説明

約15kDaおよび約45kDaの殺虫性タンパク質をコードする、植物において最も効果的に発現するポリヌクレオチド

【課題】殺虫性毒素をコードし、植物において最も効果的に発現する新規なポリヌクレオチド配列を提供する。
【解決手段】トウモロコシ等の植物に害虫抵抗性を付与するために植物を形質転換することができる、Bacillus thuringiensis由来の約15 kDaおよび約45 kDaの殺虫性タンパク質(δ−エンドトキシン)をコードする、特定の塩基配列を有するポリヌクレオチド、及び該殺虫性タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
昆虫およびその他の有害生物のために、農家は年間10億ドルもの農作物の損失およびこれらの有害生物を制御するための出費を要する。農業生産環境において害虫によって引き起こされた損失には、農作物の収穫高の減少、農作物の品質の低下、および収穫にかかる費用の増加が含まれる。
【0002】
化学農薬により有害生物制御の有効な方法が提供された;が、公衆は食物、地下水、および環境に認められる可能性がある残留化学物質の量に懸念を示すようになった。したがって、環境に対して毒性を示す結果となる可能性があることから、合成化学農薬はますます詳細且つ正確に調査されている。合成化学農薬によって土壌および地下帯水層が毒素で汚染され、表面流去の結果として表面水が汚染され、非特異的に生態系が破壊されうる。合成化学制御物質はさらに、ペット、家畜動物または子供がそれらに接触する可能性がある領域に適用されると、公衆の安全を危険に曝すという短所を有する。それらはまた、特に、適切な施用法に従わない場合、施用者の健康にも害を及ぼす可能性がある。世界中の規制当局が多くの農薬、特に環境中に残存し、食物連鎖に入る合成化学農薬の使用を制限および/または禁止している。広く用いられる合成化学農薬の例には、有機塩素化合物、例えばDDT、マイレックス、ケポン、リンダン、アルドリン、クロルデン、アルジカルブ、およびジエルドリン;有機燐酸化合物、例えばクロルピリホス、パラチオン、マラチオン、およびダイアジノン;ならびにカルバミン酸塩が含まれる。農薬の使用に関して厳密な新しい制限を加えること、およびいくつかの有効な農薬を市場から追放することによって、費用のかかる害虫を制御する経済的かつ有効な選択肢が制限される可能性がある。
【0003】
合成化学農薬の使用に関連した問題のために、これらの物質の使用を制限することは明らかに必要であり、且つ代わりの制御物質を特定することが必要である。合成化学農薬を生物農薬に変更すれば、またはこれらの物質と生物農薬とを併用すれば、環境中の毒性化学物質のレベルを減少させることができると思われる。
【0004】
このところ評判がよい生物農薬は土壌微生物バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis、B.t.)である。土壌微生物バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis、B.t.)はグラム陽性の胞子形成性細菌である。B.t.のほとんどの株は殺虫活性を示さない。いくつかのB.t.株は、パラ胞子結晶蛋白質封入体を産生し、これらにより特徴づけられる。典型的に特異的殺虫活性を有するこれらの「δ-エンドトキシン」は、非特異的な宿主範囲を有するエキソトキシンとは異なる。これらの封入体はしばしば顕微鏡下で特徴的な形状の結晶として認められる。この蛋白質は有害生物に対して非常に毒性が強く、その毒素活性は特異的である。
【0005】
B. チューリンギエンシス(B. thuringiensis)亜種クルスタキ(kurstaki)の胞子製剤および結晶製剤は、何年ものあいだ鱗翅目害虫に対する市販の殺虫剤として用いられてきた。例えば、B. チューリンギエンシス(B. thuringiensis)変種クルスタキ(kurstaki)HD-1は、多くの鱗翅目昆虫の幼虫に対して毒性を示す結晶性δ-エンドトキシンを産生する。
【0006】
大腸菌におけるB.t.結晶蛋白質遺伝子のクローニングおよび発現は、15年以上前に発表された論文に記載された(シュネフ(Schnepf, H. E.)、ホワイトレー(H. R. Whiteley)[1981]Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2893〜2897(非特許文献1))。米国特許第4,448,885号(特許文献1)および米国特許第4,467,036号(特許文献2)はいずれも、大腸菌におけるB.t.結晶蛋白質の発現を開示している。組換え型DNAに基づくB.t.産物が産生されて、使用が承認されている。
