説明

紙幣取扱装置

【課題】同じ紙幣収納庫内に種別が異なる紙幣が混在する場合に、特定の種別の紙幣を容易に仕分けることができる紙幣取扱装置を提供する。
【解決手段】紙幣を一時的に保管する一時保管庫13の紙幣取込口Eの近傍に、モータにより回転する紙幣シフトローラ504を設ける。偽券の疑いがある紙幣、汚損や損傷が激しい紙幣、取り忘れ紙幣などのような特定種別の紙幣については、紙幣シフトローラ504を所定方向に回転させることにより、ローラの上に載っている当該紙幣を、右方向Rまたは左方向Lへ移動させる。一時保管庫13内で位置がシフトした特定種別の紙幣は、そのままの状態を保ちながら、一時保管庫13から他の紙幣収納庫へ移送され収納される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣を取り扱う紙幣取扱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、顧客の操作に基づいて現金出納のサービスを提供する機器として、例えば、現金自動預け払い機(Automatic Teller Machine)が知られている。この現金自動預け払い機には、利用者によって入出金される紙幣を取り扱う紙幣取扱装置が内蔵されている。以下においては、現金自動預け払い機を「ATM」と記載する。
【0003】
紙幣取扱装置は、紙幣を収納および/または放出する紙幣収納庫を有している。例えば、ATMに内蔵される紙幣取扱装置には、用途別に設けられた紙幣収納庫として、一時保管庫と、リサイクル庫と、回収庫とが備えられている。
【0004】
上述の一時保管庫には、入出金処理中の紙幣が一時的に保管される。リサイクル庫には、入金処理時に再利用可能な真券と鑑別された入金紙幣が収納される。尚、このリサイクル庫に収納された入金紙幣は、出金処理時には出金紙幣として当該リサイクル庫から放出される。回収庫には、入金処理時に再利用不能な真券あるいは汚損・損傷が激しい真券と鑑別された紙幣や、同じく入金処理時に偽券と鑑別された紙幣または偽券であることが疑われると鑑別された紙幣、また、利用者が取り忘れた出金紙幣等が収納される。尚、上述の再利用不能な真券とは、例えば、市場から回収する必要がある旧紙幣等である。
【0005】
ここで、各紙幣収納庫内の側壁間の幅は、紙幣取扱装置で取り扱い可能な紙幣の寸法に合わせてそれぞれ設計されている。
【0006】
具体的には、上述の紙幣収納庫の内、一時保管庫や回収庫には、紙幣取扱装置に入金された全ての金種の紙幣が収納される。このため、各庫の側壁間の幅は、取扱対象紙幣の最大寸法に合わせて設計されている。
【0007】
これに対し、リサイクル庫には、再利用可能な真券と鑑別された紙幣で、かつ、特定の一金種(例えば、壱千円)の紙幣が収納される。このため、紙幣取扱装置内には、取扱対象紙幣の金種の数と同じ数のリサイクル庫が備えられており、各リサイクル庫の側壁間の幅は、予め設定された一金種の紙幣の寸法に合わせて設計されている。
【0008】
よって、例えば、大小様々な寸法の紙幣が流通する国で使用される紙幣取扱装置では、取扱対象紙幣の最大寸法に合わせて設計された一時保管庫の側壁間距離と、取扱対象紙幣の最小寸法に合わせて設計されたリサイクル庫の側壁間距離とに、大きな差が生じる場合がある。
【0009】
この場合、一時保管庫から放出された紙幣が、紙幣を搬送する搬送路の中心から搬送方向に対して横方向(左右方向)に大きくずれた(偏位した)状態で搬送されると、搬送先のリサイクル庫の取込口に引っ掛かる等して、当該リサイクル庫内に正常に収納できない場合がある。
【0010】
上述の問題を解決すべく、後掲の特許文献1には、一時保管庫等の紙幣収納庫内にある紙幣を任意の位置に移動させることができる偏位操作手段が設けられた紙幣取扱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−163721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1に記載の紙幣取扱装置では、上述の偏位操作手段により、例えば、一時保管庫内に収納されている紙幣を左右方向に移動させることにより、紙幣の偏位を修正することができる。このため、一時保管庫から回収庫に搬送された紙幣も、ずれ(偏位)が無い状態で当該回収庫内に正常に収納される。
【0013】
