説明

紡績機

【課題】良好な省エネルギー性及び耐久性を実現するとともに、生産効率の高い紡績機を提供する。
【解決手段】紡績機において、糸弛み取り装置12の動作を制御する制御部73は、糸弛み取り装置12の作動及び停止を切り換える第1モードと、糸弛み取り装置12を常時作動させる第2モードと、を切換可能である。前記第1モードにおいて、糸弛み取り装置12は少なくとも、紡績装置が紡出した糸を巻取装置で巻取可能にする作業(例えば糸継作業及び玉揚作業)の作業時間において作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸弛み取り装置を備える紡績機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機等の高速紡績機にあっては、紡出された紡績糸をパッケージ側の糸と糸継ぎする糸継作業を行う場合、又は紡績糸を空ボビンに取り付ける玉揚作業を行う場合に、パッケージ側の巻取りを停止させるようにしている。しかしながら巻取停止中においても紡績装置側からは糸が次々に送られてくるため、糸の弛み及び滞留を防止する必要がある。
【0003】
この点に鑑み、特許文献1は、電動モータにより回転駆動される弛み取りローラと、この弛み取りローラに対して相対回転自在な糸掛け部材と、を備える糸弛み取り装置を開示する。この糸弛み取り装置は、糸掛け部材に対する相対回転トルクを磁気的手段により付加しており、糸のテンション変動への追従性に優れている。この構成の糸弛み取り装置は、糸張力の変動を抑える一種のテンション制御装置としても機能させることができる。
【特許文献1】特開2006−306588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紡績機でコーン巻のパッケージを形成する場合は、トラバース位置によってテンションが変動し易いので、前記の糸弛み取り装置によるテンション制御が有効である。しかし、チーズ巻の場合はトラバース位置によるテンションの変動は大きくないため、テンション制御の必要性は少なく、糸の滞留を防止できれば十分である。
【0005】
逆に言えば、上記のように効果が薄い場合でも糸弛み取り装置を稼動させた場合、消費電力の無駄の原因になるとともに、糸掛け部材及び電動モータ等の耐久性が低下することになる。また、弛み取りローラに糸を巻き付かせた状態を維持するように、状況に応じてパッケージ側の巻取りを減速させる必要があり、そのための機構の耐久性も低下する。更に、回転する糸掛け部材には糸が絡み付くことも多く、生産性をかえって低下させる原因となることもある。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、必要時のみ糸弛み取り装置を作動させる紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、この紡績機は、糸を紡出する紡績装置と、紡出された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、弛み取りローラと糸掛け部材とを備える糸弛み取り装置と、前記糸弛み取り装置の動作を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記糸弛み取り装置の作動及び停止を切り換える第1モードと、前記糸弛み取り装置を常時作動させる第2モードと、を切換可能である。前記第1モードにおいて、前記糸弛み取り装置は少なくとも、前記紡績装置が紡出した糸を前記巻取装置で巻取可能にする作業の作業時間において作動する。
【0009】
これにより、必要により第1モードと第2モードを切り換えることができるので、必要時にのみ糸弛み取り装置を作動させて消費エネルギーを節約することができる。また、装置の耐久性が向上し、長寿命になる。また、不必要に糸弛み取り装置を作動させないので、糸弛み取り装置への糸巻き付きの問題も起こりにくくなる。
【0010】
前記の紡績機においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、この紡績機は糸継装置を備える。前記制御部は、前記第1モードの場合に、少なくとも前記糸継装置の糸継作業中において前記糸弛み取り装置を作動させるように制御する。
【0011】
これにより、糸継時に糸弛み取り装置を作動させて、糸の弛みを防止してスムーズに糸継作業を行うことができる。
【0012】
前記の紡績機においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、この紡績機は玉揚装置を備える。前記制御部は、前記第1モードの場合に、少なくとも前記玉揚装置の玉揚作業中において前記糸弛み取り装置を作動させるように制御する。
【0013】
これにより、玉揚時に糸弛み取り装置を作動させて、糸の弛みを防止してスムーズに玉揚作業を行うことができる。
【0014】
