抗体ほどは細胞損傷誘発活性を有していなかったが、当該3つの抗体における違いはわずかであった。これらの結果は、アスペルギルス由来Hu1D10抗体がADCC活性を示すことをはっきりと示唆するものである。
【実施例19】
【0190】
薬物動態学
A.niger菌株2−LC/HC−38bから精製したTrastuzumabとGenentech Inc.(South San Francisco)から市販されているTrastuzumabの薬物動態学を比較するために、ラットを用いる実験をインビボで行った。
【0191】
2つのグループのSpraque Dawleyラット(約250−300gの重量範囲)に、A.niger由来のTrastuzumab(N=3)又は市販のTrastuzumab(N=4)の2mg/kgを静脈注射した。動物には、最終濃度0.9mg/mlに希釈したTrastuzumab調合液を用いて個体の体重に応じて投与した。投与後0、1、4、8、24、48、72、及び96時間、及び、7、12、14日において、血清のための血液(0.5mL/試料)を採取した。採取後30分以内に当該血液試料を遠心分離して、血清を調製した。当該血清をデカントし(decanted)、−80℃の貯蔵庫に移す前に当該血清試料を氷上で保存した。これらの血清試料におけるヒトIgG1レベルを上述のELISAによって測定した。真菌由来の及び市販のTrastuzumabにおける血清濃度対時間のプロファイルを図16に示す。当該データの非区画化(noncompartmental)分析を行った(表1)。2LC/HC−38b及び市販のTrastuzumabにおける血清濃度対時間のプロファイルと同様に、当該分析におけるパラメーターは同様であった。市販のTrastuzumab及び2LC/HC−38bの血清における長い生存期間を考慮すると、この14日間の実験では、半減期の正確な算出はできなかった。しかしながら、生物学的等価性の評価において一般的に用いられるパラメーター、すなわち、Cmax(血清における抗体濃度の平均ピーク)及びAUClast(濃度−時間曲線の下側の面積)は、2LC/HC38b及び哺乳類細胞由来のTrastuzumabについて同等(comparable)のものであった。これらの結果は、真菌によるTrastuzumabの発現は、インビボにおける抗体の薬物動態学的性質に影響を与えなかったことを示唆するものである。
【0192】
以上、明確さ及び理解のために図面及び実施例を用いて、本発明を詳細に説明してきたが、特許請求の範囲の範囲内において特定の変更及び修正が可能であることは明らかであろう。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】図1は、抗体の略図であり、抗体の可変領域、及び種々の抗体断片の名称を示すものである。
【図2】図2は、Aspergillus niger又はAspergillus niger var.awamoriから得られるグルコアミラーゼの2つの形態を示すものである。
【図3】図3は、プラスミドpQ83を示す図である。
【図4】図4は、プラスミドpCL1を示す図である。
【図5】図5は、第2のTrastuzumab重鎖発現プラスミドであるpCL5を示す図である。
【図6】図6は、プラスミドpCL2を示す図である。
【図7】図7は、プラスミドpCL3を示す図である。
【図8】図8は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルー染色による還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3(レーン3)について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化及びグリコシル化形態(50及び53kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。形質転換体1−HCΔ−4(レーン2)について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化形態(50kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。形質転換体1−Fab−1(レーン1)について観測されたバンドは、軽鎖及びFd’鎖(いずれも25kDa)、及びグルコアミラーゼ−軽鎖及びグルコアミラーゼ−Fd’の融合タンパク質(いずれも85kDa)と同定された。
【図9】図9は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルーによる非還元条件下におけるSDS−PAGE(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA州からのNuPAGEトリス酢酸電気泳動システム)の結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3(レーン4)について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。形質転換体1−HCΔ−4(レーン3)について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。形質転換体1−Fab−1(レーン1)について観測された主なバンドは、会合Fab’(50kDa)、及びグルコアミラーゼ1分子が付着した会合Fab’(〜100kDa)と同定された。
【図10】図10は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー、その後にサイズ排除クロマトグラフィーによって形質転換体1−Fab−12の上澄みから精製したFab’及びF(ab’)2の試料についての、還元及び非還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。A5、B11、B7、及びB3は、サイズ排除クロマトグラフィーカラムから採取した異なるフラクションを示している。
【図11】図11は、ヒトの乳腺ガン細胞系であるSK−BR−3(ATCC番号:HTB−30)におけるHER2抗体の増殖抑制効果を示すグラフである。市販のハーセプチン抗体を菱形(◆)及び三角形(▲)で表す。Aspergillus形質転換体1LC/HC−3抗体を円形(●)及び正方形(■)で表す。対照細胞は、A−431であり、これは、高レベルのEGF及び低レベルのHER2を発現するヒト類表皮ガンである。
【図12】図12は、NS0マウスの骨髄腫細胞系に由来するHu1D10抗体(正方形;■)、及び2つのAspergillus生成抗体(An−3G−Hu1D10[円形;●]、及びAn−Hu1D10[逆三角形:▼]で表す)のラジ細胞(Raji cell)への結合を示すグラフである。結合における大きな違いは観測されなかった。
【図13】図13は、NS0マウスの骨髄腫細胞系に由来するHu1D10抗体(正方形;■)、及び2つのAspergillus生成抗体(An−3G−Hu1D10[円形;●]、及びAn−Hu1D10[逆三角形:▼]で表す)とFITC標識化抗体によるラジ細胞への競合結合を示すグラフである。結合における大きな違いは観測されなかった。
【図14】図14は、5時間又は24時間において、Hu1D10、An−3G−Hu1D10、及びAn−Hu1D10によってアポトーシスが誘発された細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。アポトーシス誘発における大きな違いは観測されなかった。
【図15】図15A及びBは、2つの異なるドナーにおいて試験したそれぞれ3つの抗体(すなわち、Hu1D10、An−3G−Hu1D10、及びAn−Hu1D10)により達した抗体依存性細胞障害作用のレベルを示すグラフである。アスペルギルス由来の抗体によるADCC活性が見られる。
【図16】CHO由来及びアスペルギルス由来のTrastuzumabにおけるインビボ薬物動態学のグラフである。薬物動態学の傾向おける大きな違いは、真菌由来の抗体について観測されなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌からの免疫グロブリンの分泌の増大に関する。本発明は、当該免疫グロブリンを得るための融合核酸、ベクター、融合ポリペプチド、及び方法を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
大腸菌、酵母、及び糸状菌を含む多くの微生物において、融合ポリペプチドの生産が報告されている。例えば、ウシキモシン及びブタ膵臓プロホスホリパーゼA2が、いずれも、Aspergillus niger(黒色アスペルギルス)やAspergillus niger var.awamori(これまでは、アスペルギルス
アワモリとして知られていた)において、全長(full−length)グルコアミラーゼ(GAI)への融合体として生産されている(米国特許第5,679,543号;Wardら、Bio/technology、8巻、435−440頁、1990年;Robertsら、Gene、122巻、155−161頁、1992年)。ヒトインターロイキン6(hIL6)が、A.nidulansにおいて、全長A.nigerGAIへの融合体として生産されている(Contrerasら、Biotechnology、9巻、378−381頁、1991年)。ニワトリ卵白リゾチーム(Jeenesら、FEMS Microbiol.Lett.、107巻、267−272頁、1993年)及びヒトラクトフェリン(Wardら、Bio/technology、13巻、498−503頁、1995年)が、A.nigerにおいてグルコアミラーゼの残基1−498の融合体として生産され、及び、hIL6が、A.nigerにおいてグルコアミラーゼの残基1−514の融合体として生産されている(Broekhuijsenら、J.Biotechnol.、31巻、135−145頁、1993年)。上記のいくつかの実験(Contrerasら、1991年;Broekhuijsenら、1993年;Wardら、1995年)では、グルコアミラーゼと所望のポリペプチドとの間にKEX2プロテアーゼ認識部位(Lys、Arg)が挿入され、天然AspergillusKEX2様プロテアーゼ(これをKEXBと表す)の働きの結果として、融合蛋白質から所望のポリペプチドが生体内(in vivo)で放出される。
【0003】
さらに、ウシキモシンは、A.niger var.awamoriにおいて全長な天然アルファ−アミラーゼとの融合体として生産され(Kormanら、Curr.Genet.、17巻、203−212頁、1990年)、及び、A.oryzaeにおいてA.orizaeグルコアミラーゼの不完全型(trancated form)との融合体として生産されている(1−603又は1−511残基;TsuchiyaらBiosci.Biotech.Biochem.、58巻、895−899頁、1994年)。小さいタンパク質(表皮成長ホルモン;53アミノ酸)は、アスペルギルス属において当該タンパク質の3つの複製のタンデム融合体として生産されている(米国特許第5,218,093号)。N末端分泌シグナル配列の取り込みの結果、EGFの3量体が分泌される。しかしながら、当該EGF分子は、糸状菌によって効率的に分泌されたタンパク質とは更に融合せず、その後にモノマーEGFタンパク質を分離する方法も提供されていない。
【0004】
glaA遺伝子は、Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriの多くの菌株において発現したグルコアミラーゼをコード化する。当該遺伝子のプロモーター及び分泌シグナル配列を用いて、アスペルギルス属における異種遺伝子(例えば、上述のAspergillus nidulans及びAspergillus niger var.awamoriにおけるウシキモシン)が発現される(D.Cullenら、Bio/Technology、5巻、713−719頁、1987年、及び欧州特許公報第0215594号)。後者の実験では、プロキモシンcDNA、グルコアミラーゼ又はキモシン分泌シグナルのいずれか、及び1の態様では成熟グルコアミラーゼの第1の11コドンを含む、種々の構築物が得られている。A.awamoriから得られる分泌キモシンの最大収量は、50mlの振とうフラスコ培養で15ml/l以下であり、これは、pGRG3によりコード化されるキモシンシグナル配列を用いていられている。これらの既存の研究によって、プラスミドコピーの総数はキモシンの収量と相関性がないことが示唆される。大量のポリアデニル化キモシンmRNAが生産されており、分泌シグナルの原因に関わらず、キモシンの細胞内レベルは特定の形質転換体において高くなった。転写がキモシン生産における制限因子ではなかったが、分泌の効率が悪かったものと推論される。また、グルコアミラーゼの小さなアミノ末端断片(11アミノ酸)をプロキモシンのプロペプチドへ添加することによっては、成熟キモシンの活性化が回避できないことが明らかである。しかしながら、グルコアミラーゼの第1の11コドンによって得られた細胞外キモシンの量は、グルコアミラーゼシグナルのみを用いた場合に比べて大幅に少なかった。その後、全長グルコアミラーゼとプロキモシンよりなる融合タンパク質が生産された場合に、キモシンの生産が大きく増大することが実証されている(米国特許出願08/318,494;Wardら、Bio/technology、8巻、435−440頁、1990年)。
【0005】
Aspergillus nigerとAspergillus niger var.awamori(A.awamori)のグルコアミラーゼは、同一のアミノ酸配列を有している。当該グルコアミラーゼは、まずプレプログルコアミラーゼとして合成される。プレ領域とプロ領域は分泌工程の間に除去され、成熟グルコアミラーゼが外部培養液に放出される。培養液の上澄み中には、2つの形態の成熟グルコアミラーゼが見られる。すなわち、GAIは、その完全型(1−616のアミノ酸残基)であり、GAIIは、1−512のアミノ酸残基を含む天然のタンパク質分解ドメインである。GAIは、伸長リンカー領域によって連結される2つの別個のドメインとして折り畳まれていることが知られている。当該2つの別個のドメインは、471残基の触媒ドメイン(アミノ酸1−471)及び108残基のデンプン結合ドメイン(アミノ酸509−616)であり、リンカー領域は、36残基の長さ(アミノ酸472−508)である。GAIIには、デンプン結合ドメインが存在しない。これらのグルコアミラーゼの構造の詳細は、Libbyらによって総説されており(Protein Engineering、7巻、1109−114頁、1994年)、図2にも図示されている。
【0006】
Trichoderma reeseiは、伸長リンカー領域によって隔てられた2つの別個のドメイン(触媒及び結合ドメイン)に折り畳まれるいくつかのセルラーゼ酵素(例えば、セロビオヒドロラーゼ(CHBI))を生産する。異種(foreign)ポリペプチドが、CHBIの触媒ドメイン及びリンカー領域との融合体としてT.reeseiにおいて分泌される(Nyyssonenら、Bio/technology、11巻、591−595頁、1993年)。
【0007】
今日まで、抗体の生産は、トランスジェニック動物、哺乳類細胞培養、又は植物において行われてきた。これらの方法は、1以上の欠点を有する。例えば、トランスジェニック動物及び哺乳類細胞培養は、それぞれ、ウイルス又はその他の偶発的要因(例えば、プリオン)に汚染されるというリスクを有する。さらに、これらの生産システムにおける規模の拡大は制限される。遺伝子組換え植物では、組換えタンパク質の生産に約10ヶ月を要し、一方、哺乳類細胞培養では、約3ヶ月を要するであろう。従って、抗体生産のための新規な方法に対する需要が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、免疫グロブリンの生産のための核酸、細胞、及び方法を提供するものである。
【0009】
第1の態様では、機能性モノクローナル免疫グロブリンをコード化する核酸を提供する。1の側面では、第1、第2、第3、及び第4の核酸配列と作動可能に連結した制御配列を含む核酸を提供する。所望ならば、第4核酸配列の後にターミネーター配列が提供される。第2の側面において、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン鎖又はそれらの断片をコード化する。
【0010】
第3の側面では、免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む発現カセットを提供する。
【0011】
第2の態様では、機能性モノクローナル抗体の発現方法を提供する。1の側面において、宿主細胞は、(i)第1の免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む第1の発現カセットで形質転換され、(ii)第2の免疫グロブリン鎖をコード化する核酸配列を含む第2の発現カセットで形質転換され、及び(iii)免疫グロブリン鎖を発現させるために適切な条件下で培養される。所望ならば、当該免疫グロブリン鎖を回収することができる。1の態様において、当該免疫グロブリン鎖は、融合タンパクとして発現する。当該発現した融合免疫グロブリン鎖は、その後、機能性抗体として会合し、分泌される。
【0012】
第3の態様では、免疫グロブリンを発現させることができる細胞を提供する。宿主細胞は、第1の免疫グロブリン鎖タイプ(例えば、重鎖又は軽鎖のいずれか)をコード化する第1の発現カセット、及び第2の免疫グロブリン鎖タイプ(例えば、重鎖又は軽鎖のいずれか)をコード化する第2の発現カセットという2つの発現カセットによって形質転換される。当該重鎖は、任意の免疫グロブリン類であることができる。
【0013】
第4の態様では、機能性モノクローナル免疫グロブリンを提供する。1の側面において、当該機能性モノクローナル抗体鎖は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び、成熟グルコアミラーゼのアミノ酸数502までのリンカー領域、その後のアミノ酸YKR及び成熟免疫グロブリン鎖を含む融合タンパク質として発現する。1の鎖は、重鎖又は軽鎖のいずれかであることができる。
【0014】
第2の側面では、十分に会合した抗体は、プロテアーゼで処理され、融合タンパク質から免疫グロブリンが解放される。第3の側面では、抗体は、脱グリコシル化酵素によって処理される。
【0015】
本発明におけるその他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明によって明確になるであろう。しかしながら、当該詳細な説明及び実施例は(本発明の好ましい実施態様を示すものではあるが)、例示の目的のみによって記載されるものである。また、当業者には、当該詳細な説明によって、本発明の範囲内における種々の変更及び改変が明確になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の発明者は、所望の抗体が、これまで他の発現系を用いた場合よりも高いレベルで、糸状菌において発現及び分泌し得ることを見出した。
【0017】
以下の定義及び実施例を用い、参照のみを目的として本発明を詳細に説明する。本明細書において言及される全ての特許及び文献(そのような特許及び文献中に開示される全ての配列を含む)は、引用により明示的に援用する。
【0018】
本明細書において特に別途定義しない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY、第2版、John Wiley and Sons、ニューヨーク(1994年)、及びHale&Marham、THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY、Harper Perennial、ニューヨーク(1991年)は、当業者にとって、本発明において用いられている多くの用語を収録する一般的な辞書である。本明細書に記載されるものと類似又は等価である任意の方法及び物質を、本発明の実施又は試験において用いることができるのではあるが、ここでは、好ましい方法及び物質について説明する。数値範囲には、当該範囲を規定する数字が含まれる。特に示さない限り、核酸は左から右に5’から3’の方向へ記載し、アミノ酸配列は、左から右にアミノ末端からカルボキシ末端の方向へ記載する。実施者は、当該技術分野における定義及び用語のためにSambrookら、1989年、及びAusubel FMら、1993年を特に対象にする。本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、手順、及び試薬に限定されるものではなく、変更可能なものである。
【0019】
本明細書における見出しは、明細書全体にわたる本発明の種々の側面及び実施態様を制限するものではない。従って、以下に定義する用語は、本明細書全体を参照することによってさらに明確に定義される。
【0020】
定義
本明細書において、“単離された”又は“精製された”という語は、天然に由来する少なくとも1の成分から除去された核酸、アミノ酸、及びポリペプチドについて用いられる。
【0021】
“発現カセット”及び“発現ベクター”という語は、標的細胞中において特定の核酸の転写を可能とする一連の特定核酸要素を用いて、組換え技術または合成により生産された核酸構築物について用いられる。当該組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、色素体DNA、ウイルス、又は核酸断片の中に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも特に、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。発現カセットは、DNA構築物及びその文法的均等物と同義的にもちいることができる。
【0022】
