説明

紫外線硬化樹脂の物性測定装置

【課題】硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できて、測定者の負担が軽減する紫外線硬化樹脂の物性測定装置を提供すること。
【解決手段】紫外線硬化樹脂性の試料Sを挟持する回転プレート17およびトルク検出用プレート18と、回転プレート17を回転させることでトルク検出用プレート18に発生するトルクを検出するトルクセンサ20を備える。トルク検出用プレート18は、試料Sよりも大きい屈折率を有し、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す全反射プリズムとする。従って、全反射プリズム越しに紫外線を試料Sに照射しながら、検出するトルクにより粘度、粘弾性を測定できる。同時に、赤外線を全反射プリズムに入射して、プリズム内部での全反射によって減衰する赤外干渉光を干渉光検出器14で検出して、赤外吸収スペクトルを測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤・封止材・塗料などのように、紫外線の照射により硬化させて使用する紫外線硬化樹脂について、その硬化過程における赤外吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性の変化を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化樹脂
紫外線硬化樹脂は、紫外線(UV)の照射により液体から架橋高分子に変化する性質を有し、接着剤・封止材・塗料・コーティング材などに利用されてきた。
紫外線硬化樹脂の利用において、利用者が紫外線の照射量を調整して樹脂を硬化させるという利用形態が採られている。そのため、紫外線の照射量に対する樹脂の硬化率を予め正しく把握しておくことが重要となる。しかしながら、硬化後の樹脂はあらゆる溶媒に不溶となるため、適用できる分析手段は限られている。
【0003】
吸収スペクトル測定
樹脂の硬化率を把握する手法として、樹脂の硬化過程における赤外吸収スペクトルの変化を赤外分光光度計によって測定する方法が知られており、特に、ATR(attenuated total reflection)法がよく利用されてきた。ATR法では、試料に全反射プリズムを接触させて、接触面で赤外線を多重反射させる。そして、多重反射の間に減衰した赤外線の吸収スペクトルを測定するのである。
【0004】
このようなATR法を利用して、硬化過程における吸収スペクトルをリアルタイムで測定する方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の赤外分光光度計は、内部に紫外線硬化樹脂が注入されるセル室を用いる。セル室には、中央部に全反射プリズムが貫通して設けられ、全反射プリズムの前後に紫外線照射用の窓が設けられている。セル室に注入した樹脂は、窓から照射される紫外線によって硬化する。また、スペクトル測定用の赤外線がプリズムの一端に入射され、プリズムと樹脂との接触面で多重反射して他端へ伝播しその間に減衰する。プリズムの他端から出射される赤外線はスペクトル分光装置によって検出される。このようにして樹脂の硬化反応を進行させると同時に赤外吸収スペクトルを測定していた。
【0005】
粘弾性の評価
一方、物質の変形や流動(レオロジー)に関して試料の粘度や粘弾性を評価する方法として、例えば、医薬品の規格基準書である日本薬局方には、試料の粘度や粘弾性を測定するための回転粘度計法が規定されている。まず、同一回転軸を持つ一対の平円板の隙間に試料を挟んで、一方を回転させて他方が受けるトルクを測定する。そして、測定したトルクに基づいて試料の粘度や粘弾性を算出する。この回転粘度計法を用いて、さらに試料に紫外線を照射させながら、試料の粘度、粘弾性の経時変化を測定する装置が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の回転粘度計は、下側の石英ガラス製の平円板を通して試料に光を照射するようになっている。そして、上側の平円板を回転させた後、照射を開始して、下側の平円板が受けるトルクの経時変化を測定する。トルクの増加時点を読みとって、硬化が開始する紫外線の積算光量などの値を取得する。
このように、各測定装置を用いて、硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性をそれぞれ個別に測定し、樹脂の硬化率を予測することが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−242005号公報
【特許文献2】特開2005−98951号公報(第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、赤外分光光度計と回転粘度計との両方の測定装置を用いる場合、紫外線硬化樹脂の試料を赤外分光光度計にセットして、試料に紫外線を照射しながら硬化過程における吸収スペクトルを測定する作業と、別の試料を回転粘度計にセットして同様に粘度、粘弾性を測定する作業とを別々に行わなければならず、測定に要する作業項目が多くなり測定者の負担が大きくなっていた。また、測定装置毎に試料を準備しなければならなかった。
【0009】
また、近年、コーティング材としての紫外線硬化樹脂の利用が広がっており、10μm程度の膜厚の紫外線硬化樹脂を用いて、粘弾性を評価したいという要求が強くなっている。このような薄膜の試料の粘度、粘弾性を前述の回転粘度計で測定するためには、一方の平円板に対する他方の平円板の平行度が所定の精度を満たすように、平円板間のギャップを調整しなければならい。しかしながら、平円板間のギャップを短時間で精度よく測定する機能を備えた測定装置は未だなかった。
【0010】