前記の紡績機においては、前記巻取装置はチーズ巻のパッケージを形成可能であることが好ましい。
【0015】
即ち、チーズ巻の場合は、常時糸弛み取り装置を作動させる必要はないので、第1モードで運転を行うことにより、省エネルギー性及び耐久性の点で有利になる。
【0016】
前記の紡績機においては、前記巻取装置はコーン巻のパッケージを形成可能であることが好ましい。
【0017】
即ち、コーン巻の場合は、糸弛み取り装置を常時稼動させる第2モードで運転を行うことにより、巻取テンションの変動を防止して高品質なパッケージを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は紡績機の全体的な構成を示した正面図、図2は紡績機の縦断面図である。
【0019】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、玉揚台車4と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0020】
精紡機1の筐体6はレール41及び走行路86を備えており、これらレール41及び走行路86は、紡績ユニット2が並べられる方向に沿って配置される。前記糸継台車3は前記レール41に沿って走行可能に構成され、前記玉揚台車4は前記走行路86に沿って走行可能に構成されている。
【0021】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1の筐体6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0022】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0023】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8から紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0024】
前記糸送り装置11は、精紡機1の筐体6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40と、を備える。この構成で、紡績装置9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んだ状態で、前記デリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置13側へ送り出すことができる。
【0025】
精紡機1の筐体6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下流側の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。
【0026】
前記ユニットコントローラは、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。
【0027】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から排出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0028】
玉揚台車4は玉揚装置61を備え、この玉揚装置61は、クレードル操作アーム90と、サクションパイプ88と、バンチ巻アーム91と、を備えている。玉揚台車4は、ある紡績ユニット2でパッケージ45が満巻になると、前記走行路86上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記クレードル操作アーム90は、巻取装置13のクレードルアーム71(後述)を操作可能に構成されている。サクションパイプ88は伸縮可能に構成されており、紡績装置9から排出される糸端を吸い込みながら補捉して、巻取装置13に装着された空ボビン48へ案内できるように構成されている。バンチ巻アーム91は、空ボビン48に糸を棒巻きすることによって、紡績糸10をボビン48に固定可能に構成されている。
【0029】
ヤーンクリアラ52の更に下流には、糸弛み取り装置12が設けられている。この糸弛み取り装置12は、図3に示すように、弛み取りローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、エアシリンダ24と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、制御部73と、を備えている。
【0030】