【0007】
B.t.農薬の商業的使用は当初、鱗翅目(イモムシ)害虫の狭い範囲に制限されていた。しかし比較的最近、研究者らははるかに広い範囲の害虫に対する特異性を有するB.t.農薬を発見した。例えば、B.t.のその他の種、すなわちイスラエレンシス(israelensis)およびモリソーニ(Morrisoni)(a.k.a.テネブリオニス(tenebrionis)、a.k.a. B.t. M-7)はそれぞれ、双翅目および鞘翅目昆虫を制御するために商業的に用いられている(ガートナー(Gaertner, F. H.)[1989]「殺虫性蛋白質の細胞輸送システム:生存および非生存微生物(Cellular Delivery Systems for Insecticidal Proteins:Living and Non-Living Microorganisms)」(非特許文献2)(「農作物保護物質の調節輸送(Controlled Delivery of Crop Protection Agents)」)、ウィルキンス(R. M. Wilkins)編、テイラー&フランシス、ニューヨークおよびロンドン、1990、245〜255頁(非特許文献3))。
【0008】
B.t.の新規亜種が現在同定されており、活性なδ-エンドトキシン蛋白質の原因となる遺伝子が単離およびシークエンシングされている(ヘフテ(Hofte, H.)、ホワイトレー(Whiteley)[1989]Microbiological Reviews 52(2):242〜255(非特許文献4))。ヘフテ(Hofte, H.)&ホワイトレー(Whiteley)はB.t.結晶蛋白質遺伝子を4つの主なクラスに分類した。クラスはcryI(鱗翅目特異的)、cryII(鱗翅目および双翅目特異的)、cryIII(鞘翅目特異的)、およびcryIV(双翅目特異的)であった。その他の有害生物に対して特異的に毒性を示す株の発見が報告されている(ファーテルソン(Fertelson, J.S.)、ペイン(J. Payne)、キム(L. Kim)[1992] Bio/Technology 10:271〜275(非特許文献5))。例えば、線虫活性毒素の2つの新規グループに関してCryVおよびCryVIという名称が提案されている。
【0009】
ヘフテ(Hofte, H.)&ホワイトレー(Whiteley)の1989年の命名分類スキームは、毒素の推定アミノ酸配列および宿主範囲の双方に基づいている。このシステムを、5つの主要なクラスに分類される毒素遺伝子の異なる14タイプをカバーするように適合させた。シークエンシングされたバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)結晶蛋白質遺伝子の数は現在50以上である。アミノ酸同一性のみに基づく命名スキームの改訂が提唱されている(クリックモア(Crickmore)ら[1996]無脊椎動物病理学会第29回総会、第三回バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)に関する国際討論、コルドバ大学、コルドバ、スペイン、1996年9月1〜6、抄録(非特許文献6))。コード「cry」は、異なるクラスであるcytAおよびcytB以外の全ての毒素遺伝子に関してそのまま用いられている。最初の位置のローマ数字をアラビア数字に変更し、3番目の位置の括弧を外した。数字は再分類したが、当初の名称の多くをそのまま使用した。
【0010】
遺伝子操作技術を用いて、昆虫に対する抵抗性が得られるようにB.t.毒素遺伝子によって遺伝子操作された植物を使用すること、および安定化した微生物細胞をB.t.毒素の輸送媒体として用いることを含む、B.t.毒素を農業環境に輸送する新しいアプローチが開発中である(ガートナー(Gaertner, F. H.)、キム(L. Kim)[1988]TIBTECH 6:S4〜S7(非特許文献7))。このように、単離B.t.内毒素遺伝子は商業的に重要となりつつある。
【0011】
B.t.毒素および/またはその遺伝子を改変することによって様々な改良がなされてきた。例えば、米国特許第5,380,831号(特許文献3)および第5,567,862号(特許文献4)は、植物における発現が改善した合成殺虫剤結晶蛋白質遺伝子の製造に関する。
【0012】
B.t.毒素の農業的使用の成功に対する障害となるものは、昆虫によるB.t.毒素に対する耐性の発現が含まれる。また、特定の昆虫はB.t.の作用に対して不応性となりうる。後者には、メキシコワタミゾウムシおよび黒ネキリムシのような昆虫と共に、これまでB.t.δ-エンドトキシンに対して明確な有意な感受性を示していないほとんどの種の成虫が含まれる。