しかしながら、上述したように、回収庫には、再利用不能な真券、汚損や損傷が激しい真券、偽券または偽券の疑いのある券、取り忘れ券といった様々な種別の紙幣が収納されている。このため、例えば、金融機関の係員等が、回収庫内の紙幣を回収する場合に、当該回収庫内の紙幣がずれ無く収容されていると、種別毎の紙幣の仕分け作業が困難となる。例えば、回収庫内の紙幣から偽券の疑いのある券を抽出したり、取り忘れ券を抽出したりする際に、多くの手間と時間を要してしまう。
【0014】
また、従来、紙幣のずれの有無に関わらず、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣と、利用者が取り忘れた真券の出金紙幣が、同じ紙幣収納庫内に混在する場合、これらを目視で判断して仕分けることはきわめて困難であった。
【0015】
本発明は、上述した問題点に鑑み、同じ紙幣収納庫内に種別が異なる紙幣が混在する場合に、特定の種別の紙幣を容易に仕分けることができる紙幣取扱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る紙幣取扱装置は、紙幣を搬送する搬送手段と、この搬送手段により搬送された紙幣を収納する紙幣収納庫と、紙幣の搬送方向に対して、当該紙幣を横方向に移動させる紙幣移動手段とを備えており、種別の異なる紙幣が混在して収納される紙幣収納庫に収納すべき紙幣のうち、特定の種別の紙幣を紙幣移動手段により移動させる。
【0017】
このようにすることで、同じ紙幣収納庫内に種別が異なる紙幣が混在する場合に、特定の種別の紙幣については、紙幣収納庫内での横方向の収納位置が他の紙幣とは異なるので、特定の種別の紙幣を容易に仕分けることができる。
【0018】
本発明の紙幣取扱装置において、特定の種別として、複数の種別が設定されており、紙幣移動手段は、種別毎に予め設定された位置まで、紙幣を移動させるようにしてもよい。これによると、種別毎に紙幣収納庫内での横方向の収納位置が異なるので、複数の種別の紙幣を容易に仕分けることができる。
【0019】
本発明の紙幣取扱装置において、紙幣が特定の種別の紙幣であるか否かの決定は、例えば、鑑別手段による紙幣の鑑別結果に基づいて行うことができる。
【0020】
この場合、特定の種別の紙幣としては、例えば、再利用不能な真券と鑑別された紙幣、汚損もしくは損傷が激しい真券と鑑別された紙幣、偽券と鑑別された紙幣、または、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣などが考えられる。
【0021】
このようにすることで、目視で判断して仕分けることが困難な紙幣、例えば、偽券であることが疑われる紙幣であっても容易に仕分けることができる。
【0022】
また、上記のような紙幣の鑑別結果によらずに、搬送手段による紙幣の搬送パターンに基づいて、紙幣が特定の種別の紙幣であるか否かを決定してもよい。
【0023】
この場合、特定の種別の紙幣としては、例えば、搬送手段の回収動作により回収される取り忘れ紙幣などが考えられる。
【0024】
本発明の紙幣取扱装置においては、紙幣移動手段は、紙幣収納庫のうち、紙幣を一時的に保管する一時保管庫の紙幣取込口近傍に設置されていることが好ましい。
【0025】
このようにすることで、一時保管庫に紙幣を一時保管する段階で、あらかじめ紙幣の位置をずらしておくことができるため、紙幣を一時保管庫から他の紙幣収納庫へ、位置がずらされた状態のまま移送することができる。したがって、他の紙幣収納庫へ紙幣を収納する際に、当該収納庫において、紙幣の位置をずらすための処理を行う必要がないので、収納動作を迅速に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、同じ紙幣収納庫内に種別が異なる紙幣が混在する場合でも、特定の種別の紙幣については、紙幣の搬送方向に対して横方向の収納位置が他の紙幣とは異なるので、特定の種別の紙幣を容易に仕分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】紙幣取扱装置を備えたATMの外観を示す斜視図である。
【図2】ATMのブロック図である。
【図3】紙幣取扱装置の内部構成を示す側面図である。
【図4】紙幣取扱装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】一時保管庫の構造を示す側面図である。
