素子冷却用ヒートシンク
【課題】基板に取り付けられた素子の発熱形態に対応し、圧力損失を増加させることなく、冷却性能の向上と軽量化を図ることができる素子冷却用ヒートシンクを提供。
【解決手段】薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板(ベースプレート)に接合し、当該基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴とする素子冷却用ヒートシンクである。前記に放熱効率を変化させる加工として、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上の加工を施す。これらの加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させることがない。
【解決手段】薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板(ベースプレート)に接合し、当該基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴とする素子冷却用ヒートシンクである。前記に放熱効率を変化させる加工として、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上の加工を施す。これらの加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させることがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板(ベースプレート)の裏面に取付けられる複数の素子を冷却する素子冷却用ヒートシンクに関し、さらに詳しくは、インバータモーター等の電源ユニットに組み込まれた素子の発熱形態に対応し、流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図るとともに放熱効率を向上させることができる素子冷却用ヒートシンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等では動力源としてインバータモーターが採用され、インバータによる電源制御が行われる。このインバータによる電源制御では、GTOサイリスタやIGBT等の大容量の半導体素子が使用されていることから、これらが組み込まれた電源ユニットでは素子発熱を冷却することが必要になる。
【0003】
近年においては、半導体素子の集積度が向上するのにともない発熱量が増大し、この発熱によって集積回路が誤動作し、または電源ユニットの気密性が失われるなどの重大なトラブルが発生する。これらに対応するため、集積回路からの発熱を低減させるための回路設計が検討されるとともに、電源ユニットからの放熱を促し、発熱による集積回路の誤作動を抑制することが行われる。この電源ユニットからの放熱用として、従来からヒートシンクが採用されている。
【0004】
例えば、本発明者らは、特許文献1により、LSIパッケージの冷却用として、平板状の基板の上に、側壁部と頂部と底部との繰り返しからなる凹凸形状の薄板製のコルゲートフィンを接合固定して放熱フィン部を形成したヒートシンクを提案した。提案のヒートシンクによれば、放熱フィン部を形成するコルゲートフィンの製作が比較的容易であることから、製作コストが安価であり、また、コルゲートフィンのフィンピッチを小さくすることが可能であり、より高い放熱効率を確保することができ、装置の小型化や軽量化も実現することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平08−320194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、本発明者らは、LSIパッケージの冷却用として、小型化や軽量化が可能になるのに加え、高い放熱効率を達成することができるコルゲートフィン型のヒートシンクを開発した。
【0007】
図1は、コルゲートフィン型ヒートシンクの全体構成例を示す斜視図である。コルゲートフィン型のヒートシンク1は、1枚の薄板からプレス加工によって成形された放熱フィン3を、基板2と側壁4とで構成される凹型のフィンケースに収納して、放熱フィン3を基板2にろう付けする構造である。
【0008】
コルゲートフィンを構成する放熱フィン3の性能は、フィンピッチ、フィン高さおよびフィン厚さにより決定される。このため、フィン厚さは所定の伝熱性能が確保される範囲内で可能な限り薄くすることが必要となるのに加え、フィンピッチおよびフィン高さは製造上、強度上の制約から寸法的に制限されることになる。このような寸法的な制限から、コルゲートフィン型ヒートシンクにおける設計上の許容度は、著しく小さなものとなる。
【0009】
このような制約を解消しつつさらに放熱効率を向上させるため、図1に示すように、ヒートシンクの性能設計において、2段積みやそれ以上の多段積みの構造でコルゲートフィンを構成することが行われるようになる。
【0010】
図1に示すヒートシンク1の製造に際し、フィンケースを成形する必要があり、一枚板を冷間曲げ加工によって凹型に成型、また、フィンケースを基板と2つの側面板に三分割し、それらを接合して凹型に組み立てたのち、得られたフィンケースに放熱フィン3を配して、放熱フィン3と基板2をろう付けする。
【0011】
前述の通り、コルゲートフィンのフィンピッチ、フィン高さおよびフィン厚さには設計上の自由度が狭いことから、さらに放熱効率を高めようとすると、2段積みを超える多段積みのヒートシンクを製作する必要がある。しかし、コルゲートフィン型ヒートシンクにおいて多段積みの構造になると、ヒートシンクの性能面や製造プロセス面で多大な制約を生じることになる。
【0012】
例えば、多段積みのヒートシンクで放熱効率を確保しようとすると、フィンの肉厚を厚くする必要があるが、フィン材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用した場合に、2段積み以下では肉厚が0.5mm程度で適用できるが、3段積み以上では肉厚が1.0mm〜2.0mmを適用しなければならない。しかし、プレス加工上の制約から、放熱フィンの肉厚をそれ程厚くできず、または放熱フィンの肉厚を厚くできたとしても、放熱効率を向上させることができるが、流通空気の圧力損失が著しく増加し事実上の使用が困難になる。
【0013】
ところが、高速走行が要求される鉄道車両等の電源ユニットでは、素子による発熱が促進され、その発熱量が膨大になる。このため、インバータモーター等の電源ユニットに組み込まれた複数の素子を冷却する場合には、膨大な発熱量に併せ、複数の素子間での発熱が均一でなく、発熱量に変動が生じることになる。
【0014】
このような場合には、膨大な発熱量の放熱と同時に、発熱量の変動に対応して電源ユニットを冷却する必要があるが、コルゲートフィン型ヒートシンクを適用するのは困難である。すなわち、前述の通り、コルゲートフィン型ヒートシンクでは設計上の自由度が狭いことに加え、製造プロセス上、強度上からも制限されることから、種々の発熱形態に対応する冷却特性が要求される電源ユニットの素子冷却用として採用するのは困難である。