【0013】
このように、B.t.植物技術における抵抗性管理対策は非常に重要となっており、新しい毒素遺伝子に対する必要性は依然として大きい。例えば、国際公開公報第97/40162号(公開PCT出願)(特許文献5)ではB.t.単離菌PS80JJ1とPS149B1より得られる15kDaと45kDaの鞘翅目活性蛋白質を開示している。
【0014】
広範囲の研究および資源投資の結果として、新規B.t.単離菌、毒素、および遺伝子ならびにB.t.単離菌の新規使用に関する他の特許が公布された。参考のためにファイテルソン(Feitelson)ら、上記を参照のこと。米国特許第5,589,382号(特許文献6)ではB.t.単離菌PS80JJ1が線虫類に対する活性を持っていると開示している。米国特許第5,632,987号(特許文献7)ではB.t.単離菌PS80JJ1がハムシモドキ幼虫(corn rootworm)に対する活性を持っていると開示している。しかし、新規のB.t.単離菌の発見および既知のB.t.単離菌の新たな使用は依然として経験的で予測不可能な技術である。
【0015】
植物において、昆虫および他の有害生物の有効な制御が得られるように、適当なレベルで首尾よく発現される新規毒素遺伝子に対する必要性は依然として非常に大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,448,885号
【特許文献2】米国特許第4,467,036号
【特許文献3】米国特許第5,380,831号
【特許文献4】米国特許第5,567,862号
【特許文献5】国際公開公報第97/40162号
【特許文献6】米国特許第5,589,382号
【特許文献7】米国特許第5,632,987号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】シュネフ(Schnepf, H. E.)、ホワイトレー(H. R. Whiteley)[1981]Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2893〜2897
【非特許文献2】ガートナー(Gaertner, F. H.)[1989]「殺虫性蛋白質の細胞輸送システム:生存および非生存微生物(Cellular Delivery Systems for Insecticidal Proteins:Living and Non-Living Microorganisms)」
【非特許文献3】「農作物保護物質の調節輸送(Controlled Delivery of Crop Protection Agents)」)、ウィルキンス(R. M. Wilkins)編、テイラー&フランシス、ニューヨークおよびロンドン、1990、245〜255頁
【非特許文献4】ヘフテ(Hofte, H.)、ホワイトレー(Whiteley)[1989]Microbiological Reviews 52(2):242〜255
【非特許文献5】ファーテルソン(Fertelson, J.S.)、ペイン(J. Payne)、キム(L. Kim)[1992] Bio/Technology 10:271〜275
【非特許文献6】クリックモア(Crickmore)ら[1996]無脊椎動物病理学会第29回総会、第三回バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)に関する国際討論、コルドバ大学、コルドバ、スペイン、1996年9月1〜6、抄録
【非特許文献7】ガートナー(Gaertner, F. H.)、キム(L. Kim)[1988]TIBTECH 6:S4〜S7
【発明の概要】
【0018】
発明の簡単な概要
本発明は、有害生物、特に植物有害生物の制御に有用な材料および方法に関する。より詳しく述べると、本発明は、殺虫性蛋白質をコードする新規の植物最適化ポリヌクレオチド配列を提供する。本発明のポリヌクレオチド配列は野生型配列と比較して特定の改変を有し、そのためにそれらは植物における最適化された発現に特に適している。当業者に公知の技術を用いて、本明細書に記述のポリヌクレオチド配列を、植物に害虫抵抗性を付与することを目的として植物を形質転換するために用いることができる。一つの好ましい態様において、本発明は約15kDaおよび約45kDaの殺虫性蛋白質をコードする植物最適化ポリヌクレオチド配列を提供する。
【0019】
配列の説明
配列番号:1は、80JJ1-15-PO5として示される遺伝子のポリヌクレオチド配列であり、トウモロコシにおいて最も効果的に発現する。この遺伝子は、約15 kDaのタンパク質をコードする。この遺伝子とタンパク質は、国際公開公報第97/40162号に開示された。