【図6】一時保管庫の構造を示す上面図である。
【図7】紙幣シフトローラの斜視図である。
【図8】一時保管庫内の紙幣収納例を示す上面図である。
【図9】一時保管庫内の紙幣収納例を示す上面図である。
【図10】一時保管庫内の紙幣収納例を示す上面図である。
【図11】一時保管庫内の紙幣収納例を示す上面図である。
【図12】一時保管庫内の紙幣収納例を示す上面図である。
【図13】一時保管庫に紙幣を収納する場合の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。尚、後述する図1〜図12において、同一部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0029】
図1は、本発明の実施形態である紙幣取扱装置100を備えたATM300の外観を示す斜視図である。
【0030】
図1に示す通り、ATM300は、上述の紙幣取扱装置100と、本体制御装置201と、硬貨取扱装置202と、カード処理装置203と、通帳処理装置204と、明細票発行装置205と、入力表示装置206とを備えている。尚、ATM300は、上述した主たる装置以外にも様々な装置を備えているが、それらの図示および説明は省略する。
【0031】
図1において、紙幣取扱装置100は、利用者の入金操作に基づいて、紙幣入出金口11に投入(入金)された紙幣を収納し、また、利用者の出金操作に基づいて、紙幣入出金口11から紙幣を放出(出金)する。
【0032】
本体制御装置201は、ATM300全体の動作を制御する。硬貨取扱装置202は、利用者の入金操作に基づいて、硬貨入出金口202aに投入(入金)された硬貨を収納し、また、利用者の出金操作に基づいて、硬貨入出金口202aから硬貨を放出(出金)する。
【0033】
カード処理装置203は、カード挿入口203aに挿入された利用者のカードに対して、カード情報を読み取る等の所定のデータ処理を行う。通帳処理装置204は、通帳挿入口204aに挿入された利用者の通帳に対して、取引内容を印字する等の所定の処理を行う。明細票発行装置205は、利用者がATM300で行った取引の明細票を作成し、発行口205aから当該取引明細票を排出する。
【0034】
入力表示装置206は、各種取引の選択操作を行うための入力画面等を表示部206aに表示するとともに、利用者が表示部206aにおいて入力した操作内容を受け付ける。
【0035】
図2は、ATM300のブロック図である。図1に示した紙幣取扱装置100と、硬貨取扱装置202と、カード処理装置203と、通帳処理装置204と、明細票発行装置205と、入力表示装置206は、バス210を介して本体制御装置201と接続されており、本体制御装置201の制御の下に必要な動作を行う。
【0036】
本体制御装置201は、上記の他に、記憶装置207と、通信装置208と、電源装置209ともバス210で接続されており、必要なデータのやり取りなどを行うが、本発明の特徴には直接関係がないため、これらの詳細な説明は省略する。
【0037】
図3は、紙幣取扱装置100の内部構成を示す側面図である。紙幣取扱装置100は、主に、紙幣入出金口11、紙幣の鑑別を行う紙幣鑑別部12、入出金処理中の紙幣を一時的に保管する一時保管庫13、紙幣鑑別部12で偽券と鑑別された紙幣を回収する回収庫14、紙幣鑑別部12で再利用不能な真券と鑑別された紙幣、汚損や損傷が激しい真券と鑑別された紙幣や、同じく、紙幣鑑別部12で偽券であることが疑われると鑑別された紙幣、あるいは、利用者が紙幣入出金口11から取り忘れた紙幣等を回収する回収庫15、紙幣鑑別部12で再利用可能な真券と鑑別された入金紙幣を収納し、出金処理時には収納した紙幣を出金紙幣として放出するリサイクル庫16〜18、および、上記の各部に紙幣を搬送する搬送路19とを備えている。搬送路19は、図示しない搬送ベルトや搬送ローラ等から構成されている。PMは紙幣を表している。
【0038】
尚、リサイクル庫16〜18は、紙幣取扱装置100にて取扱可能な紙幣の金種毎に設けられたものである。このため、例えば、リサイクル庫16には、金種が壱千円の紙幣が収納される。また、リサイクル庫17には、金種が五千円の紙幣が収納される。さらに、リサイクル庫18には、金種が壱萬円の紙幣が収納される。
【0039】