本明細書において、“ベクター”という語は、核酸配列を細胞中に移動させるために設計された核酸構築物について用いられる。“発現ベクター”という語は、異種DNA断片を外来細胞中に組み込み、発現させ得るベクターについて用いられる。多くの原核及び真核生物の発現ベクターが市販されている。適当な発現ベクターを選択することは当業者の知識の範囲内である。
【0023】
本明細書において、“プラスミド”という語は、クローニングベクターとして用られる環状二本鎖(ds)DNA構築物について用いられ、これは、真核生物内で染色体外自己複製遺伝子要素を形成する。
【0024】
“核酸分子”及び“核酸配列”という語には、RNA、DNA、及びcDNA分子が含まれる。遺伝子コードの縮退の結果として、所定のタンパク質をコード化する多数のヌクレオチド配列が生産され得ることが理解できるであろう。
【0025】
本明細書において、“融合DNA配列”は、5’から3’の第1、第2、第3、及び第4のDNA配列を含む。
【0026】
本明細書において、“第1核酸配列”又は“第1DNA配列”は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチドをコード化する。そのようなシグナル配列には、Aspergillus niger var.awamori、Aspergillus niger、Aspergillus oryzaeからのグルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、及びアスパルチルプロテアーゼに由来するシグナル配列、TrichodermaからのセロビオヒドロラーゼI、セロビオヒドロラーゼII、エンドグルカナーゼI、エンドグルカナーゼIIIに由来するシグナル配列、Neurospora及びHumicolaからのグルコアミラーゼに由来するシグナル配列、及び、真核生物に由来するシグナル配列(例えば、ウシキモシン、ヒト組織プラスミノゲン活性化因子、ヒトインターフェロンに由来するシグナル配列)、及び、合成コンセンサス(consensus)真核生物シグナル配列(例えば、Gwynneら、Bio/Technology、5巻、713−719頁、1987年、に記載されている)を含む。特に好ましいシグナル配列は、融合タンパク質の発現及び分泌に用いられる発現宿主によって分泌されたポリペプチドに由来するものである。例えば、Aspergillus nigerからの融合ペプチドを発現及び分泌させる場合には、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼに由来するシグナル配列が好ましい。本明細書において、第1アミノ酸配列は、糸状菌において機能する分泌配列に対応する。そのようなアミノ酸配列は、上記の第1DNA配列によってコード化される。
【0027】
本明細書において、“第2DNA配列”は、糸状菌から正常に発現される“分泌ポリペプチド”をコード化する。当該分泌ポリペプチドには、Aspergillus niger var.awamori、Aspergillus niger、及びAspergillus oryzaeからのグルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、及びアスパルチルプロテアーゼ、TrichodermaからのセロビオヒドロラーゼI、セロビオヒドロラーゼII、エンドグルカナーゼI、エンドグルカナーゼIII、及び、Neurospora種及びHumicola種からのグルコアミラーゼが含まれる。第1DNA配列の場合と同様に、好ましい分泌ポリペプチドは、糸状菌の発現宿主によって天然に分泌されるものである。従って、例えば、Aspergillus nigerを用いる場合には、好ましい分泌ポリペプチドは、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼ及びα−アミラーゼであり、最も好ましくはグルコアミラーゼである。1の側面では、当該グルコアミラーゼは、アスペルギルスグルコアミラーゼと95%、96%、97%、98%、又は99%より高い相同性である。
【0028】
アスペルギルスグルコアミラーゼが、第2DNA配列によってコード化された分泌ポリペプチドである場合、当該タンパク質の全体又は部分を用いることができる(所望ならば、プロ配列を含む)。従って、開裂可能なリンカーポリペプチドは、位置468−509の任意のアミノ酸残基においてグルコアミラーゼと融合することができる。その他のアミノ酸残基も融合部位となることができるが、上記の残基を利用するのが特に有益である。
【0029】
“分泌ポリペプチドの機能性部分”又は文法的均等物という語は、(短小化されているにもかかわらず)正常の立体配置に折り畳まれる機能を維持している短小化(truncated)分泌ポリペプチドを意味する。例えば、A.niger var.awamoriにより生産されるウシキモシンの場合、成熟グルコアミラーゼの11番目のアミノ酸の後におけるプロキモシンの融合は、プレプロキモシンの生産に比べ有益ではないことが明らかとなっている(米国特許第5,364,770号)。米国特許出願08/318,494では、成熟グルコアミラーゼのアミノ酸1−11の繰り返しと成熟グルコアミラーゼの297番目のアミノ酸までのプレプログルコアミラーゼのC末端におけるプロキモシンの融合において、A.niger var.awamoriで分泌キモシンが生成しないことが明らかとなっている。後者の場合、融合タンパク質に存在するグルコアミラーゼ触媒ドメインの一部(約63%)が正常に折り畳まれることができ、細胞によって分泌されない異常な、ミスフォールドの、及び/又は不安定な融合タンパク質が生産され得るとは考え難い。部分的触媒ドメインが正常に折り畳まれないのは、連結したキモシンの折り畳みを妨害するであろう。従って、天然に分泌されたポリペプチドのドメインにおける十分な残基が存在し、それにより、連結した所望のポリペプチドとは無関係に、正常な立体配置に折り畳まれることができると考えられる。
【0030】
ほとんどの場合、分泌ポリペプチドの部分は、正常に折り畳まれ、かつ、それがない場合よりも分泌を増大させるであろう。
【0031】
同様に、ほとんどの場合、分泌ポリペプチドの短小化(truncation)は、上記機能性部分が生物学的機能を保持することを意味する。好ましい実施態様では、分泌ポリペプチドの触媒ドメインは用いられるが、その他の機能性ドメイン(例えば、基質結合ドメイン)を用いることもできる。Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriの場合、好ましい機能性部分は、酵素の触媒部分を保持し、1−471のアミノ酸を含む。さらに、好ましい実施態様は、触媒ドメイン、及びリンカー領域の全部又は一部を活用するものである。或いは、グルコアミラーゼのデンプン結合ドメインを用いることができ、これは、Aspergillus niger及びAspergillus niger var.awamoriのグルコアミラーゼの509−616のアミノ酸を含む。
【0032】
本明細書において、“第3DNA配列”は、開裂可能リンカーポリペプチドをコード化するDNA配列を含む。そのような配列には、ウシキモシンのプロ配列、スブチリシンのプロ配列、レトロウイルスプロテアーゼ(例えば、ヒト免疫不全ウイルスプロテアーゼ)のプロ配列をコード化する配列、及び、トリプシン、ファクターXaコラゲナーゼ、クロストリパイン、スブチリシン、キモシン、酵母KEX2プロテアーゼ、アスパルギルスKEXB等により認識及び開裂されるアミノ酸をコード化するDNA配列が含まれる。例えば、F.A.O. Marston、Biol.Chem.J.、240巻、1−12頁(1987年)を参照されたい。また、当該第3DNA配列は、臭化シアンによって選択的に開裂され得るアミノ酸メチオニンをコード化することもできる。当該第3DNA配列は、融合タンパク質の開裂をもたらす特定の酵素又は化学物質によって認識される必要があるアミノ酸配列をコード化しさえすればよいことを理解すべきである。従って、(例えば)キモシン又はスブチリシンの全プロ配列を用いる必要はない。むしろ、適切な酵素による認識及び開裂に必要なプロ配列の一部があればよい。
【0033】
当該第3DNA配列は、融合タンパク質の開裂をもたらす特定の酵素又は化学物質によって認識される必要があるアミノ酸配列をコード化しさえすればよいことを理解すべきである。
【0034】
特に好ましい開裂リンカーは、KEX2プロテアーゼ認識部位(Lys−Arg)であり、これは、天然アスペルギルスKEX2様(KEXB)プロテアーゼ、Lys及びArgのトリプシンプロテアーゼ認識部位、及びエンドプロテイナーゼ−Lys−Cの開裂認識部位によって開裂することができる。
【0035】
本明細書において、“第4DNA配列”は、“所望のポリペプチド”をコード化する。当該所望のポリペプチドには、哺乳類免疫グロブリン鎖が含まれる。免疫グロブリンには、そこから大量に生産するのが望ましい任意の種からの抗体が含まれる(ただし、これに限定されるものではない)。当該抗体がヒト抗体であるのが特に好ましい。免疫グロブリンは、任意の属(すなわち、G、A、M、E、又はD)に由来するものであることができる。別の側面では、当該抗体はモノクローナルである。当該抗体鎖は、重鎖又は軽鎖のいずれかであることができる。“免疫グロブリン”及び“抗体”という語は、本明細書においては同義語的に用いられる。
【0036】
対応する4つのアミノ酸配列をコード化する上記4つのDNA配列は、結合して“融合DNA配列”を形成する。当該融合DNA配列は、5’末端から3’末端に第1、第2、第3、及び第4DNA配列の順で固有のリーディングフレーム(reading frame)に会合する。そのように会合することによって、当該DNA配列は、糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチド、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの一部、開裂可能なリンカーポリペプチド、及び所望のポリペプチドをアミノ末端からコード化する“融合ポリペプチド”又は“融合タンパク質”をコード化する。
【0037】
本明細書において、“プロモーター配列”は、発現のための特定の糸状菌によって認識されるDNA配列である。それは、上記で定義される融合ポリペプチドをコード化するDNA配列に作動可能に連結する。そのような連結には、融合DNA配列をコード化するDNA配列の翻訳開始コドンに関するプロモーターの位置決め(positioning)が含まれる。当該プロモーター配列は、融合DNA配列の発現を媒介する転写及び翻訳制御配列を含む。それらの例には、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、Rhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子、Trichoderma reeseiのセロビオヒドロラーゼI遺伝子(S.P.Shoemakerら、欧州特許出願EPO 0137280A1、1984年)、A.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.nidulans alcA遺伝子(R.A.Lockingtonら、Gene、33巻、137−149頁、1986年)、A.nidulans amdS遺伝子(G.L.McKnightら、Cell、46巻、143−147頁、1986年)、A.nidulans amdS遺伝子(M.J.Hynesら、Mol.Cell.Biol.、3巻、1430−1439頁、1983年)等の遺伝子からのプロモーター、及び、SV40初期プロモーターなどの高等真核生物のプロモーター(S.L.Barclay及びE.Meller、Molecular and Cellular Biology、3巻、2117−2130頁、1983年)が含まれる。
【0038】
同様に、“ターミネーター配列”は、発現宿主によって認識されて転写を終結させるDNA配列である。それは、発現する融合ポリペプチドをコード化する融合DNAの3’末端に作動可能に連結する。それらの例には、A.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子(EPO公報第0215594号)のターミネーターが含まれる。ただし、任意の真菌性(fungal)ターミネーターが、本発明において機能性であるであろう。
【0039】
“ポリアデニル化配列”は、転写される際に、発現宿主によって認識され、転写されたmRNAにポリアデノシン残基を付加するDNA配列である。それは、発現する融合ポリペプチドをコード化する融合DNAの3’末端に作動可能に連結する。それらの例には、上述のA.nidulansのtrpC遺伝子(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年)、A.niger var.awamori又はA.nigerグルコアミラーゼ遺伝子(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年;E.Boelら、EMBO J.、3巻、1581−1585頁、1984年)、A.oryzae、A.niger var.awamori、又はA.nigerのアルファ−アミラーゼ遺伝子、及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子(EPO公報第0215594号)のポリアデニル化配列が含まれる。ただし、任意の真菌性ポリアデニル化配列が、本発明において機能性であるであろう。
【0040】
本明細書において、“選択マーカーコード化ヌクレオチド配列”という語は、真菌細胞中で発現できるヌクレオチド配列であって、当該選択マーカーの発現により、対応選択試薬の存在下において当該発現遺伝子を含む細胞が成長することが可能とするヌクレオチド配列について用いられる。
【0041】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係で位置する場合に“作動可能に連結する”という。例えば、分泌リーダー(secretion leader)をコード化するDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合に、当該ポリペプチドについてのDNAに作動可能に連結し;プロモータ又はエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合に、コード配列に作動可能に連結し;或いは、リボソーム結合部位は、翻訳を促進する位置に存在する場合に、コード配列に作動可能に連結するという。一般に、“作動可能に連結”とは、結合するDNA配列が隣接することを意味し、分泌リーダーの場合には、隣接しかつリーディング・フェイス(reading phase)中にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、適宜の制限部位における連結反応(ligation)により達成される。そのような部位が存在しない場合には、従来法に従って合成オリゴヌクレオチド・アダプタが用いられる。
【0042】
本明細書において、“組換え体”という語には、異種核酸配列の導入により修飾された、又はそのように修飾された細胞由来の細胞である、細胞またはベクターについても用いられる。従って、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)型の細胞内に同一の形態では見られない遺伝子を発現し、或いは意図的な人間の介入の結果として発現しようがまたは全く発現されまいが、それがなければ異常発現する天然型遺伝子を発現する。
【0043】
本明細書において、“発現”という語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生産される工程をいう。当該工程には、転写及び翻訳の両方が含まれる。従って、“Ig鎖発現”という語は、発現される特異的Ig鎖の転写及び翻訳について用いられ、その生産物には、前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、転写後処理ポリペプチド、及びそれらの誘導体が含まれる。同様に、“Ig発現”という語は、Ig鎖の図1で表される形態への転写、翻訳、及び会合について用いられる。免疫グロブリンの発現の検出方法には、例えば、適切な条件に暴露された真菌コロニーの検査、Igタンパク質のウェスタンブロット法、さらには、免疫グロブリンmRNAのノーザンブロット分析及び逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイが含まれる。
【0044】
本明細書において、“グリコシル化”という語は、タンパク質上の特定のアミノ酸残基にオリゴ糖分子が付加されることを意味する。“脱グリコシル化”タンパク質は、タンパク質からオリゴ糖分子は部分的に又は完全に除去されるように処理されたタンパク質をいう。“アグリコシル化(aglycosylated)”タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を未だ有していないタンパク質をいう。このタンパク質は、オリゴ糖の付加を回避するタンパク質における変異に起因し得る。
【0045】
“非グリコシル化”タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を有していないタンパク質をいう。このタンパク質は、種々の理由、例えば、タンパク質へのオリゴ糖の付加に関与する酵素の不存在に起因し得る(ただし、これに限定されるものではない)。“非グリコシル化”という語には、タンパク質に付加されるオリゴ糖を未だ有していないタンパク質、及び、一旦オリゴ糖が付加されたが、その後除去されたタンパク質の両方が包含される。“アグリコシル化”タンパク質は、“非グリコシル化”タンパク質である場合がある。“非グリコシル化”タンパク質は、“アグリコシル化”タンパク質又は“脱グリコシル化”タンパク質のいずれかであることができる。
【0046】
融合タンパク質
対応する4つのアミノ酸配列をコード化する上記4つのDNA配列は、結合して“融合DNA配列”を形成する。当該融合DNA配列は、5’末端から3’末端に第1、第2、第3、及び第4DNA配列の順で固有のリーディングフレーム(reading frame)に会合する。そのように会合することによって、当該DNA配列は、糸状菌における分泌配列として機能するシグナルペプチド、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの一部、開裂可能なリンカーポリペプチド、及び所望のポリペプチド(例えば、免疫グロブリン鎖)をアミノ末端からコード化する“融合ポリペプチド”をコード化する。
【0047】
抗体は、1の軽鎖と1の重鎖という2種類の鎖により形成される。特定の抗原に対する特異性とは無関係に、抗体の基本的構造は同じである。いずれの抗体も、2つの異なる種類の4つのポリペプチド鎖を含む。当該鎖は、重鎖(50−70kDaのサイズ)及び軽鎖(25kDa)と呼ばれる。2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖は、それぞれ鎖間(interchain)ジスルフィド結合を介して連結し、抗体モノマーを形成する(図1)。また、当該鎖間ジスルフィド結合に加えて、重鎖及び軽鎖の両方に鎖内(intrachain)ジスルフィド結合も存在する。種々のタイプの重鎖及び軽鎖が確認されている。重鎖は、γ、μ、α、δ、又はεクラスであることができ、これらは、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEという分類の免疫グロブリンを形成する。これらの分類には下位分類(sub−class)が存在し、例えば、ヒトでは、それぞれ、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を形成するγ重鎖の4つの下位分類γ1、γ2、γ3、及びγ4が存在する。軽鎖は、λ又はκ型であることができるが、これは、免疫グロブリンの分類及び下位分類には影響しない。従って、ヒトIgG1分子は、2つの同一のγ1重鎖を含み、当該重鎖はλ又はκ型であることができる2つの同一の軽鎖と連結している(すなわち、IgG1λ又はIgG1κ)。
【0048】
重鎖は、別個の構造ドメインに分けることができる。例えば、γ重鎖は、アミノ末端から、可変領域(VH)、定常領域(CH1)、ヒンジ領域、第2定常領域(CH2)、及び第3定常領域(CH3)を含む。軽鎖は、構造的に2つのドメイン、すなわち、可変領域(VL)及び定常領域(CL)に分けることができる。重鎖が短小化されて特定の定常領域が除去された形状の抗体を、プロテアーゼ消化又は組換えDNAの方法論によって発生させることができる。例えば、IgGのFab断片(図1)は、ヒンジ領域とCH2及びCH3ドメインがない重鎖(Fd)の形状を有し、一方、IgGのFab’断片(図1)は、ヒンジ領域を含むがCH2及びCH3ドメインがない重鎖(Fd’)の形状を有する。
【0049】
それぞれの鎖は、宿主真菌細胞によって融合タンパク質として発現する。当該鎖が会合して、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む完全な抗体となる。
【0050】
融合ポリペプチドを開裂させて所望の抗体を放出することが有用な場合があるが、必須のものではない。融合タンパク質として発現及び分泌された抗体は、驚くべきことに、会合してその抗原結合機能を保持する。
【0051】
組換え免疫グロブリン及び免疫グロブリン断片の発現
本発明は、lgコード化核酸配列を含む発現ベクターによって形質導入、形質転換、又は形質移入された糸状菌宿主細胞を提供する。培養条件(例えば、温度、pHなど)は、形質導入、形質転換、又は形質移入の前の親宿主細胞に用いられている条件であり、当該技術分野における当業者には明らかであろう。
【0052】