【0020】
配列番号:2は、80JJ1-15-PO7として示される遺伝子の新規なポリヌクレオチド配列であり、トウモロコシにおいて最も効果的に発現する。これは、約15 kDaのタンパク質をコードする、従来のものに代わる遺伝子である。
【0021】
配列番号:3は、80JJ1-15-PO7として示される遺伝子によりコードされる、新規な殺虫活性のあるタンパク質のアミノ酸配列である。
【0022】
配列番号:4は、80JJ1-45-POとして示される遺伝子のポリヌクレオチド配列であり、トウモロコシにおいて最も効果的に発現する。この遺伝子は、約45 kDaのタンパク質をコードする。この遺伝子は、国際公開公報第97/40162号に開示された。
【0023】
配列番号:5は、149B1-15-POとして示される遺伝子の新規なポリヌクレオチド配列であり、トウモロコシ(Zea mays)において最も効果的に発現する。この遺伝子は、国際公開公報第97/40162号に開示されている、PS149B1から得られる約15 kDaのタンパク質をコードする。
【0024】
配列番号:6は、149B1-45-POとして示される遺伝子の新規なポリヌクレオチド配列であり、トウモロコシ(Zea mays)において最も効果的に発現する。この遺伝子は、国際公開公報第97/40162号に開示されている、PS149B1から得られる約45 kDaのタンパク質をコードする。
【0025】
発明の詳細な開示
本発明は、有害生物、特に植物有害生物の制御に有用な材料および方法に関する。より詳しく述べると、本発明は、殺虫性蛋白質をコードする新規の植物最適化ポリヌクレオチド配列を提供する。本発明のポリヌクレオチド配列は野生型配列と比較して特定の改変を有し、そのためにそれらは植物における最適化された発現に特に適している。本明細書に記載されているポリヌクレチド配列を用いて、当業者に公知の技術により、植物に害虫抵抗性を付与するために植物を形質転換することができる。好ましい態様において、本発明は、約15 kDaおよび約45 kDaの殺虫性タンパク質をコードする、植物において最も効果的に発現するポリヌクレオチド配列を提供する。
【0026】
コンピューター、またはソフトウェアによる配列アラインメントのような技術を用いて、野生型遺伝子またはこれまでに公知の遺伝子と比較すれば、本植物最適化遺伝子のヌクレオチド配列に相違点を認めることができる。同様に、本発明に特有のアミノ酸配列の相違点も、野生型毒素またはこれまでに既知の毒素と比較することにより認めることができる。
【0027】
本明細書に記載した遺伝子の配列が与えられれば、本発明の遺伝子が幾つかの手段によって得られることは当業者には明らかであるはずである。好ましい態様において、本遺伝子は、例えば遺伝子合成装置を用いて合成的に構築してもよい。本明細書に例示した特定の遺伝子はまた、下記に記載する培養物寄託所に寄託された特定の単離菌から、特定の野生型遺伝子を本発明の開示に従って改変することによって(例えば点突然変異技法によって)得ることができる。
【0028】
本出願において記載された特定の培養物は、アメリカ61604イリノイ州ピオリア、ノースユニバーシティストリート1815の農業研究サービス特許培養コレクション(NRRL)、北部地域研究センター(Northern Regional Research Center)に寄託されている。下記の寄託株は、上記の「発明の背景」と題する章において述べたように参考文献の特許において開示されている。
【0029】
[表]

寄託物を利用できることにより、政府の権限によって与えられる特許権を侵害して本発明を実施する許可とはならないことを理解するべきである。
【0030】
遺伝子および毒素 好ましい態様では、本発明は植物における発現を最適化するポリヌクレオチド配列であって、配列番号:2、配列番号:5および配列番号:6からなる群より選択される配列を含む。配列番号:2は配列番号:3において示される好ましい蛋白質をコードする。
【0031】
本発明のポリヌクレオチドは所望の宿主細胞において蛋白質またはペプチドをコードするために完全な「遺伝子」を形成するために用いることができる。例えば、当業者は容易に認識するように、配列番号:2、配列番号:5および配列番号:6は停止コドンなしで示される。同様に配列番号:2、配列番号:5および/または配列番号:6、は当技術分野で容易に理解されるように、関心対象となる宿主においてプロモーターの制御下に適切に置くことができる。
【0032】