【0015】
本発明は、上述した素子冷却用として要求される課題に鑑みてなされたものであり、例えば、鉄道車両等のインバータモーターの電源ユニットに組み込まれた複数の素子冷却用として最適な、電源ユニットの発熱形態に対応し、流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図るとともに放熱効率を向上させることができる素子冷却用ヒートシンクを提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
図2は、鉄道車両用インバータモーターの電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。通常、鉄道車両のインバータ制御に用いられる電源ユニットでは、複数の素子が配置されており、素子冷却用としてヒートシンクを適用する場合には、基板(ベースプレート)2の面に複数の素子5取り付けられる。取り付けられた素子5、当該素子が対応する部分に設けられた放熱フィンにより、発熱量に応じて冷却されることになる。
【0017】
図2に示す素子配置によれば、基板2に固着された電源ユニットは、空気流れ方向に沿って3つの領域A、B、Cに分割されている。すなわち、領域Aに対応する部分には、発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には、発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には、発熱量が「中」である素子5Cが配置される。
【0018】
したがって、図2に示す素子配置によれば、電源ユニットの各領域における発熱量は、領域A>領域C>領域Bの関係を示しており、空気流れ方向に沿って変動を生じる分布となっている。
【0019】
ところが、図2に示すように、電源ユニットが領域A、B、Cに分割され、発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示す形態は例示であり、空気流れ方向に沿って電源ユニットが複数の領域に分割できることを示しているのに過ぎない。言い換えると、素子の配置例としては、各領域の発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示すような変動を生じる分布に限定されるものではなく、各領域で変化することなく、発熱量が領域A=領域B=領域Cの関係を示す均一な分布形態になることもある。
【0020】
そこで、本発明者らは、空気流れ方向に沿って電源ユニットが複数の領域に分割され、各領域の発熱量が変動を生じる分布状態、または均一な分布状態である場合に、発熱量の変動に応じた放熱手段として、コルゲートフィン型ヒートシンクに替えて、フィンを薄板部材で製作し、多数枚の放熱フィンを所定間隔で整列させた、いわゆる「フィン整列型ヒートシンク」を適用するのが有効であることに着目した。
【0021】
さらに、フィン整列型のヒートシンクにおける放熱効率の向上について種々の検討を加えた結果、放熱フィンの放熱面に放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施せば、電源ユニットの発熱量が空気流れ方向に沿って変動を生じる分布状態であっても、または均一な分布状態であっても、分布状態に対応して冷却性能を確保できることを明らかにした。
【0022】
したがって、本発明の素子冷却用ヒートシンクは、薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板に接合し、当該基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、特定領域での放熱効率を変化させる加工として、放熱フィンの空気流れ方向に沿う部分的な放熱面には、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上を施すことができる。
【0024】
いずれの加工例であっても、冷却空気の流通にともなって、放熱フィンの放熱面に積極的に乱流を発生させることができ、特定領域に該当する放熱フィンの放熱効率を向上させることができる。さらにこれらの加工にともなって、放熱フィンの剛性も同時に確保することができるので、放熱フィン寸法の多様化を図ることができる。
【0025】
さらに、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、前記放熱フィンへの放熱効率を変化させる加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させることがないことを特徴としている。
【0026】
具体的には、フィンピッチを大きくして圧力損失を抑制するとともに、ディンプル加工等により電源ユニットの発熱量の分布状態に対応した放熱効率の調整が可能となり、総合的な冷却性能の向上を図ることができる。しかも、フィンピッチを大きくすることにより、軽量化を図ることができる。
【0027】
本発明の素子冷却用ヒートシンクは、前記複数素子の発熱量分布が全長に亘り均一に形成された場合であっても、または複数に区分された領域毎に変動して形成された場合であっても適用できる。
【0028】
前記図2に示すように、電源ユニットが領域A、B、Cに分割され、発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示す形態は例示であり、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、各領域の発熱量が変動を生じる分布に限定されるものではなく、各領域で変動を生じることなく発熱量が領域A=領域B=領域Cの関係を示す均一な分布形態に対しても適用できるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の素子冷却用ヒートシンクによれば、フィン整列型ヒートシンクを用いて基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却する場合に、空気流れ方向における複数素子の発熱量分布に応じ、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施すことにより、総合的に放熱効率を向上させることができる。
【0030】
さらに、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工にともない、フィンピッチを大きくして流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図ることができるので、効率的に冷却性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、素子冷却用としてフィン整列型のヒートシンクを採用し、電源ユニットの発熱量の分布状態に対応して、フィンの放熱面に放熱効率を向上させる加工を施すことを特徴としている。
【0032】