1つのアプローチでは、糸状菌細胞株は、Ig鎖及び十分に会合したIgを当該細胞株中で発現するようにIg鎖をコード化する核酸配列に作動可能に連結した、プロモーター又は生物学的に活性なプロモーター、或いは宿主細胞株において機能する1以上の(例えば、一連の)エンハンサーを有する発現ベクターによって形質移入される。好ましい実施態様では、当該DNA配列はIgコード化配列をコード化する。別の好ましい実施態様では、前記プロモーターは制御可能なものである。
【0053】
A.核酸構築物/発現ベクター
免疫グロブリンをコード化する天然又は合成ポリヌクレオチド断片(“免疫グロブリンコード化核酸配列”)は、糸状菌細胞中に導入可能な及びそこで複製可能な異種核酸構築物又はベクター中に取り込まれることができる。本明細書に開示するベクター及び方法は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子を発現させるための宿主細胞における使用に適切なものである。それが導入される細胞において複製可能でありかつ生存可能である限り、任意のベクターを用いることができる。多数の適切なベクター及びプロモーターが、当該技術分野における当業者には公知であり、市販されている。また、糸状菌細胞における使用に適切なクローニングベクター及び発現ベクターが、Sambrookら、1989年、及びAusubel FMら、1989年、において記載されている(それらは、明示的に引用により本明細書中に取り込まれる)。適切なDNA配列は、種々の手法により、プラスミド又はベクター(本明細書では、まとめて“ベクター”という)中に挿入することができる。一般には、当該DNA配列は、標準的な手法により、適切な制限エンドヌクレアー部位に挿入される。そのような手法及び関連するサブクローニングの手法は、当該技術分野における技術常識の範囲内であるとみなされる。
【0054】
適切なベクターは、典型的には、選択マーカーコード化核酸配列、挿入部位、及び適切な調節因子(例えば、終結配列)を有する。当該ベクターは、例えば、イントロン及び調節因子などの非コード配列調節配列(すなわち、プロモーター及びターミネーター要素、又は、5’及び/又は3’の非翻訳領域)を含む調節配列を含むことができる。これらは、宿主細胞(及び/又は、修飾された溶解性タンパク質抗原コーディング配列が通常は発現しないベクター又は宿主細胞環境)におけるコーディング配列の発現に効果的であり、コーディング配列に作動可能に連結する。多数の適切なベクター及びプロモーターは、当該技術分野における当業者には公知であり、その多くは、市販されており及び/又は上述のSambrookらの文献に記載されている。
【0055】
典型的なプロモーターには、構成的プロモーター及び誘導性プロモーターの両方が含まれる。それらの例には、CMVプロモーター、SV40初期プロモーター、RSVプロモーター、EF−1αプロモーター、上述のtet−on又はtet−off系にtet反応性因子(TRE)を有するプロモーター、ベータアクチンプロモーター、及び特定の金属塩の添加によって上方制御され得るメタロチオネインプロモーターが含まれる。本発明の好ましい実施態様では、glaAプロモーターが用いられる。このプロモーターは、マルトースの存在下において誘導される。上記プロモーターは、当該技術分野における当業者に周知である。
【0056】
固有の選択マーカーの選択は宿主細胞に依存し、種々の宿主に対する適切なマーカーは当該技術分野において周知である。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えば、アンピシリン、メトトレキサート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southern及びJ.Berg、1982年)、マイコフェノール酸、(Mulligan及びBerg、1980年)、ピューロマイシン、ゼオマイシン、又はヒグロマイシン(Sugdenら、1985年)に対する耐性をもたらすタンパク質、又は(b)宿主株における栄養要求性変異又は自然発生栄養欠乏をもたらすタンパク質をコード化する。好ましい実施態様では、真菌pyrG遺伝子が好ましい選択マーカーとして用いられる(D.J.Ballanceら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、112巻、284−289頁、1983年)。別の好ましい実施態様では、真菌amdS遺伝子が選択マーカーとして用いられる(J.Tilburnら、Gene、26巻、205−221頁、1983年)。
【0057】
選択された免疫グロブリンコード配列じゃ、周知の組換え技術によって適切なベクターに挿入され、及び免疫グロブリンを発現し得る細胞株を形質転換するために用いることができる。遺伝子コードの先天的な縮重により、実質的に同一の又は機能的に等価なアミノ酸配列をコード化する素の他の核酸配列を用いて、上述のように特定の免疫グロブリンをクローン化及び発現させることができる。それゆえ、当然ながら、コード領域におけるそのような置換は、本発明に含まれる配列変異体に該当する。任意の及び全ての当該配列変異体は、親免疫グロブリンコード化核酸配列について本明細書で説明した手法と同じ手法で用いることができる。当該技術分野における当業者であれば、異なる免疫グロブリンが異なる核酸配列によってコード化されることを認識できるであろう。
【0058】
いったん所望の形態の免疫グロブリン核酸配列、相同体、変異体、又はそれらの断片が得られると、それらは種々の手法で修飾することができる。当該配列が非コードフランキング領域を含む場合、当該フランキング領域は、切除(resection)、突然変異誘発などで処理することができる。従って、自然発生配列において、転位、トランスバージョン、欠失、及び挿入を行うことができる。
【0059】
異種核酸構築物は、免疫グロブリンに対するコード配列、それらの変異体、断片又はスプライスが含むことができ、それは、(i)単独の;(ii)更なるコード配列、例えば、融合タンパク又はシグナルペプチドコード配列と組合せた(ここで、当該免疫グロブリンは優性のコード配列である);(iii)適切な宿主におけるコード配列の発現に効果的な非コード配列、例えば、イントロン及び調節因子(例えば、プロモーター、ターミネーター、又は、5’及び/又は3’非翻訳領域)と組合せた;及び/又は、(iv)免疫グロブリンコード配列が異種遺伝子であるベクター又は宿主細胞環境におけるものであることができる。
【0060】
適切なプロモーター及び調節配列と共に、上述の適切な核酸コード配列を有する異種核酸を用いて、糸状菌を形質転換することができ、それにより、細胞が免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリンを発現することができる。
【0061】
本発明の1の側面では、異種核酸構築物を用いることによって、好ましい樹立細胞系により免疫グロブリンコード化核酸配列を生体外の細胞に移行される。好ましくは、生産宿主として用いられる細胞株は、安定に組込まれた本発明の核酸配列を有する。従って、安定な形質転換体の発生に効果的に任意の方法を、本発明の実施において用いることができる。本発明の1の側面において、第1及び第2の発現カセットは、単一のベクター又は別個のベクター中に存在することができる。
【0062】
本発明の実施では、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学における慣用技術を用いることができ、それらは、当該技術分野における技術の範囲内である。当該技術は、文献において十分に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”、第2版(Sambrook、Fritsch&Maniatis、1989年);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney編集、1987年);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubelら編集、1987年);及び、“Current Protocols in Immunology”(J.E.Coliganら編集、1991年)を参照されたい。上記及び下記に言及する全ての特許、特許出願、論文、出版物は、引用により本明細書中に明示的に引用される。
【0063】
B.宿主細胞及び培養条件
本発明は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子を発現させるために効果的な態様で修飾、選択、及び培養された細胞を含む細胞株を提供する。
【0064】
免疫グロブリンの発現のために処理及び/及び又は修飾され得る親細胞株の例には、糸状菌細胞が含まれる(ただし、これに限定されるものではない)。本発明の実施において適切な初代(primary)細胞タイプの例には、アスペルギルス属及びトリコデルマ属が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。
【0065】
免疫グロブリン発現細胞は、親細胞株の培養に通常用いられる条件下で培養される。一般に、細胞は、生理的塩及び栄養分を含有する標準的な培養液、例えば、5−10%の血清()ウシ胎仔血清が補充された標準RPMAI、MEM、IMEM、又はDMEMにおいて培養される。培養条件もまた、標準的なものであり、例えば、培養液は、所望のレベルの免疫グロブリンが発現するまで、静置培養又は回転培養で37℃においてインキュベートされる。
【0066】
所定の細胞株に対する好ましい培養条件は、化学文献及び/又は細胞株の供給源(例えば、米国菌培養収集所(ATCC;http://www.atcc.org/))から知ることができる。典型的には、細胞の成長が達成された後、当該細胞は、免疫グロブリン鎖及び十分に会合した免疫グロブリン分子の発現をもたらし又は阻害するために効果的な条件に曝露される。
【0067】
好ましい実施態様において、免疫グロブリンコード配列が誘導性プロモーターの制御下にある場合、誘発剤(例えば、炭水化物、金属塩、又は抗生物質)が、免疫グロブリンの発現を誘発するために効果的な濃度で培養液に添加される。
【0068】
C.宿主細胞への免疫グロブリンコード化核酸配列の導入
本発明は、さらに、外因的に提供された免疫グロブリンコード化核酸配列を含むように遺伝子組換えされた細胞及び細胞構成物を提供する。親の細胞又は細胞株は、クローニングベクター又は発現ベクターによって遺伝子組換え(すなわち、形質導入、形質転換、又は形質移入)され得る。当該ベクターは、例えば、上述したようにプラスミド、ウイルス粒子、ファージ等の形態であることができる。好ましい実施態様では、プラスミドを用いて、糸状菌が形質移入される。形質転換は、逐次形質転換又は同時形質転換であることができる。
【0069】
種々の方法を用いて、生体外の細胞に発現ベクターを運搬することができる。異種核酸配列の発現のために核酸を細胞中に導入する方法は、当該技術分野における当業者には公知であり、それらには例えば、エレクトロポレーション;核酸の顕微注入又は単細胞への直接顕微注入;無傷細胞による細菌性原形質融合;ポリカチオン(例えば、ポリブレン又はポリオルニチン)の使用;リポソーム、リポフェクタミン、又はリポフェクション媒介形質移入による膜融合;DNAをコーティングしたマイクロプロジェクタイルによる高速照射(bombardment);リン酸カルシウム−DNA沈殿物による培養;DEAE−Dextranによる形質移入;修飾ウイルス核酸による感染;アグロバクテリウムによるDNAの転移(transfer)などが含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。さらに、免疫グロブリンコード化核酸配列を含む異種核酸構築物を生体外で転写することができ、得られたRNAを周知の方法(例えば、注入)によって宿主細胞に導入することができる。
【0070】
免疫グロブリン鎖に対するコード配列を含む異種核酸構築物の導入の後、当該遺伝子組換え細胞は、プロモーターを活性化し、形質転換体を選択し、又は免疫グロブリンコード化核酸配列の発現を増幅させるために適切なように修正された慣用的な栄養培地において培養することができる。温度、pH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞において用いられた条件であり、当該技術分野における当業者には明らかであろう。
【0071】
上記異種核酸構築物が導入された細胞の子孫は、通常、当該異種核酸構築物中に見られる免疫グロブリンコード化核酸配列を含むものとみなされる。
【0072】
真菌の発現
適切な宿主細胞には、糸状菌細胞が含まれる。発現宿主として、また第1及び第2核酸の源としての役割を果たす本発明の“糸状菌”は、真核微生物であり、Eumycotinaの一部である全ての線状体が含まれる(C.J.Alexopoulus、Introductory Mycology、New York:Wiley、1962年)。これらの糸状菌は、キチン、グルカン、及びその他の複合多糖類よりなる細胞壁を有する栄養菌糸体によって、特徴付けられる。本発明の糸状菌は、形態学的に、生理学的に、及び遺伝学的に酵母とは区別される。糸状菌による栄養成長は、菌糸伸長によるものである。対照的に、酵母(例えば、S.セレビシェ)による栄養成長は、単細胞性葉状体の出芽によるものである。S.セレビシェと糸状菌の相違点は、例えば、S.セレビシェが、アスペルギルス及びトリコデルマのイントロンを処理する能力がないこと、及び糸状菌の多くの転写制御因子を認識する能力がないことである(M.A.Innisら、Science、228巻、21−26頁、1985年)。
【0073】
種々の糸状菌を発現宿主として用いることができる。それらには、例えば、以下の属:アスペルギルス属、トリコデルマ属、アカパンカビ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、セファロスポリウム属(Cephalosporium)、アクリア属(Achlya)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、ポドスポラ属(Podospora)、エンダチア属(Endothia)、ムコール属(Mucor)、フザリウム属(Fusarium)、フミコーラ属(Humicola)、及びクリソスポリウム属(Chrysosporium)が含まれる。特異的発現宿主には、A.nidulans(M.Yeltonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、1470−1474頁、1984年;E.J.Mullaneyら、Mol.Gen.Genet.、199巻、37−45頁、1985年;M.A.John及びJ.F.Peberdy、Enzyme Microb.Technol.、6巻、386−389頁、1984年;Tiburnら、Gene、26巻、205−221頁、1982年;D.J.Ballanceら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、112巻、284−289頁、1983年;I.L.Johnstonら、EMBO J.、4巻、1307−1311頁、1985年)、A.niger(J.M.Kelly及びM.Hynes、EMBO、4巻、475−479、1985年)、A.niger var.awamori(例えば、NRRL
3112、ATCC 22342、ATCC 44733、ATCC 14331、及び菌株UVK 143f)、A.oryzae(例えば、ATCC 11490)、N.crassa(M.E.Caseら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76巻、5259−5263頁、1979年;Lambowitz、米国特許第4,486,553号;J.A.Kinsey及びJ.A.Rambosek、Molecular and Cellular Biology、4巻、117−122、1984年;J.H.Bull及びJ.C.Wooton、Nature、310巻、701−704頁、1984年)、Tricoderma reesei(例えば、NRRL
15709、ATCC 13631、56764、56765、56466、56767)、及びTricoderma viride(例えば、ATCC 32098及び32086)が含まれる。好ましい発現宿主は、主要な分泌アスパルチルプロテアーゼをコード化する遺伝子が欠失したA.niger var.awamoriである。当該好ましい発現宿主の生産は、1988年7月1日に出願された米国特許出願第214,237号に記載されており、これは、引用により明示的に本明細書中に援用される。
【0074】
真菌(真核生物)における分泌工程において、分泌タンパク質は、細胞質から小胞体へ膜を横切る。ここで、タンパク質が折り畳まれ、ジスルフィド結合が形成される。シャペロンタンパク質(例えば、BiP、及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素のようなタンパク質)が、この段階に関与する。また、この段階において、糖鎖がタンパク質に連結し、グリコシル化タンパク質が生産される。典型的には、糖は、N−連結グリコシル化としてアスパラギン残基に付加され、又は、O−連結グリコシル化としてセリン又はトレオニンに付加される。抗体は、ERにおいて会合することが知られている。哺乳類細胞では、重鎖は、ERへの侵入時にBiPとすぐに結合し、又は、軽鎖と結合するまで放出されない。正常に折り畳まれ、グリコシル化されたタンパク質は、ERから、糖鎖が修飾され及び酵母又は真菌のKEX2又はKEXBプロテアーゼが存在するゴルジ体に運ばれる。真菌で生産された分泌タンパク質に付加されたN−連結グリコシル化は、哺乳類細胞による付加される場合とは異なる。
【0075】
糸状菌宿主細胞によって生産される抗体は、グリコシル化されるたものか、又は非グリコシル化(すなわち、アグリコシル化又は脱グリコシル化)されたものであることができる。真菌のグリコシル化パターンは哺乳類細胞で生産されたものとは異なるので、当該抗体は、酵素で処理されて、脱グリコシル化され得る。そのような脱グリコシル化において有用な酵素は、エンドグリコシダーゼH、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼA、PNGase F、PNGase A、及びPNGase Atである。
【0076】
本発明では、驚くべきことに、重鎖及び軽鎖の両方が天然分泌タンパク質に融合される場合に、完全な長さの会合抗体が高レベルで真菌中で生産され得ることを見出した。上述の記載から、グルコアミラーゼがそれぞれ4つの鎖のN末端に連結したままの場合には、当該抗体は、ERにおいて会合すると推測されることが明らかである。これにより、350kDより多い、非常に大きく複雑な会合タンパク質が生産されるであろう。グルコアミラーゼは、会合錯体がゴルジ体に輸送されるまでは、当該抗体から開裂されないものと推測されるであろう。
【0077】
本発明の方法及び宿主細胞を用いることにより、非常に高レベルの発現を達成することができた。微生物系、例えば、Escherichia coli又は酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシェ又はPichia pastoris)における抗体生産についての報告の大部分は、抗体断片(例えば、Fab断片)の生産又は1本鎖形態の抗体(例えば、ScFv)の生産を伴うものである(R.Vermaら、J.immunological Methods、216巻、165−181頁、1998年;C.A.Pennell及びP.Eldin、Res.Immunol.、149巻、599−603頁、1998年)。サッカロマイセス・セレビシェでは、低いレベルの全長抗体しか生産及び分泌されない。ある研究では、100ng/mlの軽鎖及び50−80ng/mlの重鎖が培養液の上澄みにおいて検出され、当該重鎖の約50−70%が軽鎖と結合していた(A.H.Horwitzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1988年)。正常に会合した全長抗体が、酵母であるPichia pastorisにおいて生産されている(WO 00/23579)。しかしながら、報告されている最も高い収率は、36mg/lであった。
【0078】
一方、本明細書で用いられる系では、0.5g/lの全長抗体の発現及び分泌レベルが達成された。1g/lより多い抗体が、発酵培養液から回収できることが判明した。1.5g/lのレベルが、再現性をもって達成された。最適な条件下では、全長抗体について2乃至3g/l程度の発現及び/又は分泌レベルを得ることができる。当該抗体は、融合タンパク質として分泌されるが、本明細書において示される抗体のレベルは、グルコアミラーゼについて較正したものである。従って、抗体を含む生成タンパク質の絶対値は、記載されているものよりも高く、生成量は、グルコアミラーゼの寄与を差し引いたものである。
【0079】
実用性
免疫グロブリンのある用途では、免疫グロブリンが高純度(例えば、99%より高い純度)であることが非常に重要である。これは、特に、免疫グロブリンが治療用に用いられる場合に該当するが、他の用途においても必要なことである。
【0080】
治療用及び予防用のワクチン組成物が考慮され、それは、一般に、1以上の上述のモノクローナル抗体(それらの断片及び組合せを含む)の混合物を含む。免疫グロブリン濃縮物の筋肉注射による受動免疫法は、伝染病に対する一時的な予防のための周知の用途であり、典型的には、海外に渡航した人々に対して用いられる。
【0081】
治療的使用における抗体のより高度な用途は、いわゆる“薬物ターゲティング(drug−targeting)”に基づくものである。そこでは、非常に効力のある薬剤が、人体における特定の細胞(例えば、ガン細胞)に対する特異的結合親和性を有する抗体と共有結合している。
【0082】
