説明

紫外線センサおよび紫外線センサの製造方法

【課題】安価で特性が安定し、応答速度の速い紫外線センサを提供すること。
【解決手段】本発明の紫外線センサは、酸化亜鉛の光導電効果を利用した紫外線センサであって、前記酸化亜鉛が無添加の酸化亜鉛からなり、前記酸化亜鉛のX線回折パターンにおいて(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であることを特徴とする。これにより、安価で応答速度の速い紫外線センサを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感応膜に紫外線が照射されることにより発生するキャリアを利用する紫外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化亜鉛を主成分として、焼結体により光感知部が構成された紫外線センサがある。例えば、特許文献1では、酸化亜鉛を主成分とした単結晶または多結晶であり、酸化亜鉛のa面を光感知部とした紫外線センサが開示されている。
【0003】
一方、酸化亜鉛薄膜を光感知部に利用した紫外線センサがある。例えば、特許文献2では、酸化亜鉛に不純物をドーピングした薄膜を用いた紫外線センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−182290号公報
【特許文献2】特開2008−039665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、オゾン層の破壊等により、地表へ到達する太陽光の紫外線の量が増加する傾向が見られ、人体への影響が懸念されている。このような紫外線は日焼けだけではなく、皮膚癌や白内障など人体の健康に対してきわめて深刻な影響を及ぼすものであり、そのような紫外線量を身近で手軽に計測し、対策することが今後望まれている。
【0006】
従来の紫外線センサは、光フィルターを用いるものや窒化ガリウムのエピタキシャル(単結晶)成長膜を使うなど高価なものであった。また、近年においては比較的安価であり、紫外線のみに吸収波長を有する酸化亜鉛を用いる紫外線センサが、特許文献1や特許文献2などで提案されている。しかしながら、これらの紫外線センサは、焼結体で結晶制御が不十分なため特性が安定しない。また、薄膜を用いた場合でもドーパントでキャリアを高濃度にドープしていることから欠陥が発生し、非常に応答速度が遅い。そのため、手軽に瞬時に紫外線量を計測することが困難であった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、安価で特性が安定し、応答速度の速い紫外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の紫外線センサは、酸化亜鉛の光導電効果を利用した紫外線センサであって、前記酸化亜鉛が無添加の酸化亜鉛からなり、前記酸化亜鉛のX線回折パターンにおいて(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、紫外線のみに感度を有し、応答速度が速く、比較的安価な紫外線センサを得ることが可能となる。
【0010】
本発明の紫外線センサにおいては、前記酸化亜鉛の比抵抗が1Ω・cm以上であり、膜厚が100nm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の紫外線センサにおいては、前記酸化亜鉛の上に前記酸化亜鉛よりバンドギャップの広い絶縁性の保護膜を有することが好ましい。
【0012】
本発明の紫外線センサにおいては、前記保護膜がシリコン、アルミニウムのうち、どちらか一方の酸化膜または窒化膜であることが好ましい。
【0013】
これらの構成によれば、紫外線を検知する前記酸化亜鉛膜へ到達する紫外線を遮断することなく、前記酸化亜鉛を湿度等の環境から保護することができる。
【0014】
本発明の紫外線センサの製造方法においては、酸化亜鉛の成膜過程において、不活性ガスであるキャリアガスに3%以上の酸素を添加していることが好ましい。
【0015】
この成膜方法によれば、無添加の酸化亜鉛において、X線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であり、比抵抗が1Ω・cm以上の膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による紫外線センサは、酸化亜鉛の光導電効果を利用した紫外線センサであって、前記酸化亜鉛が無添加の酸化亜鉛からなり、配向性が高く、結晶欠陥の少ない酸化亜鉛であることから、安価でありつつ、応答速度の速い紫外線検出を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの断面図であり、図2は本発明の形態の紫外線センサの平面図である。図1及び図2において、本実施の形態の紫外線センサ1は、ガラス、シリコン又はプラスチックなどで構成された基板2を備える。基板2上には、紫外線を感知する感応膜(紫外線感知部)3が形成されている。また、感応膜3上の感知領域には、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどで構成された保護膜4が形成されている。さらに、感応膜3上の感知領域以外の領域には、アルミニウム、金、白金などで構成された1対の電極5が形成されている。
【0019】
感応膜3は、X線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であり、比抵抗が1Ω・cm以上で膜厚が200nm程度の無添加の酸化亜鉛膜で形成されている。
【0020】
図3は、酸化亜鉛のX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅と紫外線検出時の応答速度の関係を示すグラフであり、横軸が応答速度を示し、縦軸がX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅を示す。図3に示すように、(002)面における回折ピークの半値幅が狭くなるにしたがって応答速度が速くなる。この傾向から酸化亜鉛の(002)面における回折ピークの半値幅を狭くすることにより、応答速度を速くすることができる。
【0021】
図4は、酸化亜鉛の比抵抗と紫外線検出時の応答速度の関係を示すグラフであり、横軸が応答速度を示し、縦軸が酸化亜鉛の比抵抗を示す。図4に示すように、酸化亜鉛の比抵抗が高くなるにしたがって応答速度が速くなる。この傾向から酸化亜鉛の比抵抗を高くすることにより、応答速度を速くすることができる。
【0022】
図5は、基板上に成膜した酸化亜鉛結晶の断面写真である。図5に示すように、酸化亜鉛膜の基板側は微結晶状態で成長しており50から100nm程度まで小さな結晶粒となる。それ以上の厚さにおいては、配向性の高い結晶となることから200nm程度の膜厚とすることで応答速度の良い紫外線センサを得ることができる。
