説明

紡績機用ドラフト装置

紡績機の長尺のドラフトローラーは、動作時に捩れを受けている。この捩れは、ドラフト装置の停止時に緩む傾向を有し、そのためドラフト装置の再始動時にドラフトを妨げることとなる。これを防止するために、特に、最も大きな捩れを受けているドラフト用ボトムローラー、通常はミドルボトムローラー(3)に、その長さに渡ってほぼ均一に分散配置された複数の保持ブレーキ(8)を配備して、ボトムローラーの停止直前に、その保持ブレーキを操作して、ボトムローラーの捩れが緩むのを防止することを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作時に捩れを受ける長尺のボトムローラーと、ボトムローラーの停止後の捩れの緩みを防止するブレーキとを備えた紡績機用ドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1により、ドラフト装置のデリバリーローラーに、例えば、停止後のデリバリーローラーの戻り回転を防止するためのブレーキを配備することが知られている。そのブレーキは、デリバリーローラーをその駆動モーターと接続する連結器とデリバリーローラーに回転を伝達する歯車伝動機構との間に配置されている。デリバリーローラーに駆動側のブレーキを配備することしか規定していない。
【0003】
特許文献1に記載された発明の課題は、停止中に駆動部をその負荷から切り離して、例えば、スピンドルのような慣性力の大きい動作機関を制動することによって、ドラフト装置を備えた紡績機の惰走を改善することである。そのために、摩擦ブレーキを提案している。例えば、ドラフト装置やドラフト装置の個々のローラーのような動作機関は、その駆動部から切り離すことによって、逆回転する場合が有る。それを防止するために、そのようなドラフトローラーにブレーキを配備するものと規定している。
【0004】
その場合、捩れを緩めたことによる逆回転を防止することには言及していない。今日の機械側に840個のスピンドルを備えた75mmのスピンドルピッチのリング紡績機における62mにまでなる長尺のドラフトローラーでは、一端の一つのブレーキを用いて、機械の停止時に増大する捩れの緩みを十分に防止することもできない。
【0005】
スピンドルピッチの推移を中断させるべきではないドラフト装置の分野では、特に同じ形態のブレーキを配置する必要が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許公開第0392255号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、本発明の課題は、ドラフト装置の全長範囲における動作中に増大した捩れが機械の停止時に緩むことを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、ボトムローラーの中の少なくとも一つ、有利には、動作中に捩れが最も大きく増大するボトムローラーに、ほぼ同じ相互間隔で配置された複数のブレーキを配備することによって解決される。
【0009】
図面には、本発明の実施例を模式的に図示している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】三つの長尺のボトムローラーを備えたドラフト装置の平面図
【図2】ブレーキの側面図
【図3】ブレーキの駆動部
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1により、互いに平行に配置された三つのボトムローラー2,3及び4を備えたドラフト装置1の構成が分かる。ここでは図示されていないトップローラーが、これらのボトムローラーに割り当てられており、ボトムローラーと組み合わせてドラフトローラー対を構成することは明らかである。
【0012】
ドラフト装置1のフロントローラー4は、それだけに割り当てられたモーター5によって駆動されている。ミドルローラー3は、同様に独自のモーター6を備えている。このミドルローラーとは、バックローラー2が、ミドルローラー3とバックローラー2の間で予備ドラフトを交互に切り換えて行うための歯車の減速を調整することが可能な伝動機構7を介して接続されている。
【0013】
ミドルボトムローラー2は、通常固定された糸掛けとエプロンケージを介して案内された、ミドルボトムローラーを付勢するボトムエプロンによって動かされる。それを駆動するには、動作中のミドルボトムローラーに対して、それ以外のボトムローラーと比べて特に大きな捩れを生じさせる大きなトルクが必要である。
【0014】
そのような捩れがドラフト装置の停止時に緩むことを防止するために、ミドルボトムローラー3には、そのローラーに沿った始端領域、中間領域及び終端領域にほぼ同じ相互間隔で分散配置された複数の、図面では三つのブレーキ8が配備されている。
【0015】
これらのブレーキ8は、保持ブレーキとして実現されている、即ち、ローラーを制動する役割ではなく、(ほぼ)停止状態となったローラーを固く保持して、更に回転することを防止する役割を果たす。従って、これらのブレーキは、複式アーム状レバー10で支持された、ボトムローラーを取り囲む二つのブレーキシュー9として実現されている。レバーアームの他端には、ブレーキシューを互いに押し付けることができる作動部品11が繋がれている。
【0016】
ブレーキシュー9は、互いにステープル長間隔で動く二つのドラフトローラーの間に配置することができるように、平らに実現されている。ブレーキは、有利には、その複式アーム状レバー10を連結するボルト12を用いて、ドラフト装置1の位置を固定された支持体13上に配置されている、詳しくは、その作動部品11の操作時に両側から等しくボトムローラー上に載るという意味において浮いた形で配置されている。
【0017】