また、抗原粒子を含有する試料と免疫学的に反応することができる上述の組換えモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)は、本明細書において、生体試料の特異的結合アッセイにおける抗原の存在を検出するために用いられる。特に、本発明の新規なモノクローナル抗体は、抗原の存在をスクリーニングする高感度な方法において用いることができる。
【0083】
特異的結合アッセイのフォーマットは、当該技術分野において周知の手法に従って、多くの変更を行うことができる。例えば、特異的結合アッセイは、本発明によって調製した組換えモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)の1つ、又はいくつかの組合せを用いてフォーマットすることができる。アッセイのフォーマットは、通常、例えば、競合、直接結合反応、又はサンドイッチ型アッセイ技術に基づくことができる。さらに、当該アッセイは、当該アッセイの間又はその開始後にアッセイ試薬を分離するために、免疫沈降又はその他の技術を用いて行うことができる。その他のアッセイは、当該アッセイの開始前に不溶化されたモノクローナル抗体を用いて行うことができる。この点に関し、多数の不溶化技術が、当該技術分野において周知である。それらには、免疫吸着剤への吸着、反応容器の壁に接着させる吸着、不溶性マトリクス又は“固相”基質へ共有結合で架橋させること、イオン性又は疎水性相互作用を用いて固相基質に非共有結合で接続させること、或いは、沈殿剤(例えば、ポリエチレングリコール)又は架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド)を用いる凝集のいずれかによる不溶化が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。
【0084】
当該技術分野における当業者によって本発明のアッセイに用いるために選択され得る多数の固相基質が存在する。例えば、ラテックス粒子、微粒子、磁性ビーズ、常磁性ビーズ、非磁性ビーズ、膜、プラスチック管、マイクロタイターウェルの壁、ガラス粒子、シリコン粒子、ヒツジ赤血球は、全て、本明細書における使用に適切である。
【0085】
一般に、当該アッセイのほとんどは、モノクローナル抗体(それらの断片を含む)と検出可能な標識部位の組合せからなる標識化結合錯体を用いることを含む。多数のそのような標識が、当該技術分野において公知であり、(共有結合性又は非共有結合性の会合技術のいずれかを用いて)本発明のモノクローナル抗体へ容易に接続して、上記のアッセイフォーマットにおいて用いるための結合錯体得ることができる。適切な検出可能部位には、放射性同位体、蛍光性物質、発光性化合物(例えば、フルオレセイン及びローダミン)、化学発光物質(例えば、アクリジニウム化合物、フェナントリジニウム(phenanthrizinium)化合物、及びジオキセタン化合物)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、及びベータ−ガラクトシダーゼ)、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、色素、及び金属イオンが含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。これらの標識は、当該技術分野において公知の結合技術を用いて抗体と連結させることができる。
【0086】
典型的なアッセイ方法は、一般に、以下の工程:(1)上述の検出可能な標識化結合錯体を調製する工程;(2)抗原を含むと考えられる試料を得る工程;(3)抗体−抗原錯体が形成されるような条件下において前記標識化錯体と前記試料をインキュベートする工程;及び、(4)標識化抗体−抗原錯体の存在又は不存在を検出する工程を含む。当該技術分野における当業者が本明細書の基づいて理解できるように、当該アッセイを用いて、供血者の血又は血清製品における抗原の存在をスクリーニングすることができる。当該アッセイが臨床条件で用いられる場合、試料は、ヒト及び動物の体液、例えば、全血、血清、血漿(plasma)、脳脊髄液、尿などから得ることができる。さらに、当該アッセイに用いて、当該技術分野において公知の標準物質又はキャリブラント(calibrant)を基準にすることによって定量的情報を容易に得ることができる。
【0087】
本発明における特定のアッセイ方法では、酵素連結免疫吸着剤アッセイ(ELISA)を用いて、試料中の抗原濃度を定量することができる。当該方法では、本発明の特異的結合分子は、酵素と接合して標識化結合錯体が得られる。ここで、当該アッセイは、当該結合酵素を定量標識として用いる。抗原を測定するために、選択された抗原を特異的に結合することができる結合分子(例えば、抗体分子)は、固相(例えば、マイクロタイタープレート又はプラスチックカップ)に固定化され、試験試料の希釈液でインキュベートされ、本発明の結合分子−酵素錯体と洗浄及びインキュベートされ、さらに、その後再び洗浄される。この点に関し、適切な酵素標識は周知であり、例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼが含まれる。固相に結合した酵素活性は、特異的酵素基質を添加し、熱量測定により生成物形成又は基質の活用率(utilization)を評価することによって測定される。当該固相基質に結合した酵素活性は、試料中に存在する抗原量の一次関数である。
【0088】
本発明における別の特定のアッセイ方法では、(例えば、感染の指標としての)生体試料における抗原の存在を、従来のウェスタンブロット技術とドットブロット技術の結合として当該技術分野において知られているようなストリップ免疫ブロットアッセイ(SIA)技術(例えば、RIBA.RTM(Chion Corp.、Emeryville、カリフォルニア州)の試験)を用いて検出することができる。これらのアッセイでは、1以上の特異的結合分子(Fab分子を含む、組換えモノクローナル抗体)は、膜支持テストストリップにおいてそれぞれ別個のバンドとして固定化される。生体試料に存在する抗原との反応性の視覚化は、熱量酵素基質と共に標識化抗体−接合体を用いるサンドイッチ結合技術によって達成される。内部対照が、ストリップに存在させることもできる。当該アッセイは、手動で行われ、又は自動化の形式で用いることもできる。
【0089】
さらに、生体試料における抗原の存在を検出すること又は生体試料の他の成分から抗原を精製することを目的として、本発明によって調製した組換えヒトモノクローナル抗体(Fab分子、Fv断片、Fab’、及びF(ab’)2を含む)をアフィニティークロマトグラフィーにおいて用いることができる。そのような方法は、当該技術分野において周知である。
【0090】
本発明は、また、適切な標識化結合分子錯体試薬を含み、上述のアッセイ及びアフィニティークロマトグラフィー技術のいずれかを実施するために適切なキットを提供することができる。アッセイ用キットは、適切な容器においてアッセイを行うために必要なその他の試薬又は器具を含む適切な物質を(適切なアッセイ説明書と共に)パッケージングすることによって作られる。
【0091】
実施例について
以下の実施例は、当該技術分野における当業者が本発明をより明確に理解し、それを実施することを可能にするためのものである。当該実施例は、本発明を例証する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと捉えられるべきではない。
【0092】
以下の実験に関する開示においては、次の略語が適用される:eq(当量);M(モル濃度の);μM(マイクロモル濃度の);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル); μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);kg(キログラム);μg(マイクログラム);L(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル); μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);h(時間);min(分);sec(秒);msec(ミリ秒);Ci(キュリー);mCi(ミリキュリー);μCi(マイクロキュリー);TLC(薄層クロマトグラフィー);Ts(トシル);Bn(ベンジル);Ph(フェニル);Ms(メシル);Et(エチル);Me(メチル);SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動);kDa(キロダルトン);bp(塩基対)。
【実施例1】
【0093】
ヒトlgk軽鎖定常領域をコード化するDNAのクローニング
ヒトlgk軽鎖定常領域を、ヒト白血球cDNA(QUICK−Clone cDNA、Clontech Laboratories、Palo Alto、カリフォルニア州)からPCR増幅した。用いたプライマーは、以下のものである:
【0094】
BPF001: 5’−CCGTGGCGGCGCCATCTGTCTTCATCTTCCCGCCATCTG−3’(配列番号1)
BPF002: 5’−CAGTTCTAGAGGATCAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTTTG−3’(配列番号2)
【0095】
BPF001は、クローニングの目的でNarl制限部位(GGCGCC)を導入するための2つのサイレント変異を含む。BPF002は、クローニングのために、翻訳終結シグナルの後にXbal制限部位(TCTAGA)を導入する。PCR生成物は、TOPO TAクローニングキット及び製造者によって供給されたK1−pCR2.1TOPOを生成させるため手順を用いて、pCR2.1TOPO(Invitrogen Corporation Carlsbad、カリフォルニア州)にクローン化した。クローンK1−pCR2.1TOPOからのDNAを配列決定した。当該配列を以下に示す。
【配列1】
【0096】
【0097】
得られた配列は、GenBank(www.ncbi.nlm.nih.gov/)の受託番号J00241である、ヒトlg生殖細胞系kのL鎖、C領域(inv3対立遺伝子)に対応する。
【実施例2】
【0098】
ヒトγ1重鎖定常領域をコード化するDNAのクローニング
ヒトγ1重鎖定常領域を、ヒト白血球cDNA(QUICK−Clone cDNA、Clontech Laboratories、Palo Alto、カリフォルニア州)からPCR増幅した。用いたプライマーは、以下のものである:
【0099】
BPF006: 5’−GGGCCCATCGGTCTTCCCCCTGGCA−3’(配列番号4)及び、
BPF004: 5’−CAGTTCTAGAGGATCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGGCTC−3’(配列番号5)
【0100】
BPF006は、ヒトy1CH1領域における5’末端における天然Apal制限部位(GGGCCC)を活用するものである。BPF004は、クローニングのために、翻訳終結シグナルの後にXbal制限部位(TCTAGA)を導入する。PCR生成物は、TOPO TAクローニングキット及び製造者によって供給されたBG13−pCR2.1TOPOを生成させるため手順を用いて、pCR2.1TOPO(Invitrogen Corporation Carlsbad、カリフォルニア州)にクローン化した。クローンBG13−pCR2.1TOPOからのDNAを配列決定した。当該配列を以下に示す。
【配列2】
【0101】
【0102】
得られた配列は、GenBank(www.ncbi.nlm.nih.gov/)の受託番号Z17370のエクソン配列、すなわち、ヒト生殖細胞系免疫グロブリンγ1鎖の定常領域遺伝子に対応する。ただし、以下の点は相違する。
【0103】
1)Z17370のヌクレオチド番号500におけるAがGに変更されていること。これは、G1m(3)アロタイプに対応するタンパク質におけるリシンからアルギニンへの変更を意味する。
【0104】
2)Z17370のヌクレオチド番号1533及び1537におけるTとCがそれぞれGとAに変更されていること。これは、それぞれアスパラギン酸とロイシンからグルタミン酸とメチオニンへの変更を意味する。これらの変更はnon(1)アロタイプニ対応する。
【0105】
3)Z17370の塩基1686に対応するCのTへのサイレント変異。
【実施例3】
【0106】
Trastuzumab軽鎖可変領域をコード化するDNAの合成
Trastuzumab軽鎖可変領域のアミノ酸配列(アミノ酸位置55におけるグルタミン酸がチロシンに置換されている以外は、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年、に記載されているとおり)のコード化するDNAは、Gene Forgeカスタム遺伝子合成技術を用いて、Aptagen,Inc.(Herndon、ヴァージニア州)によって合成されたものである。当該配列を以下に示す。
【配列3】
【0107】
【0108】
このDNA配列は、5’SnaB1制限部位(TACGTA)を含み、それにより、A.nigerグルコアミラーゼコード領域、その後、KEX2プロテーゼ開裂部位を表すアミノ酸であるリシン及ぶアルギニンのコドン(AAG CGC)への消化及びライゲーションが可能になる。3’末端には、軽鎖定常領域への消化及びライゲーションを可能にするNarl制限部位が存在する。当該DNAにおけるコドンの使用は、アスペルギルス遺伝子において観測されるコドン使用の頻度を反映するものである。
【実施例4】
【0109】
Trastuzumab重鎖可変領域をコード化するDNAの合成
Trastuzumab重鎖可変領域のアミノ酸配列(アミノ酸位置105におけるバリンがチロシンに置換されている以外は、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年、に記載されているとおり)のコード化するDNAは、Gene Forgeカスタム遺伝子合成技術を用いて、Aptagen,Inc.(Herndon、ヴァージニア州)によって合成されたものである。当該配列を以下に示す。
【配列4】
【0110】
【0111】
このDNA配列は、5’SnaB1制限部位(TACGTA)を含み、それにより、A.nigerグルコアミラーゼコード領域、その後、KEX2プロテーゼ開裂部位を表すアミノ酸であるリシン及ぶアルギニンのコドン(AAG CGC)への消化及びライゲーションが可能になる。3’末端には、重鎖定常領域への消化及びライゲーションを可能にするApal制限部位が存在する。当該DNAにおけるコドンの使用は、アスペルギルス遺伝子において観測されるコドン使用の頻度を反映するものである。
【実施例5】
【0112】
pyrGマーカーを含むTrastuzumab軽鎖発現プラスミドの構築
アスペルギルスにおける軽鎖の発現に用いられる発現プラスミドは、グルコアミラーゼ−プロキモシン発現ベクターであるpGAMpR(米国特許第5,679,543号に詳細に説明されている)に基づくものである。このプラスミドを、pGAMpRにおいてそれぞれ1度だけ切断する制限エンドヌクレアーゼであるSnaBl及びXbalで消化した。SnaBlは、グルコアミラーゼリンカー領域のコード領域内で当該プラスミドを切断し、Xbalは、キモシンコード領域の3’末端直後でpGAMpRを切断する。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、軽鎖の可変領域及び定常領域をコード化するDNA配列は、キモシンコード化領域を置換するpGAMpR中に会合及び挿入させた。最終的なプラスミドをpQ83と名付けた(図3)。当該プラスミドは、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Neurospora crassa pyr4遺伝子を含有する。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、軽鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに成熟軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の軽鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と軽鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列5】
【0113】
【実施例6】
【0114】
Trastuzumab重鎖発現プラスミドの構築
アスペルギルス発現ベクターpGAMpRを当該技術分野において公知の方法により修飾し、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Neurospora crassa pyr4遺伝子をAspergillus nidulans amdS遺伝子で置換した(J.M.Kelly及びM.J.Hynes、EMBO J.、4巻、475−479頁、1985年;C.M.Corrickら、Gene、53巻、63−71頁、1987年)。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、重鎖の可変領域及び定常領域をコード化するDNA配列を、amdS選択マーカーを有するアスペルギルス発現ベクターpGAMpRの変異体中に会合及び挿入させた。最終的なプラスミドをpCL1と名付けた(図4)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに成熟重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の重鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列6】
【0115】
【0116】
第2のTrastuzumab重鎖発現プラスミド(pCL5;図5)を構築した。これは、pCL1と全く同じ発現カセット(すなわち、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び、アミノ酸YKR、さらに成熟重鎖が後に続く成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質をコード化するオープンリーディングフレームの発現を制御するAspergillus awamori glaAプロモーター及びA.niger glaAターミネーター)を含有する。pCL1とpCL5の唯一の違いは、後者のプラスミドにはA.nidulans amdS遺伝子が存在せず、それゆえ真菌形質転換マーカーが存在しないこと、及び、細菌プラスミド骨格としてpUC100の代わりにpBR322が用いられいることである。
【実施例7】
【0117】
Trastuzumab重鎖のFd’断片に対する発現プラスミドの構築
鋳型として会合重鎖可変領域及び定常領域DNAを用いて、当該重鎖のFd’部分(抗体のヒンジ領域の後で短小化された重鎖)をコード化するDNA断片をPCRにより生産した。以下の2つのプライマーを用いた:oligo1(5’−AAC AGC TAT GAC CAT G−3’)(配列番号11)及びoligo2(5’−TCT AGA GGA TCA TGC GGC GCA CGG TGG GCA TGT GTG AG−3’)(配列番号12)。増幅した900bp断片を精製してSnaBl及びXbalで消化し、得られた719bpのSnabB1からXbalまでの断片を、選択マーカーとしてamdS遺伝子を有するアスペルギルス発現pGAMpRの変異体中にクローン化した。最終的なプラスミドをpCL2と名付けた(図6)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらに重鎖の成熟Fd’部分が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離のFd’鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を下線で示している。
【配列7】
【0118】
【実施例8】
【0119】
Trastuzumab重鎖のアグリコシル化形態に対する発現プラスミドの構築
N−連結グリコシル化のための接続部位である、lgG重鎖定常領域における1のアスパラギン(位置297)が知られている。アスペルギルスで産出された抗体のグリコシル化を避けるために、当該アスパラギンをコード化するコドンは、グルタミンをコード化するコドンに変更される。DNA配列の適切な変更のための製造者の指示に従って、Quick−Change部位特異的変異誘発キット(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)を用いた。重鎖可変領域及び定常領域をコード化する会合DNAを有するプラスミドを鋳型として用いた。一方が当該プラスミドの1のDNAストランドに相補的であり、他方が当該プラスミドの第2ストランドに相補的であって、変異されるアスパラギンコドンとオバーラップしている以下の2つのプライマーを用いて、変異誘発手順を行った:5’−GAG CAG TAC CAG AGC ACG TAC CGT GTG GTC−3’(配列番号14)、及び5’−GTA CGT GCT CTG GTA CTG CTC CTC CCG CGG CT−3’(配列番号15)。改変コドンを下線で示している。所望の配列変更が達成されていること、及びその他の望ましくない変異は導入されていないことをDNA配列分析によって確認した。その後、全長重鎖の変異体を、amdS選択マーカーを有するアスペルギルス発現ベクターpGAMpRの変異体中にクローン化させた。最終的なプラスミドをpCL3と名付けた(図7)。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(アミノ酸YKR、さらにグリコシル化を回避するための変異を含む成熟重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号502までのリンカー領域(Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる融合タンパク質の発現のために設計されたものである。アスペルギルスKEX2プロテイナーゼによってグルコアミラーゼリンカー領域の末端に置かれたKR残基の直後の融合タンパク質が開裂した後に、遊離の重