【0023】
図6は、無添加の酸化亜鉛を感応膜3とした時の紫外線応答特性を示すグラフであり、横軸が時間を示し、縦軸が出力電流を示す。横軸の10秒の時に紫外線の照射を開始し、40秒の時に紫外線の照射を終了している。また、図7は、ドーパントとしてガリウムを添加した酸化亜鉛を感応膜3とした時の紫外線応答特性を示すグラフであり、横軸が時間を示し、縦軸が出力電流を示す。横軸の10秒の時に紫外線の照射を開始し、40秒の時に紫外線の照射を終了している。これらより、無添加の酸化亜鉛を感応膜3とすることにより、応答速度が速くなることが確認できる。
【0024】
上記構成を有する紫外線センサにおいては、感応膜3に紫外線が照射されることで光電子が放出され、1対の電極5の間に流れる電流量又は1対の電極5の間の抵抗が変化する。この電流量又は抵抗の変化を検知することにより紫外線量を求めることができる。
【0025】
図8及び図9は、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの製造工程を示す断面図である。図8(a)に示すように、基板上に酸化亜鉛膜をスパッタや蒸着などにより成膜し、感応膜3を形成する。この成膜時にキャリアガスに例えばアルゴンを用い、それに酸素を3%以上混合して成膜を行う。
【0026】
図10は、酸化亜鉛成膜時の酸素添加量と成膜された酸化亜鉛のX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅の関係を示すグラフであり、横軸が成膜時の酸素添加量を示し、縦軸がX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅を示す。図10に示すように、成膜時の酸素添加量を増やすことにより、X線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅の狭い酸化亜鉛を得ることができる。
【0027】
図11は、酸化亜鉛成膜時の酸素添加量と成膜された酸化亜鉛の比抵抗の関係を示すグラフであり、横軸が成膜時の酸素添加量を示し、縦軸が比抵抗を示す。図11に示すように、成膜時の酸素添加量を増やすことにより、比抵抗の高い酸化亜鉛を得ることができる。
【0028】
感応膜3を形成後、図8(b)に示すように、例えば酸化シリコンをスパッタなどにより感応膜3上に成膜し、保護膜4を形成する。次いで、図8(c)に示すように、保護膜4上にレジストを塗布・乾燥してレジスト膜6を形成し、レジスト膜6にフォトリソグラフィを行って紫外線感知部に対応する領域にレジスト膜6が残存するようにパターニングする。
【0029】
次いで、図9(d)に示すように、レジスト6をマスクとして酸化シリコンをエッチングする。この時エッチングは、ウェットまたはドライエッチングのどちらでも良い。次いで、図9(e)に示すように、全面に電極材料5および51をスパッタなどにより成膜する。次いで、レジスト6を溶解する材料でレジスト6を除去することにより(リフトオフ)、図1に示すような、紫外線センサを作製する。なお、電極5は、レジスト6を除去後に、銀ペーストや金ペーストを用いて印刷などにより形成しても良い。
【0030】
このように、本実施の形態の紫外線センサ1においては、感応膜3に、X線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であり、比抵抗が1Ω・cm以上で膜厚が200nm程度の無添加の酸化亜鉛膜を用いることで、応答速度の速い紫外線検知が可能となる。
【0031】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、電極を酸化亜鉛の片面に形成しているが、電極で酸化亜鉛膜を挟み込む形で形成しても良い。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、太陽からの紫外線や工業用途に用いられる殺菌灯などからの紫外線を検出する計測機器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る紫外線センサの断面図である。
【図2】図1の紫外線センサの平面図である。
【図3】酸化亜鉛のX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅と紫外線検出時の応答速度の関係を示すグラフである。
【図4】酸化亜鉛の比抵抗と紫外線検出時の応答速度の関係を示すグラフである。
【図5】酸化亜鉛結晶の断面写真である。
【図6】無添加の酸化亜鉛を感応膜3とした時の紫外線応答特性を示すグラフである。
【図7】ドーパントとしてガリウムを添加した酸化亜鉛を感応膜3とした時の紫外線応答特性を示すグラフである。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの製造方法を説明するための図である。
【図9】(d)〜(e)は、図8(c)に続く、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの製造方法を説明するための図である。
【図10】酸化亜鉛成膜時の酸素添加量と成膜された酸化亜鉛のX線回折パターンの(002)面における回折ピークの半値幅の関係を示すグラフである。
【図11】酸化亜鉛成膜時の酸素添加量と成膜された酸化亜鉛の比抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 紫外線センサ
2 基板
3 感応膜
4 保護膜
5 電極
6 レジスト膜
51 電極材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛の光導電効果を利用した紫外線センサであって、前記酸化亜鉛が無添加の酸化亜鉛からなり、前記酸化亜鉛のX線回折パターンにおいて(002)面における回折ピークの半値幅が0.5度以下であることを特徴とする紫外線センサ。
【請求項2】
前記酸化亜鉛の比抵抗が1Ω・cm以上であり、膜厚が100nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の紫外線センサ。
【請求項3】
前記酸化亜鉛の上に前記酸化亜鉛よりバンドギャップの広い絶縁性の保護膜を有することを特徴とする請求項1から請求項2に記載の紫外線センサ。
【請求項4】
前記保護膜が、シリコン、アルミニウムのうち、どちらか一方の酸化膜または窒化膜であることを特徴とする請求項3記載の紫外線センサ。
【請求項5】
不活性ガスであるキャリアガスに3%以上の酸素を添加しながら、スパッタ法または蒸着法により酸化亜鉛を基板上に成膜することを特徴とする酸化亜鉛の光導電効果を利用した紫外線センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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