従って、本発明の第1の目的は、硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できて、測定者の負担が軽減する紫外線硬化樹脂の物性測定装置を提供することにあり、第2の目的は、試料を挟持する一対の平円板間のギャップを短時間で精度よく測定する機能を備えた紫外線硬化樹脂の物性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明に係る紫外線硬化樹脂の物性測定装置は、
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、を備え、
検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置である。
そして、前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率を有し、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された全反射プリズムである。
【0012】
さらに、当該測定装置は、前記全反射プリズムを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記全反射プリズム越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記全反射プリズムの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記全反射プリズムと前記試料との接触面を全反射して当該全反射プリズムの外部に出射した前記赤外線を検出する赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段で検出される赤外線に基づいて前記試料の赤外吸収スペクトルを分析するスペクトル分析手段と、を備え、
紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性と赤外吸収スペクトルとを同時に測定することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、試料を挟持する回転プレートとトルク検出用プレートのいずれか一方を全反射プリズムとしたので、軸心に沿って照射された光束が全反射プリズムに入射すると、その光束はプリズムを通過して入射面とは反対側の面から出射する。従って、紫外線照射手段から軸心に沿って全反射プリズムに入射する紫外線は、プリズムを通過して、回転プレートとトルク検出用プレート間の試料である紫外線硬化樹脂を照射する。よって、紫外線照射手段からの紫外線を全反射プリズム越しに試料に照射しながら、試料の粘度、粘弾性を測定することができる。また、全反射プリズムに照射された光束がプリズム内部を進行する場合、プリズム内外の境界面に対する光束の入射角が臨界角以上であれば、光束は境界面を全反射する。従って、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率を有する全反射プリズムを選定したので、紫外線硬化樹脂と全反射プリズムの接触面に対して赤外線が臨界角以上の入射角で入射すれば、赤外線はプリズム内部を全反射する。よって、プリズムと試料の接触面を全反射する際に赤外線が減衰する現象を利用したATR法による赤外吸収スペクトルを測定することができる。以上のことから、硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できるので、測定者の負担が軽減され、第1の目的を達成することができる。
【0014】
また、本発明に係る紫外線硬化樹脂の物性測定装置は、
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、
を備え、検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置である。
【0015】
そして、前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率を有し、赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された全反射プリズムであり、
前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか他方は、紫外線に対する光透過性を示す材料で形成された紫外線透過プレートである。
【0016】
さらに、当該測定装置は、前記紫外線透過プレートを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記紫外線透過プレート越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記全反射プリズムの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記全反射プリズムと前記試料との接触面を全反射して当該全反射プリズムの外部に出射した前記赤外線を検出する赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段で検出される赤外線に基づいて前記試料の赤外吸収スペクトルを分析するスペクトル分析手段と、を備え、
紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性と赤外吸収スペクトルとを同時に測定することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、試料を挟持する回転プレートとトルク検出用プレートとを、全反射プリズムと紫外線透過プレートとの組み合わせによって構成したので、紫外線透過プレート越しに紫外線を試料に照射し、全反射プリズムを用いてATR法による赤外吸収スペクトルを測定すれば、前述と同様の効果が得られる。すなわち、硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できて、測定者の負担が軽減する。