弛み取りローラ21は、電動モータ25のモータ軸25aに固定される弛み取りローラ本体42を備えている。この弛み取りローラ本体42の外周面42aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25に接続される側を基端とすると、基端から先端に向かって順に、基端側テーパ部42bと、円筒部42cと、先端側テーパ部42dと、を備えている。基端側テーパ部42b及び先端側テーパ部42dは、それぞれ端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。円筒部42cは、先端側が僅かに細まる形状に構成されるとともに、両側のテーパ部42b,42dに対し段差なく連続する形状になっている。
【0031】
そして糸弛み取り装置12は、前記糸継台車3による糸継作業時及び玉揚台車4による玉揚作業時に、紡績装置9側からの紡績糸10を、弛み取りローラ本体42の外周面42aに糸掛け部材22によって巻き付けるように構成されている。そして、糸継作業又は玉揚作業が終了すると、外周面42aに巻き付けられて貯溜していた紡績糸10を、糸掛け部材22によって巻取装置13へ向けて解舒するように構成されている。なお、紡績糸10の貯溜時においては、糸は弛み取りローラ本体42の基端側から巻き付けられる一方、紡績糸10の解舒時においては、糸は弛み取りローラ本体42の先端側から解舒されていく。
【0032】
弛み取りローラ本体42の外周面42aにおいて、基端側テーパ部42bは、供給された紡績糸10を大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部42cへ到達させることにより、紡績糸10を円筒部42cの表面に整然と巻き付かせるように構成されている。また、先端側テーパ部42dは、解舒の際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保する機能を有している。
【0033】
弛み取りローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3に示すように、前記弛み取りローラ21と同心して配置されるとともに、条件に応じて当該弛み取りローラ21と一体的に又は独立して回転するように構成されている。具体的には、この糸掛け部材22は、弛み取りローラ21に対し相対回転可能に支持されるフライヤー軸33と、その先端に固着されるフライヤー38を備えている。
【0034】
フライヤー軸33又はローラ本体42の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が弛み取りローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。
【0035】
フライヤー38は前記フライヤー軸33と一体的に回転するよう構成されている。また、前記フライヤー38は、前記弛み取りローラ本体42の外周面42aに向かって適宜湾曲する形状に構成されている。これにより、フライヤー38は、紡績糸10と係合して(紡績糸10を引っ掛けて)、当該紡績糸10を弛み取りローラ本体42の外周面へ案内することができる。
【0036】
上流側ガイド23は弛み取りローラ21のやや上流側に配置されるとともに、前記エアシリンダ24によって進出位置及び退避位置の間で移動可能に構成されている。そして、上流側ガイド23が前記進出位置(図3の実線の位置)にあるときは、紡績糸10が糸弛み取り装置12と係合することのないように、その糸道が上流側ガイド23によって保持される。一方、上流側ガイド23を退避位置(図3の鎖線の位置)に移動させたときは、紡績糸10が糸弛み取り装置12の糸掛け部材22と係合して弛み取りローラ21に巻き取られる位置まで、糸道を移動させるように構成されている。
【0037】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0038】
また、前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0039】
なお、図1ではチーズ形状のパッケージを形成する様子が示されているが、本実施形態の精紡機1では、巻取装置13においてコーン形状のパッケージを形成することも可能に構成されている。
【0040】
次に、以上の構成の前記精紡機1の動作について説明する。
【0041】
まず、糸弛み取り装置12の動作について説明する。糸弛み取り装置12は、フライヤー38を紡績糸10に引っ掛け、当該紡績糸10を弛み取りローラ21に巻き付かせることによって、紡績糸10の弛み及び滞留を解消するとともに巻取張力を調整する。
【0042】
前述のとおり、糸掛け部材22は弛み取りローラ21に対して独立に回転可能であり、この回転に抗する向きの抵抗トルクが磁気的手段によって加えられている。また、弛み取りローラ21は電動モータ25によって所定の回転速度で回転している。この構成で、フライヤー38が紡績糸10と係合している場合、糸に掛かるテンションが前記抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、前記糸掛け部材22は弛み取りローラ21と独立に回転して、糸を前記弛み取りローラ21から解舒する。反対に、糸に掛かるテンションが弱ければ、糸掛け部材22は弛み取りローラ21と一体的に回転し、糸を前記弛み取りローラ21に巻き付ける。