2および3は、それぞれリサイクル庫16〜18に設けられた搬送ローラおよびシートローラ、5は紙幣PMを立位状態に保持する押し板である。6は紙幣の通過を検知する通過センサ、7は紙幣の搬送方向を切り換えるゲート、8は紙幣入出金口11内に投入された紙幣を収納するホッパ、9は主にリジェクトされた紙幣を利用者に返却するためのリジェクトスタッカ、10は紙幣取扱装置100の筐体である。なお、一時保管庫13の詳細については後述する。
【0040】
ここで、上述の一時保管庫13、回収庫14および15、リサイクル庫16〜18は、本発明における紙幣収納庫の一実施形態である。搬送路19は、本発明における搬送手段の一実施形態である。また、紙幣鑑別部12および後述の制御部20(図4)は、本発明における鑑別手段の一実施形態である。
【0041】
次に、紙幣取扱装置100の一般的な動作について説明する。入金取引時には、紙幣入出金口11に投入された紙幣を一枚ずつに分離し、紙幣鑑別部12で紙幣の金種、真偽等を鑑別し、一時保管庫13に一旦収納する。この時、紙幣鑑別部12で鑑別できなかった紙幣や、搬送中の傾きや搬送間隔が異常となった紙幣は、直接紙幣入出金口11のリジェクトスタッカ9に搬送し、利用者に返却する。
【0042】
入金取引の成立後は、紙幣を一時保管庫13から搬出し、再び、紙幣鑑別部12にて紙幣を鑑別した後、再利用不能な真券と鑑別された紙幣、汚損や損傷が激しい真券と鑑別された紙幣、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣等は、回収庫15に収納する。偽券であると鑑別された紙幣は、回収庫14に収納する。また、再利用可能な真券と鑑別された紙幣は、当該紙幣の金種に対応するリサイクル庫16〜18のいずれかに収納する。出金時には、該当するリサイクル庫16〜18から出金紙幣を所定の枚数だけ繰り出し、紙幣入出金口11へ搬送する。
【0043】
図4は、紙幣取扱装置100の電気的構成を示すブロック図である。図3に示した紙幣鑑別部12とセンサ6に加え、搬送モータ30、紙幣位置操作モータ31、およびソレノイド32が制御部20と接続されており、各ブロックは制御部20の制御の下に必要な動作を行う。搬送モータ30は、搬送路19における搬送ローラを駆動するためのモータであり、紙幣位置操作モータ31は、後述するように、紙幣を搬送方向に対して横方向に移動させるためのモータである。ソレノイド32は、ゲート7を切り替えるためのソレノイドや、紙幣入出金口11を開閉するためのソレノイドなどを含む。
【0044】
制御部20は、バス210(図2)を介して本体制御装置201と接続されており、本体制御装置201からの指令および紙幣取扱装置100の状態検出に応じて、紙幣取扱装置100の制御を行う。また、制御部20は、紙幣取扱装置100の状態を、必要に応じて本体制御装置201に送る。
【0045】
図5は、紙幣収納庫の一つである一時保管庫13の構造を示す側面図であり、図6は、一時保管庫13の構造を示す上面図である。
【0046】
図5および図6において、この一時保管庫13は、紙幣PMを立位状態で集積する。また、紙幣の取込放出機構は、搬送ローラ501と、シートローラ502と、押し板503と、紙幣シフトローラ504と、紙幣位置操作モータ31と、搬送ベルト505とで構成されている。図6において、13a,13bは、一時保管庫13の側壁である。
【0047】
搬送ローラ501は、入金時は図5中の反時計方向RTに回ることで、図中の紙幣PMを収納方向Bに搬送し、一時保管庫13内に取り込む。
【0048】
シートローラ502は、回転軸周りにシート状の羽根部材502aを備えている。また、シートローラ502は、入金時は図5中の時計方向Tに回ることで、羽根部材502aを用いて、一時保管庫13内に入ってきた紙幣PMを、押し板503に押し付ける。
【0049】
押し板503は、制御部20(図4)によって、予め設定された枚数の紙幣PMが押し付けられたことが検出されると、当該制御部20の制御の下、図示しないモータの駆動に基づいて、収納方向Bに後退する。これにより、一時保管庫13内に紙幣PMが収納されていく。
【0050】
紙幣位置操作モータ31は、図6に示すように、一時保管庫13内の取込口Eの近傍に2個設けられており、それぞれのモータ31の軸に、紙幣シフトローラ504が取り付けられている。
【0051】