【0018】
また、本発明では、前記全反射プリズムの組成がZnSであることが好ましい。
さらに、本発明では、前記全反射プリズムは、前記赤外線照射手段から入射される赤外線の光路上の位置から、当該赤外線の光路から外れた位置まで移動可能に設けられていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、ATR法によるスペクトル測定の際には、全反射プリズムを赤外線の光路上の位置に移動して測定し、外部反射法によるスペクトル測定の際には、全反射プリズムを赤外線の光路から外れた位置まで移動して測定するという選択が可能となる。すなわち、赤外吸収スペクトルの測定モードを、減衰全反射(ATR)法による測定と、外部反射法による測定との2種類のモードから適宜選択することができる。
また、本発明では、前記全反射プリズムと試料との接触面で全反射する赤外線は、赤外干渉光であることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る紫外線硬化樹脂の物性測定装置は、
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、を備え、
検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置である。
そして、前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された光透過プレートである。
【0021】
さらに、当該測定装置は、前記光透過プレートを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記光透過プレート越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記光透過プレートの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記光透過プレートと前記試料との接触面を反射する赤外線、および、前記接触面を透過して前記試料の裏面を反射する赤外線の位相差に基づいて前記回転プレートと前記トルク検出用プレート間のギャップを検出するギャップ検出手段と、を備え、
前記ギャップ検出手段を用いて前記ギャップを調整し、紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性を測定することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、紫外線と赤外線に対して光透過性を示す材料を用いて光透過プレートを形成し、この光透過プレートを回転プレートおよびトルク検出用プレートのいずれか一方に用いたので、光透過プレート越しに紫外線を試料に照射するとともに、同じ光透過プレートに赤外線を照射して、プレートと試料との接触面、すなわち試料の表側の面および試料の裏側の面をそれぞれ反射する2つの反射光を干渉させて、2つの反射光の光路長差に基づく両プレート間のギャップを測定することができる。このようなギャップ測定であれば、10μm程度のギャップを精度よく測定することができ、第2の目的を達成することができる。すなわち、試料を挟持する一対のプレート間のギャップを短時間で精度よく測定することができ、10μm程度の膜厚の紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性を測定することができる。
【0023】
また、本発明では、前記光透過プレートの組成がKBr、NaCl、KCl、BaF、CaFのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の紫外線硬化樹脂の物性測定装置によれば、硬化過程における吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定することができ、測定者の負担を軽減させることができる。また、試料を挟持する一対のプレート間のギャップを短時間で精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態に係る紫外線硬化樹脂の物性測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】前記測定装置における回転プレート、試料および全反射プリズムの配置関係を示した図である。
【図3】(A)は前記全反射プリズムの平面図であり、(B)は縦断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る全反射プリズム、試料およびトルク検出用プレートの配置関係を示した図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る全反射プリズム、試料および紫外線透過プレートの配置関係を示した図である。
【図6】本発明の第四実施形態に係る回転プレート、試料および光透過プレートの配置関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき本発明に係る紫外線硬化樹脂の物性測定装置の実施の形態について説明する。
<第一実施形態>
本実施形態に係る物性測定装置は、粘度測定機能と、赤外吸光スペクトルの測定機能とを合わせもつ測定装置であり、特に、ウレタンアクリレートやエポキシアクリレートなどの紫外線硬化樹脂で形成された試料に対して、紫外線を照射させながら硬化過程での試料の粘度、粘弾性および赤外吸収スペクトルを測定するための測定装置である。
【0027】
