素子基板、記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置
【課題】 同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらのドライバアレイを形成する各トランジスタが異なる配列密度で形成されている場合に、素子基板の小型化と電気効率を両立させる。
【解決手段】 第1の吐出口列に対応する第1のドライバアレイのトランジスタの面積は、第2の吐出口列に対応する第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きくする。そして、前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線の幅は、前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線の幅よりも狭くする。
【解決手段】 第1の吐出口列に対応する第1のドライバアレイのトランジスタの面積は、第2の吐出口列に対応する第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きくする。そして、前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線の幅は、前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線の幅よりも狭くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド用の素子基板、前記素子基板を使用した記録ヘッド、前記記録ヘッドを有するヘッドカートリッジ及び前記記録ヘッドまたは前記ヘッドカートリッジを有する記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット方式の記録装置に搭載される記録ヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)とその駆動回路及び配線は、半導体プロセス技術を用いて同一基板上に形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図18及び図19は、従来のインクジェット記録ヘッド用の素子基板の一例を表す模式図である。
【0004】
図18と図19は、同じ素子基板の一部を特徴的に表している。図18はヒータ駆動用電源配線とグランド配線を主に示しており、図19はそれらの配線の下にあるヒータドライバやロジック配線及びロジック回路を主に示している。
【0005】
まず図19から各構成の配置を説明すると、素子基板の中央にはインク供給口604があり、それを挟んで両側にヒータ列807が配列されている。各ヒータに対応してこの素子基板上にインク流路とインクを吐出するための吐出口が設けられており、これらに先のインク供給口604を介してインクが供給される。ヒータ列807の外側にはヒータを駆動するためのドライバアレイ901が配置されており、その外側にはロジック回路用配線及びロジック回路106が配置されている。素子基板の短辺近傍には接続端子905が配置されている。接続端子905とインク供給口604との間にはシフトレジスタ(S/R)903、デコーダ904の他、不図示の温度センサなどが配置されている。
【0006】
図18において、803はドライバアレイ901よりも上層に設けられたヒータ駆動用電源配線である。また、804はロジック回路106よりも上層に設けられたグランド配線である。それぞれの配線はヒータ駆動用接続端子801、グランド用接続端子802を通して外部と接続される。
【0007】
ヒータ列内のヒータは、同時に駆動可能な複数ヒータで構成されるブロック毎に駆動のタイミングを、ずらした所謂時分割駆動方式によって駆動される。
【0008】
配列されているどのヒータに対しても配線抵抗をほぼ等しくするために、同時に駆動されないヒータを単位とした駆動のグループごとに電源配線は分割されている。それぞれの配線は、抵抗値がほぼ等しくなるように接続端子からの距離に応じて幅が異なっている。例えば距離が遠く配線の長さが長いほど幅を広くしている。なお、いずれの駆動グループにおいても同時に駆動されるヒータは1つなので、配線抵抗による電圧降下はどこのヒータでもほぼ等しくなる。
【0009】
図18において、素子基板の両側の短辺の近傍に接続端子905が配置されている。これは、接続端子905が素子基板の片側の短辺だけに配置されているとすると、反対側の短辺の方にまで上記の方法で配線していくと配線幅が増大しすぎるためである。そのため図18に示すように電源配線は図中の紙面の上下方向に対称である。すなわち両側の短辺にヒータ駆動用接続端子801とグランド用接続端子802が必要になる。
【0010】
ヒータ駆動用接続端子801とグランド用接続端子802以外の端子は、ヒータ駆動用のイネーブル端子やデータ入力端子、ラッチ端子、クロック端子、ロジック電源端子、温度センサ端子、ランク測定端子などに使用される。
【特許文献1】特開2005−138428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、インクジェット記録装置は記録解像度と記録速度の著しい向上が求められている。そのため、インクジェット記録ヘッド用の素子基板は、ヒータやロジック回路の高密度配置、インク色数を増やすことに対応した吐出口列の増加、ヒータの数そのものを増やすことに対応した長尺化が必要となっている。その結果、素子基板の面積が増大しコストが高くなるという課題があった。
【0012】
図5は、インクジェット記録ヘッドの素子基板の平面図の一例である。図中の吐出口部501に示されるように、同じ色のインクを異なる吐出量で吐出することができるように吐出口径などが異なる複数種類の吐出口が配置されていることがある。
【0013】
吐出口部501を拡大した一例である図6を用いて説明すると、A列の吐出口602は吐出量2plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。また、B列の吐出口601は吐出量2plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。さらに、C列の吐出口603は吐出量1plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。なお、B列とC列はインク供給口604に対して同じ側にあるため、千鳥状に吐出口が配列されており、B列の吐出口とC列の吐出口とで実質的にはA列の二倍の1200dpiの配列密度で吐出口が配列されている。つまり、インク供給口604を挟んで、片側は600dpiの配列密度で吐出口が形成されており、もう一方の片側は1200dpiの配列密度で吐出口が形成されている。
【0014】
また、図10は、図5の吐出口部501の素子基板を模式的に示した図である。A列の吐出口602に対応するヒータ104、インク供給口604を挟んでB列の吐出口601に対応するヒータ103、C列の吐出口603に対応するヒータ105が、それぞれ図のように配置されている。また、101はヒータ103に対応するドライバ、102はヒータ104に対応するドライバ、107はヒータ105に対応するドライバを表している。また、106はロジック回路を表している。ドライバ102で構成されるドライバアレイは600dpiの配列密度で各ドライバが配列されており、ドライバ101とドライバ107で構成されるドライバアレイは1200dpiの配列密度で各ドライバが配列されている。
【0015】