図3は、放熱フィンの放熱面に施すことができる放熱効率を向上させる加工例を示す図である。同図(a)は放熱フィン6の放熱面にディンプル加工を施した例であり、フィン寸法に応じて所定の密度でディンプルを設けることができる。さらに、同図(b)は張出し加工を施した例であり、同図(c)はオフセット加工を施した例であり、これらの加工を施すことによってフィンの剛性も同時に確保することができる。また、同図(d)は放熱面に穴明け加工を施した例であり、放熱面に貫通穴を設けている。
【0033】
本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、冷却空気の流通にともなって、放熱フィン6の放熱面に積極的に乱流を発生させることができ、放熱フィン6の該当領域において放熱効率を向上できる。本発明の施工において、放熱フィン6の放熱面に施す加工は、放熱面に乱流を発生させるためのものであればよく、上記図3(a)〜(d)のいずれかの加工例に限定されず、必要に応じてこれらの加工例を組み合わせてもよい。
【0034】
さらに、放熱フィン6の放熱面にディンプル加工、張出し加工、またはオフセット加工を施すことによって、放熱フィンの剛性が得られ、フィンサイズを大きくした場合であっても、ビビリの発生を回避できるという効果も期待できる。
【0035】
本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、さらに前記図3(a)〜(d)に示す加工により、総合的に放熱効率を向上させることができ、加工にともなって発生する圧力損失をフィンピッチを大きくして抑制すると同時に、軽量化を図ることが可能となり、総合的な冷却性能の向上を図ることを特徴としている。
【0036】
本発明の素子冷却用ヒートシンクが発揮するこのような特徴について、空気の流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量分布が均一である場合と、発熱量分布が変動する場合とに区分して説明する。
(発熱量の分布が均一である場合)
図4は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図4(a)に示すヒートシンク(従来例)では、平坦な上下面を備える矩形状の基板2と、この基板2上に整列された放熱フィン6とからなっている。放熱フィン6は平坦な矩形状をした薄板部材からなる。
【0037】
放熱フィン6をその下端面が基板2の上面と接触するように基板2上に配置し、各接触部をろう付して基板2と放熱フィン6とを接合する。このとき、放熱フィン6のフィンピッチP1は、基板2上に可能な限り多くの放熱フィンを配列し、放熱効率を高めるようにしている。
【0038】
図4に示す素子配置は、空気流れ方向に沿って電源ユニットは3つの領域A、B、Cに分割されるが、いずれの領域においても発熱量は均一である。すなわち、領域Aに対応する部分には素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には素子5Cが配置されているが、発熱量の分布に変動がない。
【0039】
各領域の放熱効率を変更せず、同一とする場合、すなわち、放熱フィン6を領域毎に区分せず、空気流れ方向の全長に亘って同一の放熱フィン6を使用する場合には、図4(b)に示すように、ヒートシンク出側における基板の温度分布が最高温度上昇値(ピーク値)に達し、許容限界を超える温度になる。
【0040】
図5は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図5に示す素子配置では、前記図4と同様に、領域A、B、Cのいずれにおいても、素子5A、5B、5Cの発熱量は均一である。
【0041】
図5(a)に示すヒートシンク(本発明例)では、領域Cにおいて放熱効率を向上させるため、放熱フィン6の放熱面にディンプル加工を施している。さらに、領域Cでのディンプル加工にともない圧力損失が増大することから、放熱フィン6のフィンピッチP2(P2>P1)として、圧力損失の増大を抑制している。
【0042】
領域Cにおいて放熱面にディンプル加工を施すことによって、図5(b)の実線に示すように、ヒートシンク入側における基板の温度分布が上昇するが、同図の破線で示す図4(b)の場合に比べ、最高温度上昇値(ピーク値)を著しく低減することができ、許容限界を超える温度になることはない。したがって、領域Cにおいて放熱面にディンプル加工を施すことにより、総合的な冷却性能の向上を図ることができるとともに、薄板の使用量を低減できるので、軽量化を図ることができる。
(発熱量の分布が変動する場合)
図6は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図6(a)に示すヒートシンク(従来例)では、平坦な上下面を備える矩形状の基板2と、この基板2上に整列された放熱フィン6とからなり、放熱フィン6は平坦な矩形状をした薄板部材からなる。このとき、放熱フィン6のフィンピッチP3は、基板2上に可能な限り多くのフィンを配列して、放熱効率を高めるようにしている。
【0043】
図6に示す素子配置は、空気の流れ方向に沿って電源ユニットは3つの領域A、B、Cに分割されており、領域Aに対応する部分には発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱量が「中」である素子5Cが配置される。このため、電源ユニットの各領域における発熱量の分布に変動が生じている。
【0044】
各領域での放熱効率を変更せず、放熱フィン6を領域毎に区分せず、空気流れ方向の全長に亘って同一の放熱フィン6を使用する場合には、発熱量が「大」である領域Aの放熱効率を各領域で確保することが必要になる。発熱量が「中」または「小」の領域B、Cの放熱効率を基準にすると、図6(b)に示すように、領域Aおよび領域Cは許容限界を超えるほど加熱される状態になる。
【0045】
さらに、領域Aの放熱効率を各領域で確保した場合は、領域Bでは必要以上に放熱が促進され、無駄な冷却状態になる。
【0046】
図7は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図7に示す素子配置では、前記図6と同様に、領域Aに対応する部分には発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱量が「中」である素子5Cが配置され、領域A、領域C、領域Bの順で小さくなり、空気の流れ方向に沿って変動を生じている。
【0047】
図7(a)に示すヒートシンク(本発明例)では、放熱効率を向上させるため、領域Aにおいて放熱フィン6の放熱面に高密度のディンプル加工を施し、さらに、領域Cにおいて放熱フィン6の放熱面に低密度のディンプル加工を施している。また、これらのディンプル加工にともない、圧力損失が増大することから、放熱フィン4のフィンピッチP4(P4>P3)として、圧力損失の増大を抑制している。
【0048】
領域A、Cの放熱効率を各領域の発熱量分布に対応して変更した場合は、図7(b)の実線で示すように、同図の破線で示す図6(b)の場合に比べ、発熱量が「大」である領域Aで基板の温度分布の最高温度上昇値(ピーク値)が抑えられるのに加え、発熱量が「小」である領域Bおよび発熱量が「中」である領域Cでも、その温度分布の平準化を図ることができる。これにより、いずれの領域も許容限界を超えることがなく、総合的な冷却性能の向上を図ることができ、薄板の使用量を低減できるので軽量化を図ることができる。