図1に示すように、物性測定装置10は、本発明の赤外線照射手段に相当する赤外光源11と、赤外線から赤外干渉光を得る干渉計12と、干渉計12からの赤外干渉光が入射される試料設置部13と、試料設置部13から出射される赤外干渉光の光強度を検出する赤外線検出器14と、赤外線検出器14からの光強度信号を読み取りフーリエ変換等、公知の信号処理をおこなって赤外吸収スペクトルを分析する信号処理装置(スペクトル分析手段)15、ならびに本発明の紫外線発生手段に相当する紫外光源16を備えている。
干渉計12の構造は特に限定されるものではないが、ここでは、マイケルソン干渉計を用いている。赤外線検出器14は本発明の赤外線検出手段に相当し、本実施例ではMCT検出器を用いている。
【0028】
図2には、図1の試料設置部13が拡大して示されている。同図のように、試料設置部13には、回転プレート17と、トルク検出用プレート18と、両プレート間に挟持された紫外線硬化樹脂性の試料Sが配置されている。
回転プレート17は、図示しない本体部によって軸心Pまわりに回転可能に支持されている。回転プレート17を回転させる際には、通常、回転プレート17に駆動伝達軸を介して接続された電動モータMなどの回転駆動装置19を用いる。回転駆動装置19の方式、および、回転駆動装置19から回転プレート17への駆動力の伝達方式については特に限定されない。回転プレート17の回転方向は、少なくとも一方向であればよいが、本実施形態では回転プレート17を所定の周波数で回転揺動させることが可能な回転駆動装置を採用してもよい。
【0029】
トルク検出用プレート18は、回転プレート17と同じ軸心P上に位置し、回転プレート17に対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて支持されている。トルク検出用プレート18には、トルク検出手段に相当するトルクセンサ20が設けられている。電動モータMによって回転プレート17が回転した場合に、試料Sを介してトルク検出用プレート18に発生するトルクTをトルクセンサ20が検出する。このトルクに基づいて試料Sの粘度、粘弾性が測定されるのである。なお、トルクセンサ20としては、接触式のトルクセンサでもよく、磁歪センサのような非接触式のトルクセンサでもよい。トルク検出用プレート18に作用するトルクTをバネのねじれ度に基づいて検出するトルクセンサでもよい。
【0030】
本発明において特徴的なことは、紫外線硬化樹脂の硬化過程における赤外吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性の測定を同時に行うことを可能にしたことであり、このために本実施形態においては、図2に示すように、トルク検出用プレート18として全反射プリズムを用いている。本実施形態では、全反射プリズムをトルク検出用プレートと同じ符号18で説明する。
すなわち、全反射プリズム18は、紫外線硬化樹脂の屈折率N2(1.3〜1.4程度)よりも大きい屈折率N1(N2<N1)を有し、かつ、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成されている。例えば、全反射プリズム18の屈折率N1を2.0以上とし、好ましくは、2.3以上とする。このような特性を有する材料としては、例えばダイヤモンドを用いることができる。ダイヤモンドは、紫外線から赤外線までの幅広い光に対し優れた透過特性(波長0.2μm〜80μm)を持つ光学材料であり、2.42の屈折率を有している。
【0031】
全反射プリズム18の全体形状は略円盤状である。図2に示す全反射プリズム18の上面および下面について、本書では便宜上、全反射プリズム18と試料Sとの接触面となる側を表側面31と呼び、その反対側を裏側面32と呼ぶ。図3(A)の平面形状のように、全反射プリズム18の円形外周の2か所には、互いに平行な切り落とし面33が形成されている。図3(B)の断面形状のように、切り落とし面33と表側面31とがなす稜部には、傾斜面34が形成されている。この傾斜面34は蒸着によるアルミニウム膜で被覆されている。
【0032】
ここで、図3(B)に示した光路Lのごとく、裏側面32から内部に入射した光束がプリズム内部にて表側面31および裏側面32に対して45°の入射角で全反射を繰り返すように、傾斜面34と表側面31のなす角度は22.5°に設定されている。なお、本実施形態では、直径35mm、厚さ3.5mmのプリズムを用いている。これ以外にも、例えば、矩形形状のプリズムであって、幅10mm、長さ30〜60mm、厚さ3mmの形状のものを多重全反射プリズムとして採用できる。
【0033】
図2に示す干渉計12と全反射プリズム18間の光路Lは、図示しない反射鏡などの光学素子によって、干渉計12からの赤外干渉光を全反射プリズム18の裏側面32に入射させるように形成されている。また、光路Lは、裏側面32のうちの切り落とし面33に近い部分から赤外干渉光を全反射プリズム18の内部に入射させるように形成され、かつ、裏側面32に対する赤外干渉光の入射角が45°となるように形成されている。
紫外光源16は、全反射プリズム18を挟み試料S側とは反対側に配置されている。
【0034】
このため、干渉計12からの赤外干渉光は、図2のように全反射プリズム18の裏側面32に垂直に入射される。内部に入射した赤外干渉光は、まず傾斜面34で反射する。傾斜面34での反射はアルミニウム膜によって全反射である。反射した赤外干渉光は、45°の入射角で裏側面32で全反射する。全反射した赤外干渉光は、さらに表側面31に45°の入射角で全反射する。入射角45°は、全反射プリズム18の屈折率N1と試料Sの屈折率N2で定められる臨界角よりも大きい。よって、裏側面32を全反射した赤外干渉光は、表側面33でも全反射する。このように赤外干渉光は、裏側面32および表側面33で全反射を繰り返し、反対側の傾斜面34で反射するまで多重全反射する。最後に、赤外干渉光は、反対側の傾斜面34を反射して、裏側面32から外部に出射する。