ここでは、上記のように同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらの吐出口列に対応するそれぞれのドライバアレイにおいて、それらのドライバアレイを形成する各ドライバが異なる配列密度で形成されている場合についての課題を述べる。なお、ドライバとしてトランジスタが用いられていることを前提としている。
【0016】
図11は、図10に示す回路上に絶縁膜を挟んで重ねて配置されるヒータ駆動用電源配線803、グランド配線804の配置を示している。
【0017】
ヒータ103とヒータ104は同じ2plのインク滴を吐出するので、吐出量や吐出速度などの吐出特性を揃えるためには駆動条件を同一にすることが望ましい。すなわち、ヒータを駆動する期間を規定する同じヒートイネーブル信号を用いて同一パルスで駆動することが望ましい。
【0018】
また、素子基板の小型化のためにもヒートイネーブル信号端子が少ないことが望ましい。また、ヒートイネーブル信号が少ないと、記録装置本体が多くのパルステーブルを持つ必要がないためコストの点でも有利である。
【0019】
吐出量や吐出速度などの吐出特性を揃え、ヒートイネーブル信号を共通にするためには、ヒータサイズを同一にし、さらに、ドライバのオン抵抗と配線抵抗を揃えることが望ましい。図10において、ドライバ101とドライバ102は、ドライバの配列方向の長さ及びこれと垂直方向の長さ(L1)が共に等しく、同一のサイズになっている。このためオン抵抗は等しく、図11におけるヒータ駆動用電源配線803とグランド配線804は、ヒータ103とヒータ104いずれに対しても同一寸法で配線抵抗が等しい。したがって、この場合はヒータ103とヒータ104は同一のヒートイネーブル信号で駆動することができて吐出特性も同一となる。
【0020】
しかし、図10のドライバ102を見ると分かるように、従来600dpi配列にも関わらず1200dpiのヒータ列に合わせた形状で配置しているため隣り合うドライバの間に隙間があって配置効率が良くないことがわかる。すなわちチップサイズが無駄に大きくなっている。
【0021】
図12及び図13は、図10及び図11と同様の模式図であるが、ドライバの配置効率を改善するための例である。
【0022】
ドライバ102は図10と同様に600dpi配列である。1200dpi配列のドライバ101とオン抵抗をそろえるため、ドライバ102を面積は同一のままヒータの配列方向と垂直方向の長さを半分にして無駄なスペースが生じないようにしている。
【0023】
この場合、図11で示されるとおり、各ドライバの外側はグランド配線804と接続する必要があるため、ヒータ駆動用電源配線803はドライバ102に合わせて配線幅が狭くなる。その結果、ドライバ101及びドライバ107の上側の領域は十分スペースがあるにも関わらず、ドライバ101の配線抵抗をドライバ102の配線抵抗と同一にして吐出特性を揃えるために配線幅が狭くなっている。
【0024】
つまり、この場合、ドライバの配置効率は改善されて素子基板を小型化することはできるが、配線抵抗が高くなって電気効率は低下する。
【0025】
このように、同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらのドライバアレイを形成する各トランジスタが異なる配列密度で形成されている場合、素子基板の小型化と電気効率を両立させることは難しかった。
【0026】
そこで、本発明の目的は、同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらのドライバアレイを形成する各トランジスタが異なる配列密度で形成されている場合、素子基板の小型化と電気効率を両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するための本発明は、それぞれ同一のインク吐出量でインクを吐出する複数の吐出口からなる第1の吐出口列及び第2の吐出口列と、前記第1の吐出口列に対応し、前記第1の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第1のドライバアレイと、前記第2の吐出口列に対応し、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第2のドライバアレイと、前記第1のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線と、前記第2のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線とを備え、前記第1のドライバアレイは前記第2のドライバアレイよりトランジスタの配列密度が低い多層構造の素子基板であって、
前記第1のドライバアレイのトランジスタの面積は前記第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きく、
前記第1の電源配線の幅は前記第2の電源配線の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0028】
また、上記課題を解決するための別の本発明は、前記素子基板を有することを特徴とする記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、記録装置である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、低密度で配列されたドライバの面積を高密度で配列されたドライバよりも大きく取ることによって、低密度で配列されたドライバのオン抵抗が高密度で配列されたドライバよりも下がる。低密度で配列されたドライバに対応する吐出口列と高密度で配列されたドライバに対応する吐出口列との駆動条件を揃えるためには、低密度で配列されたドライバの配線抵抗を高密度で配列されたドライバの配線抵抗よりも高くすることになる。すなわち、低密度で配列されたドライバのヒータ駆動用電源配線の幅を狭くすることができるので、電気効率を低下することなく、素子基板を効率的に小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【0031】
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0032】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0033】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0034】
なお、説明に用いる「素子基板」とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた基体を示すものである。
【0035】
「素子基板上」とは、単に素子基板の表面上を指し示すだけでなく、素子基板の表面上、表面近傍の素子基体内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み」とは、別体の各素子を単に基体上に配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子基板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0036】
まず、インクジェット記録装置の概略を説明する。
【0037】
図8は、本発明が適用できるインクジェット記録装置の概観図である。同図において、キャリッジHCは、記録ヘッド1708とインクを収容したインクタンクITとを内蔵した一体型のヘッドカートリッジが搭載しており、矢印a、矢印b方向を往復移動する。この往復の移動中に記録ヘッドからはインクが吐出され記録がなされる。