当業者は容易に認識するように、DNAは二本鎖の形で存在することができる。この配置では、1つの鎖はもう一つの鎖と相補的であり、および逆もまた同じである。「コード鎖」はしばしば当技術分野において、関係蛋白質またはペプチドを形成するためにオープンリーディングフレーム(ORF)として読むことができる一連のコドン(コドンとは3個同時に読むことができる3個のヌクレオチドであり、1つの特定のアミノ酸を生じる)を有する鎖を指すために用いられる。蛋白質をインビボで発現するために、DNAの鎖を典型的に蛋白質の鋳型として用いられるRNAの相補鎖に翻訳する。DNAは(例えば)植物において複製されるため、DNAのさらなる相補鎖が合成される。したがって、本発明は添付の配列表に示す一例としてのポリヌクレオチドまたは相補鎖のいずれかを使用することを含む。具体的に例示した新規のDNA分子と機能的に同等であるRNAおよびPNA(ペプチド核酸)は本発明に含まれる。
【0033】
本発明に係る特定のDNA配列が本明細書において特に例示されている。これらの配列は本発明の一例である。本発明は、本明細書に特に例示した遺伝子および配列のみならず、本明細書に特に開示したものと比較して、植物における毒素の発現に関して同じまたは類似の特徴を示す、その同等物および変種(変異体、融合物、キメラ、切断型、断片およびより小さい遺伝子のような)も含むことは容易に明らかであると思われる。本明細書で用いるように、「変種」および「同等物」とは、植物において本遺伝子の発現および結果的に得られる殺虫活性に実質的に影響を及ぼさないヌクレオチド(もしくはアミノ酸)置換、欠失(内部および/または末端)、付加、または挿入を有する配列を意味する。殺虫活性を保持するポリヌクレオチド蛋白質断片および完全長蛋白質の「殺虫部位」もこの定義に含まれる。
【0034】
遺伝子は改変することができ、標準的な技術を用いて遺伝子の変種を容易に構築できる。例えば、点突然変異を作成する技術は当技術分野で周知である。さらに、市販のエキソヌクレアーゼまたはエンドヌクレアーゼを標準的な技法に従って用いることができ、Bal 31のような酵素または部位特異的変異変異誘発法を用いて、これらの遺伝子の末端からヌクレオチドを系統的に切断することができる。有用な遺伝子はまた、多様な制限酵素を用いて得ることができる。
【0035】
同等の遺伝子は、本遺伝子によってコードされる毒素と高いアミノ酸同一性または相同性を有する毒素をコードすることに注意すべきである。アミノ酸相同性は、生物活性の原因となる毒素の重要な領域において最高となるか、または最終的に生物活性の原因となる三次元構造の決定に関係している。この点において、これらの置換が活性にとって重要でない領域に存在する場合、または分子の三次元配置に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換である場合には、特定の置換が容認され、予想することができる。例えば、アミノ酸は以下のクラスに分類してもよい:非極性、非荷電極性、塩基性および酸性。それによって一つのクラスのアミノ酸が同じタイプの別のアミノ酸に置換される保存的置換は、置換が化合物の生物活性を実質的に変化させない限り、本発明の範囲内に入る。表1に、各クラスに属するアミノ酸の例の一覧を示す。
【0036】
[表1]

【0037】
幾つかの例において、非保存的置換を行うことができる。重要な要因は、これらの置換が植物の本DNA配列の発現能力または毒素の生物活性を有意に減損してはならないという点である。
【0038】
本明細書で用いるように、「単離」ポリヌクレオチドおよび/または「精製」毒素という用語は、それらが天然において認められ、植物において用いられることを含むその他の分子と会合していない場合のこれらの分子を意味する。したがって、「単離された」および/または「精製された」という用語は本明細書において記述するように「人の手」を含むことを意味する。
【0039】
組換え宿主 本発明の毒素コード遺伝子は多様な微生物または植物宿主に導入することができる。本発明の幾つかの態様において、形質転換された微生物宿主は前駆体、例えばそれらが本発明の遺伝子によってコードされた毒素を発現するように、好ましい態様において最終的に植物細胞および植物を形質転換するために用いられる前駆体を調製する予備段階において用いることができる。このようにして形質転換して用いられる微生物は本発明の範囲内である。組換え微生物は例えば、B.t.、大腸菌、またはシュードモナス(Pseudomonas)であってもよい。形質転換体は標準的な技術を用いて当業者によって行うことができる。これらの形質転換に必要な材料は、本明細書に開示されているか、または当業者に容易に入手できる。
【0040】