【0035】
赤外干渉光は、全反射プリズム18の表側面31、つまり全反射プリズム18と試料Sとの接触面で全反射する都度、その強度が減衰し、減衰した赤外干渉光の光強度が赤外線検出器14で検出される。
赤外線検出器14による検出が安定したら、紫外光源16に設けられた図示しないシャッターを開く。すると、紫外光源16からの紫外線が、全反射プリズム18の裏側面32に垂直に入射して、全反射プリズム18越しに試料Sを照射する。紫外線の積算照射量がある値以上に達して樹脂の硬化が開始するまで、赤外線検出器14による赤外干渉光の検出を継続させる。また、紫外線の照射開始と同時に、電動モータMで回転プレート17を回転させて、トルク検出用プレートである全反射プリズム18が受けるトルクをトルクセンサ20で検出する。赤外線検出器14と同様に、樹脂の硬化が開始するまで、トルクセンサ20によるトルクの検出を継続させる。
【0036】
このように本発明においては、トルク検出用プレートを紫外線の透過性を有した全反射プリズム18で構成したので、全反射プリズム18越しに紫外光源16からの紫外線を試料Sに照射させながら、試料Sの粘度、粘弾性を測定することができる。また、選定した全反射プリズム18は、紫外線の透過性も有し、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率N1を有しているので、全反射時の赤外線の減衰現象を利用したATR法を用いて赤外吸収スペクトルを測定することができる。従って、硬化過程における赤外吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できるため、測定者の負担が大幅に軽減される。また、ATR法の特長を生かし、試料の厚みによらず赤外吸光スペクトル測定が可能となる。
【0037】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る物性測定装置について図4に基づいて説明する。
本実施形態の物性測定装置は、前述の第一実施形態の物性測定装置に対して、試料設置部の構成が相違するもので、その他の構成は略同様である。
すなわち、本発明において特徴的なことは、第一実施形態と同様に紫外線硬化樹脂の硬化過程における赤外吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性の測定を同時に行うことを可能にしたことであり、このために本実施形態においては、図4に示すように、回転プレート17Aとして全反射プリズムを用いている。また、干渉計12からの赤外干渉光の光路Lは、トルク検出用プレート18Aではなく、回転プレート17Aに向けて赤外干渉光を照射するように形成されている。また、紫外光源16もトルク検出用プレート18Aではなく、回転プレート17Aに向けて紫外線を照射するように配置されている。本実施形態では、全反射プリズムを回転プレートと同じ符号17Aで説明する。
すなわち、全反射プリズム17Aとしては、第一実施形態で説明した全反射プリズム18と同一材料、同一形状のものを採用している。この全反射プリズム17Aには、駆動伝達軸を介して電動モータMが接続されている。
【0038】
このため、全反射プリズム17Aを電動モータMによって回転させると、軸心Pまわりの回転位置によっては、赤外干渉光がプリズムの傾斜面34に当たらず、プリズム内部を全反射しなくなる場合が生じる。このような場合であっても、赤外干渉光がプリズムの傾斜面34に当たる期間だけ、赤外線検出器14で減衰した赤外干渉光を検出すれば、赤外吸収スペクトルを測定することができる。従って、第一実施形態の物性測定装置と同様の効果が得られ、硬化過程における赤外吸収スペクトルおよび粘度、粘弾性を同時に測定できる。
【0039】
さらに、本発明において特徴的なことは、赤外吸収スペクトルの測定モードをATR法による測定と、外部反射法による測定との2種類のモードから適宜選択可能にしたことであり、このために本実施形態においては、全反射プリズム17A、すなわち回転プレートが、干渉計12からの赤外干渉光の光路L上の位置から、光路Lから外れた位置まで移動可能に設けられている。移動方向としては、軸心Pに平行な方向でも直交する方向でもよい。
このような構成において、ATR法によるスペクトル測定の際には、全反射プリズム17Aを赤外干渉光の光路L上の位置に移動させる。また、外部反射法によるスペクトル測定の際には、全反射プリズム17Aを赤外干渉光の光路Lから外れた位置まで移動させる。なお、いずれの測定モードの場合にも干渉計12からの赤外干渉光を用いて赤外吸収スペクトルを測定する。このように、赤外吸収スペクトルの測定モードを、ATR法による測定と、外部反射法による測定との2種類のモードから適宜選択することができる。
【0040】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態に係る物性測定装置について図5に基づいて説明する。
本実施形態の物性測定装置は、前述の第二実施形態の物性測定装置に対して、試料設置部13Bの構成が相違するもので、その他の構成は略同様である。
すなわち、図5に示すように、回転プレートとして全反射プリズム17Bを用いている。この全反射プリズム17Bには、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率N1を有し、赤外線に対する光透過性を示す材料で形成されたものを用いている。特に、多結晶の硫化亜鉛(ZnS)で形成された全反射プリズム17Bを採用するとよい。ZnSは、赤外線に対し優れた透過特性(波長0.4μm〜12μm)を持つ光学材料であり、2.37の屈折率を有している。
【0041】