紙幣シフトローラ504は、例えば、図7に示すようにドラム状に形成されており、外周面に溝504aを有している。そして、この溝504aに紙幣PMの下端が嵌り込んだ状態で、紙幣位置操作モータ31を所定の方向に回転させると、モータ31と連動して紙幣シフトローラ504が回転し、紙幣PMが図6中の右方向Rまたは左方向Lの方向に移動する。これにより、紙幣PMの左右方向の位置を操作する。ここで、紙幣位置操作モータ31および紙幣シフトローラ504は、本発明における紙幣移動手段の一実施形態である。
【0052】
搬送ベルト505は、搬送路19(図3)の一部を構成している。搬送ベルト505は、収納方向Bまたはその逆方向に移動することで、当該搬送ベルト505上にある紙幣PMを搬送する。
【0053】
尚、一時保管庫13内に収納した紙幣PMを放出する場合は、搬送ローラ501、シートローラ502、押し板503を上述の方向とは逆の方向に回転または移動させる。
【0054】
次に、本発明による紙幣取扱装置100の特徴である紙幣の位置操作について説明する。位置操作とは、特定の種別の紙幣を搬送方向に対して横方向に移動させることをいう。特定の種別の紙幣としては、前述のような、再利用不能な真券と鑑別された紙幣、汚損もしくは損傷が激しい真券と鑑別された紙幣、偽券と鑑別された紙幣、または、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣などがある。したがって、紙幣鑑別部12の鑑別結果に基づいて、紙幣が特定の種別の紙幣であるか否かを決定することができる。
【0055】
特定の種別の紙幣に対して位置操作を実行するために、ATM300(図2)が備える記憶装置207には、一時保管庫13内に紙幣を収納する際に、紙幣鑑別部12での鑑別結果に基づいて紙幣位置操作モータ31を回転させて、紙幣シフトローラ504の上に載っている紙幣の位置を操作するためのプログラムが予め記憶されている。
【0056】
例えば、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣を、右方向Rに移動させて一時保管庫13内に収納する場合は、当該紙幣の端を側壁13a(図6)に近接させるために必要な、紙幣位置操作モータ31の回転方向および回転時間(回転量)などに関するプログラムが、記憶装置207に記憶されている。
【0057】
制御部20(図4)は、バス210(図2)を介して、本体制御装置201の記憶装置207から上述したプログラムを取得する。
【0058】
紙幣取扱装置100(図3)では、入金取引が開始されると、搬送モータ30(図4)を駆動させて、紙幣入出金口11内の紙幣の搬送を開始する。そして、紙幣入出金口11に投入(入金)された紙幣を一枚ずつに分離し、紙幣鑑別部12で紙幣の金種、真偽、状態等を鑑別する。このとき、制御部20は、一時保管庫13へ搬送される紙幣に対して、紙幣鑑別部12での鑑別結果に基づく紙幣の位置操作の処理を開始する。
【0059】
具体的には、制御部20は、一時保管庫13に向かう紙幣が紙幣鑑別部12を通過する毎に、当該紙幣の鑑別結果を紙幣鑑別部12から取得する。そして、鑑別された紙幣が特定の種別の紙幣である場合は、上述したプログラムに従って、紙幣位置操作モータ31を駆動する。
【0060】
ここでは、特定の種別の紙幣として、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣(以下「疑偽券」という)を例に挙げる。この場合、制御部20は、一時保管庫13の取込口Eから取り込まれた疑偽券がシートローラ502によって押し板503に押し付けられるまでの間に、2つの紙幣位置操作モータ31を、図6における収納方向Bに向かって時計回り方向へ、所定時間だけ回転させる。これにより、紙幣シフトローラ504も同方向へ所定量回転する。この結果、紙幣シフトローラ504の上に載っている疑偽券は、搬送方向(収納方向B)に対して右方向Rへ移動する。
【0061】
その結果、一時保管庫13内の紙幣収納状態は、例えば、図8のようになる。図8において、PM1は疑偽券を表している。このように、一時保管庫13に収納される紙幣のうち、疑偽券PM1は右方向Rへシフトした状態で収納され、疑偽券PM1以外の紙幣(真券を含む)PMは、左右いずれの方向へもシフトしない状態で収納される。
【0062】
以上のようにして一時保管庫13に収納された紙幣は、次に、搬送路19を介して、一時保管庫13から回収庫14、回収庫15、リサイクル庫16〜18に移し替えられ、各庫に再収納される。この場合、一時保管庫13内の全ての紙幣は、当該一時保管庫13内での収容位置がそのまま保持された状態で、搬送路19を搬送され、各庫内に再収納される。