【0043】
このように、糸弛み取り装置12は、糸のテンションが下がる(糸が弛みそうになる)と糸を巻き付け、糸のテンションが上がると糸を解舒するように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。
【0044】
また、前記紡績糸10に掛かるテンションは、基本的には、糸送り装置11の糸送り速度(紡績装置9からの紡出速度)及び巻取装置13の巻取速度によって決定される。即ち、糸送り速度よりも巻取速度の方が速ければ糸に掛かるテンションは大きくなり、逆に糸送り速度よりも巻取速度の方が遅ければ糸にかかるテンションは小さくなる。糸送り装置11の糸送り速度(紡出速度)は通常一定であるので、紡績糸10に掛かるテンションは主に巻取装置13の巻取速度によって変化する。
【0045】
ここで、前記巻取装置13でコーン巻のパッケージを巻き取る場合、パッケージの大径側と小径側では巻取速度が異なるので、トラバース装置75によるトラバースによって糸張力が変動することになる。しかしながら、このような糸張力の変動は、糸弛み取り装置12によって良好に緩和することができる。
【0046】
以下、具体的に説明する。即ち、本実施形態の精紡機1でコーン巻のパッケージを巻き取る過程において、当該パッケージの大径側に糸がトラバースされて巻取速度が上がり、糸張力が増大したとする。しかしながら、糸が糸掛け部材22を弛み取りローラ21に対して相対回転させようとするトルクも上記に伴って増大するため、弛み取りローラ21からの紡績糸10の解舒量が増大する。この結果、増加した糸張力を減少させることができる。
【0047】
逆に、パッケージの小径側に糸がトラバースされて巻取速度が下がると、糸張力が減少する。しかしながら、糸から糸掛け部材22に加わるトルクも上記に伴って減少し、紡績糸10の貯留量が増大する。従って、低下した糸張力を回復させることができる。
【0048】
以上のように、糸弛み取り装置12は、コーン巻パッケージの形成時に生じる巻取速度の変動を許容して、巻取テンションを一定化する装置としても機能する。
【0049】
ところで、上記の巻取テンション一定化機能を発揮するためには、弛み取りローラ21に紡績糸10が一定量巻き付いた状態を常に維持する必要がある。このため、本実施形態ではクレードルアーム71を図略の糸貯留量検知手段からの信号によりフィードバック制御している。
【0050】
具体的に説明すると、通常の巻取時には、紡績糸10に適切な巻取張力を付与するため、糸送り装置11の糸送り速度(紡績装置9の紡出速度)よりも巻取速度が若干速くなるように、巻取ドラム72の回転速度が設定されている。従って、弛み取りローラ21に巻き取られていた紡績糸10は徐々に解舒され、糸の貯留量が減少する。
【0051】
弛み取りローラ21の外周面には前記糸貯留量検知手段が配置され、当該検知手段によって糸の貯留量が所定値以下になったことが検知されると、当該紡績ユニット2のユニットコントローラは、図略のクレードルリフタによってクレードルアーム71を図2の左側へ回動させるように制御し、パッケージ45を巻取ドラム72から離間させる。これによりパッケージ45は駆動力を失うので、慣性回転を継続するものの、その巻取速度は徐々に減少する。
【0052】
この結果、弛み取りローラ21の糸の貯留量が回復し、やがて、紡績糸10の貯留量が所定値以上になったことが前記糸貯留量検知手段によって検知される。すると前記ユニットコントローラは、クレードルアーム71を図2の右側へ回動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させる。これにより巻取速度が回復するので、前述のように弛み取りローラ21から紡績糸10が解舒されていく。
【0053】
このように、クレードルリフタによってクレードルアーム71を揺動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に対して接触させたり離間させたりすることにより、巻取速度を調節することができる。そして、弛み取りローラ21の糸貯留量を検知してフィードバックしながら巻取速度の制御を行うことにより、一定量以上の紡績糸10を弛み取りローラ21に貯留した状態を常に維持することができる。
【0054】
一方、例えばチーズ巻のパッケージを形成する場合は、トラバース位置による巻取速度変動は小さいため、上記の巻取テンション一定化機能は必ずしも必要ではない。むしろ、電動モータ25やクレードルリフタの動作に伴う部品寿命の低下、エネルギー消費などを考慮すると、糸弛み取り装置12を常時駆動することは避けたほうが好ましい。また、回転するフライヤー38には糸が絡み付き易く、いったん絡み付きが生じると装置破損の原因となるだけでなく、絡んだ糸がパッケージに混入して品質低下の原因となることもある。従って、この観点からも糸弛み取り装置12を常時駆動することは避けたほうが好ましい。