【0049】
以上の説明では、本発明のヒートシンクの構成について、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量分布が均一である場合と、発熱量分布が変動する場合とについて説明したが、このような構成は、空気の流れ方向の発熱量分布への対応に限定されるものではなく、空気の流れ方向に直交する方向に発熱量の分布が生じている場合であっても、同様に適用できるものである。
【実施例】
【0050】
本発明の素子冷却用ヒートシンクの効果を確認するため、フィン整列型のヒートシンクを材質としてアルミニウム(JIS H4000 A1050)を用いて作製した。
【0051】
図8は、実施例で用いた電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。供試された素子配置によれば、空気流れ方向に沿って3つの領域A、B、Cに分割されており、領域Aに対応する部分には発熱負荷が600Wの素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱負荷が300Wである素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱負荷が1600Wである素子5Cが配置される。
【0052】
図9は、本発明例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。図9に示すように、基板厚さを12mm、フィン高さを120mm、フィン厚さを2.0mm、フィンピッチを7.2mm(フィン枚数29枚)とし、素子の発熱負荷分布を考慮して、空気流れ方向の後半部にディンプル加工による放熱効率を変化させる加工を施した。
【0053】
図10は、比較例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。図9に示すように、基板厚さを12mm、フィン高さを120mm、フィン厚さを2.0mm、フィンピッチを6.7mm(フィン枚数31枚)とし、全面に亘り平板フィンで放熱効率を変化させる加工を行わなかった。
【0054】
本発明例と比較例では、それぞれのフィンピッチを圧力損失が同等になるように設定しており、これにともなって本発明例のフィンピッチが大きくなり、フィン枚数が少なくなったため、約5%の軽量が可能になった。
【0055】
図11は、ダクト前面の平均流速を7m/sとした場合における基板の素子取り付け面近傍における温度分布を示す図である。本発明例による温度分布では、空気流れ方向の前半部では、フィンピッチが広くなっているので若干の温度上昇が観察されたが、後半部に至ると、ディンプル加工の作用により温度上昇が抑えられ、出側での最高温度上昇値(ピーク値)を6%程度低減できた。
【0056】
図12は、ダクト前面の平均流速を0〜20m/sと変動させた場合における、基板の素子取り付け面近傍における最高温度上昇値(ピーク値)および圧力損失の関係を示す図である。図12に示す結果から、本発明例によれば、ダクト前面の平均流速がいずれの範囲であっても、特に3〜13m/sの範囲であれば、最高温度上昇値(ピーク値)を低減することが可能であり、圧力損失を同一とし、軽量化および冷却性能の向上を実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の素子冷却用ヒートシンクによれば、フィン整列型ヒートシンクを用いて基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却する場合に、空気流れ方向における複数素子の発熱量分布に応じ、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施すことにより、総合的に放熱効率を向上させることができる。
【0058】
さらに、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工にともない、フィンピッチを大きくして流通空気に圧力損失を増加させることなく、軽量化を図ることができるので、効率的に冷却特性を向上させることができる。これらにより、本発明の素子冷却用ヒートシンクは、効率的な電源ユニットとして広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】コルゲートフィン型ヒートシンクの全体構成例を示す斜視図である。
【図2】鉄道車両用インバータモーターの電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。
【図3】放熱フィンの放熱面に施すことができる放熱効率を向上させる加工例を示す図である。
【図4】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図5】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図6】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図7】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図8】実施例で用いた電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。
【図9】本発明例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。
【図10】比較例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。
【図11】ダクト前面の平均流速を7m/sとした場合における基板の素子取り付け面近傍における温度分布を示す図である。
【図12】ダクト前面の平均流速を0〜20m/sと変動させた場合における、基板の素子取り付け面近傍における最高温度上昇値(ピーク値)および圧力損失の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1:ヒートシンク、 2:基板、ベースプレート
3:コルゲートフィン、 4:側壁
5、5A、5B、5C:素子
6:放熱フィン
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板(ベースプレート)の裏面に取付けられる複数の素子を冷却する素子冷却用ヒートシンクに関し、さらに詳しくは、インバータモーター等の電源ユニットに組み込まれた素子の発熱形態に対応し、流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図るとともに放熱効率を向上させることができる素子冷却用ヒートシンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等では動力源としてインバータモーターが採用され、インバータによる電源制御が行われる。このインバータによる電源制御では、GTOサイリスタやIGBT等の大容量の半導体素子が使用されていることから、これらが組み込まれた電源ユニットでは素子発熱を冷却することが必要になる。