【0038】
次に、上述したインクジェット記録装置の記録制御を実行するための制御構成について、図9に示すブロック図を参照して説明する。制御回路を示す同図において、1700は記録信号をホストコンピュータなどから入力するインタフェース、1701はMPU、1702はMPU1701が実行する制御プログラムを格納するROMである。また、1703は各種データ(上記記録信号や記録ヘッド1708に供給される記録データ等)を保存しておくDRAMである。1704は記録ヘッド1708に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイ(G.A.)であり、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。1710は記録ヘッドを搬送するためのキャリアモータ、1709は記録媒体搬送のための搬送モータである。1706は、搬送モータ1709を駆動するためのモータドライバ、1707は、キャリアモータ1710を駆動するためのモータドライバである。また、1708は記録ヘッド、403は記録ヘッド用の素子基板である。
【0039】
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間で記録信号がプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ1706、モータドライバ1707が駆動されると共に、記録データに従って、記録ヘッド1708及びその素子基板403が駆動され、記録が行われる。
【0040】
次に、記録ヘッドについて説明する。
【0041】
図4は、複数のヒータを形成した素子基板403をTAB401に実装した状態を表す図である。TAB401の一方にはインクジェット記録装置本体と接続をするためのコンタクト端子402が配置されており、反対側にはインナーリードを介して素子基板403が接続されている。
【0042】
図5は、図4の404で示される部分を拡大した図である。TAB401のデバイスホールにはインナーリード503、504が突出している。インナーリード503、504はギャングボンディングによって接続端子と電気接合している。
【0043】
図7は、記録ヘッドの完成形態を表している。図4のTAB401をインクタンクITに接合している。また、デバイスホールに突出したインナーリード部を封止剤702で封止している。また、TAB401を折り曲げてコンタクト端子402をインクタンクITの壁面に密着させて固定する。なお、図7では素子基板が上側になっている状態を表しているが、インクジェット記録装置に装着される際は素子基板が下側になる。
【実施例1】
【0044】
図1から図3を用いて、本実施例の素子基板と記録ヘッドについて説明する。
【0045】
図1は、本実施例の素子基板のヒータ103、104、105、及びドライバ101、102、107、並びにロジック回路106を示す模式図である。
【0046】
素子基板の中央にはインク供給口604がある。それを挟んで、ヒータ104のヒータ列とドライバ102のドライバアレイ、及びヒータ104のヒータ列とヒータ105のヒータ列とドライバ101、107のドライバアレイがそれぞれ近接して配置されている。なお、各ドライバはトランジスタである。各ヒータ列は600dpiの配列密度(ピッチ)で512個のヒータを配列し、ヒータ103とヒータ105とは千鳥配置されている。また、ヒータ104に対応するドライバ102のドライバアレイは600dpiのピッチで512個のドライバが配列されている。一方、ヒータ103に対応するドライバ101とヒータ105に対応するドライバ107とからなるドライバアレイは、1200dpiのピッチで1024個のドライバが配列されている。
【0047】
なお、ヒータ103とヒータ104は同一のインク吐出量でインクを吐出するために面積及び形状が等しくなっている。
【0048】
図1で示した各ヒータ列に対応する吐出口を図6に示す。ヒータ103は吐出口601に、ヒータ104は吐出口602に対応しており、それぞれの吐出口からの吐出量は2plである。ヒータ105は吐出口603に対応しており、吐出量は1plである。なお、吐出口602の吐出口列は第1の吐出口列を、吐出口601の吐出口列は第2の吐出口列を、吐出口603の吐出口列は第3の吐出口列を構成している。また、ドライバ102のドライバアレイは第1のドライバアレイを、ドライバ101、107のドライバアレイは第2のドライバアレイを構成している。
【0049】
図2は、本実施例の素子基板の電源配線などを示す模式図である。
【0050】
図3は、図1のドライバ及びロジック回路の上に図2の電源配線を重ね合わせた模式図である。ドライバ102のドライバアレイ、及びドライバ101とドライバ107とからなるドライバアレイの上側にはそれぞれヒータ駆動用電源配線803a及び803bが配置され、ロジック回路106の上側にはグランド配線804が配置されている。本発明の素子基板は、このような多層構造の素子基板である。なお、ヒータ駆動用電源配線803aは第1の電源配線を、ヒータ駆動用電源配線803bは第2の電源配線を構成している。
【0051】
図1において、ドライバ101とドライバ102は同じ2plの吐出量のヒータを駆動するためのものなので本来は面積を等しくしてオン抵抗を揃えるべきである。しかしここではドライバ101の面積をS1、ドライバ102の面積をS2とすると、S2>S1であり、ドライバ102の面積をドライバ101の面積より大きくしている。ドライバ101は1200dpiで配列されており、ドライバ102は600dpiで配列されているので、ヒータの配列方向と垂直方向の各ドライバの寸法L1及びL2の関係は、L2>L1/2となっている。
【0052】
その結果、ドライバ102のオン抵抗R102はドライバ101のオン抵抗R101よりも小さくなるので、駆動条件を揃えるためにはドライバ102の配線抵抗をドライバ101の配線抵抗より大きくする必要がある。図2において、ドライバ102の上側のヒータ駆動用電源配線803aは、ドライバ101とドライバ107の上側のヒータ駆動用電源配線803bよりも幅が狭くなっている。それぞれのヒータ駆動用電源配線に対応する配線抵抗R803a及びR803bは、以下のような関係になっている。
R102+R803a=R101+R803b
具体的に本実施例における寸法関係を示す。L1=200μm、L2=120μm、R101=40Ω、R102=33.3Ω、R803b=10Ωとする。ドライバ102のオン抵抗とドライバ101のオン抵抗は6.7Ω異なるので、この関係を満たすためにはR803a=16.7Ωとすればよい。
【0053】
L1はほぼ803bの配線幅に等しいと考えて803bの配線幅全体を200μmとする。これから803aの配線幅を求めると、200μm×16.7Ω/10Ω≒120μmとなり、ほぼL2の幅と等しくなってドライバ上を無駄なく配線領域として使うことができる。
【0054】
素子基板をこのような構成にすることよって、吐出量の等しいヒータ103とヒータ104とを同一の駆動条件で駆動することができる。
【0055】
また、図10に示される従来例と比較すると、600dpiで配列されているドライバ102の寸法を小さくできている。
【0056】
さらに、図12及び図13に示される従来例と比較すると、ドライバ102の寸法は従来例のほうが小さいが、配線抵抗とオン抵抗との和は従来例よりも小さく抑えることができて電気効率が良い。
【実施例2】
