説明

紙葉類取扱装置及び紙葉類の搬送障害管理方法

【課題】
紙幣を判定するための閾値を自動調整して紙幣の搬送障害を減少させる。
【解決手段】
紙幣取扱装置は、紙幣の状態を識別する識別部と、紙幣の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の数を記憶して管理する記憶手段と、識別部で紙幣の状態が識別された後、紙幣に搬送障害が発生した場合、記憶手段で管理される、紙幣の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新する制御手段とを有する。制御手段は、1又は複数の状態ランクの障害発生数が予め定めた所定値を超えた場合、紙幣を目的別に処理する閾値を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙葉類取扱装置及び紙葉類の搬送障害管理方法に係り、特に現金自動取引装置(ATM)における紙幣の搬送障害の対処に関する。
【背景技術】
【0002】
世界各国の紙幣に着目すると、紙幣の材質にはプラスチック製や紙製のものがあり、また紙製の紙幣でもその紙質に種々の違いがある。また、紙幣は流通している過程で折れたり破れたりして、その状態が悪化していく。
【0003】
ATMに悪い状態の紙幣を受付けると、紙幣の搬送が不安定になり、装置内部で搬送障害が発生することがある。搬送障害を発生させる紙幣には、折れたり、破れたり、更には流通過程で紙のコシが無くなっているもの等、いろいろある。ここで、搬送障害とは、紙幣入出金機構に紙幣が詰まったり(紙幣ジャム)、紙幣を斜めに搬送したり、収納カセットの中から本来は1枚ずつ搬送するべきところを複数枚同時に搬送する(重送)等をいう。
【0004】
従来、ATMにおける搬送障害に対処するために種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、破れたり汚れたりした紙幣(損券)を再流通させないように、回収して所定の収納部に収納することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、設定された紙葉類の正損比率に基いて正損判別レベルを設定することにより、正損区分処理される紙葉類の正損比率の変動を抑えることができる紙葉類処理装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭57−8890号公報
【特許文献2】特開2007−87219公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は、紙幣の状態を判別してその状態に応じて、所定の紙幣を返却し、リジェクト或いは所定部に収納している。然るに、異常状態の紙幣を検出するために、その紙幣検出センサの閾値を固定しているので、始めは正常に搬送できていた紙幣でも、同じATMを長期間運用していると、同じ状態の紙幣の搬送も不安定になり、搬送障害を発生することがある。
【0008】
特許文献2の技術は、正損比率に基いて判別レベルを調整することにより損券の変動を抑えることは可能であるが、比率で管理しているので、必ずしも紙幣の搬送障害の絶対件数を減少させることにつながらない。
【0009】
本発明の目的は、紙葉類を判定するための閾値を自動調整して紙葉類の搬送障害を減少させることにある。
本発明の他の目的は、搬送される紙葉類の状態及び搬送障害の回数に基づいて、紙葉類を分別するための最適な閾値に変更して紙葉類の搬送障害を減少させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る紙葉類取扱装置は、好ましくは、搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置において、該紙葉類の状態を識別する識別部と、紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の数を記憶して管理する記憶手段と、該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される、該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新する制御手段とを有し、
該制御手段は、1又は複数の該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えた場合、該紙葉類を目的別に処理する閾値を変更することを特徴とする紙葉類取扱装置として構成される。