【0003】
近年においては、半導体素子の集積度が向上するのにともない発熱量が増大し、この発熱によって集積回路が誤動作し、または電源ユニットの気密性が失われるなどの重大なトラブルが発生する。これらに対応するため、集積回路からの発熱を低減させるための回路設計が検討されるとともに、電源ユニットからの放熱を促し、発熱による集積回路の誤作動を抑制することが行われる。この電源ユニットからの放熱用として、従来からヒートシンクが採用されている。
【0004】
例えば、本発明者らは、特許文献1により、LSIパッケージの冷却用として、平板状の基板の上に、側壁部と頂部と底部との繰り返しからなる凹凸形状の薄板製のコルゲートフィンを接合固定して放熱フィン部を形成したヒートシンクを提案した。提案のヒートシンクによれば、放熱フィン部を形成するコルゲートフィンの製作が比較的容易であることから、製作コストが安価であり、また、コルゲートフィンのフィンピッチを小さくすることが可能であり、より高い放熱効率を確保することができ、装置の小型化や軽量化も実現することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平08−320194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、本発明者らは、LSIパッケージの冷却用として、小型化や軽量化が可能になるのに加え、高い放熱効率を達成することができるコルゲートフィン型のヒートシンクを開発した。
【0007】
図1は、コルゲートフィン型ヒートシンクの全体構成例を示す斜視図である。コルゲートフィン型のヒートシンク1は、1枚の薄板からプレス加工によって成形された放熱フィン3を、基板2と側壁4とで構成される凹型のフィンケースに収納して、放熱フィン3を基板2にろう付けする構造である。
【0008】
コルゲートフィンを構成する放熱フィン3の性能は、フィンピッチ、フィン高さおよびフィン厚さにより決定される。このため、フィン厚さは所定の伝熱性能が確保される範囲内で可能な限り薄くすることが必要となるのに加え、フィンピッチおよびフィン高さは製造上、強度上の制約から寸法的に制限されることになる。このような寸法的な制限から、コルゲートフィン型ヒートシンクにおける設計上の許容度は、著しく小さなものとなる。
【0009】
このような制約を解消しつつさらに放熱効率を向上させるため、図1に示すように、ヒートシンクの性能設計において、2段積みやそれ以上の多段積みの構造でコルゲートフィンを構成することが行われるようになる。
【0010】
図1に示すヒートシンク1の製造に際し、フィンケースを成形する必要があり、一枚板を冷間曲げ加工によって凹型に成型、また、フィンケースを基板と2つの側面板に三分割し、それらを接合して凹型に組み立てたのち、得られたフィンケースに放熱フィン3を配して、放熱フィン3と基板2をろう付けする。
【0011】
前述の通り、コルゲートフィンのフィンピッチ、フィン高さおよびフィン厚さには設計上の自由度が狭いことから、さらに放熱効率を高めようとすると、2段積みを超える多段積みのヒートシンクを製作する必要がある。しかし、コルゲートフィン型ヒートシンクにおいて多段積みの構造になると、ヒートシンクの性能面や製造プロセス面で多大な制約を生じることになる。
【0012】
例えば、多段積みのヒートシンクで放熱効率を確保しようとすると、フィンの肉厚を厚くする必要があるが、フィン材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用した場合に、2段積み以下では肉厚が0.5mm程度で適用できるが、3段積み以上では肉厚が1.0mm〜2.0mmを適用しなければならない。しかし、プレス加工上の制約から、放熱フィンの肉厚をそれ程厚くできず、または放熱フィンの肉厚を厚くできたとしても、放熱効率を向上させることができるが、流通空気の圧力損失が著しく増加し事実上の使用が困難になる。
【0013】
ところが、高速走行が要求される鉄道車両等の電源ユニットでは、素子による発熱が促進され、その発熱量が膨大になる。このため、インバータモーター等の電源ユニットに組み込まれた複数の素子を冷却する場合には、膨大な発熱量に併せ、複数の素子間での発熱が均一でなく、発熱量に変動が生じることになる。
【0014】
このような場合には、膨大な発熱量の放熱と同時に、発熱量の変動に対応して電源ユニットを冷却する必要があるが、コルゲートフィン型ヒートシンクを適用するのは困難である。すなわち、前述の通り、コルゲートフィン型ヒートシンクでは設計上の自由度が狭いことに加え、製造プロセス上、強度上からも制限されることから、種々の発熱形態に対応する冷却特性が要求される電源ユニットの素子冷却用として採用するのは困難である。
【0015】
本発明は、上述した素子冷却用として要求される課題に鑑みてなされたものであり、例えば、鉄道車両等のインバータモーターの電源ユニットに組み込まれた複数の素子冷却用として最適な、電源ユニットの発熱形態に対応し、流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図るとともに放熱効率を向上させることができる素子冷却用ヒートシンクを提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
図2は、鉄道車両用インバータモーターの電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。通常、鉄道車両のインバータ制御に用いられる電源ユニットでは、複数の素子が配置されており、素子冷却用としてヒートシンクを適用する場合には、基板(ベースプレート)2の面に複数の素子5取り付けられる。取り付けられた素子5、当該素子が対応する部分に設けられた放熱フィンにより、発熱量に応じて冷却されることになる。
【0017】
図2に示す素子配置によれば、基板2に固着された電源ユニットは、空気流れ方向に沿って3つの領域A、B、Cに分割されている。すなわち、領域Aに対応する部分には、発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には、発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には、発熱量が「中」である素子5Cが配置される。
【0018】
したがって、図2に示す素子配置によれば、電源ユニットの各領域における発熱量は、領域A>領域C>領域Bの関係を示しており、空気流れ方向に沿って変動を生じる分布となっている。
【0019】
ところが、図2に示すように、電源ユニットが領域A、B、Cに分割され、発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示す形態は例示であり、空気流れ方向に沿って電源ユニットが複数の領域に分割できることを示しているのに過ぎない。言い換えると、素子の配置例としては、各領域の発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示すような変動を生じる分布に限定されるものではなく、各領域で変化することなく、発熱量が領域A=領域B=領域Cの関係を示す均一な分布形態になることもある。