このように、好ましい態様において、本発明の遺伝子の発現によって、直接または間接的に目的の蛋白質が細胞内で産生され維持される。形質転換された植物が有害生物によって摂取されると、有害生物は毒素を摂取すると考えられる。その結果有害生物が制御される。
【0041】
B.t.毒素遺伝子は宿主、好ましくは植物宿主の中に適したベクターによって導入することができる。トウモロコシ、コムギ、コメ、ワタ、大豆およびヒマワリのような関心のもたれる多くの農作物がある。本発明の遺伝子は形質転換植物において、ポリペプチド殺虫剤を発現する遺伝子の安定な維持および発現を提供するために、かつ望ましくは環境での分解および不活化からの殺虫剤保護の改善を提供するために特に適している。
【0042】
このように、本発明は、配列番号:2、配列番号:5、および配列番号:6からなる群より選択される、植物において最も効果的に発現するポリヌクレオチド配列を有する組換え宿主を包含する。該組換え宿主は、例えば植物細胞があげられる。本ポリヌクレオチドを含む完全な植物体もまた、本発明の範囲内である。特に好ましい態様において、45kDaタンパク質をコードする例えば配列番号:4などの第2のポリヌクレオチドと共に、約15kDaタンパク質をコードする例えば配列番号:2などのポリヌクレオチドを発現するよう、植物を形質転換させることによってハムシモドキ幼虫に対して抵抗性にすることができる。同様に、配列番号:5および配列番号:6は、ユビキチンのプロモーターなどの1つのプロモーターまたは異なるプロモーターの下で、いっしょに用いることができる。さらに言えば、たとえば、配列番号:2と配列番号:6のポリヌクレオチドをいっしょに用いたり、または配列番号:4と配列番号:5とを用いることもできる。
【0043】
本発明は合成遺伝子に関する特定の態様を提供するが、本明細書において例示した遺伝子と機能的に同等なその他の遺伝子も、宿主、好ましくは植物宿主を形質転換するために用いることができる。合成遺伝子を産生するためのさらなる手引きは例えば、米国特許第5,380,831号に見ることができる。
【0044】
本明細書において言及または引用した刊行物および特許参考文献は全て、本明細書の明らかな開示と矛盾を生じない範囲で、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0045】
以下は本発明の実施のための方法を説明する実施例である。本実施例を制限的に解釈してはならない。
【0046】
実施例1−毒素遺伝子の植物への挿入
本発明の1つの局面は、殺虫性毒素をコードする本ポリヌクレオチド配列によって植物を形質転換することである。形質転換された植物は標的有害生物による攻撃に対して抵抗性である。本発明の遺伝子は植物において用いられるように最適化される。
【0047】
明らかに、植物において遺伝子を発現することができるプロモーター領域が必要である。したがって、植物内で発現させるために、本発明のDNAを適当なプロモーター領域の制御下に置く。そのような構築物を用いて植物内で発現させるための技術は当技術分野で公知である。15 kDaと45 kDaの両方の導入遺伝子を発現させるのに用いられる好ましいプロモーター領域は、トウモロコシ(Zea mays)のユビキチンのプロモーターにトウモロコシ(Zea mays)のエクソン1とトウモロコシ(Zea mays)のイントロン1を加えたものである(Christensen, A.H.ら、1992 Plant Mol. Biol. 18:675-689)。両方の導入遺伝子のための好ましい転写ターミネーターは、ジャガイモのプロテイナーゼインヒビターII(PinII)のターミネーターである(An, G.ら、1989 Plant Cell 1:115-22)。
【0048】
本明細書に開示されているような、殺虫性毒素をコードする遺伝子は、当技術分野においてよく知られているさまざまな技術を用いて、植物細胞へ挿入することができる。たとえば、好ましい態様において、14kDaと44kDaの導入遺伝子を含むトウモロコシ植物は、バイオラッド社製(Bio-Rad)のバイオリスティクスO PDS-100Heパーティクルガン(Biolistics(登録商標)O PDS-100He particle gun)を使って、微小発射体を撃ち込むことによって得られた。本質的には、クラインら(Klein)(1987)によって記載されたとおりである。
【0049】