【0011】
好ましい例では、前記制御手段は、紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを設定し、かつ前記記憶手段に記憶される前記複数の状態ランクをいずれかの該モードに分けて管理し、かつ、
前記制御手段は、前記いずれかのモードに分けられた該状態ランクのうち、該モードの境界にある該状態ランクを、あるモードから他のモードに移すように該閾値を変更する。
【0012】
また、好ましくは、前記制御手段は、あるモード内の同じの該状態ランクにおける搬送障害の累積件数が所定値を超えた場合に、前記閾値を変更する。
【0013】
また、本発明に係る紙葉類取扱装置は、好ましくは、搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置において、該紙葉類の状態を識別する識別部と、紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の発生数を記憶して管理する記憶手段と、紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを設定し、かつ該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新する制御手段と、を有し、
該制御手段は、該モードの境界にある該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えた場合、あるモードの境界にある状態ランクを隣りの他のモードに移すように、該状態ランクを変更することを特徴とする紙葉類取扱装置として把握される。
【0014】
好ましい例では、前記記憶手段は、前記識別部で識別された紙葉類ごとに、該紙葉類の状態ランクと、搬送障害の有無を管理する第1管理テーブルと、前記状態ランクごとに、障害発生件数を累積して管理する第2管理テーブルを有し、
前記制御手段は、前記第2管理テーブルを参照して、該モードの境界にある該状態ランクを、あるモードから他のモードに移すように該閾値を変更する。
【0015】
また、好ましくは、前記紙葉類取扱装置は、保守員が操作する入力手段と、保守用画面を表示する表示手段を含む操作部を有し、
前記制御手段は、前記閾値を変更すると判断した時、前記モードの境界を変更する閾値を表す画面を該表示手段に表示して、該入力手段からの変更許可の入力を可能とする。
【0016】
また、本発明に係る紙葉類の搬送障害管理方法は、好ましくは、搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置における紙葉類の搬送障害管理方法であって、
識別部で該紙葉類の状態を識別するステップと、紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の発生数を記憶手段に記憶するステップと、紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを予め設定するステップと、該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新するステップと、該モードの境界にある該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えたかを判断するステップと、該判断の結果、あるモードの境界にある状態ランクを隣りの他のモードに移すように、該状態ランクを変更するステップと、を有することを特徴とする紙葉類の搬送障害管理方法として構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紙葉類を判定するための閾値を自動調整し搬送障害を減少させることができる。具体的には、搬送される紙葉類の状態や搬送障害の回数に基づいて、紙葉類を分別するための最適な閾値に設定して紙葉類の搬送障害を減少させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、一実施形態におけるATMの内部構成を示す。
ATM1は、利用者によって操作される操作部3、カード/明細票機構部4、通帳機構部5、硬貨入出金機構部6、紙幣入出金機構部7、及びこれらの各部を制御する制御部2、を有して構成される。制御部2は、制御プログラムやアプリケーションプログラムを実行するCPU、プログラムや種々のデータを格納するメモリやハードディスクを有する。
【0019】