【0020】
そこで、本発明者らは、空気流れ方向に沿って電源ユニットが複数の領域に分割され、各領域の発熱量が変動を生じる分布状態、または均一な分布状態である場合に、発熱量の変動に応じた放熱手段として、コルゲートフィン型ヒートシンクに替えて、フィンを薄板部材で製作し、多数枚の放熱フィンを所定間隔で整列させた、いわゆる「フィン整列型ヒートシンク」を適用するのが有効であることに着目した。
【0021】
さらに、フィン整列型のヒートシンクにおける放熱効率の向上について種々の検討を加えた結果、放熱フィンの放熱面に放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施せば、電源ユニットの発熱量が空気流れ方向に沿って変動を生じる分布状態であっても、または均一な分布状態であっても、分布状態に対応して冷却性能を確保できることを明らかにした。
【0022】
したがって、本発明の素子冷却用ヒートシンクは、薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板に接合し、当該基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、特定領域での放熱効率を変化させる加工として、放熱フィンの空気流れ方向に沿う部分的な放熱面には、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上を施すことができる。
【0024】
いずれの加工例であっても、冷却空気の流通にともなって、放熱フィンの放熱面に積極的に乱流を発生させることができ、特定領域に該当する放熱フィンの放熱効率を向上させることができる。さらにこれらの加工にともなって、放熱フィンの剛性も同時に確保することができるので、放熱フィン寸法の多様化を図ることができる。
【0025】
さらに、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、前記放熱フィンへの放熱効率を変化させる加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させることがないことを特徴としている。
【0026】
具体的には、フィンピッチを大きくして圧力損失を抑制するとともに、ディンプル加工等により電源ユニットの発熱量の分布状態に対応した放熱効率の調整が可能となり、総合的な冷却性能の向上を図ることができる。しかも、フィンピッチを大きくすることにより、軽量化を図ることができる。
【0027】
本発明の素子冷却用ヒートシンクは、前記複数素子の発熱量分布が全長に亘り均一に形成された場合であっても、または複数に区分された領域毎に変動して形成された場合であっても適用できる。
【0028】
前記図2に示すように、電源ユニットが領域A、B、Cに分割され、発熱量が領域A>領域C>領域Bの関係を示す形態は例示であり、本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、各領域の発熱量が変動を生じる分布に限定されるものではなく、各領域で変動を生じることなく発熱量が領域A=領域B=領域Cの関係を示す均一な分布形態に対しても適用できるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の素子冷却用ヒートシンクによれば、フィン整列型ヒートシンクを用いて基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却する場合に、空気流れ方向における複数素子の発熱量分布に応じ、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施すことにより、総合的に放熱効率を向上させることができる。
【0030】
さらに、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工にともない、フィンピッチを大きくして流通空気の圧力損失を増加させることなく、軽量化を図ることができるので、効率的に冷却性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、素子冷却用としてフィン整列型のヒートシンクを採用し、電源ユニットの発熱量の分布状態に対応して、フィンの放熱面に放熱効率を向上させる加工を施すことを特徴としている。
【0032】
図3は、放熱フィンの放熱面に施すことができる放熱効率を向上させる加工例を示す図である。同図(a)は放熱フィン6の放熱面にディンプル加工を施した例であり、フィン寸法に応じて所定の密度でディンプルを設けることができる。さらに、同図(b)は張出し加工を施した例であり、同図(c)はオフセット加工を施した例であり、これらの加工を施すことによってフィンの剛性も同時に確保することができる。また、同図(d)は放熱面に穴明け加工を施した例であり、放熱面に貫通穴を設けている。
【0033】
本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、冷却空気の流通にともなって、放熱フィン6の放熱面に積極的に乱流を発生させることができ、放熱フィン6の該当領域において放熱効率を向上できる。本発明の施工において、放熱フィン6の放熱面に施す加工は、放熱面に乱流を発生させるためのものであればよく、上記図3(a)〜(d)のいずれかの加工例に限定されず、必要に応じてこれらの加工例を組み合わせてもよい。
【0034】
さらに、放熱フィン6の放熱面にディンプル加工、張出し加工、またはオフセット加工を施すことによって、放熱フィンの剛性が得られ、フィンサイズを大きくした場合であっても、ビビリの発生を回避できるという効果も期待できる。
【0035】
本発明の素子冷却用ヒートシンクでは、さらに前記図3(a)〜(d)に示す加工により、総合的に放熱効率を向上させることができ、加工にともなって発生する圧力損失をフィンピッチを大きくして抑制すると同時に、軽量化を図ることが可能となり、総合的な冷却性能の向上を図ることを特徴としている。
【0036】
本発明の素子冷却用ヒートシンクが発揮するこのような特徴について、空気の流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量分布が均一である場合と、発熱量分布が変動する場合とに区分して説明する。
(発熱量の分布が均一である場合)
図4は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図4(a)に示すヒートシンク(従来例)では、平坦な上下面を備える矩形状の基板2と、この基板2上に整列された放熱フィン6とからなっている。放熱フィン6は平坦な矩形状をした薄板部材からなる。
【0037】
放熱フィン6をその下端面が基板2の上面と接触するように基板2上に配置し、各接触部をろう付して基板2と放熱フィン6とを接合する。このとき、放熱フィン6のフィンピッチP1は、基板2上に可能な限り多くの放熱フィンを配列し、放熱効率を高めるようにしている。