鎖を得ることができる。当該融合タンパク質の完全なアミノ酸配列を以下に示す。グルコアミラーゼリンカー領域の末端と重鎖配列の始点の間に位置するYKR配列を、元の重鎖配列におけるアスパラギンを置換したグルタミン残基の場合と同様に下線で示している。
【配列8】
【0120】
【実施例9】
【0121】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab軽鎖の発現
組込み(すなわち、宿主ゲノムDNAに組込むために設計された)発現プラスミドpQ83のDNAを調製し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に形質転換した。当該菌株は、欠失したpepA遺伝子を有するdgr246P2菌株由来であり、pyrGマイナスであり、及び、異種遺伝子産物の生産を向上させるための変異誘発及びスクリーニング又は選別を複数回受けたものである(M.Wardら、Appl.Microbiol.Biotech.、39巻、738−743頁、1993年、及びそこに記載の引用文献)。dgr246ΔGAP:pyr2−菌株を得るために、T.Fowlerら、Curr.Genet.、18巻、537−545頁(1990年)に報告されているのと同一の欠失プラスミド(pΔGAM NB−Pyr)及び手順を用いて、dgr246 P2菌株中のglaA(グルコアミラーゼ)遺伝子を欠失させた。すなわち、当該欠失は、いずれかの末端にglaAフランキング配列を有する直鎖状DNAによる形質転換、及び、選択マーカーであるAspergillus nidulans pyrG遺伝子によって置換されたpyrG遺伝子のコード領域及びプロモーターの一部による形質転換によって行った。glaAフランキング配列とpyrG遺伝子を含む直鎖状断片が染色体glaA遺伝子座において組込まれた形質転換体を、サザンブロット分析によって同定した。当該変更は、形質転換菌株dgr246ΔGAPにおいて生じさせた。当該形質転換体からの胞子を、蛍光性オロチン酸を含む培地に置き、W.van Hartingsveldtら、Mol.Gen.Genet.、206巻、71−75頁(1987年)に記載されているように、自発(spontaneous)耐性変異体を得た。それらの1つであるdgr246ΔGAP:pyr2−は、野生型pyrG遺伝子を有するプラスミドによる形質転換によって補完され得るウリジン栄養要求菌株であることが判明した。
【0122】
アスペルギルスの形質転換手順は、Campbell法(Campbellら、Curr.Genet.、16巻、53−56頁、1989年)を改良したものである。全ての溶液及び培地を、高圧滅菌し又は0.2ミクロンのフィルターでろ過滅菌した。A.niger var.awamoriの胞子を、複合培地寒天(CMA)プレートから採取した。CMAは、20g/lのデキストロース、20g/lのDifcoBrand麦芽エキス、1g/lのバクトペプトン、20g/lのバクト寒天、20ml/lの100mg/mlのアルギニン、及び20ml/lの100mg/mlのウリジンを含む。胞子の約1.5cm四方の寒天プラグを100mlの液体CMA(バクト寒天を除くCMA)に接種した。250−275rpmの振とう器上において、37℃で一晩フラスコを培養した。菌糸は、滅菌Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を経て採取し、200mlの溶液A(0.8M MgSO4を含む10mMリン酸ナトリウム、pH5.8)で洗浄した。洗浄した菌糸を、20mlの溶液A中に300mgのベータ−D−グルカナーゼ(Interspex Products、San Mateo、カリフォルニア州)を含む滅菌溶液中に置いた。これを、滅菌した250mlのプラスチックボトル(Corning Inc、Corning、ニューヨーク州)において、200rpm、28℃で2時間培養した。培養の後、当該プロトプラスト溶液を滅菌Miraclothでろ過し、滅菌した50mlのコニカルチューブ(Sarstedt、米国)に移した。得られたプロトプラストを含む溶液を、4つの50mlコニカルチューブへ均等に分配した。各チューブに40mlの溶液B(1.2Mのソルビトール、50mMのCaCl2、10mMのトリス、pH7.5)を添加し、速度3/4で10分間、卓上臨床用遠心分離器(Damon IEC HN SII 遠心分離器)で遠心分離した。各チューブの上澄み液を廃棄し、20mlの新たな溶液Bを1のチューブに添加し、混合し、その後、全てのペレットが再懸濁してから次のチューブに注いだ。当該上澄みを廃棄し、20mlの新たな溶液Bを添加し、当該チューブを速度3/4で10分間遠心分離した。最後にもう一度洗浄し、当該プロトプラストを溶液Bに再懸濁させ、0.5−1.0X107プロトプラスト/100ulの密度にした。滅菌した15mlのコニカルチューブ(Sarstedt、米国)中のプロトプラスト100ulのそれぞれに、10ulの形質転換プラスミドDNAを添加した。これに、12.5ulの溶液C(50%PEG4000、50mMのCaCl2、10mMのトリス、pH7.5)を添加し、当該チューブを20分間氷上に置いた。1mlの溶液Cを添加し、チューブを氷上から取り除き、室温にしてゆっくり振とうした。2mlの溶液Bをすぐに添加し、溶液Cを希釈した。形質転換混合物を、45℃の湯浴中に保存した融解MMSオーバーレイ(6g/lのNaNO3、0.52g/lのKCl、1.52g/lのKH2PO4、2.185g/lのD−ソルビトール、1.0ml/lの微量成分LW、10g/lのSeaPlaqueアガロース(FMC Bioproducts、Rookland、Maine、米国)、20ml/lの50%グルコース、2.5ml/lの20%MgSO4・7H2O、NaOHでpH6.5に調整)の3つのチューブへ均等に添加した。微量成分LWは、1g/lのFeSO4・7H2O、8.8g/lのZnSO4・7H2O、0.4g/lのCuSO4・5H2O、0.15g/lのMnSO4・4H2O、0.1g/lのNa2B4O7・7H2O、50mg/lの(NH4)6Mo7O24・4H2O、250mlのH2O、200ul/lの濃HClから構成される。形質転換混合物を含む融解オーバーレイをすぐに、寒天プレート上に直接添加した100mg/mlのアルギニンを200ul/プレートで補充した3つのMMSプレート(10g/lのSeaPlaqueアガロースの代わりに20g/lのバクト寒天を用いたこと以外は、MMSオーバーレイと同じ)に注いだ。寒天が固化した後、形質転換体が成長するまで、当該プレートを37℃で培養した。
【0123】
胞子形成を、楊枝で最少培地+グルコース(MM)のプレートに摘み上げた。MMは、6g/lのNaNO3、0.52g/lのKCl、1.52g/lのKH2PO4、1ml/lの微量成分LW、20g/lのバクト寒天、NaOHでpH6.5に調整、25ml/lの40%グルコース、2.5ml/lの20%MgSO4・7H2O、及び20ml/lの100mg/mlアルギニンから構成される。MM上で形質転換体が成長した後、CMAプレートに移した。
【0124】
各形質転換体のプレート培地から得た1.5cm四方の寒天プラグを、250mlの振とうフラスコ中、50mlのCSL+フルクトースと呼ばれる接種培地(100g/1comのスティープリカー(steep liquor)(50%固体、National)、1g/lのNaH2PO4・H2O、0.5g/lのMgSO4、100g/lのマルトース、10g/lのグルコース、50g/lのフルクトース、3ml/lのMazu DF60−P(Mazur Chemicals、Gurnee、イリノイ州、米国)、NaOHでpH5.8に調整)。フラスコを、200rpm、37℃で2日間培養した。2日後の培養液5mlを、Promosoyスペシャルと呼ばれる生産培地50mlに接種した。当該培地は、以下の成分を有する:70g/lのクエン酸ナトリウム、15g/lの(NH4)2SO4、1g/lのNaH2PO4・H2O、1g/lのMgSO4、1mlのTween80、NaOHでpH6.2に調整、2ml/lのMazu DF60−P、45g/lのPromosy100(Central Soya、Fort Wayne、IN)、120g/lのマルトース。生産培地のフラスコを200rpm、30℃で5日間培養し、上澄み試料を採取した。
【0125】
培地の上澄み試料を適切な体積の2Xサンプルローディングバッファーと混合し、製造者の指示に従いプレキャストゲルを用いて、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った(NuPAGE ビス−トリス電気泳動システム、Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州)。当該ゲルをクマシーブリリアントブルー染色液を含むタンパク質で染色し、当該タンパク質をウェスタンブロット法によりメンブランフィルターに通した(Towbinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76巻、4350−4354頁、1979年)。ヒトカッパ(kappa)軽鎖は、ヤギ抗ヒトカッパ軽鎖(結合及び遊離)抗体、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と接合したウサギ抗ヤギIgGで順次処理し、H2O2及び4−クロロ−1−ナフトールとの培養によるHRP着色によってウェスタンブロットにおいて視覚化した。
【0126】
Trastuzumab軽鎖を産出する形質転換体は、未形質転換の親菌株からの上澄み液に対する別のタンパク質バンドの出現により同定した。当該バンドの大きさ及び属性は以下のとおりであった。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する25kDのバンド。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する見かけ上約58kDの分子量を示すバンド。グルコアミラーゼと軽鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質に対応する見かけ上約85kDの分子量を示すバンド。軽鎖バンドの特性は、ウェスタン分析で確認した。ウェスタン分析では、遊離軽鎖及びグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質を検出するために抗ヒトκ抗体を用いた。培養上澄みにおける軽鎖の定量化は、酵素連結免疫吸着剤アッセイ(ELISA)を用いて行った。最も優れた軽鎖発現菌株は、精製胞子であり、Q83−35−2と表す。この菌株は、ELISAによると、振とうフラスコ培地において約1.5g/lのTrastuzumab軽鎖(κ鎖)を産出した。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉(capture)抗体として、ヤギ抗ヒトκ(結合及び遊離)抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合軽鎖を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と抱合した(conjugated)ヤギ抗ヒトカッパ(結合及び遊離)抗体の添加及び着色反応によって検出した。公知濃度のヒトκ軽鎖の連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。
【実施例10】
【0127】
グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂の改善
上述したように、Trastuzumab軽鎖のいくつかは、pQ83を含むAspergillus niger形質転換体によって分泌された場合、グルコアミラーゼに結合したままであった。分泌した軽鎖の約60−75%がグルコアミラーゼに結合していると推定された。これは、グルコアミラーゼと軽鎖の間のKEX2部位は、KEX2プロテアーゼによって効果的に開裂されないことを示唆している。開裂部位が予想通りかどうか(すなわち、KEX2開裂部位のKR残基の直後か)を評価するため、形質転換体Q83−35−2からの遊離軽鎖のN末端を評価した。培地上澄み試料におけるタンパク質をSDS−PAGEで分離し、Novex輸送細胞(Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州)及び輸送バッファー(12mMのトリス塩基、96mMのグリシン、20%メタノール、0.01%SDSからなり、pH8.3)を用いてポリボニリデンジフルオリド(PVDF)膜上にブロットした。当該輸送は、20Vで90分間行った。膜を蒸留水で30分間3回洗浄し、クマシーブリリアントブルーR−250で染色した。25kD軽鎖のバンドを示す膜の部分を切除し、N末端配列をエドマン分解によって評価した。得られたデータから、軽鎖分子の集団はN末端の混合物を有し、優性配列はDIQM及びKRDIであり、及びこれらはほぼ同量で存在することが示唆された。この結果は、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質のいくつかは、KEX2開裂部位の直後にある期待通りの位置で開裂するが、当該開裂融合タンパク質の約半数は、2残基分N末端よりの位置で開裂することを示すものである。
【0128】
融合タンパク質の開裂を向上させるために、本発明では、軽鎖が結合するグルコアミラーゼリンカー領域の位置を改変した。さらに、グルコアミラーゼと軽鎖の接合部におけるアミノ酸配列を変更した。
【0129】
本実験に用いた発現プラスミドは、pGAKHi+と同一のベクター、すなわちWO9831821に詳細に説明されているグルコアミラーゼ−ヒルログ(hirulog)発現ベクターに基づくものである。当該プラスミドのヒルログコード化領域(固有NheI及びBstEII制限エンドヌクレアーゼ認識部位の間に位置する)を、軽鎖コード化DNAで置換した。NheIは、グルコアミラーゼリンカー領域のコード領域内で当該プラスミドを切断し、Xbalは、グルコアミラーゼターミネーター領域の5’を切断する。当該技術分野において公知の技術を用いることによって、全長軽鎖をコード化するDNA配列を、以下のプライマー対を用いてPCRで増幅した。5’−CCGCTAGCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号17)が正(forward)プライマーであり、5’−CCGGTGACCGGATCAACACTCTCCC−3’(配列番号18)が逆(reverse)プライマーである。これらのプライマーは、それぞれ、軽鎖DNAの5’及び3’末端にNheI及びBstEII認識部位を付加する。その後、軽鎖DNAは上記ベクターに挿入され、PQ87をもたらすヒルログコード化領域を置換する当該軽鎖DNAを有すること以外はpGAKHi+と同一のプラスミドが得られた。当該プラスミドは、アスペルギルス及び他の真菌への形質転換のための選択マーカーとして、Aspergillus niger pyrG遺伝子を含有する。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターを含むことにより、軽鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。当該プラスミドは、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸KR、さらに成熟軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下の融合タンパク質の発現のために設計されたものである。
【配列9】
【0130】
【0131】
KR残基(kexB開裂部位)のいずれかの側におけるアミノ酸配列を一連のプラスミドで改変した。それぞれの新規な軽鎖発現プラスミドを構築するために、pQ87について記載したのと同じ逆プライマーと組合せて以下の正プライマーを用いることによって、PCR反応における軽鎖DNA断片を増幅した。5’−CCGCTAGCCAGAAGCGTGATATCCAGA−3’(配列番号20)がpQ88に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCCTCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号21)がpQ90に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号22)がpQ91に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCAACGTGATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号23)がpQ94に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCGTGATCTCCAAGCGTGATATCCAG−3’(配列番号24)がpQ95に対する正プライマー、5’−CCGCTAGCATCTCCAAGCGTGGCGGTGGCGATATCCAGATGACCCAG−3’(配列番号25)がpQ96に対する正プライマーである。その後、PCR断片を制限酵素NheI及びBstEIIで消化し、pQ87の場合と同様の発現ベクターに挿入した。pQ88及びpQ90では、KR残基のアミノ末端側にアミノ酸を挿入した。酵母KEX2及びA.niger KexBによる合成ペプチドの開裂がこの位置において許容されることが判明している(C.Brenner及びR.S.Fuller、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、922−926頁、1992年;R.Jalvingら、Applied and Environmental Microbiology、66巻、363−368頁、2000年)。pQ91、pQ94、及びpQ95では、それぞれグルコアミラーゼの6アミノ酸プロペプチド(KRで終結し、KEX2プロテアーゼで開裂する)からの2、4、又は3の残基を、KR残基のアミノ末端側に置いた。グルコアミラーゼプロペプチド配列からの残基が、その他によるグルコアミラーゼ融合タンパク質における当該位置に置かれている(J.A.Spencerら、European Journal of Biochemistry、258巻、107−112頁、1998年;M.P.Broekhuijsenら、Journal of Biotechnology、31巻、135−145頁、1993年)。pQ96では、3つのグリシン残基を、KR残基のカルボキシル側に置いた(これは、J.A.Spencerら、European Journal of Biochemistry、258巻、107−112頁、1998年でも用いられている)。各プラスミドについて、コード化グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質を以下に示す。KEX2開裂部位(KR)の周囲の可変領域を下線で示す。
【0132】
pQ88によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列10】
【0133】
【0134】
pQ90によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列11】
【0135】
【0136】
pQ91によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列12】
【0137】
【0138】
pQ94によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列13】
【0139】
【0140】
pQ95によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列14】
【0141】
【0142】
pQ96によってコード化されたグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質:
【配列15】
【0143】
【0144】
発現プラスミドpQ87、pQ88、pQ90、pQ91、pQ94、pQ95、及びpQ96のDNAを調製し、それらをそれぞれAspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−中に形質転換した。得られた形質転換体を振とうフラスコにおいてPromosoyスペシャル培地で培養し、分泌したタンパク質をSDS−PAGE及びクマシーブリリアントブルー染色剤によって視覚化した。グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する25kDのバンド、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する58kDのバンド、及びグルコアミラーゼと軽鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質に対応する約85kDのバンドについての相対量を求めることによって、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂を評価した。さらに、場合によっては、放出された軽鎖のN末端を評価した。
【0145】