ここで、操作部3は、例えば液晶表示器とタッチパネルが一体的に構成された入力兼表示部であり、ATMの利用者が取引を行うとき、取引操作の案内を画面に表示したり、利用者の暗証番号や取引金額などの利用者によるキー入力を受付ける。また、ATMの保守時に、保守員が操作部3に専用の操作画面を表示して保守操作することがある。
【0020】
カード/明細票機構部4は、利用者のキャッシュカードの挿入又は排出動作、キャッシュカードの記録情報のリード又はライト動作、カードエンボス部分のイメージの読取り機能を有するカード機構部と、取引した内容を印字部で明細票に印字し、装置内から排出する明細票機構部を有する。通帳機構部5は利用者の通帳の挿入・排出動作、磁気ストライプのリード・ライト動作、通帳へ印字する印字機能などを有する。硬貨入出金機構部6は、硬貨の入金や出金機能、現金搬送機能を有する。紙幣入出金機構部7は、紙幣の入金や出金機能、現金搬送機能を有する。
【0021】
次に、図2を参照して紙幣入出金機構部7の構成について説明する。
紙幣入出金機構部7は、利用者の入金紙幣及び出金紙幣をセットする入出金口9、入出金用の紙幣を搬送する搬送路上に設けられた紙幣の真偽や金種の識別及び紙幣の状態を識別する識別部8、識別部8で識別された紙幣を一時保管する一時保管部10、利用者による操作部3からの入金確認に従って、一時保管部10に保管された紙幣を金種別に収納する複数の収納カセット19、識別部8で識別の結果、出金に不適当と判断された紙幣を収納(回収)するリジェクトカセット19、及びこれら各部を制御する制御ユニット20を有して構成される。制御ユニット20は、紙幣の入出金及び収納等の制御を行うためのプログラムが実行されるプロセッサ、及び識別部8の紙幣の識別結果や、取引のための管理情報等を記憶するメモリを有している。
【0022】
また、搬送路の所要箇所には複数の光学センサ(図示せず)が設置され、紙幣の搬送障害を検知する。搬送路を紙幣が通過する度に、制御ユニット20は光学センサから検知信号を受信し、紙幣毎に搬送障害の発生状況を管理テーブル(後述する)に保管して管理する。
【0023】
識別部8は光学センサや磁気センサを備え、これらのセンサの検知によって紙幣の真偽や金種および状態を識別する。紙幣の状態の識別に関して、センサの検知信号(紙幣の形状信号や透過光量など)を用いて、紙幣の形状や折損、汚れ状態を検知する。その結果、紙幣の状態に応じて、例えば30の状態ランクに分ける。
【0024】
状態の良い紙幣(状態ランクA)は一時保管部10に保管され、利用者によって金額が確認されると、再び識別部8を通過して搬送され、金種別の収納カセット18に収納される。
【0025】
状態が悪い紙幣(例えば、破損が酷い紙幣や偽札、単なる紙切れなど)(状態ランクC)は、識別部8で識別された後、入出金口9に搬送して利用者に返却される。また、状態が利用者に返却するほど悪くないが、リサイクルするほどに状態の良くない紙幣(状態ランクB)は、一時保管部10に一時保管された後、利用者による金額の確認の後、搬送してリジェクト部19に回収(リジェクト)される。
【0026】
識別部8で識別された紙幣の状態ランクは、制御ユニット20に用意された状態ランク管理テーブル(図5〜図7)に紙幣毎に記憶される。また、各状態ランク毎の搬送障害の発生回数は、障害回数管理テーブル(図4)に記憶される。ここで、これらの管理テーブルは制御ユニット20内のメモリに形成される。制御ユニット20内のプロセッサのプログラム実行によって、30の状態ランクに紙幣を分類するための閾値を設定し、かつそれらを変更する。詳細は後述するが、これらの管理テーブルは各閾値の変更などの処理に利用される。
【0027】
図3は入金紙幣の状態ランク分けの様子を示す。
識別部8による紙幣の識別の結果、紙幣はその状態に応じて「30」に分けられた状態ランクのうち、いずれかに分類される。30の状態ランクの、左側ほど紙幣の状態が良く、右側ほどその状態が悪い。更に、30に分けられた状態ランクは、紙幣の処理目的に応じて、3つのグループに分けられる。ここではそれをモードA、B,Cと言う。
【0028】
状態ランクA(モードA)は状態ランク1〜15の場合であり、紙幣が良好であるとの判定に基づき、リサイクルのために紙幣を収納カセット18に収納する。また、状態ランクB(モードB)は状態ランク16〜25の場合であり、リサイクルさせるには不向きであるとの判定に基づき、紙幣をリジェクトカセット19に収納する。状態ランクC(モードC)は状態ランク26〜30の場合であり、入出金口9に投入された物(悪状態の紙幣を含む)を利用者に返却する。
また、各状態ランクにおける搬送障害の発生回数が障害回数管理テーブル(図4)累積されて管理される。