【0038】
図4に示す素子配置は、空気流れ方向に沿って電源ユニットは3つの領域A、B、Cに分割されるが、いずれの領域においても発熱量は均一である。すなわち、領域Aに対応する部分には素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には素子5Cが配置されているが、発熱量の分布に変動がない。
【0039】
各領域の放熱効率を変更せず、同一とする場合、すなわち、放熱フィン6を領域毎に区分せず、空気流れ方向の全長に亘って同一の放熱フィン6を使用する場合には、図4(b)に示すように、ヒートシンク出側における基板の温度分布が最高温度上昇値(ピーク値)に達し、許容限界を超える温度になる。
【0040】
図5は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図5に示す素子配置では、前記図4と同様に、領域A、B、Cのいずれにおいても、素子5A、5B、5Cの発熱量は均一である。
【0041】
図5(a)に示すヒートシンク(本発明例)では、領域Cにおいて放熱効率を向上させるため、放熱フィン6の放熱面にディンプル加工を施している。さらに、領域Cでのディンプル加工にともない圧力損失が増大することから、放熱フィン6のフィンピッチP2(P2>P1)として、圧力損失の増大を抑制している。
【0042】
領域Cにおいて放熱面にディンプル加工を施すことによって、図5(b)の実線に示すように、ヒートシンク入側における基板の温度分布が上昇するが、同図の破線で示す図4(b)の場合に比べ、最高温度上昇値(ピーク値)を著しく低減することができ、許容限界を超える温度になることはない。したがって、領域Cにおいて放熱面にディンプル加工を施すことにより、総合的な冷却性能の向上を図ることができるとともに、薄板の使用量を低減できるので、軽量化を図ることができる。
(発熱量の分布が変動する場合)
図6は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図6(a)に示すヒートシンク(従来例)では、平坦な上下面を備える矩形状の基板2と、この基板2上に整列された放熱フィン6とからなり、放熱フィン6は平坦な矩形状をした薄板部材からなる。このとき、放熱フィン6のフィンピッチP3は、基板2上に可能な限り多くのフィンを配列して、放熱効率を高めるようにしている。
【0043】
図6に示す素子配置は、空気の流れ方向に沿って電源ユニットは3つの領域A、B、Cに分割されており、領域Aに対応する部分には発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱量が「中」である素子5Cが配置される。このため、電源ユニットの各領域における発熱量の分布に変動が生じている。
【0044】
各領域での放熱効率を変更せず、放熱フィン6を領域毎に区分せず、空気流れ方向の全長に亘って同一の放熱フィン6を使用する場合には、発熱量が「大」である領域Aの放熱効率を各領域で確保することが必要になる。発熱量が「中」または「小」の領域B、Cの放熱効率を基準にすると、図6(b)に示すように、領域Aおよび領域Cは許容限界を超えるほど加熱される状態になる。
【0045】
さらに、領域Aの放熱効率を各領域で確保した場合は、領域Bでは必要以上に放熱が促進され、無駄な冷却状態になる。
【0046】
図7は、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。図7に示す素子配置では、前記図6と同様に、領域Aに対応する部分には発熱量が「大」である素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱量が「小」である素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱量が「中」である素子5Cが配置され、領域A、領域C、領域Bの順で小さくなり、空気の流れ方向に沿って変動を生じている。
【0047】
図7(a)に示すヒートシンク(本発明例)では、放熱効率を向上させるため、領域Aにおいて放熱フィン6の放熱面に高密度のディンプル加工を施し、さらに、領域Cにおいて放熱フィン6の放熱面に低密度のディンプル加工を施している。また、これらのディンプル加工にともない、圧力損失が増大することから、放熱フィン4のフィンピッチP4(P4>P3)として、圧力損失の増大を抑制している。
【0048】
領域A、Cの放熱効率を各領域の発熱量分布に対応して変更した場合は、図7(b)の実線で示すように、同図の破線で示す図6(b)の場合に比べ、発熱量が「大」である領域Aで基板の温度分布の最高温度上昇値(ピーク値)が抑えられるのに加え、発熱量が「小」である領域Bおよび発熱量が「中」である領域Cでも、その温度分布の平準化を図ることができる。これにより、いずれの領域も許容限界を超えることがなく、総合的な冷却性能の向上を図ることができ、薄板の使用量を低減できるので軽量化を図ることができる。
【0049】
以上の説明では、本発明のヒートシンクの構成について、空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量分布が均一である場合と、発熱量分布が変動する場合とについて説明したが、このような構成は、空気の流れ方向の発熱量分布への対応に限定されるものではなく、空気の流れ方向に直交する方向に発熱量の分布が生じている場合であっても、同様に適用できるものである。
【実施例】
【0050】
本発明の素子冷却用ヒートシンクの効果を確認するため、フィン整列型のヒートシンクを材質としてアルミニウム(JIS H4000 A1050)を用いて作製した。
【0051】
図8は、実施例で用いた電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。供試された素子配置によれば、空気流れ方向に沿って3つの領域A、B、Cに分割されており、領域Aに対応する部分には発熱負荷が600Wの素子5Aが配置され、領域Bに対応する部分には発熱負荷が300Wである素子5Bが配置され、領域Cに対応する部分には発熱負荷が1600Wである素子5Cが配置される。
【0052】
図9は、本発明例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。図9に示すように、基板厚さを12mm、フィン高さを120mm、フィン厚さを2.0mm、フィンピッチを7.2mm(フィン枚数29枚)とし、素子の発熱負荷分布を考慮して、空気流れ方向の後半部にディンプル加工による放熱効率を変化させる加工を施した。
【0053】
図10は、比較例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。図9に示すように、基板厚さを12mm、フィン高さを120mm、フィン厚さを2.0mm、フィンピッチを6.7mm(フィン枚数31枚)とし、全面に亘り平板フィンで放熱効率を変化させる加工を行わなかった。
【0054】