発現ベクターpQ87、pQ88、又はpQ90を有するA.niger形質転換体におけるグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の開裂の程度(extent)は、形質転換体Q83−35−2の場合と比べてほとんど変化しなかった(約25乃至40%)。
【0146】
それに対し、発現ベクターpQ917、pQ94、又はpQ95を有する形質転換体では、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質の約90%が開裂した。pQ91及びpQ94のそれぞれで得られた1の形質転換体の上澄みにおける遊離軽鎖のアミノ末端を評価したところ、単一の優性配列DIQMTが観測された。これは、形質転換体において、開裂の程度が向上するだけでなく、所望のKEX2部位で開裂する融合タンパク質の頻度(すなわち、開裂の正確性又は忠実度)も向上することを示すものである。
【0147】
発現ベクターpQ96を有する形質転換体では、グルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質のほぼ100%が開裂した。pQ96で得られた1の形質転換体の上澄みにおける遊離軽鎖のアミノ末端を評価したところ、単一の優性配列GGGDIが観測された。
【実施例11】
【0148】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab重鎖の発現
組込み発現プラスミドpCL1のDNAを調製し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。形質転換体は、上述のように振とうフラスコにおいて液体培地中で培養した。特定の実験では、IgGの重鎖に特異的親和性を有するタンパク質A−セファロースビーズ(Amersham Pharmacia)と温置することによって、Trastuzumab重鎖を上澄み液から特異的に沈殿させた。当該ビーズは、SDS−PAGEランニングバッファーにおいて予め洗浄し、さらに、重鎖との温置の後、及び、SDS−PAGEサンプルバッファーに再懸濁し、10分間70℃で加熱し、ポリアクリルアミドゲル上に装入する前にも当該バッファーで洗浄した。上澄み試料、又はタンパク質A−セファロースにより当該上澄みから沈殿させた物質試料の分析は、還元条件下のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、その後、上記タンパク質ビーズのクマシーブリリアントブルー染色、又はウェスタン分析のためのナイロン膜へのブロットによって行った。Trastuzumab重鎖は、ヤギ抗IgG−Fc抗体、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と接合したウサギ抗ヤギIgGで順次処理し、H2O2及び4−クロロ−1−ナフトールとの培養によるHRP着色によってウェスタンブロットにおいて視覚化した。Trastuzumab重鎖を産出する形質転換体は、未形質転換の親菌株からの上澄み液に対する別のタンパク質バンドの出現により同定した。当該バンドの大きさ及び属性は以下のとおりであった。グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出されたTrastuzumab軽鎖に対応する2つのバンド、すなわち、50kDのバンド(SDS−PAGEにおいて、Aspergillus nigerの分泌アルファ−アミラーゼと同じ移動度を有する)及び約53kDのバンド(2つの異なるサイズの遊離重鎖の存在は以下で説明する)。グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出されたグルコアミラーゼの触媒コア領域及びリンカー領域に対応する見かけ上58kDの分子量を示すバンド。グルコアミラーゼと重鎖タンパク質に開裂していないグルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質に対応する見かけ上116kDの分子量を示すバンド。最も優れた重鎖発現形質転換体は、ELISAによると、培地上澄み液1リットル当り約0.33gのTrastuzumabγ重鎖を産出した。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉抗体として、ヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合重鎖を、HRPと抱合したヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体の添加及び着色反応によって検出した。公知濃度のヒトIgGの連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。
【実施例12】
【0149】
アスペルギルスにおけるTrastuzumab重鎖及び軽鎖の発現
3つの異なる形質転換戦略を用いて、Trastuzumab抗体の重鎖及び軽鎖の両方を産出するアスペルギルス形質転換体を構築した。
【0150】
同時形質転換による菌株の構築
発現プラスミドpQ83及びpCL1を混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。これらのプラスミドは、いずれも真菌の複製起点を有しておらず、1以上の部位においてアスペルギルス染色体DNAには組込まれないと考えられる。形質転換体を上述のように振とうフラスコで培養し、軽鎖及び重鎖の生産をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって確認した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。最も優れた形質転換体(1−LC/HC−3)の振とうフラスコ培地において、約0.3g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。ELISAは、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングする捕捉抗体として、ヤギ抗ヒトIgG−Fc抗体を用いて実行した。適切な希釈培地上澄みの添加、培養、及びウェルの洗浄の後、上澄みからの結合IgG1を、HRPと抱合したヤギ抗ヒトκ(結合又は遊離)抗体の添加及び着色反応によって検出した。ELISAにおいて捕捉抗体及び検出抗体の当該組合せを用いることによって、会合IgG1のみが観測され、遊離の軽鎖及び重鎖は観測されない。公知濃度の精製ヒトIgGの連続的希釈液を用いて、定量化のための標準液を作成した。ある実験では、捕捉抗体と検出抗体を入れ替えて、捕捉抗体を抗ヒトκ抗体にし、検出抗体をHRPと抱合した抗ヒトIgG−Fc抗体にした。結果は、いずれの抗体の組合せでも同程度であった。
【0151】
また、発現プラスミドpQ83及びpCL5を用いる同時形質転換によっても形質転換体を得た。これらのプラスミドを混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。最も優れた形質転換体(2−LC/HC−38)の振とうフラスコ培地において、0.9g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0152】
複製プラスミドを用いる菌株の構築
発現プラスミドpQ83、pCL1、及びpHELP1を混合し、Aspergillus niger var.awamori菌株dgr246ΔGAMの中に形質転換した。プラスミドpHELP1(D.Gems及びA.J.Clutterbuck、Curr.Genet.、24巻、520−524頁、1993年)は、アスペルギルス菌株において自律性複製をもたらすAspergillus nidulans配列であるAMA1を含む。過去の結果(D.Gems及びA.J.Clutterbuck、Curr.Genet.、24巻、520−524頁、1993年)に基づくと、これらのプラスミドは互いに再結合し、3つの全ての要素を有する大きな複製プラスミドを形成すると推測される。形質転換体を振とうフラスコで培養し、Trastuzumab軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって分析した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。会合IgG1をELISAでアッセイした。振とうフラスコ培地において、0.26g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0153】
2つの連続形質転換による菌株の構築
組込みプラスミドpCL1(重鎖発現プラスミド)を用いて、菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養し、Trastuzumab軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGE及びウェスタン分析によって分析した。軽鎖のみ及び重鎖のみを生産する形質転換体で見られたのと同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された。会合IgG1をELISAでアッセイした。振とうフラスコ培地において、0.19g/lまでの会合IgGがELISAによって観測された。
【0154】
特定の実験では、上述のタンパク質A−セファロース4 Fast Flowビーズ(Amersham Pharmacia、Piscataway、ニュージャージー州)と温置することによって、Trastuzumab重鎖及び付随する軽鎖を上澄み液から特異的に沈殿させた。また、重鎖及び付随軽鎖の精製は、製造者の手順に従って、HiTrapタンパク質A HPクロマトグラフィー(Amersham Pharmacia、Piscataway、ニュージャージー州)によるアフィニティークロマトグラフィーを用いて行った。図8は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルー染色による還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC−3について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化及びグリコシル化形態(50及び53kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。(重鎖に特異的な)タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって、軽鎖が重鎖と一緒に精製されたという事実は、抗体が会合していることを示すものである。グルコタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって、グルコアミラーゼ−重鎖鎖融合タンパク質とグルコアミラーゼ−軽鎖融合タンパク質が一緒に精製されたという事実は、抗体が、連結したグルコアミラーゼと会合していることを示すものである。
【0155】
図9は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルーによる非還元条件下におけるSDS−PAGE(Invitrogen Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州からのNuPAGEトリス酢酸電気泳動システム)の結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。
【0156】
なぜ2種類の遊離重鎖(すなわち、グルコアミラーゼ−重鎖融合タンパク質から放出された重鎖)が約3kD異なる見かけ分子量で産出されたのかを理解するために、以下の実験を行った。アスペルギルスから生産されたTrastuzumabをタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した。タンパク質からマンノース型N連結グリコシル化を開裂させタンパク質のアスパラギンに結合した単一のN−アセチルグルコサミン糖を脱離させることができるエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ35ugの存在下及び非存在下において、精製Trastuzumab試料を1時間培養した。還元条件下におけるSDS−PAGE、その後のクマシーブリリアントブルーによるタンパク質染色又は糖タンパク質に特異的な染色(GelCode糖タンパク質染色キット、Pierce、Rockford、イリノイ州、製造者の説明書に従った)によって、これらの試料を分析した。遊離重鎖の2つのバンドのうちの上方側のバンドは、エンドHで処理することによってその強度が大きく減少した。当該上方側の遊離重鎖バンドだけがGelCode染色剤によって染色されたが、エンドHで処理した後には、このバンドはもはやGelCode染色では可視化しなかった。これらの観測結果は、2つの遊離重鎖バンドの上方側のバンドは、結合したN連結抗マンノースグリカンを有する重鎖を表していること、及び、エンドHが当該グリカンを除去することができることを示唆している。
【0157】
グルコアミラーゼ−IgG1融合タンパク質から遊離IgG1を精製及び分離することできた。精製に用いた方法は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー(2002年9月18日に出願された、“タンパク質の精製”というタイトルの継続中の米国特許出願60/411,537号に記載されている)である。まず、真菌細胞を、Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いるろ過によって培養液から除去した。ろ過した培養液を接線限外ろ過によって約7倍に濃縮した。循環ポンプを用いて、当該培養液を加圧し、30000分子量を遮断する再生セルロース製の膜(Prep/Scale(商標)TFF、ミリポア)を通過させた。粒子を取り除くため、濃縮物を25000倍重力で15分間遠心分離し、得られた上澄み液を一連の膜でろ過した(ここで、当該膜は、それぞれ前の膜よりも小さな孔径を有しており、最後は0.2マイクロメーターの孔径のものである)。疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)を用いて、上澄み液からIgG1を精製した。これは、高速液体クロマトグラフィーシステム(AKTA(商標)エクスプローラー10、Amersham Biosciences)を用いて行った。HCICを用いることにより、その他の上澄みタンパク質から、及びグルコアミラーゼ−融合タンパク質から抗体分子を分離することができる。MEP HyperCel(商標)(Ciphergen Biosystems)培地を含むカラムを用いて行った。当該カラムは、50mMのトリス、200mMのNaCl、及びpH8.2バッファーによって平衡化した。pH8.2に調節した上澄み液を100cm/時の直線流速でカラムに装入した。カラム体積の5倍量(5CV)の平衡バッファーで洗浄した後、徐々にpHを下げながら結合分子を溶出させた。以下に示す2CVのバッファーを、以下の順番で、200cm/時においてカラムに装入した:100mMの酢酸ナトリウム、pH5.6;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.75;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.0;及び100mMのクエン酸ナトリウム、pH2.5。遊離IgG1をpH4.5−5.5の範囲で溶出させ、すぐに、1Mのトリス及びpH8.2バッファーで中和した。カラムに存在する抗体の純度は、SDS−PAGEによって評価した。
【実施例13】
【0158】
アスペルギルスにおけるアグリコシル化Trastuzumabの発現
プラスミドpCL3(重鎖のアグリコシル化変異体に対する発現ベクター)を用いて菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養した。重鎖をタンパク質A−セファロースビーズで沈殿させた後、又はタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した後、軽鎖及び重鎖の発現をSDS−PAGEで確認した。還元条件下のSDS−PAGEでは、遊離重鎖のバンドが50kDの1本であること以外は形質転換体1−LC/HC−3と同じ軽鎖バンド及び重鎖バンドが混ざったバンドが観測された(図8における菌株1−HCΔ−4)。非還元条件下のSDS−PAGEでは、形質転換体1−LC/HC−3に類似したパターンのバンドが観測された(図9における菌株1−HCΔ−4)。十分に会合したIgG1をELISAで測定した。振とうフラスコ培地において、最も優れた形質転換体によって0.1g/lのアグリコシル化Trastuzumabが生産された。
【実施例14】
【0159】
アスペルギルスにおけるTrastuzumabのFab’断片の発現
プラスミドpCL2(Trastuzumab重鎖のFd’断片に対する発現ベクター)を用いて菌株Q83−35−2を形質転換し、最も優れた軽鎖産出菌株を上記のように同定した。形質転換体を振とうフラスコで培養した。会合したFab’をELISAで測定した。2つの形質転換体1−Fab−1及び1−Fab−12をより詳しく検証した。
振とうフラスコ培地において、最も優れた形質転換体(菌株1−Fab−12)によって1.2g/lのFab’が生産された。重鎖をタンパク質A−セファロースビーズで沈殿させた後、又はタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した後、TrastuzumabのFab’断片の発現をSDS−PAGEで確認した。還元条件下のSDS−PAGEは、軽鎖及びFd’鎖を表す約25kDaのバンド、グルコアミラーゼ−軽鎖及びグルコアミラーゼ−Fd’鎖融合タンパク質を表す約85kDaのバンドを示した(図8の菌株1−Fab−1)。非還元条件下のSDS−PAGEで観測された主なバンドは、会合Fab’を表す約50kDaのバンド、グルコアミラーゼ1分子が付着したFab’を表す約100kDaであった(図9の菌株1−Fab−1)。約150kDaのかすかなバンドは、軽鎖及びFd’鎖に結合したグルコアミラーゼ分子を有するFab’を表すと考えられる。A.nigerによって生産されたFab’が、Fd’鎖のカルボキシル末端付近の遊離システインを経て共有結合によって二量化し、F(ab’)2を形成するかどうかを検討することは興味深い。F(ab’)2のサイズは約100kDaと考えられるので、非還元SDS−PAGEでは、グルコアミラーゼ1分子が結合したFab’と同じ位置に移動するであろう。同様に、グルコアミラーゼ1分子が結合したF(ab’)2のサイズは約150kDaと考えられるので、非還元SDS−PAGEでは、グルコアミラーゼ2分子が結合したFab’と同じ位置に移動するであろう。しかしながら、図9の菌株1−Fab−1について観測された約200kDaの高い分子量のバンドは、グルコアミラーゼ2分子が結合したF(ab’)2を表すという説明が最も適切である。
【0160】
F(ab’)2が形質転換体1−Fab−12によって分泌されたことを確認するため、分泌された抗体断片を精製し、グルコアミラーゼ−Fab’及びグルコアミラーゼF(ab’)2融合タンパク質からFab’及びF(ab’)2を分離した。精製に用いた方法は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー(2002年9月18日に出願された、“タンパク質の精製”というタイトルの継続中の米国特許出願60/411,537号に記載されている)、及びその後のサイズ排除クロマトグラフィーである。まず、真菌細胞を、Miracloth(Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いるろ過によって培養液から除去した。ろ過した培養液を接線限外ろ過によって約7倍に濃縮した。循環ポンプを用いて、当該培養液を加圧し、30000分子量を遮断する再生セルロース製の膜(Prep/Scale(商標)TFF、ミリポア)を通過させた。粒子を取り除くため、濃縮物を25000倍重力で15分間遠心分離し、得られた上澄み液を一連の膜でろ過した(ここで、当該膜は、それぞれ前の膜よりも小さな孔径を有しており、最後は0.2マイクロメーターの孔径のものである)。疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて、上澄み液からFab’(モノマー及びダイマー)抗体断片を精製した。これらの方法は、高速液体クロマトグラフィーシステム(AKTA(商標)エクスプローラー10、Amersham Biosciences)を用いて行った。HCICを用いることにより、その他の上澄みタンパク質から、及びグルコアミラーゼ−融合タンパク質から抗体分子を分離することができる。SECは、F(ab’)2からFabを分離するのに役立つ。HCICは、MEP HyperCel(商標)(Ciphergen Biosystems)培地を含むカラムを用いて行った。当該カラムは、50mMのトリス、200mMのNaCl、及びpH8.2バッファーによって平衡化した。pH8.2に調節した上澄み液を100cm/時の直線流速でカラムに装入した。カラム体積の5倍量(5CV)の平衡バッファーで洗浄した後、徐々にpHを下げながら結合分子を溶出させた。以下に示す2CVのバッファーを、以下の順番で、200cm/時においてカラムに装入した:100mMの酢酸ナトリウム、pH5.6;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.75;100mMの酢酸ナトリウム、pH4.0;及び100mMのクエン酸ナトリウム、pH2.5。Fab’及びF(ab’)2をpH4.5−5.5の範囲で溶出させ、すぐに、1Mのトリス及びpH8.2バッファーで中和した。Superdex 200(商標)Pre Grade培養液を含むHiLoad(商標)26/60カラムをSECに用いた。流速は、17cm/時に保った。20mMの酢酸ナトリウム、136mMのNaCl、及びpH5.5バッファーを用いてカラムを平衡化した後、6.5mLの試料を1CVの平衡バッファーと共にカラムに装入した。カラムに存在する抗体の純度は、SDS−PAGEによって評価した。