【0029】
状態ランク管理テーブルは、図5〜7の下段に示すように、識別される紙幣毎に、その状態ランクの数値、及び搬送障害が発生した旨の情報を格納する。例えば、図10では、紙幣番号#2の紙幣の状態ランクは「15」で、障害が発生したことを示している。
【0030】
次に、図5〜7を参照して、紙幣入出金機構部7における搬送障害時の紙幣状態ランクのカウントについて説明する。
図5は一時保管部10に紙幣を一時保管する時又は利用者に紙幣を返却する時における搬送障害を示す。
搬送路上の識別部8を通過した紙幣No1〜3の紙幣は、識別部8によって1枚ごとに状態ランクが識別される。そして、状態ランク管理テーブルに紙幣No対応に状態ランクが記録される。
【0031】
この例で、紙幣No1の紙幣は紙幣状態ランク「27」であるため利用者に返却される。紙幣No2の紙幣は紙幣状態ランク「15」であるため一時保管部10に搬送される。紙幣No3の紙幣は紙幣状態ランク「14」であるため収納カセット18へ搬送される予定である。例えば、紙幣No2の紙幣に搬送障害が発生したので、紙幣状態ランク「15」の紙幣の搬送障害回数が1回増加する。即ち、図3の紙幣状態ランク「15」の回数が「2」から「3」にカウントアップされる。
【0032】
図6は紙幣の収納/回収(リジェクト)時における搬送障害を示す。紙幣は一時保管部10に一時保留された状態であり、搬送路に順次1枚ずつ繰出されて、識別部8を通って収納カセット18又はリジェクトカセット19に収納される。なお、図示の紙幣1〜6は、一時保管部10に保管される前に識別部8を通過しているので、紙幣の状態ランクは一度判定済みである。これら紙幣は、識別部8で二度目の状態ランクを判断されることになる。
【0033】
例えば、紙幣No1の紙幣は状態ランク「10」と判定されたので、収納カセット18へ搬送され、紙幣No2の紙幣は状態ランク「20」と判定されたので、リジェクトカセット19へ搬送される。また、紙幣No3の紙幣は状態ランク「10」と判定され、収納カセット18へ搬送されるべきところ、途中で搬送障害が発生したことを示している。
ここで、搬送障害の発生した紙幣No3の紙幣の紙幣状態ランク「10」の搬送障害の回数は1回増加する。
【0034】
図7は紙幣の出金時における障害発生を示す。
出金時における閾値変更のための搬送障害のカウントは収納カセット18内で発生した搬送障害をカウントする。しかし、収納カセット18から搬送路に繰出されて、入出金口9までの間の搬送路で搬送障害が発生した場合は、紙幣状態以外の要因で搬送障害が発生したと判断して搬送障害のカウントの対象としない。
これは、収納カセット18内の紙幣は、既に入出金口9から識別部8、一時保管部10、収納カセット19まで搬送路上を正常に搬送されて来たので、搬送障害は発生しないであろうとの前提によるものである。
【0035】
次に、図3を参照して、紙幣入金時の収納、回収、返却における状態ランクの閾値の自動調整について説明する。
紙幣状態ランクのランク数30と紙幣状態ランクによる搬送ルートは上記の通り、紙幣状態ランク1〜15は紙幣を収納、状態ランク16〜25は紙幣をリジェクト、状態ランク26〜30は利用者へ紙幣を返却するように設定されている。
【0036】
運用中のATMにおいて利用者が紙幣を入出金口9に投入すると、識別部8による紙幣の識別結果に応じて、状態の非常に良い紙幣であれば正常に取引が終了する。ところがATMの稼動経過に伴い、内部機構に埃がたまったり、搬送ベルトが緩んだり、ローラが磨耗することが原因で、紙幣の搬送品質が低下していく。ATMの稼動当初に、紙幣状態ランク「14」や「15」の紙幣は正常に搬送していたが、稼動経過に伴って搬送障害が発生する可能性がある。
【0037】
搬送障害が発生する度に、紙幣の状態ランクごとの障害回数を障害回数管理テーブル(図4)に記録しているが、例えば、(現在の閾値−2)までの範囲で搬送障害が5回発生した場合に収納する紙幣状態ランクの閾値を1段階下げる。一方、(現在の閾値−3)以下の状態ランクの紙幣に搬送障害が発生した場合は紙幣の状態以外の原因で搬送障害が発生したと判断して閾値変更の対象にはしないものとする。
【0038】
その結果、図4に示す障害回数管理テーブルのように、状態ランク15の紙幣が3回、状態ランク14の紙幣が1回、状態ランク13の紙幣が1回、それぞれ搬送障害が発生した場合、(現在の閾値−2)の範囲である状態ランク14−15では、搬送障害のカウント合計値が5回になる。そこで、制御ユニット20のプロセッサは、モードA(収納カセット18へ搬送する)の閾値を、今まで「15」以下であったのを1段階下げて(「14」以下)に設定変更する。