【0057】
次に、図14から図17を用いて、本実施例の素子基板と記録ヘッドについて説明する。
【0058】
図14は、図5の吐出口部501、すなわちシアンインクを吐出する各吐出口列の拡大図であり、図15は、図5の吐出口部502、すなわちイエローインクを吐出する各吐出口列の拡大図である。
【0059】
本実施例の各吐出口からのインク滴の吐出量は実施例1の各吐出口からのインク滴の吐出量と異なっている。図14において、吐出口612は5plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口611は2plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口613は1plのインク滴を吐出する吐出口である。なお、ヒータ114は吐出口612に対応するヒータであり、ヒータ113は吐出口611に対応するヒータであり、ヒータ115は吐出口613に対応するヒータである。また、図15において、吐出口622は5plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口621は2plのインク滴を吐出する吐出口である。なお、ヒータ124は吐出口622に対応するヒータであり、ヒータ123は吐出口621に対応するヒータである。
【0060】
図14に示すA列と図15に示すB列は、インクの色は異なるが同一体積のインクを吐出する。そのため実施例1と同様に駆動条件を同一にすることが望ましい。
【0061】
図16は図14のドライバ及びロジック回路を表す図であり、図17は図15のドライバ及びロジック回路を表す図である。
【0062】
同じ2plの吐出量でインク滴を吐出するヒータ113とヒータ123は、実施例1で使用したヒータ103及びヒータ104と同じサイズである。また、ヒータ113に対応するドライバ111は、実施例1で使用したヒータ103に対応するドライバ101と同じサイズであり、ヒータ123に対応するドライバ122は、実施例1で使用したヒータ104に対応するドライバ102と同じサイズである。さらに、不図示であるが、本実施例のそれぞれのヒータの電源配線のサイズも、対応する実施例1のヒータの電源配線のサイズと同じである。このような構成とすることで、吐出量の等しいヒータ113とヒータ123とを同一の駆動条件で駆動することができる。
【0063】
なお、吐出口621の吐出口列は第1の吐出口列を、吐出口611の吐出口列は第2の吐出口列を、吐出口613の吐出口列は第3の吐出口列を構成している。また、ドライバ122のドライバアレイは第1のドライバアレイを、ドライバ111とヒータ115に対応するドライバとのドライバアレイは第2のドライバアレイを構成している。
【0064】
また、ドライバの寸法を小さくしながら、配線抵抗とオン抵抗との和を小さく抑えることにより電気効率を良くすることができる効果も実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図2】本発明の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図3】図1と図2を重ね合わせた模式図である。
【図4】本発明の素子基板をTABに実装した状態を表す図である。
【図5】素子基板の拡大図である。
【図6】吐出口部の拡大図である。
【図7】記録ヘッド全体を表す図である。
【図8】インクジェット記録装置の概略図である。
【図9】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図10】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図11】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図12】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図13】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図14】吐出口部の拡大図である。
【図15】吐出口部の拡大図である。
【図16】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図17】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図18】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図19】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【符号の説明】
【0066】
102 ドライバ
101 ドライバ
111 ドライバ
122 ドライバ
601 吐出口
602 吐出口
611 吐出口
621 吐出口
803 ヒータ駆動用電源配線
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド用の素子基板、前記素子基板を使用した記録ヘッド、前記記録ヘッドを有するヘッドカートリッジ及び前記記録ヘッドまたは前記ヘッドカートリッジを有する記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット方式の記録装置に搭載される記録ヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)とその駆動回路及び配線は、半導体プロセス技術を用いて同一基板上に形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図18及び図19は、従来のインクジェット記録ヘッド用の素子基板の一例を表す模式図である。
【0004】
図18と図19は、同じ素子基板の一部を特徴的に表している。図18はヒータ駆動用電源配線とグランド配線を主に示しており、図19はそれらの配線の下にあるヒータドライバやロジック配線及びロジック回路を主に示している。
【0005】
まず図19から各構成の配置を説明すると、素子基板の中央にはインク供給口604があり、それを挟んで両側にヒータ列807が配列されている。各ヒータに対応してこの素子基板上にインク流路とインクを吐出するための吐出口が設けられており、これらに先のインク供給口604を介してインクが供給される。ヒータ列807の外側にはヒータを駆動するためのドライバアレイ901が配置されており、その外側にはロジック回路用配線及びロジック回路106が配置されている。素子基板の短辺近傍には接続端子905が配置されている。接続端子905とインク供給口604との間にはシフトレジスタ(S/R)903、デコーダ904の他、不図示の温度センサなどが配置されている。
【0006】
図18において、803はドライバアレイ901よりも上層に設けられたヒータ駆動用電源配線である。また、804はロジック回路106よりも上層に設けられたグランド配線である。それぞれの配線はヒータ駆動用接続端子801、グランド用接続端子802を通して外部と接続される。
【0007】
ヒータ列内のヒータは、同時に駆動可能な複数ヒータで構成されるブロック毎に駆動のタイミングを、ずらした所謂時分割駆動方式によって駆動される。
【0008】
配列されているどのヒータに対しても配線抵抗をほぼ等しくするために、同時に駆動されないヒータを単位とした駆動のグループごとに電源配線は分割されている。それぞれの配線は、抵抗値がほぼ等しくなるように接続端子からの距離に応じて幅が異なっている。例えば距離が遠く配線の長さが長いほど幅を広くしている。なお、いずれの駆動グループにおいても同時に駆動されるヒータは1つなので、配線抵抗による電圧降下はどこのヒータでもほぼ等しくなる。