【0063】
よって、図8中の疑偽券PM1は、右方向Rへシフトしたままの状態で、回収庫15に収納される。一方、疑偽券PM1以外の紙幣PMは、シフトしない状態で、それぞれの鑑別結果に応じて、回収庫14、回収庫15、リサイクル庫16〜18のいずれかに収納される。すなわち、回収庫14には偽券が収納され、リサイクル庫16〜18には真券が収納される。再利用不能な真券や、汚損もしくは損傷が激しい真券は、回収庫15に収納される。
【0064】
このため、回収庫15に収納された紙幣を回収する際に、係員は、右方向へシフトしている紙幣が疑偽券PM1であることを瞬時に判別することができる。したがって、回収庫15内に種別が異なる紙幣が混在していても、疑偽券PM1のみを容易に抽出することができる。特に、疑偽券の場合は、紙幣を目視しただけでは疑偽券と判断することが困難であるが、本実施形態によれば、疑偽券PM1を他の紙幣と区別して、迅速かつ確実に抽出することが可能となる。
【0065】
以上の説明では、特定種別の紙幣として疑偽券を例に挙げたが、再利用不能な真券と鑑別された紙幣や、汚損もしくは損傷が激しい真券と鑑別された紙幣などを特定種別の紙幣としてもよい。また、特定種別の紙幣の移動方向は、右方向Rに限らず、左方向Lであってもよい。
【0066】
また、以上の説明では、特定種別の紙幣として1種類の紙幣(疑偽券)を例に挙げたが、特定種別の紙幣として、2種類以上の紙幣を設定してもよい。以下にその例を挙げる。
【0067】
例えば、疑偽券と、汚損もしくは損傷が激しい真券と鑑別された紙幣(以下「汚損・損傷券」という)の2種類の紙幣を、他の紙幣と区別して仕分ける場合、図9に示すように、一時保管庫13内において、疑偽券PM2を右方向Rへ移動させ、汚損・損傷券PM3を左方向Lへ移動させる。この場合は、疑偽券PM2に対する紙幣位置操作モータ31の回転方向と、汚損・損傷券PM3に対する紙幣位置操作モータ31の回転方向とを、逆方向にすればよい。
【0068】
このようにすることで、疑偽券PM2は右方向Rへシフトしたままの状態で、また、汚損・損傷券PM3は左方向Lへシフトしたままの状態で、それぞれ、回収庫15に収納される。このため、回収庫15に収納された紙幣を回収する際に、係員は、右方向へシフトしている紙幣が疑偽券PM2であり、左方向へシフトしている紙幣が汚損・損傷券PM3であることを瞬時に判別することができる。したがって、回収庫15内に種別が異なる紙幣が混在していても、疑偽券PM2および汚損・損傷券PM3を容易に抽出することができる。
【0069】
また、上記のように紙幣のシフト方向によって種別を区分するのではなく、紙幣のシフト位置によって種別を区分してもよい。例えば、図10に示すように、疑偽券PM4の右方向Rへのシフト量を、汚損・損傷券PM5の右方向Rへのシフト量よりも大きくすることで、疑偽券PM4は汚損・損傷券PM5に比べてより側壁13aに近接した位置へ移動される。この場合は、疑偽券PM4に対する紙幣位置操作モータ31の回転量を、汚損・損傷券PM5に対する紙幣位置操作モータ31の回転量より大きくすればよい。
【0070】
このようにすることで、疑偽券PM4と汚損・損傷券PM5は、図10のような位置関係を保持したまま、回収庫15に収納される。このため、回収庫15に収納された紙幣を回収する際に、係員は、右方向へ大きくシフトしている紙幣が疑偽券PM4であり、右方向へわずかにシフトしている紙幣が汚損・損傷券PM5であることを瞬時に判別することができる。したがって、回収庫15内に種別が異なる紙幣が混在していても、疑偽券PM4および汚損・損傷券PM5を容易に抽出することができる。
【0071】
さらに、他の例として、紙幣のシフト方向とシフト位置とを組み合わせると、より多くの種別の紙幣を仕分けることができる。例えば、図11に示すように、疑偽券PM6と汚損・損傷券PM7については、図10と同様に、右方向Rへ移動させて、疑偽券PM6のシフト量を汚損・損傷券PM7のシフト量よりも大きくし、再利用不能な真券と鑑別された紙幣(以下「再利用不能真券」という)PM8については、左方向Lへシフトさせるようにすれば、3つの種別の紙幣を仕分けることができる。
【0072】