大腸菌の複製システムを構成する大量のクローニングベクターおよび形質転換された細胞の選別を可能にするマーカーは、高等植物へ外来遺伝子を挿入する調製のために利用できる。ベクターは、たとえば、pBR322、pUCシリーズ、M13mpシリーズ、pACYC184などがあげられる。それに応じて、B.t.毒素をコードする配列をベクターの適当な制限酵素切断部位に挿入することができる。その結果得られるプラスミドは、大腸菌への形質転換に使われる。その大腸菌細胞を適当な栄養培地で培養し、それから集菌して溶解する。プラスミドを回収する。配列解析、制限酵素解析、電気泳動およびその他の生化学・分子生物学的方法が、分析方法として一般的に行われている。それぞれの操作の後、用いられたDNA配列を、切断したり、次のDNA配列と結合させたりすることができる。それぞれのプラスミド配列は、同じまたは別のプラスミドでクローニングすることができる。
【0050】
植物に所望の遺伝子を挿入する方法に応じて、その他のDNA配列が必要となることがある。例えば、TiプラスミドまたはRiプラスミドを植物細胞の形質転換に用いる場合、TiプラスミドT-DNAまたはRiプラスミドT-DNAの少なくとも右境界領域、しばしば左右境界領域を、挿入すべき遺伝子の隣接領域として結合させなければならない。T-DNAを植物細胞の形質転換に用いることは広く研究されており、欧州特許第120 516号;ホーケマ(Hoekema)(1985)「バイナリー植物ベクターシステム(The Binary Plant Vector System)」、オフセットドルッケリ、カンタース(Kanters B. V.)アルブラッセルダム、第5章;フラレー(Fraley)ら、Crit. Rev. Plant. Sci. 4:1〜46;およびアン(An)ら(1985)EMBO J. 4:277〜287に詳しく記述されている。
【0051】
挿入したDNAがゲノムに組み入れられた後、これは比較的その場で安定であり、その結果、再度出てくることはない。通常これは、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、ヒグロマイシン、または中でもクロラムフェニコールのような殺生物剤もしくは抗生物質に対する抵抗性を形質転換した植物細胞に付与する選択マーカーを含む。したがって個々に用いられるマーカーは、挿入されたDNAを含まない細胞ではなくて形質転換された細胞の選択を可能にする。
【0052】
DNAを植物宿主細胞に挿入するために多くの技術を利用できる。それらの技術には、形質転換手段としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT-DNAによる形質転換法、融合法、インジェクション法、バイオリスティック(微粒子衝突)法、電気穿孔法、またはその他の可能性のある方法が含まれる。アグロバクテリアを形質転換に用いる場合には、挿入するDNAを特定のプラスミド、すなわち中間ベクターまたはバイナリベクターのいずれかにクローニングしなければならない。中間ベクターは、T-DNAにおける配列と相同である配列が存在するために、相同的組換えによってTiまたはRiプラスミドに組み込むことができる。TiプラスミドまたはRiプラスミドはまた、T-DNAの移入に必要なvir領域を含む。中間ベクターはアグロバクテリアの中でそれ自身複製することができない。中間ベクターは、ヘルパープラスミド(結合)によってアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に移入させることができる。バイナリベクターは大腸菌およびアグロバクテリアの双方においてそれ自身複製することができる。それらは選択マーカー遺伝子および左右T-DNA境界領域によって枠組みされるリンカーまたはポリリンカーを含む。それらはアグロバクテリアに直接形質転換することができる(ホルスターズ(Holsters)ら[1978]Mol. Gen. Genet. 163:181〜187)。宿主細胞として用いられるアグロバクテリアはvir領域を有するプラスミドを含む。vir領域は植物細胞へのT-DNAの移入に必要である。さらなるT-DNAを含んでもよい。そのように形質転換した細菌を植物細胞の形質転換に用いる。植物外植片は、植物細胞にDNAを移入するためにアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)と共に都合よく栽培することができる。次に植物全体を、感染した植物材料(例えば、葉片、茎片、根片だけでなく、プロトプラストまたは懸濁培養細胞など)から、選択のために抗生物質または殺生物剤を含んでもよい適した培地中で再生させることができる。その後そのようにして得られた植物を挿入したDNAの有無に関して調べることができる。インジェクション法および電気穿孔法を用いた場合にはプラスミドに特定の要求はない。例えばpUC誘導体のような通常のプラスミドを用いることが可能である。