【0055】
ただし、パッケージ形状がチーズ巻であっても、紡績装置9が紡出を開始してから巻取装置13において巻取りが開始されるまでの間は、糸の弛み及び滞留を防止するために糸弛み取り装置12を作動させる必要がある。このような場合の例としては、糸継時や玉揚時等が挙げられる。
【0056】
そこで、本実施形態の精紡機1の制御部73は、必要に応じて糸弛み取り装置12の作動及び停止を切り換える第1モードと、糸弛み取り装置12を常時作動させる第2モードと、を切換可能に構成されている。本実施形態の精紡機1は、例えばスイッチ及びボタン等からなるモード選択指示部74を備えており、このモード選択指示部74をオペレータが操作することで、制御部73のモードを切り換えることができる。ただし、モードの選択は、パッケージ形状等を判別して自動で行っても良い。
【0057】
前記第1モードにおいては糸弛み取り装置12は、少なくとも巻取準備時間(紡績装置9が紡出を始めてから巻取装置13で巻取りが開始されるまでの間)においては、糸の弛みを取るために作動するが、それ以外の時間は作動しない。一方、第2モードにおいては、糸弛み取り装置12は前記巻取準備時間を含めて常時作動し、糸の巻取テンションを均一化させる。
【0058】
前記第1モードにおいて、本実施形態の精紡機1の制御部73は、糸継時に糸弛み取り装置12を作動させるように制御する。以下、この制御を詳細に説明する。
【0059】
まず、第1モードにおいては、通常の紡績中は、制御部73はエアシリンダ24によって上流側ガイド23を進出位置に移動させ、紡績糸10が糸弛み取り装置と係合しないように糸道を保持させる。また、前記制御部73は、通常の紡績中は、電動モータ25の回転を停止させるように制御する。これにより、省エネルギーかつ長寿命が実現できるとともに、フライヤー38に糸が絡み付きにくくなる。また、クレードルアーム71を揺動することによる巻取速度の調節が必要ないため、この点でも省エネルギーかつ高寿命が実現できる。
【0060】
そして、ある紡績ユニット2において、紡績中に紡績糸10の糸欠陥がヤーンクリアラ52によって検出されたとする。すると、当該紡績ユニット2のユニットコントローラは、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、それとほぼ同時に紡績装置9を停止させ、更に、ドラフト装置7のバックローラ16とサードローラ17の回転を停止させる。繊維束8は、停止したサードローラ17と回転中のミドルローラ19との間で引きちぎられるように切断され、切断箇所より下流の部分の紡績糸10は図略のサクション手段によって吸引除去される。また、制御部73はクレードルリフタによってクレードルアーム71を図2の左側に回動させて、パッケージ45を巻取ドラム72から離し、当該パッケージ45の回転を停止させる。
【0061】
そして、前記ユニットコントローラは、糸継台車3を当該紡績ユニット2に対面する位置にまで走行させる。すると制御部73は、適宜のタイミングで電動モータ25を動作させ、弛み取りローラ21の回転を開始する。
【0062】
次に、紡績ユニット2のユニットコントローラがドラフト装置7及び紡績装置9の駆動が再開されるのとほぼ同じタイミングで、糸継台車3が前記サクションパイプ44を上方へ回動させ、サクションマウス46を下方へ回動させる。そして糸継台車3は、紡績装置9からの糸端をサクションパイプ44で捕捉し、パッケージ45側の糸端をサクションマウス46で捕捉した後、それぞれの糸端をスプライサ43へ案内して糸継ぎを行う。以上の一連の作業により、紡績装置9が紡出した紡績糸10を巻取装置13で巻取可能な状態になる。
【0063】
紡績装置9の駆動再開後、制御部73は、エアシリンダ24によって上流側ガイド23を退避位置まで移動させ、紡績糸10の糸道を、回転しているフライヤー38と係合可能な位置まで移動させる。これにより、回転を継続している弛み取りローラ21に紡績糸10が巻き取られ、糸継作業中の糸の弛み及び滞留を防止する。
【0064】
糸継作業が完了すると、ユニットコントローラはクレードルアーム71を図2の右側に回動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させて、糸の巻取りを再開させる。これにより紡績糸10に巻取張力が付与され、弛み取りローラ21から徐々に紡績糸10が解舒される。
【0065】
紡績糸10が弛み取りローラ21から全て解舒されると、制御部73はエアシリンダ24によって上流側ガイド23を再び進出位置まで移動させ、紡績糸10がフライヤー38と係合しないようにする。また、制御部73は電動モータ25の回転を停止するように制御する。これにより、省エネルギーと糸弛み取り装置12の長寿命化を達成できる。また、紡績糸10がフライヤー38と擦れながら走行して品質を低下させてしまうことを防止できる。