【0039】
しかし、障害回数管理テーブルにおいて、紙幣状態ランク2の紙幣に2回障害が発生しているが、その紙幣は(閾値−2)の範囲から外れた状態ランクであるため閾値の変更の対象としない。
【0040】
他の例として、状態ランク25の紙幣に3回の搬送障害、状態ランク24の紙幣に2回の搬送障害が発生した場合、(閾値−2)の範囲で障害回数の合計値が5回になるので、制御ユニット20は、回収カセット18へ搬送する閾値(今まで「25」以下)を1段階下げて(「24」以下)に設定変更する。しかし、紙幣状態ランク17の紙幣には2回搬送障害が発生しているが、その紙幣は(閾値−2)の範囲から外れた状態ランクであるため閾値変更の対象としない。
【0041】
このように、制御ユニット20の制御によって、紙幣を収納、リジェクトする紙幣状態ランクの閾値を自動調整することにより、ATMの状態が変化しても紙幣の搬送障害を発生し難くすることが可能となる。
因みに、図4の例で状態ランクの閾値の設定変更後、モードAはランク14以下、モードBはランク15〜24、モードCはランク25以上、となる。
【0042】
次に、図8〜図10を参照して、ATMにおける取引時の処理動作について説明する。
待機状態にあるATMは、初期値として、モードA(紙幣収納の状態ランク)の閾値は15以下、モードB(リジェクトの状態ランク)の閾値は16〜25、モードC(返却)の閾値は26以上に設定されている(S600)。この状態で利用者がATMで取引を開始し(S601)、紙幣を入出金口9に投入する(S602)。紙幣は入出金口9から搬送路上を識別部8に搬送され(S603)、そこで紙幣の状態ランクが判別される(S604)。
【0043】
判別の結果、状態ランクが15以下であれば(S605)、その紙幣は収納カセット18に収納される(S608)。また、状態ランクが16〜25であれば(S606)、その紙幣はリジェクトカセット19に回収される(S609)。また、状態ランクが26以上であれば(S607)、その紙幣は顧客に返却される(S610)。正常時にはこれで処理を終了する(S611)。
この場合、識別部8を通過した全ての紙幣の識別結果(即ち状態ランク)は、状態ランク管理テーブルに登録され。この場合、障害発生無しである。
【0044】
次に、搬送障害が発生した場合には、それぞれ、図9及び図10の処理に移行する。なお、搬送障害は、搬送路に設置された光学センサからの障害発生の検知信号を制御ユニット20が受信して認識される。
例えば、紙幣を収納カセット18に収納する時(S608)に、搬送障害が発生すると(S661)、図9に示すように、その紙幣の状態ランク及び障害発生有りが状態ランク管理テーブルに記録される。更に、障害回数管理テーブルにおける当該紙幣の状態ランクの障害発生回数をカウントアップ(プラス1)して更新する(S662)。そして、制御ユニット20のプロセッサは、状態ランク13〜15までの搬送障害の回数が合計5回以上あるかを判定する(S663)。その結果、合計回数が5回以上であれば、収納の閾値を「15」から1ランク下げて「14」に変更する(S664)。一方、障害回数の合計値が5回以上でなければ、処理を終了して待機状態に戻る。
なお、収納の閾値が変更された場合、障害回数管理テーブルの状態ランク1〜15までの障害発生回数はリセットされる。
【0045】
次に、紙幣をリジェクトカセットに回収する時(S609)に搬送障害が発生すると(S671)、その紙幣の紙幣状態ランクを状態ランク管理テーブルに記録する(S666)。かつ障害回数管理テーブルにおける当該紙幣の状態ランクの障害発生回数を更新する(S672)。そして、制御ユニット20のプロセッサは、状態ランク23〜25までの搬送障害の回数が合計5回以上あるかを判定する(S673)。その結果、合計回数が5回以上であれば、閾値「25」を1ランク下げて「24」に変更する(S674)。これによりリジェクト閾値の範囲は16〜25から16〜24に変更される。なお、図9と図10の双方の場合を加味すると、リジェクトの閾値の範囲は「15〜24」になる。なお、リジェクトの閾値が変更された場合、障害回数管理テーブルの状態ランク15〜25までの障害発生回数はリセットされる。
一方、障害回数の合計値が5以上でなければ、処理を終了し待機状態にもどる。
【0046】
次に、紙幣を入出金口9へ搬送して顧客に返却する時に搬送障害が発生した場合には(S610)、元の待機状態にもどる。この場合、紙幣の状態以外の原因で搬送障害が発生したと見做して、紙幣状態ランクを状態ランク管理テーブルへの記録や障害回数管理テーブルにおける状態ランクの障害発生回数を更新は行わない。