【0009】
図18において、素子基板の両側の短辺の近傍に接続端子905が配置されている。これは、接続端子905が素子基板の片側の短辺だけに配置されているとすると、反対側の短辺の方にまで上記の方法で配線していくと配線幅が増大しすぎるためである。そのため図18に示すように電源配線は図中の紙面の上下方向に対称である。すなわち両側の短辺にヒータ駆動用接続端子801とグランド用接続端子802が必要になる。
【0010】
ヒータ駆動用接続端子801とグランド用接続端子802以外の端子は、ヒータ駆動用のイネーブル端子やデータ入力端子、ラッチ端子、クロック端子、ロジック電源端子、温度センサ端子、ランク測定端子などに使用される。
【特許文献1】特開2005−138428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、インクジェット記録装置は記録解像度と記録速度の著しい向上が求められている。そのため、インクジェット記録ヘッド用の素子基板は、ヒータやロジック回路の高密度配置、インク色数を増やすことに対応した吐出口列の増加、ヒータの数そのものを増やすことに対応した長尺化が必要となっている。その結果、素子基板の面積が増大しコストが高くなるという課題があった。
【0012】
図5は、インクジェット記録ヘッドの素子基板の平面図の一例である。図中の吐出口部501に示されるように、同じ色のインクを異なる吐出量で吐出することができるように吐出口径などが異なる複数種類の吐出口が配置されていることがある。
【0013】
吐出口部501を拡大した一例である図6を用いて説明すると、A列の吐出口602は吐出量2plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。また、B列の吐出口601は吐出量2plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。さらに、C列の吐出口603は吐出量1plの吐出口であり、配列密度は600dpiである。なお、B列とC列はインク供給口604に対して同じ側にあるため、千鳥状に吐出口が配列されており、B列の吐出口とC列の吐出口とで実質的にはA列の二倍の1200dpiの配列密度で吐出口が配列されている。つまり、インク供給口604を挟んで、片側は600dpiの配列密度で吐出口が形成されており、もう一方の片側は1200dpiの配列密度で吐出口が形成されている。
【0014】
また、図10は、図5の吐出口部501の素子基板を模式的に示した図である。A列の吐出口602に対応するヒータ104、インク供給口604を挟んでB列の吐出口601に対応するヒータ103、C列の吐出口603に対応するヒータ105が、それぞれ図のように配置されている。また、101はヒータ103に対応するドライバ、102はヒータ104に対応するドライバ、107はヒータ105に対応するドライバを表している。また、106はロジック回路を表している。ドライバ102で構成されるドライバアレイは600dpiの配列密度で各ドライバが配列されており、ドライバ101とドライバ107で構成されるドライバアレイは1200dpiの配列密度で各ドライバが配列されている。
【0015】
ここでは、上記のように同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらの吐出口列に対応するそれぞれのドライバアレイにおいて、それらのドライバアレイを形成する各ドライバが異なる配列密度で形成されている場合についての課題を述べる。なお、ドライバとしてトランジスタが用いられていることを前提としている。
【0016】
図11は、図10に示す回路上に絶縁膜を挟んで重ねて配置されるヒータ駆動用電源配線803、グランド配線804の配置を示している。
【0017】
ヒータ103とヒータ104は同じ2plのインク滴を吐出するので、吐出量や吐出速度などの吐出特性を揃えるためには駆動条件を同一にすることが望ましい。すなわち、ヒータを駆動する期間を規定する同じヒートイネーブル信号を用いて同一パルスで駆動することが望ましい。
【0018】
また、素子基板の小型化のためにもヒートイネーブル信号端子が少ないことが望ましい。また、ヒートイネーブル信号が少ないと、記録装置本体が多くのパルステーブルを持つ必要がないためコストの点でも有利である。
【0019】
吐出量や吐出速度などの吐出特性を揃え、ヒートイネーブル信号を共通にするためには、ヒータサイズを同一にし、さらに、ドライバのオン抵抗と配線抵抗を揃えることが望ましい。図10において、ドライバ101とドライバ102は、ドライバの配列方向の長さ及びこれと垂直方向の長さ(L1)が共に等しく、同一のサイズになっている。このためオン抵抗は等しく、図11におけるヒータ駆動用電源配線803とグランド配線804は、ヒータ103とヒータ104いずれに対しても同一寸法で配線抵抗が等しい。したがって、この場合はヒータ103とヒータ104は同一のヒートイネーブル信号で駆動することができて吐出特性も同一となる。
【0020】
しかし、図10のドライバ102を見ると分かるように、従来600dpi配列にも関わらず1200dpiのヒータ列に合わせた形状で配置しているため隣り合うドライバの間に隙間があって配置効率が良くないことがわかる。すなわちチップサイズが無駄に大きくなっている。
【0021】
図12及び図13は、図10及び図11と同様の模式図であるが、ドライバの配置効率を改善するための例である。
【0022】
ドライバ102は図10と同様に600dpi配列である。1200dpi配列のドライバ101とオン抵抗をそろえるため、ドライバ102を面積は同一のままヒータの配列方向と垂直方向の長さを半分にして無駄なスペースが生じないようにしている。
【0023】
この場合、図11で示されるとおり、各ドライバの外側はグランド配線804と接続する必要があるため、ヒータ駆動用電源配線803はドライバ102に合わせて配線幅が狭くなる。その結果、ドライバ101及びドライバ107の上側の領域は十分スペースがあるにも関わらず、ドライバ101の配線抵抗をドライバ102の配線抵抗と同一にして吐出特性を揃えるために配線幅が狭くなっている。
【0024】
つまり、この場合、ドライバの配置効率は改善されて素子基板を小型化することはできるが、配線抵抗が高くなって電気効率は低下する。
【0025】
このように、同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらのドライバアレイを形成する各トランジスタが異なる配列密度で形成されている場合、素子基板の小型化と電気効率を両立させることは難しかった。
【0026】
そこで、本発明の目的は、同一の素子基板上に同一吐出量の吐出口列が複数有り、これらのドライバアレイを形成する各トランジスタが異なる配列密度で形成されている場合、素子基板の小型化と電気効率を両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するための本発明は、それぞれ同一のインク吐出量でインクを吐出する複数の吐出口からなる第1の吐出口列及び第2の吐出口列と、前記第1の吐出口列に対応し、前記第1の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第1のドライバアレイと、前記第2の吐出口列に対応し、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第2のドライバアレイと、前記第1のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線と、前記第2のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線とを備え、前記第1のドライバアレイは前記第2のドライバアレイよりトランジスタの配列密度が低い多層構造の素子基板であって、