【0161】
還元条件下のSDS−PAGEにおいて、HClで精製したFab’及びF(ab’)2のFd’の軽鎖はいずれも25kDaのバンドとして移動する(図10)。これらの条件下では、グルコアミラーゼ−軽及びはグルコアミラーゼ−Fd’融合タンパク質は約50kDaのバンドとして移動すると考えられるので、これらが精製試料に存在しないことは明らかである。非還元条件下のSDS−PAGEでは、F(ab’)2が、Fab’の50kDa(図10のフラクションB7)に対して約100kDaのバンドとして移動するので、当該F(ab’)2が精製試料中に存在することは明らかである(図10のフラクションA5)。
【実施例15】
【0162】
アスペルギルスにおいて生産されたTrastuzumabが機能性であること(her2発現乳ガン細胞に結合し、その増殖を阻害すること)を検証するアッセイ
高レベルのHER2を発現させるヒト乳腺ガン細胞株であるSK−BR−3(ATCC番号:HTB−30)における、アスペルギルス形質転換体1−LC/HC−3によって製造されたTrastuzumabの効果を市販のTrastuzumab(Herceptin、Genentech、South San Francisco、カリフォルニア州)と比較した。96ウェルマイクロタイタープレートにおける細胞の増殖をアッセイするために、“CellTiter 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay”(Promega Corporation、マジソン、ウィルコンシン州)を製造者の説明書に従って用いた。SK−BR−3細胞を1ウェル当り1800細胞で塗布し、抗体添加前に6時間付着させ、72時間後にアッセイした。形質転換体1−LC/HC−3からのタンパク質A精製IgG1のSK−BR−3における増殖抑制効果を試験し、ハーセプチン及び未処理細胞と比較した。対照として、細胞株A−431細胞(ATCC番号:CRL−1555)を用いた。A−431は、高レベルのEGFレセプター及び低レベルのHER2を発現するヒト類表皮ガンである。ハーセプチンは、当該細胞株において増殖抑制効果をほとんど又は全く示さない。データは、未処理細胞と比較した増殖率(3つのウェルの平均)として示す(図11参照)。これらの結果は、SK−BR−3細胞株におけるTrastuzumabの増殖抑制効果についての報告(P.Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻、4285−4289頁、1992年)と一致するものであり、形質転換体1−LC/HC−3の培地上澄みから精製した抗体が、会合して特定の抗体HER2と結合し得る機能を有することを実証するものである。
【実施例16】
【0163】
アスペルギルスにおけるHu1D10抗体の生産
実施例10に記載と同様に発現ベクターを構築し、Aspergillus nigerにおいてHu1D10抗体(IgG1κ下位分類;S.a.Kostelnyら、Int.J.Cancer、93巻、556−565頁、2001年)の軽鎖及び重鎖を生産した。Hu1D10をコード化するcDNAを部位特異的変異誘発によって修飾し、内部BstEII部位を除去した。PCRプライマーは、5’末端にNhe1部位を増幅及び付加し、3’末端にBstEII部位を付加し、及び5’末端に特異的コドンを付加するように設計した。
【0164】
5’末端配列で変異したHu1D10軽鎖をコード化する2つのタイプcDNAを発現させた。Q101型のHu1D10軽鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列16】
【0165】
【0166】
Q100型のHu1D10軽鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列17】
【0167】
【0168】
その後、上記の増幅された軽鎖cDNAをアスペルギルス発現ベクター中に挿入し、pQ101又はpQ100を得ることができる。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターが存在することにより、軽鎖コード化cDNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。
【0169】
プラスミドpQ101は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKR、さらに成熟Hu1D10軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーを含んでいない。
【配列18】
【0170】
【0171】
プラスミドpQ100は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKRGGG、さらに成熟Hu1D10軽鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、また、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーとしてA.niger pyrG遺伝子を含む。
【配列19】
【0172】
【0173】
5’末端配列で変異したHu1D10重鎖をコード化する2つのタイプcDNAを発現させた。CL17型のHu1D10重鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列20】
【0174】
【0175】
CL16型のHu1D10重鎖をコード化するcDNA配列を以下に示す。小文字で示したヌクレオチドは、PCRプライマーによって付加されたものである。
【配列21】
【0176】
【0177】
その後、上記の増幅された重鎖cDNAをアスペルギルス発現ベクター中に挿入し、pCL17又はpQCL16を得ることができる。Aspergillus awamori glaA(グルコアミラーゼ)プロモーター及びA.niger glaAターミネーターが存在することにより、重鎖コード化DNAを含むオープンリーディングフレームの発現が制御される。
【0178】
プラスミドpCL17は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKR、さらに成熟Hu1D10重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、また、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーとしてA.niger pyrG遺伝子を含む。
【配列22】
【0179】
【0180】
プラスミドpCL16は、グルコアミラーゼシグナル配列、プロ配列、触媒ドメイン、及び(下線で示すアミノ酸ISKRGGG、さらに成熟Hu1D10重鎖が後に続く)成熟グルコアミラーゼのアミノ酸番号498(セリン)までのリンカー領域(J.H.Nunbergら、Mol.Cell.Biol.、4巻、2306−2315頁、1984年)よりなる以下に示す融合タンパク質の発現のために設計されたものである。当該プラスミドは、アスペルギルス形質転換のための選択マーカーを含んでいない。
【配列23】
【0181】
【0182】
プラスミドpQ101及びpCL17を、実施例9及び12に記載の方法によってAspergillus niger var awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に同時形質転換した。最も優れたHu1D10生産形質転換体(3−Hu1D10−20e)を同定し、約0.2g/lのIgG1κを生産させることを明らかにした。
【0183】
プラスミドpQ100及びpCL16を、実施例9及び12に記載の方法によってAspergillus niger var awamori菌株dgr246ΔGAP:pyr2−の中に同時形質転換した。最も優れたHu1D10生産形質転換体(2−Hu1D10−16b)を同定し、約0.2g/lのIgG1κを生産させることを明らかにした。
【0184】
実施例12に記載の方法によって、これらの形質転換体の培地上澄みから抗体を精製した。菌株3−Hu1D10から得た精製抗体標本をAn−Hu1D10で表し、菌株2−Hu1D10−16bから得たものをAn−3G−Hu1D10で表す。
【実施例17】
【0185】
抗体の親和性及び結合活性(avidity)
Hu1D10(Kostelnyら、Int.J.Cancer、93巻、556−565頁、2001年)によって認識されるHLA−DRβ鎖アロタイプを発現する、ヒトバーキットリンパ種由来の細胞株Raji(ATCC、Manassas、ヴァージニア州)を、7.5%CO2恒温器に10%ウシ胎仔血清(FBS;HyClone、Logan、ユタ州)を含むRPMI−1640(Gibco BRL、Grand Island、ニューヨーク州)中に維持した。HLA−DRβ鎖に結合するHu1D10の親和性を、Raji細胞に結合した抗体の量を測定することにより評価した。Raji細胞(5x105
細胞/試験)を、種々の量(1μg/試験から始めて順次2倍希釈)の対照Hu1D10(NS0マウス骨髄腫細胞株に由来)、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10と共に、100μlのFACS染色バッファー(FSB;1%ウシ血清アルブミン及び0.2%アジ化ナトリウムを含有するPBS)における氷上で30分間培養した。培養した後、細胞をFSBで3回洗浄し、氷上でさらに30分間、フルオレセインイソチオシアナート(FTIC)結合AffiniPureヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove、ペンシルベニア州)と共に培養した。当該細胞をFSBで3回洗浄し、FACScan(Becton Dickinson、San Jose、カリフォルニア州)を用いてフローサイトメトリーによって分析した。抗体濃度(ng/試験)を平均チャンネル蛍光に対してプロットした(図12)。また、競合結合実験を行った。当該実験では、FSB中のFITC標識化NS0−Hu1D10(0.25μg/試験)及び競合抗体(対照NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10を6.25μg/試験から始めて順次2倍希釈)の混合物を添加して、最終体積100μlを1試験当り2つ調製した。全ての試料を氷上で30分間培養した。当該細胞をFSBで3回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。競合抗体の濃度を平均チャンネル蛍光に対してプロットした(図13)。NS0由来及びアスペルギルス由来のHu1D10抗体の間で、Raji細胞への結合における大きな違いは観測されなかった(図12及び13)。このことは、Aspergillus nigerにおけるHu1D10の生産は、抗原結合部位の構造にはほとんど影響を与えないことを示唆するものである。
【0186】
さらに、Raji細胞集団におけるアポトーシスの程度を(FITC−アネキシンV及びヨウ化プロピジニウムによる染色を用いて)モニターすることによって、Hu1D10の結合活性を測定した(I.Vermesら、J.Immunol.Methods、184巻、38−51頁、1995年)。対照NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10抗体のアポトーシス誘発能力を測定するために、10%FBSを含有するRPMI−1640に5x105細胞/mlで再懸濁させたRaji細胞を、2μgの抗体と共に37℃で5時間又は24時間培養した。その後、アポトーシス検出キットの1X結合バッファー(Pharmingen、San Diego、カリフォルニア州)で細胞を3回洗浄し、製造業者の説明書に従ってFITC結合アネキシンV及びヨウ化プロピジニウムで染色した。二色フローサイトメトリーによって細胞死を評価した。アポトーシスパーセントは、アネキシンVによる染色細胞の割合、及びアネキシンVとヨウ化プロピジニウムによる染色細胞の割合の合計として定義した。相対的な細胞蛍光をFACScanで分析した(図14)。
【0187】
これらの実験において、NS0由来Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10の間で、アポトーシス誘発能力に大きな違いは観測されなかった。
【実施例18】
【0188】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)
ADCCによりRaji細胞を死滅させるNS0−Hu1D10、An−Hu1D10、又はAn−3G−Hu1D10の能力を測定した(Kostelnyら、2001年)。エフェクター細胞(IE)としてヒトPMBCを用い及びターゲット細胞(T)としてRaji細胞を用いるLDH検出キット(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、イリノイ州)によって、ADCCを分析した。Ficoll−Paqueリンパ球単離溶液(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)を用いて、ヒト末梢血単核細胞(PMBC)を健康なドナーから単離した。ターゲット及びエフェクター細胞を、1%BSAを補充したRPMI−1640(Gibco BRL)で洗浄し、40:1のE:T比で96ウェルのU底プレート(Becton Dickinson)に添加した。Hu1D10抗体は、所望の濃度で当該ウェルに添加した。37℃で4時間培養した後、全てのプレートを遠心分離し、別個の96ウェル平底プレートにおいて、無細胞の上澄みをLDH反応混合物と共に25℃で30分間培養した。反応試料の吸光度を490nmで測定した。抗体の非存在下においてエフェクター及びターゲット才能を添加することによって、抗体非依存性細胞損傷(AICC)を測定した。ターゲット又はエフェクター細胞のみを添加することによって、自発放出(SR)を測定した。ターゲット細胞に2%のTriton−X100を添加することによって、最大放出(MR)を測定した。溶菌のパーセントを以下の式を用いて評価した:{(試料のLDH放出−エフェクター細胞のSR−ターゲット細胞のSR)/(ターゲット細胞のMR−ターゲット細胞のSR)}×100。各条件を2回行った。
【0189】
2つの異なるドナーからのヒトPBMCを分析に用いた。ドナー1(図15左)では、3つのHu1D10抗体にいずれにおいても、最大細胞損傷レベルは約40%に達した。当該実験では、アスペルギルス由来Hu1D10は、他の2つのHu1D10抗体よりもわずかに多く細胞損傷を誘発した。しかしながら、NS0由来Hu1D10及びアスペルギルス由来An−3G−Hu1D10抗体の間で、細胞損傷誘発における大きな違いは観測されなかった。ドナー2(図15右)では、最大細胞損傷は、3つのHu1D10抗体で15乃至20%であった。当該実験では、An−Hu1D10抗体は、他の2つのHu1D10抗体ほどは細胞損傷誘発活性を有していなかったが、当該3つの抗体における違いはわずかであった。これらの結果は、アスペルギルス由来Hu1D10抗体がADCC活性を示すことをはっきりと示唆するものである。
【実施例19】
【0190】
薬物動態学
A.niger菌株2−LC/HC−38bから精製したTrastuzumabとGenentech Inc.(South San Francisco)から市販されているTrastuzumabの薬物動態学を比較するために、ラットを用いる実験をインビボで行った。
【0191】
2つのグループのSpraque Dawleyラット(約250−300gの重量範囲)に、A.niger由来のTrastuzumab(N=3)又は市販のTrastuzumab(N=4)の2mg/kgを静脈注射した。動物には、最終濃度0.9mg/mlに希釈したTrastuzumab調合液を用いて個体の体重に応じて投与した。投与後0、1、4、8、24、48、72、及び96時間、及び、7、12、14日において、血清のための血液(0.5mL/試料)を採取した。採取後30分以内に当該血液試料を遠心分離して、血清を調製した。当該血清をデカントし(decanted)、−80℃の貯蔵庫に移す前に当該血清試料を氷上で保存した。これらの血清試料におけるヒトIgG1レベルを上述のELISAによって測定した。真菌由来の及び市販のTrastuzumabにおける血清濃度対時間のプロファイルを図16に示す。当該データの非区画化(noncompartmental)分析を行った(表1)。2LC/HC−38b及び市販のTrastuzumabにおける血清濃度対時間のプロファイルと同様に、当該分析におけるパラメーターは同様であった。市販のTrastuzumab及び2LC/HC−38bの血清における長い生存期間を考慮すると、この14日間の実験では、半減期の正確な算出はできなかった。しかしながら、生物学的等価性の評価において一般的に用いられるパラメーター、すなわち、Cmax(血清における抗体濃度の平均ピーク)及びAUClast(濃度−時間曲線の下側の面積)は、2LC/HC38b及び哺乳類細胞由来のTrastuzumabについて同等(comparable)のものであった。これらの結果は、真菌によるTrastuzumabの発現は、インビボにおける抗体の薬物動態学的性質に影響を与えなかったことを示唆するものである。
【0192】
以上、明確さ及び理解のために図面及び実施例を用いて、本発明を詳細に説明してきたが、特許請求の範囲の範囲内において特定の変更及び修正が可能であることは明らかであろう。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】図1は、抗体の略図であり、抗体の可変領域、及び種々の抗体断片の名称を示すものである。
【図2】図2は、Aspergillus niger又はAspergillus niger var.awamoriから得られるグルコアミラーゼの2つの形態を示すものである。
【図3】図3は、プラスミドpQ83を示す図である。
【図4】図4は、プラスミドpCL1を示す図である。
【図5】図5は、第2のTrastuzumab重鎖発現プラスミドであるpCL5を示す図である。
【図6】図6は、プラスミドpCL2を示す図である。
【図7】図7は、プラスミドpCL3を示す図である。
【図8】図8は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルー染色による還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3(レーン3)について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化及びグリコシル化形態(50及び53kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。形質転換体1−HCΔ−4(レーン2)について観測されたバンドは、軽鎖(25kDa)、重鎖の非グリコシル化形態(50kDa)、グルコアミラーゼ−軽鎖の融合タンパク質(85kDa)、及びグルコアミラーゼ−重鎖の融合体(116kDa)と同定された。形質転換体1−Fab−1(レーン1)について観測されたバンドは、軽鎖及びFd’鎖(いずれも25kDa)、及びグルコアミラーゼ−軽鎖及びグルコアミラーゼ−Fd’の融合タンパク質(いずれも85kDa)と同定された。
【図9】図9は、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製した試料についての、クマシーブリリアントブルーによる非還元条件下におけるSDS−PAGE(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA州からのNuPAGEトリス酢酸電気泳動システム)の結果を示すものである。形質転換体1−LC/HC3(レーン4)について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。形質転換体1−HCΔ−4(レーン3)について観測された主なバンドは、会合IgG1(150kDa)、グルコアミラーゼ1分子が付着した会合IgG1(〜200kDa)、及びグルコアミラーゼ2分子が付着した会合IgG1(〜250kDa)と同定された。形質転換体1−Fab−1(レーン1)について観測された主なバンドは、会合Fab’(50kDa)、及びグルコアミラーゼ1分子が付着した会合Fab’(〜100kDa)と同定された。
【図10】図10は、疎水性電荷誘導(charge induction)クロマトグラフィー、その後にサイズ排除クロマトグラフィーによって形質転換体1−Fab−12の上澄みから精製したFab’及びF(ab’)2の試料についての、還元及び非還元条件下におけるSDS−PAGEの結果を示すものである。A5、B11、B7、及びB3は、サイズ排除クロマトグラフィーカラムから採取した異なるフラクションを示している。
【図11】図11は、ヒトの乳腺ガン細胞系であるSK−BR−3(ATCC番号:HTB−30)におけるHER2抗体の増殖抑制効果を示すグラフである。市販のハーセプチン抗体を菱形(◆)及び三角形(▲)で表す。Aspergillus形質転換体1LC/HC−3抗体を円形(●)及び正方形(■)で表す。対照細胞は、A−431であり、これは、高レベルのEGF及び低レベルのHER2を発現するヒト類表皮ガンである。