【0047】
このように更新された障害回数管理テーブルの様子を、図12に示す。上記の例の閾値の変更を全て反映した場合、障害回数管理テーブルにおける閾値はモードA「1〜14」、モードB「15〜24」、モードC「25〜30」となり、各状態ランクにおける障害発生回数は全てリセットされてゼロとなる。
【0048】
以上の例のように、紙幣の識別結果に応じて、紙幣が分類される状態ランク毎に搬送障害の発生回数を累積して管理し、その累積値が所定値を超えた場合に、紙幣識別の閾値を変更することができる。
【0049】
次に他の実施例について説明する。
この例は、紙幣の収納、リジェクト、返却のための閾値変更の最終判断を保守員に任せる例である。例えば、図9及び図10で、閾値を変更する処理(S644,S674)を自動的に行わないで、その閾値の範囲の変更を推奨する画面(図11(A))を、ATMの操作部3に保守専用画面として表示する。
【0050】
保守員は、表示された閾値変更画面を見て、推奨閾値として1ランク下げた閾値に変更するか、しないかを判断して選択する。保守員が「はい」を選択すると、制御部2は制御ユニット20に推奨閾値の変更を指示する。
図11(B)に変更後の画面を示す。これにより、保守員は現在の閾値が変更されたことが分かる。
【0051】
なお、本発明は上記実施例に限定されずに種々変形して実施し得る。
例えば、図3以降に示した実施例は、紙幣の状態ランクを30に分け、(閾値−2)の範囲で障害回数の合計値が5回に達すると、制御ユニット20の制御により、モードA,B,Cの閾値を1段階変更している。しかし、変形例によれば、分類する状態ランクの数、(閾値−2)の範囲、及び障害発生の合計値の5回は、これらに限定されず、他の数値でもよい。
【0052】
以上のように、ATMにおいて紙幣の状態により搬送が不安定になって搬送障害を発生する場合、その紙幣の状態を判別して、その状態により返却、リジェクト、収納と取扱方法を変更し、またその取扱方法を変更するための閾値を自動的又は半自動的(図11)に調整することで、紙葉類の搬送障害を減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ATMの内部構成を示すブロック図。
【図2】一実施例における紙幣入出金機構部7の構成を示す図。
【図3】入金紙幣の状態ランク分けの様子を示す図。
【図4】紙幣状態ランク毎の搬送障害回数を記録する障害回数管理テーブルの例を示す図。
【図5】紙幣入出金機構部7における紙幣の一時保管時の搬送障害(上段)と、その時の状態ランク管理テーブル(下段)を示す図。
【図6】紙幣入出金機構部7における紙幣の収納/回収時の搬送障害(上段)と、その時の状態ランク管理テーブル(下段)を示す図。
【図7】紙幣入出金機構部7における紙幣の出金時の搬送障害(上段)と、その時の状態ランク管理テーブル(下段)を示す図。
【図8】ATMにおける処理動作を示すフロー図。
【図9】ATMにおける搬送障害時の動作を示すフロー図(その1)。
【図10】ATMにおける搬送障害時の動作を示すフロー図(その2)。
【図11】他の実施例における閾値を変更するための画面の例を示す図。
【図12】更新された後の障害回数管理テーブルの例を示す図。
【符号の説明】
【0054】
1:ATM、2:制御部、3:操作部、4:カード機構部・明細書機構部、5:通帳機構部、6:硬貨入出金部、7:紙幣入出金機構部、8:識別部、9:入出金口、10:一時保管部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置において、
該紙葉類の状態を識別する識別部と、
該紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の数を記憶して管理する記憶手段と、
該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される、該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新する制御手段とを有し、
該制御手段は、1又は複数の該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えた場合、該紙葉類を目的別に処理する閾値を変更することを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを設定し、かつ前記記憶手段に記憶される前記複数の状態ランクをいずれかの該モードに分けて管理し、かつ、