【0066】
なお、上記の糸継作業は、ヤーンクリアラ52が糸欠点を検出してカッタ57で切断する場合のほか、何らかの理由で糸が切れたこと(糸切れ)をヤーンクリアラ52が検出した場合にも行われる。前記第1モードにおける糸弛み取り装置12の制御は、この糸切れの場合でも上述と全く同様に行われる。
【0067】
また、前記第1モードにおいて、本実施形態の精紡機1の制御部73は、玉揚時においても糸弛み取り装置12を作動させるように制御する。以下、この制御について詳細に説明する。
【0068】
ある紡績ユニット2のパッケージ45が満巻となったことが図略のセンサによって検知されると、前記ユニットコントローラは紡績装置9を停止させるとともに、ドラフト装置7のバックローラ16とサードローラ17の回転を停止させる。それとほぼ同時に、巻取装置13においてクレードルアーム71を図2の左側へ回動することにより巻取ドラム72から満巻パッケージ45を離し、回転を停止させる。
【0069】
続いて玉揚台車4を当該紡績ユニット2の前まで走行させると、制御部73は適宜のタイミングで電動モータ25を動作させ、弛み取りローラ21の回転を開始する。
【0070】
玉揚台車4はクレードル操作アーム90によってクレードルアーム71を適宜操作するとともに、図略のパッケージ取外し手段によって満巻パッケージ45をクレードルアーム71から取り外す。取り外された満巻パッケージ45は、玉揚台車4内に形成された傾斜床94を転がった後、溝状に形成されたシェルフ96に落下して静止する。次に、玉揚台車4に備えられた図略の空ボビン供給手段によって、クレードルアーム71に空のボビン48がセットされる。
【0071】
次に、紡績ユニット2のユニットコントローラが、ドラフト装置7及び紡績装置9の駆動を再開する。また、これとほぼ同時に、サクションパイプ88が上方に延伸される。そしてサクションパイプ88は、紡績装置9から排出される紡績糸10の糸端を吸い込むことにより補捉し、その後、糸端を前記空ボビン48の近傍まで案内する。続いて、バンチ巻アーム91によりバンチ巻が行われ、糸端が空ボビン48に取り付けられる。以上の一連の作業により、紡績装置9が紡出した紡績糸10を巻取装置13で巻取可能な状態になる。
【0072】
紡績装置9の駆動再開後、制御部73はエアシリンダ24によって上流側ガイド23を退避位置まで移動させる。これにより、紡績糸10が弛み取りローラ21に巻き取られ、玉揚作業中の糸の弛みを防止する。
【0073】
バンチ巻作業が終了すると、玉揚台車4はクレードル操作アーム90によりクレードルアーム71を図2の右側に回動させ、バンチ巻の終わったボビン48を巻取ドラム72に接触させて、糸の巻取りを開始する。これにより紡績糸10に巻取張力が付与され、弛み取りローラ21から徐々に紡績糸10が解舒される。
【0074】
紡績糸10が弛み取りローラ21から全て解舒されると、制御部73はエアシリンダ24によって上流側ガイド23を進出位置まで移動させ、紡績糸10の糸道がフライヤー38と係合しないようにするとともに、電動モータ25の回転を停止する。
【0075】
以上で説明したように、制御部73が第1モードで動作していると、糸継時や玉揚時など、紡績開始時から糸の巻取りが開始するまでの間の必要な期間だけ糸弛み取り装置12が作動するので、省エネルギー、装置の耐久性、及び生産効率等の点で有利である。一方、コーン巻のパッケージを形成する場合のようにトラバース位置によるテンション変動が大きいときは、制御部73を第2モードで動作させることにより、糸弛み取り装置12を常時作動させて巻取テンションを適切に制御し、解舒性の良好なパッケージ45を形成することができる。
【0076】
以上に示したように、本実施形態の精紡機1は、糸を紡出する紡績装置9と、紡出された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置13と、弛み取りローラ21と糸掛け部材22とを備えた糸弛み取り装置12と、糸弛み取り装置12の動作を制御する制御部73と、を備える。制御部73は、糸弛み取り装置12の作動及び停止を切り換える第1モードと、糸弛み取り装置12を常時作動させる第2モードと、を切換可能である。前記第1モードにおいて、糸弛み取り装置12は少なくとも、紡績装置9が紡出した糸を巻取装置13で巻取可能にする作業(例えば糸継作業、玉揚作業)の作業時間において作動する。
【0077】
これにより、必要により第1モードと第2モードを切り換えることができるので、必要時にのみ糸弛み取り装置12を作動させて消費エネルギーを節約することができる。また、糸弛み取り装置12やクレードルリフタなどの装置の耐久性が向上し、長寿命を実現できる。また、不必要に糸弛み取り装置12を作動させないので、フライヤー38への糸巻き付きの問題も起こりにくくなる。
【0078】