前記第1のドライバアレイのトランジスタの面積は前記第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きく、
前記第1の電源配線の幅は前記第2の電源配線の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0028】
また、上記課題を解決するための別の本発明は、前記素子基板を有することを特徴とする記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、記録装置である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、低密度で配列されたドライバの面積を高密度で配列されたドライバよりも大きく取ることによって、低密度で配列されたドライバのオン抵抗が高密度で配列されたドライバよりも下がる。低密度で配列されたドライバに対応する吐出口列と高密度で配列されたドライバに対応する吐出口列との駆動条件を揃えるためには、低密度で配列されたドライバの配線抵抗を高密度で配列されたドライバの配線抵抗よりも高くすることになる。すなわち、低密度で配列されたドライバのヒータ駆動用電源配線の幅を狭くすることができるので、電気効率を低下することなく、素子基板を効率的に小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【0031】
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0032】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0033】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0034】
なお、説明に用いる「素子基板」とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた基体を示すものである。
【0035】
「素子基板上」とは、単に素子基板の表面上を指し示すだけでなく、素子基板の表面上、表面近傍の素子基体内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み」とは、別体の各素子を単に基体上に配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子基板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0036】
まず、インクジェット記録装置の概略を説明する。
【0037】
図8は、本発明が適用できるインクジェット記録装置の概観図である。同図において、キャリッジHCは、記録ヘッド1708とインクを収容したインクタンクITとを内蔵した一体型のヘッドカートリッジが搭載しており、矢印a、矢印b方向を往復移動する。この往復の移動中に記録ヘッドからはインクが吐出され記録がなされる。
【0038】
次に、上述したインクジェット記録装置の記録制御を実行するための制御構成について、図9に示すブロック図を参照して説明する。制御回路を示す同図において、1700は記録信号をホストコンピュータなどから入力するインタフェース、1701はMPU、1702はMPU1701が実行する制御プログラムを格納するROMである。また、1703は各種データ(上記記録信号や記録ヘッド1708に供給される記録データ等)を保存しておくDRAMである。1704は記録ヘッド1708に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイ(G.A.)であり、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。1710は記録ヘッドを搬送するためのキャリアモータ、1709は記録媒体搬送のための搬送モータである。1706は、搬送モータ1709を駆動するためのモータドライバ、1707は、キャリアモータ1710を駆動するためのモータドライバである。また、1708は記録ヘッド、403は記録ヘッド用の素子基板である。
【0039】
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間で記録信号がプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ1706、モータドライバ1707が駆動されると共に、記録データに従って、記録ヘッド1708及びその素子基板403が駆動され、記録が行われる。
【0040】
次に、記録ヘッドについて説明する。
【0041】
図4は、複数のヒータを形成した素子基板403をTAB401に実装した状態を表す図である。TAB401の一方にはインクジェット記録装置本体と接続をするためのコンタクト端子402が配置されており、反対側にはインナーリードを介して素子基板403が接続されている。
【0042】
図5は、図4の404で示される部分を拡大した図である。TAB401のデバイスホールにはインナーリード503、504が突出している。インナーリード503、504はギャングボンディングによって接続端子と電気接合している。
【0043】
図7は、記録ヘッドの完成形態を表している。図4のTAB401をインクタンクITに接合している。また、デバイスホールに突出したインナーリード部を封止剤702で封止している。また、TAB401を折り曲げてコンタクト端子402をインクタンクITの壁面に密着させて固定する。なお、図7では素子基板が上側になっている状態を表しているが、インクジェット記録装置に装着される際は素子基板が下側になる。
【実施例1】
【0044】
図1から図3を用いて、本実施例の素子基板と記録ヘッドについて説明する。
【0045】
図1は、本実施例の素子基板のヒータ103、104、105、及びドライバ101、102、107、並びにロジック回路106を示す模式図である。
【0046】
素子基板の中央にはインク供給口604がある。それを挟んで、ヒータ104のヒータ列とドライバ102のドライバアレイ、及びヒータ104のヒータ列とヒータ105のヒータ列とドライバ101、107のドライバアレイがそれぞれ近接して配置されている。なお、各ドライバはトランジスタである。各ヒータ列は600dpiの配列密度(ピッチ)で512個のヒータを配列し、ヒータ103とヒータ105とは千鳥配置されている。また、ヒータ104に対応するドライバ102のドライバアレイは600dpiのピッチで512個のドライバが配列されている。一方、ヒータ103に対応するドライバ101とヒータ105に対応するドライバ107とからなるドライバアレイは、1200dpiのピッチで1024個のドライバが配列されている。
【0047】
なお、ヒータ103とヒータ104は同一のインク吐出量でインクを吐出するために面積及び形状が等しくなっている。
【0048】