【0053】
形質転換した細胞は通常どおりに植物内で増殖する。それらは生殖細胞を形成することができ、後代植物に形質転換された形質を伝達することができる。そのような植物は通常行われるように生育して、同じ形質転換された遺伝的要因またはその他の遺伝的要因を有する植物と交配させることができる。得られたハイブリッド個体は対応する表現型特性を有する。
【0054】
本明細書に記載の実施例および態様は説明だけを目的とするものであって、それらを鑑みてその様々な改変または変更が当業者に想起されること、およびそれらも本出願の意図および範囲ならびに特許請求の範囲に含まれることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2、配列番号:5、および配列番号:6からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が配列番号:2である、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
ヌクレオチド配列が配列番号:5である、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
ヌクレオチド配列が配列番号:6である、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1記載のポリヌクレオチドを発現させる組換え宿主。
【請求項6】
ヌクレオチド配列が配列番号:2である、請求項5記載の宿主。
【請求項7】
ヌクレオチド配列が配列番号:5である、請求項5記載の宿主。
【請求項8】
ヌクレオチド配列が配列番号:6である、請求項5記載の宿主。
【請求項9】
宿主が植物細胞である、請求項5記載の宿主。
【請求項10】
宿主が植物である、請求項5記載の宿主。
【請求項11】
宿主がトウモロコシである、請求項5記載の宿主。
【請求項12】
請求項5記載の組換え宿主を生産する方法。
【請求項13】
宿主が植物細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
宿主が植物である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
宿主がトウモロコシである、請求項12記載の方法。
【請求項16】
請求項1記載のポリヌクレオチドによりコードされ、該ポリヌクレオチドを発現させる組換え宿主により生産される第1のタンパク質に、害虫を接触させることを含む、植物の害虫を制御するための方法。
【請求項17】
宿主が植物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
宿主がトウモロコシ(Zea mays)植物である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
ヌクレオチド配列が配列番号:2である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ヌクレオチド配列が配列番号:5である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
ヌクレオチド配列が配列番号:6である、請求項18記載の方法。
【請求項22】
約45 kDaの第2のタンパク質に害虫を接触させることをさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項23】
約45 kDaの第2のタンパク質に害虫を接触させることをさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
約15 kDaの第2のタンパク質に該害虫を接触させることをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
配列番号:3のアミノ酸配列を有する殺虫性タンパク質。

【公開番号】特開2010−131021(P2010−131021A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1776(P2010−1776)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【分割の表示】特願2000−578456(P2000−578456)の分割
【原出願日】平成11年10月21日(1999.10.21)
【出願人】(500048812)マイコジェン コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】