【図12】図12は、NS0マウスの骨髄腫細胞系に由来するHu1D10抗体(正方形;■)、及び2つのAspergillus生成抗体(An−3G−Hu1D10[円形;●]、及びAn−Hu1D10[逆三角形:▼]で表す)のラジ細胞(Raji cell)への結合を示すグラフである。結合における大きな違いは観測されなかった。
【図13】図13は、NS0マウスの骨髄腫細胞系に由来するHu1D10抗体(正方形;■)、及び2つのAspergillus生成抗体(An−3G−Hu1D10[円形;●]、及びAn−Hu1D10[逆三角形:▼]で表す)とFITC標識化抗体によるラジ細胞への競合結合を示すグラフである。結合における大きな違いは観測されなかった。
【図14】図14は、5時間又は24時間において、Hu1D10、An−3G−Hu1D10、及びAn−Hu1D10によってアポトーシスが誘発された細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。アポトーシス誘発における大きな違いは観測されなかった。
【図15】図15A及びBは、2つの異なるドナーにおいて試験したそれぞれ3つの抗体(すなわち、Hu1D10、An−3G−Hu1D10、及びAn−Hu1D10)により達した抗体依存性細胞障害作用のレベルを示すグラフである。アスペルギルス由来の抗体によるADCC活性が見られる。
【図16】CHO由来及びアスペルギルス由来のTrastuzumabにおけるインビボ薬物動態学のグラフである。薬物動態学の傾向おける大きな違いは、真菌由来の抗体について観測されなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むモノクローナル抗体であって、
当該モノクローナル抗体を含む各鎖は、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記融合タンパク質が抗体鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
前記糸状菌宿主が、アスペルギルス属、アカパンカビ属、フザリウム属、トリコデルマ属、セファロスポリウム属、ペニシリウム属、又はクリソスポリウム属である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
前記糸状菌がアスペルギルス属である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
前記糸状菌がAspergillus nigerである、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
標識と結合している、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項7に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項8に記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むモノクローナル抗体であって、
当該モノクローナル抗体を含む重鎖の少なくとも1及び軽鎖の少なくとも1が、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体。
【請求項11】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
前記融合タンパク質が免疫グロブリン鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項10に記載のモノクローナル抗体。
【請求項13】
F(ab’)2、Fab’、及びFabよりなる群から選択されるモノクローナル抗体断片であって、
前記断片が少なくとも1の重鎖及び少なくとも1の軽鎖を含み、
当該モノクローナル抗体断片を含む各鎖は、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体断片。
【請求項14】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項13に記載のモノクローナル抗体。
【請求項15】
前記融合タンパク質が免疫グロブリン鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項13に記載のモノクローナル抗体断片。
【請求項16】
標識と結合している、請求項13に記載のモノクローナル抗体。
【請求項17】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項16に記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項17に記載のモノクローナル抗体。
【請求項19】
非グリコシル化されている、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項20】
前記抗体が酵素によって処理された、請求項19に記載のモノクローナル抗体。
【請求項21】
前記酵素が、エンドグリコシダーゼH、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼA、PNGase F、PNGase A、及びPNGase
Atよりなる群から選択される、請求項20に記載のモノクローナル抗体。
【請求項22】
前記抗体がアグリコシル化されている、請求項19に記載のモノクローナル抗体。
【請求項23】
グリコシル化がアミノ酸置換による、請求項22に記載のモノクローナル抗体。
【請求項24】
グリコシル化がアミノ酸置換N297Qによる、請求項23に記載のモノクローナル抗体。
【請求項25】
真菌グリコシル化パターンを有する、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項26】
高マンノースグリコシル化パターンを有する、請求項25に記載のモノクローナル抗体。
【請求項27】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、
当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、
ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン軽鎖又はそれらの断片をコード化する、
当該融合核酸。
【請求項28】
前記第4核酸が免疫グロブリン軽鎖をコード化する、請求項27に記載の融合核酸。
【請求項29】
前記第4核酸が免疫グロブリン軽鎖の断片をコード化する、請求項27に記載の融合核酸。
【請求項30】
請求項27に記載の核酸を含む、組成物。
【請求項31】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
をさらに含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
請求項27乃至29のいずれか1に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項33】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
をさらに含む、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項34】
宿主糸状菌において、免疫グロブリン分子、又は免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の少なくとも可変ドメインを含む免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を生産する方法であって、
a. 請求項27に記載の融合DNA配列を含む第1の発現ベクターで前記宿主を形質転換する工程、
b. 融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
を含む第2の発現ベクターで前記宿主を形質転換する工程、
c. 前記融合DNA配列を発現させるための条件下で前記宿主を成長させ、前記融合DNA配列によってコード化された所望のポリペプチドを発現させる工程、及び、
d. 前記免疫グロブリン分子、又はそれらの免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を単離する工程、
を含む当該方法。
【請求項35】
前記免疫グロブリン又はそれらの断片が分泌される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
宿主糸状菌において、免疫グロブリン分子、又は免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の少なくとも可変ドメインを含む免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を生産する方法であって、
a. 請求項31に記載の組成物で前記宿主を形質転換する工程、
b. 前記融合DNA配列を発現させるための条件下で前記宿主を成長させ、前記融合DNA配列によってコード化された所望のポリペプチドを発現させる工程、及び、
c. 前記免疫グロブリン分子、又はそれらの免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を単離する工程、
を含む当該方法。
【請求項37】
前記免疫グロブリン又はそれらの断片が分泌される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項34又は36に記載の方法によって発現するモノクローナル抗体を分泌することができる糸状菌宿主細胞。
【請求項39】
第1及び第2融合核酸によって形質転換された糸状菌宿主細胞であって、
a. 前記第1融合核酸が、免疫グロブリン重鎖又は軽鎖のいずれかの少なくとも可変ドメインをコード化し、及び、
b. 前記第2融合核酸が、その他の鎖をコード化する、
当該糸状菌宿主細胞。
【請求項40】
請求項31に記載の組成物によって形質転換された糸状菌宿主細胞。
【請求項41】
請求項34又は36に記載の方法によって生産されるモノクローナル抗体又はそれらの断片を含む、治療用組成物。
【請求項42】
請求項1に記載のモノクローナル抗体又はそれらの断片を含む、治療用組成物。
【請求項43】
請求項7に記載の標識と結合したモノクローナル抗体を含む、治療用組成物。
【請求項44】
請求項34又は36に記載の方法によって生産される抗体又はそれらの断片を含む、診断用又はアッセイ用キット。
【請求項45】
前記モノクローナル抗体が標識と結合している、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項46に記載のキット。
【請求項1】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むモノクローナル抗体であって、
当該モノクローナル抗体を含む各鎖は、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記融合タンパク質が抗体鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
前記糸状菌宿主が、アスペルギルス属、アカパンカビ属、フザリウム属、トリコデルマ属、セファロスポリウム属、ペニシリウム属、又はクリソスポリウム属である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
前記糸状菌がアスペルギルス属である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
前記糸状菌がAspergillus nigerである、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
標識と結合している、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項7に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項8に記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むモノクローナル抗体であって、
当該モノクローナル抗体を含む重鎖の少なくとも1及び軽鎖の少なくとも1が、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体。
【請求項11】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
前記融合タンパク質が免疫グロブリン鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項10に記載のモノクローナル抗体。
【請求項13】
F(ab’)2、Fab’、及びFabよりなる群から選択されるモノクローナル抗体断片であって、
前記断片が少なくとも1の重鎖及び少なくとも1の軽鎖を含み、
当該モノクローナル抗体断片を含む各鎖は、糸状菌宿主細胞において融合タンパク質として発現されたものであり、
当該融合タンパク質が、糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの部分、及び免疫グロブリン鎖を含む、
当該モノクローナル抗体断片。
【請求項14】
前記分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分が、アスペルギルスグルコアミラーゼ、アスペルギルスアルファ−アミラーゼ、アスペルギルスアスパルチルプロテアーゼ、トリコデルマセロビオヒドロラーゼ、及びトリコデルマエンドグルカナーゼよりなる群から選択される、請求項13に記載のモノクローナル抗体。
【請求項15】
前記融合タンパク質が免疫グロブリン鎖及びグルコアミラーゼを含む、請求項13に記載のモノクローナル抗体断片。
【請求項16】
標識と結合している、請求項13に記載のモノクローナル抗体。
【請求項17】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項16に記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項17に記載のモノクローナル抗体。
【請求項19】
非グリコシル化されている、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項20】
前記抗体が酵素によって処理された、請求項19に記載のモノクローナル抗体。
【請求項21】
前記酵素が、エンドグリコシダーゼH、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼA、PNGase F、PNGase A、及びPNGase
Atよりなる群から選択される、請求項20に記載のモノクローナル抗体。
【請求項22】
前記抗体がアグリコシル化されている、請求項19に記載のモノクローナル抗体。
【請求項23】
グリコシル化がアミノ酸置換による、請求項22に記載のモノクローナル抗体。
【請求項24】
グリコシル化がアミノ酸置換N297Qによる、請求項23に記載のモノクローナル抗体。
【請求項25】
真菌グリコシル化パターンを有する、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項26】
高マンノースグリコシル化パターンを有する、請求項25に記載のモノクローナル抗体。
【請求項27】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、
当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、
ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン軽鎖又はそれらの断片をコード化する、
当該融合核酸。
【請求項28】
前記第4核酸が免疫グロブリン軽鎖をコード化する、請求項27に記載の融合核酸。
【請求項29】
前記第4核酸が免疫グロブリン軽鎖の断片をコード化する、請求項27に記載の融合核酸。
【請求項30】
請求項27に記載の核酸を含む、組成物。
【請求項31】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
をさらに含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
請求項27乃至29のいずれか1に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項33】
融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
をさらに含む、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項34】
宿主糸状菌において、免疫グロブリン分子、又は免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の少なくとも可変ドメインを含む免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を生産する方法であって、
a. 請求項27に記載の融合DNA配列を含む第1の発現ベクターで前記宿主を形質転換する工程、
b. 融合タンパク質をコード化する融合核酸であって、当該核酸の5’末端から第1、第2、第3、及び第4核酸を含み、ここで、第1核酸配列は、第1の糸状菌における分泌配列として機能するシグナルポリペプチドをコード化し、第2核酸は、前記第1糸状菌又は第2の糸状菌から正常に分泌される分泌ポリペプチド又はそれらの機能性部分をコード化し、第3核酸は、開裂可能なリンカーをコード化し、及び、第4核酸は、免疫グロブリン重鎖又はそれらの断片をコード化する、当該融合核酸、
を含む第2の発現ベクターで前記宿主を形質転換する工程、
c. 前記融合DNA配列を発現させるための条件下で前記宿主を成長させ、前記融合DNA配列によってコード化された所望のポリペプチドを発現させる工程、及び、
d. 前記免疫グロブリン分子、又はそれらの免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を単離する工程、
を含む当該方法。
【請求項35】
前記免疫グロブリン又はそれらの断片が分泌される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
宿主糸状菌において、免疫グロブリン分子、又は免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の少なくとも可変ドメインを含む免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を生産する方法であって、
a. 請求項31に記載の組成物で前記宿主を形質転換する工程、
b. 前記融合DNA配列を発現させるための条件下で前記宿主を成長させ、前記融合DNA配列によってコード化された所望のポリペプチドを発現させる工程、及び、
c. 前記免疫グロブリン分子、又はそれらの免疫学的に機能性の免疫グロブリン断片を単離する工程、
を含む当該方法。
【請求項37】
前記免疫グロブリン又はそれらの断片が分泌される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項34又は36に記載の方法によって発現するモノクローナル抗体を分泌することができる糸状菌宿主細胞。
【請求項39】
第1及び第2融合核酸によって形質転換された糸状菌宿主細胞であって、
a. 前記第1融合核酸が、免疫グロブリン重鎖又は軽鎖のいずれかの少なくとも可変ドメインをコード化し、及び、
b. 前記第2融合核酸が、その他の鎖をコード化する、
当該糸状菌宿主細胞。
【請求項40】
請求項31に記載の組成物によって形質転換された糸状菌宿主細胞。
【請求項41】
請求項34又は36に記載の方法によって生産されるモノクローナル抗体又はそれらの断片を含む、治療用組成物。
【請求項42】
請求項1に記載のモノクローナル抗体又はそれらの断片を含む、治療用組成物。
【請求項43】
請求項7に記載の標識と結合したモノクローナル抗体を含む、治療用組成物。
【請求項44】
請求項34又は36に記載の方法によって生産される抗体又はそれらの断片を含む、診断用又はアッセイ用キット。
【請求項45】
前記モノクローナル抗体が標識と結合している、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
前記標識が、細胞毒性薬、抗生物質、又は検出可能マーカーである、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記検出可能マーカーが放射性同位体又は酵素である、請求項46に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2006−512891(P2006−512891A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−586327(P2003−586327)
【出願日】平成15年4月17日(2003.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/012246
【国際公開番号】WO2003/089614
【国際公開日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年4月17日(2003.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/012246
【国際公開番号】WO2003/089614
【国際公開日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】
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