本発明例と比較例では、それぞれのフィンピッチを圧力損失が同等になるように設定しており、これにともなって本発明例のフィンピッチが大きくなり、フィン枚数が少なくなったため、約5%の軽量が可能になった。
【0055】
図11は、ダクト前面の平均流速を7m/sとした場合における基板の素子取り付け面近傍における温度分布を示す図である。本発明例による温度分布では、空気流れ方向の前半部では、フィンピッチが広くなっているので若干の温度上昇が観察されたが、後半部に至ると、ディンプル加工の作用により温度上昇が抑えられ、出側での最高温度上昇値(ピーク値)を6%程度低減できた。
【0056】
図12は、ダクト前面の平均流速を0〜20m/sと変動させた場合における、基板の素子取り付け面近傍における最高温度上昇値(ピーク値)および圧力損失の関係を示す図である。図12に示す結果から、本発明例によれば、ダクト前面の平均流速がいずれの範囲であっても、特に3〜13m/sの範囲であれば、最高温度上昇値(ピーク値)を低減することが可能であり、圧力損失を同一とし、軽量化および冷却性能の向上を実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の素子冷却用ヒートシンクによれば、フィン整列型ヒートシンクを用いて基板の裏面に取付けられた複数の素子を冷却する場合に、空気流れ方向における複数素子の発熱量分布に応じ、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工、すなわち熱伝達を促進する加工を施すことにより、総合的に放熱効率を向上させることができる。
【0058】
さらに、放熱フィンに放熱効率を変化させる加工にともない、フィンピッチを大きくして流通空気に圧力損失を増加させることなく、軽量化を図ることができるので、効率的に冷却特性を向上させることができる。これらにより、本発明の素子冷却用ヒートシンクは、効率的な電源ユニットとして広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】コルゲートフィン型ヒートシンクの全体構成例を示す斜視図である。
【図2】鉄道車両用インバータモーターの電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。
【図3】放熱フィンの放熱面に施すことができる放熱効率を向上させる加工例を示す図である。
【図4】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図5】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が均一である場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図6】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(従来例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図7】空気流れ方向に沿って電源ユニットの発熱量の分布が変動する場合に適用できるヒートシンク構成例(本発明例)と、同ヒートシンクにおける基板の温度分布を空気流れ方向で示した図である。
【図8】実施例で用いた電源ユニットに組み込まれた素子の配置例を示す図である。
【図9】本発明例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。
【図10】比較例として実施例に供試したフィン整列型のヒートシンク各部の寸法を示す図であり、(a)は同ヒートシンクの入側正面図であり、(b)は同ヒートシンクの側面図である。
【図11】ダクト前面の平均流速を7m/sとした場合における基板の素子取り付け面近傍における温度分布を示す図である。
【図12】ダクト前面の平均流速を0〜20m/sと変動させた場合における、基板の素子取り付け面近傍における最高温度上昇値(ピーク値)および圧力損失の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1:ヒートシンク、 2:基板、ベースプレート
3:コルゲートフィン、 4:側壁
5、5A、5B、5C:素子
6:放熱フィン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板(ベースプレート)に接合し、当該基板(ベースプレート)の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、
空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴とする素子冷却用ヒートシンク。
【請求項2】
前記放熱フィンの空気流れ方向に沿う部分的な放熱面には、放熱効率を変化させる加工として、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上の加工が施されることを特徴とする請求項1に記載の素子冷却用ヒートシンク。
【請求項3】
前記放熱フィンへの放熱効率を変化させる加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させないことを特徴とする請求項1または2に記載の素子冷却用ヒートシンク。
【請求項4】
前記複数素子の発熱量分布が全長に亘り均一に形成され、または複数に区分された領域毎に変動して形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の素子冷却用ヒートシンク。
【請求項1】
薄板部材からなる複数の放熱フィンを所定間隔で整列させて基板(ベースプレート)に接合し、当該基板(ベースプレート)の裏面に取付けられた複数の素子を冷却するヒートシンクであって、
空気流れ方向における前記複数素子の発熱量分布に応じ、前記放熱フィンに放熱効率を変化させる加工が施されていることを特徴とする素子冷却用ヒートシンク。
【請求項2】
前記放熱フィンの空気流れ方向に沿う部分的な放熱面には、放熱効率を変化させる加工として、ディンプル加工、張出し加工、オフセット加工および穴明け加工のうち1または2以上の加工が施されることを特徴とする請求項1に記載の素子冷却用ヒートシンク。
【請求項3】
前記放熱フィンへの放熱効率を変化させる加工にともない、流通空気の圧力損失を増加させないことを特徴とする請求項1または2に記載の素子冷却用ヒートシンク。
【請求項4】
前記複数素子の発熱量分布が全長に亘り均一に形成され、または複数に区分された領域毎に変動して形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の素子冷却用ヒートシンク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−228888(P2006−228888A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39348(P2005−39348)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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