なお、本実施形態の全反射プリズム17Bとしては、ZnSの他にも、ZnSe、Ge、ダイヤモンドのいずれかによって形成されたものを採用できる。
また、トルク検出用プレートとして、紫外線に対する光透過性を示す材料で形成された紫外線透過プレート18Bを用いている。紫外光源16は、紫外線透過プレート18Bを挟み試料S側とは反対側に設けられ、紫外線透過プレート18B越しに紫外線を試料Sに照射する。
なお、全反射プリズム17Bと紫外線透過プレート18Bとの組み合わせを逆にしてもよい。つまり、回転プレートに紫外線透過プレート18Bを用いて、トルク検出用プレートに全反射プリズム17Bを用いてもよい。
【0042】
このように本発明においては、試料Sを挟持する回転プレートとトルク検出用プレートとを、全反射プリズム17Bと紫外線透過プレート18Bとの組み合わせによって構成したので、紫外線透過プレート18Bを用いて試料Sに紫外線を照射し、全反射プリズム17Bを用いてATR法による赤外吸収スペクトルを測定すれば、第一実施形態の物性測定装置と同様の効果が得られる。
【0043】
<第四実施形態>
次に、本発明の第四実施形態に係る物性測定装置について図6に基づいて説明する。
本実施形態の物性測定装置は、前述の第一実施形態の物性測定装置に対して、試料設置部13Cの構成および照射する赤外線の種類が相違するもので、その他の構成は略同様である。
すなわち、本発明において特徴的なことは、試料Sを挟持する一対のプレート17C,18C間のギャップを短時間で精度よく測定すること、および、10μm程度の膜厚の紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性を測定することを可能にしたことであり、このために本実施形態においては、図6に示すように、トルク検出用プレートとして、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された光透過プレート18Cを用いている。このような光透過プレート18Cとしては、特に、KBr、NaCl、KCl、BaF、CaFのいずれかの組成で形成されたものが好適である。また、赤外線を光透過プレート18Cに照射する赤外光源11と、照射した赤外線の反射光を検出するギャップ検出手段としての干渉光検出器21を備えている。
【0044】
このため、光透過プレート18C越しに紫外線が試料Sに照射されるので、紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度測定、粘弾性測定が可能となる。
また、赤外光源11からの赤外線が光透過プレート18Cの表側面(図6中の下面)41に所定の入射角で入射される。赤外線は、光透過プレート18C内部を透過して、その裏側面(図6中の上側の面で、試料との接触面を示す。)42で一部が反射し、他の一部は屈折する。裏側面42を反射した赤外線を図中では破線で示す。裏側面42を屈折した赤外線は、試料S中を透過して、試料Sの裏側の面、つまり試料Sと回転プレート17Cの接触面50で反射する。これらの2つの反射光の光路長差による干渉光が干渉光検出器21で検出される。そして、2つの反射光の位相差に基づいて光透過プレート18Cと回転プレート17C間のギャップが算出される。このような2つの赤外反射光の位相差に基づくギャップ測定であれば、10μm程度のギャップを精度よく測定することができる。よって、両プレート17C,18C間のギャップ調整を短時間で精度よく実施することができ、10μm程度の膜厚の紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性を測定することが可能となる。
【0045】
なお、トルク検出用プレートにではなく、回転プレートに本実施形態の光透過プレート18Cを用いても同様の効果が得られる。
なお、第一実施形態から第三実施形態における全反射プリズム18,17A,17Bは、多重反射用のプリズムに限らず、1回反射型の全反射プリズムであってもよい。試料との接触面積が小さい場合に好適である。
また、第一実施形態から第三実施形態では、フーリエ変換形の赤外分光光度計を利用した測定装置について説明したが、本発明は、分散形の赤外分光光度計を利用した測定装置にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
10 紫外線硬化樹脂の物性測定装置
11 赤外光源(赤外線照射手段)
14 赤外線検出器(赤外線検出手段)
15 情報処理装置(スペクトル分析手段)
16 紫外光源(紫外線照射手段)
17、17C 回転プレート
17A 全反射プリズムで形成された回転プレート
17B 全反射プリズムで形成された回転プレート
18 全反射プリズムで形成されたトルク検出用プレート
18A トルク検出用プレート
18B 紫外線透過プレートで形成されたトルク検出用プレート
18C 光透過プレートで形成されたトルク検出用プレート
20 トルクセンサ(トルク検出手段)
21 干渉光検出器(ギャップ検出手段)
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、
を備え、
検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置であって、
前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率を有し、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された全反射プリズムであり、
当該測定装置は、さらに