ここでは、作動部品11は、流体式(空気圧又は油圧式)のシリンダー/ピストンユニットとして構成されている。例えば、電磁式に操作可能とすることもできることは明らかである。
【0018】
ブレーキシュー9は、牽伸部分14又は波状部分が広がるとともに、そのため非常に掴み易くなっている、ボトムローラーの二つの牽伸分野又は波状分野の間の領域を把持する。
【0019】
ボトムローラーに配置された全てのブレーキ8を同時に操作するための信号は、ミドルボトムローラー3のモーター6又はフロントボトムローラー4のモーター5に電力を供給する周波数変換器15から出される。それらのボトムローラーは、供給周波数が下がることによって、それらの間に設定されたドラフト比を維持しつつ、ゼロに向かって速度を低下させて行く。供給周波数が、例えば、5Hz又は3Hzにまで低下した、ドラフトローラーが停止する直前に、周波数変換器15からは、信号配線16を介して、ブレーキ8の作動部品11を作動させるという意味において、流体用コントロールスライダ17を駆動するための停止コマンドが出力される。信号配線16を介して、別のブレーキのその他全てのコントロールスライダも切り換えられる。
【0020】
周波数変換器15が、例えば、3Hzから5Hzの周波数をドラフトローラー3の駆動モーター6に加えるようになる、ドラフト装置の再始動直後には、周波数変換器は、配線16を介してブレーキ8を解除するための信号を出力する。それによって、ボトムローラーは、その捩れを緩める機会を持つこと無く始動することが可能となる。
【0021】
ブレーキの配置は、前述した通り、ミドルボトムローラー3に関して記述、図示されている。例えば、フロントボトムローラー4が捩れを受けており、それが緩むことによって、出来上がった糸の品質が損なわれる可能性が有る場合には、フロントボトムローラーにも、一つ以上のブレーキ8’を配備することができることは明らかである。図1では、二つのブレーキ8’が、フロントボトムローラー4の始端と終端に表示されている。
【符号の説明】
【0022】
1 ドラフト装置
2 バックボトムローラー
3 ミドルボトムローラー
4 フロントボトムローラー
5 モーター
6 モーター
7 伝動機構
8,8’ ブレーキ
9 ブレーキシュー
10 複式アーム状レバー
11 作動部品
12 ボルト
13 支持体
14 牽伸部分/波状部分
15 周波数変換器
16 信号配線
17 コントロールスライダ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作時に捩れを受ける長尺のボトムローラーと、ボトムローラーの停止後の捩れの緩みを防止するブレーキとを備えた紡績機用ドラフト装置において、
複数のブレーキ(8,8’)が、ボトムローラー(3,4)の中の少なくとも一つの長さに渡って、ほぼ同じ相互間隔で分散して配置されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
有利には、ドラフトローラー(3,4)の中の少なくとも一つの始端領域、中間領域及び終端領域に、それぞれ一つのブレーキ(8,8’)が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のドラフト装置。
【請求項3】
ブレーキ(8,8’)が保持ブレーキとして実現されていることを特徴とする請求項1に記載のドラフト装置。
【請求項4】
ブレーキ(8,8’)が、流体により操作可能(空気圧又は油圧式)であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のドラフト装置。
【請求項5】
少なくともブレーキ(8,8’)を配備されたボトムローラー(3,4)は、そのボトムローラーだけに割り当てられた、周波数変換器(15)から電力を供給される少なくとも一つの電気モーター(5,6)によって駆動することが可能であり、その周波数変換器が最低供給周波数に達した場合直ちに、それらのブレーキ(8,8’)が共通して操作されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載のドラフト装置。
【請求項6】
当該の周波数変換器(15)の最低供給周波数が3Hzから5Hzまでの周波数に達した場合に操作されることを特徴とする請求項5に記載のドラフト装置。
【請求項7】
ブレーキ(8,8’)が、ボトムローラー(3,4)の連続的に形成された牽伸領域(14)又は波状領域を把持することを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載のドラフト装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つに記載のドラフト装置を備えたリング紡績機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−540142(P2009−540142A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514691(P2009−514691)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005149
【国際公開番号】WO2007/144133
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(307031976)エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (105)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & CO. KG
【住所又は居所原語表記】Leverkuser Strasse 65, D−42897 Remscheid, Germany
【Fターム(参考)】