また、例えば、図12に示すように、疑偽券PM9と汚損・損傷券PM10については、図10と同様に、右方向Rへ移動させて、疑偽券PM9のシフト量を汚損・損傷券PM10のシフト量よりも大きくし、偽券PM11と再利用不能真券PM12については、左方向Lへ移動させて、偽券PM11のシフト量を再利用不能真券PM12のシフト量よりも大きくすれば、4つの種別の紙幣を仕分けることができる。この場合は、偽券PM11のみを収納する回収庫14(図3)が不要となる。
【0073】
図13は、一時保管庫13に紙幣を収納する場合の動作を示すフローチャートである。ステップS1では、利用者が表示部206a(図1)の入力画面を操作することにより、入金取引が開始される。ステップS2では、本体制御装置201が紙幣取扱装置100に対して、利用者の入金した紙幣を紙幣入出金口11から搬送路19へ供給するよう指示を送り、紙幣入出金口11から搬送路19へ紙幣が1枚ずつ繰り出される。
【0074】
ステップS3では、鑑別部12に備わる各種のセンサにより、紙幣情報の読み取りが行われる。ステップS4では、読み取った紙幣情報に基づいて、金種、真偽、汚損・損傷等の状態、記番号などの判別が行われる。ステップS5では、判別処理を行った紙幣に対し、搬送状態の異常(スキューや重送など)があるか否かを判定し、ステップS6では、紙幣状態の異常(金種判別不能、折れなど)があるか否かを判定する。ステップS5、S6で異常があった場合は、ステップS9で当該紙幣をリジェクトスタッカ9へ搬送し、利用者に返却する。ステップS5、S6で異常がない場合は、ステップS7へ進む。
【0075】
ステップS7では、ステップS4で真と鑑別された紙幣、偽券の疑いがあると鑑別された紙幣(疑偽券)、偽と鑑別された紙幣(偽券)などを、一時保管庫13に収納する。ステップS8では、一時保管庫13に収納される紙幣のうち、特定種別の紙幣に対して、前述したような紙幣位置操作モータ31と紙幣シフトローラ504とによる位置操作を行い、紙幣の位置をシフトさせる。その後、ステップS10において、紙幣入出金口11のホッパ8内の紙幣が無くなったかどうかを判定し、紙幣が無くなるまで、ステップS2からステップS10までの処理を繰り返す。
【0076】
以上述べた実施形態においては、紙幣鑑別部12での鑑別結果に基づいて、紙幣が特定種別の紙幣であるか否かを決定したが、これに代えて、紙幣の搬送パターンに基づいて、紙幣が特定種別の紙幣であるか否かを決定してもよい。
【0077】
例えば、紙幣入出金口11内に放置されたままの取り忘れ紙幣を回収する動作が行なわれた場合は、当該取り忘れ紙幣を特定種別の紙幣と決定し、例えば図8のように、右方向Rへシフトさせる。これにより、回収庫15に収納された紙幣を回収する際に、係員は、右方向へシフトしている紙幣が取り忘れ紙幣であることを瞬時に判別することができる。したがって、回収庫15内に種別が異なる紙幣が混在していても、取り忘れ紙幣のみを容易に抽出することができる。
【0078】
また、取り忘れ紙幣と、他の特定種別の紙幣とにつき、図9〜図12で示したような紙幣位置操作を行うことにより、複数の特定種別の紙幣を容易に仕分けることができる。
【0079】
以上のように、本発明の実施形態である紙幣取扱装置100では、回収庫15内に種別が異なる紙幣が混在していても、特定種別の紙幣が、紙幣の搬送方向に対して右方向または左方向にずれて収納されているため、当該回収庫15内の特定種別の紙幣を容易に仕分けることができる。
【0080】
また、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣(疑偽券)についても、位置操作されて回収庫15内に収納されるため、目視で判断して仕分けることが困難なこの種の紙幣についても容易に仕分けることができる。
【0081】
さらに、本実施形態の紙幣取扱装置100では、一時保管庫13内の取込口Eの近傍に、紙幣位置操作モータ31を設けているため、一時保管庫13内に紙幣を一時保管する段階で、あらかじめ紙幣の位置をずらしておくことができる。このため、紙幣を、一時保管庫13から回収庫15へ、位置がずらされた状態のまま移送することができる。したがって、回収庫15へ紙幣を収納する際に、回収庫15において紙幣の位置操作を行う必要がないので、収納動作を迅速に行うことが可能となる。