前記全反射プリズムを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記全反射プリズム越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記全反射プリズムの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記全反射プリズムと前記試料との接触面を全反射して当該全反射プリズムの外部に出射した前記赤外線を検出する赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段で検出される赤外線に基づいて前記試料の赤外吸収スペクトルを分析するスペクトル分析手段と、を備え、
紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性と赤外吸収スペクトルとを同時に測定することを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項2】
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、
を備え、
検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置であって、
前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線硬化樹脂よりも大きい屈折率を有し、赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された全反射プリズムであり、
前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか他方は、紫外線に対する光透過性を示す材料で形成された紫外線透過プレートであり、
当該測定装置は、さらに
前記紫外線透過プレートを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記紫外線透過プレート越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記全反射プリズムの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記全反射プリズムと前記試料との接触面を全反射して当該全反射プリズムの外部に出射した前記赤外線を検出する赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段で検出される赤外線に基づいて前記試料の赤外吸収スペクトルを分析するスペクトル分析手段と、を備え、
紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性と赤外吸収スペクトルとを同時に測定することを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の紫外線硬化樹脂の物性測定装置において、
前記全反射プリズムの組成がZnSであることを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の紫外線硬化樹脂の物性測定装置において、
前記全反射プリズムは、前記赤外線照射手段から入射される赤外線の光路上の位置から、当該赤外線の光路から外れた位置まで移動可能に設けられていることを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の紫外線硬化樹脂の物性測定装置において、
前記全反射プリズムと試料との接触面で全反射する赤外線は、赤外干渉光であることを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項6】
軸心まわりに回転可能に支持された回転プレートと、
同じ軸心上に位置し、前記回転プレートに対して平行に、かつ、所定の間隔を空けて配置されたトルク検出用プレートと、
前記回転プレートを回転させることにより、当該回転プレートと前記トルク検出用プレート間の紫外線硬化樹脂性の試料を介して前記トルク検出用プレートが受けるトルクを検出するトルク検出手段と、
を備え、
検出される前記トルクに基づいて前記試料の粘度、粘弾性を測定する測定装置であって、
前記回転プレートおよび前記トルク検出用プレートのいずれか一方は、紫外線と赤外線に対する光透過性を示す材料で形成された光透過プレートであり、
当該測定装置は、さらに
前記光透過プレートを挟み試料側とは反対側に設けられ、前記光透過プレート越しに紫外線を前記試料に照射する紫外線照射手段と、
前記光透過プレートの内部に赤外線を入射する赤外線照射手段と、
前記光透過プレートと前記試料との接触面を反射する赤外線、および、前記接触面を透過して前記試料の裏面を反射する赤外線の位相差に基づいて前記回転プレートと前記トルク検出用プレート間のギャップを検出するギャップ検出手段と、
を備え、
前記ギャップ検出手段を用いて前記ギャップを調整し、紫外線硬化樹脂の硬化過程における粘度、粘弾性を測定することを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。
【請求項7】
請求項6記載の紫外線硬化樹脂の物性測定装置において、
前記光透過プレートの組成がKBr、NaCl、KCl、BaF、CaFのいずれかであることを特徴とする紫外線硬化樹脂の物性測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−220962(P2011−220962A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93089(P2010−93089)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)
【出願人】(510104746)ジャスコインタナショナル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】