前記制御手段は、前記いずれかのモードに分けられた該状態ランクのうち、該モードの境界にある該状態ランクを、あるモードから他のモードに移すように該閾値を変更することを特徴とする請求項1の紙葉類取扱装置。
【請求項3】
前記制御手段は、あるモード内の同じの該状態ランクにおける搬送障害の累積件数が所定値を超えた場合に、前記閾値を変更することを特徴とする請求項1又は2の紙葉類取扱装置。
【請求項4】
搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置において、
該紙葉類の状態を識別する識別部と、
紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の発生数を記憶して管理する記憶手段と、
紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを設定し、かつ該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新する制御手段と、を有し、
該制御手段は、該モードの境界にある該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えた場合、あるモードの境界にある状態ランクを隣りの他のモードに移すように、該状態ランクを変更することを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記識別部で識別された紙葉類ごとに、該紙葉類の状態ランクと、搬送障害の有無を管理する第1管理テーブルと、前記状態ランクごとに、障害発生件数を累積して管理する第2管理テーブルを有し、
前記制御手段は、前記第2管理テーブルを参照して、該モードの境界にある該状態ランクを、あるモードから他のモードに移すように該閾値を変更することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかの紙葉類取扱装置。
【請求項6】
前記紙葉類取扱装置は、保守員が操作する入力手段と、保守用画面を表示する表示手段を含む操作部を有し、
前記制御手段は、前記閾値を変更すると判断した時、前記モードの境界を変更する閾値を表す画面を該表示手段に表示して、該入力手段からの変更許可の入力を可能とすること特徴とする請求項2乃至5のいずれかの紙葉類取扱装置。
【請求項7】
搬送路を搬送する紙葉類の状態を識別し、その識別結果に応じて該紙葉類を目的別に処理する紙葉類取扱装置における紙葉類の搬送障害管理方法であって、
識別部で該紙葉類の状態を識別するステップと、
紙葉類の状態に応じて複数の状態ランクに分類され、各状態ランク毎の搬送障害の発生数を記憶手段に記憶するステップと、
紙葉類の処理の目的に対応して、該識別部で識別された該紙葉類を再利用するために収納カセットへ収納する第1モードと、該識別部で識別され、再利用しない紙葉類をリジェクトカセットへ収納する第2モードと、該識別部で識別された該紙葉類を利用者へ返却する第3モードの少なくとも3つのモードを予め設定するステップと、
該識別部で紙葉類の状態が識別された後、該紙葉類に搬送障害が発生した場合、該記憶手段で管理される該紙葉類の識別された状態ランクにおける障害発生数を更新するステップと、
該モードの境界にある該状態ランクにおける障害発生数が予め定めた所定値を超えたかを判断するステップと、
該判断の結果、あるモードの境界にある状態ランクを隣りの他のモードに移すように、該状態ランクを変更するステップと、
を有することを特徴とする紙葉類の搬送障害管理方法。
【請求項8】
前記識別部で識別された紙葉類ごとに、該紙葉類の状態ランクと、搬送障害の有無を第1管理テーブルに記憶するステップと、
前記状態ランクごとに、障害発生件数の累積を第2管理テーブルに記憶するステップと、を有し、
前記第2管理テーブルを参照して、該モードの境界にある該状態ランクを、あるモードから他のモードに移すように該モードの境界の閾値を変更することを特徴とする請求項7の搬送障害管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−39836(P2010−39836A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203162(P2008−203162)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】