図1で示した各ヒータ列に対応する吐出口を図6に示す。ヒータ103は吐出口601に、ヒータ104は吐出口602に対応しており、それぞれの吐出口からの吐出量は2plである。ヒータ105は吐出口603に対応しており、吐出量は1plである。なお、吐出口602の吐出口列は第1の吐出口列を、吐出口601の吐出口列は第2の吐出口列を、吐出口603の吐出口列は第3の吐出口列を構成している。また、ドライバ102のドライバアレイは第1のドライバアレイを、ドライバ101、107のドライバアレイは第2のドライバアレイを構成している。
【0049】
図2は、本実施例の素子基板の電源配線などを示す模式図である。
【0050】
図3は、図1のドライバ及びロジック回路の上に図2の電源配線を重ね合わせた模式図である。ドライバ102のドライバアレイ、及びドライバ101とドライバ107とからなるドライバアレイの上側にはそれぞれヒータ駆動用電源配線803a及び803bが配置され、ロジック回路106の上側にはグランド配線804が配置されている。本発明の素子基板は、このような多層構造の素子基板である。なお、ヒータ駆動用電源配線803aは第1の電源配線を、ヒータ駆動用電源配線803bは第2の電源配線を構成している。
【0051】
図1において、ドライバ101とドライバ102は同じ2plの吐出量のヒータを駆動するためのものなので本来は面積を等しくしてオン抵抗を揃えるべきである。しかしここではドライバ101の面積をS1、ドライバ102の面積をS2とすると、S2>S1であり、ドライバ102の面積をドライバ101の面積より大きくしている。ドライバ101は1200dpiで配列されており、ドライバ102は600dpiで配列されているので、ヒータの配列方向と垂直方向の各ドライバの寸法L1及びL2の関係は、L2>L1/2となっている。
【0052】
その結果、ドライバ102のオン抵抗R102はドライバ101のオン抵抗R101よりも小さくなるので、駆動条件を揃えるためにはドライバ102の配線抵抗をドライバ101の配線抵抗より大きくする必要がある。図2において、ドライバ102の上側のヒータ駆動用電源配線803aは、ドライバ101とドライバ107の上側のヒータ駆動用電源配線803bよりも幅が狭くなっている。それぞれのヒータ駆動用電源配線に対応する配線抵抗R803a及びR803bは、以下のような関係になっている。
R102+R803a=R101+R803b
具体的に本実施例における寸法関係を示す。L1=200μm、L2=120μm、R101=40Ω、R102=33.3Ω、R803b=10Ωとする。ドライバ102のオン抵抗とドライバ101のオン抵抗は6.7Ω異なるので、この関係を満たすためにはR803a=16.7Ωとすればよい。
【0053】
L1はほぼ803bの配線幅に等しいと考えて803bの配線幅全体を200μmとする。これから803aの配線幅を求めると、200μm×16.7Ω/10Ω≒120μmとなり、ほぼL2の幅と等しくなってドライバ上を無駄なく配線領域として使うことができる。
【0054】
素子基板をこのような構成にすることよって、吐出量の等しいヒータ103とヒータ104とを同一の駆動条件で駆動することができる。
【0055】
また、図10に示される従来例と比較すると、600dpiで配列されているドライバ102の寸法を小さくできている。
【0056】
さらに、図12及び図13に示される従来例と比較すると、ドライバ102の寸法は従来例のほうが小さいが、配線抵抗とオン抵抗との和は従来例よりも小さく抑えることができて電気効率が良い。
【実施例2】
【0057】
次に、図14から図17を用いて、本実施例の素子基板と記録ヘッドについて説明する。
【0058】
図14は、図5の吐出口部501、すなわちシアンインクを吐出する各吐出口列の拡大図であり、図15は、図5の吐出口部502、すなわちイエローインクを吐出する各吐出口列の拡大図である。
【0059】
本実施例の各吐出口からのインク滴の吐出量は実施例1の各吐出口からのインク滴の吐出量と異なっている。図14において、吐出口612は5plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口611は2plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口613は1plのインク滴を吐出する吐出口である。なお、ヒータ114は吐出口612に対応するヒータであり、ヒータ113は吐出口611に対応するヒータであり、ヒータ115は吐出口613に対応するヒータである。また、図15において、吐出口622は5plのインク滴を吐出する吐出口、吐出口621は2plのインク滴を吐出する吐出口である。なお、ヒータ124は吐出口622に対応するヒータであり、ヒータ123は吐出口621に対応するヒータである。
【0060】
図14に示すA列と図15に示すB列は、インクの色は異なるが同一体積のインクを吐出する。そのため実施例1と同様に駆動条件を同一にすることが望ましい。
【0061】
図16は図14のドライバ及びロジック回路を表す図であり、図17は図15のドライバ及びロジック回路を表す図である。
【0062】
同じ2plの吐出量でインク滴を吐出するヒータ113とヒータ123は、実施例1で使用したヒータ103及びヒータ104と同じサイズである。また、ヒータ113に対応するドライバ111は、実施例1で使用したヒータ103に対応するドライバ101と同じサイズであり、ヒータ123に対応するドライバ122は、実施例1で使用したヒータ104に対応するドライバ102と同じサイズである。さらに、不図示であるが、本実施例のそれぞれのヒータの電源配線のサイズも、対応する実施例1のヒータの電源配線のサイズと同じである。このような構成とすることで、吐出量の等しいヒータ113とヒータ123とを同一の駆動条件で駆動することができる。
【0063】
なお、吐出口621の吐出口列は第1の吐出口列を、吐出口611の吐出口列は第2の吐出口列を、吐出口613の吐出口列は第3の吐出口列を構成している。また、ドライバ122のドライバアレイは第1のドライバアレイを、ドライバ111とヒータ115に対応するドライバとのドライバアレイは第2のドライバアレイを構成している。
【0064】
また、ドライバの寸法を小さくしながら、配線抵抗とオン抵抗との和を小さく抑えることにより電気効率を良くすることができる効果も実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図2】本発明の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図3】図1と図2を重ね合わせた模式図である。
【図4】本発明の素子基板をTABに実装した状態を表す図である。
【図5】素子基板の拡大図である。
【図6】吐出口部の拡大図である。
【図7】記録ヘッド全体を表す図である。
【図8】インクジェット記録装置の概略図である。
【図9】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図10】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図11】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図12】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図13】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図14】吐出口部の拡大図である。
【図15】吐出口部の拡大図である。
【図16】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図17】本発明の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【図18】従来の素子基板の電源配線などを表す図である。