【0082】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、仕分けすべき特定種別の紙幣が複数種類ある場合に、全ての特定種別の紙幣に対応できる位置操作のプログラムを記憶装置207に記憶させておき、ユーザの仕様に応じて、必要なプログラムを任意に選択できるようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態においては、回収庫14に偽券のみを収納したが、回収庫14に偽券と疑偽券とを収納してもよい。この場合は、偽券と疑偽券の一方につき、収納位置をシフトさせればよい。
【0084】
また、上記実施形態においては、一時保管庫13の取込口Eの近傍に、紙幣位置操作モータ31を設けたが、これに限定されず、例えば回収庫15の取込口近傍に紙幣位置操作モータを設けて、収納する紙幣に対して位置操作を行ってもよい。
【0085】
また、上記実施形態においては、2個の紙幣位置操作モータ31を設けたが、これに限定されず、紙幣の位置を操作できる範囲内であれば、いくつ設けても構わない。このため、1個だけ設けてもよいし、3個以上設けてもよい。
【0086】
さらに、上記実施形態においては、ATM300に内蔵する紙幣取扱装置100を例に挙げたが、これに限定されず、紙幣取扱装置100を現金自動支払い機(Cash dispenser)に内蔵してもよい。
【符号の説明】
【0087】
11 紙幣入出金口
12 紙幣鑑別部
13 一時保管庫
14 回収庫
15 回収庫
16〜18 リサイクル庫
19 搬送路
20 制御部
31 紙幣位置操作モータ
100 紙幣取扱装置
201 本体制御装置
207 記憶装置
300 現金自動預け払い機
504 紙幣シフトローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送された紙幣を収納する紙幣収納庫と、
前記紙幣の搬送方向に対して、当該紙幣を横方向に移動させる紙幣移動手段と、
を備え、
種別の異なる紙幣が混在して収納される紙幣収納庫に収納すべき紙幣のうち、特定の種別の紙幣を前記紙幣移動手段により移動させることを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紙幣取扱装置において、
前記特定の種別として、複数の種別が設定されており、
前記紙幣移動手段は、種別毎に予め設定された位置まで、前記紙幣を移動させることを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項3】
請求項1に記載の紙幣取扱装置において、
前記紙幣を鑑別する鑑別手段をさらに備え、
前記鑑別手段による前記紙幣の鑑別結果に基づいて、前記紙幣が特定の種別の紙幣であるか否かを決定することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項4】
請求項3に記載の紙幣取扱装置において、
前記特定の種別の紙幣は、再利用不能な真券と鑑別された紙幣、汚損もしくは損傷が激しい真券と鑑別された紙幣、偽券と鑑別された紙幣、または、偽券であることが疑われると鑑別された紙幣であることを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項5】
請求項1に記載の紙幣取扱装置において、
前記搬送手段による紙幣の搬送パターンに基づいて、前記紙幣が特定の種別の紙幣であるか否かを決定することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項6】
請求項5に記載の紙幣取扱装置において、
前記特定の種別の紙幣は、前記搬送手段の回収動作により回収される取り忘れ紙幣であることを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の紙幣取扱装置において、
前記紙幣移動手段は、前記紙幣収納庫のうち、紙幣を一時的に保管する一時保管庫の紙幣取込口近傍に設置されていることを特徴とする紙幣取扱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−3519(P2012−3519A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137908(P2010−137908)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】