また、本実施形態の精紡機1はスプライサ43を備え、前記制御部73は、前記第1モードの場合に、少なくとも前記スプライサ43の糸継作業中において前記糸弛み取り装置12を作動させている。
【0079】
これにより、糸継時に糸弛み取り装置12を作動させて、糸の弛みを防止してスムーズに糸継作業を行うことができる。
【0080】
また、本実施形態の精紡機1は玉揚装置61を備え、前記制御部73は、前記第1モードの場合に、少なくとも玉揚装置61の玉揚作業中において前記糸弛み取り装置12を作動させている。
【0081】
これにより、玉揚時に糸弛み取り装置12を作動させて、糸の弛みを防止してスムーズに玉揚作業を行うことができる。
【0082】
また、本実施形態の精紡機1においては、前記巻取装置13はチーズ巻のパッケージを形成可能に構成されている。
【0083】
これにより、チーズ巻の場合は糸弛み取り装置12を常時作動させる必要はないので、第1モードで運転を行うことにより効率的に装置を運転することができる。
【0084】
また、本実施形態の精紡機1においては、前記巻取装置13はコーン巻のパッケージを形成可能に構成されている。
【0085】
これにより、コーン巻の場合に糸弛み取り装置12を常時稼動させる第2モードで運転を行うことで、巻取テンションの変動を防止して高品質なパッケージを形成することができる。
【0086】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0087】
制御部73は独立して設ける構成に代えて、紡績ユニット2のユニットコントローラの機能の一部として構成しても良い。
【0088】
糸掛け部材22と弛み取りローラ21との間の相対回転に抗する抵抗トルクを発生させる手段は、磁気的手段に代えて、例えば、電磁石による電磁的手段、摩擦力による機械的手段などに変更することができる。
【0089】
スプライサ43を糸継台車3に備える構成に代えて、各紡績ユニット2にスプライサを設置する構成に変更することができる。同様に、玉揚装置61を玉揚台車4に備える構成に代えて、各紡績ユニット2に玉揚装置を設置する構成に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の正面図。
【図2】紡績機の縦断側面図。
【図3】糸弛み取り装置の縦断正面図。
【符号の説明】
【0091】
1 精紡機(紡績機)
2 紡績ユニット
3 糸継台車
4 玉揚台車
9 紡績装置
12 糸弛み取り装置
13 巻取装置
21 弛み取りローラ
22 糸掛け部材
23 上流側ガイド
24 エアシリンダ
26 下流側ガイド
43 スプライサ(糸継装置)
61 玉揚装置
73 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を紡出する紡績装置と、
紡出された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
弛み取りローラと糸掛け部材とを備える糸弛み取り装置と、
前記糸弛み取り装置の動作を制御する制御部と、
を備える紡績機において、
前記制御部は、
前記糸弛み取り装置の作動及び停止を切り換える第1モードと、
前記糸弛み取り装置を常時作動させる第2モードと、
を切換可能であり、
前記第1モードにおいて、前記糸弛み取り装置は少なくとも、前記紡績装置が紡出した糸を前記巻取装置で巻取可能にする作業の作業時間において作動することを特徴とする紡績機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績機であって、
糸継装置を備え、
前記制御部は、前記第1モードの場合に、少なくとも前記糸継装置の糸継作業中において前記糸弛み取り装置を作動させるように制御することを特徴とする紡績機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績機であって、
玉揚装置を備え、
前記制御部は、前記第1モードの場合に、少なくとも前記玉揚装置の玉揚作業中において前記糸弛み取り装置を作動させるように制御することを特徴とする紡績機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置はチーズ巻のパッケージを形成可能であることを特徴とする紡績機。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置はコーン巻のパッケージを形成可能であることを特徴とする紡績機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−155757(P2009−155757A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335166(P2007−335166)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】