【図19】従来の素子基板のヒータ、ドライバ及びロジック回路を表す図である。
【符号の説明】
【0066】
102 ドライバ
101 ドライバ
111 ドライバ
122 ドライバ
601 吐出口
602 吐出口
611 吐出口
621 吐出口
803 ヒータ駆動用電源配線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ同一のインク吐出量でインクを吐出する複数の吐出口からなる第1の吐出口列及び第2の吐出口列と、前記第1の吐出口列に対応し、前記第1の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第1のドライバアレイと、前記第2の吐出口列に対応し、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第2のドライバアレイと、前記第1のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線と、前記第2のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線とを備え、前記第1のドライバアレイは前記第2のドライバアレイよりトランジスタの配列密度が低い多層構造の素子基板であって、
前記第1のドライバアレイのトランジスタの面積は前記第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きく、
前記第1の電源配線の幅は前記第2の電源配線の幅よりも狭いことを特徴とする素子基板。
【請求項2】
前記第1の吐出口列及び第2の吐出口列とは異なる吐出量のインクを吐出する第3の吐出口列を、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に沿って前記第2の吐出口列に近接してさらに備え、
前記第2のドライバアレイは、前記第2の吐出口列に対応した複数のトランジスタと前記第3の吐出口列に対応した複数のトランジスタとからなることを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
【請求項3】
前記第1のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗は、前記第2のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の素子基板。
【請求項4】
前記第1のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗と前記第1の電源配線の抵抗との和と前記第2のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗と前記第2の電源配線の抵抗との和が同一であることを特徴とする請求項3に記載の素子基板。
【請求項5】
前記第1の吐出口列及び第2の吐出口列の吐出口はそれぞれヒータを有し、
前記第1の吐出口列のヒータと前記第2の吐出口列のヒータとは同一の形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項6】
前記素子基板はインクジェット記録ヘッド用であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の素子基板を有する記録ヘッド。
【請求項8】
請求項7の記録ヘッドと、インクを収容したインクタンクとを有することを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項9】
請求項7に記載の記録ヘッドまたは請求項8に記載のヘッドカートリッジを有することを特徴とする記録装置。
【請求項1】
それぞれ同一のインク吐出量でインクを吐出する複数の吐出口からなる第1の吐出口列及び第2の吐出口列と、前記第1の吐出口列に対応し、前記第1の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第1のドライバアレイと、前記第2の吐出口列に対応し、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に近接して設けられた複数のトランジスタからなる第2のドライバアレイと、前記第1のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第1の吐出口列に対応する第1の電源配線と、前記第2のドライバアレイの領域に対して異なる層に重ねて設けられた前記第2の吐出口列に対応する第2の電源配線とを備え、前記第1のドライバアレイは前記第2のドライバアレイよりトランジスタの配列密度が低い多層構造の素子基板であって、
前記第1のドライバアレイのトランジスタの面積は前記第2のドライバアレイのトランジスタの面積よりも大きく、
前記第1の電源配線の幅は前記第2の電源配線の幅よりも狭いことを特徴とする素子基板。
【請求項2】
前記第1の吐出口列及び第2の吐出口列とは異なる吐出量のインクを吐出する第3の吐出口列を、前記第2の吐出口列の吐出口の配列方向に沿って前記第2の吐出口列に近接してさらに備え、
前記第2のドライバアレイは、前記第2の吐出口列に対応した複数のトランジスタと前記第3の吐出口列に対応した複数のトランジスタとからなることを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
【請求項3】
前記第1のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗は、前記第2のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の素子基板。
【請求項4】
前記第1のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗と前記第1の電源配線の抵抗との和と前記第2のドライバアレイのトランジスタのオン抵抗と前記第2の電源配線の抵抗との和が同一であることを特徴とする請求項3に記載の素子基板。
【請求項5】
前記第1の吐出口列及び第2の吐出口列の吐出口はそれぞれヒータを有し、
前記第1の吐出口列のヒータと前記第2の吐出口列のヒータとは同一の形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項6】
前記素子基板はインクジェット記録ヘッド用であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の素子基板を有する記録ヘッド。
【請求項8】
請求項7の記録ヘッドと、インクを収容したインクタンクとを有することを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項9】
請求項7に記載の記録ヘッドまたは請求項8に記載のヘッドカートリッジを有することを特徴とする記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−101641(P2009−101641A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276756(P2007−276756)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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